説明

助手席用エアバッグの折り畳み体及び助手席用エアバッグ装置

【課題】エアバッグの膨張開始後、早期の段階からベントホールを介してエアバッグ外に十分にガスを流出させることが可能なエアバッグの折り畳み体と、このエアバッグの折り畳み体を備えたエアバッグ装置とを提供する。
【解決手段】エアバッグ10を縦長の1次折り畳み体10Aとする1次折り畳み工程において、左右両サイドの外側面11r,12fを、各ベントホール14を横切る上下方向の折り線Lに沿って山折りし、各ベントホール14を該折り線Lに沿う山折り部分の頂点付近に配置する。この縦長の1次折り畳み体10Aを上下幅が小さくなるように2次折り畳みすることにより、最終折り畳み体10Bとする。この最終折り畳み体10Bにおいて、その左端面及び右端面にそれぞれベントホール14が露呈している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時等に助手席乗員を拘束するための助手席用エアバッグの折り畳み体に係り、特に膨張方向の基端側にインフレータ用開口が設けられ、左サイド面及び右サイド面にそれぞれベントホールが設けられた助手席用エアバッグの折り畳み体に関する。また、本発明は、この助手席用エアバッグの折り畳み体を備えたエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両衝突時等に助手席乗員を拘束するための助手席エアバッグを折り畳む方法として、特開平6−227353の図3,4には、エアバッグを平らに広げた後、エアバッグの左辺及び右辺を折り重ねて上下に細長い帯状体とし、この帯状体の下部側を蛇腹状又はロール状に折り、次いで上部側を蛇腹状に折り畳む方法が記載されている。
【0003】
助手席用エアバッグとして、乗員の前方の左側及び右側においてそれぞれ膨張する左半側エアバッグ及び右半側エアバッグを有し、これらが共通のインフレータによって膨張するように構成されたエアバッグがある。特開2007−45190に、このエアバッグの折り畳み方法が記載されている。
【0004】
同号においては、エアバッグを折り畳む場合、まず左半側エアバッグ及び右半側エアバッグをそれぞれ横向きに置き、これらをそれぞれ上下方向及び前後方向に平たく展延させた状態とする。次に、左半側エアバッグを上端側及び下端側から上下方向の中央側に向ってロール状又は蛇腹状に折り畳み、前後方向に細長い短冊状の折り畳み体とする。また、これと同様に、右半側エアバッグも、上端側及び下端側から上下方向の中央側に向ってロール状又は蛇腹状に折り畳み、前後方向に細長い短冊状の折り畳み体とする。その後、これらの左半側エアバッグ及び右半側エアバッグの折り畳み体をそれぞれ前後方向の長さが小さくなるように折り畳み、塊状の最終折り畳み体とする。
【0005】
車両衝突時には、エアバッグの基端側に設けられたインフレータ用開口を通ってインフレータからのガスがエアバッグ内に流入し、このガスがエアバッグの基端側から左半側エアバッグ及び右半側エアバッグにそれぞれガスが流入する。これにより、左半側エアバッグ及び右半側エアバッグがそれぞれ乗員前方左側及び右側において膨張して乗員の両胸を受け止める。左半側エアバッグの左側面及び右半側エアバッグの右側面にはそれぞれベントホールが設けられており、膨張した左半側エアバッグ及び右半側エアバッグに乗員が接触したときに、各ベントホールからエアバッグ外にガスが流出することにより、乗員への衝撃が吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−227353
【特許文献2】特開2007−45190
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特開平6−227353のエアバッグの折り畳み方法では、同号図3のようにエアバッグを細長い帯状体としたときに、ベントホールがエアバッグ内に折り込まれてしまう。この状態で帯状体をさらに蛇腹折り又はロール折りにするため、ベントホールはエアバッグ折り畳み体内に埋没した状態となっている。そのため、同号では、インフレータが作動してエアバッグがかなりの大きさにまで膨張するまではベントホールが大気に開放せず、その間はベントホールからガスが殆ど流出しない。
【0008】
また、上記特開2007−45190の折り畳み方法では、左半側エアバッグ及び右半側エアバッグをそれぞれ上端側及び下端側から上下方向の中央側に向ってロール状又は蛇腹状に折り畳んだときに、各ベントホールに該左半側エアバッグ及び右半側エアバッグのパネル部分が折り重なる。そのため、同号では、エアバッグが膨張を開始しても、左半側エアバッグ及び右半側エアバッグの上下方向の折りが解けるまでは、各ベントホールから十分にガスを流出させることができない。
【0009】
このようなことから、従来の助手席用エアバッグでは、インストルメントパネル上又はその直近に乗員等の物体が存在した状態でエアバッグが膨張した場合、エアバッグの折りが十分に解けないうちにエアバッグに物体が接触するため、エアバッグに物体が接触しても各ベントホールから十分にガスを流出させることができず、エアバッグから該物体に加えられる力が大きくなるおそれがある。
【0010】
本発明は、インストルメントパネル上又はその直近に乗員等の物体が存在した状態でエアバッグが膨張した場合、エアバッグの膨張開始後、早期の段階からベントホールを介してエアバッグ外に十分にガスを流出させることが可能なエアバッグの折り畳み体と、このエアバッグの折り畳み体を備えたエアバッグ装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(請求項1)の助手席用エアバッグの折り畳み体は、基端側にインフレータ用開口が設けられ、左サイド面及び右サイド面にそれぞれベントホールが設けられた助手席用エアバッグの折り畳み体であって、該エアバッグの左端側及び右端側が上下方向の折り線に沿って折られることにより縦長の1次折り畳み体とされ、この1次折り畳み体が左右方向の折り線に沿って折り畳まれることによって最終折り畳み体とされている助手席用エアバッグの折り畳み体において、該最終折り畳み体の左端面及び右端面にそれぞれベントホールが露呈していることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