説明

半導体装置用TABテープおよびその製造方法

【課題】 特にインナーリードにおけるトップ幅の細りやそれに起因した接合不良等の発生を解消して、パターン不良や短絡不良や絶縁信頼性の低下のような別の新たな不都合を生じることなしに、実装される半導体装置の電極パッドに対して確実な接合を得ることができるような十分に広いトップ幅を確保した、ファインパターンのインナーリードを備えた半導体装置用TABテープおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の半導体装置用TABテープでは、インナーリード6および配線パターン5が、有機化合物または無機化合物からなるインヒビタを添加したエッチャントを用いたウェットエッチングプロセスによって導体箔11をパターン加工することにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばBGA(Ball Grid Array)型パッケージのような超小型・薄型化対
応のCSP(chip size package)などに好適な半導体装置用TAB(Tape Automated Bonding)テープおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実装パッケージの超小型・薄型化を実現可能な実装形態の一つとして、はんだボールを外部接続用端子として用いてプリント配線板上に実装されるBGA型パッケージ構造がある。このBGA型パッケージ構造では、基本的に一つの実装パッケージにおける平面部全面にはんだボールを配列形成することができるので、その平面部全面でプリント配線板との電気的接続が可能となる。これにより、BGA型パッケージ構造は、例えばQFP(Quad Flat Package)のようなアウターリードがパッケージの周囲に張り出した構造のもの
と比較して、端子間(リード間)ピッチを狭小化することなく多ピン化に対応することができるという、実装パッケージの超小型・薄型化に対応可能な優れた特長を有している。
このようなBGA型の実装パッケージにおいては、機械的な構造を実質的に(材料力学的に)支える基板として、適度な機械的強度および熱的強度を有しつつ薄型化が可能なTABテープが好適に用いられる。このようなTABテープを用いた実装パッケージとしては、例えばμBGA(米国テセラ社商標)パッケージなどのCSPが知られている。
【0003】
μBGAパッケージは、いわゆるテープBGA型のCSPであり、TABテープ上にエラストマ(低弾性樹脂)を介して半導体チップを貼り付け、その半導体チップとTABテープの銅箔(配線)との間をS字型に折り曲げたインナーリードで接続した構造を有している。このμBGAパッケージでは、エラストマを半導体チップとTABテープとの間に介在させることによって、それら両者の間での熱応力を緩和して、はんだボール接合部の応力破壊等の発生を防止し、延いてははんだボール接合部の寿命(耐久性)を向上することを可能としている。
このようなテープBGA型のCSPでは、超小型・薄型化を達成するための一手段として、TABテープにボンディング用窓を設けておき、その部分でインナーリードをS字型に折り曲げ加工して半導体チップ上の電極パッドに接続することが提案されている。
【0004】
このようなテープBGA型のCSP構造に用いられるTABテープやその他のCSP用の半導体装置用TABテープでは、一般に、ポリイミド基板のような絶縁性基板の片面に、銅箔のような金属製の導体箔をラミネートしているが、それら両者の張り合わせの密着強度を高めるための、いわゆるアンカー効果を得るために、導体箔(例えば銅箔)のポリイミド基板と張り合わされる方の表面全面を粗面化処理によって荒らすことで、その粗度を故意に大きくしている。
また、近年では、シランカップリング等の有機処理を施すことにより、金属からなる導体箔(銅箔)と樹脂からなるポリイミド基板との密着強度を高めるようにすることなども行われている(特許文献1)。
【0005】
また、特に上記のような半導体装置用TABテープにおいては、配線パターン等のさらなるファイン化(ファインピッチ化およびファインパターン化)が要請されており、それに対応するために、種々の方策が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−36547号公報
