説明

半導体封止用樹脂組成物及びこれを用いる半導体装置

【課題】流動性、連続成形性、ハンドリング性及び密着性のバランスに優れた半導体封止用樹脂組成物、ならびに、その硬化物により半導体素子を封止してなる信頼性に優れた経済的半導体装置の提供。
【解決手段】半導体封止用樹脂組成物は、1又は2以上の成分からなるエポキシ樹脂であって、下記一般式で表される構造単位を含む重合体からなる成分(A1)を含むエポキシ樹脂(A)と、フェノール樹脂系硬化剤(B)と、無機充填剤(C)と、を含むことを特徴とする。


(上記一般式(2)において、R1は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、aは0〜3の整数である。R6は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、bが0および1〜4の整数である。R7、R8、R9及びR10は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1〜6の炭化水素基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用樹脂組成物及び半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化、高性能化への要求はとどまることが無く、半導体素子(以下、「素子」、「チップ」ともいう。)の高集積化、高密度化は年々進行し、さらには半導体装置(以下、「パッケージ」ともいう。)の実装方式にも、表面実装技術が登場し、普及しつつある。このような半導体装置の周辺技術の進歩によって、半導体素子を封止する樹脂組成物への要求も厳しいものとなってきている。たとえば、表面実装工程では、吸湿した半導体装置が半田処理時に高温にさらされ、急速に気化した水蒸気の爆発的応力によってクラックや内部剥離が発生し、半導体装置の動作信頼性を著しく低下させる。さらには、鉛の使用撤廃の機運から、従来よりも融点の高い無鉛半田へ切り替えられ、実装温度が従来に比べ約20℃高くなり、上述の半田処理時の応力はより深刻となる。このように表面実装技術の普及と無鉛半田への切り替えによって、半導体封止用樹脂組成物にとって、耐半田性は重要な技術課題のひとつとなっている。
【0003】
また、近年の環境問題を背景に、従来用いられてきたブロム化エポキシ樹脂や酸化アンチモン等の難燃剤の使用を撤廃する社会的要請が高まりを見せており、これらの難燃剤を使用せずに、従来と同等の難燃性を付与する技術が必要となってきている。そのような代替難燃化技術として、例えば低粘度の結晶性エポキシ樹脂を適用し、より多くの無機充填剤を配合する手法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。しかしながら、これらの手法も、耐半田性と難燃性を十分満たしているとはいいがたい。
【0004】
さらに近年では、1パッケージ内にチップを積層する構造が登場している。このような半導体装置では、従来よりも樹脂封止部分の肉厚が薄くなることで、ワイヤ流れが発生しやすい、未充填が発生しやすいという問題があった。
こうしたワイヤ流れや未充填を防止するために樹脂組成物の流動性をさらに向上させる手法として、低分子量のエポキシ樹脂又はフェノール樹脂硬化剤を用いる手法がある。しかし、低分子量のエポキシ樹脂を用いると、樹脂組成物の製造過程で、樹脂同士が固着したり、装置内に付着するなどにより生産性が低下する場合があった。これをハンドリング性の不良という。
【0005】
また、同じく低分子量のエポキシ樹脂を用いると、連続成形性が低下するという問題があった。すなわち、連続成形性とは半導体装置の製造工程において封止用樹脂組成物を金型に連続して充填、成形する際に生じうる課題であって、封止用に予めタブレット状に成型された樹脂組成物同士が固着したり、連続成形設備内に付着することによって、搬送不良、設備停止が発生し、さらには、固着した樹脂組成物(タブレット)も廃棄せざるを得なくなる。また、樹脂組成物を封止用金型に充填、硬化して、離型する際、金型のエアベント部に樹脂の一部が欠損し残留して、以降の成形で充填不良が生じ、連続成形性が低下する場合もある。特に、複数の半導体チップを積層してなる半導体パッケージでは、従来の単層チップの半導体パッケージに比べて、連続成形性の低下によって発生する損失コストが大きく、半導体パッケージの連続成形性を良好とすることが重要であった。このように樹脂組成物の流動性を高めようとすると連続成形性が低下してしまうため、両者を両立することが重要であった。
【0006】
さらに、チップの積層数の増加に伴い、ワイヤボンディング工程の回数が増加し、それに費やされる時間が長時間化することで、金属リードフレーム表面が酸化されやすくなるといった問題が生じた。一般的に、金属リードフレーム表面の酸化が進行すると、樹脂組成物の硬化物と金属リードフレーム表面との密着性が低下する恐れがある。そこでリードフレームの酸化を防止するために、金属リードフレームに金メッキなどを施して抗酸化性を高める手法が取られたが、封止樹脂は銅等よりも金との親和性に劣る傾向があり、結果としてリードフレーム金属表面と樹脂組成物との密着性が低下し、耐半田性が低下する傾向にあった。
【0007】
以上のように、半導体封止用樹脂組成物において、流動性、連続成形性、ハンドリング性及び密着性のバランスに優れることが重要課題となってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−130919号公報
【特許文献2】特開平8−20673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、流動性、連続成形性、ハンドリング性及び密着性のバランスに優れた半導体封止用樹脂組成物、ならびに、その硬化物により半導体素子を封止してなる信頼性に優れた半導体装置を経済的に提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、下記[1]〜[16]に記載の本発明により達成される。
【0011】
[1]1又は2以上の成分からなるエポキシ樹脂であって、下記一般式(1)で表される構造単位と、下記一般式(2)で表される構造単位と、を含む重合体からなる成分(A1)を含むエポキシ樹脂(A)と、フェノール樹脂系硬化剤(B)と、無機充填剤(C)と、を含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【化1】

(上記一般式(1)において、R1は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、aは0〜3の整数である。R2、R3、R4及びR5は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1〜6の炭化水素基である。)
【化2】

(上記一般式(2)において、R1は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、aは0〜3の整数である。R6は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、bは1〜4の整数である。R7、R8、R9及びR10は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1〜6の炭化水素基である。)
[2][1]に記載の半導体封止用樹脂組成物において、成分(A1)が1又は2以上の重合体からなり、電界脱離質量分析による測定で、成分(A1)に該当する重合体の相対強度の合計が、エポキシ樹脂(A)の合計相対強度に対して10%以上、80%以下含まれることを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[3][1]又は[2]に記載の半導体封止用樹脂組成物において、エポキシ樹脂(A)が、一般式(1)で表される構造単位を含み、かつ一般式(2)で表される構造単位を含まない重合体からなる成分(A2)をさらに含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[4][1]又は[2]に記載の半導体封止用樹脂組成物において、エポキシ樹脂(A)が、一般式(2)で表される構造単位を含み、一般式(1)で表される構造単位を含まない重合体からなる成分(A3)をさらに含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[5][1]又は[2]に記載の半導体封止用樹脂組成物において、エポキシ樹脂(A)全体における一般式(1)で表される構造単位の合計の数と、一般式(2)で表される構造単位の合計の数と、の比が30/70〜95/5であることを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[6][1]又は[2]に記載の半導体封止用樹脂組成物において、一般式(2)で表される構造単位におけるR6がメチル基であり、bが1〜3であることを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[7][1]乃至[6]いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物において、エポキシ樹脂(A)が全樹脂組成物を基準として0.5質量%以上、10質量%以下含まれることを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[8][1]乃至[7]いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物において、無機充填剤(C)の含有量が全樹脂組成物を基準として80質量%以上、93質量%以下であることを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[9][1]乃至[8]いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物において、前記半導体封止用樹脂組成物が、硬化促進剤(D)をさらに含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[10][9]に記載の半導体封止用樹脂組成物において、硬化促進剤(D)が、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物からなる群から選択される少なくとも1種の硬化促進剤を含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[11][1]乃至[10]いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物において、前記半導体封止用樹脂組成物が、芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(E)をさらに含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[12][1]乃至[11]いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物において、前記半導体封止用樹脂組成物が、カップリング剤(F)をさらに含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[13][12]に記載の半導体封止用樹脂組成物において、カップリング剤(F)が2級アミノ基を有するシランカップリング剤を含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[14][1]乃至[13]いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物において、前記半導体封止用樹脂組成物が、無機難燃剤(G)をさらに含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[15][14]に記載の半導体封止用樹脂組成物において、無機難燃剤(G)が金属水酸化物、又は複合金属水酸化物を含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
[16][1]乃至[15]いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物を硬化させた硬化物で半導体素子を封止して得られることを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従うと、流動性、連続成形性、ハンドリング性及び密着性のバランスに優れた半導体封止用樹脂組成物ならびに、その硬化物により半導体素子を封止してなる信頼性に優れた半導体装置を経済的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る半導体封止用樹脂組成物を用いた半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。
【図2】本発明に係る半導体封止用樹脂組成物を用いた片面封止型の半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。
【図3】実施例で用いたエポキシ樹脂1のGPCチャートである。
【図4】実施例で用いたエポキシ樹脂1のFD−MSチャートである。
【図5】実施例で用いたエポキシ樹脂2のGPCチャートである。
【図6】実施例で用いたエポキシ樹脂2のFD−MSチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、1又は2以上の成分からなるエポキシ樹脂であって、下記一般式(1)で表される構造単位と、下記一般式(2)で表される構造単位と、を含む重合体からなる成分(A1)を含むエポキシ樹脂(A)と、フェノール樹脂系硬化剤(B)と、無機充填剤(C)と、を含むことを特徴とする。これにより、流動性、連続成形性、ハンドリング性及び密着性のバランスに優れる半導体封止用樹脂組成物を得ることができる。また、本発明の半導体装置は、上述の半導体封止用樹脂組成物の硬化物で半導体素子を封止して得られることを特徴とする。これにより、信頼性に優れた半導体装置を経済的に得ることができる。以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書における「〜」で表される数値範囲は、その上限値下限値のいずれをも含むものである。
【0015】
[エポキシ樹脂(A)]
エポキシ樹脂(A)は、1又は2以上の成分からなるエポキシ樹脂であって、下記一般式(1)で表される構造単位と、下記一般式(2)で表される構造単位と、を含む重合体からなる成分(A1)を含む。
【0016】
【化3】

(上記一般式(1)において、R1は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、aは0〜3の整数である。R2、R3、R4及びR5は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1〜6の炭化水素基である。)
【0017】
【化4】