の助手席用エアバッグの折り畳み体は、請求項1において、前記インフレータ用開口の周囲に複数個の小孔が設けられており、該インフレータ用開口を取り囲む枠体及び該枠体から立設された複数本のボルトよりなるバッグ取付リングが該インフレータ用開口を囲むように装着され、各ボルトがそれぞれ前記小孔に挿通されており、該バッグ取付リングと前記ベントホールとの間のバッグ基端部は、バッグ内方に1回だけ折り込まれていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の助手席用エアバッグの折り畳み体は、請求項2において、前記1次折り畳み体のバッグ取付リングよりも下側はロール折りとされ、上側は蛇腹折りされていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4の助手席用エアバッグの折り畳み体は、請求項2又は3において、前記エアバッグは、前後方向の厚さが小さくなるように平たく展延された展延体とされ、その後、該展延体の左端側及び右端側が前記上下方向の折り線に沿って折られることにより前記1次折り畳み体とされており、該展延体にあっては、前記インフレータ用開口は、該展延体の乗員と反対側の面に露呈しており、前記ベントホールは、少なくとも一部が、このインフレータ用開口を取り囲んでいる前記バッグ取付リングの外周縁の上端部よりも下方且つ下端部よりも上方に配置されていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明(請求項5)の助手席用エアバッグ装置は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の助手席用エアバッグの折り畳み体と、該エアバッグを膨張させるためのインフレータとを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の助手席用エアバッグの折り畳み体及び助手席用エアバッグ装置にあっては、エアバッグの左サイド及び右サイドの各ベントホールは、このエアバッグの最終折り畳み体の左端面及び右端面にそれぞれ露呈している。従って、インストルメントパネル上又はその直近に乗員等の物体が存在した状態でエアバッグが膨張し、エアバッグが膨張を開始した直後に該エアバッグに物体が接触した場合、速やかに各ベントホールからエアバッグ外にガスが流出するので、エアバッグから該物体に加えられる力が小さいものとなる。
【0017】
請求項2の通り、バッグ取付リングとベントホールとの間のバッグ基端部をバッグ内方に1回だけ折り込んだ構成とすることにより、エアバッグの膨張時には、該バッグ取付リングとベントホールとの間の折りが速やかに解けて、ベントホールからエアバッグ外にガスが流出するようになる。
【0018】
請求項3の通り、エアバッグを縦長の1次折り畳み体とした後、この1次折り畳み体のバッグ取付リングよりも下側即ちエアバッグの下部側をロール折りとし、該バッグ取付リングよりも上側即ちエアバッグ上部側を蛇腹折りすることが好ましい。このように折り畳んだ場合、蛇腹折りは解け易いので、エアバッグの膨張時には該エアバッグの上部側が速やかに上方へ膨らみ出して乗員の前方に展開するようになる。また、エアバッグの下部側は、ロール折りされており、エアバッグ膨張時には下方へ転がり落ちるようにして展開するので、インストルメントパネルと乗員との間にスムーズに展開することができる。
【0019】
請求項4の態様では、エアバッグの折り畳みに際し、エアバッグは、まず前後方向の厚さが小さくなるように平たく展延された展延体とされる。このとき、エアバッグの基端側のインフレータ用開口は、該展延体の乗員と反対側の面に露呈するように配置される。また、ベントホールは、少なくとも一部が、このインフレータ用開口を取り囲んでいるバッグ取付リングの外周縁の上端部よりも下方且つ下端部よりも上方に配置される。この展延体の左端側及び右端側を上下方向の折り線に沿って折り畳んで縦長の1次折り畳み体とし、さらにこの1次折り畳み体を左右方向の折り線に沿って折り畳むことにより最終折り畳み体としたエアバッグの折り畳み体にあっては、ベントホールは、少なくとも一部がバッグ取付リングの真上に位置するようになるため、インフレータ用開口からベントホールまでの距離が小さなものとなり、エアバッグの膨張開始から短時間が経過した段階で、インフレータからのガスがベントホールに到達し、ガスがベントホールを通って速やかにエアバッグ外に流出するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態に係るエアバッグの折り畳み体とされる助手席用エアバッグの斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図6】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図7】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図8】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図9】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図10】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図11】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図12】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図13】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図14】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図15】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図16】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図17】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図18】図1のエアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図19】図1のエアバッグを折り畳んだ折り畳み体の断面図である。
