加減速時のLPTCを使用したショートスパンシーク制御を行う磁気ディスク装置の制御装置および制御方法
【課題】ノミナルモデルが実プラントとモデル化誤差を含む場合に生じる、追従誤差を目標軌道に加え、目標軌道を再設計することにより目標軌道追従誤差を抑圧する学習型完全追従制御法(Learning based PTC:LPTC)を提案する。
【解決手段】マルチレートフィードフォワード制御を行う完全追従制御器と、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成する学習信号発生器とを備える学習型完全追従制御法により制御を行う磁気ディスク装置の制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】マルチレートフィードフォワード制御を行う完全追従制御器と、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成する学習信号発生器とを備える学習型完全追従制御法により制御を行う磁気ディスク装置の制御装置及び制御方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置の制御装置および制御方法に係り、特に学習型完全追従制御法(LPTC)により制御を行う磁気ディスク装置の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置(Hard Disk Drive:HDD)の制御系は、制御対象であるヘッドを目標位置トラックまで移動させ位置決めをさせるサーボ制御系である。近年ではHDDの記録密度が増加してきており、これに伴い更なるヘッドの高速移動及び高精度位置決めが求められている。磁気ディスク装置における制御系は、ヘッドの高速移動を行うシーク制御と、目標トラックに高精度に追従し続けさせるフォロイング制御の2種類の制御に大きく分類される。
【0003】
比較的短距離のショートスパンシーク制御において、フィードフォワード制御とフィードバック制御をそれぞれ独立に設計できる二自由度制御系(非特許文献1乃至4参照)が一般的に使用されている。著者らの研究グループでは、ショートスパンシークの制御法として完全追従制御法(Perfect Tracking Control:PTC)(非特許文献5参照)を使用してフィードフォワード制御信号を生成し、制御対象を剛体モデルとした剛体PTC、主共振モードを積極的に制御する制振PTC(Vibration Suppression PTC:VSPTC)(非特許文献6参照)を提案してきた。また、フォロイング制御において、繰り返し完全追従制御法(Repetitive PTC:RPTC)(非特許文献7参照)を使用して周期外乱による誤差を低減している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Ishikawa,T.Hattori,M.Hashimoto:“High−Speed Positioning Control for Hard Disk Drives Based on Two−Degree−of−Freedom Control”,JSME,Vol.62,No.597,pp200−208(1996)(inJapanese)
【非特許文献2】S.Nakagawa,T.Yamaguchi,H.Fujimoto,Y.Hori,K.Ito,Y.Hata:“Multi−rate Two−Degree−of−Freedom Control for Fast and Vibration−less Seeking of Hard Disk Drives”,Proc.ACC,pp2797−2802,Arlington,America(2001)
【非特許文献3】S.Takakura,T.Yamada:“Head Postioning Control System for Hard Disk Drives”,IEICE technical report.Magnetic recording,Vol.93,No.190,pp.13−18(1993)
【非特許文献4】T.Atsumi:“Shock−Response−Spectrum Analysis of Sampled−Data Polynomial for Track−Seeking Control in Hard Disk Drives”,in Proceedings of The 10th IEEE International Workshop on Advanced Motion Control,pp240−247(2008)
【非特許文献5】H.Fujimoto,Y.Hori,T.Yamaguchi,S.Nakagawa:“Seeking Control of Hard Disk Drive by Perfect Tracking using Multirate Sampling Control”,The Transactions of the Institute of Electrical Engineers of Japan,Vol.120,No.10,pp1157−1164(2000)(inJapanese)
【非特許文献6】K.Fukushima,H.Fujimoto,S.Nakagawa:“Short−Span Seeking Control of Hard Disk Drive with Vibration Suppression PTC”,IEEJ Transactions on Industry Applications,Vol.126,No.6,pp706−712(2006)(inJapanese)
【非特許文献7】H.Fujimoto,F.Kawakami,S.Kondo:“Repetitive Control of Hard Disk Drive Based on Switching Mechanism−Comparison of Proposed Two Multirate Systems−”,T.SICE,Vol.41,No.8,pp645−651(2005)(inJapanese)
【非特許文献8】M.Tomizuka:“Zero Phase Error Tracking Algorithm for Digital Control”,Trans.ASME,Jounal of Dynamic Systems,Measurement, and Control,Vol.109,pp65−68(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
目標軌道生成時において、ノミナルモデルがモデル化誤差を有する場合、目標軌道とヘッドの実軌道において、加減速時に大きな追従誤差が生じる。PTCを使用する場合にはロバストなフィードバックコントローラにより追従誤差を抑圧する。従って、モデル化誤差の影響によりシーク整定時にオーバーシュートが生じてしまい、追従特性が悪化するため、整定時間が遅くなってしまう問題があった。
【0006】
本出願では、RPTCで提案されている学習手法をシーク時に応用し、目標軌道を再設計することにより、ショートスパンシーク時に生じるオーバーシュートを低減する手法を学習型PTC(Learning based PTC:LPTC)として提案し、シミュレーション及び実験によりその有効性を確認した。
