説明

単離されたホモ接合性幹細胞、これ由来の分化細胞、ならびにこれを作製及び使用するための材料及び方法

【課題】細胞療法のならびに移植のための細胞、細胞の塊、組織及び器官の生産の細胞の源として使用できる、単離されたホモ接合性幹細胞の新規で改良された生産方法を提供する。
【解決手段】本発明は、多分化能性ホモ接合性幹(HS)細胞、ならびにこれを作製するための方法及び材料を開示するものである。本発明はまた、HS細胞の前駆(多能性)細胞または他の所望の細胞、細胞の群若しくは組織への分化方法を提供するものである。さらに、本明細書で開示されるHS細胞の用途としては、(以下に制限されないが)様々な病気(例えば、遺伝病、神経変性疾患、内分泌関連障害及び癌)、外傷性損傷の診断及び治療、美容及び治療のための移植、ならびに遺伝子治療及び細胞置換療法が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.発明の分野
本発明は、多分化能性(pluripotent)ホモ接合性幹(HS)細胞、ならびにこれを作製するための方法及び材料を開示するものである。本発明はまた、HS細胞の前駆細胞または他の所望の細胞、細胞の群若しくは組織への分化方法を提供するものである。さらに、本明細書で開示されるHS細胞は、遺伝病、神経変性疾患、内分泌関連障害及び癌、外傷性損傷等の、様々な病気の診断及び治療、美容及び治療のための移植、ならびに遺伝子治療及び細胞置換療法に使用されうる。
【背景技術】
【0002】
II.発明の背景および関連技術の説明
1981年に、Evans and Kaufmanが、マウスの胚盤胞から胚幹(ES)細胞を単離する技術を記載した。Establishment in Culture of Pluripotent Cells from Mouse Embryos," Nature 292:154-6 (1981)。この技術では、内部細胞塊(ICM)を用いて、未分化でありかつ多分化能性であり続ける細胞を得た、即ち、この細胞はいずれかの細胞型に発達できる能力を有していた。さらに、ES細胞系が、ニワトリ(Pain et al, Development 122:2339-48 (1996))、ハムスター(Doetschmann et al., Dev. Biol. 127:224-7 (1988))、ブタ(Wheeler et al., Reprod. Fertil. Dev. 6:563-8 (1994))、マーモセット(Thompson et al., Biol. Reprod. 55:254-9 (1996))、及びアカゲザル((Thompson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844-8 (1995))等の他の動物モデルで生産された。
【0003】
Saito et al., Roux’s Arch. Dev. Biol., 201:134-141 (1992)は、3継代生存したが、4継代目以降は失われたウシ胚性幹細胞様細胞系を報告した。さらに、Handyside et al., Roux's Arch. Dev. Biol., 196:185-190 (1987)は、マウスの内部細胞塊(ICM)由来のマウスのES細胞系を単離させる条件下でヒツジ胚の免疫手術により単離された内部細胞塊の培養を開示した。さらに、このような条件下では、ヒツジのICMが付着し、拡張し、ES細胞様及び内胚葉様細胞双方の領域を発達させたが、長期間の培養後では、内胚葉様細胞のみが明らかであることが報告された。Id.
より初期には、ES細胞が、マウスの胚盤胞にインビボで注入されると、レシピエント胚中に取り込まれて、生殖系等の、多くの異なる組織型に寄与することが決定された。Stewart et al., "Stem Cells from Primordial Germ Cells Can Reenter the Germ Line," Dev. Biol. 161:626-8 (1984)。また、Bradley et al., Nature 309: 255-256 (1984)を参照。
【0004】
近年、Cherny et al., Theriogenology, 41:175 (1994)は、多分化能性ウシ原始生殖細胞が長期間培養物中に維持される細胞系を誘導することを報告した。7日培養した後、このような細胞はアルカリホフファターゼ(AP)で陽性に染色され、胚様体の形成能を示し、さらに少なくとも2個の異なる細胞型に自発的に分化するES様コロニーを生産した。これらの細胞はまた、転写因子OCT4、OCT6及びHES1のmRNAを発現することが報告された。
【0005】
Campbell et al., Theriogenology, 43:181 (1995)(要約)には、マウスのES細胞系の単離を促進するような条件下で培養される、9日ヒツジ胚から培養胚盤(ED)を核転移した後、生きた小羊を生産したことが報告された。これらの結果に基づいて、著者らは、9日ヒツジ胚からのED細胞は核転移によって全能性であり、全能性は3継代までは培養物中に維持されると結論した。Campbell et al., Nature, 380:64-68 (1996)はさらに、培養細胞系からの核転移によるヒツジのクローニングを報告した。
【0006】
Van Stekelenburg-Hamers et al., Mol. Reprod. Dev., 40:444-454 (1995)は、ウシ胚盤胞のICM細胞から永久であると称される細胞系の単離及び特徴を報告した。著者らは、異なる条件下で8または9日ウシ胚盤胞からICMを単離、培養して、どのフィーダー細胞及び培地がウシICM細胞の付着及び増殖を支持するのに最も効率的であるかを決定した。彼らは、培養ICM細胞の付着及び増殖が、(ウシ子宮上皮細胞の代わりに)STO(マウス線維芽細胞)フィーダー細胞を使用することによって、および培地に捕捉するのに(正常血清ではなく)木炭剥離血清(charcoal stripped serum)を使用することによって促進することを、結果に基づいて結論した。しかしながら、Van Stekelenburg et al.は、その細胞系は、多分化能性ICM細胞より上皮細胞により似ていることを報告している。Id.
