説明

半導体装置およびその製造方法

【課題】アイランドに設置された半導体素子とその周囲の端子部とをボンディングワイヤで接続し、これらをモールド樹脂で封止してなる半導体装置において、ワイヤ長Lが6mm以上であっても、ワイヤ流れおよびワイヤの下方へのたわみを極力抑制し、ワイヤの短絡を防止する。
【解決手段】ワイヤ40における半導体素子30側の接続部と端子部20側の接続部との間に、第1の屈曲点41、第2の屈曲点42、第3の屈曲点43、第4の屈曲点44を設け、半導体素子30の上方から見たときのワイヤ40における半導体素子30側の接続部と第2の屈曲点42との距離L2、当該接続部と第3の屈曲点43との距離L3、当該接続部と第4の屈曲点44との距離L4を、それぞれワイヤ長Lに対して、0.25L以上0.35L以下、0.5L以上0.6L以下、0.85L以上0.95L以下としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子設置部に設置された半導体素子とその周囲に位置する端子部とをワイヤボンディングにより形成されたワイヤで接続し、これらをモールド樹脂で封止してなる半導体装置、および、そのような半導体装置の製造方法に関し、たとえばエンジンECUなどの車載電子製品に搭載される半導体装置などに適用できる。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の半導体装置としては、たとえば素子設置部および端子部を有するリードフレームを用い、半導体素子を素子設置部の一面上に搭載し、この半導体素子と素子設置部周囲の端子部とをボンディングワイヤで接続し、さらに、素子設置部の一面側にて、半導体素子、素子設置部、端子部、およびボンディングワイヤをモールド樹脂にて封止してなるものが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このような半導体装置としては、具体的にQFN(クワッド−フラット−ノンリード−パッケージ)などがある。ここで、ワイヤは、ワイヤボンディングにて形成されるため、ワイヤにおける半導体素子側の接続部と端子部側の接続部との間の部位が、半導体素子よりも上方に突出するとともに素子設置部の一面の上方に向かって凸となったループ形状をなすものである。
【0004】
そして、このような半導体装置は、複数の半導体素子を同一フレームの素子設置部上にマトリクス状に搭載して、一つのキャビティ内にて一括してモールド樹脂で封止した後に、ダイシングして個々の半導体装置を得る、といういわゆるMAP成形技術を用いて製造される。これは1フレーム当たりの取り数の増加、モールド金型の共用といったコスト面での大きなメリットを持つものである。
【0005】
また、従来では、このモールド樹脂の成形工程において、金型内の樹脂の流れによるワイヤ流れを防止するために、ワイヤに2〜3箇所の屈曲点を設けてワイヤの剛性を向上させるという技術が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−58246号公報
【特許文献2】特開平11−145179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記MAP成形による成形品は、キャビティサイズが非常に大きいためモールド樹脂の注入時におけるワイヤ流れが問題となる。この問題について、本発明者は、従来のMAP成形技術を用いて試作を行い、具体的な検討を行った。
【0007】
図36は、本発明者が試作した半導体装置における樹脂封止工程を示す概略平面図である。図36に示されるように、リードフレームの素子設置部10の一面11側に半導体素子30が設置され、素子設置部10の一面11側にて半導体素子30と端子部20とがワイヤ40によって接続されている。
【0008】
このようなワークを、金型300のキャビティ301に設置し、ゲート304からモールド樹脂50をキャビティ301内に注入する。それによって、素子設置部10の一面11側にて、半導体素子30、素子設置部10、端子部20およびワイヤ40を、モールド樹脂50により封止する。
【0009】
ここで、このモールド樹脂50の注入中にモールド樹脂50の硬化が進み粘度が高くなってしまうために、キャビティ301内を流れてくるモールド樹脂50によって、ワイヤ40が押し流されるという現象が発生する。
【0010】
図36に示されるように、半導体素子30上を流れるモールド樹脂50の流速(半導体素子上流速)V1と、素子設置部10の一面11のうち半導体素子30と端子部20との間に位置する部位上を流れるモールド樹脂50の流速(素子設置部上流速)V2とでは、素子設置部上流速V2の方が速い。
【0011】
これは、キャビティ301内において、半導体素子30上の部分は、半導体素子30の厚さの分だけ、モールド樹脂50の流れる断面積が、半導体素子30以外の素子設置部10の一面11上の部分よりも小さいためである。
【0012】
このように、素子設置部上流速V2の方が半導体素子上流速V1よりも速いと、モールド樹脂50の流れが不均一になり、エアベント305に最も近いワイヤ40、すなわち、成型時の樹脂流れの最下流に位置するワイヤ40が、流れてくるモールド樹脂50によって流されやすくなる。
【0013】
図37は、この樹脂流れ最下流に位置するワイヤ40におけるワイヤ流れの発生の様子を示す概略平面図であり、モールド樹脂50の充填後においてモールド樹脂50を透視した図である。
【0014】
図37に示されるように、半導体素子30以外の素子設置部10の一面11上を流れてくるモールド樹脂50によって、樹脂流れの最下流には、モールド樹脂50の合流地点が発生する。その結果、合流地点の近隣のワイヤ40が流されて互いに接触しショート不良が発生する。
【0015】
ここで、従来においては、このような流速V1、V2の差が発生するが、通常の民生品などでは、半導体素子30のサイズに合わせて素子設置部10ひいてはパッケージサイズを設計するので、ワイヤ長は2〜5mm程度に収まるのが普通であり、上記した流速V1、V2の差によるワイヤ流れは問題とならない。
【0016】
しかし、本発明者が開発を進めている車載用途の半導体装置の場合、装置の使用環境が厳しいことや、電流を多く流すため発熱が厳しいといったことから、放熱性を上げるために素子設置部10のサイズを半導体素子30のサイズよりもかなり大きく設定しなければならないという制約がある。
【0017】
このことは、必然的にワイヤ40の長さすなわちワイヤ長を長くすることとなり、そのワイヤ長は6mmを超えることになる。ここで、ワイヤ長とは、半導体素子30の上方から見たときのワイヤ40における半導体素子30側の接続部とワイヤ40における端子部20側の接続部との距離である(後述の図38参照)。
【0018】
そして、本発明者の行った上記試作検討によれば、ワイヤ長が6mmを超えるロングワイヤ品をMAP成形する場合、樹脂注入におけるワイヤ流れの発生を防ぐことが困難であることがわかった。
【0019】
ここで、上記特許文献2に記載されているように、ワイヤに2〜3箇所の屈曲点を設けてワイヤの剛性を向上させるという方法はあるものの、本発明者の検討によれば、この従来方法では、ワイヤ長が6mmを超えるロングワイヤでは、その効果は充分でないことが確認された。
【0020】
また、図38は、本発明者が試作したワイヤ長が6mmを超えるロングワイヤを有する試作品において、ワイヤ40のたわみを示す概略断面図である。図38(a)に示されるように、ワイヤ長Lが6mmを超えるロングワイヤでは、下方へのたわみが大きくなり、ワイヤ40が素子設置部10に接触してショートしやすくなる。
【0021】
特に、上述したように、素子設置部の面積が大きく、かつMAP成形品のような大面積のフレームの場合、図38(b)に示されるように、ワイヤボンド時の加熱などにより、フレームの反りが発生する。すると、ワイヤ40に図中の白抜き矢印に示されるような下向きの力が加わり、素子設置部10とワイヤ40とが接触しやすくなる。
【0022】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、素子設置部に設置された半導体素子とその周囲の端子部とをワイヤボンディングにより形成されたワイヤで接続し、これらをモールド樹脂で封止してなる半導体装置において、ワイヤ長が6mm以上であっても、ワイヤ流れおよびワイヤの下方へのたわみを極力抑制し、ワイヤの短絡を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するため、本発明は、半導体素子(30)の上方から見たときのワイヤ(40)における半導体素子(30)側の接続部とワイヤ(40)における端子部(20)側の接続部との距離L、すなわちワイヤ長Lが6mm以上のものについて、後述する図9、図11および図13に示されるような本発明者が行った実験結果を根拠とするものである。
【0024】
すなわち、請求項1に記載の発明は、ワイヤ(40)における半導体素子(30)側の接続部と端子部(20)側の接続部との間に、当該ワイヤ(40)を屈曲させた屈曲点(41〜44)を4箇所設け、これら4箇所の屈曲点(41〜44)を、半導体素子(30)側の接続部から端子部(20)側の接続部へ向けて第1の屈曲点(41)、第2の屈曲点(42)、第3の屈曲点(43)、第4の屈曲点(44)とし、上記のワイヤ長をLとしたとき、半導体素子(30)の上方から見たときのワイヤ(40)における半導体素子(30)側の接続部と第2の屈曲点(42)との距離(L2)、当該接続部と第3の屈曲点(43)との距離(L3)、当該接続部と第4の屈曲点(44)との距離(L4)を、それぞれ、0.25L以上0.35L以下、0.5L以上0.6L以下、0.85L以上0.95L以下としたことを特徴としている。
【0025】
そして、本発明の半導体装置によれば、ワイヤ長Lが6mm以上であっても、ワイヤ流れおよびワイヤ(40)の下方へのたわみを極力抑制し、ワイヤ(40)の短絡を防止することができる。
【0026】
ここで、請求項2に記載の発明のように、4箇所の屈曲点(41〜44)は、それぞれ素子設置部(10)の一面(11)の上方に向かってに凸となるように屈曲したものにできる(後述の図2参照)。
【0027】
また、請求項3に記載の発明のように、素子設置部(10)の一面(11)を基準として、第4の屈曲点(44)は、第3の屈曲点(43)とワイヤ(40)における端子部(20)側の接続部とを結ぶ仮想直線(K1)よりも上方に位置することが好ましい(後述の図2等参照)。
【0028】
第4の屈曲点(44)は、ワイヤ(40)のうち他の第1〜第3の屈曲点(41〜43)よりも、素子設置部(10)の一面(11)を基準として低い位置にあり、素子設置部(10)に近くなりがちであるが、この第4の屈曲点(44)を上記仮想直線(K1)よりも上方に位置させれば、第4の屈曲点(44)と当該素子設置部(10)との接触を防止するうえで好ましい。
【0029】
さらに、この場合、請求項4に記載の発明のように、ワイヤ(40)における半導体素子(30)側の接続部がワイヤボンディングにおける第1ボンディング部側であり、ワイヤ(40)における端子部(20)側の接続部がワイヤボンディングにおける第2ボンディング部側であると、第4の屈曲点(44)が特に素子設置部(10)に近くなりがちであるが、このような場合であっても、上記した仮想直線(K1)の構成を採用すれば、効果的である。
【0030】
また、請求項5に記載の発明のように、ワイヤ(40)における端子部(20)側の接続部がワイヤボンディングにおける第1ボンディング部側であり、ワイヤ(40)における半導体素子(30)側の接続部がワイヤボンディングにおける第2ボンディング部側であり、4箇所の屈曲点(41〜44)のうち第4の屈曲点(44)における屈曲角度が最も小さい角度となっているものであってもよい(後述の図18参照)。それによれば、ワイヤ(40)と素子搭載部(10)との接触を防止しやすい。
【0031】
また、請求項5に記載の発明のように、ワイヤ(40)は複数本、並列に配置されており、これら複数本のワイヤ(40)が上記した4箇所の屈曲点(41〜44)を有するものであり、これら複数本のワイヤ(40)において、個々のワイヤ(40)における半導体素子(30)側の接続部同士が同一平面上に位置し、且つ、個々のワイヤ(40)における端子部(20)側の接続部同士が同一平面上に位置している場合には、さらに、個々のワイヤ(40)における半導体素子(30)側の接続部から第1の屈曲点(41)までの高さ(hx)が、複数本のワイヤ(40)において隣り合うワイヤ同士で異なることが好ましい(後述の図23、図24参照)。
【0032】
それによれば、隣り合うワイヤ(40)同士にて第1の屈曲点(41)の高さが異なるため、たとえワイヤ流れが生じたとしても、隣り合うワイヤ(40)同士の接触を極力防止することができる。
【0033】
