説明

動力伝達系成形品の製造方法及び装置

【課題】 添加材を含む樹脂組成物からなる動力伝達用ホイール等の製造に際し、添加材の配向の向きを添加の目的に応じて制御できるようにすること。
【解決手段】 金型100のキャビティ13に、溶融樹脂に磁性材料からなる添加材を添加した樹脂組成物を注入して固化させる動力伝達系成形品1の製造方法であって、金型100に設けた磁場配向手段20により、金型100に注入された固化前の樹脂成形物に磁場を印加し、磁性材料からなる添加材を一定方向に配向するもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウォームホイール、平歯車等の歯車、ベルト車、スプロケット車等の、動力伝達用ホイールを含む動力伝達系成形品の製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置でモータの駆動力をステアリング軸に伝える動力伝達系に用いられるウォームホイールとして、特許文献1に記載の如く、金型のキャビティに溶融樹脂を注入して固化してなるものがある。
【0003】
他方、樹脂成形品の強度向上を図る等のために、溶融樹脂に添加材として強化材等を添加した樹脂組成物を、金型のキャビティに注入して樹脂成形品を成形するものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4331863
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のウォームホイールの強度向上を図る等のために、溶融樹脂に強化材等を添加した樹脂組成物を、金型のキャビティに注入して固化することが考えられる。ところが、金型のキャビティに注入して固化される樹脂組成物の中の強化材等の配向の向き(例えば鉄片等の長尺状粒子(又は繊維状粒子)からなる添加材の長手方向の向き)は、金型のキャビティに注入される溶融樹脂の流れの向きによって決まり、制御できない。従って、強度向上を図る等の目的に応じて強化材等の配向の向きを制御することができない。
【0006】
本発明の課題は、添加材を含む樹脂組成物からなる動力伝達用ホイール等の製造に際し、添加材の配向の向きを添加の目的に応じて制御できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、金型のキャビティに、溶融樹脂に磁性材料からなる添加材を添加した樹脂組成物を注入して固化させる動力伝達系成形品の製造方法であって、金型に設けた磁場配向手段により、金型に注入された固化前の樹脂成形物に磁場を印加し、磁性材料からなる添加材を一定方向に配向するようにしたものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記金型に配向の向きを異にする複数の磁場配向手段を設け、各磁場配向手段を選択的にオンすることにより、前記磁性材料からなる添加材に付与する配向の向きを選択するようにしたものである。
【0009】
請求項3の発明は、金型のキャビティに、溶融樹脂に磁性材料からなる添加材を添加した樹脂組成物を注入して固化させる動力伝達系成形品の製造装置であって、金型に注入された固化前の樹脂成形物に磁場を印加し、磁性材料からなる添加材を一定方向に配向する磁場配向手段が、金型に設けられてなるようにしたものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3の発明において更に、前記金型に配向の向きを異にする複数の磁場配向手段を設け、各磁場配向手段を選択的にオンすることにより、前記磁性材料からなる添加材に付与する配向の向きを選択可能にするようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
(請求項1、3)
(a)溶融樹脂に磁性材料からなる添加材を添加する。そして、金型に設けた磁場配向手段により、金型に注入された固化前の樹脂成形物に磁場を印加し、磁性材料からなる添加材を一定方向に配向する。従って、添加材の配向の向きを、添加の目的に応じて一定方向に揃えるように制御できる。
【0012】
ウォームホイール等の製造に対し、添加材たる強化材の長手方向の向き(配向の向き)を、添加の目的に応じて、歯幅方向に揃え、又は半径方向に揃えることができる。
【0013】
(請求項2、4)
(b)金型に配向の向きを異にする複数の磁場配向手段を設ける。これにより、単一の金型を用いながら、各磁場配向手段を選択的にオンすることにより、上述(a)の磁性材料からなる添加材に付与する配向の向きを自由に選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は動力伝達用ホイールを示す模式図である。
【図2】図2は実施例1の製造方法を示す模式図である。
【図3】図3は実施例2の製造方法を示す模式図である。
【図4】図4は実施例3の製造方法を示す模式図である。
【図5】図5は実施例4の製造方法を示す模式図である。
【図6】図6は実施例5の製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施例として、ウォームホイール、平歯車等の歯車、ベルト車、又はスプロケット車等を構成する動力伝達用ホイールとなるホイール成形品1の製造方法について説明する。
【0016】
