説明

化学的安定性に優れた電解質膜の製造方法

【課題】その製膜性を維持して化学的安定性に優れた電解質膜を提供すること。
【解決手段】フルオロカーボン系電解質ポリマーを過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液に浸漬処理することにより、化学的に不安定な末端を除去したフルオロカーボン系電解質ポリマーを用いて電解質膜を製膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的安定性に優れたフルオロカーボン系電解質ポリマーからなる電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フルオロカーボン系電解質ポリマー、すなわち下記[1]式で示される構造式を繰り返し単位とする、テトラフルオロエチレンと、側鎖の末端にカチオン交換基を有するビニルエーテルモノマーの共重合体が、固体高分子型燃料電池用、あるいは食塩電解用の電解質膜として使用されてきた。
【0003】
【化1】

(式中、n=0〜2の整数、x=1〜6の整数、lとmはl≧1、m≧1、l/m=1〜10を満たす整数であり、Yはカチオン交換基である。)
カチオン交換基としてスルホン酸基を有して、膜厚が10〜200um程度のフルオロカーボン系電解質ポリマーには、Aciplex<登録商標>(旭化成株式会社製)、Nafion<登録商標>(米国DuPont社製)、Flemion<登録商標>(旭硝子株式会社製)等がある。
【0004】
しかしながら、長期間の燃料電池発電運転中においてフルオロカーボン系電解質ポリマーが分解することが知られており、この分解を伴う化学的安定性は電池長時間発電運転時の耐久性を損なう原因として考えられている。この問題は、燃料電池発電運転中に生成する過酸化水素に起因して発生すると言われているヒドロキシラジカルや、ヒドロパーオキシラジカルにより、該フルオロポリマーの分子鎖中に存在する不安定な官能基、たとえばカルボン酸基等が上述のように、ヒドロキシラジカルや、ヒドロパーオキシラジカルによって分解することにより、起きると考えられている(非特許文献1)。該フルオロ系電解質ポリマーの化学的安定性を向上させるために従来提案されてきた方法は、該フルオロ系電解質ポリマーにフッ素ガスを反応させカルボン酸基等の不安定末端基を該カルボン酸基よりも安定末端であるCF基に変換せしめるものである。その結果、該フルオロ系電解質ポリマーの化学的安定性の指標であるところの化学耐性試験であるフェントン試験において分解生成するフッ化物イオンの生成量が、減少し、該フルオロ系電解質ポリマーの化学的安定性が向上していることが報告されている(非特許文献1、特許文献1)。なお、フェントン試験とは、モデル的に分解を加速する試験として広く知られている方法であって、過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液にフルオロカーボン系電解質ポリマー等を浸漬し、分解生成するフッ化物イオン量から、ポリマーの化学的安定性を評価するものである。
【0005】
しかしながら、公知の方法では、該フッ素化によりすべての不安定官能基を安定官能基に変換せしめることは困難である。例えば、フッ素化処理したフルオロ系電解質ポリマーをフェントン試験すると、依然としてフッ化物イオンは生成し、生成量は減少するが0にはならない。不安定官能基が完全にフッ素化されれば、フッ化物イオンは生成しないと考えられ、フッ化物イオンが生成するということは不安定末端基が完全にフッ素化されていないことを意味します。また、すべての不安定官能基をそれら全ての不安定官能基よりも安定な安定官能基に変換せしめるためにフッ素化の条件を過酷にすると、副反応が起きる可能性がある。例えば、その副反応の可能性には、架橋反応などが起きる可能性が示唆されている(特許文献2)。この架橋反応が起きると、その後の該フルオロ系電解質ポリマーの溶融成形を困難にしたり、またあるいはキャスト製膜を行う場合には、該フルオロポリマーを溶媒に溶解せしめることが困難になったり、あるいは溶解せしめた溶液の粘度が高くなるために、そのフルオロ系電解質ポリマーの製膜を行うことが難しくなるという製膜性の問題がある。
従来技術では、フルオロ系電解質ポリマーの化学的安定性と、相反する特性のその製膜性とを同時に解決することは困難であった。
【非特許文献1】D. E. Curtin et al. J. Power Sources, 131, 41-48(2004)
【特許文献1】国際出願公開公報WO2004/102714号明細書