(上記一般式(2)において、R1は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、aは0〜3の整数である。R6は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、bは1〜4の整数である。R7、R8、R9及びR10は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1〜6の炭化水素基である。)
【0018】
エポキシ樹脂(A)は、一般式(1)で表される構造単位と、一般式(2)で表される構造単位と、を含む重合体からなる成分(A1)を含む。成分(A1)はエポキシ樹脂であって、成分(A1)を用いることにより、樹脂組成物の流動性及びハンドリング性を両立し、連続成形性、及び密着性のバランスを良好にできる。
【0019】
一般式(1)で表される構造単位から構成される樹脂は、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂である。フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂は、良好な硬化性、耐熱性、耐半田性を有する。
一方、流動性を向上させるために、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂の低分子量化をおこなうと、樹脂の軟化点が低下する。そのため、樹脂組成物の製造工程で樹脂同士が固着したり、装置内に付着し、ブロッキングを誘発しやすくなり、良好なハンドリング性が得られなくなる。また、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂を含む樹脂組成物の耐半田性評価で、リードフレームが酸化銅表面や金メッキ表面である場合には、密着性が不足する場合があった。
【0020】
一般式(2)で表される構造単位から構成される樹脂は、一般式(1)で表される構造単位から構成される樹脂と比較すると、類似の骨格構造を有しており、おおむね同様の特性を示すが、置換基R6を有することによって、さらに以下の特徴を発現する。一般式(2)の置換基R6は疎水性で、嵩高い構造であることから、樹脂組成物の特性としては、吸水率を低減でき、かつ、リフロー温度(240℃〜260℃)における弾性率を低減できる。そのため、半導体封止パッケージの耐半田性はより向上し、なかでも内部クラックの発生を抑制する効果を有する。さらに、高温域における弾性率が低減することにより、燃焼試験で速やかな発泡層が形成することができ、より良好な耐燃性が得られる。さらに、一般式(2)で表される構造単位から構成される樹脂は、一般に密着性を維持することが難しい酸化銅表面や金メッキ表面である場合でも、これらの金属と樹脂組成物の界面剥離を低減、防止する効果を有し、上述の金属リードフレームを用いた場合も、良好な耐半田性が得られる。かかる理由は定かではないが、置換基R1の電子供与性によることが理由の一つとして挙げられる。
一方、一般式(2)で表される構造単位のみから構成される樹脂を過剰に用いると、硬化速度が低下し、十分な硬度、強度の樹脂硬化物が得られない。そのため、樹脂硬化物を封止金型から離型する際に、金型のエアベント部で樹脂硬化物の微小な欠損が生じ、金型エアベント部に残留して、以降の成形で空気抜き不足に起因する充填不良が生じ、連続成形性が低下してしまう。また、銅表面への十分な密着性が得られなくなる。
【0021】
そこで、一般式(1)で表される構造単位と、一般式(2)で表される構造単位との重合体を用いることで、銅表面、酸化銅表面及び金メッキ表面のいずれに対しても良好な密着性が得られる。また、一般に流動性とハンドリング性とはトレードオフの関係にあるが、一般式(1)で表される構造単位と、一般式(2)で表される構造単位との重合体を用いることで、樹脂組成物の流動性を向上させながら、ハンドリング性も向上させることができる。これは、分子骨格中に部分的に置換基R6を含む構造をとることにより、分子の運動が束縛される結果、キシリレン骨格の剛直性が増し、軟化点が相対的に上昇するため、と推測される。さらに、それぞれの構造単位からなる樹脂を単独で用いた場合よりも、硬化性、連続成形性を良好にできる。この理由については、一般式(1)で表される構造単位によって、一般式(2)で表される構造単位の反応性の低さを補っていることが考えられる。また、一分子中に、柔軟な構造単位と剛直な構造単位とを有することにより、分子全体としての靭性が向上し、連続成形の際に、金型のエアベント部で樹脂硬化物の微小な欠損が生じる不具合が抑制され、連続成形性が向上していることも期待される。
【0022】
成分(A1)が1又は2以上の重合体からなり、電界脱離質量分析(Field Desorption Mass Spectrometry;FD−MS)による測定で、成分(A1)に該当する重合体の相対強度の合計が、エポキシ樹脂(A)の合計相対強度に対して10%以上、80%以下含まれることが好ましい。これにより、樹脂組成物の流動性及びハンドリング性を両立し、連続成形性、及び密着性のバランスをさらに良好にできる。
【0023】
エポキシ樹脂(A)は、一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位とを含む重合体からなる成分(A1)を含むものであるが、一般式(1)で表される構造単位は含むものの一般式(2)で表される構造単位は含まない重合体からなる成分(A2)や、一般式(2)で表される構造単位は含むものの一般式(1)で表される構造単位は含まない重合体からなる成分(A3)をさらに含むことができる。
【0024】
このようなエポキシ樹脂(A)全体における一般式(1)で表される構造単位の合計の数と、一般式(2)で表される構造単位の合計の数との比としては、30/70〜95/5であることが好ましく、40/60〜90/10であることがより好ましく、50/50〜85/15であることが特に好ましい。
【0025】
両構造単位の繰返し数の平均値での比が上記範囲にあることにより、耐燃性、ハンドリング性、連続成形性及び耐半田性のバランスに優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0026】
尚、エポキシ樹脂(A)全体における一般式(1)で表される構造単位の合計の数と、一般式(2)で表される構造単位の合計の数との比は、電界脱離質量分析(FD−MS)測定により求めることができる。検出質量(m/z)範囲50〜2000にて測定した、FD−MS分析で検出された各ピークについて、検出質量(m/z)から分子量、及び繰り返し数を得ることができ、さらに各ピークの強度比を含有割合(質量)として算術計算することによって、一般式(1)及び一般式(2)の各構造単位の含有比を求めることができる。あるいは、13C−NMRによっても同様の含有比を求めることができる。
【0027】
次に、エポキシ樹脂(A)の合成方法の一例について説明する。
エポキシ樹脂(A)は、後述する「前駆体フェノール樹脂(P)」を過剰のエピハロヒドリン類に溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下で50〜150℃、好ましくは60〜120℃で1〜10時間反応させる方法等が挙げられる。反応終了後、過剰のエピハロヒドリン類を留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解し、濾過し、水洗して無機塩を除去し、次いで溶剤を留去することにより、エポキシ樹脂(A)を得ることができる。本発明のエポキシ樹脂(A)の合成に用いられるエピハロヒドリンとしては、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、β−メチルエピクロルヒドリン、β−メチルエピブロモヒドリン、β−メチルエピヨードヒドリンを挙げることができる。
【0028】
以下、成分(A1)の前駆体フェノール樹脂を成分(P1)、成分(A2)の前駆体フェノール樹脂を成分(P2)、成分(A3)の前駆体フェノール樹脂を成分(P3)として説明する。
【0029】
このような複数の成分が混在した前駆体フェノール樹脂(P)において、例えば成分(P1)、成分(P2)及び成分(P3)を個別にエポキシ化して、エポキシ樹脂(A1)、エポキシ樹脂(A2)及びエポキシ樹脂(A3)を別々に得る方法と、成分(P1)、成分(P2)及び成分(P3)を混合して同時にエポキシ化して、エポキシ樹脂(A1)、エポキシ樹脂(A2)及びエポキシ樹脂(A3)の混合物を得る方法とがある。通常作業効率の観点から、これら成分(P1)、成分(P2)及び成分(P3)を同時にエポキシ化することが好ましい。
【0030】
前駆体フェノール樹脂(P)の重合方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェノール化合物、下記一般式(3)で表される化合物及び下記一般式(4)で表される化合物を共縮重合することにより得る方法(以下、「第1の製法」ともいう。)、下記一般式(5)で表されるアルキル置換芳香族化合物とアルデヒド類とを反応させた後、下記一般式(3)で表される化合物及びフェノール化合物を加えて共重合することにより得る方法(以下、「第2の製法」ともいう。)、などを挙げることができ、これらの重合方法を適宜組み合わせて重合してもよい。これらの中でも、第2の製法が原材料を安価で入手できるという点で好ましい。
【0031】
【化5】

ここで、一般式(3)において、R2、R3、R4及びR5は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1〜6の炭化水素基である。Xは、ハロゲン原子、水酸基又は炭素数1〜6のアルコキシ基である。R11及びR12は、互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基又は水素原子である。
【0032】
【化6】

ここで、一般式(4)において、R6は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、bは1〜4の整数である。R7、R8、R9及びR10は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1〜6の炭化水素基である。Xは、ハロゲン原子、水酸基又は炭素数1〜6のアルコキシ基である。R13及びR14は、互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基又は水素原子である。
【0033】
【化7】

