説明

半導体装置

【課題】 半導体素子の電極がはんだバンプを介して接続パッドに電気的に接続されているとともに、エレクトロマイグレーションが効果的に抑制された半導体装置を提供する。
【解決手段】 半導体基板1の電極3の外周の一部に電子回路2が直接に接続されてなる半導体素子と、半導体素子の電極3と対向して配置された接続パッド5を備える配線基板4と、電極3と接続パッド5との間に介在して、電極3および接続パッド5に接合されたはんだバンプ6とを備え、電極3とはんだバンプ6との界面に沿って、電極3の外周の電子回路2が接続されている一部に接した部分において他の部分よりも厚いニッケル層7が介在している半導体装置である。ニッケル層7の厚みの差に応じた電気抵抗差によって、半田バンプ6に流れる電流の電流密度を均一化し、電流の集中によるマイグレーションを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子がセラミック配線基板等の配線基板上に搭載され、半導体素子の主面の電極と配線基板の主面の接続パッドとがはんだバンプを介して互いに接合されてなる半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路素子(IC)等の半導体素子は、通常、半導体素子搭載用のセラミック配線基板等の配線基板に搭載されて半導体装置となり、コンピュータや通信機器,センサ機器等を構成する外部の電気回路(マザーボード等)に実装されて使用されている。
【0003】
半導体素子は、一般に、シリコン等の半導体基板の一主面に電子回路が形成され、この電子回路と電気的に接続された円形状等の電極が一主面に配置された構造である。電子回路は、その一端が電極の外周の一部に直接に接続することによって、電極と電気的に接続されている。
【0004】
配線基板は、例えばセラミック基板等の絶縁基板の主面に、半導体素子の電極の配置に対応させて接続パッドが形成された構造である。半導体素子の電極と配線基板の接続パッドとを互いに対向させて、両者の間に介在させたはんだバンプを介して両者を互いに接合させれば、半導体装置が形成される。
【0005】
半導体装置は、上記電子機器の基板に実装され、半導体素子の電子回路と外部の電気回路との間で各種の電気信号の送受等が行なわれる。電子信号の送受に伴い、半導体素子の電子回路とはんだバンプとの間で電流が通電される。
【0006】
なお、半導体素子の電極は、例えば銅やアルミニウム,チタン,ニッケル等の金属材料からなり、はんだバンプは、例えばスズ−銀やスズ−銀−銅等のはんだからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−211722号公報
【特許文献2】特開2002−203925号公報
【特許文献3】特開2007−59937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来の半導体装置においては、電子回路とはんだバンプとの間で送受される信号としての電流(電流密度)が、電極のうち電子回路が直接に接続されている一部において他の部分よりも大きくなる傾向がある。そのため、この一部において、電極を形成している銅やアルミニウム等の金属材料がはんだバンプ中に拡散移動するエレクトロマイグレーションを生じやすいという問題点があった。このようなエレクトロマイグレーションが生じると、電極の一部に空隙(ボイド)が生じ、電極とはんだバンプとの間で局部的な電気抵抗の増加や断線等の不具合を生じる。
【0009】
特に、近年、半導体素子の高速化に伴い、電子回路からはんだバンプに流れる電流がさらに大きくなる傾向にあるため、上記電子回路の接続されている一部における電流密度の増加が顕著であり、エレクトロマイグレーションが発生しやすくなってきている。
