説明

制震補強架構付き構造物

【課題】既存の、あるいは新設のコンクリート造等の主構造体の構面外に、主構造体を制震補強する制震補強架構を主構造体の構面に平行に構築する上で、主構造体の構面外に店舗、廊下、倉庫等の下屋が付属しているか、下屋を付属させる場合に、下屋の空間を犠牲にすることなく、制震補強架構の構築を可能にする。
【解決手段】柱・梁からなるフレーム6を有する主構造体60の構面外にその構面に平行に配列し、互いに間隔を隔てて立設される支柱2と、構面内水平方向に隣接する支柱2,2間に架設されるつなぎ梁4と、ブレース本体51にダンパー52を組み込んだダンパー一体型ブレース5を備えた制震補強架構1が、構面外に下屋64が付属した主構造体60に付加された制震補強架構付き構造物において、下屋64の、主構造体60の構面内水平方向両側位置に側柱7,7を配置し、この両側の側柱7,7上に制震補強架構1を構成する、少なくとも構面内水平方向両側の支柱2,2の最下部に位置する支柱材21,21を立設し、支持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば既存の、あるいは新設のコンクリート造、鉄骨造等の主構造体の構面外に、主構造体を制震補強する制震補強架構を主構造体の構面に平行に構築する上で、主構造体の構面外に店舗、廊下、倉庫等の下屋が付属しているか、下屋を付属させる場合に、下屋の空間を犠牲にすることなく、制震補強架構の構築を可能にする制震補強架構付き構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば既存のコンクリート造躯体等の主構造体に耐震性能、あるいは制震性能を付与する目的で、主構造体の表面に接した状態、もしくは接近した状態で構築される制震補強架構は主構造体の構面外にその構面内水平方向に配列する支柱と、隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースと、同じく隣接する支柱材間に架設されるつなぎ梁を基本的な構成要素とする(特許文献1参照)。
【0003】
各支柱は特許文献1の図3に示すように鉛直方向に分離した複数本の支柱材からなり、上下に分離した支柱材間にはそれぞれの軸の向きを保ったまま両者間の相対水平移動を許容する、水平剛性の小さい絶縁装置(積層ゴム支承や滑り支承等)が介在し、ダンパー一体型ブレースは隣接する支柱の支柱材間に、層間に跨るように架設される。
【0004】
つなぎ梁は主構造体が構面内方向(桁行方向)に層間変形を生じたときに、その層間変形に制震補強架構が追従するよう、主構造体と制震補強架構を一体構造化するために、隣接する支柱材間に架設されながら、主構造体のいずれかの躯体に接合される(特許文献1の段落0066)。絶縁装置は構面内水平方向に隣接する支柱材間の相対移動時には支柱材(の軸)が鉛直状態を維持するように、上下に隣接する支柱材間に介在させられる。特許文献1の図3は本件明細書に添付の図9に相当する。
【0005】
主構造体、あるいは制震補強架構の構面内水平方向に地震が発生し、その方向に層間変形が生じたときには主構造体の各階のスラブ等に接合され、制震補強架構の一部となるつなぎ梁とそのつなぎ梁に接合されている支柱材が主構造体に追従して相対移動し(特許文献1の図3)、構面内水平方向に隣接する支柱材間に架設されているブレースのダンパーが伸縮することにより減衰力を発生し、振動エネルギを吸収する。
【0006】
この特許文献1の制震補強架構は支柱が鉛直方向(軸方向)に複数本の支柱材に分離し、分離した支柱材間に絶縁装置が介在することで、支柱材間に相対水平移動が生じたときに、ブレースが接続された支柱材にブレースからの軸方向力が作用しがらも、軸方向力が地盤と既存フレームとに分散して負担されることで、ダンパーからの軸方向力によって支柱材に過大な曲げモーメントとせん断力が作用する事態が回避される利点を持っている(特許文献1の段落0020)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4038472号公報(請求項1、段落0013〜0026、図1、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の制震補強架構は主に主構造体が既存構造物である場合に、主構造体の耐震補強(制震補強)の目的で主構造体の構面外に付加されるが、例えば主構造体の構面外に店舗、廊下、倉庫等の下屋が付属しているか、新設構造物として構築されるべき主構造体に下屋を付属させようとする場合には、下屋の存在が制震補強架構の支柱の立設を阻害する可能性がある。
【0009】
制震補強架構には主構造体の柱・梁のフレームの内、梁等の水平材から水平力が入力し、ダンパー内蔵のブレースが水平力を減衰させながら支柱に伝達し、地盤と主構造体に分散させて負担させる働きをする。このため、制震補強架構は主構造体の構面から距離を置かない位置に配置されることが適切であるが、下屋の存在を理由に、主構造体の構面から制震補強架構までに距離を置かなければならないとすれば、主構造体からの水平力(水平せん断力)の伝達が十分に行われず、制震補強架構の機能が十分に発揮されない可能性が生ずる。
【0010】
一方、下屋の存在にも拘らず、制震補強架構を主構造体の構面に接近させて配置しようとすれば、制震補強架構を構成する複数本の支柱が下屋に干渉する問題に直面するため、通常(原則)通りに最下部の支柱材を地盤、もしくは基礎に支持させる形で支柱を立設することができない。そこで、下屋の屋根を貫通させて支柱を立設しようとすれば、下屋の屋内に支柱が露出し、下屋内部の空間の使い勝手を低下させる他、支柱貫通部分回りの補強と水密処理が新たに発生するため、合理的な方法とは言えない。
【0011】
この発明は上記背景より、既存、あるいは新設の主構造体に下屋が付属する場合に、制震補強架構の機能を生かしながら、下屋屋内への影響を発生させない形式の制震補強架構付き構造物を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明の制震補強架構付き構造物は、柱・梁からなるフレームを有する主構造体の構面外にその構面に平行に配列し、互いに間隔を隔てて立設される支柱と、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設されるつなぎ梁と、同じく構面内水平方向に隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースを備え、前記支柱が鉛直方向に複数本の支柱材に分離し、上下に分離した支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在した、前記主構造体を制震補強するための制震補強架構が、構面外に下屋が付属した前記主構造体に付加された制震補強架構付き構造物において、