【図20】エアバッグ膨張時の側面図及び上面図である。
【図21】エアバッグ膨張時の側面図及び上面図である。
【図22】図21からエアバッグが物体の前方に展開した状態を示す側面図である。
【図23】エアバッグ膨張時の側面図である。
【図24】エアバッグ膨張時の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
第1図は実施の形態に係るエアバッグの折り畳み体とされる助手席用エアバッグ(以下、エアバッグと略す。)の斜視図である。第2図は第1図のII−II線に沿う断面図、第3図は第2図のIII−III線に沿う断面図、第4図は第2図のIV−IV線に沿う断面図である。第5図〜第18図は、このエアバッグの折り畳み手順の説明図である。なお、第5図(a)は、エアバッグの折り畳み第1段階における正面図(乗員側から見た図)であり、第5図(b),(c)はそれぞれ第5図(a)のB−B線及びC−C線に沿う断面図である。第6図は、このエアバッグの折り畳み第1段階における背面図(乗員と反対側から見た図)である。第7図(a)、第8図(a)及び第9図(a)は、エアバッグの折り畳みの各段階における背面図である。第7図(b)、第8図(b)及び第9図(b)は、それぞれ、第7図(a)、第8図(a)及び第9図(a)のB−B線に沿う断面図である。第9図(c)は、エアバッグの1次折り畳み体のベントホール付近(第9図(b)のC部分)の側面図である。第10図〜第18図は、エアバッグの折り畳みの各段階における、第5図(b)と同様部分の断面図である。第19図は、折り畳みが完了して保形された状態のエアバッグ折り畳み体の断面図である。なお、第19図も、第5図(b)と同様部分の断面図を示している。第20図(a)は、乗員が正規の着座位置に着座した状態でエアバッグが膨張したときの側面図であり、第20図(b)は、このときのエアバッグの上面図である。第21図(a)は、インストルメントパネル上又はその直近であって、なおかつ該インストルメントパネルのドア部又はリッドと対峙する位置に物体(乗員を含む。以下、同様。)が存在した状態でエアバッグが膨張したときの側面図であり、第21図(b)は、このときのエアバッグの上面図である。第22図は、第21図(a)からエアバッグが物体の前方に展開した状態を示す側面図である。第23図(a),(b)は、インストルメントパネル上又はその直近であって、なおかつインストルメントパネルのドア部又はリッドと対峙しない位置に物体が存在した状態でエアバッグが膨張したときの側面図であり、第23図(a)はエアバッグの膨張初期段階を示し、第23図(b)は膨張後期段階を示している。第24図(a),(b)は、インストルメントパネルと助手席との間に、該インストルメントパネルに比較的近接して物体が存在した状態でエアバッグが膨張したときの側面図であり、第24図(a)はエアバッグの膨張初期段階を示し、第24図(b)は膨張後期段階を示している。
【0023】
以下の説明において、上下方向、前後方向及び左右方向は、助手席乗員にとっての前後方向及び左右方向をいう。また、エアバッグを山折りするとは、折り目がエアバッグの外方に向って凸となるように折ることをいい、谷折りするとは、折り目がエアバッグの内方に向って凸となるように折ることをいう。
【0024】
第20図(a),(b)に示すように、助手席用エアバッグ装置は、助手席用エアバッグ10と、折り畳まれた該エアバッグ10を収容しており、車両の助手席前方のインストルメントパネル1に設置される上開容器状のリテーナ2と、該エアバッグ10を膨張させるためのインフレータ3と、該エアバッグ10の折り畳み体を保形するための帯状の保形シート4(第19図)等を備えている。符号6は、インストルメントパネル1の上方のウィンドシールドを示している。リテーナ2はインストルメントパネル1の内側に配置される。インストルメントパネル1には、エアバッグ10の膨張時に開裂して該エアバッグ10の車室内への膨出を許容するドア部(図示略)が形成されている。なお、インストルメントパネル1と別体に形成されたリッド(蓋部材)がリテーナ2の上面開口に装着されることもある。
【0025】
この実施の形態では、エアバッグ10は、助手席乗員の前方の右側において膨張する右半側エアバッグ11と、助手席乗員の前方の左側において膨張する左半側エアバッグ12と、該右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の前端側(膨張方向の基端側)に連通する基端室13とを有する。基端室13の底面には、インフレータ3が挿入されるインフレータ用開口13aが設けられている。
【0026】
第2図及び第3図に明示の通り、基端室13の内側に、エアバッグ10をリテーナ2に連結するためのバッグ取付リング7が配置されている。バッグ取付リング7は、略長方形の平面視形状(外周形状)を有した板状であり、その中央に、インフレータ用開口13aと重なる開口7bが設けられている。また、このバッグ取付リング7の各長辺部分(前縁7f及び後縁7r)に沿ってそれぞれ複数本のスタッドボルト7cが立設されている。
【0027】
エアバッグ10の基端室13の底面には、各スタッドボルト7cと対応する位置関係にて複数個の小孔(図示略)が設けられており、各スタッドボルト7cは、これらの小孔に挿通されてエアバッグ10の外部に延出している。第2図の通り、この実施の形態では、バッグ取付リング7は、その長手方向を左右方向として基端室13内に配置されている。この実施の形態では、エアバッグ10は、折り畳み体とされたときに、その左右方向及び前後方向の幅がこのバッグ取付リング7と同程度の大きさとなるように折り畳まれる。なお、バッグ取付リング7の形状や配置、エアバッグ10の折り畳み体の大きさはこれに限定されない。
【0028】
この実施の形態では、基端室13の下面に前記保形シート4の一端側が縫着されている。この保形シート4の一端側には基端室13のインフレータ用開口13aと重なる開口4aが設けられている。この保形シート4の一端側は基端室13の下面に縫着されている。
