説明

動圧軸受装置

【課題】 高い回転精度を有する動圧軸受装置を提供する。
【解決手段】 動圧軸受装置1は軸部材2と、ラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部R1、R2と、スラスト軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材2をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部T1、T2を備える。軸部材2は、その外周に、ラジアル軸受部R1、R2を構成するラジアル面21a、21bと、軸部材2と共に回転するディスクハブ3を締結するための締結部25とを有しており、ラジアル面21a、21bと締結部25との同軸度が2μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受隙間に生じる流体(潤滑流体)の動圧作用によって軸部材を非接触支持する動圧軸受装置に関するものである。この軸受装置は、情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置などのスピンドルモータ用、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイール、あるいは電気機器、例えば軸流ファンなどの小型モータ用の軸受装置として好適である。
【背景技術】
【0002】
上記各種モータには、高回転精度の他、高速化、低コスト化、低騒音化などが求められている。これらの要求性能を決定づける構成要素の一つに当該モータのスピンドルを支持する軸受があり、近年では、この種の軸受として、上記要求性能に優れた特性を有する動圧軸受(流体動圧軸受)の使用が検討され、あるいは実際に使用されている。
【0003】
例えば、HDD等のディスク装置のスピンドルモータに組込まれる動圧軸受装置では、軸部材をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部と、軸部材をスラスト方向に回転自在に支持するスラスト軸受部とが設けられる。ラジアル軸受部としては軸受スリーブの内周面又は軸部材の外周面に動圧発生手段として動圧溝を設けた動圧軸受が用いられる。スラスト軸受部としては、軸部材に設けたフランジ部の両端面、あるいは、これらに対向するスラスト面(軸受スリーブの端面やハウジングの内底面等)に動圧溝を設けた動圧軸受が用いられる(例えば、特許文献1)。
【0004】
ここで、ラジアル軸受部としては、ヘリングボーン形状やスパイラル形状等の軸方向に傾斜した形状の動圧溝を設けた動圧軸受の他、複数の軸方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた、いわゆるステップ軸受と称される動圧軸受や、ラジアル軸受面を多円弧面で構成した、いわゆる多円弧軸受と称される動圧軸受が用いられる場合もある(例えば、特許文献2〜4)。
【0005】
この種の動圧軸受装置を組み込んだスピンドルモータでは、磁気ディスク等のディスク状情報記録媒体(以下、ディスクという。)を載置するための回転部材(ディスクハブ)が軸部材(スピンドル軸)の上部の締結部に、圧入、接着、焼き嵌め、塑性流動等の適宜の手段で固定されている(例えば、特許文献5)。
【特許文献1】特開2002−061637号公報
【特許文献2】特開2000−337383号公報
【特許文献3】特開2000−192960号公報
【特許文献4】特開平9−200998号公報
【特許文献5】特開2003−174748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HDD等のディスク装置においては、ディスクハブ、ひいてはディスクハブを回転駆動するスピンドルモータの回転精度がディスク装置の性能(例えば、ディスクへの情報の記録・読み取り精度等)を決定付ける重要な一要素となっている。特に、近年においては、ディスク装置の急速な大容量化に伴う記録の高密度化の流れが顕著であり、スピンドルモータのより一層の高回転精度化が求められている。
【0007】
ところで、この種のディスク装置のスピンドルモータにおいて、ディスクハブが装着されている軸部材(スピンドル軸)は、動圧軸受装置のラジアル軸受部の軸中心、すなわち、ラジアル軸受部を構成する軸部材のラジアル面の軸心を回転中心として回転する。したがって、ディスクハブが締結される軸部材の締結部の軸心と、ラジアル軸受部を構成するラジアル面の軸心とにずれがあると、ラジアル軸受部自身は高い回転支持精度を有しているにもかかわらず、ディスクハブについては所望の回転精度が得られない場合が起こり得る。
【0008】
そこで、本発明では、軸部材に締結される回転部材の高回転精度化を実現できる動圧軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明では、軸部材と、ラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、スラスト軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置において、前記軸部材は、その外周に、前記ラジアル軸受部を構成するラジアル面と、前記軸部材と共に回転する回転部材を締結するための締結部とを有し、前記ラジアル面と前記締結部との同軸度が2μm以下である動圧軸受装置を提供する。
【0010】
ここで、上記の流体(潤滑流体)としては、潤滑油(又は潤滑グリース)、磁性流体、エアー等の気体を用いることができる。
【0011】
