説明

制御された分子量を有するブロモスチレンの改良されたポリマー

スチレンの制御された分子量のポリマーが、その上に置換された臭素を有して提供される。分子量の制御は、連鎖移動剤としてのα−メチルスチレンダイマーの使用によって達成される。スチレンの臭素化されたポリマーは、難燃剤として有用であり、特にポリアミドに対して、成形後の色度保持を含む改良された性質を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、「制御された分子量のブロモスチレン(CONTROLLED MOLECULAR WEIGHT BROMOSTYRENES)」という名称の2004年9月30日に出願された米国特許仮出願第60/615132号の優先権を主張するものである。
【0002】
新規なブロモスチレンモノマーのホモポリマー及びコポリマーを、分子量を制御するためにα−メチルスチレンダイマー(MSD)を連鎖移動剤として使用して調製する。これらの材料を含有している高温ポリアミド(HTPA)製品は、MSD連鎖移動剤を使用せずに調製された材料と比較して、高温条件において成形された後に優れた色度保持を提供する。
【背景技術】
【0003】
ブロモスチレンポリマーは、さまざまなプラスチックに対する難燃剤として知られているが、特にポリアミドファミリーにおいてその顕著な熱安定性の故に用途を見出してきた。Great Lakes Chemical Corporationから市販されているホモポリマー及びモノ、ジ、トリブロモスチレン混合物の官能化コポリマーは、HTPAに対しては最適の製品である。HTPA中のブロモスチレンホモポリマーの使用は、多数の特許及び公開公報に記載されており、HTPA中の官能化ブロモスチレン−グリシジル(メタ)アクリレートコポリマーは、DupontのMartensらの国際公開第02/24812号及びクラレのMatsuoka及びSasakiの米国特許第6414064 B1号に開示されている。
【0004】
ブロモスチレンポリマーが配合されているHTPAは、メルトフローの悪化が難点である。ブロモスチレンポリマーに対する分子量制御を改善すると、難燃化されたHTPA組成物のメルトフローが高められ、これによって難燃性を犠牲にすることなく加工性が向上する。Great Lakes Chemical Corp.のAtwellらの米国特許第5304618号で教示されているように、ポリブロモスチレンの分子量は、通常、重合中に添加される連鎖移動剤として1−ドデカンチオールを使用して調節されてきた。一時期、約60重量%の臭素及び約8,000の重量平均分子量(Mw)を有するモノ、ジ、トリブロモスチレン混合物のホモポリマーが、Great Lakes Chemical Corp.から市販されていた。これは、「PDBS−10」としてカタログに収載されており、ポリエステル及びポリアミドの分野に販売されていた。この低分子量/高メルトフローポリマーは、チオールの連鎖移動剤を使用することによって製造された。
【0005】
スチレン系のフリーラジカル重合用分子量調節剤としての、α−メチルスチレンダイマーの使用は知られている。たとえば、日立化成のSuzukiらの米国特許第5559200号を参照されたい。さらに、上記PDBS−10の市場導入後何年も経ったある時点で、東ソーのHorie及びKagawaらの特開08−188622号は、1,000〜10,000の分子量を有するブロモスチレンのポリマーが、相溶性、流動性、熱変色耐性及び電気的性質を向上させたと再度記載した。この出願は、これらの利点が、10,000未満の分子量を得るために連鎖移動剤の存在下でブロモスチレンを溶液重合させることによって、実現することができることを指摘している。この公報は、MSDが連鎖移動剤として使用できることは開示しているが、MSDを使用することにおいて、記載されているアルキルメルカプタン(チオール)やアルキルハライドを超える、何らかの特別な利点が得られるとは指摘していない。さらに、この出願は、10.000を超える分子量を有するブロモスチレンのポリマーを製造するために、MSDを使用することが望ましいことも教示していない。
【0006】
公知のブロモスチレンポリマーは、高温ポリマー(high temperature polymers)に対する難燃剤として働くが、高温ポリマー、特にHTPAの加工性を向上させるポリマー難燃剤の必要性が今でもある。開示されたブロモスチレンから見出された1つの利点は、長時間、高温において加工される場合のこの組成物の変色が少ないことである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの目的は、以下の一般的構造
【化1】