1994年10月27日に公開された、Smith et al.、WO 94/24274号、1990年4月5日に公開された、Evans et al.、WO 90/03432号、及び1994年11月24日に公開された、Wheeler et al.、WO 94/26889号には、形質転換動物を得るのに使用されると称される動物の幹細胞の単離、選択及び増殖が報告された。また、1990年4月5日に公開された、Evans et al.、WO 90/03432号には、形質転換動物の生産を目的とした、ブタ及びウシ種由来の多分化能性であると称される胚性幹細胞の誘導が報告された。さらに、1994年11月24日に公開された、Wheeler et al.、WO 94/26884号には、キメラ及び形質転換有蹄動物の製造を目的とする、胚性幹細胞が開示された。
【0007】
核移植に有蹄動物のICM細胞を使用することもまた報告された。例えば、Collas et al., Mol. Reprod. Dev., 38:264-267 (1994)には、除核された成熟卵母細胞中に溶解ドナー細胞をマイクロインジェクションすることによるウシICMの核移植の技術が開示された。この参考文献には、7日間インビトロで胚を培養して、15個の胚盤胞を得、これらは、ウシレシピエントに転移すると、4回の妊娠及び2回の誕生を生じたことが開示された。また、Keefer et al., Biol. Reprod., 50:935-939 (1994)には、核転移処置にウシICM細胞をドナー核として使用して、胚盤胞を生産し、これからウシレシピエントに移植すると幾つかの生きた子孫を得たことが開示された。さらに、Sims et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 90:6143-6147 (1993)には、除核された成熟卵母細胞中に短期間インビトロで培養されたウシICM細胞を転移することによってコウシが生産されたことが開示された。
【0008】
短期間培養された胚盤細胞(3継代まで)の核転移後の生きたコヒツジの生産が報告された(Campbell et al., Theriogenology, 43:181 (1995))。さらに、核転移でのウシ多分化能性胚細胞の使用及びキメラ胎児の生産もまた報告された(Stice et al., Theriogenology, 41:301 (1994))。
【0009】
より近年では、2001年4月26日に公開され、Advanced Cell Technology(ACT)に譲渡された、Cibelli et al, WO 01/29206号には、胚盤胞の内部細胞塊から単離された、ヒトを含む、哺乳動物のES細胞を分化させて、同種同系、同種異系、および/または異種移植用の細胞及び器官を得ることが開示された。しかしながら、開示された幹細胞は、本発明とは異なり受精胚から作製された。さらに、ACTでの研究者らによる非受精胚からの幹細胞の作製努力はうまくいかなかった、Washington Post, "First Human Embryos Are Cloned in US," November 26, 2001を参照。
【0010】
前記に基づいて、多くのグループがES細胞系を生産しようと試みていることは明らかである。主にES細胞が多分化能性であり、ゆえに成熟した、分化した、機能性細胞を生じうるため、ES細胞が受け入られたことに注目される。しかしながら、ES細胞の治療のための及び予防のための用途が有望であるにもかかわらず、ES細胞の使用は様々な倫理的な問題がある。ES細胞は、前記段落で記載したように、卵母細胞の受精時に発達する胚盤胞由来である。ゆえに、ES細胞は、本来、犠牲にするために明らかに作製される潜在的に生育可能な胚由来であり、またはこれから集められる。
【0011】
さらに、ES細胞の使用または発達と関連する技術的な問題がある。例えば、他の個体由来の、例えば、現在存在する細胞系由来の、ES細胞は、不適合なレシピエントに移植されると免疫反応性を生じるかもしれず、また、体細胞核転移由来のES細胞は、核ドナーの寿命中に起こる遺伝子の突然変異が多分化能性細胞系に起こるであろうため、治療用途にはあまり理想的ではない。
【0012】
しかしながら、ES細胞などの、多分化能性細胞は、損傷を受けた神経を修復しその機能を回復することによって、または置換組織若しくは器官の源を提供することによって、遺伝病、神経変性疾患、及び癌等の病気を処置するのに治療上使用できるため、非常に有用である。多分化能性細胞はまた、生殖細胞系キメラを生じうるまたは次世代にゲノムを転移できるため、発達生物学の研究に、および移植療法に使用できる。
【0013】
ゆえに、他の源の多分化能性細胞の発達は、当該分野において必要である。本発明は、このような源を提供するものである。一実施態様においては、本発明は、(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合する;(b)卵形成中の第二極体の放出(extrusion)を防止する;(c)適当な条件下で第二極体の放出及び自発的なゲノムの自己複製を行なわせる;または(d)2個の1倍体卵または精子核を除核した卵母細胞に移すことによって作製される胚盤胞様塊から単離される単離されたホモ接合性幹(HS)細胞を提供するものである。加えて、ホモ接合性である幹細胞に関するスクリーニングは、方法(a)または(b)を使用する際には、遺伝子型別(genotyping)を用いて行なわれる。
【0014】
本発明のHS細胞は、多分化能性であり、また、非受精であり、生育可能な胚に発達できない細胞塊から単離されるため、倫理的な問題が生じない。さらに、ヘテロ接合性ES細胞系を組織または細胞移植療法に使用する、またはバンクおよび/または寄託機関に維持される際に、免疫組織適合性マッチングが達成しにくい。これは、Advanced Cell Technology及び他の機関によって開発されたものなどの、ES細胞系は、受精胚または成体分化細胞を用いた核転移技術由来であり、ゲノム的にヘテロ接合性であるためである。本発明の多分化能性細胞はホモ接合性である(ヘテロ接合性が最小限であるまたはホモ接合性が均一である)ため、このような細胞は、現在利用されているES細胞系を用いた移植、細胞置換、及び遺伝子療法技術によって、またはES細胞系をバンクおよび/または寄託機関に維持される際に直面する免疫組織適合性を解消するのに使用される。