【0007】
PTCによる制御時において、ノミナルモデルが実プラントとモデル化誤差を含む場合には追従誤差が生じる。通常、追従誤差が生じた場合フィードバックコントローラがこれを抑圧するが、このことがシーク整定時のオーバーシュートを引き起こし、シークタイムが遅くなる。本出願では簡単のために、track to trackなどの等トラック幅のシークを前提として、この追従誤差を目標軌道に加え、目標軌道を再設計することにより目標軌道追従誤差を抑圧する学習型完全追従制御法(Learning based PTC:LPTC)を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解消するために、本発明による磁気ディスク装置の制御装置は、マルチレートフィードフォワード制御を行う完全追従制御器と、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成する学習信号発生器とを備える学習型完全追従制御法により制御を行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の磁気ディスク装置の制御装置は、上記学習信号発生器は、プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを使用する場合には、Qフィルタを含み、当該Qフィルタは上記追従誤差の高域の周波数成分を抑圧するものとしてもよい。
【0010】
また、本発明の磁気ディスク装置の制御装置は、上記学習信号発生器は、演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れ等のモデル化誤差要因を、無駄時間として考慮して目標軌道補償信号を生成するものとしてもよい。
【0011】
また、上記の課題を解消するために、本発明による磁気ディスク装置の制御方法は、完全追従制御器によりマルチレートフィードフォワード制御を行うステップと、学習信号発生器により、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成するステップとを備える学習型完全追従制御法により制御を行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の磁気ディスク装置の制御方法は、上記目標軌道補償信号を生成するステップは、プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを使用する場合には、Qフィルタにより前記追従誤差の高域の周波数成分を抑圧して上記目標軌道補償信号を生成するものとしてもよい。
【0013】
また、本発明の磁気ディスク装置の制御方法は、上記目標軌道補償信号を生成するステップは、演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れ等のモデル化誤差要因を、無駄時間として考慮して上記目標軌道補償信号を生成するものとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、提案するLPTCは、追従誤差を学習し目標軌道を再設計することにより、ショートスパンシークにおける加減速時の目標軌道追従誤差を大きく抑圧でき、シークタイムの高速化につながることを確認した。特にモデル化誤差による目標軌道追従誤差は、複数回の学習により抑圧することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】磁気ディスク装置の内部構造の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による学習型PTC(Learning Based Perfect Tracking Control:LPTC)の制御ブロック図を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による剛体モデルを使用したシミュレーション結果を示す図であり、図3(a)は、プラント出力を示し、図3(b)は、目標軌道追従誤差を示し、図3(c)は、追従誤差を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による詳細モデルを使用したシミュレーション結果を示す図であり、図4(a)は、プラント出力を示し、図4(b)は、目標軌道追従誤差を示し、図4(c)は、追従誤差を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による実験に使用したLPTCの制御ブロック図を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による実験に使用した学習信号発生器の制御ブロック図を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による無駄時間を考慮しない場合の学習前の実験結果であって、図7(a)は、PESを示し、図7(b)は、PES(拡大図)を示し、図7(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による無駄時間を考慮しない場合の学習後の実験結果であって、図8(a)は、PESを示し、図8(b)は、PES(拡大図)を示し、図8(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による無駄時間を考慮した場合の学習前の実験結果であって、図9(a)は、PESを示し、図9(b)は、PES(拡大図)を示し、図9(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による無駄時間を考慮した場合の学習後の実験結果であって、図10(a)は、PESを示し、図10(b)は、PES(拡大図)を示し、図10(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるモデル化誤差をあえて大きく持たせた場合の学習前の実験結果であって、図11(a)は、PESを示し、図11(b)は、PES(拡大図)を示し、図11(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【図12】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるモデル化誤差をあえて大きく持たせた場合の1回学習後の実験結果であって、図12(a)は、PESを示し、図12(b)は、PES(拡大図)を示し、図12(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【図13】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるモデル化誤差をあえて大きく持たせた場合の5回学習後の実験結果であって、図13(a)は、PESを示し、図13(b)は、PES(拡大図)を示し、図13(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、磁気ディスク装置100の内部構造の斜視図である。