また、請求項7に記載の発明のように、ワイヤ(40)が複数本のものよりなる場合、これら複数本のワイヤ(40)のうち、成型時の樹脂流れの最下流の位置にて成形されたモールド樹脂(50)で封止されているワイヤが、4箇所の屈曲点(41〜44)を有するものであってもよい(後述の図3、図4等参照)。
【0034】
上述したように、成型時の樹脂流れの最下流の位置にて成形されたモールド樹脂(50)で封止されているワイヤ(40)では、ワイヤ流れが生じやすいが、当該ワイヤ(40)を上記4箇所の屈曲点(41〜44)を有するものとすることにより、ワイヤ流れが防止される。
【0035】
また、請求項8、請求項9に記載の発明のように、ワイヤ(40)のうち半導体素子(30)上にて最も高さの大きい部位と半導体素子(30)との距離(H)は、100μm以下、好ましくは80μm以下であるようにしてもよい。
【0036】
このことは、実験的に見出したものであり、後述する図26に示されるように、ワイヤ(40)のループ高さに相当する当該距離(H)が100μm以下、好ましくは80μm以下ならば、ワイヤ(40)のループ高さを低くしてワイヤ流れによるショートを極力防止できる。
【0037】
また、請求項10に記載の発明のように、距離Lすなわち上記ワイヤ長Lは6mm以上であってもよい。ワイヤ長Lが6mm以上のワイヤ流れやワイヤのたわみが発生しやすいものに対しても、本発明は効果を奏する。
【0038】
また、上記の特徴を有する半導体装置を製造する製造方法としては、請求項11に記載の発明のように、半導体素子(30)と端子部(20)とをワイヤ(40)にて接続する工程が、半導体素子(30)および端子部(20)のどちらか一方におけるワイヤ(40)が接続される部位を第1ボンディング部とし、他方におけるワイヤ(40)が接続される部位を第2ボンディング部として、ボンディングツール(400)を用いたワイヤボンディングを行うものを採用することができる。
【0039】
この場合、第1ボンディング部にワイヤ(40)を接続し、次にボンディングツール(400)を用いてワイヤ(40)に曲げ加工を行うことで4箇所の屈曲点(41〜44)をそれぞれ形成した後、第2ボンディング部にワイヤ(40)を接続する方法を採用することができる。
【0040】
そして、ボンディングツール(400)による4箇所の屈曲点(41〜44)の形成は、ボンディングツール(400)を第1ボンディング部の上方に移動させながらワイヤ(40)を引き出し、続いてボンディングツール(400)を第2ボンディング部とは反対側に移動させてワイヤ(40)を曲げるという動作を、4回繰り返し行うことにより、行うようにすればよい(後述の図5〜図7参照)。
【0041】
それによれば、通常のワイヤボンディング装置を用いて上記4箇所の屈曲点(41〜44)を有するワイヤ(40)を形成することができる。
【0042】
この製造方法の場合、本発明者の試作検討によれば、請求項12に記載の発明のように、ボンディングツール(400)の第1ボンディング部の上方への移動方向とボンディングツール(400)の第2ボンディング部とは反対側への移動方向とのなす角度を、100°とすれば、上記4箇所の屈曲点(41〜44)を形成するのに好ましい。
【0043】
また、この製造方法の場合、請求項13に記載の発明のように、ワイヤ(40)の先端部に放電処理によってボール(40a)を形成し、このボール(40a)を第1ボンディング部に接続するようにしたとき、ボール(40a)の形成を、0℃以上室温の雰囲気温度以下で行うことが好ましい。
【0044】
それによれば、ワイヤ(40)においてボール(40a)を含む再結晶領域(40b)を小さくして、第1ボンディング部からのワイヤ(40)の立ち上がり高さを抑えることができる。その結果、ワイヤ(40)のループ高さ(H)を低くでき、ワイヤ流れによるショートの防止に好ましい。
【0045】
また、第2ボンディング部への接続の際、ボンディングツール(400)に押さえつけられて、第2ボンディング部の近傍のワイヤ(40)部分が、押さえつけられるツール(400)の先端形状に沿って持ち上がる。このことは、ワイヤ(40)のループ高さを高くすることになり、ワイヤ流れの抑制のためには好ましくない。
【0046】
この持ち上がりの対策手段としては、請求項14に記載の発明のように、4箇所の屈曲点(41〜44)を形成した後、ワイヤ(40)を第2ボンディング部に接続する前に、ワイヤ(40)のうち第4の屈曲点(44)と第2ボンディング部へ接続される部位との中間部を、第2ボンディング部を構成する部材に押し当てるように、ボンディングツール(400)により変形させ、その後、第2ボンディング部への接続を行うことが好ましい。
【0047】
また、この持ち上がりの対策手段としては、請求項15に記載の発明のように、ワイヤ(40)を第2ボンディング部に接続した後に、ワイヤ(40)のうち第4の屈曲点(44)と第2ボンディング部へ接続された部位との中間部を、第2ボンディング部を構成する部材に押し当てるように、ボンディングツール(400)により変形させるようにしてもよい。
【0048】
さらには、この持ち上がりの対策手段としては、請求項16に記載の発明のように、ボンディングツール(400)として、ワイヤ(40)が引き出される先端部のうちワイヤ(40)からみて第1ボンディング部側に位置する部位の方が、第2ボンディング部側に位置する部位よりも、幅広なものを用いるようにしてもよい。
【0049】
これらの各対策によれば、第2ボンディング部の近傍のワイヤ(40)部分が、第2ボンディング部を構成する部材に押し当てられて持ち上がらないため、結果、ワイヤ(40)のループ高さ(H)を低くでき、ワイヤ流れによるショートの抑制のためには好ましい形状となる。
【0050】
また、請求項17に記載の発明は、請求項11〜16に記載の製造方法において、モールド樹脂(50)による封止工程に改良を加えたものである。
【0051】
すなわち、請求項17に記載の発明では、半導体素子(30)と端子部(20)とをワイヤ(40)にて接続する工程を行った後、モールド樹脂(50)による封止工程を行うものであり、モールド樹脂(50)による封止前に比べて当該封止後にワイヤ(40)が変位した距離dを距離Lで除して100を乗じた値をワイヤ流れ率としたとき、モールド樹脂(50)がゲル状態を維持している時間であるゲルタイムとワイヤ流れ率との関係を示すグラフを予め求めておき、このグラフにおいてゲルタイムが短い方から長くなる方へ向かって並ぶ屈曲点のうち下に凸である2番目の屈曲点における当該ゲルタイムの値を設定値とし、封止工程では、モールド樹脂(50)のゲルタイムを前記設定値とした状態で、モールド樹脂(50)による封止を行うことを特徴とする。
【0052】
それによれば、封止時におけるモールド樹脂(50)の流動性を良好な状態に維持することができるため、モールド樹脂(50)の流れによってワイヤ(40)が押し流される力が弱くなり、ワイヤ流れを小さくでき、好ましい。
【0053】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0055】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る半導体装置100の概略構成を示す図であり、(a)は同半導体装置100の概略断面図、(b)は(a)の上方からみた平面図である。なお、図1(b)ではモールド樹脂50を透過して、半導体装置100におけるモールド樹脂50内部の各部を示してある。
【0056】
[半導体装置の全体構成等]
本実施形態の半導体装置100は、大きくは、素子設置部としてのアイランド10と、アイランド10の一面としての上面11側に設置された半導体素子30と、アイランド10の周囲に配置された端子部20と、アイランド10の上面11側にて半導体素子30と端子部20とを接続するボンディングワイヤ40と、アイランド10の上面11側にてこれら半導体素子30、アイランド10、端子部20およびワイヤ40を封止するモールド樹脂50とを備えて構成されている。
【0057】
本実施形態では、アイランド10と端子部20とは、後述する1枚のリードフレーム200(後述の図3、図4参照)から分離形成されたものである。ここで、リードフレーム200は、板厚0.125mm〜0.5mm程度のCu系金属や鉄系金属などよりなる通常のリードフレーム材料からなる。
【0058】
そして、このようなリードフレーム材料としての板材をプレスやエッチング加工することなどによりアイランド10と端子部20とのパターンを形成することによって、リードフレーム200が形成されている。
【0059】
なお、このリードフレーム200においては、少なくともワイヤボンドする部位にAgめっきが施されていてもよい。あるいは、下からNiめっき/Pdめっき/Auめっきという所謂PPFであってもよい。PPFの場合、モールド樹脂50との密着性を確保するために最下層のNiめっきを粗化してあってもよい。
【0060】
本実施形態においては、図1(b)に示されるように、アイランド10は矩形板状のものであり、端子部20は、アイランド10の4辺の外周において複数本のものが配列されている。特に限定するものではないが、ここでは、個々の端子部20は短冊板形状をなしている。
【0061】
また、図1に示されるように、アイランド10の一面としての上面11側には、Agペーストやはんだ、導電性接着剤などよりなるダイボンド材31を介して半導体素子30が搭載され、接着されている。この半導体素子30は、特に限定するものではないが、シリコン半導体などの半導体基板を用いて半導体プロセスにより形成されたICチップなどである。
【0062】
そして、図1(a)において、半導体素子30の上面と各端子部20の上面とは、アイランド10の上面11と同一の方向に面している。そして、アイランド10の上面11側にて、これらの上面同士は、Au(金)やアルミニウムなどからなるボンディングワイヤ40を介して結線されて互いに電気的に接続されている。
【0063】
ここでは、ボンディングワイヤ40は、ワイヤ径(つまり直径)が25μm〜30μmであるAuワイヤである。そして、図1(b)に示されるように、ボンディングワイヤ40は複数本、並列に配置されている。
【0064】
また、ボンディングワイヤ40は、この種の半導体装置におけるワイヤと同様に、通常のワイヤボンディングにより形成されたものである。本実施形態では、ワイヤ40における半導体素子30側の接続部が、ワイヤボンディングにおける第1ボンディング部側の接続部であり、ワイヤ40における端子部20側の接続部が、ワイヤボンディングにおける第2ボンディング部側の接続部である。
【0065】
それにより、ボンディングワイヤ40は、当該ワイヤ40における半導体素子30側の接続部と当該ワイヤ40における端子部20側の接続部との間の部位が、半導体素子30よりも上方に突出するとともにアイランド10の上面11の上方に向かって凸となったループ形状をなしている。ここでは、ボンディングワイヤ40は、半導体素子30側の接続部から端子部20側の接続部へ向かう途中部分までが、半導体素子30よりも上方に突出している。
【0066】
そして、モールド樹脂50は、エポキシ樹脂などの通常のモールド材料を用いてトランスファーモールド法などにより形成されるものである。このモールド樹脂50は、アイランド10の上面11側にてアイランド10、端子部20、半導体素子30およびボンディングワイヤ40を包み込むように封止している。
【0067】
ここで、モールド樹脂50は、半導体装置100のパッケージ本体を区画形成するものであり、本実施形態では、通常のこの種の半導体装置と同様に、矩形板状をなすものである。
【0068】
そして、図1(a)において、モールド樹脂50の上面51は、アイランド10の上面11上にて厚さを持って位置している。一方、アイランド10における上面11とは反対側の下面12、および、端子部20における上面とは反対側の下面が、モールド樹脂50の下面52から当該モールド樹脂50の下面52と略同一面上にて露出している。
【0069】
そして、本実施形態の半導体装置100では、これらモールド樹脂50の下面52から露出するアイランド10の下面12および端子部20の下面が、プリント基板などの外部基材と、はんだ付けされるようになっている。
【0070】
[ボンディングワイヤ構成等]
このような半導体装置100において、本実施形態では、ボンディングワイヤ40において、以下のような工夫を施している。図2は、本半導体装置100におけるボンディングワイヤ40の近傍部を拡大して示す概略断面図である。なお、図2ではモールド樹脂50は省略してあり、この図2と同様、以下のボンディングワイヤ近傍部の拡大図においても、モールド樹脂50が省略されている場合がある。
【0071】
図2において、半導体素子30の上方から見たときのボンディングワイヤ40における半導体素子30側の接続部とボンディングワイヤ40における端子部20側の接続部との距離Lを、ワイヤ長Lとする。そして、本実施形態では、このワイヤ長Lは6mm以上である。
【0072】