【0015】
配偶子形成中、ヘテロ接合性生殖細胞、即ち、父親及び母親双方の染色体を有する生殖細胞は、減数分裂を受ける。1回目の減数分裂(減数分裂I)では、相同染色体が分離して、交差の現象のため、ある程度ヘテロ接合性である父親または母親のいずれかの染色体が導入される2個のホモ接合性娘細胞を形成する。さらに、卵形成中に、1個の娘細胞(第一極体)の放出が観察される。他の娘細胞は、分裂中期IIで停止する。このような分裂中期IIの2倍体の卵母細胞が、最小限のヘテロ接合性を有するホモ接合性幹細胞を誘導するのに使用されてもよい。
【0016】
適当な活性化で、分裂中期IIの卵母細胞を、一方の染色分体(即ち、第二極体)の放出によって減数分裂を終了して、1倍体細胞を得るように処理してもよい。このような減数分裂が終了した1倍体卵母細胞は、細胞分裂を伴わずに自己複製して、2倍体に及び均一にホモ接合性にする。ゆえに、このような減数分裂が終了した1倍体卵母細胞は、ヘテロ接合性を有さない本発明のホモ接合性幹細胞を作製するのに使用されてもよい。また、Kaufman M.H., Robertson E.J., Handyside A.H., Evans M.J., "Establishment of pluripotential cell lines from haploid mouse embryos," J. Embryol. Exp. Morphol., 73:249-61 (1983)を参照。
【0017】
ヘテロ接合性が最小限であるHS細胞よ均質なホモ接合性を有するHS細胞とは双方とも、ホモ接合性幹細胞が2セットの同一の主要組織適合抗原(MHC)のハプロタイプを含みうるという点で、ヘテロ接合性ES細胞を有する幹細胞(受精胚性胚、治療のためのクローニング胚、及び成体幹細胞を用いることにより誘導されるものなど)に比べて優れている。したがって、ドナー及び移植療法の必要な個体間の免疫組織適合性マッチングはHS細胞でより容易に達成される。一つのMHCハプロタイプについてホモ接合性であるこのような幹細胞は、同一のハプロタイプを有するレシピエントによってのみでなく、親のハプロタイプのいずれかで同一のMHC成分を有するレシピエントによっても、許容される。
【0018】
さらに、ヒトMHCの遺伝子座は第6染色体上の4Mb内にあり、MHC対立遺伝子は、一般的に総括的に受け継がれる。MHC対立遺伝子の組み合わせによっては、集団においてかなりより高い頻度で共有しており、例えば、15個の最も共通するHLA−A、−B、−DRのハプロタイプが21.3%の白色アメリカ人で共有され、ハプロタイプ頻度の同様の考察が、他の民族学的な背景に見られる、Mori, M. et al., "HLA gene and haplotype frequencies in the North American population: the National Marrow Donor Program Donor Registry", Transplantation, 64(7): 1017-27 (1997)。このような関連平衡異常を支持するこのような証拠を考慮すると、非受精の、減数分裂I後の(post-meiosis I)2倍体生殖体由来のHS細胞を使用することによって、組織または細胞移植用の幹細胞バンクまたは寄託機関に維持される必要のある免疫学的に異なる細胞系の数を減らすことができる。
【0019】
ゆえに、潜在的に、異なるハプロタイプについてホモ接合性である数百の幹細胞系があれば、主要な集団にマッチするのに十分であろう。この数は、胚性幹細胞由来の幹細胞系、成体幹細胞、または治療のためのクローニング幹細胞用のバンクまたは寄託機関を維持する必要のあるハプロタイプの数に対して非常により小さいものである。例えば、200個のハプロタイプ毎に、20,000を超えるヘテロ接合性の可能性がある。
【0020】
したがって、本発明は、一実施態様においては、遺伝病、例えば、血友病、糖尿病、ハンチントン病等を、処置するのにレシピエントに関連するメスドナーの非受精の卵母細胞由来でありうるMHCの遺伝子座及び野生型(正常な)遺伝子に関してホモ接合性である幹細胞を提供するものである。本発明のHS細胞系では異常な(病気を引き起こす)対立遺伝子が排除される利点というは、現在利用されているES細胞系では現時点では達成できない。
【0021】
奇形腫は、3種の胚葉のいずれかの正常な誘導体と似ている様々な組織要素から構成される良性腫瘍である。自然界で見出される奇形腫は、3種の胚葉、即ち、外胚葉、中胚葉及び内胚葉のいずれかを代表とする要素への分化能を有する、2倍体の全能細胞、具体的には非受精の生殖細胞由来である。奇形腫の源に関する科学的な理論は、隔離全能割球または原始生殖細胞が不完全に双生し、腫瘍的に増殖し、体細胞の核における全能遺伝子情報が抑制解除されて、生殖細胞が単為生殖により発達することを含む。
【0022】
自然発生する自発的な奇形腫(spontaneous teratoma)は、2倍体、場合によっては多倍数体である(Surti et al., Am. J. Hum. Gene. 47:635-643 (1990))。2倍体の奇形腫組織は、減数分裂Iに従属して、または第二極体と卵細胞との融合によって起こると考えられる(Eppig and Eicher, Genetics, 103:797-812 (1 983); Eppig and Eicher, J. Hered., 79:425-429 (1988))。さらに、奇形腫は、ヘテロ接合性宿主において遺伝学的にホモ接合性であることが分かった(Linder, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 63:699-704 (1969); Linder and Power, Ann. Hum. Genet. 