説明

半田を用いた接合装置

【課題】 半田を所定の電極上に搬送し、レーザ光の照射によりこれを溶融させると共に電極に接合する接合装置において、該装置における半田搬送系に対する半田の付着等を防止する。
【解決手段】 半田を保持し且つ搬送する部材に対し、当該部材における半田と接触する領域及びその近傍に対して、半田との濡れ性が低い、例えばDLC膜を所定厚さコーティングすることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半田を用いた接合装置に係り、特に磁気ヘッドのスライダに形成されたボンディングパッドと、リードフレーム側に形成されたパッドとの接合に代表される微細接合に好適な半田を用いた接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半田ボールを接合対象となる電極間に設置した後、前記半田ボールをレーザ照射により溶融させ、電極間の電気的接続を行う接合方法が知られている。
【0003】
図2は、半田ボールを用いて電極同士の接続を行う従来の接合装置について、その略断面図を示す。同図に示すように、第1の従来例である該接合装置1には、先細形状からなるノズル2が設けられている。同ノズル2においては、ノズル内部の空間から連通するノズル先端部の開口内径が、少なくとも溶融対象となる半田ボール3の外径より大きく設定されている。即ち、前記ノズル2内に送り出された半田ボール2をノズル先端側から取り出しが可能とされている。また前記ノズル2の後端側には図示しないレーザ照射部が配置されている。該レーザ照射部からのレーザ光7により、ノズル2の先端側と、接合対象物となるスライダ4とフレキシャ5に形成された電極部6との間で保持された半田ボール2が溶融可能となっている。
【0004】
また接合装置においては、上述したものだけに限定されるものでは無く、他の形態も知られている。図3は、半田ボールを用いて電極同士の接続を行う接合装置の第2の従来例であり、同図は同装置の略断面図を示す。なお第2の従来例において、前述した第1の従来例と共通する部材については同一の番号を付与して説明を行うものとする。
【0005】
同図に示すように、第2従来例における接合装置8では、前記第1従来例と同様、先端先細形状からなるノズル2と、このノズル2の上方に配置された(図示しない)レーザ照射部が設けられているが、前記ノズル2の先端開口は、半田ボール3よりも小径にその内径が形成されているとともに、前記ノズル2の内部には、図示しない吸引手段が接続されている。該吸引手段を稼働させることで、ノズル2の先端側から半田ボール3を吸引し、当該半田ボール3をノズル2の先端に保持可能にしている。このように構成された接合装置8では、図示しない半田ボール供給装置側から半田ボール3を吸引し、この半田ボール3を電極部6上まで移動させた後、レーザ照射によって該半田ボール3を溶融させ、電極部6間の接続を行うようにしている。この時、ノズル2の先端部がレーザ光に対してのマスクとなり、該マスクの開口部を通過したレーザ光が半田ボールを溶融する。
【0006】
マスクを介して光ビームを照射させ、半田付けを必要とする箇所にのみ照射させるようにした構造としては、上述した特許文献1に示されるものが例示される。また、溶融された半田粒(半田ボール)を電極に対して吐出させる工程の後、該半田粒(半田ボール)および電極にレーザビームを照射する工程を備えて電極に対する半田の接合性を改善したものや(例えば、特許文献2を参照)、シールドガスの吹き出し口の形状を細長いスリット状にすると共に、レーザ光の光軸を前記シールドガスの吹き出し口内に配置したものが知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【0007】
【特許文献1】実開平6−41174号公報
【特許文献2】特開2002−76043号公報
【特許文献3】特開2003−204149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、溶融半田を扱う工程において、例えば特許文献1に示すノズル等、半田を保持し且つ半田と同等の温度以上に加熱される構成を有する場合、該構成に対する半田の付着に留意する必要がある。また、特許文献2に示す構成の場合、ノズルから半田粒を吐出させる際のノズル自体に対する半田の付着と同時に、レーザ照射による半田の飛散についても考慮する必要がある。このような半田の付着が生じた場合、ノズル穴径が減少して半田の供給量が操作時間と共に減少し、極端な場合には半田の供給自体が困難となることも考えられる。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、ノズル等に対する溶融半田の付着を防止し、半田ボール等の供給を好適且つ安定的に実施し得る接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る接合装置は、電極に対して半田を供給し、半田に対してレーザ光を照射して半田を溶融し、電極に対して半田を接合する接合装置であって、半田を保持して電極上における前記半田の接合位置に半田を載置可能なノズルと、接合位置に配置された半田に対してレーザ光を照射するレーザ照射装置とを有し、ノズルにおいて前記半田と接触する領域には絶縁性を有し且つ半田との濡れ性が低く溶融半田が付着困難な膜がコーティングされていることを特徴としている。