ホイール成形品1は、図1に示す如く、インサート金具2の外周に樹脂層3を形成し、例えば樹脂層3の外周面に歯切りを施して歯車を構成する。ホイール成形品1は、インサート金具2により、ボス2Aと、ボス2Aから放射状に延びる複数本のアーム2Bを構成して強度を確保する。また、ホイール成形品1は、樹脂層3により、歯を備えるリム3Aを構成して相手歯車との噛合い音の静粛を図っている。
【0017】
インサート金具2を構成する金属としては、焼結金属や鋼等を用いることができる。
樹脂層3を構成する樹脂としては、カーボン繊維やガラス繊維等の強化繊維が予め混入されたポリフタルアミド樹脂(PPA)やポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルニトリル樹脂(PEN)等の強化プラスチックを用いることができる。
【0018】
しかるに、ホイール成形品1は、樹脂層3を構成する樹脂の成形前の素材ペレットに、強化材としての添加材を添加してなるものであり、この添加材を磁性材料からなるものにしている。このような磁性材料からなる添加材としては、長尺状粒子(又は繊維状粒子)からなるフェライト等を採用できる。
【0019】
以下、ホイール成形品1を製造する本発明の実施例について説明する。
(実施例1)(図2)
図2に示す金型100は、成形及び配向兼用金型であり、下型11に上型12を型合せし、ホイール成形品1の樹脂層3の成形用キャビティ13を形成する。下型11はキャビティ13の中心部にインサート金具2のボス孔嵌合部11Aを備え、上型12はキャビティ13の上部に注入口12Aを備える。
【0020】
このとき、金型100は、磁場配向手段20を内蔵等して設ける。磁場配向手段20は、下型11の内部で、キャビティ13の歯幅形成方向の一側面に臨む周方向各部に埋込まれた電磁石21(永久磁石でも可)と、上型12の内部で、キャビティ13の歯幅形成方向の他側面に臨む周方向各部に埋込まれた電磁石22(永久磁石でも可)とから構成される。これにより、磁場配向手段20の電磁石21と電磁石22は、金型100のキャビティ13に注入された樹脂組成物を該キャビティ13の歯幅形成方向で挟み、当該樹脂組成物に添加されている磁性材料の添加材を該キャビティ13の歯幅形成方向に沿う方向に配向するものになる。
【0021】
従って、ホイール成形品1は金型100を用いて以下の如くに成形される。
(1)金型100のキャビティ13に、ホイール成形品1のインサート金具2をセットする。
【0022】
(2)金型100のキャビティ13に、前述した、溶融樹脂に磁性材料からなる添加材を添加した樹脂組成物を射出成形して注入する(図2(A))。図2(A)の矢印はキャビティ13に注入される溶融樹脂の流れの向きを示す。
【0023】
(3)金型100のキャビティ13に注入した上述(2)の樹脂組成物が固化する前に(溶融樹脂は溶融状態又は半固化状態にある)、金型100に設けた磁場配向手段20(電磁石21、22)をオンすることにより、当該樹脂組成物に磁場を印加する。これにより、磁性材料からなる添加材は、ホイール成形品1の歯幅方向にその長尺状粒子の長手方向を添わせる一定方向に配向される(図2(B))。図2(B)の矢印は添加材の配向の向きを示す。
【0024】
尚、磁場配向手段20は、上述(2)の溶融樹脂の注入段階の当初から、樹脂組成物に磁場を印加するものであっても良い。
【0025】
(4)上述(3)の樹脂組成物を固化させ、ホイール成形品1を金型100から取出す。取出したホイール成形品1における樹脂層3の外周面に歯切りを施す等により歯を備えたウォームホイール等の歯車を得る。
【0026】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
溶融樹脂に磁性材料からなる添加材を添加する。そして、金型100に設けた磁場配向手段20により、金型100に注入された固化前の樹脂成形物に磁場を印加し、磁性材料からなる添加材を一定方向に配向する。従って、添加材の配向の向きを、添加の目的に応じて一定方向に揃えるように制御できる。
【0027】
ウォームホイール等の製造に対し、添加材たる強化材の長手方向の向き(配向の向き)を、添加の目的に応じて、歯幅方向に揃えることができる。
【0028】
(実施例2)(図3)
図3に示した実施例2は、図2に示した実施例1の金型100におけると同様の成形及び配向兼用金型200を用いる。
【0029】
金型200が金型100と異なる点は、磁場配向手段20に代わる磁場配向手段30を内蔵等したことにある。磁場配向手段30は、下型11の内部で、キャビティ13の半径方向の内周側に臨む周方向各部に埋込まれる電磁石31(永久磁石でも可)と、上型12の内部で、キャビティ13の半径方向の外周側に臨む周方向各部に埋込まれる電磁石32(永久磁石でも可)とから構成される。これにより、磁場配向手段30の電磁石31と電磁石32は、金型200のキャビティ13に注入された樹脂組成物を該キャビティ13の半径方向で挟み、当該樹脂組成物に添加されている磁性材料の添加材を該キャビティ13の半径方向に沿う方向に配向するものになる。
【0030】
従って、実施例2では、実施例1の金型100による前述(1)〜(4)の成形手順のうち、(1)、(2)、図3(A)、(4)を同様に行ない、(3)を以下の如くに行なう。即ち、金型200に設けた磁場配向手段30(電磁石31、32)をオンすることにより樹脂組成物に磁場を印加する。これにより、磁性材料からなる添加材は、ホイール成形品1の半径方向にその長尺状粒子の長手方向を添わせる一定方向に配向される(図3(B))。図3(A)の矢印はキャビティ13に注入される溶融樹脂の流れの向きを示す。図3(B)の矢印は添加材の配向の向きを示す。