軸部材の外周に設けられるラジアル面は、ラジアル軸受部のラジアル軸受隙間に面したものであればよく、動圧溝等の動圧発生手段の有無は特に問わないものとする。
【0012】
上記の同軸度は、JISB0621で定義されているように、データム軸直線と同一直線上にあるべき軸線のデータム軸直線からの狂いの大きさをいう。軸線のデータム軸直線に対する同軸度は、その軸線を全て含みデータム軸直線と同軸の幾何学的円筒のうち、最も小さい円筒の直径で表される。
【0013】
本発明のように、軸部材のラジアル面と締結部との同軸度を2μm以下に形成すれば、ラジアル軸受部の回転支持精度が軸部材の締結部に締結される回転部材の回転精度によく反映され、回転部材の回転精度を高めることができる。
【0014】
上記構成において、ラジアル軸受部は、ヘリングボーン形状やスパイラル形状等の軸方向に傾斜した形状の動圧溝を設けた動圧軸受、複数の軸方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた動圧軸受(ステップ軸受)、ラジアル軸受面を多円弧面で構成した動圧軸受(多円弧軸受)で構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、動圧軸受装置の軸部材のラジアル軸受面と締結部との同軸度を2μm以下としたことにより、軸部材の締結部に締結される回転部材、特にディスク装置のディスクを載置するディスクハブの回転精度を高めることができる。
【0016】
上記の動圧軸受装置を備えた本発明のディスク装置のスピンドルモータは、ディスクハブの回転精度が高められることにより、ディスクへの情報の記録・読み取り精度等の性能が向上し、近時のディスク装置の急速な大容量化に伴う記録の高密度化の傾向に適合したものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態にかかる動圧軸受装置(流体動圧軸受装置)1を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。この情報機器用スピンドルモータは、HDD等のディスク装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置1と、軸部材2に取り付けられた回転部材としてのディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、ブラケット6とを備えている。ステータコイル4はブラケット6の外周に取り付けられ、ロータマグネット5は、ディスクハブ3の内周に取り付けられている。ブラケット6は、その内周に動圧軸受装置1を装着している。また、ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスクDが一枚または複数枚装着され、クランパ10によって保持されている。この情報機器用スピンドルモータは、ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間に発生する電磁力でロータマグネット5が回転し、それに伴って軸部材2及びディスクハブ3、さらにはディスクハブ3に保持されたディスクDが一体となって回転する。
【0019】
図2は、上記スピンドルモータで使用される動圧軸受装置の一例を示すものである。この動圧軸受装置1は、一端に底部7bを有するハウジング7と、ハウジング7の内周に固定された軸受スリーブ8と、軸受スリーブ8の内周に挿入される軸部材2と、シール部材9とを主要な構成部材として構成される。なお、説明の便宜上、シール部材9の側を上側、シール部材9と反対側を下側として以下説明を行う。
【0020】
ハウジング7は、例えば、ステンレス鋼や黄銅等の金属材料、あるいは、LCP(液晶ポリマー)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)、あるいはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等の樹脂材料で形成され、円筒状の側部7aと、側部7aの一端側に位置する底部7bとで構成されている。底部7bは、例えば、ステンレス鋼や黄銅等の金属材料、あるいは、LCP(液晶ポリマー)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)、あるいはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等の樹脂材料で形成され、この実施形態では側部7aとは別体として形成され、側部7aの下部内周に圧入、接着、溶着(超音波溶着、側部7aと底部7bを金属材料で形成する場合はレーザビーム溶接など)等の手段で後付けされている。底部7bの上側端面7b1の一部環状領域(スラスト軸受面となる領域)には、図示は省略するが、動圧発生手段として、例えばスパイラル形状やヘリングボーン形状の動圧溝が形成されている。なお、側部7aと底部7bとを金属材料や樹脂材料で一体に型成形することもできる。その際、上側端面7b1に設けられる動圧溝は、側部7aおよび底部7bからなるハウジング7の成形と同時に型成形することができ、これにより別途底部7bに動圧溝を成形する手間を省くことができる。
【0021】
