説明

単相3線屋内電力線を用いた異相間通信装置

【課題】従来の技術では不可能であった低電圧線系統(100V系:L1線−中性線N系統、L2線−中性線N系統)と高電圧線系統(200V系:L1線−L2線系統)間の通信を可能とする屋内電力線通信用の異相間通信装置を提供する。
【解決手段】位相が互いに180度異なるL1線およびL2線の2系統の電力線および中性線Nからなる単相3線屋内電力線を用いた異相間通信装置であって、L1線ライン11とL2線ライン12とを第1コンデンサC1で接続し、中性線Nライン13を、L1線−L2線系統のアース線10と、第2コンデンサC2を介して接続し、L1線−中性線N系統、L2線−中性線N系統、およびL1線−L2線系統の電力線相互間で、商用電源の周波数よりも十分高い搬送波を持つ信号の授受を行うようにした、単相3線屋内電力線を用いた異相間通信装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相が互いに180度異なるL1線およびL2線の2系統の電力線および中性線Nからなる単相3線屋内電力線を用いた異相間通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
屋内の電力線を通信回線として利用する電力線通信(PLC:Power Line Communication)が注目されている。これは、電気のコンセントに通信用アダプタを設置してパソコンや電気器具などをつなぐことにより、2Mbps〜30Mbpsのデータ通信や遠隔制御を行う技術である。この技術を用いることにより、新たにケーブルなどを屋内に敷設することなく、構内通信網(LAN:Local Area Network)やイントラネットを構築することができる。
【0003】
一般的な屋内配線では、単相3線100Vが用いられており、中性線Nを共通線として、位相差が180度のL1線の相とL2線の相の2種類があり、必要に応じてL1線−L2線間で200Vとして利用されている。
【0004】
図6は、単相3線電力線の屋内分電盤の概略構成を示す系統図である。分電盤の配線は、L1線ライン11、L2線ライン12、中性線Nライン13で構成され、2系統に別れている。L1線−中性線N系統と、L2線−中性線N系統には、それぞれAC100Vの電圧が印加されており、L1線−L2線間ではAC200Vを取り出すことができる。
【0005】
図7は、単相3線電力線を通信回線として使用した例を示す配電系統図であり、L1線−中性線N系統(AC100V)には、ブレーカ14を介してPC(パーソナルコンピュータ)21〜23が接続されており、L2線−中性線N系統(AC100V)には、ブレーカ14を介してPC24,25、テレビ26が接続されており、L1線−L2線系統(AC200V)にはブレーカ14を介してクーラー27が接続されている。図中15は低電圧配電線と電力線との間に設けられる漏電ブレーカ、16は過電圧検出リード線である。
【0006】
図7に示すように、同一系統内のPC21〜23間、およびPC24,25、テレビ26間はそれぞれ相互通信可能であるが、系統が異なる機器間、例えばPC21とPC24間、あるいは、PC23とクーラー27間は通信ができない。
【0007】
L1線系統とL2線系統間の通信を実現する方法として、図8に示すように、L1線ライン11とL2線ライン12間をコンデンサC1で接続する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
このコンデンサC1によって、ハイパスフィルタを構成し、低周波の商用電力(50Hz,60Hz)は通過せずに、高周波(2MHz〜30MHz)の信号のみを通過させることができ、これにより、L1線−中性線N系統とL2線−中性線N系統間で通信が可能となる。
【0009】
【特許文献1】特開平10−208184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、L1線ライン11とL2線ライン12間をコンデンサC1で接続する方法では、図9に示すように、L1線とL2線に同じ信号1が流れているため、200V系統であるL1線−L2線間ではその信号1を取り出すことができず、低電圧線系統と高電圧線系統間の通信はできない。
【0011】
そこで本発明は、従来の技術では不可能であった低電圧線系統(100V系:L1線−中性線N系統、L2線−中性線N系統)と高電圧線系統(200V系:L1線−L2線系統)間の通信を可能とする屋内電力線通信用の異相間通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、位相が180度異なるL1線およびL2線の2系統の電力線および中性線Nからなる単相3線を用いた屋内電力線通信用の異相間通信装置であって、前記L1線とL2線とを第1コンデンサで接続し、前記中性線Nを、L1線−L2線系統の接地線と、第2コンデンサを介して接続し、L1線−中性線N系統、L2線−中性線N系統、および前記L1線−L2線系統の相互間で、商用電源の周波数よりも十分高い搬送波を持つ信号の授受を行う構成としたことを特徴とする、単相3線を用いた屋内電力線通信用の異相間通信装置である。
