説明

加熱調理器

【課題】過熱水蒸気により食品の加熱調理を行う加熱調理器において、加熱調理に要する時間を短縮することができ、食品全体を均一に加熱調理して、食品に焦げ目を付けて品位よく仕上ることが可能な加熱調理器を提供する。
【解決手段】加熱調理器100は、天井面111と側壁面112,113とを有する加熱室110と、過熱水蒸気生成手段120とを備え、過熱水蒸気生成手段120は、水蒸気を流通させるための流路と、流路と加熱室110とを連通するための流路の吸気口121と排気口122と、吸気口121から排気口122の方向に向かって水蒸気流を強制的に発生させるための送風手段127と、水蒸気を加熱するための発熱体125とを含み、流路は加熱室110の外部に配置され、排気口122は天井面111近傍に配置され、過熱水蒸気は、排気口122から天井面111の方向に向かって供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には食品の加熱調理を行う加熱調理器に関し、特定的には100℃を超える温度の過熱水蒸気により食品の加熱調理を行う加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱調理器としては、水蒸気をさらに加熱した100℃以上の過熱水蒸気によって食品等の被調理物の加熱調理を行うものがある。このような加熱調理器では、給水タンク等から水蒸気発生装置に供給された水を加熱して100℃の水蒸気を生成し、生成した100℃の水蒸気を過熱水蒸気生成装置によって100℃を超える温度に加熱して、目的とする過熱水蒸気を生成する。被調理物を収容した加熱室内にこの過熱水蒸気を供給して加熱調理を行い、被調理物に適した加熱時間が経過したとき、この過熱水蒸気の供給を停止して加熱調理が完了する。
【0003】
過熱水蒸気を使用して加熱調理した場合、被調理物から水分が蒸発して乾燥するのを抑制することから、被調理物を、適度の水分を保持したしっとりとした仕上がりに調理することができる。また、過熱水蒸気は空気よりも熱伝達率が高いので、加熱調理時間を短縮できると共に、加熱調理の過程で加熱室内に大量の過熱水蒸気を供給する結果、加熱室内の大気が排除されて無酸素状態に近くなり、加熱調理中の食品の成分の酸化が低減される。
【0004】
特開平9−4849号公報(特許文献1)には、水蒸気をオーブン内の発熱体で加熱して過熱蒸気を生成し、過熱蒸気をオーブン内で循環させることが可能な加熱調理装置が記載されている。
【0005】
また、特開平11−141881号公報(特許文献2)には、食品の近傍に過熱蒸気の吐出口が配置され、食品近傍に過熱蒸気を供給する蒸気誘導手段と、加熱室全体に過熱蒸気を供給する蒸気誘導手段とを備える加熱調理装置が記載されている。
【特許文献1】特開平9−4849号公報
【特許文献2】特開平11−141881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開平9−4849号公報(特許文献1)に記載されている加熱調理装置では、過熱蒸気は対流によってオーブン内を均一に加熱するように、オーブン内に供給される。そのため、オーブン内に配置されている被調理物だけを効率よく加熱することが困難であり、被調理物だけでなくオーブン庫内全体を加熱するために加熱調理に要する時間が長くなり、また、被調理物に焦げ目がつきにくい。
【0007】
また、特開平11−141881号公報(特許文献2)に記載されている加熱調理装置のように食品の近傍に過熱蒸気を供給すると、食品のうち、過熱蒸気と接触しやすい部分が集中的に加熱されて、加熱調理が食品全体で均一に行われないことがある。複数の食品を加熱室内に並べて配置して一度に調理する場合にも、加熱室内の位置によって過熱蒸気の供給に差があり、調理の仕上がりが均一にならない。
【0008】
そこで、この発明の目的は、過熱水蒸気により食品の加熱調理を行う加熱調理器において、加熱調理に要する時間を短縮することができて、食品全体を均一に加熱調理し、食品に焦げ目を付けて品位よく仕上げることが可能な加熱調理器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に従った加熱調理器は、天井面と側壁面とを有し、食品を加熱調理するための加熱室と、水蒸気を加熱して過熱水蒸気にするための過熱水蒸気生成手段とを備え、過熱水蒸気生成手段は、水蒸気を流通させるための流路と、流路と加熱室とを連通するための流路の入口と出口と、入口から出口の方向に向かって水蒸気流を強制的に発生させるための送風手段と、流路の内部に配置されて水蒸気を加熱するための加熱手段とを含み、流路は、加熱室の外部に配置され、過熱水蒸気生成手段の出口は、加熱室の天井面近傍に配置され、過熱水蒸気は、過熱水蒸気生成手段の出口から加熱室の天井面の方向に向かって供給される。
