説明

動力伝達装置およびその制御方法

【課題】一方向動力伝達機構を有し一方向にのみ伝達可能な変速手段を有する動力伝達装置において、回生が可能な動力伝達装置およびその制御方法を提供する。
【解決手段】駆動軸2と、被駆動軸6と、
駆動軸2の動力を変速する第1変速手段3,4と、第1変速手段3,4が変速した動力の一方向のみの動力を被駆動軸6へ伝達する第1の一方向動力伝達機構5と、被駆動軸6の動力を変速する第2変速手段8,9と、第2変速手段8,9が変速した動力の一方向のみの動力を駆動軸2へ伝達する第2の一方向動力伝達機構10と、第1変速手段3,4および第2変速手段8,9のレシオを変更する制御手段20と、を備え、制御手段20は、第1変速手段3,4のレシオは、第2変速手段8,9のレシオより大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、てこクランク機構による偏心体駆動装置(変速機)と、ロック可能なフリーホイール装置(1-wayクラッチ機構)とを有し、駆動軸から被駆動軸へのレシオを無段階に変更可能な駆動装置(動力伝達装置)が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では駆動軸から被駆動軸へ駆動力を伝達することができるが、ロック可能なフリーホイール装置(1-wayクラッチ機構)を有しているため、被駆動軸から駆動軸へ駆動力を回生することができない構成となっていた。即ち、駆動軸を回転駆動させる動力源が内燃機関(エンジン)の場合、回生によるエンジンブレーキをすることができない構成となっており、動力源が電動機(モータ)の場合、回生による回生発電をすることができない構成となっていた。
このような、ロック可能なフリーホイール装置(1-wayクラッチ機構)を有する駆動装置(動力伝達装置)において、被駆動軸から駆動軸へ駆動力を回生させるためには、偏心体駆動装置(変速機)をバイパスして被駆動軸から駆動軸へ駆動力を回生させる回生機構が必要となる。このような回生機構として、クラッチを用い、偏心体駆動装置(変速機)の接続を解除して、被駆動軸から駆動軸へ接続させるバイパスを接続させる構成とした場合、駆動装置(動力伝達装置)全体が大型化し、制御が複雑化する。
【0005】
そこで、本発明は、一方向動力伝達機構(1-wayクラッチ機構)を有し、一方向にのみ伝達可能な変速手段を有する動力伝達装置において、回生が可能な動力伝達装置およびその制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、駆動軸と、被駆動軸と、前記駆動軸の動力を変速する第1変速手段と、前記第1変速手段が変速した動力の一方向のみの動力を前記被駆動軸へ伝達する第1の一方向動力伝達機構と、前記被駆動軸の動力を変速する第2変速手段と、前記第2変速手段が変速した動力の一方向のみの動力を前記駆動軸へ伝達する第2の一方向動力伝達機構と、前記第1変速手段および前記第2変速手段のレシオを変更する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記第1変速手段のレシオは、前記第2変速手段のレシオより大きくすることを特徴とする動力伝達装置である。
【0007】
このような動力伝達装置によれば、駆動軸の回転を第1変速手段で変速して第1の一方向動力伝達機構を介して、被駆動軸を駆動させることができる。また、被駆動軸の回転を第2変速手段で変速して第2の一方向動力伝達機構を介して、駆動軸に回生させることができる。そして、第1変速手段のレシオを第2変速手段のレシオより大きくすることにより、第1の一方向動力伝達機構および第2の一方向動力伝達機構が共に(同時に)接続状態となることを防止できるので、動力伝達装置の破損を防止できる。また、動力伝達装置が車両に搭載された場合、車両のドライバビリティが低下することはない。
【0008】
また、前記動力伝達装置において、前記制御手段は、前記第1変速手段のレシオを変更する際、前記第1変速手段の変更後のレシオが、前記第2変速手段の現在のレシオに所定値を加算したものより、小さい場合、前記第2変速手段のレシオが、前記第1変速手段の変更後のレシオより所定値以上小さくなるように変更し、その後、前記第1変速手段のレシオを変更することが好ましい。
【0009】
このような動力伝達装置によれば、第1変速手段のレシオを変更する変更途中においても、第1変速手段のレシオが第2変速手段のレシオより所定値以上大きい状態で維持される。これにより、レシオの変更途中においても、第1の一方向動力伝達機構および第2の一方向動力伝達機構が共に接続状態で回転速度に不整合が生じた場合の駆動系部品の破損を防止できる。
