説明

半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法

【課題】電流−光出力特性の線形性が改善された半導体発光素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】発光素子は、支持基板10と、光反射層30を介して支持基板上に設けられた半導体膜40と、を含む。半導体膜は、光反射層側から電流拡散層42、第1のpクラッド層44a、第2のpクラッド層44b、活性層46、第1のnクラッド層48a、第2のnクラッド層48bを積層して構成される。第1のpクラッド層と第2のpクラッド層からなるpクラッド層全体の層厚のうち第1のpクラッド層の層厚が占める割合は50%以上80%以下である。第1のnクラッド層と第2のnクラッド層からなるnクラッド層全体の層厚は2μm以上である。nクラッド層全体の層厚のうち第1のnクラッド層の層厚が占める割合は80%以上であり且つ第2のnクラッド層の層厚は100nm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)等の半導体発光素子に関する。
【従来技術】
【0002】
AlGaInP系LEDは、例えば、n型のGaAs基板上にAlGaInPからなるnクラッド層、活性層、pクラッド層を積層し、必要に応じてGaPからなるp型の電流拡散層をpクラッド層上に形成し、GaAs基板および電流拡散層の表面にそれぞれ電極を形成した積層構造を有する。nクラッド層およびpクラッド層は、活性層よりもバンドギャップが大きくなるようにAlとGaの組成比が調整され、所謂ダブルヘテロ構造を構成している。
【0003】
一方、LEDの高輝度化と大電流駆動を可能とするため、半導体膜の結晶成長に用いられるGaAs基板を除去し、半導体膜に光反射層を挟んでSi基板を貼り合わせた構造が提案されている。Si基板はGaAs基板と比較して熱伝導率が高いため、放熱性が改善され、大電流駆動が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−053425号公報
【特許文献2】特開2010−50318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LEDの市場が拡大するにつれて、単一のLEDチップで所望の輝度が得られる高出力LEDの需要が高まりつつある。複数のLEDチップを用いて光源装置を構成する場合、各LEDチップは、例えば20mA程度の低電流で駆動される。一方、単一のLEDチップで同等の輝度を得るためには例えば、100mA以上で駆動する必要がある。
【0006】
図1は、GaAs基板上に上記したような層構成を有する半導体膜を積層した従来のLEDの電流−光出力特性を調査した結果を示す図である。尚、240μm角のLEDチップを一般的な砲弾型ステム(直径5mm)に実装したものを評価サンプルとした。
【0007】
図1において横軸は電流密度、縦軸は発光強度の相対値である。図1に示すように、従来のLEDでは、電流密度が40A/cm(電流に換算すると約20mA)を超えると、注入電流の増加に対して光出力がリニアに変化しなくなる。すなわち、大電流領域において電流−光出力特性の線形性が低下している。その理由としては、キャリア密度の増加に伴うキャリアのオーバーフローおよび発熱に伴う効率低下が挙げられる。線形性が低下する大電流領域で使用すると光度劣化を生じるため、このような特性のLEDを100mAを超える大電流で使用することは困難である。
【0008】
発熱の問題は、上記の如く半導体膜に熱伝導率が比較的高いSi基板を貼り合わせることにより改善され、大電流駆動が可能となるが、従来のLEDは、GaAs基板を有する構成が一般的であり、大電流駆動を想定しておらず、電流密度が高い領域(例えば100A/cm以上)における電流-光出力特性の線形性についての検討がなされていなかった。また、従来のLEDにおいては、GaAs基板が電流拡散層としての役割も担うため、nクラッド層において電流拡散機能は必要とされていなかった。すなわち、基板貼り合わせ構造に対して最適化された半導体膜の構成についての検討がこれまで殆どなされていなかった。高出力LEDの需要の高まりと基板貼り合わせ技術の確立を背景として、大電流領域における電流−光出力特性の線形性が重要な検討事項となってきた。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、電流−光出力特性の線形性が改善された半導体発光素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る半導体発光素子は、支持基板と、前記支持基板上に設けられた半導体膜と、を含む半導体発光素子であって、前記半導体膜は、前記支持基板上に設けられたp型の導電型を有するGaInPまたはGaPからなる電流拡散層と、前記電流拡散層上に設けられたp型の導電型を有するAlInPからなる第1のpクラッド層と、前記第1のpクラッド層上に設けられたp型の導電型を有するAlGaInPからなる第2のpクラッド層と、前記第2のpクラッド層上に設けられた少なくとも一層のGaInPまたはAlGaInPからなる層を含む活性層と、前記活性層上に設けられたキャリア濃度1×1018cm−3以上5×1018cm−3以下であり且つn型の導電型を有するAlInPからなる第1のnクラッド層と、前記第1のnクラッド層上に設けられたキャリア濃度1×1018cm−3以上5×1018cm−3以下であり且つn型の導電型を有するAlGaInPからなる第2のnクラッド層と、を含み、前記第1のpクラッド層と前記第2のpクラッド層からなるpクラッド層全体の層厚のうち前記第1のpクラッド層の層厚が占める割合は50%以上80%以下であり、前記第1のnクラッド層と前記第2のnクラッド層からなるnクラッド層全体の層厚は2μm以上であり、前記nクラッド層全体の層厚のうち前記第1のnクラッド層の層厚が占める割合は80%以上であり且つ前記第2のnクラッド層の層厚は100nm以上であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る半導体発光素子の製造方法は、GaAs基板上にキャリア濃度1×1018cm−3以上5×1018cm−3以下であり且つn型の導電型を有するAlGaInPからなる第2のnクラッド層を形成する工程と、前記第2のnクラッド層上にキャリア濃度1×1018cm−3以上5×1018cm−3以下であり且つn型の導電型を有するAlInPからなる第1のnクラッド層を形成する工程と、前記第1のnクラッド層上に少なくとも一層のGaInPまたはAlGaInPからなる層を含む活性層を形成する工程と、前記活性層上にp型の導電型を有するAlGaInPからなる第2のpクラッド層を形成する工程と、前記第2のpクラッド層上にp型の導電型を有するAlInPからなる第1のpクラッド層を形成する工程と、前記第1のpクラッド層上にp型の導電型を有するGaInPまたはGaPからなる電流拡散層を形成する工程と、前記電流拡散層上に光反射構造を有する反射電極層を形成する工程と、前記GaAs基板よりも熱伝導率の高い材料からなる支持基板を前記反射電極層に接合する工程と、前記GaAs基板を除去する工程と、前記GaAs基板を除去することにより表出する前記第2のnクラッド層の表面に上面電極を形成する工程と、を含み、前記第1のpクラッド層と前記第2のpクラッド層からなるpクラッド層全体の層厚のうち前記第1のpクラッド層の層厚が占める割合は50%以上80%以下であり、前記第1のnクラッド層と前記第2のnクラッド層からなるnクラッド層全体の層厚は2μm以上であり、前記nクラッド層全体の層厚のうち前記第1のnクラッド層の層厚が占める割合は80%以上であり且つ前記第2のnクラッド層の層厚は100nm以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電流−光出力特性の線形性を改善された半導体発光素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来構造の光半導体素子の電流−光出力特性を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係る半導体発光素子の概略構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例に係る上面電極と反射電極の配置を示す平面図である。
【図4】本発明の実施例に係る半導体発光素子の構成を示す断面図である。
【図5】nクラッド層構成が互いに異なる3種類のサンプルの発光分布を示す図である。
【図6】第1のnクラッド層の層厚の割合と光出力の線形性指標値との関係を示す図である。
【図7】pクラッド層構成が互いに異なる2種類のサンプルの電流−光出力特性を示す図である。
【図8】第1のpクラッド層の層厚の割合と光出力飽和点との関係を示す図である。
【図9】第1のpクラッド層の層厚の割合と発光強度との関係を示す図である。
【図10】本発明の実施例に係る半導体発光素子の構造を示す断面図である。
【図11】図11(a)〜(d)は、本発明の実施例に係る半導体発光素子の製造方法を示す断面図である。
【図12】図12(a)〜(c)は、本発明の実施例に係る半導体発光素子の製造方法を示す断面図である。
【図13】本発明の実施例に係る上面電極と反射電極の配置を示す平面図である。
【図14】本発明の実施例に係る半導体発光素子の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。尚、各図において、実質的に同一又は等価な構成要素、部分には同一の参照符を付している。
【0015】
(半導体発光素子の構成)
図2は、本発明の実施例に係る半導体発光素子1の概略構成を示す断面図である。図3は、上面電極50と反射電極層30を構成する反射電極31とを同一平面に投影した平面図である。図4は、接合層20、反射電極層30および上面電極50のより詳細な構成を示す断面図であり、図3における4−4線に沿った断面図である。
【0016】
半導体発光素子1において、支持基板10上に接合層20および反射電極層30を介して半導体膜40が設けられている。半導体膜40上には上面電極50が設けられ、支持基板10の裏面には裏面電極12が設けられている。
【0017】
支持基板10は、n型の導電型を有する厚さ約200μmのSi基板である。Si基板の熱導電率は148W/m・Kであり、半導体膜40の結晶成長に用いられるGaAs基板の熱導電率(54W/m・K)よりも高い。このため、半導体膜40から発せられる熱を効率的に外部に伝えることが可能となり、大電流駆動が可能となる。
【0018】
接合層20は、Ptからなり支持基板10に対してオーミック接触するオーミック層21と、Tiからなる密着層22と、AuSnおよびNiを積層して構成される共晶接合層23と、TaN、TiW、TaNを積層して構成されるバリア層24と、により構成される。
【0019】
反射電極層30は、接合層20と半導体膜40との間に設けられ、半導体膜40との界面において活性層から放射された光を光取り出し面側に向けて反射する光反射面を形成するとともに、半導体膜40に電流を供給するための電極としても機能する。反射電極層30は、AuZnからなる反射電極31とSiO2からなる誘電体層32とにより構成される。反射電極31は、誘電体層32の開口部において半導体膜40とオーミック接触している。誘電体層32は、反射電極31を線状のライン電極31aと島状のドット電極31bとに隔てている。ライン電極31aとドット電極31bは、誘電体層32の下部で繋がっており電気的に接続されている。
【0020】
光取り出し面となる半導体膜40の表面には、上面電極50を構成するショットキー電極51、オーミック電極52および接続配線53が形成されている。ショットキー電極51は、ボンディングパッドを構成しており、半導体膜40との間でショットキー接触を形成し得る材料、例えばTa、Ti、W又はこれらの合金により構成される。ショットキー電極51は、半導体膜の略中央位置に形成され、外部からの電流を供給するための導電ワイヤが接続される。オーミック電極52は、半導体膜40との間でオーミック性接触を形成し得る材料、例えばAuGeNi、AuSn、AuSnNi等からなる。ショットキー電極51とオーミック電極52は、両電極間を繋ぐ接続配線53により電気的に接続される。接続配線53は、半導体膜40との間でショットキー接触を形成し得る材料、例えばTa、Ti、W又はこれらの合金により構成され、ショットキー電極51と同じ材料を用いることができる。電流は、光取り出し面側のオーミック電極52と光反射面側のライン電極31aおよびドット電極31bとの間を流れることになる。図3において、半導体膜40を流れる電流の経路が矢印で表示されている。
【0021】
光取り出し面側のオーミック電極52と、反射面側のライン電極31aおよびドット電極31bは、半導体膜40の積層方向で互いに重ならないように配置されている。かかる電極構成とすることで、半導体膜の厚さが比較的薄い場合(例えば5μm程度)でも、電流集中を防止して半導体膜内の電流密度分布を均一にすることができる。これにより、均一な発光分布を得ることができ、また局所的な発熱や電界集中を防止して高い信頼性を確保することができる。また、半導体膜40の厚さを薄くすることで順方向電圧Vfを小さくすることができる。
