説明

単相交流同期モータ

【課題】整流波の平滑を不要とし、かつ、起動運転から同期運転への切換を安定して行うことが可能な単相交流同期モータを提供する。
【解決手段】本発明に係る単相交流同期モータは、位置センサ8の検出信号に基づいて整流電流を単相コイルL1の両方向に交互に流してモータを起動運転し、永久磁石ロータが第1の所定回転数に到達するまで回転数を上げるセンサ起動期間を有する起動運転回路1aと、永久磁石ロータの回転数が同期回転数を越えずに同期回転数付近の第2の所定回転数に到達し、位置センサ8の検出信号の立ち上がりまたは立ち下がりと交流電流のゼロクロス点とが略一致したタイミングで同期運転へ移行するように制御する制御手段5を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単相交流同期モータに関し、特に、起動運転で永久磁石ロータの回転数が同期回転数を超えない時点で同期運転回路による同期運転へ移行する単相交流同期モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直流ブラシレスモータとして起動運転してロータの回転を同期回転まで立上げ、その後、交流電流をモータコイルに流して交流同期モータとしての同期運転に切替える単相交流同期モータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の単相交流同期モータは、単相交流電源に接続されるモータコイルに、当該単相交流電源より供給される交流電流を整流ブリッジ回路により整流し、フィルタ回路により平滑化した直流電流を生成し、永久磁石ロータの磁極位置を検出する検出センサからの検出信号により起動用スイッチング手段をスイッチングしてモータ電流の向きを切換えて通電することにより、直流ブラシレスモータとして起動運転する起動運転回路と、交流電流をモータコイルに通電して交流同期モータとして同期運転する同期運転回路と、単相交流電源とモータコイルとの間に設けられ、起動運転回路への通電と同期運転回路への通電を切換える運転切換えスイッチと、運転切換えスイッチを起動運転回路から同期運転回路へ切り替えて同期運転に移行するよう制御する制御手段を備え、運転切換えスイッチを単相交流電源が起動運転回路と接続するようにしたまま、制御手段は、検出センサの検出信号に従って起動用スイッチング手段をスイッチング制御して起動運転し、永久磁石ロータの回転数が同期回転数近傍の所定回転数に到達すると検出センサの出力波形より位相が遅れるモータ電流波形を少なくとも当該センサ出力波形のゼロクロス点で通電方向が切り替わるようにモータ電流の通電範囲を抑制しながら起動運転するようにしたことにより、起動運転において逆回転トルクの発生を抑えてロータ回転数を同期回転数に至るまで増大させ、安定した同期引き込みを行うことができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開第4030571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された単相交流同期モータには、以下の様な問題点がある。第1に、この単相交流同期モータは、起動・加速はセンサによる単相全波駆動によるため、AC同期回転数を越えた後に位相を検出してAC同期運転に切換るものである。この方法では、切換動作がモータの個体差、動作環境によって不安定になる場合がある。第2に、この単相交流同期モータは、整流波を平滑しているので、大型で大容量の平滑コンデンサが必要であり、ブリッジダイオードから平滑コンデンサに5A以上の過大電流が流れるため、定格の大きい大型のダイオードを選択しなければならない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、整流波の平滑を不要とし、かつ、起動運転から同期運転への切換を安定して行うことが可能な単相交流同期モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、さらに他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0008】