前記下屋の、前記主構造体の構面内水平方向両側位置に側柱が配置され、この両側の側柱上に前記制震補強架構を構成する、少なくとも構面内水平方向両側の支柱の最下部に位置する支柱材が立設され、支持されていることを構成要件とする。
【0013】
主構造体を含む構造物は例えば既存の、あるいは新設のコンクリート造(鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造を含む)構造物の他、鉄骨造の構造物であり、建築構造物と橋梁等の土木構造物の双方を含む。制震補強架構が接合される主構造体の躯体(部位)は建物の柱、梁、スラブ、基礎等の他、橋梁の橋桁、橋脚、フーチング等が該当する。主構造体は主として鉄筋コンクリート造構造物の一部であるが、無筋コンクリートやモルタル等の場合もある。
【0014】
主構造体と制震補強架構の接合部位は問われず、例えば新旧のスラブ同士、梁(桁)同士、柱同士、基礎同士等、あるいは制震補強架構の構築位置等に応じ、これらの任意の組み合わせ等になるが、制震補強架構は主構造体のいずれかの部位の表面に制震補強架構を構成するスラブや梁等が接合され、主構造体との間で水平せん断力の伝達が可能な状態で構築される。主構造体に対する制震補強架構の構築の時期も問われず、主構造体との打ち継ぎのように主構造体の構築直後に制震補強架構を構築する場合の他、主構造体の構築が完了し、使用期間中に主構造体に対する補強の必要性が発生したとき等になる。
【0015】
制震補強架構は主構造体の構面に平行に配列し、その構面内水平方向に互いに間隔を隔てて配列し、鉛直方向に複数本の支柱材に分離した支柱と、上下に分離した支柱材間に介在し、両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置と、同一レベルで隣接する支柱材間に架設され、両支柱材を互いにつなぐつなぎ梁と、既存フレームの構面内の支柱材間に架設される上記ダンパー一体型ブレース(以下、ブレース)から構成される。「構面内水平方向」は主構造体の桁行方向を指し、構面外方向は主構造体のスパン方向を指す。
【0016】
制震補強架構の支柱の内、少なくとも構面内水平方向両側の支柱は下屋の両側に立設された側柱に立設され、支持されることにより側柱を通じて地上、もしくは基礎に支持される。側柱は下屋の片側に付き、1本とは限らず、2本以上のこともある。制震補強架構が側柱に支持されない支柱を持つ場合、その側柱に支持される支柱以外の支柱は後述のように側柱間に架設される受け梁等に支持され、受け梁等を通じて側柱、もしくは主構造体の柱に支持される。
【0017】
側柱に支持される支柱材は側柱に支持されないその他の支柱を構成する支柱材同士と同様に、側柱に対して自由に相対水平移動可能な状態で接続されるよう、上下に隣接する支柱材間に介在する絶縁装置と同じ絶縁装置を介して支持される。
【0018】
制震補強架構は主構造体の構面外に、主構造体に接する形で構築される場合と、構面から距離を置いて構築される場合があるが、距離を置く場合は、制震補強架構のつなぎ梁が接合される主構造体のいずれかの部位(スラブ等)とつなぎ梁との間で十分な水平せん断力の伝達が行われる程度の距離に抑えられる。つなぎ梁は前記の通り、隣接する支柱材間に架設されながら、主構造体のスラブ等、いずれかの部位に接合されることにより(特許文献1の段落0066)、主構造体と制震補強架構を一体構造化し、主構造体の層間変形に制震補強架構を追従させる。
【0019】
制震補強架構の支柱は最下部に位置する支柱材とその上に位置する上部の支柱材の、計2本の支柱材からなる場合と、図9(特許文献1の図3)に示すように最下部の支柱材21とその上に位置する2本以上の上部の支柱材22,23の、計3本以上の支柱材からなる場合があり、上下に隣接する支柱材21,22、22,23間に絶縁装置3が介在させられる。絶縁装置3はそれが跨る支柱材21,22(22,23)間の水平方向の相対移動を許容しながら、相対移動後に支柱材21,22(22,23)を相対移動前の状態に復帰させる状態(復元可能)に接合される。絶縁装置3として積層ゴム支承が使用される場合は、積層ゴム支承が復元装置を兼ね、積層ゴム支承以外の支承が使用される場合は、ばね等の復元装置が伴われる。
【0020】
前記のように複数本の支柱材に分離し、隣接する支柱材間に絶縁装置が介在した複数本の支柱から構成される制震補強架構の支柱(支柱材)には実質的に曲げモーメントとせん断力が作用しないため、各支柱は制震補強架構の自重を負担すればよい。その支柱が負担すべき軸方向力(圧縮力)は制震補強架構全体の自重を支柱の本数分で割った大きさで済むため、最下部に位置する支柱材が負担すべき軸方向力(圧縮力)も制震補強架構全体の内、それを構成する支柱の本数分の1でよい。また最下部の支柱材からは、側柱を含め、その支柱材を支持するいずれかの部位に対し、曲げモーメントとせん断力を実質的に作用させることがないため、最下部の支柱材を受ける部位は支柱の自重(鉛直荷重)以外の荷重を負担することから解放される。
【0021】
主構造体に付加される補強架構が支柱材に曲げモーメントを負担させる構造であれば、支柱材を受ける部位には曲げモーメントを作用させるため、上記のように最下部の支柱材を支持する部位が鉛直荷重以外の荷重の負担から解放されることは、制震補強架構が鉛直方向に複数本の支柱材に分離し、支柱材間に絶縁装置が介在した複数本の支柱と、隣接する支柱間に架設されるダンパー付きブレースとつなぎ梁から構成されることの特有の利点であることになる。
【0022】
構面内水平方向両側に配置される支柱を支持する側柱を含め、支柱を支持する部位が各支柱の自重(鉛直荷重)のみを負担すればよいことで、制震補強架構の両側の支柱以外(構面内水平方向中間部)の支柱が下屋の屋根上に配置される場合には、支柱の自重は下屋の屋根に負担を与えない範囲で、屋根を通じて間接的に地盤、もしくは主構造体の柱に伝達されればよい。
【0023】
