説明

加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板

【課題】 本発明は、加工性に優れ、且つ、耐汚染性、耐溶剤性に優れるプレコート金属板を提供する。
【解決手段】 化成処理を施した金属板の片面もしくは両面に、1層以上のアミノプラスト樹脂を硬化剤として用いた樹脂塗膜層をトップ塗膜層として有する金属板において、トップ塗膜層について高周波放電式グロー放電発行分光分析で塗膜の深さ方向の元素濃度分布を測定し、トップ塗膜層の空気に接している表面をゼロ点とし、ここから深さ方向の距離をTとし、更に、Nc=[窒素のスペクトル強度]/{[窒素のスペクトル強度]+[酸素のスペクトル強度]+[炭素のスペクトル強度]}と定義したときに、Ncの値が次の(A)0μm≦T≦0.5μmのいずれかの深さにおけるNcの値が0.45以上である。及び(B)2.0μm≦T≦5.0μmのいずれかの深さにおいて、Ncの値が0.45以上となる。の両条件を満たすことを特徴とした加工性及び耐汚染性、耐溶剤性に優れるプレコート金属板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形後の耐食性に優れたプレコート金属板に関するものであり、家電用、建材用、土木用、機械用、自動車用、家具用、容器用等において、プレコート金属板の塗膜の加工性を有し、且つ、耐汚染性と耐溶剤性を発揮することを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
家電用、建材用、自動車用等に、従来の加工後塗装されていたポスト塗装製品に代わって、着色した塗膜を被覆したプレコート金属板が使用されるようになってきている。この金属板は、金属用前処理を施した金属板に塗料を被覆したもので、塗料を塗装した後に成形加工されて使用されることが一般的である。そのため、金属板上に被覆される塗膜には、高度の加工性が要求される一方、耐汚染性等の従来のポスト塗装で要求されてきた性能をも満足しなければならない。
【0003】
これを解消するために、(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)等に、樹脂組成を改善する方法や、塗料配合を種々工夫する技術が開示されている。(特許文献3)には、ガラス転移点5〜40℃、数平均分子量15,000〜30,000のポリエステル樹脂と、ヘキサメトキシメチロール化メラミン樹脂とを、質量比で75/25〜55/45に配合したポリエステル-メラミン樹脂100質量部に対して、ドデシルベンゼンスルホン酸のアミンブロック体を1〜2質量部配合してなる塗料によって、赤マジック汚染性に優れ、加工性にも優れる塗装金属板用塗料組成物が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭61-32351号公報
【特許文献2】特開昭62-21830号公報
【特許文献3】特開平2-269168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、(特許文献3)の技術では、加工性と汚染性には優れるものの、耐有機溶剤性に劣ることが問題となっていた。プレコート金属板塗膜の耐有機溶剤性が劣る場合、塗膜表面に付着した汚染物を有機溶剤で拭き取る際に、有機溶剤を塗膜表面に付着させた状態で放置してしまうと、そこから塗膜が膨潤したり、変色したりしてしまう問題が発生する。また、塗膜表面の汚染物拭き取りの際に、有機溶剤を塗膜表面に激しくこぼしてしまった場合等にも同様の問題が発生する。
【0006】
そこで、本発明は、従来技術における上記問題点を解決し、塗膜の加工性、耐汚染性と耐溶剤性に優れるプレコート金属板を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、耐溶剤性に優れる塗膜について鋭意検討した結果、メラミン樹脂等のアミノプラスト樹脂を硬化剤に用いた塗膜中のメラミン樹脂濃度を塗膜の深さ方向に傾斜を持たせ、且つ、この深さ方向のアミノプラスト樹脂濃度をコントロールすることで、高い加工性を有し、且つ、耐汚染性、耐溶剤性に優れる塗膜を得ることができることを知見した。
【0008】
更には、高周波グロー放電式グロー放電発光分光分析(以下、高周波GDSと称す)で塗膜中の深さ方向の窒素、酸素及び炭素のスペクトルを測定し、各深さにおける[窒素のスペクトル強度]/([窒素のスペクトル強度]+[酸素のスペクトル強度]+[炭素のスペクトル強度])(以下、これを窒素強度比Ncと定義する)を算出することで、塗膜樹脂中のそれぞれの深さでの窒素濃度比を知ることができ、更に、この窒素濃度比が塗膜中のアミノプラスト樹脂濃度比に置き換えて考えることができることを見出した。
【0009】
本発明は、かかる知見を基に完成させたものであって、本発明がその要旨とするところは、以下の通りである。
(1) 金属板の少なくとも片面に、アミノプラスト樹脂を硬化剤として用いた樹脂塗膜層をトップ塗膜層とする1層以上の塗膜層を有する金属板であって、該トップ塗膜層を高周波放電式グロー放電発光分光分析での深さ方向の元素濃度測定の結果から得られる下記式(I)で定義される窒素強度比をNc、前記トップ塗膜層の空気と接する表面からの深さ方向の距離をTとしたとき、前記トップ塗膜層が、下記(A)、(B)の両条件を共に満たすことを特徴とする加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板。
