説明

単結晶インゴットの円筒研削方法

【課題】研削対象である単結晶インゴットの形状把握を十分に可能とし、効率良く円筒研削することができる単結晶インゴットの円筒研削方法を提供する。
【解決手段】インゴットの外周における複数の箇所で、それぞれ軸方向に沿ってインゴットの加工中心軸からの径方向寸法を測定する(ステップ#5)。寸法測定を行った箇所ごとに、測定された径方向寸法から実研削代の軸方向分布を算出し、予め設定された設定研削代と実研削代とを比較し、設定研削代を超える実研削代を有する部分を特定する(ステップ#10、15)。特定された部分全てに対し砥石を移動させて部分研削を行った後(ステップ#20)、インゴットの全長にわたり砥石を移動させて全長研削を行う(ステップ#25)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶インゴットをウェーハにスライスする前段階としてその外周を研削する単結晶インゴットの円筒研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンなどの単結晶インゴットは、半導体デバイスに用いられるウェーハの素材であり、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という)などによって育成される。CZ法では、減圧下の不活性ガス雰囲気に維持されたチャンバ内において、石英ルツボに貯溜された原料融液に種結晶を浸漬し、浸漬した種結晶を徐々に引き上げることにより、種結晶の下方に単結晶のインゴットを育成する。
【0003】
図1は、単結晶インゴットの標準的な形状を模式的に示す図である。CZ法による単結晶の育成では、種結晶の引き上げに伴って、種結晶の直下にネック部が形成され、ネック部から逐次直径を増加させたショルダー部2が形成される。次いで、ウェーハ用に製品として使用される概ね円柱状の直胴部3が育成され、さらに、直胴部から逐次直径を減少させたテイル部4が形成される。育成された単結晶インゴット1は、ネック部が切断され、ショルダー部2、直胴部3およびテイル部4から構成される。
【0004】
インゴットは、円筒研削工程で直胴部の外周を研削されて直胴部を円柱状に加工され、スライス、面取り、エッチング、研磨、洗浄などの工程を経て、半導体デバイス用のウェーハとなる。
【0005】
通常、円筒研削では、インゴットを両端から挟み込んで支持し、支持したインゴットを軸周りに回転させ、砥石をインゴットの外周に接触させながらインゴットの軸方向に移動させることにより、直胴部外周の研削を行う。このとき、予めインゴットの直径を全長にわたり測定し、測定された直径のうちの最大直径を基準として、インゴットの軸方向全長にわたり砥石を数回繰り返し移動させ、仕上げ直径まで研削を行う。育成されたインゴットは、直胴部の直径が微妙に変化したり、局部的に拡大している場合があるからである。
【0006】
図2は、実操業で育成され得る単結晶インゴットの形状例を模式的に示す図であり、同図(a)は直胴部のトップ側で直径が拡大した例、同図(b)はさらに直胴部のボトム側で直径が拡大した例、同図(c)は直胴部のミドル部で直径が拡大した例をそれぞれ示している。
【0007】
実操業では、育成条件を高度に制御しても、直径を急激に変化させる部分で直径が拡大し易く、図2(a)および(b)に示すように、直胴部3のトップ側部分5やボトム側部分6で直径が拡大することがある。また、単結晶育成時に、何らかのトラブルにより、引き上げ速度や融液温度などが異常に変動し、これに起因して、図2(c)に示すように、直胴部3のミドル部でも直径が拡大することがある。例えば、直径300mmのウェーハ用に直径308mm程度のインゴットを育成する場合、局部的に直径が315mm程度に達することがある。
【0008】
直径が局部的に拡大したインゴットを円筒研削する場合、研削の初期段階においては、直径が拡大した部分は研削されるが、その他の部分は研削されることなく、砥石が空振りで移動する状況になる。このため、従来の円筒研削方法では、研削に全く寄与することなく、砥石が空振りで移動する過程が存在することにより、円筒研削全体に要するサイクルタイムや電力量にロスが発生し、研削水として使用する工業用水にもロスが発生する。
【0009】