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み完成されたものであり、半導体素子の電極がはんだバンプを介して接続パッドに電気的に接続されてなる半導体装置において、電極の、特に電子回路と直接に接続された部分におけるエレクトロマイグレーションが効果的に抑制された、ボイドの発生を抑制することが可能な半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の半導体装置は、電子回路が形成された半導体基板の主面に電極が配置され、該電極の外周の一部に前記電子回路が直接に接続されてなる半導体素子と、該半導体素子の前記電極と対向して配置された接続パッドを備える配線基板と、前記半導体素子の前記電極と前記配線基板の前記接続パッドとの間に介在して、前記電極および前記接続パッドに接合されたはんだバンプとを備え、前記電極と前記はんだバンプとの接合界面に沿ってニッケル層が介在しており、該ニッケル層は、前記電極の前記電子回路が接続されている前記一部に接した部分において他の部分よりも厚いことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の半導体装置は、上記構成において、前記ニッケル層がリンを含有していることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の半導体装置は、上記いずれかの構成において、前記ニッケル層が、前記電極の前記電子回路が接続されている前記一部に接した部分で最も厚く、前記一部からの距離が遠いほど厚みが薄いことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の半導体装置は、上記いずれかの構成において、前記ニッケル層が、前記電極の前記一部に接した部分で最も厚く、かつ前記電極の外周部において中央部よりも厚いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の半導体装置によれば、上記構成を備え、半導体素子の電極とはんだバンプとの接合界面に沿ってニッケル層が介在していることから、ニッケル層によって、電極を形成している金属材料のはんだバンプへの拡散が抑制される。つまり、ニッケル層が、銅やアルミニウム等の金属材料のエレクトロマイグレーション(以下、単にマイグレーションという)に対していわゆるバリア層として機能し、マイグレーションの速度を抑制する。
【0016】
また、このニッケル層は、電極の電子回路が接続されている一部に接した部分(接続部)において他の部分よりも厚く、銅等からなる電極に比べて電気抵抗(抵抗率)が高いことから、接続部(つまり、半導体素子の電子回路から電極を経てはんだバンプに流れる電流の電流密度が最も高くなる傾向がある部分)において、電極とはんだバンプとの間の電気的な接続の抵抗が、他の部分よりも高い。そのため、この電気抵抗の差によって、電流密度が上記接続部において他の部分よりも大きくなることが抑制される。したがって、上記接続部における電極のボイドが効果的に抑制される。すなわち、ニッケル層は、バリア層として機能すると同時に、電極とはんだバンプとの間の電気抵抗を調整して電流密度が電極の一部分において他の部分よりも大きくなることを抑制する、電流密度調整用の層としても機能する。
【0017】
また、本発明の半導体装置は、上記構成において、ニッケル層がリンを含有している場合には、ニッケル層の電気抵抗(抵抗率)がリン成分の作用によって、ニッケルのみの場合に比べて大きくなっている。そのため、ニッケル層の厚みの差によって生じる電気抵抗の差がより大きくなり、ニッケル層の厚みの差によって調整することが可能な上記電流密度の範囲を(ニッケル層の厚みの差をより小さく抑えながら)より大きくすることができる。そのため、この場合には、ニッケル層について、上記電流密度調整用の層としての実用性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明の半導体装置は、上記いずれかの構成において、ニッケル層が、電極の一部に接した部分で最も厚く、この一部からの距離が遠いほど厚みが薄い場合には、電子回路から電極を経てはんだバンプに流れる電流密度の大きさの減少に合わせて、電極とはんだバンプとの間の電気抵抗を大きくすることができる。そのため、より効果的に、電極の一部において他の部分よりも電流密度が大きくなるようなことをより効果的に抑制して、マイグレーションによる空隙の発生を抑制することができる。
【0019】