図1において、磁気ディスク装置100は、ディスク101と、ロータリー・アクチュエータ102と、アーム103と、サスペンション104と、磁器ヘッド105と、ランプ106と、スピンドル107とを備える。磁気ディスク装置における制御系は、ヘッドの高速移動を行うシーク制御と、目標トラックに高精度に追従し続けさせるフォロイング制御の2種類の制御に大きく分類される。
【0017】
[学習型完全追従制御法]
PTCによる制御時において、ノミナルモデルが実プラントとモデル化誤差を含む場合には追従誤差が生じる。通常、追従誤差が生じた場合フィードバックコントローラがこれを抑圧するが、このことがシーク整定時のオーバーシュートを引き起こし、シークタイムが遅くなる。本出願では簡単のために、track to trackなどの等トラック幅のシークを前提として、この追従誤差を目標軌道に加え、目標軌道を再設計することにより目標軌道追従誤差を抑圧する学習型完全追従制御法(Learning based PTC:LPTC)を提案する。
【0018】
[学習前]
目標軌道をr[i]とし、学習前におけるノミナル出力をyn(0)[i]、プラント出力をy(0)[i]とする。ただしプラントがノミナルモデルのときのプラント出力をノミナル出力yn[i]と定義する。ノミナルモデルをPn[z]、乗法的モデル化誤差をΔ[z]とすると、プラントモデルを式(1)と表せる。
【0019】
【数1】
【0020】
学習前の目標軌道を式(2)のようにすると、式(3)と式(4)が成り立つ。ただし以降の式において、各変数の添え字は学習回数と定義する。また、以下の解析では簡単のため、完全追従制御器をz-1P-1n[z]とする。P-1n[z]は不安定零点を有するが、マルチレートフィードフォワードにより安定な逆システムを構成できている(非特許文献5参照)。最初のシークを行ったとき、それぞれの信号は以下のように求められる。
【0021】
【数2】
【0022】
【数3】
【0023】
【数4】
【0024】
ここでuff[i]、ufb[i]は、それぞれフィードフォワード入力、フィードバック入力であり、C[z]はフィードバックコントローラを表す。ただし、S[z]=1/(1+P[z]C[z])である。本出願では、ノミナル出力yn(0)[i]とプラント出力y(0)[i]との差を追従誤差efb(0)[i]と定義し、式(5)で表す。
【0025】
【数5】
【0026】
また、et(0)[i]は学習前のノミナル出力yn(0)[i]=z-1r(0)[i]とプラント出力y(0)[i]との差とし、これは目標軌道追従誤差であり、式(6)で表される。
【0027】
【数6】
【0028】
式(5)と式(6)より学習前の追従誤差と目標軌道追従誤差は等しく、et(0)[i]=efb(0)[i]であることが確認できる。以降、目標軌道追従誤差et[i]を抑圧することを検討する。
【0029】
[学習回数1回目]
学習の概念図を図2に示す。図2のようにして追従誤差efb[i]を学習し、次のシーク時において目標軌道r[i]に加えることで、目標軌道を再設計することを考えると、学習後の目標軌道r(1)[i]は式(7)となる。ここでQ[z]はQフィルタを示し、位相遅れのないLPFとして機能する(非特許文献8参照)。学習する追従誤差efb(0)[i]はPTCにより、目標軌道に対して1サンプル遅れているため、1サンプル進めたものを使用する。
【0030】
【数7】
【0031】
学習後のノミナル出力yn(1)[i]とプラント出力y(1)[i]はそれぞれ式(8)、式(9)となる。
【0032】
【数8】
【0033】
【数9】
【0034】
以上より、学習後の追従誤差efb(1)[i]はノミナル出力yn(1)[i]とプラント出力y(1)[i]の差より式(10)で表される。
【0035】
【数10】
【0036】
同様に、学習後の目標軌道追従誤差et(1)[i]は学習前のノミナル出力z-1r(0)[i]とプラント出力y(1)[i]の差より式(11)で表される。
【0037】
【数11】
【0038】
式(11)は、Q[z]=1のときet(1)[i]は、−S[z]Δ[z]で抑圧される。
【0039】
[学習回数k回目]
同様にして学習を繰り返していくと、学習回数k回後のそれぞれの値は以下の式となる。
【0040】
【数12】
【0041】
【数13】
【0042】
【数14】
【0043】
学習回数k回後の追従誤差efb(k)[i]は式(15)となる。
【0044】
【数15】
【0045】
また学習回数k回後の目標軌道追従誤差et(k)[i]は式(16)となる。
【0046】
【数16】
【0047】
式(16)より、式(17)を満たすとき目標軌道追従誤差は学習毎に抑圧されていく。
【0048】
【数17】
【0049】
[シミュレーション]
提案手法の有効性を確認するためシミュレーションを行った。ここでシミュレーションモデルは後述する実験機と同じものとし、各パラメータは、ディスク径1.8inch、トラック幅133nm、回転数4200rpm、セクタ数256、サンプリング周期Ty=56μsとする。フィードバックコントローラはPIDコントローラとし、制御帯域が1000Hzとなるように設計した。一般に、等トラック幅のシークとして1トラックシーク時に適用するのが自然であるが、機構共振周波数からの強い影響を避けるために、本出願では移動距離を10トラックとしたショートスパンシークを行う。
【0050】
[剛体モデル]
ノミナルモデルを剛体とし式(18)に示す。
【0051】
【数18】
【0052】
プラントモデルとして、ノミナルモデルがモデル化誤差を含むモデルとし、式(19)とする。
【0053】
【数19】
【0054】
1回のシークごとに追従誤差efbを学習し、次回のシークの目標軌道を再設計する。2次のPTCでは目標軌道として位置軌道と速度軌道が必要となるため、速度軌道の追従誤差e´fb[i]を、位置軌道の追従誤差efb[i]を使用して式(20)で与える。
【0055】
【数20】
【0056】
【表1】
【0057】
シミュレーションでは学習を10回行った。学習回数0,1,5,10回のプラント出力と目標軌道追従誤差、追従誤差のシミュレーション結果をそれぞれ図3に示す。ここでは、Qフィルタは考慮していないため(すなわちQ[z]=1)、式(16)が示すように目標軌道追従誤差が学習を繰り返すことで、0に収束されていくことが確認できた。
【0058】
[詳細モデル]
プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを式(21)に示す。
【0059】
【数21】
【0060】
ここで、Lは演算時間遅れ、ζlは減衰係数、ωlは固有振動数、αlはl次のゲインを示す。第1項は剛体モード、第2項は複数の振動モードからなる共振モデルである。プラントの共振モードパラメータを表1に示す。プラントモデルを詳細モデルとする場合、追従誤差の高域の周波数成分を抑圧するためにQフィルタを使用する。このQフィルタは式(22)で表され、位相遅れのないLPFとして機能する。NqはQフィルタの段数を示し、Nq=5とした。このときのカットオフ周波数は1500Hzとなる。
【0061】
【数22】
【0062】
