医療用マニピュレータ
【課題】先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を効果的に向上できる医療用マニピュレータを提供することを目的とする。
【解決手段】医療用マニピュレータ10における先端動作部12は、エンドエフェクタ19と、ヨー軸Oyを中心に動作可能な主軸部材100と、ロール軸Orを中心に動作可能なギア体102とを有する。ヨー軸操作指令を受けた場合、ヨー軸駆動系のガタ分を補償するように、主軸部材100の駆動源である第1モータ50aの補償制御がなされる。ロール軸操作指令を受けた場合、ヨー軸駆動系のガタおよび弾性変形に起因するヨー動作の発生を防止または抑制するように第1モータ50aの補償制御がなされる。
【解決手段】医療用マニピュレータ10における先端動作部12は、エンドエフェクタ19と、ヨー軸Oyを中心に動作可能な主軸部材100と、ロール軸Orを中心に動作可能なギア体102とを有する。ヨー軸操作指令を受けた場合、ヨー軸駆動系のガタ分を補償するように、主軸部材100の駆動源である第1モータ50aの補償制御がなされる。ロール軸操作指令を受けた場合、ヨー軸駆動系のガタおよび弾性変形に起因するヨー動作の発生を防止または抑制するように第1モータ50aの補償制御がなされる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、姿勢変更動作が可能なエンドエフェクタを有する先端動作部を備えた医療用マニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡下外科手術(または腹腔鏡下手術とも呼ばれる。)においては、患者の腹部等に複数の孔を開け、これらの孔にトラカール(筒状の器具)を挿入した後、各トラカールを通して、腹腔鏡(カメラ)と複数の鉗子を体腔内に挿入する。鉗子の先端部には、エンドエフェクタとして、生体組織を把持するためのグリッパや、鋏、電気メスのブレード等が取り付けられている。腹腔鏡と鉗子を体腔内に挿入したら、腹腔鏡に接続されたモニタに映る腹腔内の様子を見ながら鉗子を操作して手術を行う。このような手術方法は、開腹を必要としないため、患者への負担が少なく、術後の回復や退院までの日数が大幅に低減される。このため、このような手術方法は、適用分野の拡大が期待されている。
【0003】
トラカールから挿入される鉗子として、先端部に関節を持たない一般的な鉗子に加えて、先端部に複数の関節を有して先端部の姿勢を変更できる鉗子、いわゆる医療用マニピュレータの開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。このような医療用マニピュレータによれば、体腔内で自由度の高い動作が可能であり、手技が容易となり、適用可能な症例が多くなる。
【0004】
特許文献1にて提案された医療用マニピュレータは、グリップハンドルを有する操作部からシャフトが前方に延出し、このシャフトの先端部にはエンドエフェクタを有する姿勢変更が可能な先端動作部が設けられている。この先端動作部における姿勢変更機構は、ヨー軸を中心に回動動作する主軸部材と、主軸部材に回転自在に支持されてロール軸を中心に回動動作するギア体とを有する。主軸部材およびギア体は、それぞれモータの駆動力が動力伝達機構により伝達されて回転駆動され、主軸部材が回転駆動されることで先端動作部がヨー動作し、ギア体が回転駆動されることで先端動作部がロール動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−107087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モータの駆動力を主軸部材に伝達する動力伝達機構には、通常、機械的ガタ(以下、ガタという)が存在するため、ガタの範囲内でモータが動作しても、主軸部材の動作が行われない。したがって、先端動作部の軌跡精度や位置決め精度の低下が懸念される。
【0007】
また、ロール動作をさせるためにギア体を回転させようとすると、ギア体を支持する主軸部材がギア体から力を受ける。このとき、ヨー軸駆動系の動力伝達機構に存在するガタにより、あるいはこの動力伝達機構の剛性が低い場合に弾性変形が生じることにより、先端動作部の軌跡精度や位置決め精度の低下が懸念される。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を向上できる医療用マニピュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る医療用マニピュレータは、第1駆動源と、エンドエフェクタと、前記第1駆動源の駆動力が機械的に伝達されることで第1姿勢変更動作をするように構成された第1動作部とを有する先端動作部と、前記第1駆動源の駆動力を機械的に伝達して前記第1動作部を動作させる第1動力伝達機構と、前記第1駆動源を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記第1姿勢変更動作に係る第1操作指令を受けた場合、第1の補償制御として、前記第1動力伝達機構に存在するガタ分を補償するように、前記第1駆動源を制御する、ことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、第1の補償制御により、第1動力伝達機構に存在するガタ分が補償される。このため、第1動作部の姿勢制御を精度良く行うことができ、操作性が向上する。
【0011】
前記第1の補償制御では、前記第1駆動源の正規目標値である正規1軸目標値と、前記第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす補正値とに基づいて、前記第1駆動源の制御上の目標値である補正1軸目標値を生成するとよい。
【0012】
上記の構成によれば、正規1軸目標値を、第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす補正値により補正して補正1軸目標値を生成するので、先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を効果的に向上できる。
【0013】
前記医療用マニピュレータは、第2駆動源と、前記第2駆動源の駆動力を機械的に伝達して第2動作部を動作させる第2動力伝達機構とをさらに備え、前記第2動作部は、第2姿勢変更動作を行うことが可能なように前記第1動作部により支持され、前記コントローラは、前記第2姿勢変更動作に係る第2操作指令を受けた場合、第2の補償制御として、前記第2姿勢変更動作に起因する前記第1姿勢変更動作の発生を防止または抑制するように、前記第1駆動源を制御するとよい。
【0014】
上記の構成によれば、第2の補償制御により、第2姿勢変更動作に起因する第1姿勢変更動作の発生が防止または抑制される。すなわち、第2姿勢変更動作をさせる際の先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を効果的に向上できる。
【0015】
前記第2の補償制御では、前記第1駆動源の正規目標値である正規1軸目標値と、前記第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす補正値とに基づいて、前記第1駆動源の制御上の目標値である補正1軸目標値を生成するとよい。
【0016】
上記の構成によれば、正規1軸目標値を、第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす補正値により補正して補正1軸目標値を生成するので、第2動作部に第2姿勢変更動作をさせる際の先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を効果的に向上できる。
【0017】
前記第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす前記補正値は、前記第2姿勢変更動作に起因して前記第1動作部が前記第2動作部から受ける力の方向とは逆方向のガタをなくす補正値であるとよい。
【0018】
上記の構成によれば、第2動作部に第2姿勢変更動作をさせる際に、第1動作部が第2動作部から受ける力の方向とは逆方向に、第1動作部を動作させることで、ガタの影響をなくすので、ガタに起因する第1動作部の動作の発生を効果的に防止できる。
【0019】
前記第2の補償制御では、前記第1駆動源の正規目標値である正規1軸目標値と、前記第1動力伝達機構の弾性変形に起因する前記第1動作部の動作の発生を防止または抑制する補正値と、に基づいて、前記第1駆動源の制御上の目標値である補正1軸目標値を生成するとよい。
【0020】
上記の構成によれば、正規1軸目標値を、第1動力伝達機構の弾性変形に起因する第1動作部の動作の発生を防止または低減する補正値により補正して補正1軸目標値を生成するので、第2動作部に第2姿勢変更動作をさせる際の、第1動力伝達機構の弾性変形に起因する第1動作部の動作の発生を効果的に防止できる。
【0021】
前記第2の補償制御における前記補正値は、前記第2動作部による前記第1動作部への干渉トルクが相対的に高い高トルク状態での前記第1動力伝達機構の弾性変形に起因する前記第1動作部の動作の発生を防止する補正値以上、かつ、前記干渉トルクが相対的に低い低トルク状態での前記第1動力伝達機構の弾性変形に起因する前記第1動作部の動作の発生を防止する補正値以下の値であるとよい。
【0022】
上記の構成によれば、第2の補償制御における補正値として、低トルク状態に対応する補正値以上、かつ高トルク状態に対応する補正値以下の値を用いることで、エンドエフェクタの状態または第2動作部の動作抵抗を測定または推定しなくても、第2動作部に第2姿勢変更動作をさせる際の先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を効果的に向上できる。
【0023】
前記コントローラは、前記低トルク状態のときは、前記低トルク状態に対応した補正値で前記第2の補償制御を行い、前記エンドエフェクタが前記高トルク状態のときは、前記高トルク状態に対応した補正値で前記第2の補償制御を行うとよい。
【0024】
上記の構成によれば、低トルク状態と高トルク状態の各状態に応じた補正値で第2の補償制御を行うので、第1動力伝達機構の弾性変形に起因する第1動作部の動作の発生を効果的に防止することができる。
【0025】
前記コントローラは、計測または推定した前記第2動作部の動作抵抗に応じた補正値で前記第2の補償制御を行うとよい。
【0026】
上記の構成によれば、計測または推定した第2動作部の動作抵抗に応じた補正値で第2の補償制御を行うので、第1動力伝達機構の弾性変形に起因する第1動作部の動作の発生を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る医療用マニピュレータによれば、先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る医療用マニピュレータの斜視図である。
【図2】先端動作部の斜視図である。
【図3】作業部と操作部とを分離した状態でのマニピュレータ本体の一部断面側面図である。
【図4】作業部の一部省略断面平面図である。
【図5】駆動部の駆動力を姿勢変更機構に伝達するための機構の模式構造図である。
【図6】作業部を操作部に装着した状態の、第1構成例に係る検出機構を備えた医療用マニピュレータを示す一部省略側面図である。
【図7】第2構成例に係る検出機構を備えた医療用マニピュレータの一部省略側面図である。
【図8】医療用マニピュレータの機能ブロック図である。
【図9】図9Aは、先端動作部にヨー動作をさせる場合の補正1軸目標値を説明する第1の模式説明図であり、図9Bは、先端動作部にヨー動作をさせる場合の補正1軸目標値を説明する第2の模式説明図であり、図9Cは、先端動作部にヨー動作をさせる場合の補正1軸目標値を説明する第3の模式説明図である。
【図10】図10Aは、先端動作部にヨー動作をさせる場合の第1モータの正規速度指令値の時間変化を示す図であり、図10Bは、先端動作部にヨー動作をさせる場合の第1モータの速度補正指令値の時間変化を示す図であり、図10Cは、先端動作部にヨー動作をさせる場合の第1モータの速度指令値の時間変化を示す図である。
【図11】図11Aは、先端動作部にロール動作をさせる際のヨー動作に対する影響を説明する第1の模式説明図であり、図11Bは、先端動作部にロール動作をさせる際のヨー動作に対する影響を説明する第2の模式説明図であり、図11Cは、先端動作部にロール動作をさせる際のヨー動作に対する影響を説明する第3の模式説明図である。
【図12】図12Aは、先端動作部にロール動作をさせる場合の1軸補正値を説明する第1の模式説明図であり、図12Bは、先端動作部にロール動作をさせる場合の1軸補正値を説明する第2の模式説明図であり、図12Cは、先端動作部にロール動作をさせる場合の1軸補正値を説明する第3の模式説明図である。
【図13】図13Aは、先端動作部にロール動作をさせる場合の第2モータの正規速度指令値の時間変化を示す図であり、図13Bは、先端動作部にロール動作をさせる場合の第1モータの速度指令値(速度補正値)の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る医療用マニピュレータ(以下、マニピュレータという。)について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0030】
まず、図1を参照し、本発明の一実施形態に係る医療用マニピュレータ10の全体構成について説明する。マニピュレータ10は、先端に設けられた先端動作部12で生体の一部を把持し又は生体に触れて、所定の処置を行うための医療用の器具であり、通常、把持鉗子やニードルドライバ(持針器)等とも呼ばれる。
【0031】
マニピュレータ10は、医療用器具を構成するマニピュレータ本体11と、マニピュレータ本体11にケーブル28を介して接続されたコントローラ29とを備える。マニピュレータ本体11は、ボディ21と、ボディ21から延出するシャフト18と、シャフトの先端に設けられた先端動作部12とを有する。
【0032】
以下の説明では、シャフト18の延在方向をZ方向と規定し、さらに、シャフト18の前方(先端側)をZ1方向、後方(根元側)をZ2方向と規定する。また、Z方向に直角な方向であって、マニピュレータ本体11を図1の姿勢にしたときのマニピュレータ本体11を基準とした左右方向をX方向とし、特に、マニピュレータ本体11の左側方向をX1方向、右側方向をX2方向と規定する。また、Z方向に直角な方向であって、マニピュレータ本体11を図1の姿勢にしたときのマニピュレータ本体11の上下方向をY方向とし、特に、上方向をY1方向、下方向をY2方向と規定する。
【0033】
なお、特に断りのない限り、これらの方向の記載はマニピュレータ本体11が基準姿勢(中立姿勢)である場合を基準として表すものとする。これらの方向は説明の便宜上のものであり、マニピュレータ本体11は任意の向きで(例えば、上下を反転させて)使用可能であることは勿論である。
【0034】
マニピュレータ本体11は、人手によって把持及び操作される操作部14と、該操作部14に対して着脱自在な作業部16とを有する。操作部14は、上述したボディ21の一部を構成し、筐体を構成しZ1方向及びY2方向に略L字状に延在する左右一対の上部カバー25a、25bと、上部カバー25a、25b内に収容された駆動部30と、人手によって操作される複合入力部24とを有する。
【0035】
駆動部30は、先端動作部12の姿勢を変更させるための駆動源50として第1モータ(第1駆動源)50a及び第2モータ(第2駆動源)50bを有し、駆動源50の駆動力が先端動作部12に機械的に伝達されることで、先端動作部12の姿勢を変更できるように構成されている。
【0036】
第1モータおよび第2モータには、それぞれエンコーダ51a、51bが付帯して設けられており、各エンコーダ51a、51bにより第1モータ50aおよび第2モータ50bの動作角度(回転角度)が検出され、その検出角度をフィードバック信号として、コントローラ29により第1モータ50aおよび第2モータ50bがフィードバック制御される。
【0037】
操作部14の基端側でY2方向に延びた部分は、人手によって把持されるグリップハンドル26として構成されている。グリップハンドル26の上部に設けられた複合入力部24は、回転操作部90および傾動操作部92とを有する。回転操作部90に対する左右方向への回動操作及び傾動操作部92に対する傾動操作を単独又は複合的に行うことで、その操作に応じた信号がコントローラ29に送信され、コントローラ29が第1モータおよび第2モータの駆動を制御することにより、先端動作部12の姿勢変更が行われる。
【0038】
作業部16は、Z方向で略対称に分割された一対の下部カバー37a、37bを筐体としており、上記の先端動作部12と、この先端動作部12を先端に設けた長尺且つ中空のシャフト18と、このシャフト18の基端側が固定され、下部カバー37a、37b内に収容されたプーリボックス32と、プーリボックス32の後方に設けられ、トリガ軸39を支点としてX方向の軸心を中心に回動可能に軸支されたトリガレバー36とを有する。下部カバー37a、37b、プーリボックス32及びトリガレバー36は、上述したボディ21の一部を構成する。