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、インゴットの直径を軸方向に沿って測定し、その結果に基づき直径が局部的に拡大した部分を特定し、当該部分に対し砥石を軸方向に移動させて部分研削を行った後に、インゴットの軸方向全長にわたり砥石を移動させて全長研削を行う円筒研削方法が提案されている。この円筒研削方法では、研削の初期に、インゴットの直径が拡大した部分を特定して部分研削するため、全体として作業効率良く研削が行えるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−58185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の通り、実操業で育成される単結晶インゴットは、直径が局部的に拡大することがあるが、現実にはこれに加え、くねりが生じることがあり、円筒研削の際に加工中心軸に対して偏芯が発生する。このようにくねりが生じたインゴットを円筒研削する場合、前記特許文献1に提案された円筒研削方法では、部分研削を施す部分と施さない部分の特定を直径によって行うことから、偏芯が全く考慮されることなく、部分研削の要否部分の特定が不適切になる。直径の拡大量が小さくても偏芯量が大きい部分では、研削代が多く、部分研削を要するからである。
【0012】
部分研削の要否部分の特定が不適切であると、実際には部分研削を要する部分で部分研削が行われないことから、その後の全長研削で砥石に過大な負荷が生じ、砥石寿命の低下や加工トラブルにつながる。すなわち、前記特許文献1に提案された円筒研削方法は、研削対象である単結晶インゴットの形状を十分に把握することが困難であり、効率良くインゴットを円筒研削するには不十分である。
【0013】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、研削対象である単結晶インゴットの形状把握を十分に可能とし、効率良く円筒研削することができる単結晶インゴットの円筒研削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するため、部分研削を行うことを前提とし、偏芯を含めてインゴットの形状把握を十分に可能とする手法について種々の検討を重ねた。その結果、部分研削を行うに際し、インゴットの外周における複数箇所で加工中心軸からの径方向寸法を測定し、その寸法から算出される実研削代を指標とすることにより、インゴットの形状を偏芯を含めて把握することができ、その結果として、部分研削の要否部分を的確に特定するのが可能であることを知見した。
【0015】
本発明は、このような知見に基づいて完成させたものであり、その要旨は、下記の単結晶インゴットの円筒研削方法にある。すなわち、単結晶インゴットの軸方向に砥石を相対的に移動させてインゴットの外周を研削する円筒研削方法であって、インゴットの外周における複数の箇所で、それぞれ軸方向に沿ってインゴットの加工中心軸からの径方向寸法を測定する測定工程と、寸法測定を行った箇所ごとに、測定された径方向寸法から実研削代の軸方向分布を算出し、予め設定された設定研削代と実研削代とを比較し、設定研削代を超える実研削代を有する部分を特定する特定工程と、特定された部分全てに対し砥石を移動させて部分研削を行った後、インゴットの全長にわたり砥石を移動させて全長研削を行う研削工程と、を含むことを特徴とする単結晶インゴットの円筒研削方法である。
【0016】
上記の円筒研削方法において、前記測定工程では、インゴットの外周のうち、180°の等角度を隔てた2箇所、120°の等角度を隔てた3箇所、または90°の等角度を隔てた4箇所で径方向寸法の測定を行うことが好ましい。
【0017】
また、上記の円筒研削方法において、前記測定工程では、インゴットの軸方向に沿ってリニアゲージを相対的に移動させて径方向寸法の測定を行う構成とすることができる。この場合、前記リニアゲージの移動速度を100〜500mm/minとすることが好ましい。
【0018】
また、上記の円筒研削方法では、前記研削工程で部分研削を行う際、部分研削を施す部分が部分研削を施さない部分を間に挟んで複数存在する場合、部分研削を施す部分では、砥石の移動速度を1〜200mm/minとし、部分研削を施さない部分では、砥石の移動速度を200〜5000mm/minとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の単結晶インゴットの円筒研削方法によれば、インゴットの外周における複数箇所で加工中心軸からの径方向寸法を測定し、その寸法から算出される実研削代を指標とすることにより、インゴットの形状を偏芯を含めて把握することができる。その結果、部分研削の要否部分を的確に特定することが可能であり、これにより、部分研削を要する部分で適切に部分研削を行うことができ、その後の全長研削で砥石に過大な負荷が生じることはなく、砥石寿命の低下や加工トラブルを防止することができる。しかも、部分研削を施すことにより、円筒研削全体としてサイクルタイムや電力量や工業用水のロスを抑制することが可能である。これらのことから、効率良く円筒研削を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】単結晶インゴットの標準的な形状を模式的に示す図である。
