説明

単結晶合金の溶接法

【課題】
【解決手段】ブレード部材10は、ディスク14の縁部12に対して矢印A−Aの方向に向けて揺動させる。鍛造力は、半径方向に加えられ、線16に沿って溶接部が形成される。ブレード部材10は、キャノン−マスケゴンコーポレーションのCMSX−4のような、面心立方(FCC)ニッケル系単結晶合金にて形成される。単結晶ブレード部材10の向きは、滑り平面111に加わる応力を最大にし得るよう制御される。111滑り平面における応力を最大にすることにより、平面内摩擦力及び鍛造力は最小となる。平面内力を最小にすることは、単結晶ブレード部材10をディスク14の縁部12に成功裏に溶接することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶合金の溶接法、特に、単結晶合金を線形摩擦溶接する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶合金は、ガスタービンエンジンにて使用される広範囲の構成要素を製造するとき使用される。循環寿命を引き延ばすため、タービンブレード及びノズル案内ベーンのような熱間構成要素は、何らの結晶粒界を含まないよう単結晶合金にて鍛造される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの単結晶合金の高い一体化溶接を実行することが益々、要求されている。例えば、翼型ブリスクは、ディスクの外周に又はディスクの縁部から伸びるポストに溶接された複数のブレードを備えている。摩擦溶接によりブレードをディスクに接合することが既知である。この過程において、負荷がディスクに向けて半径方向に加えられる間、ブレード部材(その後に、完成したブレードを形成するよう機械加工される)を、静止したディスクに対して揺動させる。最初に、継手面を軽い鍛造負荷にて接触させ、また、継手面の間の相対的な動きに起因する摩擦により熱が生じる。熱は、継手境界面の材料を軟化させ、塑性流れにより、材料は継手の端縁からバリとして押し出される。最終相にて、相対的な動きは停止し、同一の鍛造負荷を連続的に加えることにより又は鍛造負荷を増大させることにより、接合部が形成される。
【0004】
摩擦溶接過程の有利な点は、密着接触が維持され、また、バリが押し出されるため、継手境界面の全ての汚染物質が追い出されることである。サイクルは、数秒にて完了し、また、この過程の一貫性はその過程自体をブリスクのような重要な部品にて使用されるようにする。
【0005】
しかし、単結晶合金にて製造された、タービンブレードをディスクに摩擦溶接しようとするとき、難点に遭遇する。単結晶合金の異方特性の結果、塑性流れに対する抵抗に差異が生ずる。塑性流れに対する抵抗は、負荷が加わる方向に依存する。線形摩擦溶接過程に適用したとき、塑性流れに対する抵抗のこれらの差異の結果、溶接揺動及び鍛造負荷に対する単結晶の異なる向きに対する異なる溶接動作となる。
【0006】
特定の結晶の向きの場合、成功裏に溶接するため必要とされる力は、過剰となり、その結果、これらの過剰な負荷に対応し得るよう設計されていない場合、溶接機及び(又は)製造装置は故障するであろう。
【0007】
本発明は、平面内の力を最小にし且つ、塑性流れを許容することにより単結晶合金を成功裏に溶接することを可能にする、結晶の向きを確立することにより、上述した問題点を解決しようとするものである。塑性流れは、バリを押し出し且つ、表面の汚染物質無しの適正な継手を生じさせるため要求される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従って、第一の単結晶構成要素を第二の構成要素に摩擦溶接する方法は、鍛造力を加えつつ、構成要素を互いに揺動させるステップを備え、単結晶構成要素は、主要滑り平面が揺動方向及び鍛造力が加えられる方向の双方を含む平面に対して整合され、また、滑り平面内の主要滑り方向は、揺動方向の回りの角度範囲内にて制御されるように、向き決めされることを特徴とする。
【0009】
好ましくは、面心立方(FCC)結晶格子システム内の主要滑り面は、(111)平面であり、主要滑り方向は、<110>方向であるものとする。
本発明の好ましい実施の形態において、第一の構成要素は、キャノン−マスケゴンコーポレーション(Cannon−Muskegon Corporation)のCMSX−4のようなFCCニッケル系単結晶合金にて形成されるが、これにのみ限定されるものではない。第一の構成要素は、ガスタービンエンジンにて使用するため、ディスクに摩擦溶接されたブレード部材又はポストとすることができる。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態において、主要<110>滑り方向は、揺動方向の回りにて0°〜11°の程度の角度範囲に制御される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、添付図面を参照しつつ、本発明について説明する。
図1を参照すると、ブレード部材10は、ディスク14上の縁ポスト12に対して矢印A−Aの方向に向けて揺動させる。鍛造力は、半径方向に加えられ、線16に沿って溶接部が形成される。
【0012】
ブレード部材10は、キャノン−マスケゴンコーポレーションのCMSX−4のような、面心立方(FCC)ニッケル系単結晶合金にて形成される。単結晶ブレード部材10は、実質的に単方向粒子から成っている。
【0013】
図2には、単結晶の面心立方(FCC)格子のユニットセルが示されている。ユニットセル内の位置は、図2に示した座標系によって配置することができる。距離は、その座標を3つの距離x、y、zとして示した格子パラメータによって測定される。等価的な結晶学的方向の1つのグループは、特殊なカッコ「< >」で示され、また、等価的な結晶面の1つのグループは、特殊なカッコ「{ }」で示されている。立方形のシステムにおいて、方向は、同一の座標を有する平面に対して垂直である。
【0014】
図3には、FCCユニットセル内の(111)滑り平面及び[110]滑り方向が示されている。ブレード部材10のような、単結晶構成要素を摩擦溶接するためには、滑り平面(111)に加わる応力を最大にし得るよう単結晶の向きを制御する必要がある。(111)滑り平面における応力を最大にすることにより、平面内摩擦力及び鍛造力は最小となる。平面内力を最小にすることは、単結晶ブレード部材10をディスク14の縁部12に成功裏に溶接することを可能にする。
