説明

到来時刻推定装置

【課題】 受信信号と参照信号の周波数が一致していない場合でも、電波の到来時刻を推定できるようにする。
【解決手段】 受信信号サンプリング部1により受信された信号の時間波形から共分散行列を生成する受信信号共分散行列計算部2と、空間に周期的に発信された信号の時間波形から到来時刻と周波数シフト量の関数であるモードベクトルを計算するモードベクトル計算部3とを設け、その受信信号共分散行列計算部2により計算された共分散行列とモードベクトル計算部3により計算されたモードベクトルを用いてMUSIC処理を実施することにより、受信信号サンプリング部1により受信された信号の到来時刻を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、空間に存在する目標までの距離を示す信号の到来時刻を推定する到来時刻推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
到来時刻推定装置は、例えば、レーダやGPS受信機などに実装され、例えば、空間に存在する目標までの距離を検出する際に、電波の到来時刻推定を推定する。
従来の到来時刻推定装置は、送信信号(または、送信信号と相関関係がある参照信号)と受信信号の相関演算を実施して遅延プロファイルを取得することにより、その受信信号の到来時刻推定を推定する方式を一般的に採用している。
【0003】
しかし、相関演算を実施して到来時刻を推定する方式では、時間分解能が送受信信号の帯域幅の逆数に制限される問題がある。
このため、相関演算を実施して到来時刻を推定する方式をレーダが採用する場合、距離分解能が送受信信号の帯域幅によって制限される原因になる。また、この時間分解能よりも近接している到来波が複数存在すると、到来時刻の推定に誤りが生じる。
そこで、距離分解能が送受信信号の帯域幅によって制限されるなどの問題点を解消するために、MUSIC処理やESPRIT処理などの超分解能処理を実施して、相関演算を実施する場合よりも、高い時間分解能を得る方式が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
なお、超分解能処理を実施することにより、電波の到来時刻を推定する方法の詳細は、下記の非特許文献1に開示されている。
【0004】
ただし、MUSIC処理やESPRIT処理などの超分解能処理を実施して、電波の到来時刻を推定する方式では、受信信号と参照信号の周波数が一致していなければならず、例えば、GPS受信機において、衛星の運動によるドップラー周波数が未知である場合には適用することができない。
また、電波源位置測位装置において、電波源や受信機が移動し、そのドップラー周波数が未知である場合には適用することができない。
また、レーダにおいて、探知目標が移動し、そのドップラー周波数が未知である場合には適用することができない。
以下、ドップラー周波数が未知である場合には適用することができない理由を説明するため、超分解能処理を実施することにより、電波の到来時刻を推定する方法を採用している到来時刻推定装置を説明する。
【0005】
まず、第1のフーリエ変換手段が受信信号をフーリエ変換し、第2のフーリエ変換手段が参照信号をフーリエ変換する。
受信信号が参照信号を時刻τだけ遅延された信号であるとすると、フーリエ変換された受信信号[X1,X2,・・・,XL]と、フーリエ変換された参照信号[S1,S2,・・・,SL]の関係は次のようになる。
[X1,X2,・・・,XL
=[S10,S2-2πjfsτ,・・・,SL-2πj(L-1)fsτ] (1)
ただし、Lは受信信号のサンプル数、fsはサンプリング周波数である。
【0006】
次に、除算手段がフーリエ変換された受信信号を要素毎に、参照信号で除算して、次のような位相の線形性を取得する。
[X1/S1,X2/S2,・・・,XL/SL
=[e0,e-2πjfsτ,・・・,e-2πj(L-1)fsτ] (2)
次に、共分散行列計算手段が、除算手段の除算結果の共分散行列、即ち、式(2)の共分散行列を計算する。
次に、MUSIC処理手段が、下記の式(3)で示すような等比級数をモードベクトルaconv(τ)とし、そのモードベクトルaconv(τ)と共分散行列計算手段により計算された共分散行列とを用いてMUSIC処理を実施することにより、遅延時間τを推定する。
conv(τ)=[e0,e-2πjfsτ,・・・,e-2πj(L-1)fsτT (3)
【0007】
ここで、受信信号の周波数が参照信号に対してシフトしている場合を考える。
即ち、フーリエ変換された受信信号[X1,X2,・・・,XL]と、フーリエ変換された参照信号[S1,S2,・・・,SL]の関係が次式になるような場合を想定する。
[X1,X2,・・・,XL
=[S1-n0,S2-n-2πjfsτ,・・・,SL-n-2πj(L-1)fsτ] (4)
ただし、nは周波数シフトするインデックス数である。
【0008】
この周波数シフトを無視して、受信信号を参照信号で除算すると次式のようになる。
[X1/S1,X2/S2,・・・,XL/SL
=[(S1-n/S1)e0,(S2-n/S2)e-2πjfsτ,・・・,
(SL-n/SL)e-2πj(L-1)fsτ] (5)
しかし、一般に、SlとSl-nは無関係であるため、式(5)の右辺はランダムな位相を有し、位相線形性が得られない。
したがって、線形位相をモードベクトルとして用いる従来の到来時刻推定方式では、参照信号に対して受信信号の周波数がシフトしていて、そのシフト量nが不明の場合、受信信号の到来時刻を推定することができない。
【0009】
【特許文献1】特表2003−532314号公報(第15頁、図1)
【非特許文献1】菊間信良著「アレーアンテナによる適応信号処理」科学技術出版、1998年発刊、P269〜P292
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の到来時刻推定装置は以上のように構成されているので、受信信号と参照信号の周波数が一致していれば、電波の到来時刻を推定することができる。しかし、受信信号と参照信号の周波数が一致していない場合、電波の到来時刻を推定することができず、例えば、衛星の運動によるドップラー周波数が未知であるGPS受信機などには適用することができないなどの課題があった。
