説明

化粧料及びその製造方法

【課題】多価アルコールや油脂などの化粧品の基材に溶解可能なヒアルロン酸を、水分含有量の低い化粧料に配合した、保湿効果が高く、なめらかな使用感の化粧料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水分含有量が5質量%以下の化粧料であって、下記一般式(1)で表されるグリセリン骨格含有基を含む、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含有し、ヒアルロン酸1構成単位に含まれる前記グリセリン骨格含有基の数が0.05以上である化粧料。−O−CH−CHOH−CH−OR・・・(1)(式中、Rは直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含む化粧料、ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料の基材には、多価アルコールや油が用いられる。ヒアルロン酸は、その高い保湿効果により、化粧料の成分として広く利用されている。
【0003】
アルコールへの溶解性を示すヒアルロン酸として、エステル化度が10〜90%であり、極限粘度が3dL/g未満であるヒアルロン酸プロピレングリコールエステルが開示されており、このヒアルロン酸プロピレングリコールエステルは優れた経皮吸収促進作用を有していて、化粧品および医薬品として広く使用し得る化合物であると言われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−62521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒアルロン酸は、水には溶解するが、化粧料の基材の多価アルコールや油脂には溶解しない。
【0006】
特許文献1には、ヒアルロン酸プロピレングリコールエステルは、アルコールに対する溶解性が高いヒアルロン酸であるが、100%グリセリンには溶解しないことが記載されている。
【0007】
また、水を配合しない化粧料(例えば、口紅)にヒアルロン酸を配合すると、ヒアルロン酸は溶解しないため、化粧料を使用した際にざらざらとした感触になる。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みなされたものであって、多価アルコールや油脂などの化粧品の基材に溶解可能なヒアルロン酸を、水分含有量の低い化粧料に配合した、保湿効果が高く、なめらかな使用感の化粧料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の化粧料は、水分含有量が5質量%以下の化粧料であって、一般式(1)で表されるグリセリン骨格含有基を含む、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する。
−O−CH−CHOH−CH−OR ・・・(1)
(式中、Rは直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)
【0010】
また、本発明において、「グリセリン骨格」とは、−O−CH−CHOH−CH−O−で表される構成単位のことをいう。グリセリン骨格という名称は、このグリセリン骨格がグリセリン(HO−CH−CHOH−CH−OH)の一部を構成するものであることに由来する。
【0011】
本発明の「水分含有量が5質量%以下の化粧料」とは、多価アルコールおよび/または油脂をベースとした化粧料のことをいう。「水分含有量が5質量%以下の化粧料」としては、パック、口紅、リップクリーム、リップグロス、リップライナー、オイルクレンジング等が挙げられる。
【0012】
本発明における油脂とは、化粧料に基材として含まれる油性原料のことをいい、例えば、界面活性剤、エモリエント剤、シリコーン油、パラフィンワックス等が挙げられる。
【0013】
本発明に使用する修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、多価アルコールや油脂への溶解性に優れている点で、ヒアルロン酸の1構成単位に含まれるグリセリン骨格含有基の数が0.05以上であることが好ましく、0.1〜0.5であることがより好ましい。このヒアルロン酸の1構成単位に含まれるグリセリン骨格含有基の数を修飾率(N)ともいう。
【0014】
本発明の化粧料の製造方法は、水分含有量が5質量%以下の化粧料であり、一般式(1)で表されるグリセリン骨格含有基を含む、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する化粧料の製造方法であって、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を、多価アルコールおよび/または油脂に溶解する工程を含む。
−O−CH−CHOH−CH−OR ・・・(1)
(式中、Rは直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)
【0015】
本発明の化粧料の製造方法において使用する修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、多価アルコールや油脂への溶解性に優れている点で、ヒアルロン酸の1構成単位に含まれるグリセリン骨格含有基の数が0.05以上であることが好ましく、0.1〜0.5であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、多価アルコールや油脂などの化粧品の基材に溶解可能なヒアルロン酸を、水分含有量の低い化粧料に配合した、保湿効果が高く、なめらかな使用感の化粧料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1(a)は、調製例1で得られた修飾ヒアルロン酸のH−NMRスペクトル(観測周波数400MHz、内部標準物質:DSS(0ppm)、溶媒:重水)を示す図である。 図1(b)は、比較対照として、原料(グリセリン骨格含有基を有さない)のヒアルロン酸(キユーピー株式会社製、平均分子量8000)のH−NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)について詳細に説明する。
【0019】
≪修飾ヒアルロン酸および/またはその塩≫
<構造>
(グリセリン骨格含有基)
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、下記一般式(1)で表されるグリセリン骨格含有基(以下、単に「グリセリン骨格含有基」ともいう。)を含む。
−O−CH−CHOH−CH−OR ・・・(1)
(式中、Rは直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)
【0020】
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、グリセリン骨格含有基に含まれる、水酸基を構成しない酸素原子の1つに一般式(1)におけるRが結合し、グリセリン骨格含有基に含まれる水酸基は二級水酸基であり、グリセリン骨格含有基に含まれる、水酸基を構成しない酸素原子の他の1つがヒアルロン酸および/またはその塩を構成する炭素原子に結合している。
【0021】
一般式(1)において、Rで表される直鎖状または分岐状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、2−メチルブチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基(ミリスチル基)、n−ヘキサデシル基(パルミチル基)、n−オクタデシル基(ステアリル基)、n−イコシル基が挙げられる。
【0022】
また、一般式(1)において、Rで表される直鎖状または分岐状のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、オレイル基が挙げられる。
【0023】
このうち、多価アルコールや油脂への溶解性がより高く、かつ水溶性により優れている点で、一般式(1)において、Rで表される直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基の炭素原子数が6〜20であることが好ましく、8〜18であることがより好ましく、10〜16であることが最も好ましい。この場合、R1で表される基はアルキル基であることが好ましい。
【0024】
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩において、Rで表される直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基の炭素原子数が6未満である場合、多価アルコールや油脂への溶解性が十分でない場合があり、一方、Rで表される直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基の炭素原子数が20を超える場合、水溶性が低い場合がある。
【0025】
(ヒアルロン酸構成単位)
本発明において、「ヒアルロン酸」とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの2糖からなる構成単位を1以上有する多糖類をいう。また、「ヒアルロン酸の塩」としては、特に限定されないが、食品または薬学上許容しうる塩であることが好ましく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0026】
ヒアルロン酸は、基本的にはβ−D−グルクロン酸の1位とβ−D−N−アセチル−グルコサミンの3位とが結合した2糖単位を少なくとも1個含む2糖以上のものでかつβ−D−グルクロン酸とβ−D−N−アセチル−グルコサミンとから基本的に構成され、2糖単位が複数個結合したものであり、またこの誘導体、例えば、アシル基等の加水分解性保護基を有したもの等も使用し得る。その糖は不飽和糖であってもよく、不飽和糖としては、非還元末端糖、通常、グルクロン酸の4,5位炭素間が不飽和のもの等が挙げられる。
【0027】
本発明に使用する修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、多価アルコールや油脂への溶解性に優れている点で、ヒアルロン酸の1構成単位に含まれるグリセリン骨格含有基の数が0.05以上であることが好ましく、0.1〜0.5であることがより好ましい。ここで、「ヒアルロン酸の1構成単位」とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる1構成単位を意味する。
【0028】
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩において、ヒアルロン酸の1構成単位に含まれるグリセリン骨格含有基の数が0.05未満である場合、疎水性が十分でないため、多価アルコールや油脂への溶解性が十分でない場合がある。
【0029】
また、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩において、ヒアルロン酸の1構成単位に含まれるグリセリン骨格含有基の数は、H−NMRスペクトル解析によって同定することができる。
【0030】
すなわち、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩のH−NMRスペクトルにおいて、ヒアルロン酸の1構成単位を構成するN−アセチルグルコサミンの−NHC(=O)CH(N−アセチル基)のメチル基(−CH)のプロトンを示すピークの積分値に対する、グリセリン骨格含有基中のRに含まれるメチレン基(−CH−)のプロトンを示すピークの積分値の比を算出することにより、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩における、ヒアルロン酸の1構成単位に含まれるグリセリン骨格含有基の数を同定することができる。
【0031】
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩では、グリセリン骨格含有基がヒアルロン酸骨格を構成する炭素原子の少なくとも1つに結合していることができる。本発明において、「ヒアルロン酸骨格を構成する炭素原子」とは、ヒアルロン酸を構成するグルクロン酸およびN−アセチルグルコサミンに含まれる炭素原子をいう。例えば、原料ヒアルロン酸および/またはその塩に含まれるカルボキシル基および水酸基のうち少なくとも1つに後述する化合物1または化合物2を反応させて、グリセリン骨格含有基を導入することにより、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を得ることができる。
【0032】
なお、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩において、グリセリン骨格含有基が、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩に結合していることは、例えば、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩のH−NMRスペクトルと、原料であるヒアルロン酸および/またはその塩のH−NMRスペクトルとの比較において、修飾ヒアルロン酸のグリセリン骨格含有基中のメチレン基(−CH−)のプロトンを示すピークによって確認することができる。
【0033】
また、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩において、グリセリン骨格含有基は例えば、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を構成する4位の炭素原子(C−4)および6位の炭素原子(C−6)、ならびに、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を構成するグルクロン酸の2位の炭素原子(C−2)、3位の炭素原子(C−3)、および5位の炭素原子(C−5)に結合するカルボニル基から選ばれる少なくとも1つに結合することができる。より具体的には、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は以下の一般式(2)で表される化合物であることができる。
【0034】
【化1】

