半導体装置
【課題】反り、クラック等の不具合の防止、実装の適正化および容易化、等を実現しうる半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置100は、半導体チップ等を搭載した絶縁基板に接合された一方主面を有するベース板120と、ベース板120の一方主面と絶縁基板と半導体チップ等を覆うように且つベース板120の他方主面は露出するように設けられたトランスファーモールド樹脂140とを含む。ベース板120の線膨張係数は銅のそれよりも低く、トランスファーモールド樹脂140の線膨張係数は16ppm/℃以下である。トランスファーモールド樹脂140は、ベース板120の相対する短辺中央部付近がそれぞれ露出するようにえぐられた形状142を有している。ベース板120は、トランスファーモールド樹脂140のえぐられた形状142によって露出している各部分に、取り付け穴122を有している。
【解決手段】半導体装置100は、半導体チップ等を搭載した絶縁基板に接合された一方主面を有するベース板120と、ベース板120の一方主面と絶縁基板と半導体チップ等を覆うように且つベース板120の他方主面は露出するように設けられたトランスファーモールド樹脂140とを含む。ベース板120の線膨張係数は銅のそれよりも低く、トランスファーモールド樹脂140の線膨張係数は16ppm/℃以下である。トランスファーモールド樹脂140は、ベース板120の相対する短辺中央部付近がそれぞれ露出するようにえぐられた形状142を有している。ベース板120は、トランスファーモールド樹脂140のえぐられた形状142によって露出している各部分に、取り付け穴122を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特にパワー半導体装置に好適な構造に関する。
【背景技術】
【0002】
<第1の従来技術>
従来からケース型と呼ばれる半導体装置が知られている。このケース型では、Cuベース板とケースで形成される箱体の中に半導体チップ(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とダイオードのペア)等が収容されている。より具体的には、この種の半導体装置は絶縁基板(両面に金属層が形成された絶縁性板状部材(窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナ等)で構成される)を有しており、当該絶縁基板の一方の面の金属層(配線パターンを成している)上に半導体チップおよび電極がはんだ付けされる。そして、絶縁基板は、他方の面の金属層によって、Cuベース板とはんだ付けされる。その後、半導体チップ等の電気的接続が、アルミニウムワイヤ等の接続配線によって行われる。そして、ベース板とケースが接着剤で接着され、Cuベース板とケースから成る箱体内に樹脂(例えば、シリコーンゲル、液状エポキシ樹脂)が注入され、これにより半導体チップ等が封止される。その後、ケース内部の上記電極に繋がる電極がケース外部に形成される。
【0003】
この構造の場合、絶縁基板をCuベース板にはんだ付けした後の冷却工程において、Cuベース板および絶縁基板が収縮する。なお、このような降温による収縮を降温時収縮と称することにする。かかる降温時収縮のため室温では、絶縁基板がCuベース板とは反対側へ向けて凸状に反り、絶縁基板の上側(すなわち半導体チップ等が搭載されている側)に引っ張り応力が働く。これは、Cuベース板の線膨張係数(線膨張率とも称される)が、絶縁基板のそれに比べて大きいからである。具体的には、Cuの線膨張係数が17ppm/℃であるのに対し、絶縁基板を構成する絶縁性板状部材の材料例である窒化アルミニウムの線膨張係数は5.7ppm/℃である。また、絶縁性板状部材の他の材料例である窒化ケイ素およびアルミナの線膨張係数はそれぞれ3.2ppm/℃および6.5ppm/℃である。この反り量は絶縁基板およびCuベース板のサイズが大きいほど大きくなり、場合によっては絶縁基板にクラックが生じてしまう。
【0004】
また、通電によって半導体チップが発熱すると、半導体チップと接続配線の線膨張係数の差に起因して、半導体チップと接続配線との接合部にクラックが生じる場合がある。そのようなクラックの発生は当該接合部の信頼性、換言すれば半導体装置の信頼性を低下させてしまう。接合部の信頼性向上のために、応力緩衝層等の複雑な構造を導入することが考えられる。しかし、構造の複雑化は、半導体チップの面積縮小によって半導体装置を小型化しようとする近年の要求に沿わないものである。
【0005】
<第2の従来技術>
半導体チップと接続配線との接合部の信頼性は、トランスファーモールド型の半導体装置によって改善可能である。この種の半導体装置では、上記ケース型で用いられる液状エポキシ樹脂等に比べて線膨張係数が低い樹脂を用い、トランスファーモールド樹脂封止法によって半導体チップ等を封止する。トランスファーモールド型によれば、半導体チップ等の部品に対して大きな接着力が得られる。
【0006】
例えば下記特許文献1に記載された半導体装置では、リードフレームの一方の面に半導体チップをはんだ付けし、該リードフレームの他方の面に絶縁基板がはんだ付けされる。その後、トランスファーモールド法によって、半導体チップ等がトランスファーモールド樹脂で封止される。
【0007】
しかし、半導体装置が大型化するほど、トランスファーモールド樹脂の硬化収縮および降温時収縮によって、絶縁基板が反りやすくなる場合がある。かかる反りによって絶縁基板にクラックが生じると、場合によっては半導体装置の絶縁が確保できなくなってしまう。
【0008】
また、トランスファーモールド型ではリードフレームのアウターリード部分が装置の端子となるが、アウターリード部分は半導体装置の側面から突出しているので、既存製品との代替が単純には行えない。
【0009】
<第3の従来技術>
ところで、パワー半導体装置を実装する筐体に高熱伝導性グリスを塗布し、その上にパワー半導体装置を載せてネジ締めする場合がある。高熱伝導性グリスの熱伝導率は、グリスの中では比較的高いが、金属に比べると桁違いに低い。このため、高熱伝導性グリスが厚いと、パワー半導体装置の十分な放熱性が得られなくなる。
【0010】
グリスの塗布厚さは、筐体と半導体装置との相対する表面の反り、うねり等を考慮して決められる。また、半導体装置を実装した後におけるグリスの厚さも、筐体と半導体装置との相対する表面の反りとうねりの和以上になる。かかる点に鑑み、半導体装置の反りを低減する構造が種々提案されている。
【0011】
さらに、筐体と半導体装置との相対する両表面の反り、うねり等が大きすぎると、半導体装置を筐体にネジ締めした際に、半導体装置が反って絶縁基板にクラックが発生する場合がある。これに対しても種々の構造が提案されている。
【0012】
例えば下記特許文献2に記載された構造では、部分モジュールのそれぞれのベースプレートが角領域に凹部を有しており、互いの凹部を突き合わせるようにして部分モジュールが隣接配置される。そして、凹部が突き合わされて成る長穴にネジを通し、当該ネジによって部分モジュールが筐体に固定される。この構造によれば、部分モジュールそれぞれの実装面積を小さくでき、反りやうねりの影響を抑えることができると考えられる。隣り合う部分モジュールでネジを共有するので、ネジの個数を減らせると考えられる。なお、このネジの共有化によれば、n個の部分モジュールを固定するために必要なネジ止め箇所は{2n+2}箇所である。
【0013】
しかし、隣接する部分モジュールを同じネジで固定するので、各部分モジュールの反り、うねり等および部分モジュールが実装される筐体の反り、うねり等によっては、同じネジ締め量であっても、各部分モジュールにかかる軸力が異なる場合がある。そのような場合、全ての部分モジュールを適正に実装できないことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−129822号公報
【特許文献2】特開2004−319992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
第1の従来技術(ケース型)によれば、上記のように、絶縁基板をCuベース板にはんだ付けした後の冷却工程において、絶縁基板が反る場合がある。この反り量は絶縁基板およびCuベース板のサイズが大きいほど大きくなり、場合によっては絶縁基板にクラックが発生しうる。
【0016】
さらに、第1の従来技術によれば、上記のように、通電時の半導体チップの発熱によって、半導体チップと接続配線との接合部にクラックが生じる場合がある。そのようなクラックの発生は当該接合部の信頼性を低下させてしまう。接合部の信頼性向上のために応力緩衝層等の複雑な構造を導入することが考えられるが、それによれば半導体装置の小型化という要求に応えることが難しくなる。
【0017】
また、第2の従来技術(トランスファーモールド型)によれば、上記のように、半導体チップと接続配線との接合部の信頼性を向上可能であるが、トランスファーモールド型でも絶縁基板が反る場合がある。すなわち上記のように、半導体装置の大型化に伴い、トランスファーモールド樹脂の硬化収縮および降温時収縮によって、絶縁基板が反る場合がある。かかる反りによって絶縁基板にクラックが生じると、場合によっては半導体装置の絶縁が確保できなくなってしまう。
【0018】
さらに、第2の従来技術によれば、上記のように、リードフレームのアウターリード部分が半導体装置の側面から突出しているので、既存製品との代替が単純には行えない。
【0019】
また、第3の従来技術(特許文献2の技術)によれば、上記のように、隣接する部分モジュールを同じネジで固定するので、各部分モジュールの反り、うねり等および部分モジュールが実装される筐体の反り、うねり等によっては、同じネジ締め量であっても、各部分モジュールにかかる軸力が異なる場合がある。そのような場合、全ての部分モジュールを適正に実装できないことになる。
【0020】
本発明は、反り、クラック等の不具合の防止、実装の適正化および容易化、等を実現しうる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様によれば、少なくとも1つの半導体チップおよび少なくとも1つの電極が搭載された一方主面を有する絶縁基板と、前記絶縁基板の他方主面に接合された一方主面を有するベース板と、前記ベース板の前記一方主面と前記絶縁基板と前記少なくとも1つの半導体チップと前記少なくとも1つの電極の接合端部とを覆うように且つ前記ベース板の他方主面は露出するように設けられたトランスファーモールド樹脂とを含み、前記ベース板の線膨張係数は銅の線膨張係数よりも低く、前記トランスファーモールド樹脂の線膨張係数は16ppm/℃以下であり、前記トランスファーモールド樹脂は、前記ベース板の相対する短辺中央部付近がそれぞれ露出するようにえぐられた形状を有し、前記ベース板は、前記トランスファーモールド樹脂の前記えぐられた形状によって露出している各部分に当該ベース板を厚さ方向に貫通する取り付け穴を有していることを特徴とする、半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0022】
上記の一態様によれば、ベース板の線膨張係数は銅の線膨張係数よりも低く、トランスファーモールド樹脂の線膨張係数は16ppm/℃以下である。このため、各種の温度要因による反りを低減でき、その結果、絶縁基板のクラック、当該クラックに起因した絶縁破壊等を防止できる。また、上記のベース板およびトランスファーモールド樹脂によれば、部材間の界面剥離を防止できる。
【0023】
また、上記反り低減によればベース板と実装面との平行性が向上するので、熱伝導性グリスの厚さの適正化あるいはベース板と実装面の密着度合いの向上が図られ、良好な熱伝導効率、換言すれば良好な放熱性を得ることができる。これにより、適正な実装を実現できる。
【0024】
また、上記反り低減によれば、2つの取り付け穴による2箇所の固定であっても、ベース板と実装面との間の平行性を得ることができ、これにより適正な実装を実現できる。また、固定具の数が少なくて済み、さらに固定具の個数削減は取り付け作業性の向上、固定具のコスト削減に繋がる。また、固定箇所が少ないことにより、ベース板のうねりが発生しにくく、この点においても適正な実装を実現できる。
【0025】
また、ベース板の2つの取り付け穴は、相対する短辺中央部付近にそれぞれ設けられている、すなわちベース板の長手方向の両端に設けられている。一般に部材の寸法が大きいほど反り量が大きい点に鑑みると、当該2つの取り付け穴は好適な位置に設けられている。このため、ベース板と実装面との間の平行性を確保して、適正な実装を実現できる。
【0026】
また、トランスファーモールド樹脂の部分的にえぐられた形状によって、ベース板の取り付け穴をトランスファーモールド樹脂から露出させている。このため、トランスファーモールド樹脂とベース板との接触面積、換言すればトランスファーモールド樹脂とベース板との間の接着力が大幅に減少するのを回避できる。
【0027】
また、ベース板の取り付け穴は複数の半導体装置で共有しないので、複数の半導体装置で固定具を共有することによって各半導体装置にかかる軸力が異なるといった事態が発生しない。この点においても適正な実装を実現できる。
【0028】
本発明の目的、特徴、局面、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施の形態1に係る半導体装置の構造を例示する上面図である。
【図2】図1中の2−2線における断面図である。
【図3】図1中の3−3線における断面図である。
【図4】ベース板の収縮を説明する断面図である。
【図5】ベース板の収縮によって絶縁基板にクラックが発生する様子を説明する模式図である。
【図6】トランスファーモールド樹脂の収縮を説明する断面図である。
【図7】トランスファーモールド樹脂の収縮によって絶縁基板にクラックが発生する様子を説明する模式図である。
【図8】実施の形態1に係る半導体装置の他の構造を例示する断面図である。
