説明

半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカおよびその製造方法

【課題】電子材料用研磨材等に有用なコロイダルシリカを提供すること。
【解決手段】テトラアルコキシシランの加水分解により得られた活性珪酸水溶液と、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、イミダゾール、メチルイミダゾール、ピペリジン、モルホリン、アルギニンおよびヒドラジンのいずれか1種類以上である窒素含有塩基性化合物によって製造されるコロイダルシリカであって、該コロイダルシリカが非球状のシリカ粒子を含有し、さらに25℃におけるpHが8.5〜11.0であることを特徴とする半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカ。非球状のシリカ粒子は、透過型電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の長径/短径比が1.2〜20であって、長径/短径比の平均値が3〜15である非球状の異形粒子群シリカ粒子であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハあるいは表面に金属膜、酸化物膜、窒化物膜等(以下、金属膜等と記載する)が形成された半導体デバイス基板等の半導体ウエハの平面およびエッジ部分に研磨加工を施す半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカおよびその製造方法に関する。
以下「半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカ」を「研磨用コロイダルシリカ」と略記することがある。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶等半導体素材を原材料としたIC、LSIあるいは超LSI等の電子部品は、シリコンあるいはその他の化合物半導体の単結晶インゴットを薄い円板状にスライスしたウエハに多数の微細な電気回路を書き込み分割した小片状の半導体素子チップを基に製造されるものである。インゴットからスライスされたウエハは、ラッピング、エッチング、更には研磨(以下ポリッシングと記載することもある)という工程を経て、平面およびエッジ面が鏡面に仕上げられた鏡面ウエハに加工される。ウエハは、その後のデバイス工程にてその鏡面仕上げされた表面に微細な電気回路が形成されて行くのであるが、現在、LSIの高速化の観点から、配線材料は従来のAlからより電気抵抗の低いCuに、配線間の絶縁膜は、シリコン酸化膜からより誘電率の低い低誘電率膜に、更にCuと低誘電率膜の間に、Cuが低誘電率膜中に拡散することを防止するためのタンタルや窒化タンタルによるバリア膜を介した構造を有する配線形成プロセスに移行しつつある。こうした配線構造の形成と高集積化のために、層間絶縁膜の平坦化、多層配線の上下配線間の金属接続部(プラグ)形成や埋め込み配線形成などに繰り返し頻繁に研磨工程が行われる。この平面の研磨においては、合成樹脂発泡体あるいはスウェード調合成皮革等よりなる研磨布を展張した定盤上に半導体ウエハを載置し、押圧回転しつつ研磨用組成物溶液を定量的に供給しながら加工を行なう方法が一般的である。
エッジ面は上記の金属膜等が不規則に堆積した状態となっている。半導体素子チップに分割されるまではウエハは最初の円板状の形状を保ったままエッジ部を支えにした搬送等の工程が入る。搬送時にウエハの外周側面エッジが不規則な構造形状であると、搬送装置との接触により微小破壊が起こり微細粒子を発生する。その後の工程で発生した微粒子が散逸して精密加工を施した面を汚染し、製品の歩留まりや品質に大きな影響を与える。この微粒子汚染を防止するために、金属膜等の形成後に半導体ウエハのエッジ部分を鏡面研磨する加工が必要となっている。
【0003】
上述のエッジ研磨は、研磨布支持体の表面に、合成樹脂発泡体、合成皮革あるいは不織布等からなる研磨布を貼付した研磨加工機に、半導体ウエハのエッジ部分を押圧しながら、シリカ等の研磨砥粒を主成分とする研磨用組成物溶液を供給しつつ、研磨布支持体とウエハもしくはどちらか一方を回転させて達成される。この際用いられる研磨用組成物の砥粒としては、シリコンウエハのエッジ研磨に用いられるものと同等のコロイダルシリカや、デバイスウエハの平面研磨に用いられるヒュームドシリカやセリア、アルミナなどが提案されている。特にコロイダルシリカやヒュームドシリカは微細な粒子であるため平滑な鏡面を得られ易く注目されている。
このような研磨用組成物は「スラリー」とも呼ばれ、以下にそのように記載することもある。
【0004】
シリカ砥粒を主成分とする研磨用組成物は、アルカリ成分を含む溶液が一般的で、加工の原理は、アルカリ成分による化学的作用、具体的には酸化珪素膜や金属膜等の表面に対する浸蝕作用とシリカ砥粒の機械的な研磨作用を併用したものである。具体的には、アルカリ成分の侵食作用により、ウエハ等被加工物表面に薄い軟質の浸蝕層が形成される。その浸蝕層を微細砥粒粒子の機械的研磨作用により除去する機構と推定されており、この工程を繰り返すことにより加工が進むと考えられている。
【0005】
また、デバイス配線の微細化は年々顕著になってきており、国際半導体技術ロードマップ(International Technology Roadmap for Semiconductors)によれば、デバイスの配線幅の目標値として2010年50nm、2013年35nmが示されている。デバイスの配線幅の微細化に対応して、配線材料に銅や銅合金が使用されつつある。半導体ウエハの研磨に用いる研磨剤には、アルカリ成分以外に銅の酸化成分や選択的エッチング成分の使用が推奨されている。なかでもアミン類は過剰エッチングを起こしにくい薬剤として注目されてきたが、問題の解決には至っていない。半導体ウエハ表面の配線に対する過剰エッチングはデバイスの動作不良をもたらすため、深刻な課題となっている。
【0006】