[式中、Rは、H又はCHであり、xは、1〜5の整数である。]を有するar−ブロモスチレンモノマーのポリマーを提供することである。好ましくは、Xは、平均で2以上である。Xが5に近づくにつれて、臭素化の時間は長くなる。Xの平均値は、2.5〜3.5が有用であることが分かっている。本明細書において使用する接頭辞「ar−」は、芳香環上で置換されていることを意味する。さらに、これらのポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定し、ポリスチレン標準物質と比較して割り付けられた重量平均分子量(Mw)約11,000〜約60,000を有している。また、このポリマーは、さらにα−メチルスチレンダイマーの残留物(residues;残基)を含んでいてもよい。
【0008】
本発明の他の1つの目的は、MSDの存在下でスチレンを重合させ、続いて臭素化することによって、ブロモスチレンポリマーを提供することである。
【0009】
本発明の他の1つの目的は、連鎖移動剤としてα−メチルスチレンダイマーを使用し、基本的に溶媒を使用しないブロモスチレンポリマーの分子量を制御する方法を提供することである。
【0010】
他の1つの目的は、α−メチルスチレンダイマーの残留物を含有しているブロモスチレンポリマーを含む、改良された高温難燃性ポリアミド組成物を提供することである。
【0011】
(発明の詳細な説明)
本発明のポリマーは、RがH又はCHであり、xが1〜5の整数である式Iの構造を有するar−ブロモスチレンの単位又はα−メチルブロモスチレンの単位を含む。好ましくは、この単位は1分子当たり2〜4個の臭素原子を含有しているar−ブロモスチレンであり、最も好ましくは、このポリマーは1分子当たりの平均で約3個の臭素原子を有するar−ブロモスチレンの混合物から形成される。
【0012】
ポリマーは、芳香環が臭素化されているモノマーの重合から得ることが最も好ましいが、α−メチルスチレンダイマーを連鎖移動剤として使用して調製した低分子量のポリスチレンを、後から臭素化することによって作ることもできる。単純なポリスチレンの臭素化の方法は、難燃剤業界では周知である。
【0013】
本発明のポリマーは、ar−ブロモスチレンの他により少ない数の単位を含有していてもよい。これらの単位は、ar−ブロモスチレンと共重合することができる任意の他の分子であってよく、難燃剤ポリマーと燃焼性を低下させる必要がある特定のベース樹脂との相溶性を変更するために含有すると、好都合であることがある。そういう可能性のある官能性コモノマーの例には、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、無水マレイン酸、ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリル酸、ar−アミノ置換スチレン、スチレンスルホン酸及びその塩が含まれるが、これらだけには限定されない。
【0014】
ブロモスチレンと難燃性を与えるべきポリマーマトリックスとの相溶性を高めるためにコモノマーの添加を望む場合は、相溶性の所望の向上をもたらすためにはコモノマーの十分な量を加えることが好ましいが、組成物中の臭素の量を顕著に希釈するほど多くてはいけない。コモノマーは、使用するブロモスチレンの量に対して少なくとも約0.110モル%であるが10%以下である場合に相溶性を向上させると考えられており、少なくとも約0.5モル%であるが約5モル%以下のコモノマー量がより好ましい。
【0015】
官能性コモノマーを含めることに加えて、最終製品の特性を修正するために、ブロモスチレンを他のモノマーと共重合させることも可能である。その可能性のある無官能性コモノマーの一部の例には、スチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ジビニルベンゼン、イソプレン、n−ブチルアクリレート、α−メチルスチレン、及びp−メチルスチレンが含まれる。
【0016】
得られるコポリマーは、使用するブロモスチレンの選択により強く依存するが、好ましくは少なくとも約50重量%であるが80重量%以下の臭素、より好ましくは少なくとも約55重量%であるが75重量%以下の臭素、最も好ましくは少なくとも約60重量%であるが約70重量%以下の臭素を含んでいなければならない。
【0017】
ブロモスチレンポリマーは、組成物全体に向上した流動性を持たせるために中乃至低分子量であるのが好ましい。この開示の目的では、分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定してポリスチレン標準物質と比較した重量平均分子量(Mw)に関して規定される。これは、ポリ(ブロモスチレン)又はブロモポリスチレンの所与のサンプルに対して、同一のGPC保持時間を有する既知のポリスチレン標準物質の分子量を割り付けることを意味する。これは、ポリ(ブロモスチレン)とポリスチレン標準物質の平均鎖長はほぼ同じであるが、これは臭素原子による質量への寄与を考慮していないことを示すと考えられているので、真の分子量は、さらに環1つ当たりの平均の臭素原子数に基づいた計算を必要とする。本発明のブロモスチレンポリマーの割り付けられた分子量は、好ましくは少なくとも約11,000であるが約80,000以下である。より好ましくは、分子量は約13,000から約60,000の範囲である。最も好ましくは、ブロモスチレンポリマーは、約15,000から約20,000の割り付けられた分子量を有する。
【0018】
本発明は、フリーラジカル重合の間にブロモスチレンポリマーの分子量を制御するために、α−メチルスチレンダイマーを有利に使用する。出願人は、先行技術のメルカプタンや脂肪族ハライドの連鎖移動剤からは得られない、α−メチルスチレンダイマーの使用において生じる有利な性質を見出した。α−メチルスチレンは、成形中の向上した安定性をもたらした。いかなる理論にも拘束されたくはないが、ヘテロ原子(たとえば、イオウ、ハロゲン、酸素)を含有している連鎖移動剤の使用は、得られるポリマー系の熱安定性を下げる傾向があるようである。置換されたMSD型の製品、トルエン、及び当業において知られている他のものなどの、他の炭化水素物質も使用することができる。MSDは、他のものと比較して効率が高いので好ましい。
【0019】
市販のα−メチルスチレンダイマーは、単一の純粋物質ではないことがある。DupontのGridnevの米国特許第6388153B2号は、少なくとも2つの主な存在しうる異性体があることを教示している。構造式II及びIIIを参照されたい。第6388153号特許によれば、「外部」二重結合を有する構造式IIIの異性体が、分子量改良剤として最も良好に機能するものである。異性体の混合物は本発明の目的を提供しうるが、構造式IIIの異性体の濃度がなるべく高いダイマーを使用することが好ましい。
【化2】