(1)ハウジング内に出力軸を中心に回転可能に設けられた永久磁石ロータと、ステータコアの周囲に単相コイルが巻回された電機子コイルを有するステータとを備える単相交流同期モータにおいて、交流電源より供給される交流電流を整流する整流回路と、該整流回路と前記単相コイルの両端のそれぞれとの間に接続されて前記整流回路により整流された整流電流を前記電機子コイルに流す第1、第2の運転切換スイッチと、該第1、第2の運転切換スイッチのそれぞれに直列に接続される第1、第2のスイッチング素子とを含み、磁極位置を検出する位置センサからの検出信号に基づいて前記第1の運転切換スイッチと前記第2のスイッチング素子のペアと前記第2の運転切換スイッチと前記第1のスイッチング素子のペアとを交互にオン/オフ動作することで、前記単相コイルに流れる前記整流電流の向きを交互に切り替えて、前記永久磁石ロータが第1の所定回転数に到達するまで回転数を上げるセンサ起動期間を有する、直流ブラシレスモータとして起動運転する起動運転回路と、前記交流電源と前記単相コイルの両端のそれぞれとの間に接続される第3、第4の運転切換スイッチを含み、前記第1、第2の運転切換スイッチおよび前記第1、第2のスイッチング素子がオフ動作されることによって前記整流回路からの整流電流が遮断されるとともに、前記第3、第4の運転切換スイッチがオン動作されることで前記交流電源に対して前記単相コイルが直列に接続され、前記交流電流を前記単相コイルに通電することにより、交流同期モータとして同期運転する同期運転回路と、前記起動運転回路による起動運転において、前記永久磁石ロータの回転数が同期回転数を越えずに該同期回転数付近の第2の所定回転数に到達し、前記位置センサの検出信号の立ち上がりまたは立ち下がりと前記交流電流のゼロクロス点とが略一致したタイミングで前記同期運転回路による同期運転へ移行するように制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする単相交流同期モータ(請求項1)。
【0009】
本項に記載の単相交流同期モータによれば、起動運転において、永久磁石ロータの回転数が同期回転数を越えずに該同期回転数付近の第2の所定回転数に到達し、位置センサの検出信号の立ち上がりまたは立ち下がりと交流電流のゼロクロス点とが略一致したタイミングで同期運転回路による同期運転へ移行するように制御する制御手段を備えることで、安定して同期運転に移行することが可能となる。
【0010】
(2)前記起動運転において、前記センサ起動期間の後に、前記位置センサからの検出信号に基づく前記オン/オフ動作を停止し、前記位置センサからの検出信号に基づくことなく前記制御手段から出力される所定の制御信号によって、第1の運転切換スイッチと第2のスイッチング素子のペアと、第2の運転切換スイッチと第1のスイッチング素子のペアとを交互にオン/オフ動作することにより前記単相コイルに流れるパルス電流に基づいて、前記同期回転数を越えずに前記第2の所定回転数まで回転数を上げるパルス運転期間を設けたことを特徴とする(1)項に記載の単相交流同期モータ(請求項2)。
本項に記載の単相交流同期モータによれば、起動運転において、センサ起動期間の後に、上記のようなパルス運転期間を設けたことで、同期回転数を越えずに第2の所定回転数まで徐々に回転数を上げていくため、安定した動作が可能となる。
【0011】
(3)前記同期運転の開始時に所定の空転期間を設けたことを特徴とする(1)または(2)項に記載の単相交流同期モータ(請求項3)。
本項に記載の単相交流同期モータによれば、起動運転と同期運転との間に所定の空転期間を設けたことにより、第1、第2の運転切換スイッチと第1、第2のスイッチング素子とが確実にオフした後に、第3、第4の運転切換スイッチをオンすることができるため、回路がショートして過電流が流れることを阻止し、素子の破壊を防止できる。
【0012】
(4)前記所定の空転期間は、前記交流電流の半波分のn倍(n=整数)に相当する時間であることを特徴とする(3)項に記載の単相交流同期モータ(請求項4)。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る単相交流同期モータは、以上のように構成したため、起動運転において整流波の平滑化を不要とするとともに、起動運転から同期運転への切換動作を、モータの個体差や動作環境によらずに、安定して行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態における単相交流同期モータの構造を説明する軸方向断面図である。
【図2】本発明の一実施形態における単相交流同期モータの駆動回路を示す回路構成図である。
【図3】本発明の一実施形態における単相交流同期モータの起動運転回路の動作を説明する回路構成図である。
【図4】本発明の一実施形態における単相交流同期モータの同期運転回路の動作を説明する回路構成図である。