【特許文献2】特開2005−330572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、銅箔のような導体箔にウェットエッチングプロセスによるパターン加工を施して、極めてファインなインナーリードや配線パターンを形成するとき、従来の一般的なエッチングプロセスでは、エッチングが等方的に進行するので、アンダカット(いわゆるサイドエッチングとも呼ばれる)が生じて、出来上がりのインナーリードや配線パターンにおける、いわゆるトップ幅(頂面の幅)がボトム幅(底面の幅)よりも細ってしまい、特にインナーリードにおいては、有効なボンディングを行うことができるような十分なトップ幅を確保することが困難になるという問題がある。そしてこのようなアンダカットに起因したトップ幅の細りは、ファイン化が進むにつれて、ますます顕著なものとなる傾向にあり、甚だしくは、図5に一例を模式的に示したように、出来上がりのインナーリード102(および図示しない配線パターン等)の断面形状が、絶縁性基板101の片面上に張り合わされた面側の幅(つまりボトム幅)よりもそれとは反対側の面の幅(つまりトップ幅)の方が極めて小さくなって、著しく尖った、ほぼ三角形のような形状になってしまうこともある。
このような形状になると、特にインナーリード102においては、実装される半導体装置の電極パッド(図示省略)との接続面積が不足して、接合不良を引き起こす虞が極めて高くなる。
また、そのようなトップ幅の細りやそれに起因した接合不良等の発生を回避しようとして、インナーリードや配線パターンのボトム幅を予め広めに設定しておくようにすればよいようにも考えられるが、そのようにすると、隣り合うインナーリードや配線パターンのボトム同士の間隙(いわゆるリードスペースや配線スペース)が狭くなり過ぎて、パターン不良や短絡不良が多発するという、別の問題が生じてしまう。また、絶縁信頼性も著しく損なわれてしまうこととなる。
【0008】
また、特許文献2にて提案された技術では、上記のようなアンダカットの発生する程度を減少させることは可能であるものの、それでもなお、トップ幅の細りを解消することは困難ないしは不可能であり、このため、さらなるファインパターン化に対応することは困難であった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、特にインナーリードにおけるトップ幅の細りやそれに起因した接合不良等の発生を解消し、むしろボトム幅よりもトップ幅の方が広くなるようにして、パターン不良や短絡不良や絶縁信頼性の低下のような別の新たな不都合を生じることなしに、実装される半導体装置の電極パッドに対して確実な接合を得ることができるような十分に広いトップ幅を確保した、ファインパターンのインナーリードを備えた半導体装置用TABテープおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の半導体装置用TABテープは、少なくともボンディング用窓穴が設けられた絶縁性基板と、前記絶縁性基板の片面に張り合わされた導体箔をパターン加工して形成された少なくともインナーリードと配線パターンとを含んだ導体パターンとを有する半導体装置用TABテープであって、前記導体パターンにおける、前記絶縁性基板と張り合わされた面とは反対側の面のインナーリード幅が、前記絶縁性基板と張り合わされた面側のインナーリード幅以上であることを特徴としている。
また、さらに具体的な態様としては、本発明の半導体装置用TABテープは、少なくとも前記インナーリードが、インヒビタを添加したエッチャントを用いたウェットエッチングによって、前記導体箔をパターン加工してなるものであることを特徴としている。
本発明の半導体装置用TABテープの製造方法は、絶縁性基板に少なくともボンディング用窓穴を穿設する工程と、前記絶縁性基板の片面に導体箔を張り合わせる工程と、前記導体箔をパターン加工して、少なくともインナーリードと配線パターンとを含んだ導体パターンを形成する工程とを有する半導体装置用TABテープの製造方法であって、少なくとも前記インナーリードを、有機化合物または無機化合物からなるインヒビタを添加したエッチャントを用いたウェットエッチングプロセスによって前記導体箔をパターン加工して形成する工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁性基板の片面に張り合わされた導体箔を、インヒビタを添加したエッチャントを用いたウェットエッチングによってパターン加工することで、少なくともインナーリードを形成するようにしたので、そのインヒビタを添加したエッチャントによるエッチングが、等方的に進行するのではなく、導体箔の表面に対してほぼ垂直方向に、ないしはむしろいわゆる逆テーパ(一般的なアンダカットを順テーパとして)が生じるような方向に進行する。これにより、本発明によれば、パターン不良や短絡不良や絶縁信頼性の低下のような別の新たな不都合を生じることなしに、実装される半導体装置の電極パッドに対して確実な接合を得ることができるような十分に広いトップ幅を確保した、ファインパターンのインナーリードを形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体装置用TABテープの主要な構造を示す図である。
【図2】図1に示した本発明の実施の形態に係る半導体装置用TABテープにおけるインナーリードの断面形状を抽出し拡大して示す図である。