【0010】
また、前記動力伝達装置において、前記制御手段は、前記第2変速手段のレシオを変更する際、前記第1変速手段の現在のレシオが、前記第2変速手段の変更後のレシオに所定値を加算したものより、小さい場合、前記第1変速手段のレシオが、前記第2変速手段の変更後のレシオより所定値以上大きくなるように変更し、その後、前記第2変速手段のレシオを変更することが好ましい。
【0011】
このような動力伝達装置によれば、第2変速手段のレシオを変更する変更途中においても、第1変速手段のレシオが第2変速手段のレシオより所定値以上大きい状態で維持される。これにより、レシオの変更途中においても、第1の一方向動力伝達機構および第2の一方向動力伝達機構が共に接続状態で回転速度に不整合が生じた場合の駆動系部品の破損を防止できる。
【0012】
また、前記動力伝達装置において、前記第1変速手段は、てこクランク機構を用い、回転運動を揺動運動に変換することが好ましい。
【0013】
このような動力伝達装置によれば、第1変速手段として、回転運動を揺動運動に変換するてこクランク機構を用い、揺動運動を第1の一方向動力伝達機構を介して被駆動軸へ伝達させることができる。
【0014】
また、本発明は、駆動軸と、被駆動軸と、前記駆動軸の動力を変速する第1変速手段と、前記第1変速手段が変速した動力の一方向のみの動力を前記被駆動軸へ伝達する第1の一方向動力伝達機構と、前記被駆動軸の動力を変速する第2変速手段と、前記第2変速手段が変速した動力の一方向のみの動力を前記駆動軸へ伝達する第2の一方向動力伝達機構と、前記第1変速手段および前記第2変速手段のレシオを変更する制御手段と、を備える動力伝達装置の制御方法であって、前記制御手段は、前記第1変速手段のレシオが前記第2変速手段のレシオより大きくすることを特徴とする動力伝達装置の制御方法である。
【0015】
このような動力伝達装置の制御方法によれば、駆動軸の回転を第1変速手段で変速して第1の一方向動力伝達機構を介して、被駆動軸を駆動させることができる。また、被駆動軸の回転を第2変速手段で変速して第2の一方向動力伝達機構を介して、駆動軸に回生させることができる。そして、第1変速手段のレシオを第2変速手段のレシオより大きくすることにより、第1の一方向動力伝達機構および第2の一方向動力伝達機構が共に(同時に)接続状態となることを防止できるので、動力伝達装置の破損を防止できる。また、動力伝達装置が車両に搭載された場合、車両のドライバビリティが低下することはない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一方向動力伝達機構(1-wayクラッチ機構)を有し、一方向にのみ伝達可能な変速手段を有する動力伝達装置において、回生が可能な動力伝達装置およびその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る動力伝達装置の構成図である。
【図2】運転状態決定部が実行する変速機の変速要求処理を示すフローチャートである。
【図3】レシオ変更制御部23が実行する変速機の変速制御処理を示すフローチャートである。
【図4】(A)は本実施形態に係る動力伝達装置の駆動時における動作を説明する図であり、(B)は本実施形態に係る動力伝達装置の回生時における動作を説明する図である。
【図5】動力伝達装置に関し、(A)は駆動側レシオと回生側レシオが等しい場合を示す図であり、(B)は駆動側レシオが回生側レシオよりも小さい場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0019】
≪動力伝達装置の構成≫
図1は、本実施形態に係る動力伝達装置Sの構成図である。
図1示す本実施形態に係る動力伝達装置Sは、図示しない車両(移動体)に搭載されており、動力源1で発生した駆動力を駆動輪7に伝達し、車両(移動体)の駆動力を発生する装置である。また、駆動輪7は、1つのみ図示されているが、複数であってもよい。なお、車両(移動体)は、四輪車に限定されず、二輪車、三輪車でもよい。
図1に示すように、動力伝達装置Sは、動力源1と、駆動軸2と、駆動側変速機3と、駆動側変速機出力軸4と、駆動側1-wayクラッチ機構5と、出力軸6と、駆動輪7と、回生側変速機8と、回生側変速機出力軸9と、回生側1-wayクラッチ機構10と、ECU20(Electronic Control Unit、電子制御装置)とを備えている。