例えば屋根が屋根スラブやトラス構造の屋根架構である場合のように屋根自体が鉛直荷重支持能力を持つ場合には、屋根で支柱を受け、屋根を通じて支柱の鉛直荷重を地盤、もしくは主構造体の柱に伝達すればよい。図7,図8に示すように下屋64の屋根スラブ(屋根65)に、主構造体60のスパン方向を向く梁66が接続する場合には、屋根スラブで受けた支柱の荷重を梁66が主構造体60の柱61に伝達することが期待される。
【0024】
ここで、制震補強架構1を構成する全支柱2の内、構面内水平方向両側の支柱2,2以外(中間部)の支柱2が下屋64の屋根65に支持されることになるとしても、屋根65には支柱2の自重以外の荷重を負担させることがないことで、曲げモーメントの伝達によって屋根65に浮き上がりや局部的な損傷等を生じさせることがないため、屋根65の負担は最小に抑えられ、下屋64の機能は健全に保持される。
【0025】
屋根65自体が鉛直荷重支持能力を持たない場合には、下屋64の両側に配置された側柱7,7間に受け梁8を架設することで(請求項2)、受け梁8で支柱2を受け、受け梁8を通じて支柱2の鉛直荷重を側柱7,7に伝達することができる。受け梁8を架設する場合、受け梁8が支柱2の荷重を直接、負担するため、屋根65は基本的には支柱2の荷重を負担する必要がない。受け梁8は屋根65から浮いた状態にある場合と接した状態にある場合があるが、接した状態にある場合には受け梁8で受ける支柱2の鉛直荷重の一部が屋根65に伝達されることもある。
【0026】
請求項1における「両側の側柱上に少なくとも両側の支柱の最下部に位置する支柱材が立設され、」とは、側柱が下屋の片側に付き、1本とは限らず、複数本配置されることもあり、下屋の片側に付き、複数本の支柱の支柱材が支持されることもある趣旨である。側柱は下屋の片側に付き、1本以上、配置されればよいから、制震補強架構を構成する複数本の支柱の内、2本以上の支柱が側柱に支持され、側柱に支持されない残りの支柱が下屋の屋根等を通じて間接的に地盤に、または主構造体の柱に支持されることになる。側柱は下屋の両側で合わせて2本以上配置されるため、制震補強架構を構成する複数本の全支柱が側柱に支持され、下屋上には支柱が存在しないこともある。
【0027】
制震補強架構の両側の支柱以外(構面内水平方向中間部)の支柱が下屋の屋根上に配置される場合、その中間部の支柱の最下部に位置する支柱材は具体的には、例えば側柱間の、下屋の屋根上に受け梁が架設されることで、受け梁上に立設され、支持されるか(請求項2)、主構造体の制震補強架構側の構面を構成する柱に直接、もしくは間接的に接合され、支持される(請求項3)。側柱間に受け梁が架設される場合(請求項2)、受け梁は上記のように下屋の屋根から浮いた状態にある場合と接触した状態にある場合があるが、浮いた状態にある場合は、両側の支柱を除いた支柱の荷重が下屋に伝達されることがなく、接触した状態にある場合も、受け梁の下面と屋根との間に絶縁装置を介在させることで、両者間の相対水平移動が許容されていれば、下屋に過大な負担を与えないように受け梁を配置することは可能である。
【0028】
下屋64の屋根65が例えば図7、図8に示すように主構造体60の柱61等に接続する梁66に支持されている場合のように、屋根65が両側の支柱2,2を除いた(構面内水平方向中間部の)支柱2の自重を負担する能力を持ち得る場合は、屋根65に支柱2を支持させることも可能である。柱61等に接続する梁66は片持ち梁と両端固定梁の場合がある。図7、図8に示す下屋64の主構造体60側の柱は図1〜図3に示すように主構造体60の柱61が兼ね、反対側には主構造体60の柱61に対向する柱67が配置されている。
【0029】
但し、屋根65に支柱2を支持させる場合も、最下部の支柱材21から下屋64の屋根65に支柱2の自重以外の荷重(曲げモーメント等)を極力、負担させないために、図8に示すように下屋64の屋根65上の、前記構面内水平方向中間部の支柱2の下方位置に、支柱2(支柱材21)と屋根65との間の相対水平移動を許容する絶縁装置9が設置され、支柱2の最下部に位置する支柱材21が絶縁装置9上に立設され、支持される(請求項4)。支柱2(支柱材21)と屋根65との間の相対水平移動を許容する絶縁装置9は図5に示すように側柱7,7間に受け梁8が架設される場合に、その受け梁8と屋根65との間に介在させられることもある。
【0030】
構面内水平方向両側の支柱以外(構面内水平方向中間部)の支柱の支柱材が受け梁上に支持される場合(請求項2)は、受け梁に支持された支柱の自重分の荷重が受け梁から構面内水平方向両側の側柱に伝達され、側柱から地盤、もしくは基礎に伝達される。この場合に、受け梁が屋根に接している場合には、受け梁で受けた支柱の荷重の一部は主構造体の柱に流れることもある。主構造体の柱に直接、もしくは間接的に支持される場合(請求項3)は、支柱の自重分の荷重が主構造体の柱に伝達される。絶縁装置を介して屋根に支持される場合(請求項4)は、屋根に支持された支柱の自重分の荷重が屋根を通じて主構造体の柱に伝達される。請求項3における「主構造体の柱に間接的に支持される」とは、制震補強架構の支柱材と主構造体の柱との間に、中間の柱、梁、スラブ等の荷重伝達部材が介在することを言う。
【0031】
構面内水平方向両側の支柱以外(構面内水平方向中間部)の支柱の最下部に位置する、いずれかの支柱材が下屋の屋根上の受け梁に支持されるか(請求項2)、主構造体の柱に支持されるか(請求項3)、屋根に支持されるか(請求項4)は任意であり、複数の支持方法が組み合わせられることもある。複数の支持方法は例えば主構造体の構面から制震補強架構までの距離に応じて選択される。
【0032】
構面内水平方向両側の支柱以外(中間部)の支柱が下屋の屋根上に直接的に支持される場合(請求項4)、柱の支持がない屋根の領域に部分的に支柱の荷重が集中することによる屋根の破損(損傷)の可能性が問題になり得るが、支柱材の支持位置が主構造体の柱に接近した領域内(柱の支持領域内)であるか、前記のように屋根65(屋根スラブ)の下に主構造体60の柱61等から張り出した上記の梁66が接続していれば、支柱材21からの荷重の、主構造体60の柱61への流れが形成され、柱61で負担される状態になるため、荷重の集中による問題は回避される。
【0033】