第6388153号特許は、芳香環がさまざまな反応性官能基で置換されていてもよいことを教示している。これは、ブロモスチレン重合における連鎖移動剤として使用されるときには大いに望ましいことがある。ポリ(ブロモスチレン)ホモポリマーは、ほとんどのプラスチックとの相溶性が良くない。
【0020】
成形されたHTPAの走査型電子顕微鏡写真は、均質なブレンドではなく、HTPAのマトリックス中にブロモスチレンの不連続な球又は小球のように見えるものを示している。HTPAメルト中では明らかなブロモスチレンの完全な分散にもかかわらず、冷却された成形物の電子顕微鏡写真上では明らかなこの分離が現れる。ブロモスチレンポリマーに先に記載した官能性コモノマーを導入することによって反応性又は相溶化性の極性基を加えると、ホモポリマーと比較して、顕微鏡写真中における2相の出現を減らすことが教示されている。
【0021】
Watanabeらによって教示されたように(「2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン存在下のフリーラジカルスチレン重合における付加開裂連鎖移動(Addition−Fragmentation Chain Transfer in Free Radical Styrene Polymerization in the Presence of 2,4−diphenyl−4−methyl−1−pentene)」、Chemistry Letters(Japan)、1992年、1089〜1092頁)、α−メチルスチレンダイマー連鎖移動剤の残留物は、ポリマー組成物の一部となるのである。したがって、選択的に誘導体化されたα−メチルスチレンダイマーを使用する場合は、多くのブロモスチレン鎖の末端に存在する可能性のあるダイマー残留物が、環に結合している反応性又は極性の相溶化性の基を持っている可能性があり、これが、ブロモスチレンポリマーの、難燃性を必要としているマトリックスポリマーとの相溶性を向上させると考えられている。たとえば、第6388153号特許は、α−メチルスチレンダイマーの両方の環が、1つ又は複数の−NH又はN=C=O基を含有していることがあると述べている。これらの基はいずれも、ポリエステル及びポリアミドなどの極性マトリックスポリマーとの相溶性を向上させると考えることが期待される。環が極性を有するポリマーと相溶性の他の極性基を持っている場合にも、相溶性が向上すると考えることができる。そのような、MSDの芳香環に結合する可能性のある、極性置換基の例には、アミン、カルボン酸及びその塩、アミド、エステル、並びにエポキシドが含まれる。
【0022】
本発明のブロモスチレンポリマーは、当業において知られているフリーラジカル法を使用して調製することができる。重合は、バッチ方式、半連続方式、又は連続方式で行うことができる。反応は、溶媒の存在下で、又は、前述の米国特許第5304618号に記載されているように、基本的に無溶媒系で行うことができる。迅速性及び経済性を目的とする場合は、無溶媒法が好ましい。反応を加速し、残留モノマーを少なくするためには、ペルオキシ及びアゾ化合物などの一般的なラジカル開始剤をどれでも使用することができるが、熱による開始及び重合も可能である。(フリーラジカル開始剤の総説は、「ポリマー科学技術事典(The Encyclopedia of Polymer Science and Technology)」、3版、6巻、563〜600頁)、で見ることができる。)経済性及び効率のためには、反応は、溶媒を使用しない連続方式で、フリーラジカル開始剤の存在下で行うことが好ましく、このような方法は米国特許第5304618号で教示されている。
【0023】