また、本発明の半導体装置は、上記いずれかの構成において、ニッケル層が、電極の前記一部に接した部分で最も厚く、かつ電極の外周部において中央部よりも厚い場合には、上記構成の場合と同様に、接続部において電流密度が他の部分よりも大きくなることが抑制される。また、電極の外周部においてニッケル層が厚いため、ニッケル層の中央部が凹状になる。そのため、電極にはんだバンプを、間にニッケル層を介して接合させる際に、ニッケル層の凹状の部分にはんだバンプの端部分を入り込ませて、はんだバンプ(または、はんだバンプとなるはんだボール等)の電極に対する位置ずれを抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の半導体装置の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】(a)は、図1に示す半導体装置の要部を拡大して示す要部断面図であり、(b)は、(a)の半導体素子部分を下面側から見た要部下面図(透視図)である。
【図3】(a)および(b)は、それぞれ本発明の半導体装置の実施の形態の他の例における要部を拡大して示す要部断面図である。
【図4】(a)および(b)は、それぞれ本発明の半導体装置の実施の形態の他の例における要部を拡大して示す要部下面図(透視図)である。
【図5】図4(a)に示す半導体装置の半導体素子部分を下面側から見た分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の半導体装置を添付の図面を参照して説明する。図1は本発明の半導体装置の実施の形態の一例を示す断面図である。また、図2(a)は、図1に示す半導体装置の要部を拡大して示す拡大断面図であり、図2(b)は、図1(a)の半導体素子部分を下面側から見た要部下面図(透視図)である。図1および図2において、1は半導体基板,2は電子回路,3は電極,4は配線基板,5は接続パッド,6ははんだバンプ,7はニッケル層である。電子回路2および電極3を備える半導体基板1と、接続パッド5を備える配線基板4とがはんだバンプ6を介して電気的および機械的に接続されて半導体装置が基本的に構成されている。図1においては、ニッケル層7を省略している。また、図2(b)においては、配線基板4およびはんだバンプ6を省略し、半導体素子の電極3部分を下面側から透視した状態を示している。
【0022】
半導体基板1は、シリコンやガリウム砒素リン,ゲルマニウム,ヒ化ガリウム,窒化ガリウム,炭化珪素等の半導体材料からなり、このような半導体材料のウエハが所定の形状および寸法に切断されて作製されている。半導体基板1は、例えば、1辺の長さが約3〜10mm程度の四角板状のシリコン基板である。
【0023】
半導体基板1の主面には、アルミニウムや銅,金等の金属材料からなる電子回路2が配置されている。電子回路2は、例えばトランジスタやダイオード等の機能を備える部分も含み、半導体基板1の主面に集積回路として形成している。
【0024】
この電子回路2は、電極3の外周の一部に直接に接続されていて、電極3を介して外部
の電気回路に電気的に接続される。これらの半導体基板1,電子回路2および電極3によって、半導体集積回路素子(IC)等の半導体素子(符号なし)が形成されている。電極3は、例えば銅やアルミニウム,銀,パラジウム,ニッケル等の金属材料によって形成されている。これらの金属材料のうち銅およびアルミニウムが、電気抵抗が低いことや経済性等を考慮して電極3を形成する金属材料の主成分として多く用いられる。
【0025】
なお、電極3の形状および寸法は、電子回路2の配置位置等に応じて適宜設定され、例えば、直径が約100〜300μmの円形状等に形成されている。
【0026】
半導体素子は、例えば半導体基板1(実際にはシリコンウエハ等)の主面にシリコンの酸化膜(図示せず)を形成した後、アルミニウム等からなる電子回路2を蒸着法やフォトリソグラフ法等の微細加工技術を適用して形成することによって作製されている。
【0027】
電極3を介して電子回路2と外部の電気回路との間で信号の送受等が行なわれ、電子回路2において所定の演算や記憶,解析等の各種の処理が実行される。
【0028】
半導体素子は、上記のように配線基板4と電気的および機械的に接続されて、つまり配線基板4に搭載されて半導体装置となり、コンピュータや通信機器,検査装置等の各種の電子機器に部品として実装される。電子機器が備えるマザーボード等の回路が外部の電気回路に相当する。
【0029】
配線基板4は、半導体素子を搭載して半導体装置を作製するための、いわゆるICパッケージ等である。配線基板4は、例えば、酸化アルミニウム質焼結体やガラスセラミック焼結体,ムライト質焼結体,窒化アルミニウム質焼結体等のセラミック材料や、エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂等の樹脂材料、セラミック材料やガラス材料等と樹脂材料との複合材料等の絶縁材料によって形成された絶縁基板4aの主面に接続パッド5が配置されて形成されている。
