説明

半導体基板上の位相シフタ並びにそれを用いた偏波分離器及び偏波合波器

【課題】精度の高い複屈折率調整が可能な半導体基板上の位相シフタを提供すること。
【解決手段】PBS100は、第1の光カプラ110と、複屈折率付与部120と、た複屈折率調整部130と、第2の光カプラ140とを、閃亜鉛鉱型構造を有する101半導体基板上に備える。複屈折率付与部120及び複屈折率調整部130が位相シフタとして機能する。第1のアーム導波路102の第5の導波路部102Cの上に、第1の電極102Dが配置され、第2のアーム導波路103の第4の導波路部103Bが有する第2の傾斜部分の上に第2の電極103Dが配置されている。第1の電極102Dが配置された第1の方向と、第2の電極103Dが配置された第2の方向は、複屈折率調整部130において、両電極に単位電圧を印加したときに、TM偏光に対する上下アーム導波路間の位相差が抑制され、TE偏光に対する上下アーム導波路間の位相差が増大される方向である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板上の位相シフタ並びにそれを用いた偏波分離器及び偏波合波器に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネット等により通信トラフィックの大容量化が求められている。そのため、波長分割多重(WDM)システムにおいて、1チャネル当たりの伝送速度の増加や波長数の増加が求められている。具体的には、WDMシステムの伝送には40Gbit/sや100Gbit/sといった高い伝送速度が求められている。
【0003】
ところが、高速化のために変調シンボルレートを高くすると、分散耐性が急激に劣化し、伝送距離が縮小してしまうという問題等があり、シンボルレートを上げずにビットレートを大きくする多値化技術や多重化技術の必要性が高まっている。マッハツェンダ型光変調器を複数並列に配置したDQPSK(Differential Quadrature Phasa Shift Keying)光変調器やDP(Dual Polarization)−QPSK光変調器等、様々なフォーマットが開発されているが、こうしたアドバンスドフォーマットでは偏波多重化技術が標準的になってきている。
【0004】
偏波多重技術において光送信器に必要な機能は、直交する偏光成分それぞれに異なる変調信号を載せることである。形にする方法として2つ考えられている。1つは、1偏波の光をそれぞれ変調し、どちらか一方の偏光を90°回転させた後に偏波ビームコンバイナ(Polarization Beam Combiner)により合波する方法(非特許文献1参照)であり、もう1つは、光変調器に光が入射される時点で2つの偏光成分を持たせ、入射後、偏光ビームスプリッタ(Polarization Beam Splitter)により直交する成分に分離して直交成分をそれぞれ変調する方法(非特許文献2参照)である。
【0005】
現在、これらの技術はLiNbO3(ニオブ酸リチウム;LN)で構成されたLN変調器を用いて実現されているが、100Gbit/sのDP−QPSKが今後普及してくると、LN変調器ではサイズが大きくなってしまう。また、半波長電圧が比較的高く、高い電圧出力を有するドライバーを使用する必要もあり、ドライバーでの消費電力が高くなる問題に直面する。現在の通信では、消費電力を下げながら、かつ小型化していくことが求められており、今後はLN変調器だけで上記問題を解決していくことに限りがある。
【0006】
そこで、これらの要求に応える1つの手段として、半導体素子に電界を与えることで屈折率を変化させ、入力電気信号を光の位相変化に変換するマッハツェンダ型の半導体変調器が注目されている。半導体変調器は、LN変調器に比べて、構成する光導波路の比屈折率差が大きく、曲げ半径を小さくできるため、小型な回路レイアウトが可能となる。また、駆動電圧もLN変調器に比べて小さくすることが可能であるため、低消費電力の観点からも注目されている。すでに、これらの半導体変調器においても、LN変調器と同じく、DQPSKなどの多値伝送フォーマットに対応した高速変調器が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hiroshi Yamazaki et al., “Integrated 100-Gb/s PDM-QPSK modulator using a hybrid assembly technique with silica-based PLCs and LiNbO3 phase modulators,” ECOC 2008, Mo.3.C.1, 2008.