【図3】図1に示した半導体装置用TABテープを用いたBGAパッケージのインナーリードボンディング工程を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る半導体装置用TABテープの製造方法における主要な工程を時系列的に示す図である。
【図5】従来の半導体装置用TABテープにおけるインナーリードの断面形状不良の顕著な一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施の形態に係る半導体装置用TABテープおよびその製造方法について、図面を参照して説明する。
この半導体装置用TABテープ10は、図1に示したように、絶縁性基板1と、導体パターン2とからその主要部が構成されている。
絶縁性基板1は、例えばポリイミド樹脂フィルムのような所定の機械的強度を有する薄手の絶縁性材料からなるフィルム基板であり、はんだボール搭載用ビア穴3と、ボンディング用窓穴4とが、例えばプレス金型等を用いたパンチングによって所定の位置に打抜き形成されている。
【0014】
導体パターン2は、絶縁性基板1の片面に張り合わされた導体箔11をパターン加工して形成されたもので、少なくとも配線パターン5とインナーリード6とを有している。また、その他にも、図示は省略するが、例えば外部のプリント配線板に対して接続されるように設定されたアウターリードのような外部接続端子等を有するものであってもよい。
導体パターン2における、はんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分およびボンディング用窓穴4にて露出している部分の表面7の表面粗さは、絶縁性基板1の片面に張り合わされている部分の表面8の表面粗さ未満となっている。これにより、ボンディング用窓穴4にて露出しているインナーリード6の片面に押し当てられるボンディングツール40の早期劣化や短命化を回避することが可能となる。
また、導体パターン2における絶縁性基板1の片面に張り合わされている部分の表面8には、その張り合わせの密着強度を高めるための、例えばシランカップリングのような有機処理が施されているが、導体パターン2におけるはんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分およびボンディング用窓穴4にて露出している部分の表面7では、シランカップリングのような有機処理の痕跡は完全に除去されている。
【0015】
配線パターン5は、いわゆる配線本体であり、インナーリード6と連続している。インナーリード6は、ボンディング用窓穴4に掛け渡すように設けられ、かつ切断用のノッチ部9を有しており、図3に示したように、この半導体装置用TABテープ10に実装される半導体チップ30の接続用端子31に対して、ボンディングツール40によって押し付けられると共にノッチ部9にて切断されることで、このインナーリード6における絶縁性基板1の片面に張り合わされた面側(いわゆるボトム面;以降、これを簡略化して下面Bとも呼ぶものとする)とは反対側の面(いわゆるトップ面;以降、これを簡略化して上面Aとも呼ぶものとする)に接続(接合)されるように設定されている。
【0016】
さらに詳細には、インナーリード6は、図2にその断面形状を抽出し拡大して示したように、下面B側の左右両角部(いわゆるコーナー部分)が局所的に面取りされて抉れたような断面形状に形成されていて、上面Aの幅(以降、これをトップ幅WAとも呼ぶものと
する)が、下面Bの幅(以降、これをボトム幅WBとも呼ぶものとする)以上の大きさと
なっている。
このような、左右両側面がほぼ垂直に切り立ったような断面形状、もしくは数値的にはむしろ逆テーパのようにボトム幅WBよりもトップ幅WAの方が広い断面形状の、インナーリード6や配線パターン5は、有機化合物または無機化合物からなるインヒビタを添加したエッチャントを用いたウェットエッチングプロセスによって銅箔のような導体箔11をパターン加工することで、実現される。
また、このインナーリード6は、下面Bに化学研磨処理による平滑化処理が施されていることで、このインナーリード6以外の絶縁性基板1に張り合わされている配線パターン5の部分等の表面8の厚さよりも、薄いものとなっている。但し、その厚さは、10μm以上となっている。これは、厚さが10μm未満では、このインナーリード6に変形や損傷等の生じる虞が高くなるからである。
また、このインナーリード6の上面Aの表面は、導体箔11の光沢面の表面粗さのままに保たれている。つまり、上面Aの表面粗さは、極めて平滑なものとなっている。これにより、このインナーリード6の上面Aは、半導体チップ(半導体装置)30の電極パッド(接続用パッド)31に対して確実に接続することが可能なものとなっている。
【0017】
