説明

制動力制御装置及びその方法

【課題】停車時に車両に制動力を発生させつつも、車両を円滑に発進させる。
【解決手段】制動力制御装置は、機械的連結により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる電動パーキングブレーキ装置10と、液圧により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる液圧ブレーキ装置40と、自車両の停止中に電動パーキングブレーキ装置10が作動している場合において、自車両が発進すると予測したとき、制動力を、電動パーキングブレーキ装置10によるものから液圧ブレーキ装置40によるものに切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に制動力を発生させる制動力制御装置及びその方法に関し、特に車両の停止及び発進時に動作する制動力制御装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両停止時に車輪に制動力を発生させる装置として電動パーキングブレーキ装置がある(例えば特許文献1参照)。この装置では、いわゆるディスクブレーキ装置等の制動装置を機械的連結により操作して、停車時の車輪の制動力を保持している。
【特許文献1】特開2005−265048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このような電動パーキングブレーキ装置を搭載した車両が発進する際、その機械的連結が原因となり様々な問題が発生する。例えば、電動パーキングブレーキ装置が機械式ブレーキ装置であるところ、その応答時間(制動力リリース時間)が遅いため、ブレーキパッドの引きずりが発生する。ブレーキパッドの引きずりは、車両発進時等に車両駆動力が発生しているのにもかかわらず、ブレーキパッドがディスクロータに接触したままになっていることで発生する。このようなブレーキパッドの引きずりが発生すると、ブレーキパッドが偏磨耗したり、その引きずりトルクにより円滑な発進ができない、等といった問題で発生する。このような問題は、いわゆるドラムブレーキ装置にも同様に発生する。
本発明の課題は、停車時に車両に制動力を発生させつつも、車両を円滑に発進させることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明は、機械的連結により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる機械式ブレーキ手段と、液圧により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる液圧式ブレーキ手段と、を備え、前記機械式ブレーキ手段にて自車両が停止している場合に、自車両発進予測手段が自車両の発進を予測すると、前記制動力を、前記機械式ブレーキ手段によるものから前記液圧式ブレーキ手段によるものに切替手段により切り替える。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、自車両が発進すると予測したとき、車輪の制動力を、機械式ブレーキ手段によるものから液圧式ブレーキ手段によるものに切り替えることで、停車時に自車両に制動力を発生させつつも、発進時には、ブレーキの引き摺りもなく自車両を円滑に発進させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という。)を図面を参照しながら詳細に説明する。
(構成)
本実施形態は、本発明を適用した制動力制御装置を搭載した車両である。車両は、制動装置の駆動装置として、液圧ブレーキ装置と、機械式ブレーキ装置とを有している。
図1は、本実施形態において車両が搭載する主な構成を示す。図1に示すように、車両は、レーダ1、路車間通信部2、ECU(Electronic ControlUnit)3、機械式ブレーキ装置としての電動パーキングブレーキ装置10及び液圧ブレーキ装置40を備える。
【0007】
レーダ1は、前方障害物を検出するためのものである。例えば、レーダ1は、レーザレーダである。レーダ1は、検出結果をECU3に出力する。路車間通信部2は、路側機とで路車間通信により情報のやりとりをするためのものである。路車間通信部2は、路側機側から受信した情報をECU3に出力する。ECU3は、これらレーダ1及び路車間通信部2からの各種情報を基に、電動パーキングブレーキ装置10及び液圧ブレーキ装置40を制御する。
