説明

単結晶シリコン太陽電池の製造方法及び単結晶シリコン太陽電池

【課題】 シリコン太陽電池において、その原料となる珪素の有効活用を図るために光変換層を薄膜とするとともに、変換特性に優れ、更に光照射による劣化の少ない単結晶シリコン太陽電池を、家屋等の採光用窓材料としても使用可能な、シースルー型太陽電池として提供する。
【解決手段】 単結晶シリコン基板に水素イオンまたは希ガスイオンを注入する工程と、透明絶縁性基板の表面に透明導電性膜を形成する工程と、前記単結晶シリコン基板のイオン注入面及び/または前記透明絶縁性基板上の前記透明導電性膜の表面に表面活性化処理を行う工程と、前記単結晶シリコン基板のイオン注入面と前記透明絶縁性基板上の前記透明導電性膜の表面とを貼り合わせる工程と、前記イオン注入層に衝撃を与えて前記単結晶シリコン基板を機械的に剥離して、単結晶シリコン層とする工程と、前記単結晶シリコン層にpn接合を形成する工程とを含む単結晶シリコン太陽電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶シリコン太陽電池の製造方法及び単結晶シリコン太陽電池に関するものであり、特に透明絶縁性基板上に単結晶シリコン層を形成する単結晶シリコン太陽電池の製造方法及び単結晶シリコン太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
珪素を主原料とする太陽電池は、その結晶性により単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、非晶質シリコン太陽電池に分類される。このうち、単結晶シリコン太陽電池は、結晶引上げによる単結晶インゴットをワイヤーソーによりウエーハ状に切り出し、100〜200μm厚のウエーハに加工し、これにpn接合、電極、保護膜等を形成して太陽電池セルとしている。
【0003】
多結晶シリコンでは、結晶引き上げによらず、鋳型にて溶融金属珪素を結晶化させることで多結晶のインゴットを製造し、これを単結晶シリコン太陽電池と同様にワイヤーソーによりウエーハ状に切り出し、同様に100〜200μm厚のウエーハとし、単結晶シリコン基板と同様にpn接合、電極、保護膜を形成して太陽電池セルとしている。
【0004】
非晶質シリコン太陽電池では、例えば、プラズマCVD法により、シランガスを気相中で放電により分解することで、基板上に非晶質の水素化珪素膜を形成し、これにドーピングガスとしてジボラン、ホスフィン等を添加し、同時に堆積させることで、pn接合と成膜工程を同時に行い、電極、保護膜を形成して太陽電池セルとしている。非晶質シリコン太陽電池では、非晶質シリコンが直接遷移型として入射光を吸収するため、その光吸収係数は単結晶及び多結晶シリコンのそれと比べおよそ一桁高い(非特許文献1)ことで、非晶質シリコン層の厚さは結晶系の太陽電池に比べておよそ100分の1の膜厚の1μm前後で十分であるという利点がある。近年、太陽電池の生産量が世界で年間1ギガワットを越し、今後更に生産量が伸びることを考えると、資源を有効に活用できる薄膜の非晶質シリコン太陽電池に対する期待は大きい。
【0005】
しかし、非晶質シリコン太陽電池の製造には、原料にシランやジシラン等の高純度のガス原料を用いることや、そのガス原料の有効利用率はプラズマCVD装置内で基板以外に堆積するものもあることなどの事情から、結晶系太陽電池に必要な膜厚との単純な比較で資源の有効利用率を決定することはできない。また、結晶系太陽電池が変換効率において15%前後であるのに対して、非晶質シリコン太陽電池は10%前後であり、更に、光照射下における出力特性劣化の問題が依然残されている。
【0006】
そこで、結晶系シリコン材料を用いて薄膜太陽電池を開発する試みが種々なされている(非特許文献2)。例えば、アルミナ基板やグラファイト基板等にトリクロロシランガスやテトラクロロシランガス等を用いて多結晶の薄膜を堆積させるものである。この堆積膜には結晶欠陥が多く、そのままでは変換効率が低いので、変換効率を向上させるために、帯域溶融を行い、結晶性を改善する必要がある(例えば特許文献1参照)。しかし、このような帯域溶融による方法をとっても、結晶粒界でのリーク電流及びライフタイムの低下により長波長域での光電流応答特性が低下する等の問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2004−342909号公報