【0039】
作業部16は、操作部14に設けられた左右一対の着脱レバー40、40によって当該操作部14と連結・固定されると共に、着脱レバー40の開放操作によって操作部14から分離可能であり、特別な器具を用いることなく、手術現場で容易に交換作業等を行うことができる。
【0040】
トリガレバー36は、操作者の手指が引っ掛けられるように構成されたトリガ操作子36bと、トリガ操作子36bの上部に設けられたアーム部36aとを有し、アーム部36aの箇所でトリガ軸39に軸支されることで、X方向の軸線を中心として前後方向(Z方向)に揺動可能に配置されている。
【0041】
図2は、先端動作部12の斜視図である。先端動作部12は、開閉動作するエンドエフェクタ19と、エンドエフェクタ19の姿勢を変化させる姿勢変更機構13とを有する。エンドエフェクタ19は、例えば、生体の一部や縫合用の針を把持するグリッパ、生体の一部を切断するハサミ等として、所定の開閉動作軸を基準に開閉動作可能に構成される。図示例のエンドエフェクタ19は、グリッパ19Aとして構成されている。
【0042】
エンドエフェクタ19は、人手によるトリガレバー36の操作(押し引き操作)に基づく力が機械的に伝達されることで開閉動作する。具体的には、作業部16の内部には、ロッド83a、83b(図3及び図4参照)、動力伝達部材としてのワイヤ82a、82b(図3及び図4参照)、プーリ等から構成される伝達機構が設けられており、トリガレバー36の押し引き操作が、伝達機構によりエンドエフェクタ19の開閉動作に変換されるようになっている。
【0043】
なお、トリガレバー36の操作をエンドエフェクタ19の開閉動作に変換する機構としては、例えば、特開2008−104855号公報や特開2009−106606号公報に記載された構成と同様の構成を採用してよい。
【0044】
姿勢変更機構13は、Y方向のヨー軸Oyを基準に傾動するヨー動作(第1姿勢変更動作)と、先端を指向するロール軸Or(中立姿勢時にはZ軸)を基準に回転するロール動作(第2姿勢変更動作)とが可能である。ヨー動作は、シャフト18の軸線に対して傾斜した方向へ動作することから、傾動動作ということもできる。姿勢変更機構13は、ロール動作とヨー動作とを選択的に又は複合的に行うことが可能である。
【0045】
本実施形態の場合、エンドエフェクタ19の姿勢変更の動作(ヨー動作及びロール動作)は、複合入力部24の操作に基づいて駆動源50が駆動し、この駆動源50の駆動力が先端動作部12に機械的に伝達されることで行われる。
【0046】
先端動作部12及びシャフト18は細径に構成されており、患者の腹部等に装着された円筒形状のトラカール20を通して体腔22内に挿入可能であり、複合入力部24及びトリガレバー36の操作によって体腔22内で患部切除、把持、縫合及び結紮等の様々な手技を行うことができる。
【0047】
図1に示すコントローラ29は、マニピュレータ本体11を総合的に制御する制御部であって、グリップハンドル26の下端部から延在するケーブル28と接続される。コントローラ29の機能の一部又は全部は、例えば操作部14に一体的に搭載することもできる。コントローラ29は、複数(図示例では、3個)の接続ポート27a〜27cを備えており、3台のマニピュレータ本体11を独立的に同時に制御することができる。
【0048】
次に、駆動源50の駆動力を先端動作部12に機械的に伝達する機構について説明する。ここで、図3は、作業部16と操作部14とを分離した状態でのマニピュレータ本体11の一部断面側面図であり、図4は、作業部16の一部省略断面平面図である。作業部16には、上述したトリガレバー36に入力された操作力をエンドエフェクタ19に伝達する機構の構成要素である2本のロッド83a、83bがY方向に並んで、それぞれZ方向に延在し、ロッド83a、83bの先端部(Z1方向側の端部)は、プーリボックス32を構成する空洞部66まで達している。
【0049】
また、ロッド83a、83bの先端部には、それぞれ、シャフト18に挿通されて先端動作部12(図1参照)まで延在するワイヤ82a、82b(索体)が連結されている。ワイヤ82a、82bのZ1方向側の端部は、先端動作部12のエンドエフェクタ19を駆動するための図示しない開閉機構に係合しており、トリガレバー36を押し引き操作することによるワイヤ82a、82bの進退動作により前記開閉機構が駆動され、エンドエフェクタ19が開閉動作するようになっている。
【0050】
図3及び図4に示すように、プーリボックス32のZ2側には、Z方向を基準として対称な一対のピン穴84、84が形成されている。各ピン穴84、84には、作業部16と操作部14との装着時、ブラケット52の底面からY1方向に突出した一対のガイドピン86、86が挿入され、これにより、操作部14と作業部16とが位置決めされ且つ高い剛性で装着される。
【0051】
駆動部30は、上述した第1及び第2モータ50a、50bと、第1及び第2モータ50a、50bを支持するブラケット52と、第1及び第2モータ50a、50bの回転方向を変換して作業部16側に伝達するギア機構部54とを有する。ギア機構部54は、第1モータ50aおよび第2モータ50bの出力軸56a、56bにそれぞれ固定された駆動傘歯車58a、58bと、駆動傘歯車58a、58bと噛み合う従動傘歯車62a、62bとを有する。
【0052】
従動傘歯車62a、62bには、それぞれ駆動軸60a、60bが固定されている。駆動軸60a、60bは、X方向に離間して互いに平行に配置されるとともに、図示しないベアリングによってブラケット52に回転可能に軸支されている。駆動軸60a、60bの下端部には、係合凸部64a、64bがそれぞれ設けられている。係合凸部64a、64bは、例えば、断面波形六角形状で先細りのテーパ形状に形成され得る。
【0053】
作業部16に設けられたプーリボックス32は、X方向両側が開口した空洞部66と、該空洞部66に収納された駆動プーリ(従動軸)70a、70b及びガイド部材72a、72bとを有し、空洞部66のZ1側に貫通した孔部でシャフト18が固定・支持されている。
【0054】
駆動プーリ70a、70bは、X方向に離間して互いに平行に配置されており、その上端部には、駆動軸60a、60b側の係合凸部64a、64bと係合可能な係合凹部74a、74bが設けられている。係合凹部74a、74bは、前記係合凸部64a、64bが係合(嵌合)可能であり、例えば断面波形六角形状で奥細りのテーパ形状の凹部を有する。
【0055】
操作部14に作業部16を装着した状態では、係合凸部64a、64bと係合凹部74a、74bとが係合する。これにより、駆動軸60a、60bの回転駆動力は、係合凸部64a、64bおよび係合凹部74a、74bを介して、駆動プーリ70a、70bに伝達される。なお、係合凸部64aや係合凹部74aの係合構造は他の構造であってもよい。
【0056】
図4に示すように、ガイド部材72a、72bは、駆動プーリ70a、70bのZ1側に配設されると共に、互いの外周面の間隔が、駆動プーリ70a、70bの外周面間の間隔よりも狭く設定されている。ワイヤ(索体)80a、80bは、駆動プーリ70a、70bに巻き掛けられるとともに、ガイド部材72a、72bによりガイドされて、シャフト18内に挿通されている。
【0057】
図5は、姿勢変更機構13、第1動力伝達機構および第2動力伝達機構の模式構造図である。姿勢変更機構13は、シャフト18の軸線と非平行なヨー軸(傾動軸)Oyを中心に回動可能な主軸部材(第1動作部)100と、主軸部材の軸線と一致するロール軸Orを中心に回転自在に主軸部材に支持されたギア体102(第1動作部)と、ギア体102と噛み合いヨー軸Oyを中心に回転自在に支持された歯車体104とを有する。
【0058】
主軸部材100は、シャフト18の先端部に設けられた軸106によってヨー軸Oyを中心に回転可能である。主軸部材100の前部は、円筒形の筒部100aとして構成されており、主軸部材100の基端部には、ワイヤ80aが巻き掛けられた従動プーリ100bが一体的に設けられている。ワイヤ80aは、その一部が所定の固定手段によって従動プーリ100bに固定されることで、従動プーリ100bとの間ですべりが生じることが防止されている。
【0059】
主軸部材100は、ヨー軸Oyを中心に回動することが可能であるため、従動プーリ100bがワイヤ80aにより回転駆動されることで、従動プーリ100bが一体的に設けられた主軸部材100がヨー軸Oyを中心に回動する。
【0060】
ギア体102は、先端カバー108に固定されるとともに、ロール軸Orを中心として回転可能かつロール軸Or方向には移動が拘束された状態で主軸部材100の筒部100aの外周に支持されている。ギア体102のZ2方向端面には、歯車104bと噛み合うフェイスギア110が設けられている。
【0061】
歯車体104は、ワイヤ80bが巻き掛けられ従動プーリ104aと、該従動プーリ104aの上部に同心状に設けられた歯車104bとを有し、軸106により回転可能に支持されている。従動プーリ104aに巻き掛けられたワイヤ80bは、その一部が所定の固定手段によって従動プーリ104aに固定されることで、従動プーリ104aとの間ですべりが生じることが防止されている。
【0062】
上記のように構成された姿勢変更機構13において、従動プーリ100bを回転させると、従動プーリ100bが一体的に設けられた主軸部材100がヨー軸Oyを中心に回動するとともに、ギア体102、先端カバー108及びエンドエフェクタ19が主軸部材100と一体的にヨー軸Oyを中心として傾動する。すなわち、姿勢変更機構13のヨー動作が行われる。
【0063】
一方、歯車体104を回転させると、歯車体104によりギア体102がロール軸Orを中心に回転するとともに、先端カバー108及びエンドエフェクタ19がギア体102と一体的にロール軸Orを中心として回転する。すなわち、姿勢変更機構13のロール動作が行われる。
【0064】
第1動力伝達機構112aは、第1モータ50aの駆動力を、主軸部材100を動作させるように、主軸部材100に機械的に伝達する機構である。したがって、上述した駆動傘歯車58a、従動傘歯車62a、係合凸部64a、係合凹部74a、駆動プーリ70aおよびワイヤ80aは、第1動力伝達機構112aの構成要素である。第1動力伝達機構112aにおける動力伝達経路上にはガタが存在する。図示例の第1動力伝達機構112aの場合、図示しない減速機、ギア機構部54を構成する駆動傘歯車58aと従動傘歯車62aとの噛み合い部、および係合凸部64aと係合凹部74aとの係合部にそれぞれ僅かにガタが存在するため、これらのガタの大きさを合算したものが、第1動力伝達機構112aに存在するガタである。
【0065】
第2動力伝達機構112bは、第2モータ50bの駆動力を、ギア体102を回転させるように、ギア体102に機械的に伝達する機構である。したがって、上述した駆動傘歯車58b、従動傘歯車62b、係合凸部64b、係合凹部74b、駆動プーリ70bおよびワイヤ80bは、第2動力伝達機構112bの構成要素である。なお、第2動力伝達機構112bの動力伝達経路上には、第1動力伝達機構112aと同様にガタが存在する。
【0066】
図6に示すように、マニピュレータ本体11は、トリガレバー36の操作状態を検出する第1構成例に係る検出機構120をさらに備える。図6に示す検出機構120は、トリガレバー36が引き位置に達したことを検出するように構成されている。すなわち、検出機構120は、エンドエフェクタ19であるグリッパ19Aが閉じた状態または殆ど閉じた状態に対応する動作位置にトリガレバー36が達したことを検出するものである。
【0067】
なお、トリガレバー36に関し、「押出し位置」とは、トリガレバー36を十分に押し出した位置(トリガレバー36の可動範囲のうち最もZ1方向側に回動した位置)またはその近傍位置を意味する。また、トリガレバー36に関し、「引き位置」とは、トリガレバー36を十分に引いた位置(トリガレバー36の可動範囲のうち最もZ2方向側に回動した位置)またはその近傍位置を意味する。図6では、押出し位置にあるときのトリガレバー36を実線で描いており、引き位置にあるときのトリガレバー36を二点鎖線で描いている。
【0068】
検出機構120は、トリガレバー36に設けられたカム体(検出用突出片)122と、操作部14に設けられた検出部124とを有する。カム体122は、トリガレバー36のアーム部36aに固定され(設けられ)、図示例では、Z2方向に突出するように設けられおり、トリガレバー36と一体的に動作する。すなわち、トリガレバー36が前後方向(Z方向)に揺動すると、カム体122も、トリガ軸39を回転支点として揺動する。
【0069】
検出部124は、作業部16を操作部14に装着した状態での操作部14における、カム体122に対向する位置に設けられており、作業部16が操作部14に装着された状態でカム体122を検出することによりトリガレバー36が上記の引き位置に達したことを検出する。
【0070】
図示例の検出部124は、検出部124は、カム体122により押圧されてZ方向に移動する作動ロッド126と、作動ロッド126が挿通されて作動体の移動をガイドする筒状ガイド部材128と、作動ロッド126により押圧されるタクトスイッチ130とを有する。作動ロッド126のZ1側の端部は、カム体122側に突出するとともに、図示しないバネによりZ1方向に付勢され、図示しない係止部材によりカム体122側に抜け出ることが防止されている。タクトスイッチ130は、操作部14の内部に設けられたスイッチ基板132に固定され、このスイッチ基板132はケーブル28を介してコントローラ29に電気的に接続されており、スイッチ基板132から出力される信号がコントローラ29に送信される。
【0071】
上記のように構成された検出機構120において、トリガレバー36が押出し位置にあるときには、カム体122が作動ロッド126をZ2方向に押し込まないので、タクトスイッチ130は作動ロッド126に押圧されない。一方、トリガレバー36が図6でZ2方向に回動操作され、引き位置まで達すると、カム体122が作動ロッド126をZ2方向に押圧して移動させ、作動ロッド126によりタクトスイッチ130が押圧される。そして、押圧されたことに対応する信号がタクトスイッチ130から出力され、この信号がコントローラ29に送信されることで、コントローラ29において、トリガレバー36が引き位置に達したことが認識(検出)される。
【0072】
図示例の検出機構120は、トリガレバー36が引き位置に達したことを検出するように構成されているが、これに代えて、トリガレバー36が押出し位置に達したことを検出するように構成されてもよい。また、検出機構120は、トリガレバー36が、引き位置に達しときと押出し位置に達したときの両方を検出するように構成されてもよい。検出機構120において、カム体122をトリガ操作子36bに設け、上記の検出部124をグリップハンドル26に設けてもよい。
【0073】
このようにマニピュレータ10では、検出機構120により、トリガレバー36が引き位置または押出し位置に達したことを検出するので、トリガレバー36の使用状態を把握することが可能である。例えば、トリガレバー36が引き位置にあることを検出した場合、コントローラ29は、エンドエフェクタ19が把持対象物(例えば、生体組織の一部、湾曲針等)を把持した「把持状態」であると認識してもよい。また、トリガレバー36が引き位置にあることを検出しない場合、コントローラ29は、エンドエフェクタ19が対象物を把持しない「非把持状態」であると認識してもよい。
【0074】
なお、検出機構120の検出部124において、タクトスイッチ130に代えて、投光器と受光器とにより構成されるフォトセンサを設けてもよい。このようなフォトセンサを設ける場合、トリガレバー36が引き位置に来たときに作動ロッド126が投光器と受光器との間に入って投光器からの光を遮断するように、投光器および受光器を配置することで、トリガレバー36が引き位置に達したことを検出できる。また、タクトスイッチ130に代わる他の感知手段として、磁気センサ、近接センサ等を用いてもよい。
【0075】
次に、図7を参照し、第2構成例に係る検出機構140について説明する。検出機構140は、トリガレバー36の動作方向、つまり回動方向の位置を検出するように構成されている。図7に示すように、トリガレバー36は、最もZ1側に回動した最進出位置P1から、最もZ2側に回動した最後退位置P2までの角度θの可動範囲を有する。
【0076】
検出機構140は、トリガレバー36と一体的に動作する駆動要素142と、操作部14に設けられ作業部16が操作部14に装着された状態で駆動要素142に連動する従動要素144と、従動要素144の動作方向の位置を検出する検出部146とを有する。図示例において、駆動要素142は、トリガレバー36の回動軸心回りに周方向に延在する歯を有する第1ギア部142Aであり、従動要素144は、操作部14に回動自在に設けられ作業部16が操作部14に装着された状態で第1ギア部142Aと噛み合う第2ギア部144Aであり、検出部146は、第2ギア部144Aの回転角度を検出する回転検出器146Aである。