【非特許文献2】C. R. Doerr and L. Zhang, “Monolithic 80-Gb/s Dual Poralization On-Off-Keying Modulator in InP,” OFC, PDP19, 2008.
【非特許文献3】Y. Hashizume, R. Kasahara, T. Saida, Y. Inoue, and M. Okano, “Integrated polarisation beam splitter using waveguide birefringence dependence on waveguide core width,” Electronics Letters, 6 Dec 2001, Vol. 37, No. 25, pp. 1517-1518.
【非特許文献4】大家重明、張吉夫、岡部隆博、「閃亜鉛鉱形結晶の電気光学効果」、レーザー研究、社団法人レーザー学会、1987年1月、第15巻、第1号、pp. 2-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術では、マッハツェンダ型の半導体変調器における偏波多重化を実現する方法として、マイクロオプティクスを利用した偏波制御が主流である。しかしながら、半導体を利用しているため変調器は小さく作製できるのに、偏波制御する箇所でのサイズがマイクロオプティクスといえども大きく、素子全体のサイズが大きくなり、半導体を利用しているメリットを小さくしてしまっている。また、アライメントが煩雑であり、時間がかかるので製造コストがかかる。
【0009】
したがって、半導体基板上にPBCやPBSをモノリシック集積することが求められている。そうすればアライメントを要さず、半導体変調器における偏波制御を小型に実現可能である。
【0010】
そこで、マッハツェンダ型の光回路を導波路幅の異なるアーム導波路で構成すると、TE偏光とTM偏光の屈折率差である複屈折率が上下のアーム導波路で異なることを利用することが考えられる。導波路幅により複屈折率を制御することにより、マッハツェンダ型光回路の出力において、TE偏光とTM偏光との間に半波長の位相差を与えることができる。このため、無偏光光を入射すると、偏波で出力が異なる回路、つまりPBSが実現でき、相反性から反対に、TE偏光およびTM偏光をそれぞれ入力とすると合波されて1つの導波路に出力されるPBCが実現できる(非特許文献3参照)。
【0011】
しかしながら、そのようなマッハツェンダ型光回路を設計通りに再現良く製造することは非常に難しい。特に、半導体光導波路は、導波路幅がわずかに設計からずれても、その導波路の実効屈折率が大きく変化してしまう。そこで、製造したマッハツェンダ型光回路の複屈折率に対する調整機構が必要となる。
【0012】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、精度の高い複屈折率調整が可能な半導体基板上の位相シフタを提供すること、並びにそれを用いた偏波分離器及び偏波合成器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、複屈折率付与部と、前記複屈折率付与部に接続された複屈折率調整部とを閃亜鉛鉱型構造を有する半導体基板上に備え、前記複屈折率付与部は、第1のアーム導波路が有する第1の幅の第1の導波路部であって、第1の方向に配置された第1の導波路部と、前記第1のアーム導波路と並列に配置された第2のアーム導波路が有する第2の幅の第2の導波路部とで構成され、前記第1の幅は第2の幅よりも大きく、前記複屈折率調整部は、前記第1の導波路部に隣接する第3の導波路部であって、前記第1の方向と異なる第2の方向に傾斜して配置された第1の傾斜部分を有する第3の導波路部と、前記第2の導波路部に隣接する第4の導波路部であって、前記第2の方向に傾斜して配置された第2の傾斜部分を有する第4の導波路部と、前記第3の導波路部に隣接する第5の導波路部であって、前記第1の導波路部と平行な第5の導波路部と、前記第4の導波路部に隣接する第6の導波路部であって、前記第2の導波路部と平行な第6の導波路部と、前記第1の傾斜部分または前記第5の導波路部の上に配置された第1の電極と、前記第2の傾斜部分または前記第6の導波路部のうち、前記第1の電極の方向と異なる方向の方の上に配置された第2の電極とを備え、前記第1及び第2の方向は、前記複屈折率調整部において、前記第1及び第2の電極に単位電圧を印加したときに、TM偏光に対する前記第1及び第2のアーム導波路間の位相差が抑制され、TE偏光に対する前記第1及び第2のアーム導波路間の位相差が増大される方向であることを特徴とする位相シフタである。