従来から半導体ウエハの鏡面研磨では、様々な研磨用組成物が提案されている。特許文献1には、エチレンジアミンもしくはヒドラジンの溶液にシリカを分散させた研磨剤が記載されている。この研磨剤はポリシリコンを高速で研磨でき、酸化珪素絶縁膜を殆どエッチングしないため絶縁膜をストッパーに出来る利点があると記載されている。特許文献2には、イミダゾールやメチルイミダゾールに砥粒を分散した研磨剤が記載されている。この研磨剤は水溶性の銅錯体を形成し、研磨砥粒以外の水不溶の固形物を生成しないため、研磨傷を抑制でき、銅酸化物層のエッチングを抑制するのでディッシングの発生を抑制できると記載されている。特許文献3には、ピペラジンやピペリジンを添加したコロイダルシリカの研磨剤が記載されている。これらは弱塩基成分としてpH緩衝組成の構成に使用されている。特許文献4には、アルギニンのような分子中に窒素原子を2個以上有するアミノ酸を含む研磨用組成物が記載されている。この組成物は銅膜に対する研磨速度が大きく、一方、タンタル含有化合物に対する研磨速度が小さく、高い選択比を有すると記載されている。
【0007】
上記特許文献1〜4記載のように、窒素含有塩基性化合物のなかでもエチレンジアミン、ジエチレンジアミン、イミダゾール、メチルイミダゾール、ピペリジン、アルギニンおよびヒドラジンは金属研磨に有利な薬剤である。モルホリンについては特許文献が見つからない。ジエチレンジアミンは別名ピペラジンである。
【0008】
また、非球状のシリカ粒子からなるコロイダルシリカも、数多く提案されている。特許文献5には、電子顕微鏡観察による5〜40ミリミクロンの範囲内の一様な太さで一平面内のみの伸長を有する細長い形状の非晶質コロイダルシリカ粒子が液状媒体中に分散されてなる安定なシリカゾルが記載されている。特許文献6には、珪酸液添加工程の前、添加工程中または添加工程後に、アルミニウム塩などの金属化合物を添加する製法によって得られる細長い形状のシリカ粒子から成るシリカゾルが記載されている。特許文献7には、アルコキシシランの加水分解による長径/短径比が1.4〜2.2の繭型のシリカ粒子から成るコロイダルシリカが記載されている。特許文献8には、水ガラス法の活性珪酸水溶液に代替して、アルコキシシランの加水分解液を使用し、アルカリには水酸化テトラアルキルアンモニウムを使用して、非球状のシリカ粒子を含有するコロイダルシリカが得られることが記載されている。
【0009】
特許文献5に記載のコロイダルシリカは、その製造において、水溶性のカルシウム塩、マグネシウム塩またはこれらの混合物を添加する工程があり、製品にはそれらが不純物として残存している。特許文献6に記載のコロイダルシリカはその製造において、水溶性のアルミニウム塩を添加する工程があり、製品にはそれらが不純物として残存している。特許文献7に記載のコロイダルシリカはアルコキシシランをシリカ源とするので高純度で好ましいが、反応系にアンモニアと大量のアルコールを必要とし、これらの成分の除去や価格など不利な一面がある。同様に特許文献8はアルコキシシランをシリカ源とするので高純度で好ましく、非球状のシリカ粒子も得られているが、粒子形状の制御などの技術面で深く検討がなされていない。
【0010】
【特許文献1】特開平2−146732号公報
【特許文献2】特開2005−129822号公報
【特許文献3】特開平11−302635号公報
【特許文献4】特開2002−170790号公報
【特許文献5】特開平1−317115号公報(特に特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平4−187512号公報
【特許文献7】特開平11−60232号公報(特に特許請求の範囲)
【特許文献8】特開平2001−48520号公報(特に特許請求の範囲と実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、半導体ウエハ表面に生じる過剰エッチングを抑制し、かつ高い研磨速度を維持しつつ、良好な面粗さが得られる半導体ウエハの平面およびエッジ部分の鏡面研磨用コロイダルシリカおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、テトラアルコキシシランの加水分解により得られた活性珪酸水溶液と、特定の窒素含有塩基性化合物によって製造されるコロイダルシリカを用いることにより、半導体ウエハの平面およびエッジ部分の鏡面研磨加工が効果的に行なえることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0013】
即ち、本発明の第一の発明は、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシランの加水分解により得られた活性珪酸水溶液と、特定の窒素含有塩基性化合物によって製造されるコロイダルシリカであって、非球状のシリカ粒子を含有する半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカである。窒素含有塩基性化合物はエチレンジアミン、ジエチレンジアミン、イミダゾール、メチルイミダゾール、ピペリジン、モルホリン、アルギニンおよびヒドラジンのいずれか1種類以上である。更に水酸化第四アンモニウムを含有することが好ましく、水酸化第四アンモニウムとしては水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムまたは水酸化コリン(別名、水酸化トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム)であることが好ましい。また、コロイダルシリカの溶液全体に対してアルカリ金属濃度が1ppm以下であることが好ましい。上記の成分を含有し、25℃におけるpHが8.5〜11.0の範囲にあることが好ましい。更にこのpHは、窒素含有塩基性化合物と強酸、または弱酸と水酸化第四アンモニウムの組み合わせによる緩衝溶液を形成し、25℃においてpH8.5〜11.0の間で緩衝作用を有することが好ましい。
この研磨用コロイダルシリカの非球状のシリカ粒子は、透過型電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の長径/短径比が1.2〜20であって、長径/短径比の平均値が3〜15である非球状の異形粒子群シリカ粒子であることが好ましい。透過型電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の平均短径は5〜30nmであることが好ましい。この半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカは、コロイド溶液全体に対してシリカ濃度が2〜50重量%の水分散液であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の第二の発明は、
