説明

単結晶製造装置及び単結晶製造方法

【課題】このような坩堝底面コーン部における温度勾配の減少を無くし、底面に沿って温度勾配を一定に保ち、融点位置を種子単結晶から周辺方向へ徐々に移動して、大口径で高品質の単結晶を製造できる単結晶製造装置を提供すること。
【解決手段】炉内に高温領域と低温領域とを有し、坩堝内に入れた結晶原料を高温領域で溶融した後、該坩堝を低温領域に移動させることにより下端から徐々に固化させて柱状の単結晶を育成する垂直ブリッジマン法による単結晶製造装置において、高温領域と低温領域との間に開口面積が可変な断熱手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶成長技術に関わるもので、特に半導体露光装置のレンズ材料として用いられる蛍石単結晶を育成するための、垂直ブリッジマン法(VB法)による単結晶製造方法及び単結晶製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路の高集積化に伴い、超微細パターン形成への要求が益々高まっている。微細パターンをウェハ上に転写するリソグラフィー装置としては、縮小投影露光装置が多用されている。高集積化するためには、投影レンズの解像度を上げる必要がある。そして、投影レンズの解像力を上げるには、短波長の露光光を用い、投影レンズの開口数を大きく(大口径化)する必要がある。
【0003】
露光光の短波長化は、g線(波長436nm)、i線(365nm)、KrFエキシマレーザー光(248nm)、ArFエキシマレーザー光(193nm)と進み、今後は、F2レーザー(157nm)の使用が有望視されている。i線までの波長域では、光学系に従来の光学レンズを使用することが可能であったが、KrF、ArF各エキシマレ−ザー、F2レーザー光の波長域では、透過率が低く、従来の光学ガラスを使用することは不可能である。このため、エキシマレーザー露光装置の光学系には、短波長光の透過率が高い石英ガラス又は蛍石を使用するのが一般的になっており、F2レーザー露光装置では、蛍石が必須とされている。
【0004】
又、投影レンズを構成する各レンズは、極限の面精度で研磨されるが、多結晶になっていると結晶方位によって研磨速度が異なるため、レンズの面精度を確保することが困難になる。更に多結晶の場合には、結晶界面に不純物が偏析し易く、屈折率の均一性を損ねたり、レーザー照射により蛍光を発したりする。このような理由で、大口径高品質の単結晶蛍石が望まれている。
【0005】
蛍石は通常、垂直ブリッジマン法(VB法)で製造されており、その製造装置は図4に示すような構成になっている(特許文献1)。
【0006】
図4において、1は炉本体、2は炉内を高温領域1aと低温領域1bに分割する断熱部材、3aは上ヒーター、3bは下ヒーター、4は炉本体1の底を貫通する支持棒、5は支持棒4の上端に取り付けた坩堝、5aは坩堝5の種子結晶収納部、5bは坩堝5の底面コーン部、5cは坩堝5の直胴部である。
【0007】
この坩堝5の種子結晶収納部5aに種子単結晶9を置き、その上に原料を入れた後、炉内を真空にして炉温を上げ原料を熔融する。図4の左側のグラフは、炉のヒーター面部の鉛直方向に沿った温度分布を示している。グラフに示すように、断熱部材2の位置が融点温度T1になるように設定されている。結晶成長開始時の坩堝5の位置は、種子単結晶9の上部が溶融する位置である。結晶成長させる時は、0.1〜5mm/時程度の速度で坩堝5を高温領域1aから低温領域1bに降下させ、種子単結晶9を起点として下部の方から結晶化させていく。図4は、この坩堝降下の途中の状態を示しており、6は融液、8は固化した結晶、7は固液界面である。
【0008】
【特許文献1】米国特許第2,214,976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のような従来の垂直ブリッジマン法では、最近要求されるような大口径、例えば直径300mm以上になると、高品質の単結晶ができ難いという問題があった。特に、結晶化の起点(種子単結晶9)から底面コーン部5bに沿って徐々に結晶面を広げて最大径に至る過程で結晶欠陥が生じ易いという問題があった。
【0010】
周知のように、結晶欠陥に影響する重要なパラメータとして、固液界面近傍の温度勾配Gがあり、高品質の単結晶を得るためにはこの値を一定に管理する必要がある。