【0030】
絶縁基板4aは、例えば、ガラスセラミック焼結体からなる場合、次のようにして製作することができる。即ち、酸化アルミニウムにガラス,焼結助剤を添加した原料粉末に適当な有機バインダおよび有機溶剤を添加混合して泥漿状とし、これをドクターブレード法やリップコータ法等のシート成形技術を採用してシート状に成形することにより複数枚のセラミックグリーンシートを得て、その後、セラミックグリーンシートを切断加工や打ち抜き加工により適当な形状とするとともにこれを複数枚積層し、最後にこの積層されたセラミックグリーンシートを還元雰囲気中において約800〜1000℃の温度で焼成することに
よって製作される。
【0031】
接続パッド5は、絶縁基板4aの主面(図1の例では上面)に、半導体素子の主面(図1の例では下面)に配置された電極3と対向するように配置されている。接続パッド5と半導体素子の電極3とがはんだバンプ6を介して互いに接合されていることによって、半導体素子と配線基板4とが電気的および機械的に接続され、半導体装置が形成されている。
【0032】
接続パッド5は、例えば絶縁基板4aの下面等の表面や内部に形成された配線導体8を介して外部の電気回路(符号なし)と電気的に接続される。配線導体8は、絶縁基板4aの内部に形成された貫通導体(ビア導体)を含む。配線導体8と外部の電気回路との電気的な接続は、例えばはんだや導電性接着剤等の導電性接続材9を介して行なわれる。配線導体8は、例えば後述する接続パッド5と同様の材料を用い、同様の方法で形成することができる。
【0033】
接続パッド5は、タングステンやモリブデン,マンガン,銅,銀,パラジウム,金,白金,チタン等の金属材料により形成されている。これらの金属材料、特に銅および銀は、電気抵抗が低いため、電極パッド2における電気抵抗を低く抑えて、電子部品11を電極パッド2に電気的に接続したときの導通抵抗等の電気特性を高くする上で有利である。
【0034】
接続パッド5は、例えば平面視で円形状や楕円形状,四角形状等であり、対向して接続される電極3の形状や寸法に応じて適宜、形状および寸法が設定されている。接続パッド5は、例えば電極3が上記のように直径が約100〜300μmの円形状等の場合であれば、これよりも若干大きな円形状(直径が約200〜400μm)等に形成される。
【0035】
半導体素子の電極3と配線基板4の接続パッド5とを接続しているはんだバンプ6は、例えば図1および図2に示したように上下(電極3側および接続パッド5側)が平らに潰れた球状である。
【0036】
はんだバンプ6は、スズ−鉛やスズ−銀やスズ−銀−銅,スズ−銀−ビスマス等のはんだ材料によって形成されている。はんだバンプ6は、環境への悪影響を避ける上では、鉛等の有害物質を含有しない、いわゆる鉛フリーはんだであることが好ましい。
【0037】
はんだバンプ6を介した電極3と接続パッド5との接続は、例えば以下のようにして行なわれている。すなわち、まずスズ−銀はんだ等のはんだボールを準備して、このはんだボールを電極3上に(電極3が上を向くように半導体素子をセットした状態で)位置決めして載せ、このはんだボールをリフロー等の方法で加熱して電極3に接合し、次に、半導体素子をひっくり返して配線基板4上に、はんだバンプ6が接続パッド5に載るように位置合わせして搭載し、その後、はんだバンプ6を再度加熱して接続パッド5に接合させることによって、はんだバンプ6を介して電極3と接続パッド5とが互いに接続される。そして、以上の工程によって、半導体素子と配線基板4とがはんだバンプ6を介して電気的および機械的に接続されてなる半導体装置が製作されている。
【0038】
このはんだバンプ6と電極3との間には、これらの接合の界面に沿ってニッケル層7が介在している。また、このニッケル層7は、電極3の外周の電子回路2が接続されている一部に接した部分において他の部分よりも厚い。
【0039】
半導体素子の電極3とはんだバンプ6との接合界面に沿ってニッケル層7が介在していることから、ニッケル層7によって、電極3を形成している金属材料(特に、主成分である銅やアルミニウム)のはんだバンプ6への拡散が抑制される。つまり、ニッケル層7が、銅やアルミニウム等の金属材料のマイグレーション(前述したように、電子の移動に起因する金属成分の拡散であるエレクトロマイグレーション)に対していわゆるバリア層として機能し、マイグレーションの速度を抑制する。
