説明

制御弁式鉛蓄電池の製造方法

【課題】本発明は、負極にカーボンを含む極板群を高圧迫で積層して電槽化成しても、カーボンの流出がなく、かつ化成効率が良好なばかりか、サイクル寿命も著しく長い制御弁式鉛蓄電池の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、正極板と、カーボンを含む負極板とを、リテーナマットを介して交互に積層して極板群を形成し、該極板群を高圧迫状態で電槽内に収納し、次いで、希硫酸電解液を注入して電槽化成する、制御弁式鉛蓄電池の製造方法に関し、希硫酸電解液の注入量を、極板群における液占有率の75〜95%とし、電槽化成を、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流が、正極板総表面積に対して1.0mA/cm以下となるようにして実施し、かつ、電槽化成時の電池温度を30〜45℃に抑えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御弁式鉛蓄電池の製造方法に関し、更に詳しくは、正極板と、カーボンを含む負極板とを、リテーナマットを介して交互に積層して極板群を形成し、該極板群を高圧迫状態で電槽内に収納し、次いで、希硫酸電解液を注入して電槽化成する、制御弁式鉛蓄電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、液式鉛蓄電池と制御弁式鉛蓄電池の2つに大別できる。そのうち制御弁式鉛蓄電池は、鉛を主成分とする基板に活物質ペーストを充填して成る正極板と負極板とを、微細ガラス繊維を主体としたマット状セパレータを介して交互に積層し、次いで、同極性同士の極板の耳部を溶接によって接続することにより極板群を形成し、該極板群を圧迫状態で電槽内に収納して、この電槽に注液や排気用の開口部を有する蓋を溶着又は接着剤で接着し、この開口部から液面高さが極板耳部を除く極板群高さの110%程度となるように電解液を注液し、次いで、電槽化成を行い、最後に、注液や排気用の開口部にゴム弁(制御弁)を覆い被せて製造されるものである。このようにして製造された制御弁式鉛蓄電池は、過充電時に正極で発生する酸素を負極で吸収することにより補水を不要とすると共に、密閉化を図った鉛蓄電池であり、メンテナンスフリーとして様々な分野で利用されている。
【0003】
近年、補水液の補充等が不要な制御弁式鉛蓄電池が保守不要の観点から主流となりつつあり、その普及率は急速に拡大しつつある。また、通信機器、無停電電源システムなどのバックアップなどのフロートユース用よりも、電力貯蔵、電動車などのため深い充放電を繰り返すサイクルユース用に耐え得るように改良が進められている。このようなサイクルユースの用途では、正極活物質の軟化及び泥状化により鉛蓄電池が寿命に至ることが多い。これを抑制すると共に、格子と活物質の密着性を向上させるために、極板群を電槽内に40kPa程度の圧迫状態で挿入することが行われている。
【0004】
また、太陽光及び風力などの自然エネルギーから得られる電気を蓄電池に貯蔵する場合は、部分充電状態(PSOC;Parcial
State Of Charge)のままでサイクルを繰り返すことも多いことから、負極活物質のサルフェーションにより鉛蓄電池が寿命に至ることもある。このため、負極の充電受入性を向上させる目的で、負極にカーボンなどの導電材を添加する場合もある。
【0005】
鉛蓄電池の負極板にカーボンを添加した場合、その添加量にもよるが、電槽化成による充電時の水素ガス発生時に負極板表面、特に表面のクラックからガスと共にカーボンが吐き出され、これに接するセパレータ表面に流出し易い。さらに、セパレータ表面に流出したカーボンがセパレータ内部に浸透し、内部短絡を引き起こす場合があった。
【0006】
その対策として、ガラス繊維を主体として構成されるセパレータであって、ガラス繊維、シリカ粉末及びシリカゾルを混抄してなる密閉形鉛蓄電池用セパレータ(特許文献1)、及び、顆粒シリカ式密閉型鉛蓄電池において、負極活物質量の0.5〜5.0質量%のカーボンを負極活物質中に添加したもの(特許文献2)などが提案されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載のセパレータを用いると、ガラス繊維中に多量のシリカが存在するためにセパレータが硬くなって、極板群を形成する際及び形成された極板群を電槽内へ収納する際にハンドリングが困難になったり、保持される電解液量が少なくなったりするなどの問題点があった。一方、セパレータの厚みを厚くすることも考えられるが、限られた体積の電槽内で、セパレータの厚みを大幅に厚くすると極板の枚数を減らすことになり、その結果、容量不足となるため、現実的ではない。セパレータの厚みを若干厚くすることができたとしても、その効果は十分ではない。また、耐短絡性に優れる比較的硬いセパレータを用いるとサイクル性能が良くないなどの問題があった。
【0008】
特許文献2に記載の方法は、充電受け入れ性の向上は見られるが、鉛蓄電池を作製する際の化成を電槽化成で行った場合、発生する水素ガスによって、添加されたカーボンが負極板から離れ電解液中に流出して、上方へ浮遊し、その結果、カーボンがセパレータ内に入り込み、やがて短絡の原因となってしまうという問題があった。
【0009】
そこで、本出願人は、鉛又は鉛合金から成る格子基板にペースト状活物質を充填して成る正極板と、鉛又は鉛合金から成る格子基板にカーボンを含むペースト状活物質を充填してなる負極板とを、ガラス繊維を主とするリテーナマットを介して積層して成る極板群を形成し、次いで、該極板群を40〜100kPaの群圧で電槽内に収納して施蓋封口した後、該電槽内に希硫酸電解液を注入して電槽化成し、次いで、補液、補充電するところの、制御弁式鉛蓄電池の製造方法において、1)施蓋封口後の希硫酸電解液の注液量を、液面高さが極板耳部を除く極板群高さの95〜105%とし、2)負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達するまでの間の充電電流を、正極板総表面積に対し4.5mA/cm以下とし、3)その後充電を行い、4)補液、補充電したことを特徴とする制御弁式鉛蓄電池の製造方法を提案した(特許文献3)。該方法によれば、カーボンの流出を極力減らすことができ、従って、短絡を大幅に減らすことができた。
