説明

制振構造物及び制振方法

【課題】 オフィス建物として有効利用できる制振構造物を提供する。
【解決手段】 第1構造物2と、該第1構造物2と間隔をおいて、かつ該第1構造物2を囲むように設けられるとともに、該第1構造物2よりも高い剛性を有する第2構造物10と、前記第1構造物2と前記第2構造物10との間に介装されて、両者2、10間を相対変位可能に連結する複数の制振装置16とを備えている。第1構造物2は、鉄骨構造の高層のオフィス建物であり、前記第2構造物10は、鉄骨構造、コンクリート充填鋼管構造、又は鉄筋コンクリート構造の構造物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振構造物及び制振方法に関し、特に、高層のオフィス建物に有効な制振構造物及び制振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
駐車設備付きの建造物の一例が特許文献1に記載されている。この建造物は、中央部に平面視矩形状のボイド空間が設けられ、ボイド空間の周囲にボイド空間を囲むように平面視ロ形状の居住空間が設けられた高層マンション等の建造物であって、ボイド空間を利用して立体駐車設備を設けるとともに、ボイド空間と居住空間との間に耐火壁を設けて、立体駐車設備側又は居住空間側からの出火が居住空間側又は立体駐車設備側に延焼するのを防止するように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2623479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような構成の建造物にあっては、中心部のボイド空間内に立体駐車設備が設けられ、ボイド空間の外側に居住空間が設けられているため、所望の耐震性を付加するためには、使用する柱及び梁の本数が多くし、柱間のスパンを狭くして、建造物の剛性を高めなければならない。このため、各階を、有効床面積が広く、柱間のスパンが広い、開放的なオフィス空間として利用することができず、設計の自由度が低下してしまう。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、高層のオフィス建物として利用した場合、設計の自由度が高く、各階を、有効床面積が広く、柱間のスパンが広い、開放的なオフィス空間として有効利用することができる、所望の耐震性を備えた制振構造物及び制振方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、本発明は、第1構造物と、該第1構造物と間隔をおいて、かつ該第1構造物を囲むように設けられるとともに、該第1構造物よりも高い剛性を有する第2構造物と、前記第1構造物と前記第2構造物との間に介装されて、両者間を相対変位可能に連結する複数の制振装置とを備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明の制振構造物によれば、地震等の外力の入力時に、第1構造物と第2構造物とは、異なる振動モードで振動し、両者の振動エネルギーが制振装置で吸収されることにより、第1構造物の振動が低減されることになる。
【0008】
また、本発明は、前記第1構造物は、鉄骨構造の高層のオフィス建物であり、前記第2構造物は、鉄骨構造、コンクリート充填鋼管構造、又は鉄筋コンクリート構造の構造物であることとしてもよい。
【0009】
本発明の制振構造物によれば、第1構造物である高層のオフィス建物は、剛性が低く設定されているので、使用する柱及び梁の本数が少なく、柱間のスパンを広くすることができ、各階のオフィス空間を、有効面積が広く、柱間のスパンが広い、開放的なオフィス空間として利用することができる。
【0010】
さらに、本発明は、前記第2構造物は、前記オフィス建物の各階に対応して配置される複数の庇を有していることとしてもよい。
【0011】
本発明の制振構造物によれば、第2構造物の各庇により、オフィス建物への日射を遮ることができるので、オフィス建物の空調設備等の負荷を低減させることができ、省エネルギー化を図ることができる。
【0012】
さらに、本発明は、前記第2構造物には、複数のソーラーパネルが取り付けられていることとしてもよい。
【0013】
本発明の制振構造物によれば、第1構造物の屋上や屋根等に設置スペースを設けることなく、第2構造物を利用してソーラーパネルを容易に取り付けることができる。
