説明

制御装置及びこれを備えた作業機械

【課題】各アクチュエータに実際に必要となる馬力を超えた吸収馬力が設定されるのを抑制することができる制御装置及びこれを備えた作業機械を提供すること。
【解決手段】シリンダ9、11のうち操作対象となるシリンダとこのシリンダについてなされる操作の方向とによって特定される操作内容ごとに、その操作量と油圧ポンプ17Aの吸収馬力の上限値とを関連付けたマップを記憶する記憶部31と、操作レバー22、23によって少なくとも一つのシリンダに対する作動指令が入力された場合に、前記記憶部に記憶されたマップを用いてシリンダ9、11毎に吸収馬力の上限値を決定する操作馬力決定部32と、操作馬力決定部32により決定された吸収馬力の上限値のうち最も大きな吸収馬力の上限値を選択する高位選択部33と、高位選択部33により選択された吸収馬力以下の馬力となるように油圧ポンプ17Aの容量を調整するレギュレータ24Aとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアクチュエータに作動油を供給するための油圧ポンプの馬力制御を行う制御装置及びこれを備えた作業機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンで駆動される可変容量式の油圧ポンプと、この油圧ポンプから供給される作動油によって作動する複数のアクチュエータとを備えた作業機械が知られている。
【0003】
この種の作業機械では、オペレータによって入力されるアクセル指令やモード選択指令に基づいて油圧ポンプの吸収馬力(トルク)を設定し、油圧ポンプの出力(複数の油圧ポンプを有する場合には各油圧ポンプの出力の合算値)が前記吸収馬力を超えないように油圧ポンプの傾転角を制御することが行われている。
【0004】
しかし、前記吸収馬力を一定値に固定すると、作業条件(負荷の大きさやアクチュエータ操作の組み合わせ)によっては、油圧ポンプの出力が各アクチュエータの作動に実際に必要な出力以上に設定されて作業効率が低下する場合がある。
【0005】
このような問題を抑制すべく、例えば、特許文献1及び2には、油圧ポンプの吐出圧を検出し、この吐出圧の大小に応じて油圧ポンプの吸収馬力を調整するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−248186号公報
【特許文献2】特開2002−138965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、各アクチュエータの速度制御等の観点から油圧回路にはM/I(メータイン)開口やM/O(メータアウト)開口の絞りが設けられており、これらの絞りの結果として表れる油圧ポンプの吐出圧は、各アクチュエータの作動に必要な負荷に正確に対応するものではないため、引用文献1及び2の構成のように油圧ポンプの吐出圧に基づいて油圧ポンプの吸収馬力を設定した場合には、各アクチュエータに実際に必要となる馬力を超えた吸収馬力が設定されてしまうという問題があった。
【0008】
具体的に、例えば、作業機械のブームの上げ下げを行なうためのブームシリンダにおいては、ブーム上げ操作及び下げ操作のいずれにおいても前記絞りに応じた圧損により油圧ポンプの吐出圧は大きくなるものの、実際に必要な吸収馬力としては、上げ操作で大きく、下げ操作では小さい。このような場合であっても、引用文献1及び2においては、その操作内容に関係なく油圧ポンプの吐出圧に応じて油圧ポンプの吸収馬力が設定されているため、各アクチュエータの作動に必要な出力を超えて油圧ポンプの吸収馬力が設定されることになる。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、各アクチュエータに実際に必要となる馬力を超えた吸収馬力が設定されるのを抑制することができる制御装置及びこれを備えた作業機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、エンジンにより駆動される可変容量式の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから作動油が供給される複数のアクチュエータとを有する作業機械に設けられる制御装置であって、前記各アクチュエータに対する作動指令を入力するために操作を受ける入力部と、前記各アクチュエータのうち操作対象となるアクチュエータとこのアクチュエータについてなされる操作の方向とによって特定される操作内容ごとに、その操作量と前記油圧ポンプの吸収馬力の上限値とを関連付けた馬力情報を記憶する記憶部と、前記入力部によって少なくとも一つのアクチュエータに対する作動指令が入力された場合に、前記記憶部に記憶された馬力情報を用いて各アクチュエータ毎に前記吸収馬力の上限値を決定する操作馬力決定部と、前記操作馬力決定部により決定された吸収馬力の上限値のうち最も大きな吸収馬力の上限値を選択する高位選択部と、前記高位選択部により選択された吸収馬力以下の馬力となるように前記油圧ポンプの容量を調整する容量調整部とを備え、前記記憶部に記憶された馬力情報のうち、少なくとも一つの操作内容に係る馬力情報は、前記入力部の操作量の変化に応じて吸収馬力の上限値が変化する特性を有することを特徴とする作業機械の制御装置を提供する。
【0011】
本発明によれば、各アクチュエータの操作内容ごとに油圧ポンプの吸収馬力の上限値を決定し、これら吸収馬力の上限値のうちの最も大きな吸収馬力以下の馬力となるように油圧ポンプを駆動するため、各アクチュエータの操作に実際に必要となる馬力を超える吸収馬力が設定されるのを抑制することができる。
【0012】
また、本発明では、入力部の操作量の変化に応じて吸収馬力の上限値が変化する特性を有する馬力情報を少なくとも一つ有しているため、この馬力情報に係るアクチュエータについては、入力部の操作量にかかわらず吸収馬力の上限値が一定とされている場合と比較して、入力部の操作量が小さなときに吸収馬力の上限値をより小さく設定することができる。
【0013】
特に、前記作業機械の制御装置において、前記記憶部に記憶された馬力情報の全てが、前記入力部の操作量の変化に応じて吸収馬力の上限値が変化する馬力変化特性を有する構成とすれば、操作量が少ない場合における吸収馬力の上限値をより顕著に小さくすることができる。
【0014】
前記作業機械の制御装置において、前記馬力変化特性の中には、前記入力部の操作量が一定量以下の範囲においては前記入力部の操作量にかかわらず吸収馬力の上限値が一定となり、かつ、前記操作量が一定量を超える所定範囲においては前記入力部の操作量に応じて吸収馬力の上限値が増減する特性が含まれていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、未操作状態から一定量以下の範囲が入力部のいわゆる「遊び」とされているため、オペレータの身体が触れる等して入力部が誤ってわずかに操作されただけでも油圧ポンプの吸収馬力の上限値が急激に変化するといった不都合を回避することができる。
【0016】
さらに、前記構成では、前記操作量が一定量の範囲を超えると入力部の操作量に応じて吸収馬力の上限値が増減するので、入力部の操作の有無に応じて油圧ポンプの吸収馬力の上限値が最小値から最大値に変化する場合と異なり、油圧ポンプの吸収馬力の上限値をスムーズに変化させることができる。
【0017】
したがって、前記構成によれば、入力部の操作量に対する吸収馬力の上限値の変化の幅を小さくすることにより、オペレータに与える違和感を低減することができる。
【0018】
前記作業機械の制御装置において、前記エンジンの出力が所定値を超えない前記油圧ポンプの吸収馬力の上限値として設定された仮上限馬力と前記高位選択部により選択された吸収馬力の上限値とを比較して小さい馬力を選択する低位選択部をさらに備え、前記容量調整部は、前記低位選択部により選択された吸収馬力の上限値以下となるように前記油圧ポンプの容量を調整することが好ましい。
【0019】
この構成によれば、前記高位選択部により選択された吸収馬力の上限値にかかわらず常に仮上限馬力以下の吸収馬力で油圧ポンプが駆動されるので、前記高位選択部により選択された吸収馬力の上限値が大きいためにエンジンの負荷が過度に大きくなるのを回避することができる。
【0020】
