説明

加水分解性含ケイ素化合物の製造方法

【課題】オルガノオキシシラン等の加水分解性含ケイ素化合物を優れた収率にて、また、安全且つ安価に製造する手法を提供する。
【解決手段】(A)式:R−O−R(Rは炭素数4〜30の、置換又は非置換の、第3級アルキル基又はアラルキル基を表し、Rは炭素数1〜30の、置換若しくは非置換の、一価炭化水素基又はアシル基を表す)で表される化合物、及び、(B)式:RSiX4−m(Rは、水素原子、又は、炭素数1〜30の、置換若しくは非置換の、一価炭化水素基を表し、Xは、独立して、臭素又は塩素であり、mは0〜3の整数を表す)で表されるハロシランをルイス酸触媒存在下で反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解性含ケイ素化合物の製造方法に関する。また、本発明は、上記の製造方法によって製造される、ハロゲン化水素又はハロゲン化アシルを実質的に含まない加水分解性含ケイ素化合物にも関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール又は酢酸(又は無水酢酸)をクロロシランと反応させてオルガノオキシシランを製造することが知られている。例えば、特開平8−41077号公報には≡Si−Cl+ROH=SiOR+HCl(Rは一価炭化水素基)の反応によるアルコキシシランの製造が記載されている。また、特開2000−63390号公報には、酢酸及び無水酢酸をクロロシランと反応させてアセトキシシランを製造することが記載されている。更に、特開平10−168083号公報には、アルコール及び無水酢酸をクロロシランと反応させてジアセトキシジアルコキシシランを製造することが記載されている。また、ドイツ国特許(DE19670906)には、トリクロロシランとメタノールをキシレン溶媒下で、直接反応させることにより、トリメトキシシランが得られることが記載されている。一方、J. Org. Chem., Vol. 42, No. 23, 1977には、ヨードトリメチルシランとアルキルエーテルを、室温、無触媒で反応させることにより、アルキルエーテルに対応したトリメチルシリル化されたアルコールが得られることが記載されている。また、J. C. S. Chem Commun, P. 874-875, 1978には、トリメチルクロロシランとヨウ化ナトリウムとエステル類等を用いて、エステル類等に対応したトリメチルシリル化された反応物が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−41077号公報
【特許文献2】特開2000−63390号公報
【特許文献3】特開平10−168083号公報
【特許文献4】ドイツ国特許出願番号DE19670906(ドイツ国特許番号1298972)
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Org. Chem., Vol. 42, No. 23, 1977
【非特許文献2】J. C. S. Chem Commun, P. 874-875, 1978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アルコールとクロロシランとによるオルガノオキシシランの生成反応では、反応中に放出される塩化水素が出発物質及び生成物と反応して不所望な副生成物を生成するため、生成物の収率が低下する問題がある。例えば、放出された塩化水素はアルコールと反応して塩化物と水を生成する。この反応によりかなりのアルコールの損失が生じる。また、この副反応で生成した水はクロロシラン又はオルガノオキシシランを加水分解して不所望なポリシロキサンを生成し、またより多くの塩化水素を発生する。また、塩化水素はそれ単独で又はアルコールと共に、クロロシランに存在する他の官能基と反応することがある。特に、アルコールとクロロシランとによるオルガノオキシシランの生成反応によるジオルガノジアルコシキシラン又はトリオルガノアルコキシシランの製造は極端に収率が低下するか、全く生成しない結果となる。
【0006】
また、無水酢酸とクロロシランとによるオルガノオキシシランの生成反応においても上記と同様の問題があり、塩化アセチルは可燃性・刺激性である。また、水と塩化アセチルを反応して塩化水素を再発生させるために、安全性の確保のために、特別な処理を行って除去する必要があり、当該反応は水との発熱反応であり、甚だしく危険である。このような処理の実施は上記の生成反応によるオルガノオキシシランの製造を困難とし、また、製造コスト面でも不利である。更に、ヨードトリメチルシランを原料とする製造方法においては、ヨードトリメチルシランは光や水分に対して極めて反応性が高く、空気中の湿気で容易に分解して、有毒かつ刺激性のヨウ化水素を発生するため、その取扱いが困難であり、工業上の大量生産を行う方法として採用し難いという問題があった。同様に、ヨウ化ナトリウムを用いる反応では、クロロシランをヨウ化ナトリウムにより変換する際に、大量のヨウ化ナトリウムが反応で消費されてヨウ化された炭化水素等も発生する。この結果、多量の廃棄物が発生するため、環境負荷が大きいという問題がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の現状に鑑みて為されたものであり、オルガノオキシシラン等の加水分解性含ケイ素化合物を優れた収率にて、また、安全且つ安価に製造する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の目的は、
(A)一般式:

−O−R

(式中、
は炭素数4〜30の、置換又は非置換の、第3級アルキル基又はアラルキル基を表し、
は炭素数1〜30の、置換若しくは非置換の、一価炭化水素基又はアシル基を表す)
で表される化合物、及び、
(B)一般式:

SiX4−m

(式中、
は、独立して、水素原子、又は、炭素数1〜30の、置換若しくは非置換の、一価炭化水素基を表し、
Xは、独立して、臭素又は塩素であり、
mは0〜3の整数を表す)で表されるハロシラン
をルイス酸触媒存在下で反応させる、加水分解性含ケイ素化合物の製造方法によって達成される。
【0009】
ルイス酸触媒は、金属を含有するルイス酸であることができる。金属を含有するルイス酸の種類は、上記反応を促進する限り、特に限定されるものではないが、金属ハロゲン化物、金属酸化物及び金属硫酸塩からなる群から選択される1種類以上のルイス酸であることが好ましい。具体的には、塩化ガリウム(III)、臭化ガリウム(III)、塩化インジウム(III)、臭化インジウム(III)、塩化ビスマス(III)、塩化アルミニウム(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、塩化ニッケル(II)、酸化カドミウム(II)、酸化クロム(III)、酸化モリブデン(VI)、酸化鉄(III)、硫酸鉄(II)及び硫酸鉄(III)からなる群から選択される1種類以上のルイス酸が例示できる。特に、塩化ビスマス(III)、塩化アルミニウム(III)、及び塩化鉄(III) から選択される1種類以上のルイス酸が好ましい。
【0010】
前記(A)化合物はエーテルであることができる。前記エーテルとしては、メチルtert−ブチルエーテル、エチルtert−ブチルエーテル、メチル−ジフェニルメチルエーテル及びメチルトリフェニルメチルエーテルから選ばれる1以上のエーテルが好ましい。
【0011】
前記(A)化合物はエステルであることもできる。前記エステルとしては酢酸tert−ブチル又は酢酸ジフェニルメチルが好ましい。
【0012】
前記(B)ハロシランは、クロロシラン又はブロモシランであり、特にクロロシランが好ましい。具体的には、モノクロロシラン, ジクロロシラン,トリクロロシラン又はテトラクロロシランであることができ、珪素原子に結合した有機基を有するオルガノクロロシラン類及び珪素原子に結合した水素原子を有するヒドロクロロシラン類のいずれであってもよい。
【0013】
前記加水分解性含ケイ素化合物はアルコキシシラン、フェノキシシラン又はアセトキシシランであることが好ましい。
【0014】
上記の製造方法によって製造される加水分解性含ケイ素化合物はハロゲン化水素又はハロゲン化アシルを実質的に含まない。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法は、比較的取扱いが容易なクロロシラン又はブロモシランを出発物質として、加水分解性含ケイ素化合物を優れた収率にて効率的に製造することができる。また、本発明の製造方法は、反応選択性が高く、副生成物が実質的に第3級ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アラルキルのみであるので、安全に且つ低コストで実施することができる。更に、従来の製造方法において反応を完結させる目的で使用されていた中和剤の量を低減することができる。したがって、本発明の製造方法は加水分解性含ケイ素化合物を大量に合成する工業的製法として有用である。
【0016】
前記(A)化合物としてエーテル、特にメチルtert−ブチルエーテル、エチルtert−ブチルエーテル、メチル−ジフェニルメチルエーテル又はメチルトリフェニルメチルエーテルを使用する場合には、当該化合物の安定性及び安全性が高く、また、安価であるので、アルコキシシランの製造を安全に且つ低コストで行うことができる。
【0017】
前記(A)化合物としてエステル、特に酢酸tert−ブチル又は酢酸ジフェニルメチルを使用する場合には、塩化アセチルが副生することはほぼないので、これを処理する必要がない。したがって、アセトキシシランを安定且つ安価に製造することができ、工業的製法として特に有用である。
【0018】
前記触媒としてルイス酸触媒、特に塩化ビスマス(III)、塩化アルミニウム(III)又は塩化鉄(III)を使用する場合には、触媒の毒性が低く、環境負荷が小さいので、反応を好適に実施することができる。
【0019】
本発明の製造方法によって得られる加水分解性含ケイ素化合物は反応性のハロゲン化水素又はハロゲン化アシルを実質的に含まないので、当該ハロゲン化水素又はハロゲン化アシルの不活化処理が不要である。したがって、加水分解性含ケイ素化合物は、例えば、太陽電池又は半導体用シリコーンの原料として、又は、建築材料等に使用されるシーラント等の各種製品の原料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の反応生成物の13C-NMRチャート図である。
【図2】実施例9の反応生成物の13C-NMRチャート図である。
【図3】比較例1の反応生成物の13C-NMRチャート図である。
【図4】実施例9と比較例1との反応生成物の比較を示す29Si-NMRチャート図である。
【図5】実施例11の反応生成物の13C-NMRチャート図である。
【図6】実施例14反応生成物の13C-NMRチャート図である。
【図7】実施例15反応生成物の13C-NMRチャート図である。
【図8】実施例16反応生成物の13C-NMRチャート図である。
【図9】実施例17反応生成物の13C-NMRチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の製造方法では、
(A)一般式:

−O−R

(式中、
は炭素数4〜30の、置換又は非置換の、第3級アルキル基又はアラルキル基を表し、
は炭素数1〜30の、置換若しくは非置換の、一価炭化水素基又はアシル基を表す)
で表される化合物、及び、
(B)一般式:

SiX4−m

(式中、
は、独立して、水素原子、又は、炭素数1〜30の、置換若しくは非置換の、一価炭化水素基を表し、
Xは、独立して、臭素又は塩素であり、
mは0〜3の整数を表す)で表されるハロシラン
をルイス酸触媒存在下で反応させて、加水分解性含ケイ素化合物を調製する。
【0022】
前記(A)化合物を表す上記一般式中のRは、第3級アルキル基又はアラルキル基である。これらの第3級アルキル基又はアラルキル基は、R−O結合の切断により生じるカチオンの安定性が高いため、本発明の反応において、高収率で加水分解性含ケイ素化合物を得ることができる。ここで、Rである第3級アルキル基は、総炭素数4〜30であって、第3級炭素原子を少なくとも1つ含む限り特に限定されるものではなく、分岐鎖状及び環状のアルキル基が好適に例示される。より具体的には、tert-ブチル基、tert-ペンチル基、tert-ヘキシル基、tert-オクチル基等の3級アルキル基、1−メチルシクロペンチル、1−メチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。上記一般式の酸素原子に結合する炭素原子が第3級炭素原子であることが好ましく、特に、tert-ブチル基が好ましい。同様に、アラルキル基は、反応性の点から第2級又は第3級アラルキル基であることが好ましく、少なくとも1個のフェニル基が炭素原子に結合した第2級炭素原子を有することが特に好ましい。より好適には2個以上のフェニル基が炭素原子に結合した第2級又は第3級の炭素原子を有することが好ましい。このような第2級又は第3級アラルキル基として、ジフェニルメチル基(H(C6H5)2C-)、トリフェニルメチル基((C6H5)C-)が好ましい。なお、これらのアルキル基又はアラルキル基上の水素原子は、少なくとも部分的に、フッ素等のハロゲン原子、特に塩素原子で置換されていてもよい。
【0023】
前記(A)化合物を表す上記一般式中のRは、総炭素数1〜30である一価炭化水素基又はアシル基である限り、特に限定されるものではない。
【0024】
総炭素数1〜30である一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、イソステアリル基、ベヘニル基等の炭素原子数1〜30の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素原子数3〜30のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基等の炭素数2〜30のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、スチリル等の炭素原子数6〜30のアリール基;ベンジル基等の炭素数7〜30のアラルキル基が挙げられる。直鎖状の炭素原子数1〜6のアルキル基又はフェニル基が好ましく、メチル基又はエチル基、フェニル基が更に好ましい。
【0025】
総炭素数1〜30であるアシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基等の脂肪族モノカルボン酸系アシル基、及び、ベンゾイル基、シンナモイル基等の芳香環含有アシル基が挙げられる。脂肪族モノカルボン酸系アシル基が好ましく、アセチル基が更に好ましい。
【0026】
これらの基の炭素原子に結合した水素原子は、少なくとも部分的に、フッ素等のハロゲン原子等で置換されてもよいが、非置換のものが好ましい。
【0027】
特に、Rは、第1級アルキル基、第2級アルキル基、アリール基又はアシル基であることが好ましい。
【0028】
したがって、前記(A)化合物としてはエーテル又はエステルを好適に使用することができる。エーテルとしては、例えば、メチルtert−ブチルエーテル、エチルtert−ブチルエーテル、プロピルtert−ブチルエーテル、メチルtert−ペンチルエーテル、エチルtert−ペンチルエーテル、プロピルtert−ペンチルエーテル、メチルtert−ヘキシルエーテル、エチルtert−ヘキシルエーテル、プロピルtert−ヘキシルエーテル、メチルtert−オクチルエーテル、エチルtert−オクチルエーテル、プロピルtert−オクチルエーテル、メチル(ジフェニルメチル)エーテル(H(C6H5)2C-O-CH3)、メチル(トリフェニルメチル)エーテル((C6H5)C-O-CH3)、ベンジルメチルエーテル、ベンジルフェニルエーテル等が挙げられる。特に、メチルtert−ブチルエーテル、エチルtert−ブチルエーテルメチル(ジフェニルメチル)エーテル、及び、メチル(トリフェニルメチル)エーテルが好ましい。エステルとしては、蟻酸tert−ブチル、酢酸tert−ブチル、プロピオン酸tert−ブチル、蟻酸tert−ペンチル、酢酸tert−ペンチル、プロピオン酸tert−ペンチル、蟻酸tert−ヘキシル、酢酸tert−ヘキシル、プロピオン酸tert−ヘキシル、蟻酸tert−オクチル、酢酸tert−オクチル、プロピオン酸tert−オクチル、ラウリル酸tert−ブチル、酢酸ジフェニルメチル等が挙げられる。特に、酢酸tert−ブチル又は酢酸ジフェニルメチルが好ましい。また、これらのエーテル又はエステルは2種類以上の異なるものを併用しても良い。
【0029】
前記(B)成分は、一般式:

SiX4−m

(式中、
は、独立して、水素原子、又は、炭素数1〜30の、置換若しくは非置換の、一価炭化水素基を表し、
Xは、独立して、臭素又は塩素であり、
mは0〜3の整数を表す)で表されるハロシランである。ここで、上記一価炭化水素基とは既述のとおりであるが、ハロシランに含まれる一価炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子は、少なくとも部分的に、フッ素等のハロゲン原子、又は、アシル基、カルボキシル基、アミノ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ウレイド基、ポリスルフィド基、メルカプト基、イソシアネート基等を含む有機基で置換されてもよい。
【0030】
前記(B)ハロシランは、上記のXが塩素であるクロロシランであることが好ましく、珪素原子に結合した有機基を有するオルガノクロロシラン類及び珪素原子に結合した水素原子を有するヒドロクロロシラン類のいずれであってもよい。例えば、ジクロロシラン(HSiCl)、トリクロロシラン(HSiCl)、テトラクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルモノクロロシラン((CHSiCl)、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、エチルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、フェニルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、シクロヘキシルメチルジクロロシラン、(クロロプロピル)トリクロロシラン、ビス(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジクロロシラン、トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)クロロシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジクロロシラン、3-メタクリロキシプロピルトリクロロラン、3-アクリロキシプロピルトリクロロシラン、3-アミノプロピルトリクロロシラン、3-メルカプトプロピルメチルジクロロシラン、3-メルカプトプロピルトリクロロシラン等が挙げられる。また、(B)ハロシランは上記のXが臭素であるブロモシランでもよい。(B)成分であるブロモシランは、上記のクロロシラン中の塩素原子の一部又は全部が臭素原子であるものを特に制限なく用いることができる。
【0031】
加水分解性含ケイ素化合物が得られる限り、前記(A)化合物と前記(B)ハロシランの使用量は限定されるものではないが、例えば、前記(A)化合物/前記(B)ハロシランのモル比は化学量論的等量(stoichiometric equivalence)の50〜300%の範囲内とすることができる。前記モル比は0.75〜2の範囲が好ましく、0.95〜1.3の範囲がより好ましく、1.1〜1.3の範囲が更により好ましい。化学量論的等量とは、反応系に添加される前記(B)ハロシラン中のケイ素に結合したハロゲン原子の1モルに対して、前記(A)化合物1モルとして定義される。
【0032】
前記(A)化合物と前記(B)ハロシランの反応はルイス酸触媒の存在下で実施される。上記反応を促進する限り、ルイス酸触媒の種類は限定されるものではないが、金属を含むルイス酸触媒が好ましい。
【0033】
本発明の製造方法において、金属を含むルイス酸触媒として、金属ハロゲン化物、金属酸化物及び金属硫酸塩が例示される。金属ハロゲン化物は、例えば、塩化リチウム、塩化ビスマス(III)、塩化アルミニウム(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、塩化亜鉛(II)、塩化ベリリウム(II)、塩化アンチモン(III)、塩化アンチモン(V)、塩化ホウ素、塩化セシウム、塩化コバルト(II)、塩化コバルト(III)、塩化ニッケル(II)、塩化チタン(III)、塩化チタン(IV)、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、塩化ロジウム(III)、塩化カドニウム(II)、塩化ゲルマニウム(IV)、塩化ガリウム(III)、臭化ガリウム(III)、塩化インジウム(III)、臭化インジウム(III)、塩化鉛(II)、塩化マンガン(II)、塩化パラジウム(II)が挙げられる。金属酸化物は、例えば、酸化ベリリウム(II)、酸化バナジウム(V)、酸化クロム(III)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、酸化コバルト(III)、酸化カドミウム(II)、酸化モリブデン(VI)が挙げられる。金属硫酸塩は、例えば、硫酸鉄(II)及び硫酸鉄(III)が挙げられる。
【0034】
これらのうち、塩化ガリウム(III)、臭化ガリウム(III)、塩化インジウム(III)、臭化インジウム(III)、塩化ビスマス(III)、塩化アルミニウム(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、塩化ニッケル(II)、酸化カドミウム(II)、酸化クロム(III)、酸化モリブデン(VI)、酸化鉄(III)、硫酸鉄(II)及び硫酸鉄(III)が、本発明において好適なルイス酸触媒であり、特に、塩化ビスマス(III)、塩化アルミニウム(III)、塩化鉄(III)が好ましく用いられる。金属ハロゲン化物は、無水又は含水塩のいずれであっても用いることができるが、系中に水が存在すると、原料であるクロロシラン又はブロモシランとの加水分解反応の原因となり、生成したシラノール基が重合反応を起こす場合があるので、無水塩であることが好ましい。なお、反応スケールによっては、結晶水の影響は殆ど無視できる場合もある。
【0035】
ルイス酸触媒の使用量は、例えば、(B)ハロシラン1モルに対して0.0001〜1.0モルであり、0.05〜0.5モルが好ましく、0.03〜0.1モルがより好ましく、0.01〜0.05モルが更により好ましい。ルイス酸触媒が少なすぎると反応が遅くなったり、途中で反応が停止してしまう場合があり、また、多すぎると(B)ハロシランが、Si−C結合の開裂等の好ましくない反応を起こしてしまう恐れがある。
【0036】
前記(A)化合物と前記(B)ハロシランの反応は、上記ルイス酸触媒が(B)成分に溶解するかに応じて、均一系でも不均一系でも行うことができる。塩化ビスマスのように、(B)成分への溶解性が低いルイス酸触媒を用いる場合には、(B)成分にルイス酸触媒を添加し、次いで、前記(A)化合物を加えて撹拌することによって行うことができる。この場合、反応完了の時点で、系中に触媒由来の残滓(塩化ビスマスにおいては黒色タール状物質)が反応混合物底部に沈降するため、必要に応じて、反応生成物から遠心分離等の公知の手段を用いて分離することができる。一方、塩化鉄(III)のように、(B)成分への溶解性が高いルイス酸触媒を用いる場合には、前記(B)ハロシランに触媒を溶解し、次いで前記(A)化合物を加えて撹拌することによって行うことができる。この場合、反応溶液全体として透明かつ均一であり、反応完了の時点で、触媒由来の残滓が分離沈降しないことから、設備の配管に当該残滓が蓄積し、配管が閉塞する問題を容易に回避できる利点がある。なお、ルイス酸触媒が、前記(A)化合物に溶解しやすい場合には、(A)成分中に触媒を溶解し、次いで前記(B)ハロシランを加えてもよい。
【0037】
上記反応の温度は0〜150℃が好ましく、1気圧下では、0〜90℃、特に20〜40℃がより好ましく、いわゆる室温(25℃)で反応させることが特に好適である。一方、触媒及び原料の選択によっては、50〜90℃の高温条件を選択して、反応を促進することもできる。なお、加圧下では、より高温条件を選択できることは言うまでもない。反応温度が低すぎると反応速度が遅くなってしまい、長い反応時間を必要とする場合があり、一方、反応温度が高すぎる場合には、生成した加水分解性含ケイ素化合物が好ましくない反応を起こしてしまうおそれがある。また、上記反応の時間は、反応のスケール及び温度に応じて変わるが、例えば、10分〜1週間、好ましくは1〜40時間とすることができる。特に、塩化ビスマス又は塩化鉄(III)をルイス酸触媒に用いた場合、室温(25℃)、1気圧下では、4〜36時間とすることが好ましい。