【非特許文献1】高橋清、浜川圭弘、後川昭雄編著、「太陽光発電」、丸善、1980年、233頁
【非特許文献2】高橋清、浜川圭弘、後川昭雄編著、「太陽光発電」、丸善、1980年、217頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、シリコン太陽電池において、その原料となる珪素の有効活用を図るために光変換層を薄膜とするとともに、変換特性に優れ、更に光照射による劣化の少ない単結晶シリコン太陽電池を、家屋等の採光用窓材料としても使用可能な、受光した可視光のうち一部を透過するシースルー型太陽電池として提供すること、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的達成のため、本発明は、透明絶縁性基板上に、光変換層として単結晶シリコン層が配置されている単結晶シリコン太陽電池を製造する方法であって、少なくとも、透明絶縁性基板と第一導電型の単結晶シリコン基板とを用意する工程と、前記単結晶シリコン基板に水素イオンまたは希ガスイオンの少なくとも一方を注入して、イオン注入層を形成する工程と、前記透明絶縁性基板の少なくとも一方の表面に透明導電性膜を形成する工程と、前記単結晶シリコン基板のイオン注入面及び/または前記透明絶縁性基板上の前記透明導電性膜の表面に表面活性化処理を行う工程と、前記単結晶シリコン基板のイオン注入面と前記透明絶縁性基板上の前記透明導電性膜の表面とを貼り合わせる工程と、前記イオン注入層に衝撃を与えて前記単結晶シリコン基板を機械的に剥離して、単結晶シリコン層とする工程と、前記単結晶シリコン層に前記第一導電型とは異なる導電型である第二導電型の拡散層を形成してpn接合を形成する工程と、前記単結晶シリコン層上に電極を形成する工程とを含むことを特徴とする単結晶シリコン太陽電池の製造方法を提供する(請求項1)。
【0010】
このような工程を含む単結晶シリコン太陽電池の製造方法によって、透明絶縁性基板上に光変換層として単結晶シリコン層が配置されている単結晶シリコン太陽電池を製造することができる。
また、単結晶シリコン基板と透明導電性膜を形成した透明絶縁性基板とを、表面活性化処理後に貼り合わせるため、両者を強固に貼り合わせることができる。従って、結合力を高める高温熱処理を施さなくても十分に強固な接合となる。また、このように接合面が強固に接合しているので、その後イオン注入層に衝撃を与えて単結晶シリコン基板を機械的に剥離し、透明絶縁性基板上に薄い単結晶シリコン層を形成することができる。従って、剥離のための熱処理を行わなくても単結晶シリコン層の薄膜化ができる。
【0011】
そして、このような工程を含む単結晶シリコン太陽電池の製造方法によれば、光変換層としての単結晶シリコン層の形成を、単結晶シリコン基板から剥離することによって行うので、該単結晶シリコン層の結晶性を高くすることができる。その結果、太陽電池としての変換効率を高くすることができる。
また、単結晶シリコン層の形成のための単結晶シリコン基板の剥離を、加熱によらず機械剥離によって行うので、光変換層に熱膨張率の相違に基づく亀裂や欠陥が導入されることを抑制することができる。
また、シリコン層の薄い薄膜太陽電池とするので、珪素原料を節約し、有効に利用することができる。
【0012】
この場合、前記表面活性化処理を、プラズマ処理またはオゾン処理の少なくとも一方とすることができる(請求項2)。
このように、表面活性化処理を、プラズマ処理またはオゾン処理の少なくとも一方とすれば、容易に表面活性化を行うことができ、単結晶シリコン基板と透明絶縁性基板上の透明導電性膜とを強固に貼り合わせることができる。
【0013】
また、前記透明絶縁性基板を、石英ガラス、結晶化ガラス、硼珪酸ガラス、ソーダライムガラスのいずれかとすることができる(請求項3)。
このように、透明絶縁性基板を、石英ガラス、結晶化ガラス、硼珪酸ガラス、ソーダライムガラスのいずれかとすれば、これらは光学的特性が良好な透明絶縁性基板であり、シースルー型単結晶シリコン太陽電池を容易に製造できる。また、製造した単結晶シリコン太陽電池を既存の窓ガラス等と置換することも容易になる。