【0015】
平面内力を最小にするため、単結晶ブレード部材10は、鍛造負荷及び摩擦負荷が(111)滑り平面に対して加えられ、また、揺動方向は、<110>滑り方向に与えられるように向き決めされる。図4には、<110>滑り方向に分解したときの摩擦力が示されている。
【0016】
図5には,摩擦負荷が(111)滑り平面内にて又は平面上にて直接、加えられないときの分解応力RSの減少が示されている。
作用可能な滑りシステムの向き、単結晶ブレード部材10の{111}滑り平面及び<110>滑り方向は、また、溶接平面及び揺動の方向A−Aに対して制御された角度範囲内にて整合されなければならない。
【0017】
1つの構成要素の結晶方向<001>と特定の軸線との間の向き関係は、主要な向きと称する。1つの構成要素の特定の軸線は、基準方向、及び基準方向を含む基準平面である。図1のブレード部材10に対して、基準方向18は、半径方向であり、基準平面20は、基準方向18と、揺動方向A−Aとを含む。
【0018】
主要な向きの測定値は、構成要素の特定の軸線に対する、6つの特徴的な角度ガンマγ、デルタδ、カッパκ、シータθ、アルファα、及びローρである。溶接揺動方向A−Aに対する結晶の主要な向きは、過剰な摩擦力を避け得るように規定しなければならない。角度アルファα、カッパκ及びシータθは、平面摩擦力内の合力を制御する点にて重要である。
【0019】
単結晶ブレード部材10をディスク14上の縁ポスト12に線形摩擦溶接するとき、角度シータ、カッパが制御される。英語の慣例を使用して、角度カッパは、図1aの検査した面Bを視たとき、基準平面から最寄の<001>方向まで測定した、基準方向に最寄の<001>方向の回りの時計回り方向と規定される。基準方向に最寄の<001>方向は、基準方向に対して平行でなくてもよい。角度シータθは、方向に関係なく、基準方向から最寄の<001>方向への偏倚として規定される。
【0020】
タービンブレード部材10とディスク14上の縁ポスト12との間の溶接部を成功裏に形成するためには、角度シータθは、20°以下に維持し、角度カッパκを、34°から56°の程度の角度範囲内に保たなければならない。カッパが34°から56°のこの角度範囲内に保たれる場合、溶接は常に成功する、図6。
【0021】
図7には、安定的な小さい平面内力にて成功裏に行った溶接部の特徴が示されている。
図8には、より大きい不規則的な平面内力にて成功裏に行なった溶接部の特徴が示されている。
【0022】
単結晶構成要素を成功裏に摩擦溶接するためには、揺動方向に最寄の<110>方向を揺動方向の回りにて0°−11°の程度の角度範囲に制御しつつ、滑り平面を鍛造力及び摩擦力を保持する平面に対して整合させなければならない。
【0023】
このように単結晶構成要素の向きが制御される場合、平面内力は減少し、溶接は成功裏に実施されよう。
本発明は、単結晶ブレード部材をディスクに摩擦溶接することに関して説明したが、本発明は、任意の単結晶構成要素の摩擦溶接に適用可能であることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】1a及び1bは、ディスクに溶接するときの溶接揺動方向に対する単結晶ブレード部材の好ましい向きを示す図解図である。
【図2】単結晶を表わす格子の分割部分である、面心立方(FCC)ユニットセルにおける座標点を示す図である。
【図3】図2に示したFCCユニットセルの(111)滑り平面及び<110>滑り方向を示す図である。
【図4】揺動方向と整合されたとき、FCCユニットセルの<110>滑り方向に分解された摩擦負荷を示す図である。
【図5】揺動方向と整合されないとき、FCCユニットセルの<110>滑り方向に分解された摩擦負荷を示す図である。
【図6】最適な結晶向き角度カッパ対成功裏の溶接状態を示すグラフ図である。
【図7】成功裏に溶接したときの力の特徴を示す図である。
【図8】溶接が不成功なときの力の特徴を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造力を加えつつ、構成要素(10、12)を互いに揺動させる工程を備える、第一の単結晶構成要素(10)を第二の構成要素(12)に摩擦溶接する方法において、前記単結晶構成要素(10)は、主要滑り平面が揺動方向及び鍛造力が加えられる方向の双方を含む平面(20)に対して整合され且つ主要滑り方向が揺動方向の回りの角度範囲内にて制御されるような方向に向けられることを特徴とする、摩擦溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦溶接方法において、前記第一の単結晶構成要素(10)は、立方格子結晶であり、前記主要滑り平面は、(111)平面であり、前記主要滑り方向は、<110>方向であることを特徴とする、摩擦溶接方法。
【請求項3】
請求項2に記載の摩擦溶接方法において、前記主要滑り方向<110>は、揺動方向の回りにて0°から11°の程度の角度範囲に制御されることを特徴とする、摩擦溶接方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の摩擦溶接方法において、前記第一の単結晶構成要素(10)は、ニッケル系単結晶合金からなることを特徴とする、摩擦溶接方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1つに記載の摩擦溶接方法において、前記第一の単結晶構成要素(10)は、ブレード部材又はポストであり、前記第二の構成要素(12)は、ディスク(14)である、摩擦溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−539617(P2009−539617A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514869(P2009−514869)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001782
【国際公開番号】WO2007/144557
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(591005785)ロールス・ロイス・ピーエルシー (88)
【氏名又は名称原語表記】ROLLS−ROYCE PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】