前記作業機械の制御装置において、前記記憶部は、前記各操作内容のうちの一部である特定の操作内容については、前記入力部の操作量の変化に応じて吸収馬力の上限値が変化する特性を有する馬力情報を記憶しており、前記特定の操作内容以外の操作内容については、その操作量にかかわらず、吸収馬力の上限値が、前記エンジンの出力が所定値を超えない前記油圧ポンプの上限値として設定された仮上限馬力で一定となる特性を有する馬力情報を記憶していることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、各操作内容のうち、特定の操作内容については入力部の操作量の変化に応じて吸収馬力の上限値が変化する特性を有する馬力情報を利用して、操作量の少ない範囲における吸収馬力の低減を図るとともに、前記特定の操作内容以外の操作内容については前記仮上限馬力を吸収馬力の上限値として決定してエンスト等の発生を抑制することができる。ここで、「特定の操作内容」としては、負荷が比較的小さな操作内容にすることが好ましく、例えばブーム下げ操作を特定の操作内容とすることができる。
【0022】
前記作業機械の制御装置において、前記操作馬力決定部は、前記吸収馬力の上限値を前記仮上限馬力に対する比率として決定することが好ましい。
【0023】
この構成によれば、油圧ポンプの吸収馬力を仮上限馬力に対する相対的な値として定義することが可能となる。
【0024】
また、本発明は、エンジンと、前記エンジンにより駆動される可変容量式の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから作動油が供給される複数のアクチュエータと、請求項1〜6の何れか1項に記載の制御装置とを備え、この制御装置の入力部は、前記各アクチュエータに対する作動指令を入力するための操作を受け、前記操作馬力決定部は、前記油圧ポンプの吸収馬力の上限値を前記各アクチュエータのそれぞれについて決定し、前記容量調整部は、各吸収馬力の上限値のうち最も大きな吸収馬力の上限値以下の馬力となるように前記油圧ポンプの容量を調整することを特徴とする作業機械を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、各アクチュエータに実際に必要となる馬力を超えた吸収馬力が設定されるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルを示す側面図である。
【図2】図1の油圧ショベルに設けられた制御装置の電気的及び油圧的構成を示す回路図である。
【図3】図3は、制御部の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、記憶部に記憶されたマップの一例を示す図である。
【図5】図3の制御部により実行されるフローチャートである。
【図6】本発明の他の実施形態に係る処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係る油圧ショベルを示す側面図である。
【0029】
図1を参照して、作業機械の一例としての油圧ショベル1は、クローラ2aを有する下部走行体2と、この下部走行体2上に旋回可能に設けられた上部旋回体3と、この上部旋回体3に起伏可能に支持された作業アタッチメント4と、上部旋回体3に設けられた制御装置5(図2参照)とを備えている。
【0030】
作業アタッチメント4は、ブーム6と、このブーム6の先端部に連結されるアーム7と、このアーム7の先端部に揺動可能に取り付けられたバケット8とを備えている。ブーム6は、ブームシリンダ9の伸縮動作によって上部旋回体3に対して起伏する。アーム7は、アームシリンダ10の伸縮動作によってブーム6に対して揺動する。バケット8は、バケット用シリンダ11の伸縮動作によってアーム7に対して揺動する。
【0031】
下部走行体2には、図外の旋回モータが設けられ、この旋回モータの回転駆動に応じて下部走行体2に対し上部旋回体3が垂直軸回りに旋回するようになっている。
【0032】
そして、本実施形態では、各シリンダ9〜11及び旋回モータ(図示せず)がアクチュエータの一例を構成している。なお、以下の説明では、各アクチュエータを代表してブームシリンダ9及びバケット用シリンダ11のみを図示して説明する。
【0033】
図2は、図1の油圧ショベル1に設けられた制御装置5の電気的及び油圧的構成を示す回路図である。
【0034】
図2を参照して、制御装置5は、前記シリンダ9〜11及び旋回モータを含む油圧回路14と、この油圧回路14における作動油の流通を電気的に制御する制御部15とを備えている。そして、制御装置5は、油圧回路14に設けられた後述の油圧ポンプ17A、17Bの傾転角を調整することにより、当該油圧ポンプ17A、17Bの吸収馬力を適宜調整するようになっている。なお、シリンダ9、11に作動油を供給する油圧ポンプ17Aの吸収馬力の制御について下記に詳述するが、油圧ポンプ17Bについても同様の制御を行うことができる。