【0014】
また、前記透明導電性膜を、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムのうち少なくとも一種を含有し、ドナー形成用添加材料を含有するものとすることが好ましい(請求項4)。
このように、透明導電性膜を、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムのうち少なくとも一種を含有し、ドナー形成用添加材料を含有するものとすれば、面抵抗が低く、単結晶シリコン太陽電池の変換光である可視光付近の透過率が高い透明導電性膜とすることができる。
【0015】
また、前記透明導電性膜の形成は、化成スパッタ法、化成蒸着法、CVD法、ディップコート法のうち少なくとも1つの方法によって行うことが好ましい(請求項5)。
このように、透明導電性膜の形成を、化成スパッタ法、化成蒸着法、CVD法(Chemical Vapor Deposition;化学蒸着法)、ディップコート法のうち少なくとも1つの方法によって行えば、確実かつ容易に透明導電性膜を形成できる。
【0016】
さらに、前記イオン注入の深さを、イオン注入面から0.1μm以上5μm以下とすることが好ましい(請求項6)。
このように、イオン注入の深さを、イオン注入面から0.1μm以上5μm以下とすることにより、製造される単結晶シリコン太陽電池の光変換層としての単結晶シリコン層の厚さをおよそ0.1μm以上5μm以下とすることができる。そして、このような厚さの単結晶シリコン層を有する単結晶シリコン太陽電池であれば、薄膜単結晶シリコン太陽電池として実用的な効率が得られるとともに、使用する珪素原料の量を節約できる。また、このような厚さの単結晶シリコン層を有する単結晶シリコン太陽電池であれば、確実に一部可視光を透過することができる。
【0017】
また、本発明は、上記のいずれかの単結晶シリコン太陽電池の製造方法によって製造され、少なくとも、透明絶縁性基板と、透明導電性膜と、pn接合が形成された単結晶シリコン層と、電極とが順次積層されたものである単結晶シリコン太陽電池を提供する(請求項7)。
このように、上記のいずれかの単結晶シリコン太陽電池の製造方法によって製造され、少なくとも、透明絶縁性基板と、透明導電性膜と、pn接合が形成された単結晶シリコン層と、電極とが順次積層されたものである単結晶シリコン太陽電池であれば、光変換層としての単結晶シリコン層の形成を、単結晶シリコン基板から剥離することによって行い、単結晶シリコン層の剥離を、加熱によらず機械剥離によって行ったものであるので、結晶性の高い単結晶シリコン層とすることができる。そのため、膜厚に比して変換効率が高い薄膜太陽電池とすることができる。また、単結晶シリコン層の厚さが薄い薄膜太陽電池であるので、珪素原料を有効に利用することができる。
【0018】
この場合、前記単結晶シリコン太陽電池は、一方の面側から見たときに、他方の面側が透けて見えるものであることが好ましい(請求項8)。
このように、一方の面側から見たときに、他方の面側が透けて見える、透明な太陽電池であれば、既存の窓ガラス等と置換できるなど、様々な場面に応用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に従う単結晶シリコン太陽電池の製造方法であれば、結晶性が良好であり、変換効率の高い単結晶シリコン層を光変換層としたシースルー型薄膜太陽電池を製造することができる。
また、本発明に従う単結晶シリコン太陽電池であれば、透明絶縁性基板上に光変換層が配置されているシリコン太陽電池において、光変換層を単結晶シリコン層とした太陽電池であるので、膜厚に比して変換効率が高い太陽電池とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
前述したように、珪素原料を節約できる薄膜太陽電池においても、より一層の高変換効率が求められており、そのために結晶系太陽電池とすることを採用した上で、さらに結晶性を改善することが求められていた。
【0021】