【0022】
半導体膜40は、p型の導電型を有するGaPからなる電流拡散層42、p型の導電型を有するpクラッド層44、AlGaInPからなる多重量子井戸構造を有する活性層46、n型の導電型を有するnクラッド層48を積層して構成される。半導体発光素子1は、半導体膜40の成長用の基板を有さないため、nクラッド層48上にn側のオーミック電極52が形成されている。
【0023】
電流−光出力の線形性を改善するためには、キャリアのオーバーフローの抑制が必要となる。例えば100mAを超える大電流領域で使用する場合には、nクラッド層およびpクラッド層のそれぞれにおいて電子および正孔の双方をブロックする機能を高める必要がある。本発明者らは、上記した構成を有する半導体発光素子1において、大電流領域での電流−光出力特性の線形性を改善するべく、pクラッド層44およびnクラッド層48の構成について検討を行った。
【0024】
(nクラッド層の検討)
本発明者らは、大電流領域での電流−光出力特性の線形性を改善するべくnクラッド層48の構成について検討を行った。nクラッド層48以外の構成は、以下のとおりとした。活性層46は、(Al0.1Ga0.9)0.5In0.5Pからなる厚さ約10nmの井戸層と(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5Pからなる厚さ約10nmの障壁層とを繰り返し20周期積層した多重量子井戸構造とした。pクラッド層44は、キャリア濃度2×1017cm−3、厚さ約1μmの(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pで構成した。電流拡散層42は、キャリア濃度3×1018cm−3、厚さ約1μmのGaPで構成した。
【0025】
半導体発光素子1は、電流拡散機能をも担うGaAs基板を有しないため、nクラッド層48は、キャリアをブロックする機能に加え、電流拡散を促進させる機能が必要となる。半導体膜40内における電流拡散が不十分であると電流集中が生じ、電流−光出力特性の線形性が低下するだけではなく、輝度むら、順方向電圧Vfの上昇を招く。nクラッド層48が電流拡散層としても機能するためには、nクラッド層48の厚さとキャリア濃度の最適化が必要となる。本発明者らは、nクラッド層48の厚さとキャリア濃度の最適値を探るべく、nクラッド層48のキャリア濃度および層厚が異なる3種類のサンプルを作製し、それぞれについて発光分布(発光面内の輝度分布)を調査した。発光分布は、半導体膜内における電流密度分布にほぼ一致することから発光分布を調査することにより半導体膜内における電流拡散の状況を把握することができる。すなわち、発光分布が均一であれば電流拡散が促進されているものと判断することができる。
【0026】
上記3種類のサンプルのnクラッド層の構成を以下のとおりとした。サンプルAは、nクラッド層48の厚さを1μm、キャリア濃度を2×1017cm−3としたものである。サンプルBは、nクラッド層48の厚さを1μm、キャリア濃度を1×1018cm−3としたものである。サンプルCは、nクラッド層48の厚さを2μm、キャリア濃度を1×1018cm−3としたものである。半導体膜40には、Siからなる支持基板10を接合し、結晶成長に使用したGaAs基板を除去して上面電極50および裏面電極12を形成し、330μm角のチップ状に切り出した。このようして作製されたLEDチップを一般的な直径5mmの砲弾型LEDステムに実装したものを評価サンプルとした。
【0027】
図5は、上記各サンプルの発光分布の調査結果を示す図である。図5において、発光強度の大小は発色の濃淡で表現されており、発色の濃い部分は発光強度が高いことを示している。サンプルAにおいては、チップ角部の輝度および電流密度が低くなっていることが確認された。サンプルBにおいては、チップ角部の輝度および電流密度がサンプルAよりも向上しており、キャリア濃度を1×1018cm−3にまで高めることにより電流拡散が促進されることが確認された。しかしながら、オーミック電極周辺に電流が集中して高輝度部分が生じている。サンプルCにおいては、nクラッド層48の厚さを2μmとすることにより電流拡散が更に促進され、オーミック電極周辺の電流集中が緩和されていることが確認された。以上の結果から、nクラッド層48の厚さを2μm以上、キャリア濃度を1×1018cm−3以上とすることにより、nクラッド層48における電流拡散促進機能を高めることができることが確認された。ただし、キャリア濃度を高くすると電流拡散は促進される一方光の吸収量が増大し、光出力の低下を招くため、キャリア濃度は5×1018cm−3以下であることが好ましい。
【0028】
次に、本発明者らは電流−光出力特性の線形性を改善するべくnクラッド層48の組成の検討を行った。nクラッド層48の活性層46側(第1のnクラッド層)をAl0.5In0.5Pとし、光取り出し面側(第2のnクラッド層)を(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pとする2層構成とし、これら各層の層厚の割合を変化させて電流−光出力特性の線形性の評価を行った。第1のnクラッド層と第2のnクラッド層との層厚の合計を上記の結果から2μmとした。電流−光出力特性の線形性を評価するにあたり以下の指標値Rdを用いた。すなわち、比較的良好な線形性を示す低電流密度領域(60A/cm以下)の電流−光出力特性から100A/cmにおける光出力の理想値を算出し、この理想値に対する100A/cm時の光出力の実測値の割合(実測値/理想値)を上記指標値Rdとした。つまり、この指標値Rdが1に近い程、線形性が良好であると判断することができる。
【0029】
図6は、2層構成のnクラッド層48のうち活性層に隣接する第1のnクラッド層(Al0.5In0.5P)の層厚が占める割合と指標値Rdとの関係を示す図である。図6に示すように、第1のnクラッド層(Al0.5In0.5P)の層厚の割合の増加に伴って線形性が改善される傾向が確認された。また、第1のnクラッド層(Al0.5In0.5P)の層厚の割合が80%を超えると線形性に変化は見られなかった。以上の結果より、nクラッド層48のうち、第1のnクラッド層(Al0.5In0.5P)の層厚が占める割合を80%以上とすることによりnクラッド層48のキャリアブロック機能(オーバーフロー抑制機能)が高められ、電流−光出力特性の線形性向上を達成できることが確認された。
【0030】
