説明

列車制御装置

【課題】 従来のATS−P型の地上装置と同等の機能を、信号機の現示信号を利用して実現する。
【解決手段】 信号機Sの現示の種類に対応した複数の選択回路3を有し、常時、その複数の選択回路3のうちからその信号機の現在の現示に対応した一つの選択回路を選択する選択回路形成手段と、選択回路3の数に対応して予め用意された複数の距離情報を記憶した情報記憶回路4を有する情報記憶手段と、情報記憶回路4から選択された選択回路に対応した列車制御情報を抽出する抽出手段と、抽出された列車距離情報をレールRを走行する列車に向けて送出する送出手段とからなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は列車制御装置に係り、特に、速度照査形ATS、いわゆるATS−P方式の地上装置に関する。
【0002】
【従来の技術】図3は、従来の有電源型の地上子を用いたATS−P地上装置の概略構成図であって、レールRの所定区間毎にそれぞれ設けられた信号機S1 ,S2 …(図示の例では、図面を簡略化するために2個の信号機S1 ,S2 しか示されていない)が設けられているとともに、各信号機S1 ,S2 …の手前(各信号機S1 ,S2 に向かって列車が進行する方向側)のレール中央(軌道中央)には、互いに所定の間隔を保って複数(図示の例では3個)の地上子10a〜10cが設置されている。
【0003】図3の例では、各信号機S1 ,S2 の手前600m,180m,30mの各地点に地上子10a〜10cがそれぞれ設置されている。
【0004】各地上子10a〜10cは車上(列車)へ信号を送信するためのアンテナAをそれぞれ有している。そして、各信号機S1 ,S2 の近傍には、符号処理器EC1 ,EC2 がそれぞれ設けられているとともに、各符号処理器EC1 ,EC2 と各中継器RP1 ,RP3 とは、それぞれ情報ケーブルC1 及び電源ケーブルC2を介して接続されている。
【0005】各符号処理器EC1 ,EC2 は、信号機S1 ,S2 の信号現示に対応した情報(電文)を生成して各中継器RP1 〜RP3 にそれぞれ出力するように構成されている。
【0006】図3の信号機S1 の手前の符号処理器EC1 及び各中継器RP1 〜RP3 についてさらに説明すると、符号処理器EC1 は、信号機S1 の進行現示(以下、G現示という)、注意現示(以下、Y現示という)及び停止現示(以下、R現示という)に合わせた距離情報を各中継器RP1 〜RP3 に出力するように構成されている。図3の各地上子10a〜10cの上方に示された距離は、信号機S1 の各現示(G,Y,R)に対応した各地上子10a〜10cから車上へ送出される距離情報を表している。
【0007】例えば、信号機S1 がY現示のときに、地上子10cからは、この地上子10cから先方(列車が進行する方向)の730m地点に列車停止地点があることを示す距離情報が送出される。また、このとき、地上子10aからは、先方1300m地点に列車停止地点があることを示す距離情報が送出される。
【0008】したがって、列車は、各地上子10a〜10cを通過するときに、車上子(車上アンテナ)を介して地上からの距離情報を受信して速度制御等を行うことができる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の有電源型の地上子を用いた列車制御装置は、信号機の現示情報を各中継器用の情報に生成する符号処理器を必要とし、また、各中継器もCPU(マイクロコンピュータ)等を用いる必要があり、さらに、符号処理器と各中継器とを情報ケーブル及び電源ケーブルで接続しなければならないため、設備コストがかさむ欠点があった。
【0010】そこで、本発明は、上記欠点を解決するためになされたものであって、その目的は、信号機の現示信号を利用し、さらに、地上子を無電源型にして低コストに実現できる列車制御装置を提供することにある
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明に係る列車制御装置は、上記目的を達成するために、信号機の現示の種類に対応した複数の選択回路を有し、常時、その複数の選択回路のうちからその信号機の現在の現示に対応した一つの選択回路を選択する選択回路形成手段と、前記複数の選択回路の数に対応して予め用意された複数の距離情報等の列車制御情報を記憶した情報記憶部を有する情報記憶手段と、前記情報記憶手段の情報記憶部から前記選択回路形成手段で選択された選択回路に対応した列車制御情報を抽出する抽出手段と、前記抽出手段で抽出された列車制御情報をレールを走行する列車に向けて送出する送出手段とを有することを特徴としている。また、前記送出手段は、前記レールを走行する列車から送出される電力波信号を受信して生成した駆動電源により駆動されるものであることを特徴としている。