【0014】
さらに、本発明は、第1構造物の外側に、該第1構造物よりも剛性の高い第2構造物を間隔をおいて、かつ該第1構造物を囲むように設け、前記第1構造物と前記第2構造物との間に複数の制振装置を介装させて、該制振装置を介して前記第1構造物と前記第2構造物との間を相対変位可能に連結し、地震等の外力の入力時に、前記第1構造物と前記第2構造物とを異なる振動モードで振動させて、両者の振動を前記制振装置を介して減衰することにより、前記第1構造物の振動を低減させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上、説明したように、本発明によれば、地震等の外力の入力時に、第1構造物と第2構造物とは、異なる振動モードで振動し、両者の振動エネルギーが制振装置で吸収されることにより、第1構造物の振動が低減されることになる。この場合、第1建物は、剛性が低く設定されているので、第1建物を高層のオフィス建物とした場合、オフィス建物に使用する柱及び梁の本数を少なく、柱間のスパンを広くとることができる。従って、各階のオフィス空間を、有効床面積が広く、柱間のスパンが広い、開放的なオフィス空間とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による制振構造物及び制振方法の第1の実施の形態の全体を示した該略図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明による制振構造物及び制振方法の第2の実施の形態の全体を示した該略図である。
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】図3の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1及び図2には、本発明による制振構造物及び制振方法の第1の実施の形態が示されていて、図1は、制振構造物の全体を示す概略図、図2は図1のA−A線断面図である。
【0018】
すなわち、本実施の形態の制振構造物1は、第1構造物2と、第1構造物2の外側に所定の間隔をおいて、かつ第1構造物2を囲むように設けられる第2構造物10と、第1構造物2と第2構造物10との間に介装されて、両者2、10間を相対変位可能に連結する複数の制振装置16とを備えている。
【0019】
第1構造物2は、例えば、平面視矩形状の鉄骨構造(S構造)の高層のオフィス建物であって、中心部に平面視矩形状のボイド空間5が上下方向に貫通した状態で設けられ、ボイド空間5の周囲に複数階層のオフィス空間6が設けられている。
【0020】
第1構造物2は、一般的なラーメン架構の鉄骨構造の高層のオフィス建物に比べて、使用する柱3及び梁4の本数を少なく、かつ、柱3、3間のスパンを広くすることにより、全体の剛性を低く設定している。これにより、一般的なラーメン架構の鉄骨構造の高層のオフィス建物に比べて、各階のオフィス空間6の設計の自由度を高めることができ、各階のオフィス空間6の有効床面積を広く、柱3や梁4の本数の少ない開放的な空間とすることができる。
【0021】
また、第1構造物2の全体の剛性を低く設定することにより、地震等の外力が第1構造物2に入力した時に、第1構造物2には長周期の振動が生じることになり、後述するように、この第1構造物2の長周期の振動と第2構造物10に生じる短周期の振動とが制振装置16で減衰されることにより、第1構造物2の振動が低減される。
【0022】
第1構造物2の中心部のボイド空間5は、自然換気を行うための吹き抜け空間、立体駐車設備、エレベータシャフト、空調設備等を設置するための設置空間等として利用される。ボイド空間5の上端開口は、第1構造物2の頂部に設けられる屋根架構7によって閉塞され、上端開口からボイド空間5内に雨水等が浸入するのを防止している。
【0023】
ボイド空間5を立体駐車設備の設置空間として利用する場合には、立体駐車設備と各階のオフィス空間6との間を壁(図示ず)等を介して遮蔽し、立体駐車設備を各階のオフィス空間6から独立した構造物として機能させる。これにより、立体駐車設備からの騒音や振動等が各階のオフィス空間6に伝達するのを防止できる。
【0024】
ボイド空間5をエレベータシャフトの設置空間として利用する場合には、各階のオフィス空間6にボイド空間5を囲むように廊下(図示せず)を設け、廊下を介してエレベータシャフトと各階のオフィス空間6との間を相互に連通し、各階のオフィス空間6から廊下を介してエレベータシャフトに出入り可能に構成する。
