説明

動力伝達装置の制御装置

【課題】変速時のフィーリングを改善する動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】本発明の動力伝達装置の制御装置は、遮断状態から接合状態に向けてクラッチトルクを増加させるようにアクチュエータの作動を開始したときに、クラッチトルクTcの大きさを遮断状態よりも大きな値である初期値Tc0に向けて所定時間で漸増させる初期工程S31と、内燃機関回転センサから入力される内燃機関回転数とクラッチが作動開始してからの経過時間とで決定される内燃機関回転数曲線が目標とする理想内燃機関回転数曲線に近づくように少なくとも内燃機関回転数と理想内燃機関回転数とが一致するまでアクチュエータのフィードバック制御を行うフィードバック工程S32と、フィードバック工程S32における内燃機関回転数と理想内燃機関回転数とのずれの大きさに関連する値に基づき、初期値Tc0を補正する補正工程S33と、を有する工程で動力伝達装置を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置の制御装置に関し、特に自動変速機を有する動力伝達装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の変速機には、運転者が変速操作を行う手動変速機と、自動的に変速操作が行われるようにした自動変速機とがある。一般的な手動変速機は、動力源(内燃機関など)から動力が入力される入力軸又は車両の駆動輪に動力を伝達する出力軸のどちらかに固設される複数の駆動ギヤと、この駆動ギヤと常時噛み合うとともに出力軸又は入力軸に遊転可能に配設される複数の遊転ギヤと、入力軸上のギヤ及び出力軸上のギヤを同期回転させた後に結合させる同期装置と、を備える場合が多い。この手動変速機は動力の伝達効率がよいとされていることから、手動変速機をベースに、動力源の出力を制御する装置、動力源及び自動変速機の間に介装されるクラッチの断接を制御する装置、変速段を選択・切替を行う装置、それらの装置を制御する制御装置などが組み合わされた自動変速機がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
ところで、このような自動変速機は、車両の走行状態に基づき、動力源の出力、変速段の選択・切替やクラッチの断接が自動で行われるため、変速の際のショックや音が発生しないように、車両の搭乗者が快適に、さらには燃費向上などを考慮した制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−129997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したように制御が行われるとしても、個体バラツキ、環境の変化あるいは使用による劣化などにより、搭乗者のフィーリングが低下する場合がある。なお、個体バラツキとは、変速機に用いられる各部品の成形精度に由来するバラツキや組み立て精度に由来するバラツキなどである。また、環境変化とは、車両が使用される時間帯、季節あるいは地域等が変わることで変化する気温や湿度などが原因となる違いである。また、劣化とは、使用(走行)した経過時間により生じる部品の摩耗による劣化などである。
【0006】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたもので、変速時のフィーリングを改善することができる動力伝達装置の制御装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明の構成上の特徴は、内燃機関と、
前記内燃機関の出力軸の回転数を測定する内燃機関回転センサと、
前記動力源の出力軸から動力が伝達される入力軸と、車両の駆動輪へと前記動力を伝達する出力軸とを備え、前記出力軸の回転数に対する前記入力軸の回転数の割合である減速比を調整可能な変速機と、
前記変速機の入力軸の回転数を測定する入力軸回転センサと、
前記動力源の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装され、前記動力源の出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力の少なくとも一部を伝達する接合状態と、前記動力を伝達しない遮断状態とに調整可能なクラッチと、
前記接合状態のクラッチトルクを可変するアクチュエータと、
を有する動力伝達装置、を制御する制御装置であって、
前記遮断状態から接合状態に向けて前記クラッチトルクを増加させるように前記アクチュエータの作動を開始したときに、
前記クラッチトルクの大きさを前記遮断状態よりも大きな値である初期値に向けて所定時間で漸増させる初期工程と、
前記内燃機関回転センサから入力される内燃機関回転数と前記クラッチが作動開始してからの経過時間とで決定される内燃機関回転数曲線が目標とする理想内燃機関回転数曲線に近づくように少なくとも前記内燃機関回転数と理想内燃機関回転数とが一致するまで前記アクチュエータのフィードバック制御を行うフィードバック工程と、