【0077】
第1ギア部142Aは、トリガレバー36と一体的に回転するように設けられている。すなわち、第1ギア部142Aは、トリガレバー36と一体的に回転するトリガ軸39に固定されており、トリガレバー36が前後方向(Z方向)に回動すると、第1ギア部142Aも、トリガ軸39を回転支点として回動する。なお、図示例の第1ギア部142Aでは、全周に歯が形成されているが、トリガレバー36の可動範囲の全範囲で第2ギア部144Aと噛み合うことができれば、外周の一部のみに歯が形成されてもよい。
【0078】
第2ギア部144Aは、上部カバー25bの側面に設けられている。回転検出器146Aは、上部カバー25a、25bの内部に設けられている。第2ギア部144Aと回転検出器146Aとは、上部カバー25a、25bを貫通する軸148を介して連結されている。上部カバー25a、25bと軸との間には、図示しないシール部材(例えば、Oリング)が配置され、シール部材により、外部から上部カバー25a、25bの内部23への液体や塵埃の進入が防止される。
【0079】
回転検出器146Aとしては、例えば、ロータリエンコーダ、ポテンショメータ、レゾルバ等を用いることができる。ロータリエンコーダとしては、インクリメンタルエンコーダとアブソリュートエンコーダとがあるが、いずれを用いてもよい。回転検出器146Aは、ケーブル28を介してコントローラ29に電気的に接続されており、回転検出器146Aから出力される信号は、コントローラ29に送信されるようになっている。
【0080】
上記のように構成された検出機構140では、トリガレバー36が回動操作されると、トリガレバー36に設けられた第1ギア部142Aがトリガレバー36と一体的にトリガ軸39を中心に回転する。また、第1ギア部142Aの回転に伴い、第1ギア部142Aと噛み合う第2ギア部144Aが回転し、第2ギア部144Aの回転角度が回転検出器146Aにより検出され、トリガレバー36の動作角度が検出される。すなわち、回転検出器146Aから回転角度に対応する信号が出力され、この信号がコントローラ29に送信され、コントローラ29において、回転検出器146Aからの信号に基づいてトリガレバー36の動作角度が演算される。
【0081】
なお、回転検出器146Aがインクリメンタルエンコーダである場合、インクリメンタルエンコーダからは回転角度の変化に応じてパルスが出力されるだけであり、トリガレバー36の絶対角度を直接検出することはできない。一方、トリガレバー36の可動範囲(最大回転角度)θは既知であるので、使用時の回転角度範囲からトリガレバー36の絶対角度を推測することが可能である。そこで、回転検出器146Aがインクリメンタルエンコーダである場合、コントローラ29は、マニピュレータ本体11の使用時において、トリガレバー36の可動範囲θと回転検出器146Aで検出した回転角度範囲とに基づいて、トリガレバー36の絶対角度を推定(演算)する。このように、インクリメンタルエンコーダの検出信号からトリガレバー36の絶対角度を推定することで、簡素な構成で、トリガレバー36の動作角度の検出を行うことができる。
【0082】
検出機構140を搭載したマニピュレータ10では、マニピュレータ本体11の使用中、所定のサンプリングタイム毎に、トリガレバー36の動作角度が検出される。したがって、トリガレバー36が押出し位置(P1またはその近傍)、引き位置(P2またはその近傍)、または押出し位置と引き位置の間の位置にあることを検出することができる。コントローラ29は、トリガレバー36が引き位置にあることを検出した場合には、エンドエフェクタ19が「把持状態」であると認識し、トリガレバー36が引き位置以外の位置にあることを検出した場合には、エンドエフェクタ19が「非把持状態」であると認識してもよい。
【0083】
なお、トリガレバー36の回転を回転検出器146Aに伝達する機構として、磁気カップリングを採用してもよい。すなわち、トリガレバー36に設けられる駆動要素142と、操作部14に設けられる従動要素144のうち少なくとも一方を永久磁石が配置された円板として構成し、他方を永久磁石が配置された円板または強磁性体からなる円板として構成し、このように構成した駆動要素142と従動要素144とにより磁気カップリングを構成してもよい。
【0084】
ところで、上述したように、第1モータ50aの駆動力を主軸部材100に伝達する第1動力伝達機構112a(図5参照)には、通常、ガタが存在するため、ガタの範囲内で第1モータ50aが動作しても、主軸部材100がヨー軸Oyを中心に回動動作せず、結局、先端動作部12のロール動作が行われない。このため、回転操作部90への入力操作に対してロール動作が遅れることがあり、先端動作部12の軌跡精度や位置決め精度の低下が懸念される。
【0085】
これに対処するため、本実施形態に係るマニピュレータ10では、コントローラ29は、傾動操作部92からのヨー軸操作指令(第1姿勢変更動作に係る第1操作指令)を受けた場合、第1の補償制御として、第1動力伝達機構112aに存在するガタ分を補償するように、第1モータ50aを制御する。すなわち、コントローラ29は、より精密なヨー動作の姿勢制御を行うため、フィードフォワード制御などにより、ガタ分を補償する制御を行う。
【0086】
図8を参照し、第1の補償制御について説明する。図8は、マニピュレータ10の機能ブロック図である。ヨー動作をさせるため、傾動操作部92を操作すると、その操作量に応じたヨー軸操作指令c1が出力され、出力されたヨー軸操作指令c1は、コントローラ29に設けられたヨー軸目標軌道生成手段150に入力される。ヨー軸目標軌道生成手段150は、ヨー軸操作指令c1に応じたヨー軸(主軸部材100)の目標値(以下、ヨー軸目標値v1という)を生成し、生成されたヨー軸目標値v1は、第1補正値生成手段156と正規1軸・2軸目標軌道生成手段154に入力される。
【0087】
正規1軸・2軸目標軌道生成手段154は、ヨー軸目標値v1とロール軸(ギア体102)の目標値(以下、ロール軸目標値v2という)に基づいて、干渉行列を解くことにより、第1モータ50aと第1モータ50bの制御上の目標値(以下、それぞれ、正規1軸目標値v3、正規2軸目標値v4という)を生成する手段である。姿勢変更機構13において、ヨー軸動作を行うための機構とロール動作を行うための機構との間には機構的な干渉があるため、互いに動作干渉を生じないように第1モータ50aおよび第1モータ50bを制御することが必要である。
【0088】
例えば、ギア体102をロール軸Orを中心に回転させることなく、主軸部材100をヨー軸Oyを中心に回転させるには、第1モータ50aを駆動して主軸部材100を回転させるだけでなく、第2モータ50bを駆動して歯車体104を主軸部材100と同方向かつ同じ角度で回転させることが必要である。また、ロール動作とヨー動作を複合して行う際に、回転操作部90に対する入力操作で指示した回転方向および回転量でロール動作をさせるためには、ヨー動作による干渉分を見込んで第2モータ50bを回転させることが必要である。
【0089】
第1補正値生成手段156は、ヨー動作を行うに際して第1動力伝達機構112aに存在するガタの影響をなくす補正値(以下、第1補正値v5という)を生成する。生成された第1補正値v5と、正規1軸目標値v3は、補正1軸目標軌道生成手段160に入力される。補正1軸目標軌道生成手段160は、第1補正値v5と正規1軸目標値v3から、補正1軸目標値v7(正規1軸目標値v3を第1補正値v5によって補正した目標値)を生成する。
【0090】
生成された補正1軸目標値v7は、第1モータ制御手段162に入力される。一方、正規1軸・2軸目標軌道生成手段154により生成された正規2軸目標値v4は、第2モータ制御手段164に入力される。第1モータ制御手段162および第2モータ制御手段164は、それぞれ、第1モータ50aおよび第2モータ50bを駆動制御するモータドライバである。
【0091】
操作部14に設けられた第1モータ50aおよび第2モータ50bは、第1モータ制御手段162および第2モータ制御手段164により、動作角度がそれぞれ補正1軸目標値v7および正規2軸目標値v4となるようにフィードバック制御される。この場合、第1モータ50aおよび第2モータ50bにそれぞれ付設されたエンコーダ51a、51b(図1参照)からの出力信号が、フィードバック制御におけるフィードバック信号となる。このように第1モータ50aおよび第2モータ50bが駆動制御されることにより、第1モータ50aの駆動に基づいて第1動力伝達機構112a(図5参照)を介して主軸部材100が回動駆動されるとともに、第2モータ50bの駆動に基づいて第2動力伝達機構112bを介して歯車体104が回動駆動される。この場合、第1モータ50aの補正1軸目標値v7は、第1動力伝達機構112aに存在するガタの影響をなくすように補償された目標値であるため、先端動作部12において、精度の高い姿勢制御がなされたヨー動作が行われる。
【0092】
以下の説明では、図8を参照する場合にのみ、上述したヨー軸目標値、ロール軸目標値、正規1軸目標値、正規2軸目標値、第1補正値、第2補正値および補正1軸目標値に、それぞれ参照符号v1〜v7を付すものとする。
【0093】
次に、図9A〜図9Cを参照し、先端動作部12にヨー動作をさせる場合の第1補正標値の生成方法について説明する。図9Aに示すように、正規1軸目標値の正方向および負方向にそれぞれ同一の大きさのガタが存在すると考える。
【0094】
この場合に、第1モータ50aの動作角度を図9A中の正方向に移動するとき(正方向の速度指令があったとき)の補正1軸目標値(すなわち、第1モータ50aの制御上の目標値)は、正規1軸目標値に第1補正値最終値を加算したものとなる。ここで、第1補正値最終値は、第1動力伝達機構112aに存在するガタの大きさ(正規1軸目標値に対して正方向および負方向のガタの大きさ)に対応する。一方、第1モータ50aの動作角度を負方向に移動するとき(負方向の速度指令があったとき)の補正1軸目標値は、正規1軸目標値から第1補正値最終値を減算したものとなる。
【0095】
このように、正規1軸目標値を、第1モータ50aの動作方向に応じてガタの大きさに相当する分だけ正方向または負方向に補正することで、ガタ分が補償されたヨー動作が行われる。。
【0096】
図9Aに示した例は、第1の補償制御の基本的な考え方を説明するものであるが、実際の制御では、所定のサンプリングタイム毎に制御上の目標値が変わり、第1補正値もサンプリングタイム毎に生成(計算)される。このため、制御上は、現在の第1補正値に対して、補正するべき第1補正値の補正量を加算または減算して、補正1軸目標値を得る。
【0097】
例えば、図9Bに示すように、第1モータ50aの動作角度を正方向に移動するときの補正1軸目標値は、現在の第1補正値(負の補正値)に、補正するべき第1補正値の補正量を加算したもの(=正規1軸目標値+第1補正値最終値)となる。図9Cに示すように、第1モータ50aの動作角度を負方向に移動するときの補正1軸目標値は、現在の第1補正値(負の補正値)から、補正するべき第1補正値の補正量を減算したもの(=正規1軸目標値−第1補正値最終値)となる。
【0098】
なお、通常、現在の第1補正値は、正または負の第1補正値最終値となる。現在の第1補正値が正の第1補正値最終値のときに正方向の速度指令が出た場合、第1補正値は、正の第1補正値最終値で変化しない。一方、現在の第1補正値が正の第1補正値最終値のときに負方向の速度指令が出た場合、第1補正値の変化量は、−2×第1補正値最終値となり、結局、第1補正値は、負の第1補正値最終値となる。
【0099】
以上のように本実施形態に係るマニピュレータ10によれば、コントローラ29が第1の補償制御を行うことにより、第1動力伝達機構112aに存在するガタをなくしたのと同様の状態で主軸部材100を動作させることができる。このため、主軸部材100の位置精度が向上し、操作性が向上する。また、第1の補償制御では、正規1軸目標値を、第1動力伝達機構112aに存在するガタの影響をなくす第1補正値により補正して補正1軸目標値を生成するので、先端動作部12の軌跡精度や位置決め精度を効果的に向上できる。
【0100】
次に、図10A〜図10Cを参照し、ヨー動作をさせる場合の第1モータ50aの速度指令値の生成方法について説明する。
【0101】
図10Aは第1モータ50aの正規速度指令値の時間変化を示している。第1モータ50aの正規速度指令値は、正規1軸目標値に対応する指令値であり、傾動操作部92(図1参照)からのヨー軸操作指令に基づいて生成される。傾動操作部92からの指令がスイッチのオンオフのようなステップ状の場合、フィルタリング処理等を施すことにより、図10Aに示すような滑らかな速度指令信号とすることが好ましい。
【0102】
図10Bは第1モータ50aの速度補正指令値の時間変化を示している。第1モータ50aの速度補正指令値は、第1補正値に対応する速度指令値であり、図10Aに示した正規速度指令値を変数とする関数により生成される。この関数は、例えば、第1モータ50aの正規速度指令値に比例した速度補正指令値を算出するものであるとよい。このような関数を用いることにより、正規速度指令値による加速と同期して速度補正指令値による加速が行われるので、第1動力伝達機構112aのガタをなくす補正を無理なくスムーズに行うことができる。
【0103】
速度補正指令値の積分値(図10B中、符号S1で示す部分の面積)が第1補正値最終値に達したら、速度指令はゼロとする。第1モータ50aの速度指令値(補正後の速度指令値)である1軸速度指令値は、図10Cに示すように、正規速度指令値に速度補正指令値を加算したものとなる。
【0104】
上記では、第1動力伝達機構112aに存在するガタに起因する先端動作部12の軌跡精度や位置決め精度の低下の懸念について説明したが、ロール動作時には以下のようなヨー動作の発生が懸念される。すなわち、ロール動作をさせるためにギア体102(図5参照)を回転させようとすると、ギア体102を支持する主軸部材100がギア体102から力を受け、このとき、第1動力伝達機構112aに存在するガタにより、先端動作部12がヨー動作をすることがある。また、このようなヨー動作は、以下の理由により、第1動力伝達機構112aの剛性が十分でない場合にも発生し得る。
【0105】
例えば、トリガレバー36を引き位置まで引いた状態では、ギア体102が主軸部材100に軸方向(Z2方向)に押し付けられるため、ギア体102の回転抵抗(動作抵抗)が大きくなる。トリガレバー36を押出し位置まで押し出した状態では、ギア体102が主軸部材100に軸方向(Z1方向)に押し付けられるため、ギア体102の回転抵抗が大きくなる。
【0106】
歯車体104(図5参照)を回転させ、歯車体104と噛み合うギア体102を回転させることでエンドエフェクタ19をロール動作させようとするとき、ロール軸Orを中心にギア体102が回転しようとするだけでなく、ヨー軸Oyを中心に主軸部材100を回動させようとするトルク(以下、これを干渉トルクという)としても作用する。そして、ヨー軸Oyを中心に主軸部材100を回動させようとするトルクは、第1動力伝達機構112aが受けることになる。このため、第1動力伝達機構112aの剛性が十分でない場合は、第1動力伝達機構112aの構成要素(ワイヤ等)が弾性変形することで、ヨー動作を発生する場合がある。
【0107】
これに対処するため、本実施形態に係るマニピュレータ10では、コントローラ29は、回転操作部90からのロール操作指令(第2姿勢変更動作に係る第2操作指令)を受けた場合、第2の補償制御として、ロール動作に起因するヨー動作の発生を防止または抑制するように第1モータ50aを制御する。すなわち、コントローラ29は、より精密な姿勢制御を行うため、フィードフォワード制御などにより、第1動力伝達機構112aに存在するガタや第1動力伝達機構112aの弾性変形による影響を補償する制御を行う。
【0108】
このような第2の補償制御について、まず図8を参照し、その概要について説明する。ロール動作をさせるため、回転操作部90を操作すると、その操作量に応じたロール軸操作指令c2が出力され、出力されたロール軸操作指令c2は、コントローラ29に設けられたロール軸目標軌道生成手段152に入力される。ロール軸目標軌道生成手段152は、ロール軸操作指令c2に応じたロール軸(ギア体102)の目標軌道(目標値)を生成し、生成された目標軌道は、正規1軸・2軸目標軌道生成手段154と第2補正値生成手段158に入力される。正規1軸・2軸目標軌道生成手段154では、正規1軸目標値v3と、正規2軸目標値v4が生成される。
【0109】
第2補正値生成手段158は、コントローラ29がロール軸操作指令c2を受けた場合に、第1動力伝達機構112aに存在するガタと、干渉トルクによる第1動力伝達機構112aの弾性変形の影響をなくす補正値(以下、第2補正値v6という)を生成する。生成された第2補正値v6と、正規1軸目標値v3は、補正1軸目標軌道生成手段160に入力される。補正1軸目標軌道生成手段160は、第1補正値v5と正規1軸目標値v3から、補正1軸目標値v7(この場合、正規1軸目標値v3を第2補正値v6によって補正した目標値)を生成する。
【0110】
