説明

半導体基板洗浄用治具

【課題】半導体基板と半導体基板保持溝との隙間に残留した薬液等をより効果的に除去し得る半導体基板洗浄用治具を提供すること。
【解決手段】相対向する側板10間に、半導体基板3の外周縁に接触可能な少なくとも3本の棒状枠材4を設け、それら各棒状枠材4の周面には、半導体基板3の外周縁を差し込む半導体基板保持溝8を形成する鍔部6を棒状枠材4の軸方向に所定間隔で形成すると共に、上記半導体基板保持溝8と半導体基板3の間に滞留する液体を逃がすため、各棒状枠材4の周面に、棒状枠材4の軸方向に水切り用のスパイラル溝5を形成し、上記各棒状枠材4の端部に、引き上げ時にかかる水圧で当該棒状枠材を回転させるためのプロペラ7を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板洗浄用治具に関し、特に半導体ウェハの洗浄処理においてウェハを保持するのに用いられるウェハキャリアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェハの製造プロセスにおいては、ウェハ(半導体基板)の鏡面加工後における研磨材等の付着物、金属不純物、有機汚染物質、パーティクル等のコンタミネーションなどを除去してウェハ表面を清浄にするために、有機溶剤を用いた脱脂洗浄及び水によるリンス洗浄などの処理を行っている。そのような洗浄を、同時に複数枚のウェハを洗浄可能なバッチ処理で行なう場合には、従来、図4及び図5に示すようなウェハキャリア(半導体基板洗浄用治具)が用いられる。
【0003】
この半導体基板洗浄用治具は、図4及び図5に示すように、側板20、20間に棒状枠材21を上下に2本ずつ渡し、その棒状枠材21に刻んだスリット溝22に、図6の如くウェハ(半導体基板)3を一枚ずつ挿入する構造としたものであり、この半導体基板洗浄用治具ごと洗浄液等の入った浴槽内に浸漬させていた。そして、洗浄後の乾燥工程においても、半導体基板洗浄用治具ごと乾燥装置内に設置して、ウェハに付着した水分の除去及び乾燥を行なっていた。
【0004】
しかし、上述した半導体基板洗浄用治具の場合、ウェハ3を位置固定のスリット溝22に入れて保持する構造のため、スリット溝22とウェハ3の隙間に、洗浄時に使用する薬品等が残留してしまうことがあった。また、洗浄液から半導体基板洗浄用治具を取り出した時の水切れが悪いという問題点もあった。
【0005】
一方、このようなスリット溝22とウェハ3との間に溜まる水滴を速やかに除去する工夫として、従来、図7、図8に示すように、スリット溝22の底に、スリット溝22に連通するとともに、下方又は斜め下方に臨んで開口する逃げ部23を形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−286869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の半導体基板洗浄用治具の場合、4本の棒状枠材21に等間隔で半導体基板保持用の多数のスリット溝22を付け、上記水滴の逃げ部23は、そのスリット溝22の真下の領域のみに棒状枠材21と直交する方向に形成される。すなわち、特許文献1には棒状枠材21が回動することとの関連性についてまでは開示がない。
【0007】
既に述べたように、図4〜図6に示した従来の半導体基板洗浄用治具の場合、次のような課題がある。
【0008】
(1)半導体基板洗浄の際に、半導体基板を固定部のスリット溝に入れて固定をするため、スリット溝とウェハの隙間に、洗浄時に使用する薬品等が残留してしまう。
【0009】
(2)さらに、ウェハの薬品による洗浄後に、水洗いにより薬品を除去するのだが、基本的に、薬品洗浄から水洗まで、連続的に実施されるため、スリット溝との間隔(隙間)に残留した薬品(薬液)を、完全に除去することが難しい。
【0010】
(3)薬液が残留したウェハに対してエピタキシャル成長等を実施すると、残留した薬品がある部分から表面欠陥(ウォーターマーク等)が発生して、エピタキシャル成長を実施したウェハが不良品となってしまう。
【0011】
また、特許文献1の半導体基板洗浄用治具の場合、ウェハ3が保持されるところのスリット溝22の位置が固定であり、洗浄液から半導体基板洗浄用治具を取り出した時の水切れがまだ十分でないという課題がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、半導体基板と半導体基板保持溝との隙間に残留した薬液等をより効果的に除去し得る半導体基板洗浄用治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、次のように構成したものである。
【0014】
請求項1の発明に係る半導体基板洗浄用治具は、相対向する側板間に、半導体基板の外周縁に接触可能な少なくとも3本の棒状枠材を半導体基板に設け、それら各棒状枠材の周面には、半導体基板の外周縁を差し込む半導体基板保持溝を形成する鍔部を棒状枠材の軸方向に所定間隔で形成すると共に、上記半導体基板保持溝と半導体基板の間に滞留する液体を逃がすため、各棒状枠材の周面に、棒状枠材の軸方向に水切り用のスパイラル溝を形成し、上記各棒状枠材の端部に、引き上げ時にかかる水圧で当該棒状枠材を回転させるためのプロペラを設けたことを特徴とする。