前記のように制震補強架構を構成する複数本の全支柱が下屋両側の側柱に支持され、下屋上に支柱が存在しない場合には、制震補強架構は複数本の支柱が下屋を跨いだ両側に立設される側柱に支持されることで制震補強架構が構築され、完成するため、下屋の屋根に支柱を支持させる必要は生じず、側柱間に受け梁を架設する必要も、屋根上に絶縁装置を設置する必要も生じない。
【0034】
下屋を跨いだ側柱間に1本以上の支柱が配置される場合にも、その支柱の最下部の支柱材の設置が下屋の屋根上で済み、下屋の内部で支持される必要がないことで、下屋の内部空間に影響を及ぼすことがないため、下屋屋内への影響を発生させることなく、制震補強架構の機能を生かした制震補強架構の構築が実現される。
【0035】
最下部より上に位置する支柱材は主構造体に、支柱材をつなぐつなぎ梁が主構造体に接合されることにより間接的に接合されて主構造体と共に挙動する。最下部より上に位置する支柱材が直接主構造体に接合されることも考えられるが、制震補強架構と主構造体との間では水平せん断力の伝達が期待されることから、鉛直材である支柱材を直接、主構造体に接合する場合より水平剛性の高いつなぎ梁を介して主構造体(のフレーム)に接合する方が、主構造体からの地震力を制震補強架構に伝達させる上では有効である。
【0036】
ブレース(ダンパー一体型ブレース)は基本的には水平方向に間隔を隔てて配列する支柱間において、いずれかの支柱を構成するいずれかの支柱材と、その支柱材より上、もしくは下に位置し、その支柱の両側に隣接する支柱を構成する支柱材との間に傾斜し、前記いずれかの支柱に関して対称に架設される。但し、上記のように制震補強架構を構成する支柱が構面内水平方向両側の2本のみである場合には、ブレースは支柱に関しては対称にはならない。
【0037】
ブレースがいずれかの支柱に関して対称に架設される場合、図9に矢印で示すようにある層に架設されているブレースに作用する引張力、もしくは圧縮力が支柱に関して対称位置にあるブレースに流れ、最終的には地盤、もしくは基礎に伝達されるため、制震補強架構を構成する支柱自身が最終的に引張力と圧縮力を負担し、処理する場合より支柱の耐力(強度)が小さくて済み、支柱の断面も小さくて済む利点がある。
【0038】
ブレースは制震補強架構の層間変形時における構面内水平方向に隣接する支柱の、レベルの相違する支柱材間の相対変形時に軸方向力を負担するため、この隣接する支柱の、レベルの相違する支柱材間に架設される。この関係で、ブレースの一端は構面内水平方向に隣接する支柱材の内、一方の支柱材の、フレーム、もしくはつなぎ梁との接合部、またはつなぎ梁の、支柱材との接合部に接続され、他端は他方の支柱材の、フレーム、もしくはつなぎ梁との接合部、またはつなぎ梁の、支柱材との接合部に接続される。
【0039】
主構造体が地震力により構面内で変形しようとするときには、図9に二点鎖線で示すように主構造体に一体化している、最下部の支柱材より上の支柱材が主構造体と共に挙動することと、その直下の支柱材から分離し、両支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在していることで、最下部の支柱材より上の支柱材が直下の支柱材に対して相対水平移動する。
【0040】
ブレースは主構造体に一体化している支柱材やその付近のつなぎ梁と、その直下、または直上の支柱材に隣接する支柱材やその付近のつなぎ梁との間に架設されていることで、上下の支柱材の相対水平移動に伴って伸長、または収縮し、その伸長量や収縮量、あるいは伸縮時の速度に応じた減衰力をダンパーが発生し、振動エネルギを吸収する。同時にダンパーが発生する減衰力が主構造体に一体化している支柱材やつなぎ梁から主構造体に作用することで、主構造体の揺れが抑制される。
【0041】
図9に示すように主構造体の構面内水平方向の変形に伴い、分離した上下の支柱材が相対水平移動したとき、ブレースが接続された支柱材にはダンパーからの軸方向力が作用するが、構面内水平方向両側の支柱の最下部に位置する支柱材に作用する軸方向力に対する反力は両側の側柱を通じて地盤や基礎で負担される。構面内水平方向両側の支柱以外の支柱の最下部の支柱材に作用する軸方向力は受け梁を通じ、両側の側柱を経た後に地盤や基礎で負担される(請求項2)。または主構造体の柱を通じてその柱を支持する地盤や基礎で負担される(請求項3、4)。
【0042】
また最下部より上の支柱材に作用する軸方向力に対する反力はつなぎ梁を介して支柱材が接続される主構造体で負担されるため、ダンパーからの軸方向力によって支柱材に過大な曲げモーメントとせん断力が作用する事態は回避され、分離している各支柱材が転倒する可能性と、支柱材の脚部や頂部に過大な応力を生じさせる可能性は解消される。支柱材の脚部や頂部に過大な応力を生じさせる可能性が解消されることで、支柱材自身は必ずしもダンパーからの軸方向力に抵抗し得る強度を有する必要はない。
【0043】
特に最下部の支柱材と最上部の支柱材の中間位置でブレースが接続される支柱材のようにブレースが構面内水平方向の両側に、2方向に接続される支柱材には変形前に同一線上に位置するブレースからの軸方向力が実質的に相殺されるため、支柱材にはダンパーからの軸方向力による曲げモーメントとせん断力はほとんど作用しない。
【0044】
主構造体に入力する地震力の一部は主構造体に接合され、ブレースが接続されている支柱材からブレースに伝達され、そのブレースが負担する。最終的にはブレースが接続され、地盤や基礎に間接的に支持されている最下部の支柱材から地盤に伝達され、負担される。地震力の一部がブレースで負担され、最終的に地盤で負担されることで、主構造体が負担すべき地震力が軽減されるため、主構造体の地震力に対する安全性が向上する。
【0045】
ブレースが地震力の一部を負担しても、制震補強架構を構成する支柱とつなぎ梁は主構造体に入力する地震力を主構造体と共に分担するのではなく、最下部の支柱材より上の支柱材が主構造体と共に挙動して直下の支柱材との間で相対移動を生ずることで、ダンパーが発生する減衰力を主構造体に作用させる働きをする。このため、支柱とつなぎ梁は地震力に抵抗するブレースのダンパーから受ける軸方向力に対する反力を地盤や基礎、あるいは主構造体から受けることができればよく、支柱とつなぎ梁が全長に亘って地震力に抵抗する必要がない。
【0046】
