説明

化学反応装置及び燃料電池システム

【課題】陽極酸化膜に亀裂を生じることなく、小型化に適した量産性の高いマイクロチャネル構造をもつ化学反応装置を提供する。
【解決手段】凸部と凹部を有する流路内に反応流体を通流させて触媒と反応させる化学反応装置であって、触媒を担持する陽極酸化膜22と、陽極酸化膜で覆われ、流路を規定する凸部212Aおよび凹部213Aと、凸部に設けられ、曲線状の凸状角部216Aと、前記凹部に設けられ、曲線状の凹状角部217Aとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒反応を生じさせる触媒が担持されたマイクロチャネル構造を有する化学反応装置に係り、また、その化学反応装置によって改質された水素を用いて発電を行う燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、内部にミリメートル単位以下の微小な反応流路(マイクロチャネル)を持つマイクロリアクタと呼ばれる小型の反応器の開発が活発化している。マイクロリアクタは、小型であるが故に例えば携帯情報機器等の小型の機器に適しているばかりでなく、特許文献1に記載されているように次の利点(1)〜(3)がある。
【0003】
(1)反応流路における反応容積が小さくなるので、表面積/体積比効果が顕著となり、触媒反応時の伝熱特性が向上して反応効率が改善する。
【0004】
(2)混合物質を構成する反応分子の拡散混合時間が短くなるので、反応流路内における触媒反応の進行速度(反応速度)が向上する。
【0005】
(3)反応流路を含む構成を複数層積層することにより、スケールアップ(装置規模の大型化や流体物質の生成能力の向上)に対する煩雑な反応工学的な検討が不要になる。
【0006】
このようなマイクロリアクタを作製するための方法は特許文献2に記載されている。同文献によれば、アルミニウム基板上にフォトエッチング技術や機械加工により微小な流路構造(マイクロチャネル)をつくり、陽極酸化処理によりマイクロチャネルの壁面に多孔質の酸化膜を形成し、この多孔質の酸化膜(担体)に触媒を担持させる。
【特許文献1】特開2003−88754号公報、段落0006および段落0031
【特許文献2】特開2003−301295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の方法では陽極酸化時に生成される陽極酸化膜の厚さにバラツキが生じると、膜厚にバラツキがある部位に亀裂(クラック)が発生しやすい。亀裂を生じると、そこを起点として陽極酸化膜の破壊が進行し、膜が破壊された部分から母材金属が溶け出してしまい、流路壁として機能しなくなる。これにより、歩留まりが悪くなる問題や、実際にマイクロリアクタに組み込んだ後にその耐食性に問題などを生じ、その結果として反応システムの信頼性に問題を生じてきている。
【0008】
一方、この亀裂は陽極酸化時の電流密度が高い状態で発生することが多い。特にマイクロリアクタに組み込まれるマイクロチャネル壁部材(触媒担体)では、見掛けの面積に対して実面積が大きく、見掛けの面積以上の高電流密度を通じる必要が生じるため、亀裂が発生するものと考えられている。具体的にはアルミニウムを陽極酸化処理する場合、電流密度が過大になると不具合が発生する確率が高くなる。また、このような高電流密度においては、細孔径が大きくなると共に、被膜が硬質になる。このため、高電流密度の場合は、低電流密度の場合に較べて、触媒担体としてその担持量が少なくなる。
【0009】
上記の高電流密度の場合に発生する問題を抑えるために、陽極酸化処理時に電流密度を低くする方法がある。しかし、電流密度を低くすると、陽極酸化被膜の生成速度に比べて相対的に被膜の溶出速度が大きくなるので、反応器の形成に多大な時間がかかってしまうという問題がある。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、陽極酸化膜に亀裂を生じることなく、小型化に適した量産性の高いマイクロチャネル構造をもつ化学反応装置を提供することを目的とする。