説明

加工ヘッドおよびこの加工ヘッドを用いた加工方法

【課題】加工ヘッドによりフッ酸等のエッチャントをガラス基板、半導体基板等の被加工物の表面との間に連続的に供給し吸引する際に、加工ヘッド側の先端面の形状が高平坦度の加工に影響を及ぼす。
【解決手段】被加工物3の表面と相対的に移動しながら、被加工物3の表面に液状のエッチャント5を供給口44から連続的に供給しつつ排出口45から吸引して排出し、供給口44と排出口45との間に形成される被加工物3の表面と接触するエッチング領域により、被加工物3の表面をエッチング加工するための加工ヘッド2における供給口44と排出口45とが設けられているヘッド前端部41を1部材により形成して前端面を無段差の平坦面に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板、半導体基板等の被加工物の表面をケミカルエッチングにより高平坦化処理を行う表面加工方法において、フッ酸等のエッチャント(エッチング液)を被加工物の表面との間に供給し、吸引する加工ヘッドおよびこの加工ヘッドを用いた加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビやパソコンモニターのパネルは、TFTアレイやカラーフィルターから構成されており、これらは露光装置を用いてフォトマスクに描かれたパターンを繰り返し転写することにより作製される。
【0003】
近年、大型液晶テレビの需要拡大に伴い、大型パネルに対応したフォトマスクの大型化、さらに、ディスプレイの高画質化が進んできたことにより、パネルの品質を左右するフォトマスクの高精細化が求められてきている。
【0004】
フォトマスクサイズとして、1220mm×1400mmの露光装置も発表され、さらに大型化が進むとされる。
【0005】
フォトマスクの基材としては、熱膨張係数の小さい合成石英ガラスが用いられるが、露光精度にはこの基材の平坦度が大きく左右する。平坦度の悪い基材を用いると、パターンずれを引き起こし、高精細なものが得られないことが経験上把握され、平坦度として数μmが求められている。
【0006】
この平坦度のような厳しい要求性能を、従来の水、研磨砥粒、研磨布を用いた両面研磨法や片面研磨法等の機械研磨法で行うことは非常に難しいものと考えられる。
【0007】
このような機械的研磨法にあっては、研磨面圧と研磨ヘッドと被加工物との相対的運動速度の均一化等を工夫することにより、基板の平坦化を高めるようにしているが、基板全面を同時に研磨しながら平坦化するため、部分的な形状を平坦化するための制御が極めて難しいのが現状である。
【0008】
そこで、機械加工に代わる加工方法として、プラズマを用いて局所的なエッチングを行い表面を平坦化する方法が提案されている。これは、予め被加工物の形状あるいは厚さ分布を測定後、その分布に応じて被加工物上のプラズマの走査速度を制御することにより、エッチングの除去量を制御し、高平坦化を実現するための修正加工方法である。
【0009】
このプラズマエッチング方法をガラス基板の加工に適応した場合、このプラズマエッチングによる修正加工方法では、ガラス基板の大型化に伴って加工時間が極端に長くなるため、加工速度を速める必要がある。加工速度を速めるためには、加工領域の拡大、すなわちプラズマ領域の大面積化が必要であるが、その材料物性の違いから、具体的には、比誘電率、熱伝導率の違いから、プラズマが不安定となり加工量が変動したり、投入電力が増大し、熱がガラス基板に蓄積されることにより制御が難しくなり、被加工物の表面粗さを悪化させることになる。
【0010】
また、プラズマエッチング方法では、真空チャンバー、ガス排気装置等の高価な装置を必要とし、大型ガラス基板の加工では、加工に係る費用さらに増大するという問題がある。
【0011】
そこで、本出願人は、上述した機械的な加工方法、プラズマエッチング加工方法に代わる新たな加工方法として、ケミカルエッチング法に着目した(特許文献1、2)。
【0012】
特許文献1に開示のケミカルエッチング法は、活性状態と不活性状態とを温度により取り得るエッチング液(エッチャント)を使用し、タンク内に収容されている不活性のエッチャントに浸漬している半導体基板の主面の一部にエッチャント噴出用ノズルによって活性のエッチャントを当てつつ、該半導体基板の主面に平行する方向に、該エッチャント噴出用ノズルに対して該半導体基板を相対移動させてその主面全体に活性のエッチャントを当てると共に、該半導体基板の主面に当てた反応後のエッチャントをエッチャント排出用パイプによって直ちにタンク外部へ排出する。