前記フィードバック工程における前記内燃機関回転数と前記理想内燃機関回転数とのずれの大きさに関連する値に基づき、次回以降に用いる前記初期値を補正する補正工程と、
を有する工程で動力伝達装置を制御することである。
【0008】
また請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記補正工程が、前記内燃機関回転数と前記理想内燃機関回転数とが一致したときの前記クラッチトルクの値に近づけるように、次回以降に用いる前記初期値を補正する工程であることである。クラッチトルクの大きさを変化させる程度としては適正に決定できる。例えば、初期値と近づけるべきクラッチトルクの値との差に対して何らかの係数(0〜1の範囲で設定することが望ましい)を乗じた値を初期値に加えることで補正を行うことができる。
【0009】
また請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記補正工程が、前記内燃機関回転数曲線と前記理想内燃機関回転数曲線とで囲まれた領域の面積の大きさに応じて補正を行うことである。ここで、面積は2つの曲線について偏差が生じている区間における偏差の平均値に関連する値である。例えば、面積の大きさに対して所定の係数を乗じた値を初期値に加えることで補正を行うことができる。
【0010】
また請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記補正工程が、前記内燃機関回転数曲線の傾斜と、前記理想内燃機関回転数曲線の傾斜とに応じて前記初期値を補正することである。ここで、傾斜としては、ある経過時点での偏差を採用したり、両曲線の傾斜について偏差を求め、その偏差の平均値を採用したりすることができる。傾斜に基づき算出した値に対して所定の係数を乗じた値を初期値に加えることで補正を行うことができる。
【0011】
また請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜4において、前記補正工程が、前記内燃機関回転数と前記理想内燃機関回転数とが一致したときの前記経過時間が短いほど前記補正の絶対値を大きくすることである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明においては、内燃機関と内燃機関回転センサと変速機と入力軸回転センサとクラッチとアクチュエータとを有する動力伝達装置を制御する制御装置が、変速のためにクラッチを遮断状態から接合状態に向けてクラッチトルクを増加させるようにアクチュエータの作動を開始したときに、初期工程とフィードバック工程と補正工程とを有する工程で動力伝達装置を制御する。初期工程は第1目的に向けてクラッチを漸増させ、フィードバック工程は内燃機関回転数曲線が理想内燃機関回転数曲線に近づくようにアクチュエータをフィードバック制御し、補正工程は内燃機関回転数と理想内燃機関回転数とのずれの大きさに関連する値に基づき、次回以降に用いる初期値を補正する。よって、次回の変速では、内燃機関の内燃機関回転数が理想内燃機関回転数に近づき、個体バラツキ、環境の変化あるいは劣化などによるフィーリングの低下を改善することができる。
【0013】
請求項2に係る発明においては、補正工程で内燃機関回転数と理想内燃機関回転数とが一致したときのクラッチトルクの値に近づくように、次回以降に用いる初期値を補正するため、最初から充分なクラッチトルクを付与することが可能になり、速やかに変速作動を完了することができる。
【0014】
請求項3に係る発明においては、補正工程で内燃機関回転数曲線と理想内燃機関回転数曲線とで囲まれた領域の面積の大きさに応じて補正を行うため、次回より内燃機関回転数が理想内燃機関回転数に近づくように、初期値を補正することができる。
【0015】
請求項4に係る発明においては、内燃機関回転数曲線の傾斜と、理想内燃機関回転数曲線の傾斜とに応じて初期値を補正するため、次回より内燃機関回転数が理想内燃機関回転数に近づくように、初期値を補正することができる。
【0016】
請求項5に係る発明においては、内燃機関回転数と理想内燃機関回転数とが一致するまでの経過時間が短いほど補正の絶対値を大きくする。この経過時間が短いほど変速時のショックが大きくなるものと考えられるため、その経過時間が短いほど補正を行う程度を大きくすることで、ショックなどの違和感の発生を速やかに抑制するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の制御装置が制御する動力伝達装置の概略構成図である。
【図2】本実施形態の制御装置の制御フローチャートである。
【図3】本実施形態の制御装置の制御フローチャートである。
【図4】本実施形態の制御装置によって制御される動力伝達装置の主な構成要素についてのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の代表的な実施形態を図1〜図4を参照して説明する。本実施形態に係る動力伝達装置の制御装置(以下、「制御装置」称する。)は、車両に搭載される。
【0019】
(実施形態)