制御された分子量を有するブロモスチレンポリマーは、どの熱可塑性ポリマーに対する難燃剤としても有用であるが、特にポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂中における使用に適している。最も好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートである。ポリアミド6及びポリアミド66を含めて、どのポリアミドでもマトリックス樹脂として使用することができるが、約280℃を超える溶融温度を有するポリアミドが、特にこの新規のブロモスチレンポリマーの安定性から恩恵を受ける。そのような高温ポリアミド(high temperature polyamides)は、三井石油化学工業のSasakiらの米国特許第5115010号に記載されている。そのようなポリマー組成の例には、ポリアミド4,6、ポリアミド4,8、ポリアミド4,9、ポリアミド4,10、ポリアミド4,11、ポリアミド4,12、ポリアミド4,13、ポリアミド4,14及びポリアミド6,6/6,T、ポリアミド4,6/4,T/4,I、ポリアミド9,T、ポリアミド12,Tなどの半芳香族ポリアミドが含まれる。
【0024】
最終ポリマー組成物中には他の添加物が存在してもよい。これらには、充填剤、ガラス繊維などの強化材、着色料、ヒドロタルサイトなどの安定剤、流動性向上剤及びアンチモニー化合物及びホウ酸亜鉛などの難燃助剤が含まれてよい。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
チオールを使用して相溶化されたコポリマー
比較的少量のポリマーの調製を簡単にするために、溶液重合法に基づく実験室規模の方法を使用した。2リットルの4首フラスコに、機械式撹拌機、加熱マントル、熱電対プローブ、及びコンデンサーを備えた。次に、フラスコに約64%の臭素を含有している混合臭素化スチレンモノマー(995.2g)、ジクロロベンゼン(487.3g)、グリシジルメタクリレート5.08g、0.0357mol)、連鎖移動剤(CTA)としてドデカンチオール(7.85g、0.0387mol)及びDuPontからVAZO−52(商標)の商品名で販売されているアゾ系開始剤2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(1.00g、4.03mmol)を仕込んだ。次いで、発熱するまで溶液を約90℃に加熱した。到達ピーク温度は146℃であり、その後混合物を5〜10分間掛けて190℃まで加熱し、190℃に40〜45分間保った。加熱を止めて、溶液(1484.4g)を2リットルのボトルに移し、室温まで冷却した。この物質を4部に分けた。各部を、アセトン3,400mL及びメタノール400mLの5リットルフラスコ中に入れて沈殿させた。沈殿をフリットでろ過し、周囲温度で約14時間乾燥し、110℃で8時間オーブン乾燥した。白色粉末(842g)が単離された。
【0026】
(実施例2)
α−メチルスチレンダイマー(MSD)を使用して相溶化されたコポリマー
実施例1と同じ手順及び装置を使用して、フラスコに、臭素化されたスチレンモノマー(1004.2g)、ジクロロベンゼン(492g)、グリシジルメタクリレート(5.11g、0.0359mol)、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(20.13g、0.0851mol)(α−メチルスチレンダイマー)及びVAZO−52(商標)(1.03g、4.15mmol)を仕込んだ。発熱するまで溶液を約90℃まで加熱した。続いて溶液は141℃のピーク温度に達し、その後混合物を5〜10分間掛けて190℃まで加熱し、190℃に40〜45分間保った。加熱を止めて、溶液(1509.3g)を2リットルのボトルに移し、室温まで冷却した。この物質を4部に分けた。各部を、アセトン3,400mL及びメタノール400mLの5リットルフラスコ中に入れて沈殿させた。沈殿をフリットでろ過し、周囲温度で約14時間乾燥し、110℃で8時間オーブン乾燥した。白色粉末(881g)が単離された。
【0027】
(実施例3)
α−メチルスチレンダイマー(MSD)及び開始剤ブレンドを使用して相溶化されたコポリマー
