説明

力率改善回路の昇圧用コイルとそれを備えるAC−DCコンバータ

【課題】より少ない部品点数かつ簡易な構成で、効果的にノイズを遮断する力率改善回路の昇圧用コイルとそれを備えるAC−DCコンバータとを提供することを目的とする。
【解決手段】重畳される直上の巻き線が同一方向への重ね巻きとならないように、少なくともボビンの一部において折り返し巻きされた巻き線を有する力率改善回路の昇圧用トロイダルコイルとする。また、ボビンの巻回中心が閉ループである力率改善回路の昇圧用コイルとする。また、等価回路で特性表記した場合に、巻き始めと巻き終わりと間における巻き線間の浮遊容量が直列状態となる力率改善回路の昇圧用トロイダルコイルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力率改善回路の昇圧用コイルとそれを備えるAC−DCコンバータとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバータのトランジスタQ1がスイッチング動作を行う場合等に、そのオンオフ動作によってノイズが生じ、生じたノイズによって機器が所望の動作を行えない懸念があった。このため、一般にコンバータ等には、別途ノイズフィルタを付加した回路構成とすることが知られている。
【0003】
また、スイッチング素子やその他の素子から発生するノイズによる影響を受けないような力率改善回路を提供することを目的として、交流電源を電源とし、整流器と、チョークコイルと、トランジスタと、力率制御回路とを使用して出力電圧を昇圧、平滑する力率改善回路において、整流器にスイッチング可能な駆動部を備え、機器の動作状態に応じて当該駆動部を動作させる力率改善回路が提案されている。
【0004】
また、力率改善回路の整流器DSに駆動部を設けて能動的に整流器DSを制御することで、ノイズによる影響を受けない構成とした力率改善回路が、例えば下記特許文献1に開示されている。これによれば、機器の安定性や故障の原因について、改善された力率改善回路を提供できることが記載されている。
【0005】
また、また電子機器から発生するノイズが、商用電源へ流出しないように低減するノイズフィルタは、例えば下記特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−033037号公報
【特許文献2】特開平06−077756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の力率改善回路においては、ノイズが商用電源等へ流出しないように、ノイズフィルタを別途設ける必要があった。このため、部品点数が増大するとともに回路全体が大型化し、コストも増大することとなっていた。
【0008】
本発明は、上述の問題点に鑑み為されたものであり、より少ない部品点数かつ簡易な構成で、効果的にノイズを遮断する力率改善回路の昇圧用コイルとそれを備えるAC−DCコンバータとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の力率改善回路の昇圧用トロイダルコイルは、重畳される直上の巻き線が同一方向への重ね巻きとならないように、少なくともボビンの一部において折り返し巻きされた巻き線を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の力率改善回路の昇圧用トロイダルコイルは、好ましくはボビンの巻回中心が閉ループであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の力率改善回路の昇圧用トロイダルコイルは、さらに好ましくは等価回路で特性表記した場合に、巻き始めと巻き終わりと間における巻き線間の浮遊容量が直列状態となることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の力率改善回路の昇圧用トロイダルコイルは、さらに好ましくは巻き始めと巻き終わりとが、ボビンの同一箇所であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の力率改善回路の昇圧用トロイダルコイルは、さらに好ましくはボビンが、巻き始めと巻き終わりとの間の巻き線を物理的に分離する分離帯を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の力率改善回路