【0020】
動力源1は、駆動力を発生し、駆動軸2を回転駆動させるものである。動力源1は、内燃機関(エンジン)であるものとして説明するが、これに限られるものではなく、例えば、電動機(モータ)であってもよい。
【0021】
駆動軸2は、動力源1により回転駆動され、回転力を駆動側変速機3に入力するようになっている。
また、駆動軸2には、駆動軸2の回転速度を検出する駆動軸回転速度検出機構33が配置されている。駆動軸回転速度検出機構33は、検出した回転速度を示す信号をECU20に送信されるようになっている。
【0022】
駆動側変速機3は、駆動軸2の回転力をECU20により設定された駆動側レシオに基づいて変速して、駆動側変速機出力軸4を駆動させるようになっている。
駆動側変速機3は、レシオを無段階で変更可能な無段変速機であってもよく、レシオを段階的に変更する有段変速機であってもよい。また、駆動側変速機3は、後段に駆動側1-wayクラッチ機構5を有しているため、特許文献1に示すような「てこクランク機構」を用いて駆動軸2の回転運動を揺動運動に変換する変速機であってもよい。なお、てこクランク機構を用いた変速機は、間欠的な駆動力とあるため、複数のパスを備える変速機とすることが望ましい。
【0023】
ここで、駆動側変速機3のレシオである駆動側レシオは、「動力源2の側の回転速度/駆動輪7の側の回転速度」と定義するものとする。即ち、「駆動軸2の回転速度/駆動側変速機出力軸4の回転速度」で定義する。このため、駆動側レシオは、変速機の一般的な変速比(変速機の入力軸側の回転速度/変速機の出力軸側の回転速度)で定義する。
【0024】
駆動側1-wayクラッチ機構5は、駆動側変速機出力軸4の回転速度が出力軸6の回転速度を上回ると、駆動力を伝達する。一方、駆動側変速機出力軸4の回転速度が出力軸6未満の場合、駆動力を伝達しないようになっている。
【0025】
出力軸6は、駆動側1-wayクラッチ機構5を介して、駆動側変速機3で変速された動力源1からの駆動力により回転駆動する。
また、出力軸6には、出力軸6の回転速度を検出する出力軸回転速度検出機構34が配置されている。出力軸回転速度検出機構34は、検出した回転速度を示す信号をECU20に送信されるようになっている。
【0026】
出力軸6には、駆動輪7が取り付けられ、動力伝達装置Sが取り付けられた車両が、移動可能に構成されている。また、出力軸6は、回生側変速機8に接続されている。
【0027】
回生側変速機8は、出力軸6の回転力をECU20により設定された回生側レシオに基づいて変速して、回生側変速機出力軸9を駆動させるようになっている。
回生側変速機8は、レシオを無段階で変更可能な無段変速機であってもよく、レシオを段階的に変更する有段変速機であってもよい。また、回生側変速機8は、後段に回生側1-wayクラッチ機構10を有しているため、特許文献1に示すような「てこクランク機構」を用いて出力軸6の回転運動を揺動運動に変換する変速機であってもよい。なお、てこクランク機構を用いた変速機は、間欠的な駆動力とあるため、複数のパスを備える変速機とすることが望ましい。
【0028】
なお、駆動側変速機3と回生側変速機8とは、共に無段変速機であってもよく、共に有段変速機であってもよく、一方が無段変速機で他方が有段変速機であってもよい。また、駆動側変速機3と回生側変速機8とがてこクランク機構を用いた変速機である場合、回生側変速機8のパスは、駆動側変速機3のパスよりも少なくしてもよい。
【0029】
ここで、回生側変速機8のレシオである回生側レシオは、「動力源2の側の回転速度/駆動輪7の側の回転速度」と定義するものとする。即ち、「回生側変速機出力軸9の回転速度/出力軸6の回転速度」で定義する。このため、回生側レシオは、変速機の一般的な変速比(変速機の入力軸側の回転速度/変速機の出力軸側の回転速度)の逆数で定義する。
【0030】
回生側1-wayクラッチ機構10は、回生側変速機出力軸9の回転速度が駆動軸2の回転速度を上回ると、駆動力を伝達する。一方、回生側変速機出力軸9の回転速度が駆動軸2未満の場合、駆動力を伝達しないようになっている。
【0031】
ECU20は、動力伝達装置Sの運転動作を決定する運転状態決定部21と、動力源1を制御する動力源制御部22と、駆動側変速機3および回生側変速機8のレシオを制御するレシオ変更制御部23と、を有している。
ECU20は、アクセル31のアクセル開度、シフトポジション32、駆動軸回転速度検出機構33の回転速度、出力軸回転速度検出機構34の回転速度の信号が入力されるようになっている。