【0010】
(A) 0μm≦T≦0.5μmにおいて、Nc≧0.45である
(B) 2.0μm≦T≦5.0μmにおいて、Nc≧0.45である
【0011】
【数1】

【0012】
(2) 前記トップ塗膜層が、さらに下記(C)の条件も満たす請求項1記載の加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板。
【0013】
(C) T>5.0μmの全ての深さにおいて、0.35≦Nc<0.45である
(3) 前記トップ塗膜層を構成する主樹脂が、ポリエステル系樹脂である請求項1又は2に記載の加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板。
(4) 前記トップ塗膜層が、酸化チタン系顔料を含有する前記(1)〜(3)のいずれかに記載の加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板。
(5) 前記トップ塗膜層のガラス転位温度が、15℃以上50℃以下である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板。
(6) 前記金属板が、化成処理を施した金属板である前記(1)記載の加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、加工性を有すると共に、耐汚染性に優れ、且つ耐溶剤性にも優れるプレコート金属板を提供することが可能となった。そのため、本発明のプレコート金属板を使用した製品に有機溶剤が付着しても、塗膜が膨潤したりすることがなくなり、製品に付着した汚染物等を様々な種類の有機溶剤で拭き取ることが可能となった。そのため、製品の美麗な外観を長期間保持することが可能となった。従って、本発明は産業上の極めて価値の高い発明であるといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、金属板の片面もしくは両面に、1層以上のアミノプラスト樹脂を硬化剤として用いた樹脂塗膜層をトップ塗膜として有する金属板において、トップ塗膜層の塗膜について高周波GDSで塗膜の深さ方向の元素濃度分布を測定し、トップ塗膜層の空気に接している表面をゼロ点とし、ここから深さ方向の距離をTとし、更に、窒素強度比をNc=[窒素のスペクトル強度]/{[窒素のスペクトル強度]+[酸素のスペクトル強度]+[炭素のスペクトル強度]}と定義したときに、Ncの値が次の(A)及び(B)の両条件を満たすことを特徴とした加工性及び耐汚染性、耐溶剤性に優れるプレコート金属板である。
【0016】
(A) 0μm≦T≦0.5μmのいずれかの深さにおけるNcの値が0.45以上である。
【0017】
(B) 2.0μm≦T≦5.0μmのいずれかの深さにおいて、Ncの値が0.45以上となる。
【0018】
なお、本発明のトップ塗膜層とは、1層以上の塗膜層の内、最表面の塗膜層のことと定義する。
【0019】
ここで、Ncの値は、塗膜の硬化剤に用いるアミノプラスト樹脂起因の窒素濃度を示しており、塗膜中のアミノプラスト樹脂濃度の指標である。
【0020】
発明者らが鋭意検討した結果、トップ塗膜層の空気に接している最表面付近にアミノプラスト樹脂が多く存在すると、塗膜表面に汚染物が染み込み難く、耐汚染性に優れることを知見した。塗膜の深い部分までは染み込まないため、塗膜の最表層にアミノプラスト樹脂を濃化させることでブロックされる。
【0021】
なお、0μm≦T≦0.5μm という深さ範囲は、発明者らが数多くの実験を行った結果、この深さ範囲は塗膜の最表層と見なせる範囲であり、この範囲にブアミノプラスト樹脂を濃化させれば、汚染物をブロックできることの結果を得たことにより定義した範囲である。
【0022】
0μm≦T≦0.5μmの全ての深さにおけるNcの値が0.45未満の場合は、耐汚染性が低下し、不適である。
【0023】
一方、塗膜の耐溶剤性は、塗膜最表層のみにアミノプラスト樹脂を濃化させても効果が無く、表層より数μm深い位置にアミノプラスト樹脂を多く存在させると、耐溶剤性に効果的であることを見出した。特に、2.0μm≦T≦5.0μmの深さにアミノプラスト樹脂を多く存在させるとよい。これは、トップ塗膜層全体に溶剤が染み込むことを抑制すると同時に、トップ塗膜の最表層より数μm深い位置に特に多量のアミノプラスト樹脂を存在させることで、溶剤染み込みをよりブロックできるので、耐溶剤性が大きく向上する為である。2.0μm≦T≦5.0μmの全ての深さにおいてNcの値が0.45未満であると、耐溶剤性が低下するため、不適である。
【0024】
本発明のプレコート金属板では、トップ塗膜層のT>5.0μmの全ての深さにおけるNcの値が0.35以上0.45未満であると、耐溶剤性が更に優れ、且つ塗膜の加工性がより向上するため、より好適である。これは、トップ塗膜の深い位置においても、ある程度以上のアミノプラスト樹脂を存在させることで、溶剤が塗膜の深部まで染み込むことを抑制し、且つ、塗膜表層付近よりもアミノプラスト樹脂の濃度を低くすることで、塗膜の加工性が向上するからである。
【0025】