【0011】
なお、上述した接合装置において、該膜は、半田との濡れ性、絶縁性、及び膜形成の容易さ等の観点からDLCからなる膜であることが好ましい。また、上述した接合装置において、該ノズルは、通気可能であってノズルに設けられた開口部に連通する内部空間を有し、半田は開口部を介して保持されることが好ましい。この場合、レーザ照射装置はノズルと所定の位置関係を有して配置可能であり、レーザ光は前記ノズルが有する内部空間及び開口部の少なくとも何れかを介して半田に対して照射されることが好ましい。更に、半田は、ノズルにおける開口部を介して、吸着保持されることが好ましい。
【0012】
本発明は、具体的には、吸着ノズル先端部に対して半田が接合することが困難となる処置を施すこととしている。簡便且つ効果の高い処置としては、吸着ノズルの先端部、より具体的には溶融された半田が接触する可能性の高い部分に対して、該溶融半田等に対する濡れ性の低い材料をコーティングすることが考えられる。このような材料としては、炭素系の材料からなるものが好適と考えられる。炭素系の材料は一般的に溶融金属との濡れ性が低く、またCVD、PVD等の手法により、コーティングが容易である。また、炭素を主材料とするDLC膜(ダイヤモンド状炭素膜)は、低濡れ性という特性に加え、強度、耐磨耗性等に優れ、且つ容易に層状の剥離を生じさせるという特性を有する。従って、DLC膜を吸着ノズルの先端部にコーティングすることにより、溶融半田が該先端部に付着する可能性低減し、且つ付着した場合であってもこの付着した部分が応力等により層状に剥離し、結果として半田の付着を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、上述の如く溶融半田と接触する可能性の高い部位に対して、溶融半田に対する濡れ性の低い材料からなるコーティング層を付与することとしている。当該コーティング層の存在により、溶融半田のノズルに対する付着を効果的に防止することが可能となり、半田ボール等を好適に供給することが可能となる。また、コーティング材としてDLCを用いることにより、DLCの層状剥離という特質を利用して常にコーディング層を最表面に維持することが可能となる。従って、より長時間コーティング層の効果を持続させることが可能となる。
【0014】
なお、極小の半田ボールを取り扱う場合、摩擦等、特に半田ボール供給時の半田溜まりにおける半田ボール同士の摩擦の作用によって該半田ボールには静電気が蓄えられることが知られている。また、いわゆる超硬合金等の導電性材料から構成されるノズルについても、種々の動作を行うことによってある電位を有した状態となることが知られている。このようなノズルにて半田ボールを保持し、該半田ボールを接合対象物の電極に接触或いは極近傍にまで接近させた場合、ノズル及び半田ボールに蓄えられた電荷は該電極に全て流れようとする。このようにして生じる電流が大きい場合には、接合対象物に連なる各種回路等が該電流によって破壊される、いわゆるESD(静電気破損)が生じる恐れがある。
【0015】
DLC膜は、その比抵抗として10-2〜10-10Ωmの高い値を有することが知られている。従って、DLC膜を吸着ノズル先端部等にコーティングすることにより吸着ノズルと半田ボール等との間の電気抵抗が増加し、吸着ノズルから半田ボール等へ流れる電流の値が大幅に低減するという効果も副次的に得られる。従って、DLC膜のコーティングによって、当該接合操作時における静電気破損の発生可能性も大きく低減されるという効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る半田ボールの接合装置に好適な具体的実施の形態について、以下に図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係る半田ボールの接合装置を用いて電極部上で半田ボールを溶融させる状態を示す説明図である。
【0017】
同図に示すように、本実施の形態に係る半田ボールの接合装置10は、半田ボール12の供給を為す図示しない供給装置と、接合対象物となる磁気ヘッドの構成部品との間を、図示しない移動手段によって往復移動することを可能とされている。なお、ここで述べる磁気ヘッドの構成部品とは、GMR素子等が埋め込まれたスライダ16とこのスライダ16を支持するためのフレキシャ18をさす。