【0035】
具体的に、油圧回路14は、エンジン16によって駆動される一対の油圧ポンプ17A、17Bと、油圧ポンプ17Aから吐出された作動油を各シリンダ9、11にそれぞれ供給するとともに、これらシリンダ9、11のそれぞれから導出された作動油をタンクTに導くための給排路18、19と、これら給排路18、19の途中部に設けられたコントロールバルブ20、21と、これらコントロールバルブ20、21に対してパイロット圧を供給するための操作レバー(入力部)22、23とを備えている。
【0036】
油圧ポンプ17A、17Bは、それぞれ可変容量式のポンプであり、傾転角調整用のレギュレータ24A、24Bをそれぞれ備えている。これらレギュレータ24A、24Bは、後述する制御部15に電気的に接続されている。なお、図示を省略するが、油圧ポンプ17Bは、他の油圧アクチュエータ(アームシリンダ10、旋回モータ等)に作動油を供給するようになっている。各油圧ポンプ17A、17Bに接続された油路には、当該油圧ポンプ17A、17Bによる作動油の吐出圧を検出可能なポンプ圧センサ25A、25Bがそれぞれ設けられている。これらポンプ圧センサ25A、25Bは、それぞれ制御部15に電気的に接続されている。
【0037】
給排路18、19は、コントロールバルブ20、21の切換操作に応じて、それぞれ油圧ポンプ17A及びタンクTを、シリンダ9、11のロッド側室又はヘッド側室に接続するようになっている。
【0038】
具体的に、コントロールバルブ20、21は、各シリンダ9、11のロッド側室と油圧ポンプ17Aとを連通させる切換位置Xと、各シリンダ9、11のヘッド側室と油圧ポンプ17Aとを連通させる切換位置Yと、各シリンダ9、11と油圧ポンプ17A及びタンクTとを遮断する中立位置Zとの間で切換可能にそれぞれ構成されている。また、コントロールバルブ20、21は、それぞれパイロット圧が付与されていない状態において、中立位置Zに保持されている。
【0039】
操作レバー22は、パイロットポンプ26から吐出される作動油を各コントロールバルブ20のパイロットポート20a又はパイロットポート20bに供給可能とされている。また、操作レバー23は、パイロットポンプ27から吐出される作動油を各コントロールバルブ21のパイロットポート21a又はパイロットポート21bに供給可能とされている。
【0040】
操作レバー22、23とコントロールバルブ20、21とを繋ぐパイロットラインには、4つの操作圧センサ28a、28b、29a、29b(以下、操作圧センサ28a〜29bと称することもある)設けられている。操作圧センサ28aは、コントロールバルブ20のパイロットポート20aに付与されたパイロット圧を検出可能とされ、操作圧センサ28bは、コントロールバルブ20のパイロットポート20bに付与されたパイロット圧を検出可能とされている。また、操作圧センサ29aは、コントロールバルブ21のパイロットポート21aに付与されたパイロット圧を検出可能とされ、操作圧センサ29bは、コントロールバルブ21のパイロットポート21bに付与されたパイロット圧を検出可能とされている。
【0041】
以下、図3を参照して制御部15の具体的構成について説明する。
【0042】
図3を参照して、制御部15は、前記操作レバー22、23の操作量及び操作方向を特定する操作特定部30と、油圧ポンプ17A、17Bの吸収馬力のマップ(馬力情報:図4参照)を記憶する記憶部31と、この記憶部31から吸収馬力を読み出す操作馬力決定部32と、操作馬力決定部32により決定された吸収馬力のうち最も大きな吸収馬力を選択する高位選択部33と、後述する仮上限馬力を決定する仮上限馬力決定部34と、高位選択部33により選択された吸収馬力及び仮上限馬力のうち小さいものを選択する低位選択部35と、第1流量を算出するための第1流量算出部36と、第2流量を算出する第2流量算出部37と、第1流量及び第2流量のうち小さいものを選択する低位選択部38とを備えている。
【0043】