そこで本発明者らは、電極として機能する透明導電性膜を予め透明絶縁性基板の表面に形成しておき、該透明絶縁性基板上の透明導電性膜と単結晶シリコン基板を貼り合わせた後に該単結晶シリコン基板を薄膜化することによって、光変換層としてのシリコン層の結晶性を高くすることを見出した。さらに、単結晶シリコン基板と透明絶縁性基板上の透明導電性膜とを貼り合わせる前に両者の表面を活性化させておくことにより、高温の熱処理をしなくても接合強度を高くし、また剥離の際にも機械的剥離を行うことで高温の熱処理をせずに剥離することによって単結晶シリコン層の結晶性を良好に保つことができることに想到した。また、このような薄膜太陽電池であれば、家屋の窓材料としても使用可能な、一方の表面側から見て他方の表面側が透けて見える、いわゆるシースルー型太陽電池とすることできることに想到し、本発明を完成させた。
【0022】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明に係る単結晶シリコン太陽電池の製造方法の一例を示す工程図である。
【0023】
まず、単結晶シリコン基板11及び透明絶縁性基板12を用意する(工程a)。
単結晶シリコン基板としては特に限定されず、例えばチョクラルスキー法により育成された単結晶をスライスして得られたもので、例えば直径が100〜300mm、導電型がp型またはn型、抵抗率が0.1〜20Ω・cm程度のものを用いることができる。
また、透明絶縁性基板には石英ガラス、結晶化ガラス、硼珪酸ガラス、ソーダライムガラス等が選択される。これらに限定するものではないが、透明であり、窓ガラス材料に代替しうることを鑑みると上記のようなガラス材料が望ましい。また、透明絶縁性基板を、ガラス材料として汎用なソーダライムガラスとする場合には、その表面にディップコート法により酸化ケイ素皮膜或いは酸化スズ皮膜(ネサ膜)等を形成したものとしてもよい。これらの皮膜はソーダライムガラス中のアルカリ金属成分の表面への溶出及び拡散を防ぐバッファ膜として機能するため好ましい。
【0024】
次に、単結晶シリコン基板11に水素イオンまたは希ガスイオンの少なくとも一方を注入して、イオン注入層14を形成する(工程b)。
例えば、単結晶シリコン基板の温度を200〜450℃とし、その表面13から所望の単結晶シリコン層の厚さに対応する深さ、例えば0.1〜5μm以下の深さにイオン注入層14を形成できるような注入エネルギーで、所定の線量の水素イオンまたは希ガスイオンの少なくとも一方を注入する。この場合、水素イオンは軽いために、同じ加速エネルギーにおいて、よりイオン注入面13からより深く注入されるために特に好ましい。水素イオンの電荷は正負のいずれでもよく、原子イオンの他、水素ガスイオンであってもよい。希ガスイオンの場合も電荷の正負はいずれでもよい。
また、単結晶シリコン基板の表面にあらかじめ薄いシリコン酸化膜などの絶縁膜を形成しておき、それを通してイオン注入を行えば、注入イオンのチャネリングを抑制する効果が得られる。なお、厚い絶縁膜を形成する場合は、工程dの表面活性化工程の前にエッチング等により取り除く必要がある。
【0025】
一方、透明絶縁性基板12は、少なくとも一方の表面に透明導電性膜16を形成する(工程c)。
この透明導電性膜の材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム等を含有し、これらの導電性を高めるドナー形成用添加材料を含有する透明導電性材料が挙げられる。ドナー形成用添加材料としては、酸化インジウムにはスズを添加していわゆる酸化インジウムスズ(スズ添加酸化インジウム、ITO)とすることの他、酸化スズにはフッ素やアンチモン、酸化亜鉛にはガリウムやアルミニウムを添加することが一般的であるが、これらに限定されるものではなく、適宜設計される。使用される透明導電性膜は、これらに限定されるものではないが、面抵抗が100Ω/□以下であり、可視光の透過率が80%以上であることが好ましい。
【0026】
これらの透明導電性膜の形成は化成スパッタ法、化成蒸着法など真空成膜装置で行うこともできるが、CVD法(Chemical Vapor Deposition;化学蒸着法)、ディップコート法なども選択することができる。この透明導電性膜を形成する際には、後述する工程eの貼り合わせ工程時の接合強度を高めるために、表面が十分に平坦化されたものとすることが望ましい。このような高平坦度の表面は、例えば、透明導電性膜を堆積させた後、研磨等により表面を平坦化することによって実現できる。