【0010】
この発明の加熱調理器においては、過熱水蒸気生成手段の出口が加熱室の天井面近傍に配置され、送風手段によって入口から出口の方向に向かって水蒸気流が発生させられ、過熱水蒸気生成手段において生成された過熱水蒸気が、過熱水蒸気生成手段の出口から加熱室の天井面の方向に向かって供給される。このようにすることにより、過熱水蒸気は、加熱室の天井面の形状に沿って層状に流れる。過熱水蒸気は層状のまま、加熱室の天井面から側壁面に沿って流れて、加熱室内に配置されている食品に供給される。食品に供給された過熱水蒸気は、過熱水蒸気生成手段の入口から過熱水蒸気生成手段の内部に導かれる。過熱水蒸気生成手段の内部に戻った過熱水蒸気は、入口から出口まで流通しながら加熱手段によって再び加熱され、送風手段によって強制的に送風されて、過熱水蒸気生成手段の出口から加熱室の天井面の方向に向かって、加熱室内に供給される。過熱水蒸気は、このような循環を繰り返す。
【0011】
過熱水蒸気は、層状に流れることによって、加熱室内を流れる速度が大きくなり短時間で食品の配置されている位置に到達する。このようにして、過熱水蒸気は、過熱水蒸気生成手段の出口から流出した後、流速と熱量を保ったままで食品に供給されやすくなる。
【0012】
また、過熱水蒸気は天井面や側壁面の幅全体に広がって層状に流れる。そのため、過熱水蒸気は、食品の一部に集中して吹き付けられるのではなく、食品全体に幅広く接触し、食品を包み込んで、食品に多量の凝縮熱を付与して加熱調理をする。
【0013】
このように、過熱水蒸気が対流によって加熱室全体に分散せず、天井面と側壁面に沿って流れるために層状の束になって食品に供給されることによって、加熱室内の全体ではなく、食品だけを効率よく均一に加熱して加熱調理時間を短縮することができる。また、一度に多量の熱量を食品に付与することになるので、食品に焦げ目をつけて仕上げることもできる。
【0014】
過熱水蒸気生成手段の出口が天井面近傍に配置され、過熱水蒸気が天井面の方向に向かって供給されることによって、過熱水蒸気は出口から流出した直後には食品に衝突せず、天井面から側壁面を通って、出口から入口に向かってある程度流通した後に食品に衝突するので、食品において過熱水蒸気流の上流側と下流側とで加熱調理の仕上がり具合に大きな差が現れたり、上流側だけが焦げたりしにくくなる。また、食品に供給された過熱水蒸気は食品の表面に沿って流れるので、食品全体を素早く均一に加熱調理することができる。
【0015】
また、過熱水蒸気は天井面近傍の出口から加熱室内に流出し、天井面、側壁面に沿って流れてから食品と接触し、その後に入口から過熱水蒸気生成手段の内部に流入するため、過熱水蒸気が出口から流出した直後に食品に接触してから入口まで流れる場合よりも、食品から入口までの距離が相対的に短くなる。食品に接触することによって過熱水蒸気の流速は低下するが、食品から入口までの距離が相対的に短いので、食品に供給された後に流速の低下した過熱水蒸気を過熱水蒸気生成手段の入口に導くために別の送風手段を備えなくても、過熱水蒸気が加熱室の内部に滞留せずに過熱水蒸気生成手段の内部に戻りやすくなる。過熱水蒸気生成手段の内部に戻った過熱水蒸気は、再び加熱されて出口から加熱室内に循環供給される。
【0016】
このようにすることにより、過熱水蒸気により食品の加熱調理を行う加熱調理器において、加熱調理に要する時間を短縮することができて、食品全体を均一に加熱調理し、食品に焦げ目を付けて品位よく仕上げることが可能な加熱調理器を提供することができる。
【0017】
この発明に従った加熱調理器においては、加熱手段は発熱体であり、流路の外に配置されて発熱体を誘導加熱するための加熱コイルを備えることが好ましい。
【0018】
このようにすることにより、過熱水蒸気生成手段の熱源が所定の温度まで昇温されるために必要な時間が比較的短くなるので、食品の加熱調理を短時間で仕上げることができる。
【0019】
この発明に従った加熱調理器においては、加熱手段は、加熱室の側壁面に沿って配置されていることが好ましい。
【0020】