【0011】
そこで、従来、断熱部材2を挟んで上ヒーター3aと下ヒーター3bを設け、断熱部材2の位置を融点温度として高温領域1aと低温領域1bを創り出し、一定の温度勾配Gを得ていた。
【0012】
図4のように、坩堝5の直胴部5cが断熱部材2の高さにあるときは、直胴部5cはヒーター面に直面し間隔も小さいので、ヒーター面に創り出された温度分布は、輻射により直胴部5cの対向する位置にそのまま転写され、温度勾配Gを一定に保つことができる。
【0013】
しかし、図5のように坩堝5の底面コーン部5bが断熱部材2の高さにあるときは、底面コーン部5bはヒーター面に直面しておらず、又、坩堝の直径が大きくなるとヒーター面との距離も大きくなるため輻射の視界が広がり、底面コーン部5bの外表面上の任意の微小面には広い範囲からの輻射が影響を及ぼし平均化される。その結果、底面コーン部5bの温度勾配Gはヒーター面での温度勾配に比べて可成り小さくなる。温度勾配Gが小さくなると熱外乱によって固液界面7の位置が不安定になり、結晶欠陥が生じ易くなる。
【0014】
本発明の目的は、このような坩堝底面コーン部における温度勾配の減少を無くし、底面に沿って温度勾配を一定に保ち、融点位置を種子単結晶から周辺方向へ徐々に移動して、大口径で高品質の単結晶を製造できる単結晶製造装置及び単結晶製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決し、上述した目的を達成するために、本発明は、炉内に高温領域と低温領域とを有し、坩堝内に入れた結晶原料を高温領域で溶融した後、該坩堝を低温領域に移動させることにより下端から徐々に固化させて柱状の単結晶を育成する垂直ブリッジマン法による単結晶製造装置において、高温領域と低温領域との間に開口面積が可変な断熱手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
又、本発明は、坩堝内に入れた結晶原料を高温領域で溶融した後、該坩堝を低温領域に移動させることにより下端から徐々に固化させて柱状の単結晶を育成する垂直ブリッジマン 法による単結晶製造方法において、高温領域と低温領域との間に開口面積が可変な断熱手段を備え、該断熱手段の開口を最小にした状態で結晶原料を溶融した後、徐々に該断熱手段の開口を拡大しながら該坩堝を低温領域に移動させて単結晶を育成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温領域と低温領域との間に開口面積が可変な断熱手段を備え、該断熱手段の開口を最小にした状態で結晶原料を溶融した後、徐々に該断熱手段の開口を拡大しながら該坩堝を低温領域に移動させて単結晶を育成することにより、該坩堝の底面コーン部に沿って温度勾配を一定に保ち、融点位置を種子単結晶から周辺方向へ徐々に移動することができるようになり、坩堝の底面コーン部においても、直胴部と同様に、固液界面近傍の温度勾配を一定に管理するが可能となる。その結果、大口径で高品質の単結晶の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明に係る単結晶製造装置の断面図である。
【0020】
図1において、1は炉本体、21a,21b,21c,21dは炉内を高温領域1aと低温領域1bに分割する可動断熱部材、3aは上ヒータ、3bは下ヒータ、4は炉本体1の底を貫通する支持棒、5は支持棒4の上端に取り付けた坩堝、5aは坩堝5の種子結晶収納部、5bは坩堝5の底面コーン部、5cは坩堝5の直胴部である。又、図1のA−A視図において、Sは可動断熱部材21a〜21dによって形成される開口である。可動断熱部材21a〜21dは、図示しない駆動機構によって駆動され、その開口Sの大きさを変えることができる。
【0021】
図1の構成において、結晶は次のようにして育成される。
【0022】
即ち、先ず、坩堝5の種子結晶収納部5aに種子単結晶9を置き、その上に原料を入れた後、炉内を真空にして、炉温を上げ原料を熔融する。図1の左側のグラフは、炉のヒーター面部の鉛直方向に沿った温度分布を示している。グラフに示すように、可動断熱部材の開口Sの位置が融点温度T1になるように設定されている。結晶成長開始時の坩堝5の位置は、種子単結晶9の上部が溶融する位置である。図1は、この結晶成長開始時の状態を示しており、開口Sは最小になっている。
【0023】