ここで、一般式(5)において、R6は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、bは1〜4の整数である。
【0034】
前駆体フェノール樹脂(P)の製造に用いられるフェノール化合物としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、p−クレゾール、m−クレゾール、フェニルフェノール、エチルフェノール、n−プロピルフェノール、iso−プロピルフェノール、t−ブチルフェノール、キシレノール、メチルプロピルフェノール、メチルブチルフェノール、ジプロピルフェノール、ジブチルフェノール、ノニルフェノール、メシトール、2,3,5−トリメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、フェノール、o−クレゾールが好ましく、さらにフェノールが、エポキシ化して得られるエポキシ樹脂と硬化剤との反応性という観点から、より好ましい。前駆体フェノール樹脂(P)の製造において、これらのフェノール化合物は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
前駆体フェノール樹脂(P)の製造に用いられる一般式(3)で表される化合物中のR2、R3、R4及びR5における炭素数1〜6の炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2,4−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,4−ジメチルブチル基、4,4−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基、及びフェニル基等が挙げられる。
【0036】
前駆体フェノール樹脂(P)の製造に用いられる一般式(3)で表される化合物中の=CR11R12(アルキリデン基)としては、メチリデン基、エチリデン基、プロピリデン基、n−ブチリデン基、イソブチリデン基、t−ブチリデン基、n−ペンチリデン基、2−メチルブチリデン基、3−メチルブチリデン基、t−ペンチリデン基、n−ヘキシリデン基、1−メチルペンチリデン基、2−メチルペンチリデン基、3−メチルペンチリデン基、4−メチルペンチリデン基、2,2−ジメチルブチリデン基、2,3−ジメチルブチリデン基、2,4−ジメチルブチリデン基、3,3−ジメチルブチリデン基、3,4−ジメチルブチリデン基、4,4−ジメチルブチリデン基、2−エチルブチリデン基、1−エチルブチリデン基、及びシクロヘキシリデン基等が挙げられる。
【0037】
前駆体フェノール樹脂(P)の製造に用いられる一般式(3)で表される化合物中のXにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。また、前駆体フェノール樹脂(P)の製造に用いられる一般式(3)で表される化合物中のXにおける炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、t−ペントキシ基、n−ヘキトキシ基、1−メチルペントキシ基、2−メチルペントキシ基、3−メチルペントキシ基、4−メチルペントキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、2,4−ジメチルブトキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、3,4−ジメチルブトキシ基、4,4−ジメチルブトキシ基、2−エチルブトキシ基、及び1−エチルブトキシ基等が挙げられる。
【0038】
前駆体フェノール樹脂(P)の製造において、一般式(3)で表される化合物は、一種類を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。中でも、p−キシリレングリコールは、比較的低温で合成が可能であり、反応副生成物の留去や取り扱いが容易であるため好ましい。Xがハロゲン原子である場合、微量の水分の存在に起因して発生するハロゲン化水素を酸触媒として利用することができる。
【0039】
前駆体フェノール樹脂(P)の製造に用いられる一般式(4)で表される化合物中のR7、R8、R9、R10及びR6において、炭素数1〜6の炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2,4−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,4−ジメチルブチル基、4,4−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基、及びフェニル基等が挙げられる。
【0040】
前駆体フェノール樹脂(P)の製造に用いられる一般式(4)で表される化合物中の=CR13R14(アルキリデン基)としては、メチリデン基、エチリデン基、プロピリデン基、n−ブチリデン基、イソブチリデン基、t−ブチリデン基、n−ペンチリデン基、2−メチルブチリデン基、3−メチルブチリデン基、t−ペンチリデン基、n−ヘキシリデン基、1−メチルペンチリデン基、2−メチルペンチリデン基、3−メチルペンチリデン基、4−メチルペンチリデン基、2,2−ジメチルブチリデン基、2,3−ジメチルブチリデン基、2,4−ジメチルブチリデン基、3,3−ジメチルブチリデン基、3,4−ジメチルブチリデン基、4,4−ジメチルブチリデン基、2−エチルブチリデン基、1−エチルブチリデン基、及びシクロヘキシリデン基等が挙げられる。
【0041】
前駆体フェノール樹脂(P)の製造に用いられる一般式(4)で表される化合物中のXにおいて、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、t−ペントキシ基、n−ヘキトキシ基、1−メチルペントキシ基、2−メチルペントキシ基、3−メチルペントキシ基、4−メチルペントキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、2,4−ジメチルブトキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、3,4−ジメチルブトキシ基、4,4−ジメチルブトキシ基、2−エチルブトキシ基、及び1−エチルブトキシ基等が挙げられる。
【0042】
前駆体フェノール樹脂(P)の製造において、一般式(4)で表される化合物は、一種類を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。中でも、樹脂組成物を配合した場合の耐燃性と耐湿性のバランスという観点から、R6はメチル基が、bは1〜3であることが好ましい。Xがメトキシ基である場合は、反応副生成物の留去や取り扱いが容易であるため好ましく、Xがハロゲン原子である場合、微量の水分の存在に起因して発生するハロゲン化水素を酸触媒として利用することができる。
【0043】
前駆体フェノール樹脂(P)の製造に用いられる一般式(5)で表される化合物中のR6において、炭素数1〜6の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2,4−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,4−ジメチルブチル基、4,4−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基、及びフェニル基等が挙げられる。このようなアルキル置換芳香族化合物としては、例えば、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、o−ジエチルベンゼン、m−ジエチルベンゼン、p−ジエチルベンゼン、1,3,5−トリエチルベンゼン、1,2,3−トリエチルベンゼン、n−1,2,4−トリエチルベンゼン、クメン、o−シメン、m−シメン、p−シメン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等が挙げられる。これらの中でも、原料価格や樹脂組成物の耐燃性と耐湿性のバランスという観点からトルエン、ジメチルベンゼン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼンが好ましい。前駆体フェノール樹脂(P)の製造において、一般式(5)で表される化合物は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
前駆体フェノール樹脂(P)の製造に用いられるアルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらの中でも樹脂組成物の硬化性、原料コストの観点からホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが好ましい。
【0045】
前駆体フェノール樹脂(P)の合成方法については特に限定されるものではないが、一例について以下に説明する。
(第1の製法)
第1の製法の場合には、フェノール化合物1モルに対して、一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物とを合計0.1〜0.6モル、蟻酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩酸、硫酸、燐酸、酢酸、ルイス酸、などの酸性触媒0.005〜0.05モルを50〜200℃の温度で、窒素フローにより発生ガス及び水分を系外へ排出しながら、2〜20時間反応させ、反応終了後に残留するモノマーを減圧蒸留、水蒸気蒸留などの方法で留去することによって得ることができる。
【0046】
なお、エポキシ樹脂(A)における一般式(1)で表される構造単位の合計の数と一般式(2)で表される構造単位の合計の数と比率は、前駆体フェノール樹脂(P)の合成で使用した原料の比率をほぼ反映し、その配合比率の好ましい範囲としては、モル比で、一般式(3)で表される化合物:一般式(4)で表される化合物=20:80〜80:20を挙げることができる。
【0047】
第1の製法により得られる前駆体フェノール樹脂(P)は、下記一般式(6)で表され、mが0〜20の整数であり、nが0〜20の整数である重合体の混合物である。
【0048】
【化8】

ここで、R1は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、aは0〜3の整数である。R6は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、bは1〜4の整数である。R2、R3、R4、R5、R7、R8、R9及びR10は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1〜6の炭化水素基である。分子の末端は、水素原子又は置換もしくは無置換のヒドロキシフェニル基である。
【0049】
一般式(6)で表され、mが0〜20の整数であり、nが0〜20の整数である重合体の混合物におけるm及びnの値を平均値で記載すると、mの平均値は1〜7、より好ましくは1.2〜2.5であり、nの平均値は0.2〜2、より好ましくは0.4〜1である。mの平均値が上記下限値より小さい場合、得られる樹脂組成物のハンドリング性や樹脂組成物の硬化性が低下する恐れがある。また、mの平均値が上記上限値より大きい場合、前駆体フェノール樹脂(P)自体の粘度が高く、エポキシ化して得られるエポキシ樹脂(A)の粘度も高くなるため、エポキシ化後に調製して得られる樹脂組成物の流動性が低下する恐れがある。また、nの平均値が上記下限値より小さい場合、エポキシ化後に調製して得られる樹脂組成物の耐半田性及び連続成形時のタブレット搬送性が低下する恐れがある。また、nの平均値が上記上限値より大きい場合、樹脂組成物の流動性と硬化性が低下し、成形性が低下する恐れがある。なお、m及びnの値は、FD−MS分析法により求めることができる。一般式(6)の化合物をエポキシ化して得られたエポキシ樹脂におけるm及びnに相当する値についても、同様にFD−MS分析法により求めることができる。一般式(6)の化合物をエポキシ化して得られたエポキシ樹脂のFD−MS分析法により測定される分子量は、350以上、1600以下であり、好ましくは650以上、1100以下である。
【0050】
前駆体フェノール樹脂(P)自身及びエポキシ化したエポキシ樹脂(A)でのハンドリングの容易性、エポキシ化後に調製して得られる樹脂組成物としての流動性、硬化性、耐燃性及び耐半田性のバランスを考慮すると、成分(P1)は、前駆体フェノール樹脂(P)の全量を基準として5質量%以上、80質量%以下、より好ましくは8質量%以上、70質量%以下、特に好ましくは11質量%以上、50質量%以下であることが好ましい。
【0051】
第1の製法で得られる前駆体フェノール樹脂(P)中に含まれる成分(P1)の含有量を調整する方法として、例えば、一般式(4)で表される化合物の配合量を増やす、あるいは、一般式(3)で表される化合物を反応系に徐々に添加するなどの方法を採ることによって、成分(P1)の含有割合を高めることができる。
【0052】
(第2の製法)
第2の製法の場合には、一般式(5)で表されるアルキル置換芳香族化合物1モルに対して、アルデヒド類を1〜2.5モル、触媒としてパラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、硫酸などの強酸を0.1〜2.5モル加えて、100〜160℃の温度で、0.5〜6時間反応して「反応中間体」を得る。次いで、一般式(3)で表される化合物0.2〜5モル及びフェノール化合物1〜20モル、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩酸、硫酸、燐酸、酢酸、ルイス酸などの酸性触媒0.005〜0.05モルを加えて50〜200℃の温度にて窒素フローにより発生ガスを系外へ排出しながら、2〜20時間共縮合反応させ、反応終了後に残留するモノマー、水分及びアルコール成分などを減圧蒸留、水蒸気蒸留などの方法で留去することによって得ることができる。一般式(3)においてXがハロゲン原子である場合、微量の水分の存在に起因して発生するハロゲン化水素を酸触媒として用いることができる。
【0053】
また、上記の反応中間体に替わり、公知のアルキルベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂を用いてもよく、市販品として具体的には、フドー株式会社製ニカノールG、ニカノールL、ニカノールHなどのキシレン−ホルムアルデヒド樹脂、三菱ガス化学株式会社製ニカノールY5001、ニカノールY1001、ニカノールY101、ニカノールY51、ニカノールMなどのメシチレン−ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。これらの中でも、樹脂組成物の硬化性という観点からはキシレン−ホルムアルデヒド樹脂が好ましい。
【0054】
上記の反応中間体、あるいはアルキルベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂中には、アセタール結合、メチレンエーテル結合、メチロール基、メトキシ基、アセタール基等の酸素含有部位が存在し、酸性条件下で加熱することで、上述の酸素含有部位は分解して、ベンジルカチオンとなってフェノール化合物と反応することが出来る。反応中間体、あるいはアルキルベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂中の酸素原子の含有量が多いほど、一般式(2)の構造を良好に形成することができる。また、反応中間体、あるいはアルキルベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂中には、アセタール基及びアセタール結合の分解に伴って生成するアルデヒド類や、未反応のアルデヒド類が存在していてもよく、これらのアルデヒド類はフェノール化合物やアルキル置換芳香族と反応することができる。
【0055】
第2の製法により得られる前駆体フェノール樹脂(P)は、下記一般式(7)で表され、iが0〜20の整数であり、jが0〜20の整数であり、kが0〜20の整数である重合体の混合物である。
【0056】
【化9】