このような構造の半導体装置用TABテープ10には、エラストマ20を介して半導体チップ30が貼り付けられる。そして、ボンディングツール40を用いてインナーリード6を半導体チップ30の電極パッド31の方向へと押し動かして行くことにより、インナーリード6は、ノッチ部9で切断されると共にS字型に曲げられ、さらに電極パッド31上に打ち付けられるようにして接合される。また、図示は省略するが、導体パターン2におけるはんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分には、この半導体装置用TABテープ10を用いて形成されたCSPをその外部の例えばプリント配線板の接続用端子等と接続するための、はんだボールが接合される。
【0018】
この半導体装置用TABテープ10は、次のような製造方法によって製造される。
まず、図4(a)に示したように、例えば接着剤(図示省略)付きのポリイミド樹脂フィルム基板のような絶縁性基板1を用意する。
その絶縁性基板1に、例えばプレス金型等を用いたパンチング加工を施して、はんだボール搭載用ビア穴3、ボンディング用窓穴4、および搬送用送り穴15を打抜き形成する(図4(b))。
続いて、絶縁性基板1の片面に、導体箔11を張り合わせる(図4(c))。このとき絶縁性基板1に張り合わされる導体箔11の片面全面には、密着性を高めるための粗面化処理、およびシランカップリングのような有機処理が、予め施されている(この導体箔11の片面を、以下、粗面とも呼ぶものとする)。
【0019】
そして、粗面に対して、化学研磨処理用の薬液を吹き付けることにより、化学研磨処理を行う(図4(d))。
この化学研磨処理により、導体箔11(すなわちパターン加工後の導体パターン2;以下同様)における、はんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分およびボンディング用窓穴4にて露出している部分の表面7(インナーリード6における下面B)に対して選択的に、その部分のみに化学研磨が施されて、その表面7における表面粗さが、導体箔11における絶縁性基板1の片面に張り合わされている部分の表面8の表面粗さ未満となる。また、それと共に、導体箔11の表面7の表層部における有機処理の痕跡、換言すれば表面7の有機処理が施された表層部分が、完全に除去される。この化学研磨処理用の薬液としては、例えば過水硫酸系や過硫酸塩などの化学研磨液を好適に用いることが可能である。
ここで、表面7の具体的な表面粗さは、この工程で用いる化学研磨処理用薬剤や化学研磨処理を施す前の導体箔11の粗面の状態等、種々の条件に対応して、この工程における化学研磨処理時間の長短を適宜に制御することなどによって、調節することが可能である。
【0020】
続いて、ドライフィルムレジスト(または液状のフォトレジストも可)12をフォトリソグラフィ法によって所望のレジストパターンに加工した後、いわゆる裏止め13を施し(図4(e))、そのレジストパターンをエッチングレジストとして用いると共に有機化合物または無機化合物からなるインヒビタを添加したエッチャントを用いたウェットエッチングプロセスによって、導体箔11にパターン加工を施すことで、配線パターン5およびインナーリード6等からなる導体パターン2を形成する(図4(f))。
この工程で、上面Aの幅つまりトップ幅WAが下面Bの幅つまりボトム幅WBと同等またはそれよりもさらに広い断面形状を有するインナーリード6や配線パターン5が形成される。
その後、半導体チップ30やはんだボール(図示省略)との接合のための金めっき14を導体パターン2の露出している表面ほぼ全面に施して、この半導体装置用TABテープ10の主要部が完成する(図4(g))。
【0021】
次に、本実施の形態に係る半導体装置用TABテープおよびその製造方法の作用について説明する。
本実施の形態に係る半導体装置用TABテープおよびその製造方法では、絶縁性基板1の片面に張り合わされた導体箔11を、インヒビタを添加したエッチャントを用いたウェットエッチングプロセスによってパターン加工することで、インナーリード6および配線パターン5等を含んだ導体パターン2を形成するようにしたので、そのインヒビタを添加したエッチャントによるエッチングが、従来技術の場合のような等方的に進行するのではなく、導体箔11の表面に対してほぼ垂直方向に、ないしはむしろいわゆる逆テーパ(一般的なアンダカットを順テーパとして)が生じるような方向に進行する。これにより、本実施の形態に係る半導体装置用TABテープおよびその製造方法によれば、パターン不良や短絡不良や絶縁信頼性の低下のような別の新たな不都合を生じることなしに、実装される半導体装置30の電極パッド31に対して確実な接合を得ることができるような十分に広いトップ幅WAを確保した、ファインパターンのインナーリードを形成することが可能
となる。
【0022】
すなわち、本発明の発明者は、本発明を成すに当たり、種々のエッチャントを用いたウ