【0025】
なお、空調設備等は、ボイド空間5内に設置した立体駐車設備、エレベータシャフト等を利用し、それらの頂部に設置するように構成してもよい。
【0026】
第2構造物10は、第1構造物2よりも剛性を高く設定したラーメン架構の鉄骨構造(S構造)、コンクリート充填鋼管構造(CFT構造)、鉄筋コンクリート構造等の構造物であって、第1構造物2の周囲を所定の間隔をおいて囲み、かつ第1構造物2よりも高さが低く形成されている。本実施の形態においては、第2構造物10は、第1構造物2の約2/3の高さに形成され、第2構造物10が第1構造物2の下層階及び中層階に対応するように配置されている。
なお、第2構造物10は、上記の高さに限らず、第1構造物2と同一、又は第1構造物2よりも高く形成してもよい。
【0027】
また、本実施の形態においては、第2構造物10を4つの壁面(第1壁面12a、第2壁面12b、第3壁面12c、第4壁面12d)を有する角筒状に形成し、各壁面(12a〜12d)を第1構造物2の各外面(第1外面2a、第2外面2b、第3外面2c、第4外面2d)に対向させている。
【0028】
第2構造物10の各壁面(12a〜12d)は、鉄骨等を格子状に組み合わせて構成したものであって、このような構成の各壁面(12a〜12d)を第1構造物2の四隅に対応して立設した柱11、11間に設けることにより、全体としての剛性を高く設定することができる。
【0029】
上記のようにして、第2構造物10の剛性を高く設定したことにより、地震等の外力が第2構造物20に入力した時に、第2構造物20には短周期の振動が生じることになり、後述するように、この第2構造物10の短周期の振動と第1構造物2の長周期の振動とが制振装置16で減衰されるにより、第1構造物2の振動が低減される。
【0030】
なお、第2構造物10は、上記のような形状に限らず、短周期の振動を生じさせることができる剛性を有する形状であればよい。
【0031】
制振装置16は、第1構造物2と第2構造物10との間の隙間15に介装されて、第1構造物2と第2構造物10とを相対変位可能に連結する所定の減衰性能を有するものであって、本実施の形態においては、両構造物2、10間の隙間15のうち、第1構造物2の各階の外面側の四隅とそれに対応する第2構造物10の内面側の四隅との間に、平面視V形状をなすようにそれぞれ一対ずつ介装されている。
【0032】
制振装置16は、例えば、オイルダンパー、摩擦ダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、履歴型ダンパー、又はこれらを組み合わせたものからなり、両端が第1構造物2と第2構造物10の同一高さ間に連結され、又は、両端が第1構造物2と第2構造物10の異なる高さ間に連結される。
【0033】
上記のような構成の本実施の形態の制振構造物1に地震等による外力が入力すると、その外力によって第1構造物2と第2構造物10とが制振装置16を介して相対変位する。この場合、第1構造物2は剛性が低く、第2構造物10は剛性が高く設定されていることにより、第1構造物2には長周期の振動が生じ、第2構造物10には短周期の振動が生じる。つまり、第1構造物2と第2構造物10とは異なる振動モードで振動することになり、両者2、10間に相対変位が生じる。この相対変位に応じて制振装置16が振動エネルギーを吸収することにより、第1構造物2の振動が低減される。
【0034】
上記のように構成した本実施の形態による制振構造物1にあっては、第1構造物2の柱3、梁4の本数を少なく、柱3、3間のスパンを広くして、第1構造物2の剛性を低く設定したので、第1構造物2の構築に要する費用を大幅に削減することができる。
【0035】
また、第1構造物2の各階のオフィス空間6の有効床面積を広く、柱3や梁4の本数の少ない開放的な空間とすることができるので、第1構造物2をオフィス建物6として有効利用することができる。
【0036】
さらに、剛性の低い第1構造物2の外側に剛性の高い第2構造物10を独立して設けて、第1構造物2と第2構造物10との間を制振装置16で連結したので、第1構造物2に耐震補強を施すことなく、第1構造物2の耐震性を高めることができる。
【0037】
