説明

剥離フィルム用シリコーン組成物

【課題】プラスチックフィルムに対して改良された密着性を有する剥離性層を与えるシリコーン組成物を提供する。
【解決手段】
オルガノポリシロキサンを主成分とする剥離フィルム用シリコーン組成物において、
前記(A)オルガノポリシロキサン100質量部に対して、
(B)ジフェニルアルカン誘導体と、少なくとも1つのオルガノオキシ基を有するオルガノポリシロキサン誘導体との付加物 0.3〜3質量部、及び
(C)イソシアヌレートであって、窒素原子に結合された置換基の少なくとも1つが、エポキシ基又はトリアルコキシシリル基を有する、イソシアヌレート 0.1〜2質量部
を含むことを特徴とするシリコーン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離フィルム用シリコーン組成物に関し、詳細には、各種フィルム基材との密着性に優れた硬化膜を与える、剥離フィルム用シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ラミネート紙、プラスチックフィルムなどの各種基材表面上に層を設けて、該基材を剥離可能とすることが行われている。このような剥離性層を形成する材料としてシリコーン組成物が使用されており、たとえば、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金系化合物からなるシリコーン組成物が知られている(特許文献1、2)。
【0003】
該シリコーン組成物は、キュアー性に優れ、かつ、ポットライフも良好なことから多用されている。しかし、基材によっては、該組成物の硬化膜の基材への密着性が十分とはいえず、塗工できる基材が限定され、又は基材の前処理が必要となるなどの問題がある。
【0004】
近年、基材として、品質が均一で安定しており、平滑性も高く、薄膜化が可能なプラスチックフィルムの利用が増加しており、これらのプラスチックとシリコーン硬化皮膜との密着性向上に対する要求が強くなってきている。
【0005】
密着性を向上させるために、種々試みられている。先ず、有機系樹脂又はシランカップリング剤等の、プラスチックとの密着性がシリコーン樹脂より良好な材料をシリコーン組成物に配合する方法がある。しかし、この方法で得られる皮膜は、剥離性が低くなる傾向がある。また、シリコーン樹脂のベースポリマー構造に、RSiO3/2単位を含有する分岐構造をもたせることによって、密着性を向上する方法が知られているが、密着性は十分ではない(特許文献3〜6)。剥離性能の速度依存性を低減することを目的に、溶剤型シリコーン組成物と無溶剤型シリコーン組成物を併用する方法が知られているが、密着性の点では溶剤型シリコーン組成物を超えるものではない(特許文献7、8参照)。さらに、特定の構造の炭化水素基が結合されたシロキサン化学物からなる、優れた密着性向上効果を持つ添加剤が知られている(特許文献9、10)。該密着性向上剤は、特定の用途に対しては良好な結果を得ることができるものの、剥離フィルム用には満足の行く効果は得られない。また、本発明者は、剥離紙用シリコーン組成物に、炭素−炭素二重結合を含む多環式炭化水素基を1分子中に2個以上有するシロキサン系化合物を配合することにより、基材との密着性に優れた硬化皮膜が得られることを見出した(特許文献11)。
【0006】
【特許文献1】特公昭49−26798号公報
【特許文献2】特開昭62−86061号公報
【特許文献3】特開昭63−251465号公報
【特許文献4】特公平3−19267号公報
【特許文献5】特開平9−78032号公報
【特許文献6】特開平11−193366号公報
【特許文献7】特開2000−169794号公報
【特許文献8】特開2000−177058号公報
【特許文献9】特開2000−265062号公報
【特許文献10】特開2005−2142号公報
【特許文献11】特開2005−015666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、シリコーン皮膜の剥離性に影響を与えることなく密着性を改良する方法はこれまでにも提案されてきたが、更なる改良が必要である。そこで本発明は、プラスチックフィルムに対してさらに改良された密着性を有する剥離性の層を与えるシリコーン組成物を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、剥離紙用シリコーン組成物に対して、所定の構造を有する化合物とイソシアヌレート誘導体とを配合することにより、上記目的を達成することができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、オルガノポリシロキサンを主成分とする剥離フィルム用シリコーン組成物において、
前記(A)オルガノポリシロキサン100質量部に対して、
(B)ジフェニルアルカン誘導体と、少なくとも1つのオルガノオキシ基を有するオルガノポリシロキサン誘導体との付加物 0.3〜3質量部、及び
(C)イソシアヌレートであって、窒素原子に結合された置換基の少なくとも1つが、エポキシ基又はトリアルコキシシリル基を有する、イソシアヌレート 0.1〜2質量部
を含むことを特徴とするシリコーン組成物である。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明の組成物から得られる硬化皮膜は、オルガノポリシロキサン皮膜の剥離特性を有しつつ、オルガノポリシロキサン皮膜よりも顕著に優れた基材との密着性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、(B) ジフェニルアルカン誘導体と、少なくとも1つのオルガノオキシ基を有するオルガノポリシロキサン誘導体との付加物(以下「付加物」という)は、極性の異なるオルガノシロキサン部分と芳香族部分とを有することで、シリコーン組成物のフィルムへの密着力を向上する。該付加物の製法は特定のものに限定されないが、例えば、少なくとも1のフェニル基に不飽和置換基を有するジフェニルアルカン誘導体と、SiH基又はメルカプト基等の活性水素を有するケイ素化合物とを付加反応させて得ることができる。該二重結合を含む炭化水素置換基としては、例えばビニル基(CH2=CH−)が挙げられる。ビニル基と、SiH基又はSH基が反応して、−CH2−CH2−Si又は−CH2−CH2−Sで表される結合が形成される。
【0012】
好ましくは、(B)付加物は、下記一般式(I)又は(II)で示される化合物を含み、これらの混合物であってよい。式中Aは、式(i)又は(ii)で示される基である。