加熱手段が加熱室の側壁面に沿って配置されていることによって、加熱室の側壁面が加熱手段によって加熱されるので、加熱室の側壁面から発する輻射熱によって加熱室の内部を加熱することができる。このように、加熱手段によって発生した熱の一部は、加熱室内にまで供給される。過熱水蒸気生成手段の出口から流出して加熱室内を層状になって流れる過熱水蒸気は、加熱室の壁面から離れた位置には到達しにくいので加熱室内の全体を均一に加熱しないが、加熱室の側壁面から発する輻射熱によって、加熱室内の全体を加熱することができる。また、食品において、層状の過熱水蒸気が接しにくい部分を輻射熱によって補完的に加熱することができるので、食品の調理をより均一に、短時間で仕上げることができる。
【0021】
また、加熱手段から発する熱は、加熱室の側壁面を加熱し、加熱された側壁面からの輻射熱によって加熱室の内部を加熱することに用いられるので、加熱手段から発する熱が外気などを温めて熱が浪費されることを防ぐことができる。
【0022】
このようにすることにより、加熱室内の全体を加熱することができる。また、外部への排熱を減少させることができる。
【0023】
この発明に従った加熱調理器においては、流路は、加熱手段に沿って扁平な形状を有することが好ましい。
【0024】
流路が加熱手段に沿って扁平な形状を有することによって、流路を流通する水蒸気が加熱手段に近付きやすくなるので、水蒸気が効率よく加熱されて過熱水蒸気になる。
【0025】
このようにすることにより、過熱水蒸気の生成速度を上げることができるので、食品の加熱効率と調理性能を向上させることができる。
【0026】
この発明に従った加熱調理器においては、発熱体は、平面状に形成される面状発熱体であり、送風手段は、発熱体の表面に平行な層状気流を送風するためのシロッコファンであり、層状気流は、出口から加熱室の天井面に沿った方向に吹き出されることが好ましい。
【0027】
このようにすることにより、流路を流通する水蒸気は、面状発熱体を通過する前後で層状気流となっているので、発熱体による発熱ムラが発生しにくく、均一な温度分布を有する層状気流を作り出すことができる。また、発熱体が平面状に形成されるので、発熱体を薄くすることができ、熱交換効率を高めることができる。
【0028】
この発明に従った加熱調理器は、水蒸気を発生させるための水蒸気発生手段を備え、送風手段は、流路内において、水蒸気発生手段の下流側に配置され、かつ、加熱手段の上流側に配置されていることが好ましい。
【0029】
このようにすることにより、送風手段は、加熱手段から発生する熱の影響を受けにくくなるので、加熱室と加熱手段を含む加熱調理器の中で、送風手段を比較的低い温度環境で動作させることができ、送風手段の耐熱温度を低く抑えることが可能になる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、この発明によれば、過熱水蒸気により食品の加熱調理を行う加熱調理器において、加熱調理に要する時間を短縮することができて、食品全体を均一に加熱調理し、食品に焦げ目を付けて品位よく仕上げることが可能な加熱調理器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
図1は、この発明の一つの実施の形態として、加熱調理器の概略的な全体の構成を示す正面図である。図2は、この発明の一つの実施の形態として、加熱調理器の概略的な全体を示す斜視図である。
【0033】
図1と図2に示すように、加熱調理器100は、食品200を収容して加熱調理するための加熱室110と、水蒸気を加熱して過熱水蒸気にするための過熱水蒸気生成手段120と、高周波電力発生手段(図示せず)と、水蒸気発生手段として飽和水蒸気供給手段130と、貯水タンク(図示せず)とを備える。飽和水蒸気供給手段130には、貯水タンクから水を供給するための給水パイプ131が接続されている。
【0034】
加熱室110は、1つの面(前面側)が開口部である直方体形状をしており、その開口部には、被加熱物である食品200の出し入れに使用する開閉ドア(図示しない)が設置されている。加熱室110の残りの面はステンレス鋼板で形成されている。加熱室110の床面にステンレス鋼板製の受皿114が配置され、受皿114の上には食品200を載置するためのステンレス鋼線製の支持具115が配置されている。
【0035】
加熱室110の1つの側壁面112の外側には、加熱室110の側壁面112に沿って過熱水蒸気生成手段120が配置されている。加熱室110の側壁面112には、過熱水蒸気生成手段120の内部において水蒸気を流通させるための流路と連通する二つの開口部が形成されている。開口部の一つは、加熱室110の天井面111近傍に配置される、過熱水蒸気生成手段120の流路の出口として排気口122である。他方の開口部は、排気口122の下方に配置される、過熱水蒸気生成手段120の流路の入口として吸気口121である。