【0010】
しかし、電槽化成では、未化成極板で極板群を構成して電池を組み立て、電槽の中へ所定比重及び所定量の硫酸を注入し、大電流で短時間に化成を行なうのが一般的である。この時、大電流で化成を実施するので、化成初期及び化成末期の電池発熱が激しくなることから、電槽化成時の電池自体の発熱を抑止し、かつ化成効率を向上させるといった、更なる改良が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−29560号公報
【特許文献2】特開平6−283176号公報
【特許文献3】特開2008−171709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、負極にカーボンを含む極板群を高圧迫で積層して電槽化成しても、カーボンの流出がなく、かつ化成効率が良好なばかりか、サイクル寿命も著しく長い制御弁式鉛蓄電池の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記特許文献3記載の発明を更に改良すべく種々の検討を試みた。その結果、上記特許文献3記載の発明において、希硫酸電解液の注液量を極板群高さを基準に決定していたものを、極板群における液占有率、即ち、極板群に含浸される希硫酸電解液の量を基準に決定するように変更すれば、実際に極板群に存在する希硫酸電解液の量との関係であることから、より現実的かつ正確にその効果を発現し得るのではないかと言うことに思い当たった。そして、希硫酸電解液の注入量を、極板群における液占有率を基準として、下記所定の75〜95%としたところ、上記特許文献3記載の発明に比べてより良好な結果が得られることを見出した。また、上記特許文献3記載の発明においては、電槽化成時の電流を、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達するまでの間の充電電流の最大電流で規定していた。このような条件で電槽化成を実施すると、負極活物質の理論容量に対する充電量が90%付近から負極電位が立ち上がり始め、充電量が100%に到達すると、水素ガスを発生し始める(硫酸第二水銀電極を参照極としたとき、水素発生電位は約−1.5V付近である)。充電量が100%に達してから、上記特許文献3記載の発明による電流値で充電すると水素ガス発生電位以上で推移することが比較的多くなり、また、正極活物質の理論容量に対する充電量が100%を超えたところからは水素ガス発生電位以上で推移するようになる。そのため電槽化成の全期間を通して考えれば、ガス発生量を十分に抑制することができておらず、全体としてカーボン流出量が比較的多くなっているのではないかと推定された。そこで、本発明者らは、予備実験を実施して、負極活物質の理論容量に対する種々の充電量でリテーナマットを抜き取り解体調査したところ、充電量が100%から、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間でカーボンの流出が認められた。即ち、本発明者らは、上記特許文献3記載の発明を改良するには、上記充電量の範囲でのカーボン流出を更に抑えることが必要であると考えた。
【0014】
そこで、本発明者らは、従来、電槽化成時の電流を、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達するまでの間の充電電流の最大電流で規定していたものを、更に限定して、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流の最大電流で規定し、かつ、その値を、下記の通り1.0mA/cm以下としたところ、該効果に関しても、上記特許文献3記載の発明に比べてより良好な結果が得られることを見出した。加えて、本発明者らは、電槽化成中の電池温度が上昇すると電流が水素ガスの発生等に消費されてしまい、結局、カーボンの流出を促進することになるのではないかと考えた。そこで、上記特許文献3記載の発明にはない新たな要件、即ち、電槽化成時の電池温度を、上記の二つの要件に加えたところ、上記特許文献3記載の発明に比べて著しく良好な結果が得られることを見出して、本発明を完成するに至ったのである。
【0015】
即ち、本発明は、
(1)鉛又は鉛合金から成る格子基板にペースト状活物質を充填して成る正極板と、鉛又は鉛合金から成る格子基板にカーボンを含むペースト状活物質を充填して成る負極板とを、ガラス繊維を主とするリテーナマットを介して積層して極板群を形成し、次いで、該極板群を40〜100kPaの群圧で電槽内に収納して施蓋封口した後、該電槽内に希硫酸電解液を注入して電槽化成し、次いで、補液、補充電するところの、制御弁式鉛蓄電池の製造方法において、
1)上記希硫酸電解液の注入量を、極板群における液占有率の75〜95%とし、
2)上記電槽化成を、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流が、正極板総表面積に対して1.0mA/cm以下となるようにして実施し、かつ
3)上記電槽化成時の電池温度を30〜45℃に抑える
ことを特徴とする制御弁式鉛蓄電池の製造方法である。
【0016】
好ましい態様として、
(2)上記1)の注入量が、極板群における液占有率の80〜85%である、上記(1)記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法、
(3)上記2)の充電電流が0.1〜1.0mA/cmである、上記(1)又は(2)記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法、
(4)上記2)の充電電流が0.3〜1.0mA/cmである、上記(1)又は(2)記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法、
(5)上記3)の電池温度を32〜45℃に抑える、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法、