本発明のプレコート金属板のトップ塗膜の硬化剤に用いるアミノプラスト樹脂は、一般に公知のものを用いることができ、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。メラミン樹脂には、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂、イミノ基型メチル化メラミン樹脂、完全アルキル型混合エーテル化メラミン樹脂、メチロール基型混合エーテル化メラミン樹脂、イミノ基型混合エーテル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂等を用いることができる。また、これらのアミノプラスト樹脂を2種類以上混合して用いても良い。これらアミノプラスト樹脂は市販のものを用いても良い。ただし、メラミン樹脂の樹脂によって塗膜中の分布状態が異なるため、必要に応じて適宜選定する必要がある。ブチル化メラミン樹脂等は、自己縮合性が強く、塗膜中に濃化し易い性質を持ち、また、表面自由エネルギーにより極最表層に濃化層を形成する性質を有している。イミノ基型のメラミン樹脂は、ブチル化メラミンほどではないが、比較的自己縮合し易い性質を持つ。また、各種アミノプラスト樹脂は、併用する触媒の有無や触媒の種類によっても塗膜中の分布状態が異なるため、必要に応じて触媒を併用すると塗膜中の分布状態をコントロールでき、より好適である。アミノプラスト樹脂の反応触媒は、一般的には酸性触媒が使用される。触媒は、市販のものや試薬を用いても良い。これら触媒はアミンで中和したものを用いても良い。アミンで中和した触媒は、アミンの揮発速度や触媒からのアミンの解離温度等によって、塗膜中のアミノプラスト樹脂の分布状態が異なるため、これらを利用して分布状態を制御することもできる。
【0026】
発明者らが得た知見としては、ポリエステル樹脂固形分100質量部に対してメラミン樹脂としてイミノ基型メチル化メラミン樹脂もしくは完全アルキル型混合エーテル化メラミン樹脂を25〜45質量部添加し、且つ、パラトルエンスルホン酸を酸性触媒として用い、これをトリエチルアミンで中和させたものを塗料中に添加して、金属板上に乾燥膜厚にして20〜30μm塗装し、且つ、200℃〜250℃の熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて焼付開始から65秒以下の時間で到達板温が210℃〜235℃の温度に達する焼付条件で塗膜を焼き付けた場合に、成膜後の塗膜を高周波GDSで窒素濃度比Ncを測定した時に、前記(A)及び(B)の両条件を満たす塗膜を得ることができた。メラミン樹脂がイミノ基型メチル化メラミン樹脂もしくは完全アルキル型混合エーテル化メラミン樹脂以外のものである場合、成膜後の塗膜を高周波GDSで窒素濃度比Ncを測定した時に、前記(A)及び(B)の両条件を満たし難いものと考える。これは、例えば、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂をアミン中和していない酸性触媒を用いてポリエステル樹脂を反応させた場合、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂は自己縮合特性が非常に小さいため、塗膜中に広く均一に分散し、表層に濃化し難いため、前記(A)及び(B)の条件を満たすことができないものと考える。更に、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂とアミン中和した酸性触媒を用いた場合には、表層付近で中和した触媒のアミンが解離するため、表層付近でのメラミンの反応が促進されるため、メラミン樹脂に起因する窒素強度比Ncが塗膜最下層から表層にかけて徐々に増加し、表層付近のNcが最も高くなる。そのため、前記(A)の条件は満たすものの、(B)の条件が満たない塗膜となってしまったと考える。また、ポリエステル樹脂をブチル化メラミン樹脂で硬化させた場合は、ブチル化メラミン樹脂は自己縮合特性が非常に大きく、且つ、表面自由エネルギーの関係で、塗膜表層に濃化し易いため、塗膜の極表層付近でのNc値は非常に高く、前記(A)の条件は満たすが、表層より少し深い部分でのNc値は小さく、前記(B)の条件を満たさない塗膜となってしまったものと考える。更に、イミノ基型メチル化メラミン樹脂もしくは完全アルキル型混合エーテル化メラミン樹脂を用いた場合でも、アミンで中和せずに酸性触媒を単独で用いた場合には、メラミン樹脂が表層で濃化し難く、前記(A)及び(B)の両条件を満たすことが困難である。また、イミノ基型メチル化メラミン樹脂もしくは完全アルキル型混合エーテル化メラミン樹脂をアミン中和した酸性触媒で反応させた場合でも、焼付時の到達温度が210℃未満の場合は、メラミン樹脂が塗膜表層に濃化しきれないため、前記(B)の条件は満たすものの、前記(A)の条件を満たす塗膜が得られ難い。到達板温が235℃超の場合は、多量のメラミン樹脂が塗膜の極表層付近に濃化してしまうため、前記(A)の条件は満たすものの、表層より少し深い位置でのメラミン樹脂濃度が低くなってしまい、前記(B)の条件を満たす塗膜が得られ難い。また、焼付開始から所定の到達板温に達するまでの時間が65秒超であると、多量のメラミン樹脂が塗膜の極表層付近に濃化してしまうため、前記(A)の条件は満たすものの、表層より少し深い位置でのメラミン樹脂濃度が低くなってしまい、前記(B)の条件を満たす塗膜が得られ難い。