操作特定部30は、前記操作圧センサ28a〜29bにより少なくとも一つの操作レバーの操作が検出されたときに、当該操作圧センサ28a〜29bによる検出信号に基づいて各操作レバー22、23の操作量及び操作方向を特定する。これにより、各シリンダ9、11とこれらシリンダ9、11についてなされる操作の方向とによって特定される操作内容(例えば、ブーム上げ操作、ブーム下げ操作、バケット排土操作、バケット掘削操作)、及び操作レバー22、23の操作量(未操作の状態も含まれる)とが特定される。
【0044】
記憶部31は、図4に示すような吸収馬力の上限値のマップを記憶する。具体的に、このマップは、操作レバー22、23の操作量を横軸に、後述する仮上限馬力に対する比率を縦軸にしたものである。図4には、バケット掘削操作用の設定を破線で、ブーム下げ操作用の設定を実線で例示しているが、本実施形態では、全てのアクチュエータにより行なわれる全ての操作について上記のようなマップが記憶部31に記憶されている。同図から分かるように、比較的負荷の大きなバケット掘削操作においては、操作レバー23の操作量が小さい範囲においても大きな吸収馬力(馬力比率)の上限値に設定されている。一方、ブーム自らの自重も操作方向に作用する負荷の小さなブーム下げ操作においては、操作量の小さな範囲内では吸収馬力(馬力比率)の上限値が小さい値で一定とされている。なお、図4に示す例では、ブーム下げ及びバケット排土の双方において、吸収馬力の上限値が仮上限馬力と同一(馬力比率が100%)に設定されているが、仮上限馬力を超える設定にすることもできる。
【0045】
また、図4に示すマップは、操作レバー22、23の非操作の状態から一定量以下の範囲においては操作レバー22、23の操作量にかかわらず吸収馬力の上限値が一定とされている。そのため、オペレータが不意に操作レバー22、23に触れる等して操作レバー22、23が誤ってわずかに操作されたときでも、油圧ポンプ17Aの吸収馬力が急激に変化するといった不都合を回避できる。また、前記マップ中、前記一定量以下の範囲を超えた所定範囲については、操作レバー22、23の操作量に応じて吸収馬力の上限値が増減する(操作量と馬力比率が比例関係となる)ように設定されているため、操作レバー22、23の操作又は非操作に応じて吸収馬力の上限値を最大又は最小に変化させる場合と比較して吸収馬力の急激な増減を抑制することができ、この点からもオペレータの違和感を緩和することができる。
【0046】
再び図3を参照して、操作馬力決定部32は、前記操作特定部30により特定された操作内容と記憶部31に記憶されたマップとに基づいて、各シリンダ9、11(油圧ポンプ17Aから作動油の供給を受ける全てのアクチュエータのそれぞれ)毎に油圧ポンプ17Aの吸収馬力の上限値を決定する。具体的に、操作馬力決定部32は、前記マップ上における操作レバー22、23の操作量に対応する吸収馬力の上限値を記憶部31から読み出す。
【0047】
高位選択部33は、操作馬力決定部32により決定されたシリンダ9、11(油圧ポンプ17Aから作動油の供給を受ける他のアクチュエータも含む)についての吸収馬力の上限値のうちの最も大きいものを選択する。
【0048】
仮上限馬力決定部34は、エンジン16の出力が所定値を超えない油圧ポンプ17Aの吸収馬力の上限値として仮上限馬力を決定する。具体的に、仮上限馬力は、走行モードや作業モード等の運転モードを切り換えるためのモード選択スイッチ39、又はアクセル40がオペレータによって操作されることにより変動するエンジンの負荷に応じてエンスト等の不具合が生じないように適宜設定されるものである。
【0049】
低位選択部35は、前記仮上限馬力、及び高位選択部33により選択された吸収馬力の上限値のうち小さいものを選択する。
【0050】
第1流量算出部36は、前記低位選択部35により選択された吸収馬力の上限値と、ポンプ圧センサ25A、25Bにより検出された油圧ポンプ17Aの吐出圧とに基づいて、油圧ポンプ17Aの吐出すべき流量である第1流量を算出する。
【0051】
第2流量算出部37は、前記操作圧センサ28a〜29bの検出信号に基づき、操作レバー22、23の操作量に応じて油圧ポンプ17Aが吐出すべき第2流量を算出する。
【0052】
低位選択部38は、前記第1流量と第2流量とを比較して小さい流量を選択し、前記レギュレータ24Aに出力する。
【0053】
以下、図5を参照して、制御部15により実行される処理について説明する。
【0054】