の昇圧用トロイダルコイルは、さらに好ましくは分離帯が、巻き線の巻き始め箇所に具備されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の力率改善回路の昇圧用トロイダルコイルは、さらに好ましくは分離帯が、巻き線の巻き終わり箇所に具備されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のAC−DCコンバータは、上述の昇圧用トロイダルコイルを備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の力率改善回路の昇圧用コイルは、重畳される直上の巻き線が同一方向への重ね巻きとならないように、少なくともボビンの一部において折り返し巻きされた巻き線を有し、ボビンはE−I型コアに架装されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の力率改善回路の昇圧用コイルは、好ましくは等価回路で特性表記した場合に、巻き始めと巻き終わりと間における巻き線間の浮遊容量が直列状態となることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の力率改善回路の昇圧用コイルは、さらに好ましくは巻き始めと巻き終わりとが、E型コアの中央芯の対向する端であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の力率改善回路の昇圧用コイルは、さらに好ましくはE型コアの中央芯に架装されるボビンが、巻き線の巻き始めと巻き終わりとを物理的に分離する分離帯を備え、分離帯によって分離された各ブロックごとに巻き線が折り返して巻回されることを特徴とする。
【0021】
また、本発明のAC−DCコンバータは、上述したいずれかの昇圧用コイルを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、より少ない部品点数かつ簡易な構成で、効果的にノイズを遮断する力率改善回路の昇圧用コイルとそれを備えるAC−DCコンバータとを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第一の実施形態のAC−DCコンバータの構成概要を説明する回路図である。
【図2】(a)がドーナツ状のボビンの周囲に巻き線を巻回させながらボビンの円環に沿って巻き線を折り返して巻いた状態を説明する図であり、(b)がドーナツ状のボビンの巻き線の構成を説明する縦断面図である。
【図3】昇圧用コイルの平面視と等価回路を説明する図である。
【図4】スイッチング周波数に対する昇圧用コイルのインピーダンスを説明する図である。
【図5】巻き線を重ね巻きとされた昇圧用コイルの構造概要を説明する図である。
【図6】昇圧用コイルの平面視と等価回路を説明する図である。
【図7】スイッチング周波数に対する昇圧用コイルのインピーダンスを説明する図である。
【図8】(a)は、第二の実施形態の昇圧用コイルの構造概要を説明する図であり、(b)は、第三の実施形態の昇圧用コイルの構造概要を説明する図である。
【図9】E型コアに巻き線を巻回し、I型コアと合わせて昇圧用コイルを形成した構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施形態で説明する力率改善回路の昇圧用コイルは、AC−DCコンバータのチョークコイルとして整流器の出力側に配置される。このため、相当の高電圧が印加されることとなるので、高電圧での使用に耐えうる程度の比較的大きなインダクタンス値が必要とされる。
【0025】
昇圧用コイルに大きなインダクタンス値を付与するためには、インダクタンス値に相当する比較的大きな巻き数のリアクトルコイルとする必要がある。昇圧用コイルの巻き数を増大させれば、一方で巻き線間の寄生浮遊容量が増大することとなる。特に、コイルの巻き始め部分と巻き終わり部分とが、同一方向に重畳または積層された重ね巻きである場合には寄生浮遊容量が大きな値となる。
【0026】
昇圧用コイルの寄生浮遊容量が増大すれば、その共振周波数(f)が比較的小さな値となるので、昇圧用コイルの出力側から入力側、すなわち商用電源側へとノイズが容易に伝搬される傾向が生じる。このようにして伝搬されるノイズは、典型的にはスイッチングノイズであって、力率改善回路の出力側に接続されるDC−DCコンバータやスイッチング素子のオンオフ動作が発生源となる。