【図9】図8中の一点鎖線で囲んだ部分9の拡大図である。
【図10】実施の形態2に係る半導体装置の回路構成を例示する回路図である。
【図11】実施の形態2に係る半導体装置の構造を例示する上面図である。
【図12】実施の形態2に係る半導体装置の構造を例示する側面図である。
【図13】比較用の半導体装置の回路構成を例示する回路図である。
【図14】比較用の半導体装置の構造を例示する上面図である。
【図15】実施の形態2に係る半導体装置の他の回路構成を例示する回路図である。
【図16】実施の形態3に係る半導体装置の構造を例示する断面図である。
【図17】実施の形態3に係る半導体装置の構造を例示する断面図である。
【図18】図16中の一点鎖線で囲んだ部分18の拡大図である。
【図19】実施の形態4に係る樹脂厚さを説明する断面図である。
【図20】実施の形態4に係る樹脂厚さを説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
実施の形態では例えばモーターの駆動制御に適用されるパワー半導体装置を例示するが、以下の説明はパワー半導体装置に限定されるものではない。
【0031】
<実施の形態1>
図1に実施の形態1に係る半導体装置100の構造を例示する上面図を示し、図1中の2−2線における断面図を図2に例示し、図1中の3−3線における断面図を図3に例示する。なお、以下では、図1を上面図と称するのに合わせて半導体装置100についての上下方向を規定するものとする。この場合、図2および図3の上下方向がそのまま半導体装置100についての上下方向に対応する。また、以下では、半導体装置100の上下方向を厚さ方向と表現する場合もある。
【0032】
半導体装置100は絶縁基板102を含んでいる。絶縁基板102は、図示の例では、絶縁性板状部材104と、絶縁性板状部材104の一方主面(ここでは上主面)上に形成された金属層106と、絶縁性板状部材104の他方主面(ここでは下主面)上に形成された金属層108とを含んでいる。
【0033】
上主面側の金属層106は平面視において所定の配線パターン(図示略)に形成されており、このため以下、当該金属層106を配線パターン106と称する場合もある。下主面側の金属層108の平面視形状は任意であり、当該金属層108は例えば所定の領域内に全面的に形成されている。絶縁性板状部材104は例えばセラミック(窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナが例示される)等の絶縁材料で構成され、金属層106,108は例えば銅等の金属材料で構成されている。
【0034】
配線パターン106には、回路部品の例である半導体チップ110および電極112がはんだ114によって接合されている。すなわち、半導体チップ110および電極112が絶縁基板102の一方主面(ここでは上主面)上に搭載されている。半導体チップ110および電極112は所定の回路を構成するように所定の箇所にアルミニウムワイヤ等の接続配線116で接続されている。なお、半導体チップ110、電極112および接続配線116の数は図示の例に限定されるものではない。
【0035】
ここでは、半導体チップ110にIGBT等のパワー半導体素子が作り込まれている場合を例示する。半導体チップ110は、シリコン(Si)を基板として構成されていてもよいし、シリコンよりもバンドキャップが広いワイドギャップ半導体(炭化シリコン(SiC)、窒化ガリウム(GaN)系材料等)を基板として構成されていてもよい。
【0036】
ワイドバンドギャップ半導体は、耐電圧性が高い、許容電流密度が高い等の特性において、パワー半導体素子に好適である。また、これらの特性によれば、シリコン基板を利用した場合に比べて、半導体チップ110を小型化することが可能であり、その結果、半導体装置100を小型化することが可能である。なお、全ての半導体チップ110がワイドギャップ半導体の基板を利用していてもよいし、一部の半導体チップ110だけがワイドギャップ半導体の基板を利用していてもよい。
【0037】
下主面側の金属層108には、ベース板120がはんだ130によって接合されている。すなわち、絶縁基板102の他方主面(ここでは下主面)とベース板120の一方主面(ここでは上主面)が接合されている。ここではベース板120の一方主面および他方主面(ここでは下主面)のいずれも平坦面(すなわち段差のない平面)とする。なお、ベース板120と絶縁基板102と半導体チップ110との積層方向が、半導体装置100の上下方向(換言すれば厚さ方向)にあたる。
【0038】
ベース板120は平面視において絶縁基板102を収容可能な寸法、形状を有しており、当該平面視において絶縁基板102はベース板120からはみ出さないように配置されている。ここではベース板120の平面視形状、すなわち主面の形状が長方形の場合を例示する。なお、以下では、ベース板120において主面の短辺に繋がっている側面(換言すれば、ベース板120の短手方向に延在する側面)を短側面と称し、主面の長辺に繋がっている側面(換言すれば、ベース板120の長手方向に延在する側面)を長側面と称する場合もある。
【0039】
ベース板120は放熱板として機能するため、熱伝導性の高い材料で構成されている。例えば銅(Cu)、AlSiC、CuMo等を採用可能であるが、後述のようにCuよりも線膨張係数が小さい材料、例えばAlSiC、CuMo等が好適である。
【0040】
ベース板120は、図1および図3に例示するように、ベース板120を厚さ方向に貫通した取り付け穴122を2つ有している。換言すれば、各取り付け穴122は、ベース板120の両主面間に渡って当該主面に直交する方向に形成されている。取り付け穴122は、ボルトで半導体装置100を実装場所(例えば所定の筐体、ヒートシンク等)に固定する際に、ボルトを通すために利用される。取り付け穴122はネジ溝を有していてもよいし、有していなくてもよい。なお、ボルトを固定具の一例として挙げるが、ネジ等の他の固定具を利用することも可能である。
【0041】
2つの取り付け穴122は、ベース板120のうちで主面の相対する短辺の中央部付近(換言すれば相対する短側面の中央部付近)にそれぞれ設けられている。この場合、2つの取り付け穴122は、ベース板120の中心点を挟んでベース板120の長手方向に並んでいる。
【0042】
絶縁基板102上の半導体チップ110等は、トランスファーモールド樹脂140で封止されている。より具体的には、トランスファーモールド樹脂140は、絶縁基板102と、半導体チップ110と、電極112の接合端部(絶縁基板102に接合されている側の端部)と、接続配線116とを覆っている。また、トランスファーモールド樹脂140は、ベース板120の上主面を覆っているが(但し取り付け穴122は露出している)、ベース板140の下主面を覆っていない(すなわち当該下主面は樹脂140から露出している)。なお、図示の例ではトランスファーモールド樹脂140はベース板120の上主面から側面(短側面および長側面)に及んでいるが、樹脂140がベース板の側面上に形成されていない形状を採用することも可能である。
【0043】
ここで、電極112は絶縁基板102に直交する方向に伸びており、電極112の下部(すなわち接合端部)はトランスファーモールド樹脂140内に埋設され、電極112の上部はトランスファーモールド樹脂140の上面(絶縁基板102の上主面の上方に位置する面)から突出している。このため、第2の従来技術のようにアウターリードがトランスファーモールド樹脂の側面から突出した構造とは異なり、半導体装置100はケース型の既存製品との代替が容易である。
【0044】
トランスファーモールド樹脂140は上面視(換言すれば平面視。図1参照)においてベース板120を取り囲む略長方形をしているが、トランスファーモールド樹脂140は図1および図3に示すようにベース板120の取り付け穴122を塞がないように形成されている。より具体的には、トランスファーモールド樹脂140は、取り付け穴122の内部および上方と、ベース板120の上主面および短側面のうちで取り付け穴122付近の領域とを避けて形成されている。
【0045】
このため、図1に例示するように、トランスファーモールド樹脂140は、取り付け穴122の付近において、取り付け穴122が露出するように、えぐられた形状を有している。当該えぐられた形状142はトランスファーモールド樹脂140の上面まで及んでいる。えぐられた形状142は、例えばトランスファーモールド樹脂140の成型金型の形状設計によって、形成可能である。
【0046】
半導体装置100は、ベース板120の下主面(換言すれば露出主面)を実装場所(例えば所定の筐体、ヒートシンク等)に向けて配置され、取り付け穴122に通したボルトによって実装場所に固定される。この際、ベース板120の露出主面と実装場所の表面(すなわち実装面)の一方または両方に熱伝導性グリスが塗布される。なお、半導体装置100の発熱量が小さい場合は熱伝導性グリスの塗布を省略することも可能である。
【0047】
ここで、ベース板120の材料について説明する。
【0048】
図4に半導体装置100の製造途中の構造の断面図を例示する。具体的には、半導体チップ110、ベース板120等が絶縁基板102にはんだ付けされた後の製造途中品(換言すれば中間体)96が図4に例示されている。なお、図4は図3に対応する。
【0049】
はんだ付け工程の後に冷却工程が行われるが、当該冷却工程において製造途中品96のベース板120が収縮する。なお、このような降温による収縮を降温時収縮と称することにする。図4中の矢印150はベース板120の降温時収縮を模式的に表している。
【0050】
ベース板120と絶縁基板102(より具体的には絶縁性板状部材104)とは線膨張係数が異なるので、ベース板120と絶縁基板102との接合体は温度(換言すれば熱)に対して、いわゆるバイメタル構造に似た挙動を示す。具体的には、ベース板120の方が絶縁性板状部材104よりも線膨張係数が高い場合、ベース板120の降温時収縮によって、図5の模式図に示すように当該ベース板120は絶縁基板102の側へ向けて凸状に反る。この反りによって、絶縁性板状部材104に引っ張り応力152が発生する。その結果、絶縁性板状部材104にクラック154が発生する場合がある。図5には、絶縁性板状部材104の上主面において、配線パターン106の最外周縁部付近で、クラック154が発生する場合を例示している。
【0051】
この点に鑑みると、ベース板120は線膨張係数が、より低い材料で構成されることが好ましい。例えば、Cuの線膨張係数は約17ppm/℃であり、AlSiCの線膨張係数は約7.5ppm/℃であり、CuMoの線膨張係数は約7.5ppm/℃であるので、この例の中ではCuよりもAlSiCおよびCuMoの方がベース板120の上記反りを低減することができる。これを一般化すると、従来からベース板に多用されてきたCuよりも線膨張係数が小さい材料でベース板120を構成することによって、絶縁基板102のクラック、さらには当該クラックに起因した絶縁破壊等を防止することができる。特にベース板の大型化に伴ってその反りが大きくなるので、線膨張係数の小さいベース板120は大型化にも好適である。
【0052】
ベース板120および絶縁基板102の反りは上記の製造工程における降温時収縮だけに拠らない。製造後の半導体装置100においても、例えば通電による発熱および線膨張係数の違いによって、ベース板120および絶縁基板102が反る場合がある。しかし、線膨張係数の低いベース板120によれば、製造後においても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0053】
次に、トランスファーモールド樹脂140の材料について説明する。
【0054】
下記の表1は、絶縁基板102(より具体的には絶縁性板状部材104)とトランスファーモールド樹脂140との界面における剥離、および、ベース板120とトランスファーモールド樹脂140との界面における剥離について、応力解析の結果をまとめたものである。表1では、ベース板120の材料としてAlSiCおよびCuを例示し、トランスファーモールド樹脂140の線膨張係数として10ppm/℃、13ppm/℃および16ppm/℃を例示している。
【0055】
【表1】
【0056】
表1においてパーセントで記載された指標値は、界面剥離方向に働く応力の大きさを表している。より具体的には、界面剥離方向に働く応力の値(半導体装置100の構造モデルを用いた解析から求めた)を、剥離が発生する限界応力(以下、剥離発生限界応力と称する場合もある)の値を100%として相対的に表した値が、表1中の指標値である。例えば当該指標値が100%の場合、剥離発生限界応力に相当する応力が界面に働き、剥離発生の可能性があることを示している。また、例えば100%よりも大きい指標値は、剥離発生限界応力を超える応力によって剥離が発生することを示している。つまり、当該指標値が小さいほど、界面剥離の可能性が小さくなり、より好ましい。
【0057】
表1によれば、上記2種類の界面のいずれにおいても、AlSiC製のベース板120についての上記指標値の方が、Cu製のベース板120についての上記指標値に比べて小さいことが分かる。つまり、AlSiC製のベース板120の方が、上記2種類の界面のいずれにおいても剥離を起こしにくい。表1の観点からも、ベース板120はCuよりもAlSiCで構成されることが好ましいと言える。なお、CuMoもAlSiCと同様の傾向が得られた。
【0058】
また、表1によれば、トランスファーモールド樹脂140の線膨張係数が小さいほど、上記指標値が小さく、上記2種類の界面のいずれにおいても剥離を起こしにくいことが分かる。さらに市場での冷熱疲労を模擬した試験(いわゆるヒートサイクル試験)の結果、特にトランスファーモールド樹脂140の線膨張係数が16ppm/℃以下の場合、上記2種類の界面のいずれにおいても応力を低減でき、界面剥離がほとんど発生しないことが確認された。
【0059】
