説明

加飾シート及び加飾樹脂成形品

【課題】加飾成形前後における艶変化が少なく、耐傷付き性に優れる加飾シート及び加飾樹脂成形品を提供する。
【解決手段】基材層上に、少なくとも表面保護層を有し、該表面保護層が、ウレタンビーズ、シリコーンビーズ、ナイロンビーズ、及びアクリルビーズから選ばれる少なくとも1種の合成樹脂粒子と、電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とする加飾シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加飾成形前後における艶変化が少ない加飾シート及び前記特性を備える加飾樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
成形品の表面に加飾シートを積層した加飾樹脂成形品が、車両内装部品等の各種用途で使用されている。このような加飾樹脂成形品の成形方法としては、加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形しておき、該加飾シートを射出成形型に挿入し、流動状態の樹脂を型内に射出して樹脂と加飾シートとを一体化するインサート成形法、あるいは射出成形の際に金型内に挿入された加飾シートを、キャビティ内に射出注入された溶融樹脂と一体化させ、樹脂成形体表面に加飾を施す射出成形同時加飾法等が挙げられる。
【0003】
このような成形方法により得られる加飾樹脂成形品は、上記したように車両内装部品等の各種用途で使用されるため、三次元成形に十分追従しうる三次元成形性や、表面の耐傷付き性、耐薬品性といった表面特性に加え、近年の消費者の高級品志向により、高級感が求められるようになっている。加飾樹脂成形品に対して、模様の特定の部分に合わせて艶消し等の質感の付与、すなわち意匠性も重要な課題となってきている。
このような課題に対し、本出願人は、表面保護層に対してシリカを配合することにより、艶消し等の質感を付与した加飾シートを先に出願している(特許文献1段落0047参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−30277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載の加飾シートにおいては、加飾シートの表面と、当該加飾シートを用いて製造した加飾成形品の表面とを比較すると、加飾成形の前後において艶消し部分において艶変化がみられることがあった。
本発明は、このような状況下で、加飾成形前後における艶変化が少ない加飾シート及び加飾樹脂成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、基材層上に少なくとも表面保護層を有する加飾シートにおいて、表面保護層を、ウレタンビーズ、シリコーンビーズ、ナイロンビーズ、及びアクリルビーズから選ばれる少なくとも1種の合成樹脂粒子と電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物で形成することにより、加飾成形前後における艶変化を少なくできることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0007】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 基材層上に、少なくとも表面保護層を有し、
該表面保護層が、ウレタンビーズ、シリコーンビーズ、ナイロンビーズ、及びアクリルビーズから選ばれる少なくとも1種の合成樹脂粒子と電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とする加飾シート。
項2. 電離放射線硬化性樹脂がポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートである、項1に記載の加飾シート。
項3. 合成樹脂粒子の粒径が1〜25μmである、項1又は2に記載の加飾シート。
項4. 合成樹脂粒子の添加量が電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して1〜50質量部である、項1〜3のいずれかに記載の加飾シート。
項5. アクリルシリコーン(メタ)アクリレートの重量平均分子量が1,000〜150,000である、項2〜4のいずれかに記載の加飾シート。
項6. アクリルシリコーン(メタ)アクリレートの架橋点間平均分子量が100〜2,500である、項2〜5のいずれかに記載の加飾シート。
項7. 基材層と表面保護層の間に、表面保護層との相互作用により低光沢領域を発現する模様インキ層を有する、項1〜6のいずれかに記載の加飾シート。
項8. 少なくとも射出樹脂層、基材層、及び表面保護層を順に有し、
該表面保護層がウレタンビーズ、シリコーンビーズ、ナイロンビーズ、及びアクリルビーズから選ばれる少なくとも1種の合成樹脂粒子を含む電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とする加飾樹脂成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加飾成形前後における艶変化が少なく、艶消し等の質感を安定に表出させた意匠性を備える加飾シート及び加飾樹脂成形品を提供することができる。更に、本発明によれば、優れた耐傷付き性を備えており、車両内装部品等の傷つきやすい加飾樹脂製品に対しても、表面材として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の加飾シートの一態様の断面を示す模式図である。
【図2】本発明の加飾シートの一態様の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[加飾シート]
本発明の加飾シートは、基材層上に、少なくとも表面保護層を有し、該表面保護層が、ウレタンビーズ、シリコーンビーズ、ナイロンビーズ、及びアクリルビーズから選ばれる少なくとも1種の合成樹脂粒子と、電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とするものである。
前記本発明によれば、電離放射線硬化性樹脂組成物を硬化させてなる表面保護層に対して、艶消し剤として特定の合成樹脂粒子を配合するため、この合成樹脂粒子が有する弾力性により、射出成形前後での熱圧による艶変化を抑制することができ、更には耐傷付き性とをも備えさせることができる。また、本発明の加飾シートにおいて、表面保護層との相互作用により低光沢領域を発現する模様インキ層を表面保護層と接面する下面(基材層側)に設ける場合には、この模様インキ層と表面保護相中の合成樹脂粒子との相乗効果により、射出成形前後での熱圧による艶変化を抑えつつ、より一層低艶とすることができる。
【0011】
本発明において用いることができる合成樹脂粒子としては、ウレタンビーズ、シリコーンビーズ、ナイロンビーズ、及びアクリルビーズを挙げることができ、これらの中では、ウレタンビーズ、シリコーンビーズ、及びアクリルビーズがより好ましく、ウレタンビーズが更に好ましい。このように特定の合成樹脂粒子を選択して、これを電離放射線硬化性樹脂を含む表面保護層に配合することによって、加飾成形前後における艶変化を少なくすることが可能になる。更に、このような特定の組み合わせを選択することにより優れた耐傷付き性を備えさせることも可能になる。
これらの合成樹脂粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明に用いる合成樹脂粒子の平均粒径は、艶消しによる意匠性を効果的に向上させる観点から、1〜25μmが好ましく、1〜10μmがより好ましく、1〜5μmが更に好ましい。
なお、本発明における合成樹脂粒子の平均粒径は、島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD-2100-WJA1を使用し、圧縮空気を利用してノズルから測定対象となる粉体を噴射し、空気中に分散させて測定する噴射型乾式測定方式によるものを指す。
【0012】
また、合成樹脂粒子の比重は、表面保護層の表層に合成樹脂粒子を存在させる観点、及び十分な弾力性を確保する観点から、0.7〜1.5g/cm3が好ましく、0.8〜1.3g/cm3がより好ましく、0.85〜1.2g/cm3が更に好ましい。
このような合成樹脂粒子の配合量は、艶消しを効果的に行うと共に、三次元成形性、意匠性を向上させる観点から、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、5〜45質量部がより好ましく、5〜40質量部が更に好ましい。
【0013】
本発明において、前記合成樹脂粒子は表面保護層の表面から粒子の一部が突出していてもよく、表面保護層の内部に埋没していてもよい。ただし、粒子の一部が表面保護層から突出している場合、艶消し効果が向上する。
【0014】
本発明の加飾シートの構成について図1及び2を用いて詳細に説明する。
図1及び2は本発明の加飾シートの一態様の断面を示す模式図である。図1の示す例では、基材層上に絵柄層、プライマー層、表面保護層を順に有している。図2の示す例では、基材層上に絵柄層、プライマー層、模様インキ層、表面保護層を順に有している。ここで、表面保護層は電離放射線硬化性樹脂組成物を硬化して形成されるものである。