ブレースが接続される支柱材にはダンパーからの軸方向力が作用する結果、軸方向力の鉛直成分が絶縁装置を通じてその上下に隣接する支柱材に伝達されるものの、その上下に隣接する支柱材とは絶縁装置によって切り離されているため、絶縁装置の水平変形可能な範囲で軸方向力の水平成分は上下に隣接する支柱材には伝達されない。また上記のように支柱材自身は必ずしもダンパーからの軸方向力に抵抗し得る強度を有する必要がないことから、支柱とつなぎ梁は主構造体の耐力と剛性を補う程の耐力と剛性を有する必要がなく、地震力を主構造体と共に分担する場合より断面を減ずることが可能になる。
【0047】
制震補強架構を構成する支柱とつなぎ梁が主構造体と共に地震力を分担するとすれば、大地震時に地震力に抵抗することで損傷を受ける可能性があるが、支柱とつなぎ梁は全長に亘って地震力に抵抗する必要がなく、またそれぞれの断面の低減により地震力を主構造体と共に分担する場合より制震補強架構自体の剛性を低下させることができることで、制震補強架構は大地震に対しても柔軟に変形することができるため、損傷を受けることは回避される。
【発明の効果】
【0048】
制震補強架構を構成する複数本の全支柱が下屋両側の側柱に支持され、下屋上に支柱が存在しない場合には、下屋の屋根に支柱を支持させる必要は生じず、側柱間に1本以上の支柱が配置される場合にも、その支柱の最下部の支柱材の設置が下屋の屋根上で済むことで、下屋の内部空間に影響を及ぼすことがないため、下屋屋内への影響を発生させることなく、制震補強架構の機能を生かした制震補強架構を構築することが可能である。

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】制震補強架構付き構造物としての主構造体が集合住宅である場合に、下屋の両側に配置される側柱間に受け梁を架設した場合の構造物の構築例を示した斜視図である。
【図2】図1に示す制震補強架構付き構造物を異なる角度から見たときの様子を示した斜視図である。
【図3】図1に示す制震補強架構を主構造体側から見た様子を示した斜視図である。
【図4】図1の主構造体と制震補強架構を構面内水平方向に見たときの側柱とそれに支持される支柱との関係を示した縦断面図である。
【図5】図1の主構造体と制震補強架構を構面内水平方向に見たときの受け梁に支持される支柱の様子を示した縦断面図である。
【図6】図5のx−x線の平面図である。
【図7】(a)は図1の主構造体と制震補強架構を構面内水平方向に見たときの主構造体の柱に支持される支柱の様子を示した縦断面図、(b)は(a)のy−y線断面図である。
【図8】(a)は図1の主構造体と制震補強架構を構面内水平方向に見たときの下屋の屋根に支持される支柱の様子を示した縦断面図、(b)は(a)の拡大図である。
【図9】制震補強架構を構成する支柱が3本の支柱材からなる場合に、制震補強架構に層間変形が生じ、最下層より上の支柱材が水平方向に相対移動したときの様子を示した立面図である。
【図10】図1に示す制震補強架構付き構造物とは別の制震補強架構付き構造物の制震補強架構と下屋を主構造体の正面から見た様子を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0051】
図1〜図3、図10は柱61と梁62からなるフレーム6を有する主構造体60の構面外にその構面に平行に配列し、構面内水平方向(桁行方向)に互いに間隔を隔てて立設される支柱2と、構面内水平方向に隣接する支柱2,2間に架設されるつなぎ梁と4、同じく面内水平方向に隣接する支柱間に架設される、ブレース本体51にダンパー52を組み込んだダンパー一体型ブレース(以下、ブレース)5を備えた制震補強架構1が付加された制震補強架構付き構造物の構築例を示している。
【0052】
制震補強架構1を構成する支柱2は鉛直方向に複数本の支柱材21,22,23に分離し、上下に分離した支柱材21,22間、及び支柱材22,23間に両者間の相対水平移動を許容する、積層ゴム支承、滑り支承、弾性滑り支承、転がり支承等の絶縁装置3が介在すると共に、構面内水平方向に隣接する支柱材21,22(22,23)間に、制震補強架構1と主構造体60のフレーム6を一体化させるつなぎ梁4が架設される。以下、支柱2を構成する支柱材21〜23の内、最下部に位置する支柱材を21、最上部に位置する支柱材を23、その中間部に位置する支柱材を22とする。
【0053】
主構造体60には構面外に店舗、倉庫、廊下、低層構造物その他の下屋64が付属し、下屋64の、主構造体60の構面内水平方向両側位置に側柱7,7が配置され、この両側の側柱7,7上に制震補強架構1を構成する、少なくとも構面内水平方向両側の支柱2,2の最下部に位置する支柱材21,21が立設され、支持される。制震補強架構1が側柱7,7に支持される2本の支柱2,2とその支柱2,2間に架設されるつなぎ梁4とブレース5のみから構成される場合には、下屋64上には支柱2が存在しない状態になる。側柱7は地中に構築される基礎(フーチング)10に支持され、基礎10は杭に支持されることもある。
【0054】
下屋64の両側位置に配置される側柱7と支柱2は図面では下屋64の片側に付き、1本であるが、それぞれの側に付き2本以上のこともある。また図面では下屋64が構面内水平方向(桁行方向)に主構造体60の長さと同等程度の長さを持っていることから、側柱7,7に支持される支柱2,2以外の構面内水平方向中間部の支柱2が複数本あるが、下屋64の桁行方向の長さに応じ、構面内水平方向中間部の支柱2がなく、全支柱2が側柱7に支持される場合もある。
【0055】
制震補強架構1が側柱7,7に支持される支柱2,2以外の構面内水平方向中間部の支柱2を持つ場合には、後述のように両側の支柱2,2以外の支柱2は受け梁8を通じて両側の側柱7,7に間接的に支持されるか、主構造体60の柱61に直接、もしくは間接的に、あるいは下屋64の屋根65(屋根スラブ、もしくは屋根架構)を支持する梁66等を通じて間接的に支持される。
【0056】
側柱7に直接、支持される最下部の支柱材21は側柱7に支持されないその他の支柱2の、最下部の支柱材21と同じ層に配置されるため、側柱7に支持されない支柱2の、最下部の支柱材21が図5,図8に示すように屋根65に絶縁装置9を介して支持されることと同様に、側柱7との間の相対水平移動が可能な状態に接続される。すなわち、側柱7に直接、支持される最下部の支柱材21は図4に示すように支柱2の上下に隣接する支柱材21,22(22,23)間に介在する絶縁装置3と同じ、あるいは屋根65上に設置される絶縁装置9と同じ絶縁装置3を介して支持される。
【0057】