34:21-30, (1970); Linder et al., Nature, 254:597-598 (1975); Kaiser-McCaw et al., Cytogenet. Cell. Genet., 16:391-395 (1975))。しかしながら、以降の研究では、このような結果を矛盾なく再現することができなかった(Surti et al., Am. J. Hum. Gene., 47:635-643 (1990); Carritt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79:7400-7404 (1982); Parrington et al., J. Med. Genet., 21:1-12 (1984); Deka et al., Am. J. Hum. Genet., 47:644-655 (1990); Dahl et al, Cancer Genet. Cytogenet., 46:115-123 (1990))。
【0023】
他の腫瘍と比べると、奇形腫は特有の組織学的な特徴を示す。奇形腫は、表皮、中枢神経系組織、または成熟軟骨等の組織を含む、様々な分化組織から構成される。奇形腫はまた、非特異的な組織型、例えば、リンパ組織または線維支質(fibrous stroma)を含む。「ステムプラズム(stemplasm)」は、宿主へのHS細胞の移植時に発達する塊を説明するのに使用される新たに派生したことばである。奇形腫とは異なり、ステムプラズムは、3種の胚性胚葉(embryonic germ layer)すべて由来の細胞を含んではいるものの、成長が制御される。したがって、ステムプラズムは、本発明のHS細胞のインビボでの分化のための手段として使用されうる。
【0024】
分化を誘導できる幹細胞の信頼性の高い源に対して当該分野における必要性があることは明らかである。本発明は、受精処置を必要とせずにホモ接合性幹細胞を提供することによるこの必要性を満足するものである。本発明は、非受精の、減数分裂I後の2倍体生殖細胞由来のホモ接合性幹(HS)細胞を開示するものである。インビトロの受精の分野で一般的に使用される技術を用いて個体ドナーから集められてもよい、ドナー細胞が、本発明のHS細胞がこれ由来である胚盤胞様塊を形成するように誘導でき、このようなHS細胞はいずれかの細胞型、細胞の群、または組織型に分化しうる。さらに、HSで誘導される分化細胞および/または組織はさらに、診断及び処置、特に細胞置換療法及び遺伝子療法、ならびに美容および/または治療のための移植に使用されてもよい。しかしながら、このような用途は、例示であり、限定するものではないと解される。
【発明の開示】
【0025】
III.発明の要約
本発明は、単離されたホモ接合性幹細胞(HS)の生産、ならびにこれらの細胞が特定の及び予想できるように分化しうる特有の性質を有するという発見に関するものである。このように、HS細胞は、ES細胞に似ているが、受精処置、または胚組織の収集を必要としない。
【0026】
細胞療法のならびに移植のための細胞、細胞の塊、組織及び器官の生産の細胞の源として使用できる、単離されたホモ接合性幹細胞の新規で改良された生産方法を提供することが、本発明の目的である。
【0027】
単離されたホモ接合性幹(HS)細胞を提供することが、本発明の目的である。以下の種:哺乳動物、鳥類、魚類、両生類、及び爬虫類の動物などの、動物ドナー材料由来のHS細胞を提供することが、本発明のさらなる目的である。一つの好ましい実施態様においては、動物は、哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。HS細胞は、ドナーから回収される非受精の、減数分裂I後の2倍体生殖細胞由来であり、この際、ドナー細胞は現在の及び未来のインビトロの受精技術を用いて集められる。
【0028】
本発明の他の目的は、(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合する;(b)卵形成中の第二極体(second polar body)の放出(extrusion)を防止する;(c)適当な条件下で第二極体の放出及び自発的なゲノムの自己複製を行なわせる;または(d)2個の1倍体卵または精核を除核した卵母細胞に移すことによって有糸分裂により作製される胚盤胞様塊由来のホモ接合性幹細胞(HS)を提供することである。加えて、ホモ接合性である幹細胞に関するスクリーニングは、方法(a)または(b)を使用する際には、遺伝子型別(genotyping)を用いて行なわれる。
【0029】
本発明の目的はまた、非受精の、減数分裂I後の2倍体生殖細胞からのホモ接合性幹細胞の誘導方法を提供することである。好ましくは、HS細胞は、卵形成中の卵母細胞から第二極体の放出を防止する、またはこのような1倍体の卵母細胞がHS細胞が抽出される胚盤胞様塊を作製するような適当な条件下で第二極体の放出及び自発的なゲノムの自己複製を行なわせる方法を用いて誘導される。
【0030】
非受精の、減数分裂I後の2倍体生殖細胞の活性化時に作製されるHS細胞は、生きた動物に移植されると、ステムプラズム(stemplasm)を形成する。さらなる目的は、当該ステムプラズム内の様々な発達段階からHS細胞を単離することである。本発明の他の目的は、当該ステムプラズムから単離される細胞の選択方法を提供することである。
【0031】
本発明の他の目的は、所望の細胞、細胞の群、または組織型に到達するように、適当な条件下で、上記したような単離されたHS細胞の分化を誘導することを有する、所望の細胞、細胞の群、または組織型の作製方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、HS細胞由来の分化細胞を提供し、および治療および/または診断を目的としてこのような分化細胞を使用することである。具体的な組織としては、以下に制限されないが、上皮組織、結合組織、筋組織または神経組織が挙げられる。
【0032】