特に半導体チップ110がワイドギャップ半導体を基板として構成されている場合、半導体装置100の構造は好適である。なぜならば、ワイドギャップ半導体製の半導体チップ110はシリコン製の半導体チップ110に比べて高温動作が可能だからである。より具体的には、そのような高温動作ではヒートサイクルの温度差が大きくなり、ベース板120とトランスファーモールド樹脂140との界面、絶縁基板102とトランスファーファーモールド樹脂140との界面等における応力が増大しやすいからである。
【0060】
ここで、図6にトランスファーモールド後の製造途中品98の構造の断面図を例示する。なお、図6は図4および図3に対応する。トランスファーモールド樹脂140は、硬化に伴って収縮するとともに、金型温度(例えば170〜180℃)から室温への冷却(降温)に伴って収縮する。図6中の矢印160は、トランスファーモールド樹脂140の当該収縮を模式的に表している。トランスファーモールド樹脂140の収縮は、図7の模式図に示すように、絶縁基板102をベース板120の側へ向けて凸状に反らせる原因となりうる。この反りによって絶縁性板状部材104に引っ張り応力162が発生し、その結果、絶縁性板状部材104のベース板側主面にクラック164が発生する場合がある。
【0061】
しかし、線膨張係数が16ppm/℃以下のトランスファーモールド樹脂140によれば、上記収縮160を抑えて絶縁性板状部材104の反りを低減することができる。その結果、絶縁基板102のクラック、さらには当該クラックに起因した絶縁破壊等を防止することができる。特にトランスファーモールド樹脂による封止を採用した半導体装置では装置が大型化するほど上記の硬化収縮および降温時収縮が大きくなる点に鑑みると、線膨張係数が16ppm/℃以下のトランスファーモールド樹脂140は大型化にも好適である。
【0062】
ベース板120および絶縁基板102の反りは上記の製造工程におけるトランスファーモールド樹脂140の硬化収縮および降温時収縮だけに拠らない。製造後の半導体装置100においても、例えば通電による発熱および線膨張係数の違いによって、ベース板120および絶縁基板102が反る場合がある。しかし、線膨張係数が16ppm/℃以下のトランスファーモールド樹脂140によれば、製造後においても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0063】
さて、線膨張係数が16ppm/℃以下のトランスファーモールド樹脂140によって絶縁基板102の反りが低減されると、絶縁基板102と接合しているベース板120の反りも低減される。また、上記のようにベース板120自体の線膨張係数を小さくすることによって、ベース板120の反りを低減することができる。ベース板120の反りが低減することによって、ベース板120の下主面(すなわち露出主面)と実装面との平行性が向上する。このため、ベース板120の露出主面と実装面との間に設けられる熱伝導性グリスの厚さの面内ムラを低減することができる。したがって、均一で適正な厚さの熱伝導性グリスによって、良好な熱伝導効率を得ることができ、その結果、良好な放熱性を得ることができる。つまり、適正な実装を実現することができる。
【0064】
なお、熱伝導性グリスを利用しない場合であっても、ベース板120の露出主面と実装面との間の平行性の向上は、当該2つの面の密着度合いの向上をもたらす。このため、良好な放熱性を得ることができ、適正な実装を実現することができる。
【0065】
一般に、ベース板の反りが大きい場合、ベース板の露出主面と実装面との間の平行性を得るために、多くのボルト等で固定することが行われる。これに対し、半導体装置100によれば、ベース板120の反りが抑制されるので、2つの取り付け穴122による2箇所の固定であっても、ベース板120の露出主面と実装面との間の平行性を確保することができる。つまり、適正な実装を実現することができる。したがって、ボルトの数が少なくて済み、さらにボルトの個数削減は取り付け作業性の向上、ボルトのコスト削減に繋がる。
【0066】
また、一般に、固定箇所が多いほど、通電時の発熱によってベース板が膨張した場合に、ベース板にうねりが生じやすくなり、その結果、ベース板の露出主面と実装面との間の平行性が低下する。これに対し、半導体装置100のベース板120は線膨張係数が低いことに加えて2箇所で固定されるので、ベース板120のうねりが発生しにくい。このため、使用時においても適正な実装状態を保持することができる。
【0067】
また、ベース板120の2つの取り付け穴122は、相対する短辺中央部付近にそれぞれ設けられている、すなわちベース板120の長手方向の両端に設けられている。一般に部材の寸法が大きいほど反り量が大きい点に鑑みると、当該2つの取り付け穴122は、製造時に残留した反りおよび通電時の発熱で生じる反りに対抗するのに好適な位置に設けられている。このため、ベース板120の露出主面と実装面との間の平行性を確保して、適正な実装状態を実現することができる。
【0068】
また、トランスファーモールド樹脂140は、取り付け穴122が露出するように設けられている。このため、ベース板120が取り付け穴122を有さない場合に比べてトランスファーモールド樹脂140とベース板120との接触面積(換言すれば接着面積)が減少することになる。しかし、トランスファーモールド樹脂140によれば、部分的にえぐられた形状142によって取り付け穴122を露出させているので、上記の接触面積の減少が抑えられている。したがって、トランスファーモールド樹脂140とベース板120と間の接着力の大幅低下を回避することができる。
【0069】
また、ベース板120の取り付け穴122は複数の半導体装置100で共有しないので、取り付けのボルトを複数の半導体装置100を共有することがない。このため、隣接する部分モジュールを同じネジで固定する第3の従来技術(特許文献2の技術)のように各部分モジュールにかかる軸力が異なるといった事態が発生しない。この点においても適正な実装を実現することができる。
【0070】
ところで、トランスファーモールド樹脂140の硬化収縮および降温時収縮によって絶縁基板102が下側に凸状に反ると、配線パターン106の最外周縁部の直下付近にクラック164が発生しやすい(図7参照)。これは、絶縁基板102の反りによって、絶縁性板状部材104と配線パターン108とによる引っ張り応力が、配線パターン106の最外周縁部の直下付近で最大になるからである。
【0071】
そのようなクラック164を防止しうる構造を図8に例示する。なお、図8は図3に対応する。また、図8中の一点鎖線で囲んだ部分9の拡大図を図9に示す。図8および図9に例示の半導体装置100Bは、上記半導体装置100(図3等参照)において絶縁基板102を絶縁基板102Bに変更した構造を有している。半導体装置100Bのその他の構造は基本的に上記半導体装置100と同様である。
【0072】
図8および図9に例示するように、絶縁基板102Bは、下主面側の金属層108が、上主面側の配線パターン106よりも外側へ(換言すれば、絶縁性板状部材104の縁の側へ)広がっている。このため、配線パターン106の最外周縁部の直下付近が、金属層108で覆われている。このため、下主面側(すなわちベース板120側)における引っ張り応力を緩和することができ、クラック164を防止することができる。
【0073】
また、下主面側の金属層108の形成範囲の拡大によって、使用条件に含まれることが多い低温環境(例えば−40℃)においても、クラックの発生を防止して、高い信頼性を得ることができる。
【0074】
<実施の形態2>
図10に実施の形態2に係る半導体装置200の回路構成図を例示し、図11および図12に半導体装置200の上面図および側面図を例示する。図10に例示するように、半導体装置200は3つの回路ユニット202を有しており、これらの回路ユニット202のそれぞれが実施の形態1に係る半導体装置100で構成されている。なお、各回路ユニット202を、実施の形態1で例示した他の半導体装置100B(図8および図9参照)で構成することも可能である。以下では半導体装置100,100Bを半導体ユニット100,100Bとそれぞれ称する場合もある。
【0075】
まず図10を参照して、半導体装置200の回路例を説明する。上記のように半導体装置200は3つの回路ユニット202を有している。ここでは3つの回路ユニット202が同じ回路構成である場合を例示するが、この例に限定されるものではない。また、半導体装置200に含まれる回路ユニット202の数は2つまたは4つ以上であってもよい。
【0076】
各回路ユニット202はIGBT170,172とダイオード174,176を有している。IGBT170,172は高電位側端子P(P側端子とも称される)と低電位側端子N(N側端子とも称される)との間に直列接続されており、ダイオード174はIGBT170に逆並列に接続されており、ダイオード176はIGBT172に逆並列に接続されている。なお、ダイオード174,176は、いわゆるフリーホイールダイオードである。
【0077】
より具体的には、IGBT170のコレクタは高電位側端子Pに接続され、IGBT170のエミッタはIGBT172のコレクタに接続され、IGBT172のエミッタは低電位側端子Nに接続されている。さらに、ダイオード174のカソードはIGBT170のコレクタに接続され、ダイオード174のアノードはIGBT170のエミッタに接続されている。同様に、ダイオード176のカソードおよびアノードはIGBT172のコレクタおよびエミッタにそれぞれ接続されている。高電位側IGBT170のエミッタ、換言すれば低電位側IGBT172のコレクタに出力端子が接続されている。なお、当該出力端子に対応して、上記端子P,Nを入力端子と称することにする。
【0078】
図10の例では、合計6個のIGBT170,172のゲートタイミングを独立に制御可能に構成されている。より具体的には、6個のIGBT170,172間でゲート(換言すれば制御端子)どうしは接続されていない。このため、例えば3つの回路ユニット202の出力の位相が互いにずれるようにIGBT170,172のゲートタイミングを制御することによって、半導体装置200は3相の出力(例えば3相交流)を出力可能である。図10の例では、一の回路ユニット202がU相出力に割り当てられ、他の一の回路ユニット202がV相出力に割り当てられ、残余の一の回路ユニット202がW相出力に割り当てられている。
【0079】
なお、半導体装置200は不図示の要素、例えばゲート駆動回路、保護回路等を内蔵してもよい。
【0080】
上記のように半導体装置200では3つの回路ユニット202のそれぞれが、実施の形態1に係る半導体装置100(すなわち半導体ユニット100)で構成されている。すなわち、半導体装置200は3つの半導体ユニット100を有している。
【0081】
図11および図12の例では、3つの半導体ユニット100は、トランスファーモールド樹脂140の長側面どうしが相対するように、一方向(図11および図12では横方向)に整列している。また、図11に例示されるように、3つの半導体ユニット100は、トランスファーモールド樹脂140の短側面が同一平面上に載るように、整列している。また、図12に例示されるように、3つの半導体ユニット100は、ベース板120の露出主面が同一平面S上に載るように、整列している。隣接する半導体ユニット100は例えば相対する長側面において接着剤で固定されている。
【0082】
上記のように整列した3つの半導体ユニット100は、外部ケース212内に収容されており、外部ケース212と一体化している。3つの半導体ユニット100は例えば接着剤で外部ケース212に固定されている。但し、図12に示すように、外部ケース212は各半導体ユニット100のベース板120の露出主面を覆っておらず、しかも外部ケース212は各半導体ユニット100のベース板120の露出主面が実装面(図12の平面Sを参照)に接触するのを妨げない形状をしている。
【0083】
なお、図11および図12では外部ケース212を簡略に図示しており、外部ケース212の形状は図11および図12の例に限定されるものではない。また、図12には外部ケース212内においてトランスファーモールド樹脂140上に隙間が在る場合を例示しているが、トランスファーモールド樹脂140の上面がケース212の内面に接触していても構わない。
【0084】
図11に例示するように、外部ケース212は上面に電極214および取り付け穴216を有している。なお、図12では電極214等の図示を省略している。
【0085】
電極214は、半導体ユニット100の電極112(図1等参照)に対応して設けられており、ケース内部で電極112に接続された部材によって、あるいは、電極112のうちでケース外部に突出した部分によって構成されている。なお、ケース212の上面に不図示の他の電極、例えば上記端子P,N(図10参照)が設けられていてもよい。
【0086】
外部ケース212の取り付け穴216は、半導体ユニット100の取り付け穴122(図1等参照)に対応して設けられている。すなわち、各半導体ユニット100に対して2つの取り付け穴216が設けられている。対応する取り付け穴216,122は同心状に位置している。このため、同心状に並んだ2つの取り付け穴216,122に渡ってボルトを挿入することにより、当該ボルトで半導体装置200を実装場所に固定することができる。
【0087】
ここで、図13および図14に、上記半導体装置200と比較するための半導体装置200Zについて、回路構成図および上面図を例示する。半導体装置200Zの全体の回路構成は上記半導体装置200のそれと同じであるが、比較用半導体装置200Zでは3つの回路ユニット202が単一の半導体ユニット100Z内に作り込まれている。より具体的には、半導体ユニット100Zでは、単一のベース板120Z上に単一の絶縁基板(図示略。絶縁基板102に相当)が接合されており、当該単一の絶縁基板上に回路部品が搭載されており、回路部品および単一の絶縁基板がトランスファーモールド樹脂140Zで封止されている。なお、比較のため、半導体装置200Z,200で外部ケース212は同じものとする。
【0088】