この実験では、高温開始剤クメンヒドロパーオキシドを加えて重合をさらに完結に至らせ、残留モノマーを減少させた。フラスコに、臭素化スチレンモノマー(1002.6g)、ジクロロベンゼン(497g)、グリシジルメタクリレート(5.13g、0.0360mol)、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(20.26g、0.08571mol)、アゾ系開始剤VAZO−52(商標)(1.05g、4.22mmol)及びクメンヒドロペルオキシド(1.06g、6.96mmol)を仕込んだ。次に、発熱するまで溶液を約90℃まで加熱した。到達したピーク温度は163℃であり、その後混合物を5〜10分間掛けて190℃まで加熱し、190℃に40〜45分間保った。加熱を止めて、溶液(1513.7g)を2リットルのボトルに移し、室温まで冷却した。物質を4部に分けた。各部を、アセトン3,400mL及びメタノール400mLの5リットルフラスコ中に入れて沈殿させた。沈殿をフリットでろ過し、周囲温度で約14時間乾燥し、110℃で8時間オーブン乾燥した。白色粉末(883g)が単離された。
【0028】
(実施例4)
スチレン(1012.3g)、クロロベンゼン(1483.9g)、1−ドデカンチオール(12.0g)、及びVazo(商標)52(1.092g)を、機械式撹拌機、THERMO−O−WATCH(商標)、熱電対、加熱マントル及びコンデンサーを備えた3リットルの4首フラスコに仕込んだ。混合物を室温で14分間撹拌し、次に加熱した。先ず温度を80℃に上げると、その間に重合が開始されて85℃まで発熱した。次に、温度を130℃まで上げて10時間保った。熱を取り除き、温度が90℃になるまで撹拌を続けた。
【0029】
反応混合物を、メタノール中に入れて沈殿させた(12mLのメタノールに反応混合物1mL)。生成物をろ過し、75℃で24時間乾燥し、冷却してボトルに入れた。収量は、ポリスチレン497.4gであった。
【0030】
ゆるい窒素パージ下で、ポリスチレン(477g)及びエチレンクロライド(2L)を、機械式撹拌機、熱電対、及びコンデンサーを備えた乾燥させた5リットルの4首フラスコに仕込んだ。反応フラスコは、10%硫酸ナトリウムを仕込んだスクラバーへ排気されていた。ポリスチレンスラリーを、均質な溶液が得られるまで周囲温度で撹拌した。次に、反応混合物を、アイスバス中で冷却した。塩化アルミニウム(9.2g)を、一度に反応混合物中に投入した。臭素(717.8g)をポンプで3時間掛けてゆっくりと加え、その間、反応温度を15〜20℃に維持した。得られた混合物を周囲温度で一晩撹拌した。次の日に、混合物を水1L及び50%水酸化ナトリウム50mLでクエンチした。温度は、アイスバスを使用して制御した。沸騰した水(7L)からエチレンクロライドを共沸蒸留させることによって有機相から生成物を単離した。生成物をろ過し、水で洗浄し、乾燥した。
【0031】
(実施例5)
実施例4の繰り返し。
【0032】
(実施例6)
スチレン(1000.0g)、クロロベンゼン(1581.4g)、α−メチルスチレンダイマー(20.0g)、及びVazo(商標)52(1.04g)を、機械式撹拌機、熱伝対、加熱マントル及びコンデンサーを備えた3リットルの4首フラスコに仕込んだ。混合物を室温で5分間撹拌し、次に加熱した。温度を当初80℃まで上げると、その間に重合が開始されて85℃まで発熱した。次に温度を115℃まで上げて、23時間保った。熱を取り除き、温度が60℃になるまで撹拌を続けた。
【0033】
反応混合物を、メタノール中に入れて沈殿させた(14mLのメタノールに反応混合物1mL)。生成物をろ過し、75℃で24時間乾燥し、冷却してボトルに入れた。収量は、ポリスチレン596.3gであった。
【0034】
ポリスチレンは、実施例4と同様に臭素化した。
【0035】
調製されたポリマーの特性は、表1で見出される。
【表1】