【0015】
この請求項1には、(1)棒状枠材を取り外し可能な構成又は棒状枠材を半導体基板の半径方向外側へ移動可能な構成としておくことで、棒状枠材の間隔を半導体基板の直径よりも小さくした形態と、(2)上側の棒状枠材の間隔を半導体基板の直径よりも大きくして抜き差し自在とした形態の二つが含まれる。
【0016】
また水切り用のスパイラル溝は必ずしも一定ピッチで形成する必要はなく、途中でピッチが変化しても良い。水切り用のスパイラル溝の溝幅は、半導体基板の外周縁を差し込む半導体基板保持溝の溝幅よりも狭く形成することで、半導体基板が水切り用のスパイラル溝内に落ち込まないようにする。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1記載の半導体基板洗浄用治具において、上記半導体基板保持溝と半導体基板の間に滞留する液体を逃がすため、上記スパイラル溝に代えて、各棒状枠材の周面に、棒状枠材の軸方向に水切り用のスパイラル突起を設けたことを特徴とする。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の半導体基板洗浄用治具において、上記プロペラを各棒状枠材の一端側にのみ設けたことを特徴とする。この特徴により製造部品数を低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、次のような優れた効果が得られる。
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、各棒状枠材の周面に、半導体基板の外周縁を差し込む半導体基板保持溝を形成する鍔部を棒状枠材の軸方向に所定間隔で形成すると共に、上記半導体基板保持溝と半導体基板の間に滞留する液体を逃がすため、各棒状枠材の周面に、棒状枠材の軸方向に水切り用のスパイラル溝を形成したので、半導体基板保持溝と半導体基板の間に滞留する液体を水切り用のスパイラル溝から下方へ逃がすことができる。
【0021】
また、上記各棒状枠材の端部にプロペラを設けているので、引き上げ時にプロペラにかかる水圧により棒状枠材が回転し、液体が滞留していた水切り用のスパイラル溝の位置が移動するため、水切りを効率よく行うことができる。
【0022】
よって本発明によれば、(1)洗浄の残留薬品や水滴等のエピタキシャル成長後に表面不良の起因なる部分を除去することができる。また、(2)表面不良の起因を除去することにより、生産性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0024】
図1に本実施形態に係る半導体基板洗浄用治具を示す。この半導体基板洗浄用治具においては、相対向する側板10、10間に、ウェハ(半導体基板)3の外周縁を接触させる棒状枠材4が、ウェハ3に直交する方向に、且つ互いに平行に、上下に2本ずつ(下側が4a、4bの2本、上側が4c、4dの2本)計4本設けてある。この4本の棒状枠材4のうち少なくとも1本は取り外し可能に又は棒状枠材を半導体基板の半径方向外側へ移動可能に構成され、ウェハ3を半導体基板洗浄用治具に対して抜き差し自在としている。
【0025】
上記の各棒状枠材4は左右の側板10を貫通する形で設けられる。その左側の側板10を貫通した4本の棒状枠材のうち、下側手前側の棒状枠材4aと、上側奥側の棒状枠材4cの端には、図2に実線で示すように引き上げ時にかかる水圧で当該棒状枠材4を回転させるためのプロペラ7が設けてある。また、右側の側板10を貫通した4本の棒状枠材のうち、下側奥側の棒状枠材4bと、上側手前側の棒状枠材4dの端には、図2に点線で示すように引き上げ時にかかる水圧で当該棒状枠材4を回転させるためのプロペラ7が設けてある。
【0026】
上記各棒状枠材4の周面には、図3から良く分かるように、ウェハ3の外周縁を差し込む半導体基板保持溝8を形成するため、棒状枠材4の軸方向に所定間隔で半導体基板支え部としての鍔部6を設けてある。また、各棒状枠材4の周面には、上記半導体基板保持溝8とウェハ3の間に滞留する液体を逃がすため、棒状枠材4の軸方向に水切り用のスパイラル溝5を所定ピッチで形成してある。この水切り用のスパイラル溝5の溝幅は、ウェハ3が水切り用のスパイラル溝5内に落ち込まないようにするため、ウェハ3の外周縁を差し込む半導体基板保持溝8の溝幅よりも狭く形成してある。
【0027】
また、棒状枠材4の軸方向に繰り返し設ける半導体基板保持溝8の間隔と、同じく棒状枠材4の軸方向にスパイラル状に設ける水切り用のスパイラル溝5の所定ピッチとは、ほぼ同一に設定してある。この構成により、図3の如く、半導体基板保持溝8と半導体基板保持溝8の間隔内のほぼ中央付近に、水切り用のスパイラル溝5におけるスパイラルの下側反転位置が来ることから、引き上げ時において、並列に保持されているウェハ間の隙間のほぼ中央から、水滴を落下させることができる。