【0027】
スイッチング素子のオンオフ動作により生じる高周波ノイズはEMC伝導ノイズ(無線妨害電波)等として規制されており、例えば国際無線障害特別委員会(CISPR)におけるCISPR22等が知られている。CISIPR22等の電波規制に適合させるために、従来、ノイズフィルタ等を別途付加的に設ける力率改善回路が一般的であった。
【0028】
実施形態で説明する力率改善回路の昇圧用コイルは、コイル巻き線の巻き方を、典型的には巻き始めと巻き終わりとで同一巻回方向へ重畳させずに、折り返し巻きとする。これにより、力率改善回路の昇圧用コイルは、折り返し点で中間接続された複数の比較的小さな値の浮遊容量の直列接続となる等価回路と見なせることとなる。また、直列接続である浮遊容量の合成値は、比較的より小さな容量値となる。
【0029】
従って、実施形態で説明する力率改善回路の昇圧用コイルは、寄生浮遊容量の値が小さくなるので、そのインピーダンス(Z)が最大値となる並列共振点(f)を比較的高周波側にシフトさせることができる。このため、力率改善回路の昇圧用コイルを透過し伝搬されることが可能な高周波ノイズの周波数は、さらに高周波側へとシフトすることとなり、典型的には10KHz〜30MHzのEMC規制領域の範囲外とすることができる。
【0030】
また、力率改善回路のリアクトルコイルの巻き線方式を折り返し巻きとすることで、リアクトルコイルの寄生浮遊容量を低減し、入力側へのスイッチングノイズの伝搬を低減させることができるので、入力雑音端子電圧を低減させることができる。
【0031】
(第一の実施形態)
図1は、実施形態のAC−DCコンバータ1000の構成概要を説明する回路図である。図1に示すように、AC−DCコンバータ1000は、商用電源1010と整流器1020と力率改善回路1100とを備える。また、AC−DCコンバータ1000は、追加的にDC−DCコンバータ1070を備えることができる。また、AC−DCコンバータ1000は、スイッチング電源として用いることができる。
【0032】
力率改善回路1100は、昇圧用コイル1030とスイッチング素子1040と整流ダイオード1050と平滑コンデンサ1060とを備える。また、AC−DCコンバータ1000は、力率改善回路1100のスイッチング素子1040に対してフィードバック制御をする比較回路等を追加的に備えることができる。
【0033】
また、図1において、商用電源1010が、例えば交流の90V乃至264Vである場合には、昇圧用コイル1030の電圧が直流の373V程度となるように構成してもよい。このようにAC−DCコンバータ1000の交流から直流への変換機能に伴い、昇圧用コイル1030には比較的高い電圧が印加される。また、力率改善回路1100は、好ましくは力率が1に近づけるように、すなわち高周波電流と電圧とを共に正弦波とするような回路パラメータが選択され設計される。
【0034】
図2は、昇圧用コイル1030の構成概要を説明する概念図である。図2(a)がドーナツ状のボビン1031の周囲に巻き線1032(1),1032(2),1032(3)(以下、適宜巻き線1032と総称する)を巻回させながら、ボビン1031の円環に沿って巻き線1032を折り返して巻いた状態を説明する図であり、図2(b)がドーナツ状のボビン1031への巻き線1032の構成を説明する縦断面図である。
【0035】
図2から理解されるように、ボビン1031に直接巻かれる第一層の巻き線1032(1)の巻回進行方向が反時計方向であるのに対して、第一層の巻き線1032(1)の上に重畳して巻かれる巻き線1032(2)の巻回進行方向は時計方向であり逆方向である。
【0036】
また、第二層の巻き線1032(2)の巻回進行方向が時計方向であるのに対して、第二層の巻き線1032(2)の上に重畳して巻かれる巻き線1032(3)の巻回進行方向は反時計方向であり逆方向である。
【0037】
ここで、第一層の巻き線1032(1)と第二層の巻き線1032(2)と第三層の巻き線1032(3)とは、ドーナツ状のボビン1031の横断面においては、同一巻き付け方向に巻かれている。すなわち、第一層の巻き線1032(1)と第二層の巻き線1032(2)と第三層の巻き線1032(3)とは、ボビン1031に対して同じ巻回方向に巻かれながら、途中で巻回の進行方向が折り返され逆向きとされることで連続して巻回された状態となる。
【0038】