【0032】
<動力伝達装置Sの動作例>
ここで、図4を参照しつつ、動力伝達装置Sの動作例について説明する。なお、図4において、ECU20等は省略して図示している。
【0033】
図4(A)は、本実施形態に係る動力伝達装置Sの駆動時における動作を説明する図である。
例えば、駆動側変速機3のレシオ(駆動側レシオ)を4、回生側変速機8のレシオ(回生側レシオ)を3とし、動力源1が1000rpm(回転/秒)で駆動軸2を回転させた場合について説明する。
【0034】
動力源1で発生した駆動力により駆動軸2が1000rpmで回転され、駆動側変速機3に伝達される。駆動側変速機3により、駆動側変速機出力軸4は、250rpm(=1000rpm/4)で回転され、接続状態の駆動側1-wayクラッチ機構5を介して、出力軸6が250rpmで回転される。そして、出力軸6と接続された駆動輪7が250rpmで回転される。
【0035】
一方、出力軸6が250rpmで回転することにより、回生側変速機8で変速され、回生側変速機出力軸9は750rpmで回転する。
そして、回生側1-wayクラッチ機構10の入力側である回生側変速機出力軸9が750rpmで回転するのに対し、回生側1-wayクラッチ機構10の出力側である駆動軸2が1000rpmで回転しているため、回生側1-wayクラッチ機構10は、不接続となる。
【0036】
このように、駆動側1-wayクラッチ機構5が接続状態となり、回生側1-wayクラッチ機構10が不接続状態となることにより、動力源1(駆動軸2)の駆動力が駆動輪7(出力軸6)に伝達されるようになっている。
【0037】
図4(B)は、本実施形態に係る動力伝達装置Sの回生時における動作を説明する図である。
例えば、駆動側変速機3のレシオ(駆動側レシオ)を4、回生側変速機8のレシオ(回生側レシオ)を3とし、駆動輪7が250rpm(回転/秒)で回転しているときに、動力源1の発生駆動力を停止させた場合について説明する。
【0038】
駆動輪7が750rpmで回転することにより、出力軸6も同回転速度で回転する。そして、出力軸6と接続された回生側変速機8により、回生側変速機出力軸9は、750rpm(=250rpm×3)で回転され、接続状態の回生側1-wayクラッチ機構10を介して、駆動軸2が750rpmで回転される。
【0039】
一方、駆動軸2が750rpmで回転することにより、駆動側変速機3で変速され、駆動側変速機出力軸4は約188rpmで回転する。
そして、駆動側1-wayクラッチ機構5の入力側である駆動側変速機出力軸4が約188rpmで回転するのに対し、駆動側1-wayクラッチ機構5の出力側である出力軸6が250rpmで回転しているため、駆動側1-wayクラッチ機構5は、不接続となる。
【0040】
このように、駆動側1-wayクラッチ機構5が不接続状態となり、回生側1-wayクラッチ機構10が接続状態となることにより、駆動輪7(出力軸6)から動力源1(駆動軸2)に回生するようになっている。
【0041】
次に、図5を用いて本実施形態に係る動力伝達装置Sの不具合が発生する状態について説明する。なお、図5において、ECU20等は省略して図示している。
【0042】
図5(A)は、動力伝達装置Sに関し、駆動側変速機3のレシオ(駆動側レシオ)と回生側変速機8のレシオ(回生側レシオ)が等しい場合を示す図である。
図5(A)に示すように、駆動側レシオと回生側レシオが等しい場合(図5(A)では、どちらも4とする)、駆動側1-wayクラッチ機構5および回生側1-wayクラッチ機構10が共に、接続状態となる。しかし、部品誤差や経年劣化等により、駆動側レシオと回生側レシオとの間に齟齬が生じると、ギヤ等を破損させるおそれがある。
【0043】
図5(B)は、動力伝達装置Sに関し、駆動側変速機3のレシオ(駆動側レシオ)が回生側変速機8のレシオ(回生側レシオ)よりも小さい場合を示す図である。
図5(B)に示すように、動力源1が駆動軸2を1000rpmで回転させることにより、駆動側変速機3、駆動側変速機出力軸4および駆動側1-wayクラッチ機構5を介して、出力軸6が250rpmで回転される。
一方、出力軸6が250rpmで回転することにより、回生側変速機8、回生側変速機出力軸9および、回生側1-wayクラッチ機構10を介して、駆動軸2を1250rpmでさせようとする。
【0044】