また、乾燥膜厚が20μm未満の場合は、塗膜中のメラミン樹脂がより早く表層に達し易くなり、メラミン樹脂が極表層に多量に濃化し易くなるため、前記(B)の条件を満たし難くなる。乾燥膜厚が30μm超では、塗膜を焼き付けたときに、塗膜中に多数の溶剤揮発起因の破泡跡(一般にワキと呼ばれる)の欠陥が発生し易く、また、例えワキ欠陥が発生しなくとも、塗膜中のメラミン樹脂が焼付時間内に表層に到達し切れなくなるため、極表層にメラミン樹脂が濃化し難くなり、前記(A)の条件を満たし難くなる可能性がある。更に、塗膜を焼き付ける際に200℃〜250℃の熱風を吹き込んだ誘導加熱炉以外の焼付方法、例えば、熱風炉で焼き付けた場合は、塗膜の焼付過程にて、塗膜の表層から熱が伝わるため、塗膜表層付近での反応がより促進されるため、塗膜の極表層付近でメラミン樹脂が濃化してしまうため、塗膜極表層から少し深い位置でのメラミン量が少なくなり、前記(B)の条件を満たし難くなる。また、熱風を吹き込まずに誘導加熱炉のみで塗膜を焼き付けた場合は、塗膜の金属板側から熱が伝わるため、塗膜の表層付近より深い位置でのメラミン樹脂の反応が盛んとなるため、メラミン樹脂が塗膜の極表層付近に濃化し難くなるため、前記(A)の条件を満たし難くなる。誘導加熱炉に吹き込む熱風の温度が200℃未満の場合は、熱風を吹き込んだ効果が低くなり、誘導加熱炉単独で焼き付ける場合と同様の効果となってしまい、また、吹き込む熱風の温度が250℃超では、熱風の影響が大きくなるため、熱風炉で焼き付けた場合と同様の効果となってしまう。
【0027】
ただし、これらの知見はあくまで、発明者らが検討した範囲内のものであり、これら以外の手法で本発明が達成される場合は、その方法を適用しても良い。
【0028】
本発明のプレコート金属板のトップ塗膜に用いる主樹脂は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、イミド樹脂等、一般に公知の樹脂を用いることができる。市販のもの、例えば、三井サイテック社製「サイメルTM」、「マイコートTM」(何れも三井サイテック社の登録商標)、大日本インキ化学工業社製「ベッカミンTM」、「スーパーベッカミンTM」(何れも大日本インキ化学工業社の登録商標)等を用いることもできる。更に、これらの樹脂を2種類以上混合して用いても良い。
【0029】
本発明のプレコート金属板のトップ塗膜層の主樹脂がポリエステル系であると、塗膜の加工性がより向上するため、より好適である。ポリエステル樹脂とは、樹脂中にエステル基を有する樹脂であり、オイルフリーポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、線状高分子ポリエステル樹脂、分岐型高分子ポリエステル樹脂と呼ばれているものである。これらポリエステル樹脂も市販のもの、例えば、東洋紡績社製の「バイロンTM」(東洋防錆社の登録商標)や、住化バイエルウレタン社製「デスモフェンTM」(住化バイエルウレタン社の登録商標)等を使用することができる。これらを複数混合しても良い。本発明で用いるポリエステル樹脂の数平均分子量は10000〜50000がより好適である。数平均分子量が10000未満では加工性が劣る恐れがあり、50000超では溶剤に溶解して塗料化することが困難な場合があるためである。なお、複数のポリエステル樹脂を混合した場合は、混合したポリエステル樹脂全体の数平均分子量が10000〜50000であれば、好適である。
【0030】
また、トップ塗膜層のガラス転移温度が15℃以上50℃以下であると、より好適である。トップ塗膜のガラス転移温度が50℃超では塗膜の加工性が劣る恐れがあり、15℃未満では塗膜が軟らかすぎるためアミノプラスト樹脂による溶剤のブロック効果が発揮されず、耐溶剤性が劣る恐れがある。ここで、塗膜層のガラス転移温度とは、塗膜として成膜した後のガラス転移温度のことであり、塗膜の熱機械分析装置(一般に「TMA」と呼ばれる)や示差走査熱量測定装置(一般に「DSC」と呼ばれる)、動的粘弾性測定装置(一般に「固体レオメーター」とも呼ばれる)等によって得られることができる。
【0031】
高周波GDSの測定条件は、特に限定されないが、例えば、放電電力20〜60W、アルゴン流量150ml〜350ml/分、サンプリング間隔0.3〜2.5秒で、窒素、炭素、酸素をトップ塗膜の空気と接している最表層から下層塗膜もしくは金属板との界面付近まで測定する。
【0032】
なお、1回の測定については測定条件を一定とし、測定途中での変更はしない。トップ塗膜とその他の下層、例えば、プライマー塗膜、中塗り塗膜、金属板との界面の位置をスペクトル上で知るために、他の元素も併せて測定すると良い。例えば、下層がプライマー塗膜である場合は、プライマー塗膜に含まれる特有の元素、例えば、防錆顔料に含まれるCr等を測定すると、界面が判別し易い。
【0033】
ここで、高周波GDSの測定については、まず、高周波GDSの測定によって得られた窒素、炭素及び酸素のスペクトル強度から、窒素強度比Nc=[窒素のスペクトル強度]/{[窒素のスペクトル強度]+[酸素のスペクトル強度]+[炭素のスペクトル強度]}を算出し、トップ塗膜の最表層から下層塗膜もしくは金属板との界面までの測定時間tとNcとの関係を表す曲線を求める。そして、図1に示すように、トップ塗膜と下層塗膜もしくは金属板との界面までの測定時間t=a秒とし、予め測定したトップ塗膜の膜厚を例えば25μmした場合、測定時間t=a秒がトップ塗膜の最表層からの深さT=25μmの地点とし、測定時間tとトップ表層からの深さTとが正比例関係となるように定義することで、塗膜の各深さでのNcの値を求める。