(6)上記3)の電池温度を36〜43℃に抑える、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法、
(7)上記極板群の群圧が、40〜70kPaである、上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法、
(8)負極板に充填するペースト状活物質に含まれるカーボン量が、負極活物質量に対して、0.1〜5.0質量%である、上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法、
(9)負極板に充填するペースト状活物質に含まれるカーボン量が、負極活物質量に対して、0.2〜2.0質量%である、上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法、
(10)負極板に充填するペースト状活物質に含まれるカーボン量が、負極活物質量に対して、0.5〜2.0質量%である、上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の制御弁式鉛蓄電池の製造方法によれば、希硫酸電解液の注入量を極板群の液占有率の75〜95%とすることで、水素ガス発生によるカーボン流出を抑制することが可能である。
【0018】
また、電槽化成の後半、即ち、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間において、充電電流を所定値にコントロールすることにより、水素ガス発生を抑制し、かつ、極板群における液占有率をコントロールして、負極板表面を露出させることにより、正極で発生した酸素ガスの負極での吸収を促進して、負極電位を水素発生電位より下げることができ、加えて、電池温度を最大でも45℃に抑える。これにより、水素ガスの発生に伴うカーボン流出、並びに、電解液へのカーボンの溶出及び浮遊を防止し得、かつ、電槽化成全体を通して効率の高い温度での化成が可能となる。
【0019】
従って、本発明の方法で製造した制御弁式鉛蓄電池は内部での短絡がなく、かつ、本発明の方法によれば、制御弁式鉛蓄電池の効率的な製造を可能にすることができるばかりではなく、サイクル寿命の著しく長い制御弁式鉛蓄電池を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の制御弁式鉛蓄電池の製造方法においては、電槽化成に際して、1)電槽内への希硫酸電解液の注入量を、極板群における液占有率の75〜95%、好ましくは80〜85%とする。上記上限を超えると、電槽化成の終了直前まで極板群の大部分が電解液に浸かっていることになり、充電時に正極より発生した酸素ガスの負極吸収を阻害する。それ故、負極電位が水素発生電位にシフトし、電槽化成中の水素ガス発生期間が長くなり、カーボンが流出し易くなるおそれがある。また、極板群の大部分が電解液に浸かっていると、カーボンが溶出及び浮遊し易い状態のまま化成が終了するため、ガス発生によりカーボンがセパレータへ染み出し易くなるおそれがある。一方、上記下限未満では、充電時に正極より発生した酸素ガスの負極吸収量が増加して電池温度の上昇を招き、電池特性に悪影響を及ぼす可能性がある。ここで、極板群における液占有率とは、極板群に保持することができる総電解液量を100%としたとき、実際に極板群に保持されている電解液量を比率で表したものである。
【0021】
本発明の制御弁式鉛蓄電池の製造方法においては、2)電槽化成を、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流が、正極板総表面積に対して1.0mA/cm以下となるようにして実施する。上記上限を超えると、電流が化成よりもガス発生に多く消費され易くなる故、カーボンの流出が抑えられなくなり、かつ温度上昇も抑制することができない。充電電流の下限は低いほどよいが、電流があまり低過ぎると充電時間が長くなって生産効率が悪くなる。従って、下限は、生産効率とのバランスを考慮して、好ましくは0.1mA/cm、より好ましくは0.3mA/cmである。ここで、正極板総表面積とは、正極板の耳部及び足部の面積、並びに、正極板の厚み方向の周側面(上下左右)の面積を除く、正極板の表面及び裏面の合計面積に正極板枚数を掛け合わせたものである。
【0022】
また、本発明の制御弁式鉛蓄電池の製造方法においては、3)電槽化成時の電池温度を30〜45℃、好ましくは32〜45℃、より好ましくは36〜43℃に抑える。これにより、効率よく電槽化成を実施することができ、かつ、負極からガス発生を防止してカーボンの流出を抑えることができる。上記範囲外では、化成効率が低下するため好ましくない。例えば、従来の電流値で化成を行い、電池温度が60℃以上になると、化成効率が著しく低下する。
【0023】
本発明の方法によれば、鉛又は鉛合金から成る格子基板にペースト状活物質を充填して成る正極板と、鉛又は鉛合金から成る格子基板にカーボンを含むペースト状活物質を充填して成る負極板とを、ガラス繊維を主とするリテーナマットを介して積層して極板群を形成し、次いで、該極板群を高圧迫状態で電槽内に収納して施蓋封口した後、該電槽内に、上記のように、希硫酸電解液を注入して電槽化成し、次いで、補液、補充電することにより、制御弁式鉛蓄電池が製造される。ここで、極板群の電槽内への収納は極板群を高圧迫状態、即ち、40〜100kPa、好ましくは40〜70kPaに保持して実施される。上記下限未満では、正極活物質の軟化抑制効果が弱くなり、一方、上記上限を超えては、電槽への極板群の挿入が困難になり、また、正極板及び負極板間の距離が短くなって短絡し易くなる。
【0024】