・・・(2)
(式中、R〜Rは独立して、水酸基または上記一般式(1)で表されるグリセリン骨格含有基を表し(ただし、R〜Rがいずれも水酸基を表す場合を除く。))
【0035】
なお、上記一般式(2)において、2位の炭素原子(C−2)に結合するN−アセチルグルコサミンの窒素原子に結合している水素原子が、上記一般式(1)で表されるグリセリン骨格含有基で置換されていてもよい。
【0036】
また、上記一般式(2)で表される化合物において、多価アルコールや油脂への溶解性に優れている点で、nは1〜50であることが好ましく、1〜25であることがより好ましい。
【0037】
(動粘度)
本発明において、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液の動粘度は、ウベローデ粘度計(柴田科学器械工業株式会社製)を用いて測定することができる。この際、流下秒数が200〜1000秒になるような係数のウベローデ粘度計を選択する。また、測定は30℃の恒温水槽中で行ない、温度変化のないようにする。
【0038】
ウベローデ粘度計により測定された前記水溶液の流下秒数と、ウベローデ粘度計の係数との積により、動粘度(単位:mm/s)を求めることができる。
【0039】
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の1%水溶液の動粘度は、多価アルコールや油脂への溶解性に優れている点で50mm/s以下であることが好ましく、0.1〜10mm/sであることがより好ましく、0.5〜3mm/sであることがさらに好ましい。
【0040】
(分子量)
本発明において、ヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量は、以下の方法にて測定された値である。
【0041】
即ち、約0.05gのヒアルロン酸および/またはその塩(本品)を精密に量り、0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液に溶かし、正確に100mLとした溶液およびこの溶液8mL、12mL並びに16mLを正確に量り、それぞれに0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液を加えて正確に20mLとした溶液を試料溶液とする。この試料溶液および0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液につき、日本薬局方(第十五改正)一般試験法の粘度測定法(第1法 毛細管粘度計法)により30.0±0.1℃で比粘度を測定し(式a)、各濃度における還元粘度を算出する(式b)。還元粘度を縦軸に、本品の換算した乾燥物に対する濃度(g/100mL)を横軸にとってグラフを描き、各点を結ぶ直線と縦軸との交点から極限粘度を求める。ここで求められた極限粘度をLaurentの式(式c)に代入し、平均分子量を算出する(T.C. Laurent,M.Ryan,A.Pietruszkiewicz,:B.B.A., 42,476−485(1960))。
【0042】
(式a)
比粘度 = {試料溶液の所要流下秒数)/(0.2mol/L塩化ナトリウム溶液の所要流下秒数)}−1
【0043】
(式b)
還元粘度(dL/g)= 比粘度/(本品の換算した乾燥物に対する濃度(g/100mL))
【0044】
(式c)
極限粘度(dL/g)=3.6×10−40.78
M:平均分子量
【0045】
<修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法>
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、例えば、ヒアルロン酸および/またはその塩を下記一般式(3)で表される化合物(本明細書において「化合物1」ともいう。)と反応させる工程によって得られる。あるいは、ヒアルロン酸および/またはその塩を下記一般式(4)で表される化合物(本明細書において「化合物2」ともいう。)と反応させることによって、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/または塩を調製してもよい。なお、反応性を高めるために、原料のヒアルロン酸および/またはその塩(以下「原料ヒアルロン酸および/またはその塩」という。)をアルキルアンモニウム塩に置換した後に、化合物1または化合物2と反応させることが好ましい。
【0046】
【化2】