【0014】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1の電極に単位電圧を印加した際のTE偏光に対するポッケルス効果による屈折率変化量をP1としたときに、前記第2の電極に単位電圧を印加した際のTE偏光に対するポッケルス効果による屈折率変化量が−P1であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記半導体基板の主面方位が(100)であり、前記第1の方向は、01−1方向と平行または直交する方向であり、前記第2の方向は、前記第1の方向に直交する方向であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記第2の方向に配置された電極が、電気的に並列接続された第1及び第2の部分に分割され、前記第1及び第2の部分の長さの合計が前記第1の方向に配置された電極の長さと等しいことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第5の態様は、第1の光カプラと、前記第1の光カプラに接続された、第1から第4のいずれかの態様の位相シフタと、前記位相シフタに接続された第2の光カプラとを備えることを特徴とする偏波分離器である。
【0018】
また、本発明の第6の態様は、第1の光カプラと、前記第1の光カプラに接続された、第1から第4のいずれかの態様の位相シフタと、前記位相シフタに接続された第2の光カプラとを備えることを特徴とする偏波合成器である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第1のアーム導波路に配置された第1の電極の第1の方向と、第2のアーム導波路に配置された第2の電極の第2の方向を、複屈折率調整部において、第1及び第2の電極に単位電圧を印加したときに、TM偏光に対する第1及び第2のアーム導波路間の位相差が抑制され、TE偏光に対する第1及び第2のアーム導波路間の位相差が増大される方向とすることにより、精度の高い複屈折率調整が可能な半導体基板上の位相シフタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施形態に係るPBSを示す図である。
【図2】閃亜鉛鉱型構造の化合物半導体の屈折率楕円体を示す図である。
【図3】図1の複屈折率調整部130の動作を説明するための図である。
【図4】第1の実施形態に係るPBSの製造方法を説明するための図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るPBSを示す図である。
【図6】第2の実施形態に係るPBSの変形形態を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るPBSを示す図である。
【図8】従来のRZカーバーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
図1に、第1の実施形態に係るPBSを示す。PBSとして説明するが、PBCとしても機能することは上述の通りである。PBS100は、第1の光カプラ110と、第1の光カプラ110に接続された複屈折率付与部120と、複屈折率付与部120に接続された複屈折率調整部130と、複屈折率調整部130に接続された第2の光カプラ140とを、閃亜鉛鉱型構造を有する101半導体基板上に備える。複屈折率付与部120及び複屈折率調整部130が位相シフタとして機能する。
【0023】
複屈折率付与部120は、第1のアーム導波路102が有する第1の幅の第1の導波路部102Aであって、第1の方向に配置された第1の導波路部102Aと、第1のアーム導波路102と並列に配置された第2のアーム導波路103が有する第2の幅の第2の導波路部103Aとで構成され、前記第1の幅は第2の幅よりも大きい。第1の導波路部102Aを太くする際に用いたテーパー部分の屈折率を相殺するために、第2のアーム導波路103の第2の導波路部103Aには、テーパーを対向させて配置してあるが、第1の導波路部102Aを適切に設計すれば第2の導波路部103Aのテーパーは無くてもよい。