ここで、R4互いに独立に水素原子又はメチル基である。R5は水酸基及びはメチル基からなる群より選ばれる基であり、aは0〜2であり、aが2である場合に、R5は水酸基とメチル基であってよい。R6は炭素数1〜10の置換されていてよい一価炭化水素基であり、R7は炭素数1〜8の置換されていてよい一価炭化水素基である。R6、R7は同一であってよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、あるいはこれらの基の水素原子の一部が塩素、フッ素、臭素といったハロゲン原子等で置換された基、例えばトリフルオロプロピル基などである。R6はメチル基であることが好ましい。R7としてはアルキル基及びアルコキシアルキル基が好ましく、工業的にはメチル基が最も好ましい。bは1〜3の整数であり、cは0又は1であり、但しb+cは2又は3、及びxは1〜8の整数である。
【0013】
式(ii)において、cが1である場合には該メルカプト基が反応しているもの、例えば、既に反応しているメルカプト残基が結合しているジフェニルアルカン分子とは異なるジフェニルアルカン分子に結合しているもの、も含まれる。
【0014】
上記式(I)又は(II)の化合物として、下記のものが例示される。


【0015】
(B)付加物は、2種以上の混合物であってもよい。配合量は、(A)オルガノポリシロキサン100重量部に対して0.3〜3重量部、好ましくは0.5〜2重量部である。配合量が前記下限値未満であると満足な密着性が得られず、前記上限値を超えて配合しても、配合量に比例した密着性の向上は得られない。
【0016】
本発明の(C)イソシアヌレートは、(B)付加物とともに組成物へ配合されて、形成される硬化皮膜の密着性を向上させるためのものである。(B)付加物だけでは、基材種や使用条件によりその密着性向上効果が異なるが、(C)イソシアヌレーを併用することにより、より安定して高い密着性が得られるようになる。即ち、本発明を限定する趣旨でないが、高い密着性が得られる機構は以下のように考えられる。(B)付加物のビフェニルアルカン部分はフィルム基材と相互作用し、アルコキシシリル基はシリコーン皮膜と化学結合する。これにより、フィルム基材とシリコーン層を繋ぎとめるように作用する。(C)イソシアヌレーでは、イソシアヌレート基が、主としてフィルム基材と化学的に結合し、エポキシ基又はアルコキシシリル基が、主としてシリコーン層と結合して両層を密着させていると考えられる。エポキシ基及び/又はアルコキシ基のみによっても、ある程度の密着性向上効果は得られるが、イソシアヌレートほどの効果は無い。一方、イソシアヌレート基のみでは、シリコーン層との相溶性が低く、又、触媒毒としても作用し得る。このようにフィルム基材及びシリコーン皮膜との相互作用が互いに異なる部位を各々有する(B)と(C)とを併用することで、密着効果を大きくすると同時に、フィルムの種類や表面処理状態の如何にかかわらず安定した効果を得ることができるようになったものと考えられる。
【0017】
(C)イソシアヌレート誘導体は、イソシアヌール酸の窒素原子上の水素が置換されたイソシアヌール酸エステルであり、該置換基の少なくとも1つが、エポキシ基又はトリアルコキシシリル基を含む。好ましくは、下記一般式(7)で表されるものが使用される。

式中、少なくとも1つのTが、下記式(iii)で表される有機基、
(R1O)3Si−R2− (iii)
[式(iii)中、R1は、炭素数1〜8のアルキル基、及びR2は炭素数2〜5のアルキレン基である]
又は、下記式(iv)で表される有機基であり、