これらの結果は、同等の分子量を得るためには、MSDはチオールよりも多くの投入量が必要であるが、ポリマー全体の臭素含有量を顕著に低下させるほど多くではないことを示している。また、開始剤ブレンドの使用は、最終生成物中の未反応モノマーの量を減少させる所望の効果を有するように見える。
【0036】
(実施例7及び8)
ブロモスチレンコポリマーの熱安定性
実施例1(実施例7)及び実施例2(実施例8)からの約10mgのコポリマーの少量サンプルを、TA InstrumentsからのTGA Q 500熱重量分析器中で、窒素下330℃で30分間、等温で高温曝露させ、その間重量を連続的に記録した。安定性は、最初の20分間の質量損失を測定し、1分間当たりの質量損失%を計算することによって判定した(表2)。
【表2】

【0037】
これらの結果は、MSDで修飾されたコポリマーについての、等温TGA分析で測定される安定性における明らかな改善(質量損失速度の低下)を示している。
【0038】
(実施例9及び10)
ポリアミド組成物の熱安定性
連鎖移動剤として1−ドデカンチオール及びMSDを個別に使用して調製したブロモスチレンコポリマーを、ガラス繊維で強化された高温半芳香族ポリアミド中に配合した(それぞれ実施例9及び10)。配合された樹脂組成物は、次いで、2つの条件を使用して小板に射出成形した。第1の条件は、通常の溶融温度約310℃であり、第2の条件は、溶融粘度を下げかつ生産性を上げるために加工温度の限界を押し上げるように最適化された通常の成形操作において見られることのあるより過酷な条件をシミュレートするために約340℃で行った。成形操作を一時的に中断し、その間、次に注入される配合物が比較的高い温度で溶融状態に保たれている場合には、時間及び温度曝露の増加が起こることがある。
【0039】
表3は、以後に記載される配合物の熱安定性を評価するために使用する、通常の成形条件と過酷な条件を対比して示す。
【表3】