・・・(3)
(式中、R1は直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)
【0047】
一般式(3)においてRで表される基としては、上記一般式(1)においてRで表される基として例示したものが挙げられる。
【0048】
【化3】

・・・(4)
(式中、Rは上記一般式(2)におけるRと同義であり、Xはハロゲン原子を示す。)
【0049】
一般式(4)においてXで表されるハロゲン原子としては例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0050】
(原料)
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造に使用される原料ヒアルロン酸および/またはその塩は、動物等の生体組織(例えば鶏冠、さい帯、皮膚、関節液など)から抽出されたものでもよく、または、微生物、動物細胞もしくは植物細胞を培養して得られたもの(例えばストレプトコッカス属の細菌等を用いた発酵法)、化学的または酵素的に合成されたものなどを使用することができる。
【0051】
原料ヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量は通常、親水性および適度な疎水性を両立できる点で、400〜100万であることが好ましく、1000〜30万であることがより好ましく、2000〜5万であることがさらに好ましい。
【0052】
原料ヒアルロン酸および/またはその塩としては、粗抽出物および精製物のいずれを用いてもよいが、精製物、具体的には、ヒアルロン酸および/またはその塩の純度が90%(質量比)以上のものが好ましい。純度が90%未満の原料ヒアルロン酸および/またはその塩を原料として用いた場合、ヒアルロン酸および/またはその塩と、前記化合物1または化合物2との反応が阻害される場合があるため好ましくない。
【0053】
(アルキルアンモニウム塩への変換)
原料ヒアルロン酸および/またはその塩をヒアルロン酸のアルキルアンモニウム塩に変換する場合、例えば、原料ヒアルロン酸および/またはその塩に化合物(以下「化合物3」ともいう。)を反応させることにより、ヒアルロン酸の第四級アルキルアンモニウム塩を得ることができる。このような化合物3としては、例えば、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の炭素原子数2〜18の水酸化第四級アルキルアンモニウムが挙げられる。すなわち、ヒアルロン酸の第四級アルキルアンモニウム塩は例えば、炭素原子数2〜18の第四級アルキルアンモニウム塩であることが好ましい。第四級アルキルアンモニウム塩としては、例えば、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラペンチルアンモニウム塩、テトラヘキシルアンモニウム塩が挙げられる。
【0054】
(アルキルアンモニウム塩と化合物1または化合物2との反応)
ヒアルロン酸の第四級アルキルアンモニウム塩と化合物1または化合物2との反応は、有機溶媒中で行うことができる。ここで、反応温度は通常0〜200℃であり、反応時間は通常0.1〜48時間である。上記反応で使用する有機溶媒としては、例えば、ジメチルホルミアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン等が挙げられ、これらを単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0055】
化合物1は単独で、または二種以上を組み合わせて使用してもよい。化合物1の具体例としては、例えば、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテル、ミリスチルグリシジルエーテル、パルミチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のアルケニルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0056】
また、化合物2は単独で、または二種以上を組み合わせて使用してもよい。化合物2の具体例としては、例えば、メチル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエーテル、エチル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエーテル、プロピル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエーテル、ブチル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエーテル、オクチル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエーテル、デシル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエーテル、ドデシル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエーテル、トリデシル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエーテル、ミリスチル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエーテル、パルミチル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエーテル、ステアリル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエーテル、アリル3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエー
テルが挙げられる。
【0057】
(精製)
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法においては、ヒアルロン酸および/またはその塩を化合物1と反応させる工程の後、ナトリウム塩およびカリウム塩またはいずれか一方を反応液に添加する工程をさらに含むことができる。
【0058】
反応液中のナトリウム塩およびカリウム塩またはいずれか一方の濃度は、5〜20%であることが好ましい。ナトリウム塩およびカリウム塩またはいずれか一方の濃度が5%未満では、次の沈殿物を得る工程で沈殿ができない恐れがある。20%を超えると、次の沈殿物を得る工程で、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩と一緒にナトリウム塩またはカリウム塩が沈殿してしまう恐れがある。
【0059】
また、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法においては、ナトリウム塩およびカリウム塩またはいずれか一方を反応液に添加する工程の後に、反応液にアルコールを添加して、沈殿物を得る工程をさらに含むことができる。また、アルコールとしては例えば、メタノール、エタノールが挙げられ、エタノールが好ましい。ここで、沈殿物は、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩である。すなわち、反応液にアルコールを添加して、沈殿物(修飾ヒアルロン酸および/またはその塩)を得ることにより、残存する試薬と分離して、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を得ることができる。
【0060】
沈殿物を得た後、必要に応じて、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が溶解しにくい溶媒(例えば、含水アルコール)で沈殿物を洗浄してもよい。その後、沈殿物を乾燥することにより、精製された修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を得ることができる。
【0061】
上述の沈殿物を得る工程は複数回繰り返して行ってもよい。
【0062】
また、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法において、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の動粘度が低い場合(例えば動粘度が10mm/sである場合)、上述した方法では反応液にアルコールを添加しても沈殿物が得られない場合がある。この場合、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法は、ナトリウム塩およびカリウム塩またはいずれか一方を反応液に添加する工程の後に、反応液のpHを3以下に調整する工程と、pH3以下の反応液に水溶性有機溶媒を添加して、懸濁液を得る工程と、懸濁液をpH3.5〜8に調整して、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を沈殿させる工程とをさらに含むことができる。これらの工程を行うことにより、動粘度が低い場合であっても、高純度の修飾ヒアルロン酸および/または
その塩を高い回収率にて得ることができる。
【0063】
本発明において、「懸濁液」とは、固体の微粒子が液体中に分散している混合物である。例えば、懸濁液では、液中に固体が分散していて液が濁っている状態であってもよいし、懸濁相と上澄み相とに分離していてもよい。後の工程において修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が沈殿しやすい点で、懸濁液は懸濁相と上澄み相とに分離していることが好ましい。
【0064】
懸濁液を得る工程において、水溶性有機溶媒は、溶液が懸濁液へと変化するのに少なくとも必要な量が添加されればよい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等を挙げることができ、これらを単独でまたは組み合わせて使用することができる。このうち、エタノールが好ましい。
【0065】
水溶性有機溶媒の添加量は、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含む溶液1質量部に対して、1質量部以上、好ましくは2〜50質量部、より好ましくは5〜20質量部である。この場合、水溶性有機溶媒の添加量が修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含む溶液1質量部に対して1質量部未満であると、懸濁が生じ難くなる。
【0066】
また、懸濁液を得る工程において、水溶性有機溶媒を添加する前の溶液はpH3以下であり、好ましくはpH0.5〜2.5、より好ましくはpH1〜2である。水溶性有機溶媒を添加する前の溶液のpHが3を超えると、水溶性有機溶媒を加えても懸濁が生じにくく、後の工程で溶液のpHを3.5〜8に調整しても、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が沈殿しにくい。また、水溶性有機溶媒を添加する前の溶液のpHが低すぎると、後の工程で溶液のpHを3.5〜8に調整する際に多量の塩が生成するため、好ましくない場合がある。
【0067】
修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を沈殿させる工程において、懸濁液をpH3.5〜8に調整して、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を沈殿させる。この場合、懸濁液のpHが3.5〜8の範囲を外れると、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が沈殿するのが困難になる。また、より高い回収率を達成できる点で、懸濁液をpH4〜7に調整するのが好ましく、pH4〜6に調整するのがより好ましい。
【0068】
(用途)
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、例えば皮膚等の生体組織に対する高い改質効果(特に、皮膚のバリア機能修復効果)を有している。本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、生体組織の表面に塗布または接触して摂取させてもよいし、特に、顔、腕、手指、足、関節などの皮膚に塗布または接触させるのが好ましい。
【0069】
本発明の実施形態に係る化粧料は、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する。特に、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、エタノールばかりでなく、多価アルコールや油脂に対する溶解性に優れている。このため、油性原料を含む化粧料に配合する場合、分離または析出が生じることなく混合することができる。したがって、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、修飾されていない通常のヒアルロン酸と比較して、油性原料を含む化粧料に好適に使用できる。また、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、水に対する溶解性に優れているため、例えば水を含有する種々の製品に使用できる。
【0070】
(作用効果)
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は上記一般式(1)で表されるグリセリン骨格含有基を含むことにより、親水性および疎水性の両立を図ることができるため、優れた皮膚のバリア機能修復効果を発揮できる。
【0071】