本実施例の如く熱伝導率の高い支持基板を貼り合わせる半導体発光素子においては、半導体膜の結晶成長に用いられるGaAs基板は除去される故、nクラッド層48は最表面に露出する。第1のnクラッド層を構成するAl0.5In0.5P層は酸化されやすいため、半導体膜の最表面にAl0.5In0.5P層が露出することは好ましくない。また、GaAs基板に隣接してAl0.5In0.5P層を形成すると、GaAs基板を除去する際のエッチング工程において、Al0.5In0.5P層までエッチングされ、LED構造が破壊されてしまう。そこで、半導体膜40の最表面には、酸化されにくく、GaAs基板の除去に用いられるエッチャントに対して耐性を有し、活性層からの光を吸収しにくい材料からなる第2のnクラッド層が必要となる。第2のクラッド層がそのような特性を備えるためには、第2のnクラッド層の組成は、(AlyGa1-y)0.5In0.5P(y<1)であり、層厚が100nm以上であることが望ましい。光の吸収を考慮すると、0.3≦y≦0.7とするのがより好ましい。
【0031】
以上の結果より、第1および第2のnクラッド層の層厚の合計を2μm以上、キャリア濃度を1×1018cm−3以上5×1018cm−3以下とし且つ活性層46に隣接する第1のnクラッド層(Al0.5In0.5P)の層厚の割合を80%以上とし、光取り出し面側の第2のnクラッド層((AlyGa1-y)0.5In0.5P (y<1))の層厚を100nm以上とすることにより、電流拡散を促進させつつ電流−光出力特性の線形性を改善し得るnクラッド層を構成することが可能となる。
【0032】
(pクラッド層の検討)
本発明者らは、大電流領域での電流−光出力特性の線形性を改善するべくpクラッド層44の層構成について検討を行った。pクラッド層44以外の構成は、以下のとおりとした。活性層46は、(Al0.1Ga0.9)0.5In0.5Pからなる厚さ約10nmの井戸層と(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5Pからなる厚さ約10nmの障壁層とを繰り返し20周期積層した多重量子井戸構造とした。nクラッド層48は、キャリア濃度1×1018cm−3、厚さ約1.6μmのAl0.5In0.5Pからなる活性層に隣接する第1のnクラッド層と、キャリア濃度1×1018cm−3、厚さ約0.4μmの(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pからなる光取り出し面側に配置された第2のnクラッド層からなる2層構成とした。電流拡散層42は、キャリア濃度3×1018cm−3、厚さ約1μmのGaPで構成した。
【0033】
pクラッド層44は、キャリア濃度の高い電流拡散層42に隣接して設けられていることから、pクラッド層44自体が電流拡散を促進させる機能を備える必要性は低い。このため、pクラッド層44の層厚は1μm程度で十分であると考えられる。また、p型の導電型を得るための不純物(例えばMg)は、活性層46に拡散しやすく、ドープ濃度が高すぎると活性層46に拡散したp型不純物が非発光センターとして働くためドープ濃度(キャリア濃度)は1×1018cm−3以下とすることが好ましい。
【0034】
本発明者らは、以上の点を踏まえて、pクラッド層44の組成が異なる2種類のサンプル(サンプルD、サンプルE)を作製してそれぞれについて電流−光出力特性を取得した。上記2種類のサンプルにおいて、pクラッド層44の構成を以下のとおりとした。サンプルDは、pクラッド層44をキャリア濃度2×1017cm−3、厚さ1μmのAl0.5In0.5P単層で構成したものである。サンプルEは、pクラッド層44をキャリア濃度2×1017cm−3、厚さ1μmの(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5P単層で構成したものである。半導体膜40には、Siからなる支持基板10を接合し、結晶成長に使用したGaAs基板を除去して上面電極50および裏面電極12を形成し、330μm角のチップ状に切り出した。このようして作製されたLEDチップを一般的な直径5mmの砲弾型LEDステムに実装したものを評価サンプルとした。
【0035】
図7は、サンプルD(実線)およびサンプルE(破線)の電流−光出力特性を調査した結果を示す図である。図7において、横軸は電流密度、縦軸は発光強度の相対値である。サンプルDは、電流密度が低い領域において光出力がサンプルEよりも10%程度高くなっているが、電流密度が100A/cmを超えると線形性が低下して、140A/cm程度で光出力が飽和している。一方、サンプルEは、電流密度が低い領域における光出力はサンプルDに劣るものの、電流密度が100A/cmを超えても線形性が維持されており、電流密度が150A/cm以上の領域における光出力はサンプルDを上回っている。サンプルEの光出力の飽和点は235A/cmに達するものと推測される。
【0036】
このような結果が得られた理由は以下のように推測される。すなわち、AlInPは、AlGaInPと比較してキャリアの移動度が高いため、サンプルDにおいてはp側での電流分布が改善し、電流密度が低い領域においても比較的高い光出力が得られたものと考えられる。一方、AlInPはAlGaInPよりも電子をブロックする障壁が低いため、電流密度が高い領域において電子のオーバーフローが生じ、発光効率が低下したものと考えられる。つまり、AlInPは電流拡散の促進に有利となり、AlGaInPはキャリアのオーバーフロー抑制に有利となる。尚、キャリアのオーバーフローを効果的に抑制するためには、(AlyGa1-y)0.5In0.5Pにおいてyの値を(0.6≦y≦0.7)の範囲に設定することが好ましい。
【0037】
本発明者らは、これらの結果を踏まえて、pクラッド層44が、AlInPによる電流拡散促進機能と、AlGaInPによるキャリアブロック機能(オーバーフロー抑制機能)とを兼ね備えるべく、pクラッド層44の層構成を検討した。pクラッド層44のうち電流拡散層42に隣接する層(第1のpクラッド層)をAl0.5In0.5Pとし、活性層46に隣接する(第2のpクラッド層)を(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pとする2層構成とし、これら各層の層厚の割合を変化させて特性評価を行った。第1のpクラッド層と第2のpクラッド層との層厚の合計は1μmとした。
【0038】