【図2】実操業で育成され得る単結晶インゴットの形状例を模式的に示す図である。
【図3】本発明の単結晶インゴットの円筒研削方法を適用できる円筒研削装置の構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明の単結晶インゴットの円筒研削方法による研削手順を説明するフロー図である。
【図5】本発明の単結晶インゴットの円筒研削方法を適用した具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の単結晶インゴットの円筒研削方法についてその実施形態を詳述する。
【0022】
図3は、本発明の単結晶インゴットの円筒研削方法を適用できる円筒研削装置の構成を模式的に示す図である。同図に示すように、円筒研削装置は、研削対象である単結晶インゴット1を支持するため、主軸側チャック11を軸回転可能に有する主軸台12と、心押側チャック13を軸回転可能に有する心押台14を備える。インゴット1は、両端から主軸側チャック11と心押側チャック13によって挟み込まれて支持され、図示しないモータから主軸側チャック11に動力が伝達されて軸周りに回転する。
【0023】
また、円筒研削装置は、支持されたインゴット1の形状を測定するため、リニアゲージ15と、このリニアゲージ15を摺動可能に支持するガイドレール17を備える。このガイドレール17は、インゴット1の軸方向全長にわたり、インゴット1の加工中心軸と平行な方向に延在する。リニアゲージ15は、インゴット1の外周面に接触する測定子16を有し、インゴット1の軸方向に移動しながら、インゴット1の加工中心軸からの径方向寸法を測定する。測定された径方向寸法のデータは、順次、制御部21に出力される。
【0024】
さらに、円筒研削装置は、支持されたインゴット1の外周を円筒研削するため、砥石18と、この砥石18を回転可能に支持するとともにインゴット1の外周面に向けて進退可能に支持する砥石台19と、この砥石台19を摺動可能に支持するガイドレール20を備える。このガイドレール20も、上記したリニアゲージ15用のガイドレール17と同様に、インゴット1の軸方向全長にわたり、インゴット1の加工中心軸と平行な方向に延在する。砥石18は、図示しないモータから動力が伝達されて回転し、砥石台19とともに進出することにより、軸回転しているインゴット1の外周面に接触しつつ押し込まれ、さらに、インゴット1の軸方向に移動してインゴット1の外周面を研削する。
【0025】
制御部21は、リニアゲージ15から順次出力された径方向寸法データに基づき、後述する演算処理を行い、部分研削を施す部分を特定する。これに加え、制御部21は、インゴット1の支持動作や回転動作、リニアゲージ15の移動動作、砥石18の回転動作や進退動作や移動動作などといった円筒研削装置全体の動作を制御する。
【0026】
このような構成の円筒研削装置を用いた円筒研削は、以下のように行われる。
【0027】
図4は、本発明の単結晶インゴットの円筒研削方法による研削手順を説明するフロー図である。本発明の円筒研削方法では、先ず、ステップ#5にて、寸法測定を行う。この寸法測定では、CZ法などで育成した単結晶インゴットを主軸側チャックと心押側チャックによって支持し、インゴットを軸回転させることなく停止させた状態で、インゴットの軸方向に沿ってリニアゲージを移動させる。これに伴いリニアゲージにより、インゴットの加工中心軸からの径方向寸法を全長にわたり測定し、測定された径方向寸法データを順次、制御部に出力する。
【0028】
このような寸法測定をインゴットの外周における複数の箇所で繰り返し行う。例えば、1箇所目の寸法測定が完了した後、インゴットを軸周りに180°回転させ、2箇所目の寸法測定を行う。これにより、インゴットの外周のうち、180°の等角度を隔てた2箇所で寸法測定を行うことができる。また、1箇所での寸法測定が完了するたびに、インゴットを120°ずつ軸回転させれば、120°の等角度を隔てた3箇所で寸法測定を行うことができる。同様に、1箇所での寸法測定が完了するたびに、インゴットを90°ずつ軸回転させれば、90°の等角度を隔てた4箇所で寸法測定を行うことができる。