【0013】
特許文献2には、処理液としてのエッチャントが供給される導入通路と該エッチャントが排出される排出通路を有するパイプを内外に配置した同心管構造のノズルが開示され、被処理物に向けてエッチャントを内側のパイプより供給し、外側のパイプと内側のパイプとの隙間から被処理物に向けて供給されたエッチャントを供給する。また、外側のパイプの先端は内側のパイプの先端より0.1〜2mm程度被処理物側に向けて飛び出た構成としている。
【特許文献1】特開平11−045872号公報
【特許文献2】特開平10−163153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した特許文献1に開示の技術を大きなサイズの被加工物に適用しようとする場合、この被加工物を収容することができるタンクが必要となり、設備が非常に大きくなり、現実的ではない。
【0015】
これに対し、特許文献2に開示の技術では、基板を不活性なエッチャントが収容されているタンク内に浸漬する必要はないものの、高平坦度が得られるかは全く不明である。
【0016】
そこで、本発明者等は、ガラス基板等の被加工物の表面形状を測定して得られた測定データに基づいて、該被加工物の表面を目的とする形状となるように加工するという修正加工により、該被加工物の表面を高平坦度に加工するために、被加工物の表面に対して加工ヘッドを移動(走査)可能に離隔対向して配置し、該加工ヘッドよりエッチャントを該被加工物の表面に連続的に供給し、供給されたエッチャントを該加工ヘッドにより吸引排出する方式について研究を重ねた。
【0017】
この修正加工は、加工ヘッドを静止した状態でエッチャントの供給・吸引排出を行った場合に被加工物の表面に単位となる加工痕形状(以下、単位加工痕と称す)を測定し、測定結果に基づく単位加工痕に基づいて、加工前における被加工物の表面から加工により除去すべき除去量と加工ヘッドの走査速度を求め、この走査速度により加工ヘッドを駆動する。
【0018】
しかしながら、所定の走査速度で加工ヘッドを駆動しても計算値通りに加工できず、目的とする平坦度が得られないことがあった。
【0019】
本発明者等は、目的とする平坦度が得られない理由として、加工ヘッドを走査させた際に、例えばエッチング領域の変動等といった何らかの影響を受けて加工量にずれが生じるのではないかと考え、その原因が加工ヘッドの先端面の形状にあることを見出した。
【0020】
本発明の目的は、このような観点に鑑みなされたもので、加工ヘッドを被加工物に対して相対的に走査させて加工する際に、静止加工痕形状から算出した加工量からのずれを生じさせることなく一定のエッチング領域を保つことができ、高平坦度の加工ができるフッ酸等のエッチャントを被加工物の表面との間に供給し、吸引する加工ヘッドおよびこの加工ヘッドを用いた加工方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的を実現する加工ヘッドの第1の構成は、被加工物の表面と相対的に移動しながら、該被加工物の表面に液状のエッチャントを供給口から連続的に供給しつつ排出口から吸引して排出し、該供給口と該排出口との間に形成される該被加工物の表面と接触するエッチング領域により、該被加工物の表面をエッチング加工するための加工ヘッドであって、前記供給口と前記排出口とが設けられているヘッド前端部は、1部材により形成されて前端面を無段差の平坦面に形成したことを特徴とする。
【0022】
本発明の目的を実現する加工ヘッドの第2の構成は、上記した第1の構成において、前記排出口は、前記供給口を中心とする同一円周上に等間隔で設けた複数の排出孔により構成したことを特徴とする。
【0023】
本発明の目的を実現する加工ヘッドの第3の構成は、被加工物の表面と相対的に移動しながら、該被加工物の表面に液状のエッチャントを供給口から連続的に供給しつつ排出口から吸引して排出し、該供給口と該排出口との間に形成される該被加工物の表面と接触するエッチング領域により、該被加工物の表面をエッチング加工するための加工ヘッドであって、前記供給口と前記排出口とが設けられているヘッド前端部は、筒形状の内筒と、該内筒を隙間を有して内装する外筒との2部材により同心管構造に構成すると共に、前記内筒の後端部をフランジ形状に形成し、前記内筒と前記外筒の前端面を一致させるように前記外筒の後端面に該内筒のフランジ形状の後端部を当接させて軸方向前方に対する位置決めを行い、該内筒を該供給口とし、該外筒と該内筒との間に形成される環状の隙間を該排出口としたことを特徴とする。
【0024】