ここで、R1は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、aは0〜3の整数である。R6は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、bは1〜4の整数である。R2、R3、R4、R5、R7、R8、R9、R10、R15及びR16は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1〜6の炭化水素基である。分子の末端は、水素原子、置換もしくは無置換のヒドロキシフェニル基又は炭素数1〜6の炭化水素基が1〜4個置換したフェニル基である。
【0057】
一般式(7)で表され、iが0〜20の整数であり、jが0〜20の整数であり、kが0〜20の整数である重合体の混合物におけるi、j及びkの値を平均値で記載すると、iの平均値は0.5〜7、より好ましくは1〜4であり、jの平均値は0.2〜3、より好ましくは0.3〜2であり、kの平均値は0〜5、より好ましくは0〜3である。iが上記下限値より小さい場合、得られる樹脂組成物の硬化性が低下する恐れがある。iが上記上限値より大きい場合、前駆体フェノール樹脂(P)自体の粘度が高く、エポキシ化して得られるエポキシ樹脂(A)の粘度も高くなるため、エポキシ化後に調製して得られる樹脂組成物の流動性が低下する恐れがある。また、jが上記下限値より小さい場合、前駆体フェノール樹脂(P)及びエポキシ化したエポキシ樹脂(A)は固着しやすく、エポキシ化後に調製して得られる樹脂組成物のハンドリング性、連続成形性及び耐半田クラック性が低下する恐れがある。jが上記上限値より大きい場合、エポキシ化後に調製して得られる樹脂組成物の流動性と硬化性が低下する恐れがある。また、kが上記下限値より小さい場合、硬化性が低下する恐れがある。kが上記上限値より大きい場合、エポキシ化後に調製して得られる樹脂組成物の耐燃性が低下する恐れがある。なお、i、j及びkの値は、FD−MS分析法により求めることができる。一般式(7)の化合物をエポキシ化して得られたエポキシ樹脂におけるi、j及びkに相当する値についても、同様にFD−MS分析法により求めることができる。一般式(7)の化合物をエポキシ化して得られたエポキシ樹脂のFD−MS分析法により測定される分子量は、500以上、1300以下であり、好ましくは600以上、1200以下である。
【0058】
前駆体フェノール樹脂(P)自身及びエポキシ化したエポキシ樹脂(A)でのハンドリングの容易性、エポキシ化後に調製して得られる樹脂組成物としての流動性、硬化性、耐燃性及び耐半田性のバランスを考慮すると、成分(P1)は、第2の製法により得られる前駆体フェノール樹脂(P)の全量を基準として5質量%以上、80質量%以下、より好ましくは8質量%以上、70質量%以下、特に好ましくは11質量%以上、50質量%以下であることが好ましい。
【0059】
ここで、第2の製法で得られる前駆体フェノール樹脂(P)中に、成分(P1)の含有割合を高める手法としては、例えば、一般式(3)で表される化合物について、配合量を低減する、又は、反応系に徐々に添加するなどの方法を挙げることができる。
【0060】
第2の製法で得られる前駆体フェノール樹脂(P)中には、成分(P1)、(P2)及び(P3)以外の成分(一般式(7)でi=0、j=0である成分)を副生成物として含み得るが、前駆体フェノール樹脂(P)自身及びエポキシ化したエポキシ樹脂(A)としてのハンドリング性やエポキシ化後に調製して得られる樹脂組成物の硬化性、流動性及び耐燃性を損なわない範囲でこれらの副生成物を含んでもよい。また、上述の副生成物の含有量を低減させる手法としては、ホルムアルデヒド配合量を低減、又は反応中間体中に残留する未反応のアルデヒド類を再結晶又は減圧などの公知の方法で除去する方法、などが挙げられる。
【0061】
第2の製法で得られる前駆体フェノール樹脂(P)中には2核体成分が含まれることがある。これらの含有割合について、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)の面積法により求められる含有量は20%以下が好ましく、より好ましくは15%以下である。2核体量が上記上限値より大きい場合、前駆体フェノール樹脂(P)自身及びエポキシ化したエポキシ樹脂(A)のブロッキングが生じやすく、エポキシ化後に調製した樹脂組成物のハンドリング性、連続成形性、硬化性が低下する。上述の2核体を低減する方法としては、フェノールの反応後に、水蒸気蒸留あるいは減圧蒸留において、減圧度を高める、あるいは蒸留処理時間を長くするなどにより、2核体成分を低減することができる。
【0062】
ここで、より低粘度の前駆体フェノール樹脂(P)を得るためには、フェノール化合物の配合量を増やす、ホルムアルデヒド成分を減らす、酸触媒の配合量を減らす、ハロゲン化水素ガスが発生する場合にはこれを窒素気流などで速やかに系外に排出する、共縮合温度を下げる、などの手法によって高分子量成分の生成を低減させる方法が使用できる。この場合、反応の進行は、一般式(3)、(4)、反応中間体とフェノールとの反応で副生成する水、ハロゲン化水素、アルコールのガスの発生状況や、あるいは反応途中の生成物をサンプリングしてゲルパーミエーションクロマトグラフ法により分子量で確認することもできる。
【0063】
本発明で用いられる前駆体フェノール樹脂(P)は、具体的には、下記1)、2)の成分を必須成分とし、下記3)〜6)の成分を含むことができる。
【0064】
1)フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂と同様の構造であって、フェニレン骨格の水素原子の一部が炭素数1〜6の炭化水素基で置換された樹脂
2)フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂とフェノールノボラック型樹脂を共重合したフェノール樹脂と同様の構造であって、フェニレン骨格中に含まれるベンゼン環の水素原子の一部が炭素数1〜6の炭化水素基で置換された樹脂
3)フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂
4)フェノールノボラック型樹脂
5)フェニレン骨格を有するフェノールアラルキルとフェノールノボラック型を共重合したフェノール樹脂
6)上記の1)〜5)のフェノール樹脂で、分子の末端部又はヒドロキシフェニル基の置換基に、炭素数1〜6の炭化水素基が1〜4個置換したフェニル基が、メチレン基又はパラキシリレン基を介して結合した重合体。
【0065】
上述の複数の構造の重合体を含む前駆体フェノール樹脂(P)をエポキシ化したエポキシ樹脂(A)により、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂よりも、低粘度でありながらも固着し難いことでハンドリング性が良好であり、かつ硬化性を損なうことなく、耐半田性、耐燃性に優れ、良好な連続成形性をも発現することができる。とりわけ第2の製法の場合には、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂よりも原料コストが安く、低コストで製造することができる。
【0066】
一般式(6)のm、nの値及び一般式(7)のi、j、kの値は、FD−MS測定により求めることができる。検出質量(m/z)範囲50〜2000にて測定した、FD−MS分析で検出された各ピークについて、検出質量(m/z)からは分子量、及び繰り返し数(m、n及びi、j、k)の値を得ることができ、さらに各ピークの強度比を含有割合(質量)として算術計算することによってm、nの各平均値及びi、j、kの各平均値を求めることができる。また、前駆体フェノール樹脂(P)をエポキシ化して得られるエポキシ樹脂(A)についても、上記と同様にして、m、n及びi、j、kに相当する値の平均値を求めることができる。
【0067】
前駆体フェノール樹脂(P)がフェノールノボラック型樹脂を含む場合、前駆体フェノール樹脂(P)中のフェノールノボラック型樹脂の含有量は、前駆体フェノール樹脂(P)全量に対して、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。上限値が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物は、良好な耐燃性と耐半田性を有する。
【0068】
本発明の半導体封止用樹脂組成物におけるエポキシ樹脂(A)の配合量は、半導体封止用樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上であり、さらに好ましくは1.5質量%以上である。下限値が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物は良好な流動性を有する。また、半導体封止用樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)の配合量は、半導体封止樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9質量%以下であり、さらに好ましくは8質量%以下である。上限値が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物は良好な耐半田性と硬化性を有する。
【0069】
本発明の半導体封止用樹脂組成物では、エポキシ樹脂(A)を用いることによる効果が損なわれない範囲で、他のエポキシ樹脂を用いることができる。
【0070】
例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジヒドロアントラセンジオール型エポキシ樹脂等の結晶性エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ヒドロキシナフタレン及び/又はジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ヒドロキシナフタレンまたはジヒドロキシナフタレン等のナフトール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド化合物と、を酸触媒下において反応させて得られるノボラック型ナフトール樹脂をエポキシ化して得られる樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;メトキシナフタレン骨格を有するノボラック型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのエポキシ樹脂は、得られる半導体封止用樹脂組成物の耐湿信頼性の観点から、イオン性不純物であるNaイオンやClイオンを極力含まないことが好ましい。また、半導体樹脂組成物の硬化性の観点から、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100g/eq以上、500g/eq以下であることが好ましい。
【0071】
さらにその中でも、流動性の観点ではビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂等が好ましく、耐半田性の観点ではビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、メトキシナフタレン骨格を有するノボラック型エポキシ樹脂等が好ましい。また、片面封止型の半導体装置における低反り性の観点ではトリフェノールメタン型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ノボラック型ナフトール樹脂をエポキシ化して得られる樹脂、ジヒドロアントラセンジオール型エポキシ樹脂等が好ましい。このようなエポキシ樹脂であれば、エポキシ樹脂(A)と組み合わせて用いることにより、流動性を向上させつつ、ハンドリング性、耐半田性、耐燃性及び連続成形性のバランスが安定的に良好となる作用効果が得られる。
【0072】
このような他のエポキシを併用する場合において、エポキシ樹脂(A)の配合割合の下限値としては、全エポキシ樹脂に対して、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。配合割合が上記範囲内であると、樹脂組成物の流動性及びハンドリング性を両立し、連続成形性、及び密着性のバランスを向上させる効果を得ることができる。
【0073】
なお、後述する硬化剤としてのフェノール樹脂と、エポキシ樹脂とは、全エポキシ樹脂のエポキシ基数(EP)と、全フェノール樹脂のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)が、0.8以上、1.3以下となるように配合することが好ましい。当量比が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物を成形する際、十分な硬化特性を得ることができる。
【0074】
[フェノール樹脂系硬化剤(B)]
次に、フェノール樹脂系硬化剤(B)について説明する。フェノール樹脂系硬化剤(B)は、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物、等が挙げられるほか、エポキシ樹脂(A)の前駆体フェノールとして用いられる、一般式(6)、(7)で表されるフェノール樹脂等のフェノール樹脂(P)を用いてもよく、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。このようなフェノール樹脂系硬化剤(B)により、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスが良好となる。特に、硬化性の点から水酸基当量は90g/eq以上、250g/eq以下のものが好ましい。
【0075】
本発明においては、さらに他の硬化剤を併用することができる。併用できる硬化剤としては、例えば重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、縮合型の硬化剤等を挙げることができる。
【0076】
重付加型の硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m−フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)などの芳香族酸無水物などを含む酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、フェノールポリマーなどのポリフェノール化合物;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルなどのポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類などが挙げられる。
【0077】
触媒型の硬化剤としては、例えば、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP−30)などの3級アミン化合物;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール(EMI24)などのイミダゾール化合物;BF3錯体などのルイス酸などが挙げられる。
【0078】
縮合型の硬化剤としては、例えば、メチロール基含有尿素樹脂のような尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂のようなメラミン樹脂などが挙げられる。
【0079】
このような他の硬化剤を併用する場合において、フェノール樹脂系硬化剤(B)の配合割合の下限値としては、全硬化剤に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。配合割合が上記範囲内であると、耐燃性、耐半田性を保持しつつ、良好な流動性を発現させることができる。
【0080】
硬化剤全体の配合割合の下限値については、特に限定されるものではないが、全樹脂組成物中に、0.8質量%以上であることが好ましく1.5質量%以上であることがより好ましい。配合割合の下限値が上記範囲内であると、充分な流動性を得ることができる。また、硬化剤全体の配合割合の上限値についても、特に限定されるものではないが、全樹脂組成物中に、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。配合割合の上限値が上記範囲内であると、良好な耐半田性を得ることができる。
【0081】
[無機充填剤(C)]
本発明の半導体封止用樹脂組成物に用いられる無機充填剤(C)としては、当該分野で一般的に用いられる無機充填剤を使用することができる。例えば、溶融シリカ、球状シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミ等が挙げられる。無機充填剤(C)の粒径は、金型キャビティへの充填性の観点から、0.01μm以上、150μm以下であることが望ましい。
【0082】
半導体封止用樹脂組成物中の無機充填剤(C)の量は、半導体封止用樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは83質量%以上であり、さらに好ましくは86質量%以上である。下限値が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や、強度の低下が低減でき、したがって良好な耐半田クラック性を有する硬化物を得ることができる。また、半導体封止用樹脂組成物中の無機充填剤(C)の量は、半導体封止用樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。上限値が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物は良好な流動性を有するとともに、良好な成形性を備える。
【0083】
なお、後述する、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物や、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、三酸化アンチモン等の無機系難燃剤を用いる場合には、これらの無機系難燃剤と上記無機充填剤の合計量を上記範囲内とすることが望ましい。
【0084】
[その他の成分]
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、硬化促進剤(D)を含んでもよい。硬化促進剤(D)は、エポキシ樹脂のエポキシ基とフェノール樹脂系硬化剤(B)の水酸基との反応を促進するものであればよく、一般に使用される硬化促進剤を用いることができる。
【0085】
硬化促進剤(D)の具体例としては、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、ベンジルジメチルアミン、2−メチルイミダゾール等の窒素原子含有化合物が挙げられる。これらのうち、硬化性の観点からはリン原子含有化合物が好ましく、流動性と硬化性のバランスの観点からは、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有する触媒がより好ましい。流動性という点を考慮するとテトラ置換ホスホニウム化合物が特に好ましく、また耐半田性の観点では、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物が特に好ましく、また潜伏的硬化性という点を考慮すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が特に好ましい。また、連続成形性の観点では、テトラ置換ホスホニウム化合物が好ましい。
【0086】
本発明の半導体封止用樹脂組成物で用いることができる有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
【0087】
本発明の半導体封止用樹脂組成物で用いることができるテトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば下記一般式(8)で表される化合物等が挙げられる。
【0088】
【化10】