【特許文献2】特開2004-18673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、その製膜性を維持して化学的安定性に優れたフルオロカーボン系電解質膜を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、課題であるフルオロカーボン系電解質膜のその製膜性を維持して化学的安定性を向上させることについて鋭意研究を重ねた結果、以下の発明に至った。すなわちフルオロカーボン系電解質ポリマーを過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液に浸漬処理すると、該フルオロポリマー中の不安定末端基を起点として逐次分解が始まる。不安定末端基の例としては、−COF、COOH、−COOCH、−CONH、−CHOHなどが上げられる。この逐次分解が終了すると不安定末端基を有する分子が消失する。したがって該処理によって、不安定末端基を除去することができ、驚くべきことにその製膜性を維持して化学的安定性にすぐれたフルオロカーボン系電解質ポリマーを得ることができることを見出した。このフルオロカーボン系電解質ポリマーを用いることで化学的安定性の高い電解質膜を得ることができ、例えば、固体高分子型燃料電池や、食塩電解用の電解質膜として好適に使用することができるようになる。
【0008】
すなわち、本発明は、(1)から(4)に係わる。
(1)フルオロカーボン系電解質ポリマーを過酸化水素と2価の鉄イオン又は銅イオンを含む水溶液に浸漬処理し、得られたフルオロカーボン系電解質ポリマーを用いて製膜することからなる電解質膜の製造方法。
(2)フルオロカーボン系電解質ポリマーを過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液に浸漬処理し、過酸化水素1質量%と、2価の鉄イオン2ppmを含む20mlの水中で80℃、2時間浸漬したときのフッ化物イオンの生成量が、元のポリマー質量に対して0.001質量%以下であるこのフルオロカーボン系電解質ポリマーを用いて製膜することからなる電解質膜の製造方法。
(3)フルオロカーボン系電解質ポリマーを過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液に浸漬処理し、得られたフルオロカーボン系電解質ポリマーを、溶解、キャスト製膜することからなる電解質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、その製膜性を維持して化学的安定性に優れたフルオロカーボン系電解質膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明のフルオロカーボン系電解質ポリマーとは、側鎖にカチオン交換基を持つパーフルオロポリマーが選ばれる。より好ましい例としては、一般式(1)で示される構造式を繰り返し単位とするものが挙げられる。該フルオロポリマーの形状は膜状、シート状または粒状のいずれでも良い。該カチオン交換基とは、スルホン酸基、カルボン酸基、フェノール性ヒドロキシル基であり、好ましくはスルホン酸基である。
【0011】
【化1】

(式中、n=0〜2、x=1〜6の整数、lとmはl≧1、m≧1、l/m=1〜10を満たす整数である。)
金属イオンは、2価の鉄イオン及び銅イオンが良く、好ましくは、2価の鉄イオンである。
該フルオロカーボン系電解質ポリマーは、分子中に存在する不安定末端基を除去するために、過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液で浸漬処理されるが、その前にあらかじめフッ素化処理を行っておいてもよい。このフッ素化処理は、特許文献1、米国特許第4626587、あるいは米国特許4743658に示されているような公知の方法でよい。
【0012】
過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液で浸漬処理の条件としては、好ましい過酸化水素の濃度は0.5−40質量%(以下%は質量%の意味である)、より好ましくは、5−30%、さらにより好ましくは15−30質量%である。2価の鉄イオン濃度は、好ましくは、1−500ppm、より好ましくは10−100ppm、さらにより好ましくは30−100ppmである。好適な温度の範囲は、24−100℃、より好ましくは50−100℃、さらにより好ましくは、60−100℃が選ばれる。好ましい浸漬処理時間は、0.5−60hr(以下時間単位をhrとする)、より好ましくは2−24hr、さらにより好ましくは、4−16hr時間である。
【0013】
浸漬処理される該フルオロカーボン系電解質ポリマーの形状は、その表面積が大きい形状であればどのような形状でもよいが、例えば膜状、粉末状、繊維状、綿状、中空糸、平膜、フレーク状のいずれでもよい。該フルオロカーボン系電解質ポリマーは過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液で処理した後に酸性溶液で洗浄される。浸漬処理した膜をそのまま燃料電池用に使用してもよいし、浸漬処理したポリマーを溶解してキャスト製膜、あるいは溶融製膜して用いてもよい。