なお、工程bの単結晶シリコン基板へのイオン注入工程と、工程cの透明絶縁性基板表面への透明導電性膜の形成工程の順番はどちらが先であってもよい。
【0027】
次に、単結晶シリコン基板11のイオン注入面13及び/または透明絶縁性基板12上の透明導電性膜16の表面に表面活性化処理を行う(工程d)。
この表面活性化処理は、次の工程eの貼り合わせ工程で、単結晶シリコン基板11と透明絶縁性基板12上の透明導電性膜16が強固に貼り合わせられるようにするためのものであれば特に限定されないが、プラズマ処理またはオゾン処理の少なくとも一方によって好適に行うことができる。
【0028】
プラズマで処理をする場合、真空チャンバ中にRCA洗浄等の洗浄をした単結晶シリコン基板11及び/または透明導電性膜16を形成した透明絶縁性基板12を載置し、プラズマ用ガスを導入した後、100W程度の高周波プラズマに5〜10秒程度晒し、少なくとも、表面活性化処理する表面、すなわち、単結晶シリコン基板11ではイオン注入面13、透明絶縁性基板12であれば透明導電性膜16の表面をプラズマ処理する。プラズマ用ガスとしては、特に限定されるものではなく、水素ガス、アルゴンガス、又はこれらの混合ガスあるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガス等を用いることができる。
【0029】
オゾンで処理をする場合は、大気を導入したチャンバ中にRCA洗浄等の洗浄をした単結晶シリコン基板11及び/または透明導電性膜16を形成した透明絶縁性基板12を載置し、窒素ガス、アルゴンガス等のプラズマ用ガスを導入した後、高周波プラズマを発生させ、大気中の酸素をオゾンに変換することで、少なくとも上記表面活性化処理する表面をオゾン処理する。プラズマ処理とオゾン処理とはどちらか一方又は両方行ってもよい。
【0030】
このプラズマ処理やオゾン処理等の表面活性化処理により、単結晶シリコン基板11及び/または透明絶縁性基板12上の透明導電性膜16の表面の有機物が酸化して除去され、さらに表面のOH基が増加し、活性化する。この表面活性化処理は単結晶シリコン基板11、透明絶縁性基板12上の透明導電性膜16の表面の両方ともに行なうのがより好ましいが、いずれか一方だけ行なってもよい。
【0031】
次に、単結晶シリコン基板11のイオン注入面13と透明絶縁性基板12上の透明導電性膜16の表面とを貼り合わせる(工程e)。
工程dにおいて、単結晶シリコン基板のイオン注入面13または透明絶縁性基板12上の透明導電性膜16の表面の少なくとも一方が表面活性化処理されているので、両者を例えば減圧または常圧下、室温〜250℃程度、好ましくは室温程度の温度下で密着させるだけで後工程での機械的剥離に耐え得る強度で強く接合できる。
この貼り合わせ工程は、室温から250℃前後までの温度条件で行うものとし、300℃以上の熱処理は行わない。単結晶シリコン基板11と、透明絶縁性基板12上の透明導電性膜16を貼り合わせた状態で300℃以上の高温熱処理を行うと、それぞれの層の熱膨張係数の違いから、熱歪、ひび割れ、剥離等が発生するおそれがあるためである。このように、300℃以上の高温熱処理を行わないようにすることは、後述する工程fの単結晶シリコン基板11の剥離転写が終了するまでは同様である。
【0032】
次に、イオン注入層14に衝撃を与えて前記単結晶シリコン基板11を機械的に剥離して、単結晶シリコン層17とする(工程f)。
本発明においてはイオン注入層に衝撃を与えて機械的剥離を行うので、加熱に伴う熱歪、ひび割れ、剥離等が発生するおそれがない。イオン注入層に衝撃を与えるためには、例えばガスや液体等の流体のジェットを接合したウエーハの側面から連続的または断続的に吹き付ければよいが、衝撃により機械的剥離が生じる方法であれば特に限定はされない。
【0033】