【0036】
図3は、この発明の一つの実施形態として、過熱水蒸気生成手段と飽和水蒸気供給手段の構成を分解して示す分解斜視図である。図4は、この発明の一つの実施形態として、過熱水蒸気生成手段と飽和水蒸気供給手段の構成を加熱室とともに分解して示す分解斜視図である。
【0037】
図3と図4に示すように、過熱水蒸気生成手段120は、水蒸気を流通させるための流路を形成するための水蒸気誘導手段123と、断熱材124と、加熱手段として発熱体125と、加熱コイル126と、送風手段127とを含む。送風手段127は、一例として、シロッコファンである。
【0038】
水蒸気誘導手段123は、中央に穴が形成されている長方形の枠形状を有している。水蒸気誘導手段123の穴の開口部を片側から覆うようにして、長方形の板状に形成されている断熱材124が水蒸気誘導手段123に取り付けられている。過熱水蒸気生成手段120は、水蒸気誘導手段123の断熱材124と反対側の開口部が加熱室110の側壁面112によって覆われるように、加熱室110の側壁面112の外側に配置される。このようにして、水蒸気誘導手段123と、断熱材124と、加熱室110の側壁面112によって、水蒸気を流通させるための流路が形成される。流路は、加熱室110の側壁面112からの高さがほぼ一定であるように形成されている。すなわち、加熱室110の側壁面112と断熱材124との距離がほぼ一定となるように、水蒸気誘導手段123が加熱室110の側壁面112の外側に取り付けられている。流路は、流路の幅が流路の高さよりも大きく、また、流路の高さよりも、吸気口121から排気口122までの距離が長い、扁平な形状を有する。
【0039】
加熱室110の側壁面112と断熱材124の間に形成されている流路内には、ほぼ正方形の外形を有し、波板状に形成されている発熱体125が配置されている。このように、発熱体125は、表面が波打つように形成されているが、ほぼ平面状に形成されている面状発熱体である。発熱体125は、波板上の波の稜線が吸気口121と排気口122とを結ぶ線とほぼ平行になるように配置されている。
【0040】
断熱材124の外側には、発熱体125を誘導加熱するための加熱コイル126が配置されている。加熱コイル126は、発熱体125に沿って配置されている。加熱コイル126は、加熱調理器100が備える高周波電力発生手段によって駆動される。このように、加熱コイル126が発熱体125に沿って配置されていることによって、加熱コイル126によって発熱体125を効率よく誘導加熱することができる。
【0041】
過熱水蒸気生成手段120の流路内には、吸気口121とほぼ対向する位置に、送風手段127が配置されている。飽和水蒸気供給手段130は、過熱水蒸気生成手段120の下方に配置されている。送風手段127は、飽和水蒸気供給手段130の下流側に配置され、発熱体125の上流側に配置されている。
【0042】
飽和水蒸気供給手段130には、加熱調理器100の貯水タンクから給水パイプ131を通して水が供給される。貯水タンクには、水道水や、イオン交換樹脂を用いて水中のカルシウムイオン、マグネシウムイオン等を除去した純水が収容されている。貯水タンク内の水は、電磁ポンプ等によって飽和水蒸気供給手段130に供給される。
【0043】
以上のように構成された加熱調理器100における過熱水蒸気の生成と流れについて説明する。
【0044】
過熱水蒸気生成手段120の下方に配置されている飽和水蒸気供給手段130には、加熱調理器100の貯水タンクから給水パイプ131を通して水が供給される。飽和水蒸気供給手段130に供給された水は、飽和水蒸気供給手段130において加熱されて水蒸気になる。この水蒸気は、送風手段127によって、過熱水蒸気生成手段120の水蒸気誘導手段123と断熱材124と加熱室110の側壁面112とによって形成される流路内に導かれる。流路内に導かれた水蒸気は、送風手段127によって強制的に吸気口121から排気口122の方向に、発熱体125を形成する波板の波の山と山の間を通って流される。送風手段127はシロッコファンであり、発熱体125の表面に沿って平行な層状気流を送風する。水蒸気は、吸気口121から排気口122までの間を流通する間に、加熱コイル126によって誘導加熱された発熱体125によって加熱されて、過熱水蒸気となって、排気口122から加熱室110内に流出する。過熱水蒸気は、通常、150℃から300℃にまで昇温される。