(a)溶剤を使用しないで、シリカ濃度1〜8モル/リットル、酸濃度0.0018〜0.18モル/リットルおよび水濃度2〜30モル/リットルの範囲の組成で、テトラアルコキシシランを酸触媒で加水分解した後、シリカ濃度が0.2〜1.5モル/リットルの範囲となるように水で希釈して活性珪酸水溶液を作製する工程、
(b−1)次いで前記活性珪酸水溶液に前記窒素含有塩基性化合物を添加してアルカリ性とした後、加熱してコロイド粒子を形成させる工程、
(b−2)加熱条件下で、前工程で形成したコロイド粒子に、アルカリ性を維持しながら前記活性珪酸水溶液とアルカリ剤または、前記活性珪酸水溶液と前記窒素含有塩基性化合物とアルカリ剤を添加してコロイド粒子を成長させる工程
を有する半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカの製造方法である。
加えて(b−2)工程の後、(c)コロイダルシリカを濃縮する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明による研磨用コロイダルシリカを用いれば、半導体ウエハ等の研磨において過剰エッチングを起こしにくいという卓越した効果が得られる。「過剰エッチング」とは、配線金属および絶縁膜、バリア膜の研磨中に、配線金属部分だけを腐食してへこみを作ってしまう現象で、砥粒による研削とアルカリ成分による腐食の速度バランスが崩れたときに発生する。過剰エッチングは腐食ピット、配線コロージョン、タングステン配線のキーホールなどと称される不良品発生の原因とされている。また、アルカリ金属を含まないため、砥粒残りや、配線層へのアルカリ金属の拡散などの問題は抑制される。本発明により、平面部の平坦度を改善し、ウエハの鏡面研磨加工において優れた研磨力とその持続性をもった研磨用コロイダルシリカが得られたものであり、関連業界に及ぼす効果は極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上述のように、窒素含有塩基性化合物が金属研磨において有用な薬剤であることは、多くの特許文献に記載されている。一方、テトラアルコキシシランの加水分解により得られた活性珪酸水溶液を用いて非球状のコロイダルシリカを得ることは特許文献8に記載されていて公知の技術である。しかしながら、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、イミダゾール、メチルイミダゾール、ピペリジン、モルホリン、アルギニンおよびヒドラジンといった特定の窒素含有塩基性化合物を用いてテトラアルコキシシランの加水分解を行い非球状のシリカ粒子を得るという技術は本発明によって始めて明らかになるものである。
【0017】
エチレンジアミンは酸解離定数の逆数の対数値(pKa)が9.9程度の強いアルカリであり、1%水溶液のpHは11.8程度である。エチレンジアミンとしては、無水エチレンジアミンとエチレンジアミン一水和物があり、エチレンジアミン一水和物が危険性が少なく好ましい。ジエチレンジアミンは別名ピペラジンであり、ヘキサヒドロピラジンまたはジエチレンイミンとも呼ばれる。無水ジエチレンジアミンとジエチレンジアミン六水和物があり、ジエチレンジアミン六水和物が使用しやすい。ジエチレンジアミンはpKaが9.8程度の強いアルカリであり、1%水溶液のpHは11.5程度である。イミダゾールはpKaが6.9程度の弱アルカリで、1%水溶液のpHは10.2程度である。2−メチルイミダゾールはpKaが7.8程度の弱アルカリで、1%水溶液のpHは10.7程度である。4−メチルイミダゾールも同様に使用できる。ピペリジンは別名ヘキサヒドロピリジンまたはペンタメチレンイミンである。ピペリジンはpKaが11.1程度の強いアルカリであり、1%水溶液のpHは12.3程度である。モルホリンはpKaが8.4程度のやや弱いアルカリで、1%水溶液のpHは10.8程度である。アルギニンはアミノ酸のひとつで別名5−グアニジノ−2−アミノペンタン酸で、pKaが12.5程度のアルカリであるが、カルボキシ基を有するため1%水溶液のpHは10.5程度である。D−、L−、DL−アルギニンのいずれでもよく、L−アルギニンが安価で好ましい。ヒドラジンには無水ヒドラジンとヒドラジン一水和物(水加ヒドラジンまたは抱水ヒドラジンとも呼ばれる)があり、ヒドラジン一水和物がより安全で好ましい。ヒドラジンは強力な還元剤ではあるが、塩基としてはpKaが8.1程度の弱アルカリで、1%水溶液のpHは9.9程度である。
いずれの窒素含有塩基性化合物も、アルカリ金属を含まないことが好ましい。また、アルギニン以外のいずれの窒素含有塩基性化合物も、刺激性、毒性、腐食性が強く、10%程度の濃度の水溶液として使用することが好ましい。
【0018】
前記窒素含有塩基性化合物はその塩基性によって活性珪酸溶液のシリカの重合触媒となっている。すなわち、活性珪酸水溶液に前記窒素含有塩基性化合物を添加してアルカリ性とした後、加熱することでコロイド粒子が形成される。一方、前記窒素含有塩基性化合物はコロイド粒子成長時の粒子形状に影響を及ぼす。前記窒素含有塩基性化合物は成長中のシリカ粒子表面に結合もしくは吸着して、結合部位の粒子成長を阻害し、球状成長をできないようにしているようである。
【0019】
本発明においては、実際の研磨加工時に安定な研磨力を持続するために、溶液全体の25℃におけるpHをpH8.5〜11.0の範囲に保つことが好ましい。pHが8.5未満であると研磨速度は低下し実用の範囲からは外れることがある。また、pHが11.0を超えると、研磨部以外でのエッチングが強くなりすぎウエハの平坦度が低下しこれも実用の範囲から外れることがある。
【0020】
さらに、このpHは摩擦、熱、外気との接触あるいは他の成分との混合等、考えられる外的条件により容易に変化しないことが好ましい。特にエッジ研磨においては、研磨剤は循環流として使用される。すなわち、スラリータンクから研磨部位へ供給された研磨剤は、スラリータンクへ戻す方式で使用される。アルカリ剤だけを含む研磨剤は、循環使用中の純水希釈により短時間でpHが低下してしまう。これは、洗浄水である純水の混入によるもので、pHの変動がもたらす研磨速度の変動は、研磨不足もしくは、研磨を行いすぎるために生じるオーバーポリッシュを起こしやすくなる。