Q−R3− (iv)
[式(iv)中、Qはエポキシ基、R3は炭素数1〜3のアルキレン基である]
他のTは、互いに独立に、炭素数1〜8の、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又は単官能性アルケニル基である。
【0018】
炭素数1〜8個を含有するアルキル基は、直鎖又は分枝鎖状であってよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。アリール基、アラルキル基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基等が例示される。単官能性アルケニル基としては、直鎖又は分枝鎖状の炭素数2〜5個を含む基と共に1個の炭素−炭素間二重結合を含むアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等が挙げられる。これらの中では、アリル基が好ましい。
【0019】
式(iii)中のR1は、炭素数1〜8のアルキル基であり、上で例示したものであってよい。好ましくはメチル基、エチル基であり、もっとも好ましくはメチル基である。また、R2としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられ、これらの中ではプロピレン基が好ましい。式(iii)で表される有機基としては、トリメトキシシリルエチル基、トリメトキシシリルプロピル基、トリエトキシシリルエチル基、トリエトキシシリルプロピル基等が例示される。好ましくはトリメトキシシリルプロピル基、トリエトキシシリルプロピル基である。
【0020】
式(iv)で表される有機基におけるR3の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。式(iv)の有機基としては、2,3−エポキシプロピル基、3,4−エポキシブチル基、4,5−エポキシペンチル基等が例示される。これらの中では、2,3−エポキシプロピル基が好ましい。
【0021】
式(7)で表されるイソシアヌレートは、下記式(9)で表される有機イソシアネートを、例えば、ホスフィン、アルカリ金属のアルコアルコキシド、或いは有機錫塩の様な塩基性触媒を用いて環化させることによって得ることができる。
T−NCO (9)
(Tは上で定義したとおり。)
【0022】
但し、Q−R3−基を有するイソシアヌレートは、下記式(10)で表される、脂肪族不飽和基Kで置換されたイソシアヌレートの、基K中の炭素−炭素間二重結合を、例えば、過蟻酸、過酢酸の様な過酸により酸化することによって得ることができる。

式中、Kは単官能性アルケニル基を示し、Tについて上記した単官能アルケニル基であってよい。LはKと同じであるか、又は単官能アルケニル基以外のTから選択される基を示す。
【0023】
式(iii)の基、(R1O)3Si−R2−、を有するイソシアヌレート は、下記一般式(11)で表される有機ケイ素化合物を上記式(10)で表されるイソシアヌレートと白金触媒の存在下に反応させることによっても得ることができる。
(R1O)3Si−R2−H (11)
(式中、R1、R2は上記と同じである)
【0024】
(C)イソシアヌレートは、反応終了後に目的物質を単離してもよいが、未反応物、副生物及び触媒を除去しただけの反応混合物を使用することもできる。
【0025】
(C)イソシアヌレートとしては、下記の構造式で示されるものが例示される。以下の式で、Phはフェニル基を示す。これらの化合物の混合物を使用してもよい。