【0011】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、受信信号と参照信号の周波数が一致していない場合でも、電波の到来時刻を推定することができる到来時刻推定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る到来時刻推定装置は、信号受信手段により受信された信号の時間波形から共分散行列を生成する共分散行列生成手段と、空間に周期的に発信された信号の時間波形から到来時刻と周波数シフト量の関数であるモードベクトルを生成するモードベクトル生成手段とを設け、その共分散行列生成手段により生成された共分散行列とモードベクトル生成手段により生成されたモードベクトルを用いて超分解能処理を実施することにより、その信号受信手段により受信された信号の到来時刻を推定するようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、信号受信手段により受信された信号の時間波形から共分散行列を生成する共分散行列生成手段と、空間に周期的に発信された信号の時間波形から到来時刻と周波数シフト量の関数であるモードベクトルを生成するモードベクトル生成手段とを設け、その共分散行列生成手段により生成された共分散行列とモードベクトル生成手段により生成されたモードベクトルを用いて超分解能処理を実施することにより、その信号受信手段により受信された信号の到来時刻を推定するように構成したので、信号受信手段により受信された信号と、空間に周期的に発信された信号の周波数が一致していない場合でも、電波の到来時刻を推定することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による到来時刻推定装置を示す構成図であり、図において、受信信号サンプリング部1は図示せぬ信号発信器が空間に信号を周期的に発信すると、空間に周期的に発信された信号を順次サンプリングする。なお、受信信号サンプリング部1は信号受信手段を構成している。
受信信号共分散行列計算部2は受信信号サンプリング部1によりサンプリングされた信号の時間波形である一周期の信号列x(k)から共分散行列Rxxを計算する。なお、受信信号共分散行列計算部2は共分散行列生成手段を構成している。
【0015】
モードベクトル計算部3は空間に周期的に発信された信号の時間波形である一周期の信号列s(t)から到来時刻と周波数シフト量の関数であるモードベクトルa(τ,Δf)を計算する。
この実施の形態1では、当該到来時刻推定装置において既知である空間に周期的に発信された信号がモードベクトル計算部3に入力されるものについて説明するが、空間に周期的に発信された信号と強い相関関係がある参照信号がモードベクトル計算部3に入力されるものであってもよい。なお、モードベクトル計算部3はモードベクトル生成手段を構成している。
【0016】
MUSIC処理部4は受信信号共分散行列計算部2により計算された共分散行列Rxxとモードベクトル計算部3により計算されたモードベクトルa(τ,Δf)を用いて超分解能処理であるMUSIC処理を実施することにより、受信信号サンプリング部1によりサンプリングされた信号の到来時刻τを推定する。
この実施の形態1では、MUSIC処理部4が超分解能処理であるMUSIC処理を実施するものについて説明するが、これに限るものではなく、例えば、超分解能処理であるESPRIT処理を実施することにより、受信信号サンプリング部1によりサンプリングされた信号の到来時刻τを推定するようにしてもよい。なお、MUSIC処理部4は到来時刻推定手段を構成している。
【0017】
図2はこの発明の実施の形態1による到来時刻推定装置のMUSIC処理部を示す構成図であり、図において、固有値・固有ベクトル計算部11は受信信号共分散行列計算部2により計算された共分散行列Rxxの固有値λl(l=1,2,・・・,L)と固有ベクトルel(l=1,2,・・・,L)を計算する。
雑音固有値判定部12は固有値・固有ベクトル計算部11により計算された共分散行列Rxxの固有値λlの中で、雑音電力σ2に等しい固有値(以下、雑音固有値という)を特定するとともに、共分散行列Rxxの固有値λlと雑音電力σ2を比較して伝搬経路数Mを推定する。
MUSICスペクトラム計算部13は雑音固有値判定部12により特定された雑音固有値に対応する固有ベクトルとモードベクトル計算部3により計算されたモードベクトルa(τ,Δf)から、到来時刻τと周波数シフト量Δfに関する二次元MUSICスペクトラムPmu(τ,Δf)を計算し、その二次元MUSICスペクトラムPmu(τ,Δf)のピーク位置から受信信号サンプリング部1によりサンプリングされた信号の到来時刻τと周波数シフト量Δfを推定する。
【0018】
次に動作について説明する。
まず、図示せぬ信号発信器が、図3に示すように、空間に信号を周期的に発信する。
ただし、この信号は、例えば、パルス信号や擬似雑音符号であり、かつ、そのパルス波形や変調符号が既知である場合を想定している。
このような想定は、レーダやGPS受信機等では一般的である。また、携帯端末等においても、通信方式がスペクトル拡散方式である場合は一般的である。なお、携帯端末等の通信方式がスペクトル拡散方式でない場合でも、通常のディジタル通信方式であれば、通信のプリアンブル部などを用いれば、この実施の形態1の到来時刻推定装置を適用することができる。
【0019】
受信信号サンプリング部1は、図示せぬ信号発信器が空間に信号を周期的に発信すると、空間に周期的に発信された信号を順次サンプリングする。
即ち、受信信号サンプリング部1は、図3に示すように、信号発信器から発信される信号の繰返し周期(以下、「信号周期」という)毎に、所定の数(例えば、L個)ずつ受信信号をサンプリングする。
以下、k番目の信号周期からサンプリングしたL個の受信信号の信号列をx(k)とし、この信号列x(k)を受信信号ベクトルと称する。