【0034】
プレコート金属板のトップ塗膜の膜厚は、一般に公知の測定方法で求めることができる。例えば、質量法、電磁膜厚系、塗膜の垂直断面を切断してマイクロメーター付きの顕微鏡で塗膜断面の膜厚を測定する等の方法が挙げられる。
【0035】
本発明のプレコート金属板のトップ塗膜層中には、酸化チタン系顔料を含むと耐溶剤性がより向上するため、より好適である。酸化チタン系顔料を含むことで、有機樹脂塗膜中に無機系の物質が加わるため、有機無機混合塗膜となり、より溶剤のバリアー性が向上するため、耐溶剤性が向上する。塗膜中に添加する酸化チタン系顔料の添加量は、特に規定するものではなく、必要に応じて調整することができる。ただし、添加量が少量でも効果を発揮し、多ければ多いほどより効果を発揮するため、より好ましくは、塗膜中の樹脂固形分100質量部に対して5〜180質量部である。樹脂固形分100質量部に対して5質量部未満であると、酸化チタン系顔料を添加した効果が得られず、180質量部超では塗膜が脆くなり、塗膜の加工性が低下する恐れがある。より好ましくは10〜130質量部である。
【0036】
本発明のプレコート金属板の有するトップ塗膜の膜厚は、特に規定するものではなく、必要に応じて適宜選定することができる。好ましくは、7〜40μmである。7μm未満では、塗膜に染み込み易い溶剤をブロックすることが困難となり、耐溶剤性に劣る恐れがある。40μm超では、塗装焼付け時に一般に「ワキ」と呼ばれる塗装欠陥が発生する恐れがある。また、前述したように、メラミン樹脂の濃化のし易さを考慮すると、20〜30μmがより好適である。
【0037】
本発明のプレコート金属板のトップ塗膜の下層に、プライマー塗膜を塗装して2コート塗膜としたり、更に、プライマー塗膜とトップ塗膜の間に1層以上の中塗り塗膜を塗装して3コート塗膜もしくはそれ以上の複層塗膜とすることもできる。プライマー塗膜や中塗り塗膜には、一般に公知の塗膜を使用することができる。市販のものを用いてもよい。プライマー塗膜や中塗り塗膜には、トップ塗膜と同様にポリエステル系の塗膜を用いると、塗膜の加工性が向上してより好適である。また、プライマー塗膜や中塗り塗膜には一般に公知の着色顔料や防錆顔料を添加してもよい。これらの顔料は市販のものを用いてもよい。特に、金属板上に塗装するプライマー塗膜中には、防錆顔料を添加するとプレコート金属板の耐食性が向上するため、より好適である。プライマー中に添加する防錆顔料は、一般に公知の防錆顔料、例えば、クロム酸ストロンチウム、クロム酸バリウム、クロム酸カリウム等のクロム系防錆含量や、シリカ、マグネシウムイオン交換シリカ等のシリカ系顔料、リン酸亜鉛、トリポリリン酸二水素アルミニウム、亜リン酸亜鉛等のリン酸系防錆顔料等が挙げられる。しかし、これらの防錆顔料の中でも環境負荷物質を含まないシリカ系顔料やリン酸系顔料が、環境面でより好適である。これらシリカ系顔料やリン酸系顔料の中では、カルシウムイオン交換シリカやトリポリリン酸二水素アルミニウムが耐食性に優れより好適である。
【0038】
本発明に使用する金属板は、一般に公知の金属材料を用いることができる。金属材料が合金材料であってもよい。例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板、アルミ合金板、チタン板、銅板等が挙げられる。これらの材料の表面にはめっきが施されていてもよい。めっきの種類としては、亜鉛めっき、アルミめっき、銅めっき、ニッケルめっき等が挙げられる。これらの合金めっきであってもよい。鋼板の場合は、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、アルミめっき鋼板、アルミ-亜鉛合金化めっき鋼板等、一般に公知の鋼板及びめっき鋼板を適用できる。
【0039】
本発明に用いる金属板は、化成処理を施した金属板であることが望ましい。化成処理を施すと、金属板と塗膜との密着性や金属板の耐食性がより向上する。この化成処理は、リン酸亜鉛系化成処理、塗布クロメート処理、電解クロム酸処理、反応クロメート処理、クロメートフリー系化成処理等を使用することができる。ノンクロメート系化成処理としては、シランカップリング剤、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物、タンニン又はタンニン酸、樹脂、シリカ等を含む水溶液で処理したもの等が知られており、特開昭53-9238号公報、特開平9-241576号公報、特開2001-89868号公報、特開2001-316845号公報、特開2002-60959号公報、特開2002-38280号公報、特開2002-266081号公報、特開2003-253464号公報等に記載されている公知の技術を使用しても良い。これらの化成処理は、市販のもの、例えば、日本パーカライジング社製のクロメート処理「ZM-1300AN」、日本パーカライジング社製のクロメートフリー化成処理「CT-E300N」、日本ペイント社製の3価クロム系化成処理「サーフコートTM NRC1000」等を使用することができる。
【0040】