なお、単結晶シリコン基板の機械剥離の際に、透明絶縁性基板の背面に第一の補助基板を密着させるとともに前記単結晶シリコン基板の背面に第二の補助基板を密着させて単結晶シリコン基板の剥離を行うことが望ましい。このように補助基板を用いて機械剥離を行えば、剥離転写されたシリコン単結晶層17において、反りによる微小な亀裂及びこれによる結晶欠陥の発生を防止し、太陽電池の変換効率の低下を防止することができる。両者の基板が1mm程度以下の厚さのように薄い場合にはこの方法による効果が顕著である。例えば、透明絶縁性基板がソーダライムガラスであって、その厚さが0.7mmの場合には、補助基板を同じソーダライムガラスとし、その総計の厚さを1mm以上として剥離を行う。
また、単結晶シリコン基板の剥離転写を行った後、単結晶シリコン層17の表面付近におけるイオン注入ダメージを回復するための熱処理を行ってもよい。この時点では既に単結晶シリコン基板11は剥離転写され、薄膜の単結晶シリコン層17となっているため、表面付近の局所的な熱処理を300℃以上で行っても亀裂やそれに伴う欠陥は新たにほとんど導入されない。また、このことは以降の工程でも同様である。
【0034】
次に、単結晶シリコン層17に工程aで用意した単結晶シリコン基板の導電型である第一導電型とは異なる導電型である第二導電型の拡散層を形成して第一導電型シリコン層21、第二導電型シリコン層22から成り、pn接合が形成された単結晶シリコン層とする(工程g)。
工程aで用意した単結晶シリコン基板11がp型単結晶シリコンであった場合には、n型の拡散層を、n型の単結晶シリコンであった場合には、p型の拡散層を形成する。第二導電型の拡散層の形成方法は例えば以下のようにすることができる。工程aで用意した単結晶シリコン基板11がp型であった場合には、単結晶シリコン層17の表面にリンの元素イオンをイオン注入法で注入し、これに、フラッシュランプアニールまたは単結晶シリコン層表面での吸収係数の高い紫外線、深紫外線のレーザー照射等を行い、ドナーの活性化処理を行うことでpn接合を形成することができる。このようなpn接合は、ドナーを形成するリンを含むペースト状の組成物を作成し、これを単結晶シリコン層17表面に塗布し、これをフラッシュランプアニールまたは単結晶シリコン層表面での吸収係数の高い紫外線、深紫外線のレーザー照射、赤外線加熱炉等で拡散処理を行うことであってもよい。
なお、このようにしてpn接合を形成した後、例えばタッチポリッシュと呼ばれる研磨代が5〜400nmと極めて少ない研磨を行ってもよい。
【0035】
次に、単結晶シリコン層17の、第二導電型シリコン層22側の表面に電極23を形成する(工程h)。この電極23は、透明導電性膜16の対極となるものである。
拡散処理をした表面に、金属または透明導電性材料を用いて、真空蒸着法または化成スパッタ法等により線状等の電極を形成することで、電極である透明導電性膜16の対極となる電極23を形成する。さらに、金属を含んだ導電性ペーストを用いて印刷法により集電電極を形成することもできる。この集電電極形成用組成物の硬化は前記のフラッシュランプアニールや赤外線加熱法等によって行われる。本発明に係る単結晶シリコン太陽電池を確実に一方の面側から見たときに他方の面側が透けて見えるものである構造とするために、金属の電極を形成する場合は、電極面積を光受光面全体の80%以下、より好ましくは50%以下にするのが良い。透明導電性膜を形成する場合は全面に形成してもよい。また、集電電極は透明絶縁基板の端部に形成するものであってもよい。
また、電極23形成後、窒化珪素等の保護膜等をさらに形成してもよい。
【0036】
そして、工程a〜hにより製造された単結晶シリコン太陽電池は、製造の際に熱歪、剥離、ひび割れ等が発生しておらず、薄くて良好な膜厚均一性を有し、結晶性に優れ、透明絶縁性基板上に単結晶シリコン層を有する単結晶シリコン太陽電池31である。
【0037】
なお、工程fで単結晶シリコン層17を剥離転写した後の残りの単結晶シリコン基板は、剥離後の粗面およびイオン注入層を研磨により平滑化および除去処理を行い、繰り返しイオン注入処理を行うことで、再び、単結晶シリコン基板11として利用することができる。本発明の単結晶シリコン太陽電池の製造方法では、イオン注入工程から剥離工程において、単結晶シリコン基板を300℃以上に加熱する必要がないため、酸素誘起欠陥が単結晶シリコン基板に導入されるおそれがない。そのため、最初に1mm弱の厚さの単結晶シリコン基板を用いた場合には、単結晶シリコン層17の膜厚を5μmとする場合には、100回以上剥離転写することも可能となる。