生成された補正1軸目標値v7は、第1モータ制御手段162に入力される。一方、正規1軸・2軸目標軌道生成手段154により生成された正規2軸目標値v4は、第2モータ制御手段164に入力される。
【0111】
操作部14に設けられた第1モータ50aおよび第2モータ50bは、第1モータ制御手段162および第2モータ制御手段164により、動作角度がそれぞれ補正1軸目標値v7および正規2軸目標値v4となるようにフィードバック制御される。このように第2モータ50bが駆動制御されることにより、第2モータ50bの駆動に基づいて第2動力伝達機構112bを介して歯車体104が回動駆動されるとともに、第1モータ50aの駆動に基づいて第1動力伝達機構112aを介して主軸部材100が回動駆動される。
【0112】
この場合、第1モータ50aの補正1軸目標値v7は、第1動力伝達機構112aのガタおよび弾性変形の影響をなくすように補償された目標値であるため、先端動作部12においては、ロール動作に起因するヨー動作が発生せず、精度の高い姿勢制御の作用下にロール動作が行われる。
【0113】
次に、図11A〜図11Cを参照し、先端動作部12にロール動作をさせる際のヨー動作に対する影響を説明する。なお、ここでは、第1動力伝達機構112aに存在するガタの影響のみに着目し、干渉トルクによる第1動力伝達機構112aの弾性変形の影響については考慮しないものとする。第1動力伝達機構112aの弾性変形の影響を考慮した補償については、後述する。
【0114】
先端動作部12に正方向のロール動作をさせるとき(ギア体102を正方向に回転させるとき)、主軸部材100も正方向の干渉トルクを受ける。これにより、干渉トルクの大小にかかわらず、図11Aの下側に示すように、主軸部材100が正方向にガタ分だけ動かされる。すなわち、正方向にロール動作に起因するヨー動作が発生する。
【0115】
ロール動作の方向が正方向である場合において、図11Bに示すように、仮に、負方向にガタ分だけ第1モータ50aの目標値である1軸目標値が補正されているとき(ガタが消されているとき)は、ガタの影響を受けないため、主軸部材100が正方向に動かされず、ロール動作に起因するヨー動作は発生しない。
【0116】
ロール動作の方向が正方向である場合において、図11Cに示すように、仮に、正方向にガタ分だけ1軸目標値が補正されているとき(ガタが反対側に消されているとき)は、正方向および負方向の2つのガタ分だけ主軸部材100が正方向に動かされる。すなわち、正方向にロール動作に起因するヨー動作が発生する。
【0117】
次に、図12A〜図12Cを参照し、先端動作部12にロール動作をさせる場合の第2補正値の生成方法について説明する。なお、図12A〜図12Cでは、ロール動作の方向が正方向である場合を想定する。
【0118】
図12Aは、図11Aの場合に対応する補正方法であり、現在の第2補正値が0の場合、補正後の第2補正値は、負の第2補正値最終値となる。この場合、補正の変化量は、第2補正値最終値と同じである。ここで、第2補正値最終値は、第1動力伝達機構112aに存在するガタの大きさ(正規1軸目標値に対して正方向および負方向のガタの大きさ)に対応する。このように、第2補正値は、主軸部材100がギア体102から受ける力の方向とは逆方向に主軸部材100の目標値を補正する補正値である。
【0119】
図12Bは、図11Bの場合に対応する補正方法であり、現在の第2補正値が負の第2補正値最終値の場合、補正後の第2補正値は、正の第2補正値最終値のままで変化しない。この場合、補正の変化量はゼロである。
【0120】
図12Cは、図11Cの場合に対応する補正方法であり、現在の第2補正値が正の第2補正値最終値の場合、補正後の第2補正値は、負の第2補正値最終値となる。この場合、補正の変化量は、第2補正値最終値の2倍である。
【0121】
以上のように本実施形態に係るマニピュレータ10によれば、コントローラ29が第2の補償制御を行うことにより、ロール動作を行う際に、第1動力伝達機構112aのガタの影響をなくすことで、ロール動作に起因するヨー動作の発生を防止または抑制することができ、操作性を向上することができる。また、第2の補償制御では、正規1軸目標値を、第1動力伝達機構112aの影響をなくす補正値により補正して補正1軸目標値を生成するので、先端動作部12にロール動作をさせる際の、ガタおよび弾性変形に起因するヨー動作の発生を効果的に防止できる。さらに、第2の補償制御では、主軸部材100がギア体102から受ける力の方向とは逆方向に、主軸部材100を動作させることで、ガタの影響をなくすので、ロール動作に起因するヨー動作の発生を一層効果的に防止できる。
【0122】
次に、図13Aおよび図13Bを参照し、第2の補償制御をする場合の第1モータ50aおよび第1モータ50bの速度指令値の生成方法について説明する。
【0123】
図13Aは、第2モータ50bの制御上の目標値である正規2軸目標値に対応する指令値(2軸速度指令値)の時間変化を示している。回転操作部90からの指令がスイッチのオンオフのようなステップ状の場合、フィルタリング処理等を施すことにより、図13Aに示すような滑らかな速度指令信号とすることが好ましい。
【0124】
図13Bは、傾動操作部92からのヨー動作指令がなく、回転操作部90からのロール動作指令のみがあった場合の第1モータ50aの速度指令値を示している。この場合の速度指令値は、第2補正値に対応した速度補正指令値のみとなる。図13Bに示すように、第1モータ50aの速度補正指令値は、第2モータ50bの速度指令値を変数とする関数により生成される。
【0125】
この関数は、例えば、第1モータ50aの速度指令値に比例した速度補正指令値を算出するものであるとよい。このような関数を用いることにより、ロール動作の開始と同期して第1動力伝達機構112aのガタをなくす補正が行われるため、適切なタイミングで補正を行うことができる。
【0126】
速度補正指令値の積分値(図13B中、符号S2で示す部分の面積)が第2補正値最終値に達したら、速度指令はゼロとする。これにより、第2補正値最終値の分だけ主軸部材100を移動させることができる。
【0127】
なお、回転操作部90からのロール動作指令と同時並行的に、傾動操作部92からのヨー動作指令があった場合、第1モータ50aの速度指令値は、図10Aに示した正規速度指令値に、図13Bに示す速度補正指令値を加算した指令値となる。
【0128】
上記では、第2補正値は、第1動力伝達機構112aのガタ分を補正するものとして説明したが、ガタは第1動力伝達機構112aの剛性がある範囲でゼロであることと等価であると考えることができる。換言すれば、干渉トルクによる第1動力伝達機構112aの弾性変形を、ある大きさのガタと等価と考えることができる。したがって、第2補正値は、第1動力伝達機構112aの剛性が低い場合の干渉トルク補償、すなわち、干渉トルクによる第1動力伝達機構112aの弾性変形の影響をなくす補正値としても同様に適用できる。
【0129】
そこで、第2補正値生成手段158は、第1動力伝達機構112aのガタの影響を考慮した補正値に、第1動力伝達機構112aの弾性変形に起因する主軸部材100のヨー動作の発生を防止または低減する補正値を加えたものを、第2補正値として生成するとよい。これにより、ガタに起因するヨー動作のみならず、第1動力伝達機構112aの弾性変形に起因するヨー動作の発生についても防止または抑制することができ、先端動作部12の姿勢制御を一層精度良く行うことができる。
【0130】
エンドエフェクタ19を閉じた状態(トリガレバー36を引き位置まで引いた「引き状態」)では、把持対象物(例えば、生体組織の一部、湾曲針等)を強く把持している状態(把持状態)であると考えられ、ギア体102の回転抵抗が大きく、干渉トルクが大きい。また、エンドエフェクタ19を大きく開いた状態(トリガレバー36を押出し位置まで押し出した「押出し状態」)では、なんらかの物を広げている状態(拡張状態)であると考えられ、干渉トルクが大きい。このような高トルク状態のとき、ヨー動作の影響が大きくなる。一方、エンドエフェクタ19が引き位置にも押出し位置にもない場合、干渉トルクが小さい。このような低トルク状態のとき、ヨー動作の影響が小さい。
【0131】
このように、エンドエフェクタ19の状態によって干渉トルクが異なる場合には、それぞれの状態の干渉トルクの大きさに応じて、第1動力伝達機構112aの弾性変形を加味した第2補正値を生成するとよい。上述したように、本実施形態に係るマニピュレータ10の場合、検出機構120、140によりトリガレバー36が引き位置にあること(高トルク状態)を検出することができる。そこで、高トルク状態での最適な第2補正値を「第2補正値C1」とし、低トルク状態での最適な第2補正値を「第2補正値C2」として、状態に応じて適切な補正値を生成するように第2補正値生成手段158を構成するとよい。ただし、第2補正値C2≦第2補正値C1である。
【0132】
これにより、高トルク状態の場合には、第2補正値C1により正規1軸目標値を補正し、低トルク状態の場合には、第2補正値C2により正規1軸目標値を補正することが可能となる。したがって、エンドエフェクタ19の状態に応じて変化する干渉トルクに対応した補正が可能となり、先端動作部12の姿勢制御を一層精度良く行うことができる。なお、検出機構120、140によりトリガレバー36が引き位置にあることが検出できるが、押出し位置にあることを検出できない場合には、トリガレバー36が引き位置にないときを「低トルク状態」とみなして、上記のような補正を行う。
【0133】
マニピュレータ10において、上述した検出機構120、140が設けられていない場合には、高トルク状態に適した第2補正値C1と、低トルク状態に適した第2補正値C2とを求め、その中間値を第2補正値として第2補正値生成手段158により生成してもよい。この場合の第2補正値は、下記の(1)式または(2)式を満たすものであればよい。
第2補正値C2≦第2補正値≦第2補正値C1 ・・・(1)
第2補正値=(第2補正値C1+第2補正値C2)/2・・・(2)
【0134】
上記の(1)式または(2)式に従って生成した第2補正値を用いて第1モータ50aを制御することにより、検出機構120、140が設けられていない場合でも、干渉トルクによるヨー動作の発生を抑制することができる。
【0135】
また、トリガレバー36の引き状態と押出し状態(ともに高トルク状態)とで、干渉トルクが異なる場合には、それぞれ、第2補正値C1(a)、第2補正値C1(b)として区別してもよい。検出機構120、140が設けられていないマニピュレータ10において、このように干渉トルクが異なる場合には、第2補正値生成手段158で生成される第2補正値は、下記の(3)式〜(5)式のいずれか1つを満たすものであればよい。ただし、(3)式は、第2補正値C1(a)>第2補正値C1(b)の場合であり、(4)式は、第2補正値C1(a)<第2補正値C1(b)の場合である。
第2補正値C2≦第2補正値v6≦第2補正値C1(a)・・・(3)
第2補正値C2≦第2補正値v6≦第2補正値C1(b)・・・(4)
第2補正値=(第2補正値C1(a)+第2補正値C1(b)+第2補正値C2)/3・・・(5)
【0136】
上記の(3)式〜(5)式のいずれか1つに従って生成した第2補正値を用いて第1モータ50aを制御することにより、検出機構120、140が設けられていない場合でも、干渉トルクによるヨー動作の発生を抑制することができる。
【0137】
なお、マニピュレータ10において、ロール動作時の干渉トルク(主軸部材100に作用するヨー軸Oy周りのトルク)を検出または推定できる機構が設けられる場合には、使用状況によって変化する干渉トルクに応じた第2補正値を用いて、第1モータ50aの正規1軸目標値を補正するようにしてもよい。このような補正を行うことで、先端動作部12の姿勢制御をより精度良く行うことができる。
【0138】
上記では、第1補正値と第2補正値の生成手段が異なるため、ヨー動作をする場合の1軸補正値(第1モータ50aの正規目標値に対する補正値)を第1補正値、ロール動作をする場合の1軸補正値を第2補正値として説明した。しかし、制御時には、1軸補正値として、ひとつの補正値として扱ってよい。すなわち、1軸補正値=第1補正値+第2補正値、として扱ってよい。ただし、1軸補正値≦第1補正値最終値=第2補正値最終値、である。
【0139】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0140】
10…医療用マニピュレータ 12…先端動作部
13…姿勢変更機構 14…操作部
16…作業部 19…エンドエフェクタ
29…コントローラ 50…駆動源
50a…第1モータ 50b…第2モータ
100…主軸部材 102…ギア体
【技術分野】
【0001】
本発明は、姿勢変更動作が可能なエンドエフェクタを有する先端動作部を備えた医療用マニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡下外科手術(または腹腔鏡下手術とも呼ばれる。)においては、患者の腹部等に複数の孔を開け、これらの孔にトラカール(筒状の器具)を挿入した後、各トラカールを通して、腹腔鏡(カメラ)と複数の鉗子を体腔内に挿入する。鉗子の先端部には、エンドエフェクタとして、生体組織を把持するためのグリッパや、鋏、電気メスのブレード等が取り付けられている。腹腔鏡と鉗子を体腔内に挿入したら、腹腔鏡に接続されたモニタに映る腹腔内の様子を見ながら鉗子を操作して手術を行う。このような手術方法は、開腹を必要としないため、患者への負担が少なく、術後の回復や退院までの日数が大幅に低減される。このため、このような手術方法は、適用分野の拡大が期待されている。
【0003】
トラカールから挿入される鉗子として、先端部に関節を持たない一般的な鉗子に加えて、先端部に複数の関節を有して先端部の姿勢を変更できる鉗子、いわゆる医療用マニピュレータの開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。このような医療用マニピュレータによれば、体腔内で自由度の高い動作が可能であり、手技が容易となり、適用可能な症例が多くなる。
【0004】
特許文献1にて提案された医療用マニピュレータは、グリップハンドルを有する操作部からシャフトが前方に延出し、このシャフトの先端部にはエンドエフェクタを有する姿勢変更が可能な先端動作部が設けられている。この先端動作部における姿勢変更機構は、ヨー軸を中心に回動動作する主軸部材と、主軸部材に回転自在に支持されてロール軸を中心に回動動作するギア体とを有する。主軸部材およびギア体は、それぞれモータの駆動力が動力伝達機構により伝達されて回転駆動され、主軸部材が回転駆動されることで先端動作部がヨー動作し、ギア体が回転駆動されることで先端動作部がロール動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−107087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モータの駆動力を主軸部材に伝達する動力伝達機構には、通常、機械的ガタ(以下、ガタという)が存在するため、ガタの範囲内でモータが動作しても、主軸部材の動作が行われない。したがって、先端動作部の軌跡精度や位置決め精度の低下が懸念される。
【0007】
また、ロール動作をさせるためにギア体を回転させようとすると、ギア体を支持する主軸部材がギア体から力を受ける。このとき、ヨー軸駆動系の動力伝達機構に存在するガタにより、あるいはこの動力伝達機構の剛性が低い場合に弾性変形が生じることにより、先端動作部の軌跡精度や位置決め精度の低下が懸念される。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を向上できる医療用マニピュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る医療用マニピュレータは、第1駆動源と、エンドエフェクタと、前記第1駆動源の駆動力が機械的に伝達されることで第1姿勢変更動作をするように構成された第1動作部とを有する先端動作部と、前記第1駆動源の駆動力を機械的に伝達して前記第1動作部を動作させる第1動力伝達機構と、前記第1駆動源を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記第1姿勢変更動作に係る第1操作指令を受けた場合、第1の補償制御として、前記第1動力伝達機構に存在するガタ分を補償するように、前記第1駆動源を制御する、ことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、第1の補償制御により、第1動力伝達機構に存在するガタ分が補償される。このため、第1動作部の姿勢制御を精度良く行うことができ、操作性が向上する。
【0011】
前記第1の補償制御では、前記第1駆動源の正規目標値である正規1軸目標値と、前記第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす補正値とに基づいて、前記第1駆動源の制御上の目標値である補正1軸目標値を生成するとよい。
【0012】