この側柱7とその上に載る支柱材21との間に介在する絶縁装置3の位置は図1〜図3に示すように制震補強架構1を構成し、同一層に位置する支柱材21,22,23が同一のレベル間(絶縁装置3設置位置)単位で相対移動できるよう、原則として側柱7に支持されない他の支柱材21,22間、あるいは支柱材22,23間に介在する絶縁装置3と同じ、あるいは同等のレベルに揃えられる。
【0058】
図1〜図3、図10は図4に示す構面内水平方向両側の支柱2の側柱7への支持状態と図5に示す両側以外の支柱2の受け梁8への支持状態を組み合わせた場合の例を示している。図5では側柱7,7間に架設された受け梁8が屋根65の上面に接触する状態に至ることがあり得ることを想定し、受け梁8の下面と屋根65の上面との間に絶縁装置9を介在させている。
【0059】
図5では屋根65の上面に絶縁装置9を配置しているのに対し、図4では側柱7とそれに支持される支柱材21との間に介在する絶縁装置3を屋根65の上面のレベルより下方に位置させ、両絶縁装置3、9のレベルが相違しているが、両絶縁装置3、9のレベルは揃えられることもある。受け梁8が屋根65の上面から完全に浮いた状態に保たれる場合のように、受け梁8の下に絶縁装置9を介在させる必要がない場合には、図4のように側柱7上の絶縁装置3が受け梁8のレベルより下方に位置するか上方に位置するかは問われない。
【0060】
図5では構面内水平方向両側の支柱2における最下部の支柱材21の側柱7に対する相対水平移動のレベルが下屋64の屋根65のレベルより下方になるよう、図2に示すように側柱7上の絶縁装置3の上に、支柱材21より短い長さのつなぎ材71を接合し、このつなぎ材71に支柱材21を接合している。側柱7上につなぎ材71を配置している理由は、構面内水平方向両側の支柱2の相対水平移動時に絶縁装置3より上の支柱2が下屋64のいずれかの部分と接触(衝突)しないようにするためである。図1,図2では下屋64の上下の梁66,66を外した区間につなぎ材71が配置されるようにすることで、つなぎ材71と下屋64との衝突を回避している。
【0061】
主構造体60のフレーム6は建築構造物で言えば、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、外壁等にALC版を張り付けた鉄骨造、あるいは鋼管コンクリート造の別を問わず、制震補強架構1を構成する支柱2とつなぎ梁4も鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鋼管コンクリート造の場合がある。コンクリート造の場合は現場打ちコンクリート造とプレキャストコンクリート製の場合がある。
【0062】
図1〜図3に示す例では主構造体60が構面内水平方向(桁行方向)に複数、隣接して構築されており、その方向の片側に位置する主構造体60の構面外に下屋64としての店舗が張り出し、それに隣接する主構造体60の構面外には下屋64としての廊下が配置されている例を示している。
【0063】
下屋64の形態に拘らず、制震補強架構1は構面外方向(スパン方向)には下屋64と干渉する面内に配置され、下屋64の位置(高さ)では形式的には下屋64を構面内水平方向(桁行方向)に跨ぐ形で、または下屋64に載置される形で構築される。図1〜図3、図5では下屋64の構面内水平方向(桁行方向)両側に配置された側柱7,7間の、屋根65上に受け梁8を架設し、受け梁8に両側以外の支柱2を支持させている。
【0064】
つなぎ梁4は構面内水平方向に配列する複数本の支柱2、2をつなぎながら、支柱2を主構造体60に接合する働きをすればよいため、つなぎ梁4が支柱2の構面内方向の側面に突き当たる形で接合されるか、支柱2の構面外方向の側面に重なる形で接合されるかは問われない。つなぎ梁4は主構造体60のフレーム6を構成する柱61、もしくは梁62に直接、または図4に示すように梁62から制震補強架構1側へ張り出すスラブ63に接合される。
【0065】
制震補強架構1を構成する全支柱2の内、少なくとも構面内水平方向(桁行方向)両側に位置する支柱2,2が側柱7,7に支持される。この側柱7,7に支持される支柱2以外に、構面内水平方向(桁行方向)中間部の支柱2が存在する場合におけるその中間部の支柱2は上記のように受け梁8に、または屋根65を通じて主構造体60の柱61に支持されるか、下屋64の屋根65に支持される。各支柱2の支持先に応じて支柱2の最下部に位置する支柱材21は側柱7に接合されるか、図5に示すように受け梁8に、または図7に示すように主構造体60の柱61に、あるいは図8に示すように屋根65に接合される。最下部の支柱材21より上に位置する支柱材22、23はつなぎ梁4を介してフレーム6に間接的に接合されることによりフレーム6と共に挙動する。
【0066】
ブレース5は支柱2、2とつなぎ梁4、4からなる架構(フレーム)内に、水平と鉛直に対して傾斜して架設されるから、ブレース5の一端は構面内水平方向に隣接する支柱材21、21(22、22)の内、一方の支柱材21(22)、もしくはその支柱材21(22)寄りのつなぎ梁4に接続(連結)され、他端は他方の支柱材21(22)の直下、または直上の支柱材22(21)、もしくはその支柱材22(21)寄りのつなぎ梁4に接続(連結)される。
【0067】
制震補強架構1を構成する支柱2、2が図示するように構面内水平方向に3本以上、配列する場合には、ブレース5は構面内水平方向両側以外の中間部に位置するいずれかの支柱2を構成するいずれかの支柱材21(22,23)と、その支柱材21(22,23)より上、もしくは下に位置し、その支柱2の両側に隣接する支柱2、2を構成する支柱材21(22,23)との間に傾斜し、前記いずれかの支柱2に関して対称(線対称)に架設される。
【0068】
図示しないが、例えば1本の支柱2が2本の支柱材21,22からなる場合、ブレース5の一端は最下部の支柱材21やつなぎ梁4に接続され、他端は水平方向に隣接する最下部の支柱材21の直上の支柱材22やつなぎ梁4に接続される。図1等では主構造体60が複数層に亘る既存の集合住宅等の建築物であり、フレーム6の構面が平面をなす場合の例を示しているが、構面が曲面の場合を含め、また主構造体60が既存であるか新設であるかを問わず、建物の形態、あるいは建物の用途は限定されない。
【0069】