同心管構造の加工ヘッドにおいても、ヘッド前端部は平坦で段差がないのが望ましいが、内筒と外筒との先端に生じる段差が加工に及ぼす影響は、単位加工領域の拡大に伴い顕著化される傾向にある。このため、上記した第3の構成において、前記内筒の前端面と前記外筒の前端面との段差を150μm未満とすることが好ましい。
【0025】
本発明の目的を実現する第4の構成は、上記した第3の構成において、前記外筒は、前記排出口より後方での内径を、前記排出口をなす先端での開口径よりも大径に形成していることを特徴とする。
【0026】
本発明の目的を実現する第5の構成は、上記した第3または第4の構成において、前記外筒の内周部に嵌合される保持部材に前記内筒の外周部を外装し、前記外筒と前記内筒とを同一軸心上に保持し、前記排出口の隙間を全周において一定に保持したことを特徴とする。
【0027】
本発明の目的を実現する加工方法は、予め測定した被加工物の表面形状のデータに基づいて、上記したいずれかの構成の加工ヘッドと前記被加工物との相対的移動速度を制御して該被加工物の表面を加工することを特徴とする。
【0028】
本発明の目的を実現する他の加工方法は、上記した加工方法において、前記被加工物は、ガラス基板、フォトマスク基板、半導体基板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る発明によれば、加工ヘッドを被加工物に対して相対的に走査させたときに、供給と吸引のバランスが崩れることなく、目的のエッチング領域を維持することができる。このため、例えば加工ヘッドを走査させたときに、エッチング領域からのエッチャントのはみ出しやエッチャントの液引き等によるエッチング領域の拡大、すなわち、エッチング加工量の変動を回避できるので、ガラス基板等の被加工物の表面を目的形状にするために予め算出した加工量通りに加工することができ、高精度に平坦化することができる。
【0030】
特に、請求項1、2に係る発明によれば、加工ヘッドの先端部を1部材により形成し、加工ヘッドの先端面を平坦面とすることで、加工ヘッドを大型化する場合に、平坦なヘッド前端面を容易に得ることができる。
【0031】
請求項3に係る発明によれば、加工ヘッドの前端部を2部材で同心管状に構成して製作を容易とした場合でも、先端面を容易に一致させることができ、高平坦度な加工を実現できる。
【0032】
請求項4に係る発明によれば、外筒の内径と内筒の外径との間に形成される隙間で余裕を持って排出口よりエッチャントを吸引排出することができる。
【0033】
請求項5に係る発明によれば、排出口の隙間を全周において一定に保持できるので、供給口から連続的に供給されたエッチャントは部分的に偏ることなく均一に排出口に向かって流れ、加工ヘッドと被加工物の表面との間に円状のエッチャント領域を形成でき、乱れのない単位加工痕を得ることができる。
【0034】
請求項6、7に係る発明によれば、エッチング法を用いた修正加工により高平坦度に表面加工が施されたガラス基板、マスク基板、半導体基板等を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
第1実施形態
図1は本発明による加工ヘッドを備えた湿式エッチング加工装置を示す図、図2は図1の加工ヘッドと被加工物としてのガラス基板を垂直姿勢に保持する基板ホルダーとの関係を示す図である。
【0036】
図1に示す湿式エッチング加工装置1は、破線で囲ったエッチャント循環装置1Aと、エッチャント循環装置1Aと接続した加工ヘッド2を備え、被加工物としてのガラス基板3の表面に対して加工ヘッド2を直交する2方向に移動させる加工ヘッド走査装置1Bと、により構成している。被加工物としてのガラス基板3は、例えば合成石英ガラス板,フォトマスク基板,大型フォトマスク基板等が例示でき、大型基板としては一辺が300mm角以上のものを指す。また、加工物はガラス基板に限らず、シリコンウエハー等であっても良い。
【0037】
エッチャント循環装置1Aは、密閉構造のエッチャントタンク4内にフッ酸等のエッチャント5が収容され、このエッチャントタンク4内のエッチャント5をエッチャント供給系6により加工ヘッド2に供給する。また、加工ヘッド2とエッチャントタンク4とはエッチャント回収管7により接続され、加工ヘッド2からガラス基板3の表面に供給されたエッチャント5を吸引してエッチャント回収管7からエッチャントタンク4に戻す。
【0038】