【0040】
(実施例11、12、13及び14)
MSDを使用して相溶化された臭素含有量60%及び64%を有するモノマーとのコポリマー
実施例1及び実施例2に記載された手順を使用して2つのブロモスチレン/グリシジルメタクリレートコポリマーを調製した(表4)(それぞれ実施例11及び12)。トリ臭素化種含有量の低いブロモスチレンを使用した。さらに、重合反応を、溶媒なしでかつ高い温度条件で(米国特許第5304618号に記載のように)行うことの効果を詳しく調べるために、表4(それぞれ実施例13及び14)に示したように、0.5%GMAを使用していくつか付加的なコポリマーを調製した。
【表4】

【0041】
表5及び5aのポリアミド配合物は、Berstorff ZE 25 2軸スクリュー押出成形機に通して加工した。ガラス繊維は、繊維の破損を少なくするために、押出機の5番目の胴中へ、Brabenderのロスインウエイトフィーダー及びK−tronのサイドフィーダーを使用してサイド供給した。胴の温度は、供給口における310℃から金型における330℃まで傾斜を付けた。公称供給速度は約35 lbs/hrであった。押し出された束は、水浴中で冷却し、切断してペレットにした。
【表5】


【表6】

【0042】
Van Dom 35トン射出成形機を使用して、ペレットを、寸法が2×3インチの小板に成形した。表3に記載した通常の方法及び過酷な方法を使用した。
【0043】
通常の加工温度からより高い加工温度へ移る際の色の変化を定量するために、両方の組の小板についてColorquest Tristimulus色度計を使用して読み取った。L、a、bの値を測定した。(色度測定の詳細な議論については「化学技術事典(Encyclopedia of Chemical Technology)」、4版、6巻、841〜876頁、を参照されたい。)低温から高温へ移行する際のL、a、及びb値に、ある計算を施して、色度差値、ΔEすなわち
ΔE=[(ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2
を得た。
結果は表6に示す。
【表7】

【0044】
チオール修飾ブロモスチレンコポリマーを含有しているポリアミド組成物は、中等度の成形温度では薄い黄/グレー色であるが、より高温で加工した場合は顕著なグレー色を呈する。MSD修飾ブロモスチレン系は、低い温度で薄い黄色であり、より高い加工温度でもこの色が維持される。2近辺又はそれ未満のΔE値を含む小板どうしの色の相違を、肉眼で見つけることは困難である。
【0045】
チオール修飾コポリマーを含有しているポリアミド配合材については、ΔE値はかなり大きく6.9〜10.3の範囲であるが、MSD修飾コポリマーを含有しているポリアミド配合材は、ΔEが0.5〜2.1の範囲であり、本発明のコポリマーを使用した場合は全体的な色の変化がずっと少なかったことが確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般構造
【化1】


[式中、RはH又はCHであり、xは1〜5の整数である。]
を有するar−ブロモスチレンモノマーのポリマー及び臭素化ポリスチレンであって、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定し、ポリスチレン標準物質と比較して割り付けられた重量平均分子量(MW)約11,000〜約60,000を有し、さらにα−メチルスチレンダイマーの残留物を含む、ポリマー。
【請求項2】
さらにコポリマー材料との共重合から得られる単位を含み、前記コポリマーの少なくとも一部分は構造
【化2】


[式中、Rは、前記単位のそれぞれについて、水素、1〜3個の炭素原子を有するアルキル基からなる群から選択され;Rは、前記単位のそれぞれついて独立に、水素、1〜3個の炭素原子を有するアルキル基、1〜3個の炭素原子を有する環構造及び2〜6個の炭素原子を有し、少なくとも1つの酸素原子をヘテロ環中に含有しているヘテロ環からなる群から選択される。]を有する、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
さらにコポリマー材料との共重合から得られる単位を含み、前記コポリマーの少なくとも一部分は構造
【化3】