【0045】
過熱水蒸気生成手段120の流路は扁平な形状に形成されている。また、排気口122は、高さが幅よりも長い扁平な長方形の形状に形成されている。そのため、水蒸気は、過熱水蒸気生成手段120の扁平な流路内を発熱体125に沿って層状に流れながら加熱されて過熱水蒸気になり、扁平な排気口122から加熱室110内に層状になって流出する。
【0046】
図1に示すように、加熱室110の側壁面112に形成されている排気口122から流出した過熱水蒸気は、加熱室110の天井面111に沿って層状になって、排気口122から離れる方向に向かって流れる。図中の黒い矢印は、加熱室110内における過熱水蒸気の流れを示す。過熱水蒸気の層状の流れは、天井面111の幅全体に広がる。天井面111に沿って、排気口122が形成されている側壁面112から反対側の側壁面113まで到達した過熱水蒸気は、層状の流れを保ちながら、側壁面113に沿って下向きに流れる。側壁面113に沿って流れる過熱水蒸気は、食品200を支持する支持具115に到達すると、層状のままで支持具115沿って流れる。このようにして、過熱水蒸気は、層状の流れを保ちながら、支持具115の上に配置されている食品200に供給される。
【0047】
排気口122から加熱室110内に流入した過熱水蒸気の一部は、対流によって、加熱室110の天井面111や側壁面113に沿って流れずに食品200に供給される。
【0048】
過熱水蒸気は、層状の流れを保って加熱室110内を流れることによって、対流によって加熱室110内を分散する場合よりも流速が速くなるので、排気口122から加熱室110内に流入してから食品200に供給されるまでの時間が短くなる。また、層状になった過熱水蒸気の束が食品200に供給されるので、加熱室110の全体を加熱することなく、食品200だけを加熱することができて、食品200に焦げ目を付けて品位よく仕上げることができる。
【0049】
過熱水蒸気は天井面111の幅全体に広がって層状の束になって流れるので、食品200に接触する際にも、幅の広い層として接触する。そのため、食品200の中央部分などの一部だけに過熱水蒸気が集中して吹きつけられることなく、食品200の全体を均一に加熱することができる。
【0050】
食品200に供給された過熱水蒸気は、その後、食品200と支持具115に沿って流れて過熱水蒸気生成手段120の吸気口121に導かれ、吸気口121から過熱水蒸気生成手段120の内部に流入する。過熱水蒸気生成手段120の内部に流入した過熱水蒸気は、送風手段127によって吸気口121から排気口122の方向に向かって発熱体125に沿って流れるように強制的に導かれながら、発熱体125によって加熱された後、再び加熱室110の内部に供給される。
【0051】
層状の過熱水蒸気は、食品200と接触することによって、流速が低下する。また、食品200と接触した過熱水蒸気は、食品200に熱を奪われることによって温度が低下している。排気口122が天井面111の近傍に配置され、吸気口121が排気口122よりも下方に配置されていることによって、過熱水蒸気の速度と温度が低下しても、過熱水蒸気は加熱室110の内部に滞らずに、吸気口121から過熱水蒸気生成手段120の内部に吸気されやすくなっている。
【0052】
一方、過熱水蒸気生成手段120の発熱体125によって発生した熱は、加熱室110の側壁面112を介して加熱室110の内部を輻射によって加熱する。図中の白い矢印は輻射熱流を示す。
【0053】
食品200において、天井面111、側壁面113、支持具115に沿って流れる層状の過熱水蒸気の上流側201は、過熱水蒸気によって加熱されやすいが、食品200において層状の過熱水蒸気の下流側202には、食品200の上流側201においてある程度の熱を奪われた過熱水蒸気が接する。そのため、下流側202は上流側201よりも加熱されにくい。そこで、発熱体125が加熱室110の側壁面112に沿って配置され、層状の過熱水蒸気の下流側202の側壁面112から輻射熱が発することによって、食品200の下流側202が輻射熱によって加熱されて、食品200の調理がより均一に、短時間で仕上げられる。
【0054】