図14と図11の比較から分かるように、比較用半導体装置200Zの単一のベース板120Zは、上記半導体装置200の3つのベース板120の存在領域の全体に渡る寸法および形状を有している。また、単一のベース板120Zは、ケース212の6つの取り付け穴216に対応して、6つの取り付け穴(図示略。ベース板120の取り付け穴122に相当)を有しているものとする。
【0089】
この場合、比較用半導体装置200Zの単一のベース板120Zの露出主面(すなわち実装面に相対する下主面)の面積は、上記半導体装置200の3つのベース板120の露出主面の合計面積に略等しい。換言すれば、上記半導体装置200の各ベース板120の露出主面の面積は、比較用半導体装置200Zの単一のベース板120Zの露出主面の面積の略1/3である。このため、小さいベース板120によれば、比較用の単一のベース板120Zに比べて、反り量を小さくすることができる。
【0090】
また、上記のように各ベース板120は2つの取り付け穴122を利用して2箇所で固定されるのに対して、比較用の単一のベース板120Zは6箇所で固定される。このため、半導体ユニット100ごとに設けられたベース板120の方が、固定による露出主面のうねりを小さくすることができる。
【0091】
これらの結果、3つに分割された半導体ユニット100を有する半導体装置200によれば、ベース板120の露出主面と実装面との高い平行性を得ることができる。このため、ベース板120と実装面との間に設けられる熱伝導性グリスの厚さムラを低減することができる。したがって、均一で適正な厚さの熱伝導性グリスによって、良好な熱伝導効率、換言すれば良好な放熱性を得ることができる。つまり、適正な実装を実現することができる。熱伝導性グリスを利用しない場合であっても、ベース板120の露出主面と実装面と高い密着度合いによって、良好な放熱性が得られ、適正な実装を実現することができる。
【0092】
なお、半導体ユニット100について実施の形態1で説明した他の各種効果は、半導体装置200においても得られる。
【0093】
図15に実施の形態2に係る他の半導体装置200Bの回路構成図を例示する。この半導体装置200Bは基本的に上記半導体装置200と同様の回路構成および装置構造を有しているが、各回路ユニット202の出力が同位相になるようにIGBT170,172のゲートタイミングが制御される。かかる同相出力に鑑み、上記半導体装置200の出力端子U,V,Wのいずれも、本半導体装置200Bでは出力端子Aと称することにする。
【0094】
より具体的に図15の例では、各回路ユニット202のIGBT170のゲートが共通に接続されている。このため合計3つのIGBT170に同じゲート信号が入力され、これにより合計3つのIGBT170は同じゲートタイミングで制御される。同様に、各回路ユニット202のIGBT172のゲートが共通に接続されており、これにより合計3つのIGBT172は同じゲートタイミングで制御される。
【0095】
なお、IGBT170の相互接続は、外部ケース212の外部で実現されていてもよいし、あるいは、外部ケース212の内部で実現されていてもよい。IGBT172の相互接続についても同様である。
【0096】
半導体装置200Bによれば、3つの回路ユニット202が入力端子P,N間に並列接続されており、これらのユニット202は同相で出力動作を行う。したがって、回路ユニット202を1つだけ利用する構成に比べて大容量の装置を提供することができる。
【0097】
また、半導体装置200Bは上記半導体装置200と同様の構造(図11および図12参照)を有するので、上記半導体装置200と同様の効果を得ることができる。
【0098】
なお、並列接続する回路ユニット202、換言すれば半導体ユニット100の個数は3つに限定されるものではない。また、半導体ユニット100Bを採用することも可能である。
【0099】
<実施の形態3>
図16および図17に実施の形態3に係る半導体装置100Cの構造を例示する断面図を示す。図16は図2に対応し、図17は図3に対応する。また、図16中の一点鎖線で囲んだ部分18の拡大図を図18に示す。図16〜図18に例示の半導体装置100Cは、実施の形態1で例示した半導体装置100(図2、図3等参照)においてベース板120をベース板120Cに変更した構造を有している。半導体装置100Cのその他の構造は基本的に上記半導体装置100と同様である。
【0100】
ベース板120Cは上記ベース板120と同様の材料で構成されているが、ベース板120Cの上主面(すなわち絶縁基板102の側の主面)が段差を有している点で上記ベース板120と異なる。なお、ベース板120Cの下主面(すなわち露出主面)は上記ベース板120と同様に、段差のない平坦面である。
【0101】
具体的には、ベース板120Cの上主面は絶縁基板102との接合範囲にあたる接合領域124と、接合領域124の周辺の領域126とを含んでおり、周辺領域126が接合領域124よりも当該ベース板120Cの下主面の側に位置している。換言すれば、周辺領域126が接合領域124よりも後退している。このため、ベース板120Cでは接合領域124下の部分に比べて周辺領域126下の部分が薄い。なお、図16〜図18の例では両領域124,126の境界部分が傾斜面になっているが、当該境界部分は例えば垂直面であっても構わない。
【0102】
ここで、半導体装置100C,100のいずれにおいても、絶縁基板102の下主面側の金属層108は絶縁性板状部材104の縁まで到達していない。このため、絶縁性板状部材104のうちで周辺部分はベース板120,120Cと接合しておらず、絶縁性板状部材104の当該周辺部分とベース板120,120Cとの間に隙間が存在している。当該隙間はベース板120Cの採用によって広げることができ、そのようにして広く開いた隙間によれば当該隙間内にトランスファーモールド樹脂140が廻り込みやすくなる。すなわち、絶縁基板102下にトランスファーモールド樹脂140をより確実に充填することができる。樹脂140の未充填箇所は応力集中の原因となりうるので、確実な樹脂充填によって、そのような応力集中を防ぐことができる。その結果、応力集中によるクラックを防ぐことができる。
【0103】
また、上記隙間の拡大によって、絶縁基板102下に充填されるトランスファーモールド樹脂140の量が増加する。これにより、トランスファーモールド樹脂140が硬化および冷却(降温)によって収縮する際に、絶縁基板102の周辺部分を下側、すなわちベース板120Cの側へ引っ張る力が増加する。かかる力の増加によれば、絶縁基板102上のトランスファーモールド樹脂140が収縮するのに伴って絶縁基板102がベース板120Cの側へ凸状に反るのを低減することができる。その結果、絶縁基板102のクラックを防ぐことができる。
【0104】
なお、半導体装置100について実施の形態1で説明した他の各種効果は、半導体装置100Cにおいても得られる。また、ベース板120Cは半導体装置100B(図8および図9参照)に適用することも可能である。また、ベース板120Cを採用した半導体装置100C等を半導体ユニットとして半導体装置200,200Bを構成することも可能である。
【0105】
<実施の形態4>
実施の形態4ではトランスファーモールド樹脂140の厚さ、特に絶縁基板102上の厚さについて説明する。ここでは実施の形態3に係る半導体装置100Cを例に挙げるが、他の半導体装置100等についても以下の説明は当てはまる。
【0106】
図19の断面図に示すように、トランスファーモールド樹脂140のうちで絶縁基板102上の部分の厚さをtとする。なお、図19の例では、絶縁基板102上の樹脂厚さtを、絶縁性板状部材104の上主面とトランスファーモールド樹脂140の上面との間の寸法として図示している。但し、絶縁性板状部材104に比べて配線パターン106は十分に薄いので、配線パターン106の上面とトランスファーモールド樹脂140の上面との間の寸法を当該樹脂厚さtとして把握しても構わない。
【0107】
絶縁基板102上の樹脂厚さtが厚いと、市場での冷熱疲労によって、ベース板120Cとトランスファーモールド樹脂140との間の界面剥離、絶縁基板102とトランスファーモールド樹脂140との間の界面剥離、あるいは、絶縁基板102のクラックが生じる可能性がある。
【0108】
そのような界面剥離およびクラックを防止するためには、絶縁基板102上の樹脂厚さtが5mm以下であることが好ましい。これによれば、トランスファーモールド樹脂140とベース板120C等との線膨張係数の差によって生じる反り、応力等を抑制可能である。その結果、上記のような界面剥離およびクラックを防止することができる。
【0109】
図20に、絶縁基板102上の樹脂厚さtと、絶縁基板102とトランスファーモールド樹脂140の界面の応力との関係を示すグラフを示す。絶縁基板102とトランスファーモールド樹脂140の界面の応力は、半導体装置120Cの構造モデルを用いた解析によって求めた。その解析値を上記剥離発生限界応力(剥離が発生する限界応力)で正規化した値、すなわち{解析による応力値}/{剥離発生限界応力}という算出式で求められる値を「応力比」として、グラフの縦軸に示している。
【0110】
なお、応力比の上記算出式に鑑みると、図20のグラフにおける応力比と上記表1における指標値とは同義であり、例えば図20の応力比=1は表1の指標値=100%に対応する。このため、図20の応力比が小さいほど、界面剥離の可能性が小さくなり、より好ましい。
【0111】
図20によれば、絶縁基板102上の樹脂厚さtが5mm以下の場合に、応力比が1以下になることが分かる。つまり、絶縁基板102上の樹脂厚さtが5mm以下であることによって、界面剥離を防止することが可能である。
【0112】
他方、絶縁基板102上の樹脂厚さtが薄いと、市場での冷熱疲労によって、トランスファーモールド樹脂140にクラックが生じる可能性がある。
【0113】
そのようなクラックを防止するためには、絶縁基板102上の樹脂厚さtが3mm以上であることが好ましい。これによれば、トランスファーモールド樹脂140とベース板120C等との線膨張係数の差によって生じる応力等を抑制可能である。その結果、トランスファーモールド樹脂140のクラックを防止することができる。
【0114】
また、絶縁基板102上の樹脂厚さtが3mm以上であれば、半導体チップ110の厚さ、配線116の高さ等に鑑みた必要な厚さを確保可能である。このため、クラック以外の原因による信頼性低下を防止することができる。また、例えば半導体装置100Cの配設スペース等に応じて、3mm≦t≦5mmの範囲内で半導体装置100Cの薄型化を図ることができる。
【0115】
本発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、本発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、本発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0116】
100,100B,100C 半導体装置(半導体ユニット)、102,102B 絶縁基板、110 半導体チップ、112 電極、120,120C ベース板、122 取り付け穴、124 接合領域、126 周辺領域、140 トランスファーモールド樹脂、142 えぐられた形状、200,200B 半導体装置、202 回路ユニット、212 外部ケース、t 樹脂厚さ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特にパワー半導体装置に好適な構造に関する。
【背景技術】
【0002】
<第1の従来技術>
従来からケース型と呼ばれる半導体装置が知られている。このケース型では、Cuベース板とケースで形成される箱体の中に半導体チップ(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とダイオードのペア)等が収容されている。より具体的には、この種の半導体装置は絶縁基板(両面に金属層が形成された絶縁性板状部材(窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナ等)で構成される)を有しており、当該絶縁基板の一方の面の金属層(配線パターンを成している)上に半導体チップおよび電極がはんだ付けされる。そして、絶縁基板は、他方の面の金属層によって、Cuベース板とはんだ付けされる。その後、半導体チップ等の電気的接続が、アルミニウムワイヤ等の接続配線によって行われる。そして、ベース板とケースが接着剤で接着され、Cuベース板とケースから成る箱体内に樹脂(例えば、シリコーンゲル、液状エポキシ樹脂)が注入され、これにより半導体チップ等が封止される。その後、ケース内部の上記電極に繋がる電極がケース外部に形成される。
【0003】
この構造の場合、絶縁基板をCuベース板にはんだ付けした後の冷却工程において、Cuベース板および絶縁基板が収縮する。なお、このような降温による収縮を降温時収縮と称することにする。かかる降温時収縮のため室温では、絶縁基板がCuベース板とは反対側へ向けて凸状に反り、絶縁基板の上側(すなわち半導体チップ等が搭載されている側)に引っ張り応力が働く。これは、Cuベース板の線膨張係数(線膨張率とも称される)が、絶縁基板のそれに比べて大きいからである。具体的には、Cuの線膨張係数が17ppm/℃であるのに対し、絶縁基板を構成する絶縁性板状部材の材料例である窒化アルミニウムの線膨張係数は5.7ppm/℃である。また、絶縁性板状部材の他の材料例である窒化ケイ素およびアルミナの線膨張係数はそれぞれ3.2ppm/℃および6.5ppm/℃である。この反り量は絶縁基板およびCuベース板のサイズが大きいほど大きくなり、場合によっては絶縁基板にクラックが生じてしまう。
【0004】
また、通電によって半導体チップが発熱すると、半導体チップと接続配線の線膨張係数の差に起因して、半導体チップと接続配線との接合部にクラックが生じる場合がある。そのようなクラックの発生は当該接合部の信頼性、換言すれば半導体装置の信頼性を低下させてしまう。接合部の信頼性向上のために、応力緩衝層等の複雑な構造を導入することが考えられる。しかし、構造の複雑化は、半導体チップの面積縮小によって半導体装置を小型化しようとする近年の要求に沿わないものである。