また、そのような化学反応装置によって改質された水素を用いて発電を行う燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る化学反応装置は、表面の少なくとも一部が陽極酸化が可能な材料で形成され、互いに隣接する複数の貫通溝を有する流路構造体と、前記貫通溝の内壁面の少なくとも一部に形成された陽極酸化膜と、前記第1の流路構成部材をはめ込むためのはめ込み部が設けられた容器と、前記はめ込み部を封止するように前記容器に設けられた蓋と、流体を供給するための供給口と、前記流体を排出するための排出口と、を有し、前記流路構造体が前記はめ込み部にはめ込まれることにより、前記供給口から供給された前記流体が前記貫通溝を通過した後に前記排出口から排出されるように、流路が形成され、前記貫通溝の角部において、前記流路構造体と前記陽極酸化膜の界面が前記貫通溝を前記流体の通過する方向から見て曲線形状に形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る燃料電池システムは、流体燃料を貯留する燃料タンクと、前記燃料タンクから送られた流体燃料を改質するための化学反応装置を有する改質器と、アノード極、プロトン導電性半透膜、カソード極を備え、前記化学反応装置によって改質された改質ガスを前記アノード極に導入するとともに、空気を前記カソード極に導入することにより発電する燃料電池セルと、を具備する燃料電池システムであって、
前記化学反応装置は、表面の少なくとも一部が陽極酸化が可能な材料で形成され、互いに隣接する複数の貫通溝を有する流路構造体と、前記貫通溝の内壁面の少なくとも一部に形成された陽極酸化膜と、前記第1の流路構成部材をはめ込むためのはめ込み部が設けられた容器と、前記はめ込み部を封止するように前記容器に設けられた蓋と、流体を供給するための供給口と、前記流体を排出するための排出口と、を有し、
前記流路構造体が前記はめ込み部にはめ込まれることにより、前記供給口から供給された前記流体が前記貫通溝を通過した後に前記排出口から排出されるように、流路が形成され、
前記貫通溝の底部および開口部の角部において、前記流路構造体と前記陽極酸化膜の界面が前記貫通溝を前記流体の通過する方向から見て曲線形状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、陽極酸化膜に亀裂を生じることなく、小型化に適した量産性の高いマイクロチャネル構造をもつ化学反応装置を提供することができる。また、そのような化学反応装置によって改質された水素を用いて発電を行う燃料電池システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について添付の図面を参照して説明する。
【0015】
図1は本発明の実施の形態による化学反応装置を用いた燃料電池システムのブロック図である。燃料電池システム1は、燃料タンク2、改質器3、セルスタック4、触媒燃焼反応器5および空気供給用ポンプ(図示せず)を備えている。燃料タンク2から送られた燃料は、改質器3内の化学反応装置20によって改質された後に、セルスタック4に送られて発電に用いられるようになっている。
【0016】
燃料タンク2には、燃料電池の燃料、例えばジメチルエーテルと水の混合流体が貯蔵されている。燃料タンク2には、例えば着脱可能な圧力容器を用いることができる。
【0017】
改質器3は、燃料タンク2から送られた燃料が、水素を含む気体(改質ガス)へと改質する改質反応を促進する。ここで、燃料とは液体状態の燃料の他に、気化された気体状態のものも含む。改質器3の筐体内部には、図2に示す化学反応装置20が少なくとも1つ以上設けられている。燃料電池システム1の効率を向上させるために、改質器3の筐体の外周を断熱材(図示せず)で覆って断熱することが好ましい。この外周の断熱材の代わりに、改質器3の筐体内部に断熱材を内張りしてもよいし、また筐体に真空断熱層を設けるようにしてもよい。
【0018】
また、改質器3は、触媒燃焼反応器5と熱交換可能に密着して設けられ、改質反応に必要とする反応熱を触媒燃焼反応器5から受けて、改質反応を生じさせるための温度、例えば350℃に維持されるようになっている。なお、触媒燃焼反応器5は、セルスタック4から排出されるオフガスに含まれる発電に用いられなかった水素と空気を触媒燃焼させるものである。
【0019】
セルスタック4は、アノード極、プロトン導電性半透膜、カソード極(図示せず)からなる複数の燃料電池セルを有し、改質器3から改質ガスをアノード極に導入するとともに、空気供給手段としてのポンプ(図示せず)により空気をカソード極に導入して発電するものである。このようなセルスタック4の構造は、例えば特許第3413111号公報および特開2004−234969号公報に詳しく記載されている。
【0020】