ェットエッチングプロセスによってファインパターンのインナーリード6を形成するという実験および考察等を鋭意試行した結果、絶縁性基板1の片面に張り合わされた導体箔11をウェットエッチングプロセスによってパターン加工してインナーリード6や配線パターン5等の導体パターン2を形成するに際しては、従来の一般的なエッチャントを用いるのではなく、インヒビタを添加してなるエッチャントを用いることにより、特に極めて微細なパターン幅およびパターンピッチに設定されていて極めて精密な加工が要求されるインナーリード6の部分において、ボトム幅WBとトップ幅WAとが同等もしくはむしろトップ幅WAの方がボトム幅WBよりも広くなるようなパターン形成が可能となることを確認した。そして、この新知見に基づいて本発明を成すに到ったのであった。
ここで、インヒビタをエッチング液に添加すると、それに起因してエッチング速度が低下し、延いてはパターン加工工程におけるスループットの低下が生じることが危惧されるようにも考えられる。しかし実際には、そのようなスループットの低下は、実質的なデメリットを生じるほどの問題とはならない。なぜなら、本発明が特に主な適用対象としている半導体装置用TABテープの分野においては、配線パターン5をはじめとする各種導体パターン2の微細化もしくは超微細化が進んでいるが、それに伴って、パターン加工の対象となる銅箔の厚さはごく薄いものとなっており、またそれと共に、配線間スペースの微細化も進んでいるので、エッチングプロセスで溶解除去すべき部分の分量は、ますます減少していく傾向にある。このため、インヒビタを添加したエッチング液を用いたウェットエッチングプロセスでパターン加工を行っても、そのスループットは実質的な問題となるほどまでは低下しないからである。換言すれば、従来技術に係る一般的なエッチング液を用いて半導体装置用TABテープにおける微細パターン加工を行うと、本発明の場合よりも若干、エッチング時間は短くなるかもしれないが、それと引き換えに、配線パターン5等のエッチング不良や絶縁不良等が多発して、そのパターン加工工程における歩留まりが著しく低下し、延いてはその全体的な製造プロセスのやり直し等をしなければならなくなるなどして、結果的に、その全体的な製造工程の大幅な遅延を生じることとなるが、本発明によれば、既述のように、配線パターン5等のエッチング不良や絶縁不良等の発生を回避することができ、しかもそのパターン加工工程でのスループットの実質的な低下等の虞もないのであるから、実際上は、本発明によるパターン加工の方が、むしろ総合的にはスループットが向上する、とさえ言えるからである。
【0023】
ここで、上記のエッチャントとしては、例えば塩化第二銅と塩酸との混合液、または塩化第二鉄と塩酸との混合液をベースとし、それに有機化合物または無機化合物からなるインヒビタを添加して調製したエッチング液を用いることができる。また、さらに界面活性剤を添加することで、その界面活性剤の働きによって、狭いパターン間スペースにもエッチング液の回り込みを良好なものとすることができ、その結果、微細配線パターンもしくは超微細配線パターン等を確実に形成することが可能となるという作用を、さらに有効なものとすることができる。
【0024】
但し、上記のようなエッチング液を用いたウェットエッチングプロセスによるパターン加工を行うと、それによって形成されるインナーリード6のような微細なパターンの断面形状は、図2に一例を示したような、下面B側の左右両角部が局所的に面取りされて抉れたようなものとなる傾向がある。これは、上記のようなエッチング液を用いたウェットエッチングプロセスによってパターン加工を行うと、下面Bの付近ではエッチング液の流れの状態とそのエッチング液における主にインヒビタの挙動とが相まって、下面B側の左右両角部が局所的に面取りされて抉れて見かけのボトム幅WBが減少したような形状となる
ものと考えられる。しかし、このような抉れに起因したボトム幅WBの減少は、数値的に
は僅かなものであるから、インナーリード6における実質的な不都合が生じる虞はない。
【0025】
また、インナーリード6よりもパターン幅やパターンピッチが大きい配線パターン5においては、上記のような下面Bの左右両端の面取り状の抉れが発生しやすいが、そのよう
なパターン幅やパターンピッチが大きい場合には、パターン幅の許容寸法公差も大きくなるので、実質的なデメリットを生じるほどの問題とはならない。従って、上記のような本実施の形態に係るエッチング液を用いたウェットエッチングプロセスによって導体箔11をパターン加工して、インナーリード6だけでなく配線パターン5を形成しても、実質的な不都合は生じることがない。むしろ、そのように本実施の形態に係るエッチング液を用いて配線パターン5を形成することによって、サイドエッチングに起因した配線パターン5におけるトップ幅の細りを解消することが可能となり、またさらに、リードボトム間のスペースを上記のような抉れによって拡げることができるので、電気的な信頼性を向上せしめることができるというメリットも得られるので、極めて望ましいと言える。