浸漬処理した該フルオロカーボン系電解質ポリマーを溶融製膜するときは、例えばカチオン交換基がSOHの場合はSOF体、あるいはSOCl体にしてから溶融製膜が行われる。
【0014】
その製膜がキャスト製膜の場合の溶媒は、ポリマーを分散、あるいは溶解することできれば、どのような溶媒でもよいが、例えば水、アルコール、あるいはその混合溶液、またあるいは特開2003−183467、特開平11−246668号記載の溶媒などが用いられる。
過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液で浸漬処理されたフルオロカーボン系電解質ポリマーは、フェントン試験(過酸化水素1質量%と、2価の鉄イオン2ppmを含む20mlの水中で80℃、2時間浸漬)したときのフッ化物イオンの生成量が、元のポリマー質量に対して0.001質量%以下、より好ましくは0.0005質量%以下であると、化学的安定性に優れているために電解質膜として好適に用いることができる。例えば、燃料電池用電解質膜として、あるいは燃料電池電極用バインダーポリマーとして使用すると、その化学的安定性の高さから、十分な耐久性を有する。
【実施例】
【0015】
a)フェントン試験方法
2価の鉄イオンの濃度が2ppm且つ過酸化水素の濃度が1質量%である水溶液20mlにフルオロカーボン系電解質ポリマー(2×4cm、約80mg)を浸漬して80℃にて2時間保持した後、試料ポリマーを取り除き、液量を測定したあと、イオンクロマト法でフッ化物イオン量を測定した。測定装置は日本国東ソー社製のIC−2001、陰イオン分析用カラムとして、東ソー社製のTSKgel SuperIC−Anionを使用した。
b)燃料電池運転評価方法
まず、電極触媒層を作製した。Pt担持カーボン(日本国田中貴金属(株)社製TEC10E40E、Pt36.4wt%)1.00gに対し、5質量%電解質ポリマーを溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)の溶液とし、更に11質量%に濃縮した電解質ポリマー溶液を3.31g添加、さらに3.24gのエタノールを添加して後、ホモジナイザーでよく混合して電極インクを得た。この電極インクをスクリーン印刷法にてPTFEシート上に塗布した。塗布量は、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cmになる塗布量と、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cmになる塗布量の2種類とした。塗布後、室温下で1時間、空気中120℃にて1時間、乾燥を行うことにより厚み10μm程度の電極触媒層を得た。これらの電極触媒層のうち、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cmのものをアノード触媒層とし、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.30mg/cmのものをカソード触媒層とした。
【0016】
このようにして得たアノード触媒層とカソード触媒層を向い合わせて、その間にパーフルオロ電解質膜を挟み込み、160℃、面圧0.1MPaでホットプレスすることにより、アノード触媒層とカソード触媒層を電解質膜に転写、接合して膜電極接合体(以下MEA)を作製した。
このMEAの両側(アノード触媒層とカソード触媒層の外表面)にガス拡散層としてカーボンクロス(米国DE NORA NORTH AMERICA社製ELAT(登録商標)B−1)をセットして評価用セルに組み込んだ。この評価用セルを評価装置(日本国(株)東陽テクニカ社製燃料電池評価システム890CL)にセットして80℃に昇温した後、アノード側に水素ガスを150cc/min、カソード側に空気ガスを400cc/minで流した。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガスは80℃、空気ガスは50℃で加湿してセルへ供給した状態にて、電流電圧曲線を測定して初期特性を調べた。
【0017】
初期特性を調べた後、耐久性試験をセル温度100℃で行った。いずれの場合もアノード、カソード共にガス加湿温度は60℃とした。セル温度が100℃の場合、アノード側に水素ガスを74cc/min、カソード側に空気ガスを102cc/minで流し、アノード側を0.30MPa(絶対圧力)、カソード側を0.15MPa(絶対圧力)で加圧した状態で、電流密度0.3A/cmで発電した。このとき膜や電極中のポリマーが劣化するとアノード側及びカソード側の排水中のフッ素イオン濃度が増加するので、排水中のフッ素イオン濃度をベンチトップ型pHイオンメーターモデル920Aplusのモデル9609BNionplusフッ素複合電極(日本国メディトリアル社製)を用いて経時的に測定した。