次に、図2〜図4を参照して化学反応装置20について説明する。
化学反応装置20は、数ミリメートル以下のピッチ間隔で配列された複数の凸部212Aと凹部213A(貫通溝)をもつマイクロチャネル壁部材21Aを備えている。マイクロチャネル壁部材21Aの凸部212Aと凹部213Aは、例えばワイヤー放電加工や切削加工のような機械加工を用いて形成される。凸部212Aと凹部213Aの表面の少なくとも一部には触媒が担持されている。
【0021】
ケース24には、マイクロチャネル壁部材21Aをはめ込むための嵌め込み部23が設けられている。嵌め込み部23は、平面形状が矩形であり、所定の深さを有している。マイクロチャネル壁部材21Aを嵌め込み部23に嵌め込み、嵌め込み部23に蓋25を被せると、マイクロチャネル壁部材21Aの全体がケース24/蓋25からなる箱のなかに収納された状態になる。必要に応じてマイクロチャネル壁部材21Aとケース24とを接合し、またケース24と蓋25とを接合し、さらに嵌め込み部23を封止することにより、ケース24/蓋25からなる箱のなかに微小流路(マイクロチャネル)が形成されるように、嵌め込み部23は設計されている。
【0022】
流路構造としてはY方向に平行に流れるパラレル構造としてもよいし、あるいはY方向に延び出す流路が隣りの流路とY方向端部で互いに連通し合い、これにより流体がY方向を往復しながらX方向に所定ピッチ間隔づつくねくねと蛇行するサーペンタイン構造としてもよい。
【0023】
ケース24の一方の側面には原料(反応流体)をマイクロチャネルに供給するための供給口26が設けられている。また、ケース24の対向側面には反応生成物および未反応物を外部へ取り出すための排出口27が設けられている。原料は、供給口26からマイクロチャネルに流れ込み、マイクロチャネル壁部材21Aに担持された触媒と接触しながら通流し、化学反応により反応生成物を生じる。
【0024】
図3の(a)と(b)にマイクロチャネル壁部材21Aを示す。
【0025】
マイクロチャネル壁部材21Aは母材金属板211を加工してつくられる。母材金属板211は、陽極酸化を行い表面に耐食性の酸化被膜を形成するため、表面の少なくとも一部は陽極酸化が可能な材料であることが好ましい。また、触媒反応時の伝熱特性を向上させることから、少なくとも一部に熱伝導率の高い材料を用いることが望ましい。これらの要件を満たす材料としてアルミニウム(Al)またはアルミニウム合金(例えばAl−Mg系合金)が最も好ましい。
【0026】
以下、アルミニウムをマイクロチャネル壁部材の母材に用いる場合について詳述する。
アルミニウムを陽極酸化処理すると、触媒担体として好ましい多孔質体となることは、例えば特開2004−154717号公報に記載されている。ところで、実際にマイクロチャネルに陽極酸化処理を行ってみると、上記公知文献で報じられているのみの知見では不具合が発生してしまい、好ましくない状況が発生する。例えば、従来のアルミニウムの平面状の板材の陽極酸化処理であれば、見かけ面積と実処理面積は同じであり、シュウ酸浴(4質量%)において50A/mまたは100A/mのいずれの電流密度であっても陽極酸化被膜を形成することは可能である。しかし、マイクロチャネルの陽極酸化においては見かけ面積に対して数〜数十倍の実面積があるため、電流密度は平面状の板状の場合に較べて、はるかに厳しい条件で陽極酸化処理されることとなる。すなわち、被膜の厚い部分と薄い部分があると、被膜の薄い部分に電流集中が発生し、不具合を発生する確率が極めて高くなる。これを防ぐためには、できるだけ見掛けの面積と実面積との差が小さいことが好ましいということになる。
【0027】
しかし、その一方では、マイクロリアクタは所定の微小空間に幾つかの化学反応プロセスを配設しようとするものであるから、その大きさには一定の制約が課されることとなる。その結果、見掛けの面積と実面積との差を大きくする方向で設計が行われることとなる。
【0028】
ここで、上記の特許文献1および特許文献2のように、単に流路を形成すればいいのではないことは明らかである。従来のマイクロチャネル壁部材では、流路の角部216,217で陽極酸化膜の不均一部が形成され、膜厚が薄い角部に局部応力集中を生じ、これと膜質(硬さ)のばらつきとが相俟って図7に示すような微小なクラックを生じ、それを起点として被膜が破壊される危険性が極めて高い。
【0029】