【0012】
【作用】上記構成において、送出手段は、情報記憶部から選択回路形成手段で選択された選択回路に対応した列車制御情報をレールを走行する列車に向けて送出する。そして、その送出手段は、レールを走行する列車から送出される電力波信号を受信して駆動電源を得る。
【0013】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基いて説明する。なお、上記従来と同一構成要素には同一符号を用いて説明する。
【0014】図1は、一実施例に係る列車制御装置の概略構成図であって、レールRの所定区間毎に設けられた信号機S(図示の例では、図面を簡略化するために1個の信号機しか示されていない)が設けられているとともに、その信号機Sの手前のレール中央(軌道中央)には、互いに所定の間隔を保って複数(図示の例では3個)の無電源型の地上子1a〜1cが設置されている。
【0015】図1の例では、信号機Sの手前600m,180m,30mの各地点に地上子1a〜1cがそれぞれ設置されている。
【0016】各地上子1a〜1cは、同一構成であるので、以下、地上子1aを例に説明する。地上子1aは、列車(車上)イから送出される電力波を受信するための電力波受信アンテナA1 及び車上に向けて列車制御情報を送出するための送信アンテナA2 から構成されるアンテナAを有している。
【0017】地上子1aは、信号機Sの現示を制御する信号機制御回路2のリレー接点、又はROM等により形成される選択回路3と、列車イへ送出する列車制御情報が予め設定記憶されている複数の情報記憶部を有する情報記憶回路4と、各情報記憶部に記憶されている列車情報を上記送信アンテナA2 を介して車上へ向けて送出する送信回路5と、電力波受信アンテナA1 が車上から受けた電力波を整流して所定の駆動電源を生成する電源発生回路6とから構成されている。
【0018】図2を用いて、さらに詳しく地上子1aを説明すると、選択回路3は、信号機Sの現示に応じてオン・オフされる2つのリレーGR,YRの接点を介した信号機制御回路2の出力信号で駆動制御される2つのリレーRY1 ,RY2 の接点群により構成されている。
【0019】上記信号機制御回路2は、図示しない軌道回路等の周知の列車検知装置により、駆動される2つのリレーGR,YRの作動状態により、所定の選択回路を形成するように構成されている。
【0020】すなわち、一方のリレーRY1 が扛上(ON)したときは、その接点を介して情報記憶回路4のうちのG現示情報記憶部4aを選択する回路を形成し、その一方のリレーRY1 が落下(OFF)し、かつ他方のリレーRY2 がONしたときは、それらの接点を介して情報記憶回路4のうちのY現示情報記憶部4bを選択する回路を形成し、両方のリレーRY1 ,RY2 がOFFのときは、それらの接点を介して情報記憶回路4のうちのR現示情報記憶部4cを選択する回路を形成することができるように構成されている。
【0021】送信回路5は、上記選択回路3で選択されたいずれか一つの情報記憶部(4a〜4c)の情報をOR回路5aを介して入力し、その入力した信号を周知の車上へ信号を送信するときと同様に、変調回路5bでAMやFM等の所定の変調信号に変調処理し、次いで、増幅器5cを経て送信アンテナA2 に出力するように構成されている。
【0022】情報記憶回路4及び送信回路5は、上記電源発生回路6から電源の供給を受けたときに作動できるように構成されている。
【0023】各情報記憶部4a〜4cには、車上へ送信すべき所定の距離情報(列車制御情報)が予め記憶されている。例えば、図1において、信号機Sの先方のレールRの長さが、上記図3と同様に、700m,800mとした場合、G現示情報記憶部4aには2100m、Y現示情報記憶部4bには1300m、R現示情報記憶部4cには600mの距離情報がそれぞれ記憶されている。
【0024】なお、図1において、各地上子1b,1cの下方に示した距離情報は、それら各地上子1b,1cに上述の地上子1aに記憶されていると同様に記憶されている距離情報を示している。