【0026】
(C)の配合量は、(A)オルガノポリシロキサンの100重量部に対し、0.1〜2重量部、好ましくは0.2〜1重量部の範囲である。配合量が、前記下限値未満では、シリコーン皮膜の密着力向上が十分ではなく、一方、上記上限値を超えると(A)オルガノポリシロキサンの硬化性が阻害される場合がある。
【0027】
上記(B)及び(C)は、(A)オルガノポリシロキサンを主成分とする公知の任意の剥離フィルム用シリコーン組成物に配合することができる。該公知のシリコーン組成物には、付加反応により硬化するものタイプと、縮合反応により硬化するタイプの2種類のタイプがある。
【0028】
付加反応で硬化するシリコーン組成物は、(A)オルガノポリシロキサンが(A1)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基をもつオルガノポリシロキサンであり、下記式(1)で表される。

式中、R12はアルケニル基、R11は不飽和結合を有しない一価炭化水素基を示し、X1は以下の組成式で示される基である。

a1、b1、c1、d1、e1はオルガノポリシロキサンの25℃における粘度が0.1Pa・s以上、25℃における30%トルエン溶液での粘度が70Pa・s以下を満たす正の数から選ばれ、b1、c1、d1、e1は0であってもよい。α及びβは、0または1〜3の整数である。
【0029】
11は、脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜8の基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜12のアルキル基、シクロヘキシル基などの炭素数4〜20のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などの炭素数6〜20のアリール基、これらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基などで置換したクロロメチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基などの基、更にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数1〜12のアルコキシ基、及び炭素数2〜20のエポキシ基などから選択される有機基である。(A1)オルガノポリシロキサン全体に含まれるR11は、その少なくとも80%がメチル基であることが、得られる硬化皮膜の特性上、好ましい。
【0030】
12は、ビニル基、アリル基、ブテニル基などの好ましくは炭素数2〜6のアルケニル基であり、工業的にはビニル基が好ましい。
【0031】
(A1)オルガノポリシロキサンの1分子がもつアルケニル基は2個以上であるが、望ましくは、(A1)オルガノポリシロキサン100g当たりの含有量が0.001〜0.1モルとなる量である。式(1)及び置換基X1のa1、b1、c1、d1、e1としては、1分子がもつアルケニル基の数c1+b1×(1+e1+β)+2αが2〜1,500の範囲になるように選ばれる。
【0032】
(A1)オルガノポリシロキサンの主鎖構造は直鎖であっても、b1が0でない場合である分岐構造を含むものであってもよい。
【0033】
上記(A1)オルガノポリシロキサンと付加反応させるものとして、(D1)1分子中にケイ素原子に直接結合する水素原子(SiH基)を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが使用される。(D1)は、以下の組成式(12)で示される。
11fgSiO(4-f-g)/2 (12)
(式中、R11は上記と同様の意味を示し、fは0≦f≦3、gは0<g≦3、好ましくは0.2≦g≦1、但し、f+gは1≦f+g≦3の数である。)
【0034】
(D1)の分子構造は直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のいずれであってもよい。粘度も数mPa・s〜数万mPa・sの範囲であればよい。(D1)オルガノハイドロジェンポリシロキサンの例として、下記のオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0035】