なお、この種の半導体装置において、これらボンディングワイヤ40における各接続部は領域を持つものであるが、細かく言うならば、このワイヤ長Lは、ワイヤ40と半導体素子30とが接触している領域の中心と、ワイヤ40と端子部20とが接触している領域の中心との間の距離である。
【0073】
そして、図2に示されるように、本実施形態のボンディングワイヤ40は、ワイヤ40における半導体素子30側の接続部と端子部20側の接続部との間に、当該ワイヤ40を屈曲させた部分である屈曲点41、42、43、44が4箇所設けられている。
【0074】
ここで、これら4箇所の屈曲点41〜44は、半導体素子30側の接続部から端子部20側の接続部へ向けて、順次、第1の屈曲点41、第2の屈曲点42、第3の屈曲点43、第4の屈曲点44とする。
【0075】
また、本実施形態では、これら4箇所の屈曲点41〜44は、それぞれ素子設置部であるアイランド10の上面11の上方(つまり、図2の上方)に向かってに凸となるように屈曲したものである。つまり、これら4箇所の屈曲点41〜44は、アイランド10の上面11から離れる方向に凸となるように屈曲している。
【0076】
そして、半導体素子30側の接続部に最も近い第1の屈曲点41の屈曲角度が、最も小さい角度であり、略90°程度である。また、その他の第2の屈曲点42、第3の屈曲点43および第4の屈曲点44の屈曲角度は、いずれも、第1の屈曲点の屈曲角度よりも大きく180°未満である。
【0077】
また、図2に示されるように、半導体素子30の上方から見たときのワイヤ40における半導体素子30側の接続部と第2の屈曲点42との距離L2を、第2の屈曲点距離L2とし、半導体素子30の上方から見たときのワイヤ40における半導体素子30側の接続部と第3の屈曲点43との距離L3を、第3の屈曲点距離L3とし、半導体素子30の上方から見たときのワイヤ40における半導体素子30側の接続部と第4の屈曲点44との距離L4を、第4の屈曲点距離L4とする。
【0078】
このとき、本実施形態では、第2の屈曲点距離L2は、(0.25〜0.35)×L、すなわち0.25L以上0.35L以下であり、第3の屈曲点距離L3は、(0.5〜0.6)×L、すなわち0.5L以上0.6L以下であり、第4の屈曲点距離L4は、(0.85〜0.95)×L、すなわち0.85L以上0.95L以下である。
【0079】
なお、第1の屈曲点41は、ほぼ半導体素子30側の接続部の直上に位置しているため、半導体素子30の上方から見たときのワイヤ40における半導体素子30側の接続部と第1の屈曲点41との距離は、略0である。ただし、第1の屈曲点41については、多少、端子部20側の接続部の方へずれて位置していてもよい。
【0080】
また、図2においては、第3の屈曲点43とボンディングワイヤ40における端子部20側の接続部とを結ぶ仮想直線K1が、一点鎖線K1にて示されている。そして、本実施形態のボンディングワイヤ40においては、アイランド10の上面11を基準、すなわち0地点として、ワイヤ40の第4の屈曲点44は、当該仮想直線K1よりも、アイランド10の上面11から離れるように上方(つまり図2中の上方)に位置している。
【0081】
[半導体装置の製造方法等]
次に、本実施形態の半導体装置100の製造方法について、図3、図4を参照して述べる。図3は、本製造方法の樹脂封止工程に用いる金型300にワークを設置した状態を示す概略平面図であり、図4は、本製造方法の樹脂封止工程に用いるもう一つの金型300’にワークを設置した状態を示す概略平面図である。
【0082】
なお、これら図3および図4に示される金型300、300’はゲート304の位置が異なるものであり、どちらの場合も、以下に示されるような製造方法により、半導体装置100が製造される。
【0083】
まず、図3、図4に示されるような上記リードフレーム200を用意する。ここで、リードフレーム200は、上記した半導体装置100の1個分に相当するアイランド10および端子部20が、複数個(図3、図4では8個)の単位で一体に連結されたもので、いわゆる多連のリードフレームである。
【0084】
このリードフレーム200におけるアイランド10の上面11に、半導体素子30を、ダイボンド材31を介して搭載する。さらに、各半導体素子30とリードフレーム200の端子部20との間でワイヤボンディングを行い、当該間をボンディングワイヤ40により結線する。
【0085】
ここで、図5、図6、図7は、半導体素子30と端子部20とをワイヤ40にて接続する工程、すなわち、ワイヤボンディング工程を順次示す工程図である。本実施形態のワイヤボンディング工程は、ボンディングツール400を用いたワイヤボンディングを行うものであり、半導体素子30に対して1次ボンディングを行い、端子部20に対して2次ボンディングを行うものである。
【0086】
このボンディングツール400は、一般的なワイヤボンディング装置に備えられているものであり、ボンディングワイヤ40を引き出しながら、移動およびワイヤ接続を行えるものである。
【0087】
本実施形態のワイヤボンディング工程では、図5〜図7に示されるように、第1ボンディングと第2ボンディングとの間に、ボンディングツール400を用いて4箇所の屈曲点41〜44をそれぞれ形成するものである。ここで、図5〜図7中の一点鎖線は、このボンディングツール400の軌跡である。
【0088】
なお、この屈曲点41〜44は、後述するモールド樹脂50の成型時において樹脂流れの最下流の位置にて成形されたモールド樹脂50で封止されるワイヤ40、すなわちエアベント側ワイヤ40について、少なくとも形成すればよい。
【0089】
このエアベント側ワイヤ40は、上記図3、図4において、太い破線Rにて囲まれた部分のワイヤ40である。これは、後述するように、4箇所の屈曲点41〜44の形成が、1つには、ワイヤ40の流れを防止するためのものであることによる。
【0090】
つまり、ワークにおけるボンディングワイヤ40のうち上記エアベント側ワイヤ40についてのみ、屈曲点41〜44を形成してもよい。しかし、本実施形態では、上記図3、図4に示されるワークのすべてのボンディングワイヤ40について、4箇所の屈曲点41〜44の形成を行う。
【0091】
このボンディングツール400による4箇所の屈曲点41〜44の形成について、具体的に述べる。本ワイヤボンディング工程では、半導体素子30におけるワイヤ40が接続される部位を第1ボンディング部とし、端子部20におけるワイヤ40が接続される部位を第2ボンディング部としている。
【0092】
まず、図5(a)に示されるように、1次ボンディングを行う。つまり、半導体素子30における第1ボンディング部に、ボールボンディングによってワイヤ40を接続する。本実施形態においては、第1ボンディング部とワイヤ40における半導体素子30側の接続部とは、実質的に同じ位置となる。
【0093】
次に、図5(b)に示されるように、ボンディングツール400の引き上げを行う。この引き上げは、ボンディングツール400を、第1ボンディング部の上方に移動させながらワイヤ40を引き出す、という動作である。ここでは、この引き上げにおいては、第1ボンディング部から、たとえば100μm〜250μmの位置まで、ボンディングツール400を引き上げる。
【0094】
続いて、図5(c)に示されるように、リバースモーションを行う。このリバースモーションは、ボンディングツール400を、第2ボンディング部すなわち端子部20とは反対側に移動させてボンディングワイヤ40を曲げる、という動作である。
【0095】
このとき、上記図5(b)に示されるボンディングツール400の第1ボンディング部の上方への移動方向と、図5(c)に示されるボンディングツール400の第2ボンディング部とは反対側への移動方向とでは、これら両移動方向のなす角度θ(図5(c)参照)、つまり、リバースモーション角度θは100°である。こうして、第1の屈曲点41が形成される。
【0096】
次に、図5(d)に示されるように、第1の屈曲点41からボンディングツール400の引き上げを行う。ここでは、第1回目の引き上げ位置から上記第2の屈曲点距離L2(0.25L〜0.35L)の分の高さまで、ボンディングツール400を引き上げ、それにより、第2の屈曲点42を形成すべき位置までワイヤ40を引き出す。
【0097】
続いて、図6(a)に示されるように、第2の屈曲点42を形成するためのリバースモーションを、リバースモーション角度θが100°にて行う。こうして、第2の屈曲点42が形成される。
【0098】
次に、図6(b)に示されるように、第2の屈曲点42からボンディングツール400の引き上げを行う。ここでは、第1回目の引き上げ位置から上記第3の屈曲点距離L3(0.5L〜0.6L)の分の高さ、ボンディングツール400を引き上げ、それにより、第3の屈曲点43を形成すべき位置までワイヤ40を引き出す。
【0099】
続いて、図6(c)に示されるように、第3の屈曲点43を形成するためのリバースモーションを、リバースモーション角度θが100°にて行う。こうして、第3の屈曲点43が形成される。
【0100】
次に、図6(d)に示されるように、第3の屈曲点43からボンディングツール400の引き上げを行う。ここでは、第1回目の引き上げ位置から上記第4の屈曲点距離L4(0.855L〜0.95L)の分の高さまで、ボンディングツール400を引き上げ、それにより、第4の屈曲点44を形成すべき位置までワイヤ40を引き出す。
【0101】
続いて、図7(a)に示されるように、第4の屈曲点44を形成するためのリバースモーションを、リバースモーション角度θが100°にて行う。こうして、第4の屈曲点44が形成される。
【0102】
その後、図7(a)、(b)に示されるように、ボンディングツール400を右斜め上方向に引き上げ、続いて、端子部20上に2次ボンディングを行う。つまり、端子部20における第2ボンディング部にワイヤ40を接続する。本実施形態においては、第2ボンディング部とワイヤ40における端子部20側の接続部とは実質的に同じ位置となる。こうして、1本のワイヤ40の接続が終了する。
【0103】
なお、上記の各リバースモーション動作により、ボンディングワイヤ40に曲げ加工がなされ各屈曲点41〜44が形成されるが、これら各屈曲点41〜44の最終的なできあがりの状態の角度は、2次ボンディングの終了により規定される。
【0104】
このように、本実施形態のワイヤボンディングでは、半導体素子30にワイヤ40を接続した後、ボンディングツール400を用いて、上記ワイヤ40の引き出しおよびリバースモーションという一連の動作を、4回繰り返し行って4箇所の屈曲点41〜44をそれぞれ形成し、その後、端子部20にワイヤ40を接続するようにしている。
【0105】
ここで、上記ワイヤボンディングの例では、リバースモーション角度θを100°としたが、この角度によって、適切に4箇所の屈曲点41〜44が形成できることは、本発明者の検討により確認済みである。しかしながら、リバースモーション角度θは100°のみに限定されるものではない。
【0106】
こうして、ボンディングワイヤ40を接続した後、上記図3に示される金型300または上記図4に示される金型300’を用いて、モールド樹脂50の成型、すなわち樹脂封止工程を行う。
【0107】
まず、上記金型300または300’のキャビティ301に対して、ワイヤボンディングがなされたワークをセットする。たとえば、ワークは、アイランド10の下面12となるリードフレーム200の面側を図示しない粘着シートを介して、金型300または300’に貼り付けられる。
【0108】
この金型300、300’は、通常のMAP成形に用いられるものと同様のものであり、樹脂溜まりであるポット302と、ポット302からキャビティ301までの樹脂の導入通路であるランナー303と、ランナー303からキャビティ301への樹脂注入口であるゲート304と、キャビティ301内から余分な樹脂を排出する出口であるエアベント305とを備えている。
【0109】
そして、この金型300、300’においては、モールド樹脂50は、タブレット状の樹脂としてポット302に投入された後、溶融したモールド樹脂50がランナー303を通り、ゲート304からキャビティ301に注入される。そして、キャビティ301に注入されたモールド樹脂50は、キャビティ301内を充填しながら流れ、エアベント305から排出される。
【0110】
こうして、アイランド10の上面11側の各部はモールド樹脂50にて封止される。一方、リードフレーム200のアイランド10の下面12側には、上記粘着テープが貼り付いているため、上記したアイランド10の下面12および端子部20の下面は、モールド樹脂50で封止されず、モールド樹脂50の下面52から露出する。
【0111】
こうして、樹脂封止工程を終えた後、モールド樹脂50で封止されたワークを金型300または300’から取り出し、切断機で個片の半導体装置100にするためダイシングして切り出す。
【0112】