【0024】
複屈折率調整部130は、第1の導波路部102Aに隣接する第3の導波路部102Bと、第3の導波路部102Bに隣接する第5の導波路部102Cとを有する。第3の導波路部102Bは、第1の導波路部102Aの方向である第1の方向と異なる第2の方向に傾斜して配置された第1の傾斜部分を有する。第5の導波路部102Cは、第1の導波路部102Aと平行である。例えば、半導体基板101の主面方位が(100)である場合、図示のように、第1の方向を01−1方向、第2の方向を011方向とすることができる。当該方向が好ましい理由については後述する。
【0025】
複屈折率調整部130は、さらに、第2の導波路部103Bに隣接する第4の導波路部103Bと、第4の導波路部103Bに隣接する第6の導波路部103Cとを有する。第4の導波路部103Bは、上述の第2の方向に傾斜して配置された第2の傾斜部分を有する。第6の導波路部103Cは、第2の導波路部103Aと平行である。
【0026】
第5の導波路部102Cの上に、第1の電極102Dが配置され、第4の導波路部103Bが有する第2の傾斜部分の上に第2の電極103Dが配置されている。電極配置に関して第1のアーム導波路102と第3のアーム導波路103を逆にして、第1の電極102Dを第3の導波路部102Bの第1の傾斜部分に配置し、第2の電極103Dを第6の導波路部103Cの上に配置してもよいが、以下では簡単のため前者の電極配置で説明する。
【0027】
本実施形態に係るPBS100は、GaAs、InP等の閃亜鉛鉱型構造を有する化合物半導体に形成された光導波路において、電圧を印加した際の屈折率変化に対する偏波面依存性および結晶方位依存性が存在することを利用する。一般に、半導体光導波路は偏波面依存性を有するが、閃亜鉛鉱型構造を有する化合物半導体では、TE偏光に対する屈折率変化に光導波路に平行な結晶方位が大きく影響する。そこで、複屈折率調整部130において、第1の電極102D及び第2の電極103Dを、それぞれ光導波路の方向が異なる部位に設ける。前記第1及び第2の電極に単位電圧を印加したときに、TM偏光については結晶方位依存性がないため、同等の屈折率変化が生じ、結果として、上下のアーム導波路間で位相差は発生しないが、TE偏光については、第1及び第2の方向を適切に選択すると、一方のアーム導波路では屈折率変化がTM偏光よりも大きくなり、他方のアーム導波路では小さくなる。その結果、上下のアーム導波路間では位相差が生じることになる。つまり、本実施形態に係るPBS100が有する複屈折率調整部130によれば、TE偏光に対してのみ特性の調整を行うことができ、複屈折率付与部120により得られる複屈折率の高精度の調整を容易に行うことができる。
【0028】
なお、以上の説明では、複屈折率付与部の後に複屈折率調整部が配置された構成を考えてきたが、この順序が逆であっても同様に機能することに留意されたい。
【0029】
また、第1の電極102Dと第2の電極103Dの長さを同一にし、これらの電極に対して同一の電圧を印加する場合を例に先の説明を行ったが、必ずしも電極長さを同一にする必要はない。同一にすると、調整のための電源の個数が減らすことが可能であり、また、電源への結線も1つにできる。ケースに入れた場合、ケースのピンが少なくできる利点もある。しかし、電極長さが異なっていても、各電極に印加する電圧を適切に選択すれば、TM偏光については上下のアーム導波路間で位相差が発生せず、TE偏光については位相差が生じるので、本発明の特徴的な効果を得ることができる。
【0030】
以下、第1及び第2の方向の一例が01−1方向及び011方向である点について説明する。
【0031】
半導体導波路におけるポッケルス効果およびQCSEの説明
コア層に多重量子井戸層(MQW:multiple quantum wells)を持つ半導体導波路に電圧を印加すると、ポッケルス効果に加えて、量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE: quantum−confined Stark effect)による屈折率変化を生じる。
【0032】