【図5】本発明の一実施形態における単相交流同期モータの駆動回路において、(A)は、起動運転(センサ起動期間、パルス運転期間)と同期運転での主要部の出力波形を示すタイミングチャート図であり、(B)は、駆動時間とモータの回転数との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態における単相交流同期モータの駆動回路において、パルス運転期間から同期運転期間に移行するときの主要部の出力波形を詳細に示すタイミングチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(モータの構成)
以下、本発明の実施の形態について、添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を利用した駆動回路を搭載したモータの概要を示す軸方向断面図である。図1には、モータ21が示されている。モータ21は、単相交流モータの一例としてのACファンモータであり、回転軸となるシャフト22を備えている。シャフト22は、ベアリング23および24によって支持されている。ベアリング23は、下ハウジング25の下部に取り付けられ、ベアリング24は、下ハウジング25に取り付けられている。この構造により、シャフト22は、下ハウジング25に対して回転自在な状態で取り付けられている。またシャフト22には、永久磁石ロータ26が取り付けられている。永久磁石ロータ26は、複数の磁極に着磁された構造を有する永久磁石27が内周側に固定されるロータヨーク28と、複数の羽根29aを有しロータヨーク28の外周側に固定されるインペラ29とを備えている。
【0016】
ラジアル方向において永久磁石ロータ26に対向して、ステータコア30が配置されている。ステータコア30は、珪素鋼等の磁性材料により形成され、下ハウジング25に固定されている。ステータコア30は、磁極の数に応じた突極を備えた構造を有し、複数の突極が永久磁石ロータ26により周囲から取り囲まれるように配置されている。モータ21では、永久磁石ロータ26の安定点が回転方向に偏差するように固定させて回転方向を決めるようにしており、この点については、通常のDCファンモータと同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0017】
ステータコア30には、ステータコア30の一部を覆うインシュレータ部材31と、インシュレータ部材31に巻回された電機子コイル32が備えられている。電機子コイル32の端部は駆動回路基板33に接続され、駆動回路基板33に接続される外部接続線34はインペラ29を囲うように外周に配置されたハウジング本体35に設けられた配線引出し孔を通じてハウジング外へ引出される。
【0018】
(駆動回路の構成)
次に、本発明の実施の形態における上述した単相交流同期モータの駆動方法を説明するため、その駆動方法を実施するために好適な駆動回路の一例を図2に示す。図2に示す駆動回路1は、交流電源Vacより供給される交流電流を整流する整流回路2と、整流回路2と単相コイルL1の両端のそれぞれとの間に接続されて、整流回路2により整流された整流電流を、電機子コイル32を構成する単相コイルL1に流す第1、第2の運転切換スイッチQ1、Q2と、制御手段(マイクロコンピュータ)5を備えている。
尚、整流回路2は、ダイオードD1〜D4によるダイオードブリッジ回路で形成される全波整流回路である。また、第1、第2の運転切換スイッチQ1、Q2は、MOSFETからなるスイッチング素子から構成され、MOSFETのドレイン端子−ゲート端子間には、ダイオードD5、D6が接続されている。このダイオードD5、D6は、スイッチング素子Q1、Q2の寄生ダイオードあるいは外付けされる整流素子が適用可能である。
【0019】
整流回路2とマイクロコンピュータ5との間には、整流回路2から出力される整流電流を平滑化して直流電流を生成するフィルタ回路3と、フィルタ回路3から出力される直流電流を入力して、所定の直流電圧をマイクロコンピュータ5の入力端子IN1に供給する低電圧源4が配置されている。フィルタ回路3は、図2に示すように、直列接続された抵抗R1とコンデンサC1とからなり、コンデンサC1の一端はGNDに接続されている。尚、コンデンサC1は、平滑化を行う抵抗R1の後段に配置されるため、小容量で長寿命のコンデンサ(たとえば、フィルムコンデンサ)を用いることができる。
【0020】