x(k)=[X1,X2,・・・,XLT (6)
ただし、Tは行列やベクトルの転置を表わしている。
【0020】
なお、受信信号は、複数の経路を経由して到来し、様々な遅延や周波数シフトが与えられた送信信号の波形の組み合わせと考えることができるので、次式のように表すことができる。
x(k)=Σa(τm,Δfm)cm(k)+n(k) (7)
ただし、a(τm,Δfm)は送信信号を時刻τmだけ遅延させて、周波数をΔfmだけシフトさせた場合の信号波形ベクトルである。
τmはm番目の経路の遅延時間、Δfmはm番目の経路の周波数シフト量、cm(k)はk番目の信号周期におけるm番目の経路の複素振幅、n(k)はk番目の信号周期における受信機雑音ベクトルである。
【0021】
受信信号共分散行列計算部2は、受信信号サンプリング部1が信号周期毎に、L個ずつ受信信号をサンプリングすると、下記の式(8)に示すように、そのL個の受信信号の信号列である受信信号ベクトルx(k)から共分散行列Rxxを計算する。
【数1】

ただし、E[]は期待値演算を表し、Hは行列やベクトルの複素共役転置を表し、*は複素共役を表している。
【0022】
なお、式(8)に式(7)を代入し、送信信号と雑音が無相関であることを想定すると、式(8)は下記の式(9)のように表すことができる。
【数2】

ただし、σ2は雑音電力であり、n1(k)は雑音ベクトルn(k)のl番目の要素である。なお、雑音電力はlによらないことを仮定している。
【0023】
上述したように、式(8)が式(9)のような形式で表わされることから、MUSICアルゴリズムを適用することができる事例であることがわかる。
ただし、実際の計算では、受信信号共分散行列計算部2は、式(8)の期待値演算を下記に示すように、信号周期K回の時間平均演算で代用する。
【数3】

【0024】
モードベクトル計算部3は、下記の式(14)を用いて、図示せぬ信号発信器が空間に周期的に発信する信号の時間波形である一周期の信号列s(t)から到来時刻と周波数シフト量の関数であるモードベクトルa(τ,Δf)を計算する。
即ち、信号発信器が空間に周期的に発信する信号の一周期分を所定の範囲内で遅延させるとともに、周波数シフトさせているモードベクトルa(τ,Δf)を生成する。
a(τ,Δf)
=[s(−τ)e0,s(T−τ)e-2πjΔfT,s(2T−τ)e-2πj2ΔfT
,・・・,s((L−1)T−τ)e-2πj(L-1)ΔfTT
(14)
ただし、Tはサンプリング周期である。
ここでは、モードベクトル計算部3が、図示せぬ信号発信器から発信される信号からモードベクトルa(τ,Δf)を計算するものについて示したが、信号発信器から発信される信号と強い相関関係がある参照信号からモードベクトルa(τ,Δf)を計算するようにしてもよい。
【0025】
MUSIC処理部4は、受信信号共分散行列計算部2が共分散行列Rxxを計算し、モードベクトル計算部3がモードベクトルa(τ,Δf)を計算すると、その共分散行列Rxxとモードベクトルa(τ,Δf)を用いて超分解能処理であるMUSIC処理を実施することにより、受信信号サンプリング部1によりサンプリングされた信号の到来時刻τと周波数シフト量Δfを推定するとともに、伝播経路数Mを推定する。
MUSIC処理(Multiple Signal Classification)の詳細は、菊間信良著「アレーアンテナによる適応信号処理」科学技術出版(1998年発刊)の191〜202頁および269〜282頁に詳しく記載されているが、以下、MUSIC処理部4の処理内容を具体的に説明する。
【0026】
MUSIC処理部4の固有値・固有ベクトル計算部11は、受信信号共分散行列計算部2が共分散行列Rxxを計算すると、その共分散行列Rxxの固有値λl(l=1,2,・・・,L)と固有ベクトルel(l=1,2,・・・,L)を計算する。
MUSIC処理部4の雑音固有値判定部12は、固有値・固有ベクトル計算部11が共分散行列Rxxの固有値λlを計算すると、下記に示すように、その共分散行列Rxxの固有値λlを降順に並べて、受信信号の雑音電力σ2に等しい固有値(以下、雑音固有値という)を特定し、その雑音固有値λM+1,λM+2,・・・,λLをMUSICスペクトラム計算部13に出力する。
λ1≧λ2≧・・・≧λM≧λM+1=・・・=λL=σ2
(15)
【0027】
また、雑音固有値判定部12は、共分散行列Rxxの固有値λlと雑音電力σ2を比較して伝搬経路数Mを推定する。
即ち、共分散行列Rxxの固有値λlの中で、雑音電力σ2より大きい固有値λlを特定し、雑音電力σ2より大きい固有値λlの個数を伝搬経路数Mと推定する。
式(15)の例では、λ1,λ2,・・・,λMが雑音電力σ2より大きいので、伝搬経路数がMであると推定する。
なお、図4は共分散行列Rxxの固有値λlを示す説明図であるが、図4の例では、顕著に0以上の値を持つ固有値の数が3個であるため、伝播経路数Mが3であると推定する。
【0028】
MUSIC処理部4のMUSICスペクトラム計算部13は、雑音固有値判定部12が雑音固有値λM+1,λM+2,・・・,λLを特定し、モードベクトル計算部3がモードベクトルa(τ,Δf)を計算すると、下記の式(16)に示すように、その雑音固有値λM,λM+1,・・・,λLに対応する固有ベクトルeM+1,eM+2,・・・,eLとモードベクトルa(τ,Δf)から、到来時刻τと周波数シフト量Δfに関する二次元MUSICスペクトラムPmu(τ,Δf)を計算する。
mu(τ,Δf)
=(aH(τ,Δf)a(τ,Δf))/(aH(τ,Δf)ENHNa(τ,Δf))
(16)
N=[eM+1,eM+2,・・・,eL] (17)
【0029】
MUSICスペクトラム計算部13は、上記のようにして、二次元MUSICスペクトラムPmu(τ,Δf)を計算すると、その二次元MUSICスペクトラムPmu(τ,Δf)のピーク位置から受信信号サンプリング部1によりサンプリングされた信号の到来時刻τと周波数シフト量Δfを推定する。