本発明において、鉛又は鉛合金から成る格子基板にペースト状活物質を充填して成る正極板、鉛又は鉛合金から成る格子基板にカーボンを含むペースト状活物質を充填して成る負極板、及び、ガラス繊維を主とするリテーナマットとしては、公知の方法で製造した公知のものを使用することができる。ここで、負極板に充填されるペースト状活物質に含まれるカーボン量は、負極活物質量に対して、好ましくは0.1〜5.0質量%、より好ましくは0.2〜2.0質量%、更に好ましくは0.5〜2.0質量%である。上記上限を超えては、電槽化成中におけるカーボンの流出を十分に抑制し得ないことがあると共に、負極活物質の強度が低下し活物質が負極から脱落して短絡を生ずることがある。一方、上記下限未満では、負極の充電受入性の向上を十分に達成し得ない。また、これら正極板及び負極板は、常法に従って、リテーナマットを介して交互に積層して極板群を形成し、上記の群圧で電槽に組み込み、同極性耳群を常法によりストラップ溶接すると同時に正極及び負極端子を形成し、電槽と蓋を溶着した後、上記のように希硫酸電解液を注入し、上記所定の充電電流で電槽化成を行い、その後、電解液量が目標液量、例えば、極板群の高さの110%となるように電解液を補液し、補充電を行い制御弁式鉛蓄電池が製造される。
【0025】
以下の実施例において、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
実施例及び比較例において、カーボン流出の程度、端極板の化成状態及びサイクル寿命試験は、下記のようにして評価したものである。
【0027】
<カーボン流出の程度>
製造した各制御弁式鉛蓄電池からリテーナマットを取り出して、厚さ方向に切断し、その断面を目視観察して、リテーナマットの厚さ方向に対して負極から正極へ向かいどの程度までカーボンが流出しているかにより評価した。表1〜3中に示した各記号は以下の内容を表す。
◎:リテーナマット内にカーボン流出なし。
○:リテーナマット厚の20%以内にカーボン流出が見られた。
Δ:リテーナマット厚の20%を超えて50%以内にカーボン流出が見られた。
×:リテーナマット厚の50%を超えてカーボン流出が見られた。
【0028】
<端極板の化成状態>
本発明における端極板とは、前記極板群の両端に位置する極板を意味し、ここでは負極板を端極板とした。前記端極板、即ち、負極板の化成状態は、PbSOの量で評価した。化学分析によりPbOとPbSOを定量し、鉛蓄電池の活性金属である金属鉛(Pb)の割合を[100%−(PbO+PbSO)]から算出する。これによりPbSOが化成によってどの程度Pbに還元されたかを知ることができるため、負極板中のPbSOの量で化成状態を評価できる。
【0029】
PbSOの化学分析方法:負極活物質を規定量採取し、5%の酢酸に溶解させ、その後、傾斜濾過を行い濾物と濾液に分離する。この濾液にはPbOが溶解している。さらに、濾物は酢酸アンモニウムを用いて加熱溶解させ、傾斜濾過で濾物と濾液に分離する。この濾液に含まれるのがPbSOである。ろ液に含まれるPbOとPbSOの定量にはEDTA(エチレンジアミン四酢酸:Ethylene
Diamine Tetraacetic Acid)による滴定分析を用いて行った。表1〜3中に示した各記号は以下の内容を表す。
[化成状態]
◎ :PbSO量5%未満
○ :PbSO量5%以上10%未満
Δ :PbSO量10%以上20%未満
× :PbSO量20%以上
【0030】
<サイクル寿命試験>
制御弁式鉛蓄電池の試験条件は、25℃環境下で、SOC100%から、0.25CAでDOD(Depth
Of Discharge:放電深度)70%の放電を行い、その後、放電容量に対して104%の充電を0.1CAの充電で行い、これを1サイクルとした。また、50サイクル毎に前記試験条件と同様にして制御弁式鉛蓄電池の容量試験を行い、前記容量が初期容量に対して70%まで低下したときを寿命とした。表1〜3中に示した各記号は以下の内容を表す。
[サイクル数]
◎ :2,500サイクル以上
○ :2,000サイクル以上2,500サイクル未満
△ :1,000サイクル以上2,000サイクル未満
× :1,000サイクル未満
【0031】
(実施例1)
正極板用としての鉛を主成分とする格子基板に、常法に従って作製した正極活物質ペーストを充填した。一方、負極板用としての鉛を主成分とする格子基板には、常法に従って作製した負極活物質ペーストに、カーボンを負極活物質量に対して1.0質量%添加した負極活物質ペーストを充填した。次いで、常法に従って、これらを熟成及び乾燥して、夫々、未化成の正極板及び負極板を作製した。これら正極板9枚及び負極板10枚を、主にガラス繊維を抄造して成るリテーナマットを介して交互に積層して、同極性同士の極板の耳部を溶接によって接続することにより極板群を形成した。このときの正極活物質の理論容量は負極活物質の理論容量の1.5倍であった。次いで、該極板群を40kPaの高圧迫状態で電槽に組み込んだ。次いで、電槽と蓋を溶着した後、極板群における液占有率が75%となるように所定量の希硫酸電解液を注入した。そして、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達するまでは、正極板総表面積に対する充電電流を5.3mA/cmとして通電し、次いで、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を1.0mA/cmとして通電した。通電中、電池温度を測定して、電池温度が30℃〜45℃の範囲となるように必要に応じて空冷を実施した。化成終了後、電解液量が目標液量、即ち、極板群の高さの110%となるように電解液を補液し、かつ正極活物質の理論容量に対する充電量が1%となるように補充電を実施して、2V−200Ahの制御弁式鉛蓄電池を製造した。このようにして製造した制御弁式鉛蓄電池について、カーボン流出の程度、端極板の化成状態及びサイクル寿命を評価した。ここで、上記電池温度の測定は、電槽側面の中央部に熱電対を貼付けし、随時、測定を行った。また、上記液占有率については、正負極板の極板寸法、極板体積(ここで、極板体積は、見かけの体積であって空孔を含むものである。空孔の容積(体積)は、空孔容積=見かけの体積(縦×横×厚さ)−実体積であり、実体積は、例えば、水中に沈めた時の上昇した水量により求めることができる。)、極板枚数から正負極板中に含まれる空孔容積を算出し、またセパレータの寸法と圧縮率からセパレータ中に含まれる空孔容積をセパレータ毎に算出し、両者の空孔容積の和を算出し、算出された全ての空孔容積内を満たす量の電解液が注液されたときを液占有率100%とした。電槽化成前に注液する際は、液占有率が75%となるように注液する電解液量を決定した。