【0005】
<第2の従来技術>
半導体チップと接続配線との接合部の信頼性は、トランスファーモールド型の半導体装置によって改善可能である。この種の半導体装置では、上記ケース型で用いられる液状エポキシ樹脂等に比べて線膨張係数が低い樹脂を用い、トランスファーモールド樹脂封止法によって半導体チップ等を封止する。トランスファーモールド型によれば、半導体チップ等の部品に対して大きな接着力が得られる。
【0006】
例えば下記特許文献1に記載された半導体装置では、リードフレームの一方の面に半導体チップをはんだ付けし、該リードフレームの他方の面に絶縁基板がはんだ付けされる。その後、トランスファーモールド法によって、半導体チップ等がトランスファーモールド樹脂で封止される。
【0007】
しかし、半導体装置が大型化するほど、トランスファーモールド樹脂の硬化収縮および降温時収縮によって、絶縁基板が反りやすくなる場合がある。かかる反りによって絶縁基板にクラックが生じると、場合によっては半導体装置の絶縁が確保できなくなってしまう。
【0008】
また、トランスファーモールド型ではリードフレームのアウターリード部分が装置の端子となるが、アウターリード部分は半導体装置の側面から突出しているので、既存製品との代替が単純には行えない。
【0009】
<第3の従来技術>
ところで、パワー半導体装置を実装する筐体に高熱伝導性グリスを塗布し、その上にパワー半導体装置を載せてネジ締めする場合がある。高熱伝導性グリスの熱伝導率は、グリスの中では比較的高いが、金属に比べると桁違いに低い。このため、高熱伝導性グリスが厚いと、パワー半導体装置の十分な放熱性が得られなくなる。
【0010】
グリスの塗布厚さは、筐体と半導体装置との相対する表面の反り、うねり等を考慮して決められる。また、半導体装置を実装した後におけるグリスの厚さも、筐体と半導体装置との相対する表面の反りとうねりの和以上になる。かかる点に鑑み、半導体装置の反りを低減する構造が種々提案されている。
【0011】
さらに、筐体と半導体装置との相対する両表面の反り、うねり等が大きすぎると、半導体装置を筐体にネジ締めした際に、半導体装置が反って絶縁基板にクラックが発生する場合がある。これに対しても種々の構造が提案されている。
【0012】
例えば下記特許文献2に記載された構造では、部分モジュールのそれぞれのベースプレートが角領域に凹部を有しており、互いの凹部を突き合わせるようにして部分モジュールが隣接配置される。そして、凹部が突き合わされて成る長穴にネジを通し、当該ネジによって部分モジュールが筐体に固定される。この構造によれば、部分モジュールそれぞれの実装面積を小さくでき、反りやうねりの影響を抑えることができると考えられる。隣り合う部分モジュールでネジを共有するので、ネジの個数を減らせると考えられる。なお、このネジの共有化によれば、n個の部分モジュールを固定するために必要なネジ止め箇所は{2n+2}箇所である。
【0013】
しかし、隣接する部分モジュールを同じネジで固定するので、各部分モジュールの反り、うねり等および部分モジュールが実装される筐体の反り、うねり等によっては、同じネジ締め量であっても、各部分モジュールにかかる軸力が異なる場合がある。そのような場合、全ての部分モジュールを適正に実装できないことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−129822号公報
【特許文献2】特開2004−319992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
第1の従来技術(ケース型)によれば、上記のように、絶縁基板をCuベース板にはんだ付けした後の冷却工程において、絶縁基板が反る場合がある。この反り量は絶縁基板およびCuベース板のサイズが大きいほど大きくなり、場合によっては絶縁基板にクラックが発生しうる。
【0016】
さらに、第1の従来技術によれば、上記のように、通電時の半導体チップの発熱によって、半導体チップと接続配線との接合部にクラックが生じる場合がある。そのようなクラックの発生は当該接合部の信頼性を低下させてしまう。接合部の信頼性向上のために応力緩衝層等の複雑な構造を導入することが考えられるが、それによれば半導体装置の小型化という要求に応えることが難しくなる。
【0017】
また、第2の従来技術(トランスファーモールド型)によれば、上記のように、半導体チップと接続配線との接合部の信頼性を向上可能であるが、トランスファーモールド型でも絶縁基板が反る場合がある。すなわち上記のように、半導体装置の大型化に伴い、トランスファーモールド樹脂の硬化収縮および降温時収縮によって、絶縁基板が反る場合がある。かかる反りによって絶縁基板にクラックが生じると、場合によっては半導体装置の絶縁が確保できなくなってしまう。
【0018】
さらに、第2の従来技術によれば、上記のように、リードフレームのアウターリード部分が半導体装置の側面から突出しているので、既存製品との代替が単純には行えない。
【0019】
また、第3の従来技術(特許文献2の技術)によれば、上記のように、隣接する部分モジュールを同じネジで固定するので、各部分モジュールの反り、うねり等および部分モジュールが実装される筐体の反り、うねり等によっては、同じネジ締め量であっても、各部分モジュールにかかる軸力が異なる場合がある。そのような場合、全ての部分モジュールを適正に実装できないことになる。
【0020】
本発明は、反り、クラック等の不具合の防止、実装の適正化および容易化、等を実現しうる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様によれば、少なくとも1つの半導体チップおよび少なくとも1つの電極が搭載された一方主面を有する絶縁基板と、前記絶縁基板の他方主面に接合された一方主面を有するベース板と、前記ベース板の前記一方主面と前記絶縁基板と前記少なくとも1つの半導体チップと前記少なくとも1つの電極の接合端部とを覆うように且つ前記ベース板の他方主面は露出するように設けられたトランスファーモールド樹脂とを含み、前記ベース板の線膨張係数は銅の線膨張係数よりも低く、前記トランスファーモールド樹脂の線膨張係数は16ppm/℃以下であり、前記トランスファーモールド樹脂は、前記ベース板の相対する短辺中央部付近がそれぞれ露出するようにえぐられた形状を有し、前記ベース板は、前記トランスファーモールド樹脂の前記えぐられた形状によって露出している各部分に当該ベース板を厚さ方向に貫通する取り付け穴を有していることを特徴とする、半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0022】
上記の一態様によれば、ベース板の線膨張係数は銅の線膨張係数よりも低く、トランスファーモールド樹脂の線膨張係数は16ppm/℃以下である。このため、各種の温度要因による反りを低減でき、その結果、絶縁基板のクラック、当該クラックに起因した絶縁破壊等を防止できる。また、上記のベース板およびトランスファーモールド樹脂によれば、部材間の界面剥離を防止できる。
【0023】
また、上記反り低減によればベース板と実装面との平行性が向上するので、熱伝導性グリスの厚さの適正化あるいはベース板と実装面の密着度合いの向上が図られ、良好な熱伝導効率、換言すれば良好な放熱性を得ることができる。これにより、適正な実装を実現できる。
【0024】
また、上記反り低減によれば、2つの取り付け穴による2箇所の固定であっても、ベース板と実装面との間の平行性を得ることができ、これにより適正な実装を実現できる。また、固定具の数が少なくて済み、さらに固定具の個数削減は取り付け作業性の向上、固定具のコスト削減に繋がる。また、固定箇所が少ないことにより、ベース板のうねりが発生しにくく、この点においても適正な実装を実現できる。
【0025】
また、ベース板の2つの取り付け穴は、相対する短辺中央部付近にそれぞれ設けられている、すなわちベース板の長手方向の両端に設けられている。一般に部材の寸法が大きいほど反り量が大きい点に鑑みると、当該2つの取り付け穴は好適な位置に設けられている。このため、ベース板と実装面との間の平行性を確保して、適正な実装を実現できる。
【0026】
また、トランスファーモールド樹脂の部分的にえぐられた形状によって、ベース板の取り付け穴をトランスファーモールド樹脂から露出させている。このため、トランスファーモールド樹脂とベース板との接触面積、換言すればトランスファーモールド樹脂とベース板との間の接着力が大幅に減少するのを回避できる。
【0027】
また、ベース板の取り付け穴は複数の半導体装置で共有しないので、複数の半導体装置で固定具を共有することによって各半導体装置にかかる軸力が異なるといった事態が発生しない。この点においても適正な実装を実現できる。
【0028】
本発明の目的、特徴、局面、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施の形態1に係る半導体装置の構造を例示する上面図である。
【図2】図1中の2−2線における断面図である。
【図3】図1中の3−3線における断面図である。
【図4】ベース板の収縮を説明する断面図である。
【図5】ベース板の収縮によって絶縁基板にクラックが発生する様子を説明する模式図である。
【図6】トランスファーモールド樹脂の収縮を説明する断面図である。
【図7】トランスファーモールド樹脂の収縮によって絶縁基板にクラックが発生する様子を説明する模式図である。
【図8】実施の形態1に係る半導体装置の他の構造を例示する断面図である。
【図9】図8中の一点鎖線で囲んだ部分9の拡大図である。
【図10】実施の形態2に係る半導体装置の回路構成を例示する回路図である。
【図11】実施の形態2に係る半導体装置の構造を例示する上面図である。
【図12】実施の形態2に係る半導体装置の構造を例示する側面図である。
【図13】比較用の半導体装置の回路構成を例示する回路図である。
【図14】比較用の半導体装置の構造を例示する上面図である。
【図15】実施の形態2に係る半導体装置の他の回路構成を例示する回路図である。
【図16】実施の形態3に係る半導体装置の構造を例示する断面図である。
【図17】実施の形態3に係る半導体装置の構造を例示する断面図である。
【図18】図16中の一点鎖線で囲んだ部分18の拡大図である。
【図19】実施の形態4に係る樹脂厚さを説明する断面図である。
【図20】実施の形態4に係る樹脂厚さを説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
実施の形態では例えばモーターの駆動制御に適用されるパワー半導体装置を例示するが、以下の説明はパワー半導体装置に限定されるものではない。
【0031】
<実施の形態1>
図1に実施の形態1に係る半導体装置100の構造を例示する上面図を示し、図1中の2−2線における断面図を図2に例示し、図1中の3−3線における断面図を図3に例示する。なお、以下では、図1を上面図と称するのに合わせて半導体装置100についての上下方向を規定するものとする。この場合、図2および図3の上下方向がそのまま半導体装置100についての上下方向に対応する。また、以下では、半導体装置100の上下方向を厚さ方向と表現する場合もある。
【0032】
半導体装置100は絶縁基板102を含んでいる。絶縁基板102は、図示の例では、絶縁性板状部材104と、絶縁性板状部材104の一方主面(ここでは上主面)上に形成された金属層106と、絶縁性板状部材104の他方主面(ここでは下主面)上に形成された金属層108とを含んでいる。
【0033】
上主面側の金属層106は平面視において所定の配線パターン(図示略)に形成されており、このため以下、当該金属層106を配線パターン106と称する場合もある。下主面側の金属層108の平面視形状は任意であり、当該金属層108は例えば所定の領域内に全面的に形成されている。絶縁性板状部材104は例えばセラミック(窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナが例示される)等の絶縁材料で構成され、金属層106,108は例えば銅等の金属材料で構成されている。
【0034】
配線パターン106には、回路部品の例である半導体チップ110および電極112がはんだ114によって接合されている。すなわち、半導体チップ110および電極112が絶縁基板102の一方主面(ここでは上主面)上に搭載されている。半導体チップ110および電極112は所定の回路を構成するように所定の箇所にアルミニウムワイヤ等の接続配線116で接続されている。なお、半導体チップ110、電極112および接続配線116の数は図示の例に限定されるものではない。
【0035】
ここでは、半導体チップ110にIGBT等のパワー半導体素子が作り込まれている場合を例示する。半導体チップ110は、シリコン(Si)を基板として構成されていてもよいし、シリコンよりもバンドキャップが広いワイドギャップ半導体(炭化シリコン(SiC)、窒化ガリウム(GaN)系材料等)を基板として構成されていてもよい。
【0036】
ワイドバンドギャップ半導体は、耐電圧性が高い、許容電流密度が高い等の特性において、パワー半導体素子に好適である。また、これらの特性によれば、シリコン基板を利用した場合に比べて、半導体チップ110を小型化することが可能であり、その結果、半導体装置100を小型化することが可能である。なお、全ての半導体チップ110がワイドギャップ半導体の基板を利用していてもよいし、一部の半導体チップ110だけがワイドギャップ半導体の基板を利用していてもよい。
【0037】
下主面側の金属層108には、ベース板120がはんだ130によって接合されている。すなわち、絶縁基板102の他方主面(ここでは下主面)とベース板120の一方主面(ここでは上主面)が接合されている。ここではベース板120の一方主面および他方主面(ここでは下主面)のいずれも平坦面(すなわち段差のない平面)とする。なお、ベース板120と絶縁基板102と半導体チップ110との積層方向が、半導体装置100の上下方向(換言すれば厚さ方向)にあたる。
