説明

動力伝達装置

【課題】過大なトルクが掛かったとき、トルクリミッタが破断する前にプーリの円筒壁が破断することの無い動力伝達装置を提供する。
【解決手段】駆動源から被駆動装置20へ回転駆動力を伝達するプーリ1と、プーリ1と被駆動装置20の回転軸4とを接続する接続部2,3と、を備える動力伝達装置10において、プーリ1は、その一端側に円筒壁1aを有し、円筒壁1aの内側に、周方向に配置される内歯歯形部1bを備えており、接続部2,3は、周方向に配置される外歯歯形部2aを備えており、内歯歯形部1bと外歯歯形部2aが嵌合することにより、プーリ1と接続部2,3は接続しており、外歯歯形部2aは、弾性を有する材料により形成されており、円筒壁1aは、その外周面に補強リブ1cが形成されていることを特徴とする動力伝達装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関し、特に、エンジン等の外部動力源から、ベルト等を介して駆動される車両用カーエアコンの圧縮機に接続されて使用される動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用カーエアコンの冷媒圧縮機は、エンジン等の外部動力源から、ベルト、プーリ等を介してその回転軸により駆動される。そして、エンジン等の外部動力源から、ベルト等を介して運転されるカーエアコン用の圧縮機の動力伝達装置として、圧縮機が焼き付いた際にベルト切れ等の不具合を回避するためのトルクリミッタ(動力遮断部)を有する動力伝達装置が使用される。トルクリミッタには、通常、動力伝達装置の回転駆動力の伝達経路の一部に、過大なトルクが掛かったとき破断が容易になるような、断面積の小さい部材が用いられる。
【0003】
一方、この冷媒圧縮機において、回転駆動力におけるトルク変動により、振動や騒音が発生する。この様な振動は、ボルト等の締結部を緩めたり、関連する部位に繰り返し応力を付加したりする。更には、この様な振動や騒音は、乗員に不快感を与える。
【0004】
このため、動力伝達装置は、振動や騒音を防止すべく、回転駆動力におけるトルク変動に対して減衰機能を持たせることが必要となる。図2、図3に、圧縮機に動力を伝達する従来の動力伝達装置の一例を示す(特許文献1、図5)。図2は従来例の動力伝達装置50の断面図であり、図3はその正面図である。この従来例の動力伝達装置50において、プーリ1は、その一端側に円筒壁1aを有し、円筒壁の内側に、周方向に配置される内歯歯形部1bを備えている。そして、ハブ2も弾性部材からなる外歯歯形部2aを備えている。双方の歯形部1b及び2aを軸方向から嵌合させることで、歯形部1b,2aが噛み合い、動力を伝達する構造となっている。この動力伝達装置50は、弾性部材からなる歯形部2aのダンパー作用によりトルク変動を減衰させる。
【0005】
しかしながら、この円筒壁1aの外径は、他の装置との干渉を避けるため、一定値以上にすることはできない。このため、円筒壁の肉厚は薄くならざるを得ず、過大なトルクが掛かったとき、トルクリミッタが破断する前に円筒壁1aの歯形嵌合部1wが破断するという問題がある。この場合、圧縮機が焼き付き等の不具合が無い場合で過大なトルクが掛かったときにも、円筒壁が破断する場合があり大きな問題となっていた。
【0006】
【特許文献1】特開2007−113763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、過大なトルクが掛かったとき、トルクリミッタが破断する前にプーリの円筒壁が破断することの無い動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1形態では、動力伝達装置(10)は、
前記プーリ(1)は、その一端側に円筒壁(1a)を有し、該円筒壁(1a)の内側に、周方向に配置される内歯歯形部(1b)を備えており、
前記接続部(2,3)は、周方向に配置される外歯歯形部(2a)を備えており、前記内歯歯形部(1b)と前記外歯歯形部(2a)が嵌合することにより、前記プーリ(1)と前記接続部(2,3)は接続しており、
前記外歯歯形部(2a)は、弾性を有する材料により形成されており、
前記円筒壁(1a)は、その外周面に補強リブ(1c)が形成されていることを特徴とする。