軸受スリーブ8は、ハウジング7の内周面7cに固定され、この軸受スリーブ8の内周面8aには、軸部材2が回転自在に挿入される。軸受スリーブ8は、例えば、黄銅やアルミ(アルミ合金)等の軟質金属材料、あるいは、焼結金属材料で形成されている。この実施形態において、軸受スリーブ8は、焼結金属からなる多孔質体、特に銅又は鉄を主成分とする燒結金属の多孔質体で円筒状に形成されている。軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域には動圧発生手段が設けられており、この実施形態では、動圧発生手段として、例えばヘリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝が形成されている。具体的には、例えば図3に示すように、軸方向に離隔した上下2箇所の領域にヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2がそれぞれ形成されており、上側領域の動圧溝8a1は、軸方向中心(上下の傾斜溝間領域の軸方向中心)に対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。また、軸受スリーブ8の外周面8bには、1本又は複数本の軸方向溝8b1が軸方向全長に亘って形成されている。この実施形態では、3本の軸方向溝8b1が円周方向等間隔に形成されている。
【0022】
さらに、この実施形態において、軸受スリーブ8の下側端面8cの一部環状領域(スラスト軸受面となる領域)には、図示は省略するが、動圧発生手段として例えばスパイラル形状やヘリングボーン形状の動圧溝が形成されている。
【0023】
軸部材2は、例えばステンレス鋼等の金属材料で、あるいは、金属部分と樹脂部分からなるハイブリッド構造とされ(例えば、軸部21を金属材料で形成し、フランジ部22を樹脂材料で形成する。)、軸部21とその一端に一体又は別体に設けられたフランジ部22とで構成される。軸部21の外周には、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる上下2箇所の領域とそれぞれ対向するラジアル面21a、21bが軸方向に離隔して形成されている。上側のラジアル面21aの上方には、軸先端に向けて漸次縮径するテーパ面24が隣接して形成され、さらにその上方にディスクハブ3を固定するための円筒状の締結部25が形成されている。二つのラジアル面21a、21bの間、ラジアル面21bとフランジ部22との間、およびテーパ面24と締結部25との間には、それぞれ環状のヌスミ部26、27、28が形成されている。また、軸部21の上端面21cの軸心上には、クランパ10をねじ止めするためのねじ部31が形成されている。
【0024】
軸部21の締結部25に、ディスクハブ3を例えば接着、圧入、焼き嵌め、溶接、塑性流動等の適宜の手段で締結する。そして、図1に示すように、ディスクハブ3の外周にディスクDを装着し、クランパ10を取り付けて、軸部21の上端面21cに形成されたねじ部31にねじ11をねじ込むことで、ディスクDを、ディスクハブ3の上面外径側およびクランパ10の下面外径側に形成したクランプ面3a、10aで挟持して固定する。
【0025】
ハウジング7の開口部内周には、例えば黄銅等の金属材料あるいは樹脂材料で形成されたシール部材9が圧入、接着等の手段で固定されている。シール部材9は、この実施形態においては環状をなし、ハウジング7とは別体に形成されている。シール部材9の内周面9aは、軸部21のテーパ面24と所定容積のシール空間Sを介して対向する。テーパ面24は上側に向かって漸次縮径し、軸部材2の回転により遠心力シールとしても機能する。また、シール部材9の下側端面9bは軸受スリーブ8の上側端面8dと当接している。動圧軸受装置の組立後、シール部材9で密封された動圧軸受装置1の内部空間には、潤滑流体として例えば潤滑油が充満され、この状態では、潤滑油の油面はシール空間Sの範囲内に維持される。なお、部品点数の削減および組立工数の削減のため、シール部材9をハウジング7と一体形成することもできる。あるいは、軸受スリーブ8の内周面8aの上端部側領域をラジアル軸受面となる領域よりもわずかに大径に形成し、この大径に形成した領域の内径側に所定容積のシール空間が形成されるようにしても良い。
【0026】
動圧軸受装置1は以上のように構成され、軸部材2の回転時、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域は、それぞれ軸部21の外周面に形成されたラジアル面21a、21bとラジアル軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、その圧力によって軸部材2がラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1のラジアル軸受部R1と第2のラジアル軸受部R2とが形成される。
【0027】
また、軸受スリーブ8の下側端面8cのスラスト軸受面となる領域は、フランジ部22の上側端面(スラスト面)22aとスラスト軸受隙間を介して対向し、底部7bの上側端面7b1のスラスト軸受面となる領域は、フランジ部22の下側端面(スラスト面)22bとスラスト軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴い、スラスト軸受隙間にも潤滑油の動圧が発生し、その圧力によって軸部材2が両スラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2を両スラスト方向に回転自在に非接触支持する第1のスラスト軸受部T1および第2のスラスト軸受部T2が形成される。
【0028】
上記構成の動圧軸受装置1において、軸部材2の軸部21のラジアル面21a、21bと締結部25との同軸度は2μm以下である。このような高精度の同軸度は、例えば、旋削、鍛造等により軸部材2を形成した後、軸部材2のラジアル面21a、21bと締結部25とを同時研削することにより得ることができる。この研削加工に用いられる研削装置は、例えば図4に示すように、バッキングプレート15およびプレッシャープレート16を軸部材2の両端面に押し当てながら、軸部材2の外周面形状に対応した研削面を有する砥石14でプランジ研削するものである。軸部材2の外周面は支持部材(以下、「シュー」と称す。)13によって回転自在に支持される。