【0038】
ベース板120は平面視において絶縁基板102を収容可能な寸法、形状を有しており、当該平面視において絶縁基板102はベース板120からはみ出さないように配置されている。ここではベース板120の平面視形状、すなわち主面の形状が長方形の場合を例示する。なお、以下では、ベース板120において主面の短辺に繋がっている側面(換言すれば、ベース板120の短手方向に延在する側面)を短側面と称し、主面の長辺に繋がっている側面(換言すれば、ベース板120の長手方向に延在する側面)を長側面と称する場合もある。
【0039】
ベース板120は放熱板として機能するため、熱伝導性の高い材料で構成されている。例えば銅(Cu)、AlSiC、CuMo等を採用可能であるが、後述のようにCuよりも線膨張係数が小さい材料、例えばAlSiC、CuMo等が好適である。
【0040】
ベース板120は、図1および図3に例示するように、ベース板120を厚さ方向に貫通した取り付け穴122を2つ有している。換言すれば、各取り付け穴122は、ベース板120の両主面間に渡って当該主面に直交する方向に形成されている。取り付け穴122は、ボルトで半導体装置100を実装場所(例えば所定の筐体、ヒートシンク等)に固定する際に、ボルトを通すために利用される。取り付け穴122はネジ溝を有していてもよいし、有していなくてもよい。なお、ボルトを固定具の一例として挙げるが、ネジ等の他の固定具を利用することも可能である。
【0041】
2つの取り付け穴122は、ベース板120のうちで主面の相対する短辺の中央部付近(換言すれば相対する短側面の中央部付近)にそれぞれ設けられている。この場合、2つの取り付け穴122は、ベース板120の中心点を挟んでベース板120の長手方向に並んでいる。
【0042】
絶縁基板102上の半導体チップ110等は、トランスファーモールド樹脂140で封止されている。より具体的には、トランスファーモールド樹脂140は、絶縁基板102と、半導体チップ110と、電極112の接合端部(絶縁基板102に接合されている側の端部)と、接続配線116とを覆っている。また、トランスファーモールド樹脂140は、ベース板120の上主面を覆っているが(但し取り付け穴122は露出している)、ベース板140の下主面を覆っていない(すなわち当該下主面は樹脂140から露出している)。なお、図示の例ではトランスファーモールド樹脂140はベース板120の上主面から側面(短側面および長側面)に及んでいるが、樹脂140がベース板の側面上に形成されていない形状を採用することも可能である。
【0043】
ここで、電極112は絶縁基板102に直交する方向に伸びており、電極112の下部(すなわち接合端部)はトランスファーモールド樹脂140内に埋設され、電極112の上部はトランスファーモールド樹脂140の上面(絶縁基板102の上主面の上方に位置する面)から突出している。このため、第2の従来技術のようにアウターリードがトランスファーモールド樹脂の側面から突出した構造とは異なり、半導体装置100はケース型の既存製品との代替が容易である。
【0044】
トランスファーモールド樹脂140は上面視(換言すれば平面視。図1参照)においてベース板120を取り囲む略長方形をしているが、トランスファーモールド樹脂140は図1および図3に示すようにベース板120の取り付け穴122を塞がないように形成されている。より具体的には、トランスファーモールド樹脂140は、取り付け穴122の内部および上方と、ベース板120の上主面および短側面のうちで取り付け穴122付近の領域とを避けて形成されている。
【0045】
このため、図1に例示するように、トランスファーモールド樹脂140は、取り付け穴122の付近において、取り付け穴122が露出するように、えぐられた形状を有している。当該えぐられた形状142はトランスファーモールド樹脂140の上面まで及んでいる。えぐられた形状142は、例えばトランスファーモールド樹脂140の成型金型の形状設計によって、形成可能である。
【0046】
半導体装置100は、ベース板120の下主面(換言すれば露出主面)を実装場所(例えば所定の筐体、ヒートシンク等)に向けて配置され、取り付け穴122に通したボルトによって実装場所に固定される。この際、ベース板120の露出主面と実装場所の表面(すなわち実装面)の一方または両方に熱伝導性グリスが塗布される。なお、半導体装置100の発熱量が小さい場合は熱伝導性グリスの塗布を省略することも可能である。
【0047】
ここで、ベース板120の材料について説明する。
【0048】
図4に半導体装置100の製造途中の構造の断面図を例示する。具体的には、半導体チップ110、ベース板120等が絶縁基板102にはんだ付けされた後の製造途中品(換言すれば中間体)96が図4に例示されている。なお、図4は図3に対応する。
【0049】
はんだ付け工程の後に冷却工程が行われるが、当該冷却工程において製造途中品96のベース板120が収縮する。なお、このような降温による収縮を降温時収縮と称することにする。図4中の矢印150はベース板120の降温時収縮を模式的に表している。
【0050】
ベース板120と絶縁基板102(より具体的には絶縁性板状部材104)とは線膨張係数が異なるので、ベース板120と絶縁基板102との接合体は温度(換言すれば熱)に対して、いわゆるバイメタル構造に似た挙動を示す。具体的には、ベース板120の方が絶縁性板状部材104よりも線膨張係数が高い場合、ベース板120の降温時収縮によって、図5の模式図に示すように当該ベース板120は絶縁基板102の側へ向けて凸状に反る。この反りによって、絶縁性板状部材104に引っ張り応力152が発生する。その結果、絶縁性板状部材104にクラック154が発生する場合がある。図5には、絶縁性板状部材104の上主面において、配線パターン106の最外周縁部付近で、クラック154が発生する場合を例示している。
【0051】
この点に鑑みると、ベース板120は線膨張係数が、より低い材料で構成されることが好ましい。例えば、Cuの線膨張係数は約17ppm/℃であり、AlSiCの線膨張係数は約7.5ppm/℃であり、CuMoの線膨張係数は約7.5ppm/℃であるので、この例の中ではCuよりもAlSiCおよびCuMoの方がベース板120の上記反りを低減することができる。これを一般化すると、従来からベース板に多用されてきたCuよりも線膨張係数が小さい材料でベース板120を構成することによって、絶縁基板102のクラック、さらには当該クラックに起因した絶縁破壊等を防止することができる。特にベース板の大型化に伴ってその反りが大きくなるので、線膨張係数の小さいベース板120は大型化にも好適である。
【0052】
ベース板120および絶縁基板102の反りは上記の製造工程における降温時収縮だけに拠らない。製造後の半導体装置100においても、例えば通電による発熱および線膨張係数の違いによって、ベース板120および絶縁基板102が反る場合がある。しかし、線膨張係数の低いベース板120によれば、製造後においても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0053】
次に、トランスファーモールド樹脂140の材料について説明する。
【0054】
下記の表1は、絶縁基板102(より具体的には絶縁性板状部材104)とトランスファーモールド樹脂140との界面における剥離、および、ベース板120とトランスファーモールド樹脂140との界面における剥離について、応力解析の結果をまとめたものである。表1では、ベース板120の材料としてAlSiCおよびCuを例示し、トランスファーモールド樹脂140の線膨張係数として10ppm/℃、13ppm/℃および16ppm/℃を例示している。
【0055】
【表1】
【0056】
表1においてパーセントで記載された指標値は、界面剥離方向に働く応力の大きさを表している。より具体的には、界面剥離方向に働く応力の値(半導体装置100の構造モデルを用いた解析から求めた)を、剥離が発生する限界応力(以下、剥離発生限界応力と称する場合もある)の値を100%として相対的に表した値が、表1中の指標値である。例えば当該指標値が100%の場合、剥離発生限界応力に相当する応力が界面に働き、剥離発生の可能性があることを示している。また、例えば100%よりも大きい指標値は、剥離発生限界応力を超える応力によって剥離が発生することを示している。つまり、当該指標値が小さいほど、界面剥離の可能性が小さくなり、より好ましい。
【0057】
表1によれば、上記2種類の界面のいずれにおいても、AlSiC製のベース板120についての上記指標値の方が、Cu製のベース板120についての上記指標値に比べて小さいことが分かる。つまり、AlSiC製のベース板120の方が、上記2種類の界面のいずれにおいても剥離を起こしにくい。表1の観点からも、ベース板120はCuよりもAlSiCで構成されることが好ましいと言える。なお、CuMoもAlSiCと同様の傾向が得られた。
【0058】
また、表1によれば、トランスファーモールド樹脂140の線膨張係数が小さいほど、上記指標値が小さく、上記2種類の界面のいずれにおいても剥離を起こしにくいことが分かる。さらに市場での冷熱疲労を模擬した試験(いわゆるヒートサイクル試験)の結果、特にトランスファーモールド樹脂140の線膨張係数が16ppm/℃以下の場合、上記2種類の界面のいずれにおいても応力を低減でき、界面剥離がほとんど発生しないことが確認された。
【0059】
特に半導体チップ110がワイドギャップ半導体を基板として構成されている場合、半導体装置100の構造は好適である。なぜならば、ワイドギャップ半導体製の半導体チップ110はシリコン製の半導体チップ110に比べて高温動作が可能だからである。より具体的には、そのような高温動作ではヒートサイクルの温度差が大きくなり、ベース板120とトランスファーモールド樹脂140との界面、絶縁基板102とトランスファーファーモールド樹脂140との界面等における応力が増大しやすいからである。
【0060】
ここで、図6にトランスファーモールド後の製造途中品98の構造の断面図を例示する。なお、図6は図4および図3に対応する。トランスファーモールド樹脂140は、硬化に伴って収縮するとともに、金型温度(例えば170〜180℃)から室温への冷却(降温)に伴って収縮する。図6中の矢印160は、トランスファーモールド樹脂140の当該収縮を模式的に表している。トランスファーモールド樹脂140の収縮は、図7の模式図に示すように、絶縁基板102をベース板120の側へ向けて凸状に反らせる原因となりうる。この反りによって絶縁性板状部材104に引っ張り応力162が発生し、その結果、絶縁性板状部材104のベース板側主面にクラック164が発生する場合がある。
【0061】
しかし、線膨張係数が16ppm/℃以下のトランスファーモールド樹脂140によれば、上記収縮160を抑えて絶縁性板状部材104の反りを低減することができる。その結果、絶縁基板102のクラック、さらには当該クラックに起因した絶縁破壊等を防止することができる。特にトランスファーモールド樹脂による封止を採用した半導体装置では装置が大型化するほど上記の硬化収縮および降温時収縮が大きくなる点に鑑みると、線膨張係数が16ppm/℃以下のトランスファーモールド樹脂140は大型化にも好適である。
【0062】
ベース板120および絶縁基板102の反りは上記の製造工程におけるトランスファーモールド樹脂140の硬化収縮および降温時収縮だけに拠らない。製造後の半導体装置100においても、例えば通電による発熱および線膨張係数の違いによって、ベース板120および絶縁基板102が反る場合がある。しかし、線膨張係数が16ppm/℃以下のトランスファーモールド樹脂140によれば、製造後においても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0063】
さて、線膨張係数が16ppm/℃以下のトランスファーモールド樹脂140によって絶縁基板102の反りが低減されると、絶縁基板102と接合しているベース板120の反りも低減される。また、上記のようにベース板120自体の線膨張係数を小さくすることによって、ベース板120の反りを低減することができる。ベース板120の反りが低減することによって、ベース板120の下主面(すなわち露出主面)と実装面との平行性が向上する。このため、ベース板120の露出主面と実装面との間に設けられる熱伝導性グリスの厚さの面内ムラを低減することができる。したがって、均一で適正な厚さの熱伝導性グリスによって、良好な熱伝導効率を得ることができ、その結果、良好な放熱性を得ることができる。つまり、適正な実装を実現することができる。
【0064】
なお、熱伝導性グリスを利用しない場合であっても、ベース板120の露出主面と実装面との間の平行性の向上は、当該2つの面の密着度合いの向上をもたらす。このため、良好な放熱性を得ることができ、適正な実装を実現することができる。
【0065】
一般に、ベース板の反りが大きい場合、ベース板の露出主面と実装面との間の平行性を得るために、多くのボルト等で固定することが行われる。これに対し、半導体装置100によれば、ベース板120の反りが抑制されるので、2つの取り付け穴122による2箇所の固定であっても、ベース板120の露出主面と実装面との間の平行性を確保することができる。つまり、適正な実装を実現することができる。したがって、ボルトの数が少なくて済み、さらにボルトの個数削減は取り付け作業性の向上、ボルトのコスト削減に繋がる。
【0066】
また、一般に、固定箇所が多いほど、通電時の発熱によってベース板が膨張した場合に、ベース板にうねりが生じやすくなり、その結果、ベース板の露出主面と実装面との間の平行性が低下する。これに対し、半導体装置100のベース板120は線膨張係数が低いことに加えて2箇所で固定されるので、ベース板120のうねりが発生しにくい。このため、使用時においても適正な実装状態を保持することができる。
【0067】