シミュレーション結果を図4に示す。剛体モデルの場合と異なり、Qフィルタの影響が残っているが、式(16)が示すように加減速時の目標軌道追従誤差が学習を繰り返すことにより抑圧されていることが確認できた。
【0063】
[実験]
提案手法の有効性を確認するため実験を行った。実験のブロック図を図5に示す。また学習機構となる学習信号発生器を図6に示す。1シークにかかる時間をTseekとするとき、Nd=Tseek/Tyとし(ただしNdは整数とする)、Ndサンプル遅延させることにより学習を行う。ここで、PTCによる遅延と速度軌道生成時に生じる遅延に対する進み補償を行っている。スイッチは加減速時の間のみオン状態とし、フォロイング時にはオフ状態とする。
【0064】
本出願ではヘッド位置が1トラックの±10%域に収まった時間をシーク終了とし、シーク開始からシーク終了に要した時間をシークタイムとする。シーク動作の目標軌道は(τs+1)-6のステップ応答とし、移動トラック数を10トラックとした。応答速度を決める時定数はτ=50μsとした。シーク動作は全て、あるトラックから同一方向へ行うものとした。学習する追従誤差は、50回のシーク動作を行ったときの平均追従誤差を使用した。このシーク動作は、開始セクタが一致していないため、外乱成分が加減速時に起きる追従誤差であるとは単純にはいえない。開始セクタを一致させればRRO(Repeatable Runout:回転同期振動)とみなせるので、必ずしも50回の平均は必要ではない。
【0065】
以下ではLPTCの有効性を確認するため、学習前の平均シークタイムとLPTC後の平均シークタイムを比較していく。Qフィルタ及びフィードバックコントローラはシミュレーション時と同じものとした。
【0066】
[無駄時間考慮なし]
目標軌道を式(23)、式(24)で与え、シークタイムを表2に与える。
【0067】
【数23】
【0068】
【数24】
【0069】
【表2】
【0070】
学習前とLPTC後の実験結果を図7、図8に示し(case1)、図7は学習前の実験結果を示し、図8は学習後の実験結果を示す。このときの目標軌道におけるシークタイムは715μsである。加減速時の目標軌道追従誤差が低減できたことにより、シークタイムを速くできたことを確認できる。無駄時間を考慮していないため加減速時に大きな追従誤差が生じ、追従特性が良くないことがわかる。
【0071】
[無駄時間考慮あり]
HDDの制御対象モデルに対して、モデル化誤差要因として演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れが生じる。このため、モデル化誤差要因を補償するために等価時間遅れe-Ls(L=25μs)とし、以下の式で目標軌道を与えた。
【0072】
【数25】
【0073】
学習前とLPTC後の実験結果を図9、図10に示し(case2)、図9は学習前の実験結果を示し、図10は学習後の実験結果を示す。このときの目標シークタイムは739μsである。PTCではモデル化誤差が小さいため、大きなオーバーシュートはない。しかしながら学習することで追従特性が改善されていることが確認できる。以下では全てノミナルモデルに対して無駄時間を考慮する。
【0074】
[モデル化誤差]
PTC設計時において、ゲイン変動によるモデル化誤差をあえて大きく持たせて実験を行った。
【0075】
【数26】
【0076】
学習前とLPTC後の実験結果を図11、図12に示し(case3)、図11は学習前の実験結果を示し、図12は学習後の実験結果を示す。このときの目標シークタイムは739μsである。モデル化誤差が大きいため学習前のシーク特性が大きく劣化していることが確認できる。1回の学習では目標軌道追従誤差を抑圧し切れていないことが確認できた。
【0077】
ここで、更に学習を5回繰り返した際の実験結果を図13に示す(case4)。シミュレーションと同様に、学習を繰り返すことにより徐々に目標トラック付近でのシーク特性が改善され、シークタイムが目標シークタイムに近づいていくことが確認できた。
【0078】
[まとめ]
学習型完全追従制御法を提案し、シミュレーション及び実験により、その有効性を確認した。提案するLPTCは、追従誤差を学習し、目標軌道を再設計することで、ショートスパンシークにおける加減速時の目標軌道追従誤差を大きく抑圧でき、シークタイムの高速化につながる事を確認した。特にモデル化誤差による目標軌道追従誤差に対しては複数回の学習により抑圧された。
【符号の説明】
【0079】
201,501 状態変数(理想の目標軌道)
202,502,505 PTC制御器
203,208,503,507,605 加算器
204 ノミナルモデル
205 乗法的モデル化誤差
206 プラント出力
207,506 フィードバック制御器
209,210,212,213,508,601,603,604,606 演算器
211,602 Qフィルタ
214,509 目標軌道追従誤差
504 制御対象
600 学習信号発生器
607 スイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置の制御装置および制御方法に係り、特に学習型完全追従制御法(LPTC)により制御を行う磁気ディスク装置の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置(Hard Disk Drive:HDD)の制御系は、制御対象であるヘッドを目標位置トラックまで移動させ位置決めをさせるサーボ制御系である。近年ではHDDの記録密度が増加してきており、これに伴い更なるヘッドの高速移動及び高精度位置決めが求められている。磁気ディスク装置における制御系は、ヘッドの高速移動を行うシーク制御と、目標トラックに高精度に追従し続けさせるフォロイング制御の2種類の制御に大きく分類される。
【0003】
比較的短距離のショートスパンシーク制御において、フィードフォワード制御とフィードバック制御をそれぞれ独立に設計できる二自由度制御系(非特許文献1乃至4参照)が一般的に使用されている。著者らの研究グループでは、ショートスパンシークの制御法として完全追従制御法(Perfect Tracking Control:PTC)(非特許文献5参照)を使用してフィードフォワード制御信号を生成し、制御対象を剛体モデルとした剛体PTC、主共振モードを積極的に制御する制振PTC(Vibration Suppression PTC:VSPTC)(非特許文献6参照)を提案してきた。また、フォロイング制御において、繰り返し完全追従制御法(Repetitive PTC:RPTC)(非特許文献7参照)を使用して周期外乱による誤差を低減している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Ishikawa,T.Hattori,M.Hashimoto:“High−Speed Positioning Control for Hard Disk Drives Based on Two−Degree−of−Freedom Control”,JSME,Vol.62,No.597,pp200−208(1996)(inJapanese)