上皮細胞の詳細な型としては、以下に制限されないが、ケラチン化上皮細胞;湿性重層バリヤ上皮細胞(wet-stratified barrier epithelium);内層上皮細胞(lining epithelium);外分泌上皮細胞;内分泌上皮細胞;細胞外マトリックス分泌上皮細胞;腸、外分泌腺、及び尿生殖路の上皮細胞等の、吸収性上皮細胞;ならびに収縮性上皮細胞が挙げられる。結合細胞の詳細な型としては、以下に制限されないが、細胞外マトリックス分泌細胞;代謝及び貯蔵に特化した細胞;ならびに血液及び免疫系の循環細胞が挙げられる。筋細胞の詳細な型としては、以下に制限されないが、収縮性細胞及び前方突進機能を有する線毛細胞が挙げられる。神経または感覚細胞の詳細な型としては、以下に制限されないが、a)感覚伝達細胞(transducer);b)自律性ニューロン;c)感覚器官の支持細胞;およびd)末梢ニューロン;ならびに中枢神経系のニューロン及びグリア細胞が挙げられる。生殖細胞(reproductive cell)の詳細な型としては、以下に制限されないが、胚胞(germ cell)及び栄養細胞が挙げられる。
【0033】
本発明のさらなる特定の目的は、HS細胞由来の細胞を、診断、処置、例えば、細胞療法、遺伝子療法を目的として、および移植用の細胞、細胞の塊、組織及び器官の生産を目的として細胞の源としても使用できる多分化能性前駆細胞に分化するように誘導する方法を提供することである。このような用途は、さらに、網羅するものではなく例示である。
【0034】
本発明の目的は、診断、処置、例えば、細胞療法、遺伝子療法を目的として、ならびに移植用の細胞、細胞の塊、組織及び器官の生産を目的として源として使用できる、HS細胞由来の遺伝子操作された前駆細胞の改善された生産方法を提供することである。このような用途は、さらに、網羅するものではなく例示である。一実施態様においては、所望の遺伝子を、さらに前駆細胞に分化させるHS細胞に挿入、除去または修飾してもよい。さらなる実施態様においては、前駆細胞自身を、遺伝的に変更した後、培養して、遺伝的に変更された前駆細胞のコロニーを生産してもよい。
【0035】
本発明の他の目的は、前駆細胞、好ましくはHS細胞由来のヒト前駆細胞を提供することである。このような前駆細胞は、一実施態様においては、細胞、細胞の群、組織および/または器官に分化するように誘導される。さらに、治療および/または診断を目的として分化した細胞および/または組織を培養するのにこのような前駆細胞を使用することが、本発明の目的である。
【0036】
本発明の特定の目的は、細胞、組織または器官の移植、遺伝子療法および/または細胞療法が治療または診断からみて有益である病気の処置または診断を目的とした、好ましくはヒトの、前駆細胞を提供することである。本発明のHS細胞、前駆細胞、および/または分化細胞は、同種でまたは種を越えて使用されてもよい。
【0037】
本発明のHS及び前駆細胞、ならびにさらに分化したHS及び前駆細胞は、同じ、関連するまたは関連しない哺乳動物、好ましくはヒトの卵子または精子を用いて作製されてもよい。
【0038】
本発明の他の特定の目的は、細胞の分化の研究を目的としておよびアッセイを目的として、例えば、薬剤の研究を目的としてインビトロまたはインビボで本発明に従って生産される分化細胞を使用することである。
【0039】
本発明の他の目的は、単離されたHS細胞から生じる遺伝的に修飾されたHS細胞、または細胞の群、組織若しくは器官を用いた調査または診断に使用される病気の状態のモデルを提供することである。
【0040】
本発明の他の目的は、単離されたHS細胞から適当な置換細胞、細胞の群、組織または器官を、in situでまたはin vitroで、生産することによる疾患または病気の状態の処置方法を提供することである。疾患及び病気の状態の例としては、以下に制限されないが、外傷性損傷(例えば、肢置換(limb replacement)、脊髄損傷、火傷などでの、外傷後修復及び再建)及び先天性異常;細胞、組織、及び器官の病的な及び悪性の症状(例えば、癌);ならびに筋肉の細胞及び組織(例えば、筋ジストロフィー、心臓の状態)、神経(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、及び多発性硬化症)、上皮(例えば、失明及び筋障害、動脈硬化及び他の狭窄性血管症状、クローン病等の酵素欠損症、および糖尿病等のホルモン欠損症)、および結合組織(例えば、免疫症状及び貧血)の変性及び先天性の病気が挙げられる。HS由来細胞及び組織を、好ましくは被検者の自己ドナー材料を用いて、必要な被検者にグラフトして(graft)も移植して(transplant)もよい。
【0041】
本発明の他の目的は、本発明に従って生産される分化細胞から生産される同種同系または同種異系細胞、組織、または器官を使用することを有する診断及び移植、遺伝子および/または細胞置換療法の改良された方法を提供することである。このような治療の例としては、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、脊髄損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、糖尿病、肝疾患、心臓病、軟骨置換、火傷、血管疾患、尿路疾患等の病気及び損傷の処置、さらには免疫不全及び癌の処置、ならびに骨髄移植が挙げられる。
【0042】
本発明のこれらの及びさらなる目的は、下記詳細な説明、実施例及び特許請求の範囲に十分記載される。
【0043】
IV.図面の簡単な説明
図1:卵母細胞の単為生殖活性化(parthenogenetic activation)の産物。
【0044】
図2:精子形成及び卵形成の概略図。
【0045】
図3:卵母細胞の融合及び卵母細胞融合産物の発達。
【0046】
図4:卵母細胞の単為生殖活性化の産物の詳細。
【0047】
図5A:マウスHS細胞由来のコロニー形成単位(CFU)の形態の写真。
【0048】
図5B:マウスHS細胞由来の赤血球の形態の写真。
【0049】
図5C:マウスHS細胞由来の単球の形態の写真。
【0050】
図5D:マウスHS細胞由来のリンパ球の形態の写真。
【0051】
図5E:マウスHS細胞由来の顆粒を有する造血細胞の形態の写真。