【0029】
インフレータ3からのガスは、このインフレータ用開口4a,7b,13aから基端室13に導入されて該基端室13を膨張させ、次いで基端室13から右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12にそれぞれ流入して該右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12を第1図〜第4図の如く膨張させる。
【0030】
第3図の符号13tは、膨張したエアバッグ10の基端室13の前端部を示している。この前端部13tにおいて、基端室13の上面側のパネル13uと底面側パネル13wとが縫目13sにより縫着されている。
【0031】
膨張した状態における右半側エアバッグ11の右側面11r及び左半側エアバッグ12の左側面12fには、それぞれベントホール14が設けられている。以下、この右半側エアバッグ11の右側面11r及び左半側エアバッグ12の左側面12fをそれぞれ外側面といい、これと対向する右半側エアバッグ11の左側面11f及び左半側エアバッグ12の右側面12rをそれぞれ内側面ということがある。
【0032】
この実施の形態では、右半側エアバッグ11内及び左半側エアバッグ12内に、それぞれ、これらの膨張時の左右の側面11f,11r同士及び12f,12r同士を連結した吊紐20が設けられている。なお、第1図においては、右半側エアバッグ11内の吊紐20は図示が省略されている。各吊紐20は、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12が膨張した状態において該側面11f,11r及び12f,12rの前後方向の途中部(好ましくは右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の最後端部11t,12t(第2図)から基端側へ150〜450mm特に200〜350mmの部分)同士を連結するように配設されている。
【0033】
第4図の通り、この実施の形態では、各吊紐20は、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12が膨張した状態において、該側面11f,11r同士及び12f,12r同士を左右方向に略水平に連結した左右方向連結部21と、斜め上下方向に連結した斜め方向連結部22とを有している。
【0034】
左右方向連結部21は、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12が膨張した状態において、側面11f,11r及び12f,12rの上下方向の中間部(好ましくは右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の最低位部から該右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の全高の30〜65%特に35〜55%の高さに位置する部分)同士を連結している。
【0035】
斜め方向連結部22は、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12が膨張した状態において、一端側が該右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の内側面11f,12rの上下方向の中間部(好ましくは右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の最低位部から該右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の全高の30〜65%特に35〜55%の高さに位置する部分)に接続され、他端側が該右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の外側面11r,12fの上部(好ましくは右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の最低位部から該右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の全高の60〜90%特に65〜85%の高さに位置する部分)に接続されている。
【0036】
この実施の形態では、左右方向連結部21及び斜め方向連結部22は、それぞれ、内側面11f,12rに接続された内側半体21a,22aと、外側面11r,12fに接続された外側半体21b,22bとを有している。
【0037】
この実施の形態では、左右方向連結部21の内側半体21aと斜め方向連結部22の内側半体22aとは、一端側が共通の基片部23に連なっている。即ち、この実施の形態では、該左右方向連結部21の内側半体21aと斜め方向連結部22の内側半体22aとは、基片部23を介して一連一体に構成されている。この基片部23が縫着等の結合手段によって内側面11f,12rに結合されることにより、内側半体22a,22aの一端側同士が該内側面11f,12rに接続されている。符号24は、基片部23を内側面11f,12rに縫着したシーム(縫目)を示している。なお、左右方向連結部21の内側半体21aと斜め方向連結部22の内側半体22aとは、別体に構成されて別々に内側面11f,12rに結合されてもよい。内側半体22a,22aと内側面11f,12rとの間に補強布が設けられてもよい。
【0038】
この実施の形態では、第2図の通り、右半側エアバッグ11内に配置された吊紐20の基片部23、内側面11f,12r、及び左半側エアバッグ12内に配置された吊紐20の基片部23を4枚重ね状にし、これらを一体にシーム24によって縫合している。即ち、この実施の形態では、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の内側面11f,12rの前後方向の途中部且つ上下方向の中間部同士も、このシーム24によって結合されている。
【0039】
第2図の通り、シーム24の前端側は基端室13の後端側から離隔しており、これらの間には、内側面11f,12r同士が結合されていない空洞部15が存在している。エアバッグ10が膨張完了した状態におけるシーム24の前端側から基端室13の後端側までの距離は100〜400mm特に160〜350mmであることが好ましい。