【0029】
このとき、リニアゲージの移動速度は、高速にし過ぎると正確な計測が困難となり、低速にし過ぎると測定に長時間を要することから、実用的には、100〜500mm/minの範囲内とするのが好ましい。
【0030】
次に、ステップ#10にて、実研削代の軸方向分布を算出する。この実研削代分布の算出では、制御部により、寸法測定を行った箇所ごとに、径方向寸法データとインゴットの仕上げ半径との差を順次算出して実研削代を導き出し、実研削代の軸方向分布を算出する。これにより、寸法測定を行った箇所ごとに、実研削代の軸方向分布が得られる。ここでいう仕上げ半径とは、円筒研削後に目標とする仕上げ直径の半分を意味する。
【0031】
続いて、ステップ#15にて、部分研削を施す部分を特定する。この部分研削部分の特定では、得られた実研削代の軸方向分布ごとに、予め設定された設定研削代と実研削代を比較し、設定研削代を超える実研削代を有する部分があるか否かを判定する。ここでいう設定研削代は、実操業で生じ得る偏芯量を考慮して設定するものであり、例えば、インゴットで予定した育成直径の半分(育成半径)から仕上げ半径を差し引いた寸法、すなわち、直径の局部的な拡大や偏芯が全くないインゴットでの研削代に、1〜2mm程度加えた寸法が該当する。
【0032】
ステップ#15にて、設定研削代を超える部分がある場合は、その部分は全て部分研削を施す部分と特定し、ステップ#20に進む。設定研削代を超える部分が全くない場合は、部分研削を施す部分がないと判断し、ステップ#25に進む。
【0033】
ステップ#20では、部分研削を行う。すなわち、制御部からの指令により、インゴットを軸回転させるとともに、ステップ#15で特定された部分全てに対し、インゴットの軸方向に沿って砥石を移動させ、設定研削代を残すまで部分研削を行う。
【0034】
このとき、部分研削を施す部分での実研削代が多く、1回の砥石の移動では砥石への負荷が大き過ぎる場合は、数回に分けて砥石を軸方向移動させて部分研削を行うことができる。
【0035】
また、部分研削を行う際、ステップ#15で特定された部分が砥石の直径以上の間隔をあけて複数存在する場合といったように、部分研削を施す部分が部分研削を施さない部分を間に挟んで複数存在する場合、砥石の移動速度は、部分研削を施す部分よりも部分研削を施さない部分で高速にすることが好ましい。部分研削時に、部分研削を施さない部分での砥石の移動は、実質的に研削に寄与することなく、サイクルタイムや電力量や工業用水のロスにつながるからである。
【0036】
部分研削を施す部分での砥石の移動速度は、低速にし過ぎると研削に長時間を要し、高速にし過ぎると、砥石への負荷が過大になって砥石の寿命が低下する上、インゴットにクラックが発生したり、加工面にざらつきが発生し、さらに加工寸法の精度低下が生じるおそれがある。このため、部分研削を施す部分での砥石移動速度は、実用的には、1〜200mm/minの範囲内とするのが好ましく、より好ましくは30〜80mm/minの範囲内とする。
【0037】
部分研削を施さない部分での砥石の移動速度は、高速であるほどサイクルタイムの短縮を実現できるが、高速にし過ぎると、砥石の位置ズレが発生するおそれがあるため、200〜5000mm/minの範囲内とするのが好ましい。実用的には、4000mm/min程度が好適である。
【0038】
部分研削を完了した後は、ステップ#25に進む。
【0039】
ステップ#25では、全長研削を行う。すなわち、制御部からの指令により、インゴットの軸方向全長にわたり砥石を移動させ、仕上げ直径まで全長研削を行う。このときも、設定研削代がそもそも多く、1回の砥石の移動では砥石への負荷が大き過ぎる場合は、数回に分けて砥石を軸方向移動させて全長研削を行うことができる。
【0040】
図5は、本発明の単結晶インゴットの円筒研削方法を適用した具体例を示す図である。同図では、研削対象のインゴット1として、直胴部3のトップ側とボトム側で直径が拡大し、さらにくねりが生じて偏芯が発生したものを例示している。
【0041】
上述した通り、インゴット1の外周の複数個所で軸方向に沿って径方向寸法を測定することにより、設定研削代を超える実研削代を有する部分として、直径が局部的に拡大した直胴部のトップ側部分5とボトム側部分6を特定し、そのトップ側部分5とボトム側部分6に対して砥石を軸方向に移動させることにより、部分研削を行う。このとき、トップ側部分5とボトム側部分6の間では、砥石の移動速度を高速に切り替えて砥石を軸方向に移動させる。トップ側部分5とボトム側部分6の部分研削を完了した後、インゴット1の軸方向全長にわたり砥石を移動させることにより、全長研削を行う。