【0031】
(実施例3)(図4)
図4に示した実施例3の金型300は、配向の向きを異にする2組の磁場配向手段、本実施例では実施例1における歯幅方向の磁場配向手段20と実施例2における半径方向の磁場配向手段30を有する。
【0032】
従って、実施例3では、単一の成形及び配向兼用金型300を用いながら、各磁場配向手段20、30を選択的にオンすることにより、実施例1、2のいずれかによる前述(1)〜(4)の成形手順を実施可能にし、磁性材料からなる添加材に付与する配向の向きを自由に選択することができる。図4(B)は磁場配向手段20をオンした歯幅方向に沿う配向状態を示す。図4(A)の矢印はキャビティ13に注入される溶融樹脂の流れの向きを示す。図4(B)の矢印は添加材の配向の向きを示す。
【0033】
(実施例4)(図5)
図5に示した実施例4を、実施例2の金型200(実施例1の金型100、実施例3の金型300でも可)を配向兼用金型とし、この金型200とともに、成形専用金型10を併用するようにしたものである。
【0034】
金型10は、金型200から磁場配向手段30を撤去したものであり、前述した、溶融樹脂に磁性材料からなる添加材を添加した樹脂組成物をその金型10のキャビティ13を用いて射出成形する。そして、その金型10により成形されて半固化状態にあるホイール成形品1を金型10のキャビティ13から金型200のキャビティ13に移し、金型200の磁場配向手段30を用いてホイール成形品1の磁性材料からなる添加材に実施例2におけると同様の配向を行なうものである。図5(A)の矢印はキャビティ13に注入される溶融樹脂の流れの向きを示す。図5(B)の矢印は添加材の配向の向きを示す。
【0035】
(実施例5)(図6)
図6に示した実施例5の成形及び配向兼用金型400は、下型11のボス孔嵌合部11Aに円形電磁石41(永久磁石でも可)からなる磁場配向手段40を内蔵等して設けたものである(図6(A))。これにより、磁場配向手段40の電磁石41は、金型400のキャビティ13に注入された樹脂組成物に印加されている磁性材料の添加材をキャビティ13の周方向に沿う方向に配向するものになる。
【0036】
従って、実施例5では、実施例1の金型100による前述(1)〜(4)の成形手順のうち、(1)、(2)、(4)を同様に行ない、(3)を以下の如くに行なう。即ち、金型400に設けた磁場配向手段40(電磁石41)をオンすることにより、樹脂組成物に磁場を印加する。これにより、磁性材料からなる添加材は、ホイール成形品1の周方向にその長尺状粒子の長手方向を添わせる一定方向に配向される(図6(B))。図6(B)の矢印は添加材の配向の向きを示す。
【0037】
以上、本発明の実施の形態を図面により記述したが、本発明の具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、動力伝達系成形品の製造方法及び装置であって、金型に設けた磁場配向手段により、金型に注入された固化前の樹脂成形物に磁場を印加し、磁性材料からなる添加材を一定方向に配向する。これにより、添加材を含む樹脂組成物からなる動力伝達用ホイール等の製造に際し、添加材の配向の向きを添加の目的に応じて制御できる。
【0039】
添加材としては、動力伝達用ホイール等の強度向上を図る強化材に限らず、各種目的の各種添加材を採用できる。そして、添加材の配向の向きをその添加の目的に応じて最適化できるものである。
【符号の説明】
【0040】
1 ホイール成形品
13 キャビティ
20 磁場配向手段
21、22 電磁石
30 磁場配向手段
31、32 電磁石
40 磁場配向手段
41 電磁石
100 金型
200 金型
300 金型
400 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティに、溶融樹脂に磁性材料からなる添加材を添加した樹脂組成物を注入して固化させる動力伝達系成形品の製造方法であって、
金型に設けた磁場配向手段により、金型に注入された固化前の樹脂成形物に磁場を印加し、磁性材料からなる添加材を一定方向に配向する動力伝達系成形品の製造方法。
【請求項2】
前記金型に配向の向きを異にする複数の磁場配向手段を設け、各磁場配向手段を選択的にオンすることにより、前記磁性材料からなる添加材に付与する配向の向きを選択する請求項1に記載の動力伝達系成形品の製造方法。
【請求項3】
金型のキャビティに、溶融樹脂に磁性材料からなる添加材を添加した樹脂組成物を注入して固化させる動力伝達系成形品の製造装置であって、
金型に注入された固化前の樹脂成形物に磁場を印加し、磁性材料からなる添加材を一定方向に配向する磁場配向手段が、金型に設けられてなる動力伝達系成形品の製造装置。
【請求項4】
前記金型に配向の向きを異にする複数の磁場配向手段を設け、各磁場配向手段を選択的にオンすることにより、前記磁性材料からなる添加材に付与する配向の向きを選択可能にする請求項3に記載の動力伝達系成形品の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−156664(P2011−156664A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17619(P2010−17619)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】