【0040】
また、このニッケル層7は、銅等からなる電極3に比べて電気抵抗(抵抗率)が高く、電極3の電子回路2が直接に接続されている一部(接続部)に接した部分において他の部分よりも厚いことから、接続部(つまり、半導体素子の電子回路2から電極3を経てはんだバンプ6に流れる電流の電流密度が最も高くなる傾向がある部分)において、電極3とはんだバンプ6との間の電気的な接続の抵抗が、他の部分よりも高い。そのため、この電気抵抗の差によって、電流密度が上記接続部において他の部分よりも大きくなることが抑制される。したがって、上記接続部における電極3のボイドが効果的に抑制される。
【0041】
すなわち、ニッケル層7は、銅等の電極3の成分の拡散を抑制するバリア層として機能すると同時に、電極3とはんだバンプ6との間の電気抵抗を調整して電流密度が電極3の一部において他の部分よりも大きくなることを抑制する、電流密度調整用の層としても機
能する。
【0042】
また、ニッケルは、銅やアルミニウム,スズ−銀はんだ等のはんだ材料のいずれに対しても密着性が良好である。そのため、ニッケル層7は電極3およびはんだバンプ6の両方に対する密着性が良好で、それぞれの間の機械的な接合強度も高い。したがって、電極3とはんだバンプ6との間にニッケル層7を介在させた構成において、電極3と半田バンプ6との間の電気的および機械的な接続の信頼性を高く確保することができる。
【0043】
電極3とはんだバンプ6との間にニッケル層7を介在させるには、例えば前述した工程で半導体装置を製作する際に、はんだボールを電極3上に載せる前に、電極3の表面にニッケル層7を無電解めっき法等の方法で被着させておき、その後、はんだボールを電極3(実際にはニッケル層7)の表面に上記と同様の方法で接合させるようにすればよい。
【0044】
ニッケル層7は、例えばニッケルや、ニッケルを主成分とし、これに他の金属等の成分を含む材料によって形成されている。他の金属等の成分は、例えば上記のように無電解めっき法等の方法でニッケル層7を電極3に被着させる際に共析する成分である。ニッケル層7の形成には、電極3の材料である銅等の表面に形成するとき、銅との密着性や形成コスト,耐薬品性,実装性の観点を重視した場合には、無電解ニッケル−リンめっきが用いられる。
【0045】
ニッケル層7を無電解めっき法(無電解ニッケル−リン)で形成する場合、半導体基板1の電極3を、硫酸ニッケル等のニッケル塩と次亜リン酸ナトリウム等の還元剤とを主成分とし、錯化剤や安定剤等が添加されてなる無電解ニッケルめっき液中に所定時間浸漬することによって形成することができる。この場合、形成されたニッケル層7は、還元剤の分解生成物であるリンを5〜10質量%程度含んでいる。
【0046】
なお、これらの金属の電気抵抗(μΩ・cm)は、ニッケルが約6.9,銅が約1.694,ア
ルミニウムが約2.67であり、ニッケルの電気抵抗が銅およびアルミニウムよりも高いため、上記のように電気抵抗を大きくすることができる。また、無電解めっき法でニッケル層7を形成した場合、ニッケル層7としてのニッケルめっき皮膜はリンを含むニッケル―リン合金になる。このニッケル−リン合金の電気抵抗はリン濃度が約8質量%程度で50〜60μΩ・cmとなり、はんだ材料のスズの約12.6μΩ・cmと比べても高いため、ニッケル層7の一部厚い部分の抵抗値をより大きくすることができる。
【0047】
すなわち、ニッケル層7は、電極3とはんだバンプ6との間の電流密度調整用の層としての機能をより有効とすることを考慮した場合には、リンを含有していることが好ましい。リンを含有するニッケル層7は、例えば上記のように無電解ニッケル−リンめっきでニッケル層7となるニッケルめっき層を電極3に被着させることによって形成することができる。
【0048】
ニッケル層7におけるリンの含有率は、ニッケル層7の電気抵抗を高くする上では多いほど好ましい。しかし、リンの含有率が多くなり過ぎると半田実装時に実装信頼性(はんだバンプ6とニッケル層7との接続信頼性)が低下する等の不具合が誘発される可能性がある。したがって、ニッケル層7におけるリンの含有率は、5〜10質量%の範囲が好ましい。
【0049】