図3は、昇圧用コイル1030の平面視と等価回路とを説明する図である。図3(a)に示すように、昇圧用コイル1030は、リング状のボビン1031の周を形成する中心軸に対して巻き線1032を巻回されながら、リング表面全体に亘って巻き線層を構成するように巻回されて形成される。また、第一層の巻回が完了すれば折り返して順次複数の層だけ積層するように巻回される。
【0039】
この場合に図3(a)から理解されるように、巻き線1032の巻き始め部位Aと巻き終わり部位Bとは、ボビン1031全体を有効に利用して巻回数を増大させてインダクタンス値を獲得する観点から、同一箇所としてもよい。
【0040】
また、図3(a)において、巻き始め部位Aからの巻回の進行方向を時計方向にした場合には、ボビン1031全体に対して第一層の巻回が完了すると、巻き始め部位Aに重畳してこれを乗り越えて時計方向に巻回進行させず、巻き始め部位Aの直前で巻回方向を折り返して反時計方向の巻回方向として第二層を形成する。
【0041】
さらに、ボビン1031全体に対して第二層の巻回が完了すると、巻き始め部位Aに重畳して乗り越えて反時計方向に巻回進行させず、巻き始め部位Aの直前で再び巻回方向を折り返して時計方向の巻回方向とする。このように、巻き線1032を順次折り返して任意の複数層だけ積層させる。図3(a)においては、二回折り返してボビン1031に三層積層された巻き線1032を備える昇圧用コイル1030を示したが、積層数は任意とすることができる。
【0042】
たとえば、高電圧に耐えられるインダクタンス値とするために、昇圧用コイル1030の巻回数をより大きくする場合がある。このような場合には、ボビン1031の上に積層される巻き線1032は、その積層数がより増大することとなる。昇圧用コイル1030は、巻き線1032の折り返し回数を、これに対応して増大させることができる。ただし、寄生浮遊容量をより低減させる観点からは、巻き線1032の層数が一層のみであることが好ましい。
【0043】
図3(b)は、図3(a)に示す昇圧用コイル1030の等価回路を説明する図である。図3(b)から理解されるように、実施形態の昇圧用コイル1030の等価回路においては、第一層の巻き線1032(1)と第二層の巻き線1032(2)との間の浮遊容量210と、第二層の巻き線1032(2)と第三層の巻き線1032(3)との間の浮遊容量220とが、直列化(シリーズ化)されることとなる。ここで、浮遊容量210,220は、各々比較的小さな値となる。
【0044】
また、図3(b)に示す等価回路においては、浮遊容量210と浮遊容量220との接続箇所は、インダクタンスLの中点に電気的に接続される。また、図3(b)から理解されるように、昇圧用コイル1030全体として、合成された浮遊容量Cの容量値が低減される効果が得られる。
【0045】
また、図4は、スイッチングノイズ周波数(f)に対する昇圧用コイル1030のインピーダンス(Z)を説明する図である。グラフ320が、スイッチングノイズ周波数(f)に対する昇圧用コイル1030のインピーダンス(Z)を説明し、グラフ310が高調波ノイズのスイッチングノイズ周波数(f)に対するインピーダンス特性を説明している。
【0046】
図4において、斜線で示した領域は、DC−DCコンバータ等で生じたスイッチングノイズが、昇圧用コイル1030のインダクタンスLで遮断されることなく整流器1020及び商用電源1010側へと伝搬される(すなわちノイズ電流(I)が生じる)ノイズ伝搬領域330である。
【0047】
図4から理解できるように、昇圧用コイル1030の並列共振周波数(f)は、浮遊容量Cの低減に伴い比較的大きくなり、典型的には30MHzよりも大きくなる。また、昇圧用コイル1030の並列共振周波数(f)の増大に伴い、昇圧用コイル1030を介して商用電源1010側へ伝搬されるノイズ伝搬領域330は、より高周波側へとシフトする。
【0048】
これにより、EMC規制領域内のスイッチングノイズは、昇圧用コイル1030のインダクタンスLで遮断等される(すなわちノイズ電流(I)が低減される)こととなるので、別途のノイズフィルタ等を追加的に設けてノイズをカットする必要性が低減される。従って、部品点数を低減した低コストで小型・軽量なAC−DCコンバータ1000を実現することができる。
【0049】
ここで、比較のために図5乃至図7を用いて、巻き線532を折り返し巻きとせずに同一巻回進行方向への重ね巻きとする場合の昇圧用コイル530について簡単に説明する。