【0038】
上記反応は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどが挙げられる。上記反応は減圧下、常圧、加圧下で行うことができるが、操作性の点では、常圧下で行うことが好ましい。
【0039】
前記(A)化合物と前記(B)ハロシランとの反応は溶媒中で行われてもよい。使用される溶媒としては、前記(A)化合物及び/又は前記(B)ハロシランと反応しない溶媒を用いることが好ましく、常温・大気圧下で液体であり150℃以下の沸点を持つ不活性な溶媒が好ましい。そのような溶媒としては、トルエン、キシレン、ヘキサン、ノナン、ペンタン、オクタン等の炭化水素系溶剤;四塩化水素、メチレンクロライド、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ペルクロロエチレン、テトラクロロエタン等の塩素化炭化水素系溶剤、アセトニトリルが挙げられる。
【0040】
前記(A)化合物と前記(B)ハロシランの反応は、バッチ式又は連続式で実施することができる。連続式で反応を実施する場合は、前記(A)化合物と前記(B)ハロシランを反応させ、反応が平衡に達した後に、系内を減圧にして、生成した加水分解性含ケイ素化合物を反応系から抜き出しながら進めてもよく、また、副生成物である、第3級アルキル基又はアラルキル基に由来するハロゲン化炭化水素を反応系から抜き出しながら更に反応を進めてもよい。上記反応では、副生成物としてハロゲン化炭化水素以外の物質は殆ど生成しないので、反応選択性が高い。そして、上記反応では塩化水素等のハロゲン化水素が殆ど副生しないので安全であり、ハロゲン化水素の中和剤としてのアミン等の塩基を添加する必要が殆どないので、低コストで実施することができる。更に、上記反応では可燃性・刺激性の塩化アセチル等のハロゲン化アシルは殆ど生成しないので、環境負荷が低く、且つ、安全に反応を実施することができる。
【0041】
塩化ビスマスのように(B)成分への溶解性が低いルイス酸触媒を用いる場合、触媒が系に溶け出しにくいため、担持型触媒として、連続工程又は濾過を前提としたバッチ式の工程に、特に有用である。また、塩化鉄(III)のように、(B)成分に均一に溶解するルイス酸触媒にあっては、バッチ式の工程に有用である。なお、反応後の塩化鉄(III)等のルイス酸触媒は、必要に応じて、失活させ、蒸留することによって容易に生成物から単離できる。
【0042】
上記反応後の溶液は、ほぼ中性を呈するため、得られた加水分解性ケイ素化合物は、そのまま蒸留等によって反応溶液から取り出すことができる。また、必要に応じて、前記(A)化合物と前記(B)ハロシランの反応後に残存するルイス酸触媒を失活させるために、少量のルイス塩基として作用する化合物を加えた後、蒸留等によって加水分解性含ケイ素化合物を反応系内から取り出すこともできる。なお、得られた加水分解性含ケイ素化合物は、単離せず、そのまま次の反応に用いてもよい。
【0043】
本発明の製造方法で得られる加水分解性含ケイ素化合物は、少なくとも1つの、アルコキシ、アセトキシ基、フェノキシ基等のケイ素原子結合加水分解性基を有する。加水分解性含ケイ素化合物としては、アルコキシシラン、アセトキシシラン又はフェノキシシランが好ましい。アルコキシシランとしては、例えば、メトキシシラン、メトキシトリメチルシラン、エトキシシラン、ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルメトキシクロロシラン、トリメトキシクロロシラン、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、tert−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、トリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメトキシクロロシラン、トリフェニルメトキシシラン、2−フェニルプロピルメチルジメトキシシラン、メチルヘキサンジエニルジメトキシシラン、(クロロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ビス−(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、トリス−(3,3,3−トリフルオロプロピル)メトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。アセトキシシランとしては、例えば、ビニルトリアセトキシシラン、トリメチルアセトキシシラン等が挙げられる。フェノキシシランとしては、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリフェノキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、フェニルトリフェノキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、メチルビニルジフェノキシシラン、ジビニルジフェノキシシラン、メチルフェニルジフェノキシシラン、ジフェニルジフェノキシシラン等が例示される。本発明の製造方法では、このような加水分解性含ケイ素化合物を高収率で得ることができる。
【0044】
前記(A)化合物と前記(B)ハロシランの反応では、反応性のハロゲン化水素又はハロゲン化アシルが殆ど又は全く生成しないので、本発明の製造方法で得られる加水分解性含ケイ素化合物は、ハロゲン化水素又はハロゲン化アシルを実質的に含まない。ここで、「実質的に」とは、加水分解性含ケイ素化合物の全質量(重量)の5%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.1%以下、更により好ましくは0.01%以下を意味する。したがって、本発明の製造方法で得られる加水分解性含ケイ素化合物はハロゲン化水素又はハロゲン化アシルの不活化処理を行うことなく、次工程において使用することができる。
【0045】
本発明の製造方法により得られる加水分解性含ケイ素化合物は、ハロゲン化水素又はハロゲン化アシルを殆ど又は全く含まないので、本来的に不純物が少ないものであるが、必要に応じて、蒸留、クロマトグラフィー等の公知の方法で精製を行い、更に、高純度なものとすることができる。
【0046】
本発明の製造方法で得られる加水分解性含ケイ素化合物は公知の用途に使用することができる。例えば、アルコキシシランは、シランカップリング剤、各種のオルガノポリシロキサン合成用原料等として有用であり、特に、本発明の製造方法で得られるアルコキシシランは高い純度が要求される太陽電池又は半導体用シリコーンの原料として有用である。一方、アセトキシシランは、シランカップリング剤、シリル化剤、架橋剤等として有用であり、特に、本発明の製造方法で得られるアセトキシシランは建築材料等に使用されるシーラント等の原料として有用である。同様に、上記反応では可燃性・刺激性の塩化アセチル等のハロゲン化アシルは殆ど生成しないので、高純度かつ電子材料用途に好適なシラン原料が得られる利点がある。、
【実施例】
【0047】
以下に、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。実施例及び比較例における生成物は、核種29Si、13C、Hについて、NMRを用いて同定した。具体的には、日本電子社製のJEOL JNM-ECX-500をNMR測定装置に使用した。測定時には、重クロロホルム(CDCl3) を溶媒とし、5Φの測定管に、クロムアセチルアセテートを緩和促進剤として少量添加し、テトラメチルシラン (δ= 0、1H-NMR, 13C-NMR, 29Si NMR)を内部標準物質に用いて測定した。また、反応生成物の収率は、反応原料と生成物に対応するシグナルの積分値の比に基づいて決定した。