ニッケル層7について、リンの含有率を上記の範囲に調整するには、例えば上記の無電解ニッケル−リンめっき液を用い、特にpHを制御することが重要である。pHが高くなるとリンの含有率が低下するため、酸性タイプのニッケルめっき液では4.4〜4.8程度、中性タイプでは6.0〜6.8程度に制御すればよい。
【0050】
なお、ニッケル層7にリンを含有させる場合、ニッケル層7におけるリンの分布は、ほぼ均一であることが好ましい。
【0051】
また、ニッケル層7における電気抵抗(抵抗率)を大きくするためにニッケル層7に添加する材料としては、リンに加えてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の樹脂を添加する方法等が挙げられる。これらのリンと樹脂とをニッケル層7に添加する方法では、例えば樹脂等を粒子の状態でめっき液中に添加・分散させてめっきを行なうことで、ニッケル層7中に添加させることができる。
【0052】
ニッケル層7の厚みは、電極3の接続部に接した部分において他の部分よりも厚くする必要があるが、それぞれの部位における具体的な厚みは、電子回路2から電極3を経てはんだバンプ6に流れる電流の大きさや半導体装置が使用される環境の温度,ニッケル層7自体の電気抵抗(抵抗率),電極3を形成している金属材料の組成等の、マイグレーションに影響を与える各種の条件、および生産性や経済性等に応じて適宜設定すればよい。
【0053】
例えば、電子回路2から電極3を経て流れる電流密度は電極3一つ当たり8kA/cm
であり、電極3が銅からなり、ニッケル層7がリンを約5質量%程度含むものである場合であれば、ニッケル層7の厚みは、電極3の接続部に接した部分において約8〜15μmとし、他の部分において約2〜8μmとすればよい。
【0054】
この場合には、ニッケル層7に上記のように厚みが厚い部分を設けたことによって、言い換えれば、電流の流れやすさに応じて、抵抗が高い部分を電極3とはんだバンプ6との間に設けたことによって、電極3の全域において、電極3からはんだバンプ6に流れる電流の電流密度をほぼ同じ程度に揃えることができる。
【0055】
簡便な方法としては、ニッケル層7の上記他の部分の厚みを約4μmとし、その約2〜4倍の厚みを、電極3の接続部に接した部分の厚みとして設定する方法が挙げられる。
【0056】
ニッケル層7について、上記のように厚みが他の部分よりも厚い部分を形成するには、例えば、マスキングによる方法を用いることができる。
【0057】
すなわち、まず電極3の表面の全面に比較的薄く(例えば上記のように他の部分における厚み4μm程度に)無電解めっき法等の方法で被着させる(第1層)。その後、この第1層の表面を、電極3の接続部に接した部分(つまりニッケル層7を厚くした部分)を除いてマスキング材で被覆する。マスキング材としては、例えばレジスト加工に用いるノボラック樹脂等を用いることができ、フォトリソグラフィ法の方法で所定パターンに被着させることができる。その後、このマスキング材で被覆されずに露出した第1層の表面にニッケルめっきを追加して行ない、所定の厚みとした後にマスキング材を除去すれば、電極3の接続部に接した部分において他の部分よりも厚いニッケル層7を形成することができる。
【0058】
なお、ニッケル層7の厚みを厚くする部分は、電極3の接続部に接した部分を必ず含み、この部分から、例えば電流密度の大きさや、上記のようにマスキングによってニッケル層7の厚みに差をつける際の作業性等に応じて、適宜設定すればよい。図2に示した例では、平面視で、接続部を含む電極3の外周に沿った、一定の幅の円弧状の部分においてニッケル層7を他の部分よりも厚くしている。
【0059】
また、この半導体装置は、例えば図3(a)および(b)に示すように、ニッケル層7が、電極3の一部に接した部分で最も厚く、この一部からの距離が遠いほど厚みが漸次薄
くなる場合には、電子回路2から電極3を経てはんだバンプ6に流れる電流密度の減少に合わせて、電極3とはんだバンプ6との間の電気抵抗を漸次大きくすることができる。そのため、より効果的に、電極3の一部において他の部分よりも電流密度が大きくなるようなことをより効果的に抑制して、マイグレーションによる空隙の発生を抑制することができる。なお、図3(a)および(b)は、それぞれ本発明の半導体装置の実施の形態の他の例における要部を拡大して示す要部断面図である。図3において図1および図2と同様の部位には同様の符号を付している。
【0060】