上記の構成によれば、正規1軸目標値を、第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす補正値により補正して補正1軸目標値を生成するので、先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を効果的に向上できる。
【0013】
前記医療用マニピュレータは、第2駆動源と、前記第2駆動源の駆動力を機械的に伝達して第2動作部を動作させる第2動力伝達機構とをさらに備え、前記第2動作部は、第2姿勢変更動作を行うことが可能なように前記第1動作部により支持され、前記コントローラは、前記第2姿勢変更動作に係る第2操作指令を受けた場合、第2の補償制御として、前記第2姿勢変更動作に起因する前記第1姿勢変更動作の発生を防止または抑制するように、前記第1駆動源を制御するとよい。
【0014】
上記の構成によれば、第2の補償制御により、第2姿勢変更動作に起因する第1姿勢変更動作の発生が防止または抑制される。すなわち、第2姿勢変更動作をさせる際の先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を効果的に向上できる。
【0015】
前記第2の補償制御では、前記第1駆動源の正規目標値である正規1軸目標値と、前記第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす補正値とに基づいて、前記第1駆動源の制御上の目標値である補正1軸目標値を生成するとよい。
【0016】
上記の構成によれば、正規1軸目標値を、第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす補正値により補正して補正1軸目標値を生成するので、第2動作部に第2姿勢変更動作をさせる際の先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を効果的に向上できる。
【0017】
前記第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす前記補正値は、前記第2姿勢変更動作に起因して前記第1動作部が前記第2動作部から受ける力の方向とは逆方向のガタをなくす補正値であるとよい。
【0018】
上記の構成によれば、第2動作部に第2姿勢変更動作をさせる際に、第1動作部が第2動作部から受ける力の方向とは逆方向に、第1動作部を動作させることで、ガタの影響をなくすので、ガタに起因する第1動作部の動作の発生を効果的に防止できる。
【0019】
前記第2の補償制御では、前記第1駆動源の正規目標値である正規1軸目標値と、前記第1動力伝達機構の弾性変形に起因する前記第1動作部の動作の発生を防止または抑制する補正値と、に基づいて、前記第1駆動源の制御上の目標値である補正1軸目標値を生成するとよい。
【0020】
上記の構成によれば、正規1軸目標値を、第1動力伝達機構の弾性変形に起因する第1動作部の動作の発生を防止または低減する補正値により補正して補正1軸目標値を生成するので、第2動作部に第2姿勢変更動作をさせる際の、第1動力伝達機構の弾性変形に起因する第1動作部の動作の発生を効果的に防止できる。
【0021】
前記第2の補償制御における前記補正値は、前記第2動作部による前記第1動作部への干渉トルクが相対的に高い高トルク状態での前記第1動力伝達機構の弾性変形に起因する前記第1動作部の動作の発生を防止する補正値以上、かつ、前記干渉トルクが相対的に低い低トルク状態での前記第1動力伝達機構の弾性変形に起因する前記第1動作部の動作の発生を防止する補正値以下の値であるとよい。
【0022】
上記の構成によれば、第2の補償制御における補正値として、低トルク状態に対応する補正値以上、かつ高トルク状態に対応する補正値以下の値を用いることで、エンドエフェクタの状態または第2動作部の動作抵抗を測定または推定しなくても、第2動作部に第2姿勢変更動作をさせる際の先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を効果的に向上できる。
【0023】
前記コントローラは、前記低トルク状態のときは、前記低トルク状態に対応した補正値で前記第2の補償制御を行い、前記エンドエフェクタが前記高トルク状態のときは、前記高トルク状態に対応した補正値で前記第2の補償制御を行うとよい。
【0024】
上記の構成によれば、低トルク状態と高トルク状態の各状態に応じた補正値で第2の補償制御を行うので、第1動力伝達機構の弾性変形に起因する第1動作部の動作の発生を効果的に防止することができる。
【0025】
前記コントローラは、計測または推定した前記第2動作部の動作抵抗に応じた補正値で前記第2の補償制御を行うとよい。
【0026】
上記の構成によれば、計測または推定した第2動作部の動作抵抗に応じた補正値で第2の補償制御を行うので、第1動力伝達機構の弾性変形に起因する第1動作部の動作の発生を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る医療用マニピュレータによれば、先端動作部の軌跡精度や位置決め精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る医療用マニピュレータの斜視図である。
【図2】先端動作部の斜視図である。
【図3】作業部と操作部とを分離した状態でのマニピュレータ本体の一部断面側面図である。
【図4】作業部の一部省略断面平面図である。
【図5】駆動部の駆動力を姿勢変更機構に伝達するための機構の模式構造図である。
【図6】作業部を操作部に装着した状態の、第1構成例に係る検出機構を備えた医療用マニピュレータを示す一部省略側面図である。
【図7】第2構成例に係る検出機構を備えた医療用マニピュレータの一部省略側面図である。
【図8】医療用マニピュレータの機能ブロック図である。
【図9】図9Aは、先端動作部にヨー動作をさせる場合の補正1軸目標値を説明する第1の模式説明図であり、図9Bは、先端動作部にヨー動作をさせる場合の補正1軸目標値を説明する第2の模式説明図であり、図9Cは、先端動作部にヨー動作をさせる場合の補正1軸目標値を説明する第3の模式説明図である。
【図10】図10Aは、先端動作部にヨー動作をさせる場合の第1モータの正規速度指令値の時間変化を示す図であり、図10Bは、先端動作部にヨー動作をさせる場合の第1モータの速度補正指令値の時間変化を示す図であり、図10Cは、先端動作部にヨー動作をさせる場合の第1モータの速度指令値の時間変化を示す図である。
【図11】図11Aは、先端動作部にロール動作をさせる際のヨー動作に対する影響を説明する第1の模式説明図であり、図11Bは、先端動作部にロール動作をさせる際のヨー動作に対する影響を説明する第2の模式説明図であり、図11Cは、先端動作部にロール動作をさせる際のヨー動作に対する影響を説明する第3の模式説明図である。
【図12】図12Aは、先端動作部にロール動作をさせる場合の1軸補正値を説明する第1の模式説明図であり、図12Bは、先端動作部にロール動作をさせる場合の1軸補正値を説明する第2の模式説明図であり、図12Cは、先端動作部にロール動作をさせる場合の1軸補正値を説明する第3の模式説明図である。
【図13】図13Aは、先端動作部にロール動作をさせる場合の第2モータの正規速度指令値の時間変化を示す図であり、図13Bは、先端動作部にロール動作をさせる場合の第1モータの速度指令値(速度補正値)の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る医療用マニピュレータ(以下、マニピュレータという。)について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0030】
まず、図1を参照し、本発明の一実施形態に係る医療用マニピュレータ10の全体構成について説明する。マニピュレータ10は、先端に設けられた先端動作部12で生体の一部を把持し又は生体に触れて、所定の処置を行うための医療用の器具であり、通常、把持鉗子やニードルドライバ(持針器)等とも呼ばれる。
【0031】
マニピュレータ10は、医療用器具を構成するマニピュレータ本体11と、マニピュレータ本体11にケーブル28を介して接続されたコントローラ29とを備える。マニピュレータ本体11は、ボディ21と、ボディ21から延出するシャフト18と、シャフトの先端に設けられた先端動作部12とを有する。
【0032】
以下の説明では、シャフト18の延在方向をZ方向と規定し、さらに、シャフト18の前方(先端側)をZ1方向、後方(根元側)をZ2方向と規定する。また、Z方向に直角な方向であって、マニピュレータ本体11を図1の姿勢にしたときのマニピュレータ本体11を基準とした左右方向をX方向とし、特に、マニピュレータ本体11の左側方向をX1方向、右側方向をX2方向と規定する。また、Z方向に直角な方向であって、マニピュレータ本体11を図1の姿勢にしたときのマニピュレータ本体11の上下方向をY方向とし、特に、上方向をY1方向、下方向をY2方向と規定する。
【0033】
なお、特に断りのない限り、これらの方向の記載はマニピュレータ本体11が基準姿勢(中立姿勢)である場合を基準として表すものとする。これらの方向は説明の便宜上のものであり、マニピュレータ本体11は任意の向きで(例えば、上下を反転させて)使用可能であることは勿論である。
【0034】
マニピュレータ本体11は、人手によって把持及び操作される操作部14と、該操作部14に対して着脱自在な作業部16とを有する。操作部14は、上述したボディ21の一部を構成し、筐体を構成しZ1方向及びY2方向に略L字状に延在する左右一対の上部カバー25a、25bと、上部カバー25a、25b内に収容された駆動部30と、人手によって操作される複合入力部24とを有する。
【0035】
駆動部30は、先端動作部12の姿勢を変更させるための駆動源50として第1モータ(第1駆動源)50a及び第2モータ(第2駆動源)50bを有し、駆動源50の駆動力が先端動作部12に機械的に伝達されることで、先端動作部12の姿勢を変更できるように構成されている。
【0036】
第1モータおよび第2モータには、それぞれエンコーダ51a、51bが付帯して設けられており、各エンコーダ51a、51bにより第1モータ50aおよび第2モータ50bの動作角度(回転角度)が検出され、その検出角度をフィードバック信号として、コントローラ29により第1モータ50aおよび第2モータ50bがフィードバック制御される。
【0037】
操作部14の基端側でY2方向に延びた部分は、人手によって把持されるグリップハンドル26として構成されている。グリップハンドル26の上部に設けられた複合入力部24は、回転操作部90および傾動操作部92とを有する。回転操作部90に対する左右方向への回動操作及び傾動操作部92に対する傾動操作を単独又は複合的に行うことで、その操作に応じた信号がコントローラ29に送信され、コントローラ29が第1モータおよび第2モータの駆動を制御することにより、先端動作部12の姿勢変更が行われる。
【0038】
作業部16は、Z方向で略対称に分割された一対の下部カバー37a、37bを筐体としており、上記の先端動作部12と、この先端動作部12を先端に設けた長尺且つ中空のシャフト18と、このシャフト18の基端側が固定され、下部カバー37a、37b内に収容されたプーリボックス32と、プーリボックス32の後方に設けられ、トリガ軸39を支点としてX方向の軸心を中心に回動可能に軸支されたトリガレバー36とを有する。下部カバー37a、37b、プーリボックス32及びトリガレバー36は、上述したボディ21の一部を構成する。
【0039】
作業部16は、操作部14に設けられた左右一対の着脱レバー40、40によって当該操作部14と連結・固定されると共に、着脱レバー40の開放操作によって操作部14から分離可能であり、特別な器具を用いることなく、手術現場で容易に交換作業等を行うことができる。
【0040】
トリガレバー36は、操作者の手指が引っ掛けられるように構成されたトリガ操作子36bと、トリガ操作子36bの上部に設けられたアーム部36aとを有し、アーム部36aの箇所でトリガ軸39に軸支されることで、X方向の軸線を中心として前後方向(Z方向)に揺動可能に配置されている。
【0041】
図2は、先端動作部12の斜視図である。先端動作部12は、開閉動作するエンドエフェクタ19と、エンドエフェクタ19の姿勢を変化させる姿勢変更機構13とを有する。エンドエフェクタ19は、例えば、生体の一部や縫合用の針を把持するグリッパ、生体の一部を切断するハサミ等として、所定の開閉動作軸を基準に開閉動作可能に構成される。図示例のエンドエフェクタ19は、グリッパ19Aとして構成されている。
【0042】
エンドエフェクタ19は、人手によるトリガレバー36の操作(押し引き操作)に基づく力が機械的に伝達されることで開閉動作する。具体的には、作業部16の内部には、ロッド83a、83b(図3及び図4参照)、動力伝達部材としてのワイヤ82a、82b(図3及び図4参照)、プーリ等から構成される伝達機構が設けられており、トリガレバー36の押し引き操作が、伝達機構によりエンドエフェクタ19の開閉動作に変換されるようになっている。
【0043】
なお、トリガレバー36の操作をエンドエフェクタ19の開閉動作に変換する機構としては、例えば、特開2008−104855号公報や特開2009−106606号公報に記載された構成と同様の構成を採用してよい。
【0044】
姿勢変更機構13は、Y方向のヨー軸Oyを基準に傾動するヨー動作(第1姿勢変更動作)と、先端を指向するロール軸Or(中立姿勢時にはZ軸)を基準に回転するロール動作(第2姿勢変更動作)とが可能である。ヨー動作は、シャフト18の軸線に対して傾斜した方向へ動作することから、傾動動作ということもできる。姿勢変更機構13は、ロール動作とヨー動作とを選択的に又は複合的に行うことが可能である。
【0045】
本実施形態の場合、エンドエフェクタ19の姿勢変更の動作(ヨー動作及びロール動作)は、複合入力部24の操作に基づいて駆動源50が駆動し、この駆動源50の駆動力が先端動作部12に機械的に伝達されることで行われる。
【0046】
先端動作部12及びシャフト18は細径に構成されており、患者の腹部等に装着された円筒形状のトラカール20を通して体腔22内に挿入可能であり、複合入力部24及びトリガレバー36の操作によって体腔22内で患部切除、把持、縫合及び結紮等の様々な手技を行うことができる。
【0047】
図1に示すコントローラ29は、マニピュレータ本体11を総合的に制御する制御部であって、グリップハンドル26の下端部から延在するケーブル28と接続される。コントローラ29の機能の一部又は全部は、例えば操作部14に一体的に搭載することもできる。コントローラ29は、複数(図示例では、3個)の接続ポート27a〜27cを備えており、3台のマニピュレータ本体11を独立的に同時に制御することができる。
【0048】
次に、駆動源50の駆動力を先端動作部12に機械的に伝達する機構について説明する。ここで、図3は、作業部16と操作部14とを分離した状態でのマニピュレータ本体11の一部断面側面図であり、図4は、作業部16の一部省略断面平面図である。作業部16には、上述したトリガレバー36に入力された操作力をエンドエフェクタ19に伝達する機構の構成要素である2本のロッド83a、83bがY方向に並んで、それぞれZ方向に延在し、ロッド83a、83bの先端部(Z1方向側の端部)は、プーリボックス32を構成する空洞部66まで達している。
【0049】
また、ロッド83a、83bの先端部には、それぞれ、シャフト18に挿通されて先端動作部12(図1参照)まで延在するワイヤ82a、82b(索体)が連結されている。ワイヤ82a、82bのZ1方向側の端部は、先端動作部12のエンドエフェクタ19を駆動するための図示しない開閉機構に係合しており、トリガレバー36を押し引き操作することによるワイヤ82a、82bの進退動作により前記開閉機構が駆動され、エンドエフェクタ19が開閉動作するようになっている。
【0050】
図3及び図4に示すように、プーリボックス32のZ2側には、Z方向を基準として対称な一対のピン穴84、84が形成されている。各ピン穴84、84には、作業部16と操作部14との装着時、ブラケット52の底面からY1方向に突出した一対のガイドピン86、86が挿入され、これにより、操作部14と作業部16とが位置決めされ且つ高い剛性で装着される。
【0051】
駆動部30は、上述した第1及び第2モータ50a、50bと、第1及び第2モータ50a、50bを支持するブラケット52と、第1及び第2モータ50a、50bの回転方向を変換して作業部16側に伝達するギア機構部54とを有する。ギア機構部54は、第1モータ50aおよび第2モータ50bの出力軸56a、56bにそれぞれ固定された駆動傘歯車58a、58bと、駆動傘歯車58a、58bと噛み合う従動傘歯車62a、62bとを有する。
【0052】
従動傘歯車62a、62bには、それぞれ駆動軸60a、60bが固定されている。駆動軸60a、60bは、X方向に離間して互いに平行に配置されるとともに、図示しないベアリングによってブラケット52に回転可能に軸支されている。駆動軸60a、60bの下端部には、係合凸部64a、64bがそれぞれ設けられている。係合凸部64a、64bは、例えば、断面波形六角形状で先細りのテーパ形状に形成され得る。
【0053】