【0038】
このような製造方法によって製造された単結晶シリコン太陽電池31は、図1(h)に示すように、透明絶縁性基板12と、透明導電性膜16と、pn接合が形成された単結晶シリコン層17と、電極23とが順次積層されたものである。単結晶シリコン太陽電池31は、pn接合が形成された単結晶シリコン層17(光変換層)で入射光を電力に変換し、透明導電性膜16と電極23とをそれぞれ正極または負極のいずれか一方として電力を取り出すものである。
単結晶シリコン層17が0.1μm以上5μmであれば、薄膜単結晶シリコン太陽電池として実用的な効率が得られるとともに、使用する珪素原料の量を十分に節約できる。また、このような厚さの単結晶シリコン層を有する単結晶シリコン太陽電池であれば、確実に一部可視光を透過して透明とすることができる。
また、本発明に係る単結晶シリコン太陽電池31は、一方の面側から見たときに他方の面側が透けて見えるものとすることができ、この場合、受光面は透明絶縁性基板12側と電極23側のいずれとすることもできる。
【実施例】
【0039】
(実施例)
単結晶シリコン基板11として、一方の面が鏡面研磨された直径200mm(8インチ)、結晶面(100)、p型、面抵抗15Ωcmの単結晶シリコン基板を用意した。また、透明絶縁性基板12として、直径200mm(8インチ)、厚さ2.5mmの石英ガラス基板を用意した(工程a)。
次に、単結晶シリコン基板11に、加速電圧350keVで水素プラスイオンをドーズ量1.0×1017/cmの条件で注入した(工程b)。イオン注入層14の深さはイオン注入面13からおよそ3μmとなった。
【0040】
一方、石英ガラス基板12の一方の表面に、化学蒸着法により、フッ素を添加した酸化スズの皮膜を厚さ約0.5μm形成し、透明導電性膜16とした(工程c)。この透明導電性膜表面をCMP法により、原子間力顕微鏡(AFM)により、10μm×10μm走査において平均粗さ0.3nm以下となるような鏡面が得られるように研磨を行った。該研磨後のフッ素添加酸化スズ膜の膜厚は0.4μmであり、その面抵抗は15Ω/□であった。
【0041】
次に、単結晶シリコン基板11のイオン注入面13と、石英ガラス基板12上のフッ素添加酸化スズ皮膜16の表面を減圧プラズマ法により、窒素プラズマに15秒晒すことによって、表面活性化処理を行った(工程d)。
次に、上記表面活性化処理を行った表面同士を貼り合わせ面として、単結晶シリコン11と石英ガラス基板12上のフッ素添加スズ皮膜16を強固に貼り合わせた(工程e)。
【0042】
次に、接合界面近傍に高圧窒素ガスを吹き付けた後、該吹き付け面から剥離が開始するように、単結晶シリコン基板を引き剥がすように機械的に剥離を行った(工程f)。このとき、単結晶シリコン基板および石英ガラス基板に背面から補助基板を吸着させた後剥離するようにした。また、剥離転写された単結晶シリコンにフラッシュランプアニール法により表面が瞬間的に700℃以上となる条件で照射し、水素注入ダメージを回復した。
【0043】
次に、単結晶シリコン層17の表面に、リンガラスを含むエチルセロソルブを増粘剤とする拡散用ペーストをスクリーン印刷法により全面に塗布した。これにフラッシュランプにより瞬間的に表面が600℃以上となるように照射を行い、およそ1μmの接合深さのpn接合界面を形成した(工程g)。
この拡散ペーストを弗酸及びアセトン、イソプロピルアルコールで除去洗浄後、真空蒸着法及びパターニング法により銀電極23を形成した(工程h)。その後、さらに銀の集電電極パターンを金属マスクを用いて真空蒸着法により形成した。その後、取り出し電極部分を除いた表面を反応性スパッタ法により窒化珪素の保護皮膜を形成した。
【0044】
このようにして、透明絶縁性基板、透明導電性膜、pn接合が形成された単結晶シリコン層と、電極とが順次積層された薄膜単結晶シリコン太陽電池31を製造した。
このようにして製造した単結晶シリコン太陽電池に、ソーラーシュミレーターによりAM1.5で100mW/cmの光を照射し、変換効率を求めた。変換効率は9%であり、経時変化はなかった。
