説明

分波器

【課題】挿入損失を低く抑えつつ、小型化が可能な分波器を提供する。
【解決手段】アンテナに接続される送受信共通端子と、受信機に接続される第1の端子と、送信機に接続される第2の端子と、前記第1の端子と前記送受信共通端子との間で第1の通過周波数帯域の信号を伝送する第1のフィルタと、前記第2の端子と前記送受信共通端子との間で前記第1の通過周波数帯域とは異なる第2の通過周波数帯域の信号を伝送する第2のフィルタと、を備え、前記第2のフィルタは、前記送受信共通端子と前記第2の端子との間に接続された少なくとも1つの直列共振器と、前記直列共振器の両側の端子と接地との間に電気的に接続されている少なくとも2つの並列共振器と、前記送受信共通端子に最も近く配置された並列共振器に直列接続された伸長コイルとキャパシタとの並列回路と、を含むことを特徴とする分波器が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分波器に関する。
【背景技術】
【0002】
無線電子機器には、送信波と受信波とを分離する分波器が用いられる。分波器は、通過帯域が異なるフィルタ及びフィルタを有し、送受信共通端子とそれぞれのフィルタの間には移相器が配置される。
【0003】
この送信及びフィルタは通過帯域内で低損失、通過帯域外では高減衰であることが要求され、携帯電子機器の場合にはさらに分波器が小型であることが要求される。
【0004】
デュアルバンドでの挿入損失特性を向上させたアンテナ回路に関する技術開示例がある(特許文献1)。この技術開示例では、デュプレクサ回路を送信側に設けた場合のインピーダンス不整合を解消し、デュアルバンドの送信周波数帯域で送信時の挿入損失劣化を防いでいる。
【特許文献1】特開2000−286609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、挿入損失を低く抑えつつ、小型化が可能な分波器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、アンテナに接続される送受信共通端子と、受信機に接続される第1の端子と、送信機に接続される第2の端子と、前記第1の端子と前記送受信共通端子との間で第1の通過周波数帯域の信号を伝送する第1のフィルタと、前記第2の端子と前記送受信共通端子との間で前記第1の通過周波数帯域とは異なる第2の通過周波数帯域の信号を伝送する第2のフィルタと、を備え、前記第2のフィルタは、前記送受信共通端子と前記第2の端子との間に接続された少なくとも1つの直列共振器と、前記直列共振器の両側の端子と接地との間に電気的に接続されている少なくとも2つの並列共振器と、前記送受信共通端子に最も近く配置された並列共振器に直列接続された伸長コイルとキャパシタとの並列回路と、を含むことを特徴とする分波器が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、挿入損失を低く抑えつつ、小型化が可能な分波器が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる分波器を表す回路図である。
分波器8は、送受信共通端子10を介してアンテナと、第2の端子30を介して送信器4と、第1の端子50を介して受信器6とそれぞれ接続され、携帯電話機のような無線電子機器に用いられる。なお、第2の端子30が受信器6、第1の端子50が送信器4に接続されていてもよい。
【0009】
送信器4からの送信信号は、第2の端子30を経由して、第2のフィルタ14、移相器12を通過し、送受信共通端子10を経由してアンテナへ伝達される。他方アンテナからの受信信号は、送受信共通端子10を経由して、移相器32、第1のフィルタ34を通過し、第1の端子50を経由して受信器6へ伝達される。
【0010】
移相器12は長さLtである分波線路、移相器32は長さLrである分波線路によりそれぞれ構成される。分波線路は分布定数線路であり、線路を構成する誘電体の誘電率により等価的な波長が決まり、分波線路長Lt、Lrに対応する回転位相が決まる。
【0011】
フィルタ14は、直列共振器16、18と、これらと接地間との間に配置された並列共振器20、22、24と、のラダー型構成である。なお、並列共振器20、22、24と接地との間には、伸張コイル26、27、28がそれぞれに配置されている。さらに移相器12に最も近い伸張コイル26には、キャパシタ29が並列接続されている。