図5は二次元MUSICスペクトラムPmu(τ,Δf)の計算結果例を示す説明図であり、図5では伝播経路数Mが3である例を示しているので、3個のピークが現われている。
【0030】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、受信信号サンプリング部1により受信された信号の時間波形から共分散行列を生成する受信信号共分散行列計算部2と、空間に周期的に発信された信号の時間波形から到来時刻と周波数シフト量の関数であるモードベクトルを計算するモードベクトル計算部3とを設け、その受信信号共分散行列計算部2により計算された共分散行列とモードベクトル計算部3により計算されたモードベクトルを用いてMUSIC処理を実施することにより、受信信号サンプリング部1により受信された信号の到来時刻を推定するように構成したので、受信信号サンプリング部1により受信された信号と、空間に周期的に発信された信号の周波数が一致していない場合でも、電波の到来時刻を推定することができる効果を奏する。
【0031】
これにより、例えば、レーダや測位装置など、超分解能処理の適用可能な範囲が飛躍的に広がる。この実施の形態1の到来時刻推定装置をレーダに搭載した場合、従来の相関演算による到来時刻推定方式を採用する場合より、高い距離分解能を得ることができる。また、測位装置に搭載した場合も、より高い測位精度を得ることができる。
また、従来の相関演算による到来時刻推定方式を採用する場合より、SNRが低いときでも、到来時刻を推定することができる。
【0032】
実施の形態2.
図6はこの発明の実施の形態2による目標検出装置(到来時刻推定装置を実装しているレーダ)を示す構成図であり、図において、送信信号源21はパルス信号や擬似雑音符号で変調された信号などを周期的に発信する。
信号結合器22は送信信号源21から発信された信号をサーキュレータ23に出力する一方、その信号の一部をA/D変換器27に分配する。
サーキュレータ23は信号結合器22から出力された信号を送受信アンテナ24に供給して、空間に電波を放射する一方、空間に放射された電波が目標の反射物に反射されて送受信アンテナ24に受信されると、その電波を受信機25に出力する。
【0033】
受信機25はサーキュレータ23から出力された電波を増幅し、増幅後の電波の周波数を変換するなどの処理を実施する。
A/D変換器26は受信機25の出力信号をアナログ信号からディジタル信号に変換して、そのディジタル信号を受信信号として到来時刻推定装置28に出力する。
A/D変換器27は信号結合器22により分配された信号をアナログ信号からディジタル信号に変換して、そのディジタル信号を参照信号として到来時刻推定装置28に出力する。
到来時刻推定装置28は図1の到来時刻推定装置であり、A/D変換器26から出力された受信信号とA/D変換器27から出力された参照信号を入力して、その受信信号の到来時刻、周波数シフト量及び伝搬経路数を推定する。
【0034】
次に動作について説明する。
送信信号源21は、図3に示すように、パルス信号や擬似雑音符号で変調された信号などを周期的に発信する。
信号結合器22は、送信信号源21から発信された信号を受けると、その信号をサーキュレータ23に出力する一方、その信号の一部をA/D変換器27に分配する。
サーキュレータ23は、信号結合器22から信号を受けると、その信号を送受信アンテナ24に供給して、空間に電波を放射する。
また、サーキュレータ23は、送受信アンテナ24から空間に放射された電波が目標の反射物に反射されて、その送受信アンテナ24に受信されると、その電波を受信機25に出力する。
【0035】
受信機25は、サーキュレータ23から送受信アンテナ24に受信された電波を受けると、その電波を増幅し、増幅後の電波の周波数を変換するなどの処理を実施する。
A/D変換器26は、受信機25の出力信号をアナログ信号からディジタル信号に変換して、そのディジタル信号を受信信号として到来時刻推定装置28に出力する。
A/D変換器27は、信号結合器22により分配された信号をアナログ信号からディジタル信号に変換して、そのディジタル信号を参照信号として到来時刻推定装置28に出力する。
【0036】
到来時刻推定装置28は、A/D変換器26から受信信号を受け、A/D変換器27から参照信号を受けると、上記実施の形態1と同様にして、その受信信号の到来時刻τ、周波数シフト量Δf及び伝搬経路数Mを推定する。
なお、到来時刻推定装置28により推定される到来時刻τは、目標の反射物までの距離に相当する。
また、到来時刻推定装置28により推定される周波数シフト量Δfは、目標の反射物の視線方向速度に相当し、到来時刻推定装置28により推定される伝搬経路数Mは、目標の反射物の数に相当する。
【0037】
この実施の形態2によれば、レーダが目標の反射物の数、目標の反射物までの距離、目標の反射物の視線方向速度を推定することができるので、従来の相関演算を実施するレーダよりも、高い距離分解能で近接した複数の目標を弁別することができる。また、より近接した視線速度の複数の目標を弁別することができる。また、従来の相関演算を実施するレーダより、SNRが低い場合でも目標を探知することができ、また、より遠距離で、より小さな目標も探知することができる。
【0038】
なお、この実施の形態2では、レーダがサーキュレータ23を実装しているが、サーキュレータ23の代わりに、送受信切替スイッチなどを実装してもよい。
また、レーダが送受信アンテナ24を実装しているが、送受信アンテナ24の代わりに、送信アンテナと受信アンテナを別々に実装していてもよい。
送受信局が別の位置にあるバイスタティック構成や、受信局が複数あるマルチスタティック構成なども考えられるが、これらの構成の如何にかかわらず、図1の到来時刻推定装置を適用することができる。
【0039】
この実施の形態2では、送受信アンテナ24が電波を送受信するものについて示しているが、その電波の代わりに、音波を送受信するようにすれば、ソナーを構成することができる。
また、その電波の代わりに、光を送受信するようにすれば、光波レーダを構成することができる。
【0040】
実施の形態3.