このように、駆動側1-wayクラッチ機構5および回生側1-wayクラッチ機構10が共に接続状態となると(図5(A)、図5(B)参照)、動力伝達装置Sのギヤ(変速機3、8や1-wayクラッチ機構5、10の内部に包含)等を破損させたり、動力伝達装置Sが搭載された車両(図示せず)のドライバビリティを悪化させたりするおそれがある。
このため、図4に示すように、駆動側レシオは、回生側レシオよりも大きく設定されている。
【0045】
≪動力伝達装置の動作≫
図4、図5に示すように、駆動側レシオは回生側レシオよりも大きく設定されている必要がある。
ECU20が実行する駆動側変速機3または回生側変速機8のレシオの変更処理について、図2および図3を用いて説明する。
【0046】
<駆動側変速機および回生側変速機の変速指令処理>
まず、図2を用いて、ECU20の運転状態決定部21が実行する変速機(駆動側変速機3、回生側変速機8)の変速要求処理について説明する。
【0047】
ステップS101において、運転状態決定部21は、動力伝達装置Sが力行状態か否かを判定する。ここで、力行状態とは、動力源1(駆動軸2)から駆動輪7(出力軸6)に駆動力が伝達されている状態であり、駆動側1-wayクラッチ機構5が接続状態となっている状態である。運転状態決定部21は、駆動軸回転速度検出機構33で検出した駆動軸2の回転速度、出力軸回転速度検出機構34で検出した出力軸6の回転速度および駆動側変速機3のレシオ(駆動側レシオ)に基づいて、力行状態であるか否かを判定する。即ち、駆動軸回転速度検出機構33で検出した駆動軸2の回転速度および駆動側変速機3のレシオ(駆動側レシオ)に基づいて駆動側1-wayクラッチ機構5の入力側の回転速度をを算出し、出力軸回転速度検出機構34で検出した出力軸6の回転速度に基づいて駆動側1-wayクラッチ機構5の出力側の回転速度を算出し、駆動側1-wayクラッチ機構5の入力側・出力側の回転速度を比較することで駆動側1-wayクラッチ機構5が接続状態であるか否かを判定する。また、運転状態決定部21は、アクセル31のアクセル開度が所定値以上となった場合、力行状態と判定してもよい。
力行状態である場合(S101・Yes)、運転状態決定部21の処理は、ステップS102に進む。一方、力行状態でない場合(S101・No)、運転状態決定部21の処理は、ステップS106に進む。
【0048】
ステップS102において、運転状態決定部21は、アクセル31のアクセル開度、シフトポジション32に基づいて、動力源1が発生させるエンジン出力(動力源1がモータの場合には発生出力)を決定する。
【0049】
ステップS103において、運転状態決定部21は、ステップS102で決定したエンジン出力(モータ出力)と出力軸6の回転速度に基づいて、駆動側変速機3のレシオ(駆動側レシオ)を決定する。ここで、運転状態決定部21は、動力源1の正味燃料消費率(BSFC:Brake Specific Fuel Consumption)のマップに基づいて、要求されるエンジン出力に対して、正味燃料消費率が小さくなる動力源1の回転速度となるように、駆動側変速機3の駆動側レシオを決定する。また、駆動源1がモータの場合には、同様に、要求されるモータ出力に対して、消費電力量が小さいモータ回転速度となるように、駆動側変速機3の駆動側レシオを決定する。
【0050】
ステップS104において、運転状態決定部21は、駆動側変速機3のレシオ(駆動側レシオ)を変更するか否かを判定する。即ち、ステップS103で決定した駆動側変速機3のレシオ(駆動側レシオ)と、現在の駆動側変速機3のレシオとが、異なるか否かを判定する。
駆動側レシオを変更する場合(S104・Yes)、運転状態決定部21の処理は、ステップS105に進む。一方、駆動側レシオを変更しない場合(S104・No)、運転状態決定部21の処理を終了する。
【0051】
ステップS105において、運転状態決定部21は、ステップS103で決定した駆動側変速機3のレシオを駆動側レシオ(目標値)として、ECU20のレシオ変更制御部23に変速要求を指令する。
そして、運転状態決定部21の処理を終了する。
【0052】
ステップS106において、運転状態決定部21は、シフトポジション32を検出する。
【0053】
ステップS107において、運転状態決定部21は、ステップS106で検出したシフトポジション32に基づいて、回生側変速機8のレシオ(回生側レシオ)を決定する。ここで、運転状態決定部21は、シフトポジション32と回生側レシオとの対応を示すマップに基づいて、回生側レシオを決定する。
【0054】