【0032】
(実施例2)
負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0033】
(実施例3)
負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.3mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0034】
(実施例4)
負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.1mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0035】
(実施例5)
負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.05mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0036】
(実施例6)
極板群における液占有率の80%となるように所定量の希硫酸電解液を注入した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0037】
(実施例7)
極板群における液占有率の80%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0038】
(実施例8)
極板群における液占有率の80%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.3mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0039】
(実施例9)
極板群における液占有率の80%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.1mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0040】
(実施例10)
極板群における液占有率の80%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.05mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0041】
(実施例11)
極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0042】
(実施例12)
極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0043】
(実施例13)
極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.3mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0044】
(実施例14)
極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.1mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0045】
(実施例15)
極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.05mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0046】
(実施例16)
極板群における液占有率の90%となるように所定量の希硫酸電解液を注入した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0047】
(実施例17)
極板群における液占有率の90%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0048】
(実施例18)
極板群における液占有率の90%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.3mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0049】
(実施例19)
極板群における液占有率の90%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.1mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0050】
(実施例20)
極板群における液占有率の95%となるように所定量の希硫酸電解液を注入した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0051】
(実施例21)
極板群における液占有率の95%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0052】
(実施例22)
極板群における液占有率の95%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.3mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0053】
(実施例23)
極板群における液占有率の95%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.1mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0054】
(実施例24)
極板群を60kPaの高圧迫状態で電槽に組み込み、極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0055】
(実施例25)
極板群を80kPaの高圧迫状態で電槽に組み込み、極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0056】