一方、角部を回避するように流路を設計変更する場合においても、その角部の回避をどの程度にすればよいのかについては明らかではなかった。もちろん、陽極酸化処理時の電流密度を下げれば、ある程度不具合を回避することは可能である。しかし、この方策は、被膜の形成速度と溶出速度との関係から実用的、経済的、商業的でない。一方、電流密度が100A/m以上と大きくなると、今度は形成された酸化被膜の細孔径が大きくなり、また被膜が硬質化するため、例えば50A/mで陽極酸化した場合に比較すると、その触媒担持量が減少してしまうという問題がある。
【0030】
本発明者らが鋭意研究を進めた結果、マイクロリアクタを小さく機能的なものとすることを重視する場合は、角部を回避することによるマイクロチャネル形状と陽極酸化膜を形成する電流密度との関係で一定の制約が発生することが次第に明らかとなってきた。
【0031】
以下、この点について更に詳細に述べる。
【0032】
マイクロチャネルの凸部の高さ(又は凹部の深さ)H1は、高く(又は深く)なるほど流路壁の面積が大きくなるので好ましい。しかし、高さH1が高くなると、加工時に凸部が曲って変形する不具合を生じる割合が高くなることや、反応熱が壁面から周囲の他の部材へ伝わりにくくなり、所謂ホットスポットを生じやすくなる。そのため、マイクロチャネルの凸部の高さ(又は凹部の深さ)H1は3mm以上20mm以下の範囲にすることが好ましい。
【0033】
マイクロチャネルの凸部幅W1は狭いほど好ましい。より多くの凸部を一定体積中に形成することができ、多数の流路を形成することが可能になるからである。しかし、凸部幅W1を0.1mm未満にすると、上記と同様の問題(凸部の曲り変形、およびホットスポット)を生じる。よって、マイクロチャネルの凸部幅W1は、0.1mm以上1.0mm以下の範囲にする。なお、凸部幅W1は0.2〜0.6mmの範囲とすることが最も好ましい。
【0034】
マイクロチャネルの凹部幅W2も狭いほど好ましい。より多くの凹部を一定体積中に形成することができ、多数の流路を形成することが可能になるからである。しかし、凹部幅W2を0.05mm未満にすると、触媒を担持する際にキャリアとなる液を凹部に導入・排出しにくくなるばかりでなく、運転中に通過する反応物質の線速度が大きくなり、反応効率が低下してしまう。よって、マイクロチャネルの凹部幅W2は、0.05mm以上1.0mm以下の範囲にする。なお、凹部幅W2は0.4〜0.8mmの範囲とすることが最も好ましい。
【0035】
次に、図4の(a)と(b)を参照しながら本発明のマイクロチャネルを従来のマイクロチャネルと比較して説明する。
【0036】
図4の(a)に示すようにマイクロチャネル壁部材21を陽極酸化処理した後の角部216,217の形状が鋭角、すなわちマイクロチャネル壁部材21と陽極酸化膜22との界面が曲線を有しない形状にすると、陽極酸化膜22の厚さにバラツキを生じ、厚さが薄い部分の膜に亀裂(クラック)を発生しやすい。凸状角部216(凸部212の稜線)や凹状角部217(凹部213の谷線)に沿って陽極酸化膜22に亀裂を生じると、その亀裂部分から母材金属が溶け出し、最終的には母材金属板の全体が溶解してしまうことがある。
【0037】
これに対して、図4の(b)に示すようにマイクロチャネル壁部材21Aを陽極酸化処理した後の角部216A、217Aの形状が曲線、すなわちマイクロチャネル壁部材21Aと陽極酸化膜22との界面が曲線を有する形状にすると、陽極酸化膜22の膜厚のバラツキが小さくなり、陽極酸化膜22に亀裂を生じなくなる。この結果、後者21Aは前者21よりも歩留まりが向上する。
【0038】
具体的な陽極酸化処理の条件として、マイクロチャネル壁部材を4質量%のシュウ酸溶液中に浸漬し、25℃の室温下で、電流密度を300A/m未満、より好ましくは100A/m未満、更に好ましくは15A/mから75A/mまでの範囲とする。但し、電流密度は多孔体の見掛け上の面積を基準とする。
【0039】
ここで、角部における陽極酸化前の母材の曲率半径、電流密度、遊離シュウ酸溶液の濃度、温度、遊離シュウ酸溶液中に含有するアルミニウム量を変えることにより、角部における陽極酸化後の陽極酸化膜22とマイクロチャネル壁部材21Aとの界面の曲率半径を変えることができる。具体的には、角部における陽極酸化前の母材の曲率半径が大きければ、角部における陽極酸化後の陽極酸化膜22とマイクロチャネル壁部材21Aとの界面の曲率半径を大きくすることができる。
【0040】