【0009】
円筒壁(1a)は、その外周面に補強リブ(1c)が形成されているので、円筒壁(1a)の許容外径範囲内で剛性および強度が確保可能となる。このため、過大なトルクが掛かったとき、トルクリミッタが破断する前にプーリ(1)の円筒壁(1a)が破断することが無くなる。すなわち、過大なトルクが掛かったとき、プーリ(1)の円筒壁(1a)は破断せずにトルクリミッタが破断する。
【0010】
本発明の第2形態では、動力伝達装置(10)は、前記接続部(2)が、前記プーリ(1)と前記被駆動装置(20)の回転軸(4)との間の過大トルクの伝達を遮断する動力遮断部(3a)を備えていることを特徴とする。本形態によれば、動力伝達装置(10)は、動力遮断機能を有して、例えば圧縮機等の被駆動装置(20)がロックした場合等において、動力遮断部(3a)が作動することにより、駆動装置等、関連する装置が破損することを防止する。
【0011】
本発明の第3形態では、動力伝達装置(10)は、前記被駆動装置(20)が、車両用カーエアコンの圧縮機であることを特徴とする。
本発明の用途をより具体化した形態を表したものである。
【0012】
上記カッコ内の記号又は数字は、以下に示す実施形態との対応を示すためのものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明に係わる動力伝達装置の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の動力伝達装置の各種プーリの側面図であり、図2は従来の動力伝達装置の断面図であり、図3においてHH線により切断した面を表している。図3は図2の動力伝達装置の正面図である。図1から図3において、同一機能を有する要素には同一の番号が付されている。
【0014】
本発明の動力伝達装置10は、従来例の動力伝達装置50と比較して、プーリ1の円筒壁1aに補強リブ1cが形成されていることのみが異なり、他の部位および構造は全く同じである。このため、従来例の動力伝達装置50を表している図2および図3を用いて、従来例の動力伝達装置50の構造およびその作動を説明することにより、本発明の動力伝達装置10の構造およびその作動を説明することに替える。
【0015】
図2に示す動力伝達装置50は、車両用カーエアコンに使用されており、エンジン等の外部駆動源の回転力をカーエアコンの圧縮機20に伝達するための装置であり、動力遮断部(トルクリミッタ)3aを備える。動力伝達装置50は、エンジンから被駆動装置である圧縮機20へ回転駆動力を伝達するプーリ1と、プーリ1と圧縮機20の回転軸4とを接続する接続部と、を備える。接続部は、弾性部材2およびハブ3から構成されている。
【0016】
詳細に説明すると、プーリ1は、その一端側に円筒壁1aを有し、円筒壁1aの内側に、周方向に配置された内歯歯形部1bを備えている。プーリ1は、好適には熱可塑性樹脂で成型されるが、鉄等の金属材で形成されても良い。内歯歯形部1bには、弾性部材2の外歯歯形部2aが嵌合されている。弾性部材2は、ゴム等により形成される。弾性部材2は、ハブ3の外周に配置されて一体成型されており、弾性部材2およびハブ3は一体となって接続部を形成している。
【0017】
ハブ3は、鉄等により形成される。ハブ3には、図3に示すように、トルクリミッタ3aが形成されている。トルクリミッタ3aは、薄肉断面を有するブリッジ部3箇所から成る。この薄肉断面を有するブリッジ部は、過大なトルクが掛かったとき容易に破断する。ハブ3は、圧縮機20の回転軸4に対して、ワッシャ6およびスペーサ7を介してボルト5により締結されている。
【0018】
次に、動力伝達装置50の作動を説明する。外部からの回転動力が、図示されていないベルト等を介してプーリ1に伝達され、プーリの内歯歯形部1b、弾性部材2の外歯歯形部2aを経由して弾性部材2に伝達される。動力はさらに、弾性部材2からハブ3を経由して圧縮機20の回転軸4へ伝達される。弾性部材2は、周知のごとく、回転動力のトルク変動を減衰させる機能を有する。
【0019】
(本発明の実施形態)
さて、次に、図1を参照しながら、本発明の特徴点であるプーリ1の円筒壁1a上に形成される補強リブ1cについて説明する。