【0042】
このように、本発明の円筒研削方法によれば、部分研削を行うに際し、インゴットの外周における複数箇所で加工中心軸からの径方向寸法を測定し、その寸法から算出される実研削代を指標とすることにより、インゴットの形状を偏芯を含めて把握することができ、その結果として、部分研削の要否部分を的確に特定することが可能である。これにより、部分研削を要する部分で適切に部分研削を行うことができ、その後の全長研削で砥石に過大な負荷が生じることはなく、砥石寿命の低下や加工トラブルを防止することができる。しかも、部分研削を施すことにより、円筒研削全体としてサイクルタイムや電力量や工業用水のロスを抑制することが可能である。
【実施例】
【0043】
本発明の単結晶インゴットの円筒研削方法による効果を確認するため、下記の試験を行った。
【0044】
(実施例1)
CZ法により、以下に示す諸寸法の単結晶インゴットを意図的に育成した。
・直胴部の全長:2000mm
・直胴部の長さ0〜200mm部分(トップ側部分)の直径:315mm
・直胴部の長さ200〜1800mm部分(ミドル部分)の直径:308mm
・直胴部の長さ1800〜2000mm部分(ボトム側部分)の直径:315mm
・予定した直胴部の育成直径:308mm
・円筒研削後に目標とする仕上げ直径:300mm
すなわち、実施例1では、直胴部のトップ側部分とボトム側部分で直径が拡大した供試インゴットを準備した。
【0045】
前記図3に示す円筒研削装置を用いて、供試インゴットを寸法測定し、部分研削を施す部分としてトップ側部分とボトム側部分を特定した。このとき、設定研削代を5mm(=(308/2−300/2)+1)とした。その後、トップ側部分とボトム側部分に対し部分研削を行った。部分研削は2回に分けて行い、それぞれ長さ200mmにわたるトップ側部分とボトム側部分では、砥石移動速度を40mm/minとし、両部分の間の長さ1600mmにわたるミドル部分では、砥石移動速度を4000mm/minとした。部分研削の完了後、全長研削を2回に分けて行った。
【0046】
また、比較のため、従来の円筒研削方法を採用し、直胴部の全長にわたり、砥石移動速度を40mm/minで変更することなく、2回に分けて部分研削を行った後、全長研削を2回に分けて行った。
【0047】
比較例では、部分研削に要する時間が、100分(=2000/40[分]×2[回])であった。
【0048】
一方、本発明例では、部分研削に要する時間が、約21分(≒(200/40+1600/4000+200/40)[分]×2[回])であり、比較例よりも、サイクルタイムを79分程度短縮できた。これにより、円筒研削装置の消費電力が7kWである場合、消費電力量を9.2kW程度削減できた。また、円筒研削装置で使用する工業用水の単位時間当たりの消費量が70L(リットル)/minである場合、消費工業用水量を5500L程度削減できた。
【0049】
さらに、本発明例では、円筒研削後の直径が仕上げ直径に対して最大で0.004mmのずれに収まり、比較例と同等の加工精度を実現できることが明らかになった。
【0050】
(実施例2)
CZ法により、以下に示す諸寸法の単結晶インゴットを意図的に育成した。
・直胴部の全長:2600mm
・直胴部の長さ0〜200mm部分(トップ側部分)の直径:315mm
・直胴部の長さ200〜2600mm部分(ミドル・ボトム部分)の直径:309mm
・予定した直胴部の育成直径:309mm
・円筒研削後に目標とする仕上げ直径:300mm
すなわち、実施例2では、直胴部のトップ側部分で直径が拡大した供試インゴットを準備した。
【0051】
前記図3に示す円筒研削装置を用いて、供試インゴットを寸法測定し、部分研削を施す部分としてトップ側部分を特定した。このとき、設定研削代を5.5mm(=(309/2−300/2)+1)とした。その後、トップ側部分に対し部分研削を行った。部分研削は1回で行い、長さ200mmにわたるトップ側部分で、砥石移動速度を40mm/minとし、それ以外のミドル・ボトム部分では砥石を移動させなかった。部分研削の完了後、全長研削を2回に分けて行った。
【0052】
また、比較のため、従来の円筒研削方法を採用し、直胴部の全長にわたり、砥石移動速度を40mm/minで変更することなく、1回で部分研削を行った後、全長研削を2回に分けて行った。
【0053】
比較例では、部分研削に要する時間が、65分(=2600/40)であった。
【0054】