また、電流密度を大きくすれば、角部における陽極酸化後の陽極酸化膜22とマイクロチャネル部材21Aとの界面の曲率半径を大きくすることができる。
【0041】
また、陽極酸化に使用するシュウ酸溶液の濃度を高くすると、角部における陽極酸化後の陽極酸化膜22とマイクロチャネル壁部材21Aとの界面の曲率半径を大きくすることができる。
【0042】
また、陽極酸化時のシュウ酸溶液温度を高くすると、角部における陽極酸化後の陽極酸化膜22とマイクロチャネル壁部材21Aとの界面の曲率半径を大きくすることができる。
【0043】
また、遊離シュウ酸溶液中に含有するアルミニウム量が少なくなると、角部における陽極酸化後の陽極酸化膜22とマイクロチャネル壁部材21Aとの界面の曲率半径を大きくすることができる。
【0044】
陽極酸化膜22中に生成される微細孔のサイズはナノメートル単位である。このため実際の電流密度は上記の見掛け上の電流密度の数値より小さくなる。多孔体の実面積(孔の内表面積を含む)をS1、多孔体の見掛け上の面積(孔の内表面積を含まない)をS2とした場合に、S1/S2≦1の関係が成立する。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金を陽極酸化処理するときの電流密度は100A/m未満とすることが好ましく、15A/mから75A/mまでの範囲とすることが最も好ましい。なお、処理時間は、母材の材質、溶液の成分、濃度、温度などから影響を受けるため一律に決めることはできないが、一応の目安として、アルミニウムを陽極酸化処理する場合に電流密度を100A/m程度のときは約8時間、電流密度50A/m程度のときは約16時間とする。
【0045】
この場合に、目標となる単位面積当たりの触媒の担持量(目標担持量)に応じて陽極酸化処理の条件を変える必要がある。特に「浸漬法」においては母材金属に応じて最適条件の範囲が異なるので、電流密度などを含む処理条件を変えてやる必要がある。目標担持量は燃料電池の設計性能に基づいて設定されるものである。これに対して作製したマイクロチャネル壁部材の多孔質表面層(陽極酸化膜22)がどの程度の量の触媒を担持しうるのかについては繰り返し実験を行って試行錯誤して求める。求めた処理条件はノウハウに属するものである。この陽極酸化処理条件は可能な限り目標担持量を達成できるものとする。
【0046】
次に、本発明の実施例を比較例と比べて説明する。
【0047】
(実施例)
アルミニウム(JIS 1050材)からなるマイクロチャネルの角部にそれぞれ0.20mm、0.10mm、0.05mmのR面取りを施した3種類の実施例サンプルA1,B1,C1を作製した。これらのサンプルA1,B1,C1を4質量%シュウ酸溶液中に浸漬し、温度25℃、DC電流密度25〜50A/m、処理時間を約16〜32時間とする条件で陽極酸化処理を行った。サンプルA1およびB1はDC電流密度50A/m、処理時間を16時間とした。またサンプルC1はDC電流密度25A/m、処理時間を32時間とした。これによりサンプルA1に平均膜厚38μm以上、サンプルB1に平均膜厚37μm、サンプルC1に平均膜厚42μm以上の多孔質酸化アルミニウム膜を形成した。
【0048】
(比較例)
アルミニウム(JIS 1050材)からなるマイクロチャネルの角部に0.05mmのR面取りを施した比較例サンプルD1を作製した。このサンプルD1を上記サンプルA1,B1と同じ条件(DC電流密度:50A/m、処理時間:16時間)で陽極酸化処理を行った。これにより平均膜厚39μm以上の多孔質酸化アルミニウム膜を形成した。
【0049】
陽極酸化後の各サンプルA1,B1,C1,D1を樹脂に埋め込み、陽極酸化膜22を可視化できるようにサンプルを切断し、切断した断面を研磨して、光学顕微鏡を用いて陽極酸化膜22の膜厚を測定した。また、凹部213Aの角部の曲率半径R2も顕微鏡観察により測定した。
【0050】
(膜厚等の測定)
図5を参照して陽極酸化膜の膜厚等の測定方法について説明する。
【0051】
顕微鏡観察により陽極酸化膜22の膜厚が急激に減少している左側位置22r1と右側位置22r3を探し出し、左側位置22r1から右側位置22r3までの範囲を凹状角部217AのR面取り部とする。これ以外の部位を平坦部(非R面取り部)とする。
【0052】
位置22r1の膜厚tr1および位置22r3の膜厚tr3をそれぞれ測定する。さらに、中央位置22r2の膜厚tr2を測定する。なお、中央位置22r2は、左側位置22r1と右側位置22r3の中点とした。通常、この中央位置22r2の膜厚tr2が陽極酸化膜22の最小の膜厚となる。