【0020】
図1(a)に示すように、プーリ1の円筒壁1a上に、プーリのベルト溝部1dに平行に周方向に走る一つの凸起リング1cが、形成されている。この凸起リング1cが円筒壁1aの剛性および強度を補強する補強リブの機能を持つ。図1(b)に示すように、プーリ1は、この凸起リング1cを複数備えることも可能である。また、図1(c)に示すように、プーリ1の円筒壁1a上に、プーリのベルト溝部1dに対して斜め周方向に走る凸起リング1cが形成されても良い。この凸起リング1cは、たすき掛けの形態を取っている。
【0021】
さらに、図1(d)に示すように、プーリ1の円筒壁1a上に、プーリのベルト溝部1dに対して斜めに走る複数の凸起バー1cが形成されても良い。この複数の凸起バー1cは、図1(d)においては相互に平行に走っているが、相互に平行でない形状を取ることもできる。この凸起バー1cが円筒壁1aの剛性および強度を補強する補強リブの機能を持つ。そして、図1(e)に示すように、プーリ1の円筒壁1a上に、プーリ軸方向1eに対して平行に走る複数の凸起バー1cが形成されても良い。この凸起バー1cが円筒壁1aの剛性および強度を補強する補強リブの機能を持つ。
【0022】
図1(a)〜(e)は、補強リブの一例にすぎず、この他にも種種の補強リブをデザインすることが可能であり、これらの補強リブは、勿論、本願発明の範囲内である。
【0023】
これら各種デザインの補強リブ1cがプーリ1の円筒壁1a上に形成されることにより、円筒壁1aの剛性および強度が補強される。この補強により、過大なトルクが掛かったとき、トルクリミッタが破断する前にプーリの円筒壁が破断することは無くなる。こうして、過大なトルクが掛かったとき、トルクリミッタが破断する前にプーリの円筒壁が破断することの無い動力伝達装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る動力伝達装置10の各種プーリの側面図である。
【図2】従来の動力伝達装置50の側断面図である。
【図3】図2の動力伝達装置50の正面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 プーリ
1a 円筒壁
1b 内歯歯形部
1w 破断箇所
2 接続部(弾性体)
2a 外歯歯形部
3 ハブ
3a 動力遮断部(トルクリミッタ)
4 圧縮機回転軸
10 本発明の動力伝達装置
20 圧縮機
50 従来の動力伝達装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から被駆動装置(20)へ回転駆動力を伝達するプーリ(1)と、該プーリ(1)と被駆動装置(20)の回転軸(4)とを接続する接続部(2,3)と、を備える動力伝達装置(10)において、
前記プーリ(1)は、その一端側に円筒壁(1a)を有し、該円筒壁(1a)の内側に、周方向に配置される内歯歯形部(1b)を備えており、
前記接続部(2,3)は、周方向に配置される外歯歯形部(2a)を備えており、前記内歯歯形部(1b)と前記外歯歯形部(2a)が嵌合することにより、前記プーリ(1)と前記接続部(2,3)は接続しており、
前記外歯歯形部(2a)は、弾性を有する材料により形成されており、
前記円筒壁(1a)は、その外周面に補強リブ(1c)が形成されていることを特徴とする動力伝達装置(10)。
【請求項2】
前記接続部(2)は、前記プーリ(1)と前記被駆動装置(20)の回転軸(4)との間の過大トルクの伝達を遮断する動力遮断部(3a)を備えていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置(10)。
【請求項3】
前記被駆動装置(20)は、車両用カーエアコンの圧縮機であることを特徴とする請求項1または2に記載の動力伝達装置(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−2010(P2010−2010A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162401(P2008−162401)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】