【0013】
本発明においては、低電圧線(100V)系統であるL1線とL2線は、第1コンデンサで接続されているため、L1線−中性線N間に信号を入力すると、L2線−中性線N間には、その信号と大きさ、位相が同じ信号が伝送される。逆に、L2線−中性線N間に信号を入力すると、L1線−中性線N間には、その信号と大きさ、位相が同じ信号が伝送される。また、高電圧線(200V)系統の接地線と中性線Nは第2コンデンサを介して接続されているため、L1線−高電圧線系統接地線間、L2線−高電圧線系統接地線間にも入力信号と同じ信号が伝送される。すなわち、低電圧線系統のL1線−中性線N系統とL2線−中性線N系統間の通信のみならず、低電圧線系統と高電圧線系統間でも通信が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、位相が180度異なるL1線およびL2線の2系統の電力線および中性線Nからなる単相3線を用いた屋内電力線通信用の異相間通信装置であって、L1線とL2線とを第1コンデンサで接続し、L1線−L2線系統の接地線と中性線Nを、第2コンデンサを介して接続し、L1線−中性線N系統、L2線−中性線N系統、およびL1線−L2線系統の相互間で、商用電源の周波数よりも十分高い搬送波を持つ信号の授受を行う構成としたことにより、低電圧線系統と高電圧線系統間の通信が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて具体的に説明する。
図1は本発明の基本的構成を示す回路図である。この図に示されるように、L1線ライン11とL2線ライン12とは第1コンデンサC1により接続されており、中性線Nライン13と高電圧系統(L1線−L2線系統)のアース線(接地線)10との間は第2コンデンサC2により接続されている。L1線ライン11と中性線Nライン13との間は交流100Vが供給され、L2線ライン12と中性線Nライン13との間は逆相の交流100Vが供給されている。したがって、L1線ライン11とL2線ライン12との間には、交流200Vが出力されるので、高電圧(200V)機器を接続することができる。
【0016】
以上の構成の単相3線の屋内電力線を用いて異相間通信を行う方法について説明する。
いま、L1線ライン11と中性線Nライン13との間に、商用電源の周波数(50Hzまたは60Hz)より十分高い搬送波を持つ信号e1=Esinωtを注入するものとする。
【0017】
このとき、L2線ライン12と中性線Nライン13との間に信号周波数帯のみを終端するための整合終端インピーダンスZ2を挿入し、さらに、高電圧L1線−L2線系統のアース線(接地線)10とL1線間に前記整合終端インピーダンスZ2と同じ機能を有するインピーダンスZ31を挿入するか、もしくは高電圧L1線−L2線系統のアース線(接地線)10とL2線間にZ31と同じインピーダンスZ32を挿入する。仮にインピーダンスZ31を挿入し、信号e1からの電流をi1とする。電流i1は、第1コンデンサC1を介してL2線ライン12、そして終端インピーダンスZ2を通り、中性線Nライン13に流れる電流i2と、高電圧線系統L1線ライン31を通り、終端インピーダンスZ31を通り第2コンデンサC2を介して中性線Nライン13に流れる電流i31となる。
【0018】
第1コンデンサC1の信号帯域におけるインピーダンスをZc1、第2コンデンサC2の信号帯域におけるインピーダンスをZc2とすると、L2線−中性線N低電圧系統の終端インピーダンスZ2の両端の電圧e2は、
e2=e1×Z2/(Zc1+Z2)
で与えられ、
高電圧線系統L1線ライン31と高電圧系統接地線間の終端インピーダンスZ31両端の電圧e31は、
e31=e1×Z31/(Z31+Zc2)
で与えられる。
【0019】
このようにして、低電圧系統L1線−中性線N間に入力した信号e1を低電圧系統L2線−中性線N線間、および高電圧系統L1線−高圧系接地線間に出力することが可能となる。
ただし、入力電流i1が一定となる場合は、電流(入力電力)が分割される(分岐される)ため、前述のe2、e31は、入力信号e1の振幅のほば半分の大きさとなる。
なお、高電圧L1線−L2線系統のアース線(接地線)10とL2線間に終端インピーダンスZ32を挿入した場合の電圧e32についても、同様に求めることができる。
【0020】