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が、皮膚のバリア機能修復効果を発揮するメカニズムは以下の通りであると推測される。すなわち、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を皮膚に塗布した場合、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩のヒアルロン酸骨格部位が、皮膚の角質層を構成する水層に配置され、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩のグリセリン骨格含有基が、皮膚の角質層を構成する脂質層に配置される。これにより、皮膚の角質層が本来有する水層および脂質層からなるラメラ構造が修復されて、本来ラメラ構造が有するバリア機能が修復される。その結果、皮膚のバリア機能修復効果を発揮することができる。
【0072】
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩では、グリセリン骨格含有基中のRによって疎水性がもたらされ、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩に含まれる水酸基(グリセリン骨格含有基中の水酸基を含む)および/またはカルボキシル基によって親水性がもたらされると推察される。
【0073】
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を例えば皮膚に塗布した場合、皮膚の角質層において、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩のグリセリン骨格含有基中のRが脂質層に入り込み、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩に含まれるヒアルロン酸骨格部分が水層に入り込むことによって皮膚のラメラ構造を修復し、皮膚からの水の蒸発を防止することができる。これにより、皮膚の保湿力を高めることができると推察される。
【0074】
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は上記一般式(1)で表されるグリセリン骨格含有基を含むことにより、水溶性に優れているため、例えば水を含有する種々の製品に添加して使用することができる。
【0075】
また、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、多価アルコール及び油脂に対する溶解性に優れているため、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を、例えば水分含有量の低い製品に配合した場合、当該製品への溶解性に優れており、透明性が高い製品を得ることができる。
【0076】
≪化粧料≫
本発明の実施形態に係る化粧料は、上記修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する。例えば、本実施形態に係る化粧料は、上記修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を保湿剤として含有することができる。また、本実施形態に係る化粧料における上記修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の含有量は、特に限定するものではないが、0.001〜5質量%が好ましく、0.005〜1%がより好ましい。含有量が0.001質量%未満では、満足な保湿効果や滑らかさが得られず、使用時の皮膚のかさつき感を改善することができない恐れがある。含有量が5質量%を超えると、粘度が高くなりすぎ皮膚全体に伸ばしにくくなる恐れがある。
【0077】
本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、エタノール及び多価アルコール、油脂に対する溶解性に優れており、適度な疎水性を有する。よって、本実施形態に係る修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を、上述の油性原料を含む化粧料に配合する場合、分離または析出が生じることなく良好に混合することができる。
【0078】
本実施形態に係る化粧料は、本発明の効果を奏し易い点から、水分含有量が5%以下であり、3%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましく、水分を含有しないことが最も好ましい。水分含有量の低い化粧料としては、具体的には、油性原料を含む化粧料(例えば、パック、口紅、リップクリーム、リップグロス、リップライナー、オイルクレンジング)が挙げられる。
【0079】
本実施形態に係る化粧料によれば、上記修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含有することにより、優れた保湿効果を発揮することができる。
【0080】
また、本実施形態に係る化粧料によれば、上記修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含有することにより、適度な粘度に調整されているため、使用時の皮膚のかさつき感を改善することができる。
【0081】
したがって、本実施形態に係る化粧料によれば、上記修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含有することにより、皮膚に潤いを与えることができ、かつ、例えば皮膚のかさつき感などを改善することができる。
【0082】
本実施形態に係る化粧料にはさらに、以下の成分が配合されていてもよい。例えば、カチオン化多糖類(例えば、カチオン化ヒアルロン酸、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化グアーガム、カチオン化澱粉、カチオン化ローカストビーンガム、カチオン化デキストラン、カチオン化キトサン、カチオン化ハチミツ等)、アニオン界面活性剤(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、オレフィンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等)、非イオン界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体等)、陽イオン界面活性剤(例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等)、両性界面活性剤(例えば、アルキルベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、イミダゾリニウムベタイン、卵黄レシチン、大豆レシチン等)、油分(例えば、シリコーン、シリコーン誘導体、流動パラフィン、スクワラン、ミツロウ、カルナバロウ、オリーブ油、アボガド油、ツバキ油、ホホバ油、馬油等)、保湿剤(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、加水分解ヒアルロン酸、アセチル化ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ジメチルシラノール、セラミド、ラウロイルグルタミン酸ジフィトステリルオクチルドデシル、フィトグリコーゲン、加水分解卵殻膜、トレハロース、グリセリン、アテロコラーゲン、ソルビトール、マルチトール、1,3−ブチレングリコール等)、高級脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ベヘニン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸等)、高級アルコール(例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、イソステアリルアルコール、バチルアルコール等)、多価アルコール(例えば、グリセリン、ジグリセリン、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ペンチレングリコール等)、増粘剤(例えば、セルロースエーテル、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、パルミチン酸デキストリン等)、両性高分子樹脂化合物(例えば、ベタイン化ジアルキルアミノアルキルアクリレート共重合体等)、カチオン性高分子樹脂化合物(例えば、ビニルピロリドン/ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体カチオン化物、ポリジメチルジアリルアンモニウムハライド型カチオン性ポリマー等)、防腐剤(例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン、プロピルパラベン、フェノキシエタノール等)、酸化防止剤(例えば、トコフェノール、BHT等)、金属封鎖剤(例えば、エデト酸塩、エチドロン酸塩等)、紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、メトキシ桂皮酸誘導体等)、紫外線反射剤(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛等)、タンパク質加水分解物(例えば、ケラチンペプチド、コラーゲンペプチド、大豆ペプチド、コムギペプチド、ミルクペプチド、シルクペプチド、卵白ペプチド等)、アミノ酸(例えば、アルギニン、グルタミン酸、グリシン、アラニン、ヒドロキシプロリン、システイン、セリン、L−テアニン等)、天然物エキス(クジンエキス、カジルエキス、テンチカエキス、海草エキス、ユーカリエキス、ローヤルゼリーエキス、ローズマリーエキス、ブナの木エキス等)、その他の機能性成分(コエンザイムQ10、アルブチン、ポリクオタニウム51、エラスチン、白金ナノコロイド、パルミチン酸レチノール、パンテノール、アラントイン、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム、リン酸アスコルビルマグネシウム、L−アスコルビン酸2−グルコシド、エラグ酸、コウジ酸、リノール酸、トラネキサム酸等)、リン脂質ポリマー、香料、色素が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施形態に係る実施例1〜20について、説明する。
【0084】
<修飾ヒアルロン酸の調製>
(調製例1)
1Lビーカーにヒアルロン酸(分子量8000、キユーピー株式会社製)5.0gを水500mLに溶解させ、さらに40%水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液を攪拌しながら加えて、pHを7.2に調整した。pH調整後、凍結乾燥させ、ヒアルロン酸のテトラブチルアンモニウム塩を10.2g得た。30mLサンプル瓶に得られたヒアルロン酸のテトラブチルアンモニウム塩1.0g、C12〜13アルキルグリシジルエーテル(反応試薬)(四日市合成株式会社製)2.0g、およびジメチルホルミアミド(DMF)10mLを入れ、攪拌しながら80℃水浴上で8時間反応させた。反応終了後、12.5%塩化ナトリウム水溶液を10mL加え、8%塩酸にてpH1.0に調整した。次いで、エタノール50mLを撹拌しながらゆっくり加え、ヒアルロン酸を沈殿させた。次いで、25%水酸化ナトリウムでpHを7.0に調整し、沈殿物をろ過にて回収し、80%エタノール50mLで3回洗浄した。得られた沈殿物を60℃で真空乾燥させて、上記一般式(1)で表されるグリセリン骨格含有基を含む、修飾率0.05の修飾ヒアルロン酸を0.48g得た。また、調製例1で得られた修飾ヒアルロン酸の動粘度は1.2mm/sであった。
(調製例2)
調製例1において試薬との反応温度および反応時間を変更して、修飾率0.09の修飾ヒアルロン酸を得た。
(調製例3)
調製例1において試薬との反応温度および反応時間を変更して、修飾率0.2の修飾ヒアルロン酸を得た。
(調製例4)
調製例1において試薬との反応温度および反応時間を変更して、修飾率0.4の修飾ヒアルロン酸を得た。
(調製例5)
調製例1においてC12〜13アルキルグリシジルエーテルをC16アルキルグリシジルエーテルに置き換え、反応温度および反応時間を変更して、修飾率0.2の修飾ヒアルロン酸を得た。
【0085】
<グリセリン添加化粧料の調製>
(実施例1)
グリセリン4.95gに調製例1の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(実施例2)
グリセリン4.95gに調製例2の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(実施例3)
グリセリン4.95gに調製例3の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(実施例4)
グリセリン4.95gに調製例4の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(比較例1)
グリセリン4.95gに無修飾のヒアルロン酸0.05g(分子量8000、キユーピー株式会社製)を添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(比較例2)
グリセリン4.95gにヒアルロン酸プロピレングリコールエステルを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。ヒアルロン酸プロピレングリコールエステルは、以下の方法で調整した。ヒアルロン酸ナトリウム((株)紀文フードケミファ製、FCH−200)300gを、エタノール/水(9:1)3.6Lと塩酸180mlの混合液と混合して65℃で3時間攪拌した。その後、エタノール/水(9:1)で洗浄してヒアルロン酸とヒアルロン酸ナトリウムの混合物を得た。この混合物100g(乾燥重量)に、6倍モルのプロピレンオキサイドを加え70℃で20分エステル化反応を行った。その後、エタノール/水(9:1)で洗浄し、5モルの酢酸ナトリウムのエタノール/水(8.5:1.5)溶液で中和し、さらにエタノール/水(9:1)で洗浄した。得られた反応物を減圧乾燥することにより、ヒアルロン酸プロピレングリコールエステルを得た。
【0086】
<グリセリンへの修飾ヒアルロン酸の溶解性試験>
(試験例1)
実施例1〜4及び比較例1、2で調製した化粧料を、25℃で一晩静置した時の修飾ヒアルロン酸の溶解性を目視にて評価した結果を表1に示した。
【0087】
【表1】