図9に示すように1本の支柱2が3本以上の支柱材21,22,23からなる場合はブレース5の架設層が2層以上に亘ることから、最下層のブレース5の一端は2本の場合と同じく最下部の支柱材21やつなぎ梁4に接続され、他端は水平方向に隣接する最下部の支柱材21の直上の支柱材22やつなぎ梁4に接続される。その直上層のブレース5の一端は最下部の支柱材21の直上の支柱材22やつなぎ梁4に接続され、他端はその支柱材22に隣接する支柱材22の直上の支柱材23やつなぎ梁4に接続される。その直上層のブレース5も同様に接続される。
【0070】
最上部の支柱材23を除き、基本的に各支柱材21、22はブレース5への地震力の入力と、その軸方向の変形に伴うダンパー52によるエネルギ吸収の効果を発揮させるために、フレーム6の層間変位に追従するよう、つなぎ梁4を介したフレーム6への接合位置に応じ、1層分乃数層分の高さを有する。最上部の支柱材23はつなぎ梁4を介したフレーム6への接合と、ブレース5の接続ができればよく、必ずしも1層分の高さを有する必要がないため、図1等では最上部の支柱材23の高さをつなぎ梁4の成程度、あるいはそれより大きめの程度に留めている。
【0071】
支柱材21,22が数層分の高さを有する場合は1本のブレース5が数層に亘って架設されることになることで、1層の場合より層間変位によるブレース5の変形量が大きくなるため、ダンパー52によるエネルギ吸収効率が高まる利点がある。
【0072】
ブレース5は図に示すように互いに軸方向に相対移動自在なブレース本体51,51と、一方のブレース本体51に内蔵され、他方のブレース本体51に接続されるダンパー52からなり、ブレース本体51,51の端部に一体化したブラケットにおいて、例えば制震補強架構1の支柱2やつなぎ梁4に接合されたベースプレート等に一体化したガセットプレートに連結される。ブレース5はブレース本体51、51がその両端間に作用する圧縮力と引張力によって相対移動するときにダンパー52が減衰力を発生することによりフレーム6の揺れを抑制する。ダンパー52にはオイルダンパー(油圧シリンダ)等の粘性流体を用いたダンパーが使用される。
【0073】
絶縁装置3には積層ゴム支承、または支柱材21,22(22,23)からの離脱防止のための変形制限機構付きの弾性滑り支承や滑り支承等が使用される。絶縁装置3として積層ゴム支承を使用した場合、ゴムの引張破断を防止するために絶縁装置3は図示しないが、その上端と下端のいずれか一方において上下に分離した支柱材21,22(22,23)の内のいずれか一方の支柱材21(22)に接合され、他方において他方の支柱材22(23)に鉛直方向に相対移動自在に接続(支持)される。「鉛直方向に相対移動自在」とは、支柱材21(22)からの抜け出しが自在であることであり、上側の支柱材22(23)からは下向きに抜け出し自在で、下側の支柱材21(22)からは浮き上がり自在であることを言う。
【0074】
積層ゴム支承の絶縁装置3は図9に示すように積層ゴムの上下に一体化しているフランジ31,32の内の例えば上部のフランジ31を上側の支柱材22(23)の下面に定着させ、下部のフランジ32を下側の支柱材21(22)の上面に定着させることなく、フランジ32の下面に接合されたシアキー33を下側の支柱材21(22)の上面から形成された空洞2aに嵌合させ、水平方向に係合させることにより支柱材22(23)に鉛直方向に相対移動自在に接続される。
【0075】
シアキー33を上部のフランジ31の上面に接合し、これを上側の支柱材22(23)の下面から形成された空洞に嵌合させると共に、下部のフランジ32を下側の支柱材21(22)の上面に定着させることもある。シアキー33を空洞2aに嵌合させる場合、絶縁装置3より上側の支柱材22(23)からの鉛直荷重はフランジ31、32と積層ゴムを通じて、またはフランジ31、32と積層ゴム、及びシアキー33を通じて下側の支柱材21(22)に伝達される。
【0076】
図1〜図3は下屋64の両側に配置された側柱7,7間の、下屋64の屋根65上に受け梁8が架設され、側柱7,7に支持される、構面内水平方向両側の支柱2,2以外の支柱2の最下部に位置する支柱材21がこの受け梁8上に立設され、支持されている場合の例を示している。図4は主構造体60を構面内水平方向に見たときの側柱7位置の断面を、図5は受け梁8位置の断面を示している。図6は側柱7,7と受け梁8、及び受け梁8に支持される支柱2の平面上の位置関係を示している。受け梁8は側柱7,7に、もしくは絶縁装置3を挟んで側柱7,7の直上に位置する最下部の支柱材21,21に、あるいは前記したつなぎ材71,71に接合される。図2,図4等では支柱材21,21の区間が屋根65より上に位置する関係で、支柱材21,21に受け梁8を接合している。
【0077】
受け梁8は下屋64の屋根65上から浮いた状態で、もしくは接触した状態で、両側の側柱7,7間に架設される。接触した状態で架設される場合には、図8に示すように受け梁8と屋根65との間の相対水平移動が許容されるよう、受け梁8と屋根65との間には絶縁装置9が介在させられる。浮いた状態で架設される場合も、受け梁8が支持する支柱2の荷重を受けて撓むことにより接触した状態になり得るため、必要により受け梁8と屋根65との間に絶縁装置9が介在させられる。この絶縁装置9も受け梁8と屋根65との間の相対移動を許容する働きをすればよいため、絶縁装置9には積層ゴム支承、滑り支承、転がり支承等が使用される。
【0078】
受け梁8はそれに支持される全支柱2の鉛直荷重を負担し、荷重の多くを両側の側柱7,7に伝達する役目を果たす。受け梁8が屋根65に接触している場合には支柱2の荷重の一部が屋根65から主構造体60のフレーム6に伝達され、負担される。
【0079】
図6は図4、図5に示す制震補強架構1の配置例の場合における、主構造体60の下屋64側の柱61と下屋64の柱67、及び制震補強架構1の支柱2と側柱7の配置関係を示している。図6に示すように制震補強架構1の支柱2,2間に架設されるつなぎ梁4は主構造体60の柱61、もしくは梁62に接合される関係で、柱61から距離を置かない位置に配置される。側柱7,7は両者間に架設される受け梁8の長さが必要以上に大きくならないような位置、あるいは最短になるような位置に配置される。側柱7と下屋64(屋根65)の外周(縁)との間には、両者間の主構造体60の構面内方向の相対移動時に互いに接触(衝突)しない程度の間隔(クリアランス)が確保されていればよい。
【0080】