【0052】
図5F:マウスHS細胞由来の顆粒及び単球双方を有する造血細胞の形態の写真。
【0053】
図6:マウスHS細胞由来の脈拍筋細胞(beating muscle cell)の形態の写真。
【0054】
図7A:マウスHS細胞由来の膵臓細胞のクラスターの形態の写真。
【0055】
図7B:インスリン染色が茶色で示され、グルカゴン染色が赤色で示されるマウスHS細胞由来の脾臓細胞インスリン及びグルカゴン染色の写真。
【0056】
図8A:ヒトのホモ接合性減数分裂I後の2倍体卵母細胞由来の桑実胚様塊の発達を示す写真。
【0057】
図8B:ヒトのホモ接合性減数分裂I後の2倍体卵母細胞由来の初期胚盤胞塊の発達を示す写真。
【0058】
図8C:ヒトのホモ接合性減数分裂I後の2倍体卵母細胞由来の内部細胞塊を現わす胚盤胞様塊の写真。
【0059】
図8D:ヒトのホモ接合性減数分裂I後の2倍体卵母細胞由来のフィード層(D)上に成育する単離された内部細胞塊の写真。
【0060】
図9A:マウスHS細胞由来のネスチン(Nestin)陽性ニューロン前駆細胞の形態の写真。
【0061】
図9B:マウスHS細胞由来のチロシンヒドロキシラーゼ陽性ニューロン細胞の形態の写真。
【0062】
V.好ましい実施態様の詳細な説明
本明細書に列挙される参考文献はすべて、参考によって完全に引用される。本発明が従来の発明によるこのような開示に先行する権利を有するものではなくまたは従来技術が可能な若しくは適切な開示を提供することを認めると解されるものではない。本記載を通じて、示される好ましい実施態様及び実施例は、本発明を制限するものではなく、例示と解されるべきである。
【0063】
本発明は、単離されたホモ接合性幹(HS)細胞、HS細胞の生産方法、および診断、細胞療法、遺伝子療法に、または美容及び治療のための移植を目的とする組織及び器官を提供するための細胞の源として使用される分化細胞の作製方法を提供するものである。しかしながら、このような用途に限定されるものではない。より詳しくは、HS細胞は、非受精の、減数分裂I後の2倍体生殖細胞由来の胚盤胞様塊から単離される。
【0064】
以前は、胚性幹(ES)細胞が、受精した胚盤胞の内部細胞塊由来の細胞を長期間培養することによって得られた。次に、ES細胞は、培養され、遺伝的に修飾されて、治療のための形質転換動物または細胞を作製するための細胞を生産することを目的として分化するように誘導された。
【0065】
本発明は、ホモ接合性であり、非受精の、減数分裂I後の2倍体生殖細胞の有糸分裂活性化(mitotic activation)時に作製される胚盤胞様塊から単離される幹細胞を提供するという点で、分化できる多分化能性細胞を得る従来の方法とは異なる。さらに、胚盤胞様塊から単離されたHS細胞は、分化細胞若しくは組織、多分化能性前駆細胞が得られるように分化するように誘導されても、または永久細胞系として維持されてもよい。必要であれば、遺伝子修飾を本発明のHS細胞または前駆細胞中に導入してもよい。
【0066】
ゆえに、本発明は、多分化能性HS細胞、多能性前駆細胞、および/または最終分化細胞、これらの作製方法を提供するものであり、このような細胞は様々な治療及び診断の目的に使用される。
【0067】
A.定義
本発明の説明において、下記定義が適用される。
【0068】
「分化」は、細胞が正常な機能細胞に成熟するように処理される高度に調節されたプロセスである。分化細胞は、明白な特徴を有し、特異的な機能を行ない、あまり分裂しないと考えられる。これに対して、未分化細胞は、多くの非特異的な活性及び機能を有する非特異的な様相を有する迅速に分裂する未成熟な、胚または原始的細胞である。
【0069】
本明細書に使用される際の、「幹細胞」ということばは、適当な刺激を受けると、成熟した、分化した、機能細胞になる、能動的に分裂、サイクルする比較的未分化な細胞を意味する。幹細胞の特定の性質としては:(a)それ自身では最終的に分化しない;(b)動物の寿命に制限されずに分裂できる;及び(c)分裂すると、各娘は幹細胞であり続けるかまたは不可逆的に最終的な分化に移行するような経過をとるかを選択する。初めはその能力に制限のない(即ち、様々な型の分化細胞を生じることが可能である)これらの幹細胞を、「多分化能性(pluripotent)」と称する。多分化能性細胞の一般的な源としては、胚性(ES)幹細胞、胎児性癌(EC)細胞、体細胞クローニング、奇形腫及びテラトカルシノーマから得られる細胞が挙げられる。
【0070】
それぞれが3種の胚葉、即ち、内胚葉、中胚葉及び外胚葉のうちの一つから細胞を生産することができる、前駆細胞系を、本明細書にでは「多能性(multi-potent)」と称する。各前駆細胞系は最終的に分化せず、動物の寿命中分裂し続けることができるが、胚葉の一つの型からのみから異なる組織または細胞に拘束される(commit)と考えられる。したがって、特定の前駆細胞系を、骨、軟骨、平滑筋、横紋筋及び造血細胞(中胚葉);肝臓、原腸、及び呼吸上皮(内胚葉);またはニューロン、グリア細胞、毛嚢及び歯蕾(外胚葉)に分化してもよい。ここで、「前駆細胞」ということばは、「多能性幹細胞」または「プレカーサー細胞」と交互に使用されてもよい。インビボ(この際、「インビボ」ということばは、同種同系または同種異系動物中にHS細胞を被包してこのようにして被包された細胞からステムプラズムを得ることによって誘導される分化を包含する)またはインビトロでHS細胞の特定の分化によって作製される、このような前駆細胞系は、永久細胞系として培養物中に維持されうる。
【0071】
「奇形腫」は、分裂し続けてより多くのこれらの分化組織を生じる未分化の幹細胞と混合される、多くの型の分化組織、骨、筋肉、軟骨、神経、歯蕾、腺上皮などの、3種すべての胚葉由来の組織を含む異常な細胞の自然発生する(naturally occurring)自発的な(spontaneous)塊である。
【0072】