具体的には、各半導体装置の単位間を連結するリードフレーム200の端子部20をモールド樹脂50とともに切断する。そして、上記粘着テープを剥がす。こうして、本実施形態の半導体装置100ができあがる。
【0113】
ここで、図3、図4に示した各金型300、300’におけるキャビティ301のサイズは例えば、40mm×65mm程度とかなりの大型であり、個片にした後のサイズすなわち各半導体装置100の平面サイズは14mm×17mm程度である。
【0114】
[ワイヤにおける屈曲点の根拠等]
ところで、本実施形態では、上述したように、ボンディングワイヤ40に4箇所の屈曲点41〜44を設け、第2〜第4の屈曲点42〜44の位置を、上記屈曲点距離L2〜L4として所定の範囲に規定している。この根拠について述べる。
【0115】
図8は、従来のこの種の半導体装置として本発明者が試作した比較例としての半導体装置を示す概略断面図であり、(a)は屈曲点41を1箇所設けた通常のワイヤ40、(b)は屈曲点41、42を2箇所設けたワイヤ40である。
【0116】
この図8に示されるようなループ形状のワイヤ40であれば、上記した半導体素子上流速V1と素子設置部上流速V2(上記図36参照)との差によるモールド樹脂50の流れの不均一が原因となって、上記図37に示されるように、合流地点でのワイヤ流れが発生し、ショートが発生してしまう。
【0117】
特に、成型時の樹脂流れの最下流に位置する部位、すなわち、エアベント305に近い側の半導体素子30の部分は、モールド樹脂50がポット302から流れ始めて時間が経っている部分であり、樹脂の硬化が進み粘度が高い状態となっている。そのため、エアベント側ワイヤ40が余計に流れやすい。
【0118】
ここで、ワイヤ長L1が2〜5mm程度と短ければ多少の流れの不均一があってもワイヤ変形量が少なくて済むのでよいのであるが、本実施形態のものはワイヤ長L1が6mm以上のロングループワイヤ品を対象としているので、ちょっとした樹脂の流れの不均一がショート不良に直結する。
【0119】
この対策として、エアベント側ワイヤ40の剛性を上げるために、エアベント側ワイヤ40のみ、たとえばCuなどの剛性の高いワイヤ材に変更したり、線径を太くしたりすることが考えられる。しかし、いずれも、ワイヤボンディング装置が2台必要となりコストアップとなる。
【0120】
そこで、本発明者は、ボンディングワイヤ40に屈曲点を設けることで、上記の樹脂流れに耐性を持つようにワイヤ40に剛性を付与することを考えた。そして、その屈曲点数および屈曲位置を適切に設定しないとその効力を発揮しないことが実験検討の結果、判明した。この実験結果について、以下に説明する。
【0121】
図9は、ボンディングワイヤ40において半導体素子30側の接続部と端子部20側の接続部との間に形成した屈曲点の数とワイヤ流れ率(単位:%)との関係を調査した結果を示す図である。
【0122】
ここで、ワイヤ流れ率を測定したワイヤ40は、上記エアベント側ワイヤ40であり、そのワイヤ長Lは6.8mm、ワイヤ材はAu、ワイヤ径はφ30μmである。また、ワイヤ流れ率の定義は、図10にて、(d1/L)×100として示される。つまり、図10に示されるように、樹脂流れによるワイヤ40の変位d1をワイヤ長Lで除して100を乗じたものが、ワイヤ流れ率である。
【0123】
図9に示される結果をみると、屈曲点数を増やすに従ってワイヤ流れ率が小さくなっており、4点にすると、ワイヤショートの発生を回避できる目標値である5%を、ばらつきも含めて達成できることがわかった。なお、屈曲点が2点、3点のものは、上記従来特許文献2などにあるような従来のものに相当し、ワイヤ流れ率が大きく、ワイヤショートが発生しやすくなっている。このことから、本実施形態では、屈曲点41〜44を4箇所とした。
【0124】
また、図11は、第2の屈曲点42、第3の屈曲点43の位置設定の根拠を示す図であり、ワイヤ40内の位置(x/L)とワイヤ流れによって変化するワイヤ間ギャップG(単位:μm)との関係を調査した結果を示す図である。
【0125】
ここで、図12は、ワイヤ内の位置(x/L)(単位:%)およびワイヤ間ギャップG(実測値、単位:μm)の定義を示す図である。ワイヤ内の位置は、半導体素子30の上方から見たときのワイヤ40における半導体素子30側の接続部と任意の位置との距離xを、ワイヤ長Lで除して100を乗じたものであり、ワイヤ間ギャップGは、このワイヤ内の位置(x/L)での隣接するワイヤ40同士の距離Gである。
【0126】
この図11において、ワイヤ間ギャップGを測定したワイヤ40は、2本の上記エアベント側ワイヤ40であり、ワイヤ長Lは6.5mm、ワイヤ材はAu、ワイヤ径はφ30μmである。
【0127】
図11に示される結果から、ワイヤ内の位置(x/L)が25%〜35%で、ワイヤ間ギャップGが狭くなりはじめ、その状態が、ワイヤ内の位置(x/L)が50%〜60%まで継続していることがわかる。
【0128】
つまり、この部分が、ボンディングワイヤ40の全長の中で最も隣のワイヤ40と接近しやすいことを示しており、それはすなわち、この部分の剛性を上げることでワイヤ40の変形を抑えるという効果が最大限に発揮されることを意味していることにほかならない。このことから、本実施形態では、第2の屈曲点距離L2、第3の屈曲点距離L3をそれぞれ、0.25L以上0.35L以下、0.5L以上0.6L以下とした。
【0129】
次に、図13は、第4の屈曲点44の位置設定の根拠を示す図であり、第4の屈曲点44の位置(単位:%)と第4の屈曲点44が下方向にたわんだ量d2(単位:μm)との関係を調査した結果を示す図である。第4の屈曲点44の位置は、上記図12の(x/L)と同様であり、ワイヤ長Lに対する割合で表される。
【0130】
ここで、当該たわんだ量dは、図14に示されるように、第3の屈曲点43とワイヤ40における端子部20側の接続部とを結ぶ上記仮想直線K1に対して、第4の屈曲点44が上下にずれた量d2を表す。この場合、仮想直線K1よりもアイランド10の上面11側すなわち下方側にずれた場合は、量d2はプラスであり、反対側にずれた場合は、量d2はマイナスである。
【0131】
つまり、上記たわんだ量d2がプラスの値になることは、ワイヤ40にたわみが発生していることを表している。そして、上述したようなワイヤボンド時の加熱でフレームの反りが発生し、アイランド10とワイヤ40が接触してしまうという不具合を回避するためには、当該たわんだ量d2はマイナスの値でなければならない。
【0132】
図13に示されるように、本発明者の実験によると、第4の屈曲点44の位置が端子部20との接続部側に近づくほど、上記たわんだ量d2の値はマイナスに近づいている。そして、第4の屈曲点44の位置が85%まで、すなわち第4の屈曲点距離L4が0.85Lまで行くと、マイナスの領域になることがわかった。
【0133】
つまり、第4の屈曲点44は、ボンディングワイヤ40のうち他の第1〜第3の屈曲点41〜43よりも、アイランド10の上面11を基準として低い位置にあり、当該第4の屈曲点44はアイランド10に近くなりがちであるが、その位置を0.85L以上とすれば、ワイヤ40のたわみによるアイランド10への接触が極力防止され、短絡を抑制できることがわかった。
【0134】
なお、ワイヤボンディング装置上の制約により、第4の屈曲点44の位置は、95%以上には設定できない。このことから、本実施形態では、第4の屈曲点距離L4を0.85L以上0.95L以下とした。
【0135】
ここで、図15は、この第4の屈曲点44の位置を規定したことによる具体的な効果を示す図である。図15(a)に示されるように、第4の屈曲点44を設けることにより、上記仮想直線K1よりも上方向にループが形成されている。
【0136】
この場合、図15(b)中の白抜き矢印Yに示されるように、ワイヤボンド時の加熱によって、リードフレームに反りが発生した場合に、ボンディングワイヤ40に上向きの力が発生し、当該力はアイランド10から遠ざかるように作用する。このことによって、ワイヤ40がアイランド10に接触することを、未然に防止できる。
【0137】
以上が、本実施形態の半導体装置100において、ボンディングワイヤ40に対して屈曲点41〜44を4点設け、その屈曲点41〜44の位置を、上述の各屈曲点距離L1〜L4の範囲に設定することの根拠である。つまり、本実施形態は、上記した鋭意検討の結果、単にワイヤ40に4箇所の屈曲点41〜44を設けるだけでなく、各屈曲点の位置をワイヤ長Lとの関係で規定したものである。
【0138】
そして、本実施形態によれば、このような4箇所の屈曲点41〜44を有する構成とすることによって、ワイヤ変形に対する耐性が最大限に高まり、ワイヤ長Lが6mm以上の構成においても、モールド樹脂注入時のワイヤ流れによるショート不良を未然に防止し、ワイヤ40がアイランド11に接触することを極力防止できる。
【0139】
なお、本実施形態のボンディングワイヤ40における各屈曲点41〜44は、上述したように、ボンディングツール400を用いた曲げによって、ワイヤボンディング工程中に形成したが、ワイヤボンディング後に、別途治具を用いてワイヤ40を屈曲させることにより形成してもよい。
【0140】
また、本実施形態においては、半導体素子30の厚さを極力薄くすることが好ましい。通常の半導体素子30の厚さは0.4mm程度であるが、これを例えば半分の0.2mmにすればボンディングワイヤ40の高さが0.2mmほど低くなるので、成型時のモールド樹脂50の流れに対するワイヤ変形量がより一層小さくなる。
【0141】
(第2実施形態)
図16は、本発明の第2実施形態に係る半導体装置における要部を示す概略断面図であり、当該半導体装置におけるボンディングワイヤ40の近傍部を拡大して示す概略断面図である。ここで、図16中、(a)は本実施形態の第1の例、(b)は本実施形態の第2の例を示す。
【0142】
本実施形態の半導体装置では、上記第1実施形態のものにおいて、4箇所の各屈曲点41〜44をただ単に折り曲げるだけではなくて、凸状(図16(a)参照)、または、凹状(図16(b)参照)に癖をつけたところが相違するものである。このような凸状または凹状の癖は、ワイヤボンディング工程後に治具などを用いて、ワイヤ40を変形させることにより作製できる。
【0143】
こうすることによって、本実施形態においては、上記第1実施形態と同様の効果が発揮されることに加え、各屈曲点41〜44がより強固になり、ボンディングワイヤ40の剛性すなわちワイヤ変形に対する耐性が高まる。
【0144】
(第3実施形態)
図17は、本発明の第3実施形態に係る半導体装置における要部を示す概略断面図であり、当該半導体装置におけるボンディングワイヤ40の近傍部を拡大して示す概略断面図である。
【0145】
上記第1実施形態では、4箇所の屈曲点41〜44は、それぞれアイランド10の上面11の上方に向かってに凸となるように屈曲したものであった。それに対して、本実施形態では、図17に示されるように、4箇所の屈曲点41〜44を、それぞれアイランド10の上面11と平行な方向に沿って屈曲させたものとしている。
【0146】
このような本実施形態の屈曲点41〜44は、上記第1実施形態と同様に、ボンディングツール400による曲げにより形成してもよいし、ワイヤボンディング後に別途曲げ加工を行うことで形成してもよい。
【0147】
本実施形態によれば、上記第1実施形態と同様に、ワイヤ長Lが6mm以上であっても、ワイヤ流れおよびワイヤ40の下方へのたわみを極力抑制し、ワイヤ40の短絡を防止することができる。また、本実施形態では、第1実施形態に比べて、ワイヤ高さを低くすることができるので、樹脂の流れに対するワイヤ変形量を、よりいっそう小さくできることが期待される。
【0148】
(第4実施形態)
図18は、本発明の第4実施形態に係る半導体装置における要部を示す概略断面図であり、当該半導体装置におけるボンディングワイヤ40の近傍部を拡大して示す概略断面図である。
【0149】
上記第1実施形態では、ワイヤ40における半導体素子30側の接続部が第1ボンディング部側の接続部であり、ワイヤ40における端子部20側の接続部が第2ボンディング部側の接続部であった。
【0150】
しかし、上記第1実施形態の上記図5等に示したようなボンディングツール400を用いたワイヤボンディング方法では、端子部20側の接続部を第1ボンディング部側、半導体素子30側の接続部を第2ボンディング部側として、ワイヤボンディングを行うことも、もちろん可能である。
【0151】
そこで、本実施形態の半導体装置では、図18に示されるように、ボンディングワイヤ40における端子部20側を第1ボンディング部とし、ボンディングワイヤ40における半導体素子30側を第2ボンディング部としている。
【0152】
このボンディングワイヤ40は、たとえば、上記図5〜図7に示されるワイヤボンディング方法において、端子部20にワイヤ40を1次ボンディングした後、ボンディングツール400を用いて、上記ワイヤ40の引き出しおよびリバースモーションという一連の動作を、4回繰り返し行って4箇所の屈曲点41〜44をそれぞれ形成し、その後、半導体素子30にワイヤ40を2次ボンディングすることにより形成される。