【0012】
フィルタ34は、直列共振器36、38と、これらと接地間との間に配置された並列共振器40、42、44、とのラダー型構成である。なお、並列共振器40、42、44と接地との間には、伸張コイル46、47、48がそれぞれに配置されている。このフィルタ34をラダー型構成でなく、例えば複数のすだれ変換子(IDT:Interdigital Transducer)をSAW伝搬方向に並べ、その両側に反射器を配置したモード結合型SAW共振器としてもよい。
【0013】
後に説明するように、送信帯域と受信帯域は異なるので、フィルタ14と、フィルタ34と、を構成する直列共振器、並列共振器、伸長コイルの構造パラメータ、回路パラメータ、特性などはそれぞれ異なる。直列及び並列共振器に薄膜圧電共振器(FBAR:Film Bulk Acoustic Resonator)を用いる場合、例えば、フィルタ14を一方の基板、フィルタ34を他方の基板にそれぞれ集積して形成すると小型化が容易となる。この場合、直列共振器及び並列共振器の圧電膜厚、キャビティ形状を変えることにより共振周波数などの特性を制御することが容易にできる。
【0014】
なお、共振器はLiTaO3やLiNbO3などの圧電基板に形成され、櫛形電極を有する弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)共振器であっても良い。
【0015】
また、キャパシタ29の誘電体材料を、薄膜圧電共振器の圧電性薄膜及び弾性表面波共振器の圧電性基板と同一材料とすることができる。このようにすると、フィルタを集積化する場合、製造工程が簡略となり、小型化が容易となる。
【0016】
ここでIMT−2000(International Mobile Telecommunications-2000)の2GHz帯のW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)などに用いられる分波器について、その作用を説明するが、用途はこれに限定されない。この場合、受信帯域を2140±30MHz、送信帯域を1950±30MHzとする。なお、送信帯域が受信帯域よりも高くてもよい。
【0017】
図2は、薄膜圧電共振器を用いた本実施形態の作用を説明するインピーダンス図(スミス図)である。このインピーダンスは、周波数を100MHz〜10GHzまで掃引した場合のフィルタ14のインピーダンスZTを表す。なお、フィルタ14の第1の端子30は、例えば50Ωである送信器4などで終端されているものとする。
【0018】
送信帯域端1.92GHz(m22)から送信帯域端1.98GHz(m23)の周波数範囲においてインピーダンスZTは50Ω近傍であり、整合状態を保って送信器出力がアンテナへ伝達される。他方、周波数が、受信帯域端2.11GHz(m24)から受信帯域端2.17GHz(m25)の周波数範囲においてインピーダンスZTが十分に大きい破線領域となっている。すなわち、受信帯域において、フィルタ14のインピーダンスZTが無限大に近いために受信信号はフィルタ14に伝達せず、第1の端子30へ受信信号が伝達されない。
【0019】
ここで、キャパシタ29が設けられていない比較例のインピーダンスZTについて説明する。すなわち、比較例において、移相器12に最も近い伸張コイル26には、キャパシタ29が並列接続されていない。この場合、インピーダンスZTを、受信帯域端2.11GHzでc24、受信帯域端2.17GHzでc25、とそれぞれ表す。
【0020】
c24とc25との間の周波数軌跡で表されるインピーダンスZTは、本実施形態であるm24とm25との間の周波数軌跡のような無限大に近いインピーダンスでなく、フィルタ14及び第1の端子30側へ受信信号が漏洩する可能性がある。このために、分波線路をスミス図におけるGtに相当する長さとしインピーダンスZTを無限大に近づけることが必要になる。
【0021】
送信周波数帯域及び受信周波数帯域の間隔が中心周波数の約10%であるW−CDMAの場合、Gtは約0.14波長、すなわち約50度の位相回転角に相当し、約10mmと長くなり挿入損失が増加する。
【0022】
これに対して、本実施形態においては、キャパシタ29を設けることによりインピーダンスZTを無限大の近傍にできる。このために分波線路の長さLtによる位相回転角を5度以下とし、分波線路の挿入損失を低減できる。また、Ltを短くし、分波器8の小型化が容易となる。