修飾ヒアルロン酸の溶解性の評価基準(表1、2、3、4に適用)
◎:完全溶解
○:ほぼ溶解
△:一部溶解
×:白濁および沈殿物の析出
【0088】
<1,3−ブチレングリコール添加化粧料の調製>
グリセリン以外の多価アルコールとして、1,3−ブチレングリコールを添加した化粧料を調製した。
(実施例5)
1,3−ブチレングリコール4.95gに調製例1の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(実施例6)
1,3−ブチレングリコール4.95gに調製例2の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(実施例7)
1,3−ブチレングリコール4.95gに調製例3の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(実施例8)
1,3−ブチレングリコール4.95gに調製例4の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(比較例3)
1,3−ブチレングリコール4.95gに無修飾のヒアルロン酸0.05g(分子量8000、キユーピー株式会社製)を添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(比較例4)
グリセリンの代りに1,3−ブチレングリコールを用いたこと以外は、比較例2と同様に化粧料を調製した。
【0089】
<1,3−ブチレングリコールへの修飾ヒアルロン酸の溶解性試験>
(試験例2)
実施例5〜8及び比較例3、4で調製した化粧料を、25℃で一晩静置した時の修飾ヒアルロン酸の溶解性を目視にて評価した結果を表2に示した。
【0090】
【表2】