作業部16に設けられたプーリボックス32は、X方向両側が開口した空洞部66と、該空洞部66に収納された駆動プーリ(従動軸)70a、70b及びガイド部材72a、72bとを有し、空洞部66のZ1側に貫通した孔部でシャフト18が固定・支持されている。
【0054】
駆動プーリ70a、70bは、X方向に離間して互いに平行に配置されており、その上端部には、駆動軸60a、60b側の係合凸部64a、64bと係合可能な係合凹部74a、74bが設けられている。係合凹部74a、74bは、前記係合凸部64a、64bが係合(嵌合)可能であり、例えば断面波形六角形状で奥細りのテーパ形状の凹部を有する。
【0055】
操作部14に作業部16を装着した状態では、係合凸部64a、64bと係合凹部74a、74bとが係合する。これにより、駆動軸60a、60bの回転駆動力は、係合凸部64a、64bおよび係合凹部74a、74bを介して、駆動プーリ70a、70bに伝達される。なお、係合凸部64aや係合凹部74aの係合構造は他の構造であってもよい。
【0056】
図4に示すように、ガイド部材72a、72bは、駆動プーリ70a、70bのZ1側に配設されると共に、互いの外周面の間隔が、駆動プーリ70a、70bの外周面間の間隔よりも狭く設定されている。ワイヤ(索体)80a、80bは、駆動プーリ70a、70bに巻き掛けられるとともに、ガイド部材72a、72bによりガイドされて、シャフト18内に挿通されている。
【0057】
図5は、姿勢変更機構13、第1動力伝達機構および第2動力伝達機構の模式構造図である。姿勢変更機構13は、シャフト18の軸線と非平行なヨー軸(傾動軸)Oyを中心に回動可能な主軸部材(第1動作部)100と、主軸部材の軸線と一致するロール軸Orを中心に回転自在に主軸部材に支持されたギア体102(第1動作部)と、ギア体102と噛み合いヨー軸Oyを中心に回転自在に支持された歯車体104とを有する。
【0058】
主軸部材100は、シャフト18の先端部に設けられた軸106によってヨー軸Oyを中心に回転可能である。主軸部材100の前部は、円筒形の筒部100aとして構成されており、主軸部材100の基端部には、ワイヤ80aが巻き掛けられた従動プーリ100bが一体的に設けられている。ワイヤ80aは、その一部が所定の固定手段によって従動プーリ100bに固定されることで、従動プーリ100bとの間ですべりが生じることが防止されている。
【0059】
主軸部材100は、ヨー軸Oyを中心に回動することが可能であるため、従動プーリ100bがワイヤ80aにより回転駆動されることで、従動プーリ100bが一体的に設けられた主軸部材100がヨー軸Oyを中心に回動する。
【0060】
ギア体102は、先端カバー108に固定されるとともに、ロール軸Orを中心として回転可能かつロール軸Or方向には移動が拘束された状態で主軸部材100の筒部100aの外周に支持されている。ギア体102のZ2方向端面には、歯車104bと噛み合うフェイスギア110が設けられている。
【0061】
歯車体104は、ワイヤ80bが巻き掛けられ従動プーリ104aと、該従動プーリ104aの上部に同心状に設けられた歯車104bとを有し、軸106により回転可能に支持されている。従動プーリ104aに巻き掛けられたワイヤ80bは、その一部が所定の固定手段によって従動プーリ104aに固定されることで、従動プーリ104aとの間ですべりが生じることが防止されている。
【0062】
上記のように構成された姿勢変更機構13において、従動プーリ100bを回転させると、従動プーリ100bが一体的に設けられた主軸部材100がヨー軸Oyを中心に回動するとともに、ギア体102、先端カバー108及びエンドエフェクタ19が主軸部材100と一体的にヨー軸Oyを中心として傾動する。すなわち、姿勢変更機構13のヨー動作が行われる。
【0063】
一方、歯車体104を回転させると、歯車体104によりギア体102がロール軸Orを中心に回転するとともに、先端カバー108及びエンドエフェクタ19がギア体102と一体的にロール軸Orを中心として回転する。すなわち、姿勢変更機構13のロール動作が行われる。
【0064】
第1動力伝達機構112aは、第1モータ50aの駆動力を、主軸部材100を動作させるように、主軸部材100に機械的に伝達する機構である。したがって、上述した駆動傘歯車58a、従動傘歯車62a、係合凸部64a、係合凹部74a、駆動プーリ70aおよびワイヤ80aは、第1動力伝達機構112aの構成要素である。第1動力伝達機構112aにおける動力伝達経路上にはガタが存在する。図示例の第1動力伝達機構112aの場合、図示しない減速機、ギア機構部54を構成する駆動傘歯車58aと従動傘歯車62aとの噛み合い部、および係合凸部64aと係合凹部74aとの係合部にそれぞれ僅かにガタが存在するため、これらのガタの大きさを合算したものが、第1動力伝達機構112aに存在するガタである。
【0065】
第2動力伝達機構112bは、第2モータ50bの駆動力を、ギア体102を回転させるように、ギア体102に機械的に伝達する機構である。したがって、上述した駆動傘歯車58b、従動傘歯車62b、係合凸部64b、係合凹部74b、駆動プーリ70bおよびワイヤ80bは、第2動力伝達機構112bの構成要素である。なお、第2動力伝達機構112bの動力伝達経路上には、第1動力伝達機構112aと同様にガタが存在する。
【0066】
図6に示すように、マニピュレータ本体11は、トリガレバー36の操作状態を検出する第1構成例に係る検出機構120をさらに備える。図6に示す検出機構120は、トリガレバー36が引き位置に達したことを検出するように構成されている。すなわち、検出機構120は、エンドエフェクタ19であるグリッパ19Aが閉じた状態または殆ど閉じた状態に対応する動作位置にトリガレバー36が達したことを検出するものである。
【0067】
なお、トリガレバー36に関し、「押出し位置」とは、トリガレバー36を十分に押し出した位置(トリガレバー36の可動範囲のうち最もZ1方向側に回動した位置)またはその近傍位置を意味する。また、トリガレバー36に関し、「引き位置」とは、トリガレバー36を十分に引いた位置(トリガレバー36の可動範囲のうち最もZ2方向側に回動した位置)またはその近傍位置を意味する。図6では、押出し位置にあるときのトリガレバー36を実線で描いており、引き位置にあるときのトリガレバー36を二点鎖線で描いている。
【0068】
検出機構120は、トリガレバー36に設けられたカム体(検出用突出片)122と、操作部14に設けられた検出部124とを有する。カム体122は、トリガレバー36のアーム部36aに固定され(設けられ)、図示例では、Z2方向に突出するように設けられおり、トリガレバー36と一体的に動作する。すなわち、トリガレバー36が前後方向(Z方向)に揺動すると、カム体122も、トリガ軸39を回転支点として揺動する。
【0069】
検出部124は、作業部16を操作部14に装着した状態での操作部14における、カム体122に対向する位置に設けられており、作業部16が操作部14に装着された状態でカム体122を検出することによりトリガレバー36が上記の引き位置に達したことを検出する。
【0070】
図示例の検出部124は、検出部124は、カム体122により押圧されてZ方向に移動する作動ロッド126と、作動ロッド126が挿通されて作動体の移動をガイドする筒状ガイド部材128と、作動ロッド126により押圧されるタクトスイッチ130とを有する。作動ロッド126のZ1側の端部は、カム体122側に突出するとともに、図示しないバネによりZ1方向に付勢され、図示しない係止部材によりカム体122側に抜け出ることが防止されている。タクトスイッチ130は、操作部14の内部に設けられたスイッチ基板132に固定され、このスイッチ基板132はケーブル28を介してコントローラ29に電気的に接続されており、スイッチ基板132から出力される信号がコントローラ29に送信される。
【0071】
上記のように構成された検出機構120において、トリガレバー36が押出し位置にあるときには、カム体122が作動ロッド126をZ2方向に押し込まないので、タクトスイッチ130は作動ロッド126に押圧されない。一方、トリガレバー36が図6でZ2方向に回動操作され、引き位置まで達すると、カム体122が作動ロッド126をZ2方向に押圧して移動させ、作動ロッド126によりタクトスイッチ130が押圧される。そして、押圧されたことに対応する信号がタクトスイッチ130から出力され、この信号がコントローラ29に送信されることで、コントローラ29において、トリガレバー36が引き位置に達したことが認識(検出)される。
【0072】
図示例の検出機構120は、トリガレバー36が引き位置に達したことを検出するように構成されているが、これに代えて、トリガレバー36が押出し位置に達したことを検出するように構成されてもよい。また、検出機構120は、トリガレバー36が、引き位置に達しときと押出し位置に達したときの両方を検出するように構成されてもよい。検出機構120において、カム体122をトリガ操作子36bに設け、上記の検出部124をグリップハンドル26に設けてもよい。
【0073】
このようにマニピュレータ10では、検出機構120により、トリガレバー36が引き位置または押出し位置に達したことを検出するので、トリガレバー36の使用状態を把握することが可能である。例えば、トリガレバー36が引き位置にあることを検出した場合、コントローラ29は、エンドエフェクタ19が把持対象物(例えば、生体組織の一部、湾曲針等)を把持した「把持状態」であると認識してもよい。また、トリガレバー36が引き位置にあることを検出しない場合、コントローラ29は、エンドエフェクタ19が対象物を把持しない「非把持状態」であると認識してもよい。
【0074】
なお、検出機構120の検出部124において、タクトスイッチ130に代えて、投光器と受光器とにより構成されるフォトセンサを設けてもよい。このようなフォトセンサを設ける場合、トリガレバー36が引き位置に来たときに作動ロッド126が投光器と受光器との間に入って投光器からの光を遮断するように、投光器および受光器を配置することで、トリガレバー36が引き位置に達したことを検出できる。また、タクトスイッチ130に代わる他の感知手段として、磁気センサ、近接センサ等を用いてもよい。
【0075】
次に、図7を参照し、第2構成例に係る検出機構140について説明する。検出機構140は、トリガレバー36の動作方向、つまり回動方向の位置を検出するように構成されている。図7に示すように、トリガレバー36は、最もZ1側に回動した最進出位置P1から、最もZ2側に回動した最後退位置P2までの角度θの可動範囲を有する。
【0076】
検出機構140は、トリガレバー36と一体的に動作する駆動要素142と、操作部14に設けられ作業部16が操作部14に装着された状態で駆動要素142に連動する従動要素144と、従動要素144の動作方向の位置を検出する検出部146とを有する。図示例において、駆動要素142は、トリガレバー36の回動軸心回りに周方向に延在する歯を有する第1ギア部142Aであり、従動要素144は、操作部14に回動自在に設けられ作業部16が操作部14に装着された状態で第1ギア部142Aと噛み合う第2ギア部144Aであり、検出部146は、第2ギア部144Aの回転角度を検出する回転検出器146Aである。
【0077】
第1ギア部142Aは、トリガレバー36と一体的に回転するように設けられている。すなわち、第1ギア部142Aは、トリガレバー36と一体的に回転するトリガ軸39に固定されており、トリガレバー36が前後方向(Z方向)に回動すると、第1ギア部142Aも、トリガ軸39を回転支点として回動する。なお、図示例の第1ギア部142Aでは、全周に歯が形成されているが、トリガレバー36の可動範囲の全範囲で第2ギア部144Aと噛み合うことができれば、外周の一部のみに歯が形成されてもよい。
【0078】
第2ギア部144Aは、上部カバー25bの側面に設けられている。回転検出器146Aは、上部カバー25a、25bの内部に設けられている。第2ギア部144Aと回転検出器146Aとは、上部カバー25a、25bを貫通する軸148を介して連結されている。上部カバー25a、25bと軸との間には、図示しないシール部材(例えば、Oリング)が配置され、シール部材により、外部から上部カバー25a、25bの内部23への液体や塵埃の進入が防止される。
【0079】
回転検出器146Aとしては、例えば、ロータリエンコーダ、ポテンショメータ、レゾルバ等を用いることができる。ロータリエンコーダとしては、インクリメンタルエンコーダとアブソリュートエンコーダとがあるが、いずれを用いてもよい。回転検出器146Aは、ケーブル28を介してコントローラ29に電気的に接続されており、回転検出器146Aから出力される信号は、コントローラ29に送信されるようになっている。
【0080】
上記のように構成された検出機構140では、トリガレバー36が回動操作されると、トリガレバー36に設けられた第1ギア部142Aがトリガレバー36と一体的にトリガ軸39を中心に回転する。また、第1ギア部142Aの回転に伴い、第1ギア部142Aと噛み合う第2ギア部144Aが回転し、第2ギア部144Aの回転角度が回転検出器146Aにより検出され、トリガレバー36の動作角度が検出される。すなわち、回転検出器146Aから回転角度に対応する信号が出力され、この信号がコントローラ29に送信され、コントローラ29において、回転検出器146Aからの信号に基づいてトリガレバー36の動作角度が演算される。
【0081】
なお、回転検出器146Aがインクリメンタルエンコーダである場合、インクリメンタルエンコーダからは回転角度の変化に応じてパルスが出力されるだけであり、トリガレバー36の絶対角度を直接検出することはできない。一方、トリガレバー36の可動範囲(最大回転角度)θは既知であるので、使用時の回転角度範囲からトリガレバー36の絶対角度を推測することが可能である。そこで、回転検出器146Aがインクリメンタルエンコーダである場合、コントローラ29は、マニピュレータ本体11の使用時において、トリガレバー36の可動範囲θと回転検出器146Aで検出した回転角度範囲とに基づいて、トリガレバー36の絶対角度を推定(演算)する。このように、インクリメンタルエンコーダの検出信号からトリガレバー36の絶対角度を推定することで、簡素な構成で、トリガレバー36の動作角度の検出を行うことができる。
【0082】
検出機構140を搭載したマニピュレータ10では、マニピュレータ本体11の使用中、所定のサンプリングタイム毎に、トリガレバー36の動作角度が検出される。したがって、トリガレバー36が押出し位置(P1またはその近傍)、引き位置(P2またはその近傍)、または押出し位置と引き位置の間の位置にあることを検出することができる。コントローラ29は、トリガレバー36が引き位置にあることを検出した場合には、エンドエフェクタ19が「把持状態」であると認識し、トリガレバー36が引き位置以外の位置にあることを検出した場合には、エンドエフェクタ19が「非把持状態」であると認識してもよい。
【0083】
なお、トリガレバー36の回転を回転検出器146Aに伝達する機構として、磁気カップリングを採用してもよい。すなわち、トリガレバー36に設けられる駆動要素142と、操作部14に設けられる従動要素144のうち少なくとも一方を永久磁石が配置された円板として構成し、他方を永久磁石が配置された円板または強磁性体からなる円板として構成し、このように構成した駆動要素142と従動要素144とにより磁気カップリングを構成してもよい。
【0084】
ところで、上述したように、第1モータ50aの駆動力を主軸部材100に伝達する第1動力伝達機構112a(図5参照)には、通常、ガタが存在するため、ガタの範囲内で第1モータ50aが動作しても、主軸部材100がヨー軸Oyを中心に回動動作せず、結局、先端動作部12のロール動作が行われない。このため、回転操作部90への入力操作に対してロール動作が遅れることがあり、先端動作部12の軌跡精度や位置決め精度の低下が懸念される。
【0085】
これに対処するため、本実施形態に係るマニピュレータ10では、コントローラ29は、傾動操作部92からのヨー軸操作指令(第1姿勢変更動作に係る第1操作指令)を受けた場合、第1の補償制御として、第1動力伝達機構112aに存在するガタ分を補償するように、第1モータ50aを制御する。すなわち、コントローラ29は、より精密なヨー動作の姿勢制御を行うため、フィードフォワード制御などにより、ガタ分を補償する制御を行う。
【0086】
図8を参照し、第1の補償制御について説明する。図8は、マニピュレータ10の機能ブロック図である。ヨー動作をさせるため、傾動操作部92を操作すると、その操作量に応じたヨー軸操作指令c1が出力され、出力されたヨー軸操作指令c1は、コントローラ29に設けられたヨー軸目標軌道生成手段150に入力される。ヨー軸目標軌道生成手段150は、ヨー軸操作指令c1に応じたヨー軸(主軸部材100)の目標値(以下、ヨー軸目標値v1という)を生成し、生成されたヨー軸目標値v1は、第1補正値生成手段156と正規1軸・2軸目標軌道生成手段154に入力される。
【0087】