制御部15は、まず、モード選択スイッチ39又はアクセル40からの入力信号に基づいて、エンジンの出力が所定値を超えない油圧ポンプ17Aの吸収馬力の上限値である仮上限馬力を算出する(ステップS1)。
【0055】
次いで、各操作圧センサ28a〜29bの少なくとも一つにより操作圧が検出されたか否かが判定され(ステップS2)、このステップS2は、操作圧が検出されるまで繰返し実行される。
【0056】
一方、操作圧センサ28a〜29bにより操作圧が検出されると(ステップS2でYES)、シリンダ9、11(及び油圧ポンプ17Aから作動油の供給を受ける全てのアクチュエータ)について操作方向及び操作量を特定する(ステップS3)。
【0057】
次いで、各アクチュエータとこのアクチュエータについてなされる操作の方向とによって特定される全ての操作内容ごとに設定されたマップ(図4参照)から操作レバー22、23の操作量に対応する吸収馬力の上限値(仮上限馬力に対する比率)を読み出し(ステップS4)、これら吸収馬力の上限値のうちの最も大きなものを選択する(ステップS5)。
【0058】
具体的には、図4に示すように、操作レバー22によるブーム下げ操作の操作量がA2、操作レバー23によるバケット掘削操作の操作量がA1である場合、操作レバー22の操作量A2により定まる吸収馬力が選択される。また、操作レバー22によるブーム下げ操作の操作量、及び操作レバー23によるバケット掘削操作の操作量がそれぞれA1である場合には、操作レバー23の操作量A1により定まる吸収馬力が選択される。
【0059】
このステップS5により、操作レバー22、23の操作量に応じて必要となる吸収馬力の上限値のうちの最も大きな吸収馬力が選択されることとなるため、オペレータの要求を満たすことができ、かつ、必要最小限の吸収馬力を選択することができる。
【0060】
そして、高位選択された吸収馬力の上限値と、前記ステップS1で算出された仮上限馬力とを比較して小さいものを選択し(ステップS6)、選択された吸収馬力の上限値に基づいて第1流量を算出する(ステップS7)。
【0061】
このように、各アクチュエータに必要な吸収馬力の上限値のうちの高位選択されたものと、仮上限馬力とを比較して小さなものを採用することにより、オペレータの要求する操作を最大限実現しながら、エンジン16の負荷を抑えてエンスト等の不具合を抑制することができる。なお、本実施形態では、高位選択された吸収馬力の上限値と仮上限馬力と比較して小さいものを選択するステップS6を採用しているが、このステップS6は、必須の処理ではない。つまり、高位選択部33により高位選択された吸収馬力の上限値に基づいて第1流量を算出してもよい。
【0062】
また、操作圧センサ28a〜29bの検出結果に基づいて、操作レバー22、23の操作に応じた油圧ポンプ17Aの吐出流量である第2流量を算出し(ステップS8)、この第2流量と前記第1流量のうちの小さな流量となるように、レギュレータ24A、24Bに指令を出力する(ステップS9)。
【0063】
以上説明したように、前記実施形態によれば、各シリンダ9、11の操作内容ごとに油圧ポンプ17Aの吸収馬力(馬力比率)の上限値を決定し、これら吸収馬力の上限値のうちの最も大きな吸収馬力以下の馬力となるように油圧ポンプ17Aを駆動するため、各シリンダ9、11の操作に実際に必要となる馬力を超える吸収馬力が設定されるのを抑制することができる。
【0064】
また、前記実施形態では、記憶部31に記憶されたマップの全てが、操作レバー22、23の操作量の変化に応じて吸収馬力の上限値が変化する特性を有しているため、操作レバー22、23の操作量が少ない場合における吸収馬力の上限値を有効に抑えることができる。
【0065】
前記実施形態のように、操作レバー22、23の操作量が一定量以下の範囲においては操作レバー22、23の操作量にかかわらず吸収馬力の上限値が一定となり、かつ、操作量が一定量を超える範囲においては操作レバー22、23の操作量に応じて吸収馬力の上限値が増減する特性を有するものとして前記マップが設定されている場合、未操作状態から一定量以下の範囲内が操作レバー22、23のいわゆる「遊び」とされているため、オペレータの身体が触れる等して操作レバー22、23が誤ってわずかに操作されただけでも油圧ポンプ17Aの吸収馬力の上限値が急激に変化するといった不都合を回避することができる。
【0066】