言い換えれば、この場合には、電極3の接続部で最も大きく、この接続部から離れるほど漸次低下する傾向がある電流に合わせて、電極3とはんだバンプ6との間の電気抵抗を漸次増加させることによって、電流密度を電極3の全域においてより確実に同じ程度に揃えることができる。これによって、過大な電流密度に起因するマイグレーションによる電極3の空隙を抑制することができる。
【0061】
このような効果は、ニッケル層7がリンを含有している場合も同様である。ニッケル層7がリンを含有している場合には、ニッケル層7の厚みの変化に応じた電気抵抗の変化の割合がより大きくなる。また、同じ程度の電気抵抗を得る上で必要なニッケル層7の厚み自体をより小さく抑えることができる。
【0062】
なお、図3(a)は、ニッケル層7の厚みを、電極3の接続部に接した部分から他の部分にかけて、しだいに薄くなるようにした例である。この例の場合には、電流の増加および減少の傾向に合わせて、ニッケル層7における電気抵抗をより精度よく調整することができる。そのため、より精度の高い電流密度の調整を行なう上で有利である。
【0063】
また、図3(b)は、ニッケル層7の厚みを、階段状に変化させた例である。この場合には、それぞれの厚みに応じてマスキングを併用する方法等でニッケル層7を、無電解めっき法等の方法で形成することができる。そのため、この場合には、上記のようにニッケル層7の厚みを電極3の接続部から他の部分にかけて漸次変化させる際の作業性を高くする上で有利である。
【0064】
また、この半導体装置は、例えば図4(a)および(b)に示すような形態でも構わない。なお、図4(a)および(b)は、それぞれ本発明の半導体装置の実施の形態の他の例における要部を拡大して示す要部下面図(透視図)である。図4において図1および図2と同様の部位には同様の符号を付している。図4(a)および(b)に示す例において得られる効果は、ニッケル層7がリンを含有している場合も同様に得ることができる。
【0065】
半導体装置は、例えば図4(a)に示すように、ニッケル層7が、電極3の接続部に接した部分で最も厚く、かつ電極3の外周部において中央部よりも厚い場合には、上記構成の場合と同様に、接続部において電流密度が他の部分よりも大きくなることが抑制される。また、この場合には、電極3の外周部においてニッケル層7が厚いため、ニッケル層7の中央部が凹状になる。そのため、電極3にはんだバンプ6を、間にニッケル層7を介して接合させる際に、ニッケル層7の凹状の部分にはんだバンプ6の端部分を入り込ませて、はんだバンプ6の電極3に対する位置ずれを抑制することもできる。
【0066】
すなわち、図7に示すように、はんだバンプ6は、前述したはんだバンプ6となるスズ−銀はんだ等のはんだボール6aが電極3(ニッケル層7)上に位置決めして載せられて、加熱されたものである。これに対して、図7(a)に示した例のような場合には、はんだボール6aの下側の一部をニッケル層7の中央の凹状の部分にはめて、転がらないように仮固定することができる。そのため、半導体装置としての生産性等を向上させる上で有利である。
【0067】
また、半導体装置7は、例えば図4(b)に示すように、ニッケル層7が、電極3の接続部に接した部分を中心とした扇形の範囲において他の部分よりも厚い場合には、この中心で最も高くなる傾向があり、この中心から等距離において同じ程度の値にまで減少する傾向がある電流に合わせて、漸次ニッケル層7の電気抵抗を高くすることができる。そのため、この場合には、電流密度を電極3の一部において他の部分よりも大きくなることをより効果的に抑制する上で適した半導体装置とすることができる。
【実施例】
【0068】
下記の半導体素子および配線基板を準備し、半導体素子の電極と配線基板の接続パッドとをスズ−銀はんだからなるはんだバンプを介して互いに電気的および機械的に接続して、実施例の半導体装置および比較例の半導体装置を作製した。実施例の半導体装置は、はんだバンプと電極との間に下記のニッケル層を介在させ、比較例の半導体装置ではニッケル層を介在させなかった(電極とはんだバンプとを直接に接続させた。)。
【0069】
半導体素子:半導体基板として、辺の長さが5×5mmの正方形板状のシリコン基板を用い、この半導体基板の主面にシリコンの酸化膜を介してアルミニウムからなる電子回路と銅からなる電極を配置したものを用いた。電極の個数は64個であり、半導体基板の主面に縦横の並びに配列させた。電極は、直径が約100μmの円形状であり、電極に流れる電