本実施形態の制御装置1が制御する動力伝達装置は、例えば図1に示されるような構成である。動力伝達装置は、内燃機関(E/G)2と、変速機(T/M)3と、クラッチ(C/T)4とを備えている。E/G2は、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/G2の出力軸11は、C/T4を介してT/M3の入力軸31と接続されている。
【0020】
T/M3は、前進用の複数(例えば、5つ)の変速段、後進用の1つの変速段、及びニュートラル段を有するトルクコンバータを備えない周知の多段変速機の1つである。T/M3では、変速段の切り替えは、T/Mアクチュエータ33を制御することでのみ実行される。
【0021】
C/T4は、周知の構成の1つ(例えば、クラッチストロークの調整により2枚のクラッチ板が当接・離間する構成)を備えていて、E/G2の出力軸21とT/M3の入力軸31との間で動力が伝達されない遮断状態、及び動力が伝達される接合状態に調整可能となっている。以下、説明の便宜上、接合状態において、E/G2の出力軸21とT/M3の入力軸31との回転が一致している状態を「完全接合状態」と呼び、一致していない状態を「半接合状態」と呼ぶ。この車両では、クラッチペダルは設けられていない。C/T4の状態は、C/Tアクチュエータ41によりクラッチストロークを調整することで制御されるようになっている。
【0022】
T/M3の出力軸32は、差動機構(D/F)6と連結されていて、D/F6は、左右一対の駆動輪と連結されている。なお、T/M3の出力軸32とD/F6との間に、所謂最終減速機構が介装されていてもよい。
【0023】
また、動力伝達装置は、駆動輪7の車輪速度を検出する車輪速度センサ51と、アクセルペダルAPの操作量を検出するアクセル開度センサ52と、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサ53と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサ54、E/G2の出力軸21の回転数を検出する回転数センサ55、及びT/M3の入力軸31の回転数を検出する回転数センサ56とを備えている。
【0024】
そして、本実施形態の制御装置1は、上述のセンサ51〜56、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータ33,41を制御することで、T/M3の変速段及びC/T4の状態を制御する。加えて、制御装置1は、E/G2の出力(出力軸の駆動トルク)を制御する。なお、E/G2の出力軸21の回転数は回転数センサ55の測定値から算出し、T/M3の入力軸31の回転数は回転数センサ56の測定値から算出し、T/M3の出力軸32の回転数は車輪速度センサ51の測定値から算出する。
【0025】
T/M3の変速段は、車輪速度センサ51から得られる車速Vと、アクセル開度センサ52から得られる運転者によるアクセルペダルAPの操作量に基づいて算出される要求トルクTr(T/M3の出力軸22についてのトルク)と、シフト位置センサ53から得られるシフトレバーSFの位置に基づいて制御される。シフトレバーSFの位置が「手動モード」に対応する位置にある場合、T/M3の変速段が、シフトレバーSFの操作により運転者により選択された変速段に原則的に設定される。一方、シフトレバーSFの位置が「自動モード」に対応する位置にある場合、T/M3の変速段が、車速Vと要求トルクTrとの組み合わせに基づいて、シフトレバーSFが操作されることなく自動的に制御される。以下、T/M3の変速段が変更される際の作動を「変速作動」と称する。変速作動の開始は、変速段の変更に関連して移動する部材の移動の開始に対応し、変速作動の終了は、その部材の移動の終了に対応する。
【0026】
C/T4は、通常、接合状態(特に、完全接合状態)に維持され、T/M3の変速作動中、及び、シフトレバーSFの位置が「ニュートラル」位置にある場合等において、遮断状態に維持される。また、C/T4は、接合状態(特に、半接合状態)において、C/Tアクチュエータ41により調整されるクラッチストロークに応じて、伝達し得るトルクの最大値(以下、「クラッチトルクTc」と称する。)を調整可能となっている。
【0027】
変速前後ではT/M3の入力軸31の回転数が変化する。そのT/M3の入力軸31の回転数に、E/G2の出力軸21の回転数を同期させる必要がある。E/G2の出力軸の回転数を変化させる方法としては、E/G2自身を制御する以外に、C/T4を介してT/M3の入力軸31と接合状態とし、C/Tアクチュエータ41を制御して、C/T4のクラッチストロークを変化させることが行われている。その変速作動中に、E/G2の入力軸31の回転数の急激な変化は変速ショックを引き起こし、緩やかにゆっくりと変化させると時間が掛かりすぎて加速が途切れスリップ感がある。そこで、目標とするE/G2の出力軸21の回転数変化を表す理想エンジン回転数曲線(理想内燃機関回転数曲線)を設定しE/G2の出力軸21の回転数をその理想エンジン回転数曲線に一致させるような制御を制御装置1が行う。