奇形腫は、3種の胚性胚葉すべて由来の細胞を含む、生殖組織中に一般的に見出される自然発生的に形成される新生物である。さらに、成長が調節されないという特徴を有する。「ステムプラズム」は、宿主へのHS細胞の移植時に発達する塊を説明するのに使用される新たに派生したことばである。奇形腫とは異なり、ステムプラズムは、3種の胚性胚葉すべて由来の細胞を含んではいるものの、成長が制御される。したがって、ステムプラズムは、本発明のHS細胞のインビボでの分化のための手段として使用されうる。
【0073】
「テラトカルシノーマ」は、奇形腫に従属するものである。奇形腫は、主に良性である;しかしながら、悪性になると、テラトカルシノーマが発達して、宿主を死に至らせうる。
【0074】
従来では、「奇形腫幹細胞」または「TS細胞」と称されていた、「ホモ接合性幹細胞」は、非受精の、減数分裂I後の2倍体生殖細胞から生じる未分化幹細胞である。好ましくは、これは、卵形成中の第二極体の放出を防止すること(または「活性化」)、または適当な条件で第二極体の放出及び自発的なゲノムの自己複製を行なわせることによって、形成される。ホモ接合性幹(HS)細胞は、(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合する;(b)卵形成中の第二極体の放出(extrusion)を防止する;(c)適当な条件で第二極体の放出及び自発的なゲノムの自己複製を行なわせる;または(d)2個の1倍体卵または精核を除核した卵母細胞に移すことによって達成されうる、非受精の、減数分裂I後の2倍体生殖細胞の「有糸分裂活性化(mitotic activation)」時に発達する胚盤胞様塊の内部細胞塊から得られる単離された細胞である。加えて、ホモ接合性である幹細胞に関するスクリーニングは、方法(a)または(b)を使用する際には、遺伝子型別(genotyping)を用いて行なわれる。
【0075】
哺乳動物の発達において、卵割により、薄壁中空球、「胚盤胞」が生じ、この際、適当な胚が「内部細胞塊」としても知られている、一方の側での細胞の塊によって表わされる。胚盤胞は、内移植前に形成され、「胞胚(blastula)」と等しい。薄壁中空球の壁は、哺乳動物の胚盤胞周辺で形成し、胚を子宮壁に付着する上皮の胚体外層である、「トロホブラスト」と称される。トロホブラストは、柔毛膜の外層を形成し、母体組織と一緒に、胎盤を形成するであろう。
【0076】
本発明の説明において、「胚盤胞様塊」は、有糸分裂により活性化した非受精の、減数分裂I後の生殖細胞の産物であるという点で、(当該分野において使用される)「胚盤胞」とは異なる。
【0077】
本明細書に使用される際の、「有糸分裂により活性化した(mitotically activated)」ということばは、有糸分裂により規則的な細胞分裂を受けることができことを意味し、卵母細胞の単為生殖活性化及び精子細胞の雄性生殖活性化双方を包含する。本願を目的として、有糸分裂活性化は、単為生殖活性化または雄性生殖活性化と相互に使用される。
【0078】
本明細書に使用される際の、「ホモ接合性、減数分裂I後の2倍体生殖細胞」ということばは、細胞が父性または母性の相同染色体のいずれかの2コピーを含む配偶子形成の段階である生殖細胞を意味する。
【0079】
B.本発明の単離された幹細胞
前記段落で述べたように、本発明のホモ接合性幹(HS)細胞は、活性化された非受精の、減数分裂I後の2倍体生殖細胞から生じる。例えば、2個の成熟した卵母細胞または静止細胞の融合によって、HS細胞が誘導される胚盤胞様塊が生じる。このような胚盤胞様塊由来の幹細胞は、ホモ接合性、多分化能性、及び生物学的に良性となる減数分裂後の遺伝子型を有する。
【0080】
さらに、好ましい実施態様においては、本発明のHS細胞は、個体から獲得され、同じ個体またはレシピエントとHS細胞、前駆細胞、またはHS細胞若しくは前駆細胞由来の分化細胞および/または組織との間に高い免疫学的な適合性を有する関連する若しくは関連しない免疫組織適合性を有する個体で使用されてもよい。
【0081】
HS細胞は、3種すべての胚葉由来の様々な型の組織に、インビトロでまたはインビボで分化するように誘導されてもよい。好ましい実施態様においては、HS細胞は、同種同系または同種異系動物中に被包されて、このような細胞が、以下に制限されないが、ヒト等の、動物における診断または治療用途のある皮膚、毛、神経組織、膵臓島細胞、骨、骨髄、脳下垂体、肝臓、膀胱、及び他の組織などの、内胚葉、中胚葉、及び外胚葉由来の様々な型の組織に分化できる、ステムプラズムを生産してもよい。さらに、分化技術の分野における通常の知識を有するもの、特にES細胞及び胎児性癌(テラトカルシノーマ)細胞の分化について開発するものは、過度の実験を伴わなくとも多分化能性細胞を所望の型の組織に分化するように誘導できる。
【0082】
例えば、本明細書中に引用される、Hole, Cells Tissues Organs, 165: 181-189 (1999)には、インビトロで胚性幹細胞の造血細胞の分化を誘導する方法が記載される。加えて、本明細書中に引用される、Doetschman et al., Embryol. Exp. Morphol., 87: 27-45 (1985)には、浮遊培養で生育したES細胞から白血病抑制因子(LIF)を抜くと、赤血球及びマクロファージから作製される血液アイランド(blood island)を含む嚢胞性胚様体が形成することが示唆される。幹細胞から、好中球、肥満細胞、マクロファージ及び赤血球系細胞等の、他の造血細胞の生産がまた記載された(例えば、Wiles and Keller, Development, 111: 259-267 (1991); Keller et al, Mol. Cell. Biol. 13: 473-486 (1993a); 及びLieschke and Dunn, Exp. Hematol., 23: 328-334 (1995)を参照、それぞれ、参考によって完全に本明細書中に引用される)。このような方法は、本発明のHS細胞に適用できる。
【0083】