【0021】
本発明の研磨用コロイダルシリカのpHを一定に保つために好ましくは、pH8.5〜11.0の間で緩衝作用を有することが好ましい。従って、本発明においては研磨用コロイダルシリカ自体を、外的条件の変化に対してpH変化の幅が少ない、所謂緩衝作用の強い液とすることが好ましい。緩衝溶液を形成するためには、窒素含有塩基性化合物を過剰に配合し、過剰分を強酸を加えて中和し、pH値を窒素含有塩基性化合物のpKa値に近づける方法がある。例えば、pHが11.5程度のジエチレンジアミン1%水溶液に塩酸を加えてpHを10.2にすると、純水で10倍に希釈してもpHは10.1に変化するだけで、希釈や塩類の混入に対してpH変動が少なくなる。すなわち、コロイダルシリカのpHを目標値を超えるように高く調製して、強酸を加えてpH8.5〜11.0の間の目標値まで低下させればよい。また、別の方法としては、弱酸と強アルカリの組合せで構成される緩衝液を添加する方法がある。例えば、25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を二酸化炭素ガスで中和してpHを10.3とし、この炭酸化したテトラメチルアンモニウム水溶液をコロイダルシリカに添加すればよい。
【0022】
本発明で使用する活性珪酸水溶液の製造方法は、前記特許文献8に記載の方法が適用できる。すなわち、シリカ濃度1〜8モル/リットル、酸濃度0.0018〜0.18モル/リットルおよび水濃度2〜30モル/リットルの範囲の組成で、溶剤を使用しないでテトラアルコキシシランを酸触媒で加水分解した後、シリカ濃度が0.2〜1.5モル/リットルの範囲となるように水で希釈して活性珪酸水溶液とする製造方法である。
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、前記活性珪酸水溶液を調製し、次いでこの活性珪酸水溶液に前記窒素含有塩基性化合物を添加してアルカリ性とした後、加熱してコロイド粒子を形成させる工程(種粒子形成工程、請求項8の(b−1)工程)、前工程で形成したコロイド粒子に加熱条件下で、アルカリ性を維持しながら、前記活性珪酸水溶液とアルカリ剤または、前記活性珪酸水溶液と窒素含有塩基性化合物とアルカリ剤を添加してコロイド粒子を成長させる工程(粒子成長工程、請求項8の(b−2)工程)を行う研磨用コロイダルシリカの製造方法である。種粒子形成工程では窒素含有塩基性化合物を使用するが、粒子成長工程ではアルカリ剤だけの使用でもよい。
【0023】
具体的には、上記種粒子形成工程と粒子成長工程では、常法の操作が行われ、例えば活性珪酸水溶液のシリカ濃度は2〜7重量%とし、コロイド粒子の形成のため、pHは8〜10となるよう窒素含有塩基性化合物を添加し、60〜240℃に加熱することでシリカ粒子の短径(太さ)が5〜20nmの種粒子を形成するができる。また、ビルドアップの方法をとり、pHが8〜11の60〜240℃の種粒子のコロイド液に、pHが8〜11を維持しつつ活性珪酸水溶液とアルカリ剤または、活性珪酸水溶液と窒素含有塩基性化合物とアルカリ剤を添加していく方法である。このようにして、シリカ粒子の短径(太さ)が10〜150nmの粒子に成長させることができる。
【0024】
上記の製造方法は、常法であるアルカリ金属水酸化物や珪酸アルカリをアルカリ剤に用いた製造方法と概略同一である。すなわち、珪酸ソーダを原料とする活性珪酸水溶液に代えて、テトラアルコキシシランの加水分解により得られた活性珪酸水溶液を使用することと、種粒子形成工程ではアルカリ金属水酸化物の代わりに窒素含有塩基性化合物を使用する点が異なり、粒子成長工程ではアルカリ金属水酸化物の代わりに有機アルカリ剤または窒素含有塩基性化合物と有機アルカリ剤を使用する点が異なる。
粒子成長工程で使用する有機アルカリ剤としては、水酸化第四アンモニウムが好ましく、なかでも、水酸化テトラメチルアンモニウムや水酸化テトラエチルアンモニウム、または水酸化コリンが好ましい。これらの有機アルカリ剤はアルカリ金属を含まないことが好ましい。
【0025】
本発明に使用されるテトラアルコキシシランとしては、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート等が挙げられるが、重合度 2〜10の市販の珪酸オリゴマー(例えば、コルコート(株)製「エチルシリケート40」)も使用できる。テトラアルコキシシランは高純度の製品を使用することが好ましい。
【0026】
次に、シリカの濃縮を行うが、限外濾過による濃縮を行う。水分の蒸発濃縮でもよいが、エネルギー的には限外濾過の方が有利である。
【0027】
限外濾過によりシリカを濃縮するときに使用される限外濾過膜について説明する。限外濾過膜が適用される分離は対象粒子が1nmから数ミクロンであるが、溶解した高分子物質をも対象とするため、ナノメータ域では濾過精度を分画分子量で表現している。本発明では、分画分子量15000以下の限外濾過膜を好適に使用することができる。この範囲の膜を使用すると1nm以上の粒子は分離することが出来る。更に好ましくは分画分子量3000〜15000の限外濾過膜を使用する。3000未満の膜では濾過抵抗が大きすぎて処理時間が長くなり不経済であり、15000を超えると、精製度が低くなる。膜の材質はポリスルホン、ポリアクリルニトリル、焼結金属、セラミック、カーボンなどあり、いずれも使用できるが、耐熱性や濾過速度などからポリスルホン製が使用しやすい。膜の形状はスパイラル型、チューブラー型、中空糸型などあり、どれでも使用できるが、中空糸型がコンパクトで使用しやすい。また、限外濾過工程が、余剰の窒素含有塩基性化合物の洗い出し除去をかねている場合、必要に応じて、目標濃度に達した後も純水を加えるなどして、更に洗い出し除去を行って、除去率を高める作業を行うこともできる。また、同様に加水分解触媒として添加した強酸アニオンも除去することが好ましい。この工程でシリカの濃度が10〜50重量%となるように濃縮するのがよい。
【0028】
また、限外濾過工程の前後いずれかに、必要に応じてイオン交換樹脂による精製工程を加えることができる。例えば、OH型強塩基性アニオン交換樹脂に接触させて前記強酸アニオンを除去することができる。
水相に溶解している窒素含有塩基性化合物は限外濾過による濃縮工程で水とともに減少する。不足した場合には、濃縮後に添加補充することも好ましい。
【0029】