流は8kA/cmであった。
【0070】
配線基板:ガラスセラミック焼結体を用いて作製した、辺の長さが約10×10×1mmの正方形板状の絶縁基板の主面(上面)に、タングステン(銅)のメタライズ層によって、直径が約150μmの円形状の接続パッドを形成した。接続パッドの個数は半導体素子の電
極の個数と同じ64個であり、各接続パッドは、半導体素子の電極に対応する位置に形成した。
【0071】
はんだバンプ:スズ−銀−銅(Sn−3Ag−0.5Cu)はんだを用いた。はんだバン
プの形成は、上記組成のはんだボールを半導体素子の電極上に載せて、約260℃で加熱し
て溶融接合させて行なった。
【0072】
ニッケル層:実施例の半導体装置において、はんだバンプを電極に接合する前に、次亜リン酸ナトリウムを還元剤とし、pHを4.6に調整した無電解ニッケルめっき液を用いて
、電極の表面にニッケル層を形成した。ニッケル層のリン含有率は約5質量%であった。ニッケル層の厚さは、電極の接続部に接した部分(厚い部分)で約16μmとし、他の部分において約4μmとした。また、ニッケル層の厚みの差は、マスキング材を用いた方法で行なった。すなわち、まず電極の全面に厚さ4μmでニッケル層を被着させた後、ノボラック樹脂を用いてフォトリソグラフィ法により電極の接続部に接した部分以外をマスクし、厚い部分の厚みが16μmになるように、追加してニッケルめっきを行なった。なお、この実施例においてニッケル層を厚くした、電極の接続部に接した部分の範囲は、この接続部を中心とした半径が約50μmの扇形状の範囲とした。
【0073】
以上の実施例および比較例、それぞれの半導体装置について、プリント回路基板に実装した後、半導体素子とプリント回路基板の回路(外部の電気回路)との間で上記電流の通電を500時間行なった後、電極における通電前後の抵抗値の上昇率を算出し、上昇率20%
以上で故障と判定した。
【0074】
以上の結果、本発明の実施例の半導体装置では故障発生が見られなかったのに対し、比較例の半導体装置では20%の電極において故障が発生していた。これにより、本発明の半導体装置における、電極での空隙の発生を抑制する効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0075】
1・・・半導体基板
2・・・電子回路
3・・・電極
4・・・配線基板
4a・・絶縁基板
5・・・接続パッド
6・・・はんだバンプ
6a・・はんだボール
7・・・ニッケル層
8・・・配線導体
9・・・導電性接続材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子回路が形成された半導体基板の主面に電極が配置され、該電極の外周の一部に前記電子回路が直接に接続されてなる半導体素子と、該半導体素子の前記電極と対向して配置された接続パッドを備える配線基板と、前記半導体素子の前記電極と前記配線基板の前記接続パッドとの間に介在して、前記電極および前記接続パッドに接合されたはんだバンプとを備え、前記電極と前記はんだバンプとの接合界面に沿ってニッケル層が介在しており、該ニッケル層は、前記電極の前記電子回路が接続されている前記一部に接した部分において他の部分よりも厚いことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記ニッケル層がリンを含有していることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記ニッケル層は、前記電極の前記電子回路が接続されている前記一部に接した部分で最も厚く、前記一部からの距離が遠いほど厚みが薄いことを特徴とする請求項1または請求項2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記ニッケル層は、前記電極の前記一部に接した部分で最も厚く、かつ前記電極の外周部において中央部よりも厚いことを特徴とする請求項1または請求項2記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−142488(P2012−142488A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−616(P2011−616)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】