図8は、電流拡散層42に隣接する第1のpクラッド層(Al0.5In0.5P)の層厚の割合と光出力の飽和点との関係を調査した結果を示す図である。光出力の飽和点は、光出力が飽和する電流密度の値であり、電流−光出力の線形性の指標値として用いた。つまり、光出力の飽和点が高いほど線形性が良好であると判断できる。光出力の飽和点は、第1のpクラッド層(Al0.5In0.5P)の層厚の割合が80%までは一定であり、80%を超えると急激に低下することが確認された。換言すれば、活性層46に隣接する第2のpクラッド層((Al0.7Ga0.3)0.5In0.5P)の層厚の割合が20%を下回ると、電流−光出力特性の線形性が低下する。このことから、第2のpクラッド層((Al0.7Ga0.3)0.5In0.5P)の層厚の割合を20%以上とすることによりpクラッド層44においてキャリアブロック機能が効果的に発揮されることが理解できる。
【0039】
図9は、電流拡散層42に隣接する第1のpクラッド層(Al0.5In0.5P)の層厚の割合と低電流密度(50A/cm)時における発光強度との関係を調査した結果を示す図である。第1のpクラッド層(Al0.5In0.5P)の層厚の割合の増加に伴って発光強度は増加し、層厚の割合が50%を超えると光出力がほぼ一定となることが確認された。このことから、第1のpクラッド層(Al0.5In0.5P)の層厚の割合を50%以上とすることにより、pクラッド層44において電流拡散促進機能が効果的に発揮されることが理解できる。
【0040】
以上の結果から、pクラッド層44において、第1のpクラッド層(Al0.5In0.5P)の層厚の割合を50%以上80%以下の範囲に設定し、第2のpクラッド層((Al0.7Ga0.3)0.5In0.5P)の層厚の割合を20%以上50%以下の範囲に設定することにより、電流密度の低い領域における発光強度と、電流密度の高い領域における光出力の線形性を両立することが可能となる。
【0041】
以上のnクラッド層48およびpクラッド層44の層構成についての検討結果から導かれた本発明の実施例に係る半導体発光素子1の典型的な構成を図10に示す。
【0042】
半導体膜40は導電性を有するSiからなる支持基板10によって支持される。支持基板10の裏面(半導体膜40との接合面と対向する面)には、裏面電極12が設けられる。半導体膜40と支持基板10との間には、接合層20および反射電極層30が設けられる。接合層20および反射電極層30のより詳細な構成は図3および図4に示したとおりである。
【0043】
反射電極層30上に設けられる電流拡散層42は、キャリア濃度3×1018cm−3、厚さ約1μmのp型の導電型を有するGaPにより構成される。
【0044】
電流拡散層42上に設けられる第1のpクラッド層44aは、キャリア濃度2×1017cm−3、厚さ約0.8μmのp型の導電型を有するAl0.5In0.5Pにより構成される。
【0045】
第1のpクラッド層44a上に設けられる第2のpクラッド層44bは、キャリア濃度2×1017cm−3、厚さ約0.2μmのp型の導電型を有する(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pにより構成される。
【0046】
第1のpクラッド層44aと第2のpクラッド層44bからなるpクラッド層44において、第1のpクラッド層44aの層厚が占める割合を50%以上80以下、第2のpクラッド層44bの層厚が占める割合を20%以上50%以下とすることにより、電流密度の低い領域での発光強度と、電流密度の高い領域での電流−光出力特性の線形性を両立することが可能となる。pクラッド層44のキャリア濃度は、2×1017cm−3以上1×1018cm−3以下であることが好ましい。
【0047】
第2のpクラッド層44b上に設けられる活性層46は、アンドープの(Al0.1Ga0.9)0.5In0.5Pからなる厚さ約10nmの井戸層とアンドープの(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5Pからなる厚さ約10nmの障壁層とを繰り返し20周期積層した多重量子井戸構造を有する。
【0048】
活性層46上に設けられる第1のnクラッド層48aは、キャリア濃度1×1018cm−3、厚さ約1.6μmのn型の導電型を有するAl0.5In0.5Pにより構成される。
【0049】
第1のnクラッド層48a上に設けられる第2のnクラッド層48bは、キャリア濃度1×1018cm−3、厚さ約0.4μmのn型の導電型を有する(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pにより構成される。
【0050】
第1のnクラッド層48aと第2のnクラッド層48bからなるnクラッド層48全体の層厚を2μm以上、キャリア濃度を1×1018cm−3以上5×1018cm−3以下とすることにより、nクラッド層48は電流拡散層としても有効に機能して発光効率の改善に寄与することができる。また、nクラッド層48において第1のnクラッド層48aの層厚が占める割合を80%以上とすることにより電流−光出力特性の線形性を改善することが可能となる。また、第2のnクラッド層48bの層厚を100nm以上とすることにより、酸化に対する耐性と、GaAs基板を除去する際のエッチングに対する耐性を備えることができる。
【0051】
光取り出し面となる第2のnクラッド層48b上には、上面電極50が設けられる。上面電極50のより詳細な構成は、図3および図4に示したとおりである。
以下に、上記した構成を有する光半導体素子1の製造方法を図11および図12を参照しつつ説明する。
【0052】
(半導体膜の形成)
半導体膜40は、有機金属気相成長法(MOCVD法:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により形成した。半導体膜40の結晶成長に使用する成長用基板100として(100)面から[011]方向に15°傾斜させたGaAs基板を使用した。成長用基板100上にSiドープ濃度(キャリア濃度)1×1018cm−3、厚さ約0.4μmのn型の導電型を有する(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pからなる第2のnクラッド層48bを形成した。続いて、第2のnクラッド層48b上にSiドープ濃度(キャリア濃度)1×1018cm−3、厚さ約1.6μmのn型の導電型を有するAl0.5In0.5Pからなる第1のnクラッド層48aを形成した。続いて、第1のnクラッド層48a上にアンドープの(Al0.1Ga0.9)0.5In0.5Pからなる厚さ約10nmの井戸層とアンドープの(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5Pからなる厚さ約10nmの障壁層とを繰り返し20周期積層した多重量子井戸構造を有する活性層46を形成した。続いて、活性層46上にMgドープ濃度(キャリア濃度)2×1017cm−3、厚さ約0.2μmのp型の導電型を有する(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pからなる第2のpクラッド層44bを形成した。続いて、第2のpクラッド層44b上にMgドープ濃度(キャリア濃度)2×1017cm−3、厚さ約0.8μmのp型の導電型を有するAl0.5In0.5Pからなる第1のpクラッド層44aを形成した。続いて、Mgドープ濃度(キャリア濃度)3×1018cm−3、厚さ約1μmのp型の導電型を有するGaPからなる電流拡散層42を形成した(図11(a))。