本発明のプレコート金属板は、上述の塗料組成物を金属板に、一般に公知の方法、例えば、はけ塗り、スプレー塗装、ロールコーター塗装、カーテンフローコーター塗装、ローラーカーテンコーター塗装、ダイコーター塗装等で塗装することで得られる。これらの塗装方法の中でも、ロールコーター塗装、カーテンフローコーター塗装、ローラーカーテンコーター塗装、ダイコーター塗装は、コイルコーティングラインやシートコーティングライン等にて連続塗装が可能であるため、塗装作業効率が高く、より好適である。
【0041】
また、塗装における乾燥焼付方法は、熱風オーブン、直火型オーブン、遠赤外線オーブン、誘導加熱型オーブン等の一般に公知の乾燥焼付方法を用いることができる。ただし、上述したように、トップ塗膜層の焼付け方法は、200℃〜250℃の熱風を吹き込んだ誘導加熱炉で行わなければならない。
【実施例】
【0042】
[実施例-I]
以下、実験に用いた供試材について詳細を説明する。
【0043】
まず、実験に用いた塗料について詳細を説明する。
【0044】
東洋紡社製の非晶性ポリエステル樹脂である「バイロンTM 103」(Tg:47℃、数平均分子量:23000[表1中にはB-103と記載])、東洋紡社製の非晶性ポリエステル樹脂である「バイロンTM 63CS」(Tg:7℃、数平均分子量:20000[表1中にはB-63CSと記載])、及び、東洋紡社製の非晶性ポリエステル樹脂である「バイロンTM GK140」(Tg:20℃、数平均分子量:13000[表1中にはB-GK140と記載])を準備した。「バイロンTM 103」、「バイロンTM GK220」、「バイロンTM GK140」は、ペレットもしくはシート状であるため、これらを有機溶剤(質量比でシクロヘキサノン:ソルベッソ150=1:1に混合したものを使用)に溶解して使用した。また、「バイロンTM 63CS」は、ポリエステル樹脂を既に有機溶剤(質量比でシクロヘキサノン:ソルベッソ150=1:1に混合したもの)に溶解してあるため、これをそのまま使用した。
【0045】
次に、アミノプラスト樹脂として、三井サイテック社製の完全アルキル型メチル化メラミン樹脂である「サイメルTM 303」(表1中にはメチルと記載)、三井サイテック社製の完全アルキル型混合エーテル化メラミン樹脂である「サイメルTM 235」(表1中にはアルキル混合と記載)、三井サイテック社製のイミノ基型混合エーテル化メラミン樹脂である「サイメルTM 202」(表1中にはイミノ基混合と記載)、大日本インキ社製のブチル化メラミン樹脂である「スーパーベッカミンTM J-830」(表1中にはブチルと記載)を準備した。更に、酸性触媒として、パラトルエンスルホン酸を用い、必要に応じて、これを揮発性塩基性物質であるでトリエチルアミン中和したものを作製した。なお、トリエチルアミンは、パラトルエンスルホン酸に対し、これを中和するのに必要な当量数を添加して中和させた。更に、添加顔料として、石原産業社製の酸化チタン「タイペークTM CR95」を準備した。
【0046】
そして、これらの組成物を必要に応じて混合し、攪拌することで塗料組成物を作製した。作製した塗料の詳細を表1に示す。なお、揮発性塩基性触媒で中和させた酸性触媒は、全ての塗料組成物について、塗料組成物中の樹脂固形分に対して0.5質量%添加した。
【0047】
【表1】

【0048】
次に、実験に用いたプレコート金属板について詳細を説明する。
【0049】
新日本株式会社製の亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板「ジンクライト」(以下、ZLと称す)と新日本株式会社製の電気亜鉛めっき鋼板「ジンコート」(以下、EGと称す)と新日本製鐵株式会社製の溶融亜鉛めっき鋼板「シルバージンク」(以下、GIと称す)を原板として準備した。板厚は0.6mmのものを使用した。本実験で用いたZLのめっき付着量は片面20g/m2、めっき層中のニッケル量は12%であった。また、EGのめっき付着量は片面20g/m2のもの、GIのめっき付着量は片面60g/m2のものを用いた。
【0050】
次に、準備した原板を日本パーカライジング社製のアルカリ脱脂液「FC-4336」の2質量%濃度、50℃水溶液にてスプレー脱脂し、水洗後、乾燥した後に、日本パーカライジング社製の微粒シリカを樹脂に分散させたタイプのクロメートフリー化成処理である「CT-E300N」をロールコーターにて塗布し、熱風オーブンにて乾燥させた。熱風オーブンでの乾燥条件は、鋼板の到達板温で60℃とした。クロメートフリー処理の付着量は、全固形分で200mg/m2付着するように塗装した。
【0051】
次に、化成処理を施した金属板の片方の面に、日本ペイント社製のFL641プライマーに防錆顔料としてCaイオン交換シリカを含むものを、他方の面に日本ペイント社製の裏面塗料である「FL100HQ」をロールコーターにてそれぞれ塗装し、230℃の熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて金属板の到達板温が210℃となる条件で乾燥硬化した。なお、焼付開始から230℃の到達板温に達するまでの時間は50秒とした。そして乾燥焼付後に、塗装された金属板へ水をスプレーにて拭きかけ、水冷した。なお、プライマー塗膜は、必要に応じて塗布しないものも作製した。
【0052】