【0053】
また、平坦部の任意の複数点(例えば左右3点ずつ合計6点)において膜厚をそれぞれ測定し、その総和平均を平坦部の平均膜厚taveとした。
【0054】
さらに、左側位置22r1と右側位置22r3からR面取り部の曲率半径R2を幾何学的に求める。曲率半径R2の円周(図示せず)は、膜22と母材との界面に接するか又は界面と重なり合う。
【0055】
(評価試験)
実施例サンプルA1,B1,C1の陽極酸化後における陽極酸化膜22とマイクロチャネル壁部材21Aとの境界の曲率半径R2はそれぞれ、0.238mm、0.130mm、0.049mmであり、比較例サンプルの陽極酸化後における陽極酸化膜22とマイクロチャネル壁部材21Aとの境界の曲率半径R2は0.041mmであった。
【0056】
各サンプルA1,B1,C1,D1に対して所定の担持量の白金(Pt)系触媒をそれぞれ担持させ、これらを燃料電池システムにそれぞれ組み込み、システムを実際に運転してオンラインで触媒担持層(陽極酸化膜22)の耐久性を調べた。触媒の担持方法には含浸法を用いた。含浸法では、サンプルを触媒含有溶液中に浸漬し、これを所定時間経過後に液中から引き上げ、加熱焼成した。これにより目標担持量の触媒を陽極酸化膜に担持させた。なお、触媒の担持量は蛍光X線測定法を用いて測定した。
【0057】
比較例サンプルD1では陽極酸化後における陽極酸化膜22とマイクロチャネル壁部材21Aとの境界の曲率半径が0.049mm未満となると、角部の陽極酸化膜22にクラックが発生することを確認した。一方、実施例サンプルA1,B1,C1では、陽極酸化後における陽極酸化膜22とマイクロチャネル壁部材21Aとの境界の曲率半径が0.049mm以上であればクラックの発生は皆無であった。
【0058】
図6の(a)は、横軸に膜厚測定部位をとり、縦軸に平坦部の平均膜厚taveに対する角部の膜厚trの膜厚比tr/taveをとって、実施例サンプルA1,B1,C1と比較例サンプルD1について角部での陽極酸化膜22の膜厚変化を示す特性線図である。図中の特性線Aは実施例サンプルA1(R2=0.238mm)の膜厚測定結果を、特性線Bは実施例サンプルB1(R2=0.130mm)の膜厚測定結果を、特性線Cは実施例サンプルC1(R2=0.049mm)の膜厚測定結果を、特性線Dは比較例サンプルD1(R2=0.041mm)の膜厚測定結果をそれぞれ示す。図6の(b)は同サンプルのA1,B1,C1,D1の膜厚比tr/taveの数値データを示す。図6(b)中の数値は膜厚比tr/taveの値である。
【0059】
比較例サンプルD1では、特性線Dに示すように、膜厚比tr/taveが0.51未満になると、図7の(a)に示すように角部の陽極酸化膜にクラックが発生することを確認した。図7の(b)にクラックを拡大して示すが、クラックが陽極酸化膜の全厚みを貫通していること、およびクラックはかなりの空隙をもっていることが観察された。
【0060】
一方、実施例サンプルA1,B1,C1では、特性線A,B,Cに示すように、膜厚比tr/taveが0.51以上となり、クラックの発生は皆無であった。
【0061】
上記の耐久性試験の結果、実施例サンプルA1,B1,C1の触媒担持層は角部にクラックをまったく発生せず、長期間の連続運転が可能であった。
【0062】
以上の結果から、マイクロチャネルの角部におけるマイクロチャネル壁部材21Aと陽極酸化膜22との界面の曲率半径とクラックの発生との間には定量的な相関関係があり、この曲率半径を一定の値以上にすることの効果が実証された。
【0063】
上述した実施例および比較例の陽極酸化処理条件と膜厚との関係を次の表1に示す。
【表1】

【0064】
また、上述した実施例および比較例の評価結果を次の表2に示す。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の化学反応装置を有する燃料電池システムの一例を示す構成ブロック図。
【図2】本発明の実施形態に係る化学反応装置を模式的に示す分解斜視図。
【図3】(a)はマイクロチャネル壁部材を示す平面図、(b)はマイクロチャネル壁部材を示す側面図。
【図4】(a)は従来のマイクロチャネル壁部材の凸状角部と凹状角部を拡大して示す部分断面模式図、(b)は本発明のマイクロチャネル壁部材の凸状角部と凹状角部を拡大して示す部分断面模式図。
【図5】膜厚測定部位を説明するために、湾曲形状の凹状角部の陽極酸化膜を示す部分断面図。