ただし、有機物の存在は廃水処理などで二次的な弊害を発生することもある。そのような場合を配慮すると窒素含有塩基性化合物を除去した製品も必要となる。限外濾過を有効に活用して窒素含有塩基性化合物を極力減らす方法も本発明の製造方法のひとつとして範疇に含まれる。
【0030】
非球状の異形粒子群となっているコロイダルシリカとは、芋虫のような形もしくは屈曲した棒状の形であって、個々に異なる形をした粒子のコロイダルシリカを表し、具体的には図1〜図4に示されるような形状のシリカ粒子を含有するコロイダルシリカである。長径/短径比は1.2〜20の範囲にある。その粒子は、直線状に伸長していない粒子が大半を占めており、一部は伸長していない粒子も存在する。これは一例であって、製造条件によってその形状はさまざまとなるが、真球状でない粒子が大半を占めている。
【0031】
本発明の研磨用コロイダルシリカのシリカ粒子は長径/短径比の平均値が3〜15であり、研磨用の砥粒として好ましい形状をしている。15よりも大きいと粒子が絡みあって凝集しやすくなり、3より小さいと研磨速度が低くなる。
【0032】
研磨加工においては、シリカ粒子の形状は重要なファクターとなる。すなわち、被加工物表面はアルカリによって腐食され薄層が形成されてゆくのであるが、この薄層の除去速度はシリカ粒子の形状によって大きく変化する。シリカ粒子の粒子径を大きくすれば、除去速度は速くなるが、研磨面にスクラッチが発生しやすくなる。また、形状は真球状よりも異形の粒子の方が除去速度は速くなるが、研磨面にスクラッチが発生しやすくなる。ゆえに、その粒子は適度なサイズを有し、適当な形状であって、容易に破壊したり、あるいは高次に凝集してゲル化するものであってはならない。
【0033】
本発明の研磨用コロイダルシリカのシリカ粒子はヒュームドシリカのシリカ粒子とよく似た形状である。ヒュームドシリカのシリカ粒子は、一般に長径/短径比が5〜15の細長い異形粒子群となっている。ヒュームドシリカの一次粒子径(単に粒子径とも記載されることがある)と言われるものは、一次粒子の短径(太さ)であって通常7〜40nmである。さらに、その粒子は凝集して二次粒子を形成しており、スラリーの外観は白色になっている。そのためスラリーを長時間放置すると粒子が沈降する不具合、研磨面にスクラッチを発生しやすいなどの欠点がある。
【0034】
しかし、本発明のシリカ粒子は、ヒュームドシリカの一次粒子に似た形状をしているが、凝集による二次粒子の形成はなく、スラリーの外観は透明ないし半透明になっている。粒子が沈降する不具合はなく、研磨面にスクラッチを発生することもない。
【0035】
本発明シリカ粒子よりなる研磨用コロイダルシリカは、好ましくは電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の平均短径が5〜30nmであり、かつシリカ粒子の濃度が2〜50重量%である。シリカ粒子の平均短径が5nmより小さいと、研磨速度が低く、粒子の凝集が起こりやすくコロイドの安定性に欠ける。また、30nmよりも大きいとスクラッチが発生しやすく、研磨面の平坦性も低くなる。
【0036】
本発明では上述の研磨用コロイダルシリカを含有し、さらに研磨性能を改善する成分を加えて研磨用組成物を構成することができる。
【0037】
本発明においては、研磨用組成物溶液の導電率を高くすることにより、研磨加工速度を著しく向上することができる。導電率とは液中の電気の通り易さを示す数値であり、単位長さあたりの電気抵抗値の逆数値である。本発明においては単位長あたりの導電率の数値(micro・Siemens)をシリカ1重量%当たりに換算した数値で示す。本発明においては、25℃における導電率が15mS/m/1%−SiO2以上であれば研磨加工速度の向上に対して好ましく、20mS/m/1%−SiO2以上であれば更に好ましい。塩類の添加はコロイドの安定性を低下させるため、添加には上限がある。上限はシリカの粒子径によって異なるが、概ね60mS/m/1%−SiO2程度である。
【0038】
導電率を上昇させる方法としては、次の二方法がある。一つは緩衝溶液の濃度を高くする方法、もう一つは塩類を添加する方法である。緩衝溶液の濃度を高くするには、窒素含有塩基性化合物と強酸のモル比を変えずに濃度のみを高くすればよい。あるいは、弱酸と水酸化第四アンモニウムのモル比を変えずに濃度のみを高くすればよい。塩類を添加する方法に用いる塩類は、酸および塩基の組み合わせより構成されるが、酸としては、強酸、弱酸いずれであってもかまわず、鉱酸および、有機酸が使用でき、その混合物でもよい。塩基としては、アルカリ金属水酸化物を増やすことは好ましくないので、水溶性の第四アンモニウムの水酸化物の使用が好ましい。
強酸と第四アンモニウム塩基の塩としては、硫酸第四アンモニウム、硝酸第四アンモニウムまたはフッ化第四アンモニウムの少なくとも一つであることが好ましい。第四アンモニウム強塩基を構成する陽イオンはコリンイオン、テトラメチルアンモニウムイオンまたはテトラエチルアンモニウムイオンが好ましい。
【0039】
また、本発明の研磨用コロイダルシリカを含有する研磨用組成物は、銅と水不溶性のキレート化合物を形成するキレート化剤を含有していることも好ましい。例えば、キレート化剤としては、ベンゾトリアゾールのようなアゾール類やキノリノール、キナルジン酸のようなキノリン誘導体など公知の化合物が好ましい。
【0040】
本発明の研磨用コロイダルシリカの物性を改良するため、界面活性剤、水溶性高分子化合物、消泡剤などを併用することができる。
【0041】
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が好ましい。ノニオン界面活性剤は過剰エッチングの防止効果がある。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル、グリセリンエステルなどの脂肪酸エステル、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルアミンなどのポリオキシアルキレンアルキルアミンが使用できる。研磨用コロイダルシリカを含有する研磨用組成物における濃度は0.001〜0.1重量%である。
【0042】