InPをはじめとする閃亜鉛鉱型構造(ジンクブレンド型構造)の化合物半導体に電界を印加した際のポッケルス効果による屈折率変化は、屈折率楕円体で記述することができる(非特許文献4参照)。
【0033】
閃亜鉛鉱型構造の化合物半導体の屈折率楕円体は、電圧印加前の屈折率をn0として以下のように示される。ここで、r41は、閃亜鉛鉱型構造の化合物半導体の電気光学定数であり、Eは、光導波路に印加した電界の強度である。
【0034】
【数1】

【0035】
この式は、xyを入れ替えても不変であるから、y=xで記述される直線に対して対称である楕円体を示すことが容易に分かる。そこで、x軸およびy軸からそれぞれ45°回転した軸を新たにx’軸およびy’軸とし、軸を変換することで以下の式を得る。
【0036】
【数2】

【0037】
短軸側の半径がa、長軸側の半径がbである屈折率楕円体が描ける。
【0038】
図2は、z=0平面での切断面を示している。この楕円の半径は、図中のSベクトルの方向に光が伝搬した際に、電界EがZ軸方向に印加されている状態での屈折率を示している。実際のウェーハの向きから考えると、主面方位が(001)の基板を使用した場合において、01−1方向のオリエーテーションフラット(OF)に平行な方向に、電界強度がx’方向に振動するTE波として伝搬するとき、ポッケルス効果によりbの屈折率になり、変化量としてはb−n0となる。また、電界を印加しない場合の屈折率n0よりも大きい値を示す。逆に、OFに垂直な011方向に伝搬する場合は、n0より小さな値となることが分かる。いずれの場合も、y’方向に電界が振動するTM波として進行する場合は、屈折率楕円体のz方向はn0であり、外部電界によりポッケルス効果により変調されないことが分かる。また、OFに対して45°の010方向に伝搬する光では、図5の楕円と元の屈折率を示す円との交点を示すので、偏波状態によらずポッケルス効果による屈折率変化は起こらないことが分かる。
【0039】
ここまでは、ポッケルス効果だけを考慮して考えてきたが、実際の素子のコアが多重量子井戸(MQW)からなる場合、ポッケルス効果に加えて、QCSEが足される形になる。しかし、QCSEは、第1次近似的には結晶方位に依存しない。n(QCSE)を、電界Eを印加した際のQCSEによる屈折率変化量とすると、ポッケルス効果の説明に用いたn0をn0’=n0+n(QCSE)とし、n0をn0’に置き換えた屈折率楕円体が描ける。
【0040】
以上のことから、外部電界Eを印加した際の屈折率変化量を、TE偏光およびTM偏光についてまとめると以下のようになる。ここで、ポッケルス効果による屈折率変化量をPと示し、QCSEによる変化量をQとしている。
【0041】
【表1】

【0042】
表1は、単位電界強度Eを印加した際の屈折率変化量を示すことになるが、導波路の縦方向に電界をかける行為は、平行平板からなるコンデンサに電界を印加するのと同じであり、電界強度は電圧に比例する。つまり、単位電圧当たりの屈折率変化量のP、Qの作用を示しているとしても差支えがない。
【0043】
なお、上述の説明でOFに平行な方向を01−1方向としたが、0−11方向も等価である。また、OFに垂直な方向を011方向としたが、0−1−1方向も等価である。また、OFに対して45°の方向を010方向としたが、00−1方向、0−10方向、001方向も等価である。
【0044】
図3を参照して、図1の複屈折率調整部130の動作を説明する。第1の電極102Dは、第1の方向である01−1方向、第2の電極103Dは、第2の方向である011方向に向いている。上側の第1のアーム導波路102には、横向きの第1の電極102Dに電圧Vを印加し、下側の第2のアーム導波路103には、縦向きの第2の電極103Dに電圧Vを印加する。この場合、TE偏光に対する位相差ΔφTEは、次式のようになる。ここで、Lは電極の長さである。
【0045】
【数3】

【0046】
一方、TM偏光に対する位相差ΔΦTMは、
【0047】
【数4】

【0048】
となる。つまりこのように対になるアーム導波路で直交関係にある電極に電圧を印加するとTE偏光のみに関して上下のアーム導波路間の位相差が変化し、TM偏光は電界により位相差がつかず、変調されなくすることができる。
【0049】