【0026】
また、本実施の形態に係る半導体装置用TABテープおよびその製造方法によれば、粗面化処理や有機処理が施された導体箔11を絶縁性基板1の片面に張り合わせた後、その導体箔11の粗面化処理や有機処理が施された面における、はんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分およびボンディング用窓穴4にて露出している部分の表面7に対して、選択的に(その部分のみに)化学研磨処理を施すことにより、その導体箔11をパターン加工して形成された、配線パターン5におけるはんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分およびインナーリード6におけるボンディング用窓穴4にて露出している部分の表面7の表面粗さを、その導体箔11をパターン加工してなる導体パターン2(主に配線パターン5)における絶縁性基板1の片面に張り合わされている部分の表面8の表面粗さ未満となるようにし、またそれにより有機処理の痕跡を完全に除去するようにしたので、はんだボールを、はんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分の導体パターン2の表面7に確実に接合して、はんだボールの脱落等の接合不良の発生を解消することが可能となる。またそれと共に、インナーリード6におけるボンディング用窓穴4にて露出している部分の表面7に押し当てられるボンディングツール40の先端部等の早期劣化や短命化を回避することが可能となる。
【0027】
すなわち、従来の技術では、導体箔11と絶縁性基板1との良好な密着性を確保するために、導体箔11における絶縁性基板1と張り合わされる方の面全面に粗面化処理を施して、その面を故意に荒らすようにしている。また近年では、シランカップリング等の有機処理を、導体箔11における絶縁性基板1と張り合わされる方の面全面に施すことで、それら導体箔11と絶縁性基板1との密着性を確保するようにしている。この密着力が不十分であると、例えばインナーリードボンディングの際にインナーリード6が絶縁性基板1から剥がれてしまうといった致命的な不良等が発生する虞があるからである。
ところが、そのようにして粗面化処理や有機処理が施された導体箔11の表面は、はんだボール搭載用ビア穴3の部分およびボンディング用窓穴4の部分で露出することとなる。すなわち、導体箔11をパターン加工してなる配線パターン5におけるはんだボールが接合される部分およびインナーリード6におけるボンディングツール40が押し付けられる部分の表面7は、従来の技術では、粗面化処理によって故意に荒らした粗面や有機処理した面となっていた。このため、インナーリード6におけるボンディングツール40が押し当てられる部分に関しては、ボンディングツール40の磨耗が激化することとなり、また配線パターン5におけるはんだボールが接合される部分に関しては、特に近年のはんだボールおよびはんだボール搭載用ビア穴3の微細化に伴って、はんだボールを確実に接合することが困難となり、甚だしくは、はんだボールの脱落が発生する場合さえあった。
しかし、本実施の形態に係る半導体装置用TABテープおよびその製造方法によれば、導体箔11の粗面化処理や有機処理が施された面における、はんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分およびボンディング用窓穴4にて露出している部分の表面7に対して、選択的に(その部分のみに)化学研磨処理を施すようにしたので、はんだボールをはんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分の導体パターン2の表面7に確実に接合して、はんだボールの脱落等の接合不良の発生を解消することが可能となり、またそれと共に、インナーリード6におけるボンディング用窓穴4にて露出している部分の表面7に
押し当てられるボンディングツール40の先端部等の早期劣化や短命化を回避することが可能となるのである。
【0028】
以上説明したように、本実施の形態に係る半導体装置用TABテープおよびその製造方法によれば、ウェットエッチングプロセスによるパターン加工の際のサイドエッチングに起因したインナーリード6におけるトップ幅WAの細りを抑止して、実装される半導体チ
ップ30の電極パッド31に対して確実な接合を得ることができるような、むしろトップ幅WAの方がボトム幅WB以上の大きさであるような、十分に広いトップ幅WAを確保して
なるファインパターンのインナーリード6を形成することが可能となる。