図7はこの発明の実施の形態3による発信機位置測位装置(到来時刻推定装置を実装している測位装置)を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
電波発信機31は例えば携帯端末などの電波を発信する機器である。
電波発信機31の擬似雑音符号発生部32は周期的な擬似雑音符号を発生し、送信信号発生部33は送信信号を発生する。
電波発信機31の変調部34は送信信号発生部33から発生された送信信号を擬似雑音符号発生部32から発生された周期的な擬似雑音符号で変調する。
電波発信機31の送信アンテナ35は変調部34による変調後の電波を送信する。
【0041】
受信アンテナ41は例えば基地局に実装されている発信機位置測位装置のアンテナであり、電波発信機31から送信された電波を受信する。
受信機42は受信アンテナ41により受信された電波の周波数を変換して直交検波を実施し、その直交検波信号を受信信号として、図1と同様の到来時刻推定装置43に出力する。
到来時刻推定装置43は図1と同様の到来時刻推定装置であり、受信機42から出力された受信信号と擬似雑音符号発生部44から発生された擬似雑音符号(参照信号)を入力して、その受信信号の到来時刻τを推定する。
擬似雑音符号発生部44は電波発信機31の擬似雑音符号発生部32から発生される擬似雑音符号と同じ擬似雑音符号を発生する。
直接波選択部45は到来時刻推定装置43により推定された直接波やマルチパス波の到来時刻の中で最も早い到来波を直接波として選択し、その直接波の到来時刻を出力する。
測位計算部46は複数の直接波選択部45から出力された直接波の到来時刻から電波発信機31の位置を計算する。
【0042】
次に動作について説明する。
電波発信機31の擬似雑音符号発生部32は、周期的な擬似雑音符号を発生し、送信信号発生部33は送信信号を発生する。
電波発信機31の変調部34は、送信信号発生部33から送信信号を受けると、その送信信号を擬似雑音符号発生部32から発生された周期的な擬似雑音符号で変調する。
電波発信機31の送信アンテナ35は、変調部34による変調後の電波を空間に放射する。
【0043】
これにより、受信アンテナ41は、電波発信機31から送信された電波を受信する。
受信機42は、受信アンテナ41が電波を受信すると、その電波の周波数を変換して直交検波を実施し、その直交検波信号を受信信号として、図1と同様の到来時刻推定装置43に出力する。
到来時刻推定装置43は、受信機42から受信信号を受け、擬似雑音符号発生部44から参照信号である擬似雑音符号を受けると、上記実施の形態1と同様にして、電波発信機31からの直接波やマルチパス波などの到来時刻τを推定する。
直接波選択部45は、到来時刻推定装置43が直接波やマルチパス波の到来時刻τを推定すると、それらの到来時刻τの中で最も早い到来波を直接波として選択し、その直接波の到来時刻τを測位計算部46に出力する。
【0044】
測位計算部46は、複数の直接波選択部45から直接波の到来時刻τを受けると、その到来時刻τを下記の連立方程式に代入して、その連立方程式を解くことにより、電波発信機31の位置を計算する。
cτn=((x−Xn2+(y−Yn2+(z−Zn2))1/2+cts
(18)
ただし、cは光速、(x,y,z)は電波発信機31の位置、(Xn,Yn,Zn)はn番目の受信アンテナ41の位置、τnはn番目の受信アンテナ41における直接波の到来時刻、tsは電波が発信された時刻である。
【0045】
式(18)は、(x,y,z)とtsの4個の変数を有する方程式であるから、受信アンテナ41が4基であれば、連立方程式である式(18)を解いて、電波発信機31の位置(x,y,z)を測位することができる。
受信アンテナ41が3基の場合には、例えば、高さ位置zを仮定するなどを行えば、二次元位置(x,y)を測位することができる。
また、受信アンテナ41が5基以上ある場合には、式(18)を最小二乗法により解くことにより、より正確な測位結果を得ることができる。
【0046】
この実施の形態3によれば、従来の相関演算を実施する到来時刻推定方式を採用する場合より、高い分解能で直接波とマルチパス波を分離することができるので、直接波の到来時刻を正確に推定して、高精度な測位結果を得ることができる効果を奏する。また、SNRが低い場合でも、電波発信機31の位置(x,y,z)を測位することができる効果を奏する。
【0047】
この実施の形態3では、電波発信機31が電波を送信して、受信アンテナ41が電波を受信するものについて示しているが、その電波の代わりに、音波を送受信するようにすれば、音波発信機位置測位装置を構成することができる。
また、その電波の代わりに、光を送受信するようにすれば、光波発信機位置測位装置を構成することができる。
【0048】
実施の形態4.