[式中、Rは、前記単位のそれぞれについて独立に、水素、1〜3個の炭素原子を有するアルキル基からなる群から選択され;Rは、前記単位のそれぞれについて、アミノ基、スルホン酸、及びスルホン酸塩からなる群から選択され;nは、1〜5の任意の整数である。]を有する、請求項1に記載のポリマー。
【請求項4】
さらにポリアミドを含む、請求項1に記載のポリマー。
【請求項5】
前記ポリアミドが、約280℃を超える溶融温度を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリアミドが、独立に、ポリアミド4,6、ポリアミド4,8、ポリアミド4,9、ポリアミド4,10、ポリアミド4,11、ポリアミド4,12、ポリアミド4,13、ポリアミド4,14及びポリアミド6,6/6,T、ポリアミド4,6/4,T/4,I、ポリアミド9,T、ポリアミド12,Tなどの半芳香族ポリアミドからなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
さらにブロモスチレンポリマーのポリアミド組成物を含む、請求項6に記載のポリマー。
【請求項8】
前記ポリアミドが、約280℃を超える溶融温度を有する、請求項6に記載のポリアミド組成物。
【請求項9】
前記ポリアミドが、独立に、ポリアミド4,6、ポリアミド4,8、ポリアミド4,9、ポリアミド4,10、ポリアミド4,11、ポリアミド4,12、ポリアミド4,13、ポリアミド4,14及びポリアミド6,6/6,T、ポリアミド4,6/4,T/4,I、ポリアミド9,T、ポリアミド12,Tなどの半芳香族ポリアミド、又はこれらの混合物からなる群から選択される、請求項6に記載のポリアミド組成物。
【請求項10】
α−メチルスチレンダイマー残留物が、−OH、−C(O)OH、−NR、−C(O)OR、−C(O)NR、及びN=C=Oからなる群から選択される芳香環に結合している極性相溶化基を持ち、R1〜3は、1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル基である、請求項1に記載のポリマー。
【請求項11】
さらにポリアミドを含む、請求項10に記載のポリマー。
【請求項12】
前記ポリアミドが約280℃を超える溶融温度を有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリアミドが、独立に、ポリアミド4,6、ポリアミド4,8、ポリアミド4,9、ポリアミド4,10、ポリアミド4,11、ポリアミド4,12、ポリアミド4,13、ポリアミド4,14及びポリアミド6,6/6,T、ポリアミド4,6/4,T/4,I、ポリアミド9,T、ポリアミド12,Tなどの半芳香族ポリアミド、又はこれらの混合物からなる群から選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
以下の一般構造
【化4】


[式中、RはH又はCHであり、xは1〜5の整数である。]を有し、約11,000〜約60,000の割り付けられた重量平均分子量を有し、10mgの試料を窒素雰囲気下で330℃に維持したときに、20分後にその質量の少なくとも88%を保持し、30分後にその質量の少なくとも85%を保持する、ar−ブロモスチレンモノマーのポリマー。
【請求項15】
さらにポリアミドを含む、請求項14に記載のポリマー。
【請求項16】
前記ポリアミドが、約280℃を超える溶融温度を有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記ポリアミドが、独立に、ポリアミド4,6、ポリアミド4,8、ポリアミド4,9、ポリアミド4,10、ポリアミド4,11、ポリアミド4,12、ポリアミド4,13、ポリアミド4,14及びポリアミド6,6/6,T、ポリアミド4,6/4,T/4,I、ポリアミド9,T、ポリアミド12,Tなどの半芳香族ポリアミド、又はこれらの混合物からなる群から選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
(a)
(i)臭素化スチレンのモノマー、
(ii)重合開始剤、
(iii)α−メチルスチレンダイマー
の本質的に無溶媒のプレンドを提供するステップ、
(b)モノマー/重合開始剤ブレンドを反応容器に供給するステップ、
(c)モノマー/重合開始剤ブレンドを、約1分から約20分の間の時間でモノマーの少なくとも約80%を重合させるのに有効な条件下で反応させるステップ、及び
(d)重合したブロモスチレンを反応容器から除くステップ
を含む、α−メチルスチレンダイマーを連鎖移動剤として使用するブロモスチレンポリマーの分子量を制御する方法。
【請求項19】
(a)
(i)スチレンのモノマー、
(ii)重合開始剤、
(iii)α−メチルスチレンダイマー
の本質的に無溶媒のプレンドを提供するステップ、
(b)モノマー/重合開始剤ブレンドを反応容器に供給するステップ、
(c)モノマー/重合開始剤ブレンドを、約1分から約20分の間の時間でモノマーの少なくとも約80%を重合させるのに有効な条件下で反応させるステップ、
(d)臭素を加えて、重合したスチレンを臭素化するのに有効な条件下で重合したスチレンと反応させるステップ、及び
(e)重合したブロモスチレンを反応容器から除くステップ
を含む、α−メチルスチレンダイマーを連鎖移動剤として使用するスチレンポリマーの分子量を制御する方法。

【公表番号】特表2008−514802(P2008−514802A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534834(P2007−534834)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/035384
【国際公開番号】WO2006/039602
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(505365356)ケムチュア コーポレイション (50)
【Fターム(参考)】