ステップS108において、運転状態決定部21は、回生側変速機8のレシオ(回生側レシオ)を変更するか否かを判定する。即ち、ステップS107で決定した回生側変速機8のレシオ(回生側レシオ)と、現在の回生側変速機8のレシオとが、異なるか否かを判定する。
回生側レシオを変更する場合(S108・Yes)、運転状態決定部21の処理は、ステップS109に進む。一方、駆動側レシオを変更しない場合(S108・No)、運転状態決定部21の処理を終了する。
【0055】
ステップS109において、運転状態決定部21は、ステップS107で決定した回生側変速機8のレシオを回生側レシオ(目標値)として、ECU20のレシオ変更制御部23に変速要求を指令する。
そして、運転状態決定部21の処理を終了する。
【0056】
<駆動側変速機および回生側変速機の変速制御処理>
次に、図3を用いて、ECU20のレシオ変更制御部23が実行する変速機(駆動側変速機3、回生側変速機8)の変速制御(レシオ変更制御)処理について説明する。
【0057】
ステップS201において、レシオ変更制御部23は、「変速要求」があるか否かを判定する。ここで、「変速要求」とは、運転状態決定部21からレシオ変更制御部23に駆動側レシオ(目標値)または回生側レシオ(目標値)が入力された場合をいう(図2ステップS105、またはステップS109参照)。なお、駆動側レシオ(目標値)と駆動側レシオ(現在値)とが異なっている場合、または、回生側レシオ(目標値)と回生側レシオ(現在値)とが異なっている場合、変速要求があると判定してもよい。
変速要求がある場合(S201・Yes)、レシオ変更制御部23の処理は、ステップS202に進む。一方、変速要求がない場合(S201・No)レシオ変更制御部23の処理は、ステップS211に進む。
【0058】
ステップS202において、レシオ変更制御部23は、「変速要求が駆動側」であるか否かを判定する。ここで、「変速要求が駆動側」とは、運転状態決定部21からレシオ変更制御部23に駆動側レシオ(目標値)が入力された場合をいう。
変速要求が駆動側である場合(S202・Yes)、レシオ変更制御部23の処理は、ステップS203に進む。一方、変速要求が駆動側でない場合(S202・No)、レシオ変更制御部23の処理は、ステップS207に進む。
【0059】
ステップS203において、レシオ変更制御部23は、駆動側レシオ(目標値)が、回生側レシオ(現在値)に所定値Aを加算したものに対して、小さいか否かを判定する。即ち、「駆動側レシオ(目標値)<回生側レシオ(現在値)+A」であるか否かを判定する。
ここで、所定値Aとは、部品公差、部品の経年劣化、センサ計測誤差等により設定される正数であり、実際の回生側レシオが実際の駆動側レシオよりローレシオとならないようにするための数値である。
駆動側レシオ(目標値)が回生側レシオ(現在値)に所定値Aを加算したものより小さい場合(S203・Yes)、レシオ変更制御部23の処理は、ステップS204に進む。一方、駆動側レシオ(目標値)が回生側レシオ(現在値)に所定値Aを加算したものより小さくない場合(S203・No)、レシオ変更制御部23の処理は、ステップS205に進む。
【0060】
ステップS204において、レシオ変更制御部23は、回生側レシオの変速を実行する。即ち、レシオ変更制御部23は、回生側変速機8の変速比(回生側レシオ)を変更する。
ここで、回生側変速機8の変更後のレシオである回生側レシオ(次回値)は、駆動側レシオ(目標値)−Aとなるように変速する。即ち、「回生側レシオ(次回値)=駆動側レシオ(目標値)−A」とする。
なお、回生側変速機8がギヤ比(レシオ)を段階的に変速する有段変速機である場合には、「回生側レシオ(次回値)≦駆動側レシオ(目標値)−A」を満たす最もローレシオなギヤを選択して、回生側レシオ(次回値)とする。
なお、駆動側1-wayクラッチ機構5および回生側1-wayクラッチ機構10が共に接続状態となることを防止するためには、「回生側レシオ(次回値)≦駆動側レシオ(目標値)−A」であればよい。
そして、レシオ変更制御部23の処理は、ステップS206に進む。
【0061】
ステップS205において、レシオ変更制御部23は、回生側レシオを保持する。即ち、レシオ変更制御部23は、回生側変速機8の変速比(回生側レシオ)を変更しないで維持する。即ち、「回生側レシオ(次回値)=回生側レシオ(現在値)」とする。
そして、レシオ変更制御部23の処理は、ステップS206に進む。
【0062】
ステップS206において、レシオ変更制御部23は、駆動側レシオの変速を実行する。即ち、レシオ変更制御部23は、駆動側変速機3の変速比(駆動側レシオ)を変更する。