【0040】
左右方向連結部21の外側半体21b及び斜め方向連結部22の外側半体22bは、それぞれ、一端側が縫着等の結合手段によって外側面11r,12fに結合されている。符号25,26は、これらの外側半体21b,22bをそれぞれ外側面11r,12fに縫着したシームを示している。この実施の形態では、該外側半体21b,22bの一端側と外側面11r,12fとの間にそれぞれ補強布27,28を介在させてこれらを縫合している。なお、この実施の形態では、補強布27,28はそれぞれ外側半体21b,22bと一連に形成されており、この補強布27,28を折り返して該外側半体21b,22bの一端側と外側面11r,12fとの間に配置しているが、補強布27,28の構成はこれに限定されない。
【0041】
この内側半体21aと外側半体21bの他端側同士が縫着等の結合手段によって結合されると共に、内側半体22aと外側半体22bの他端側同士が縫着等の結合手段によって結合されることにより、左右方向連結部21及び斜め方向連結部22がそれぞれ右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の左右の側面11f,11r同士及び12f,12r同士を連結したものとなっている。符号29,30は、該半体21a,21bの他端側同士及び半体22a,22bの他端側同士をそれぞれ縫着したシームを示している。
【0042】
この実施の形態では、シーム24よりも上側及び下側において、それぞれ、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の内側面11f,12r同士がさらにシーム40,41によって部分的に縫合されている。第3,4図の通り、シーム40,41はそれぞれ環状に延設されている。上側のシーム40は、内側面11f,12rの上辺に沿って略前後方向に延在した略楕円形状となっており、下側のシーム41は、内側面11f,12rの後辺(乗員側の辺)に沿って略上下方向に延在した略楕円形状となっている。シーム40,41の内周側には、それぞれ、内側面11f,12r同士を貫通して右半側エアバッグ11内と左半側エアバッグ12内とを連通した連通口42,43が設けられている。シーム40,41は、それぞれ、この連通口42,43の全周を取り囲んでおり、各連通口42,43に臨む内側面11f,12rの辺縁部同士の間からエアバッグ10外にガスがリークしないようになっている。
【0043】
第2〜4図の通り、各シーム40,41の後端側は、それぞれ、内側面11f,12r後辺(乗員側の辺)から前方に離隔している。また、上側のシーム40の上端側は内側面11f,12rの上辺から下方に離隔しており、下側のシーム41の下端側は内側面11f,12rの下辺から下方に離隔している。これにより、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12が膨張した状態において、これらの上面同士の間、下面同士の間及び後面(乗員対向面)11j,12j同士の間には、連続した凹部16が形成される。シーム24の後端側は、各シーム40,41の後端側よりも前方に位置している。
【0044】
各シーム40,41の前端側は、それぞれ基端室13の後端側から離隔しており、これらの間を通って空洞部15がエアバッグ10の上面側及び下面側にそれぞれ開放している。これにより、空洞部15は、右半側エアバッグ11と左半側エアバッグ12との間を略上下方向に貫通したものとなっている。また、空洞部15は、各シーム40,41とシーム24との間を通って右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の乗員対向面11j,12j側の凹部16にも連通している。
【0045】
第20図(a)、第23図(b)及び第24図(b)に示すように、下側のシーム41は、エアバッグ10が膨張完了した状態において、その前端側がインストルメントパネル1の最後端部1aよりも車両後方に位置するように配設されている。これにより、エアバッグ10が膨張完了した状態においては、この空洞部15の下端側(シーム41の前端側と基端室13の後端側との間)の開口部は、少なくとも部分的に、インストルメントパネル1の最後端部1aよりも車両後方において該エアバッグ10の下面に露呈する。従って、第23図(b)及び第24図(b)の通り、エアバッグ10が膨張するときに、インストルメントパネル1と助手席(図示略)との間において、該インストルメントパネル1に比較的近接して物体Cが存在して(例えば、インストルメントパネル1と助手席との間のフロア上に子供乗員が立っているなどして)いても、この物体Cが空洞部15に呑み込まれるようになる。
【0046】
エアバッグ10が膨張完了した状態における下側のシーム41の前端側とインストルメントパネル1の最後端部1aとの水平方向の間隔d(第20図(a))は100〜300mm特に160〜250mmであることが好ましい。
【0047】
エアバッグ10が膨張完了した状態において、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の乗員対向面11j,12jから各シーム40,41の後端側までの距離(乗員対向面11j,12j側における凹部16の深さ)は10〜200mm特に30〜150mmであることが好ましく、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の上面からシーム40の上端側までの距離(エアバッグ上面側における凹部16の深さ)は10〜150mm特に20〜80mmであることが好ましく、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の下面からシーム41の下端側までの距離(エアバッグ下面側における凹部16の深さ)は10〜200mm特に30〜150mmであることが好ましい。該乗員対向面11j,12jからシーム24の後端側までの距離は100〜450mm特に200〜350mmであることが好ましい。シーム40の下端側からシーム24の上端側までの距離は50〜350mm特に70〜250mmであることが好ましく、シーム24の下端側からシーム41の上端側までの距離は10〜250mm特に20〜170mmであることが好ましい。シーム40の前端側から基端室13の後端側までの距離は30〜250mm特に50〜150mmであることが好ましい。