今までのPBSの調整では、複屈折率を調整するために電極を駆動すると、偏波消光比がえられる波長も変更されて、消光波長を調整すると複屈折率が変更されていた。これらの作業を繰り返し最適な駆動状態を見つけ出す作業が必要であった。しかし、本実施形態に係るPBS100では、TM偏光の消光特性は変化せずに、TE偏光の特性だけが変化するため、容易にPBS動作点調整が可能となる。例えば、PBSを考えて、TM偏光のみを透過させたいポートがあるとする。TMポートが既に所望の波長で最大透過状態にあり、TE偏光の消光波長が所望の波長にない場合、本実施形態のような電極配置を有するPBSであれば、TM偏光の状態を動かさずにTE偏光の消光点を所望の波長に動かすことができ、検査調整時間の大幅短縮が可能である。
【0050】
なお、上の式のように、第1の電極102Dに単位電圧を印加した際のTE偏光に対するポッケルス効果による屈折率変化量をP1としたときに、第2の電極103Dに単位電圧を印加した際のTE偏光に対するポッケルス効果による屈折率変化量が正確に−P1である場合には、TE偏光の消光波長のみが変化しTM偏光は変化しない。しかしながら、実際には、絶対値が同じで符号が反転されている状態に正確に一致しなくてもよい。符号が逆であり、ほぼ同じ絶対値を持てば効果は得られる。電圧を印加して調整する際に、TE偏光とTM偏光の消光波長の移動は大きな差があるので、何も対策をしない場合に比べて大幅にPBSの調整時間を短縮することができる。
【0051】
ここまでは、01−1方向に対して平行な方向に第1の電極102D、それに垂直な方向である011方向に第2の電極103Dが配置されている場合を示した。半導体基板101の主面方位が(100)である場合に、TE偏光の特性だけを変化させることのできる電極配置が他にも存在するのでその説明をする。
【0052】
例えば、第1の電極102Dを、01−1方向に対して30°の軸に平行な方向に配置し、第2の電極103Dを01−1方向に対して120°の軸に平行な方向に配置した場合が挙げられる。01−1方向に作製した場合より変調効率が劣化するので調整に高い電圧が必要になるが同じ効果が得られ、容易にPBSの調整を実施でき、調整時間を大幅に短縮することができる。ただし、TE偏光に対するポッケルス効果による屈折率変化量が0となる場合、つまり、010方向に平行または垂直な方向に第1の電極102D及び第2の電極103Dを配置する構成は除かれる。
【0053】
QCSEの偏頗依存性はないものとしてTE偏光、TM偏光ともQCSEによる屈折率変化量をQと示している。実際のデバイスでは、閉じ込め係数の差からQは偏波依存性を持つことが考えられる。つまりQ(TE)とQ(TM)は同じではないことがある。あったとしてもその差は小さいので、PBSの調整としてはこのままでも十分で、より簡便なPBS動作点の調整に対効果を発揮する。
【0054】
製造方法
図4を参照して、本実施形態に係るPBSの製造方法を説明する。はじめに、図3(a)に示すように、半絶縁性(SI(semi−insulating))−InP基板50上に第1のn型電極層51(n+−InP)を成長し、その上に第1のn型クラッド層52(n−InP)を形成し、第1のn型クラッド層52上には、第1の中間層53(i−InGaAsP)、多重量子井戸(MQW)コア層54、第2の中間層55(i−InGaAsP)が形成されている。
【0055】
第2の中間層55(i−InGaAsP)の上に第1の低濃度クラッド56(i−InP)を形成した後、第1の低濃度クラッド56(i−InP)の上には、電子バリアとして機能するp型クラッド層57(p−InP)が形成される。p型クラッド層57の上には、第2のn型クラッド層58(n−InP)が形成され、さらにその上に、第2のn型電極層59(n+−InP)が順に積層されている。
【0056】
ここで、多重量子井戸コア層54は、動作光波長で電気光学効果が有効に働くように構成され、例えば、1.5μm帯のデバイスであれば、InGaAlAsのGa/Al組成を変えた層を、それぞれ量子井戸層と量子バリア層にした多重量子井戸構造とすることができる。また、第1の中間層53は、光吸収で発生したキャリアをヘテロ界面でトラップされないようにするための接続層として機能する。
【0057】