また、導体パターン2におけるはんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分およびボンディング用窓穴4にて露出している部分の表面7の表面粗さを、導体パターン2における絶縁性基板1の片面に張り合わされている部分の表面8の表面粗さ未満となるようにしたので、はんだボールをはんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分の導体パターン2の表面7に確実に接合することが可能となり、またボンディング用窓穴4にて露出しているインナーリード6の片面に押し当てられるボンディングツール40の早期劣化や短命化を回避することが可能となる。
また、本実施の形態に係る半導体装置用TABテープの製造方法によれば、導体箔11におけるはんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分およびボンディング用窓穴4にて露出している部分の表面7に対して選択的に化学研磨処理を施して、それらの表面7における表面粗さを、導体箔11における絶縁性基板1の片面に張り合わされている部分の表面8の表面粗さ未満にするようにしたので、導体箔11における絶縁性基板1の片面に張り合わされる面全面に、粗面化処理だけでなくシランカップリングのような有機処理が施されている場合でも、その表面7における有機処理の痕跡が残っている表層部を、確実に除去することが可能となる。その結果、はんだボールを、はんだボール搭載用ビア穴3にて露出している部分の導体箔11の表面7に確実に接合して、はんだボール脱落等の接合不良の発生を解消することが可能となる。
【0029】
なお、化学研磨処理工程では、導体箔11における光沢面には化学研磨用薬剤等が直接には触れないようにすることが、より望ましい。これは、導体箔11の光沢面に化学研磨処理用薬液等が触れると、その部分の表層部が化学的に蝕刻されて、導体箔11の光沢面に表面粗度のムラが生じることとなるからである。また、その導体箔11をパターン加工してなる導体パターン2に厚さに、許容誤差範囲を超えた無視できないばらつきが生じることとなるからである。このような表面粗度のムラの発生等を回避するためには、図4の(b)に示した工程から(c)に示した工程へと移行する段階で、導体箔11の光沢面全面を覆うように例えばマスキングテープのようなマスキング層を貼り付けてから、化学研磨処理を行うようにすることが有効である。但し、そのマスキングテープのようなマスキング層は、化学研磨処理工程を完了した後は、剥がさなければならないが、その剥がす際に、マスキングテープの糊残りや部分的残存などが生じると、それが要因となって、例えば導体パターン2に形状不良が発生するといった、半導体装置用TABテープ10の製品としての重大な欠陥が発生する虞がある。そこで、マスキングテープのようなマスキング層としては、ドライフィルムレジスト12を用いるようにすることが望ましい。すなわち、化学研磨処理を行う以前に、導体箔11の光沢面全面にドライフィルムレジスト12をラミネートすることで、その導体箔11の光沢面を完全に被覆した状態としておき、その状態で化学研磨処理を施すようにすることで、導体箔11の光沢面には化学研磨処理用薬液が触れないようにすることができる。その化学研磨処理工程を行った後、ドライフィルムレジスト12は、その本来の役割として、所望のパターンの露光・現像によりレジストパターンとなり、それをエッチングレジストとして用いたエッチング法により導体箔11がパターン加工され、その後、不要となったレジストパターンは、一般的なTABテープの製造方法と同様の剥離プロセスによって確実かつ簡易に剥離される。このように、ドライフィルムレジスト12は元々、使用後は剥離されるように設定されたものであってかつ
導体箔11のパターン加工工程で用いられることが必要とされているものなのであるから、マスキング層としてドライフィルムレジスト12を用いることにより、別段にマスキングテープのようなマスキング層をラミネートしたり化学研磨処理の終了後に糊残りや部分的残存等に注意しながら剥がしたりするといった煩雑な工程を追加しなくても済むようにすることも可能となる。
【0030】
また、上記実施の形態では、マスキング層としてドライフィルムレジストまたは液状レジストを用いる場合について説明したが、これのみには限定されない。それら以外にも、例えばマスキングテープを用いることなども可能であることは言うまでもない。但し、その場合には、上記のドライフィルムレジストのラミネート工程および剥離工程の代りに(あるいは、それとは別に)、マスキングテープのラミネート工程および剥離工程等の追加が必要となることは既述の通りである。
また、上記実施の形態では、半導体装置用TABテープ10はμBGAタイプのCSPに用いられるようなフィルムビア構造を有するものとして説明したが、フィルムビア構造以外のμBGAタイプのCSP、あるいはμBGAタイプ以外のCSPに用いられるものなどにも本発明は適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0031】
1 絶縁性基板
2 導体パターン
3 はんだボール搭載用ビア穴
4 ボンディング用窓穴
5 配線パターン
6 インナーリード