【0036】

【0037】
上式において、Yは下記式で表される基であり、

Zは下記式で表される基である。

また、上記構造式及び組成式において、hからwは次に示される範囲の整数である。h,l,nは3〜500、m,p,sは1〜500、i,j,k,o,q,r,t,u,v,wは0〜500である。
【0038】
上記(D1)オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、含有するSiH基のモル数が、(A1)に含まれるアルケニル基の合計モル数の1〜5倍に相当するような量で使用される。(D1)に含有されるSiH基のモル数が前記下限未満では、硬化性が不充分となる一方、上記上限を超えて配合しても硬化性の顕著な増加は見られないばかりか、剥離性が低下する場合がある。典型的な(D1)オルガノハイドロジェンポリシロキサンが、上記範囲となるような量は、(A1)ポリオルガノシロキサン100質量部に対して0.1〜20質量部である。
【0039】
(A1)オルガノポリシロキサンと、(D1)オルガノハイドロジェンポリシロキサンを付加反応させる際の触媒(E1)としては、従来から公知のものが全て使用することができる。例えば、白金黒、塩化白金酸、塩化白金酸−オレフィンコンプレックス、塩化白金酸−アルコール配位化合物、ロジウム、ロジウム−オレフィンコンプレックス等が挙げられる。上記(E1)触媒は、通常、(A1)、(B)、(C)及び(D1)の合計重量に対し、白金又はロジウムの量として5〜1000ppm(質量比)配合すれば、充分な硬化被膜を形成することが可能であるが、各成分の反応性又は所望の硬化速度に応じて適宜増減させることができる。
【0040】
本発明の組成物は、処理浴安定性及び各種基材に対する塗工性の向上、塗工量及び粘度の調整を目的として、(F)有機溶剤をさらに含有してよい。例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン等が使用できる。
【0041】
本発明の組成物は、前記(A1)、(B)、(C)、(D1)、(E1)、所望により(F)の各成分を均一に混合することにより容易に製造することができるが、十分なポットライフを確保するため、(E1)触媒はコーティングをする直前に添加混合することが好ましい。また、(F)有機溶剤を使用する場合は、(A1)を(F)に均一に溶解した後、他成分を混合するのが有利である。
【0042】
本発明の組成物には、必要に応じて顔料、レベリング剤、バスライフ延長剤等の添加剤を配合することもできる。
【0043】
本発明の組成物を使用して塗工する場合には、バーコーター、ロールコーター、リバースコーター、グラビアコーター、エアナイフコーター、さらに薄膜の塗工には高精度のオフセットコーター、多段ロールコーター等の公知の塗布方法により、プラスチックフィルム等の基材に塗布する。
【0044】
本発明の組成物の基材への塗布量は、基材の材質の種類によっても異なるが、固形分の量として0.05〜5g/m2の範囲が好ましい。上記の各方法で、本発明の組成物を塗布した基材を80〜150℃で60〜5秒間加熱することにより基材表面に硬化被膜を形成せしめ、剥離フィルムを得ることができる。
【0045】
次に、縮合反応により硬化するタイプのシリコーン組成物について説明する。該組成物は、(A)オルガノポリシロキサンが(A2)1分子中に少なくとも2個の水酸基をもつ、下の一般式(2)で示される構造を有するものである。