更に、塗装したプライマー塗料の上に、表1に示した塗料組成物をトップ塗膜としてロールコーターにて塗装し、230℃の熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて金属板の到達板温が230℃となる条件で乾燥硬化した。なお、焼付開始から230℃の到達板温に達するまでの時間は60秒とした。そして乾燥焼付後に、塗装された金属板へ水をスプレーにて拭きかけ、水冷することで、プレコート金属板を得た。
【0053】
作製したプレコート鋼板の各塗膜厚は、いずれも乾燥後の膜厚で、プライマー塗膜が10μm、トップ塗膜が25μm、裏面塗料が5μmとなるように塗装した。なお、各膜厚はKET社製の電磁膜厚計「LE-200J」にて測定し、更に、各サンプルの垂直切断面を顕微鏡にて観察し、求める膜厚となっているかを再確認した。
【0054】
表2に、作製したプレコート金属板の詳細を記載する。
【0055】
【表2】

【0056】
以下、作製したプレコート金属板の評価方法の詳細を記載する。
1. 高周波GDSによる塗膜分析
理学電機工業社製のSystem3860を用い、放電電力30W、アルゴン流量250ml/分の条件で、サンプリング間隔0.5秒で塗膜表面から塗膜の深さ方向の窒素、酸素、炭素、珪素のスペクトル強度を測定した。そして、各サンプリング時間におけるNc=[窒素のスペクトル強度]/{[窒素のスペクトル強度]+[酸素のスペクトル強度]+[炭素のスペクトル強度]}を算出し、サンプリング時間tとNcとの関係を表すグラフを作成した。次に、トップ塗膜中には存在せず、プライマー塗膜中に存在する珪素のスペクトルを指標として、珪素のスペクトル強度が大きく増加したサンプリング時間tをトップ塗膜とプライマー塗膜との界面とし、この界面に相当するサンプリング時間tを表面からの深さT=25μmとした(本実験で作成したプレコート金属板のトップ塗膜の膜厚が25μmのため)。そして、塗膜表面からの深さTとGDSのサンプリング時間tとは関係が正比例関係がすることから、トップ塗膜の表面から深さ方向の距離TとNcとの関係を表すグラフを作成した。
【0057】
次に、このグラフから、0μm≦T≦0.5μmの範囲にけるNcの最大値、及び2.0μm≦T≦5.0μmの範囲におけるNcの最大値を求めた。また、T>5.0の範囲におけるNcの値が0.35以上0.45未満に全て入っている場合は「IN」、0.35以上0.45未満の範囲の上限以上で外れている場合は「OUT-OVER」、下限未満で外れている場合は「OUT-UNDER」と評価した。
2. 塗膜加工性試験
作製したプレコート金属板を、180°折り曲げ加工(密着曲げ加工)し、加工部の塗膜を目視で観察し、塗膜の割れの有無を調べた。なお、180°折り曲げを行う際には、プレコート金属板の表面が曲げの外側となるように折り曲げて密着曲げを行った(一般に0T曲げとして知られている)。また、加工部に粘着テープを貼り付け、これを勢い良く剥離したときの塗膜の残存状態を目視にて観察した。
【0058】
塗膜割れ及び剥離の評価は、塗膜割れや剥離の全くない時を○、塗膜に僅かな亀裂や剥離が認められる時を△、塗膜に明確な大きな割れや剥離がある時を×として評価した。
3. マジック汚染性試験
赤マジックインキを作成したプレコート金属板の塗膜表面に塗布して、室温で24時間放置した後に、キシレンにて塗布したマジックインキを拭き取った後の跡残りを評価した。マジック跡が消えて見えない場合を○、マジックが僅かに残っている場合を△、マジック跡が消えていない場合を×と評価した。
4. 耐溶剤性試験
サンプルをトルエンに24時間浸漬し、浸漬後の塗膜膨潤状態を目視観察して評価した。塗膜表面が浸漬前と比較して変化がない場合を○、塗膜表面にミミズ腫れの様な跡残りが僅かにあり塗膜の膨潤が僅かに認められる場合を△、塗膜表面にミミズ腫れの様な跡残りが激しくあり塗膜の膨潤が激しく認められる場合を×と評価した。
5. 耐食性試験
作製した塗装金属板の表面(表1に記載した塗料を塗装した面)にカット傷を入れて、JIS K 5400.9.1記載の方法に準拠して塩水噴霧試験を実施した。塩水は、試験片のクロスカットを入れた面に噴霧した。試験時間は120時間とした。そして、表面側のカット部からの塗膜膨れ幅を測定し、カット部膨れ幅が片側3mm以下の場合を○、カット部膨れ幅が片側3mm超5mm以下の場合を△、カット部膨れ幅が片側5mm超の場合を×と評価した。
【0059】
【表3】

【0060】
以下、評価結果について詳細を記載する。
【0061】
表3に、作製したプレコート金属板の評価結果を示す。本発明のプレコート金属板(本発明例No.1〜13)は、耐汚染性と耐溶剤性に優れ、且つ、加工性にも優れる。特に、トップ塗膜中の酸化チタンを含むもの(本発明例-6〜8)は、耐溶剤性により優れ、より好適である。ただし、トップ塗膜中の酸化チタンの添加量が樹脂固形分100質量部に対して180質量部超では、加工性が若干低下するため、180質量部以下がより好ましい。また、T>5.0μmでのNc値評価が上限を超えているもの(本発明例-10)は、加工性が若干劣り、下限より下に外れているもの(本発明例-9)は、耐溶剤性が若干劣るため、T>5.0μmの範囲でのNc値は0.35以上0.45未満がより好ましい。更に、プライマー塗膜を塗装しないもの(本発明例-13)は耐食性が劣る傾向であるため、トップ塗膜下には、プライマー塗膜を施すことが好ましく、防錆顔料、特にカルシウムイオン交換シリカを含むプライマー塗膜を塗装することがより好ましい。
【0062】