【0091】
<油脂添加化粧料の調製>
(実施例9)
イソステアリン酸PEG−3グリセリル(エマレックスGWIS−103)4.95gに調製例3の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(実施例10)
ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)
(エルデュウCL−301)4.95gに調製例3の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(実施例11)
ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)
(エルデュウCL−301)4.95gに調製例5の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(実施例12)
流動パラフィン(ミネラルオイル)4.95gに調製例3の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
流動パラフィン(ミネラルオイル)
(実施例13)
シリコン油(シリコーンKF−7312J)4.95gに調製例3の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(比較例5)
イソステアリン酸PEG−3グリセリル(エマレックスGWIS−103)4.95gに無修飾のヒアルロン酸0.05g(分子量8000、キユーピー株式会社製)を添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(比較例6)
ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)
(エルデュウCL−301)4.95gに無修飾のヒアルロン酸0.05g(分子量8000、キユーピー株式会社製)を添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(比較例7)
流動パラフィン(ミネラルオイル)4.95gに無修飾のヒアルロン酸0.05g(分子量8000、キユーピー株式会社製)を添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
(比較例8)
流動パラフィン(ミネラルオイル)4.95gに無修飾のヒアルロン酸0.05g(分子量8000、キユーピー株式会社製)を添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
シリコン油(シリコーンKF−7312J)4.95gに無修飾のヒアルロン酸0.05g(分子量8000、キユーピー株式会社製)を添加し、80℃で加熱して化粧料を調製した。
【0092】
<油脂に対する修飾ヒアルロン酸の溶解性>
(試験例3)
実施例9〜13及び比較例5〜8で調製した化粧料を、25℃で一晩静置した時の修飾ヒアルロン酸の溶解性を目視にて評価した結果を表3に示した。
【0093】
【表3】