【0008】
図2は、電動パーキングブレーキ装置10の構成例を示す。図2に示すように、電動パーキングブレーキ装置10は、一端側がパーキングブレーキ11に接続されたケーブル(以下、PKBケーブルという。)12を、電動にて他端側から引き込むことにより摩擦材を動作させて後輪4,5に制動力を付与するものである。
電動パーキングブレーキ装置10は、パーキングブレーキ11、PKBケーブル12、ECU13、アクチュエータ14、イコライザ15、電源部16及びヒューズ17を備える。例えば、演算手段及び記憶手段によりECU13を構成する。また、例えば、ECU13とアクチュエータ14とでコントロールユニットを構成する。また、図2に示すECU13は、図1に示すECU3でも良い。この場合、図1に示すECU3が、図2に示すECU13として電動パーキングブレーキ装置10について各種制御を行う。また、図2に示すECU13は、図1に示すECU3とは別のものでも良い。この場合、図1に示すECU3と図2に示すECU13とが相互通信により適宜信号のやりとりをする。
【0009】
ECU13は、アクチュエータ14を制御する。アクチュエータ14は、ECU13の制御内容に応じて、イコライザ15及びPKBケーブル12を介して、後輪4,5側に設けたパーキングブレーキ11を解除及び作動させる。ECU13とアクチュエータ14とは、電源部16に接続されている。電源部16は、ヒューズ17を介してECU13とアクチュエータ14とに電圧を供給する。具体的には、電源部16は、第1端子18aから第1ヒューズ17a介してECU13に電圧を供給し、第2端子18bから第2ヒューズ17b介してアクチュエータ14に電圧を供給する。
【0010】
アクチュエータ14は、モータと減速機とを備える。図3は、ECU13及びアクチュエータ14の構成例を示す。同図に示すように、ハウジング21にECU13及びアクチュエータ14を収納している。ECU13は、ハウジング21に収納されたモータ22を正転駆動又は逆転駆動させる。モータ22に減速機23を接続している。減速機23は、駆動ギヤ24、ガイドシャフト25、第1従動ギヤ26、駆動シャフト27及び第2従動ギヤ28から構成される。
【0011】
駆動ギヤ24は、モータ22に接続されている。駆動ギヤ24は、モータ22からの回転力を、ガイドシャフト25により軸支される第1従動ギヤ26に伝える。第1従動ギヤ26は、駆動シャフト27により軸支される第2従動ギヤ28に接続されている。第1従動ギヤ26は、自己の回転力を第2従動ギヤ28に伝達する。駆動シャフト27は、ねじ切り加工されており、ねじ切り部と噛み合うように駆動ナット29が取り付けられた状態になっている。このため、駆動ナット29は、第2従動ギヤ28が回転すると駆動シャフト27の延在方向に沿って移動することとなる。また、駆動ナット29には、ケーシング30を連結している。このため、ケーシング30は、駆動ナット29の移動に合わせて駆動シャフト27の長手方向に移動する。このケーシング30にPKBケーブル12の他端側を取り付けている。
【0012】
このように構成されるため、ECU13は、モータ22を正転駆動又は逆転駆動させ、各ギヤ24,26,28を通して駆動シャフト27を回転させることとなる。そして、ECU13は、駆動シャフト27の回転により駆動ナット29を移動させる。これにより、ECU13は、ケーシング30を駆動シャフト27の延在方向に移動させてPKBケーブル12を他端側から引き込み又は繰り出しすることとなる。そして、この引き込み又は繰り出しによって、パーキングブレーキ11は、解除又は作動することとなる。これにより、車輪4,5の制動装置をなすディスクブレーキ装置において、ディスクロータ4a,5aに対し、パッド4b,5bの押し付けの解除又はその押し付けがなされ、制動力が制御される。
【0013】
なお、ECU13は、減速機回転センサを備え、減速機回転センサにて検出した減速機23の回転数等から、PKBケーブル12の他端側の引き込み量を算出することもできる。すなわち、ECU13は、検出された減速機23の回転数と駆動シャフト27のねじピッチとを基に、ケーシング30の移動量を求めることにより、PKBケーブル12の他端側の引き込み量を算出することもできる。また、減速機回転センサからの信号によらず、モータ22の回転数と減速比から減速機23の回転数を算出することもできる。