水溶性高分子化合物としては、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールのいずれかひとつであることが好ましい。これらには過剰エッチングの防止効果がある。エチレンオキサイド・プロピレンオキサイドトリブロックコポリマーも好ましい。研磨用組成物が100倍希釈されたとき、例えば、ヒドロキシエチルセルロースであれば30〜300ppmで効果がある。従って、研磨用組成物における濃度は0.3〜3重量%である。同じく、ポリエチレングリコールでは0.3〜5重量%、ポリビニルアルコールでは0.1〜5重量%である。
【0043】
消泡剤としては、シリコーンエマルジョンであることが好ましい。シリコーンエマルジョンとしては、ポリジメチルシロキサンを主要成分とするシリコーンオイルのO/W型エマルジョンである市販のシリコーン消泡剤が使用できる。研磨用組成物における濃度は0.01〜0.1重量%である。
【0044】
また、本発明の研磨用コロイダルシリカを含有する研磨用組成物は水溶液としているが、有機溶媒を添加してもかまわない。本発明の研磨用コロイダルシリカを含有する研磨用組成物は、研磨時にコロイダルアルミナ、コロイダルセリア、コロイダルジルコニア等の他の研磨剤、塩基、添加剤、水等を混合して調製してもよい。
【0045】
本発明の研磨用コロイダルシリカを含有する研磨用組成物は、シリカ濃度20乃至50重量%で製造し、その使用時に純水で希釈し必要に応じてpH調整剤および導電率調整のための塩類等を適宜加えて研磨用組成物とすることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例での測定は以下の装置を使用した。
(1)TEM観察:(株)日立製作所、透過型電子顕微鏡 H−7500型を使用した。
(2)BET法比表面積:(株)島津製作所、フローソーブ2300型を使用した。
(3)ヒドラジン以外の窒素含有塩基性化合物分析:(株)島津製作所、全有機体炭素計TOC−5000A、SSM−5000Aを使用した。炭素量より窒素含有塩基性化合物に換算した。具体的には、全有機体炭素量(TOC)は、全炭素量(TC)と無機体炭素量(IC)を測定後TOC=TC−ICにより求めた。TC測定の標準として炭素量1重量%のグルコース水溶液を用い、IC測定の標準として炭素量1重量%の炭酸ナトリウムを用いた。超純水を炭素量0重量%の標準とし、それぞれ先に示した標準を用い、TCは150μlと300μl、またICは250μlで検量線を作成した。サンプルのTC測定ではサンプルを約100mg採取し、900℃燃焼炉で燃焼させた。また、IC測定ではサンプルを約20mg採取し、(1+1)燐酸を約10ml添加し200℃燃焼炉で反応を促進した。
(4)ヒドラジン分析:(株)島津製作所、吸光光度計UV−VISIBLERECORDINGSPECTROPHOTOMETER UV−160を使用した。JISB8224に記載されているp−ジメチルアミノベンズアルデヒド吸光光度法により測定を行った。具体的には、試料を塩酸酸性にしてp−ジメチルベンズアルデヒドを加えて生じる黄色の化合物の吸光度を測定してヒドラジニュウムイオンを定量した。求められたヒドラジニュウムイオンの値からヒドラジン濃度を算出した。
(5)水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)の分析:ダイオネクス社、イオンクロマトICS−1500を使用した。具体的には、液相TMAOHは、サンプルを1000倍から5000倍に純水で希釈し測定を行った。全TMAOHの測定には前処理としてサンプル5gに3gの20重量%NaOHと純水を加え、80℃で加熱しシリカを完全に溶解させた。この溶解液を1000倍から5000倍に純水で希釈し測定を行い、TMAOH量を求めた。
(6)金属元素分析:(株)堀場製作所、ICP発光分析計、ULTIMA2を使用した。
【0047】
(実施例1)
シリカ濃度4.49モル/リットル、酸濃度0.01モル/リットルおよび水濃度18.38モル/リットルの組成で、溶剤を使用しないでテトラメトキシシランの加水分解を行った。加水分解は、具体的には以下に記載した操作を行った。
予め、46gの脱イオン水に35%塩酸0.2gを加えて希塩酸液を作製した。テトラメトキシシラン(試薬特級、換算SiO2濃度39重量%)96gを容器に採取し、攪拌下に前記希塩酸液を加えた。当初二液は分離して混ざらなかったが、数分後に加水分解が始まり急激な発熱とともに透明な均一液となった。そのまま30分攪拌を続け加水分解を完結させて加水分解液を得た後、116gの脱イオン水を加えて希釈して活性珪酸の重合を抑制した。別の容器に742gの脱イオン水を採取し、前記の加水分解液を加えて全量を1000gとし、16時間攪拌して熟成させた。こうしてシリカ濃度3.7重量%(約0.6モル/リットル)でpH2.6の活性珪酸水溶液を得た。
窒素含有塩基性化合物の水溶液を次のようにして作製した。無水エチレンジアミン液を脱イオン水で希釈して10重量%水溶液を作製した。ジエチレンジアミン(ピペラジン)6水和物結晶を脱イオン水に溶解して8重量%水溶液を作製した。イミダゾール結晶を脱イオン水に溶解して10重量%水溶液を作製した。2−メチルイミダゾール結晶を脱イオン水に溶解して10重量%水溶液を作製した。ピペリジン液を脱イオン水で希釈して10重量%水溶液を作製した。モルホリン液を脱イオン水で希釈して10重量%水溶液を作製した。L(+)−アルギニン結晶を脱イオン水に溶解して10重量%水溶液を作製した。ヒドラジン一水和物液を脱イオン水で希釈して5重量%水溶液を作製した。上記の窒素含有塩基性化合物は全て試薬を用いた。
水酸化第四アンモニウムには市販の25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液と35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を希釈せずにそのまま使用した。
シリカ濃度3.7重量%でpH2.6の活性珪酸水溶液50gに対して、窒素含有塩基性化合物の水溶液をそれぞれ表1に記載した量で加えた後、25℃でpHを測定した。pHの値を表1に記載した。次いで、攪拌下に加熱して100℃に1時間保ってコロイド粒子を形成させた後、放冷して25℃でpHを測定した。pHの値を表1に記載した。得られたコロイダルシリカは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、窒素含有塩基性化合物の種類によらず全て似た形状をしており、短径が約5〜7nmで、長径/短径比が5〜20の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群となっており、長径/短径比の平均値が10〜15であった。代表例としてジエチレンジアミンを用いたコロイダルシリカのTEM写真を図1に示した。