図8はこの発明の実施の形態4による受信機位置測位装置(到来時刻推定装置を実装している測位装置)を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
電波発信局51は例えば基地局などの電波発信機器であり、信号受信機52は例えば携帯端末などの電波受信機器である。
受信アンテナ53は電波発信局51から送信された電波を受信する。受信機54は受信アンテナ53により受信された電波の周波数を変換して直交検波を実施し、その直交検波信号をA/D変換器55に出力する。
A/D変換器55は受信機54から出力された直交検波信号を標本化してアナログ/ディジタル変換し、そのディジタル信号を受信信号として発信機弁別部56に出力する。
発信機弁別部56は例えば周波数分割多元接続(FDMA)、時分割多元接続(TDMA)、符号分割多元接続(CDMA)などの方法を実施することにより、A/D変換器55から出力された受信信号を電波発信局51毎に弁別し、それぞれ別の到来時刻推定装置57に分配する。
【0049】
到来時刻推定装置57は図1と同様の到来時刻推定装置であり、発信機弁別部56により分配された受信信号と擬似雑音符号発生部58から発生された擬似雑音符号(参照信号)を入力して、その受信信号の到来時刻τを推定する。
擬似雑音符号発生部58は各電波発信局51から送信されている符号と同一の擬似雑音符号を発生する。
直接波選択部59は到来時刻推定装置57により推定された直接波やマルチパス波の到来時刻の中で最も早い到来波を直接波として選択し、その直接波の到来時刻を出力する。
測位計算部60は複数の直接波選択部59から出力された直接波の到来時刻から信号受信機52の位置を計算する。
【0050】
次に動作について説明する。
複数の電波発信局51は、既知の擬似雑音符号により送信信号を変調し、その変調信号である電波を空間に放射する。
信号受信機52の受信機54は、受信アンテナ53が複数の電波発信局51から発信された電波を受信すると、その電波の周波数を変換して直交検波を実施し、その直交検波信号をA/D変換器55に出力する。
【0051】
A/D変換器55は、受信機54から出力された直交検波信号を受けると、その直交検波信号を標本化してアナログ/ディジタル変換し、そのディジタル信号を受信信号として発信機弁別部56に出力する。
発信機弁別部56は、A/D変換器55から受信信号を受けると、例えば、周波数分割多元接続(FDMA)、時分割多元接続(TDMA)、符号分割多元接続(CDMA)などの方法を実施することにより、その受信信号を電波発信局51毎に弁別し、それぞれ別の到来時刻推定装置57に分配する。
【0052】
複数の到来時刻推定装置57は、発信機弁別部56から受信信号を受け、擬似雑音符号発生部58から参照信号である擬似雑音符号を受けると、上記実施の形態1と同様にして、電波発信局51からの直接波やマルチパス波などの到来時刻τを推定する。
直接波選択部59は、到来時刻推定装置57が直接波やマルチパス波の到来時刻τを推定すると、それらの到来時刻τの中で最も早い到来波を直接波として選択し、その直接波の到来時刻τを測位計算部60に出力する。
【0053】
測位計算部60は、複数の直接波選択部59から直接波の到来時刻τを受けると、その到来時刻τを下記の連立方程式に代入して、その連立方程式を解くことにより、信号受信機52の位置を計算する。
cτn=((x−Xn2+(y−Yn2+(z−Zn2))1/2+cterr
(19)
ただし、cは光速、(x,y,z)は信号受信機52の位置、(Xn,Yn,Zn)はn番目の電波発信局51の位置、τnはn番目の電波発信局51からの直接波の到来時刻、terrは信号受信機52の時計誤差である。
【0054】
式(19)は、(x,y,z)とterrの4個の変数を有する方程式であるから、受信可能な電波発信局51が4局であれば、連立方程式である式(19)を解いて、信号受信機52の位置(x,y,z)を測位することができる。
受信可能な電波発信局51が3局の場合には、例えば、高さ位置zを仮定するなどを行えば、二次元位置(x,y)を測位することができる。
また、受信可能な電波発信局51が5局以上ある場合には、式(19)を最小二乗法により解くことにより、より正確な測位結果を得ることができる。
【0055】
この実施の形態4によれば、従来の相関演算を実施する到来時刻推定方式を採用する場合より、高い分解能で直接波とマルチパス波を分離することができるので、直接波の到来時刻を正確に推定して、高精度な測位結果を得ることができる効果を奏する。また、SNRが低い場合でも、信号受信機52の位置(x,y,z)を測位することができる効果を奏する。
【0056】
この実施の形態4では、電波発信局51が電波を送信して、受信アンテナ53が電波を受信するものについて示しているが、その電波の代わりに、音波を送受信するようにすれば、音波受信機位置測位装置を構成することができる。
また、その電波の代わりに、光を送受信するようにすれば、光波受信機位置測位装置を構成することができる。
【0057】
実施の形態5.