また、ベース板120の2つの取り付け穴122は、相対する短辺中央部付近にそれぞれ設けられている、すなわちベース板120の長手方向の両端に設けられている。一般に部材の寸法が大きいほど反り量が大きい点に鑑みると、当該2つの取り付け穴122は、製造時に残留した反りおよび通電時の発熱で生じる反りに対抗するのに好適な位置に設けられている。このため、ベース板120の露出主面と実装面との間の平行性を確保して、適正な実装状態を実現することができる。
【0068】
また、トランスファーモールド樹脂140は、取り付け穴122が露出するように設けられている。このため、ベース板120が取り付け穴122を有さない場合に比べてトランスファーモールド樹脂140とベース板120との接触面積(換言すれば接着面積)が減少することになる。しかし、トランスファーモールド樹脂140によれば、部分的にえぐられた形状142によって取り付け穴122を露出させているので、上記の接触面積の減少が抑えられている。したがって、トランスファーモールド樹脂140とベース板120と間の接着力の大幅低下を回避することができる。
【0069】
また、ベース板120の取り付け穴122は複数の半導体装置100で共有しないので、取り付けのボルトを複数の半導体装置100を共有することがない。このため、隣接する部分モジュールを同じネジで固定する第3の従来技術(特許文献2の技術)のように各部分モジュールにかかる軸力が異なるといった事態が発生しない。この点においても適正な実装を実現することができる。
【0070】
ところで、トランスファーモールド樹脂140の硬化収縮および降温時収縮によって絶縁基板102が下側に凸状に反ると、配線パターン106の最外周縁部の直下付近にクラック164が発生しやすい(図7参照)。これは、絶縁基板102の反りによって、絶縁性板状部材104と配線パターン108とによる引っ張り応力が、配線パターン106の最外周縁部の直下付近で最大になるからである。
【0071】
そのようなクラック164を防止しうる構造を図8に例示する。なお、図8は図3に対応する。また、図8中の一点鎖線で囲んだ部分9の拡大図を図9に示す。図8および図9に例示の半導体装置100Bは、上記半導体装置100(図3等参照)において絶縁基板102を絶縁基板102Bに変更した構造を有している。半導体装置100Bのその他の構造は基本的に上記半導体装置100と同様である。
【0072】
図8および図9に例示するように、絶縁基板102Bは、下主面側の金属層108が、上主面側の配線パターン106よりも外側へ(換言すれば、絶縁性板状部材104の縁の側へ)広がっている。このため、配線パターン106の最外周縁部の直下付近が、金属層108で覆われている。このため、下主面側(すなわちベース板120側)における引っ張り応力を緩和することができ、クラック164を防止することができる。
【0073】
また、下主面側の金属層108の形成範囲の拡大によって、使用条件に含まれることが多い低温環境(例えば−40℃)においても、クラックの発生を防止して、高い信頼性を得ることができる。
【0074】
<実施の形態2>
図10に実施の形態2に係る半導体装置200の回路構成図を例示し、図11および図12に半導体装置200の上面図および側面図を例示する。図10に例示するように、半導体装置200は3つの回路ユニット202を有しており、これらの回路ユニット202のそれぞれが実施の形態1に係る半導体装置100で構成されている。なお、各回路ユニット202を、実施の形態1で例示した他の半導体装置100B(図8および図9参照)で構成することも可能である。以下では半導体装置100,100Bを半導体ユニット100,100Bとそれぞれ称する場合もある。
【0075】
まず図10を参照して、半導体装置200の回路例を説明する。上記のように半導体装置200は3つの回路ユニット202を有している。ここでは3つの回路ユニット202が同じ回路構成である場合を例示するが、この例に限定されるものではない。また、半導体装置200に含まれる回路ユニット202の数は2つまたは4つ以上であってもよい。
【0076】
各回路ユニット202はIGBT170,172とダイオード174,176を有している。IGBT170,172は高電位側端子P(P側端子とも称される)と低電位側端子N(N側端子とも称される)との間に直列接続されており、ダイオード174はIGBT170に逆並列に接続されており、ダイオード176はIGBT172に逆並列に接続されている。なお、ダイオード174,176は、いわゆるフリーホイールダイオードである。
【0077】
より具体的には、IGBT170のコレクタは高電位側端子Pに接続され、IGBT170のエミッタはIGBT172のコレクタに接続され、IGBT172のエミッタは低電位側端子Nに接続されている。さらに、ダイオード174のカソードはIGBT170のコレクタに接続され、ダイオード174のアノードはIGBT170のエミッタに接続されている。同様に、ダイオード176のカソードおよびアノードはIGBT172のコレクタおよびエミッタにそれぞれ接続されている。高電位側IGBT170のエミッタ、換言すれば低電位側IGBT172のコレクタに出力端子が接続されている。なお、当該出力端子に対応して、上記端子P,Nを入力端子と称することにする。
【0078】
図10の例では、合計6個のIGBT170,172のゲートタイミングを独立に制御可能に構成されている。より具体的には、6個のIGBT170,172間でゲート(換言すれば制御端子)どうしは接続されていない。このため、例えば3つの回路ユニット202の出力の位相が互いにずれるようにIGBT170,172のゲートタイミングを制御することによって、半導体装置200は3相の出力(例えば3相交流)を出力可能である。図10の例では、一の回路ユニット202がU相出力に割り当てられ、他の一の回路ユニット202がV相出力に割り当てられ、残余の一の回路ユニット202がW相出力に割り当てられている。
【0079】
なお、半導体装置200は不図示の要素、例えばゲート駆動回路、保護回路等を内蔵してもよい。
【0080】
上記のように半導体装置200では3つの回路ユニット202のそれぞれが、実施の形態1に係る半導体装置100(すなわち半導体ユニット100)で構成されている。すなわち、半導体装置200は3つの半導体ユニット100を有している。
【0081】
図11および図12の例では、3つの半導体ユニット100は、トランスファーモールド樹脂140の長側面どうしが相対するように、一方向(図11および図12では横方向)に整列している。また、図11に例示されるように、3つの半導体ユニット100は、トランスファーモールド樹脂140の短側面が同一平面上に載るように、整列している。また、図12に例示されるように、3つの半導体ユニット100は、ベース板120の露出主面が同一平面S上に載るように、整列している。隣接する半導体ユニット100は例えば相対する長側面において接着剤で固定されている。
【0082】
上記のように整列した3つの半導体ユニット100は、外部ケース212内に収容されており、外部ケース212と一体化している。3つの半導体ユニット100は例えば接着剤で外部ケース212に固定されている。但し、図12に示すように、外部ケース212は各半導体ユニット100のベース板120の露出主面を覆っておらず、しかも外部ケース212は各半導体ユニット100のベース板120の露出主面が実装面(図12の平面Sを参照)に接触するのを妨げない形状をしている。
【0083】
なお、図11および図12では外部ケース212を簡略に図示しており、外部ケース212の形状は図11および図12の例に限定されるものではない。また、図12には外部ケース212内においてトランスファーモールド樹脂140上に隙間が在る場合を例示しているが、トランスファーモールド樹脂140の上面がケース212の内面に接触していても構わない。
【0084】
図11に例示するように、外部ケース212は上面に電極214および取り付け穴216を有している。なお、図12では電極214等の図示を省略している。
【0085】
電極214は、半導体ユニット100の電極112(図1等参照)に対応して設けられており、ケース内部で電極112に接続された部材によって、あるいは、電極112のうちでケース外部に突出した部分によって構成されている。なお、ケース212の上面に不図示の他の電極、例えば上記端子P,N(図10参照)が設けられていてもよい。
【0086】
外部ケース212の取り付け穴216は、半導体ユニット100の取り付け穴122(図1等参照)に対応して設けられている。すなわち、各半導体ユニット100に対して2つの取り付け穴216が設けられている。対応する取り付け穴216,122は同心状に位置している。このため、同心状に並んだ2つの取り付け穴216,122に渡ってボルトを挿入することにより、当該ボルトで半導体装置200を実装場所に固定することができる。
【0087】
ここで、図13および図14に、上記半導体装置200と比較するための半導体装置200Zについて、回路構成図および上面図を例示する。半導体装置200Zの全体の回路構成は上記半導体装置200のそれと同じであるが、比較用半導体装置200Zでは3つの回路ユニット202が単一の半導体ユニット100Z内に作り込まれている。より具体的には、半導体ユニット100Zでは、単一のベース板120Z上に単一の絶縁基板(図示略。絶縁基板102に相当)が接合されており、当該単一の絶縁基板上に回路部品が搭載されており、回路部品および単一の絶縁基板がトランスファーモールド樹脂140Zで封止されている。なお、比較のため、半導体装置200Z,200で外部ケース212は同じものとする。
【0088】
図14と図11の比較から分かるように、比較用半導体装置200Zの単一のベース板120Zは、上記半導体装置200の3つのベース板120の存在領域の全体に渡る寸法および形状を有している。また、単一のベース板120Zは、ケース212の6つの取り付け穴216に対応して、6つの取り付け穴(図示略。ベース板120の取り付け穴122に相当)を有しているものとする。
【0089】
この場合、比較用半導体装置200Zの単一のベース板120Zの露出主面(すなわち実装面に相対する下主面)の面積は、上記半導体装置200の3つのベース板120の露出主面の合計面積に略等しい。換言すれば、上記半導体装置200の各ベース板120の露出主面の面積は、比較用半導体装置200Zの単一のベース板120Zの露出主面の面積の略1/3である。このため、小さいベース板120によれば、比較用の単一のベース板120Zに比べて、反り量を小さくすることができる。
【0090】
また、上記のように各ベース板120は2つの取り付け穴122を利用して2箇所で固定されるのに対して、比較用の単一のベース板120Zは6箇所で固定される。このため、半導体ユニット100ごとに設けられたベース板120の方が、固定による露出主面のうねりを小さくすることができる。
【0091】
これらの結果、3つに分割された半導体ユニット100を有する半導体装置200によれば、ベース板120の露出主面と実装面との高い平行性を得ることができる。このため、ベース板120と実装面との間に設けられる熱伝導性グリスの厚さムラを低減することができる。したがって、均一で適正な厚さの熱伝導性グリスによって、良好な熱伝導効率、換言すれば良好な放熱性を得ることができる。つまり、適正な実装を実現することができる。熱伝導性グリスを利用しない場合であっても、ベース板120の露出主面と実装面と高い密着度合いによって、良好な放熱性が得られ、適正な実装を実現することができる。
【0092】
なお、半導体ユニット100について実施の形態1で説明した他の各種効果は、半導体装置200においても得られる。
【0093】
図15に実施の形態2に係る他の半導体装置200Bの回路構成図を例示する。この半導体装置200Bは基本的に上記半導体装置200と同様の回路構成および装置構造を有しているが、各回路ユニット202の出力が同位相になるようにIGBT170,172のゲートタイミングが制御される。かかる同相出力に鑑み、上記半導体装置200の出力端子U,V,Wのいずれも、本半導体装置200Bでは出力端子Aと称することにする。
【0094】
より具体的に図15の例では、各回路ユニット202のIGBT170のゲートが共通に接続されている。このため合計3つのIGBT170に同じゲート信号が入力され、これにより合計3つのIGBT170は同じゲートタイミングで制御される。同様に、各回路ユニット202のIGBT172のゲートが共通に接続されており、これにより合計3つのIGBT172は同じゲートタイミングで制御される。
【0095】
なお、IGBT170の相互接続は、外部ケース212の外部で実現されていてもよいし、あるいは、外部ケース212の内部で実現されていてもよい。IGBT172の相互接続についても同様である。
【0096】
半導体装置200Bによれば、3つの回路ユニット202が入力端子P,N間に並列接続されており、これらのユニット202は同相で出力動作を行う。したがって、回路ユニット202を1つだけ利用する構成に比べて大容量の装置を提供することができる。
【0097】
また、半導体装置200Bは上記半導体装置200と同様の構造(図11および図12参照)を有するので、上記半導体装置200と同様の効果を得ることができる。
【0098】
なお、並列接続する回路ユニット202、換言すれば半導体ユニット100の個数は3つに限定されるものではない。また、半導体ユニット100Bを採用することも可能である。
【0099】
<実施の形態3>
図16および図17に実施の形態3に係る半導体装置100Cの構造を例示する断面図を示す。図16は図2に対応し、図17は図3に対応する。また、図16中の一点鎖線で囲んだ部分18の拡大図を図18に示す。図16〜図18に例示の半導体装置100Cは、実施の形態1で例示した半導体装置100(図2、図3等参照)においてベース板120をベース板120Cに変更した構造を有している。半導体装置100Cのその他の構造は基本的に上記半導体装置100と同様である。
【0100】