【0048】
エアバッグ10が膨張完了した状態にあっては、右半側エアバッグ11と左半側エアバッグ12の後端部同士の間にタイパネルなどの架渡部材は存在せず、凹部16は、乗員に向って(即ち、第1図〜第3図において右方に向って)開放している。エアバッグ10が膨張完了した状態にあっては、右半側エアバッグ11の最後端11tと左半側エアバッグ12の最後端12tとの間隔W(第2図)は150〜450mm特に170〜430mmであることが好ましい。
【0049】
[エアバッグ10の折り畳み方法]
このエアバッグ10を折り畳む場合、まず第5図〜第9図の通り、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の前後方向の厚さを小さくし、その左端側及び右端側を上下方向の折り線に沿って折ることにより縦長の1次折り畳み体10Aとし(1次折り畳み工程)、その後、第10図〜第18図の通り、この1次折り畳み体10Aを左右方向の折り線に沿って折り畳むことにより、最終折り畳み体10Bとする(2次折り畳み工程)。以下に、このエアバッグ10の折り畳み方法について詳細に説明する。
【0050】
[1次折り畳み工程]
エアバッグ10の1次折り畳みを行う場合、エアバッグ10を平坦な水平作業台の上に載置し、基端室13の底面(バッグ取付リング7)を作業台に当て、エアバッグ10のうち該基端室13の底面と乗員対向面11j,12jとの間の部分を作業台の前後左右方向(水平方向)に引っ張って広げる。
【0051】
次いで、第5図(b)に図示されるように、基端室13の上面側パネル13uをバッグ取付リング7上に重ねるように折り込む。
【0052】
次いで、第5図(c)の通り、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の外側面11r,12fのうちベントホール14よりも乗員側を、エアバッグ10の膨張時の上下方向の折り線(以下、単に上下方向の折り線という。)Lに沿って谷折りすると共に、該折り線Lよりも乗員側を上下方向の折り線Lに沿って山折りする。これにより、作業台上のエアバッグ10は、その膨張時の前後方向の厚さが小さくなるように平たく展延された展延体となる。第5図(a)は、このエアバッグ10の展延体を作業台上方から見た図であり、第6図は、この展延体を、作業台を透視して下方から見た図である。第5図(a),(c)の通り、この展延体は、折り線Lよりも乗員側(作業台と反対側)のフラップ11a,12aと、乗員と反対側(作業台側)のフラップ11b,12bとを有した状態となる。
【0053】
第6図の通り、基端室13は、その膨張時の前端部13tがフラップ11b,12bの膨張時の上端側を向くように展延体の乗員と反対側の面(作業台側の面)に折り重ねられており、その底面のインフレータ用開口13aは、この展延体の乗員と反対側の面に露呈している。この基端室13内において、バッグ取付リング7は、前縁7fを該フラップ11b,12bの膨張時の上端側に向け、後縁7rを該フラップ11b,12bの膨張時の下端側に向けて配置されている。
【0054】
この展延体にあっては、第5図(a)及び第6図の通り、各ベントホール14は、少なくとも一部が該バッグ取付リング7の前縁7fよりもフラップ11b,12bの下端側且つ該バッグ取付リング7の後縁7rよりもフラップ11b,12bの上端側に位置するように配置されていることが好ましい。
【0055】
次に、第7図の通り、フラップ11b,12bのベントホール14よりも乗員側を、それぞれ、上下方向の折り線Lに沿って山折りすると共に、該折り線Lとバッグ取付リング7との間を上下方向の折り線Lに沿って谷折りする。この際、第7図(a)の通り、各ベントホール14がバッグ取付リング7の左辺及び右辺に重なるようにする。
【0056】
この状態では、第7図(b)の通り、折り線L付近がバック取付リング7よりも左右に大きく張り出している。そこで、次に、第8図(b)の通り、この折り線L付近を、それぞれ、各ベントホール14を縦断する上下方向の折り線Lに沿って山折りして折り線L側へ折り返し、フラップ部11a,12aの背面側に折り込む。その際、この折り込み部分を適宜、上下方向の折り線(符号略)に沿ってジグザグ状やロール状に折り畳み、バッグ取付リング7よりも左右に大きく張り出させないようにする。
【0057】
この第7図から第8図の折り畳み工程により、第8図(b)の通り、各ベントホール14が折り線Lに沿う山折り部分の頂点付近に配置される。
【0058】
次に、第9図(b)の通り、バッグ取付リング7よりも左右に大きく張り出したフラップ部11a,12aの先端側を、それぞれ、上下方向の折り線Lに沿って背面側に折り返す。その際、必要に応じ、この折り返し部分も適宜、上下方向の折り線に沿ってジグザグ状やロール状に折り畳み、バッグ取付リング7よりも左右へ大きく張り出させないようにする。
【0059】
以上のように折り畳むことにより、第9図(a)の通り、エアバッグ10は、縦長の1次折り畳み体10Aとなる。この1次折り畳み体10Aの左右方向の幅は、バッグ取付リング7の左右方向の幅とほぼ同等となっている。
【0060】
この1次折り畳み体10Aにあっては、各ベントホール14が折り線Lに沿う山折り部分の頂点付近に配置されており、各ベントホール14がこの1次折り畳み体10Aの左右の側面にそれぞれ露呈している。
【0061】
[2次折り畳み工程]
この縦長の1次折り畳み体10Aを上下幅が小さくなるように第10図〜第18図のように2次折り畳みすることにより、最終折り畳み体10Bとする。
【0062】
即ち、まず第10図〜第11図の通り、この縦長の1次折り畳み体10Aの下端側を左右方向の折り線Lに沿って該1次折り畳み体10Aの背面側へロール状に折り畳み、ロール折り体Rとする。
【0063】
次に、第12図の通り、1次折り畳み体10Aの下端側を左右方向の折り線Lに沿って正面側へ折り返し、ロール折り体Rをバック取付リング7の上側に重ねる。
【0064】
次に、第13図〜第14図の通り、1次折り畳み体10Aの上端側を左右方向の折り線Lに沿って蛇腹状に折り畳み、蛇腹折り体Jとする。
【0065】