【0015】
≪基材層≫
基材層は、三次元成形性や射出樹脂との相性等考慮して選定され、代表的には熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムが好ましく使用される。該熱可塑性樹脂としては、一般的には、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(以下「ABS樹脂」という)、アクリロニトリル/スチレン/アクリル酸エステル樹脂(以下「ASA樹脂」という)、アクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)等が好ましく使用される。なかでも、ABS樹脂が三次元成形性の観点から好ましい。また、基材層は、これら樹脂の単層シート、あるいは同種又は異種樹脂による複層シートとして使用することができる。
【0016】
基材層は、25℃における曲げ弾性率500〜4,000MPaが好ましく、750〜3,000MPaがより好ましい。ここで、曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定された値である。曲げ弾性率が500MPa以上であると、加飾シートは十分な剛性を有することとなり、優れた表面特性と成形性が得られる。また、3,000MPa以下であると、ロール トゥ ロールで製造する場合に十分な張力をかけることができ、たるみが発生しにくくなるため、絵柄がずれることなく重ねて印刷することができる、すなわち絵柄見当が良好となる。
【0017】
基材層の厚さは、用途に応じて適宜選択されるが、通常50〜1000μm程度であり、100〜700μmがより好ましく、100〜500μmが更に好ましい。基材層の厚さが上記範囲内であると、優れた表面物性、三次元成形性及び意匠性に加えて、印刷作業性(生産性)も得られ、コストの観点からも有利である。
【0018】
基材層は、その上に設けられる層との密着性を向上させるために、所望により、片面又は両面に酸化法や凹凸化法等の物理的又は化学的表面処理を施すことができる。
上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン紫外線処理法等が挙げられ、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理は、基材の種類に応じて適宜選択されるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性等の面から好ましく用いられる。
また該基材層は接着層を形成する等の処理を施してもよい。
【0019】
基材層は、上記した色彩を整える、あるいはデザイン的な観点等から、いずれも着色剤により着色されていてもよく、着色されていなくてもよく、無色透明、着色透明、及び半透明のいずれの態様であってもよい。基材に用いられる着色剤としては特に限定されないが、150℃以上の高温下にあっても変色しない着色剤が好ましく、既存のドライカラー、ペーストカラー、マスターバッチ樹脂組成物等を用いればよい。
【0020】
≪絵柄層≫
絵柄層は加飾樹脂成形品に装飾性を与えるものであり、必要に応じて基材層上に設けられる。後述するプライマー層を設ける場合には、基材層とプライマー層の間に絵柄層を設ければよい。絵柄層は、種々の模様のインキを、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写による印刷、インクジェット印刷等の通常の印刷方法により形成される。模様としては、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様等があり、これらを複合した寄木、パッチワーク等の模様もある。これらの模様は通常の黄色、赤色、青色、及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成される他、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成される。
【0021】
絵柄層に用いるインキ組成物としては、バインダーに顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を適宜混合したものが使用される。該バインダーとしては特に制限はなく、例えば、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/アクリル共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂等を挙げることができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
着色剤としては、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料又は染料、アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料等が用いられる。
【0022】
絵柄層の厚さは、特に制限されないが、例えば1〜20μm、好ましくは1〜10μmが挙げられる。
【0023】
≪プライマー層≫
本発明の加飾シートは、表面保護層の延伸部に微細な割れや白化を生じにくくするため、必要に応じて、絵柄層と表面保護層との間にプライマー層を好ましく有することができる。
プライマー層の厚さは0.1μm以上であることが好ましい。0.1μm以上であると、表面保護層の割れ、破断、白化等を防ぐ効果を有する。一方、プライマー層の厚さが10μm以下であれば、プライマー層を塗布した際、塗膜の乾燥、硬化が安定であるので三次元成形性が変動することがなく好ましい。この観点からプライマー層の厚さは1〜10μmであることが好ましい。
【0024】
また、プライマー層は、下記測定条件で測定した120℃における破断伸度が150%以上であることが好ましく、200%以上であることが更に好ましい。破断伸度が150%以上であると、真空成形時において表面保護層の延伸部に微細な割れや白化が生じにくい。
(破断伸度測定の測定条件)
JIS K 7127:1999に準拠し、プライマー層を構成するプライマー組成物を架橋硬化(50℃72時間加熱)して製膜した幅25mm×長さ(チャック間距離)50mm×厚さ40±10μmのサンプルを120℃のオーブン投入後、120秒放置した後、引張速度:50mm/minで破断伸度を測定する。
【0025】
プライマー層を構成するプライマー組成物としては、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル/ウレタン共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン等をバインダー樹脂とするものが好ましく用いられ、これらの樹脂は一種又は二種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、及び(メタ)アクリル/ウレタン共重合体樹脂が好ましい。
【0026】
ウレタン樹脂としては、ポリオール(多価アルコール)を主剤とし、イソシアネートを架橋剤(硬化剤)とするポリウレタンを使用できる。ポリオールとしては、分子中に2個以上の水酸基を有するもので、例えばポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール等が使用される。前記イソシアネートとしては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、或いはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂肪族(又は脂環族)イソシアネートが用いられる。また、ウレタン樹脂とブチラール樹脂を混ぜて構成することも可能である。
架橋後の表面保護層との密着性、表面保護層を積層後の相互作用の生じにくさ、物性、成形性の面から、ポリオールとしてアクリルポリオール、又はポリエステルポリオールと、架橋材としてヘキサメチレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートとから組み合わせることが好ましく、特にアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとを組み合わせて用いることが好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種以上の異なる(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体、又は(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマーとの共重合体が挙げられ、具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル/(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸エチル/(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸メチル共重合体等の(メタ)アクリル酸エステルを含む単独又は共重合体からなる(メタ)アクリル樹脂が好適に用いられる。