一方、本発明例では、部分研削に要する時間が、5分(=200/40)であり、比較例よりも、サイクルタイムを60分短縮できた。これにより、円筒研削装置の消費電力量を7kW削減でき、消費工業用水量を4200L削減できた。
【0055】
さらに、本発明例では、円筒研削後の直径が仕上げ直径に対して最大で−0.009mmのずれに収まり、比較例と同等の加工精度を実現できることが明らかになった。
【0056】
上述の通り、本発明の単結晶インゴットの円筒研削方法の一実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【0057】
例えば、上記の実施形態では、部分研削および全長研削を行う際、インゴットに対して砥石を軸方向に移動させる構成としているが、両者の相対位置関係を確保できる限り、砥石に対してインゴットを軸方向に移動させる構成としてもよい。インゴットの寸法測定を行う際も同様に、リニアゲージに対してインゴットを軸方向に移動させる構成とすることができる。
【0058】
また、インゴットの寸法測定で用いる計測機器は、リニアゲージに限らず、光学式のものでも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の単結晶インゴットの円筒研削方法によれば、部分研削の要否部分を的確に特定することが可能であり、これにより、部分研削を要する部分で適切に部分研削を行うことができ、その後の全長研削で砥石寿命の低下や加工トラブルを防止することができる。しかも、部分研削を施すことにより、円筒研削全体としてサイクルタイムや電力量や工業用水のロスを抑制することが可能である。これらのことから、本発明の単結晶インゴットの円筒研削方法は、効率良く円筒研削を行うことができる点で極めて有用である。
【符号の説明】
【0060】
1:単結晶インゴット、 2:ショルダー部、 3:直胴部、
4:テイル部、 5:トップ側部分、 6:ボトム側部分、
11:主軸側チャック、 12:主軸台、 13:心押側チャック、
14:心押台、 15:リニアゲージ、 16:測定子、
17:ガイドレール、 18:砥石、 19:砥石台、
20:ガイドレール、 21:制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶インゴットの軸方向に砥石を相対的に移動させてインゴットの外周を研削する円筒研削方法であって、
インゴットの外周における複数の箇所で、それぞれ軸方向に沿ってインゴットの加工中心軸からの径方向寸法を測定する測定工程と、
寸法測定を行った箇所ごとに、測定された径方向寸法から実研削代の軸方向分布を算出し、予め設定された設定研削代と実研削代とを比較し、設定研削代を超える実研削代を有する部分を特定する特定工程と、
特定された部分全てに対し砥石を移動させて部分研削を行った後、インゴットの全長にわたり砥石を移動させて全長研削を行う研削工程と、を含むことを特徴とする単結晶インゴットの円筒研削方法。
【請求項2】
前記測定工程では、インゴットの外周のうち、180°の等角度を隔てた2箇所、120°の等角度を隔てた3箇所、または90°の等角度を隔てた4箇所で径方向寸法の測定を行うことを特徴とする請求項1に記載の単結晶インゴットの円筒研削方法。
【請求項3】
前記測定工程では、インゴットの軸方向に沿ってリニアゲージを相対的に移動させて径方向寸法の測定を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の単結晶インゴットの円筒研削方法。
【請求項4】
前記リニアゲージの移動速度を100〜500mm/minとすることを特徴とする請求項3に記載の単結晶インゴットの円筒研削方法。
【請求項5】
前記研削工程で部分研削を行う際、部分研削を施す部分が部分研削を施さない部分を間に挟んで複数存在する場合、部分研削を施す部分では、砥石の移動速度を1〜200mm/minとし、部分研削を施さない部分では、砥石の移動速度を200〜5000mm/minとすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の単結晶インゴットの円筒研削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−5604(P2011−5604A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152738(P2009−152738)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】