【0153】
この場合、図18に示されるように、4箇所の屈曲点41〜44のうち第1ボンディング部である端子部20側の接続部に最も近い第4の屈曲点44における屈曲角度が最も小さいものとなる。ただし、各屈曲点41〜44の位置は、上記第1実施形態と同様であることはもちろんである。
【0154】
本実施形態によっても、ワイヤ長Lが6mm以上であっても、ワイヤ流れおよびワイヤ40の下方へのたわみを極力抑制し、ワイヤ40の短絡を防止することができる。また、本実施形態によれば、上記図13に示した第4の屈曲点44が下方向にたわんだ量d2(を、より確実にマイナス値にすることができる。さらに、ワイヤ高さをより低くできるので、樹脂の流れに対するワイヤ変形量がよりいっそう小さくなる。
【0155】
(第5実施形態)
図19は、本発明の第5実施形態に係る半導体装置の要部を示す図であり、また、図20は、本第5実施形態に係る半導体装置の要部のもう一つの例を示す図である。これら図19、図20は、本実施形態の製造方法において樹脂封止工程に用いる金型300にワークを設置した状態を示す概略平面図である。
【0156】
上記第1実施形態では、素子設置部であるアイランド10の上面11上に、半導体素子30が1個搭載されていたのみであった。それに対して、本実施形態のように、1個のアイランド10の上面11上に2個もしくは3個以上の半導体素子30を平面的に配列した状態で、搭載したもの、いわゆるマルチチップの構成であってもよい。
【0157】
図19に示される例では、2個の半導体素子30を、成型時のモールド樹脂50の流れ方向に沿って配列しており、図20に示される例では、2個の半導体素子30を、当該樹脂流れの方向とは直交する方向に配列している。
【0158】
本実施形態においても、半導体装置において、ボンディングワイヤ40を上記した4箇所の屈曲点41〜44を有するものとすることにより、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0159】
また、本実施形態においても、図19および図20に示されるワークのすべてのボンディングワイヤ40について4箇所の屈曲点の形成を行ってもよいが、図19および図20にて太い破線にて囲まれた部分のエアベント側ワイヤ40についてのみ、4箇所の屈曲点を形成してもよい。
【0160】
なお、本実施形態においては、1個のアイランド10の上面11上に3個以上の半導体素子30が搭載されていてもよい。そして、この場合、複数個の半導体素子30の配列方向は、図19のようにすべて樹脂流れ方向に平行なものでもよいし、図20のようにすべて樹脂流れと直交方向でもよいし、さらには、当該樹脂流れ方向に対してランダムな配列であってもよい。
【0161】
また、ワークのすべてのボンディングワイヤ40について4箇所の屈曲点41〜44を形成する場合、半導体装置におけるすべてのワイヤ40について当該屈曲点による剛性向上の効果が期待されるが、上記ボンディングツールによる屈曲点の形成を行った場合、通常のワイヤボンディング工程よりも時間がかかる。
【0162】
それに比べて、エアベント側ワイヤ40についてのみ4箇所の屈曲点41〜44を形成するようにすれば、それ以外のワイヤ40は通常のワイヤボンディング工程で済むことになることから、ワイヤボンディング工程の工程時間の短縮が可能となり、コストダウンなどの点で有利である。
【0163】
(第6実施形態)
図21は、本発明の第6実施形態に係る半導体装置における要部を示す概略断面図であり、当該半導体装置におけるボンディングワイヤ40の近傍部を拡大して示す概略断面図である。ここで、図21中、(a)は本実施形態の第1の例、(b)は本実施形態の第2の例を示す。
【0164】
上記第1実施形態では、素子設置部であるアイランド10の上面11上に、半導体素子30が1個搭載されていたのみであった。それに対して、本実施形態のように、1個のアイランド10の上面11上に2個もしくは3個以上の半導体素子30を積層した状態で、搭載したもの、いわゆるスタックチップの構成であってもよい。
【0165】
図21(a)に示される例では、スペーサ32を介して3個の半導体素子30を積層し、半導体素子30側を第1ボンディング部、端子部20側を第2ボンディング部として、ワイヤボンディングを行っている。また、図21(b)に示される例では、端子部20側を第1ボンディング部、半導体素子30側を第2ボンディング部として、ワイヤボンディングを行っている。
【0166】
これら本実施形態の半導体装置によっても、上記第1実施形態と同様に、各半導体素子30におけるボンディングワイヤ40について、上記した屈曲点の効果が発揮され、ワイヤ長Lが6mm以上であっても、ワイヤ流れおよびワイヤ40の下方へのたわみを極力抑制し、ワイヤ40の短絡を防止することができる。
【0167】
なお、図21では、3個の半導体素子30とスペーサ32より構成された例を示しているが、これに限定するものではなく、2個の半導体素子30でもよいし、4個以上の半導体素子30を積層したものであってもよい。さらには、スペーサ32は必要に応じてあってもなくてもよい。
【0168】
(第7実施形態)
図22は、上記第1実施形態における図2中のA−A一点鎖線に沿った概略断面図である。図22に示されるように、上記4個の屈曲点41〜44を有するボンディングワイヤ40は、複数本、並列に配置されている。
【0169】
そして、この図22および上記図2に示されるように、これら複数本のボンディングワイヤ40において、個々のワイヤ40における半導体素子30側の接続部は、同一の半導体素子30の上面に接続されている。
【0170】
つまり、個々のワイヤ40における半導体素子30側の接続部同士は同一平面上に位置している。また、各端子部20の上面も同一平面に位置しているため、個々のワイヤ40における端子部20側の接続部同士も同一平面上に位置している。
【0171】
ここで、図22に示される例では、各ボンディングワイヤ40について、同じ高さに第1の屈曲点41を形成することにより、上記図2に示されるように、複数のボンディングワイヤ40は実質的に同じループ形状となり、側方からみて互いのワイヤ40が重なり合ったものとなる。
【0172】
このように複数のワイヤ40が重なっている場合、上記第1実施形態に述べたように、上記屈曲点41〜44の形成によってワイヤ流れが抑制されてはいるものの、その抑制力を超える力が働いた場合にはワイヤショートの可能性がある。そこで、本発明の第7実施形態では、そのような抑制力を超える力が働いたとしても、ワイヤショートの可能性を極少にするワイヤ構成を提供するものである。
【0173】
図23は、本発明の第7実施形態に係る半導体装置における要部を示す図であり、(a)は概略断面図、(b)は(a)の側面図である。
【0174】
図23に示されるように、本実施形態の半導体装置では、個々のボンディングワイヤ40における半導体素子30側の接続部から第1の屈曲点41までの高さhxが、複数本のボンディングワイヤ40において隣り合うワイヤ同士で異なっている。
【0175】
このように高さhxを変えることにより、図23(b)に示されるように、側方から見て、隣り合うワイヤ40同士が一致せず、ずれた状態となる。そのため、ワイヤ流れが生じても、上記図22のような隣り合うワイヤ40同士が同じ形状となっている場合に比べて、隣り合うワイヤ40同士が接触しにくくなる。
【0176】
本実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の効果が期待できることに加えて、隣り合うボンディングワイヤ40同士にて第1の屈曲点41の高さhxが異なるため、樹脂成型時に、たとえワイヤ流れが生じたとしても、隣り合うワイヤ40同士の接触を極力防止することができる。
【0177】
このように、隣り合うワイヤ40同士で半導体素子30側の接続部から第1の屈曲点41までの高さhxを異ならせることは、たとえば、上記したボンディングツール400を用いた方法において曲げ位置を変えれば容易に実現できる。また、ワイヤボンディング後に、別途治具を用いてワイヤ40を屈曲させる方法でも、容易に実現可能であることは、もちろんである。
【0178】
また、図23に示される例では、半導体素子30の側面から複数の第1の屈曲点41を横方向に見た場合に、その第1の屈曲点41の配置が千鳥状になっているが、各第1の屈曲点41の高さを異ならせた配置形態としては、これに限定されるものではない。図24は、本実施形態において、各第1の屈曲点41の高さを異ならせた配置形態の種々の例を示す概略断面図である。
【0179】
図24(a)、(b)に示される例では、半導体素子30の側面から複数の第1の屈曲点41を横方向に見た場合に、その第1の屈曲点41の配置が、所定の場所を最高(もしくは最低)点として他が暫時低く(もしくは高く)なっている。また、図24(c)に示される例では、各第1の屈曲点41の高さが規則性を有しておらず、ランダムなものとなっている。
【0180】
ここで、上記図23および図24に示した各例において、特に限定するものではないが、具体的な数値の例を挙げておく。たとえば、上記図23に示される例では、複数の屈曲点1のそれぞれの高さhxは、200μm、150μm、200μm、150μm、200μm、150μm、・・・・・とする。
【0181】
また、上記図24(a)、(b)に示される例では、複数の屈曲点1のそれぞれの高さhxは、180μm、190μm、200μm、200μm、190、μm、180μm、170μm、・・・としたり、または、200μm、190μm、180μm、170μm、160μm、170μm、180μm、190μm、・・・・とする。
【0182】
また、上記図24(c)に示される例では、複数の屈曲点1のそれぞれの高さhxは、210μm、190μm、200μm、150μm、170μm、150μm、180μm、・・・・とする。
【0183】
また、本実施形態は、上述のように、各ワイヤ40の物理的高さを異ならせることでワイヤショートを極力発生させないようにするものであり、上記した各実施形態と組み合わせて用いても、何ら問題はない。
【0184】
(第8実施形態)
図25は、本発明の第8実施形態に係る半導体装置における要部を示す概略断面図である。
【0185】
ここで、ワイヤ40のうち半導体素子30上にて最も高さの大きい部位と半導体素子30との距離をHとする。ワイヤ40は、アイランド10の上面11の上方に向かって凸となったループ形状をなしており、この距離Hは、半導体素子30の上面からワイヤ40のループ頂部までの高さ、すなわち、ワイヤ40のループ高さHに相当する。
【0186】
上記各実施形態では、ワイヤ40における第1ボンディング部および第2ボンディング部の接続方式が通常のワイヤボンディング方式であるため、ワイヤ40のループ高さHは、ある程度の大きさ(たとえば180〜300μm程度)になる。
【0187】
モールド樹脂50によってワイヤ流れ(つまり、ワイヤの横倒れ)が生じる力が働いた場合、上記した屈曲点41〜44の効果によってワイヤ流れは抑制されているものの、ワイヤ40のループ高さHが大きいと横方向の曲がりが大きく、ワイヤショートの危険が増える。
【0188】
そこで、本実施形態においては、ワイヤ40のループ高さHを、ある程度まで低くすることによって、ワイヤ流れが発生したとしても、ワイヤ40のショートの可能性を小さくしようとするものである。すなわち、本実施形態の半導体装置では、ワイヤ40のうち半導体素子30上にて最も高さの大きい部位と半導体素子30との距離Hを、100μm以下としている。
【0189】
これは、図26に示されるような、本発明者が行った実験検討の結果に基づくものである。図26は、ループ高さHとワイヤ流れ率との関係を調査した結果を示す図であり、図26においては、横軸にループ高さ(単位:μm)、縦軸にワイヤ流れ率(単位:%)を示す。
【0190】
このワイヤ流れの測定は、同一長、同一径のAuワイヤにおいてループ高さHを変えたものについて、上記第1実施形態における図9に示した実験と同様にして行ったものである。ここでも、ワイヤ流れ率は、上記図10と同様に、(d1/L)×100として示される。
【0191】
この図26に示されるように、ワイヤ40のループ高さHが100μmを境にして、急激にワイヤ流れ率が減少していることがわかる。また、ある程度以上低くしても、ワイヤ流れ率は下がらず飽和傾向にあり極小であるといえる。また、この図26に示される結果に基づけば、ループ高さHを80μm以下にすれば、確実にワイヤ流れ率を小さくできることがわかる。
【0192】
本実施形態は、上述のように、ワイヤ40のループ高さHを100μm以下、好ましくは80μm以下に限定することでワイヤショートを極力発生させないようにするものであり、上記した各実施形態と組み合わせて用いても、何ら問題はない。
【0193】