【0053】
尚、V族原料としてホスフィン(PH3)を使用し、III族原料としてトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)の有機金属を使用した。また、n型のドーパントとしてシラン(SiH4)を使用し、p型のドーパントとしてビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を使用した。キャリアガスとして水素を用い、V/III比を30〜200とした。AlGaInP層の成長温度を670℃とし、GaP層の成長温度を770℃とした。成長圧力は10kPaとした。
【0054】
(反射電極層および接合層の形成)
プラズマCVD法により電流拡散層42上に誘電体層32を構成するSiO2膜を形成した。続いて、SiO2膜上にレジストマスクを形成した後、バッファードフッ酸(BHF)を用いてSiO2膜の部分的なエッチングを行うことにより、SiO膜にライン電極31aおよびドット電極31bのパターンに対応したパターニングを施した。SiO2膜を除去した部分において開口部が形成され、この開口部において電流拡散層42が露出する(図11(b))。尚、SiO2膜の成膜方法として熱CVD法やスパッタ法を用いることもできる。また、SiO2膜のエッチング方法としてドライエッチング法を用いることも可能である。誘電体層32の材料としては、SiO以外にもSi3N4やAl2O3等の他の誘電体材料を用いることができる。
【0055】
次に、EB蒸着法により誘電体層32上にAuZnからなる厚さ300nm程度の反射電極31を形成した。反射電極31は、先のエッチング処理によって誘電体層32に形成された開口部において電流拡散層42と接触する。反射電極31は、誘電体層32によってライン電極31aとドット電極31bに隔てられる。誘電体層32および反射電極31により反射電極層30が構成される(図11(c))。
【0056】
次に、スパッタ法により反射電極層30上にTaN(厚さ100nm)、TiW(厚さ100nm)、TaN(厚さ100nm)を順次堆積させ、バリア層24を形成した。その後、約500℃の窒素雰囲気下で熱処理を行った。これにより、反射電極31と電流拡散層42との間で良好なオーミック性接触が形成される。次に、EB蒸着法によりバリア層24上にNi(300nm)、Au(30nm)を順次形成し、接合層(図示せず)を形成した(図11(d))。尚、バリア層24は、Ta、Ti、W等の他の高融点金属もしくはこれらの窒化物を含む単層又は2以上の層により構成されていてもよい。また、バリア層24の形成には、スパッタ法以外にEB蒸着法を用いることが可能である。
【0057】
(支持基板の接合)
半導体膜40を支持するための支持基板として導電性を有するSi基板を用いた。EB蒸着法により、支持基板10の両面にPtを堆積させて厚さ約200nmのオーミック層21および裏面電極12を形成した。続いて、スパッタ法によりオーミック層21上にTi(厚さ150nm)を堆積させて密着層22を形成した。続いて、スパッタ法により密着層22上にNi(厚さ100nm)、AuSn(厚さ600nm)を順次堆積させて共晶接合層23を形成した。
【0058】
その後、半導体膜40と支持基板10とを熱圧着により接合した。半導体膜40側の接合層と支持基板50側の共晶接合層23とを密着させ、1MPa、330℃の窒素雰囲気下で10分間保持した。支持基板10側の共晶接合層23に含まれる共晶接合材(AuSn)が溶融して、半導体膜40側の接合層(Ni/Au)との間でAuSnNiを形成することにより支持基板10と半導体膜40とが接合される(図12(a))。
【0059】
(成長用基板の除去)
半導体膜40の結晶成長に使用した成長用基板100をアンモニア水と過酸化水素水との混合液を用いたウェットエッチングにより除去した。尚、成長用基板100を除去する方法として、ドライエッチング法、機械研磨法、化学機械研磨法(CMP)を用いてもよい(図12(b))。
【0060】
(n電極の形成)
成長用基板100を除去することにより表出した第2のnクラッド層48b上にショットキー電極51、オーミック電極52および接続配線53を形成した。第2のnクラッド層48bとの間でオーミック性接触を形成するAuGeNiをEB蒸着法により第2のnクラッド層48b上に堆積させた後、リフトオフ法によりパターニングを行ってオーミック電極52を形成した。続いて、EB蒸着法により第2のnクラッド層48bとの間でショットキー接触を形成するTi(厚さ100nm)を第2のnクラッド層48b上に堆積させ、更にTi上にAu(厚さ1.5μm)を堆積した。その後、リフトオフ法によりパターニングを行ってショットキー電極51および接続配線53を形成した。次に、第2のnクラッド層48bとオーミック電極52との間でオーミック性接触の形成を促進させるために400℃の窒素雰囲気下で熱処理を行った。尚、オーミック電極52の材料としてAuGe、AuSn、AuSnNi等を使用することも可能である。また、ショットキー電極51の材料としてTa、Wもしくはこれらの合金またはこれらの窒化物を使用することも可能である(図12(c))。以上の各工程を経て半導体発光素子1が完成する。
【0061】
以上の説明から明らかなように、本実施例に係る半導体発光素子1は、結晶成長に使用するGaAs基板よりも高い熱伝導率を有するSi基板を支持基板10として備えることにより、放熱性が向上する故、大電流駆動が可能となる。また、半導体膜40を挟む上面電極50および反射電極31を半導体膜40の積層方向で互いに重ならない位置に配置することによって半導体膜40内における電流密度分布の均一化が図られ、電流集中を防止している。これにより半導体膜40の薄型化を可能としている。
【0062】