また、エッチャントタンク4にはガス排気管8が接続され、吸引ポンプを兼ねるガス排気ポンプ9によりエッチャントタンク4内のガスを排気する。エッチャントタンク4のエッチャント5の濃度が低下あるいは増加した場合、またエッチャントの収容量が減少した場合に、濃度コントローラ10から、水11、エッチャント5を個々にあるいは混合してエッチャントタンク4内に補給管12を介して供給するようになっている。
【0039】
エッチャント供給系6は、エッチャントタンク4側から順に、送液ポンプ13、熱交換器14、送液されるエッチャント5の温度を計測するための測温体15、送液されるエッチャント5の流量を調節する流量調節バルブ16、送液されるエッチャント5の流量を計測する流量計17、フッ酸濃度センサー18が配置され、フッ酸濃度センサー18から下流側に設けられたフレキシブル管からなる供給管19が加工ヘッド2に接続されている。
【0040】
熱交換器14は、測温体15の測温情報に基づいて送液されるエッチャント5の温度が所定の温度となるように、温調ユニット20によりエッチャント5を加熱或いは冷却する。また、流量調節バルブ16は、流量計17の流量情報に基づいて送液されるエッチャント5の流量が所定の流量となるように、流量を調節する。フッ酸濃度センサー18は、測定した濃度値を濃度コントローラ10へフィードバックし、エッチャントタンク4内を設定した濃度にコントロールする。
【0041】
吸引ポンプを兼ねるガス排気ポンプ9は、エッチャントタンク4内の気体を吸引して排気することによりエッチャントタンク4内を負圧状態とし、加工ヘッド2とガラス基板3との間に供給されたエッチャント5及びエッチャント5の一部から気化したガスを加工ヘッド2より吸引し、回収管7を通してエッチャントタンク4内に回収する。ガラス基板3の表面に供給されたエッチャント5の一部から気化したガスが拡散するとガラス基板3の表面を腐食して表面粗さを悪化させる原因の一つとなるが、この気化ガスを加工ヘッド2により吸引して排気することにより、ガラス基板3の表面における表面粗さを高めることができる。
【0042】
なお、エッチャント循環装置1Aにおける上述の各種制御は不図示の制御装置により実行される。
【0043】
図2に示すように、加工ヘッド走査装置1Bは、被加工物であるガラス基板3を垂直姿勢に保持する不図示の基板保持台を装置基台31に固定し、該基板保持台に保持されたガラス基板3の表面に沿って垂直方向と水平方向の直交する2方向に移動可能な2方向移動ステージ32に加工ヘッド2を取付け、加工ヘッド2を水平方向に移動させる主走査速度と、垂直方向に所定ピッチで送る副走査方向の送り量を制御する加工ヘッド走査速度制御部33とにより構成しており、この加工ヘッド走査速度制御部33を除く前記基板保持台と2方向移動ステージ32を装置カバー34により覆い、室内にエッチャント5が飛散し、気化ガスが放散されるのを防いでいる。
【0044】
2方向移動ステージ32は、門型に形成されたアルミ製の垂直フレーム35を構成する一対の垂直フレーム部材36にそれぞれ直線移動案内機構37を取り付け、この一対の直線移動案内機構37に水平フレーム部材38を取り付け、水平フレーム部材38を超高精度に垂直方向に移動可能としている。また、水平フレーム部材38には主走査方向駆動用のボールねじ39を走査方向に沿って取り付け、このボールねじ39のナット部に加工ヘッド2を取り付けている。さらに、一対の垂直フレーム部材36の間に、垂直方向に沿って副走査方向用のボールねじ40を取り付け、このボールねじ40のナット部に水平フレーム部材38を取り付けている。
【0045】
主走査方向駆動用のボールねじ39と副走査方向用のボールねじ40はそれぞれのねじ部材を回転駆動する不図示のモータを有し、これらのモータを加工ヘッド走査速度制御部33により駆動制御している。
【0046】
本実施形態の加工ヘッド2は、円盤形状に形成されたノズルブロック体41と、ノズルブロック体41の背面側に接合される円盤形状の背面ブロック体42とを固定ねじ43とにより一体化して全体的に円盤形状とした構成としている。
【0047】
ノズルブロック体41は、中心位置にエッチャントを供給する供給ノズル部44を形成し、この供給ノズル部44を中心とする同一円周上にエッチャントを吸引して排出する複数の排出孔45が等ピッチで形成されている。ノズルブロック体41の背面側には、これら複数の排出孔45に対応して背面側に開口する第1周溝46が形成され、これら複数の排出孔45がこの第1周溝46に連通している。
【0048】
背面ブロック体42は、中心部に開口47を有するドーナツ状に形成され、前面には、第1周溝46と同一内外周径を有する第2周溝48が形成され、背面ブロック体42をノズルブロック体41に接合した際に、第1周溝46と第2周溝48とによって複数の排出孔45からのエッチャントを1箇所に集める環状の回収部を形成している。