【0023】
図3は、本実施形態にかかる薄膜圧電共振器の分波器のシミュレーション特性を表すグラフ図である。図3(a)において、縦軸は減衰量(dB)、横軸は周波数(GHz)を表す。周波数1.92GHz(m20)及び1.98GHz(m21)は送信帯域端であり、周波数2.11GHz(m18)及び2.17GHz(m19)は受信帯域端である。なお、薄膜圧電共振器の容量が1〜2pFである場合、キャパシタ29の容量を約0.4pFとすることが好ましい。
【0024】
太線Tで表す送受信共通端子10及び第2の端子30間の減衰量は、受信帯域端のm18で35.6dB、m19で35.3dBと十分と大きい。また細線Rで表す送受信共通端子10及び第1の端子50間の減衰量は、送信帯域端のm20で49.5dB、m21で57.3dBと十分に大きい。このために、送信信号の受信帯域への漏洩、受信信号の送信帯域への漏洩を抑制することができ、送受同時通話可能な分波器8が可能となる。伸長コイル26、27、28、46、47、48を、並列共振器20、22、24、40、42、44と接地との間にそれぞれ配置し、インダクタンスを制御すると、減衰特性を制御することができる。
【0025】
図3(b)において、太線Tで表す送受信共通端子10及び第2の端子30間の減衰量は、送信帯域端の周波数1.92GHz(m1)で1.4dB、1.98GHz(m2)で1.4dBと十分と小さい。また細線Rで表す送受信共通端子10及び第1の端子50間の減衰量は、受信帯域端の周波数2.11GHz(m3)で2.1dB、2.17GHz(m4)で2.2dBと十分に小さい。これらの減衰量は、挿入損失とも言う。
【0026】
ところで、分波線路の長さGtが約10mmである比較例において、送受信共通端子10及び第2の端子30間の挿入損失は送信帯域において1.6dB以上である。
【0027】
これに対して、本実施形態においては、移相器12を構成する分波線路の長さLtを5度以下の位相回転角となるように短くし、挿入損失を低減できる。図3は、分波線路の長さがLtを1mmとした特性であるが、Lt=0であってもよい。また、移相器32の分波線路の長さLrは、送信帯域におけるフィルタ34のインピーダンスZRを無限大の近傍とするように決めることが好ましく、本実施形態では18mmとしている。
【0028】
図4は、第2の実施形態にかかる分波器8の回路図である。
本実施形態においては、第3のフィルタ54が送受信共通端子10と第3の端子70との間に挿入される。フィルタ54は、直列共振器56、58と、これらと接地間との間に配置された並列共振器60、62、64、とのラダー型構成である。なお、並列共振器60、62、64と接地との間には、伸張コイル66、67、68がそれぞれに配置されている。送受信共通端子10と第3のフィルタ54との間には、分波線路からなる移相器52(長さLq)を配置してもよい。ここで、第2のフィルタ14において、送受信共通端子10に最も近く配置された並列共振器20と接地との間には、伸長コイル26とキャパシタ29との並列回路が接続される。
【0029】
第1のフィルタ34,第2のフィルタ14、第3のフィルタ54のそれぞれの通過周波数帯域はいずれも異なり共通する周波数帯域を含まないようにし、3つの異なる通過周波数帯域の信号を分波することが可能となる。例えば図4において、第1の端子50において携帯電話器の受信、第2の端子30において携帯電話器の送信、第3の端子70においてGPS(Global Positioning System)用電波の受信が可能となる。GPSの場合、1575.42MHz(L1)または1227.60MHz(L2)などの周波数が用いられ、第3のフィルタ54の通過周波数帯域をこのいずれかに設定する。
【0030】
ここで、第2のフィルタ14の通過周波数帯域を、第1のフィルタ34の通過周波数帯域よりも高く、第3のフィルタ54の通過周波数帯域よりも低く設定すると、第2のフィルタ14に接続される移相器12の位相回転角をより小さく抑えることが容易となる。
【0031】