(実施例26)
極板群を100kPaの高圧迫状態で電槽に組み込み、極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0057】
(比較例1)
極板群における液占有率の70%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0058】
(比較例2)
極板群における液占有率の70%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を1.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0059】
(比較例3)
極板群における液占有率の70%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を1.5mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が30℃未満となるように水冷により強制冷却した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0060】
(比較例4)
極板群における液占有率の70%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を1.5mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0061】
(比較例5)
極板群における液占有率の80%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を1.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0062】
(比較例6)
極板群における液占有率の80%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を1.5mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0063】
(比較例7)
極板群における液占有率の80%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を1.0mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0064】
(比較例8)
極板群における液占有率の80%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.5mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0065】
(比較例9)
極板群における液占有率の80%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.05mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が30℃未満となるように水冷による強制冷却をした以外は、実施例1と同一に実施した。
【0066】
(比較例10)
極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.1mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0067】
(比較例11)
極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.3mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0068】
(比較例12)
極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.5mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0069】
(比較例13)
極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、通電中、電池温度が30℃未満となるように水冷により強制冷却をした以外は、実施例1と同一に実施した。
【0070】
(比較例14)
極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0071】
(比較例15)
極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を1.5mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0072】
(比較例16)
極板群における液占有率の95%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0073】
(比較例17)
極板群における液占有率の95%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を1.5mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0074】
(比較例18)
極板群における液占有率の105%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、通電中、電池温度が30℃未満となるように水冷により強制冷却をした以外は、実施例1と同一に実施した。
【0075】
(比較例19)
極板群における液占有率の105%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0076】
(比較例20)
極板群における液占有率の105%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を1.5mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が30℃未満となるように水冷により強制冷却をした以外は、実施例1と同一に実施した。