本実施例に係る半導体発光素子1において、nクラッド層48は、活性層46に隣接するn型のAl0.5In0.5Pからなる第1のnクラッド層48aと第1のnクラッド層48a上に設けられたn型の(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pからなる第2のnクラッド層48bとにより構成される。第1のnクラッド層48aと第2のクラッド層48bの層厚の合計は2μm以上に設定され、それぞれのキャリア濃度は1×1018cm−3以上5×1018cm−3以下に設定される。これにより、nクラッド層48は、電流拡散層としても有効に機能することができる。従って、GaAs基板を除去する場合においても、半導体膜40内における電流密度分布の均一性は損なわれず発光効率の改善に寄与することができる。また、nクラッド層48において第1のnクラッド層48aの層厚の割合が80%以上とされる故、電流−光出力特性の線形性が改善される。また、第2のnクラッド層48bの厚さが100nm以上とされる故、nクラッド層48に酸化に対する耐性とGaAs基板を除去する際のエッチングに対する耐性を与えることができる。
【0063】
本実施例に係る半導体発光素子1において、pクラッド層44は、電流拡散層42に隣接するp型のAl0.5In0.5Pからなる第1のpクラッド層44aと、第1のpクラッド層44a上に設けられたp型の(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pからなる第2のnクラッド層48bとにより構成される。pクラッド層44において、第1のpクラッド層44aの層厚の割合を50%以上80%以下、第2のpクラッド層44bの層厚の割合が20%以上50%以下とされる故、電流密度の低い領域での発光強度と、電流密度の高い領域での電流−光出力特性の線形性を両立することが可能となる。
【0064】
このようなnクラッド48およびpクラッド層44の構成によれば、電流密度の高い領域における電流−光出力特性の線形性を向上させることができるので、GaAs基板よりも熱伝導率の高い支持基板や電流拡散を促進し得る電極構造と組み合わせることにより、その性能が十分に発揮され、100mA以上の大電流領域において良好な出力特性を得ることが可能となる。
【0065】
nクラッド層48、pクラッド層44および活性層46は、成長用基板であるGaAs基板に整合する条件で作製されることを要する。GaAs基板に整合する条件は成長温度によって異なる。上記各層をGaAs基板に整合させるためには、AlxIn1-xP 、(AlyGa1-y)xIn1-xPにおいてxの値を調整すれば良い。例えば、半導体膜40を500℃〜700℃で成長させる場合、xの範囲を0.45≦x≦0.55とすることによりGaAs基板に整合させることができる。このようなxの範囲でも、上述した実施例の場合と同様、光出力の線形性の改善効果を得ることができる。
【0066】
活性層については、臨界膜厚以下にすれば、GaAs基板に整合する必要はなく、xの範囲を0.45≦x≦0.55としなくてもよい。活性層において好ましい組成の範囲は、臨界膜厚を考慮すると(AlyGa1-y)xIn1-xP (0.4≦x≦0.6、0≦y≦0.7)である。
【0067】
また、上記した実施例では、n型の導電型を得るために、ドーパントとしてSiH4(シラン)を用いたが、DeTe(ジエチルテルル)又はH2Se(セレン化水素)を用いてもよい。また、上記した実施例では、p型の導電型を得るためにCp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いたがDMZn(ジメチルジンク)を用いてもよい。上記した実施例の効果は、ドーパントの種類に依存することなく得ることができる。
【0068】
また、上記した実施例では、活性層46を赤色発光する量子井戸構造(Al組成10%)としたが、井戸層および障壁層の厚さや周期数を変更しても同様の効果を得ることができる。活性層は(AlyGa1-y)xIn1-xP(0.4≦x≦0.6、0≦y≦0.7)単層からなるバルク活性層としてもよい。また、井戸層のAl組成を変更して、黄色発光(波長590nm)や真紅発光 (波長660nm)としても、上記した実施例の場合と同様の効果を得ることができる。基板のオフ角に関しても同様であり、オフ角、オフ方向の異なるGaAs基板を用いて半導体膜の結晶成長を行っても上記した実施例の効果を得ることができる。尚、本発明者らは、(100)面から[011]方向に4°傾斜させたGaAs基板を用いた場合においても上記の実施例の場合と同様の効果が得られることを確認している。
【0069】
また、上記した実施例では電流拡散層をGaPで構成したが、電流拡散層が発光波長に対して透明であればよく、Inを添加してGa1-zInzP(0≦z≦0.1)としてもよい。この場合においても、上記した実施例の場合と同様の効果を得ることができる。
【0070】
また、上記した実施例では支持基板として導電性を有するSi基板を用いることとしたが、これに限定されるものではない。支持基板は、結晶成長に用いられるGaAs基板よりも高い熱伝導率を備えている材料により構成されていればよく、Cu、Ge,CuW合金、SiCなどにより構成されていてもよい。また、発光波長に対して透明であってもよく、例えばGaP基板、GaN基板を用いることも可能である。
【0071】
また、上記した実施例では、支持基板と半導体膜との間に、誘電体層および反射電極を設けることとしているが、支持基板として透明な基板を用いる場合には、これらを設けないものとすることができる。また、上記した実施例の反射電極の代わりに、半導体膜をnクラッド層側から部分的にエッチングして第一のpクラッド層の一部を露出させて、この第一のpクラッド層の露出面上にオーミック電極を形成することとしてもよい。また、支持基板が導電性を有している場合には、支持基板の下面に電極を形成することができる。
【0072】
図13は、パターン構成が改変された上面電極50および反射電極31を同一平面に投影した平面図である。図4に示す電極構成と同様、光反射面側には、ライン電極31aおよびドット電極31bからなる反射電極31が設けられ、光取り出し面側には、ショットキー電極51、オーミック電極52および接続配線53からなる上面電極50が設けられる。上面電極50および反射電極31は、半導体膜40の積層方向において互いに重ならないに位置に配置されている。このような改変された電極パターンによっても上記した実施例の場合と同様の効果を得ることができる。
【0073】