本実施形態に係るPBSを製造するには、まず、上下のアーム導波路を電気的に分離するために、アーム導波路間に分離溝を形成する。なお、変調電極と位相調整電極が分かれているマッハツェンダ構造の場合は、その間にも分離溝を設けて電気的分離を行う。これは、電気的分離がなされていないと、片方のアーム導波路に変調のため印加した電圧が他方のアーム導波路の変調に影響を及ぼすためである。分離溝は、第2のn型電極層59から電子バリアとして機能するp型クラッド層57までの一部を標準的なフォトリソグラフィー、パターニングしウエットエッチング技術を用いて、アーム導波路の何処かに幅数ミクロンの溝として取り除くことにより形成する。
【0058】
なお、本実施形態においては、分離溝により電気的分離を行ったが、電極が接触する変調部周辺以外を石英のハードマスクを用いて第2のn型電極層59から電子バリアとして機能するp型クラッド層57までを除去した後、半絶縁性のInPで再度成長し置き換えを実施して電気的分離を行ってもよい。
【0059】
次に、図3(b)に示すように、ドライエッチング技術を用いて第2のn型電極層59(n+−InP)から第1のn型クラッド層中間52までの層をエッチングすることにより、ハイメサ型の導波路構造を形成する。そして、第1のn型クラッド層52をエッチングすることにより、第1のn型電極層51を露出させる。
【0060】
最後に、図3(c)に示すように、変調電極、位相調整電極となる第1のn型電極60を第2のn型電極層59上に、接地電極となる第2のn型電極61を第1のn型電極層51上にそれぞれ形成する。なお、必要に応じて、パッシベーション膜を堆積し、メサ表面を保護するようにしてもよいし、ポリマーなどを利用してハイメサ構造を保護してもよい。
【0061】
(第2の実施形態)
図5に、本発明の第2の実施形態に係るPBSを示す。PBS500は、第4の導波路部及びその上の第2の電極を除いて、第1の実施形態に係るPBS100と同様である。本実施形態に係るPBS500では、第2の電極603Dが、電気的に並列接続された第1の部分603D’及び第2の部分603D”に分割されている。第1の部分603D’及び第2の部分603D”の長さをそれぞれL’、L”とすると、L’+L”=Lを満たすようにする。第4の導波路部603Bは、第2の傾斜部分として2つの平行な傾斜部分を有し、さらに、これらの2つの傾斜部分を接続する180度方向変換導波路を有する。図1のレイアウトと比較して、図5のレイアウトは面積を抑えることができる。
【0062】
例えば、図6のようにレイアウトすれば、長さ方向に素子長を抑えることが可能である。本実施例のPBSを他のデバイスと1つのウェーハ上に集積する場合等は、他のデバイスに与える面積を大きくする、或いはチップサイズ全体を押し下げることができる。
【0063】
(第3の実施形態)
図7に、第3の実施形態に係るPBSを示す。本構成では、RF信号を入れると、PBSでありながら、高速の光変調が実現できる。用途としてRZカーバーとして使用することができる。第1の光カプラ710、複屈折率付与部720、複屈折率調整部730、高速変調部750、第2の光カプラ740がこの順に接続されている。
【0064】
通常、これをこれまでの方法で実現しようとすると、図8のように、それぞれの偏波用にRZカーバーとなるMZを配置しその後PBSを配置する構成となる。この場合は、TE用、TM用駆動用のMZとなるので、それぞれ異なるRF振幅で駆動する必要がある。つまり使用するユーザは、駆動ドライバーの設定を異なる設定にしなくてはならない。駆動振幅の違いよっては異なるドライバーを用意する必要が出てくる。または、MZの長さを変えて変調効率がTE偏光とTM偏光で同じになるようにする。異なるバイアス電圧で使用することで、RF振幅一定とする方法などがある。いずれにせよこの構成ではRZカーバーとしてそれぞれの偏波用にドライバー、およびその周辺回路を用意しなくてはならない。
【0065】
本実施形態の構造では、TE偏光とTM偏光の変調効率が同じなので、それぞれの偏波用にRZカーバーを用意する必要性がない。1つのMZでPBSとRZカーバーを提供できる。同時に、ドライバーおよびその周辺回路の数も減少させることができ、消費電力低減、スペース低減、コスト低減の効果が得られる。
【0066】
また無偏光または45°偏波を入力とした場合、この構成でRFを45°の電極に入力すると、ある出力から交互にTE偏光とTM偏光が出力される偏波変調器も構成可能である。
【符号の説明】
【0067】
100、400 PBS
101 半導体基板