【0049】
なお、ノズルブロック体41と背面ブロック体42の材料としては、耐エッチャント特性に優れ、曲げ強度、硬度等の機械特性の優れたものを選定することが望ましい。特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂,ABS,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリカーボネイト,メチルペンテン,PEEK等が用いられる。
【0050】
背面ブロック体42の胴部には、第2周溝48に連通する排出路49が複数形成され、これら排出路49の排出端部にエッチャント循環装置1Aの回収管7が接続される。そして、エッチャント循環装置1Aの供給管19が背面ブロック体42の開口47を通してノズルブロック体41のエッチャント供給ノズル部44に接続される。
【0051】
加工ヘッド2のエッチャント供給ノズル部44からガラス基板3の表面に連続的に供給されたエッチャント5は、該エッチャント供給ノズル部44を中心として半径Rの円周上に複数設けられた排出孔45に連続的に吸引排出されるので、ヘッドと被加工物の表面との間におけるエッチャントの流れが形成される一定の領域であるエッチング領域が半径Rで形成されることになる。
【0052】
また、上記した構成の加圧ヘッド2は、2方向移動ステージ32により、図3中矢印で示すように、垂直姿勢に保持されたガラス基板3の上端の水平方向一端側から他端側に向けて水平に移動する主走査を行い、該他端側の所定位置に到達すると、所定量だけ下方に送られる副走査を行った後、一端側に向けて主走査を行うというラスタースキャン方式により加工を行う。そして、この一連の主走査と副走査をガラス基板3の上端から下端に渡り行ってガラス基板3の表面をエッチング処理により平坦化する。
【0053】
エッチング処理を行う前に、ガラス基板3の表面の形状を測定し、測定結果に基づいて目的の形状に最も近づくように、加工前形状と加工ヘッド2で加工してできる静止加工痕形状から加工除去量と加工ヘッドの主走査速度を演算する。例えば、凸形状の大きい部分はエッチング量を多く、凸形状の小さい部分や凹形状の部分はエッチング量を少なくするように加工ヘッド2の主走査速度を制御する。
【0054】
ガラス基板3の表面の形状測定は、レーザー等を用いた非接触方式、触針等の接触方式の測定手段を用いて行うことができる。なお、測定はガラス基板3を垂直姿勢に保持して行うため、ガラス基板3の自重たわみの影響を排除することができる。
【0055】
また、エッチング領域をなすエッチャントの供給と吸引のバランスにずれが生じた場合、エッチャントである例えばフッ酸濃度に変化が生じた場合にも平坦度に影響を与えることが本発明等により解明されている。
【0056】
ところで、このような平坦度に影響を及ぼす要素を排除してエッチング処理を行ったが目的とする表面形状が得られないことがあった。その原因として、加工ヘッドの表面形状に何らかの原因があるのではないかと本発明者は考え、図1に示すように、加工ヘッド2におけるエッチャント供給ノズル部44と排出孔45から更に外周側にわたって平坦面に形成し、これを用いて表面処理を行ったところ、実際に加工ヘッドを走査させて得た加工量が、単位加工痕から算出した加工量と一致したことが確認された。
【0057】
図7(a)は、図7(b)に斜視図で示す単位加工痕から算出したライン断面形状と、実際のライン断面形状との比較を示す図で、加工ヘッド2のRを40(φ80mm)、排出孔径を0.5mm、排出孔間隔を0.5mmとしたものを走査速度240mm/minにてガラス基板3の表面を1ライン走査した。なお、他の加工条件は以下に示す。
【0058】
フッ酸濃度:35wt/%
加工ヘッド前端面とガラス基板との間隔:250μm
フッ酸循環流量:30L/h
吸引流量:31.4L/h
フッ酸温度:40℃
基板保持姿勢:垂直保持
図7(a)に示すように、計算値によるライン断面形状と走査速度240mm/minにて走査した結果得られたライン断面形状は殆ど重なっており、目的とする形状に加工できることが確認された。
【0059】
図4(a)に示す本実施形態の加工ヘッド2のように、エッチャント供給ノズル部44から供給されたエッチャントは排出孔45に向かって放射状に流れ、途中で一部分が滞留することなくエッチャント供給ノズル部44から供給された新しいエッチャントが常にガラス基板3の表面に接触する。その際、エッチャントの一部から気化したガスも吸引排出され、さらに同一円周上に配置されている複数の排出孔45には該排出孔45よりも外側の空気も吸引排出されるので、ガラス基板3の表面との間に真円上のエッチング領域が形成されることになる。