耐久性試験において、燃料電池電解質膜にピンホールが生じると、水素ガスがカソード側へ大量にリークする現象(クロスリーク)が起きる。このクロスリーク量を調べるため、カソード側排気ガス中の水素濃度をマイクロGC(オランダ国Varian社製CP4900)にて測定し、この測定値が初期の10倍以上になった時点で試験終了とした。
【0018】
[実施例1]
1)ポリマー合成
ステンレス製200mLオートクレーブに、66.9gのCF=CFOCFCFSOFと40gの1、1、1、2、3、4、4、5、5、5−デカフルオロペンタン(HFC43−10mee)を入れた。さらに重合開始剤として(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液0.85gを入れ、容器内を充分に窒素置換した後、テトラフルオロエチレン(TFE)を導入し、容器の内圧を0.3MPaに加圧した。25℃で攪拌しながら適宜TFEを追加圧入した。4.5時間後、放圧し、水を注入して終夜攪拌した後、常圧〜減圧で溶媒および大部分の残モノマーを除去した。残った固形物をHFC43−10meeで洗浄し、110℃で真空乾燥して13.7gの白色フレーク状固体(パーフルオロ電解質ポリマーA)を得た。
この固体のIRスペクトルを測定したところ、SOF基に由来するピークが観察され、SOF基が含まれていることが確認できた。また、19F−NMRスペクトルを測定した結果、CF=CFOCFCFSOFモノマー単位とTFEモノマー単位を含む共重合体であることが確認された。
パーフルオロ電解質ポリマーAのメルトフローレート(MFR)は、温度270℃、荷重2.16kg、オリフィス径2.09mmの条件下で測定し、12.3であった。
【0019】
2)フッ素化処理
上記パーフルオロ電解質ポリマーAのフレーク5gをハステロイC製50mLオートクレーブに入れ、窒素パージしてから真空脱気し、次いで180℃に昇温した。ここに窒素で20モル%に希釈したフッ素ガスをゲージ圧0.25MPaまで導入し、4時間保持した。
オートクレーブ内のガスを排気し、窒素置換を繰り返した後開放し、フッ素化処理されたポリマー(パーフルオロ電解質ポリマーB)を得た。
3)けん化
パーフルオロ電解質ポリマーBを270℃にてプレスし、厚さ50μmのフィルムを得た。このフィルムを、KOH/ジメチルスルホキシド/水(30:15:55/質量比)中、90℃で1時間浸漬してけん化反応を行った。次いで水洗後、4N硫酸中、90℃で1時間浸漬し、水洗、乾燥してスルホン酸型の膜(パーフルオロ電解質膜A)を得た。なおこの膜について滴定でEWを測定したところ723g/当量であった。
【0020】
4)過酸化水素、2価鉄イオン水溶液処理
パーフルオロ電解質膜A200mgを2価鉄イオン50ppm含む30質量%過酸化水素水溶液200mlに浸漬し、70℃で10hr静置した。その後、膜を取り出し水洗した。膜はさらに2N硫酸中、80℃で1時間浸漬したあと、水洗、乾燥し、パーフルオロ電解質膜Bを得た。
5)ポリマー溶液
パーフルオロ電解質膜B180mgを、エタノール/水(50:50/質量比)3.6gに140℃でオートクレーブ内で溶解し、パーフルオロ電解質ポリマー溶液Aを得た。このパーフルオロ電解質ポリマー溶液Aをシャーレ上にキャストし、溶媒を乾固した後に、160℃で1hr加熱することで、パーフルオロ電解質膜C→電解質膜C1(厚さ2μm)を得た。
【0021】
6)フェントン試験
パーフルオロ電解質膜C→電解質膜C1をフェントン試験した結果、溶出したフッ化物イオン量は、試験した膜の質量に対して0.00010質量%であった。
7)製膜性試験
を上記5)に記載したパーフルオロ電解質ポリマー溶液Aを用いて膜厚が50μmとなるようキャスト製膜して、均一厚みを測定した。その厚み誤差は、±5μm以下であり、ゲル状異物の局在が原因できる表面上の凹凸もなく、優れていた。
8)燃料電池運転評価
パーフルオロ電解質ポリマー溶液Aを用いてキャスト製膜を行い、膜厚50μmのパーフルオロ電解質膜C→電解質膜C2を得た。このパーフルオロ電解質膜C→電解質膜C2をMEA中の電解質膜として用いて燃料電池運転評価を行った。
【0022】
セル温度80℃における初期特性を前述の方法に従って測定したところ、電圧(V)と電流密度(A/cm)の関係において、0.5A/cmで0.76V、1.0A/cmで0.67V、1.5A/cmで0.53Vと非常に高いセル性能が得られた。