一般式(8)において、Pはリン原子を表し、R17、R18、R19及びR20は、それぞれ独立して芳香族基又はアルキル基を表し、Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸のアニオンを表し、AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸を表し、x及びyは1〜3の整数であり、zは0〜3の整数であり、かつx=yである。
【0089】
一般式(8)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られるがこれに限定されるものではない。まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで水を加えると、一般式(8)で表される化合物を沈殿させることができる。一般式(8)で表される化合物において、合成時の収得率と硬化促進効果のバランスに優れるという観点では、リン原子に結合するR17、R18、R19及びR20がフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール化合物であり、かつAは該フェノール化合物のアニオンであるのが好ましい。
【0090】
本発明の半導体封止用樹脂組成物で用いることができるホスホベタイン化合物としては、例えば下記一般式(9)で表される化合物等が挙げられる。
【0091】
【化11】

一般式(9)において、X1は炭素数1〜3のアルキル基を表し、Y1はヒドロキシル基を表し、fは0〜5の整数であり、gは0〜4の整数である。
【0092】
一般式(9)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られる。まず、第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。しかしこれに限定されるものではない。
【0093】
本発明の半導体封止用樹脂組成物で用いることができるホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(10)で表される化合物等が挙げられる。
【0094】
【化12】

一般式(10)において、Pはリン原子を表し、R21、R22及びR23は、互いに独立して、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を表し、R24、R25及びR26は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基を表し、R24とR25は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0095】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の芳香環に無置換又はアルキル基、アルコキシル基等の置換基が存在するものが好ましく、アルキル基、アルコキシル基等の置換基としては1〜6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0096】
またホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、o−ベンゾキノン、p−ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられ、中でもp−ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
【0097】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては、有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより付加物を得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
【0098】
一般式(10)で表される化合物において、リン原子に結合するR21、R22及びR23がフェニル基であり、かつR24、R25及びR26が水素原子である化合物、すなわち1,4−ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物が樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
【0099】
本発明の半導体封止用樹脂組成物で用いることができるホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば下記式(11)で表される化合物等が挙げられる。
【0100】
【化13】

一般式(11)において、Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表す。R27、R28、R29及びR30は、互いに独立して、芳香環又は複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、X2は、基Y2及びY3と結合する有機基である。X3は、基Y4及びY5と結合する有機基である。Y2及びY3は、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y2及びY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。Y4及びY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y4及びY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。X2、及びX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y2、Y3、Y4、及びY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。Z1は芳香環又は複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。
【0101】
一般式(11)において、R27、R28、R29及びR30としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−オクチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等の置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基がより好ましい。
【0102】
また、一般式(11)において、X2は、Y2及びY3と結合する有機基である。同様に、X3は、基Y4及びY5と結合する有機基である。Y2及びY3はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y2及びY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にY4及びY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y4及びY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基X2及びX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y2、Y3、Y4、及びY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。このような一般式(11)中の−Y2−X2−Y3−、及びY4−X3−Y5−で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものであり、プロトン供与体としては、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,2'−ビフェノール、1,1'−ビ−2−ナフトール、サリチル酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2−ヒドロキシベンジルアルコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−プロパンジオール及びグリセリン等が挙げられる。これらの中でも、原料入手の容易さと硬化促進効果のバランスという観点では、カテコール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
【0103】
また、一般式(11)中のZ1は、芳香環又は複素環を有する有機基又は脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基及びオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基及びビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基及びビニル基等の反応性置換基などが挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
【0104】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物の製造方法としては、メタノールを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物、2,3−ジヒドロキシナフタレン等のプロトン供与体を加えて溶かし、次に室温攪拌下ナトリウムメトキシド−メタノール溶液を滴下する。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。しかし、これに限定されるものではない。
【0105】
本発明の半導体封止用樹脂組成物に用いることができる硬化促進剤(D)の配合割合の下限値は、全樹脂組成物中0.1質量%以上であることが好ましい。硬化促進剤(D)の配合割合の下限値が上記範囲内であると、充分な硬化性を得ることができる。また、硬化促進剤(D)の配合割合の上限値は、全樹脂組成物中1質量%以下であることが好ましい。硬化促進剤(D)の配合割合の上限値が上記範囲内であると、充分な流動性を得ることができる。
【0106】
本発明では、さらに芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(E)(以下、単に「化合物(E)」とも称する)を用いることができる。芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(E)は、これを用いることにより、エポキシ樹脂(A)とフェノール樹脂系硬化剤(B)との架橋反応を促進させる硬化促進剤(D)として、潜伏性を有しないリン原子含有硬化促進剤を用いた場合であっても、樹脂組成物の溶融混練中での反応を抑えることができ、安定して樹脂組成物を得ることができる。また、化合物(E)は、樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させる効果も有するものである。化合物(E)としては、下記一般式(12)で表される単環式化合物、又は下記一般式(13)で表される多環式化合物等を用いることができ、これらの化合物は水酸基以外の置換基を有していてもよい。
【0107】
【化14】

一般式(12)において、R31及びR35のいずれか一方が水酸基であり、一方が水酸基の場合、他方は水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基であり、R32、R33及びR34は、水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基である。
【0108】
【化15】