また、第1、第2の運転切換スイッチQ1、Q2を構成するMOSFETのゲート端子は、それぞれ、スイッチドライブ回路6a、6bに接続されている。スイッチドライブ回路6aは、抵抗R3とスイッチング素子Q5からなる。スイッチング素子Q5は、ベース端子が抵抗素子を介してマイクロコンピュータ5の出力端子OUT1と接続され、コレクタ端子が抵抗R3を介して第1の運転切換スイッチQ1を構成するMOSFETのゲート端子と接続されている。同様に、スイッチドライブ回路6bは、抵抗R5とスイッチング素子Q6からなる。スイッチング素子Q6は、ベース端子が抵抗素子を介してマイクロコンピュータ5の出力端子OUT2と接続され、コレクタ端子が抵抗R5を介して第2の運転切換スイッチQ2を構成するMOSFETのゲート端子と接続されている。
スイッチドライブ回路6a、6bは、マイクロコンピュータ5の出力端子OUT1、OUT2からの制御信号に基き、第1、第2の運転切換スイッチQ1、Q2にオン・オフ動作の切換信号を出力する。スイッチドライブ回路6a、6bは、第1、第2の運転切換スイッチQ1、Q2とマイクロコンピュータ5との間に配置されることにより、第1、第2の運転切換スイッチQ1、Q2に流れる大きな整流電流がマイクロコンピュータ5に流れないように阻止する役割を果たしている。
【0021】
駆動回路1は、さらに、第1、第2の運転切換スイッチQ1、Q2のそれぞれに直列に接続される第1、第2のスイッチング素子Q3、Q4を備えている。第1スイッチング素子Q3と第2のスイッチング素子Q4はバイポーラトランジスタからなり、それぞれ、エミッタ端子−コレクタ端子間にダイオードD7、D8が接続されている。第1のスイッチング素子Q3のベース端子は抵抗素子を介してマイクロコンピュータ5の出力端子OUT5に接続され、第2のスイッチング素子Q4のベース端子は抵抗素子を介してマイクロコンピュータ5の出力端子OUT4に接続されている。
また、単相コイルL1と第1の運転切換スイッチQ1との接続点と、交流電源Vacの一端との間にはトライアックからなる第3の運転切換スイッチSW1が配置されており、交流電源Vacの他端は、トライアックからなる第4の運転切換スイッチSW2の一端に接続され、第4の運転切換スイッチSW2の他端は、単相コイルL1と第2の運転切換スイッチQ2との接続点に接続されている。第3の運転切換スイッチSW1と第4の運転切換スイッチSW2のそれぞれのゲート端子は、トライアックゲート電圧生成回路7を介してマイクロコンピュータ5の出力端子OUT3に接続されている。ここで、トライアックゲート電圧生成回路7は、マイクロコンピュータ5からの指令により第3の運転切換スイッチSW1および第4の運転切換スイッチSW2を動作させるために必要なゲート電圧を生成する働きを担っている。
【0022】
さらに、駆動回路1は、永久磁石ロータ26の磁極位置を検出するための位置センサ(例えば、ホールIC)8を備えており、位置センサ8の出力は、マイクロコンピュータ5の入力端子IN2に接続されている。また、交流電源Vacラインに並列にACゼロクロス検出回路(例えば、フォトカプラ)9が接続され、ACゼロクロス検出回路9の出力は、マイクロコンピュータ5の入力端子IN3に接続されている。
【0023】
次に、駆動回路1の起動運転動作と同期運転動作の一例について、図を用いて説明する。図3は、駆動回路1における起動運転期間に構成される起動運転回路1aの動作を説明する回路構成図である。図4は、駆動回路1における同期運転時に構成される同期運転回路1bの動作を説明する回路構成図である。また、図5(A)は、起動運転(センサ起動期間、パルス運転期間)と同期運転における駆動回路1の主要部の出力波形を示すタイミングチャートであり、図5(B)は、駆動時間とモータの回転数との関係を示すグラフである。図6は、パルス運転期間から同期運転に移行するときの駆動回路1の主要部の出力波形を詳細具体的に示すタイミングチャートである。
【0024】
(起動運転期間)
まず、起動運転回路1aの回路動作について説明する。
図3に示すように、交流電源Vacの交流電流は整流回路2を通って整流され、整流電流はフィルタ回路3を通って平滑化され、平滑化された直流電流は低電圧源4に入力される。そして、低電圧源4から所定の直流電圧が駆動電圧としてマイクロコンピュータ5に印加される。つまり、マイクロコンピュータ5の駆動電圧は交流電源Vacの交流電流を整流/平滑後、低電圧源4によって降圧された所定の電圧を用いるようにしているため、外部の直流電源からマイクロコンピュータ5に駆動電圧を取り込む必要が無く、回路を簡素化することができる。
【0025】
起動運転期間において、マイクロコンピュータ5の出力端子OUT3の出力信号がLowレベルとなっているため、第3の運転切換スイッチSW1および第4の運転切換スイッチSW2はどちらもオフ状態である(図5(A)の(d)、(e)参照)。