図9はこの発明の実施の形態5によるGPS受信機(到来時刻推定装置を実装している測位装置)を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
GPS衛星71は地球の上空を周回し、固有の擬似雑音符号を1ミリ秒間隔で周期的に送信する。
GPS受信機72の受信アンテナ73はGPS衛星71から周期的に送信される信号を受信する。
受信機74は受信アンテナ73により受信された信号の周波数を変換して直交検波を実施し、その直交検波信号をA/D変換器75に出力する。
A/D変換器75は受信機74から出力された直交検波信号を1ミリ秒毎にL回ずつ標本化してアナログ/ディジタル変換し、そのディジタル信号を受信信号として、受信信号共分散行列計算部2に出力する。なお、受信信号共分散行列計算部2は図1の受信信号共分散行列計算部2と同様の計算部であり、Kミリ秒分のデータから共分散行列を計算する。
【0058】
到来時刻推定装置76は図1と同様の到来時刻推定装置である。ただし、受信信号共分散行列計算部2を内蔵せずに前段に設けられている。
衛星番号選択部77はGPS衛星71の軌道情報とGPS受信機72の予測位置から推定される可視衛星の衛星番号を選択する。ただし、そのような予備情報が無い場合は、ランダムに衛星番号を選択する。
擬似雑音符号発生部78は衛星番号選択部77により選択された衛星番号に応じた固有の擬似雑音符号を発生する。なお、擬似雑音符号発生部78は予めGPS衛星71毎に、固有の擬似雑音符号を記憶している。
直接波選択部79は到来時刻推定装置76により推定された直接波やマルチパス波の到来時刻の中で最も早い到来波を直接波として選択し、その直接波の到来時刻を出力する。
測位計算部80は複数の直接波選択部79から出力された直接波の到来時刻からGPS受信機72の位置を計算する。
【0059】
次に動作について説明する。
地球の上空を周回している複数のGPS衛星71は、固有の擬似雑音符号を1ミリ秒間隔で周期的に送信する。
GPS受信機72の受信アンテナ73は、GPS衛星71から周期的に送信される信号を受信する。
【0060】
受信機74は、受信アンテナ73がGPS衛星71から送信される信号を受信すると、その信号の周波数を変換して直交検波を実施し、その直交検波信号をA/D変換器75に出力する。
A/D変換器75は、受信機74から直交検波信号を受けると、その直交検波信号を1ミリ秒毎にL回ずつ標本化してアナログ/ディジタル変換し、そのディジタル信号を受信信号として、受信信号共分散行列計算部2に出力する。
受信信号共分散行列計算部2は、A/D変換器75から受信信号を受けると、上記実施の形態1と同様に、式(13)を用いて、Kミリ秒分のデータから共分散行列Rxxを計算する。
なお、受信信号共分散行列計算部2は、可視範囲にある全てのGPS衛星71について、並列的又は順次的に共分散行列Rxxの計算を実施する。これにより、全てのGPS衛星71からの電波の到来時刻τの計算が可能になる。
【0061】
一方、衛星番号選択部77は、GPS衛星71の軌道情報とGPS受信機72の予測位置から推定される可視衛星の衛星番号を選択する。ただし、そのような予備情報が無い場合は、ランダムに衛星番号を選択する。
擬似雑音符号発生部78は、衛星番号選択部77により選択された衛星番号を受けると、その衛星番号に応じた固有の擬似雑音符号を発生する。
【0062】
到来時刻推定装置76は、受信信号共分散行列計算部2から共分散行列Rxxを受け、擬似雑音符号発生部78から参照信号である擬似雑音符号を受けると、上記実施の形態1と同様にして、GPS衛星71からの直接波やマルチパス波などの到来時刻τを推定する。
直接波選択部79は、到来時刻推定装置76が直接波やマルチパス波の到来時刻τを推定すると、それらの到来時刻τの中で最も早い到来波を直接波として選択し、その直接波の到来時刻τを測位計算部80に出力する。
【0063】
測位計算部80は、複数の直接波選択部79から直接波の到来時刻τを受けると、その到来時刻τを下記の連立方程式に代入して、その連立方程式を解くことにより、GPS受信機72の位置を計算する。
cτn=((x−Xn2+(y−Yn2+(z−Zn2))1/2+cterr
(20)
ただし、cは光速、(x,y,z)はGPS受信機72の位置、(Xn,Yn,Zn)はn番目のGPS衛星71の位置、τnはn番目のGPS衛星71からの直接波の到来時刻、terrはGPS受信機72の時計誤差である。
【0064】
式(20)は、(x,y,z)とterrの4個の変数を有する方程式であるから、可視のGPS衛星71が4局であれば、連立方程式である式(20)を解いて、GPS受信機72の位置(x,y,z)を測位することができる。
可視のGPS衛星71が3局の場合には、例えば、高さ位置zを仮定するなどを行えば、二次元位置(x,y)を測位することができる。
また、可視のGPS衛星71が5局以上ある場合には、式(20)を最小二乗法により解くことにより、より正確な測位結果を得ることができる。
【0065】
ここで、MUSIC処理部5の内部で計算される固有値と固有ベクトルは、全てのGPS衛星71において、同一の共分散行列Rxxから計算するので、一度だけ計算すればよい。このようにすることで、演算量を大幅に少なくすることができる。
この実施の形態5によれば、従来の相関演算を実施する到来時刻推定方式を採用する場合より、高い分解能で直接波とマルチパス波を分離することができるので、直接波の到来時刻を正確に推定して、高精度な測位結果を得ることができる効果を奏する。
【0066】
また、この実施の形態5によれば、別のメリットとして、GPS受信機72を高感度化できる点が挙げられる。
GPS衛星71からの送信信号は、50bpsの航法データでBPSK変調されており、この航法データが不明なため、従来の相関演算による方式では、20ミリ秒以上の積分が難しく、高感度化に限界があったが、この実施の形態5の到来時刻推定方式では、共分散行列の計算時に航法データがキャンセルされるため、原理的に無限の長時間の受信信号を用いて共分散行列を計算して、GPS受信機72を高感度化することができる。
以下、その理由を説明する。
【0067】
まず、GPS受信機72の受信信号は、下記の式(21)で表されるものとする。
x(k)=b(k)pn(k)+n(k) (21)
ただし、kは1ミリ秒の擬似雑音符号周期を表わすインデックス、pn(k)は遅延やドップラー周波数シフトを含む擬似雑音符号、b(k)はBPSK変調のため“+1”または“−1”の値をとる航法データ、n(k)は受信機雑音である。
【0068】
この場合、受信信号の共分散行列Rxxは下記の式(22)のようになる。
【数4】