【0077】
(比較例21)
極板群における液占有率の105%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を1.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0078】
(比較例22)
極板群における液占有率の105%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を1.5mA/cmとして通電し、通電中、電池温度が45℃を超えるように加熱した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0079】
(比較例23)
極板群を20kPaの高圧迫状態で電槽に組み込み、極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0080】
(比較例24)
極板群を120kPaの高圧迫状態で電槽に組み込み、極板群における液占有率の85%となるように所定量の希硫酸電解液を注入し、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間、正極板総表面積に対する充電電流を0.5mA/cmとして通電した以外は、実施例1と同一に実施した。
【0081】
これらの実施例及び比較例の結果を、夫々、下記の表1及び2に示した。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
実施例1〜26は、極板群における液占有率を本発明の範囲内の75〜95%とし、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流を、本発明の範囲内の0.1〜1.0mA/cmとし、かつ、電槽化成中に電池温度が30〜45℃の範囲になるように必要に応じて空冷して、電池の温度を本発明の範囲にしたものである。いずれの実施例においても、カーボン流出を抑制することができ、かつ化成状態も良好であった。また、サイクル寿命も2,500サイクル以上であり、良好な結果が得られた。これは、上記の各要件を本発明の範囲に設定したことにより、ジュール熱の発生を防ぐことができ、それによりガス発生量を最小限に抑えることができたためであると考えられる。また、実施例24〜26は、極板群を、夫々、60kPa、80kPa、100kPaの高圧迫状態で電槽に組み込んだものである。他の実施例と同様に、カーボン流出を抑制することができ、かつ化成状態も良好であった。
【0085】
一方、比較例1〜4は、極板群における液占有率を本発明の範囲外の70%にしたものである。いずれも、電解液量が不足したことにより十分な化成を行うことが困難となり、その結果、サイクル寿命の低下が見られた。比較例1及び4は、更に加熱をして、電槽化成中の電池の温度を本発明の範囲を超える温度にしたものである。化成効率が悪く、ガッシングが起こり易いことからカーボンの流出が多く見られた。比較例2及び3は、空冷又は水冷を施して電槽化成中の電池の温度を、本発明の範囲の上限である45℃以下にしたものである。化成状態及びサイクル寿命は悪いものの、温度を本発明の上限温度以下に抑えれば、カーボン流出を抑制し得ることが確認できた。但し、比較例3のように、本発明の範囲未満に温度を低下させると、カーボン流出を抑制し得ることはできるものの、ほとんど反応が進行しないことが分かった。
【0086】
比較例5〜9は、極板群における液占有率を本発明の範囲内の80%にし、また、比較例10〜15は、極板群における液占有率を本発明の範囲内の85%にし、いずれも負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流、及び/又は、電槽化成中の電池の温度を本発明の範囲外にしたものである。比較例5は、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流が、1.5mA/cmとかなり大きく、ガッシングによるカーボン流出が発生していた。比較例6〜8、10〜12及び14〜15は、加熱をして、夫々の電流値で電槽化成中の電池の温度を本発明の範囲を超える温度にしたものである。化成状態は良好であるものの、電流値によらずいずれもカーボンの流出が多く見られた。比較例9及び13は、水冷による強制冷却を行ったため、電槽化成中の電池の温度が本発明の範囲未満となり、カーボン流出は認められなかったが、化成効率が低く化成状態が良好とはいえず、かつサイクル寿命は低かった。比較例6及び15は、充電電流及び電池の温度がいずれも本発明の範囲を超えたものである。充電電流が1.5mA/cmとかなり大きいことから、ガッシングによるカーボン流出が発生し、電池の温度も本発明の温度範囲を大幅に超えた。また、サイクル寿命も悪い結果となった。
【0087】
比較例16〜17は、極板群における液占有率を本発明の範囲の上限である95%にし、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流値を、夫々、本発明の範囲内の1.0mA/cmと本発明の範囲外の1.5mA/cmとし、かつ、加熱を施して、電槽化成中の電池の温度を本発明の範囲を超えるものにしたものである。液占有率が十分であるため、化成状態は良好であったが、加熱していることから、ガッシングが起こりやすい状態となり、カーボン流出がかなり見られた。
【0088】
比較例18〜22は、極板群における液占有率を本発明の範囲外の105%にし、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流値を、本発明の範囲内の1.0mA/cmと本発明の範囲外の1.5mA/cmとし、かつ、冷却又は加熱を施して、電槽化成中の電池の温度を変化させたものである。比較例18及び20は、水冷による強制冷却を行ったため、電槽化成中の電池の温度が本発明の範囲未満となり、カーボン流出は認められなかったが、化成効率が低く化成状態が良好とはいえず、かつサイクル寿命は著しく低かった。比較例19及び22は、加熱をして、電槽化成中の電池の温度を本発明の範囲を超える温度にしたものである。電池の温度が高いためカーボン流出を抑制することができなかった。比較例21は、電槽化成中の電池の温度は本発明の範囲内であるものの、液占有率が過剰であることから、著しいカーボン流出が認められた。