結晶成長させる時は、0.1〜5mm/時程度の速度で坩堝5を高温領域1aから低温領域1bに降下させる。そのとき、坩堝5の降下に連動して、図示しない駆動機構によって可動断熱部材21a〜21dを後退させ、坩堝5と接触しない程度の最小の隙間を保って開口Sを拡大する。そして、種子単結晶9を起点として下部の方から結晶化させていく。
【0024】
図2と図3は、その過程を示す図で、図2は底面コーン部5bが可動断熱部材の開口Sの位置にあるときの状態を示す図、図3は直胴部5cが可動断熱部材の開口Sの位置にあるときの状態を示す図である。以下、図2と図3の固液界面と温度勾配について説明する。
【0025】
図2において、可動断熱部材の開口Sの位置が融点温度T1になるように設定されているので、固液界面7の位置は可動断熱部材の開口Sの位置になる。又、可動断熱部材21a〜21dによって高温領域1aと低温領域1bが明確に分割され、底面コーン部5bの開口Sより上の部分は下ヒーター3bの輻射を受けず、開口Sより下の部分は上ヒーター3aの輻射を受けない。その結果、開口Sの位置を挟んで底面コーン部5bに一定の温度勾配を確保することが可能となる。
図3においても同様で、可動断熱部材の開口Sの位置が融点温度T1になるように設定されているので、固液界面7の位置は可動断熱部材の開口Sの位置になる。又、可動断熱部材21a〜21dによって高温領域1aと低温領域1bが明確に分割され、直胴部5cの開口Sより上の部分は下ヒーター3bの輻射を受けず、開口Sより下の部分は上ヒーター3aの輻射を受けない。その結果、開口Sの位置を挟んで直胴部5cに一定の温度勾配を確保することが可能となる。
【0026】
以上のようにして、坩堝の底面コーン部5bにおいても、直胴部5cにおいても、固液界面近傍の温度勾配Gを一定に管理するが可能となり、その結果、大口径で高品質の単結晶の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る単結晶製造装置の断面図(結晶成長開始時の状態を示す図)である。
【図2】本発明に係る単結晶製造装置の断面図(底面コーン部5bが可動断熱部材の開口Sの位置にあるときの状態を示す図)である。
【図3】本発明に係る単結晶製造装置の断面図(直胴部5cが可動断熱部材の開口Sの位置にあるときの状態を示す図)である。
【図4】従来の単結晶製造装置の断面図(直胴部5cが断熱部材2の高さにあるときの状態を示す図)である。
【図5】従来の単結晶製造装置の断面図(底面コーン部5bが断熱部材2の高さにあるときの状態を示す図)である。
【符号の説明】
【0028】
1 炉本体
1a 高温領域
1b 低温領域
2 断熱部材
3a 上ヒーター
3b 下ヒーター
4 支持棒
5 坩堝
5a 種子結晶収納部
5b 底面コーン部
5c 直胴部
6 融液
7 固液界面
8 結晶
9 種子単結晶
21a〜21d 可動断熱部材
S 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に高温領域と低温領域とを有し、坩堝内に入れた結晶原料を高温領域で溶融した後、該坩堝を低温領域に移動させることにより下端から徐々に固化させて柱状の単結晶を育成する垂直ブリッジマン法による単結晶製造装置において、
高温領域と低温領域との間に開口面積が可変な断熱手段を備えたことを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項2】
坩堝内に入れた結晶原料を高温領域で溶融した後、該坩堝を低温領域に移動させることにより下端から徐々に固化させて柱状の単結晶を育成する垂直ブリッジマン法による単結晶製造方法において、
高温領域と低温領域との間に開口面積が可変な断熱手段を備え、該断熱手段の開口を最小にした状態で結晶原料を溶融した後、徐々に該断熱手段の開口を拡大しながら該坩堝を低温領域に移動させて単結晶を育成することを特徴とする単結晶製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−219352(P2006−219352A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35250(P2005−35250)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】