【0028】
例えば2速から3速への変速作動における場合を例にして説明すると、2速で走行中に3速への変速要求がなされると、まずC/T4を遮断状態にする(Tcを減少させる)。その後、T/Mアクチュエータ33を作動させて2速から3速に変速する。この間ではE/G2は3速に相当するT/M3の入力軸31の回転数に同期する制御が行われる。一般に変速作動は、E/G2が単独で2速に相当する回転数から3速に相当する回転数に向けて減速するよりも速く3速に相当する回転数に減速させるために、E/G2の出力軸21をT/M3の入力軸31にC/T4により接続することにより速やかに一致させている。E/G2の出力軸21とT/M3の入力軸31との接続はC/T4に加えられるクラッチトルクの大きさにより調節する。クラッチトルクの大きさはT/Mアクチュエータ41を制御して制御する。クラッチトルクの大きさが大きい方が接続の程度は大きくなり、速やかにE/G2の出力軸21の回転数をT/M3の入力軸31の回転数に一致させることができるが、あまりに速く接続を行うと、T/M3の入力軸31に大きなショックが加わり搭乗者に不快感を与えることになる。
【0029】
ここで、理想エンジン回転数曲線とは、動力伝達装置の設計段階で任意に決められる設計値である。例えば、変速ショックを抑える変速作動をさせる場合、ゆっくりとE/G2の出力軸21の回転数を変化させるよう、曲線の傾斜角度が緩く設計される。一方、ある程度の変速ショックがあったとしても速やかに変速動作が完了させて加速の途切れを少なくすることを重視する場合は、曲線の傾斜角度がきつく設計される。そして、全変速時(例えば、1速から2速、4速から5速)で同じ理想エンジン回転数曲線としたり、あるいは各変速時で別の理想エンジン回転数曲線としたりすることができる。また、変速のモードを切り替えることが出来る車両では、例えば「通常モード」と「スポーツモード」とを切り替えることで、異なる理想エンジン回転数曲線とすることができる。
【0030】
変速要求後、変速作動に伴う本実施形態の制御装置1の制御ロジックを図2及び図3に示すフローチャートに基づいて説明する。変速作動中における制御装置1の制御ロジックは、これに限定されるものではない。変速要求があると、まず、制御装置1は、C/Tアクチュエータ41を作動させ、C/T4を遮断状態にする(遮断工程S1)。そして、T/Mアクチュエータ33を作動させて、変速段を切り替える(切替工程S2)。次に、C/T4が遮断状態から接合状態に向けてTcを漸増させる(接合工程S3)。
【0031】
接合工程S3は、C/Tアクチュエータ41の作動を開始し、Tcの大きさを初期値Tc0に向けて所定時間で漸増させる(初期工程S31)。初期値Tc0及び所定時間は、理想エンジン回転数曲線と同様に設計値である。次に、フィードバック工程S32で、E/G2のエンジン回転数(内燃機関回転数)が理想エンジン回転数(理想内燃機関回転数)に一致するように、C/Tアクチュエータ41をフィードバック制御する(C/Tアクチュエータ41によりクラッチトルクTcを可変する)。なお、フィードバック制御は、例えば、PI制御やPID制御にて行うことができる。そして、フィードバック制御は、エンジン回転数が理想エンジン回転数と一致するまで行われる。一致後、エンジン回転数と理想エンジン回転数とのずれの大きさに関連する値に基づき、次回以降に用いる初期値を補正する補正工程S33が実行される。次の変速作動が開始されると、初期工程S31で用いられるTc0は設計値ではなく、補正されたTc0となる。
【0032】
図4は、変速作動中のE/G2の出力軸21の回転数(実線)、T/M3の入力軸31の回転数(実線)、及びTc(実線)についてのタイミングチャートである。一点破線は、E/G2の出力軸21の理想エンジン回転数曲線である。変速要求後、時間t1において遮断工程S1が実行されてTcが0である。そして、時間t2で切替工程S2が完了した直後、E/G2の出力軸21の回転数は、その時の変速段におけるT/M3の入力軸31の回転数に一致していない。次に、接合工程S3の初期工程S31にて時間t3(所定時間)までにTc0までTcを漸増させる。E/G3のエンジン回転数はTcの増加により回転数が減少し始める。そして、TcがTc0達成以後(時間t3以後)、フィードバック工程S32が実行される。フィードバック工程S32は、E/G2のエンジン回転数が理想エンジン回転数と一致した時間t4で完了する。補正工程S33では、t4のときのTcに基づき、初期工程S31で用いられるTc0を補正する。例えば、時間t4のときのクラッチトルクTcMと初期値Tc0との差分dに係数αを乗じた値を初期値Tc0に加えた値が次の初期工程S31の初期値Tc0となる。
【0033】
本実施形態の制御装置1によれば、同じ構成の動力伝達装置(車両)であれば同じ理想エンジン回転数曲線であるところ、個体バラツキ、環境の変化あるいは劣化などによるフィーリングの低下を改善することができる。そして、フィードバック工程S32が完了したときのTcに基づき初期値を補正することで、接合工程S3で最初から十分なTcを付与することが可能になり、速やかに変速作動を完了することができる。