このように、加熱調理器100は、天井面111と側壁面112,113とを有し、食品200を加熱調理するための加熱室110と、水蒸気を加熱して過熱水蒸気にするための過熱水蒸気生成手段120とを備え、過熱水蒸気生成手段120は、水蒸気を流通させるための流路と、流路と加熱室110とを連通するための流路の吸気口121と排気口122と、吸気口121から排気口122の方向に向かって水蒸気流を強制的に発生させるための送風手段127と、流路の内部に配置されて水蒸気を加熱するための発熱体125とを含み、流路は、加熱室110の外部に配置され、過熱水蒸気生成手段120の排気口122は、加熱室110の天井面111近傍に配置され、過熱水蒸気は、過熱水蒸気生成手段120の排気口122から加熱室110の天井面111の方向に向かって供給される。
【0055】
一般に、流体は、流れの中にある物体の表面に沿って流れる、コアンダ効果と呼ばれる性質を有する。すなわち、流れの中に物体を置くと、その物体の表面に沿って流体が流れるように、流れの向きが変更される。
【0056】
この発明の加熱調理器100においては、過熱水蒸気生成手段120の排気口122が加熱室110の天井面111近傍に配置され、送風手段127によって吸気口121から排気口122の方向に向かって水蒸気流が発生させられ、過熱水蒸気生成手段120において生成された過熱水蒸気が、過熱水蒸気生成手段120の排気口122から加熱室110の天井面111の方向に向かって供給される。このようにすることにより、上記のコアンダ効果によって、過熱水蒸気は、加熱室110の天井面111の形状に沿って層状に流れる。過熱水蒸気は層状のまま、加熱室110の天井面111から側壁面113に沿って流れて、加熱室110内に配置されている食品200に供給される。
【0057】
より具体的には、過熱水蒸気生成手段120の排気口122が加熱室110の天井面111近傍に配置され、送風手段127によって吸気口121から排気口122の方向に向かって水蒸気流が発生させられることによって、過熱水蒸気は、過熱水蒸気生成手段120の排気口122から噴出することができる。このときの噴出条件は、一例として、排気口122の開口面積を12cm、排気口122における過熱水蒸気の噴出速度を10m/秒、排気口126における過熱水蒸気の噴出量を毎分720Lであることが望ましい。
【0058】
このようにすれば、排気口122から噴出される過熱水蒸気は、過熱室110の天井面111に沿って、層状に流れるようになる。
【0059】
このようにして、過熱水蒸気を噴出することによって、過熱水蒸気は、層状を維持しつつ、対向する壁面にまで到達する。壁面にまで到達した過熱水蒸気は、今度は壁面に沿って下方向に流れて、支持具115の一例としてトレイに到達する。そして、トレイに到達した過熱水蒸気は、食品にまで到達することができる。
【0060】
食品200に供給された過熱水蒸気は、過熱水蒸気生成手段120の吸気口121から過熱水蒸気生成手段120の内部に導かれる。過熱水蒸気生成手段120の内部に戻った過熱水蒸気は、吸気口121から排気口122まで流通しながら発熱体125によって再び加熱され、送風手段127によって強制的に送風されて、過熱水蒸気生成手段120の排気口122から加熱室110の天井面111の方向に向かって、加熱室110内に供給される。過熱水蒸気は、このような循環を繰り返す。
【0061】
過熱水蒸気は、層状に流れることによって、加熱室110内を流れる速度が大きくなり短時間で食品200の配置されている位置に到達するので、過熱水蒸気生成手段120の排気口122から流出した後、流速と熱量を保ったままで食品200に供給されやすくなる。
【0062】
また、過熱水蒸気は天井面111や側壁面113の幅全体に広がって層状に流れる。そのため、過熱水蒸気は、食品200の一部に集中して吹き付けられるのではなく、食品200の全体に幅広く接触し、食品200を包み込んで、食品200に多量の凝縮熱を付与して加熱調理をする。
【0063】
このように、過熱水蒸気が対流によって加熱室110全体に分散せず、天井面111と側壁面113に沿って流れるために層状の束になって食品200に供給されることによって、加熱室110内の全体ではなく、食品200だけを効率よく均一に加熱して加熱調理時間を短縮することができる。また、一度に多量の熱量を食品200に付与することになるので、食品200に焦げ目をつけて仕上げることもできる。
【0064】