【0089】
比較例23及び24は、電槽に組み込む極板群の圧迫状態を本発明の範囲外としたものである。比較例23は、極板群の圧迫状態が低いため、正極活物質の軟化抑制効果が弱く、サイクル寿命が著しく低かった。比較例24は、極板群の圧迫状態が高いため、正極板及び負極板間の距離が短くなり、サイクル寿命試験中に短絡を起こし、サクル寿命が著しく低かった。
【0090】
以上の実施例及び比較例の結果から、極板群における液占有率、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流、電槽化成中の電池の温度のうち一つでも本発明の範囲外にすると、良好な結果が得られないことが分かった。
【0091】
(実施例27〜34)
これらの実施例は、負極活物質に添加するカーボン量を変化させたものである。カーボン量は、常法に従って作製した負極活物質ペーストに、カーボンを負極活物質量に対して、夫々、表3に示すように0.05〜6.0質量%の範囲で添加した負極活物質ペーストを充填することにより変化させた。このように負極活物質に添加するカーボン量を変化させたこと以外は、実施例12(極板群における液占有率85%、及び、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流値0.5mA/cm)と同一にして実施した。このようにして製造した制御弁式鉛蓄電池について、上記と同じくしてカーボン流出の程度、端極板の化成状態及びサイクル寿命を評価した。
【0092】
これら実施例の結果を、下記の表3に示した。また、表3には、比較のために実施例12の結果も記載した。
【0093】
【表3】

【0094】
表3から明らかなように、負極活物質へのカーボン添加量を0.05〜6.0質量%とした、実施例12及び実施例27〜34では、カーボン流出、化成状態及びサイクル寿命が良好であった。その中でも、負極活物質へのカーボン添加量を0.5〜2.0質量%の範囲とした、実施例12、29及び30は、カーボン流出が全く無く、かつ化成状態及びサイクル寿命も著しく良好であった。ここで、実施例27ではカーボン添加量が0.05質量%と少ないため負極の充電受入性があまり良好ではなく、サイクル寿命が多少低下したものと考えられる。また、実施例34ではカーボンの添加量が6.0質量%と多いことから、多少のカーボン流出が見られ、サイクル寿命も多少低下したものと考えられるが、化成状態は良好であった。これらの実施例においても、本発明の効果を著しく損なうものではなかった。また、実施例12及び実施例27〜34では、極板群における液占有率を85%とし、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流値を0.5mA/cmとし、かつ、電槽化成時の電池温度を36〜37℃として、負極活物質へのカーボン添加量を0.05〜6.0質量%の範囲で変化させたが、上記の液占有率、充電電流値及び電池温度を、本発明の範囲内の種々の値に設定して、負極活物質へのカーボン添加量を0.05〜6.0質量%の範囲で変化させたところ、上記の実施例と同様な傾向が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の方法によれば、水素ガスの発生に伴うカーボン流出、並びに、電解液へのカーボンの溶出及び浮遊を防止し得、かつ、電槽化成全体を通して効率の高い温度での化成が可能となる。従って、製造した制御弁式鉛蓄電池は内部での短絡がなく、かつ、このような制御弁式鉛蓄電池の効率的な製造を可能にすることができるばかりではなく、製造した制御弁式鉛蓄電池のサイクル寿命は著しく長い。よって、本発明の方法は、負極にカーボンを添加した制御弁式鉛蓄電池の製造のために、今後、大いに利用されることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛又は鉛合金から成る格子基板にペースト状活物質を充填して成る正極板と、鉛又は鉛合金から成る格子基板にカーボンを含むペースト状活物質を充填して成る負極板とを、ガラス繊維を主とするリテーナマットを介して積層して極板群を形成し、次いで、該極板群を40〜100kPaの群圧で電槽内に収納して施蓋封口した後、該電槽内に希硫酸電解液を注入して電槽化成し、次いで、補液、補充電するところの、制御弁式鉛蓄電池の製造方法において、
1)上記希硫酸電解液の注入量を、極板群における液占有率の75〜95%とし、
2)上記電槽化成を、負極活物質の理論容量に対する充電量が100%に達してから、正極活物質の理論容量に対する充電量が200%に達するまでの間の充電電流が、正極板総表面積に対して1.0mA/cm以下となるようにして実施し、かつ
3)上記電槽化成時の電池温度を30〜45℃に抑える
ことを特徴とする制御弁式鉛蓄電池の製造方法。
【請求項2】
上記1)の注入量が、極板群における液占有率の80〜85%である、請求項1記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法。
【請求項3】
上記2)の充電電流が0.1〜1.0mA/cmである、請求項1又は2記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法。
【請求項4】
負極板に充填するペースト状活物質に含まれるカーボン量が、負極活物質量に対して、0.1〜5.0質量%である、請求項1〜3のいずれか一つに記載の制御弁式鉛蓄電池の製造方法。

【公開番号】特開2012−169089(P2012−169089A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27940(P2011−27940)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】