【0050】
図5は、巻き線532(1),532(2),532(3)(以下、適宜巻き線532と総称する)を順次重ね巻きとされた昇圧用コイル530の構造概要を説明する図である。図5(a)がドーナツ状のボビン531の周囲に巻き線532を巻回させながら、ボビン531の円環に沿って巻き線532を同一巻回進行方向に重畳して巻回した状態を説明する図であり、図5(b)がドーナツ状のボビン531への巻き線532の巻回構成を説明する断面図である。
【0051】
図5において、昇圧用コイル530は、第一層の巻き線532(1)に重畳して同一巻回進行方向に第二層の巻き線532(2)が巻回され、さらに第二層の巻き線532(2)に重畳して同一巻回進行方向に第三層の巻き線532(3)が巻回されている。
【0052】
また、図6は、昇圧用コイル530の平面視と等価回路とを説明する図である。図6(a)から理解されるように、昇圧用コイル530は巻き線532の巻き始め部位Aに対して同一巻回進行方向に複数回重畳してボビン531に巻回されて、巻き始め部位Aと巻き終わり部位Bとが一致するように巻回される。このため、昇圧用コイル530の等価回路においては、図6(b)に示すように、単一の浮遊容量Cが比較的大きな値となる。
【0053】
昇圧用コイル530は寄生浮遊容量Cが比較的大きな値であるので、そのインピーダンス(Z=1/(2πfC))は、比較的小さくなる。また、その共振周波数(f=1/(2π√(LC))も比較的小さな値となる。このため、昇圧用コイル530のインピーダンス特性は図7に示すような特性となり、比較的大きなノイズ電流(I=V/Z)が生じることとなる。
【0054】
図7は、スイッチングノイズ周波数(f)に対する昇圧用コイル530のインピーダンス(Z)を説明する図である。グラフ720が、スイッチングノイズ周波数(f)に対する昇圧用コイル530のインピーダンス(Z)を説明し、グラフ710が高調波ノイズのスイッチングノイズ周波数(f)に対するインピーダンス特性を説明している。
【0055】
図7において、斜線で示した領域は、DC−DCコンバータ等で生じたスイッチングノイズが、昇圧用コイル530のインダクタンスLで遮断されることなく入力側へと伝搬される(すなわちノイズ電流(I)が生じる)ノイズ伝搬領域730である。
【0056】
一方、図2乃至図4で説明した折り返し巻きとされた昇圧用コイル1030においては、寄生浮遊容量が比較的小さな値の浮遊容量210と浮遊容量220との合成値となる。このため各々の容量値をCとCとすれば、昇圧用コイル1030のインピーダンスZ(C1+C2)=1/(2πf(1/((1/C)+(1/C))))は、比較的大きな値となる。
【0057】
また、昇圧用コイル1030の並列共振周波数(f=1/(2π√(L(1/((1/C)+(1/C))))))は、比較的大きな値となり、そのノイズ電流(I=V/Z(C1+C2))は比較的小さな値となる。なお、VはスイッチングノイズとしてDC−DCコンバータ等から昇圧用コイル1030に印加されるノイズ電圧値である。
【0058】
このように、昇圧用コイル1030は、昇圧用コイル530に対して巻回数を同一としてインダクタンスLを同一値とした場合においても、より大きなインピーダンス値となるので、サージ電圧等のスイッチングノイズを低減させることができる。さらに、昇圧用コイル1030を透過するノイズ伝搬領域330は、比較的高周波領域であるので、そのエネルギーが比較的小さいということにおいても環境上好ましい。
【0059】
(第二の実施形態)
図8(a)は、第二の実施形態の昇圧用コイル1030(2)の構造概要を説明する図である。図8(a)に示すように、昇圧用コイル1030(2)は、巻き線1032(2)の巻き始め部位Aと巻き終わり部位Bとを分離する仕切り部材810を備える。仕切り部材810は、ボビン1031(2)に一体的に設けられてもよいし、後付けにより嵌め込むようにしてもよい。
【0060】
昇圧用コイル1030(2)は、仕切り部材810で折り返すことができるので、より確実に同一巻回方向への重畳を回避させたコイルとできる。また、巻き線1032(2)の巻き始め部位Aと巻き終わり部位Bとが確実に分離されるので、巻き始め部位Aと巻き終わり部位Bとの間が同一方向に重畳されて巻回される虞を低減できるので好ましい。
【0061】
(第三の実施形態)