ここで、駆動側変速機3の変更後のレシオである駆動側レシオ(次回値)は、駆動側レシオ(目標値)となるように変速する。即ち、「駆動側レシオ(次回値)=駆動側レシオ(目標値)」とする。
そして、レシオ変更制御部23の処理を終了する。
【0063】
ステップS207において、レシオ変更制御部23は、駆動側レシオ(現在値)が、回生側レシオ(目標値)に所定値Aを加算したものに対して、小さいか否かを判定する。即ち、「駆動側レシオ(現在値)<回生側レシオ(目標値)+A」であるか否かを判定する。
駆動側レシオ(現在値)が回生側レシオ(目標値)に所定値Aを加算したものより小さい場合(S207・Yes)、レシオ変更制御部23の処理は、ステップS208に進む。駆動側レシオ(現在値)が回生側レシオ(目標値)に所定値Aを加算したものより小さくない場合(S207・No)、レシオ変更制御部23の処理は、ステップS209に進む。
【0064】
ステップS208において、レシオ変更制御部23は、駆動側レシオの変速を実行する。即ち、レシオ変更制御部23は、駆動側変速機3の変速比(駆動側レシオ)を変更する。
ここで、駆動側変速機3の変更後のレシオである駆動側レシオ(次回値)は、回生側レシオ(目標値)+Aとなるように変速する。即ち、「駆動側レシオ(次回値)=回生側レシオ(目標値)+A」とする。
なお、駆動側変速機3がギヤ比(レシオ)を段階的に変速する有段変速機である場合には、「駆動側レシオ(次回値)≧回生側レシオ(目標値)+A」を満たす最もハイレシオなギヤを選択して、駆動側レシオ(次回値)とする。
なお、駆動側1-wayクラッチ機構5および回生側1-wayクラッチ機構10が共に接続状態となることを防止するためには、「駆動側レシオ(次回値)≧回生側レシオ(目標値)+A」であればよい。
そして、レシオ変更制御部23の処理は、ステップS210に進む。
【0065】
ステップS209において、レシオ変更制御部23は、駆動側レシオを保持する。即ち、レシオ変更制御部23は、駆動側変速機3の変速比(駆動側レシオ)を変更しないで維持する。即ち、「駆動側レシオ(次回値)=駆動側レシオ(現在値)」とする。
そして、レシオ変更制御部23の処理は、ステップS210に進む。
【0066】
ステップS210において、レシオ変更制御部23は、回生側レシオの変速を実行する。即ち、レシオ変更制御部23は、回生側変速機8の変速比(回生側レシオ)を変更する。
ここで、回生側変速機8の変更後のレシオである回生側レシオ(次回値)は、回生側レシオ(目標値)となるように変速する。即ち、「回生側レシオ(次回値)=回生側レシオ(目標値)」とする。
そして、レシオ変更制御部23の処理を終了する。
【0067】
ステップS211において、レシオ変更制御部23は、駆動側レシオおよび回生側レシオを保持する。即ち、レシオ変更制御部23は、駆動側変速機3の変速比(駆動側レシオ)を変更しないで維持し、回生側変速機8の変速比(回生側レシオ)を変更しないで維持する。即ち、「駆動側レシオ(次回値)=駆動側レシオ(現在値)」かつ「回生側レシオ(次回値)=回生側レシオ(現在値)」とする。
そして、レシオ変更制御部23の処理を終了する。
【0068】
≪動力伝達装置の効果≫
このような動力伝達装置Sによれば、次の効果を得る。
【0069】
図1に示すように、動力伝達装置Sは、駆動側変速機3に駆動側1-wayクラッチ機構5を備える構成であっても、回生側変速機8と回生側1-wayクラッチ機構10と備えることにより、動力伝達装置Sを大型化することなく、出力軸6(駆動輪7)から駆動軸2(動力源1)への回生が可能となる(図4(B)参照)。これにより、変速機に1-wayクラッチ機構を有する動力伝達装置Sであっても、出力軸6(駆動輪7)から駆動軸2(動力源1)へ回生させるエンジンブレーキを使用することができる。なお、動力源1がモータである場合には、回生発電を行うことができる。
【0070】
また、ECU20のレシオ変更制御部23は、変更要求がある側の変速機(駆動側変速機3、回生側変速機8)のレシオを変更する前に、変更要求に従ってレシオを変更した場合「駆動側レシオが回生側レシオより所定値A以上」の条件が満たされているかについて判定し(図3のS203、S207参照)、条件を満たす場合(図3のS203・No、S207・No参照)、変更要求が有る側の変速機(駆動側変速機3、回生側変速機8)のレシオを変更要求に従って変更する。