【0029】
詳述すると、バッキングプレート15は円柱形状であり、その一端面15aは平面をなす。同様に、プレッシャープレート16は円柱形状であり、その一端面16aは平面をなす。軸部材2におけるフランジ部2bの下側端面2b2は、バッキングプレート15の一端面15aと平面接触し、軸部21の上端面21cは、プレッシャープレート15の一端面15aと平面接触している。
【0030】
研削加工時には、バッキングプレート15とプレッシャープレート16とで軸部材2が挟持された状態で、両プレート15、16と共に軸部材2が矢印Xで示すように軸心Z廻りに回転する。このとき、軸部材2に対しては、プレッシャープレート16から軸心Z方向に押圧力が付与されつつ、バッキングプレート15とプレッシャープレート16の一方または双方から軸心Z廻りの回転駆動力が付与される。
【0031】
このような状態のもとで、軸部材2の軸部21の外周面がシュー13により回転自在に支持され、シュー13の軸部材2の軸心Zを挟む対向側から、例えば軸部21の軸方向略全長に亘る砥面形状を有する砥石14が軸部21の外周面略全長に亘って押し当てられて、研削加工が施される。
【0032】
上記のように、この実施形態の動圧軸受装置1は、軸部材2の軸部21のラジアル面21a、21bと締結部25との同軸度は2μm以下であるため、ラジアル軸受部R1、R2の回転支持精度が軸部材2の締結部25に締結されるディスクハブ3の回転精度によく反映され、ディスクハブ3の高回転精度が得られる。
【0033】
本発明は、図2に示す動圧軸受装置1のみならず、以下に例示する他の動圧軸受装置にも同様に適用することができる。なお、以下の説明では、基本的に図2に示す実施形態と同一機能を有する部材および要素には共通の参照番号を付して重複説明を省略する。
【0034】
図5は、動圧軸受装置の他の実施形態を示すものである。この動圧軸受装置のスラスト軸受部Tは、ハウジング7の開口部側に位置し、一方のスラスト方向で軸部材2を軸受スリーブ8に対して非接触支持する。軸部材2の下端よりも上方にフランジ部22が設けられ、このフランジ部22の下側端面22bと軸受スリーブ8の上側端面8dとの間にスラスト軸受部Tのスラスト軸受隙間が形成される。ハウジング7の開口部内周にはシール部材9が装着され、シール部材9の内周面9aと軸部材2の軸部21外周面との間にシール空間Sが形成される。シール部材9の下側端面9bはフランジ部22の上側端面22aと軸方向隙間を介して対向しており、軸部材2が上方へ変位した際には、フランジ部22の上側端面22aがシール部材9の下側端面9bと係合し、軸部材2の抜け止めがなされる。
【0035】
なお、以上の説明では、軸部材2における軸部21のラジアル面21a、21bを平滑面とする場合を例示したが、これらの面に動圧溝を形成することもできる。また軸部材2におけるフランジ部22のスラスト面(図示例では22a、22b)を平滑面とする場合を例示したが、これらの面に動圧溝を形成することもできる。
【0036】
さらに、以上の説明では、ラジアル軸受部R1、R2およびスラスト軸受部T1、T2として、へリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝により潤滑流体の動圧作用を発生させる構成を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
例えば、ラジアル軸受部R1、R2として、いわゆるステップ軸受や多円弧軸受を採用しても良い。
【0038】
図6は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方をステップ軸受で構成した場合の一例を示している。この例では、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域に、複数の軸方向溝形状の動圧溝8a3が円周方向所定間隔に設けられている。
【0039】
図7は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方を多円弧軸受で構成した場合の一例を示している。この例では、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域が、3つの円弧面8a4、8a5、8a6で構成されている(いわゆる3円弧軸受)。3つの円弧面8a4、8a5、8a6の曲率中心は、それぞれ、軸受スリーブ8(軸部21)の軸中心Oから等距離オフセットされている。3つの円弧面8a4、8a5、8a6で区画される各領域において、ラジアル軸受隙間は、円周方向の両方向に対して、それぞれ楔状に漸次縮小した形状を有している。そのため、軸受スリーブ8と軸部21とが相対回転すると、その相対回転の方向に応じて、ラジアル軸受隙間内の潤滑流体が楔状に縮小した最小隙間側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑流体の動圧作用によって、軸受スリーブ8と軸部21とが非接触支持される。尚、3つの円弧面8a4、8a5、8a6の相互間の境界部に、分離溝と称される、一段深い軸方向溝を形成しても良い。
【0040】