次に、このようにワイヤ40のループ高さHを100μm以下、好ましくは80μm以下に低くするのに適したワイヤボンディング方法について、以下の第9〜第12実施形態にて、具体的に述べる。
【0194】
(第9実施形態)
図27は、半導体素子30側に1次ボンディングを行い、端子部20側に2次ボンディングを行うときの従来の一般的なワイヤボンディング方法における1次ボンディング工程を示す工程図である。
【0195】
この1次ボンディングは、図27(a)に示されるように、放電用の電極410を用いて、ボンディングツール400の先端部から突出するワイヤ40の先端部と電極410との間に放電を起こし、ワイヤ40の先端部を当該放電によって溶融させ、ボール40aを形成する。その後、図27(b)に示されるように、ワイヤ40におけるボール40aを第1ボンディング部である半導体素子30に接続する。
【0196】
ここで、放電時には、ボール40aおよびボール40aから延びるワイヤ40の部分が、図27中の点ハッチングに示されるように、再結晶する。以下、この部分をワイヤ40の再結晶部40bという。
【0197】
この再結晶部40bは、剛直な部分であるため、そのままボール40aを1次ボンディングすると、図27(b)に示されるように、再結晶部40bは、第1ボンディング部から垂直に立ち上がった形状となる。
【0198】
通常、この再結晶部40bの長さM1、すなわち再結晶長さM1は80〜180μm程度であり、それによって、ワイヤ40における第1ボンディング部からの立ち上がり高さM2、すなわち第1ボンディング部から第1の屈曲点41までの高さM2は、180〜300μmと高いものになる。このことは、当該立ち上がり高さM2が、上記ループ高さに相当する場合には、そのままループ高さが、このような範囲の高さとなることを意味するものである。
【0199】
上述したように、上記屈曲点の効果によってワイヤ流れは抑制されるものの、ワイヤ40のループ高さが大きいとワイヤショートの危険が増える。
【0200】
そこで、ループ高さを、上記第8実施形態に示したように低くするには、上記放電によるボール40aの形成時に形成される再結晶部40bの領域を、小さくし、上記再結晶領域長さM1、ひいては上記立ち上がり長さM2を低くしてやればよいと考えた。
【0201】
本発明の第9実施形態の製造方法では、ワイヤボンディング工程において、そのような効果を狙ったものである。図28は、本実施形態のワイヤボンディング方法における1次ボンディング工程を示す工程図である。
【0202】
ここで、半導体素子30側に1次ボンディングを行い、端子部20側に2次ボンディングを行うものとしている。なお、本実施形態の製造方法においては、この1次ボンディング工程以外の工程は、上記した実施形態と同様である。
【0203】
図28(a)に示されるように、本ワイヤボンディング工程では、放電によるボール40aの形成を、内部が0℃以上室温以下、具体的には、0℃以上20℃以下に冷却された雰囲気となっているガラスチューブ420の中で行う。つまり、放電用の電極410をガラスチューブ420内に設置して、放電を行う。
【0204】
具体的には、ガラスチューブ420の内部に、アルゴンや窒素などの不活性ガスを充填し、たとえばチューブ420を、ドライアイスなどの冷媒で冷却して、内部温度を0℃以上20℃以下とする。それにより、放電により形成される再結晶部40bの領域を、従来よりも小さくすることができる。
【0205】
その後、本実施形態では、図28(b)に示されるように、ボンディングツール400によってボール40aを、半導体素子30に1次ボンディングする。このとき、ワイヤ40においてボール40aを含む再結晶領域40bが、従来よりも小さいので、第1ボンディング部からのワイヤ40の立ち上がり高さM2を抑えることができる。
【0206】
たとえば、本実施形態によれば、再結晶長さM1は30〜80μm程度であり、それによって、ワイヤ40における立ち上がり高さM2は、100μm以下に低くできる。その結果、本実施形態によれば、ワイヤ40のループ高さを低くでき、ワイヤ流れによるショートの防止に好ましい構成を実現できる。なお、ガラスチューブ420内の温度は再結晶領域長さM1を確認しながら、調整する。
【0207】
(第10実施形態)
図29は、本発明の第10実施形態に係る製造方法のうちのワイヤボンディング方法における1次ボンディング工程を示す工程図である。ここで、半導体素子30側に1次ボンディングを行い、端子部20側に2次ボンディングを行うものとしており、この1次ボンディング工程以外の製造工程は、上記実施形態と同様である。
【0208】
本実施形態のワイヤボンディング方法においても、上記第9実施形態と同様に、ボール40aの形成を、0℃以上室温以下で行うことで、上記放電によるボール40aの形成時に形成される再結晶部40bの領域を、小さくする効果を狙ったものである。本実施形態では、その冷却方法が異なるものである。
【0209】
すなわち、図29に示されるように、本実施形態では、ワイヤ40の先端部に放電処理によってボール40aを形成するときに、図示しないノズルなどから冷却ガス430をボール40aに当てながら、当該放電を行う。これにより、ボール40aの形成は、たとえば10℃以上20℃以下の雰囲気温度で行われることになる。
【0210】
本実施形態によっても、上記再結晶長さを短くして、上記立ち上がり高さを低くできるため、ワイヤ40のループ高さを低くでき、ワイヤ流れによるショートの防止に好ましい構成を実現できる。なお、冷却ガス430としては、アルゴンや窒素などの不活性ガスが望ましく、その温度や種類は再結晶領域長さを確認しながら、調整する。
【0211】
(第11実施形態)
図30は、本発明の第11実施形態に係る半導体装置における要部を示す概略断面図である。ここで、図30には、1本のワイヤ40について実線と破線との2種類の状態が示されている。
【0212】
上記各実施形態では、図30中の破線で示される4箇所の屈曲部41〜44を有するワイヤ40が形成されるが、本実施形態の半導体装置では、ワイヤ40は、実線に示されるように4箇所の屈曲部41〜44を有するとともに、第4の屈曲点44と第2ボンディング部である端子部20への接続部との中間部が、端子部20に押しつけられた形状となっている。
【0213】
これは、上記各実施形態では、ワイヤ40における第2ボンディング部の接続方式が通常のワイヤボンディング方式であることによる。図31は、端子部20側に2次ボンディングを行うときの従来の一般的なワイヤボンディング方法における2次ボンディング工程を示す工程図である。
【0214】
図31に示されるように、従来方式の2次ボンディングでは、第2ボンディング部である端子部20へのワイヤ40の接続の際、ワイヤ40がボンディングツール400に押さえつけられて、第2ボンディング部の近傍のワイヤ40部分が、ツール400の先端形状に沿って持ち上がる。このことは、ワイヤ40の上記ループ高さを高くすることにつながり、ワイヤ流れによるショートの抑制のためには好ましくない。
【0215】
そこで、本実施形態では、この第2ボンディング部近傍のワイヤ40部分の持ち上がりを抑制するような2次ボンディング方法を提供する。図32は、本実施形態のワイヤボンディング方法における2次ボンディング工程を示す工程図である。
【0216】
ここで、上記半導体素子30側に1次ボンディングを行い、端子部20側に2次ボンディングを行うものとしている。なお、本実施形態の製造方法では、この2次ボンディング工程以外は、上記実施形態と同様のものにできる。
【0217】
すなわち、本実施形態の2次ボンディングでは、4箇所の屈曲点41〜44を形成した後、ワイヤ40を第2ボンディング部である端子部20に接続する前に、図32中の破線のボンディングツール400に示されるように、ワイヤ40のうち第4の屈曲点44と端子部20へ接続される部位との中間部を、第2ボンディング部を構成する部材としての端子部20に押し当てるように、ツール400により変形させる。
【0218】
その後は、図32中の実線のボンディングツール400に示されるように、ツール400からワイヤ40を引き出し、端子部20へワイヤ40を接続する。これにより、上記図30にて実線で示されるワイヤ40が形成される。つまり、ワイヤ40は、当該ワイヤ40のうちの2次ボンディング部およびその近傍部が、第2ボンディング部である端子部20に接した形となる。
【0219】
ここで、ボンディングツール400によるワイヤ40の端子部20への押しつけは、端子部20へワイヤ40を接続した後に行ってもよい。
【0220】
すなわち、図32中の実線のツール400に示されるように、ワイヤ40を端子部20に接続した後に、図32中の破線のツール400に示されるように、ワイヤ40のうち第4の屈曲点44と端子部20へ接続部された部位との中間部を、端子部30に押し当てるように、ボンディングツール400により変形させる。
【0221】
この場合も、上記図30にて実線で示されるワイヤ40が形成される。そして、これら本実施形態の2次ボンディング方法によれば、第2ボンディング部である端子部20の近傍のワイヤ40部分が、端子部20に押し当てられ持ち上りが抑制された形状が、できあがる。そのため、結果として、ワイヤ40のループ高さを低くでき、ワイヤ流れによるショートの抑制のためには好ましい形状となる。
【0222】
(第12実施形態)
図33は、本発明の第11実施形態に係るワイヤボンディング方法における2次ボンディング工程を示す工程図である。本実施形態も2次ボンディングにおいて、上記した第2ボンディング部近傍のワイヤ40部分の持ち上がりを抑制するものであり、そのために、本実施形態では、ボンディングツール400を変更したものである。
【0223】
図33に示されるように、本実施形態では、ボンディングツール400として、ワイヤ40が引き出される先端部のうちワイヤ40からみて第1ボンディング部(ここでは半導体素子30)側に位置する部位の方が、第2ボンディング部(ここでは端子部20)側に位置する部位よりも、幅広なものを用いる。
【0224】
それによれば、第2ボンディング部である端子部20の近傍のワイヤ40部分は、上記幅広な部分にて、端子部20に押しつけられ、広い部分で持ち上がらない形状となる。そのため、結果として、ワイヤ40のループ高さを低くでき、ワイヤ流れによるショートの抑制のためには好ましい形状となる。
【0225】
なお、上記第9実施形態または第10実施形態の1次ボンディング方法と、上記第11実施形態または第12実施形態の2次ボンディング方法とを組合せて、両方行うものであってもよい。
【0226】
たとえば、上記放電によるボール形成を冷却して1次ボンディングを行い、各屈曲点41〜44を形成した後、上記ボンディングツール400による押さえを伴う2次ボンディングを行って、ワイヤ40の接続を完了するようにしてもよい。また、上記第12実施形態に示されるツール400を用いて、上記第9実施形態〜上記第11実施形態を行ってもよい。
【0227】
また、上記第9〜第12実施形態では、ワイヤ40における半導体素子30側の接続部が第1ボンディング部側の接続部であり、ワイヤ40における端子部20側の接続部が第2ボンディング部側の接続部であったが、上記第9〜第12実施形態においても、これとは、逆に、端子部20側の接続部を第1ボンディング部側、半導体素子30側の接続部を第2ボンディング部側としてワイヤボンディングを行うことも可能である。
【0228】
(第13実施形態)
上述したように、上記実施形態における半導体装置は、QFN(クワッドフラット−ノンリードパッケージ)をMAP成型(一括モールド封止)したものであり、そのキャビティサイズは40mm×65mm〜60mm×68mmと大型である。
【0229】
そのため、モールド樹脂50の注入の下流側すなわちエアベント側にて、モールド樹脂50の増粘が始まり、その部分のワイヤ40が流れやすい。上記実施形態では、ワイヤループ形状の改善でその対策を取っているが、本実施形態では、さらに、キャビティに注入するモールド樹脂50の硬化物性を改良することで、ワイヤ流れ防止に好ましい方法を提供する。
【0230】
封止に用いるモールド樹脂は、通常熱硬化タイプのエポキシ樹脂をベースにしているため、モールド金型の熱を受けてタブレット状の固形状態から徐々に溶融し液状となり、ある一定時間が経過すると硬化反応により粘度上昇がはじまり、やがて固体となる。その溶融状態の長さを表す指標が「ゲルタイム」である。
【0231】
このゲルタイムは、モールド樹脂が溶融して低粘度化してから粘度が上昇するまでの時間、すなわち、モールド樹脂がゲル状態を維持している時間である。
【0232】
図34は、本発明の第13実施形態において、モールド樹脂の流動性を表す指標であるゲルタイムを横軸にとり、ワイヤ流れ率を縦軸にとり、これらゲルタイムとワイヤ流れ率との関係を模式的に示すグラフである。
【0233】
ここで、ワイヤ流れ率は、モールド樹脂50による封止前に比べてモールド樹脂50による封止後にワイヤ40が変位した距離dを、上記ワイヤ長Lで除して100を乗じた値、すなわち、上記図10にて述べたように、樹脂流れによるワイヤ40の変位d1をワイヤ長Lで除して100を乗じた(d1/L)×100として示される値(単位:%)である。