正規1軸・2軸目標軌道生成手段154は、ヨー軸目標値v1とロール軸(ギア体102)の目標値(以下、ロール軸目標値v2という)に基づいて、干渉行列を解くことにより、第1モータ50aと第1モータ50bの制御上の目標値(以下、それぞれ、正規1軸目標値v3、正規2軸目標値v4という)を生成する手段である。姿勢変更機構13において、ヨー軸動作を行うための機構とロール動作を行うための機構との間には機構的な干渉があるため、互いに動作干渉を生じないように第1モータ50aおよび第1モータ50bを制御することが必要である。
【0088】
例えば、ギア体102をロール軸Orを中心に回転させることなく、主軸部材100をヨー軸Oyを中心に回転させるには、第1モータ50aを駆動して主軸部材100を回転させるだけでなく、第2モータ50bを駆動して歯車体104を主軸部材100と同方向かつ同じ角度で回転させることが必要である。また、ロール動作とヨー動作を複合して行う際に、回転操作部90に対する入力操作で指示した回転方向および回転量でロール動作をさせるためには、ヨー動作による干渉分を見込んで第2モータ50bを回転させることが必要である。
【0089】
第1補正値生成手段156は、ヨー動作を行うに際して第1動力伝達機構112aに存在するガタの影響をなくす補正値(以下、第1補正値v5という)を生成する。生成された第1補正値v5と、正規1軸目標値v3は、補正1軸目標軌道生成手段160に入力される。補正1軸目標軌道生成手段160は、第1補正値v5と正規1軸目標値v3から、補正1軸目標値v7(正規1軸目標値v3を第1補正値v5によって補正した目標値)を生成する。
【0090】
生成された補正1軸目標値v7は、第1モータ制御手段162に入力される。一方、正規1軸・2軸目標軌道生成手段154により生成された正規2軸目標値v4は、第2モータ制御手段164に入力される。第1モータ制御手段162および第2モータ制御手段164は、それぞれ、第1モータ50aおよび第2モータ50bを駆動制御するモータドライバである。
【0091】
操作部14に設けられた第1モータ50aおよび第2モータ50bは、第1モータ制御手段162および第2モータ制御手段164により、動作角度がそれぞれ補正1軸目標値v7および正規2軸目標値v4となるようにフィードバック制御される。この場合、第1モータ50aおよび第2モータ50bにそれぞれ付設されたエンコーダ51a、51b(図1参照)からの出力信号が、フィードバック制御におけるフィードバック信号となる。このように第1モータ50aおよび第2モータ50bが駆動制御されることにより、第1モータ50aの駆動に基づいて第1動力伝達機構112a(図5参照)を介して主軸部材100が回動駆動されるとともに、第2モータ50bの駆動に基づいて第2動力伝達機構112bを介して歯車体104が回動駆動される。この場合、第1モータ50aの補正1軸目標値v7は、第1動力伝達機構112aに存在するガタの影響をなくすように補償された目標値であるため、先端動作部12において、精度の高い姿勢制御がなされたヨー動作が行われる。
【0092】
以下の説明では、図8を参照する場合にのみ、上述したヨー軸目標値、ロール軸目標値、正規1軸目標値、正規2軸目標値、第1補正値、第2補正値および補正1軸目標値に、それぞれ参照符号v1〜v7を付すものとする。
【0093】
次に、図9A〜図9Cを参照し、先端動作部12にヨー動作をさせる場合の第1補正標値の生成方法について説明する。図9Aに示すように、正規1軸目標値の正方向および負方向にそれぞれ同一の大きさのガタが存在すると考える。
【0094】
この場合に、第1モータ50aの動作角度を図9A中の正方向に移動するとき(正方向の速度指令があったとき)の補正1軸目標値(すなわち、第1モータ50aの制御上の目標値)は、正規1軸目標値に第1補正値最終値を加算したものとなる。ここで、第1補正値最終値は、第1動力伝達機構112aに存在するガタの大きさ(正規1軸目標値に対して正方向および負方向のガタの大きさ)に対応する。一方、第1モータ50aの動作角度を負方向に移動するとき(負方向の速度指令があったとき)の補正1軸目標値は、正規1軸目標値から第1補正値最終値を減算したものとなる。
【0095】
このように、正規1軸目標値を、第1モータ50aの動作方向に応じてガタの大きさに相当する分だけ正方向または負方向に補正することで、ガタ分が補償されたヨー動作が行われる。。
【0096】
図9Aに示した例は、第1の補償制御の基本的な考え方を説明するものであるが、実際の制御では、所定のサンプリングタイム毎に制御上の目標値が変わり、第1補正値もサンプリングタイム毎に生成(計算)される。このため、制御上は、現在の第1補正値に対して、補正するべき第1補正値の補正量を加算または減算して、補正1軸目標値を得る。
【0097】
例えば、図9Bに示すように、第1モータ50aの動作角度を正方向に移動するときの補正1軸目標値は、現在の第1補正値(負の補正値)に、補正するべき第1補正値の補正量を加算したもの(=正規1軸目標値+第1補正値最終値)となる。図9Cに示すように、第1モータ50aの動作角度を負方向に移動するときの補正1軸目標値は、現在の第1補正値(負の補正値)から、補正するべき第1補正値の補正量を減算したもの(=正規1軸目標値−第1補正値最終値)となる。
【0098】
なお、通常、現在の第1補正値は、正または負の第1補正値最終値となる。現在の第1補正値が正の第1補正値最終値のときに正方向の速度指令が出た場合、第1補正値は、正の第1補正値最終値で変化しない。一方、現在の第1補正値が正の第1補正値最終値のときに負方向の速度指令が出た場合、第1補正値の変化量は、−2×第1補正値最終値となり、結局、第1補正値は、負の第1補正値最終値となる。
【0099】
以上のように本実施形態に係るマニピュレータ10によれば、コントローラ29が第1の補償制御を行うことにより、第1動力伝達機構112aに存在するガタをなくしたのと同様の状態で主軸部材100を動作させることができる。このため、主軸部材100の位置精度が向上し、操作性が向上する。また、第1の補償制御では、正規1軸目標値を、第1動力伝達機構112aに存在するガタの影響をなくす第1補正値により補正して補正1軸目標値を生成するので、先端動作部12の軌跡精度や位置決め精度を効果的に向上できる。
【0100】
次に、図10A〜図10Cを参照し、ヨー動作をさせる場合の第1モータ50aの速度指令値の生成方法について説明する。
【0101】
図10Aは第1モータ50aの正規速度指令値の時間変化を示している。第1モータ50aの正規速度指令値は、正規1軸目標値に対応する指令値であり、傾動操作部92(図1参照)からのヨー軸操作指令に基づいて生成される。傾動操作部92からの指令がスイッチのオンオフのようなステップ状の場合、フィルタリング処理等を施すことにより、図10Aに示すような滑らかな速度指令信号とすることが好ましい。
【0102】
図10Bは第1モータ50aの速度補正指令値の時間変化を示している。第1モータ50aの速度補正指令値は、第1補正値に対応する速度指令値であり、図10Aに示した正規速度指令値を変数とする関数により生成される。この関数は、例えば、第1モータ50aの正規速度指令値に比例した速度補正指令値を算出するものであるとよい。このような関数を用いることにより、正規速度指令値による加速と同期して速度補正指令値による加速が行われるので、第1動力伝達機構112aのガタをなくす補正を無理なくスムーズに行うことができる。
【0103】
速度補正指令値の積分値(図10B中、符号S1で示す部分の面積)が第1補正値最終値に達したら、速度指令はゼロとする。第1モータ50aの速度指令値(補正後の速度指令値)である1軸速度指令値は、図10Cに示すように、正規速度指令値に速度補正指令値を加算したものとなる。
【0104】
上記では、第1動力伝達機構112aに存在するガタに起因する先端動作部12の軌跡精度や位置決め精度の低下の懸念について説明したが、ロール動作時には以下のようなヨー動作の発生が懸念される。すなわち、ロール動作をさせるためにギア体102(図5参照)を回転させようとすると、ギア体102を支持する主軸部材100がギア体102から力を受け、このとき、第1動力伝達機構112aに存在するガタにより、先端動作部12がヨー動作をすることがある。また、このようなヨー動作は、以下の理由により、第1動力伝達機構112aの剛性が十分でない場合にも発生し得る。
【0105】
例えば、トリガレバー36を引き位置まで引いた状態では、ギア体102が主軸部材100に軸方向(Z2方向)に押し付けられるため、ギア体102の回転抵抗(動作抵抗)が大きくなる。トリガレバー36を押出し位置まで押し出した状態では、ギア体102が主軸部材100に軸方向(Z1方向)に押し付けられるため、ギア体102の回転抵抗が大きくなる。
【0106】
歯車体104(図5参照)を回転させ、歯車体104と噛み合うギア体102を回転させることでエンドエフェクタ19をロール動作させようとするとき、ロール軸Orを中心にギア体102が回転しようとするだけでなく、ヨー軸Oyを中心に主軸部材100を回動させようとするトルク(以下、これを干渉トルクという)としても作用する。そして、ヨー軸Oyを中心に主軸部材100を回動させようとするトルクは、第1動力伝達機構112aが受けることになる。このため、第1動力伝達機構112aの剛性が十分でない場合は、第1動力伝達機構112aの構成要素(ワイヤ等)が弾性変形することで、ヨー動作を発生する場合がある。
【0107】
これに対処するため、本実施形態に係るマニピュレータ10では、コントローラ29は、回転操作部90からのロール操作指令(第2姿勢変更動作に係る第2操作指令)を受けた場合、第2の補償制御として、ロール動作に起因するヨー動作の発生を防止または抑制するように第1モータ50aを制御する。すなわち、コントローラ29は、より精密な姿勢制御を行うため、フィードフォワード制御などにより、第1動力伝達機構112aに存在するガタや第1動力伝達機構112aの弾性変形による影響を補償する制御を行う。
【0108】
このような第2の補償制御について、まず図8を参照し、その概要について説明する。ロール動作をさせるため、回転操作部90を操作すると、その操作量に応じたロール軸操作指令c2が出力され、出力されたロール軸操作指令c2は、コントローラ29に設けられたロール軸目標軌道生成手段152に入力される。ロール軸目標軌道生成手段152は、ロール軸操作指令c2に応じたロール軸(ギア体102)の目標軌道(目標値)を生成し、生成された目標軌道は、正規1軸・2軸目標軌道生成手段154と第2補正値生成手段158に入力される。正規1軸・2軸目標軌道生成手段154では、正規1軸目標値v3と、正規2軸目標値v4が生成される。
【0109】
第2補正値生成手段158は、コントローラ29がロール軸操作指令c2を受けた場合に、第1動力伝達機構112aに存在するガタと、干渉トルクによる第1動力伝達機構112aの弾性変形の影響をなくす補正値(以下、第2補正値v6という)を生成する。生成された第2補正値v6と、正規1軸目標値v3は、補正1軸目標軌道生成手段160に入力される。補正1軸目標軌道生成手段160は、第1補正値v5と正規1軸目標値v3から、補正1軸目標値v7(この場合、正規1軸目標値v3を第2補正値v6によって補正した目標値)を生成する。
【0110】
生成された補正1軸目標値v7は、第1モータ制御手段162に入力される。一方、正規1軸・2軸目標軌道生成手段154により生成された正規2軸目標値v4は、第2モータ制御手段164に入力される。
【0111】
操作部14に設けられた第1モータ50aおよび第2モータ50bは、第1モータ制御手段162および第2モータ制御手段164により、動作角度がそれぞれ補正1軸目標値v7および正規2軸目標値v4となるようにフィードバック制御される。このように第2モータ50bが駆動制御されることにより、第2モータ50bの駆動に基づいて第2動力伝達機構112bを介して歯車体104が回動駆動されるとともに、第1モータ50aの駆動に基づいて第1動力伝達機構112aを介して主軸部材100が回動駆動される。
【0112】
この場合、第1モータ50aの補正1軸目標値v7は、第1動力伝達機構112aのガタおよび弾性変形の影響をなくすように補償された目標値であるため、先端動作部12においては、ロール動作に起因するヨー動作が発生せず、精度の高い姿勢制御の作用下にロール動作が行われる。
【0113】
次に、図11A〜図11Cを参照し、先端動作部12にロール動作をさせる際のヨー動作に対する影響を説明する。なお、ここでは、第1動力伝達機構112aに存在するガタの影響のみに着目し、干渉トルクによる第1動力伝達機構112aの弾性変形の影響については考慮しないものとする。第1動力伝達機構112aの弾性変形の影響を考慮した補償については、後述する。
【0114】
先端動作部12に正方向のロール動作をさせるとき(ギア体102を正方向に回転させるとき)、主軸部材100も正方向の干渉トルクを受ける。これにより、干渉トルクの大小にかかわらず、図11Aの下側に示すように、主軸部材100が正方向にガタ分だけ動かされる。すなわち、正方向にロール動作に起因するヨー動作が発生する。
【0115】
ロール動作の方向が正方向である場合において、図11Bに示すように、仮に、負方向にガタ分だけ第1モータ50aの目標値である1軸目標値が補正されているとき(ガタが消されているとき)は、ガタの影響を受けないため、主軸部材100が正方向に動かされず、ロール動作に起因するヨー動作は発生しない。
【0116】
ロール動作の方向が正方向である場合において、図11Cに示すように、仮に、正方向にガタ分だけ1軸目標値が補正されているとき(ガタが反対側に消されているとき)は、正方向および負方向の2つのガタ分だけ主軸部材100が正方向に動かされる。すなわち、正方向にロール動作に起因するヨー動作が発生する。
【0117】
次に、図12A〜図12Cを参照し、先端動作部12にロール動作をさせる場合の第2補正値の生成方法について説明する。なお、図12A〜図12Cでは、ロール動作の方向が正方向である場合を想定する。
【0118】
図12Aは、図11Aの場合に対応する補正方法であり、現在の第2補正値が0の場合、補正後の第2補正値は、負の第2補正値最終値となる。この場合、補正の変化量は、第2補正値最終値と同じである。ここで、第2補正値最終値は、第1動力伝達機構112aに存在するガタの大きさ(正規1軸目標値に対して正方向および負方向のガタの大きさ)に対応する。このように、第2補正値は、主軸部材100がギア体102から受ける力の方向とは逆方向に主軸部材100の目標値を補正する補正値である。
【0119】
図12Bは、図11Bの場合に対応する補正方法であり、現在の第2補正値が負の第2補正値最終値の場合、補正後の第2補正値は、正の第2補正値最終値のままで変化しない。この場合、補正の変化量はゼロである。
【0120】
図12Cは、図11Cの場合に対応する補正方法であり、現在の第2補正値が正の第2補正値最終値の場合、補正後の第2補正値は、負の第2補正値最終値となる。この場合、補正の変化量は、第2補正値最終値の2倍である。
【0121】
以上のように本実施形態に係るマニピュレータ10によれば、コントローラ29が第2の補償制御を行うことにより、ロール動作を行う際に、第1動力伝達機構112aのガタの影響をなくすことで、ロール動作に起因するヨー動作の発生を防止または抑制することができ、操作性を向上することができる。また、第2の補償制御では、正規1軸目標値を、第1動力伝達機構112aの影響をなくす補正値により補正して補正1軸目標値を生成するので、先端動作部12にロール動作をさせる際の、ガタおよび弾性変形に起因するヨー動作の発生を効果的に防止できる。さらに、第2の補償制御では、主軸部材100がギア体102から受ける力の方向とは逆方向に、主軸部材100を動作させることで、ガタの影響をなくすので、ロール動作に起因するヨー動作の発生を一層効果的に防止できる。
【0122】
次に、図13Aおよび図13Bを参照し、第2の補償制御をする場合の第1モータ50aおよび第1モータ50bの速度指令値の生成方法について説明する。
【0123】
図13Aは、第2モータ50bの制御上の目標値である正規2軸目標値に対応する指令値(2軸速度指令値)の時間変化を示している。回転操作部90からの指令がスイッチのオンオフのようなステップ状の場合、フィルタリング処理等を施すことにより、図13Aに示すような滑らかな速度指令信号とすることが好ましい。
【0124】
図13Bは、傾動操作部92からのヨー動作指令がなく、回転操作部90からのロール動作指令のみがあった場合の第1モータ50aの速度指令値を示している。この場合の速度指令値は、第2補正値に対応した速度補正指令値のみとなる。図13Bに示すように、第1モータ50aの速度補正指令値は、第2モータ50bの速度指令値を変数とする関数により生成される。
【0125】
この関数は、例えば、第1モータ50aの速度指令値に比例した速度補正指令値を算出するものであるとよい。このような関数を用いることにより、ロール動作の開始と同期して第1動力伝達機構112aのガタをなくす補正が行われるため、適切なタイミングで補正を行うことができる。
【0126】
速度補正指令値の積分値(図13B中、符号S2で示す部分の面積)が第2補正値最終値に達したら、速度指令はゼロとする。これにより、第2補正値最終値の分だけ主軸部材100を移動させることができる。