また、100℃での耐久性試験においては、575時間の運転ができ高い耐久性が得られた。50時間経過後の排水中のフッ素イオン濃度は、カソード側で0.13ppm、アノード側で0.20ppmであった。また、400時間後の排水中のフッ素イオン濃度は、カソード側で0.21ppm、アノード側で0.45ppmであった。
【0023】
[比較例1]
実施例1の1)ポリマー合成に記載した方法と同様の方法で白色フレーク状固体(パーフルオロ電解質ポリマーD→ポリマーC)を得た。このパーフルオロ電解質ポリマーD→ポリマーCを用いて、実施例1の2)けん化に記載の方法と同様にして平均膜厚が50μmのフィルムを作製し、同じく同様の条件でケン化反応を行い、同様に水洗後、4N硫酸中、90℃で1時間浸漬し、水洗、乾燥してスルホン酸型の膜(パーフルオロ電解質膜D)を得た。なおこの膜について滴定でEWを測定したところ733g/当量であった。
【0024】
1)フェントン試験
パーフルオロ電解質膜Dを用いて、フェントン試験を行った結果、フッ化物イオン量は、試験した膜の質量に対して0.0017質量%であった。
2)燃料電池運転評価
パーフルオロ電解質膜D180mgを、エタノール/水(50:50/質量比)3.6gに140℃でオートクレーブ内で溶解することによって得られたパーフルオロ電解質ポリマー溶液を電極触媒層の電解質ポリマー溶液として用いて、キャスト製膜により平均膜厚50μmのパーフルオロ電解質膜D→電解質膜Eを作製し、MEA中の電解質膜として用いて燃料電池運転評価を行った。
このMEAのセル温度80℃における初期特性を前述の方法に従って測定したところ、電圧(V)と電流密度(A/cm)の関係において、0.5A/cmで0.72V、1.0A/cmで0.44V、1.5A/cmでは運転不能であった。
また、100℃での耐久性試験においては、92時間の運転でクロスリークにより運転が終了した。50時間経過後の排水中のフッ素イオン濃度は、カソード側で3.0ppm、アノード側で7.2ppmであった。
【0025】
[比較例2]
実施例1の1)記載のパーフルオロ電解質ポリマーAのフレーク5gをハステロイC製50mLオートクレーブに入れ、窒素パージしてから真空脱気し、次いで190℃に昇温した。ここに窒素で20モル%に希釈したフッ素ガスをゲージ圧0.30MPaまで導入し、10時間以上保持した。オートクレーブ内のガスを排気し、窒素置換を繰り返した後開放し、フッ素化処理されたポリマー(パーフルオロ電解質ポリマーE→ポリマーD)を得た。このパーフルオロポリマーE→ポリマーDを実施例1の3)と同様の方法でけん化し、5)と同様の方法で溶解を試みたが、均一溶液を得ることができなかった。このようにして調製した不均一なポリマー溶液E→ポリマー溶液Bを用いて、膜厚が50μmになるようキャスト製膜したが、ゲル状異物が非常に多く、均一膜を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のフルオロカーボン系電解質ポリマーは、その製膜性を維持して化学的安定性に優れている。したがって例えば、固体高分子型燃料電池用の電解質膜や触媒バインダーとして用いた場合に充分な耐久性を有し、長期間安定な電池運転を行うことができる。また食塩電解用の電解質膜としても化学的安定性に優れているため好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロカーボン系電解質ポリマーを過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液に浸漬処理し、得られたフルオロカーボン系電解質ポリマーを用いて製膜することからなる電解質膜の製造方法。
【請求項2】
フルオロカーボン系電解質ポリマーを過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液に浸漬処理し、過酸化水素1質量%と、2価の鉄イオン2ppmを含む20mlの水中で80℃、2時間浸漬したときのフッ化物イオンの生成量が、元のポリマー質量に対して0.001質量%以下であるこのフルオロカーボン系電解質ポリマーを用いて製膜することからなる電解質膜の製造方法。
【請求項3】
フルオロカーボン系電解質ポリマーを過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液に浸漬処理し、得られたフルオロカーボン系電解質ポリマーを、溶解、キャスト製膜することからなる電解質膜の製造方法。

【公開番号】特開2006−299092(P2006−299092A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122862(P2005−122862)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】