第1及び第2の実施形態では、2つの直列共振器及び3つの並列共振器によるラダー型構成フィルタを用いているが、本発明はこれに限定されない。例えば、直列共振器を1つ、並列共振器を2つとしたπ型構成フィルタとするとより簡素な構成とでき、小型化が容易となる。また、第1及び第3のフィルタ34、54は、1つの直列共振器と1つの並列共振器とのラダー型構成であってもよく、こうするとさらに小型となる。他方、より多段のラダー型構成フィルタとすると、帯域及び減衰特性をより自由に制御することができる。また、伸張コイルに並列接続されるキャパシタを有するフィルタは、送信、受信のいずれでもよく、送受信の両方であってもよい。さらに、第1及び第3のフィルタ34、54は、モード結合型SAW共振器としてもよい。
【0032】
このようにして、送受信共通端子10に最も近い伸張コイルにキャパシタを並列接続し、移相器を構成する分波線路の位相回転角を小さくできる。このために分波線路の長さを短くし、挿入損失を低減でき、分波器8の小型化が容易となる。フィルタ14、34、54のいずれにもキャパシタを配置し、分波線路をそれぞれに短くした分波器8とすると一層小型化が容易となる。
【0033】
以上、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明はこれら実施形態に限定されない。分波器を構成するフィルタ、共振器、伸長コイル、キャパシタ、移相器、分波線路などの材質、形状、サイズ、配置に関して当業者が設計変更を行ったものであっても本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1の実施形態にかかる分波器の回路図
【図2】フィルタの入力インピーダンスを説明するスミス図
【図3】分波器の減衰特性を表すグラフ図
【図4】第2の実施形態にかかる分波器の回路図
【符号の説明】
【0035】
8 分波器、10 送受信共通端子、12 移相器、14 第2のフィルタ、16、18 直列共振器、20、22、24 並列共振器、26 伸長コイル、29 キャパシタ、30 第2の端子、32 移相器、34 第1のフィルタ、36、38 直列共振器、40、42、44 並列共振器、50 第1の端子、54 第3のフィルタ、56、58 直列共振器、60、62、64 並列共振器、70 第3の端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナに接続される送受信共通端子と、
受信機に接続される第1の端子と、
送信機に接続される第2の端子と、
前記第1の端子と前記送受信共通端子との間で第1の通過周波数帯域の信号を伝送する第1のフィルタと、
前記第2の端子と前記送受信共通端子との間で前記第1の通過周波数帯域とは異なる第2の通過周波数帯域の信号を伝送する第2のフィルタと、
を備え、
前記第2のフィルタは、前記送受信共通端子と前記第2の端子との間に接続された少なくとも1つの直列共振器と、前記直列共振器の両側の端子と接地との間に電気的に接続されている少なくとも2つの並列共振器と、前記送受信共通端子に最も近く配置された並列共振器に直列接続された伸長コイルとキャパシタとの並列回路と、を含むことを特徴とする分波器。
【請求項2】
前記送受信共通端子と前記第1のフィルタとの間、及び前記送受信共通端子と前記第2のフィルタとの間、の少なくともいずれかに分波線路からなる移相器が配置されたことを特徴とする請求項1記載の分波器。
【請求項3】
第3の端子と、
前記第3の端子と前記送受信共通端子との間で、前記第1及び第2の通過周波数帯域のいずれとも異なる第3の通過周波数帯域の信号を伝送する第3のフィルタと、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の分波器。
【請求項4】
前記直列共振器及び前記並列共振器は、薄膜圧電共振器または櫛形電極を有する弾性表面波共振器であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の分波器。
【請求項5】
前記キャパシタの誘電体材料は、前記薄膜圧電共振器の圧電性薄膜または前記弾性表面波共振器の圧電性基板と同一であることを特徴とする請求項4記載の分波器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−294780(P2008−294780A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138542(P2007−138542)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】