【図6】(a)は各種サンプルの陽極酸化膜の膜厚比tr/taveの分布を示す特性線図、(b)は同サンプルの膜厚比tr/tave。の数値データを示す図表。
【図7】(a)は凹状角部の陽極酸化膜に生じたクラックを示す顕微鏡写真、(b)は(a)の一部をさらに拡大して示した顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0066】
1…燃料電池システム、2…燃料タンク、
3…改質器(反応器)、4…セルスタック、5…燃焼器(反応器)、
20…化学反応装置(マイクロリアクタ)、
21A…マイクロチャネル壁部材(流路構造体)、
23…嵌め込み部、
24…ケース(容器)、25…蓋、
26…供給口、27…排出口、
211…母材金属板(基板)、
212,212A…凸部、
213,213A…凹部、
216,216A…凸状角部、
217,217A…凹状角部、
22…陽極酸化膜(触媒担持層)、
22r1…膜厚測定位置(左側)、
22r2…膜厚測定位置(中央)、
22r3…膜厚測定位置(右側)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部が陽極酸化が可能な材料で形成され、互いに隣接する複数の貫通溝を有する流路構造体と、
前記貫通溝の内壁面の少なくとも一部に形成された陽極酸化膜と、
前記第1の流路構成部材をはめ込むためのはめ込み部が設けられた容器と、
前記はめ込み部を封止するように前記容器に設けられた蓋と、
流体を供給するための供給口と、
前記流体を排出するための排出口と、を有し、
前記流路構造体が前記はめ込み部にはめ込まれることにより、前記供給口から供給された前記流体が前記貫通溝を通過した後に前記排出口から排出されるように、流路が形成され、
前記貫通溝の角部において、前記流路構造体と前記陽極酸化膜の界面が前記貫通溝を前記流体の通過する方向から見て曲線形状に形成されていることを特徴とする化学反応装置。
【請求項2】
前記曲線形状の曲率半径が0.049mm以上であることを特徴とする請求項1記載の化学反応装置。
【請求項3】
前記陽極酸化膜は、平坦部の平均膜厚taveに対する角部の膜厚が最も薄い部分の膜厚trの比tr/taveが0.51以上であることを特徴とする請求項1記載の化学反応装置。
【請求項4】
前記陽極酸化が可能な材料は、アルミニウム又はアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1乃至3のうちのいずれか1項記載の化学反応装置。
【請求項5】
前記凸部および凹部の幅がそれぞれ1mm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のうちのいずれか1項記載の化学反応装置。
【請求項6】
流体燃料を貯留する燃料タンクと、前記燃料タンクから送られた流体燃料を改質するための化学反応装置を有する改質器と、アノード極、プロトン導電性半透膜、カソード極を備え、前記化学反応装置によって改質された改質ガスを前記アノード極に導入するとともに、空気を前記カソード極に導入することにより発電する燃料電池セルと、を具備する燃料電池システムであって、
前記化学反応装置は、
表面の少なくとも一部が陽極酸化が可能な材料で形成され、互いに隣接する複数の貫通溝を有する流路構造体と、
前記貫通溝の内壁面の少なくとも一部に形成された陽極酸化膜と、
前記第1の流路構成部材をはめ込むためのはめ込み部が設けられた容器と、
前記はめ込み部を封止するように前記容器に設けられた蓋と、
流体を供給するための供給口と、
前記流体を排出するための排出口と、を有し、
前記流路構造体が前記はめ込み部にはめ込まれることにより、前記供給口から供給された前記流体が前記貫通溝を通過した後に前記排出口から排出されるように、流路が形成され、
前記貫通溝の底部および開口部の角部において、前記流路構造体と前記陽極酸化膜の界面が前記貫通溝を前記流体の通過する方向から見て曲線形状に形成されていることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−90274(P2007−90274A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285083(P2005−285083)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】