102 第1のアーム導波路
102A 第1の導波路部
102B 第3の導波路部
102C 第5の導波路部
102D 第1の電極
103 第2のアーム導波路
103A 第2の導波路部
103B 第4の導波路部
103C 第6の導波路部
103D 第2の電極
110 第1の光カプラ
120 複屈折率付与部
130 複屈折率調整部
140 第2の光カプラ
500 PBS
502A 第1の導波路部
502B 第3の導波路部
502C 第5の導波路部
502D 第1の電極
503 第2のアーム導波路
503A 第2の導波路部
503B 第4の導波路部
503C 第6の導波路部
503D 第2の電極
503D’ 第1の部分
503D” 第2の部分
520 複屈折率付与部
530 複屈折率調整部
540 第2の光カプラ
700 PBS
710 第1の光カプラ
720 複屈折率付与部
730 複屈折率調整部
740 第2の光カプラ
750 高速変調部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複屈折率付与部と、
前記複屈折率付与部に接続された複屈折率調整部と
を閃亜鉛鉱型構造を有する半導体基板上に備え、
前記複屈折率付与部は、第1のアーム導波路が有する第1の幅の第1の導波路部であって、第1の方向に配置された第1の導波路部と、前記第1のアーム導波路と並列に配置された第2のアーム導波路が有する第2の幅の第2の導波路部とで構成され、前記第1の幅は第2の幅よりも大きく、
前記複屈折率調整部は、
前記第1の導波路部に隣接する第3の導波路部であって、前記第1の方向と異なる第2の方向に傾斜して配置された第1の傾斜部分を有する第3の導波路部と、
前記第2の導波路部に隣接する第4の導波路部であって、前記第2の方向に傾斜して配置された第2の傾斜部分を有する第4の導波路部と、
前記第3の導波路部に隣接する第5の導波路部であって、前記第1の導波路部と平行な第5の導波路部と、
前記第4の導波路部に隣接する第6の導波路部であって、前記第2の導波路部と平行な第6の導波路部と、
前記第1の傾斜部分または前記第5の導波路部の上に配置された第1の電極と、
前記第2の傾斜部分または前記第6の導波路部のうち、前記第1の電極の方向と異なる方向の方の上に配置された第2の電極と
を備え、
前記第1及び第2の方向は、前記複屈折率調整部において、前記第1及び第2の電極に単位電圧を印加したときに、TM偏光に対する前記第1及び第2のアーム導波路間の位相差が抑制され、TE偏光に対する前記第1及び第2のアーム導波路間の位相差が増大される方向であることを特徴とする位相シフタ。
【請求項2】
前記第1の電極に単位電圧を印加した際のTE偏光に対するポッケルス効果による屈折率変化量をP1としたときに、前記第2の電極に単位電圧を印加した際のTE偏光に対するポッケルス効果による屈折率変化量が−P1であることを特徴とする請求項1に記載に位相シフタ。
【請求項3】
前記半導体基板の主面方位は(100)であり、
前記第1の方向は、01−1方向と平行または直交する方向であり、
前記第2の方向は、前記第1の方向に直交する方向であることを特徴とする請求項1又は2に記載の位相シフタ。
【請求項4】
前記第2の方向に配置された電極が、電気的に並列接続された第1及び第2の部分に分割され、
前記第1及び第2の部分の長さの合計が前記第1の方向に配置された電極の長さと等しいことを特徴とする請求項3に記載の位相シフタ。
【請求項5】
第1の光カプラと、
前記第1の光カプラに接続された、請求項1から4のいずれかに記載の位相シフタと、
前記位相シフタに接続された第2の光カプラと
を備えることを特徴とする偏波分離器。
【請求項6】
第1の光カプラと、
前記第1の光カプラに接続された、請求項1から4のいずれかに記載の位相シフタと、
前記位相シフタに接続された第2の光カプラと
を備えることを特徴とする偏波合成器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−247581(P2012−247581A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118502(P2011−118502)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】