ただし、擬似雑音符号pn(k)と受信機雑音n(k)は、無相関であると仮定している。この仮定は、共分散行列を計算する平均数を十分にとれば通常成立する。
式(22)に示すように、この実施の形態5による到来時刻推定法を用いれば、共分散行列の計算過程で航法データがキャンセルされるため、航法データが不明であっても長時間に亘って共分散行列の平均演算が可能となり、高感度なGPS受信機を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】この発明の実施の形態1による到来時刻推定装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による到来時刻推定装置のMUSIC処理部を示す構成図である。
【図3】信号の送信周期を示す説明図である。
【図4】共分散行列Rxxの固有値λlを示す説明図である。
【図5】二次元MUSICスペクトラムPmu(τ,Δf)の計算結果例を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態2による目標検出装置(到来時刻推定装置を実装しているレーダ)を示す構成図である。
【図7】この発明の実施の形態3による発信機位置測位装置(到来時刻推定装置を実装している測位装置)を示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態4による受信機位置測位装置(到来時刻推定装置を実装している測位装置)を示す構成図である。
【図9】この発明の実施の形態5によるGPS受信機(到来時刻推定装置を実装している測位装置)を示す構成図である。
【符号の説明】
【0070】
1 受信信号サンプリング部(信号受信手段)、2 受信信号共分散行列計算部(共分散行列生成手段)、3 モードベクトル計算部(モードベクトル生成手段)、4 MUSIC処理部(到来時刻推定手段)、11 固有値・固有ベクトル計算部、12 雑音固有値判定部、13 MUSICスペクトラム計算部、21 送信信号源、22 信号結合器、23 サーキュレータ、24 送受信アンテナ、25 受信機、26 A/D変換器、27 A/D変換器、28 到来時刻推定装置、31 電波発信機、32 擬似雑音符号発生部、33 送信信号発生部、34 変調部、35 送信アンテナ、41 受信アンテナ、42 受信機、43 到来時刻推定装置、44 擬似雑音符号発生部、45 直接波選択部、46 測位計算部、51 電波発信局、52 信号受信機、53 受信アンテナ、54 受信機、55 A/D変換器、56 発信機弁別部、57 到来時刻推定装置、
58 擬似雑音符号発生部、59 直接波選択部、60 測位計算部、71 GPS衛星、72 GPS受信機、73 受信アンテナ、74 受信機、75 A/D変換器、76 到来時刻推定装置、77 衛星番号選択部、78 擬似雑音符号発生部、79 直接波選択部、80 測位計算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間に周期的に発信された信号を受信する信号受信手段と、上記信号受信手段により受信された信号の時間波形から共分散行列を生成する共分散行列生成手段と、空間に周期的に発信された信号の時間波形から到来時刻と周波数シフト量の関数であるモードベクトルを生成するモードベクトル生成手段と、上記共分散行列生成手段により生成された共分散行列と上記モードベクトル生成手段により生成されたモードベクトルを用いて超分解能処理を実施することにより、上記信号受信手段により受信された信号の到来時刻を推定する到来時刻推定手段とを備えた到来時刻推定装置。
【請求項2】
空間に周期的に発信された信号を受信する信号受信手段と、上記信号受信手段により受信された信号の時間波形から共分散行列を生成する共分散行列生成手段と、空間に周期的に発信された信号と相関関係がある参照信号の時間波形から到来時刻と周波数シフト量の関数であるモードベクトルを生成するモードベクトル生成手段と、上記共分散行列生成手段により生成された共分散行列と上記モードベクトル生成手段により生成されたモードベクトルを用いて超分解能処理を実施することにより、上記信号受信手段により受信された信号の到来時刻を推定する到来時刻推定手段とを備えた到来時刻推定装置。
【請求項3】
到来時刻推定手段は、超分解能処理としてMUSIC処理を実施することを特徴とする請求項1または請求項2記載の到来時刻推定装置。
【請求項4】
到来時刻推定手段は、共分散行列生成手段により生成された共分散行列の固有値と固有ベクトルを計算するとともに、その共分散行列の固有値の中で雑音電力に等しい固有値を特定し、その固有値に対応する固有ベクトルとモードベクトル生成手段により生成されたモードベクトルから到来時刻及び周波数シフト量に関するMUSICスペクトラムを計算し、そのMUSICスペクトラムのピーク位置から信号受信手段により受信された信号の到来時刻を推定することを特徴とする請求項3記載の到来時刻推定装置。
【請求項5】
到来時刻推定手段は、共分散行列の固有値と雑音電力を比較して伝搬経路数を推定することを特徴とする請求項4記載の到来時刻推定装置。
【請求項6】
到来時刻推定手段は、MUSICスペクトラムのピーク位置から信号受信手段により受信された信号の周波数シフト量を推定することを特徴とする請求項4記載の到来時刻推定装置。
【請求項7】
到来時刻推定手段の推定結果を空間に存在する目標を検出する目標検出装置に出力することを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載の到来時刻推定装置。
【請求項8】
到来時刻推定手段の推定結果を信号発信機の位置を測位する発信機位置測位装置に出力することを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載の到来時刻推定装置。
【請求項9】
到来時刻推定手段の推定結果を信号受信機の位置を測位する受信機位置測位装置に出力することを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載の到来時刻推定装置。
【請求項10】
到来時刻推定手段の推定結果を現在位置を測位するGPS受信機に出力することを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載の到来時刻推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−208172(P2006−208172A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20122(P2005−20122)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】