式中、R13は水酸基、R14は上記R11と同じ一価炭化水素基を示すが、脂肪族不飽和結合を含有してもよい。X2は以下の式で示される基である。

a2、b2、c2、d2、e2はオルガノポリシロキサンの25℃の粘度が0.1Pa・s以上、30%トルエン溶液での25℃の粘度が70Pa・s以下を満たす正数から選ばれ、b2、c2、d2、e2は0であってもよい。γ及びδは0または1の整数である。
【0046】
上式において、R14としては、上記R11に関して述べた基に加えて、ビニル基、アリル基、プロペニル基などの炭素数2〜6のアルケニル基が挙げられる。上記R11と同様に、(A2)オルガノポリシロキサン全体に含まれるR14は、その少なくとも80%がメチル基であることが特性上好ましい。
【0047】
(A2)オルガノポリシロキサンの1分子がもつ水酸基は2個以上であり、望ましくは、(A2)100g当たりの含有量として0.0001〜0.1モルである。水酸基量が、前記下限値未満では硬化性が低下し、前記上限値を超えるとポットライフが短くなり、取り扱いが難しくなる場合が生じる。相当する式(2)及び置換基X2のa2、b2、c2、d2、e2としては、1分子がもつ水酸基の数c2+b2×(e2+δ)+2γが2〜150の範囲になるように選ばれる。
【0048】
(A2)オルガノポリシロキサンの25℃における粘度の範囲は、0.1Pa・s以上、30質量%トルエン溶液で70Pa・s以下である。粘度が前記下限値未満では組成物の塗工が難しくなり、前記上限値を超えると作業性が低下する。式(2)及び置換基X2のa2、b2、c2、d2、e2としては、重合度a2+c2+b2×(d2+e2+1)+2が50〜20,000の範囲になるように選ばれる。
【0049】
(A2)オルガノポリシロキサンの主鎖構造は直鎖であっても、b2が0でない場合に相当する分岐鎖構造を含むものであってもよい。
【0050】
(A2)オルガノポリシロキサンは、(D2)1分子中にSiH又は加水分解性基を少なくとも3個有するオルガノポリシロキサンと縮合反応に付する。SiH基を持つオルガノポリシロキサンである場合には、前記(D1)と同じものが使用できる。(D2)は、含有されるSiH基または加水分解性基のモル数が、(A2)に含まれる水酸基のモル数に対して5〜200倍になるような量で使用される。該量は、典型的なオルガノポリシロキサンの場合、(A2)100質量部に対して0.1〜30質量部の範囲となる。(D2)に含有されるSiH基等のモル数が前記下限値未満では、水酸基とSiH等との化学反応による橋かけ結合の量が十分ではなく剥離性が低下する傾向がある。一方、前記上限値を超えて配合しても剥離性を向上させる効果に顕著な増加は見られず、かえって組成物のポットライフを低減する傾向がある。
【0051】
また(D2)加水分解性基を持つオルガノポリシロキサンとしては、以下の組成式で示されるものが使用できる。
11fgSiO(4-f-g)/2
(式中、R11は上述のR11と同様であり、Wは加水分解性基を示し、fは0≦f≦3、gは0<g≦3、f+gは1≦f+g<3の数である。)
【0052】
(D2)の分子構造は直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のいずれであってもよい。粘度も数mPa・s〜数万mPa・sの範囲であれば良い。
【0053】
加水分解性基Wとしては、ケイ素に直接結合したメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、イソプロペノキシ基などのアルコキシ基、アセトキシ基などのアシルオキシ基、エチルアミノ基などのアミノ基、アミド基、エチルメチルブタノキシム基などのオキシム基、塩素、臭素などのハロゲン原子を有するものが挙げられる。例えば以下のポリオルガノシロキサンが使用できる。
【0054】

上式でWは、CH3COO−,CH3(C25)C=NO−,(C252N−,CH3CO(C25)N−,CH2=(CH3)CO−などの加水分解性基を示し、x、y、zは0〜500の範囲の整数である。
【0055】
(D2)加水分解性基を持つオルガノポリシロキサンも、上記SiH基を有するものと同様の量で使用される。また、一分子上に、加水分解性基と、SiH基との双方を有するものを使用してもよい。
【0056】
(A2)と(D2)とを反応させる際に使用される(E2)縮合触媒は、縮合反応を促進して架橋させ、硬化膜の剥離性及び耐久性を高めるために用いられる。かかる(E2)縮合触媒としては、塩酸、リン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、マレイン酸、トリフロロ酢酸などの酸類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムエトキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどのアルカリ類、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、フッ化アンモニウム、炭酸ナトリウムなどの塩類、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、ジルコニウム、セリウム、チタン、錫等の金属の有機酸塩、アルコキシド、キレート化合物などの有機金属化合物が挙げられる。例えば、亜鉛ジオクテート、チタンテトライソプロポキシド、アルミニウムトリブトキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジオクチル錫ジオクテート等が挙げられる。
【0057】
(E2)縮合触媒は、通常、(A2)、(B)、(C)及び(D2)の合計質量に対して有効成分として0.1〜5%(質量比)配合されるが、各成分の反応性又は所望の硬化速度に応じて適宜増減させることができる。
【0058】
縮合型のシリコーン組成物においても、(F)有機溶剤及び任意成分を配合することができる点、製造方法、及びコーティング方法は、前記付加型組成物と同様である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
〔合成例1〕
温度計、マグネチックスターラー、還流冷却管及び窒素導入管を備えた三口丸底フラスコを窒素置換した後、下記式(13)で示されるアリルエーテル化合物1モル、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン2モル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.5gを入れ、混合物を80℃に加温し、反応を行った。反応途中、ガスクロマトグラフィーによりγ−メルカプトプロピルトリメトキシシランのピーク消失を確認後、5時間加熱した。その後、160℃/20mmHgで不純物を留去し、下記式(14)で示される付加物1を得た。