図4および図12に示すように、半導体膜40を挟む上部電極50および下部電極12を互い違いに配置することにより、半導体膜40内における電流密度分布が均一化される故、本実施例に係るクラッド層構成による光出力特性の線形性改善効果はより顕著となる。しかしながら、このような電極構造でなくとも、本実施例に係るクラッド層構成による光出力特性の線形性の改善効果を得ることはできる。その理由は、本実施例に係るクラッド層構成は、キャリアを効果的にブロックしてオーバーフローを抑制するためのものであり、その効果は、電極構造による電流拡散促進効果とは独立して得られるものだからである。例えば、図14に示すような半導体膜40の同一面側にn電極71およびp電極72が設けられる所謂フリップチップ構造を有するものに本実施例のクラッド層構成を適用することも可能である。フリップチップ構造とする場合、支持基板10と半導体膜40との間には、反射電極層に代えてSiO2等からなる反射絶縁層80が設けられる。
【0074】
また、上記した実施例では、反射電極層30を構成する誘電体層32のとしてSiO2を用いたが、誘電体層32をITOからなる導電層に置換することも可能である。この場合、ITOは導電性を有する故、反射電極31と半導体膜40とのコンタクトをとるためのコンタクト窓を形成する必要はない。
【符号の説明】
【0075】
1 半導体発光素子
10 支持基板
12 裏面電極
20 接合層
30 反射電極層
31 反射電極
40 半導体膜
42 電流拡散層
44 pクラッド層
44a 第1のpクラッド層
44b 第2のpクラッド層
46 活性層
48 nクラッド層
48a 第1のnクラッド層
48b 第2のnクラッド層
50 上面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、前記支持基板上に設けられた半導体膜と、を含む半導体発光素子であって、
前記半導体膜は、
前記支持基板上に設けられたp型の導電型を有するGaInPまたはGaPからなる電流拡散層と、
前記電流拡散層上に設けられたp型の導電型を有するAlInPからなる第1のpクラッド層と、
前記第1のpクラッド層上に設けられたp型の導電型を有するAlGaInPからなる第2のpクラッド層と、
前記第2のpクラッド層上に設けられた少なくとも一層のGaInPまたはAlGaInPからなる層を含む活性層と、
前記活性層上に設けられたキャリア濃度1×1018cm−3以上5×1018cm−3以下であり且つn型の導電型を有するAlInPからなる第1のnクラッド層と、
前記第1のnクラッド層上に設けられたキャリア濃度1×1018cm−3以上5×1018cm−3以下であり且つn型の導電型を有するAlGaInPからなる第2のnクラッド層と、を含み、
前記第1のpクラッド層と前記第2のpクラッド層からなるpクラッド層全体の層厚のうち前記第1のpクラッド層の層厚が占める割合は50%以上80%以下であり、
前記第1のnクラッド層と前記第2のnクラッド層からなるnクラッド層全体の層厚は2μm以上であり、前記nクラッド層全体の層厚のうち前記第1のnクラッド層の層厚が占める割合は80%以上であり且つ前記第2のnクラッド層の層厚は100nm以上であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記電流拡散層は、Ga1-zInzP(0≦z≦0.1)からなり、
前記第1のpクラッド層は、AlxIn1-xP(0.45≦x≦0.55)からなり、
前記第2のpクラッド層は、(AlyGa1-y)xIn1-xP(0.45≦x≦0.55、0.6≦y≦0.7)からなり、
前記活性層は、少なくとも一層の(AlyGa1-y)xIn1-xP(0.4≦x≦0.6、0≦y≦0.7)からなる層を含み、
前記第1のnクラッド層は、AlxIn1-xP(0.45≦x≦0.55)からなり、
前記第2のnクラッド層は、 (AlyGa1-y)xIn1-xP(0.45≦x≦0.55、0.3≦y≦0.7)からなることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記支持基板は、GaAsよりも熱伝導率の高い材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記支持基板と前記半導体膜との間には、前記半導体膜にオーミック接触する反射電極が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記第2のnクラッド層の表面に設けられて前記第2のnクラッド層にオーミック接触するオーミック電極を更に有し、
前記オーミック電極と前記反射電極は、前記半導体膜の積層方向において互いに重ならないように設けられていることを特徴とする請求項4に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
GaAs基板上にキャリア濃度1×1018cm−3以上5×1018cm−3以下であり且つn型の導電型を有するAlGaInPからなる第2のnクラッド層を形成する工程と、
前記第2のnクラッド層上にキャリア濃度1×1018cm−3以上5×1018cm−3以下であり且つn型の導電型を有するAlInPからなる第1のnクラッド層を形成する工程と、
前記第1のnクラッド層上に少なくとも一層のGaInPまたはAlGaInPからなる層を含む活性層を形成する工程と、
前記活性層上にp型の導電型を有するAlGaInPからなる第2のpクラッド層を形成する工程と、
前記第2のpクラッド層上にp型の導電型を有するAlInPからなる第1のpクラッド層を形成する工程と、
前記第1のpクラッド層上にp型の導電型を有するGaInPまたはGaPからなる電流拡散層を形成する工程と、
前記電流拡散層上に光反射構造を有する反射電極層を形成する工程と、
前記GaAs基板よりも熱伝導率の高い材料からなる支持基板を前記反射電極層に接合する工程と、
前記GaAs基板を除去する工程と、
前記GaAs基板を除去することにより表出する前記第2のnクラッド層の表面に上面電極を形成する工程と、を含み、
前記第1のpクラッド層と前記第2のpクラッド層からなるpクラッド層全体の層厚のうち前記第1のpクラッド層の層厚が占める割合は50%以上80%以下であり、
前記第1のnクラッド層と前記第2のnクラッド層からなるnクラッド層全体の層厚は2μm以上であり、前記nクラッド層全体の層厚のうち前記第1のnクラッド層の層厚が占める割合は80%以上であり且つ前記第2のnクラッド層の層厚は100nm以上であることを特徴とする半導体発光素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−190985(P2012−190985A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52844(P2011−52844)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】