【0094】
<油脂添加化粧料の調製(リップグロス汎用性油脂原料の添加)>
(実施例14)
水添ポリイソブテン(パールリーム18)4.95gに調製例2の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、70℃で加熱して化粧料を調製した。

(実施例15)
トリエチルヘキサノイン(T.I.0)4.95gに調製例2の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、70℃で加熱して化粧料を調製した。
(実施例16)
ビス(ラウロイルグルタミン酸/ラウロイルサルコシン/ダイマージリノレイル)(エルデュウDA−209)4.95gに調製例2の修飾ヒアルロン酸0.05gを添加し、70℃で加熱して化粧料を調製した。
(比較例9)
水添ポリイソブテン(パールリーム18)4.95gに無修飾のヒアルロン酸0.05g(分子量8000、キユーピー株式会社製)を添加し、70℃で加熱して化粧料を調製した。
(比較例10)
トリエチルヘキサノイン(T.I.O)4.95gに無修飾のヒアルロン酸0.05g(分子量8000、キユーピー株式会社製)を添加し、70℃で加熱して化粧料を調製した。
(比較例11)
ビス(ラウロイルグルタミン酸/ラウロイルサルコシン/ダイマージリノレイル)(エルデュウDA−209)4.95gに無修飾のヒアルロン酸0.05g(分子量8000、キユーピー株式会社製)を添加し、70℃で加熱して化粧料を調製した。
【0095】
<油脂に対する修飾ヒアルロン酸の溶解性(リップグロス汎用性油脂原料への溶解性)>
(試験例4)
実施例14〜16及び比較例9〜11で調製した化粧料を、25℃で一晩静置した時の修飾ヒアルロン酸の溶解性を目視にて評価した結果を表4に示した。