以上のように、電動パーキングブレーキ装置10は、アクチュエータ14を制御することで、PKBケーブル12等による機械的連結により制動力を制御することができる。
【0014】
図4は、液圧ブレーキ装置40の構成例を示す。同図において、41はブレーキペダル、42はブースタ、43はリザーバ、44はマスターシリンダ、45,46はプランジャ、47は切り換え弁、48はアキュムレータ、49はポンプ、92はリザーバである。リザーバ43とリザーバ92とは同じものでも良い。50,70は、アンチスキッド用のアキュムレータと同様のアキュムレータであり、60,80は、アンチスキッド用のリザーバタンクと同様のリザーバタンクである。93,94はポンプであり、49のポンプと同一のものでも良い。51,61,71,81は電磁弁(液圧調整器)、52,62,72,82はキャリパ、53,63,73,83はディスクロータであり、それぞれ4輪分である。
【0015】
ECU91は、圧力切り換え弁47及び液圧調整器51,61,71,81を適宜制御して、ブレーキ制御を実施する。すなわち、ECU91は、ブレーキ液圧を発生、又は増圧させる場合、圧力切り換え弁47をONにする。圧力切り換え弁47は常閉の切り換え弁であり、ON状態で開弁する。これにより、アキュムレータ48内の油圧がプランジャ45,46に作用して、該プランジャ45,46内の圧液を液圧調整器51,61,71,81側に送る。そして、ECU91は、液圧調整器51,61,71,81のソレノイドに電流を供給して、ブレーキ液圧制御を行う。すなわち、ECU91は、液圧調整器51,61,71,81を所定の弁位置(例えば同図左側位置)にすることで、プランジャ45,46からブレーキのキャリパ52,62,72,82に圧液を送る。これにより、ブレーキ液圧を発生、又は増圧させる。これにより、走行中であれば、車両は減速する。また、液圧調整器51,61,71,81の弁位置を中立位置にすることで液路を遮断し、そのときのブレーキ圧を一定に保持する。これにより、停車中であれば、車両はその停車状態が維持される。
【0016】
また、ECU91は、液圧調整器51,61,71,81を所定の弁位置(例えば同図右側位置)にすることで、ブレーキ液をリザーバタンク60,80側に戻す。これにより、ブレーキ液圧を解除(減圧)する。これにより、停車中であれば、車両は発進可能になる。なお、リザーバタンク60,80の圧液は、ポンプ93,94により、リザーバタンク43に戻される。
【0017】
なお、ECU91は、図1に示すECU3でも良い。この場合、図1に示すECU3が、図4に示すECU91として液圧ブレーキ装置40について各種制御を行う。また、図4に示すECU91は、図1に示すECU3とは別のものでも良い。この場合、図1に示すECU3と図4に示すECU91とが相互通信により適宜信号のやりとりをする。
以上のように、液圧ブレーキ装置40は、圧力切り換え弁47及び液圧調整器51,61,71,81の開弁状態を制御することで、ブレーキ液圧を制御し、制動力を制御することができる。
【0018】
次に、本実施形態において、図1に示すECU3が実施する処理を説明する。図5はその処理手順を示す。
同図に示すように、処理を開始すると、先ずステップS1において、運転者等による電動パーキングブレーキ装置10の作動操作があるか否かを判定する。電動パーキングブレーキ装置10の作動操作があった場合、ステップS2に進む。なお、このステップS1において、自車両の停止状態も判定することもできる。この場合、自車両が停止状態であることの条件も満たす場合、ステップS2に進むようする。
【0019】
続いてステップS2において、電動パーキングブレーキ装置10を制御して、パーキングブレーキ11を作動させる。例えば、ECU3は、電動パーキングブレーキ装置10のECU13に駆動制御信号を出力して、パーキングブレーキ11を作動させる。
続いてステップS3において、前方車両の有無を判定する。具体的には、レーダ1の検出結果を基に、前方車両(自車両前方の停止車両)の有無を判定する。ここで、前方車両が存在する場合、ステップS4に進む。また、前方車両が存在しない場合、ステップS10に進む。