図7−(a)は側柱7,7に支持される、構面内水平方向両側の支柱2,2以外の支柱2の最下部に位置する支柱材21が主構造体60の制震補強架構1側の構面を構成する柱61に直接、もしくは間接的に接合され、支持されている場合の例を示している。図7−(b)は(a)のy−y線の断面を示している。
【0081】
図7では下屋64の屋根65上に位置する支柱2の最下部の支柱材21を、その上の支柱材22と同一線上に位置する部分と、主構造体60の柱61に接近した領域に位置する部分を持つ形状に屈曲させるか、湾曲させ、支柱2の自重(鉛直荷重)を主構造体60の柱61に流れるようなZ字形状に形成している。この最下部に位置する支柱材21の屈曲、もしくは湾曲部分は支柱2の自重を負担することにより曲げモーメントとせん断力を受けるが、自重自体が1本の支柱2の自重であることと、制震補強架構1(支柱2)が主構造体60のフレーム(構面:柱61)から距離を置かない位置に配置されることで、最下部の支柱材21が過大な曲げモーメントを負担することはない。
【0082】
最下部の支柱材21と主構造体60の柱61とは、例えば図7−(b)に示すように支柱材21と柱61の接合面の双方にアンカーボルト、スタッドボルト、あと施工アンカー等の定着装置11,11を突設し、この双方の定着装置11,11を含む領域にコンクリート12を打設することにより一体化させられる。図7では柱61が鉄筋コンクリート造で、支柱材21にH形鋼を使用していることに対応し、柱61の支柱材21側の面にアンカーボルトを有するあと施工アンカー等の定着装置11を突設し、支柱材21の柱61側の面(ウェブプレート)にスタッドボルト等の定着装置11を突設している。
【0083】
図8−(a)は下屋64の屋根65上の、側柱7,7に支持される、構面内水平方向両側の支柱2,2以外の支柱2の下方位置に、支柱と屋根65との間の相対水平移動を許容する絶縁装置9が設置され、側柱7,7に支持される、構面内水平方向両側の支柱2,2以外の支柱2の最下部に位置する支柱材21が絶縁装置9上に立設され、支持されている場合の例を示している。
【0084】
ここでは下屋64の屋根65(屋根スラブ)上に、絶縁装置9を固定するための支承材(支承版)68を設置し、支承材68に絶縁装置9を固定している。支承材68は屋根65の表面を保護する役目を果たす。例えば図8−(b)に示すように屋根スラブ(屋根65)上に防水層65aが敷設され、その上にその保護のための押えコンクリート65bが打設されている場合に、絶縁装置9の固定(定着)に伴って押えコンクリート65bを損傷させることがないように支承材68が設置(敷設)される。支承材68には例えばプレキャストコンクリート版等が使用されるが、材質は問われない。
【符号の説明】
【0085】
1……制震補強架構、
2……支柱、21、22、23……支柱材、2a……空洞、
3……絶縁装置、31……上部フランジ、32……下部フランジ、33……シアキー、
4……つなぎ梁、
5……ダンパー一体型ブレース、51……ブレース本体、52……ダンパー、
6……フレーム、60……主構造体、61……柱、62……梁、63……スラブ、
64……下屋、65……屋根、65a……防水層、65b……押えコンクリート、
66……梁、67……柱、68……支承材、
7……側柱、71……つなぎ材、
8……受け梁、
9……絶縁装置、
10……基礎(フーチング)、
11……定着装置、12……コンクリート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱・梁からなるフレームを有する主構造体の構面外にその構面に平行に配列し、互いに間隔を隔てて立設される支柱と、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設されるつなぎ梁と、同じく構面内水平方向に隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースを備え、
前記支柱が鉛直方向に複数本の支柱材に分離し、上下に分離した支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在した、前記主構造体を制震補強するための制震補強架構が、構面外に下屋が付属した前記主構造体に付加された制震補強架構付き構造物において、
前記下屋の、前記主構造体の構面内水平方向両側位置に側柱が配置され、この両側の側柱上に前記制震補強架構を構成する、少なくとも構面内水平方向両側の支柱の最下部に位置する支柱材が立設され、支持されていることを特徴とする制震補強架構付き構造物。
【請求項2】
前記側柱間の、前記下屋の屋根上に受け梁が架設され、前記側柱に支持される、前記構面内水平方向両側の支柱以外の支柱の最下部に位置する支柱材はこの受け梁上に立設され、支持されていることを特徴とする請求項1に記載の制震補強架構付き構造物。
【請求項3】
前記側柱に支持される、前記構面内水平方向両側の支柱以外の支柱の最下部に位置する支柱材は前記主構造体の前記制震補強架構側の構面を構成する柱に直接、もしくは間接的に接合され、支持されていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の制震補強架構付き構造物。
【請求項4】
前記下屋の屋根上の、前記側柱に支持される、前記構面内水平方向両側の支柱以外の支柱の下方位置に、前記支柱と前記屋根との間の相対水平移動を許容する絶縁装置が設置され、前記側柱に支持される、前記構面内水平方向両側の支柱以外の支柱の最下部に位置する支柱材は前記絶縁装置上に立設され、支持されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の制震補強架構付き構造物。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−49954(P2013−49954A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186840(P2011−186840)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【特許番号】特許第4837145号(P4837145)
【特許公報発行日】平成23年12月14日(2011.12.14)
【出願人】(503361444)
【出願人】(510207243)株式会社KSE network (4)
【出願人】(000149594)株式会社大本組 (40)
【Fターム(参考)】