【0096】
【表4】

【0097】
<化粧料への配合例>
(実施例17)口紅
表5に示した配合で、調整例2の修飾ヒアルロン酸(修飾率0.09)を配合した口紅を調製した。すなわち、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)に修飾ヒアルロン酸を添加し、25℃で一晩静置してA1相を調製した。次に、B1相を80℃で溶解し、C1相を加え、80℃で溶解させた。その後、D1相を加え、80℃で加温し、A1相を加え80℃で加温して口紅を調製した。なお、得られた口紅の水分含有量は、0%であった。得られた口紅は、修飾ヒアルロン酸の粉末粒子は見られず、滑らかな感触であった。
【0098】
【表5】

【0099】
調整例2の修飾ヒアルロン酸に代えて、ヒアルロン酸(分子量8000、キユーピー株式会社製)を配合した以外は実施例18と同様の方法で口紅を調製した場合、ヒアルロン酸の粉末粒子が見られ、ヒアルロン酸を均一に配合できなかった。
【0100】
(実施例18)クレンジングオイル(水分なし)
表6に示した配合で、調整例3の修飾ヒアルロン酸(修飾率0.20)を配合した、水分含有量が0%のクレンジングオイルを調製した。すなわち、流動パラフィンに修飾ヒアルロン酸を添加し、80℃で加熱して溶解させた後、その他のA2相の原料と混合した。次に、常温でA2相を撹拌しながらB2相を添加した後、50℃まで加温し5分間保持した。その後、常温で撹拌しながら冷却してクレンジングオイルを調製した。得られた口紅は、修飾ヒアルロン酸の粉末粒子は見られず、滑らかな感触であった。
【0101】
【表6】

【0102】
(実施例19)クレンジングオイル(水分含有)
表7に示した配合で、調整例1の修飾ヒアルロン酸(修飾率0.05)を配合した、水分含有量が2質量%のクレンジングオイルを調製した。すなわち、修飾ヒアルロン酸を含むA3相のすべての原料を70℃で撹拌溶解した。B3相の原料も70℃で撹拌溶解した。次に、A3相を撹拌しながらB3相を加え、1000rpmで3分間撹拌して溶解した。その後、撹拌しながら40℃まで冷却してクレンジングオイルを調製した。得られたクレンジングオイルは、修飾ヒアルロン酸の粉末粒子は見られず、滑らかな感触であった。
【0103】
【表7】

【0104】
(実施例20)リップグロス
表8に示した配合で、調整例3の修飾ヒアルロン酸(修飾率0.20)を配合した透明リップグロスを調製した。すなわち、A4相の原料を90℃で加熱溶解した。修飾ヒアルロン酸を含むB相の原料を、75℃でA4相に加え、加熱混合した。次に、C4相を加え、70℃で均一に加熱混合し、D4相を加え、70℃で加熱混合した。30℃まで冷却し、透明リップグロスを製した。なお、得られた透明リップグロスの水分含有量は0%だった。得られたクレンジングオイルは、修飾ヒアルロン酸の粉末粒子は見られず、滑らかな感触であった。
【0105】
【表8】

【0106】
本発明の実施形態から以下のことが明らかとなった。
(A)ヒアルロン酸1構成単位に含まれる、グリセリン骨格含有基の数すなわち修飾率が0.05以上の修飾ヒアルロン酸は、多価アルコールに対し良好な溶解性を示す。一方、グリセリン骨格含有基を含まないヒアルロン酸、及びヒアルロン酸プロピレングリコールエステルは、多価アルコールに溶解しない。
(B)ヒアルロン酸1構成単位に含まれる、グリセリン骨格含有基の数すなわち修飾率が0.05以上の修飾ヒアルロン酸は、油脂に対し溶解性を示す。一方、グリセリン骨格含有基を含まないヒアルロン酸、油脂に溶解しない。
(C)ヒアルロン酸1構成単位に含まれる、グリセリン骨格含有基の数すなわち修飾率が0.05以上の修飾ヒアルロン酸を含む化粧料は、水分を含有しなくても、滑らかな感触を示す。
【0107】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが、当業者には明らかである。また、その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分含有量が5質量%以下の化粧料であって、
下記一般式(1)で表されるグリセリン骨格含有基を含む、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する化粧料。
−O−CH−CHOH−CH−OR ・・・(1)
(式中、Rは直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)
【請求項2】
ヒアルロン酸1構成単位に含まれる前記グリセリン骨格含有基の数が0.05以上である、請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
水分含有量が5質量%以下であり、下記一般式(1)で表されるグリセリン骨格含有基を含む、修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する化粧料の製造方法であって、
前記修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を、多価アルコールおよび/または油脂に溶解する工程を含む、化粧料の製造方法。
−O−CH−CHOH−CH−OR ・・・(1)
(式中、Rは直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)
【請求項4】
請求項3に記載の化粧料の製造方法において、ヒアルロン酸1構成単位に含まれる前記グリセリン骨格含有基の数が0.05以上である、化粧料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−6835(P2013−6835A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−119037(P2012−119037)
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】