【0020】
ステップS4では、前記ステップS3で検出した前方車両との車間距離を記憶する。続いてステップS5において、その車間距離が所定のしきい値よりも大きいか否かを判定する。所定のしきい値は、例えば自車両との関係で前方車両が発進したと推定できる値である。例えば、所定のしきい値は、前記ステップS3で記憶した車間距離に所定の距離を加算した値である。このステップS5において、車間距離が所定のしきい値よりも大きいと判定した場合、ステップS6に進む。また、車間距離が所定のしきい値以下であると判定した場合、前記ステップS2から再び処理を開始する。すなわち、パーキングブレーキ11の作動状態を維持しつつ(前記ステップS2)、再び前方車両の有無の判定処理等(前記ステップS3等)を実施する。
【0021】
ステップS6では、液圧ブレーキ装置40を制御して、液圧ブレーキを作動させる。例えば、ECU3は、液圧ブレーキ装置40のECU91に駆動制御信号を出力する。これにより、液圧ブレーキ装置40は、ブレーキのキャリパ52,62,72,82に圧液を送り、ブレーキ液圧を発生させる。また、このとき、電動パーキングブレーキ装置10を制御して、パーキングブレーキ11の作動状態を停止(解除)する。すなわち、ステップS6では、車両停止時の制動力を、パーキングブレーキ11によるものから液圧ブレーキによるものに切り替える。
【0022】
続いてステップS7において、自車両が加速(発進)したか否かを判定する。例えば、運転者によるアクセルペダル操作やスロットル開度、車輪速度等の情報を基に、自車両が加速したか否かを判定する。ここで、自車両が加速したと判定した場合、ステップS8に進む。また、自車両が加速していない、すなわち停車中であると判定した場合、ステップS9に進む。
【0023】
ステップS8では、液圧ブレーキ装置40を制御して、液圧ブレーキ制御を終了する。すなわち、ブレーキ液をリザーバタンク60,80側に戻し、ブレーキ液圧を解除(減圧)する。そして、該図5に示す処理を終了する。
ステップS9では、液圧ブレーキの作動後に所定時間経過したか否かを判定する。ここで、所定時間とは、例えば運転者が自車両を発進させる意思がないと推定できる時間である。このステップS9において、液圧ブレーキの作動後に所定時間経過したと判定した場合、前記ステップS2から再び処理を開始する。すなわち、車両停止時の制動力を、液圧ブレーキによるものからパーキングブレーキ11によるものに切り替える。また、液圧ブレーキの作動後に所定時間経過していないと判定した場合、前記ステップS6から再び処理を開始する。すなわち、液圧ブレーキの作動状態を維持しつつ(前記ステップS6)、再び加速判定の処理(前記ステップS7)を実施する。
【0024】
一方、前記ステップS3にて前方車両が存在しないと判定した場合に進むステップS10では、路車間通信が可能か否かを判定する。具体的には、路車間通信部2の通信状態を基に、路車間通信が可能か否かを判定する。ここで、路車間通信が可能(通信状態にある)と判定した場合、ステップS11に進む。また、路車間通信が不可能(通信状態にない)と判定した場合、前記ステップS2から再び処理を開始する。すなわち、パーキングブレーキ11の作動状態を維持しつつ(前記ステップS2)、再び前方車両の有無の判定処理等(前記ステップS3等)を実施する。
【0025】
ステップS11では、路車間通信部2から信号機の切り替わり信号が受信可能か否かを判定する。ここで、信号機の切り替わり信号を受信できる場合、ステップS12に進む。また、信号機の切り替わり信号を受信できない場合、前記ステップS2から再び処理を開始する。
ステップS12では、信号機の切り替わり信号を基に、信号機(自車両が停車する交差点の信号機)が赤から青に切り替わるか否かを判定する。例えば、赤から青に切り替わった直後のものを判定することもできるが、赤から青に間もなく切り替わるか否かを判定しても良い。ここで、信号機が赤から青に切り替わる場合、前記ステップS6に進む。すなわち、車両停止時の制動力を、パーキングブレーキ11によるものから液圧ブレーキによるものに切り替える。また、信号機が赤から青に切り替わらない場合、前記ステップS2から再び処理を開始する。
【0026】
(動作及び作用)
動作及び作用は次のようになる。