また、この太陽電池を透かして晴天時の日中において、室外から外光を取り入れ、室外を覗くと、室外の様子を見ることが出来た。
【0045】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的思想に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る単結晶シリコン太陽電池の製造方法の一例を示す工程図である。
【符号の説明】
【0047】
11…単結晶シリコン基板、 12…透明絶縁性基板、
13…イオン注入面、 14…イオン注入層、
16…透明導電性膜、 17…単結晶シリコン層、
21…第一導電型シリコン層、 22…第二導電型シリコン層、
23…電極、 31…単結晶シリコン太陽電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明絶縁性基板上に、光変換層として単結晶シリコン層が配置されている単結晶シリコン太陽電池を製造する方法であって、少なくとも、
透明絶縁性基板と第一導電型の単結晶シリコン基板とを用意する工程と、
前記単結晶シリコン基板に水素イオンまたは希ガスイオンの少なくとも一方を注入して、イオン注入層を形成する工程と、
前記透明絶縁性基板の少なくとも一方の表面に透明導電性膜を形成する工程と、
前記単結晶シリコン基板のイオン注入面及び/または前記透明絶縁性基板上の前記透明導電性膜の表面に表面活性化処理を行う工程と、
前記単結晶シリコン基板のイオン注入面と前記透明絶縁性基板上の前記透明導電性膜の表面とを貼り合わせる工程と、
前記イオン注入層に衝撃を与えて前記単結晶シリコン基板を機械的に剥離して、単結晶シリコン層とする工程と、
前記単結晶シリコン層に前記第一導電型とは異なる導電型である第二導電型の拡散層を形成してpn接合を形成する工程と、
前記単結晶シリコン層上に電極を形成する工程と
を含むことを特徴とする単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記表面活性化処理を、プラズマ処理またはオゾン処理の少なくとも一方とすることを特徴とする請求項1に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記透明絶縁性基板を、石英ガラス、結晶化ガラス、硼珪酸ガラス、ソーダライムガラスのいずれかとすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記透明導電性膜を、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムのうち少なくとも一種を含有し、ドナー形成用添加材料を含有するものとすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記透明導電性膜の形成は、化成スパッタ法、化成蒸着法、CVD法、ディップコート法のうち少なくとも1つの方法によって行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記イオン注入の深さを、イオン注入面から0.1μm以上5μm以下とすることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法によって製造され、少なくとも、透明絶縁性基板と、透明導電性膜と、pn接合が形成された単結晶シリコン層と、電極とが順次積層されたものであることを特徴とする単結晶シリコン太陽電池。
【請求項8】
前記単結晶シリコン太陽電池は、一方の面側から見たときに、他方の面側が透けて見えるものであることを特徴とする請求項7に記載の単結晶シリコン太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−112847(P2008−112847A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294605(P2006−294605)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】