一般式(13)において、R36及びR42のいずれか一方が水酸基であり、一方が水酸基の場合、他方は水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基であり、R37、R38、R39、R40及びR41は、水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基である。
【0109】
一般式(12)で表される単環式化合物の具体例としては、例えば、カテコール、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル又はこれらの誘導体が挙げられる。また、一般式(13)で表される多環式化合物の具体例としては、例えば、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン及びこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、流動性と硬化性の制御のしやすさから、芳香環を構成する2個の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物が好ましい。また、混練工程での揮発を考慮した場合、母核は低揮発性で秤量安定性の高いナフタレン環である化合物とすることがより好ましい。この場合、化合物(E)を、具体的には、例えば、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン及びその誘導体等のナフタレン環を有する化合物とすることができる。これらの化合物(E)は1種類を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0110】
かかる化合物(E)の配合割合の下限値は、全樹脂組成物中に0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.03質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上である。化合物(E)の配合割合の下限値が上記範囲内であると、樹脂組成物の充分な低粘度化と流動性向上効果を得ることができる。また、化合物(E)の配合割合の上限値は、全樹脂組成物中に1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。化合物(E)の配合割合の上限値が上記範囲内であると、樹脂組成物の硬化性の低下や硬化物物性の低下を引き起こす恐れが少ない。
【0111】
本発明の半導体封止用樹脂組成物においては、エポキシ樹脂(A)と無機充填剤(C)との密着性を向上させるため、シランカップリング剤等のカップリング剤(F)を添加することができる。その例としては特に限定されるものではないが、エポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン等が挙げられ、また、2級アミノ基を有するシランカップリング剤を含んでもよい。エポキシ樹脂(A)と無機充填剤(C)との間で反応し、エポキシ樹脂(A)と無機充填剤(C)の界面強度を向上させるものであればよい。また、シランカップリング剤は、前述の化合物(E)と併用することで、樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させるという化合物(E)の効果を高めることもできるものである。
【0112】
エポキシシランとしては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、アミノシランとしては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−6−(アミノヘキシル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(3−(トリメトキシシリルプロピル)−1,3−ベンゼンジメタナン等が挙げられる。また、ウレイドシランとしては、例えば、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。アミノシランの1級アミノ部位をケトン又はアルデヒドを反応させて保護した潜在性アミノシランカップリング剤として用いてもよい。また、メルカプトシランとしては、例えば、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランのほか、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドのような熱分解することによってメルカプトシランカップリング剤と同様の機能を発現するシランカップリング剤など、が挙げられる。またこれらのシランカップリング剤は予め加水分解反応させたものを配合してもよい。これらのシランカップリング剤は1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0113】
本発明の場合、耐半田性と連続成形性のバランスという観点では、メルカプトシランが好ましく、流動性の観点では、アミノシランが好ましく、シリコンチップ表面のポリイミドや基板表面のソルダーレジストなどの有機部材への密着性という観点ではエポキシシランが好ましい。
【0114】
本発明の半導体封止用樹脂組成物に用いることができるシランカップリング剤等のカップリング剤(F)の配合割合の下限値としては、全樹脂組成物中0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上である。シランカップリング剤等のカップリング剤(F)の配合割合の下限値が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂(A)と無機充填剤(C)との界面強度が低下することがなく、半導体装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。また、シランカップリング剤等のカップリング剤(F)の配合割合の上限値としては、全樹脂組成物中1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.6質量%以下である。シランカップリング剤等のカップリング剤(F)の配合割合の上限値が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂(A)と無機充填剤(C)との界面強度が低下することがなく、半導体装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。また、シランカップリング剤等のカップリング剤(F)の配合割合が上記範囲内であれば、樹脂組成物の硬化物の吸水性が増大することがなく、半導体装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。
【0115】
本発明の半導体封止用樹脂組成物においては、難燃性を向上させるために無機難燃剤(G)を添加することができる。なかでも燃焼時に脱水、吸熱することによって燃焼反応を阻害する金属水酸化物、又は複合金属水酸化物が燃焼時間の短縮することができる点で好ましい。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ジルコニアを挙げることができる。複合金属水酸化物としては、2種以上の金属元素を含むハイドロタルサイト化合物であって、少なくとも一つの金属元素がマグネシウムであり、かつ、その他の金属元素がカルシウム、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、又は亜鉛から選ばれる金属元素であればよく、そのような複合金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム・亜鉛固溶体が市販品で入手が容易である。なかでも、耐半田性と連続成形性のバランスの観点からは水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム・亜鉛固溶体が好ましい。無機難燃剤(G)は、単独で用いても、2種以上用いてもよい。また、連続成形性への影響を低減する目的から、シランカップリング剤などの珪素化合物やワックスなどの脂肪族系化合物などで表面処理を行って用いてもよい。
【0116】
本発明の半導体封止用樹脂組成物では、前述した成分以外に、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン等の着色剤;カルナバワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸やステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸及びその金属塩類若しくはパラフィン等の離型剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム等の低応力添加剤を適宜配合してもよい。
【0117】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、フェノール樹脂系硬化剤(B)及び無機充填剤(C)、ならびに上述のその他の添加剤等を、例えば、ミキサー等を用いて常温で均一に混合し、その後、必要に応じて、加熱ロール、ニーダー又は押出機等の混練機を用いて溶融混練し、続いて必要に応じて冷却、粉砕することにより、所望の分散度や流動性等に調整することができる。
【0118】
[半導体装置]
次に、本発明の半導体装置について説明する。本発明の半導体封止用樹脂組成物を用いて半導体装置を製造する方法としては、例えば、半導体素子を搭載したリードフレーム又は回路基板等を金型キャビティ内に設置した後、半導体封止用樹脂組成物をトランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の成形方法で成形、硬化させることにより、この半導体素子を封止する方法が挙げられる。
【0119】
封止される半導体素子としては、例えば、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、固体撮像素子等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
リードフレームの材料は、特に限定されず、銅、銅合金、42アロイ(Fe−42%Ni合金)等用いることができる。リードフレームの表面は、例えば、純銅のストライクメッキ、銀メッキ(主にインナーリード先端のワイヤ接合部)、又はニッケル/パラジウム/金多層メッキ(PPF(Palladium Pre−Plated Frame))等のメッキが施されていてもよい。その結果、密着性が問題となる部分のリードフレーム表面には、銅、銅合金、金又は42アロイが存在することとなる。従来は、リードフレームとの密着性の観点から、リードフレームの金属の種類に合わせて半導体封止用樹脂組成物を選択して用いていたが、本発明における半導体封止用樹脂組成物は上記の成分(A1)を含有しているため、リードフレームの表面の金属層の種類の選択の余地が広がり、プロセスマージンが向上する。
【0121】
得られる半導体装置の形態としては、例えば、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)、プラスチック・リード付きチップ・キャリヤ(PLCC)、クワッド・フラット・パッケージ(QFP)、ロー・プロファイル・クワッド・フラット・パッケージ(LQFP)、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)、薄型スモール・アウトライン・パッケージ(TSOP)、薄型クワッド・フラット・パッケージ(TQFP)、テープ・キャリア・パッケージ(TCP)、ボール・グリッド・アレイ(BGA)、チップ・サイズ・パッケージ(CSP)、マトリクス・アレイ・パッケージ・ボール・グリッド・アレイ(MAPBGA)、チップ・スタックド・チップ・サイズ・パッケージ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0122】
また、半導体封止用樹脂組成物のエポキシ樹脂(A)に含まれる成分(A1)はR6(炭素数1〜6の炭化水素基)を有するため、吸湿性を低くできる。そのため、BGAなどの有機基板を用いた場合の耐半田性を向上できるようになる。
【0123】
半導体封止用樹脂組成物のトランスファーモールドなどの成形方法により半導体素子が封止された半導体装置は、そのまま、或いは80℃〜200℃程度の温度で、10分〜10時間程度の時間をかけてこの樹脂組成物を完全硬化させた後、電子機器等に搭載される。
【0124】
図1は、本発明に係る半導体封止用樹脂組成物を用いた半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。ダイパッド3上に、ダイボンド材硬化体2を介して半導体素子1が固定されている。半導体素子1の電極パッドとリードフレーム5との間はワイヤ4によって接続されている。半導体素子1は、半導体封止用樹脂組成物の硬化体6によって封止されている。
【0125】
図2は、本発明に係る半導体封止用樹脂組成物を用いた片面封止型の半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。基板8上にソルダーレジスト7及びダイボンド材硬化体2を介して半導体素子1が固定されている。半導体素子1の電極パッドと基板8上の電極パッドとの間はワイヤ4によって接続されている。本発明に係る半導体封止用樹脂組成物の硬化体6によって、基板8の半導体素子1が搭載された片面側のみが封止されている。基板8上の電極パッドは基板8上の非封止面側の半田ボール9と内部で接合されている。かかる半導体装置は、本発明に係る半導体封止用樹脂組成物により半導体素子1が封止されているため、信頼性に優れ、また生産性が良好となるため、経済的に得られる。
【実施例】
【0126】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0127】
後述する実施例及び比較例で得られた半導体封止用樹脂組成物に用いられる各成分について説明する。なお、特に記載しない限り、各成分の配合量は、質量部とする。
【0128】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂1:セパラブルフラスコに撹拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入口を装着し、キシレンホルムアルデヒド樹脂(フドー株式会社製、ニカノールG、数平均分子量560、酸素含有量15質量%)100質量部、α,α'−ジクロロ−p−キシレン(東京化成工業株式会社製試薬、融点100℃、分子量175、純度98%)306質量部、フェノール(関東化学株式会社製特級試薬、フェノール、融点40.9℃、分子量94、純度99.3%)405質量部、蒸留水1質量部を加えた後、窒素置換及び加熱を開始し、フェノールの溶解に伴い攪拌を開始した。さらに加熱し、系内の温度を140〜150℃の温度範囲を維持しながら5時間攪拌した。上記の反応によって系内に発生した塩酸ガスは、窒素気流によって系外へ排出した。反応終了後、150℃2mmHgの減圧条件で未反応成分、副生した水分、メタノールを留去した。ついでトルエン200質量部を添加し、均一溶解させた後、分液漏斗に移し、蒸留水150質量部を加えて振とうした後に、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った後、油層を125℃減圧処理することによってトルエン、残留未反応成分、副生成分などの揮発成分を留去し、フェノール樹脂前駆体1(水酸基当量183、軟化点76℃)を得た。セパラブルフラスコに撹拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入口を装着し、上述のフェノール樹脂前駆体1を100質量部、エピクロルヒドリン305質量部、ジメチルスルホキシド60質量部を加えた。45℃に加熱して溶解させた後、水酸化ナトリウム(固形細粒状、純度99%試薬)22.5質量部を2時間かけて添加し、50℃に昇温して2時間、さらに70℃に昇温して2時間反応させた。反応後、蒸留水150質量部を加えて振とうした後に、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った後、油層を125℃2mmHgの減圧条件でエピクロルヒドリン及びジメチルスルホキシドを留去した。得られた固形物にメチルイソブチルケトン250質量部を加えて溶解し、70℃に加熱し、30質量%水酸化ナトリウム水溶液13質量部を1時間かけて添加し、さらに1時間反応した後、静置し、水層を棄却した。油層に蒸留水150質量部を加えて水洗操作を行い、洗浄水が中性になるまで同様の水洗操作を繰り返し行った後、加熱減圧によってメチルイソブチルケトンを留去し、一般式(14)で表されるエポキシ樹脂1(式(14)におけるpが0〜20の整数、qが0〜20の整数、rが0〜20の整数である重合体の混合物であって、p、q、rの平均値は、それぞれ1.8、0.3、0.6である。エポキシ当量250、軟化点56℃、150℃におけるICI粘度0.9dPa・s)を得た。
【0129】
エポキシ樹脂1のGPCチャートを図3に、FD−MSチャートを図4に示す。たとえば、図4のFD−MS分析のm/z=682は、式(14)の(p,q,r)=(1,1,0)、左末端が水素原子、右末端がヒドロキシフェニル基である成分に、m/z=638は、式(14)の(p,q,r)=(1,1,0)、左末端が水素原子、右末端がm−キシレンである成分に相当し、エポキシ樹脂1は一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位とを含む重合体からなる成分(A1)を含むものであることが確認できた。
【0130】
また、エポキシ樹脂1のゲルパーミエーションクロマトグラフの面積法による測定で、2核体量は4.4%、FD−MSの相対強度比による測定で、成分(A1)に該当する重合体の合計量、成分(A2)に該当する重合体の合計量、成分(A3)に該当する重合体の合計量は、相対強度比でそれぞれ、29%、64%、7%であった。また、エポキシ樹脂1全体における一般式(1)で表される構造単位の合計の数と、一般式(2)で表される構造単位の合計の数との比は、85/15であった。
【0131】
エポキシ樹脂2:エポキシ樹脂1の合成において、フェノールの配合量を457質量部に、エピクロルヒドリンの配合量を310質量部に、変更した以外は、エポキシ樹脂1と同様の合成操作を行い、中間体としてフェノール樹脂前駆体2(水酸基当量179、軟化点71℃)を、また、最終的には式(14)に示すエポキシ樹脂2(式(14)におけるpが0〜20の整数、qが0〜20の整数、rが0〜20の整数である重合体の混合物であって、p、q、rの平均値は、それぞれ1.7、0.3、0.6である。エポキシ当量246、軟化点53℃、150℃におけるICI粘度0.7dPa・s)を得た。
【0132】
エポキシ樹脂2のGPCチャートを図5に、FD−MSチャートを図6に示す。たとえば、図6のFD−MS分析のm/z=682は、式(14)の(p,q,r)=(1,1,0)、左末端が水素原子、右末端がヒドロキシフェニル基である成分に、m/z=638は、式(14)の(p,q,r)=(1,1,0)、左末端が水素原子、右末端がm−キシレンである成分に相当し、エポキシ樹脂2は一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位とを含む重合体からなる成分(A1)を含むものであることが確認できた。
【0133】
また、エポキシ樹脂2のゲルパーミエーションクロマトグラフの面積法による測定で、2核体量は5.6%、FD−MSの相対強度比による測定で、成分(A1)に該当する重合体の合計量、成分(A2)に該当する重合体の合計量、成分(A3)に該当する重合体の合計量は、相対強度比でそれぞれ、30%、64%、6%であった。また、エポキシ樹脂2全体における一般式(1)で表される構造単位の合計の数と、一般式(2)で表される構造単位の合計の数との比は、85/15であった。
【0134】
【化16】