【0234】
ゲルタイムが短いということは、それだけモールド樹脂が早く固体になるということであり、モールド樹脂の流動性が悪いことを意味する。一方、ゲルタイムが長いということは、それだけモールド樹脂が固体になりにくいということであり、モールド樹脂の流動性が良いことを意味する。
【0235】
ここで、図34に示されるように、ゲルタイムとワイヤ流れ率との関係を示すグラフにおいて、ゲルタイムが短い方から長くなる方へ向かって2個の屈曲点(つまり、変曲点)P1、P2が並んでおり、そのうちの2番目の屈曲点P2は、下に凸となった屈曲点P2である。
【0236】
そして、本実施形態では、半導体素子30と端子部20とをワイヤ40にて接続する工程を行った後、モールド樹脂50による封止工程を行うが、このとき、2番目の屈曲点P2におけるゲルタイムの値を設定値とし、当該封止工程では、モールド樹脂50のゲルタイムを当該設定値とした状態で、モールド樹脂50による封止を行う。
【0237】
これは、粘度が高いなどの理由からモールド樹脂の流動性が悪いと、ワイヤを押し倒す力が大きいことに由来しており、全キャビティに渡って、モールド樹脂の流動性が良好な(つまり、粘度の低い)状態をキープできれば、キャビティ内のいずれのワイヤもその流れを抑制できるものである。
【0238】
図34に示されるように、上記2個の屈曲点のうち1番目の屈曲点P1までの状態、すなわち、モールド樹脂の流動性が悪い状態であると、ワイヤが流れやすく、ワイヤ流れ率は高い状態となる。そして、ゲルタイムが、ある範囲すなわち1番目の屈曲点P1を超えると、急激にワイヤ流れ率が低減し、さらに2番目の屈曲点P2を超えると、安定した低いワイヤ流れ率となる。
【0239】
これは、図34のグラフにおける2個の屈曲点P1とP2との間にて、ワイヤが押し流されるモールド樹脂の抵抗に閾値があることを示している。ここで、2番目の屈曲点P2よりも高い側にゲルタイムを設定してもよいが、封止工程の工数やコストなどの面より、できるだけゲルタイムは短いほうがよいので、ゲルタイムを2番目の屈曲点P1における値に設定する。
【0240】
さらに言うならば、ゲルタイムとワイヤ流れ率との関係を示すグラフにおいては、ゲルタイムの増加につれてワイヤ流れ率が急激に減少する部分が存在する。そして、本実施形態では、この部分の始まりである上に凸となった1番目の屈曲点P1と、当該部分の終わりである下に凸となった2番目の屈曲点P2とのうち、2番目の屈曲点P2をゲルタイムの設定値とするものである。
【0241】
このように、本実施形態では、上記各実施形態における製造方法において、ゲルタイムとワイヤ流れ率との関係を示すグラフを予め求めておき、このグラフにおいてゲルタイムが短い方から長くなる方へ向かって並ぶ屈曲点P1、P2のうち下に凸である2番目の屈曲点P2における当該ゲルタイムの値を設定値とし、モールド樹脂50による封止工程では、モールド樹脂50のゲルタイムを当該設定値とした状態で、当該モールド樹脂50による封止を行う。
【0242】
それによれば、封止時におけるモールド樹脂50の流動性を良好な状態に維持することができるため、モールド樹脂50の流れによってワイヤ40が押し流される力が弱くなり、ワイヤ流れを小さくできる。その結果、樹脂流れによるワイヤ40の短絡を極力防止できる。
【0243】
次に、本実施形態における封止工程の一具体例を述べる。図35は、ゲルタイムとワイヤ流れ率との関係を実験的に求めたグラフであり、横軸にゲルタイム(単位:秒)、縦軸にワイヤ流れ率(単位:%)を示している。
【0244】
ここで、モールド樹脂のゲルタイムは、以下にのべるような一般的な測定方法で求めた。装置および器具としては、次のようなものを用いた。ゲルタイム試験機として日新科学(株)のGT−D、表面温度計として安立計器(株)のHL−300等を用意し、さらに、木製取手が付いたステンレス製のパレットナイフ(幅2cm、厚さ約1mm、長さ10cm)、ストップウォッチ(たとえば0.2秒の目盛のもの)、計量スプーン(摺り切りで容量1cm3を計量できるもの)を用意した。
【0245】
試料については、モールド樹脂のパウダーを1cm3とした。また、試験条件については、ゲルタイム試験機における熱板の温度を、モールド樹脂の硬化温度である180±3.0℃とした。
【0246】
具体的な測定方法は、まず、あらかじめゲルタイム試験機のスイッチを入れておき、表面温度計で、熱板の温度が180℃±3.0℃であることを確認する。次に、試料を指定のスプ−ン(1cm3)にて計量する。
【0247】
次に、パレットナイフのステンレスヘラの先端を熱板の表面に密着させ、60秒以上加熱し、当該ナイフの先端部が180℃±3.0℃であることを確認する。そして、計量した上記試料を熱板の中央部に載せる。それと同時にストップウォッチをスタ−トさせ、手早くステンレス製ヘラで試料を上から軽く押さえる。
【0248】
次に、パレットナイフのステンレスヘラの先端部で試料を直径約3〜4cmの円状になるように広げる。その後約2秒/周の速度で拡がることのないようにヘラを押しつけながら、円を描くように試料を練り合わせる。ここで、練り始めは軽く、終りごろは試料に粘りが出るので強く練るようにする。ここでは、練る方向は特に限定するものではないが、右回りに練る。
【0249】
この操作を続け、試料が硬化して試料に「ねばり」がなくなる時を終点とし、ストップウォッチを止める。測定はN=2の平均値を単位(秒)で示し、試験結果とする。これにより、1回のゲルタイムの測定が終了する。
【0250】
そして、この測定によってゲルタイムの異なるモールド樹脂を作製した。モールド樹脂中に含まれる硬化触媒量を変えることにより、ゲルタイムを変えることができる。そして、異なるゲルタイムを有するモールド樹脂について、封止工程を行い、ワイヤ流れ率を測定し、図35の結果を得た。
【0251】
なお、この時の、キャビティサイズは60mm×68mm、成形温度は180℃、注入時間は15秒、注入圧力は9MPaとした。また、ワイヤ流れ率は、エアベントに最も近いワイヤ、すなわち、成型時の樹脂流れの最下流に位置するワイヤのものとした。
【0252】
そして、図35では、各ゲルタイムのモールド樹脂についてワイヤ流れ率を複数回測定した値をプロットし、各ゲルタイムにおけるワイヤ流れ率の平均を採り、これらを結ぶことによりグラフ曲線を作成している。
【0253】
図35によると、ゲルタイムが41秒を超えたところで、急激にワイヤ流れ率が減少していることがわかる。そして、ある程度以上ゲルタイムを長くしても、ワイヤ流れ率は下がらず飽和傾向にあり、上記2番目の屈曲点P2以上の領域では、実質的に極小であるといえる。
【0254】
つまり、この図35に示されるグラフの例では、上記2番目の屈曲点P2における設定値は41秒であり、ゲルタイムが設定値である41秒に調整されたモールド樹脂を用いて封止工程を行うものである。
【0255】
ここで、モールド樹脂のゲルタイムを長くする方法は、モールド樹脂中に含まれる硬化触媒量を減らすことで実現できる。このことは、モールド樹脂におけるその他の基礎物性(たとえば熱膨張係数、弾性率等)が変化することがないので、他への悪影響を防止できるという利点がある。
【0256】
なお、上記図35の例では、キャビティの長さ、すなわち上記ゲートから上記エアベントまでの距離は60mmであるが、例えば、その半分の30mmであれば、ゲルタイムは20.5秒でよい。また、キャビティの長さが60mmのままであっても、たとえば、ゲートをキャビティの長さ方向の端ではなく中央に位置させれば、ゲルタイムは20.5秒でよい。
【0257】
ゲルタイムを長くする方法として別案を示す。金型は、通常、温度は一定(180℃前後)であるが、これを、モールド樹脂の注入の開始時では、比較的高温にし、キャビティの半分くらいまで樹脂が到達したときに温度を瞬時に下げ、そして、モールド樹脂の最終充填が終わったときに温度を上げる、という一連の動作を行なうことで、ゲルタイムを長くすることができる。
【0258】
これは、モールド樹脂は温度によって最低溶融粘度とゲルタイムが変化することを利用したものである。温度が高いと最低溶融粘度が低くなり、ゲルタイムが短くなる。逆に温度が低いと最低溶融粘度が高くなりゲルタイムが長くなる。
【0259】
この特性を利用し、注入開始時は、金型の温度を185℃程度に高く設定し溶融粘度を小さくしてワイヤの抵抗を小さくする。樹脂がキャビティの途中にあるときには、金型の温度を150℃程度まで下げて、この低い溶融粘度を長い時間保持する。充填終了時は硬化を促進させるために再度温度を185℃程度まで昇温する。
【0260】
このような金型の温度制御は、たとえば金型に通電式ヒータや冷却装置を設け、これらによって金型を冷却・加熱することにより行うことも可能であるが、たとえば、金型を透明な石英ガラス等にして、ハロゲンランプ等の光源を熱源として用いれば、瞬時に金型温度を上げ下げすることが容易になる。
【0261】
なお、本実施形態の製造方法は、上記したように、半導体素子30と端子部20とをワイヤ40にて接続する工程を行った後、封止工程を行うときに適用されるものであるが、本実施形態は、上記した各実施形態に示した製造方法における封止工程に適用が可能である。
【0262】
つまり、封止工程の前に、上記各実施形態に示した製造方法の要領で、半導体素子30の搭載およびワイヤ40の接続を行い、そのワイヤ40について上記したものと同様に、ゲルタイムとワイヤ流れ率との関係を示すグラフを求めておく。そうすれば、このグラフに基づいて、上記した各実施形態の製造方法において本実施形態の封止工程を行うことができ、本実施形態の効果を発揮することができる。
【0263】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態では、4箇所の屈曲点41〜44は、それぞれアイランド10の上面11の上方に向かってに凸となるように屈曲したものであった。ここで、ボンディングワイヤ40全体として、アイランド10の上面11の上方に向かって凸となるループ形状が確保できるならば、第1〜第4の屈曲点41〜44の一部は、下向きに屈曲したもの、すなわち、アイランド10の上面10に向かう方向に凸となるように屈曲したものであってもよい。
【0264】
また、素子設置部としては、リードフレームのアイランド10でなく、リードフレームにかしめられたヒートシンクであってもよい。つまり、素子設置部と端子部とが同一のリードフレームから形成されたものではなく、別体のものから形成されていてもよい。この場合、ヒートシンクの周囲に、リードフレームの端子部が配置された形となる。また、上記各実施形態は、上記した範囲以外にも、可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0265】
【図1】本発明の第1実施形態に係る半導体装置の概略構成を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)の上視平面図である。
【図2】上記図1に示される半導体装置におけるボンディングワイヤを拡大して示す概略断面図である。
【図3】上記第1実施形態に係る樹脂封止工程に用いる金型にワークを設置した状態を示す概略平面図である。
【図4】上記第1実施形態に係る樹脂封止工程に用いるもう一つの金型にワークを設置した状態を示す概略平面図である。
【図5】上記第1実施形態に係るワイヤボンディング工程を示す工程図である。
【図6】図5に続くワイヤボンディング工程の工程図である。
【図7】図6に続くワイヤボンディング工程の工程図である。
【図8】本発明者が試作した比較例としての半導体装置を示す概略断面図である。
【図9】屈曲点数とワイヤ流れ率との関係を調査した結果を示す図である。
【図10】ワイヤ流れ率の定義を示す図である。
【図11】ワイヤ内の位置(x/L)とワイヤ間ギャップGとの関係を調査した結果を示す図である。
【図12】ワイヤ内の位置(x/L)とワイヤ間ギャップGの定義を示す図である。
【図13】第4の屈曲点の位置とボンディングワイヤのたわんだ量d2との関係を調査した結果を示す図である。
【図14】ボンディングワイヤのたわんだ量d2の定義を示す図である。
【図15】第4の屈曲点による具体的な効果を示す図である。
【図16】本発明の第2実施形態に係る半導体装置における要部を示す概略断面図であり、(a)は第1の例、(b)は第2の例を示す。
【図17】本発明の第3実施形態に係る半導体装置における要部を示す概略断面図である。
【図18】本発明の第4実施形態に係る半導体装置における要部を示す概略断面図である。
【図19】本発明の第5実施形態に係る半導体装置の要部を示す概略平面図である。
【図20】上記第5実施形態に係る半導体装置の要部のもう一つの例を示す概略平面図である。
【図21】本発明の第6実施形態に係る半導体装置における要部を示す概略断面図であり、(a)は第1の例、(b)は第2の例を示す。