9 ノッチ部
10 半導体装置用TABテープ
11 導体箔
12 ドライフィルムレジスト
30 半導体チップ
40 ボンディングツール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともボンディング用窓穴が設けられた絶縁性基板と、前記絶縁性基板の片面に張り合わされた導体箔をパターン加工して形成された少なくともインナーリードと配線パターンとを含んだ導体パターンとを有する半導体装置用TABテープであって、
前記導体パターンにおける、前記絶縁性基板の片面に張り合わされた面とは反対側の面のインナーリード幅が、前記絶縁性基板と張り合わされた面側のインナーリード幅以上である
ことを特徴とする半導体装置用TABテープ。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置用TABテープにおいて、
少なくとも前記インナーリードが、インヒビタを添加したエッチャントを用いたウェットエッチングによって、前記導体箔をパターン加工してなるものである
ことを特徴とする半導体装置用TABテープ。
【請求項3】
請求項1または2記載の半導体装置用TABテープにおいて、
前記インナーリードは、前記絶縁性基板の片面に張り合わされた面側とは反対側の面が、当該半導体装置用TABテープに実装される半導体装置の電極パッドに接続されるように設定されている
ことを特徴とする半導体装置用TABテープ。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか一つの項に記載の半導体装置用TABテープにおいて、
前記インナーリードは、前記絶縁性基板の片面に張り合わされた面側の左右両角部が面取りされて抉れたような断面形状に形成されている
ことを特徴とする半導体装置用TABテープ。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちいずれか一つの項に記載の半導体装置用TABテープにおいて、
前記インナーリードの前記絶縁性基板と張り合わされた面側における前記ボンディング用窓穴にて露出している部分の表面の表面粗さは、当該露出している部分以外の前記導体パターンにおける前記絶縁性基板の片面に張り合わされている部分の表面粗さ未満であることを特徴とする半導体装置用TABテープ。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちいずれか一つの項に記載の半導体装置用TABテープにおいて、
前記インナーリードは、前記絶縁性基板の片面に張り合わされた面側の表面が、前記ボンディング用窓穴にて露出するように設けられていると共に、当該張り合わされた面側におけるボンディング用窓穴にて露出している部分の表面の表面粗さよりも、前記絶縁性基板の片面に張り合わされた面側とは反対側の面の表面粗さの方が小さい
ことを特徴とする半導体装置用TABテープ。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちいずれか一つの項に記載の半導体装置用TABテープにおいて、
前記インナーリードにおける、前記絶縁性基板の片面に張り合わされた面側の表面が前記ボンディング用窓穴にて露出するように設けられている部分の厚さは、当該露出している部分以外の前記導体パターンにおける前記絶縁性基板の片面に張り合わされている部分の厚さ未満10μm以上である
ことを特徴とする半導体装置用TABテープ。
【請求項8】
絶縁性基板に少なくともボンディング用窓穴を穿設する工程と、前記絶縁性基板の片面に導体箔を張り合わせる工程と、前記導体箔をパターン加工して、少なくともインナーリードと配線パターンとを含んだ導体パターンを形成する工程とを有する半導体装置用TABテープの製造方法であって、
少なくとも前記インナーリードを、有機化合物または無機化合物からなるインヒビタを添加したエッチャントを用いたウェットエッチングプロセスによって前記導体箔をパターン加工することで形成する工程を含む
ことを特徴とする半導体装置用TABテープの製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の半導体装置用TABテープの製造方法において、
前記インナーリードの前記絶縁性基板と張り合わされた面側における前記ボンディング用窓穴にて露出している部分の表面に対して選択的に化学研磨処理を施す工程を含む
ことを特徴とする半導体装置用TABテープの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−23517(P2011−23517A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166794(P2009−166794)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】