図3〜図4には、本発明による制振構造物1の第2の実施の形態が示されていて、図3は全体を示す概略図、図4は図3のB−B線断面図、図5は図3の要部拡大図である。この制振構造物1は、第2構造物10を、第1構造物2の四隅に対応して設けられる柱11と、隣接する柱11、11間に第1構造物2の各階に対応するように水平に架設される庇13とによって構成し、各庇13の端部と第1構造物2の各階の四隅との間に制振装置16を介装させたものであって、その他の構成は前記第1の実施の形態に示すものと同様である。
【0038】
上記のように構成した本実施の形態による制振構造物1にあっても、前記第1の実施の形態に示すものと同様の作用効果を奏する他、第2構造物10の庇13によって第1構造物2への日射を遮ることができるので、第1構造物2の空調設備の負荷を低減させることができ、省エネルギー化を図ることができる。
【0039】
また、各庇13の上部に植栽14を施すとともに、各庇13の植栽14に水を霧状にして供給するシャワーノズル(図示せず)を設置することにより、第1構造物2の外気温を下げることができ、これによっても第1構造物2の空調設備等の負荷を低減させることができ、省エネルギー化を図ることができる。
【0040】
なお、図示はしないが、第2構造物10を利用してソーラーパネルを取り付け、ソーラーパネルから第1構造物2に電力を供給するように構成してもよい。このように構成することにより、第1構造物2の屋上や屋根等にソーラーパネルの設置スペースを設けることなく、第2構造物10を利用してソーラーパネルを容易に取り付けることができる。
【0041】
また、第2構造物10の各庇13の外側にダブルスキン構造の外装材を設置してもよいし、各庇13外側をガラス板によって閉塞してもよい。さらに、各庇13の外側に各種のオブシェ等を設けてもよい。
【0042】
なお、前記各実施の形態においては、第1構造物2の外側に、第1構造物2の全周を囲むように第2構造物10を設けたが、第2構造物10の一部を切り離して設けてもよいし、第2構造物10を平面視コ形状、L形状等に形成して、第2構造物10によって第1構造物2の一部を囲むように構成してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 制振構造物
2 第1構造物(オフィス建物)
2a 第1外面
2b 第2外面
2c 第3外面
2d 第4外面
3 柱
4 梁
5 ボイド空間
6 オフィス空間
7 屋根架構
10 第2構造物
11 柱
12a 第1壁面
12b 第3壁面
12c 第3壁面
12d 第4壁面
13 庇
14 植栽
15 隙間
16 制振装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1構造物と、該第1構造物と間隔をおいて、かつ該第1構造物を囲むように設けられるとともに、該第1構造物よりも高い剛性を有する第2構造物と、前記第1構造物と前記第2構造物との間に介装されて、両者間を相対変位可能に連結する複数の制振装置とを備えていることを特徴とする制振構造物。
【請求項2】
前記第1構造物は、鉄骨構造の高層のオフィス建物であり、前記第2構造物は、鉄骨構造、コンクリート充填鋼管構造、又は鉄筋コンクリート構造の構造物であることを特徴とする請求項1に記載の制振構造物。
【請求項3】
前記第2構造物は、前記オフィス建物の各階に対応して配置される複数の庇を有していることを特徴とする請求項2に記載の制振構造物。
【請求項4】
前記第2構造物には、複数のソーラーパネルが取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の制振構造物。
【請求項5】
第1構造物の外側に、該第1構造物よりも剛性の高い第2構造物を間隔をおいて、かつ該第1構造物を囲むように設け、前記第1構造物と前記第2構造物との間に複数の制振装置を介装させて、該制振装置を介して前記第1構造物と前記第2構造物との間を相対変位可能に連結し、地震等の外力の入力時に、前記第1構造物と前記第2構造物とを異なる振動モードで振動させて、両者の振動を前記制振装置を介して減衰することにより、前記第1構造物の振動を低減させることを特徴とする制振方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−248835(P2010−248835A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101431(P2009−101431)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】