【図22】上記図2中のA−A概略断面図である。
【図23】本発明の第7実施形態に係る半導体装置における要部を示す図であり、(a)は概略断面図、(b)は(a)の側面図である。
【図24】上記第7実施形態において各第1の屈曲点の高さを異ならせた配置形態の種々の例を示す概略断面図である。
【図25】本発明の第8実施形態に係る半導体装置における要部を示す概略断面図である。
【図26】上記第8実施形態においてループ高さHとワイヤ流れ率との関係を調査した結果を示す図である。
【図27】従来の一般的なワイヤボンディング方法における1次ボンディング工程を示す工程図である。
【図28】本発明の第9実施形態に係るワイヤボンディング方法における1次ボンディング工程を示す工程図である。
【図29】本発明の第10実施形態に係るワイヤボンディング方法における1次ボンディング工程を示す工程図である。
【図30】本発明の第11実施形態に係る半導体装置における要部を示す概略断面図である。
【図31】従来の一般的なワイヤボンディング方法における2次ボンディング工程を示す工程図である。
【図32】本発明の第11実施形態に係るワイヤボンディング方法における2次ボンディング工程を示す工程図である。
【図33】本発明の第12実施形態に係るワイヤボンディング方法における2次ボンディング工程を示す工程図である。
【図34】本発明の第13実施形態においてゲルタイムとワイヤ流れ率との関係を模式的に示すグラフである。
【図35】第13実施形態においてゲルタイムとワイヤ流れ率との関係を実験的に求めたグラフである。
【図36】従来のMAP成形技術を用いて本発明者が試作した半導体装置における樹脂封止工程を示す概略平面図である。
【図37】ワイヤ流れの発生の様子を示す概略平面図である。
【図38】本発明者が試作した試作品においてワイヤのたわみを示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0266】
10 素子設置部としてのアイランド
11 アイランドの上面
20 端子部
30 半導体素子
40 ボンディングワイヤ
40a ボール
41 第1の屈曲点
42 第2の屈曲点
43 第3の屈曲点
44 第4の屈曲点
50 モールド樹脂
400 ボンディングツール
d 樹脂流れによるワイヤの変位
L ワイヤ長
L2 第2の屈曲点距離
L3 第3の屈曲点距離
L4 第4の屈曲点距離
K1 第3の屈曲点とワイヤおける端子部側の接続部とを結ぶ仮想直線
hx ワイヤにおける半導体素子側の接続部から第1の屈曲点までの高さ
H ワイヤのうち半導体素子上にて最も高さの大きい部位と半導体素子との距離としてのループ高さ
θ リバースモーション角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子(30)と、
一面(11)上に前記半導体素子(30)が設置される素子設置部(10)と、
前記素子設置部(10)の周囲に配置された端子部(20)と、
前記素子設置部(10)の前記一面(11)上にて前記半導体素子(30)と前記端子部(20)とを接続するワイヤ(40)と、
前記素子設置部(10)の前記一面(11)側にて、前記半導体素子(30)、前記素子設置部(10)、前記端子部(20)および前記ワイヤ(40)を封止するモールド樹脂(50)とを備え、
前記ワイヤ(40)における前記半導体素子(30)側の接続部と当該ワイヤ(40)における前記端子部(20)側の接続部との間の部位が、前記半導体素子(30)よりも上方に突出するとともに前記素子設置部(10)の前記一面(11)の上方に向かって凸となったループ形状をなしている半導体装置において、
前記ワイヤ(40)における前記半導体素子(30)側の接続部と前記端子部(20)側の接続部との間に、当該ワイヤ(40)を屈曲させた屈曲点(41〜44)が4箇所設けられており、
これら4箇所の前記屈曲点(41〜44)を、前記半導体素子(30)側の接続部から前記端子部(20)側の接続部へ向けて第1の屈曲点(41)、第2の屈曲点(42)、第3の屈曲点(43)、第4の屈曲点(44)とし、
前記半導体素子(30)の上方から見たときの前記ワイヤ(40)における前記半導体素子(30)側の接続部と前記ワイヤ(40)における前記端子部(20)側の接続部との距離をLとしたとき、
前記半導体素子(30)の上方から見たときの前記ワイヤ(40)における前記半導体素子(30)側の接続部と前記第2の屈曲点(42)との距離(L2)は0.25L以上0.35L以下であり、
前記半導体素子(30)の上方から見たときの前記ワイヤ(40)における前記半導体素子(30)側の接続部と前記第3の屈曲点(43)との距離(L3)は0.5L以上0.6L以下であり、
前記半導体素子(30)の上方から見たときの前記ワイヤ(40)における前記半導体素子(30)側の接続部と前記第4の屈曲点(44)との距離(L4)は0.85L以上0.95L以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記4箇所の屈曲点(41〜44)は、それぞれ前記素子設置部(10)の前記一面(11)の上方に向かってに凸となるように屈曲したものであることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記素子設置部(10)の一面(11)を基準として、前記第4の屈曲点(44)は、前記第3の屈曲点(43)と前記ワイヤ(40)における前記端子部(20)側の接続部とを結ぶ仮想直線(K1)よりも上方に位置することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記ワイヤ(40)における前記半導体素子(30)側の接続部が第1ボンディング部側であり、前記ワイヤ(40)における前記端子部(20)側の接続部が第2ボンディング部側であることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記ワイヤ(40)における前記端子部(20)側の接続部が第1ボンディング部側であり、前記ワイヤ(40)における前記半導体素子(30)側の接続部が第2ボンディング部側であり、
前記4箇所の屈曲点(41〜44)のうち前記第4の屈曲点(44)における屈曲角度が最も小さい角度となっていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記ワイヤ(40)は複数本、並列に配置されており、
これら複数本の前記ワイヤ(40)は、前記4箇所の屈曲点(41〜44)を有するものであり、
これら複数本の前記ワイヤ(40)において、個々の前記ワイヤ(40)における前記半導体素子(30)側の接続部同士が同一平面上に位置しており、且つ、個々の前記ワイヤ(40)における前記端子部(20)側の接続部同士が同一平面上に位置しており、
さらに、個々の前記ワイヤ(40)における前記半導体素子(30)側の接続部から前記第1の屈曲点(41)までの高さ(hx)が、複数本の前記ワイヤ(40)において隣り合うワイヤ同士で異なることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項7】
前記ワイヤ(40)は複数本のものよりなり、
これら複数本のワイヤ(40)のうち、成型時の樹脂流れの最下流の位置にて成形された前記モールド樹脂(50)で封止されているワイヤが、前記4箇所の屈曲点(41〜44)を有するものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項8】
前記ワイヤ(40)のうち前記半導体素子(30)上にて最も高さの大きい部位と前記半導体素子(30)との距離(H)は、100μm以下であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項9】
前記最も高さの大きい部位と前記半導体素子(30)との距離(H)は、80μm以下であることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記距離Lは6mm以上であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項11】
請求項1に記載の半導体装置を製造する半導体装置の製造方法であって、
前記半導体素子(30)と前記端子部(20)とを前記ワイヤ(40)にて接続する工程は、前記半導体素子(30)および前記端子部(20)のどちらか一方における前記ワイヤ(40)が接続される部位を第1ボンディング部とし、他方における前記ワイヤ(40)が接続される部位を第2ボンディング部として、ボンディングツール(400)を用いたワイヤボンディングを行うものであり、
前記第1ボンディング部に前記ワイヤ(40)を接続し、次に前記ボンディングツール(400)を用いて前記4箇所の屈曲点(41〜44)をそれぞれ形成した後、前記第2ボンディング部に前記ワイヤ(40)を接続するものであり、
前記ボンディングツール(400)による前記4箇所の屈曲点(41〜44)の形成は、前記ボンディングツール(400)を前記第1ボンディング部の上方に移動させながら前記ワイヤ(40)を引き出し、続いて前記ボンディングツール(400)を前記第2ボンディング部とは反対側に移動させて前記ワイヤ(40)を曲げるという動作を、4回繰り返し行うことにより、行われるものであることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記ボンディングツール(400)の前記第1ボンディング部の上方への移動方向と前記ボンディングツール(400)の前記第2ボンディング部とは反対側への移動方向とのなす角度(θ)が100°であることを特徴とする請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記ワイヤ(40)の先端部に放電処理によってボール(40a)を形成し、このボール(40a)を前記第1ボンディング部に接続するものであり、
前記ボール(40a)の形成を、0℃以上室温以下の雰囲気温度で行うことを特徴とする請求項11または12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記4箇所の屈曲点(41〜44)を形成した後、前記ワイヤ(40)を前記第2ボンディング部に接続する前に、
前記ワイヤ(40)のうち前記第4の屈曲点(44)と前記第2ボンディング部へ接続される部位との中間部を、前記第2ボンディング部を構成する部材に押し当てるように、前記ボンディングツール(400)により変形させ、
その後、前記第2ボンディング部への接続を行うことを特徴とする請求項11または12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記ワイヤ(40)を前記第2ボンディング部に接続した後に、前記ワイヤ(40)のうち前記第4の屈曲点(44)と前記第2ボンディング部へ接続された部位との中間部を、前記第2ボンディング部を構成する部材に押し当てるように、前記ボンディングツール(400)により変形させることを特徴とする請求項11または12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記ボンディングツール(400)として、前記ワイヤ(40)が引き出される先端部のうち前記ワイヤ(40)からみて前記第1ボンディング部側に位置する部位の方が、前記第2ボンディング部側に位置する部位よりも、幅広なものを用いることを特徴とする請求項11または12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記半導体素子(30)と前記端子部(20)とを前記ワイヤ(40)にて接続する工程を行った後、前記モールド樹脂(50)による封止工程を行うものであり、
前記モールド樹脂(50)による封止前に比べて当該封止後に前記ワイヤ(40)が変位した距離dを前記距離Lで除して100を乗じた値をワイヤ流れ率としたとき、
前記モールド樹脂(50)がゲル状態を維持している時間であるゲルタイムと前記ワイヤ流れ率との関係を示すグラフを予め求めておき、このグラフにおいて前記ゲルタイムが短い方から長くなる方へ向かって並ぶ屈曲点のうち下に凸である2番目の屈曲点における当該ゲルタイムの値を設定値とし、
前記封止工程では、前記モールド樹脂(50)のゲルタイムを前記設定値とした状態で、前記モールド樹脂(50)による封止を行うことを特徴とする請求項11ないし16のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2009−124093(P2009−124093A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10243(P2008−10243)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】