付加物1

【0060】
〔合成例2〕
上記式(13)で示されるアリルエーテル化合物1モル及びトリメトキシシラン2モを使用した点を除き、合成例1と同じ方法で、下記式(15)で示される付加物2を得た。
付加物2

【0061】
実施例1
(A1)として以下の式で示されるポリオルガノシロキサン(25℃での30%トルエン溶液の粘度が10Pa・s、ビニル基含有量は0.03モル/100g)を100質量部、

(B)として合成例2で得られた反応物2を2質量部、
(C)として以下の構造のイソシアヌレートを1質量部、

(D1)として以下の式で示されるメチルハイドロジエンポリシロキサン(25℃での粘度が25mPa・s、H含有量=1.5モル/100g)を5質量部(A1成分とB成分のアルケニル基モル数の2倍に相当するSiHを含有)、

(E1)触媒として白金-ビニルシロキサン錯体を白金として、(A1)、(B)、(C)、(D1)の合計質量に対して 100ppm、及び
(F)成分としてトルエンを2052質量部
を均一に混合して組成物を得た。
【0062】
実施例2
(A2)として以下の式で示されるポリオルガノシロキサン(30%トルエン溶液の25℃での粘度が10Pa・s、シラノール基含有量=0.0005モル/100g)を100質量部、

(B)として合成例1で得られた付加物1を2質量部、
(C)として実施例1で使用したのと同様のイソシアヌレートを1質量部、
(D2)として以下の式で示されるメチルハイドロジエンポリシロキサン(25℃での粘度が25mPa・s、H含有量=1.5モル/100g)を1質量部(A2成分の水酸基モル数の30倍に相当するSiHを含有)、

(E2)触媒としてジオクチル錫ジオクテートを5質量部、及び
(F)トルエンを2071質量部
を均一に混合して組成物を得た。
【0063】
比較例1
(B)及び(C)を配合しないことを除き、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0064】
比較例2
(B)及び(C)を配合しないことを除き、実施例2と同様にして組成物を調製した。
比較例3
(B)を配合せず、(C)を3質量部添加したことを除き、実施例1と同様にして組成物を調製した。
比較例4
(C)を配合せず、(B)を3質量部添加したことを除き、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0065】
評価方法
以下の方法に従い、組成物を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
1)硬化性
触媒添加後10分経過したシリコーン組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み38μm)にバーコーターを用いて固型分で0.5g/m2塗布し、80℃の熱風循環式乾燥機で所定時間、加熱処理して完全に硬化皮膜を形成するまでの時間を測定した。完全に硬化したかどうかの判定は硬化皮膜表面を指でこすり、皮膜表面のくもりや脱落が見られなくなった時点とした。
2)剥離力
触媒添加後10分経過したシリコーン組成物をPETフィルム(38μm)に固型分で0.5g/m2塗布し、100℃の熱風循環式乾燥機で30秒間加熱処理して硬化皮膜を形成し、評価用セパレータを作製した。
作成したセパレータを25℃、50%RHに1日放置後、硬化皮膜面にアクリル系溶剤型粘着剤〔オリバインBPS−5127、東洋インキ製造(株)製〕を塗布して100℃で3分間熱処理した。次いで、該粘着剤層上にPETフィルム(38μm)を貼り合わせて2kgローラーで1往復して該PETフィルムを粘着剤層に圧着し、25℃で20時間エージングさせた後、試料を5cm幅に切断し、引張り試験機を用いて180°の角度で剥離速度0.3m/分で貼合わせ紙を引張り、剥離するのに要する力(N)を測定した。
【0067】
3)密着性
2)と同様に作成したPETフィルム(38μm)基材セパレータと、基材を2軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(40μm)に代えて2)と同様の方法で作成したセパレータを、25℃,50%RHに放置し、硬化皮膜表面を指でこすり、皮膜表面のくもり及脱落が見られるまでの日数を調べた。
【0068】
【表1】