さらに、前記実施形態では、操作レバー22、23の操作量が一定量の範囲を超えると操作レバー22、23の操作量に応じて吸収馬力の上限値が増減するので、操作レバー22、23の操作の有無に応じて油圧ポンプ17Aの吸収馬力の上限値が最小値から最大値に変化する場合と異なり、油圧ポンプの吸収馬力の上限値をスムーズに変化させることができる。
【0067】
したがって、前記実施形態によれば、操作レバー22、23の操作量に対する吸収馬力の上限値の変化の幅を小さくすることにより、オペレータに与える違和感を低減することができる。
【0068】
前記実施形態のように、高位選択部33により選択された吸収馬力の上限値と仮上限馬力とを比較して小さい馬力を選択するように構成すれば、高位選択部33により選択された吸収馬力の上限値にかかわらず常に仮上限馬力以下の吸収馬力で油圧ポンプ17Aが駆動されるので、高位選択部33により選択された吸収馬力の上限値が大きいためにエンジン16の負荷が過度に大きくなるのを回避することができる。
【0069】
なお、前記実施形態では、各アクチュエータの全ての操作内容ごとに、操作レバー22、23の操作量に応じて吸収馬力の上限値が変化する馬力変化特性を有するマップ(図4参照)が設定された構成について説明した。これに代えて、記憶部31に記憶されているマップのうち、特定の操作内容についてのマップを上記と同様に操作レバー22、23の操作量に応じて吸収馬力の上限値が変化するものとして設定する一方で、前記特定の操作以外の操作についてのマップを操作レバー22、23の操作量にかかわらず前記仮上限馬力で一定となるように設定することもできる。以下、このようなマップを有する場合における処理について説明する。
【0070】
図6は、本発明の他の実施形態に係る処理を示すフローチャートである。なお、図6では、図5のフローチャートと異なる部分のみを示している。
【0071】
図6を参照して、前記ステップS3において各アクチュエータの操作方向及び操作量が特定されると、吸収馬力の上限値の設定対象となる操作内容が予め設定された特定の操作内容であるか否かが判定される(ステップS41)。ここで、特定の操作としては、吸収馬力が小さくて済むもの(例えば、ブーム下げ)が挙げられる。
【0072】
ステップS41の判定において、特定の操作であると判定されると(ステップS41でYES)、記憶部31に記憶されたマップから操作レバー22、23の操作量に応じた吸収馬力の上限値を読出してこれを当該アクチュエータに設定する(ステップS42)一方、特定の操作内容でないと判定されると(ステップS41でNO)、当該操作内容に係るアクチュエータについては前記仮上限馬力を記憶部31から読み出す(ステップS43)。つまり、本実施形態においては、前記ステップS1(図5参照)において決定された仮上限馬力を予め記憶部31に記憶させておき、これをステップS43において読み出すことになる。
【0073】
このように、特定の操作については操作量に応じた吸収馬力の上限値をマップから読み出すとともに、特定の操作以外の操作については操作量にかかわらず一定の仮上限馬力をマップから読み出すことにより、吸収馬力が小さくて済む操作について必要以上に大きな吸収馬力が設定されるのを防止することができる。
【0074】
そして、全ての操作について馬力が設定されたか否かを判定し(ステップS44)、残りの操作があると判定されると(ステップS44でNO)、前記ステップS41を繰返し実行する一方、全ての操作について馬力が設定されたと判定されると(ステップS44でYES)、前記ステップS5へ移行する。
【0075】
前記実施形態によれば、各操作内容のうち、特定の操作内容については入力部の操作量の変化に応じて吸収馬力の上限値が変化する特性を有するマップを利用して、操作量の少ない範囲における吸収馬力の低減を図るとともに、特定の操作内容以外の操作内容については前記仮上限馬力を吸収馬力の上限値として決定してエンスト等の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
2a クローラ
3 上部旋回体
4 作業アタッチメント
5 制御装置
9 ブームシリンダ(アクチュエータの一例)
10 アームシリンダ(アクチュエータの一例)
11 バケット用シリンダ(アクチュエータの一例)
15 制御部
16 エンジン
17A、17B 油圧ポンプ
22、23 操作レバー(入力部の一例)
30 操作特定部
31 記憶部
32 操作馬力決定部