ベース板120Cは上記ベース板120と同様の材料で構成されているが、ベース板120Cの上主面(すなわち絶縁基板102の側の主面)が段差を有している点で上記ベース板120と異なる。なお、ベース板120Cの下主面(すなわち露出主面)は上記ベース板120と同様に、段差のない平坦面である。
【0101】
具体的には、ベース板120Cの上主面は絶縁基板102との接合範囲にあたる接合領域124と、接合領域124の周辺の領域126とを含んでおり、周辺領域126が接合領域124よりも当該ベース板120Cの下主面の側に位置している。換言すれば、周辺領域126が接合領域124よりも後退している。このため、ベース板120Cでは接合領域124下の部分に比べて周辺領域126下の部分が薄い。なお、図16〜図18の例では両領域124,126の境界部分が傾斜面になっているが、当該境界部分は例えば垂直面であっても構わない。
【0102】
ここで、半導体装置100C,100のいずれにおいても、絶縁基板102の下主面側の金属層108は絶縁性板状部材104の縁まで到達していない。このため、絶縁性板状部材104のうちで周辺部分はベース板120,120Cと接合しておらず、絶縁性板状部材104の当該周辺部分とベース板120,120Cとの間に隙間が存在している。当該隙間はベース板120Cの採用によって広げることができ、そのようにして広く開いた隙間によれば当該隙間内にトランスファーモールド樹脂140が廻り込みやすくなる。すなわち、絶縁基板102下にトランスファーモールド樹脂140をより確実に充填することができる。樹脂140の未充填箇所は応力集中の原因となりうるので、確実な樹脂充填によって、そのような応力集中を防ぐことができる。その結果、応力集中によるクラックを防ぐことができる。
【0103】
また、上記隙間の拡大によって、絶縁基板102下に充填されるトランスファーモールド樹脂140の量が増加する。これにより、トランスファーモールド樹脂140が硬化および冷却(降温)によって収縮する際に、絶縁基板102の周辺部分を下側、すなわちベース板120Cの側へ引っ張る力が増加する。かかる力の増加によれば、絶縁基板102上のトランスファーモールド樹脂140が収縮するのに伴って絶縁基板102がベース板120Cの側へ凸状に反るのを低減することができる。その結果、絶縁基板102のクラックを防ぐことができる。
【0104】
なお、半導体装置100について実施の形態1で説明した他の各種効果は、半導体装置100Cにおいても得られる。また、ベース板120Cは半導体装置100B(図8および図9参照)に適用することも可能である。また、ベース板120Cを採用した半導体装置100C等を半導体ユニットとして半導体装置200,200Bを構成することも可能である。
【0105】
<実施の形態4>
実施の形態4ではトランスファーモールド樹脂140の厚さ、特に絶縁基板102上の厚さについて説明する。ここでは実施の形態3に係る半導体装置100Cを例に挙げるが、他の半導体装置100等についても以下の説明は当てはまる。
【0106】
図19の断面図に示すように、トランスファーモールド樹脂140のうちで絶縁基板102上の部分の厚さをtとする。なお、図19の例では、絶縁基板102上の樹脂厚さtを、絶縁性板状部材104の上主面とトランスファーモールド樹脂140の上面との間の寸法として図示している。但し、絶縁性板状部材104に比べて配線パターン106は十分に薄いので、配線パターン106の上面とトランスファーモールド樹脂140の上面との間の寸法を当該樹脂厚さtとして把握しても構わない。
【0107】
絶縁基板102上の樹脂厚さtが厚いと、市場での冷熱疲労によって、ベース板120Cとトランスファーモールド樹脂140との間の界面剥離、絶縁基板102とトランスファーモールド樹脂140との間の界面剥離、あるいは、絶縁基板102のクラックが生じる可能性がある。
【0108】
そのような界面剥離およびクラックを防止するためには、絶縁基板102上の樹脂厚さtが5mm以下であることが好ましい。これによれば、トランスファーモールド樹脂140とベース板120C等との線膨張係数の差によって生じる反り、応力等を抑制可能である。その結果、上記のような界面剥離およびクラックを防止することができる。
【0109】
図20に、絶縁基板102上の樹脂厚さtと、絶縁基板102とトランスファーモールド樹脂140の界面の応力との関係を示すグラフを示す。絶縁基板102とトランスファーモールド樹脂140の界面の応力は、半導体装置120Cの構造モデルを用いた解析によって求めた。その解析値を上記剥離発生限界応力(剥離が発生する限界応力)で正規化した値、すなわち{解析による応力値}/{剥離発生限界応力}という算出式で求められる値を「応力比」として、グラフの縦軸に示している。
【0110】
なお、応力比の上記算出式に鑑みると、図20のグラフにおける応力比と上記表1における指標値とは同義であり、例えば図20の応力比=1は表1の指標値=100%に対応する。このため、図20の応力比が小さいほど、界面剥離の可能性が小さくなり、より好ましい。
【0111】
図20によれば、絶縁基板102上の樹脂厚さtが5mm以下の場合に、応力比が1以下になることが分かる。つまり、絶縁基板102上の樹脂厚さtが5mm以下であることによって、界面剥離を防止することが可能である。
【0112】
他方、絶縁基板102上の樹脂厚さtが薄いと、市場での冷熱疲労によって、トランスファーモールド樹脂140にクラックが生じる可能性がある。
【0113】
そのようなクラックを防止するためには、絶縁基板102上の樹脂厚さtが3mm以上であることが好ましい。これによれば、トランスファーモールド樹脂140とベース板120C等との線膨張係数の差によって生じる応力等を抑制可能である。その結果、トランスファーモールド樹脂140のクラックを防止することができる。
【0114】
また、絶縁基板102上の樹脂厚さtが3mm以上であれば、半導体チップ110の厚さ、配線116の高さ等に鑑みた必要な厚さを確保可能である。このため、クラック以外の原因による信頼性低下を防止することができる。また、例えば半導体装置100Cの配設スペース等に応じて、3mm≦t≦5mmの範囲内で半導体装置100Cの薄型化を図ることができる。
【0115】
本発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、本発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、本発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0116】
100,100B,100C 半導体装置(半導体ユニット)、102,102B 絶縁基板、110 半導体チップ、112 電極、120,120C ベース板、122 取り付け穴、124 接合領域、126 周辺領域、140 トランスファーモールド樹脂、142 えぐられた形状、200,200B 半導体装置、202 回路ユニット、212 外部ケース、t 樹脂厚さ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの半導体チップおよび少なくとも1つの電極が搭載された一方主面を有する絶縁基板と、
前記絶縁基板の他方主面に接合された一方主面を有するベース板と、
前記ベース板の前記一方主面と前記絶縁基板と前記少なくとも1つの半導体チップと前記少なくとも1つの電極の接合端部とを覆うように且つ前記ベース板の他方主面は露出するように設けられたトランスファーモールド樹脂と
を備え、
前記ベース板の線膨張係数は銅の線膨張係数よりも低く、前記トランスファーモールド樹脂の線膨張係数は16ppm/℃以下であり、
前記トランスファーモールド樹脂は、前記ベース板の相対する短辺中央部付近がそれぞれ露出するようにえぐられた形状を有し、
前記ベース板は、前記トランスファーモールド樹脂の前記えぐられた形状によって露出している各部分に当該ベース板を厚さ方向に貫通する取り付け穴を有していることを特徴とする、半導体装置。
【請求項2】
複数の回路ユニットと、
前記複数の回路ユニットを収容する外部ケースと
を備え、
前記複数の回路ユニットのそれぞれが請求項1に記載の半導体装置で構成されていることにより、前記複数の回路ユニットのそれぞれに前記ベース板が設けられていることを特徴とする、半導体装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置であって、
前記ベース板の前記一方主面は、
前記絶縁基板との接合範囲にあたる接合領域と、
前記接合領域よりも当該ベース板の前記他方主面の側に位置する周辺領域と
を有していることを特徴とする、半導体装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記トランスファーモールド樹脂のうちで前記絶縁基板の前記一方主面上の部分の厚さが5mm以下であることを特徴とする、半導体装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記トランスファーモールド樹脂のうちで前記絶縁基板の前記一方主面上の部分の厚さが3mm以上であることを特徴とする、半導体装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記少なくとも1つの半導体チップには、ワイドギャップ半導体を基板として構成された半導体チップが含まれることを特徴とする、半導体装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記少なくとも1つの電極には、前記絶縁基板の前記一方主面の上方に位置する前記トランスファーモールド樹脂の上面から突出している電極が含まれることを特徴とする、半導体装置。
【請求項8】
請求項2ないし請求項7のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記複数の回路ユニットは異なる位相での出力が可能に構成されていることを特徴とする、半導体装置。
【請求項9】
請求項2ないし請求項7のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記複数の回路ユニットは同じ位相での出力が可能に構成されていることを特徴とする、半導体装置。
【請求項1】
少なくとも1つの半導体チップおよび少なくとも1つの電極が搭載された一方主面を有する絶縁基板と、
前記絶縁基板の他方主面に接合された一方主面を有するベース板と、
前記ベース板の前記一方主面と前記絶縁基板と前記少なくとも1つの半導体チップと前記少なくとも1つの電極の接合端部とを覆うように且つ前記ベース板の他方主面は露出するように設けられたトランスファーモールド樹脂と
を備え、
前記ベース板の線膨張係数は銅の線膨張係数よりも低く、前記トランスファーモールド樹脂の線膨張係数は16ppm/℃以下であり、
前記トランスファーモールド樹脂は、前記ベース板の相対する短辺中央部付近がそれぞれ露出するようにえぐられた形状を有し、
前記ベース板は、前記トランスファーモールド樹脂の前記えぐられた形状によって露出している各部分に当該ベース板を厚さ方向に貫通する取り付け穴を有していることを特徴とする、半導体装置。
【請求項2】
複数の回路ユニットと、
前記複数の回路ユニットを収容する外部ケースと
を備え、
前記複数の回路ユニットのそれぞれが請求項1に記載の半導体装置で構成されていることにより、前記複数の回路ユニットのそれぞれに前記ベース板が設けられていることを特徴とする、半導体装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置であって、
前記ベース板の前記一方主面は、
前記絶縁基板との接合範囲にあたる接合領域と、
前記接合領域よりも当該ベース板の前記他方主面の側に位置する周辺領域と
を有していることを特徴とする、半導体装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記トランスファーモールド樹脂のうちで前記絶縁基板の前記一方主面上の部分の厚さが5mm以下であることを特徴とする、半導体装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記トランスファーモールド樹脂のうちで前記絶縁基板の前記一方主面上の部分の厚さが3mm以上であることを特徴とする、半導体装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記少なくとも1つの半導体チップには、ワイドギャップ半導体を基板として構成された半導体チップが含まれることを特徴とする、半導体装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記少なくとも1つの電極には、前記絶縁基板の前記一方主面の上方に位置する前記トランスファーモールド樹脂の上面から突出している電極が含まれることを特徴とする、半導体装置。
【請求項8】
請求項2ないし請求項7のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記複数の回路ユニットは異なる位相での出力が可能に構成されていることを特徴とする、半導体装置。
【請求項9】
請求項2ないし請求項7のうちのいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記複数の回路ユニットは同じ位相での出力が可能に構成されていることを特徴とする、半導体装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−256746(P2012−256746A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129261(P2011−129261)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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