【非特許文献2】S.Nakagawa,T.Yamaguchi,H.Fujimoto,Y.Hori,K.Ito,Y.Hata:“Multi−rate Two−Degree−of−Freedom Control for Fast and Vibration−less Seeking of Hard Disk Drives”,Proc.ACC,pp2797−2802,Arlington,America(2001)
【非特許文献3】S.Takakura,T.Yamada:“Head Postioning Control System for Hard Disk Drives”,IEICE technical report.Magnetic recording,Vol.93,No.190,pp.13−18(1993)
【非特許文献4】T.Atsumi:“Shock−Response−Spectrum Analysis of Sampled−Data Polynomial for Track−Seeking Control in Hard Disk Drives”,in Proceedings of The 10th IEEE International Workshop on Advanced Motion Control,pp240−247(2008)
【非特許文献5】H.Fujimoto,Y.Hori,T.Yamaguchi,S.Nakagawa:“Seeking Control of Hard Disk Drive by Perfect Tracking using Multirate Sampling Control”,The Transactions of the Institute of Electrical Engineers of Japan,Vol.120,No.10,pp1157−1164(2000)(inJapanese)
【非特許文献6】K.Fukushima,H.Fujimoto,S.Nakagawa:“Short−Span Seeking Control of Hard Disk Drive with Vibration Suppression PTC”,IEEJ Transactions on Industry Applications,Vol.126,No.6,pp706−712(2006)(inJapanese)
【非特許文献7】H.Fujimoto,F.Kawakami,S.Kondo:“Repetitive Control of Hard Disk Drive Based on Switching Mechanism−Comparison of Proposed Two Multirate Systems−”,T.SICE,Vol.41,No.8,pp645−651(2005)(inJapanese)
【非特許文献8】M.Tomizuka:“Zero Phase Error Tracking Algorithm for Digital Control”,Trans.ASME,Jounal of Dynamic Systems,Measurement, and Control,Vol.109,pp65−68(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
目標軌道生成時において、ノミナルモデルがモデル化誤差を有する場合、目標軌道とヘッドの実軌道において、加減速時に大きな追従誤差が生じる。PTCを使用する場合にはロバストなフィードバックコントローラにより追従誤差を抑圧する。従って、モデル化誤差の影響によりシーク整定時にオーバーシュートが生じてしまい、追従特性が悪化するため、整定時間が遅くなってしまう問題があった。
【0006】
本出願では、RPTCで提案されている学習手法をシーク時に応用し、目標軌道を再設計することにより、ショートスパンシーク時に生じるオーバーシュートを低減する手法を学習型PTC(Learning based PTC:LPTC)として提案し、シミュレーション及び実験によりその有効性を確認した。
【0007】
PTCによる制御時において、ノミナルモデルが実プラントとモデル化誤差を含む場合には追従誤差が生じる。通常、追従誤差が生じた場合フィードバックコントローラがこれを抑圧するが、このことがシーク整定時のオーバーシュートを引き起こし、シークタイムが遅くなる。本出願では簡単のために、track to trackなどの等トラック幅のシークを前提として、この追従誤差を目標軌道に加え、目標軌道を再設計することにより目標軌道追従誤差を抑圧する学習型完全追従制御法(Learning based PTC:LPTC)を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解消するために、本発明による磁気ディスク装置の制御装置は、マルチレートフィードフォワード制御を行う完全追従制御器と、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成する学習信号発生器とを備える学習型完全追従制御法により制御を行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の磁気ディスク装置の制御装置は、上記学習信号発生器は、プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを使用する場合には、Qフィルタを含み、当該Qフィルタは上記追従誤差の高域の周波数成分を抑圧するものとしてもよい。
【0010】
また、本発明の磁気ディスク装置の制御装置は、上記学習信号発生器は、演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れ等のモデル化誤差要因を、無駄時間として考慮して目標軌道補償信号を生成するものとしてもよい。
【0011】
また、上記の課題を解消するために、本発明による磁気ディスク装置の制御方法は、完全追従制御器によりマルチレートフィードフォワード制御を行うステップと、学習信号発生器により、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成するステップとを備える学習型完全追従制御法により制御を行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の磁気ディスク装置の制御方法は、上記目標軌道補償信号を生成するステップは、プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを使用する場合には、Qフィルタにより前記追従誤差の高域の周波数成分を抑圧して上記目標軌道補償信号を生成するものとしてもよい。
【0013】