【0018】
ところで本実施の形態では、スライダ16に形成されたスライダ側電極24と、この電極24に対応するだけのフレキシャ側電極26が形成されている。そしてこれらスライダ側電極24とフレキシャ側電極26とは、縁辺同士がつき合わされるとともに互いに直交するように配置されている。換言すれば、電極部24と電極部26とによりV字状の溝が形成されている。これら電極24、26は、後述する半田ボールによって互に接続される電極部59を構成する。
【0019】
供給装置と磁気ヘッド側との間を往復移動する接合装置10は、装置本体となる円錐筒体30と、この下方に形成された吸着ノズル32と、前記円錐筒体30を介して前記吸着ノズル32の反対側に配置されるレーザ照射部34とを主要構成としている。当該円錐筒体30の内部には、内部空間38が設けられている。内部空間38には、送排気手段と不活性ガス供給手段となる不図示の窒素ガス供給手段が接続されている。これら送排気手段等により、内部空間内を減圧させて吸着ノズル32からの吸込操作を行う、減圧環境下の内部空間38を大気開放するいわゆる真空破壊を行う、或いは内部空間38内に窒素ガスを送気して吸着ノズル32からの窒素ガスの噴射操作を行う等の操作を可能にしている。吸着ノズル32の開口部近傍にはDLC膜48が形成されている。
【0020】
吸着ノズル32において、実際に半田ボールと接触する領域にDLC膜48を形成することにより、吸着ノズル32に対する半田、特に溶融半田の付着を効果的に防止することが可能となる。また、吸着ノズル32が半田ボールと接触する領域に比抵抗の高いDLC膜を存在させることにより、ノズル本体から半田ボールへの電荷の流入の防止が図られる。なお、同図においては、吸着ノズルの先端面のみにコーティングを施すこととしているが、半田ボールと接触する可能性の在る領域、或いは半田ボールを支持する部材等に対してもDLC膜のコーティングを施すことが好ましい。
【0021】
このように構成された半田ボールの接合装置10を使用して、磁気ヘッドのスライダ16に形成されたスライダ側電極24と、フレキシャ18側に形成されたフレキシャ側電極26とを接合する手順を説明する。なお、ここで上記スライダ側電極24とフレキシャ側電極26との接続に用いられる半田ボール12は、その外径が80〜150ミクロン程度の微細なものとなっている。
【0022】
磁気ヘッドにおける接合操作では、まず接合装置10を半田ボールの供給装置側に移動させ、当該供給装置に位置する半田ボール12を、吸着ノズル32によって吸引し、前記半田ボール12を吸着ノズル32側に移動させる。接合装置10を半田接合位置まで移動させた後は、送排気手段を稼働させ、内部空間38内を大気圧に戻し(真空破壊)、次いで窒素ガス供給手段によって窒素ガスを内部空間38内に導入し、吸着ノズル32から窒素ガスを噴き出させる。さらに、窒素ガスの噴出状態を保った当該状態を維持し、レーザ照射部34を稼働させてレーザ光50を半田ボール12に向けて照射する。
【0023】
吸着ノズル32の開口を介したレーザ光50を半田ボール12と電極24、26とを照射することにより、半田ボール12の溶融と同時に、電極24、26の加熱を行うことが可能となる。すなわち前記電極24、26を加熱すれば、溶融した半田(溶融前は半田ボール)との温度差を小さくすることができ、半田の濡れ性を向上させることができる。このため電極部59、即ちスライダ側電極24とフレキシャ側電極26との電気的接続信頼性を向上させることが可能になる。
【0024】
なお、該コーティングを貫通穴内部にまで施すこととしても良い。吸着ノズルは半田と接触してこれを保持しており、半田ボールを溶融する際には溶融半田が貫通穴内部にまで侵入する恐れがある。貫通穴の周囲にはレーザ光が照射されていることからこの部分の温度も溶融半田の温度と同程度まで上昇している。このため、貫通穴内部に侵入した溶融半田がこの部分に貼り付き、貫通穴を目詰まりさせる可能性もある。この部分にまで、DLC膜のコーティングを施すことにより、この目詰まりが発生する可能性を大幅に低減することが可能となる。また、レーザ光の照射によって半田ボールが急激に溶解し、溶融状態の半田の一部が飛散することも考えられる。従って、コーティング領域はこのような状況にも鑑みて決定されることが好ましい。
【0025】