次に、第15図〜第16図の通り、この蛇腹折り体Jを左右方向の折り線L10,L11に沿って背面側へ折り返し、次いで第17図の通り、左右方向の折り線L12に沿って正面側へ折り返し、ロール折り体Rの上側に重ねる。
【0066】
次に、第18図の通り、基端室13のうちバッグ取付リング7よりも前端部13t側をロール折り体Rの側面に沿わせる。これにより、エアバッグ10は塊状の最終折り畳み体10Bとなる。
【0067】
その後、第19図のように、保形シート4を最終折り畳み体10Bに巻き付け、その先端側に設けられた小孔(符号略)をバッグ取付リング7のスタッドボルト7cに引っ掛ける。これにより、最終折り畳み体10Bが保形シート4によって保形される。第19図の通り、蛇腹折り体Jはロール折り体Rの上側に位置している。
【0068】
この最終折り畳み体10Bは、1次折り畳み体10Aを左右方向の折り線L〜L13に沿って折り畳んで塊状としたものである。従って、前記第9図(b)と同様に、最終折り畳み体10Bにあっても、各ベントホール14がその左右の側面に露呈している。
【0069】
このエアバッグ10の折り畳み体10Bは、エアバッグ装置組立工程において、インフレータ用開口4a,7b,13aにインフレータ3が挿入され、リテーナ2(第20図〜第24図)の底面にスタッドボルト7cによってバッグ取付リング7が連結されることにより、助手席用エアバッグ装置が構成される。なお、前述の通り、必要に応じてリテーナ2の上面開口にリッド(図示略)が装着される。
【0070】
このエアバッグ10を備えた助手席用エアバッグ装置の作動は次の通りである。
【0071】
このエアバッグ装置を搭載した自動車が衝突した場合、インフレータ3がガス噴出作動する。このインフレータ3からのガスは、まず基端室13内に導入され、該基端室13を膨張させる。このエアバッグ10の膨張圧により、保形シート4が破断すると共に、インストルメントパネル1のドア部(又はリッド)が開裂してエアバッグ膨出用の開口が形成され、エアバッグ10がこの開口を通って車室内に膨らみ出す。
【0072】
基端室13内に導入されたガスは、次いで、右半側エアバッグ11内及び左半側エアバッグ12内に流入して該右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12を膨張させる。
【0073】
第19図の通り、リテーナ2内において、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の上端側を折り畳んでなる蛇腹折り体Jは、下端側を折り畳んでなるロール折り体Rの上方に配置されているので、右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の上端側が早期のうちに車室内に広がり出し、乗員の前方に展開するようになる。蛇腹折りは、ロール折りに比べて早く展開するので、蛇腹折り体Jは迅速に上方へ展開するようになる。ロール折り体Rは、乗員の身体前面に沿って転動しながら、インストルメントパネル1と乗員との間に入り込むように展開する。
【0074】
第20図のように、乗員が正規の着座位置に着座している場合には、右半側エアバッグ11が乗員前方右側において膨張すると共に、左半側エアバッグ12が乗員前方左側において膨張する。そして、この膨張した右半側エアバッグ11が乗員の右胸を受け止め、膨張した左半側エアバッグ12が左胸を受け止め、胸骨付近は、これらの間の凹部16に対峙する。このため、胸骨付近に加えられるエアバッグ受承時の反力が小さなものとなる。また、乗員の頭部は、凹部16に入り込んで受け止められる。その際、各ベントホール14から右半側エアバッグ11内及び左半側エアバッグ12内のガスが放出されることにより、乗員への衝撃が吸収される。
【0075】
このエアバッグ10の折り畳み体10Bにあっては、各ベントホール14は、この折り畳み体10Bの左右の側面に露呈しているため、第21図(a),(b)のように、インストルメントパネル1上又はその直近であって、なおかつインストルメントパネル1の前記ドア部又はリッドと対峙する位置に乗員等の物体Cが存在した状態でエアバッグ10が膨張開始した場合、エアバッグ10が車室内に膨らみ出して物体Cに接触した段階でベントホール14が大気に露呈する。このため、速やかに各ベントホール14からエアバッグ10外にガスが流出し、エアバッグ10から該物体Cに加えられる力が小さいものとなる。そして、第22図のように、エアバッグ10は、過度に物体Cを車両後方へ押圧することなく、物体Cの前方に展開して該物体Cを拘束する。
【0076】
この実施の形態では、第7図(b)の通り、各ベントホール14とバッグ取付リング7との間のエアバッグ外側面11r,12fは、それぞれ、折り線Lに沿って1回だけバッグ内方に折り込まれたものとなっているので、エアバッグ10の膨張時には、該バッグ取付リング7と各ベントホール14との間の折りが速やかに解けて、ベントホール14付近が素早くインストルメントパネル1よりも上方に移動し、大気に露呈する。このため、インストルメントパネル1上又はその直近に乗員等の物体Cが存在した状態でエアバッグ10が膨張開始した場合、膨張開始直後の段階でベントホール14からガスが流出するようになるので、エアバッグ10から該物体Cに加えられる力が小さいものとなる。
【0077】
この実施の形態では、エアバッグ10の折り畳みに際し、最初にエアバッグ10を第5図(a)〜第6図の展延体としたときに、各ベントホール14は、少なくとも一部がバッグ取付リング7の前縁7fよりもフラップ11b,12bの下端側且つ該バッグ取付リング7の後縁7rよりもフラップ11b,12bの上端側に位置するように配置されている。従って、この展延体を上記の通り1次折り畳み及び2次折り畳みしてなるエアバッグ折り畳み体10Bにあっては、各ベントホール14の少なくとも一部がバッグ取付リング7の真上に位置するようになるため、インフレータ用開口13aから各ベントホール14までの距離が小さなものとなり、エアバッグ10の膨張開始から短時間が経過した段階で、インフレータ3からのガスが各ベントホール14に到達し、ガスが各ベントホール14を通って速やかにエアバッグ10外に流出するようになる。
【0078】