【0028】
(メタ)アクリル/ウレタン共重合体樹脂としては、例えばアクリル/ウレタン(ポリエステルウレタン)ブロック共重合系樹脂が好ましい。硬化剤としては、上記の各種イソシアネートが用いられる。アクリル−ウレタン(ポリエステルウレタン)ブロック共重合系樹脂は所望により、アクリル/ウレタン比(質量比)を好ましくは9/1〜1/9、より好ましくは8/2〜2/8の範囲で調整することが好ましい。
【0029】
<無機粒子、合成樹脂粒子>
プライマー層は、意匠性を向上させる観点から、無機粒子及び/又は合成樹脂粒子を含むことが好ましい。プライマー層に無機粒子及び/又は合成樹脂粒子を含有させることにより、表面の艶消し性効果、及び耐傷付き性を格段に向上させることが可能になる。また、無機粒子及び/又は合成樹脂粒子によってプライマー層の表面に凹凸を形成させた場合には、接面する他の層との密着性を更に向上させることもできる。
無機粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、これらの疎水処理物等が好ましく挙げられる。これらの無機粒子は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、合成樹脂粒子としては、アクリルビーズ、ウレタンビーズ、ナイロンビーズ、シリコーンビーズ、シリコーンゴムビーズ、ポリカーボネートビーズ、ポリオレフィンワックス(ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、これらの混合物等)等が好ましく挙げられる。これらの合成樹脂粒子は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
プライマー層には、無機粒子及び合成樹脂粒子のいずれか一方を含有させてもよく、またこれらを組み合わせて含有させてもよい。
無機粒子及び合成樹脂粒子の平均粒径は、意匠性向上の観点から、0.1〜5μmが好ましく、1〜5μmがより好ましく、2〜5μmが更に好ましい。ここで、無機粒子及び合成樹脂粒子の平均粒径は、島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD-2100-WJA1を使用し、圧縮空気を利用してノズルから測定対象となる粉体を噴射し、空気中に分散させて測定する噴射型乾式測定方式により測定される値である。
プライマー層に無機粒子を含有させる場合、無機粒子の含有量については、特に制限されないが、プライマー層中の樹脂100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましい。また、プライマー層に合成樹脂粒子を含有させる場合、無機粒子の含有量については、特に制限されないが、プライマー層中の樹脂100質量部に対して5〜70質量部が好ましく、20〜50質量部がより好ましい。
【0030】
プライマー層は、プライマー組成物を用いて、グラビアコート、グラビアリバースコート、グラビアオフセットコート、スピンナーコート、ロールコート、リバースロールコート、キスコート、ホイラーコート、ディップコート、シルクスクリーンによるベタコート、ワイヤーバーコート、フローコート、コンマコート、かけ流しコート、刷毛塗り、スプレーコート等の通常の塗布方法や転写コーティング法により形成される。ここで、転写コーティング法は、薄いシート(フィルム基材)にプライマー層や接着層の塗膜を形成し、その後に加飾シート中の対象となる層表面に被覆する方法である。
【0031】
≪模様インキ層≫
模様インキ層は、表面の凹凸模様を良好に表出させて低艶感を強調する目的で、プライマー層と表面保護層の間に、必要に応じて設けられる層である。
模様インキ層とは、表面保護層との相互作用により低光沢領域を発現する層である。即ち、模様インキ層は、当該模様インキ層を形成する樹脂組成物と、該模様インキ層上に設けられる表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂との間で生じる溶出、分散、混合等の相互作用により当該模様インキ層の直上部又は直上部を含むその近傍(以下単に「直上部及びその近傍」と称することがある)において低艶を呈する低光沢領域を形成させる層である。なお、この相互作用は必然的に生じるものであって、前記近傍の範囲を制御することはできない。また、当該模様インキ層は、電離放射線硬化性樹脂組成物との相互作用により低艶を発現するものであり、模様インキ層単独でのグロス値が高くても、当該模様インキ層と表面保護層の相互作用によって加飾シートに低艶感がある意匠性を表出させることができる。
【0032】
前記の通り、模様インキ層は、その直上部及びその近傍において低光沢領域を形成する(図2参照)。従って、表面保護層側から加飾シートを見ると、相対的に低光沢領域が発現した部分が視覚的に凹部として認識されるようになり、その他の領域は視覚的に凸部として認識されるようになるため、全体として視覚的に凹凸模様として認識される。よって、前記模様インキ層を形成した直上部及びその近傍に対応する表面保護層の最表面においては、模様インキ層に起因した凸形状を設けなくても凹凸の視覚的効果が得られる。ただし、前記凹凸の視覚的効果が得られる部分に物理的な凹凸形状を形成しておいてもよい。模様インキ層の周りに凸形状を形成した場合には、この凸形状により光散乱される表面積が増加して光沢度がより一層低下し、かつ低艶が認識できる視野角も広がるため、模様インキ層の効果と協調してさらに視覚的な凹凸感が強調される。なお、前記凹凸形状を設ける場合の凸形状の高さについては、特に制限されないが、通常2〜3μmが挙げられる。当該模様インキ層の意匠は、絵柄模様に形成していてもよいし、一様均一な模様、即ちベタ模様であってもよい。
【0033】
模様インキ層に使用されるインキは、表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂との間で相互作用を発現し得る性質を有するバインダー樹脂であることを要し、前記相互作用を発現する模様インキ層は、後述する熱可塑性樹脂を使用しつつ、模様インキ層を形成する際に当該熱可塑性樹脂にイソシアネート等の架橋剤を添加せずに塗布し、乾燥させることで形成することができる。
【0034】
模様インキ層に使用することができる熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、硝化綿等のニトロセルロース樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール樹脂等が好ましく挙げられる。これらの中でも、後述する表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂組成物の電離放射線硬化性樹脂として採用されるポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートとの相性、すなわち白化等が生じにくい観点から、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿等のニトロセルロース樹脂が好ましく、とりわけアクリル樹脂が好ましい。
アクリル樹脂としては、重量平均分子量が10,000〜1,000,000のものが好ましく、50,000〜700,000のものがより好ましく、70,000〜500,000のものがさらに好ましい。重量平均分子量が10,000以上であると、チクソ性が低くなることにより模様インキ層の凹凸感が発現しにくくなるということがない。一方、1,000,000以下であると、模様インキのインキ化が困難となることがなく、また印刷時に被膜が形成しにくく転移不良となることがないので好ましい。
なお、必要に応じて、低光沢領域の発現の程度、低艶層とその周囲との艶差のコントラストを調整するため、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又は塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体等を混合することができる。
【0035】
模様インキ層を形成するインキの塗布膜厚については、0.1〜10μmの範囲であることが好ましい。0.1μm以上であると、上述したインキの電離放射線硬化性樹脂組成物との相互作用が十分であり、化粧材表面の十分な艶差が得られる。一方10μm以下であると、模様インキの印刷に際して機械的制約がなく、また経済的にも有利である。以上の観点から、模様インキの塗布量は更に0.6〜7μmの範囲であることが好ましい。
なお、本発明においては、必要に応じてシリカ等の多孔質粒子を添加してもよい。模様インキ層にシリカ等の多孔質粒子を添加することにより、模様インキ層の直上部及びその近傍において、より大きな凹凸が形成されて光が大きく散乱するようになるため、低光沢領域の低艶化がより一層促進される。模様インキ層に用いるシリカは、吸油量が180〜220ml/100g、平均粒径1〜8μmであるものが好ましい。なお、シリカの平均粒径は、島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD-2100-WJA1を使用し、圧縮空気を利用してノズルから測定対象となる粉体を噴射し、空気中に分散させて測定する噴射型乾式測定方式により測定される値である。