【0135】
エポキシ樹脂3:ビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社、YX4000K。エポキシ当量185、軟化点107℃。)
【0136】
エポキシ樹脂4:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社、YL6810。エポキシ当量172、軟化点45℃。)
【0137】
エポキシ樹脂5:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、YSLV−80XY。エポキシ当量190、軟化点80℃。)
【0138】
エポキシ樹脂6:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製、N−660。エポキシ当量210、軟化点62℃。)
【0139】
エポキシ樹脂7:ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、NC3000。エポキシ当量276、軟化点58℃。)
【0140】
エポキシ樹脂8:エポキシ樹脂1の合成において、フェノール樹脂前駆体1に替わり、フェノール樹脂(フドー株式会社製、ザイスターGP−90。水酸基当量197、軟化点86℃。)100質量部に、エピクロルヒドリンの配合量を290質量部に、ジメチルスルホキシドの配合量を58質量部に、変更した以外は、エポキシ樹脂1と同様の合成操作を行い、式(15)に示すエポキシ樹脂8(エポキシ当量262、軟化点67℃、150℃におけるICI粘度2.4Pa・s。)を得た。このものは、式(2)の繰り返し単位は有するが、式(1)の繰り返し単位を含まない構造である。式(15)中、zは1〜40の整数である。
【0141】
【化17】

【0142】
エポキシ樹脂9:フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、NC2000。エポキシ当量238、軟化点52℃、150℃におけるICI粘度0.9Pa・s。)。このものは、式(1)の繰り返し単位は有するが、式(2)の繰り返し単位を含まない構造である。
【0143】
エポキシ樹脂10:エポキシ樹脂1の合成において、フェノール樹脂前駆体1に替わり、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(三井化学株式会社製、XLC−4L。水酸基当量170、軟化点62℃。)100質量部に、エピクロルヒドリンの配合量を333質量部に、ジメチルスルホキシドの配合量を66質量部に、変更した以外は、エポキシ樹脂1と同様の合成操作を行い、エポキシ樹脂10(フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、エポキシ当量233、軟化点45℃、150℃におけるICI粘度0.3Pa・s。)を得た。得られたエポキシ樹脂10は、式(1)の繰り返し単位は有するが、式(2)の繰り返し単位を含まない構造である。
【0144】
(硬化剤)
硬化剤1:フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(明和化成株式会社製、MEH−7800SS。水酸基当量170、軟化点65℃)
【0145】
硬化剤2:ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(明和化成株式会社製、MEH−7851SS。水酸基当量203、軟化点67℃)
【0146】
硬化剤3:セパラブルフラスコに撹拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入口を装着し、ホルムアルデヒド37%水溶液(和光純薬工業製ホルマリン37%)116.3質量部、98質量部、硫酸37.7質量部、m−キシレン(関東化学製特級試薬、m−キシレン、沸点139℃、分子量106、純度99.4%)100質量部を秤量した後、窒素置換しながら加熱を開始した。系内の温度が90〜100℃の温度範囲を維持しながら6時間攪拌し、室温まで冷却した後、20質量%水酸化ナトリウム150重量部を徐々に添加することにより系内を中和した。この反応系に、フェノール839質量部、α,α'−ジクロロ−p−キシレン338質量部を加え、窒素置換及び攪拌を行いながら加熱し、系内温度を110〜120℃の範囲に維持しながら5時間反応させた。上記の反応によって系内に発生した塩酸ガスは、窒素気流によって系外へ排出した。反応終了後、150℃2mmHgの減圧条件で未反応成分と水分を留去した。ついでトルエン200質量部を添加し、均一溶解させた後、分液漏斗に移し、蒸留水150質量部を加えて振とうした後に、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った後、油層を125℃2mmHgの減圧条件でトルエン、残留未反応成分などの揮発成分を留去し、下記式(16)で表されるフェノール樹脂硬化剤3(水酸基当量180、軟化点67℃、150℃におけるICI粘度0.60dPa・s。式(16)におけるpが0〜20の整数、qが0〜20の整数、rが0〜20の整数である重合体の混合物であって、p、q、rの平均値は、それぞれ1.8、0.3、0.6である。また、式(16)において、分子の左末端は水素原子、右末端はフェノール構造またはキシレン構造である。)を得た。
【0147】
【化18】

【0148】
硬化剤4:フェノールノボラック樹脂(住友ベークライト株式会社製、PR−HF−3。水酸基当量104、軟化点80℃。)
【0149】
(無機充填剤)
無機充填剤としては、電気化学工業株式会社製溶融球状シリカFB560(平均粒径30μm)100質量部、アドマテックス製合成球状シリカSO−C2(平均粒径0.5μm)6.5質量部、アドマテックス製合成球状シリカSO−C5(平均粒径1.5μm)7.5質量部のブレンドを使用した。
【0150】
(硬化促進剤)
硬化促進剤1:下記式(20)で表される硬化促進剤
【化19】

【0151】
硬化促進剤2:下記式(21)で表される硬化促進剤
【0152】
【化20】

【0153】
硬化促進剤3:下記式(22)で表される硬化促進剤
【0154】
【化21】

【0155】
硬化促進剤4:下記式(23)で表される硬化促進剤
【化22】

【0156】
硬化促進剤5:トリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製、TPP)
【0157】
(芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(E))
下記式(24)で表される化合物(東京化成工業株式会社製、2,3−ナフタレンジオール、純度98%)を使用した。
【0158】
【化23】