【0127】
なお、回転操作部90からのロール動作指令と同時並行的に、傾動操作部92からのヨー動作指令があった場合、第1モータ50aの速度指令値は、図10Aに示した正規速度指令値に、図13Bに示す速度補正指令値を加算した指令値となる。
【0128】
上記では、第2補正値は、第1動力伝達機構112aのガタ分を補正するものとして説明したが、ガタは第1動力伝達機構112aの剛性がある範囲でゼロであることと等価であると考えることができる。換言すれば、干渉トルクによる第1動力伝達機構112aの弾性変形を、ある大きさのガタと等価と考えることができる。したがって、第2補正値は、第1動力伝達機構112aの剛性が低い場合の干渉トルク補償、すなわち、干渉トルクによる第1動力伝達機構112aの弾性変形の影響をなくす補正値としても同様に適用できる。
【0129】
そこで、第2補正値生成手段158は、第1動力伝達機構112aのガタの影響を考慮した補正値に、第1動力伝達機構112aの弾性変形に起因する主軸部材100のヨー動作の発生を防止または低減する補正値を加えたものを、第2補正値として生成するとよい。これにより、ガタに起因するヨー動作のみならず、第1動力伝達機構112aの弾性変形に起因するヨー動作の発生についても防止または抑制することができ、先端動作部12の姿勢制御を一層精度良く行うことができる。
【0130】
エンドエフェクタ19を閉じた状態(トリガレバー36を引き位置まで引いた「引き状態」)では、把持対象物(例えば、生体組織の一部、湾曲針等)を強く把持している状態(把持状態)であると考えられ、ギア体102の回転抵抗が大きく、干渉トルクが大きい。また、エンドエフェクタ19を大きく開いた状態(トリガレバー36を押出し位置まで押し出した「押出し状態」)では、なんらかの物を広げている状態(拡張状態)であると考えられ、干渉トルクが大きい。このような高トルク状態のとき、ヨー動作の影響が大きくなる。一方、エンドエフェクタ19が引き位置にも押出し位置にもない場合、干渉トルクが小さい。このような低トルク状態のとき、ヨー動作の影響が小さい。
【0131】
このように、エンドエフェクタ19の状態によって干渉トルクが異なる場合には、それぞれの状態の干渉トルクの大きさに応じて、第1動力伝達機構112aの弾性変形を加味した第2補正値を生成するとよい。上述したように、本実施形態に係るマニピュレータ10の場合、検出機構120、140によりトリガレバー36が引き位置にあること(高トルク状態)を検出することができる。そこで、高トルク状態での最適な第2補正値を「第2補正値C1」とし、低トルク状態での最適な第2補正値を「第2補正値C2」として、状態に応じて適切な補正値を生成するように第2補正値生成手段158を構成するとよい。ただし、第2補正値C2≦第2補正値C1である。
【0132】
これにより、高トルク状態の場合には、第2補正値C1により正規1軸目標値を補正し、低トルク状態の場合には、第2補正値C2により正規1軸目標値を補正することが可能となる。したがって、エンドエフェクタ19の状態に応じて変化する干渉トルクに対応した補正が可能となり、先端動作部12の姿勢制御を一層精度良く行うことができる。なお、検出機構120、140によりトリガレバー36が引き位置にあることが検出できるが、押出し位置にあることを検出できない場合には、トリガレバー36が引き位置にないときを「低トルク状態」とみなして、上記のような補正を行う。
【0133】
マニピュレータ10において、上述した検出機構120、140が設けられていない場合には、高トルク状態に適した第2補正値C1と、低トルク状態に適した第2補正値C2とを求め、その中間値を第2補正値として第2補正値生成手段158により生成してもよい。この場合の第2補正値は、下記の(1)式または(2)式を満たすものであればよい。
第2補正値C2≦第2補正値≦第2補正値C1 ・・・(1)
第2補正値=(第2補正値C1+第2補正値C2)/2・・・(2)
【0134】
上記の(1)式または(2)式に従って生成した第2補正値を用いて第1モータ50aを制御することにより、検出機構120、140が設けられていない場合でも、干渉トルクによるヨー動作の発生を抑制することができる。
【0135】
また、トリガレバー36の引き状態と押出し状態(ともに高トルク状態)とで、干渉トルクが異なる場合には、それぞれ、第2補正値C1(a)、第2補正値C1(b)として区別してもよい。検出機構120、140が設けられていないマニピュレータ10において、このように干渉トルクが異なる場合には、第2補正値生成手段158で生成される第2補正値は、下記の(3)式〜(5)式のいずれか1つを満たすものであればよい。ただし、(3)式は、第2補正値C1(a)>第2補正値C1(b)の場合であり、(4)式は、第2補正値C1(a)<第2補正値C1(b)の場合である。
第2補正値C2≦第2補正値v6≦第2補正値C1(a)・・・(3)
第2補正値C2≦第2補正値v6≦第2補正値C1(b)・・・(4)
第2補正値=(第2補正値C1(a)+第2補正値C1(b)+第2補正値C2)/3・・・(5)
【0136】
上記の(3)式〜(5)式のいずれか1つに従って生成した第2補正値を用いて第1モータ50aを制御することにより、検出機構120、140が設けられていない場合でも、干渉トルクによるヨー動作の発生を抑制することができる。
【0137】
なお、マニピュレータ10において、ロール動作時の干渉トルク(主軸部材100に作用するヨー軸Oy周りのトルク)を検出または推定できる機構が設けられる場合には、使用状況によって変化する干渉トルクに応じた第2補正値を用いて、第1モータ50aの正規1軸目標値を補正するようにしてもよい。このような補正を行うことで、先端動作部12の姿勢制御をより精度良く行うことができる。
【0138】
上記では、第1補正値と第2補正値の生成手段が異なるため、ヨー動作をする場合の1軸補正値(第1モータ50aの正規目標値に対する補正値)を第1補正値、ロール動作をする場合の1軸補正値を第2補正値として説明した。しかし、制御時には、1軸補正値として、ひとつの補正値として扱ってよい。すなわち、1軸補正値=第1補正値+第2補正値、として扱ってよい。ただし、1軸補正値≦第1補正値最終値=第2補正値最終値、である。
【0139】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0140】
10…医療用マニピュレータ 12…先端動作部
13…姿勢変更機構 14…操作部
16…作業部 19…エンドエフェクタ
29…コントローラ 50…駆動源
50a…第1モータ 50b…第2モータ
100…主軸部材 102…ギア体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1駆動源と、
エンドエフェクタと、前記第1駆動源の駆動力が機械的に伝達されることで第1姿勢変更動作をするように構成された第1動作部とを有する先端動作部と、
前記第1駆動源の駆動力を機械的に伝達して前記第1動作部を動作させる第1動力伝達機構と、
前記第1駆動源を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記第1姿勢変更動作に係る第1操作指令を受けた場合、第1の補償制御として、前記第1動力伝達機構に存在するガタ分を補償するように、前記第1駆動源を制御する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項2】
請求項1記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第1の補償制御では、前記第1駆動源の正規目標値である正規1軸目標値と、前記第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす補正値とに基づいて、前記第1駆動源の制御上の目標値である補正1軸目標値を生成する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項3】
請求項1記載の医療用マニピュレータにおいて、
第2駆動源と、前記第2駆動源の駆動力を機械的に伝達して第2動作部を動作させる第2動力伝達機構とをさらに備え、
前記第2動作部は、第2姿勢変更動作を行うことが可能なように前記第1動作部により支持され、
前記コントローラは、前記第2姿勢変更動作に係る第2操作指令を受けた場合、第2の補償制御として、前記第2姿勢変更動作に起因する前記第1姿勢変更動作の発生を防止または抑制するように、前記第1駆動源を制御する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項4】
請求項3記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第2の補償制御では、前記第1駆動源の正規目標値である正規1軸目標値と、前記第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす補正値とに基づいて、前記第1駆動源の制御上の目標値である補正1軸目標値を生成する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項5】
請求項4記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす前記補正値は、前記第2姿勢変更動作に起因して前記第1動作部が前記第2動作部から受ける力の方向とは逆方向のガタをなくす補正値である、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項6】
請求項3記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第2の補償制御では、前記第1駆動源の正規目標値である正規1軸目標値と、前記第1動力伝達機構の弾性変形に起因する前記第1動作部の動作の発生を防止または抑制する補正値と、に基づいて、前記第1駆動源の制御上の目標値である補正1軸目標値を生成する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項7】
請求項6記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第2の補償制御における前記補正値は、前記第2動作部による前記第1動作部への干渉トルクが相対的に高い高トルク状態での前記第1動力伝達機構の弾性変形に起因する前記第1動作部の動作の発生を防止する補正値以上、かつ、前記干渉トルクが相対的に低い低トルク状態での前記第1動力伝達機構の弾性変形に起因する前記第1動作部の動作の発生を防止する補正値以下の値である、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項8】
請求項6記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記コントローラは、前記低トルク状態のときは、前記低トルク状態に対応した補正値で前記第2の補償制御を行い、前記エンドエフェクタが前記高トルク状態のときは、前記高トルク状態に対応した補正値で前記第2の補償制御を行う、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項9】
請求項6記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記コントローラは、計測または推定した前記第2動作部の動作抵抗に応じた補正値で前記第2の補償制御を行う、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項1】
第1駆動源と、
エンドエフェクタと、前記第1駆動源の駆動力が機械的に伝達されることで第1姿勢変更動作をするように構成された第1動作部とを有する先端動作部と、
前記第1駆動源の駆動力を機械的に伝達して前記第1動作部を動作させる第1動力伝達機構と、
前記第1駆動源を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記第1姿勢変更動作に係る第1操作指令を受けた場合、第1の補償制御として、前記第1動力伝達機構に存在するガタ分を補償するように、前記第1駆動源を制御する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項2】
請求項1記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第1の補償制御では、前記第1駆動源の正規目標値である正規1軸目標値と、前記第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす補正値とに基づいて、前記第1駆動源の制御上の目標値である補正1軸目標値を生成する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項3】
請求項1記載の医療用マニピュレータにおいて、
第2駆動源と、前記第2駆動源の駆動力を機械的に伝達して第2動作部を動作させる第2動力伝達機構とをさらに備え、
前記第2動作部は、第2姿勢変更動作を行うことが可能なように前記第1動作部により支持され、
前記コントローラは、前記第2姿勢変更動作に係る第2操作指令を受けた場合、第2の補償制御として、前記第2姿勢変更動作に起因する前記第1姿勢変更動作の発生を防止または抑制するように、前記第1駆動源を制御する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項4】
請求項3記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第2の補償制御では、前記第1駆動源の正規目標値である正規1軸目標値と、前記第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす補正値とに基づいて、前記第1駆動源の制御上の目標値である補正1軸目標値を生成する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項5】
請求項4記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第1動力伝達機構に存在するガタの影響をなくす前記補正値は、前記第2姿勢変更動作に起因して前記第1動作部が前記第2動作部から受ける力の方向とは逆方向のガタをなくす補正値である、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項6】
請求項3記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第2の補償制御では、前記第1駆動源の正規目標値である正規1軸目標値と、前記第1動力伝達機構の弾性変形に起因する前記第1動作部の動作の発生を防止または抑制する補正値と、に基づいて、前記第1駆動源の制御上の目標値である補正1軸目標値を生成する、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項7】
請求項6記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第2の補償制御における前記補正値は、前記第2動作部による前記第1動作部への干渉トルクが相対的に高い高トルク状態での前記第1動力伝達機構の弾性変形に起因する前記第1動作部の動作の発生を防止する補正値以上、かつ、前記干渉トルクが相対的に低い低トルク状態での前記第1動力伝達機構の弾性変形に起因する前記第1動作部の動作の発生を防止する補正値以下の値である、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項8】
請求項6記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記コントローラは、前記低トルク状態のときは、前記低トルク状態に対応した補正値で前記第2の補償制御を行い、前記エンドエフェクタが前記高トルク状態のときは、前記高トルク状態に対応した補正値で前記第2の補償制御を行う、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項9】
請求項6記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記コントローラは、計測または推定した前記第2動作部の動作抵抗に応じた補正値で前記第2の補償制御を行う、
ことを特徴とする医療用マニピュレータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−65889(P2012−65889A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213903(P2010−213903)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
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