表1から分かるように、本発明の組成物から得られる硬化膜は、顕著に優れた密着性を有する。該密着性は(B)付加物と(C)イソシアヌレートとを、夫々、多く含むことによっても得ることはできず(比較例4及び3)、(B)付加物と(C)イソシアヌレートとの相乗的な効果であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の組成物は、密着性に優れた剥離性層を与え、種々の剥離フィルム用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサンを主成分とする剥離フィルム用シリコーン組成物において、
前記(A)オルガノポリシロキサン100質量部に対して、
(B)ジフェニルアルカン誘導体と、少なくとも1つのオルガノオキシ基を有するオルガノポリシロキサン誘導体との付加物 0.3〜3質量部、及び
(C)イソシアヌレートであって、窒素原子に結合された置換基の少なくとも1つが、エポキシ基又はトリアルコキシシリル基を有する、イソシアヌレート 0.1〜2質量部
を含むことを特徴とするシリコーン組成物。
【請求項2】
(A)オルガノポリシロキサンが、(A1)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンであり、
前記シリコーン組成物が、
(D1)1分子中にSiH基を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを、SiH基の総モル数が(A1)に含まれるアルケニル基の総モル数の1〜5倍になる量で、及び
(E1)触媒量の白金族金属系触媒、
をさらに含む、請求項1記載のシリコーン組成物。
【請求項3】
(A)オルガノポリシロキサンが、(A2)1分子中に少なくとも2個の水酸基を持つオルガノポリシロキサンであり、
前記シリコーン組成物が、
(D2)1分子中にSiH基または加水分解性基を少なくとも3個有するオルガノポリシロキサンを、SiH基及び加水分解性基の総モル数が、(A2)に含まれる水酸基の総モル数の5〜200倍に相当する量で、及び
(E2)触媒量の縮合触媒
をさらに含む請求項1記載のシリコーン組成物。
【請求項4】
(B) 付加物が、下記式(I)又は(II)で示される化合物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコーン組成物。


(式(I)及び(II)において、R4は互いに独立に、水素原子又はメチル基であり、Aは互いに独立に式(i)又は(ii)で表される基であり、R5は水酸基及びメチル基からなる群より選ばれる基であり、aは0〜2の整数であり、R6は炭素数1〜10の置換されていてよい一価炭化水素基であり、R7は炭素数1〜8の置換されていてよい一価炭化水素基であり、bは1〜3の整数であり、cは0又は1であり、但しb+cは2又は3、及びxは1〜8の整数である。)
【請求項5】
(C)イソシアヌレートが下記式(7)で表されるものである請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコーン組成物。

式中、少なくとも1つのTが、下記式(iii)で表される基、

(R1O)3Si−R2− (iii)
[式(iii)中、R1は炭素数1〜8のアルキル基、及びR2は炭素数2〜5のアルキレン基である]

又は、下記式(iv)で表される基であり、

Q−R3− (iv)
[式(iv)中、Qはエポキシ基、R3は炭素数1〜3のアルキレン基である]

他のTは、互いに独立に、炭素数1〜8の、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又は単官能性アルケニル基である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリコーン組成物。

【公開番号】特開2007−9072(P2007−9072A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−191851(P2005−191851)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】