【0036】
≪表面保護層≫
本発明における表面保護層は、前記特定の合成樹脂粒子及び電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物を硬化して得られる層である。
表面保護層において、特定の合成樹脂粒子と電離放射線硬化性樹脂との組み合わせを採用することによって、本発明の加飾シートに加飾成形前後における艶変化を少なくすることができ、更には優れた耐傷付き性を備えさせることが可能になる。
【0037】
<電離放射線硬化性樹脂組成物>
電離放射線硬化性樹脂組成物とは、電離放射線硬化性樹脂を含む組成物をいう。電離放射線硬化性樹脂とは、電離放射線を照射することにより、架橋、硬化する樹脂を指す。なお、ここで電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋しうるエネルギー量子を有するものを意味し、通常紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も含むものである。電離放射線硬化性樹脂の中でも、電子線硬化性樹脂は、無溶剤化が可能であり、光重合用開始剤を必要とせず、安定な硬化特性が得られるため、表面保護層の形成において好適に使用される。
【0038】
表面保護層の形成に使用される電離放射線硬化性樹脂として、具体的には、分子中に重合性不飽和結合又はエポキシ基を有するプレポリマー、オリゴマー、及び/又はモノマーを適宜混合したものが挙げられる。
【0039】
電離放射線硬化性樹脂として使用される上記モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレートモノマーが好適であり、中でも多官能性(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内に重合性不飽和結合を2個以上(2官能以上)、好ましくは3個以上(3官能以上)有する(メタ)アクリレートモノマーであればよい。多官能性(メタ)アクリレートとして、具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
また、電離放射線硬化性樹脂として使用される上記オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレートオリゴマーが好適であり、中でも分子内に重合性不飽和結合を2個以上(2官能以上)有する多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、アクリルシリコーン(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマー(例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等)等が挙げられる。ここで、ポリカーボネート(メタ)アクリレートは、例えば、ポリカーボネートポリオールを(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。アクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、シリコーンマクロモノマーを(メタ)アクリレートモノマーとラジカル共重合させることにより得ることができる。ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。エポキシ(メタ)アクリレートは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ(メタ)アクリレートを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシ(メタ)アクリレートも用いることができる。ポリエステル(メタ)アクリレートは、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、或いは多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリエーテル(メタ)アクリレートは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリブタジエン(メタ)アクリレートは、ポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリル酸を付加することにより得ることができる。シリコーン(メタ)アクリレートとは、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーンの末端又は側鎖に(メタ)(メタ)アクリル酸を付加することにより得ることができる。これらのオリゴマーは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味し、他の類似するものも同様の意である。
【0041】
これらの硬化性樹脂は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
これらの硬化性樹脂の中でも、加飾成形前後における艶変化を少なくする効果と耐傷付き性をより一層高めるという観点から、好ましくはポリカーボネート(メタ)アクリレート、アクリルシリコーン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0043】
ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートを表面保護層の形成に使用する場合、電離放射線硬化性樹脂としてこれらを単独で使用してもよく、またポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートと他の電離放射線硬化性樹脂を組み合わせ含むものであってもよい。ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートと他の電離放射線硬化性樹脂を併用する場合、その組み合わせ態様については、特に制限されないが、加飾成形前後における艶変化を少なくする効果と耐傷付き性をより一層高めるという観点から、好ましくは、ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートの組み合わせが挙げられる。
【0044】
ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートと併用される多官能(メタ)アクリレートとしては、前述する多官能(メタ)アクリレートモノマー及びオリゴマーのいずれか一方でも、またこれらの双方でもよいが、好ましくは多官能(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。とりわけ、好ましくは多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、更に好ましくは3官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、特に好ましくは3〜8官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。
【0045】
また、ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートと併用される多官能(メタ)アクリレートオリゴマーの分子量については、特に制限されないが、例えば、重量平均分子量が1,000〜20,000、好ましくは1,000〜10,000が挙げられる。
【0046】
また、ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートを組み合わせる場合、これらの比率としては、例えば、ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレート:多官能(メタ)アクリレートの質量比が98:2〜60:40であることが好ましい。該質量比が98:2よりも小さければ(即ち、ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートの量が98質量%以下であると)、耐傷付き性が低下することがない。一方、ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートの質量比が60:40より大きくなると(即ち、ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートの量が60質量%以上となると)、三次元成形性が低下することがない。好ましくは、ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートの質量比が95:5〜65:35が挙げられる。
【0047】
以下、表面保護層の形成において、電離放射線硬化性樹脂として好適に使用されるポリカーボネートメタアクリレート及びアクリルシリコーン(メタ)アクリレートについて説明する。
【0048】
〔ポリカーボネート(メタ)アクリレート〕
本発明に用いられるポリカーボネート(メタ)アクリレートは、ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、かつ末端あるいは側鎖に(メタ)アクリレートを有するものであれば特に限定されない。また、この(メタ)アクリレートは、架橋、硬化する観点から、2官能以上、好ましくは2〜6個が挙げられる。