図8(b)は、第三の実施形態の昇圧用コイル1030(3)の構造概要を説明する図である。図8(b)に示すように、昇圧用コイル1030(3)は、巻き線1032(3)の巻き始め部位Aと巻き終わり部位Bとを分離する仕切り部材810(1),810(2)を備える。
【0062】
図8(b)に示すように、昇圧用コイル1030(3)は、ドーナツ形状のボビン1031(3)に半分ずつ分割して巻回されている。そして分割された各々の巻回部分は、巻き始め部位Aと巻き終わり部位Bとで、仕切り部材810(1),810(2)により空間的に分離される。
【0063】
また、仕切り部材810(1),810(2)は、ボビン1031(3)に一体的に設けられてもよいし、後付けにより嵌め込むようにしてもよい。
【0064】
昇圧用コイル1030(3)は、仕切り部材810(1),810(2)により空間的に分離された各分割部分において、任意の回数だけ巻き線1032(3)を折り返し巻きとすることができる。このため、寄生容量がさらに低減されるとともに、巻き始め部位Aと巻き終わり部位Bとにおいて、同一方向への重畳巻きを確実に回避できるので好ましい。
【0065】
(第四の実施形態)
図9は、E型コア910に巻き線1032(4)を巻回し、I型コア920と合わせて昇圧用コイル1030(4)を形成した構成概要を説明する図である。図9(a)に示すように、昇圧用コイル1030(4)は、E型コア910の中央芯915を3分割する二つの仕切り部材810(3)を備える。
【0066】
二つの仕切り部材810(3)により、中央芯915はW,W,Wの幅に3分割されるので、分割された各部位において、各々巻き線1032(4)を折り返し巻きとすることが可能となる。
【0067】
また、分割された各部位間における巻き始め部位Aと巻き終わり部位Bとが仕切り部材810(3)により確実かつ容易に分離されるので、同一方向への重畳された巻回を確実に回避することができる。
【0068】
また、図9(b)は、昇圧用コイル1030(4)の等価回路を説明する図である。昇圧用コイルは、三つの比較的小さな寄生容量が直列接続された等価回路であるので、昇圧用コイル1030(4)全体としての寄生容量はより小さな値となり好ましい。昇圧用コイル1030(4)は、上述した三分割巻きに限定されることはなく、任意の数の分割巻きとしてかつ各々任意の巻回数とすることができる。
【0069】
また、W,W,Wの幅と各分割部分でのそれぞれの巻回数とを適宜最適化することで、寄生容量が理論上最小値となるような、昇圧用コイル1030(4)としてもよい。この場合においても、昇圧用コイル1030(4)は、W,W,Wの幅の各分割部分において、同一巻回進行方向に重畳して巻回されることはなく、重畳方向で上下に隣接する層を形成する巻き線1032(4)間においては、その巻回進行方向が逆向きとなる。
【0070】
上述した各実施形態において、昇圧用コイル1030は、実施形態で説明したドーナツ形状やE−I型形状に限られることはなく、矩形状であってもよく半円形状、扇形等任意の形状とすることができる。また、昇圧用コイル1030は、コイルへの巻き線方式を折り返し巻きとすることにより、ノイズフィルタ等の追加的回路を要することなく、雑音端子電圧についての規格を充足する程度に入力側へのノイズ伝搬を遮断することができる。
【0071】
また、昇圧用コイル1030は、簡易な構成で容易にEMCノイズを低減できるので、環境に与える負荷も低減できる。また、昇圧用コイル1030は典型的には昇圧用トロイダルコイルであって、小型・軽量な回路構成とできるので、基板等への実装効率を向上させることができる。
【0072】
上述した各実施形態においては、巻き線1032をボビン1031等に巻回させるものとして説明したが、巻き線1032をボビン1031等に巻回させることに限られず、コア等に直接巻回させてもよい。すなわち、巻き線1032の巻回進行向きが積層方向の隣接する上下巻き線間で逆向きとなる折り返し巻きとなっていればよいのであって、昇圧用コイル1030として機能するものであれば、巻き線1032を巻く対象物の素材・形状等や巻き線1032の材質・太さ等を限定するものではない。
【0073】
また、上述した各実施形態で説明した昇圧用コイル1030等は、各実施形態での説明に限定されることはなく、自明な範囲で任意にその構成や材質、形状・構造・組み合わせ等を変更して用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、AC−DCコンバータや力率改善回路等を含めスイッチング電源一般に幅広く適用できる。