また、本発明の磁気ディスク装置の制御方法は、上記目標軌道補償信号を生成するステップは、演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れ等のモデル化誤差要因を、無駄時間として考慮して上記目標軌道補償信号を生成するものとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、提案するLPTCは、追従誤差を学習し目標軌道を再設計することにより、ショートスパンシークにおける加減速時の目標軌道追従誤差を大きく抑圧でき、シークタイムの高速化につながることを確認した。特にモデル化誤差による目標軌道追従誤差は、複数回の学習により抑圧することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】磁気ディスク装置の内部構造の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による学習型PTC(Learning Based Perfect Tracking Control:LPTC)の制御ブロック図を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による剛体モデルを使用したシミュレーション結果を示す図であり、図3(a)は、プラント出力を示し、図3(b)は、目標軌道追従誤差を示し、図3(c)は、追従誤差を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による詳細モデルを使用したシミュレーション結果を示す図であり、図4(a)は、プラント出力を示し、図4(b)は、目標軌道追従誤差を示し、図4(c)は、追従誤差を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による実験に使用したLPTCの制御ブロック図を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による実験に使用した学習信号発生器の制御ブロック図を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による無駄時間を考慮しない場合の学習前の実験結果であって、図7(a)は、PESを示し、図7(b)は、PES(拡大図)を示し、図7(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による無駄時間を考慮しない場合の学習後の実験結果であって、図8(a)は、PESを示し、図8(b)は、PES(拡大図)を示し、図8(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による無駄時間を考慮した場合の学習前の実験結果であって、図9(a)は、PESを示し、図9(b)は、PES(拡大図)を示し、図9(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による無駄時間を考慮した場合の学習後の実験結果であって、図10(a)は、PESを示し、図10(b)は、PES(拡大図)を示し、図10(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるモデル化誤差をあえて大きく持たせた場合の学習前の実験結果であって、図11(a)は、PESを示し、図11(b)は、PES(拡大図)を示し、図11(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【図12】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるモデル化誤差をあえて大きく持たせた場合の1回学習後の実験結果であって、図12(a)は、PESを示し、図12(b)は、PES(拡大図)を示し、図12(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【図13】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるモデル化誤差をあえて大きく持たせた場合の5回学習後の実験結果であって、図13(a)は、PESを示し、図13(b)は、PES(拡大図)を示し、図13(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、磁気ディスク装置100の内部構造の斜視図である。
図1において、磁気ディスク装置100は、ディスク101と、ロータリー・アクチュエータ102と、アーム103と、サスペンション104と、磁器ヘッド105と、ランプ106と、スピンドル107とを備える。磁気ディスク装置における制御系は、ヘッドの高速移動を行うシーク制御と、目標トラックに高精度に追従し続けさせるフォロイング制御の2種類の制御に大きく分類される。
【0017】
[学習型完全追従制御法]
PTCによる制御時において、ノミナルモデルが実プラントとモデル化誤差を含む場合には追従誤差が生じる。通常、追従誤差が生じた場合フィードバックコントローラがこれを抑圧するが、このことがシーク整定時のオーバーシュートを引き起こし、シークタイムが遅くなる。本出願では簡単のために、track to trackなどの等トラック幅のシークを前提として、この追従誤差を目標軌道に加え、目標軌道を再設計することにより目標軌道追従誤差を抑圧する学習型完全追従制御法(Learning based PTC:LPTC)を提案する。
【0018】
[学習前]
目標軌道をr[i]とし、学習前におけるノミナル出力をyn(0)[i]、プラント出力をy(0)[i]とする。ただしプラントがノミナルモデルのときのプラント出力をノミナル出力yn[i]と定義する。ノミナルモデルをPn[z]、乗法的モデル化誤差をΔ[z]とすると、プラントモデルを式(1)と表せる。
【0019】
【数1】
【0020】
学習前の目標軌道を式(2)のようにすると、式(3)と式(4)が成り立つ。ただし以降の式において、各変数の添え字は学習回数と定義する。また、以下の解析では簡単のため、完全追従制御器をz-1P-1n[z]とする。P-1n[z]は不安定零点を有するが、マルチレートフィードフォワードにより安定な逆システムを構成できている(非特許文献5参照)。最初のシークを行ったとき、それぞれの信号は以下のように求められる。
【0021】
【数2】
【0022】
【数3】
【0023】
【数4】
【0024】
ここでuff[i]、ufb[i]は、それぞれフィードフォワード入力、フィードバック入力であり、C[z]はフィードバックコントローラを表す。ただし、S[z]=1/(1+P[z]C[z])である。本出願では、ノミナル出力yn(0)[i]とプラント出力y(0)[i]との差を追従誤差efb(0)[i]と定義し、式(5)で表す。
【0025】
【数5】
【0026】
また、et(0)[i]は学習前のノミナル出力yn(0)[i]=z-1r(0)[i]とプラント出力y(0)[i]との差とし、これは目標軌道追従誤差であり、式(6)で表される。
【0027】
【数6】
【0028】
式(5)と式(6)より学習前の追従誤差と目標軌道追従誤差は等しく、et(0)[i]=efb(0)[i]であることが確認できる。以降、目標軌道追従誤差et[i]を抑圧することを検討する。
【0029】
[学習回数1回目]
学習の概念図を図2に示す。図2のようにして追従誤差efb[i]を学習し、次のシーク時において目標軌道r[i]に加えることで、目標軌道を再設計することを考えると、学習後の目標軌道r(1)[i]は式(7)となる。ここでQ[z]はQフィルタを示し、位相遅れのないLPFとして機能する(非特許文献8参照)。学習する追従誤差efb(0)[i]はPTCにより、目標軌道に対して1サンプル遅れているため、1サンプル進めたものを使用する。