交差点で自車両が停車し、パーキングブレーキの作動操作がなされた場合、パーキングブレーキ11が作動する(前記ステップS1、ステップS2)。そして、前方車両が存在する場合には、その車間距離が所定のしきい値以下である限り、パーキングブレーキ11の作動状態を維持する(前記ステップS3〜ステップS5→ステップS2)。その後、車間距離が所定のしきい値よりも大きくなった場合、パーキングブレーキ11に替えて液圧ブレーキを作動させる(前記ステップS3〜ステップS6)。すなわち、交差点で停車していた前方車両が発進したと推定し、パーキングブレーキ11に替えて液圧ブレーキを作動させる。そして、自車両が加速(発進)した場合、液圧ブレーキを終了する(前記ステップS7〜ステップS8)。また、車間距離が所定のしきい値よりも大きくなり、液圧ブレーキを作動させたが、自車両が加速(発進)することなく、所定時間経過した場合、車両停止時の制動力を、液圧ブレーキによるものからパーキングブレーキ11によるものに切り替える(前記ステップS5〜ステップS7→ステップS9→ステップS2)。
【0027】
また、パーキングブレーキの作動操作がなされたことで、パーキングブレーキ11を作動させた後(前記ステップS1、ステップS2)、前方車両が存在しない場合には、路車間通信により信号機が赤から青に切り替わる情報を得たとき、パーキングブレーキ11に替えて液圧ブレーキを作動させる(前記ステップS3→ステップS10〜ステップS12→ステップS6)。なお、前方車両が存在しないシーンとして、自車両が交差点で先頭車両として停止しているようなシーンが想定される。そして、前方車両が存在していた場合にしたのと同様に、自車両の加速(発進)に応じて、液圧ブレーキを終了させたり(前記ステップS7〜ステップS8)、車両停止時の制動力を、液圧ブレーキによるものからパーキングブレーキ11によるものに切り替えたりする(前記ステップS7→ステップS9→ステップS2)。また、路車間通信ができない場合や信号機の切り替わり信号を受信できない場合、パーキングブレーキ11の作動状態を維持する(前記ステップS10→ステップS2、ステップS11→ステップS2)。
【0028】
図6は、制動力及び駆動力(同図(a))、ブレーキ切替信号(同図(b))、信号機の切り替わり信号(同図(c))並びにアクセルペダル操作状態(同図(d))の関係の一例を示すタイムチャートである。
自車両が停車中で機械式ブレーキ(電動パーキングブレーキ装置10)により制動力が発生している場合に、信号機の切り替わり信号が赤から青に変化したとき(同図(c))、制動力を、機械式ブレーキによるものから液圧ブレーキによるものに切り替える(同図(a))。例えば、切替信号により切り替える(同図(b))。なお、ここでは、信号機の切り替わり信号を基に制動力の切り替えを行っているが、前述の実施形態で説明したように、前方車両が存在する場合に、その車間距離を基に、切り替えを行うこともできる。その後、アクセルペダルが操作された場合(ONになった場合、同図(d))、液圧ブレーキを終了する(同図(a)(b))。
【0029】
図7は、前記図6との対比で示す従来例の結果を示す。図7に示すように、自車両が停車中に機械式ブレーキにより制動力が発生している場合に、自車両の発進(アクセルペダルがONになった)と同時に機械式ブレーキを終了したとしても、制動力は緩やかに変化する。すなわち、機械式ブレーキの応答時間(制動力リリース時間)が遅いため、ブレーキパッドの引きずりが発生し、制動力が緩やかに変化する。このように制動力が緩やかに変化すると、自車両の加速性が悪化する(車両駆動力の増加の妨げになる)だけでなく、制動力が減少し、制動力が小さくなったときに、自車両に加速ショックが発生する。これでは、運転者に違和感を与えてしまう。
【0030】
これに対して、本実施形態では、図6(a)に示すように、アクセルペダルの操作前は、制動力を液圧ブレーキにより発生させており、アクセルペダルが操作された時、液圧ブレーキを終了している。このとき、制動力は減少するが、液圧ブレーキの応答性が機械式ブレーキの応答性よりも優れているため、その制動力は短時間で零に達するようになる。また、発進時の加速ショックも改善される。例えば、制動力が短時間で零に達するために、運転者からみて加速ショックが無視できる程度の大きさのものとして発生する。
【0031】