【0049】
このポリカーボネート(メタ)アクリレートは、例えば、ポリカーボネートポリオールの水酸基の一部又は全てを(メタ)アクリレート(アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル)に変換して得られる。このエステル化反応は、通常のエステル化反応によって行うことができる。例えば、1)ポリカーボネートポリオールとアクリル酸ハライド又はメタクリル酸ハライドとを、塩基存在下に縮合させる方法、2)ポリカーボネートポリオールとアクリル酸無水物又はメタクリル酸無水物とを、触媒存在下に縮合させる方法、あるいは、3)ポリカーボネートポリオールとアクリル酸又はメタクリル酸とを、酸触媒存在下に縮合させる方法等が挙げられる。
【0050】
上記のポリカーボネートポリオールは、ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、末端あるいは側鎖に2個以上、好ましくは2〜50個、より好ましくは3〜50個の水酸基を有する重合体である。このポリカーボネートポリオールの代表的な製造方法は、ジオール化合物(A)、3価以上の多価アルコール(B)、及びカルボニル成分となる化合物(C)とから重縮合反応による方法である。
原料として用いられるジオール化合物(A)は、一般式HO−R1−OHで表される。ここで、R1は、炭素数2〜20の2価炭化水素基であって、基中にエーテル結合を含んでいても良い。例えば、直鎖、又は分岐状のアルキレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基である。
【0051】
ジオール化合物の具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらのジオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
また、3価以上の多価アルコール(B)の例としては、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール等のアルコール類を挙げることができる。更に、これらの多価アルコールの水酸基に対して、1〜5当量のエチレンオキシド、プロピレンオキシド、あるいはその他のアルキレンオキシドを付加させた水酸基を有するアルコール類であっても良い。これらの多価アルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
カルボニル成分となる化合物(C)は、炭酸ジエステル、ホスゲン、又はこれらの等価体の中から選ばれるいずれかの化合物である。その具体例としては、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジフェニル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸ジエステル類、ホスゲン、あるいはクロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、クロロギ酸フェニル等のハロゲン化ギ酸エステル類等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
ポリカーボネートポリオールは、前記したジオール化合物(A)、3価以上の多価アルコール(B)、及びカルボニル成分となる化合物(C)とを、一般的な条件下で重縮合反応することにより合成される。例えば、ジオール化合物(A)と多価アルコール(B)との仕込みモル比は、50:50〜99:1の範囲にあることが好ましく、また、ジオール化合物(A)と多価アルコール(B)とに対する、カルボニル成分となる化合物(C)の仕込みモル比は、ジオール化合物及び多価アルコールの持つ水酸基に対して、0.2〜2当量であることが好ましい。
【0055】
前記の仕込み割合で重縮合反応した後のポリカーボネートポリオール中に存在する水酸基の当量数(eq./mol)は、1分子中に平均して3以上、好ましくは3〜50、より好ましくは3〜20である。この範囲であると、後述するエステル化反応によって必要な量の(メタ)アクリレート基が形成され、またポリカーボネート(メタ)アクリレート樹脂に適度な可撓性が付与される。なお、このポリカーボネートポリオールの末端官能基は、通常はOH基であるが、その一部がカーボネート基であってもよい。
以上説明したポリカーボネートポリオールの製造方法は、例えば、特開昭64−1726号公報に記載されている。また、このポリカーボネートポリオールは、特開平3−181517号公報に記載されているように、ポリカーボネートジオールと3価以上の多価アルコールとのエステル交換反応によっても製造することができる。
【0056】
本発明に用いられるポリカーボネート(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、500以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましく、2,000を超えることが更に好ましい。ポリカーボネート(メタ)アクリレートの重量平均分子量の上限は特に制限されないが、粘度が高くなり過ぎないように制御する観点から100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましい。耐傷付き性と三次元成形性とを両立させる観点から、更に好ましくは、2,000を超え50,000以下であり、特に好ましくは、5,000〜20,000である。
なお、本明細書におけるポリカーボネート(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した値である。
【0057】
〔アクリルシリコーン(メタ)アクリレート〕
本発明に用いられるアクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、特に限定されず、1分子中に、アクリル樹脂の構造の一部がシロキサン結合(Si−O)に置換しており、かつ官能基としてアクリル樹脂の側鎖及び/又は主鎖末端に(メタ)アクリロイルオキシ基(アクリロイルオキシ基又はメタアクリロイルオキシ基)を2個以上、好ましくは3〜8個有しているものであればよい。このアクリルシリコーン(メタ)アクリレートの例としては、例えば、特開2007−070544号公報に開示されるような側鎖にシロキサン結合を有するアクリル樹脂の構造が好ましく挙げられる。
【0058】
本発明に用いられるアクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、例えばラジカル重合開始剤の存在下、シリコーンマクロモノマーを(メタ)アクリレートモノマーとラジカル共重合させることにより合成することができる。
(メタ)アクリレートモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら(メタ)アクリレートモノマーは1種を単独で又は2種を組み合わせて用いられる。
【0059】
シリコーンマクロモノマーは、例えば、n−ブチルリチウム又はリチウムシラノレートを重合開始剤として、ヘキサアルキルシクロトリシロキサンをリビングアニオン重合し、更にラジカル重合性不飽和基含有シランでキャッピングして合成される。シリコーンマクロモノマーとしては、下記式(1);
【0060】
【化1】

で表される化合物が好適に用いられる。ここで、式(1)中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基を示し、メチル基又はn−ブチル基が好ましい。R2は、1価の有機基を示し、−CH=CH2、−C64−CH=CH2、−(CH23O(CO)CH=CH2又は−(CH23O(CO)C(CH3)=CH2が好ましい。R3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜6の炭化水素基を示し、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、nの数値は特に制限されず、例えばシリコーンマクロモノマーの数平均分子量が1,000〜30,000が好ましく、1,000〜20,000がより好ましい。
【0061】
上述の原料を用いて得られるアクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、例えば、下記式(2)、(3)及び(4)で表される構造単位を有する。
【0062】
【化2】

式(2)、(3)及び(4)中、R1、R3は式(1)におけるものと同義であり、R4は水素原子又はメチル基を示し、R5は上記(メタ)アクリレートモノマー中のアルキル基又はグリシジル基あるいは上記(メタ)アクリレートモノマー中のアルキル基又はグリシジル基等の官能基を有していてもよいアルキル基を示し、R6は(メタ)アクリロイルオキシ基を有する有機基を示す。
上述のアクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、1種を単独で又は2種を組み合わせて用いられる。
【0063】