【0048】
[実施例1]
容量30mlの2方コック付きの丸底フラスコ(シュレンク管)の内部に磁気攪拌子を設置し、0.16g(0.5mmol)の塩化ビスマス(BiCl3)を仕込み、セプタムでフラスコを密栓後、窒素置換を行った。次いで、シリンジにより、2.91g(33mmol)のメチルtert−ブチルエーテルをフラスコ内に仕込み、氷浴(0℃)につけた。氷浴(0℃)下、2.11g(10mmol)のフェニルトリクロロシランを、フラスコ内にシリンジでゆっくり滴下することにより仕込み、滴下完了後に系を室温(25℃)に戻して、マグネティックスターラーを用いて溶液を攪拌しながら一晩(15時間)反応させた。反応完結後の溶液を、29Si-NMR、13C-NMR、H-NMRで測定し、測定結果から生成物を同定し、かつ当該生成物の収量を決定した。結果を表1に示す。なお、反応後の溶液には、少量の触媒由来の黒色沈殿が沈殿していた。
【0049】
[実施例2]
フェニルトリクロロシランに代えて、同モル量(=1.70g)のテトラクロロシランを使用した以外は実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例3]
フェニルトリクロロトリシランに代えて、同モル量(=1.35g)のヒドロトリクロロシランを使用した以外は実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例4]
フェニルトリクロロトリシランに代えて、同モル量(=3.04g)のドデシルトリクロロシランを使用した以外は実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例5]
フェニルトリクロロトリシランに代えて、同モル量(=1.62g)のビニルトリクロロシランを使用した以外は実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例6]
メチルtert−ブチルエーテルに代えて、同モル量(=3.37g)のエチルtert−ブチルエーテルを使用した以外は実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例7]
テトラクロロシラン1モルに対してメチルtert−ブチルエーテル3モルの割合で両者を使用する以外は実施例2と同様にして反応を行った。すなわち、メチルtert−ブチルエーテルの使用量を2.64g(30mmol)とした以外は、実施例2と同様にして反応を行なった。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例8]
フェニルトリクロロトリシランに代えてジメチルジクロロシランを使用し、且つ、ジメチルジクロロシラン:メチルtert−ブチルエーテルのモル比を1:2.6とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。すなわち、メチルtert−ブチルエーテルの使用量を2.29g(26mmol)とし、フェニルトリクロロトリシランに代えて1.29g(10mmol)のジメチルジクロロシランを使用した以外は実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例9]
フェニルトリクロロトリシランに代えてシクロヘキシルメチルジクロロシランを使用し、シクロヘキシルメチルジクロロシラン:メチルtert−ブチルエーテルのモル比を1:2.6とし、且つ、シクロヘキシルメチルジクロロシラン:塩化ビスマスのモル比を1:0.01とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。すなわち、容量30mlの2方コック付きの丸底フラスコの内部に磁気攪拌子を設置し、0.03g(0.1mmol)の塩化ビスマス(BiCl3)を仕込み、、セプタムでフラスコを密栓後、窒素置換を行った。次いで、2.29g(26mmol)のメチルtert−ブチルエーテル及び1.97g(10mmol)のシクロヘキシルメチルジクロロシランを、実施例1と同様にしてフラスコ内に仕込み、その後は、実施例1と同様にして反応を行なった。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例10]
フェニルトリクロロトリシランに代えてトリメチルクロロシランを使用し、トリメチルクロロシラン:メチルtert−ブチルエーテルのモル比を1:1.3とし、且つ、トリメチルクロロシラン:塩化ビスマスのモル比を1:0.01とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。すなわち、容量30mlの2方コック付きの丸底フラスコの内部に磁気攪拌子を設置し、0.03g(0.1mmol)の塩化ビスマス(BiCl3)を仕込み、セプタムでフラスコを密栓後、窒素置換を行った。次いで、1.15g(13mmol)のメチルtert−ブチルエーテル及び1.09g(10mmol)のトリメチルクロロシランを、実施例1と同様にしてフラスコ内に仕込み、その後は、実施例1と同様にして反応を行なった。結果を表1に示す。
【0058】
[実施例11]
メチルtert−ブチルエーテルに代えて、同モル量(=3.83g)の酢酸tert−ブチルを使用する以外は実施例5と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。なお、NMRチャートからは塩化アセチルの副生は確認できず、得られたビニルトリアセトキシシランは高純度であった。
【0059】
[実施例12]
メチルtert−ブチルエーテルに代えて、同モル量(=1.51g)の酢酸tert−ブチルを使用する以外は実施例10と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。なお、NMRチャートからは塩化アセチルの副生は確認できず、得られたトリメチルアセトキシシランは高純度であった。
【0060】
[実施例13]
フェニルトリクロロトリシランに代えて、同モル量(=2.12g)のクロロプロピルトリクロロシラン使用する以外は実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例1]
容量30mlの2方コック付きの丸底フラスコの内部に磁気攪拌子を設置し、セプタムでフラスコを密栓後、窒素置換を行った。次いで、0.70g(22mmol)のメタノール及び1.97g(10mmol)のシクロヘキシルメチルジクロロシランを、実施例1と同様にしてフラスコ内に仕込み、その後は、実施例1と同様にして反応を行なったところ、比較例1の反応溶液は、他の実施例に比べて粘性の高い液体となった。結果を表1に示す。
【0062】
[比較例2]
塩化ビスマス(BiCl3)を用いず、反応時間を15時間から3日間に延長したほかは、実施例2と同様にして、反応を行った。結果を表1に示す。ルイス酸触媒の存在しない条件下では、反応時間を3日間に延長しても、テトラクロロシランとメチルtert−ブチルエーテルの反応により、加水分解性ケイ素化合物が生成せず、反応前後の溶液でNMRチャートに変化が見られなかった。
【0063】
表1に示されるように、実施例1〜13の反応では高い収率で表1に示す生成物を得ることができた。
【0064】
一方、比較例1の反応では多数種類の複雑な混合物が生成し、生成物を全て同定することはできなかった。比較例1の反応副生物である塩化水素が未反応のメタノールと反応して、MeOH+HCl→MeCl+HOの反応により水を生成し、これがクロロシランと更に反応してシラノールとなり、当該シラノールが重合することによって高分子量化したものと思われる。比較例1の反応系は粘性の高い液体となっており、実施例に示す加水分解性シランを高収率で得ることはできなかった。対比のため、同じシクロヘキシルメチルジクロロシランを出発物質とする実施例9と比較例1の、反応後の29Si-NMRチャートを図4に示す。
【0065】
また、比較例2の反応では、テトラクロロシランとメチルtert−ブチルエーテルの反応が進行せず、実施例2との対比より、本反応には、ルイス酸触媒が必須であることが確認できた。
【0066】
【表1】