なお、この実施形態を次のような構成により実現することもできる。
すなわち、この実施形態では、前方車両や信号機の状態を基に、制動力を、電動パーキングブレーキ装置10によるものから液圧ブレーキ装置40によるものに切り替えている場合を説明した。これに対して、他の自車両の周囲の情報を基に、制動力を、電動パーキングブレーキ装置10によるものから液圧ブレーキ装置40によるものに切り替えることもできる。例えば、車車間通信により前方車両についての情報を取得したり、ナビゲーションシステムから情報を取得したりすることもできる。
また、この実施形態では、制動装置がディスクブレーキ装置である場合を説明した。これに対して、制動装置をドラムブレーキ装置で構成することもできる。この場合でも、ディスクブレーキ装置の場合と同様な効果を得ることができる。
【0032】
なお、この実施形態において、電動パーキングブレーキ装置10は、機械的連結により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる機械式ブレーキ手段を実現している。また、液圧ブレーキ装置40は、液圧により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる液圧式ブレーキ手段を実現している。また、ECU3のステップS5やステップS12の処理は、自車両の発進を予測する自車両発進予測手段を実現している。また、ECU3のステップS6の処理は、前記機械式ブレーキ手段にて自車両が停止している場合に、前記自車両発進予測手段が自車両の発進を予測すると、前記制動力を、前記機械式ブレーキ手段によるものから前記液圧式ブレーキ手段によるものに切り替える切替手段を実現している。また、この実施形態において、レーダ1や路車間通信部2は、自車両の周囲の情報を取得する車両周囲情報取得手段を構成している。
【0033】
また、この実施形態では、停止中の自車両が発進する可能性が高い場合、車輪の制動力を、機械的連結により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる機械式ブレーキ手段によるものから、液圧により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる液圧式ブレーキ手段よるものに切り替え、自車両の発進時に前記液圧式ブレーキ手段による制動装置の動作を終了する制動力制御方法を実現している。
【0034】
(効果)
本実施形態における効果は次のようになる。
(1)電動パーキングブレーキ装置10にて自車両が停止している場合に、自車両の発進を予測すると、制動力を、電動パーキングブレーキ装置10によるものから液圧ブレーキ装置40によるものに切り替えている。ここで、自車両が発進すると予測したときとは、前方車両との車間距離が所定のしきい値よりも大きくなったときや信号機の信号が赤から青に切り替わったときである。
【0035】
これにより、自車両が発進すると予測したとき、車輪の制動力を、電動パーキングブレーキ装置10によるものから液圧ブレーキ装置40によるものに切り替えることができ、停車時に自車両に制動力を発生させつつも、発進時には、ブレーキの引き摺りもなく自車両を円滑に発進させることができる。これにより、ブレーキパッド等の制動装置の摺動部材が偏磨耗するのを防止できる。また、自車両が発進すると予測したとき、すなわち自車両の発進直前に車輪の制動力を液圧ブレーキ装置40によるものに切り替えるので、液圧ブレーキ装置40を構成する液圧調整器51,61,71,81(電磁弁)等の構成部材の負荷を少なくすることができる。
【0036】
(2)レーダ1や路車間通信部2が取得した自車両の周囲の情報を基に、自車両の発進を予測している。これにより、自車両の周囲の情報により、高い精度で自車両の発進を予測できる。
(3)前方車両との車間距離が所定のしきい値よりも大きくなった場合、前方車両が発進したとして、自車両が発進すると予測している。これにより、簡単な構成で自車両の発進を予測できる。
(4)路車間通信及び車車間通信の少なくとも何れかにより取得した情報を基に、自車両の発進を予測している。これにより、簡単な構成で自車両の発進を予測できる。
【0037】