また、本実施の形態においては、DLC膜を好適なコーティング膜として述べてきたが、本発明は当該膜に限定されない。半田との濡れ性が低く且つ抵抗値が高い、即ち絶縁性の材料であれば、コーティング膜として本発明に用いることが可能と考えられる。具体的には、シリコン、シリコン系の窒化物、酸化物、ボロン系の窒化物等を用いることが可能である。また、本発明は、半田の付着可能な領域及び半田ボールとノズルと接触或いは電気的な導通が可能な領域にDLC膜等の薄膜をコーティングするものであり、接合装置の形状等は上述した実施の形態に限定されない。即ち、第1の従来例或いは第2の従来例に示した構成からなる接合装置に対して、本発明を適用することとしても良い。
【0026】
より詳細には、ノズルの半田ボールの保持方法は、真空吸着のみならず静電吸着等によるものであっても良い。この場合、吸着面に半田が付着することによって更なる半田ボールを保持する際の保持位置或いは保持姿勢が変化することが考えられる。本発明を該静電吸着等のノズルに適用することによって、常に一定した吸着面を有するノズルを提供することが可能となる。また、レーザ光の照射方向も、ノズルの内部を貫通する方式でなくとも良い。半田ボール供給後、半田ボールの保持方向とは異なる方向からレーザ光を照射する装置構成に対して本発明を適用しても良い。保持方向と異なる方向からレーザ光を照射する構成の場合、溶融半田の飛散範囲が上述した実施形態と比較して更に広がることも考えられる。この場合、コーティング領域を更に広げることで、溶融半田の付着を低減した好適な装置環境を保持することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
上述した実施の形態において、半田を用いた本発明に係る接合装置として、磁気ヘッドのスライダに形成されたボンディングパッドとリードフレーム側に形成されたパッドとの接合を行う装置を例示している。しかしながら、本発明の適応対象は当該接合装置に限定されず、例えば引用文献2に示した装置等、半田を超硬合金等からなる部材にて被接合物直近まで搬送し、且つ該半田をレーザ光等により急激に溶融させる装置全般に対して用いることが可能である。この場合、コーティングは、半田を搬送する部材における少なくとも半田との接触部分等に為されれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施の形態に係る半田ボールの接合装置を用いて電極部上で半田ボールを溶融させる状態を示す説明図である。
【図2】半田ボールを用いて電極同士の接続を行う接合装置について、第1従来例を示す図である。
【図3】半田ボールを用いて電極同士の接続を行う接合装置について、第2従来例を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1:接合装置、 2:ノズル、 3:半田ボール、 4:スライダ、 5:フレキシャ、 6:電極部、 7:レーザ光、 8:接合装置、 10:接合装置、 12:半田ボール、 16:スライダ、 18:フレキシャ、 24:スライダ側電極、 26:フレキシャ側電極、 30:円錐筒体、 32:吸着ノズル、 34:レーザ照射部、 38:内部空間、 48:DLC膜、 59:電極部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極に対して半田を供給し、前記半田に対してレーザ光を照射して前記半田を溶融し、前記電極に対して前記半田を接合する接合装置であって、
前記半田を保持し、前記電極上における前記半田の接合位置に前記半田を載置可能なノズルと、
前記接合位置に配置された前記半田に対して前記レーザ光を照射するレーザ照射装置とを有し、
前記ノズルにおいて前記半田と接触する領域には絶縁性を有し且つ前記半田との濡れ性が低く溶融半田が付着困難な膜がコーティングされていることを特徴とする半田を用いた接合装置。
【請求項2】
前記膜がダイヤモンド状炭素膜(DLC膜)からなることを特徴とする請求項1記載の半田を用いた接合装置。
【請求項3】
前記ノズルは、通気可能であって前記ノズルに設けられた開口部に連通する内部空間を有し、前記半田は前記開口部を介して保持されることを特徴とする請求項1記載の半田を用いた接合装置。
【請求項4】
前記レーザ照射装置は前記ノズルと所定の位置関係を有して配置可能であり、前記レーザ光は前記ノズルが有する前記内部空間及び前記開口部の少なくとも何れかを介して前記半田に対して照射されることを特徴とする請求項3記載の半田を用いた接合装置。
【請求項5】
前記半田は、前記ノズルにおける前記開口部を介して、吸着保持されることを特徴とする請求項4記載の接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−100454(P2006−100454A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282924(P2004−282924)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】