*)表中において、官能基の略号は以下の通りである。
Me:メチル基
Ph:フェニル基
cyc-Hex:シクロヘキシル基
tert-Bu:第3級ブチル基
Ac:アセチル基
**)反応時間は3日間であったが、反応の進行はNMR上認められなかった。。
【0067】
[実施例14]
容量50mlの2方コック付きの丸底フラスコ(シュレンク管)の内部に磁気攪拌子を設置し、16mg(0.1mmol)の塩化鉄(III)(FeCl3)を仕込み、セプタムでフラスコを密栓後、窒素置換を行った。次いで、2.90g(33mmol)のメチルtert−ブチルエーテル及び2.11g(10mmol)のフェニルトリクロロシランを、実施例1と同様にしてフラスコ内に仕込み、系を室温(25℃)に戻して、マグネティックスターラーを用いて溶液を攪拌しながら一晩(15時間)反応させた。
【0068】
塩化鉄(III)を含む反応後の溶液は全体が均一であり、薄い黄色の透明溶液であった。実施例1の場合と異なり、残滓や沈殿は生じなかった。反応後の溶液の一部を分取し、29Si-NMR、13C-NMR、H-NMRで測定し、測定結果から生成物を同定した結果、実施例1と同様に、PhSi(OMe)3が生成していることが確認できた。結果を表2に示す。
【0069】
[実施例15]
塩化鉄(III)の代わりに、同モル量(=13mg)の塩化アルミニウム(AlCl3)を使用した以外、実施例14と同様にして反応を行なった。結果を表2に示す。
【0070】
一晩(15時間)の反応を行った後、塩化アルミニウムを含む反応後の溶液は、全体が均一であり、乳白色の透明溶液であった。実施例1の場合と異なり、残滓や沈殿は生じなかった。反応後の溶液の一部を分取し、29Si-NMR、13C-NMR、H-NMRで測定し、測定結果から生成物を同定した結果、PhSi(OMe)3が生成していることが確認できたが、実施例1や実施例14と異なり、15時間の反応時点では、大部分のフェニルトリクロロシランが未反応であった。
【0071】
一方、更に反応時間を伸ばし、攪拌しながら3日間(72時間)反応を継続させたところ、塩化アルミニウムを含む反応後の溶液は、全体が均一であり、薄いピンク色の透明溶液となった。反応後の溶液の一部を分取し、29Si-NMR、13C-NMR、H-NMRで測定し、測定結果から生成物を同定した結果、実施例1同様に、PhSi(OMe)3が生成していることが確認できた。
【0072】
以上の結果より、塩化ビスマス以外のルイス酸触媒である金属塩を用いた場合にも、本発明の加水分解性含ケイ素化合物を得ることができることが確認された。特に、塩化鉄(III)を用いることにより、均一な反応系において、速やかに反応が進行することが確認できた。
【0073】
[実施例16]
容量100mlの2方コック付きの丸底フラスコ(シュレンク管)の内部に磁気攪拌子を設置し、0.24g(0.75mmol)の塩化ビスマス(BiCl3)を仕込み、セプタムでフラスコを密栓後、窒素置換を行った。次いで、21.9g(248mmol)のメチルtert−ブチルエーテル及び19.62g(75mmol)の3-メタクリロキシプロピルトリクロロシランを、実施例1と同様にしてフラスコ内に仕込み、系を室温(25℃)に戻して、アルミホイルでフラスコ全体を遮光して、マグネティックスターラーを用いて溶液を攪拌しながら3日間(72時間)反応させた。反応後の溶液には塩化ビスマスが沈殿していたため、セライト濾過により塩化ビスマスを除去した後、当該生成物の収量を決定した。結果を表2に示す。
【0074】
上記の反応後の溶液の一部を分取し、29Si-NMR、13C-NMR、H -NMRで測定し、測定結果から生成物を同定した結果、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(CH2=C(CH3)COOC3H6-Si(OMe)3)が生成していることが確認できた。
【0075】
[実施例17]
容量30mlの2方コック付きの丸底フラスコ(シュレンク管)の内部に磁気攪拌子を設置し、32mg(0.10mmol)の塩化ビスマス(BiCl3)を仕込み、セプタムでフラスコを密栓後、窒素置換を行った。次いで、4.03g(33mmol)のメチルベンジルエーテル及び2.11g(10mmol)のフェニルトリクロロシランを、実施例1と同様にしてフラスコ内に仕込み、系を80℃に加熱してマグネティックスターラーを用いて溶液を攪拌しながら一晩(15時間)反応させ、当該生成物の収量を決定した。結果を表2に示す。なお、反応後の溶液は黒く変色し、塩化ビスマスが沈殿していた。
【0076】
上記の反応後の溶液の一部を分取し、29Si-NMR、13C-NMR、H -NMRで測定し、測定結果から生成物を同定した結果、実施例1同様に、PhSi(OMe)3が生成していることが確認できた。
【0077】
[実施例18]
攪拌器を備えた容量30mlの2方コック付きの丸底フラスコ(シュレンク管)に、32mg(0.10mmol)の塩化ビスマス(BiCl3)を仕込み、セプタムでフラスコを密栓後、窒素置換を行った。次いで、6.08g(33mmol)のフェニルベンジルエーテル及び1.50g(10mmol)のメチルトリクロロシランを、実施例1と同様にしてフラスコ内に仕込み、系を60℃に加熱して一晩(15時間)反応させ、当該生成物の収量を決定した。結果を表2に示す。なお、反応後の溶液には、塩化ビスマスが沈殿していた。
【0078】
上記の反応後の溶液の一部を分取し、29Si-NMR、13C-NMR、H -NMRで測定し、測定結果から生成物を同定した結果、MeSi(OPh)3で示されるフェノキシシランが生成していることが確認できた。
【0079】
[実施例19]
攪拌器を備えた容量30mlの2方コック付きの丸底フラスコ(シュレンク管)に、32mg(0.10mmol)の塩化ビスマス(BiCl3)を仕込み、窒素置換後にセプタムでフラスコを密栓した。次いで、6.54g(33mmol)のメチル(ジフェニルメチル)エーテル(化学式:CH3-O-CH(C6H5)2)及び1.50g(10mmol)のメチルトリクロロシランを、実施例1と同様にしてフラスコ内に仕込み、系を室温(25℃)に戻して一晩(15時間)反応させ、当該生成物の収量を決定した。結果を表2に示す。なお、反応後の溶液には、塩化ビスマスが沈殿していた。
【0080】
上記の反応後の溶液の一部を分取し、29Si-NMR、13C-NMR、H-NMRで測定し、測定結果から生成物を同定した結果、MeSi(OMe)3が生成していることが確認できた。
【0081】
【表2】