【0048】
【表1】

【0049】
(実施例2)
実施例1と同様の方法でテトラメトキシシランの加水分解を行い、シリカ濃度3.7重量%でpH2.6の活性珪酸水溶液を得た。攪拌下、活性珪酸水溶液500gに64gの10重量%モルホリン水溶液を加えてpHを9.0とした後、攪拌下に加熱して100℃に1時間保ってコロイド粒子を形成させた。次いで、100℃を維持したまま、活性珪酸水溶液2600gと10重量%モルホリン水溶液40gを4時間かけて同時添加して、シリカ粒子の成長を行った。添加終了後、100℃で1時間加熱を続け熟成を行い、放冷した。
得られたコロイダルシリカは、水分の蒸発によりシリカ濃度が5.6重量%であって、25℃でのpHが9.0であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約18nmで、長径/短径比が1.2〜7の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群よりなり、長径/短径比の平均値が3であった。TEM写真を図2に示した。また、BET法比表面積による粒子径は16nmであった。
【0050】
(実施例3)
上記実施例2で得られたコロイダルシリカの濃縮を行った。分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成(株)製マイクローザUFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度22.1重量%まで濃縮し、コロイダルシリカ約520gを回収した。このコロイダルシリカは25℃でのpHが8.6であった。また、コロイダルシリカのアルカリ金属濃度は1ppm以下であった。
【0051】
(実施例4)
上記実施例3で得られた520gのコロイダルシリカを100g分取した。これに10重量%モルホリン水溶液10gを添加してpHを9.5とした後、2.0重量%塩酸5gを添加してpHを9.0とした。このコロイダルシリカは脱イオン水で10倍に希釈したときのpHが9.1であり、100倍に希釈したときのpHが9.2であった。モルホリンと塩酸の混合溶液で希釈に対してpHの緩衝系が形成された。
【0052】
(実施例5)
シリカ濃度3.38モル/リットル、酸濃度0.01モル/リットルおよび水濃度13.81モル/リットルの組成で、溶剤を使用しないでテトラエトキシシランの加水分解を行った。加水分解は、具体的には以下に記載した操作を行った。
予め、200gの脱イオン水に35%塩酸1gを加えて希塩酸液を作製した。テトラエトキシシラン(試薬、換算SiO2濃度29重量%)107gを容器に採取し、攪拌下に前記希塩酸液38gを加えた。当初二液は分離して混ざらなかったが、数分後に加水分解が始まり急激な発熱とともに透明な均一液となった。そのまま30分攪拌を続け加水分解を完結させて加水分解液を得た後、100gの脱イオン水を加えて希釈して活性珪酸の重合を抑制した。別の容器に590gの脱イオン水を採取し、前記の加水分解液を加えて全量を835gとし、16時間攪拌して熟成させた。こうしてシリカ濃度3.7重量%(約0.6モル/リットル)でpH2.5の活性珪酸水溶液を得た。
実施例1と同じ方法で、8重量%ジエチレンジアミン水溶液、10重量%ピペリジン水溶液、10重量%モルホリン水溶液、10重量%アルギニン水溶液、および10重量%ヒドラジン水溶液を作製した。
水酸化第四アンモニウムには市販の25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液と35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を希釈せずにそのまま使用した。
シリカ濃度3.7重量%でpH2.5の活性珪酸水溶液250gに対して、窒素含有塩基性化合物の水溶液をそれぞれ表2に記載した量で加えた後、25℃でpHを測定した。pHの値を表2に記載した。次いで、攪拌下に加熱して100℃に1時間保ってコロイド粒子を形成させた後、放冷して25℃でpHを測定した。pHの値を表2に記載した。得られたコロイダルシリカは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、窒素含有塩基性化合物の種類によらず全て似た形状をしており、短径が約5〜7nmで、長径/短径比が5〜20の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群となっており、長径/短径比の平均値が10〜15であった。代表例としてモルホリンを用いたコロイダルシリカのTEM写真を図3に示した。
【0053】
【表2】

【0054】
(実施例6)
実施例5と同様の方法でテトラエトキシシランの加水分解を行い、シリカ濃度3.7重量%でpH2.5の活性珪酸水溶液を得た。また、10重量%モルホリン水溶液を更に希釈して2.5重量%モルホリン水溶液も作製した。攪拌下、活性珪酸水溶液250gに18gの10重量%モルホリン水溶液を加えてpHを8.6とした後、攪拌下に加熱して100℃に1時間保ってコロイド粒子を形成させた。次いで、100℃を維持したまま、活性珪酸水溶液1600gと2.5重量%モルホリン水溶液420gを4時間かけて同時添加して、シリカ粒子の成長を行った。添加終了後、100℃で1時間加熱を続け熟成を行い、放冷した。
得られたコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.7であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約18nmで、長径/短径比が1.2〜7の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群よりなり、長径/短径比の平均値が3であった。TEM写真を図4に示した。また、BET法比表面積による粒子径は13nmであった。
【0055】
(実施例7)