【符号の説明】
【0075】
210,220・・浮遊容量、1000・・AC−DCコンバータ、1010・・商用電源、1020・・整流器、1030・・昇圧用コイル、1031・・ボビン、1032・・巻き線、1040・・スイッチング素子、1050・・整流ダイオード、1060・・平滑コンデンサ、1070・・DC−DCコンバータ、1100・・力率改善回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重畳される直上の巻き線が同一方向への重ね巻きとならないように、少なくともボビンの一部において折り返し巻きされた巻き線を有する
ことを特徴とする力率改善回路の昇圧用トロイダルコイル。
【請求項2】
請求項1に記載の昇圧用トロイダルコイルにおいて、
前記ボビンの巻回中心が閉ループである
ことを特徴とする力率改善回路の昇圧用トロイダルコイル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の昇圧用トロイダルコイルにおいて、
等価回路で特性表記した場合に、巻き始めと巻き終わりと間における巻き線間の浮遊容量が直列状態となる
ことを特徴とする力率改善回路の昇圧用トロイダルコイル。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の昇圧用トロイダルコイルにおいて、
巻き始めと巻き終わりとが、前記ボビンの同一箇所である
ことを特徴とする力率改善回路の昇圧用トロイダルコイル。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の昇圧用トロイダルコイルにおいて、
前記ボビンは、巻き始めと巻き終わりとの間の巻き線を物理的に分離する分離帯を備える
ことを特徴とする力率改善回路の昇圧用トロイダルコイル。
【請求項6】
請求項5に記載の昇圧用トロイダルコイルにおいて、
前記分離帯は、前記巻き線の巻き始め箇所に具備される
ことを特徴とする力率改善回路の昇圧用トロイダルコイル。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の昇圧用トロイダルコイルにおいて、
前記分離帯は、前記巻き線の巻き終わり箇所に具備される
ことを特徴とする力率改善回路の昇圧用トロイダルコイル。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の昇圧用トロイダルコイルを備える
ことを特徴とするAC−DCコンバータ。
【請求項9】
重畳される直上の巻き線が同一方向への重ね巻きとならないように、少なくともボビンの一部において折り返し巻きされた巻き線を有し、前記ボビンはE−I型コアに架装される
ことを特徴とする力率改善回路の昇圧用コイル。
【請求項10】
請求項9に記載の昇圧用コイルにおいて、
等価回路で特性表記した場合に、巻き始めと巻き終わりと間における巻き線間の浮遊容量が直列状態となる
ことを特徴とする力率改善回路の昇圧用コイル。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の昇圧用コイルにおいて、
前記巻き始めと巻き終わりとが、E型コアの中央芯の対向する端である
ことを特徴とする力率改善回路の昇圧用コイル。
【請求項12】
請求項9乃至請求項11のいずれか一項に記載の昇圧用コイルにおいて、
前記E型コアの中央芯に架装されるボビンは、巻き線の巻き始めと巻き終わりとを物理的に分離する分離帯を備え、前記分離帯によって分離された各ブロックごとに巻き線が折り返して巻回される
ことを特徴とする力率改善回路の昇圧用コイル。
【請求項13】
請求項9乃至請求項12のいずれか一項に記載の昇圧用コイルを備える
ことを特徴とするAC−DCコンバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−210753(P2011−210753A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73931(P2010−73931)
【出願日】平成22年3月27日(2010.3.27)
【出願人】(000237662)富士通テレコムネットワークス株式会社 (682)
【Fターム(参考)】