【0026】
(起動運転期間:センサ起動期間)
起動運転期間は、センサ起動期間から開始し、この期間において、永久磁石ロータ26の磁極位置に応じた位置センサ8からの検出信号(図5(A)の(f)参照)に基づいて一般的な単相全波駆動を行うことによりモータを起動し、第1の所定回転数Hまで比較的急激に回転数を上げるものである(図5(B)のC−D)。
【0027】
センサ起動期間において、交流電源Vacより入力される電源電圧の周波数(50Hzまたは60Hz)がACゼロクロス検出回路9で検出され、その結果に基づいて目標の同期回転数Jを決定し、同期回転数Jに基づいて第1の所定回転数H(例えば、同期回転数Jの50〜80%)が決定される。
そして、マイクロコンピュータ5の出力端子OUT1からスイッチドライブ回路6aを介して出力されるHighレベルの信号により第1の運転切換スイッチQ1がオン動作され、同時に、マイクロコンピュータ5の出力端子OUT4から出力されるHighレベルの信号により第2のスイッチング素子Q4がオン動作されることにより、交流電源Vacの交流電流(図5(A)の(a)参照)が整流回路2を通って整流された整流電流(図5(A)の(c)参照)が、単相コイルL1の一方向に流れる電流経路が形成される(図3の白抜きの丸1)。また、マイクロコンピュータ5の出力端子OUT2からスイッチドライブ回路6bを介して出力されるHighレベルの信号により第2の運転切換スイッチQ2がオン動作され、同時に、マイクロコンピュータ5の出力端子OUT5から出力されるHighレベルの信号により第1スイッチング素子Q3がオン動作されることにより、交流電源Vacの交流電流が整流回路2を通って整流された整流電流が、単相コイルL1の逆方向に流れる電流経路が形成される(図3の白抜きの丸2)。
そして、マイクロコンピュータ5の出力端子OUT1、OUT4と出力端子OUT2、OUT5から、位置センサ8からの検出信号に応じて、Highレベルの信号が交互に出力されることにより、第1の運転切換スイッチQ1と第2のスイッチング素子Q4のペアと、第2の運転切換スイッチQ2と第1のスイッチング素子Q3のペアとが交互にオンされて(図5(A)の(g)、(h)参照)、単相コイルL1の両方向に交互に通電され、直流ブラシレスモータとしてモータ21が起動、運転される。この際、それぞれの方向に通電される時間は、位置センサ8からの検出信号に基づきつつ、通電回数とともに徐々に短くなるようにマイクロコンピュータ5によって制御され、永久磁石ロータ26の回転数が上昇するように設定される。
【0028】
センサ起動期間において、永久磁石ロータ26の回転数が上昇し、第1の所定回転数Hに達した後、パルス運転に移行する。ここで、センサ起動期間からパルス運転期間に移行するための第1の所定回転数Hは、モータ21の機械的固有振動数による振動が少なくなった時点の回転数とすることが好ましい。
【0029】
(起動運転期間:パルス運転期間)
パルス運転期間では、位置センサ8からの検出信号に基づく第1、第2の運転切換スイッチQ1、Q2及び第1、第2のスイッチング素子Q3、Q4のオン/オフ動作が停止される。そして、第1の運転切換スイッチQ1と第2のスイッチング素子Q4のペアと、第2の運転切換スイッチQ2と第1のスイッチング素子Q3のペアは、マイクロコンピュータ5の出力端子OUT1、OUT2、OUT4、OUT5から出力される所定の制御信号によって交互にオン/オフ動作され、単相コイルL1にパルス電流を通電し、それによって第2の所定回転数Iまで比較的緩やかに回転数を上げるものである(図5(B)のD−E)。
ここで、第2の所定回転数Iは、目標の同期回転数Jに基づいて、同期回転数を越えない同期回転数付近の値として決定される(例えば、同期回転数の90〜95%)。
ここで、上記所定の制御信号は、位置センサ8からの検出信号に基づくことなく、モータ21の運転に関連する種々のパラメータ(例えば、第1の所定回転数H、第2の所定回転数I、パルス運転期間長等)に基づいて設定される。
【0030】
パルス運転期間において、永久磁石ロータ26の回転数が上昇し、第2の所定回転数Jに達した後、空転期間に移行する。この移行は、具体的には次のように実施される。