0≦T≦0.5μmの範囲でのNc値が4.5未満のもの(比較例-14,16)は、耐汚染性に劣り、2.0≦T≦5.0μmの範囲でのNc値が4.5未満のもの(比較例-14〜16)は、耐溶剤性に劣るため、不適である。
【0063】
[実施例-II]
実施例-Iに準じてプレコート金属板を作製した。ただし、本実験ではZLを金属板に用い、プライマー塗料を塗装し、トップ塗膜は表1に記載の塗料-7を用い、トップ塗膜の膜厚及び焼付条件を変化させた条件でプレコート金属板を作製した。なお、トップ塗料の焼付条件は、到達板温及び焼付開始から到達板温に達するまでの時間を変化させた。更に、トップ塗料の焼付炉を実施例-Iで用いた230℃の熱風を吹き付けた誘導加熱炉(以降、熱風IHと称す)で焼き付けたプレコート金属板に加えて、熱風炉単独(以降、熱風と称す)で焼き付けたプレコート金属板、誘導加熱炉単独(以降、IHと称す)で焼き付けたプレコート金属板も作製した。なお、プライマーの焼付は、トップ塗膜と同じの焼付炉を用い、到達板温や焼付開始から到達板温に達するまでの時間は、実施例-Iのそれと同じとした。
【0064】
【表4】

【0065】
作製したプレコート金属板について、実施例-Iに記載の評価試験を実施した。評価結果を表5に記載する。
【0066】
【表5】

【0067】
本発明のプレコート金属板(本発明例No.17〜20)は、耐汚染性と耐溶剤性に優れ、且つ、加工性にも優れる。トップ塗膜のメラミン樹脂に完全アルキル型混合エーテル化メラミン樹脂を用い、反応触媒にアミンで中和した酸性触媒を用いたものでも、熱風を吹き付けた誘導加熱炉で焼き付け焼き付けた時の焼付温度が210℃未満のもの(比較例-21)、焼付温度が235℃超のもの(比較例-22)、焼付時間が65秒超のもの(比較例-23)は、0≦T≦0.5μmでのNc値及び2.0≦T≦5.0μmでのNc値のいずれかが4.5未満となるため、耐汚染性もしくは耐溶剤性に劣るため不適である。更に、トップ塗膜を熱風炉単独で焼き付け場合(比較例-24)もしくは誘導加熱炉単独で焼き付けた場合(比較例-25)も、0≦T≦0.5μmでのNc値及び2.0≦T≦5.0μmでのNc値のいずれかが4.5未満となるため、耐汚染性もしくは耐溶剤性に劣るため不適である。また、トップ塗膜の膜厚が7μm未満のもの(本発明例)は、2.0≦T≦5.0μmでのNc値が4.5と本発明で規定した範囲の下限値となるため、耐溶剤性が劣る傾向である。そのため、膜厚は7μm以上がより好適である。一方、トップ塗膜の膜厚が40μm超のもの(比較例-25)は、耐汚染性と耐溶剤性に優れ、且つ、加工性にも優れていたが、塗装焼き付け後の塗膜にワキ欠陥が発生しており外観が好ましくなかった。そのため、トップ塗膜の膜厚は40μm以下がより好適である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明のプレコート金属板トップ塗膜の高周波GDS測定例を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の少なくとも片面に、アミノプラスト樹脂を硬化剤として用いた樹脂塗膜層をトップ塗膜層とする1層以上の塗膜層を有する金属板であって、該トップ塗膜層を高周波放電式グロー放電発光分光分析での深さ方向の元素濃度測定の結果から得られる下記式(I)で定義される窒素強度比をNc、前記トップ塗膜層の空気と接する表面からの深さ方向の距離をTとしたとき、前記トップ塗膜層が、下記(A)、(B)の両条件を共に満たすことを特徴とする加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板。
(A) 0μm≦T≦0.5μmのいずれかの深さにおいて、Nc≧0.45である
(B) 2.0μm≦T≦5.0μmのいずれかの深さにおいて、Nc≧0.45である
【数1】

【請求項2】
前記トップ塗膜層が、さらに下記(C)の条件も満たす請求項1記載の加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板。
(C) T>5.0μmの全ての深さにおいて、0.35≦Nc<0.45である
【請求項3】
前記トップ塗膜層を構成する主樹脂が、ポリエステル系樹脂である請求項1又は2に記載の加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板。
【請求項4】
前記トップ塗膜層が、酸化チタン系顔料を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板。
【請求項5】
前記トップ塗膜層のガラス転位温度が、15℃以上50℃以下である請求項1〜4のいずれかに記載の加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板。
【請求項6】
前記金属板が、化成処理を施した金属板である請求項1記載の加工性、耐汚染性及び耐溶剤性に優れるプレコート金属板。

【図1】
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【公開番号】特開2006−82403(P2006−82403A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269726(P2004−269726)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】