図2は、本発明の測定用配線図である。この配線図において、第1コンデンサC1とL1線系統およびL2線系統を接続するケーブルS1,S2、および第2コンデンサと高電圧線系統を接続するケーブルS3をそれぞれ5mとし、第1コンデンサC1として10nFのコンデンサを付加する。また高電圧(200V)系統のアース線10を中性線Nに接続し、電力カットのために第2コンデンサC2を付加する。このとき、L1線のケーブルS1から信号(正弦波:2M〜30MHz、10Vp−p)を入力した場合の伝送特性を、スペクトラムアナライザにより測定、評価した。その際、付加する第2コンデンサC2の容量は0.1nF,1nF,10nFとした。各ケーブルの末端は信号の反射を防ぐため、整合用インピーダンスZmで終端している。またスペクトラムアナライザ19の信号出力部と入力部にはそれぞれバランサ20を設けている。
【0021】
図3に、アース線10とコンデンサC2を付加した場合の、AC100V異相間の伝送特性の結果を示す。付加する第2コンデンサC2の容量に関わらず、フラットな透過特性を得ることができることを確認した。
【0022】
また図4に、100V−200V間の伝送特性の結果を示す。中性線Nに10nFの第2コンデンサC2を付加することにより、ほぼフラットな特性を得ることができる。
【0023】
図5は、本発明の実施の形態を示す配電系統図である。L1線−中性線N系統(AC100V)には、ブレーカ14を介してPC21〜23が接続されており、L2線−中性線N系統(AC100V)には、ブレーカ14を介してPC24,25、テレビ26が接続されており、L1線−L2線系統(AC200V)には、ブレーカ14を介してクーラー27が接続されている。図中15は低圧配電線と電力線との間に設けられる漏電ブレーカ、16は過電圧検出リード線である。
【0024】
L1線系統とL2線系統には、図1に示した第1コンデンサC1が接続されており、また中性線Nライン13とアースラインとの間には第2コンデンサC2が接続されている。このため、同一系統内のPC21〜23間、およびPC24,25、テレビ26間、および、系統が異なる機器間、例えばPC21とPC24間のみならず、低電圧系統側のPC23と高電圧系統側のクーラー27間も通信が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、従来の技術では不可能であった低電圧線系統(100V系:L1線−中性線N系統、L2線−中性線N系統)と高電圧線系統(200V系:L1線−L2線系統)間の通信を可能とする異相間通信装置として、単相3線を用いた屋内電力線通信の分野に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の基本的構成を示す回路図である。
【図2】本発明の測定用配線図である。
【図3】本発明におけるアース線付加、コンデンサ可変の低電圧線系統間の通信特性を示すグラフである。
【図4】本発明におけるアース線付加、コンデンサ可変の低電圧線系統と高電圧線系統間の通信特性を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態を示す配電系統図である。
【図6】単相3線電力線の屋内分電盤の概略構成を示す系統図である。
【図7】単相3線電力線を通信回線として使用した例を示す配電系統図である。
【図8】従来技術を示す配電系統図である。
【図9】従来技術の問題を示す回路図である。
【符号の説明】
【0027】
10 アース線(接地線)
11 L1線ライン
12 L2線ライン
13 中性線Nライン
14 ブレーカ
15 漏電ブレーカ
16 過電圧検出リード線
19 スペクトラムアナライザ
20 バランサ
21〜25 PC(パーソナルコンピュータ)
26 テレビ
27 クーラー
31 高電圧線系統L1線ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相が互いに180度異なるL1線およびL2線の2系統の電力線および中性線Nからなる単相3線屋内電力線を用いた異相間通信装置であって、
前記L1線とL2線とを第1コンデンサで接続し、前記中性線Nを、L1線−L2線系統の接地線と、第2コンデンサを介して接続し、L1線−中性線N系統、L2線−中性線N系統、および前記L1線−L2線系統の電力線相互間で、商用電源の周波数よりも十分高い搬送波を持つ信号の授受を行う構成としたことを特徴とする、単相3線屋内電力線を用いた異相間通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−236355(P2008−236355A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72904(P2007−72904)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月21日 電気関係学会九州支部連合会主催の「第59回電気関係学会九州支部連合大会」にてWeb公開
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】