【0034】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、動力伝達装置は、図1に示す構成に限定されるものではない。例えば、C/T(クラッチ)が1つではなく、2つのクラッチを有する構成の動力伝達装置でも良い。その場合、クラッチ毎に別々に補正を行う。一方のクラッチの変速動作には、その一方のクラッチの変速動作中における時間t4のTrに基づきTc0の補正を行い。他方のクラッチは、他方のクラッチの変速動作中における時間t4のTrに基づきTc0の補正を行う。
【0035】
その他に、エンジン回転数曲線と理想エンジン回転数曲線とで囲まれた領域(図4において斜線で塗りつぶされた領域)の面積の大きさに応じて補正に反映する。さらに、フィードバック工程S32が開始されたt3から完了するt4までの経過時間thが短いほど補正の絶対値が大きくなるように、次のTc0を補正する。この経過時間が短いほど変速時のショックが大きくなるもので考えられるため、その経過時間が短いほど補正を行う程度を大きくすることで、ショックなどの違和感の発生を速やかに抑制する。
【0036】
あるいは、フォードバック工程S32が完了したときのTcではなく、エンジン回転数曲線の傾斜と、理想エンジン回転数曲線の傾斜とに応じてTc0を補正する。
【符号の説明】
【0037】
1:制御装置、
2:内燃機関(E/G)、21:出力軸、
3:変速機(T/M)、31:入力軸、32:出力軸、33:T/Mアクチュエータ、
4:クラッチ(C/T)、41:C/Tアクチュエータ、
51:車輪速度センサ、52:アクセル開度センサ、53:シフト位置センサ、
54:ブレーキセンサ、55,56:回転数センサ、
6:差動機構(D/F)、7:駆動輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関の出力軸の回転数を測定する内燃機関回転センサと、
前記動力源の出力軸から動力が伝達される入力軸と、車両の駆動輪へと前記動力を伝達する出力軸とを備え、前記出力軸の回転数に対する前記入力軸の回転数の割合である減速比を調整可能な変速機と、
前記変速機の入力軸の回転数を測定する入力軸回転センサと、
前記動力源の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装され、前記動力源の出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力の少なくとも一部を伝達する接合状態と、前記動力を伝達しない遮断状態とに調整可能なクラッチと、
前記接合状態のクラッチトルクを可変するアクチュエータと、
を有する動力伝達装置、を制御する制御装置であって、
前記遮断状態から接合状態に向けて前記クラッチトルクを増加させるように前記アクチュエータの作動を開始したときに、
前記クラッチトルクの大きさを前記遮断状態よりも大きな値である初期値に向けて所定時間で漸増させる初期工程と、
前記内燃機関回転センサから入力される内燃機関回転数と前記クラッチが作動開始してからの経過時間とで決定される内燃機関回転数曲線が目標とする理想内燃機関回転数曲線に近づくように少なくとも前記内燃機関回転数と理想内燃機関回転数とが一致するまで前記アクチュエータのフィードバック制御を行うフィードバック工程と、
前記フィードバック工程における前記内燃機関回転数と前記理想内燃機関回転数とのずれの大きさに関連する値に基づき、次回以降に用いる前記初期値を補正する補正工程と、
を有する工程で動力伝達装置を制御する動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記補正工程は、前記内燃機関回転数と前記理想内燃機関回転数とが一致したときの前記クラッチトルクの値に近づけるように、次回以降に用いる前記初期値を補正する請求項1に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記補正工程は、前記内燃機関回転数曲線と前記理想内燃機関回転数曲線とで囲まれた領域の面積の大きさに応じて補正を行う請求項1に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記補正工程は、前記内燃機関回転数曲線の傾斜と、前記理想内燃機関回転数曲線の傾斜とに応じて前記初期値を補正する請求項1に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記補正工程は、前記内燃機関回転数と前記理想内燃機関回転数とが一致したときの前記経過時間が短いほど前記補正の絶対値を大きくする請求項1〜4の何れか1項に記載の動力伝達装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−36474(P2013−36474A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170191(P2011−170191)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】