パルス運転期間において、永久磁石ロータ26の回転数が第2の所定回転数Jに達した後、駆動に使用している脈流電流により、単相コイルL1に流れる電流に波形割れが周期的に発生して、加速モードと減速モードが繰り返される状態が生じる(図6参照)。駆動回路1(1a)は、ACゼロクロス検出回路9により交流電圧Vacのゼロクロス点を検出して、加速モードに移行した後の、位置センサ8の検出信号の立ち上がりまたは立ち下がりと交流電圧Vacのゼロクロス点とが略一致するタイミング(図6のゼロクロスタイミングを示す囲い部分参照)で、マイクロコンピュータ5の出力端子OUT1、OUT2、OUT4、OUT5から出力される信号をHighレベルからLowレベルに切り替える。これによって、第1、第2の運転切換スイッチQ1、Q2及び第1、第2のスイッチング素子Q3、Q4がオフし、脈流電流の単相コイルL1への通電が遮断され、同期運転期間に移行する。
【0031】
(同期運転期間:空転期間)
本実施形態では、同期運転期間の開始時に、交流電源Vacにより供給される交流電流の半波分に相当する空転期間が設けられている(図5(B)のE−F、図6)。空転期間では、第1、第2の運転切換スイッチQ1、Q2、第1、第2のスイッチング素子Q3、Q4、及び、第3、第4の運転切換スイッチSW1、SW2は、いずれもオフ状態である。尚、この空転期間は、交流電流の半波分のn倍(n=整数)であればよい。
【0032】
(同期運転期間:空転期間後)
次に、空転期間後の同期運転における、同期運転回路1bの回路動作について説明する。
同期運転においては、図4に示すように、マイクロコンピュータ5の出力端子OUT3の出力信号がLowレベルからHighレベルに切り替わることにより、トライアックゲート電圧生成回路7を介して第3の運転切換スイッチSW1及び第4の運転切換スイッチSW2のそれぞれのゲート端子にHighレベルの信号が加えられ、第3の運転切換スイッチSW1および第4の運転切換スイッチSW2がどちらもオンされる。そして、第1、第2の運転切換スイッチQ1、Q2及び第1、第2のスイッチング素子Q3、Q4は、空転期間の状態のまま、いずれもオフに維持されるため、整流回路2からの整流電流は単相コイルL1には流れない。
以上によって、単相コイルL1の一端は、第3の運転切換スイッチSW1を介して交流電源Vacの一端と接続され、単相コイルL1の他端は、第4の運転切換スイッチSW2を介して交流電源Vacの他端と接続されて、単相コイルL1に交流電源Vacから供給される交流電流が流れる(図4の白抜きの丸3の矢印で示す経路)。これによって、モータ21は、単相交流同期モータとして所定の同期回転数Jで同期運転を開始する(図5(B)のG以降)。
【0033】
以上のように、駆動回路1では、起動運転期間において、単相コイルL1に平滑化されていない整流電流(脈流電流)を流すものであるため、整流回路2のダイオードD1〜D4には定格の低いダイオードを用いればよく、また、大容量の平滑コンデンサが不要となり、部品コストを低減することができる。
【0034】
また、センサ起動期間では、位置センサ8からの検出信号に基づいてモータ21を駆動するため、モータ21の機械的固有振動数における振動や音の発生を回避しつつ、安定して加速的に回転数を上げることができる。さらに、パルス運転期間において、同期回転数を越えずに同期回転数J付近の第2の所定回転数Iまで徐々に回転数を上げていくため、起動運転から同期運転への切換動作が、モータの個体差や動作環境によって不安定になることがなく、交流電流のゼロクロスタイミングを捉えて同期運転に移行するため、安定して同期運転に移行することができる。
【0035】
また、同期運転期間の開始時に空転期間を設けたため、第1、第2の運転切換スイッチQ1、Q2及び第1、第2のスイッチング素子Q3、Q4が確実にオフした後に、第3、第4の運転切換スイッチSW1、SW2をオンすることができるため、回路がショートして過電流が流れることを素子し、素子の破壊を防止することができる。
【0036】
以上、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、位置センサ8は、ホールICではなく、ホール素子またはフォトセンサであってもよい。ACゼロクロス検出回路9は、フォトカプラに限らず、直接、電圧検出回路を構成してもよい。第1、第2運転切換スイッチQ1、Q2は、MOSFETに限定されず、バイポーラトランジスタであってもよい。第1、第2スイッチング素子Q3、Q4はバイポーラトランジスタに限定されず、MOSFET等のFETであってもよい。第3、第4運転切換スイッチSW1、SW2はトライアックに限定されず、任意の適切な双方向素子、例えばリレースイッチ、を使用することができる。制御手段は、マイクロコンピュータ5に限定されず、DSPやFPGAなどのプログラマブルデバイスを用いることができる。