【0060】
そこで、本実施形態では、加工ヘッド2の前面において、エッチング領域中に段差のない形状とするために、ノズルブロック体41を一体成形により形成し、ノズルブロック体41の前面をフラットな面としている。そうすると、エッチャント供給ノズル部44から供給するエッチャントの供給量と、排出孔45から吸引排出されるエッチャントの排出量を調整し、常にガラス基板3の表面にエッチャントの流れを確保することにより、エッチング領域の面積を大きくしてもバラツキのない加工が行える。なお、外周部に配置している固定ねじ43の取り付け部分を一段低く形成しているが、この段差は前記エッチング領域から十分に離れた位置にあり、エッチング領域をなすエッチャントの流れに影響を及ぼすものではない。
【0061】
なお、本第1実施形態では、供給口をなすエッチャント供給ノズル部44を中心とする同一円周上に複数の排出孔45を等間隔で設けた構成を排出口としているが、ノズルブロック体41に、エッチャント供給ノズル部44を中心とする同一円周上に、前面が開口した凹断面の環状溝部を形成し、この環状溝部を排出口としても良い。
【0062】
第2実施形態
図5は本発明の第2実施形態を示す。
【0063】
図5は、図1と同様の湿式エッチング加工装置を示し、加工ヘッド2の構造が図1の加工ヘッドと異なる点以外は第1実施形態と同一である。したがって、同一構成要素には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0064】
本第2実施形態の加工ヘッド2は、円筒形状に形成した外筒51と、外筒51内に中心軸を一致させて内装される円筒形状の内筒52と、外筒51の内周部と内筒52の外周部との間に配置される円盤形状に形成されたガイド部材53と、同心状に配置された外筒51と内筒52の背面側(ガラス基板3とは反対側)に当接する円盤形状の背面板54とにより構成している。
【0065】
外筒51は、外径をD0、内径をD1、前面の開口51aの開口径をD2(D1>D2)とし、内筒52は外径をD3(D2>D3)としている。また、外筒51は背面側の端部にフランジ部51bを有し、このフランジ部51bには凹部51cが形成されている。一方、内筒52の背面側の端部には、フランジ部52aが形成され、このフランジ部52aが外筒51の凹部51cにガタなく嵌合している。そして、内筒52のフランジ部52aの前面が外筒51の凹部51cの背面に当接した状態において、内筒52の前端面と外筒51の前端面とが段差なく同じレベルに一致するように内筒52と外筒51の全長を設定している。
【0066】
また、内筒52の先端において、内筒52と外筒51との間に、[(D2−D3)/2=d1]の隙間を有する環状の排出孔55を形成している。
【0067】
ここで、内筒52はエッチャントをガラス基板3との間に供給するエッチャント供給ノズル部として用いられ、環状の排出孔55は、供給されたエッチャントを吸引して排出するのに用いられる。したがって、エッチング領域は、環状の排出孔55の外周にて形成される円内となる。
【0068】
ガイド部材53は、内筒52の外周に同心に外装され、且つ外筒51の内周に同心に内装されることにより、内筒52を外筒51に対して同一軸心を保持し、前記環状の排出孔55の隙間d1を全周にわたって維持できるようにしている。なお、ガイド部材53が装着されている外筒51の内周部分には、環状の排出孔55から吸引したエッチャントが通過するための開口部53aを適宜に形成している。同様に、内筒52のフランジ部52aに、複数の液孔52bが周方向に同一円周上に形成されている。
【0069】
背面板54は、中央に内筒52の中空孔部58に接合する接続孔56を有し、前面側に複数の液孔52bに対応して凹状の周溝57が形成され、径方向に沿って該周溝57に連通する排出路59が複数形成されている。そして、これら複数の排出路59の排出端に回収管7が接続されている。また、エッチャント循環装置1Aの供給管19が接続孔56に接続される。
【0070】
背面板54は固定ねじ43により、外筒51のフランジ部51bに締結され、内筒52のフランジ部52aに当接して内筒52の軸方向移動を規制し、外筒51と内筒52と背面板54とを一体的に固定する。
【0071】