【0159】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤1:γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−803)。
シランカップリング剤2:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−403)。
シランカップリング剤3:N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−573。)
【0160】
(無機難燃剤)
無機難燃剤1:水酸化アルミニウム(住友化学株式会社製、CL310)
無機難燃剤2:水酸化マグネシウム・水酸化亜鉛固溶体複合金属水酸化物(タテホ化学工業株式会社製、エコーマグZ−10)
【0161】
(着色剤)
着色剤として、三菱化学工業株式会社製のカーボンブラック(MA600)を使用した。
【0162】
(離型剤)
離型剤として、日興ファイン株式会社製のカルナバワックス(ニッコウカルナバ、融点83℃)を使用した。
【0163】
後述する実施例及び比較例で得られた半導体封止用樹脂組成物について、次のような測定及び評価を行った。
(評価項目)
スパイラルフロー:低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS−15)を用いて、EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー測定用金型に、175℃、注入圧力6.9MPa、保圧時間120秒の条件で樹脂組成物を注入し、流動長を測定した。スパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい方が、流動性が良好である。単位はcm。
【0164】
耐燃性:低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS−30)を用いて、金型温度175℃、注入時間15秒、硬化時間120秒、注入圧力9.8MPaの条件で、樹脂組成物を注入成形して、3.2mm厚の耐燃試験片を作製した。得られた試験片について、UL94垂直法の規格に則り耐燃試験を行った。表には、Fmax、ΣF及び判定後の耐燃ランク(クラス)を示した。
【0165】
ワイヤ流れ率:タブレット化した樹脂組成物を低圧トランスファー成形機にて175℃、6.9MPa、120秒の条件にて、ワイヤ流れ量評価試験用の208ピンQFPパッケージ(寸法;28×28×2.4mm、Cuリードフレーム、テスト素子;9×9mm、ワイヤ;Au、直径1.2mils、長さ約5mm)を各10パッケージ成形し、成形した208ピンQFPパッケージを軟X線透過装置で観察した。ワイヤ流れ率の計算方法としては、1個のパッケージの中で最も流れた(変形した)ワイヤの流れ量を(F)、そのワイヤの長さを(L)として、流れ率=F/L×100(%)を算出し、10パッケージの平均値を示した。なお、ワイヤ流れ率(%)の判定として5%未満を合格、5%以上を不合格とした。
【0166】
連続成形性:得られた樹脂組成物を粉末成型プレス機(玉川マシナリー株式会社製、S−20−A)にて、重量15g、サイズφ18mm×高さ約30mmとなるよう調整し、打錠圧力600Paにて打錠してタブレットを得た。得られたタブレットを装填したタブレット供給マガジンを成形装置内部にセットした。成形には、成形装置として低圧トランスファー自動成形機(第一精工株式会社製、GP−ELF)を用いて、金型温度175℃、成形圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件で、樹脂組成物によりシリコンチップ等を封止して80ピンQFP(Cu製リードフレーム、パッケージ外寸:14mm×20mm×2.0mm厚、パッドサイズ:8.0mm×8.0mm、チップサイズ7.0mm×7.0mm×0.35mm厚)を得る成形を、連続で450ショットまで行った。この際、50ショット毎にパッケージの成形状態(未充填の有無)を確認し、最初に未充填が確認できたショット数、また未充填が発生しなかった場合には○印を表の「充填不良」の項に記載した。なお、成形装置内にセットしたマガジン内のタブレットは、実際に成形で使用されるまでの間、成形装置のマガジン内に待機状態にあり、表面温度約30℃で、最大13個垂直に積み上げた状態にあった。成形装置内でのタブレットの供給搬送は、マガジンの最下部より突き上げピンが上昇することで、最上段のタブレットがマガジン上部から押し出され、機械式アームにて持ち上げられて、トランスファー成形用ポットへと搬送される。このとき、マガジン内で待機中にタブレットが上下で固着すると搬送不良が発生する。表の搬送不良の項には、最初に搬送不良が確認できたショット数、また搬送不良が発生しなかった場合には○印を記載した。
【0167】
製造時ハンドリング性:樹脂組成物を加熱ロールで溶融混練して得た後、スポットクーラーで冷却し、次いで手作業にて粗粉砕し、次いでハンマークラッシャーにて粉砕し、22〜25℃の温度雰囲気下で、待機時間を含めて3時間かけて粉砕物をタブレットに打錠成型した。下記1)、2)に示す不具合のいずれか1つでも生じた場合を×、下記1)、2)のいずれの不具合をも生じずに、良好にタブレットが得られたものを○、とした。
1)ハンマークラッシャー内で樹脂組成物が固着したり、ハンマークラッシャーの壁面に付着した場合
2)タブレット成型工程で、金型内面に樹脂が付着して、タブレットの外観に欠損が生じた場合
【0168】
耐半田性試験1:低圧トランスファー成形機(第一精工株式会社製、GP−ELF)を用いて、金型温度180℃、注入圧力7.4MPa、硬化時間120秒間の条件で、樹脂組成物を注入して半導体素子(シリコンチップ)が搭載されたリードフレーム等を封止成形し、80pQFP(表面にCuストライクメッキを施したCu製リードフレーム、サイズは14×20mm×厚さ2.00mm、半導体素子は7×7mm×厚さ0.35mm、半導体素子とリードフレームのインナーリード部とは25μm径の金線でボンディングされている。)なる半導体装置を作製した。ポストキュアとして175℃で4時間加熱処理した半導体装置6個を、85℃、相対湿度60%で168時間加湿処理した後、IRリフロー処理(260℃条件)を行った。これらの半導体装置内部の剥離及びクラックの有無を超音波探傷装置(日立建機ファインテック株式会社製、mi−scope10)で観察し、剥離又はクラックのいずれか一方でも発生したものを不良とした。不良半導体装置の個数がn個であるとき、n/6と表示した。実施例1で得られた樹脂組成物は0/6と良好な信頼性を示した。
【0169】
耐半田性試験2:上述の耐半田性試験1で、樹脂組成物を注入する前に、半導体素子(シリコンチップ)が搭載されたリードフレームを250℃熱板の上で120秒処理することにより、リードフレーム表面を酸化した後に、封止成形したほかは、耐半田性試験1と同様に試験を実施した。実施例1で得られた樹脂組成物は0/6と良好な信頼性を示した。
【0170】
耐半田性試験3:上述の耐半田性試験1で、Cu製リードフレームに代わりニッケル/パラジウム/金メッキ処理を施した銅製リードフレームを用い、加湿処理条件を60℃、相対湿度60%、96時間としたほかは、耐半田性試験1と同様に試験を実施した。実施例1で得られた樹脂組成物は0/6と良好な信頼性を示した。
【0171】
実施例及び比較例について、表1及び表2に示す配合量に従い各成分をミキサーを用いて、常温で混合し、80℃〜100℃の加熱ロールで溶融混練し、その後冷却し、次いで粉砕して、半導体封止用樹脂組成物を得た。得られた半導体封止用樹脂組成物を用いて、上記の測定及び評価を行った。その結果を表3及び表4に示す。
【0172】
【表1】

【0173】
【表2】

【0174】
【表3】

【0175】
【表4】

【0176】
実施例1〜16は、1又は2以上の成分からなるエポキシ樹脂であって、一般式(1)で表される構造単位と、一般式(2)で表される構造単位と、を含む重合体からなる成分(A1)を含むエポキシ樹脂(A)と、フェノール樹脂系硬化剤(B)と、無機充填剤(C)と、を含む半導体封止用樹脂組成物であり、成分(A1)の合計量が異なるエポキシ樹脂1とエポキシ樹脂2との少なくとも一方を用いている。実施例1〜16のいずれにおいても、ハンドリング性、流動性(スパイラルフロー)、耐燃性、ワイヤ流れ率、連続成形性(充填性)、耐半田性のバランスに優れた結果が得られた。
【0177】
本発明に従うと、優れた流動性と実用レベルのハンドリング性を両立しつつ、連続成形性及び密着性のバランスが良好な半導体封止用樹脂組成物、ならびに、その硬化物により半導体素子を封止してなる信頼性に優れた半導体装置を経済的に得ることができる。とりわけ、1パッケージ内にチップを積層する構造、あるいは従来よりもワイヤ線径をより細くした半導体装置の封止用として好適である。
【符号の説明】
【0178】
1 半導体素子
2 ダイボンド材硬化体
3 ダイパッド
4 ワイヤ
5 リードフレーム
6 封止用樹脂組成物の硬化体
7 ソルダーレジスト
8 基板
9 半田ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は2以上の成分からなるエポキシ樹脂であって、下記一般式(1)で表される構造単位と、下記一般式(2)で表される構造単位と、を含む重合体からなる成分(A1)を含むエポキシ樹脂(A)と、
フェノール樹脂系硬化剤(B)と、
無機充填剤(C)と、
を含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【化24】

(上記一般式(1)において、R1は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、aは0〜3の整数である。R2、R3、R4及びR5は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1〜6の炭化水素基である。)
【化25】

(上記一般式(2)において、R1は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、aは0〜3の整数である。R6は、互いに独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、bは1〜4の整数である。R7、R8、R9及びR10は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1〜6の炭化水素基である。)
【請求項2】
請求項1に記載の半導体封止用樹脂組成物において、
成分(A1)が1又は2以上の重合体からなり、電界脱離質量分析による測定で、成分(A1)に該当する重合体の相対強度の合計が、エポキシ樹脂(A)の合計相対強度に対して10%以上、80%以下含まれることを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体封止用樹脂組成物において、
エポキシ樹脂(A)が、一般式(1)で表される構造単位を含み、かつ一般式(2)で表される構造単位を含まない重合体からなる成分(A2)をさらに含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の半導体封止用樹脂組成物において、
エポキシ樹脂(A)が、一般式(2)で表される構造単位を含み、一般式(1)で表される構造単位を含まない重合体からなる成分(A3)をさらに含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の半導体封止用樹脂組成物において、
エポキシ樹脂(A)全体における一般式(1)で表される構造単位の合計の数と、一般式(2)で表される構造単位の合計の数と、の比が30/70〜95/5であることを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の半導体封止用樹脂組成物において、
一般式(2)で表される構造単位におけるR6がメチル基であり、bが1〜3であることを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物において、
エポキシ樹脂(A)が全樹脂組成物を基準として0.5質量%以上、10質量%以下含まれることを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物において、
無機充填剤(C)の含有量が全樹脂組成物を基準として80質量%以上、93質量%以下であることを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物において、
前記半導体封止用樹脂組成物が、硬化促進剤(D)をさらに含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体封止用樹脂組成物において、
硬化促進剤(D)が、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物からなる群から選択される少なくとも1種の硬化促進剤を含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物において、
前記半導体封止用樹脂組成物が、芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(E)をさらに含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1乃至11いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物において、
前記半導体封止用樹脂組成物が、カップリング剤(F)をさらに含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体封止用樹脂組成物において、
カップリング剤(F)が2級アミノ基を有するシランカップリング剤を含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1乃至13いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物において、
前記半導体封止用樹脂組成物が、無機難燃剤(G)をさらに含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の半導体封止用樹脂組成物において、
無機難燃剤(G)が金属水酸化物、又は複合金属水酸化物を含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1乃至15いずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物を硬化させた硬化物で半導体素子を封止して得られることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−94027(P2011−94027A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249217(P2009−249217)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】