(5)制動力を電動パーキングブレーキ装置10によるものから液圧ブレーキ装置40によるものに切り替えた後、自車両の停止状態が所定時間経過した場合、再び制動力を液圧ブレーキ装置40によるものから電動パーキングブレーキ装置10によるものに戻している。これにより、前方車両の停車とは関係なく自車両が停車していたり、自車両が交差点の状況とは関係なく停車していたりする場合に、液圧ブレーキ装置40を作動させて制動力を維持することができる。この結果、液圧ブレーキ装置40を構成する液圧調整器51,61,71,81(電磁弁)等の構成部材の負荷を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態において車両が搭載する主な構成を示す。
【図2】電動パーキングブレーキ装置の構成例を示す図である。
【図3】電動パーキングブレーキ装置のECU及びアクチュエータの構成例を示す図である。
【図4】液圧ブレーキ装置の構成例を示す図である。
【図5】ECU3の処理内容を示すフローチャートである。
【図6】制動力及び駆動力(同図(a))、ブレーキ切替信号(同図(b))、信号機の切り替わり信号(同図(c))並びにアクセルペダル操作状態(同図(d))の関係の一例を示すタイムチャートである。
【図7】図6との対比で示す従来例の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 レーダ、2 路車間通信部、3 ECU、10 電動パーキングブレーキ装置、40 液圧ブレーキ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的連結により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる機械式ブレーキ手段と、
液圧により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる液圧式ブレーキ手段と、
自車両の発進を予測する自車両発進予測手段と、
前記機械式ブレーキ手段にて自車両が停止している場合に、前記自車両発進予測手段が自車両の発進を予測すると、前記制動力を、前記機械式ブレーキ手段によるものから前記液圧式ブレーキ手段によるものに切り替える切替手段と、
を備えることを特徴とする制動力制御装置。
【請求項2】
自車両の周囲の情報を取得する車両周囲情報取得手段を備え、
前記自車両発進予測手段は、前記車両周囲情報取得手段が取得した自車両の周囲の情報を基に、自車両の発進を予測することを特徴とする請求項1に記載の制動力制御装置。
【請求項3】
自車両前方で停止する前方車両を検出する前方車両検出手段を備え、
前記自車両発進予測手段は、前記前方車両検出手段が検出した前方車両が発進した場合、自車両が発進すると予測することを特徴とする請求項1又は2に記載の制動力制御装置。
【請求項4】
路車間通信及び車車間通信の少なくとも何れかにより情報を取得する通信手段を備え、
前記自車両発進予測手段は、前記通信手段が取得した情報を基に、自車両の発進を予測することを特徴とする請求項1又は2に記載の制動力制御装置。
【請求項5】
前記切替手段は、前記制動力を機械式ブレーキ手段によるものから前記液圧式ブレーキ手段によるものに切り替えた後、自車両の停止状態が所定時間経過した場合、前記制動力を前記液圧式ブレーキ手段によるものから機械式ブレーキ手段によるものに切り替えることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の制動力制御装置。
【請求項6】
停止中の自車両が発進する可能性が高い場合、車輪の制動力を、機械的連結により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる機械式ブレーキ手段によるものから、液圧により制動装置を動作させて車輪に制動力を発生させる液圧式ブレーキ手段よるものに切り替え、自車両の発進時に前記液圧式ブレーキ手段による制動装置の動作を終了することを特徴とする制動力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−214741(P2009−214741A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61416(P2008−61416)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】