過熱水蒸気生成手段120の排気口122が天井面111近傍に配置され、過熱水蒸気が天井面111の方向に向かって供給されることによって、過熱水蒸気は排気口122から流出した直後には食品200に衝突せず、天井面111から側壁面113を通って、排気口122から吸気口121に向かってある程度流通した後に食品200に衝突するので、食品200において過熱水蒸気流の上流側201と下流側202とで加熱調理の仕上がり具合に大きな差が現れたり、上流側201だけが焦げたりしにくくなる。また、食品200に供給された過熱水蒸気は食品200の表面に沿って流れるので、食品200の全体を素早く均一に加熱調理することができる。例えば、食品200が魚である場合には、魚は遊泳しやすいように流体抵抗が少ない形状を有するので、過熱水蒸気が魚の表面に沿って流れやすく、魚の全体を素早く均一に加熱調理することができるという効果が顕著に現れる。
【0065】
また、過熱水蒸気は天井面111の近傍の排気口122から加熱室110内に流出し、天井面111、側壁面113に沿って流れてから食品200と接触し、その後に吸気口121から過熱水蒸気生成手段120の内部に流入するため、過熱水蒸気が排気口122から流出した直後に食品200に接触してから吸気口121まで流れる場合よりも、食品200から吸気口121までの距離が相対的に短くなる。食品200に接触することによって過熱水蒸気の流速は低下するが、食品200から吸気口121までの距離が相対的に短いので、食品200に供給された後に流速の低下した過熱水蒸気を過熱水蒸気生成手段120の吸気口121に導くために別の送風手段を備えなくても、過熱水蒸気が加熱室110の内部に滞留せずに過熱水蒸気生成手段120の内部に戻りやすくなる。過熱水蒸気生成手段120の内部に戻った過熱水蒸気は、再び加熱されて排気口122から加熱室110内に循環供給される。
【0066】
このようにすることにより、過熱水蒸気により食品の加熱調理を行う加熱調理器100において、加熱調理に要する時間を短縮することができて、食品200の全体を均一に加熱調理し、食品200に焦げ目を付けて品位よく仕上げることが可能な加熱調理器100を提供することができる。
【0067】
またこのように、加熱調理器100においては、加熱手段は発熱体125であり、流路の外に配置されて発熱体125を誘導加熱するための加熱コイル126を備える。
【0068】
このようにすることにより、過熱水蒸気生成手段120の熱源が所定の温度まで昇温されるために必要な時間が比較的短くなるので、食品200の加熱調理を短時間で仕上げることができる。
【0069】
またこのように、加熱調理器100においては、発熱体125は、加熱室110の側壁面112に沿って配置されている。
【0070】
発熱体125が加熱室110の側壁面112に沿って配置されていることによって、加熱室110の側壁面112が発熱体125によって加熱されるので、加熱室110の側壁面112から発する輻射熱によって加熱室110の内部を加熱することができる。このように、発熱体125によって発生した熱の一部は、加熱室110内にまで供給される。過熱水蒸気生成手段120の排気口122から流出して加熱室110内を層状になって流れる過熱水蒸気は、加熱室110の壁面から離れた位置には到達しにくいので加熱室110内の全体を均一に加熱しないが、加熱室110の側壁面112から発する輻射熱によって、加熱室110内の全体を加熱することができる。また、食品200において、層状の過熱水蒸気が接しにくい部分を輻射熱によって補完的に加熱することができるので、食品200の調理をより均一に、短時間で仕上げることができる。
【0071】
また、発熱体125から発する熱は、加熱室110の側壁面112を加熱し、加熱された側壁面112からの輻射熱によって加熱室110の内部を加熱することに用いられるので、発熱体125から発する熱が外気などを温めて熱が浪費されることを防ぐことができる。
【0072】
このようにすることにより、加熱室110内の全体を加熱することができる。また、外部への排熱を減少させることができる。
【0073】
またこのように、加熱調理器100においては、流路は、発熱体125に沿って扁平な形状を有する。
【0074】
流路が発熱体125に沿って扁平な形状を有することによって、流路を流通する水蒸気が発熱体125に近付きやすくなるので、水蒸気が効率よく加熱されて過熱水蒸気になる。
【0075】
このようにすることにより、過熱水蒸気の生成速度を上げることができるので、食品200の加熱効率と調理性能を向上させることができる。
【0076】
またこのように、加熱調理器100においては、発熱体125は、平面状に形成される面状発熱体125であり、送風手段127は、発熱体125の表面に平行な層状気流を送風するためのシロッコファンであり、層状気流は、排気口122から加熱室110の天井面111に沿った方向に吹き出される。