図8は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方を多円弧軸受で構成した場合の他の例を示している。この例においても、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域が、3つの円弧面8a7、8a8、8a9で構成されているが(いわゆる3円弧軸受)、3つの円弧面8a7、8a8、8a9で区画される各領域において、ラジアル軸受隙間は、円周方向の一方向に対して、それぞれ楔状に漸次縮小した形状を有している。このような構成の多円弧軸受は、テーパ軸受と称されることもある。また、3つの円弧面8a7、8a8、8a9の相互間の境界部に、分離溝と称される、一段深い軸方向溝8a10、8a11、8a12が形成されている。そのため、軸受スリーブ8と軸部21とが所定方向に相対回転すると、ラジアル軸受隙間内の潤滑流体が楔状に縮小した最小隙間側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑流体の動圧作用によって、軸受スリーブ8と軸部21とが非接触支持される。
【0041】
図9は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方を多円弧軸受で構成した場合の他の例を示している。この例では、図8に示す構成において、3つの円弧面8a7、8a8、8a9の最小隙間側の所定領域θが、それぞれ、軸受スリーブ8(軸部21)の軸中心Oを曲率中心とする同心の円弧で構成されている。従って、各所定領域θにおいて、ラジアル軸受隙間(最小隙間)は一定になる。このような構成の多円弧軸受は、テーパ・フラット軸受と称されることもある。
【0042】
以上の各例における多円弧軸受は、いわゆる3円弧軸受であるが、これに限らず、いわゆる4円弧軸受、5円弧軸受、さらに6円弧以上の数の円弧面で構成された多円弧軸受を採用しても良い。また、ラジアル軸受部をステップ軸受や多円弧軸受で構成する場合、ラジアル軸受部R1、R2のように、2つのラジアル軸受部を軸方向に離隔して設けた構成とする他、軸受スリーブ8の内周面8aの上下領域に亘って1つのラジアル軸受部を設けた構成としても良い。
【0043】
また、スラスト軸受部T1、T2の一方又は双方は、例えば、スラスト軸受面となる領域に、複数の半径方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた、いわゆるステップ軸受、いわゆる波型軸受(ステップ型が波型になったもの)等で構成することもできる。
【0044】
また、以上の実施形態では、動圧軸受装置1の内部に充満し、軸受スリーブ8と軸部材2との間のラジアル軸受隙間や、軸受スリーブ8およびハウジング7と軸部材2との間のスラスト軸受隙間に動圧を発生させる流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも各軸受隙間に動圧を発生させることができる流体、例えば空気等の気体や、磁性流体等を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】スピンドルモータの概要を示す断面図である。
【図2】本発明にかかる動圧軸受装置の一構成例を示す断面図である。
【図3】軸受スリーブの縦断面図である。
【図4】軸部材の研削工程を示す概略図である。
【図5】動圧軸受装置の他の実施形態を示す断面図である。
【図6】ラジアル軸受部の他の実施形態を示す断面図である。
【図7】ラジアル軸受部の他の実施形態を示す断面図である。
【図8】ラジアル軸受部の他の実施形態を示す断面図である。
【図9】ラジアル軸受部の他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 動圧軸受装置
2 軸部材
3 ディスクハブ(回転部材)
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
21 軸部
21a、21b ラジアル面
22 フランジ部
25 締結部
R1、R2 ラジアル軸受部
T、T1、T2 スラスト軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材と、ラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、スラスト軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置において
前記軸部材は、その外周に、前記ラジアル軸受部を構成するラジアル面と、前記軸部と共に回転する回転部材を締結するための締結部とを有し、
前記ラジアル面と前記締結部との同軸度が2μm以下であることを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項2】
前記回転部材が、ディスク装置のディスクを載置するディスクハブであることを特徴とする請求項1に記載の動圧軸受装置。
【請求項3】
前記ラジアル軸受部が、動圧発生手段として動圧溝を有することを特徴とする請求項1または2何れかに記載の動圧軸受装置。
【請求項4】
前記ラジアル軸受部が、多円弧軸受で構成されていることを特徴とする請求項1または2何れかに記載の動圧軸受装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の動圧軸受装置を備えたディスク装置のスピンドルモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−200582(P2006−200582A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10750(P2005−10750)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】