上記のアクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、GPC分析による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましい。アクリルシリコーン(メタ)アクリレートの重量平均分子量の上限は特に制限されないが、粘度が高くなり過ぎないように制御する観点から150,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましい。三次元成形性と耐薬品性と耐傷付き性とを向上させる観点から、2,000〜100,000であることが特に好ましい。
【0064】
また、アクリルシリコーン(メタ)アクリレートの架橋点間平均分子量は、100〜2,500であることが好ましい。架橋点間平均分子量が100以上であれば、三次元成形性の観点から好ましく、2,500以下であれば、耐薬品性及び耐傷付き性の観点から好ましい。アクリルシリコーン(メタ)アクリレートの架橋点間平均分子量は、同様の観点から、より好ましくは100〜1,500、更に好ましくは100〜1,000である。
電離放射線硬化性樹脂組成物において、ポリカーボネート(メタ)アクリレートとアクリルシリコーン(メタ)アクリレートは各々単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
(他の添加成分)
電離放射線硬化性樹脂組成物として紫外線硬化性樹脂組成物を用いる場合には、光重合用開始剤を紫外線硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加することが望ましい。光重合用開始剤としては、従来慣用されているものから適宜選択することができ、特に限定されない。
【0066】
また、表面保護層を構成する電離放射線硬化性樹脂組成物には、得られる表面保護層の所望物性に応じて、各種添加剤を配合することができる。この添加剤としては、例えば紫外線吸収剤や光安定剤等の耐候性改善剤や、耐摩耗性向上剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、接着性向上剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤、着色剤、艶消し剤等が挙げられる。これらの添加剤は、常用されるものから適宜選択して用いることができる。
また、紫外線吸収剤や光安定剤として、分子内に(メタ)アクリロイル基等の重合性基を有する反応性の紫外線吸収剤や光安定剤を用いることもできる。また、表面保護層としての性能(耐傷付き性と三次元成形性)を損なわない程度に共重合して使用することもできる。
【0067】
(表面保護層の形成)
表面保護層の形成は上述の電離放射線硬化性樹脂組成物と合成樹脂粒子とを含有する塗布液を調製し、これを塗布し、架橋硬化することで得ることができる。なお、塗布液の粘度は、後述の塗布方式により、基材の表面に未硬化樹脂層を形成し得る粘度であれば良く、特に制限はない。
本発明においては、調製された塗布液を、前記の塗布量となるよう基材層、絵柄層、又はプライマー層の上に、グラビアコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコート等の公知の方式、好ましくはグラビアコートにより塗布し、未硬化樹脂層を形成させる。
【0068】
本発明においては、このようにして形成された未硬化樹脂層に、電子線、紫外線等の電離放射線を照射して該未硬化樹脂層を硬化させて表面保護層を形成する。ここで、電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度で未硬化樹脂層を硬化させることが好ましい。
なお、電子線の照射においては、加速電圧が高いほど透過能力が増加するため、基材層として電子線により劣化する基材を使用する場合には、電子線の透過深さと樹脂層の厚みが実質的に等しくなるように、加速電圧を選定することにより、基材層への余分の電子線の照射を抑制することができ、過剰電子線による基材の劣化を最小限にとどめることができる。
また、照射線量は、樹脂層の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。
更に、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用いることができる。
【0069】
電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを放射する。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈等が用いられる。
【0070】
このようにして、形成された表面保護層には、各種の添加剤を添加して各種の機能、例えば、高硬度で耐傷付き性を有する、いわゆるハードコート機能、防曇コート機能、防汚コート機能、防眩コート機能、反射防止コート機能、紫外線遮蔽コート機能、赤外線遮蔽コート機能等を付与することもできる。
【0071】
本発明においては、表面保護層の硬化後の厚さが1〜1000μmであることが好ましい。表面保護層の硬化後の厚さが1μm以上であれば、耐傷付き性、耐候性等の保護層としての十分な物性が得られる。一方、表面保護層の硬化後の厚さが1000μm以下であれば、電離放射線を均一に照射することが可能であるため、均一に硬化することが可能となり、経済的にも有利となる。
この表面保護層の硬化後の厚さは1〜50μmがより好ましく、1〜30μmが更に好ましい。厚さが前記範囲内であれば、三次元成形性が向上するため自動車内装用途等の複雑な3次元形状に対して高い追従性を得ることができる。したがって、本発明の加飾シートにおいては、優れた三次元成形性を発現させつつ塗膜を硬くすることができるため、加工や実用面に優れた耐傷付き性を付与することができる。
前記のとおり、本発明の加飾シートは表面保護層の厚さを従来のものより厚くしても、十分に高い三次元成形性が得られることから、特に表面保護層に高い膜厚を要求される部材、例えば車両外装部品等の加飾シートとしても有用である。
【0072】
本発明においては、図1及び2に示すような単層仕様の加飾シートであってもよく、また、複層仕様の加飾シートであってもよい。複層仕様の加飾シートとしては、例えば、基材層上に、隠蔽層、絵柄層、透明樹脂層、プライマー層、表面保護層を順に設けたものを挙げることができる。加飾シートを複層仕様とする場合においても、単層仕様の場合と同様の材料にて各層を構成することができる。一方、隠蔽層、透明樹脂層については、以下の材料を用いることが好ましい。
【0073】
≪隠蔽層≫
隠蔽層は、通常不透明色で形成することが多く、その厚さは1〜20μm程度の、いわゆるベタ印刷層が好適に用いられる。隠蔽層を形成するインキ組成物は、上記した絵柄層に用いられるものから適宜選択して採用することができる。隠蔽層を設けることにより、基材層表面の色の変化、ばらつきによる影響を抑制することができる。
隠蔽層は、通常、厚さが1〜20μm程度に設定され、所謂ベタ印刷層として形成されることが望ましい。
隠蔽層はグラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写による印刷、インクジェット印刷等の通常の印刷方法やグラビアコート、グラビアリバースコート、グラビアオフセットコート、スピンナーコート、ロールコート、リバースロールコート等の通常の塗布方法により形成される。
【0074】
≪透明樹脂層≫
透明樹脂層を形成する樹脂フィルムは、透明性、三次元成形性、形状安定性、耐薬品性等を考慮して適宜決定されるが、熱可塑性樹脂のフィルムが好ましい。熱可塑性樹脂としては、一般的には、アクリル樹脂、ポリプロピレン,ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(以下「ABS樹脂」という)、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂等が使用される。これらの中でも、耐傷付き性、耐薬品性の観点から、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリエステル樹脂が好ましく、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂がより好ましく、ポリエステル樹脂が更に好ましい。
【0075】
透明樹脂層は、その上に設けられる層との密着性を向上させるために、所望により、片面又は両面に酸化法や凹凸化法等の物理的又は化学的表面処理を施すことができる。これらの物理的又は化学的表面処理は、基材層で行いうる処理と同様である。
透明樹脂層の厚さは、特に限定されるわけではないが、コスト、三次元成形性、形状安定性等を考慮すると、10〜200μmが好ましく、15〜150μmがより好ましい。
【0076】
透明樹脂層は、接着剤を介して積層させてもよく、また接着剤を介さず直接積層させてもよい。接着剤を介して積層させる場合、使用される接着剤としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、アミノ樹脂、ゴム、シリコン系樹脂等が挙げられる。また、接着剤を介さず積層させる場合には、押出し法、サンドラミ法、サーマルラミネート法等の方法で行うことができる。
【0077】