33 高位選択部
35 低位選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される可変容量式の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから作動油が供給される複数のアクチュエータとを有する作業機械に設けられる制御装置であって、
前記各アクチュエータに対する作動指令を入力するために操作を受ける入力部と、
前記各アクチュエータのうち操作対象となるアクチュエータとこのアクチュエータについてなされる操作の方向とによって特定される操作内容ごとに、その操作量と前記油圧ポンプの吸収馬力の上限値とを関連付けた馬力情報を記憶する記憶部と、
前記入力部によって少なくとも一つのアクチュエータに対する作動指令が入力された場合に、前記記憶部に記憶された馬力情報を用いて各アクチュエータ毎に前記吸収馬力の上限値を決定する操作馬力決定部と、
前記操作馬力決定部により決定された吸収馬力の上限値のうち最も大きな吸収馬力の上限値を選択する高位選択部と、
前記高位選択部により選択された吸収馬力以下の馬力となるように前記油圧ポンプの容量を調整する容量調整部とを備え、
前記記憶部に記憶された馬力情報のうち、少なくとも一つの操作内容に係る馬力情報は、前記入力部の操作量の変化に応じて吸収馬力の上限値が変化する特性を有することを特徴とする作業機械の制御装置。
【請求項2】
前記記憶部に記憶された馬力情報の全てが、前記入力部の操作量の変化に応じて吸収馬力の上限値が変化する馬力変化特性を有することを特徴とする請求項1に記載の作業機械の制御装置。
【請求項3】
前記馬力変化特性の中には、前記入力部の操作量が一定量以下の範囲においては前記入力部の操作量にかかわらず吸収馬力の上限値が一定となり、かつ、前記操作量が一定量を超える所定範囲においては前記入力部の操作量に応じて吸収馬力の上限値が増減する特性が含まれていることを特徴とする請求項2に記載の作業機械の制御装置。
【請求項4】
前記エンジンの出力が所定値を超えない前記油圧ポンプの吸収馬力の上限値として設定された仮上限馬力と前記高位選択部により選択された吸収馬力の上限値とを比較して小さい馬力を選択する低位選択部をさらに備え、
前記容量調整部は、前記低位選択部により選択された吸収馬力の上限値以下となるように前記油圧ポンプの容量を調整することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の作業機械の制御装置。
【請求項5】
前記記憶部は、
前記各操作内容のうちの一部である特定の操作内容については、前記入力部の操作量の変化に応じて吸収馬力の上限値が変化する特性を有する馬力情報を記憶しており、
前記特定の操作内容以外の操作内容については、その操作量にかかわらず、吸収馬力の上限値が、前記エンジンの出力が所定値を超えない前記油圧ポンプの上限値として設定された仮上限馬力で一定となる特性を有する馬力情報を記憶していることを特徴とする請求項1に記載の作業機械の制御装置。
【請求項6】
前記操作馬力決定部は、前記吸収馬力の上限値を前記仮上限馬力に対する比率として決定することを特徴とする請求項4又は5に記載の作業機械の制御装置。
【請求項7】
エンジンと、
前記エンジンにより駆動される可変容量式の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから作動油が供給される複数のアクチュエータと、
請求項1〜6の何れか1項に記載の制御装置とを備え、
この制御装置の入力部は、前記各アクチュエータに対する作動指令を入力するための操作を受け、前記操作馬力決定部は、前記油圧ポンプの吸収馬力の上限値を前記各アクチュエータのそれぞれについて決定し、前記容量調整部は、各吸収馬力の上限値のうち最も大きな吸収馬力の上限値以下の馬力となるように前記油圧ポンプの容量を調整することを特徴とする作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−276126(P2010−276126A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130071(P2009−130071)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】