【0077】
このようにすることにより、流路を流通する水蒸気は、発熱体125を通過する前後で層状気流となっているので、発熱体125による発熱ムラが発生しにくく、均一な温度分布を有する層状気流を作り出すことができる。また、発熱体125が平面状に形成されるので、発熱体125を薄くすることができ、熱交換効率を高めることができる。
【0078】
またこのように、加熱調理器100は、水蒸気を発生させるための飽和水蒸気供給手段130を備え、送風手段127は、流路内において、飽和水蒸気供給手段130の下流側に配置され、かつ、発熱体125の上流側に配置されている。
【0079】
このようにすることにより、送風手段127は、発熱体125から発生する熱の影響を受けにくくなるので、加熱室110と発熱体125を含む加熱調理器100の中で、送風手段127を比較的低い温度環境で動作させることができ、送風手段127の耐熱温度を低く抑えることが可能になる。
【0080】
以上に開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】この発明の一つの実施の形態として、加熱調理器の概略的な全体の構成を示す正面図である。
【図2】この発明の一つの実施の形態として、加熱調理器の概略的な全体を示す斜視図である。
【図3】この発明の一つの実施形態として、過熱水蒸気生成手段と飽和水蒸気供給手段の構成を分解して示す分解斜視図である。
【図4】この発明の一つの実施形態として、過熱水蒸気生成手段と飽和水蒸気供給手段の構成を加熱室とともに分解して示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0082】
100:加熱調理器、110:加熱室、111:天井面、112,113:側壁面、120:過熱水蒸気生成手段、121:吸気口、122:排気口、125:発熱体、126:加熱コイル、127:送風手段、130:飽和水蒸気供給手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井面と側壁面とを有し、食品を加熱調理するための加熱室と、
水蒸気を加熱して過熱水蒸気にするための過熱水蒸気生成手段とを備え、
前記過熱水蒸気生成手段は、
水蒸気を流通させるための流路と、
前記流路と前記加熱室とを連通するための前記流路の入口と出口と、
前記入口から前記出口の方向に向かって水蒸気流を強制的に発生させるための送風手段と、
前記流路の内部に配置されて水蒸気を加熱するための加熱手段とを含み、
前記流路は、前記加熱室の外部に配置され、
前記過熱水蒸気生成手段の前記出口は、前記加熱室の前記天井面近傍に配置され、
過熱水蒸気は、前記過熱水蒸気生成手段の前記出口から前記加熱室の前記天井面の方向に向かって供給される、加熱調理器。
【請求項2】
前記加熱手段は発熱体であり、
前記流路の外に配置されて前記発熱体を誘導加熱するための加熱コイルを備える、請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項3】
前記加熱手段は、前記加熱室の側壁面に沿って配置されている、請求項1または請求項2に記載の加熱調理器。
【請求項4】
前記流路は、前記加熱手段に沿って扁平な形状を有する、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項5】
前記発熱体は、平面状に形成される面状発熱体であり、
前記送風手段は、前記発熱体の表面に平行な層状気流を送風するためのシロッコファンであり、
前記層状気流は、前記出口から前記加熱室の前記天井面に沿った方向に吹き出される、請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項6】
水蒸気を発生させるための水蒸気発生手段を備え、
前記送風手段は、前記流路内において、前記水蒸気発生手段の下流側に配置され、かつ、前記加熱手段の上流側に配置されている、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−74737(P2009−74737A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243599(P2007−243599)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】