なお、本発明においては、射出樹脂との密着性を向上させるため、所望により、加飾シートの裏面(表面保護層とは反対側の面)に接着剤層を設けることができる。
≪接着剤層≫
接着剤層には、射出樹脂に応じて、熱可塑性樹脂又は硬化性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、アクリル変性ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、熱硬化性樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0078】
[加飾樹脂成形品]
本発明の加飾樹脂成形品は、少なくとも射出樹脂層、基材層、及び表面保護層を順に有し、該表面保護層が合成樹脂粒子を含む電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とするものである。より具体的には、本発明の加飾樹脂成形品は、本発明の加飾シートを用いて、インサート成形法、射出成形同時加飾法、ブロー成形法、ガスインジェクション成形法等の各種射出成形法、好ましくはインサート成形法及び射出成形同時加飾法により作製することが好ましい。
なお、本発明の加飾樹脂成形品においては、例えば射出樹脂層と基材層との間に、必要に応じて前述の接着剤層を設けてもよい。
【0079】
インサート成形法では、真空成形工程において、本発明の加飾シートを真空成形型により予め成形品表面形状に真空成形(オフライン予備成形)し、次いで必要に応じて余分な部分をトリミングして成形シートを得る。この成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を型締めし、流動状態の樹脂を型内に射出し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートを一体化させ、加飾樹脂成形品を製造する。
【0080】
より具体的には、下記の工程を含むインサート成形法によって、本発明の加飾樹脂成形品が製造される。
本発明の加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形する真空成形工程、
真空成形された加飾シートの余分な部分をトリミングして成形シートを得る工程、及び
前記工程で得られた成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を閉じ、流動状態の樹脂を型内に射出して樹脂と成形シートを一体化する工程。
【0081】
本発明における射出樹脂層においては、用途に応じた樹脂を使用すればよく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂が代表的である。また、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等も用途に応じ用いることができる。
【0082】
次に、射出成形同時加飾法においては、本発明の加飾シートを射出成形の吸引孔が設けられた真空成形型との兼用雌型に配置し、この雌型で予備成形(インライン予備成形)を行った後、射出成形型を型締めして、流動状態の樹脂を型内に射出充填し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートを一体化させ、加飾樹脂成形品を製造する。
【0083】
より具体的には、下記の工程を含む射出成形同時加飾法によって、本発明の加飾樹脂成形品が製造される。
本発明の加飾シートを、所定形状の成形面を有する可動金型の当該成形面に対し、前記加飾シートの基材が対面するように設置した後、当該加飾シートを加熱、軟化させると共に、前記可動金型側から真空吸引して、軟化した加飾シートを当該可動金型の成形面に沿って密着させることにより、加飾シートを予備成形する工程、
成形面に沿って密着された加飾シートを有する可動金型と固定金型とを型締めした後、両金型で形成されるキャビティ内に、流動状態の樹脂成形材料を射出、充填して固化させることにより、形成された樹脂成形体と加飾シートを積層一体化させる射出成形工程、及び
可動金型を固定金型から離間させて、加飾シート全層が積層されてなる樹脂成形体を取り出す工程。
【0084】
なお、射出成形同時加飾法では、射出樹脂による熱圧を加飾シートが受けるため、平板に近く、加飾シートの絞りが小さい場合には、加飾シートは予熱してもしなくてもよい。
なお、ここで用いる射出樹脂としてはインサート成形法で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0085】
以上のようにして製造された加飾樹脂成形体は、その表面保護層に成形過程でクラックが入ることがなく三次元成形性が良好であり、その表面は高い耐傷付き性を有する。また、耐溶剤性及び耐薬品性が高い。
【実施例】
【0086】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
評価方法
(1)三次元成形性(真空成形)
各実施例及び比較例で得られた加飾シートについて以下に示す方法で真空成形を行い、成形後の外観にて評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎;表面保護層に塗膜割れや白化が全く見られず、良好に型の形状に追従した。
○;三次元形状部又は最大延伸部の一部に微細な塗膜割れ又は白化が認められたが実用
上問題なし。
△;型の形状に追従できずに表面保護層に塗膜割れや白化が見られた。
×;型の形状に追従できずに表面保護層に著しい塗膜割れや白化が見られた。
<真空成形>
加飾シートを赤外線ヒーターで160℃に加熱し、軟化させる。次いで、真空成形用型を用いて真空成形を行い(最大延伸倍率:150%)、型の内部形状に成形する。シートを冷却後、型より加飾シートを離型する。
【0087】
(2)耐傷付き性A
爪で試験片を20往復引っ掻き、試験片の外観を評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎;傷付きがなかった。
○;表面に微細な傷が認められたが、塗膜の削れや白化はなかった。
△;表面に微細な傷が認められ、傷付き部分に軽微なツヤ上がりが観察されたが、実用上問題にならない程度であった。
×;表面に著しい傷があり、塗膜が削られた。
【0088】
(3)耐傷付き性B
各実施例及び比較例で得られた加飾シートについて、#0000スチールウールを用いて荷重1.5kgfで5回往復後の試験片の外観を評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎;傷付きがなかった。
○;表面に微細な傷が認められたが、塗膜の削れや白化はなかった。
△;表面に微細な傷が認められ、軽微な白化が観察されたが、実用上問題にならない程度であった。
×;表面に著しい傷があり、塗膜が削られた。
【0089】
(4)艶変化
射出成形前後での加飾シート表面の艶変化を評価した。具体的には、成形前と後の加飾シート表面について、グロスメーターを使用してJIS K 7105に準拠して60°グロス値を測定し、射出成形前後での60°グロス値の変化量を算出した。
(5)意匠性(GEMINI効果)
加飾シートの表面の意匠性を目視にて評価した。
◎;導管部が凹部として認識され、さらには木目の質感も得られ、意匠性が極めて高か
った。
○;導管部が凹部として認識され、意匠性が高かった。
△;導管部が凹部としてわずかに認識され、意匠性は低かった。
×;意匠が平面的で、意匠性に劣るものであった。
【0090】
(6)分子量の測定
東ソー(株)製高速GPC装置を用いて、表面保護層に用いた電離放射線硬化性樹脂の分子量を測定した。用いたカラムは東ソー(株)製、商品名「TSKgel αM」であり、溶媒はN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を用い、カラム温度40℃、流速0.5cc/minで測定を行なった。なお、本発明における重量平均分子量はポリスチレン換算を行った。
【0091】
実施例1
基材層として、厚さ400μmの着色ABS樹脂フィルムを用い、該フィルム上に塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂組成物からなる印刷インキを用い木目柄の絵柄層をグラビア印刷により形成した。絵柄層上に後述の模様インキAで木目の導管部と同調するようにグラビア印刷にて模様インキ層(膜厚1.0μm)を形成した。
該模様インキ層上に、表1に示す合成樹脂粒子を含有する電離放射線硬化性樹脂組成物(EB1)を樹脂部分の硬化後の厚みが3μmとなるように塗布した。この未硬化樹脂組成物層に加速電圧165kV、照射線量50kGy(5Mrad)の電子線を照射して、電離放射線硬化性樹脂を硬化させ加飾シートを得た。
【0092】
実施例2〜11、14、15、比較例1〜3
基材層として、厚さ400μmの着色ABS樹脂フィルムを用い、該フィルム上に塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂組成物からなる印刷インキを用い木目柄の絵柄層をグラビア印刷により形成した。絵柄層上に表1に示す組成のプライマー組成物を厚さ2μmとなるようにグラビアリバースにて塗布し、プライマー層を形成した。このプライマー層上に表1に記載の模様インキで木目の導管部と同調するようにグラビア印刷にて模様インキ層(膜厚1.0μm)を形成した。