上述した第2実施形態において、内筒52の中空孔部58を通してガラス基板3との隙間にエッチャント5が供給され中空孔部58の周囲に同心上に形成された環状の排出孔55に吸引されて排出され、ガイド部材53に形成した開口部53aを通し、さらに内筒52のフランジ部52aに形成した液孔52bを通して凹状の周溝57に集められ、さらに排出路59を通して回収される。
【0072】
なお、環状の排出孔55の隙間d1に比較して、外筒51の内径(D1)と内筒52の外径(D3)との隙間[(D1−D3)/2=d2]を大きくしており、隙間d2が隙間d1と等しいと、液孔54を通して回収管7へ至る管路抵抗の影響で排出孔55から充分にエッチャントを吸引排出できなくなる。このため、隙間d2を隙間d1よりも大きくして排出孔55よりエッチャントを充分に吸引排出できるようにしている。
【0073】
第1実施形態の加工ヘッド2はノズルブロック体41を一体に形成し、前面を完全に段差のない平坦面に形成しているが、上述した本第2実施形態の加工ヘッド2は、前端面に外筒51と内筒52という2部材が存在しているために僅かでも段差が生じる。
【0074】
図4(b)は、外筒51の先端に対して内筒52の先端が後方(ガラス基板3から離れる方向)にずれて後方に凹の段差が生じている状態を示し、図4(c)は逆に内筒52の先端が外筒51の先端よりも前方に凸の段差が生じている状態を示している。
【0075】
図4(b)に示す凹の段差が生じていると、エッチング領域の変動、液引きを発生させる傾向があり、図4(c)に示す凸の段差が生じていると、供給されたエッチャントの一部及び気化したガスの一部が環状の排出孔55に吸引排出されず、走査時に流れる場合がある。
【0076】
図6(a)は、加工ヘッドの段差とライン加工断面形状の関係を示す図である。
【0077】
加工条件は以下の通りである。
【0078】
単位加工エッチャント領域; φ15mm
フッ酸濃度 ; 25wt%
ヘッド前面−基板間距離 ; 500μm
フッ酸循環流量 ; 30L/h
吸引 ; 31.4L/min
フッ酸温度 ; 25℃
基板保持; 水平保持(加工ヘッドをガラス基板の下方に配置し、上向きにフッ酸を供給)
走査速度; 200mm/min
上記の加工条件により、段差+50μm、+170μm+300μm、−200μm、−320μm、で20回の往復走査(40回走査)の加工を行い、走査方向における加工断面を測定した。測定結果を1走査当たりの深さに換算したものを図6(a)に示す。なお、段差制御は、内筒52のフランジ部52aと外筒51の凹部51cとの間にスペーサーを挟むことにより調節して行った。
【0079】
図6(a)に示すように、計算値と、段差+50μm(計算値と重なっている)、+170μm、−200μmの場合は計算値と略同じ断面形状が得られたが、段差を+300μm、−320μmとした場合では計算値よりも深く、また狭く加工され、加工断面形状に凹凸が発生していた。
【0080】
次に、加工ヘッドの段差と加工断面積の関係を、基準値と該各加工断面積との比を下記の表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1より、段差+50μmでは1.7と殆ど基準値と同じ断面積が得られたが、+170μmでは3.6、−200μmでは−2.4となり基準値よりもわずかに大きな断面積が得られ、+300μmでは45.7、−320μmでは40.8と基準値に比べて大きな断面積となった。
【0083】
これらの結果より、段差が±200μm未満、好ましくは±150μm未満であると、計算値と同等のライン加工断面形状が得られ、段差が200μmよりも大きくなると、計算値よりも大きくずれ、高平坦度が得難くなる。また、図6(b)に示すように、段差が大きくなると、走査方向後方に向けて液引きが生じる。
【0084】
なお、上記した各実施形態において、加工ヘッド走査装置1Bは、ガラス基板3を固定し、加工ヘッド2をガラス基板3に対して移動するようにしているので、加工ヘッド2を駆動する機構はガラス基板3よりも大きくはみ出ることがない。勿論、ガラス基板3を移動するようにしても良いが、ガラス基板3の周囲に、ガラス基板3が移動できるスペースを確保する必要があり、装置全体の大型化を招き、また重量のあるガラス基板3を移動させるためには移動機構を堅牢にする必要があり、装置全体の重量も増す他、消費電力も多くなる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態を示す湿式エッチング加工装置の概略図、(b)は(a)に示す加工ヘッドの正面図。
【図2】図1のA−A矢視図。
【図3】図2の加工ヘッド走査装置における走査順序を示す図。