この実施の形態では、第3図の通り、シーム41,42と基端室13との間に、右半側エアバッグ11と左半側エアバッグ12との間を上下方向に貫通する空洞部15が存在する。この空洞部15は、エアバッグ10の膨張完了状態において、その下端側が少なくとも部分的にインパネ1の最後端部1aよりも車両後方側に位置するように形成されている。即ち、エアバッグ10の膨張完了状態においては、この空洞部15の下端側の開口部が、少なくとも部分的に、インパネ1の最後端部1aよりも車両後方において該エアバッグ10の下面に露呈する。
【0079】
従って、例えば第23図(a)のように、インストルメントパネル1上又はその直近であって、なおかつインストルメントパネル1のドア部又はリッドと対峙しない位置に乗員等の物体Cが存在した状態でエアバッグ10が膨張開始した場合、第23図(b)の通り、この物体Cが空洞部15に呑み込まれるようになる。
【0080】
また、第24図(a)のように、エアバッグ10の膨張時に、インストルメントパネル1と助手席との間に、該インストルメントパネルに近接して又は接して子供ダミー程度の物体Cが存在していても、この物体Cが空洞部15に呑み込まれるようになる。
【0081】
この実施の形態では、前述の通り、1次折り畳み体10Aの上端側の蛇腹折り体Jが下端側のロール折り体Rの上側に配置されているので、エアバッグ10の膨張時には、このエアバッグ10の上端側の蛇腹折り体Jが下端側のロール折り体Rよりも先にリテーナ2から車室内に押し出され、このエアバッグ10の上端側が下端側よりも早く膨張展開するようになる。これにより、エアバッグ10は、第24図(a)の通り、このインストルメントパネル1の近傍の物体Cの上方を飛び越えるようにして車両後方へ膨張展開するようになるので、膨張途中のエアバッグ10がこの物体Cを過度に後方へ押圧することが防止される。その後、第23図(b)及び第24図(b)の通り、エアバッグ10の下端側が膨張して物体Cが空洞部15に呑み込まれ、物体Cがエアバッグ10によって拘束されるようになる。この際、エアバッグ10は、物体Cに上方から被さるように下方へ膨張するため、物体Cがスムーズに空洞部15に呑み込まれるようになる。
【0082】
上記実施の形態はいずれも本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態をもとりうる。
【0083】
例えば、上記の実施の形態では、エアバッグ10の1次折り畳み体10Aの上端側を蛇腹折り体とし、下端側をロール折り体としているが、両方とも蛇腹折り体としてもよく、両方ともロール折り体としてもよい。また、上端側をロール折り体とし、下端側を蛇腹折り体としてもよい。
【0084】
上記の実施の形態では、エアバッグとして、助手席乗員の前方の右側において膨張する右半側エアバッグ11と、助手席乗員の前方の左側において膨張する左半側エアバッグ12と、該右半側エアバッグ11及び左半側エアバッグ12の前端側(膨張方向の基端側)に連通する基端室13とを有した、所謂ツインバッグタイプのものを例示しているが、本発明は、これ以外の助手席用エアバッグにも適用可能である。例えば、本発明は、前記特開平6−227353のように内部が単一の室よりなる助手席用エアバッグにも適用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 インストルメントパネル
2 リテーナ
3 インフレータ
7 バッグ取付リング
10 エアバッグ
10A 1次折り畳み体
10B 最終折り畳み体
11 右半側エアバッグ
12 左半側エアバッグ
13 基端室
15 空洞部
16 凹部
17 空洞部
20 吊紐
40,41 シーム
42,43 連通口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端側にインフレータ用開口が設けられ、左サイド面及び右サイド面にそれぞれベントホールが設けられた助手席用エアバッグの折り畳み体であって、
該エアバッグの左端側及び右端側が上下方向の折り線に沿って折られることにより縦長の1次折り畳み体とされ、
この1次折り畳み体が左右方向の折り線に沿って折り畳まれることによって最終折り畳み体とされている助手席用エアバッグの折り畳み体において、
該最終折り畳み体の左端面及び右端面にそれぞれベントホールが露呈していることを特徴とする助手席用エアバッグの折り畳み体。
【請求項2】
請求項1において、前記インフレータ用開口の周囲に複数個の小孔が設けられており、
該インフレータ用開口を取り囲む枠体及び該枠体から立設された複数本のボルトよりなるバッグ取付リングが該インフレータ用開口を囲むように装着され、各ボルトがそれぞれ前記小孔に挿通されており、該バッグ取付リングと前記ベントホールとの間のバッグ基端部は、バッグ内方に1回だけ折り込まれていることを特徴とする助手席用エアバッグの折り畳み体。
【請求項3】
請求項2において、前記1次折り畳み体のバッグ取付リングよりも下側はロール折りとされ、上側は蛇腹折りされていることを特徴とする助手席用エアバッグの折り畳み体。
【請求項4】
請求項2又は3において、前記エアバッグは、前後方向の厚さが小さくなるように平たく展延された展延体とされ、その後、該展延体の左端側及び右端側が前記上下方向の折り線に沿って折られることにより前記1次折り畳み体とされており、
該展延体にあっては、前記インフレータ用開口は、該展延体の乗員と反対側の面に露呈しており、前記ベントホールは、少なくとも一部が、このインフレータ用開口を取り囲んでいる前記バッグ取付リングの外周縁の上端部よりも下方且つ下端部よりも上方に配置されていることを特徴とする助手席用エアバッグの折り畳み体。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の助手席用エアバッグの折り畳み体と、
該エアバッグを膨張させるためのインフレータと
を備えたことを特徴とする助手席用エアバッグ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2012−111259(P2012−111259A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259312(P2010−259312)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】