*)表中において、官能基の略号は以下の通りである。
Me:メチル基
Ph:フェニル基
Tert-Bu:第3級ブチル基
Methacryloxypropyl:3−メタクリロキシプロピル基(CH2=C(CH3)COOC3H6- )
**)反応時間は3日間とした。
【0082】
各加水分解性シランの13Cの帰属は、図中に示す通りである。σ=34.5ppm付近の鋭いシグナルは、生成するtert−BuClに帰属されるシグナルであり、σ=27.0ppm付近の鋭いシグナルは、過剰量のtert−BuOMeに帰属されるシグナルである。また、図4に示す比較例1と実施例9の対比のとおり、メタノールとの直接反応においては、対応する各加水分解性シランは殆ど生成しなかった。また、図5に示すとおり、NMR上、塩化アセチルの生成は全く確認できなかった。
【0083】
<NMRチャートの説明>
官能基の略号は以下の通りである。
Me:メチル基
Ph:フェニル基
cyc-Hex:シクロヘキシル基
Ac:アセチル基
Methacryloxypropyl:3−メタクリロキシプロピル基(CH2=C(CH3)COOC3H6-)

図1:σ=128.0-135.0ppm付近にPhSi(OMe)3のフェニル基に帰属されるシグナル、及び、σ=50.5ppm付近にPhSi(OMe)3のメトキシ基に帰属されるシグナルが存在する。
図2:σ=50.3ppm付近にcyc-HexMeSi(OMe)2のメトキシ基に帰属されるシグナル、及び、σ=24-27.96ppm付近にcyc-HexMeSi(OMe)2のシクロヘキシル基に帰属されるシグナルが存在する。
図3:図2とシグナル形が全く異なり、各シグナルを帰属できない。
図4:上段(実施例9)では、σ=-3.57ppm付近にcyc-HexMeSi(OMe)229Siに帰属されるシグナル、及び、下段(比較例1)では、σ=32.6ppm付近に原料のcyc-HexMeSiCl229Siに帰属されるシグナルが存在する。
図5:σ=140.5, 125.5, 22.5 ppm付近にCH2=CHSi(OAc)3に帰属されるシグナルが存在する一方、塩化アセチルに帰属される33.68ppm付近のシグナルは観測されなかった。
図6:図1とシグナル形はほぼ一致し、生成物は同一である。σ=128.0-134.9ppm付近にPhSi(OMe)3のフェニル基に帰属されるシグナル、及び、σ=50.8ppm付近にPhSi(OMe)3のメトキシ基に帰属されるシグナルが存在する。
図7:未反応原料のシグナルが見られるが、図1及び図6とシグナルが一致し、同一の生成物が確認できる。σ=128.0-134.9ppm付近にPhSi(OMe)3のフェニル基に帰属されるシグナル、及び、σ=50.8 ppm付近にPhSi(OMe)3のメトキシ基に帰属されるシグナルが存在する。
図8:σ=167.4, 136.6, 125.2, 66.6, 50.5, 22.2, 18.3, 5.8ppm付近にMethacryloxypropyl Si(OMe)3に帰属されるシグナルが存在する。
図9:原料以外のシグナルについては、図1とシグナル形はほぼ一致し、生成物は同一である。σ=127.6-134.8ppm付近にPhSi(OMe)3のフェニル基に帰属されるシグナル、及び、σ=50.7ppm付近にPhSi(OMe)3のメトキシ基に帰属されるシグナルが存在する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式:

−O−R

(式中、
は炭素数4〜30の、置換又は非置換の、第3級アルキル基又はアラルキル基を表し、
は炭素数1〜30の、置換若しくは非置換の、一価炭化水素基又はアシル基を表す)
で表される化合物、及び、
(B)一般式:
SiX4−m

(式中、
は、独立して、水素原子、又は、炭素数1〜30の、置換若しくは非置換の、一価炭化水素基を表し、
Xは、独立して、臭素又は塩素であり、
mは0〜3の整数を表す)で表されるハロシラン
をルイス酸触媒存在下で反応させる、加水分解性含ケイ素化合物の製造方法。
【請求項2】
前記ルイス酸触媒が金属を含有するルイス酸である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記ルイス酸触媒が金属ハロゲン化物、金属酸化物及び金属硫酸塩からなる群から選択される1種類以上のルイス酸である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ルイス酸触媒が、塩化ガリウム(III)、臭化ガリウム(III)、塩化インジウム、臭化インジウム、塩化ビスマス、塩化アルミニウム、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、塩化ニッケル、酸化カドミウム、酸化クロム、酸化モリブデン(VI)、酸化鉄(III)、硫酸鉄(II)及び硫酸鉄(III)からなる群から選択される1種類以上のルイス酸である、請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前期(B)ハロシランがクロロシランである、請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記(A)化合物がエーテルである、請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記エーテルがメチルtert−ブチルエーテル、エチルtert−ブチルエーテル、メチル−ジフェニルメチルエーテル及びメチルトリフェニルメチルエーテルから選ばれる1種類以上のエーテルである、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記(A)化合物がエステルである、請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記エステルが酢酸tert−ブチル又は酢酸ジフェニルメチルである、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記加水分解性含ケイ素化合物がアルコキシシラン、フェノキシシラン又はアセトキシシランである、請求項1乃至9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の製造方法によって製造される、ハロゲン化水素又はハロゲン化アシルを実質的に含まない加水分解性含ケイ素化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−140347(P2012−140347A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292639(P2010−292639)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】