該模様インキ層上に、合成樹脂粒子又は無機粒子と電離放射線硬化性樹脂とをそれぞれ表1に示す配合にしたがって変化させたものを、樹脂部分の硬化後の厚みが3μmとなるように塗布した。この未硬化樹脂組成物層に加速電圧165kV、照射線量50kGy(5Mrad)の電子線を照射して、電離放射線硬化性樹脂組成物を硬化させ加飾シートを得た。
【0093】
実施例12、13
基材層として、厚さ100μmの透明アクリルフィルム(実施例12は両面コロナ処理を施したPETフィルム)を用い、該フィルム上に塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂組成物からなる印刷インキを用い木目柄の絵柄層をグラビア印刷により形成した。次いで、絵柄層を施していない表面に、厚さ2μmのプライマー層をグラビアリバースにて塗布した。該プライマー層上に表1に記載の模様インキで木目の導管部と同調するようにグラビア印刷にて模様インキ層(膜厚1.0μm)を形成した。
該模様インキ層上に、合成樹脂粒子と電離放射線硬化性樹脂組成物(EB1)をそれぞれ表1に示す配合にしたがって変化させたものを、樹脂部分の硬化後の厚みが3μmとなるように塗布した。この未硬化樹脂組成物層に加速電圧165kV、照射線量50kGy(5Mrad)の電子線を照射して、電子線硬化性樹脂組成物を硬化させた。上記アクリルフィルムの木目柄の絵柄層を施した面にポリエステル系樹脂からなる接着剤を厚み10μmとなるようにグラビアリバースにて塗布し、厚さ400μmの着色ABS樹脂フィルムとドライラミネートし加飾シートを得た。
【0094】

【表1】

【0095】
[注]
(EB1)
2官能ポリカーボネートアクリレート(重量平均分子量;10,000):94質量部
6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(重量平均分子量;6,000):6質量部
ポリオレフィンワックス :6質量部
(EB2)
2官能ポリカーボネートアクリレート(重量平均分子量;10,000):100質量部
ポリオレフィンワックス :6質量部
(EB3)
3官能アクリルシリコーンアクリレート(重量平均分子量;20,000) :70質量部
(硬化後の架橋点間分子量200)
6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(重量平均分子量;5,000):30質量部
ポリオレフィンワックス :6質量部
(EB4)
2官能ウレタンアクリレート(重量平均分子量:2,000) :40質量部
2官能ポリエステルアクリレート(重量平均分子量;10、000) :60質量部
ポリオレフィンワックス :6質量部
【0096】
(配合粒子)
表面保護層に含有させた各配合粒子の略号は以下の通りである。
ウレタン:ウレタン樹脂製のビーズ(比重1.1〜1.2g/cm3、ガラス転移点-10〜-20℃)
シリコーン:シリコーン製のビーズ
アクリル:架橋型アクリル製のビーズ
ナイロン:ナイロン製のビーズ
シリカ:シリカ粒子(表面処理なし)
PP+PEワックス::ポリプロピレンワックスとポリエチレンワックスの混合物(比重1.0〜1.1g/cm3、融点130〜140℃)
【0097】
(模様インキA)
アクリル樹脂(重量平均分子量;100,000) :100質量部
シリカ(吸油量200ml/100g、平均粒径5μm):100質量部
(模様インキB)
ニトロセルロース樹脂 :100質量部
シリカ(吸油量200ml/100g、平均粒径5μm) :100質量部
(模様インキC)
ポリエステルウレタン樹脂(数平均分子量;3,000):100質量部
シリカ(平均粒径1.5μm) :10質量部
(プライマーA)
アクリルポリオール樹脂 :80質量部
ウレタン樹脂 :20質量部
アクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとをNCO当量となるように混合した。
(プライマーB)
アクリルポリオール樹脂 :80質量部
ウレタン樹脂 :20質量部
未処理シリカ(平均粒径2μm) :10質量部
アクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとをNCO当量となるように混合した。
(プライマーC)
アクリルポリオール樹脂 :80質量部
ウレタン樹脂 :20質量部
アクリルビーズ(平均粒径3μm) :40質量部
アクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとをNCO当量となるように混合した。
【0098】
以上の結果から、基材層上に少なくとも表面保護層が順に積層された加飾シートにおいて、表面保護層を、ウレタンビーズ、シリコーンビーズ又はアクリルビーズと、電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物で形成することによって、加飾成形前後における艶変化を効果的に抑制でき、更に耐傷付き性を備えさせ得ることが明らかとなった(実施例1〜14)。一方、表面保護層を、前記以外の合成樹脂粒子又は無機粒子と電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物で形成した場合には、加飾成形前後における艶変化を十分に抑制できず、更には耐傷付き性も不十分であった(比較例1〜3)。
即ち、本結果から、以下の内容が明らかとなった。
本発明の加飾シートにおいては、表面保護層に特定の合成樹脂粒子を配合しているため、加飾成形前後における艶変化を抑えることができ、優れた耐傷付き性を備えることもできる。また、本発明の加飾シートは、通常のインサート成形法や射出成形同時加飾法において、160℃程度の加熱温度から金型に接触時の温度まで急激な温度低下と急激な伸張速度、高伸張度の条件であってもクラックや割れが発生することがなく、三次元成形性が良好である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の加飾シートは各種加飾樹脂成形品に用いられ、例えば、自動車等の車両の内装材又は外装材、幅木、回縁等の造作部材、窓枠、扉枠等の建具、壁、床、天井等の建築物の内装材、テレビ受像機、空調機等の家電製品の筐体、容器等の用途の加飾樹脂成形品に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0100】
1 加飾シート
2 基材層
3 絵柄層
4 プライマー層
5 模様インキ層
6 表面保護層
7 合成樹脂粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層上に、少なくとも表面保護層を有し、
該表面保護層が、ウレタンビーズ、シリコーンビーズ、ナイロンビーズ、及びアクリルビーズから選ばれる少なくとも1種の合成樹脂粒子と電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とする加飾シート。
【請求項2】
電離放射線硬化性樹脂がポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートである、請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
合成樹脂粒子の粒径が1〜25μmである、請求項1又は2に記載の加飾シート。
【請求項4】
合成樹脂粒子の添加量が電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して1〜50質量部である、請求項1〜3のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項5】
アクリルシリコーン(メタ)アクリレートの重量平均分子量が1,000〜150,000である、請求項2〜4のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項6】
アクリルシリコーン(メタ)アクリレートの架橋点間平均分子量が100〜2,500である、請求項2〜5のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項7】
基材層と表面保護層の間に、表面保護層との相互作用により低光沢領域を発現する模様インキ層を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項8】
少なくとも射出樹脂層、基材層、及び表面保護層を順に有し、
該表面保護層がウレタンビーズ、シリコーンビーズ、ナイロンビーズ、及びアクリルビーズから選ばれる少なくとも1種の合成樹脂粒子を含む電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とする加飾樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−82221(P2013−82221A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−217394(P2012−217394)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】