【0030】
【数7】
【0031】
学習後のノミナル出力yn(1)[i]とプラント出力y(1)[i]はそれぞれ式(8)、式(9)となる。
【0032】
【数8】
【0033】
【数9】
【0034】
以上より、学習後の追従誤差efb(1)[i]はノミナル出力yn(1)[i]とプラント出力y(1)[i]の差より式(10)で表される。
【0035】
【数10】
【0036】
同様に、学習後の目標軌道追従誤差et(1)[i]は学習前のノミナル出力z-1r(0)[i]とプラント出力y(1)[i]の差より式(11)で表される。
【0037】
【数11】
【0038】
式(11)は、Q[z]=1のときet(1)[i]は、−S[z]Δ[z]で抑圧される。
【0039】
[学習回数k回目]
同様にして学習を繰り返していくと、学習回数k回後のそれぞれの値は以下の式となる。
【0040】
【数12】
【0041】
【数13】
【0042】
【数14】
【0043】
学習回数k回後の追従誤差efb(k)[i]は式(15)となる。
【0044】
【数15】
【0045】
また学習回数k回後の目標軌道追従誤差et(k)[i]は式(16)となる。
【0046】
【数16】
【0047】
式(16)より、式(17)を満たすとき目標軌道追従誤差は学習毎に抑圧されていく。
【0048】
【数17】
【0049】
[シミュレーション]
提案手法の有効性を確認するためシミュレーションを行った。ここでシミュレーションモデルは後述する実験機と同じものとし、各パラメータは、ディスク径1.8inch、トラック幅133nm、回転数4200rpm、セクタ数256、サンプリング周期Ty=56μsとする。フィードバックコントローラはPIDコントローラとし、制御帯域が1000Hzとなるように設計した。一般に、等トラック幅のシークとして1トラックシーク時に適用するのが自然であるが、機構共振周波数からの強い影響を避けるために、本出願では移動距離を10トラックとしたショートスパンシークを行う。
【0050】
[剛体モデル]
ノミナルモデルを剛体とし式(18)に示す。
【0051】
【数18】
【0052】
プラントモデルとして、ノミナルモデルがモデル化誤差を含むモデルとし、式(19)とする。
【0053】
【数19】
【0054】
1回のシークごとに追従誤差efbを学習し、次回のシークの目標軌道を再設計する。2次のPTCでは目標軌道として位置軌道と速度軌道が必要となるため、速度軌道の追従誤差e´fb[i]を、位置軌道の追従誤差efb[i]を使用して式(20)で与える。
【0055】
【数20】
【0056】
【表1】
【0057】
シミュレーションでは学習を10回行った。学習回数0,1,5,10回のプラント出力と目標軌道追従誤差、追従誤差のシミュレーション結果をそれぞれ図3に示す。ここでは、Qフィルタは考慮していないため(すなわちQ[z]=1)、式(16)が示すように目標軌道追従誤差が学習を繰り返すことで、0に収束されていくことが確認できた。
【0058】
[詳細モデル]
プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを式(21)に示す。
【0059】
【数21】
【0060】
ここで、Lは演算時間遅れ、ζlは減衰係数、ωlは固有振動数、αlはl次のゲインを示す。第1項は剛体モード、第2項は複数の振動モードからなる共振モデルである。プラントの共振モードパラメータを表1に示す。プラントモデルを詳細モデルとする場合、追従誤差の高域の周波数成分を抑圧するためにQフィルタを使用する。このQフィルタは式(22)で表され、位相遅れのないLPFとして機能する。NqはQフィルタの段数を示し、Nq=5とした。このときのカットオフ周波数は1500Hzとなる。
【0061】
【数22】
【0062】
シミュレーション結果を図4に示す。剛体モデルの場合と異なり、Qフィルタの影響が残っているが、式(16)が示すように加減速時の目標軌道追従誤差が学習を繰り返すことにより抑圧されていることが確認できた。
【0063】
[実験]
提案手法の有効性を確認するため実験を行った。実験のブロック図を図5に示す。また学習機構となる学習信号発生器を図6に示す。1シークにかかる時間をTseekとするとき、Nd=Tseek/Tyとし(ただしNdは整数とする)、Ndサンプル遅延させることにより学習を行う。ここで、PTCによる遅延と速度軌道生成時に生じる遅延に対する進み補償を行っている。スイッチは加減速時の間のみオン状態とし、フォロイング時にはオフ状態とする。
【0064】
本出願ではヘッド位置が1トラックの±10%域に収まった時間をシーク終了とし、シーク開始からシーク終了に要した時間をシークタイムとする。シーク動作の目標軌道は(τs+1)-6のステップ応答とし、移動トラック数を10トラックとした。応答速度を決める時定数はτ=50μsとした。シーク動作は全て、あるトラックから同一方向へ行うものとした。学習する追従誤差は、50回のシーク動作を行ったときの平均追従誤差を使用した。このシーク動作は、開始セクタが一致していないため、外乱成分が加減速時に起きる追従誤差であるとは単純にはいえない。開始セクタを一致させればRRO(Repeatable Runout:回転同期振動)とみなせるので、必ずしも50回の平均は必要ではない。
【0065】
以下ではLPTCの有効性を確認するため、学習前の平均シークタイムとLPTC後の平均シークタイムを比較していく。Qフィルタ及びフィードバックコントローラはシミュレーション時と同じものとした。
【0066】
[無駄時間考慮なし]
目標軌道を式(23)、式(24)で与え、シークタイムを表2に与える。
【0067】
【数23】
【0068】
【数24】
【0069】
【表2】
【0070】
学習前とLPTC後の実験結果を図7、図8に示し(case1)、図7は学習前の実験結果を示し、図8は学習後の実験結果を示す。このときの目標軌道におけるシークタイムは715μsである。加減速時の目標軌道追従誤差が低減できたことにより、シークタイムを速くできたことを確認できる。無駄時間を考慮していないため加減速時に大きな追従誤差が生じ、追従特性が良くないことがわかる。
【0071】
[無駄時間考慮あり]
HDDの制御対象モデルに対して、モデル化誤差要因として演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れが生じる。このため、モデル化誤差要因を補償するために等価時間遅れe-Ls(L=25μs)とし、以下の式で目標軌道を与えた。
【0072】
【数25】
【0073】
学習前とLPTC後の実験結果を図9、図10に示し(case2)、図9は学習前の実験結果を示し、図10は学習後の実験結果を示す。このときの目標シークタイムは739μsである。PTCではモデル化誤差が小さいため、大きなオーバーシュートはない。しかしながら学習することで追従特性が改善されていることが確認できる。以下では全てノミナルモデルに対して無駄時間を考慮する。
【0074】
[モデル化誤差]
PTC設計時において、ゲイン変動によるモデル化誤差をあえて大きく持たせて実験を行った。
【0075】
【数26】
【0076】