【図4】(a)は加工ヘッドの前端面の形状とエッチャントの流れる状態を示す図、(b)(c)は加工ヘッドの段差とエッチャントの流れる状態を示す図。
【図5】(a)は本発明の第2実施形態を示す湿式エッチング加工装置の概略図、(b)は(a)に示す加工ヘッドの正面図。
【図6】(a)は加工ヘッドの段差とライン加工断面形状との関係を示す図、(b)は走査時の液引きの様子を示す図。
【図7】(a)はライン加工後のライン断面形状と計算値のライン断面形状とを比較した図、(b)は計算値のライン断面形状を示す斜視図。
【符号の説明】
【0086】
1 湿式エッチング加工装置
1A エッチャント循環装置
1B 加工ヘッド走査装置
2 加工ヘッド
3 ガラス基板(加工物)
4 エッチャントタンク
5 エッチャント
6 エッチャント供給系
7 エッチャント回収管
8 ガス排気管
9 ガス排気ポンプ
10 濃度コントローラ
11 水
12 補給管
13 送液ポンプ
14 熱交換器
15 測温体
16 流量調節バルブ
17 流量計
18 フッ酸濃度センサー
19 供給管
20 温調ユニット
31 装置基台
32 2方向移動ステージ
33 加工ヘッド走査速度制御部
34 装置カバー
35 垂直フレーム
36 垂直フレーム部材
37 直線移動案内機構
38 水平フレーム部材
39 主走査方向駆動用のボールねじ
40 副走査方向用のボールねじ
41 ノズルブロック体
42 背面ブロック体
43 固定ねじ
44 供給ノズル部
45 排出孔
46 第1周溝
47 開口
48 第2周溝
49 排出路
51 外筒
51b フランジ部
51c 凹部
52 内筒
52a フランジ部
52b 液孔
53 ガイド部材
53a 開口部
54 背面板
55 排出孔
56 接続孔
57 周溝
58 中空孔部
59 排出路
61 窪み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の表面と相対的に移動しながら、該被加工物の表面に液状のエッチャントを供給口から連続的に供給しつつ排出口から吸引して排出し、該供給口と該排出口との間に形成される該被加工物の表面と接触するエッチング領域により、該被加工物の表面をエッチング加工するための加工ヘッドであって、
前記供給口と前記排出口とが設けられているヘッド前端部は、1部材により形成されて前端面を無段差の平坦面に形成したことを特徴とする加工ヘッド。
【請求項2】
前記排出口は、前記供給口を中心とする同一円周上に等間隔で設けた複数の排出孔により構成したことを特徴とする請求項1に記載の加工ヘッド。
【請求項3】
被加工物の表面と相対的に移動しながら、該被加工物の表面に液状のエッチャントを供給口から連続的に供給しつつ排出口から吸引して排出し、該供給口と該排出口との間に形成される該被加工物の表面と接触するエッチング領域により、該被加工物の表面をエッチング加工するための加工ヘッドであって、
前記供給口と前記排出口とが設けられているヘッド前端部は、筒形状の内筒と、該内筒を隙間を有して内装する外筒との2部材により同心管構造に構成すると共に、前記内筒の後端部をフランジ形状に形成し、前記内筒と前記外筒の前端面を一致させるように前記外筒の後端面に該内筒のフランジ形状の後端部を当接させて軸方向前方に対する位置決めを行い、該内筒を該供給口とし、該外筒と該内筒との間に形成される環状の隙間を該排出口としたことを特徴とする加工ヘッド。
【請求項4】
前記外筒は、前記排出口より後方での内径を、前記排出口をなす先端での開口径よりも大径に形成していることを特徴とする請求項3に記載の加工ヘッド。
【請求項5】
前記外筒の内周部に嵌合される保持部材に前記内筒の外周部を外装し、前記外筒と前記内筒とを同一軸心上に保持し、前記排出口の隙間を全周において一定に保持したことを特徴とする請求項3または4に記載の加工ヘッド。
【請求項6】
予め測定した被加工物の表面形状のデータに基づいて、請求項1から5のいずれかに記載の加工ヘッドと前記被加工物との相対的移動速度を制御して該被加工物の表面を加工することを特徴とする加工方法。
【請求項7】
前記被加工物は、ガラス基板、フォトマスク基板、半導体基板であることを特徴とする請求項6に記載の加工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−311441(P2008−311441A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157998(P2007−157998)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】