【0025】上記構成の本実施例装置において、今、列車イが地上子1aに達すると、電源発生回路6は、電力波受信アンテナA1 が車上アンテナaから受けた電力波を処理して所定の電圧の電源を発生させることができる。
【0026】電源発生回路6から情報記憶回路4及び送信回路5が電源の供給を受けると、選択回路3で選択された現示情報記憶部、例えば信号機SがG現示のときはG現示情報記憶部4aの距離情報が送信アンテナA2 を介して車上へ向けて送出される。
【0027】したがって、列車イは、車上アンテナaを介して送信アンテナA2 からの列車制御情報を車上装置bに取込むことができ、この取込んだ距離情報を基に、車上装置bは列車イの速度制御やその他の所定の制御を行うことができる。
【0028】列車イが、他の地上子1b,1cを通過する毎に、上述と同様に、列車イは地上側から列車制御情報を取込んで列車制御を行うことができる。
【0029】以上のように、本実施例装置は、従来の複雑で高価な符号処理器や中継器を使用しなくとも、信号機Sの現示信号を利用して従来と同等の列車制御を行うことができる。また、情報記憶回路4に予め列車制御情報を記憶してあるので、情報伝達のためのケーブルを必要としないばかりか、処理時間が短縮される特長を有している。さらに、無電源型の地上子1a〜1cとしたので、電源供給用のケーブルをも必要としないので、低コストに実現することができる。
【0030】
【発明の効果】本発明に係る列車制御装置は、信号機の現示の種類に対応した複数の選択回路を有し、常時、その複数の選択回路のうちからその信号機の現在の現示に対応した一つの選択回路を選択する選択回路形成手段と、複数の選択回路の数に対応して予め用意された複数の列車制御情報を記憶した情報記憶部を有する情報記憶手段と、その情報記憶手段の情報記憶部から前記選択回路形成手段で選択された選択回路に対応した列車制御情報を抽出する抽出手段と、その抽出手段で抽出された列車制御情報をレールを走行する列車に向けて送出する送出手段とを有するので、従来の複雑で高価な符号処理器や中継器を使用しなくとも信号機の現示信号を利用して従来と同等の列車制御を行うことができる。また、情報記憶手段に予め列車制御情報を記憶してあるので、情報伝達のためのケーブルを必要としないばかりか、処理時間が短縮される特長を有している。さらに、無電源型の地上子としたときは、電源供給用のケーブルをも必要としないので、低コストに実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態装置の概略構成図である。
【図2】 図1の一部の詳細図である。
【図3】 従来装置の概略構成図である。
【符号の説明】
1a〜1c 無電源型の地上子
2 信号機制御回路
3 選択回路
4 情報記憶回路
5 送信回路
6 電源発生回路
R レール
S 信号機
A アンテナ
A1 電力波受信アンテナ
A2 送信アンテナ
a 車上アンテナ
b 車上装置
イ 列車

【特許請求の範囲】
【請求項1】 信号機の現示の種類に対応した複数の選択回路を有し、常時、その複数の選択回路のうちからその信号機の現在の現示に対応した一つの選択回路を選択する選択回路形成手段と、前記複数の選択回路の数に対応して予め用意された複数の距離情報を含む列車制御情報を記憶した情報記憶部を有する情報記憶手段と、前記情報記憶手段の情報記憶部から前記選択回路形成手段で選択された選択回路に対応した列車制御情報を抽出する抽出手段と、前記抽出手段で抽出された列車制御情報をレールを走行する列車に向けて送出する送出手段と、を有することを特徴とする列車制御装置。
【請求項2】 前記送出手段は、前記レールを走行する列車から送出される電力波信号を受信して生成した駆動電源により駆動されるものであることを特徴とする請求項1記載の列車制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2002−12149(P2002−12149A)
【公開日】平成14年1月15日(2002.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−171608(P2001−171608)
【分割の表示】特願平6−163118の分割
【出願日】平成6年6月22日(1994.6.22)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】