【符号の説明】
【0037】
1:駆動回路、1a:起動運転回路、1b:同期運転回路、2:整流回路、3:フィルタ回路、4:低電圧源、5:制御手段(マイクロコンピュータ)、6a、6b:スイッチドライブ回路、7:トライアックゲート電圧生成回路、8:位置センサ、9:ACゼロクロス検出回路、21:モータ、22:シャフト、23,24:ベアリング、25:下ハウジング、26:永久磁石ロータ、27:永久磁石、28:ロータヨーク、29a:羽根、29:インペラ、30:ステータコア、31:インシュレータ部材、32:電機子コイル、33:駆動回路基板、34:外部接続線、35:ハウジング本体、C1:コンデンサ、D1〜D8:ダイオード、L1:単相コイル、Q1:第1の運転切換スイッチ、Q2:第2の運転切換スイッチ、Q3:第1のスイッチング素子、Q4:第2のスイッチング素子、Q5,Q6:スイッチング素子、R1〜R5:抵抗、SW1:第3の運転切換スイッチ、SW2:第4の運転切換スイッチ、Vac:交流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に出力軸を中心に回転可能に設けられた永久磁石ロータと、ステータコアの周囲に単相コイルが巻回された電機子コイルを有するステータとを備える単相交流同期モータにおいて、
交流電源より供給される交流電流を整流する整流回路と、該整流回路と前記単相コイルの両端のそれぞれとの間に接続されて前記整流回路により整流された整流電流を前記電機子コイルに流す第1、第2の運転切換スイッチと、該第1、第2の運転切換スイッチのそれぞれに直列に接続される第1、第2のスイッチング素子とを含み、磁極位置を検出する位置センサからの検出信号に基づいて前記第1の運転切換スイッチと前記第2のスイッチング素子のペアと前記第2の運転切換スイッチと前記第1のスイッチング素子のペアとを交互にオン/オフ動作することで、前記単相コイルに流れる前記整流電流の向きを交互に切り替えて、前記永久磁石ロータが第1の所定回転数に到達するまで回転数を上げるセンサ起動期間を有する、直流ブラシレスモータとして起動運転する起動運転回路と、
前記交流電源と前記単相コイルの両端のそれぞれとの間に接続される第3、第4の運転切換スイッチを含み、前記第1、第2の運転切換スイッチおよび前記第1、第2のスイッチング素子がオフ動作されることによって前記整流回路からの整流電流が遮断されるとともに、前記第3、第4の運転切換スイッチがオン動作されることで前記交流電源に対して前記単相コイルが直列に接続され、前記交流電流を前記単相コイルに通電することにより、交流同期モータとして同期運転する同期運転回路と、
前記起動運転回路による起動運転において、前記永久磁石ロータの回転数が同期回転数を越えずに該同期回転数付近の第2の所定回転数に到達し、前記位置センサの検出信号の立ち上がりまたは立ち下がりと前記交流電流のゼロクロス点とが略一致したタイミングで前記同期運転回路による同期運転へ移行するように制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする単相交流同期モータ。
【請求項2】
前記起動運転において、前記センサ起動期間の後に、前記位置センサからの検出信号に基づく前記オン/オフ動作を停止し、前記位置センサからの検出信号に基づくことなく前記制御手段から出力される所定の制御信号によって、第1の運転切換スイッチと第2のスイッチング素子のペアと、第2の運転切換スイッチと第1のスイッチング素子のペアとを交互にオン/オフ動作することにより前記単相コイルに流れるパルス電流に基づいて、前記同期回転数を越えずに前記第2の所定回転数まで回転数を上げるパルス運転期間を設けたことを特徴とする請求項1に記載の単相交流同期モータ。
【請求項3】
前記同期運転の開始時に所定の空転期間を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の単相交流同期モータ。
【請求項4】
前記所定の空転期間は、前記交流電流の半波分のn倍(n=整数)に相当する時間であることを特徴とする請求項3に記載の単相交流同期モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−254564(P2011−254564A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124487(P2010−124487)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】