【0028】
上記半導体基板洗浄用治具を用いた場合の作用は次のようになる。すなわち、(a)半導体基板の成長を実施する際に、薬液等内に洗浄用治具を入れる。(b)洗浄終了後に、洗浄用治具を真上に引き上げる。(c)洗浄用治具を引き上げる際に、スパイラル溝に沿って薬品等がスパイラルの真下の方へ流れて行く。(d)また、真下の方に溜まった薬品は、プロペラにより棒状枠材が回転する遠心力や重力等により、落下し、半導体基板保持溝には薬品等が残留しなくなる。
【0029】
よって、本実施形態の半導体基板洗浄用治具によれば、次のような効果が得られる。
【0030】
(1)ウェハを保持している棒状枠材4の部分にスパイラル溝5を設けたので、そのスパイラル溝5の部分に沿って、半導体基板保持溝8の薬品や水滴が下の方に行くことから、ウェハに薬品等が残留することがなくなる。
【0031】
(2)ウェハを保持している棒状枠材4の端部にプロペラ7を取り付けたので、ウェハを洗浄処理後、洗浄液中を上に引き上げる際に、その反動の水圧によりプロペラが回り、棒状枠材が回転して、スパイラル溝5の液の滞留している部分の位置が移動することから、水や薬品の切れが良くなり、効率よくウェハを洗浄することができる。
【0032】
(3)また、これにより洗浄時の薬品等が半導体基板保持溝8の部分に残らないことから、ウェハ上での薬品の残留をなくすことができ、そのウェハを使用して、エピタキシャル成長等を実施した製品の不良を減らすことができる。
【0033】
上記実施形態では、半導体基板保持溝と半導体基板の間に滞留する液体を逃がすため、棒状枠材の周面にスパイラル溝を設けたが、この溝に代えて、各棒状枠材の周面に水切り用のスパイラル突起を設けることもできる。また水切り用のスパイラル溝5は必ずしも一定ピッチで形成する必要はなく、途中でピッチが変化しても良い。
【0034】
上記実施形態では、各棒状枠材の一端側にのみプロペラを設けたが、各棒状枠材の両端にプロペラを設けることもできる。
【0035】
また実施形態では、4本の棒状枠材を用いた4点支持の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、3本の棒状枠材を用いた3点支持の形態にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の半導体基板洗浄用治具の正面を示す略図である。
【図2】図1の半導体基板洗浄用治具の左側面を示す図である。
【図3】図1の半導体基板洗浄用治具のA部の拡大図である。
【図4】従来技術の半導体基板洗浄用治具の正面を示す略図である。
【図5】図4の半導体基板洗浄用治具の左側面を示す図である。
【図6】図4の半導体基板洗浄用治具のB部の拡大図である。
【図7】他の従来技術の半導体基板洗浄用治具を側方から一部断面にて示した図である。
【図8】図7の従来技術の半導体基板洗浄用治具におけるスリット溝と逃げ部の構造を示した断面図である。
【符号の説明】
【0037】
3 ウェハ(半導体基板)
4 棒状枠材
4a、4b、4c、4d 棒状枠材
5 水切り用のスパイラル溝
6 鍔部
7 プロペラ
8 半導体基板保持溝
10 側板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対向する側板間に、半導体基板の外周縁に接触可能な少なくとも3本の棒状枠材を半導体基板に設け、
それら各棒状枠材の周面には、半導体基板の外周縁を差し込む半導体基板保持溝を形成する鍔部を棒状枠材の軸方向に所定間隔で形成すると共に、
上記半導体基板保持溝と半導体基板の間に滞留する液体を逃がすため、各棒状枠材の周面に、棒状枠材の軸方向に水切り用のスパイラル溝を形成し、
上記各棒状枠材の端部に、引き上げ時にかかる水圧で当該棒状枠材を回転させるためのプロペラを設けたことを特徴とする半導体基板洗浄用治具。
【請求項2】
請求項1記載の半導体基板洗浄用治具において、
上記半導体基板保持溝と半導体基板の間に滞留する液体を逃がすため、上記スパイラル溝に代えて、各棒状枠材の周面に、棒状枠材の軸方向に水切り用のスパイラル突起を設けたことを特徴とする半導体基板洗浄用治具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の半導体基板洗浄用治具において、
上記プロペラを各棒状枠材の一端側にのみ設けたことを特徴とする半導体基板洗浄用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−93272(P2006−93272A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274666(P2004−274666)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】