上記実施例2で得られたコロイダルシリカの濃縮を行った。分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成(株)製マイクローザUFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度11.8重量%まで濃縮し、コロイダルシリカ約460gを回収した。このコロイダルシリカは25℃でのpHが9.3であった。また、コロイダルシリカのアルカリ金属濃度は1ppm以下であった。
【0056】
(実施例8)
実施例5と同様の方法でテトラエトキシシランの加水分解を行い、シリカ濃度3.7重量%でpH2.5の活性珪酸水溶液を得た。攪拌下、活性珪酸水溶液250gに21gの10重量%アルギニン水溶液を加えてpHを8.6とした後、攪拌下に加熱して100℃に1時間保ってコロイド粒子を形成させた。次いで、100℃を維持したまま、活性珪酸水溶液1400gと2.7重量%アルギニン水溶液400gを4時間かけて同時添加して、シリカ粒子の成長を行った。2.7重量%アルギニン水溶液は10重量%アルギニン水溶液を希釈して作製した。添加終了後、100℃で1時間加熱を続け熟成を行い、放冷した。
得られたコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.8であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約18nmで、長径/短径比が1.2〜7の不規則に連結した非球状シリカの異形粒子群よりなり、長径/短径比の平均値が3であった。また、BET法比表面積による粒子径は11nmであった。
【0057】
(実施例9)
上記実施例2で得られたコロイダルシリカの濃縮を行った。分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成(株)製マイクローザUFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度8.3重量%まで濃縮し、コロイダルシリカ約510gを回収した。このコロイダルシリカは25℃でのpHが9.6であった。また、コロイダルシリカのアルカリ金属濃度は1ppm以下であった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1で得られたコロイダルシリカのTEM写真である。
【図2】実施例2で得られたコロイダルシリカのTEM写真である。
【図3】実施例5で得られたコロイダルシリカのTEM写真である。
【図4】実施例6で得られたコロイダルシリカのTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラアルコキシシランの加水分解により得られた活性珪酸水溶液と、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、イミダゾール、メチルイミダゾール、ピペリジン、モルホリン、アルギニンおよびヒドラジンのいずれか1種類以上である窒素含有塩基性化合物によって製造されるコロイダルシリカであって、該コロイダルシリカが非球状のシリカ粒子を含有し、さらに25℃におけるpHが8.5〜11.0であることを特徴とする半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカ。
【請求項2】
更に、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムまたは水酸化コリンを含有することを特徴とする請求項1に記載の半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカ。
【請求項3】
窒素含有塩基性化合物と強酸、または弱酸と水酸化第四アンモニウムの組み合わせの緩衝溶液を含み、25℃においてpH8.5〜11の間で緩衝作用を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカ。
【請求項4】
前記テトラアルコキシシランがテトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカ。
【請求項5】
前記コロイダルシリカの平均短径が5〜30nmであって、シリカ粒子の長径/短径比が1.2〜20であり、かつ、長径/短径比の平均値が3〜15である非球状のシリカ粒子を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカ。
【請求項6】
前記コロイダルシリカの溶液全体に対してシリカ濃度が2〜50重量%の水分散液であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカ。
【請求項7】
前記コロイダルシリカの溶液全体に対してアルカリ金属濃度が1ppm以下の水分散液であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカ。
【請求項8】
以下の工程
(a)溶剤を使用しないで、シリカ濃度1〜8モル/リットル、酸濃度0.0018〜0.18モル/リットルおよび水濃度2〜30モル/リットルの範囲の組成で、テトラアルコキシシランを酸触媒で加水分解した後、シリカ濃度が0.2〜1.5モル/リットルの範囲となるように水で希釈して活性珪酸水溶液を作製する工程、
(b−1)次いで前記活性珪酸水溶液に前記窒素含有塩基性化合物を添加してアルカリ性とした後、加熱してコロイド粒子を形成させる工程、
(b−2)加熱条件下で、前工程で形成したコロイド粒子に、アルカリ性を維持しながら前記活性珪酸水溶液とアルカリ剤または、前記活性珪酸水溶液と前記窒素含有塩基性化合物とアルカリ剤を添加してコロイド粒子を成長させる工程
を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカの製造方法。
【請求項9】
(b−2)工程の後、
(c)コロイダルシリカを濃縮する工程
を有することを特徴とする請求項8に記載の半導体ウエハ研磨用コロイダルシリカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−263484(P2009−263484A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114065(P2008−114065)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(000107745)スピードファム株式会社 (62)
【Fターム(参考)】