一方、条件を満たさない場合(図3のS203・Yes、S207・Yes参照)、先に変更要求が有る側と対向する側の変速機(回生側変速機8、駆動側変速機3)のレシオを変更し(図3のS204、S208参照)、その後、変更要求が有る側の変速機(駆動側変速機3、回生側変速機8)のレシオを変更要求に従って変更する(図3のS206、S210参照)。
【0071】
これにより、ECU20の運転状態決定部21の変速要求に応じて、駆動側変速機3および回生側変速機8の変速比(駆動側レシオ、回生側レシオ)を変速することができる。
また、「駆動側レシオが回生側レシオより大きい」という関係を保持しつつ、即ち、図5(A)および図5(B)に示すような駆動側1-wayクラッチ機構5および回生側1-wayクラッチ機構10の両方が接続状態で回転速度に不整合が生じた場合の駆動系部品の破損を防止して、動力伝達装置Sの破損や動力伝達装置Sが搭載された車両(図示せず)のドライバビリティの悪化を防止することができる。
【符号の説明】
【0072】
S 動力伝達装置
1 動力源
2 駆動軸
3 駆動側変速機(第1変速手段)
4 駆動側変速機出力軸(第1変速手段)
5 駆動側1-wayクラッチ機構(第1の一方向動力伝達機構)
6 出力軸(被駆動軸)
7 駆動輪
8 回生側変速機(第2変速手段)
9 回生側変速機出力軸(第2変速手段)
10 回生側1-wayクラッチ機構(第2の一方向動力伝達機構)
20 ECU(制御手段)
21 運転状態決定部
22 動力源制御部
23 レシオ変更制御部
31 アクセル
32 シフトポジション
33 駆動軸回転速度検出機構
34 出力軸回転速度検出機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と、
被駆動軸と、
前記駆動軸の動力を変速する第1変速手段と、
前記第1変速手段が変速した動力の一方向のみの動力を前記被駆動軸へ伝達する第1の一方向動力伝達機構と、
前記被駆動軸の動力を変速する第2変速手段と、
前記第2変速手段が変速した動力の一方向のみの動力を前記駆動軸へ伝達する第2の一方向動力伝達機構と、
前記第1変速手段および前記第2変速手段のレシオを変更する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記第1変速手段のレシオは、前記第2変速手段のレシオより大きくする
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1変速手段のレシオを変更する際、
前記第1変速手段の変更後のレシオが、前記第2変速手段の現在のレシオに所定値を加算したものより、小さい場合、
前記第2変速手段のレシオが、前記第1変速手段の変更後のレシオより所定値以上小さくなるように変更し、
その後、前記第1変速手段のレシオを変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第2変速手段のレシオを変更する際、
前記第1変速手段の現在のレシオが、前記第2変速手段の変更後のレシオに所定値を加算したものより、小さい場合、
前記第1変速手段のレシオが、前記第2変速手段の変更後のレシオより所定値以上大きくなるように変更し、
その後、前記第2変速手段のレシオを変更する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記第1変速手段は、
てこクランク機構を用い、回転運動を揺動運動に変換する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
駆動軸と、
被駆動軸と、
前記駆動軸の動力を変速する第1変速手段と、
前記第1変速手段が変速した動力の一方向のみの動力を前記被駆動軸へ伝達する第1の一方向動力伝達機構と、
前記被駆動軸の動力を変速する第2変速手段と、
前記第2変速手段が変速した動力の一方向のみの動力を前記駆動軸へ伝達する第2の一方向動力伝達機構と、
前記第1変速手段および前記第2変速手段のレシオを変更する制御手段と、を備える動力伝達装置の制御方法であって、
前記制御手段は、
前記第1変速手段のレシオが前記第2変速手段のレシオより大きくする
ことを特徴とする動力伝達装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−202480(P2012−202480A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67538(P2011−67538)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】