学習前とLPTC後の実験結果を図11、図12に示し(case3)、図11は学習前の実験結果を示し、図12は学習後の実験結果を示す。このときの目標シークタイムは739μsである。モデル化誤差が大きいため学習前のシーク特性が大きく劣化していることが確認できる。1回の学習では目標軌道追従誤差を抑圧し切れていないことが確認できた。
【0077】
ここで、更に学習を5回繰り返した際の実験結果を図13に示す(case4)。シミュレーションと同様に、学習を繰り返すことにより徐々に目標トラック付近でのシーク特性が改善され、シークタイムが目標シークタイムに近づいていくことが確認できた。
【0078】
[まとめ]
学習型完全追従制御法を提案し、シミュレーション及び実験により、その有効性を確認した。提案するLPTCは、追従誤差を学習し、目標軌道を再設計することで、ショートスパンシークにおける加減速時の目標軌道追従誤差を大きく抑圧でき、シークタイムの高速化につながる事を確認した。特にモデル化誤差による目標軌道追従誤差に対しては複数回の学習により抑圧された。
【符号の説明】
【0079】
201,501 状態変数(理想の目標軌道)
202,502,505 PTC制御器
203,208,503,507,605 加算器
204 ノミナルモデル
205 乗法的モデル化誤差
206 プラント出力
207,506 フィードバック制御器
209,210,212,213,508,601,603,604,606 演算器
211,602 Qフィルタ
214,509 目標軌道追従誤差
504 制御対象
600 学習信号発生器
607 スイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチレートフィードフォワード制御を行う完全追従制御器と、
シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成する学習信号発生器と
を備える学習型完全追従制御法により制御を行う磁気ディスク装置の制御装置。
【請求項2】
前記学習信号発生器は、プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを使用する場合には、Qフィルタを含み、当該Qフィルタは前記追従誤差の高域の周波数成分を抑圧することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御装置。
【請求項3】
前記学習信号発生器は、演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れ等のモデル化誤差要因を、無駄時間として考慮して目標軌道補償信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御装置。
【請求項4】
完全追従制御器によりマルチレートフィードフォワード制御を行うステップと、
学習信号発生器により、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成するステップと
を備える学習型完全追従制御法により制御を行う磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項5】
前記目標軌道補償信号を生成するステップは、プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを使用する場合には、Qフィルタにより前記追従誤差の高域の周波数成分を抑圧して前記目標軌道補償信号を生成することを特徴とする請求項4に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項6】
前記目標軌道補償信号を生成するステップは、演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れ等のモデル化誤差要因を、無駄時間として考慮して前記目標軌道補償信号を生成することを特徴とする請求項4に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項1】
マルチレートフィードフォワード制御を行う完全追従制御器と、
シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成する学習信号発生器と
を備える学習型完全追従制御法により制御を行う磁気ディスク装置の制御装置。
【請求項2】
前記学習信号発生器は、プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを使用する場合には、Qフィルタを含み、当該Qフィルタは前記追従誤差の高域の周波数成分を抑圧することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御装置。
【請求項3】
前記学習信号発生器は、演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れ等のモデル化誤差要因を、無駄時間として考慮して目標軌道補償信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御装置。
【請求項4】
完全追従制御器によりマルチレートフィードフォワード制御を行うステップと、
学習信号発生器により、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成するステップと
を備える学習型完全追従制御法により制御を行う磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項5】
前記目標軌道補償信号を生成するステップは、プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを使用する場合には、Qフィルタにより前記追従誤差の高域の周波数成分を抑圧して前記目標軌道補償信号を生成することを特徴とする請求項4に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項6】
前記目標軌道補償信号を生成するステップは、演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れ等のモデル化誤差要因を、無駄時間として考慮して前記目標軌道補償信号を生成することを特徴とする請求項4に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−282680(P2010−282680A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134274(P2009−134274)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月10日 社団法人電気学会発行の「電気学会研究会資料(IIC−09−090〜111)」に発表
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月10日 社団法人電気学会発行の「電気学会研究会資料(IIC−09−090〜111)」に発表
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]