ES細胞を成熟したIg分泌Bリンパ球に効率的に分化させることに関する、本明細書中に引用される、Cho et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96:9797-9802 (1999)に記載される技術もまた、本発明のHS細胞による使用に適用できる。同様にして、本明細書中に引用される、Dani, Cells Tissues Organs, 165: 173-180 (1999)には、細胞の方法が記載され、ES細胞を脂肪細胞に分化させることは本発明の説明に使用される有益なモデルとなる。例えば、短期間レチノイン酸(RA)によるその分化初期段階の胚様体の処置は、脂肪形成に関連があると考えられる。
【0084】
様々なニューロン細胞への幹細胞の分化を誘発する技術が、本明細書中に引用される、Okabe et al. Mech. Dev., 59: 89-102 (1996)に記載される。同様にして、本明細書中に引用される、McDonald et al., Nature Medicine, 5:1410-1412 (1999)には、損傷を受けた脊髄を処置するのに特に使用される幹細胞由来の乏突起神経膠芽細胞及びニューロンが記載される。これらの技術は、本発明のHS細胞で使用できる。
【0085】
OP9等の、補助細胞系を特定の細胞系列を誘導するのに使用することもまた包含される。例えば、赤血球、骨髄球及びリンパ球系列に関する、本明細書中に引用される、Nakano et al., Science, 265:1098-1101 (1994)、及び本明細書中に引用される、Nakayama et al., Blood, 91: 2283-2295 (1998)を参照。
【0086】
瀘胞細胞、さらには表皮細胞への本発明のHS細胞の分化を誘発する技術もまた包含される。例えば、本明細書中に引用される、Taylor et al., Cell, 102: 451-361 (2000)には、ES細胞由来の瀘胞及び表皮細胞が毛の置換及び皮膚移植療法に使用されることが記載される。これらの技術は本発明のHS細胞による使用に適用できる。特定の調節遺伝子の発現もまた、分化を誘導するのに使用されてもよい。例えば、造血遺伝子に関する、本明細書中に引用される、Hole et al., Blood, 90:1266-1276 (1996a), 及びBattieres. Clin. Hematol., 3:467-483 (1997)を参照。同様にして、予備的な証拠から、以下に制限されないが、PPAR(PPARδ及びPPARγ)及びC/EBPδ(C/EBPβ、C/EBPδ及びC/EBPα)等の、脂質代謝に関連のある核の調節因子がまた脂肪細胞への前脂肪細胞(preadipocyte)の最終分化を開始するかもしれないことが示唆される。このような因子は、本発明の分化方法の説明に使用されるであろう。
【0087】
必要な機能に応じて、分化は、分化に特異的な遺伝子の発現を検出することによって、組織に特異的な抗原を検出することによって、細胞若しくは組織の形態を試験することによって、イオンチャンネル機能等の機能的な発現を検出することによって、またはES細胞の分化を検出するのに適当な手段によって、評価されてもよい。
【0088】
インビボまたはインビトロで誘導された分化技術によって本発明のHS細胞から誘導された、多分化能性前駆細胞は、3種すべての胚葉:内胚葉、中胚葉及び外胚葉から細胞を生産することができる。例えば、前駆細胞は、骨、軟骨、平滑筋、横紋筋及び造血細胞(中胚葉);肝臓、原腸、及び呼吸上皮(内胚葉);またはニューロン、グリア細胞、毛嚢及び歯蕾(外胚葉)に分化させてもよい。本発明の前駆細胞は不死である必要はないが、不死系として維持されてもよい。形態学的には、前駆細胞は、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81、アルカリホスファターゼ活性に陽性であり、及びSSEA−1に陰性である霊長類のES細胞系に特徴的である細胞表面マーカー等の、ES細胞で見出される細胞表面マーカーを発現しない。
【0089】
好ましくは、他の多分化能性HS細胞の不存在下でHS細胞を培養することによって、本発明の前駆細胞が生産される。さらに、前駆細胞の増殖は、当該前駆細胞がそれ由来である多分化能性HS細胞のさらなる成長及び増殖を防止することによって促進される。当該分野において既知である技術を前駆細胞を得るのに使用でき、例えば、胚盤胞様塊から単離されたHS細胞を、分化誘導剤の存在下で、及び他のHS細胞の不存在下で培養して、多分化能性前駆細胞を生産し、未分化HS細胞がさらに増殖するのを防止してもよい。
【0090】
さらに、本発明の単離されたHS細胞は、ゲノムインプリンティングのために満期胚に発達することはできない;しかしながら、HSは、下記実施例で示されるように、機能性分化細胞および/または組織への分化能は保持する。ゲノムインプリンティングのメカニズムは、現在、あまり理解されていないが、単為生殖胚がインプリンティングの結果最後まで発達しないことは明らかに示された(Surani et al, Development Supplement, 89-98 (1990))。インプリンティングは、インプリントされた遺伝子の発現がこれらの親によって決定されるので、生殖細胞系に特異的な発生作製プロセスにかかわりがある(Allen et al., Development, 120: 1473-1482 (1994))。インプリンティングメカニズムに使用されうる遺伝性発生的修飾としては、対立遺伝子に特異的なDNAのメチル化及びDNase I感受性亢進アッセイによって検出されるものなどのクロマチン構造修飾がある。Id.特定の遺伝子(例えば、Igf2r及びH19)によっては、親の対立遺伝子がインプリントされ、他の遺伝子(例えば、Igf2及びSnrpn)では、母親の対立遺伝子が常にインプリントされるものがある。Id.(また、雄性及び単為生殖胚の多分化能性の討論、ならびに遺伝的インプリンティングに関する含意に関しては、本明細書中に引用される、Mann et al., Cell, 62:251-260 (1990), and Devel. Biol., 3:77-85 (1992)を参照)。
【0091】
C.本発明のホモ接合性幹細胞の作製
上述したように、HS細胞は、有糸分裂活性化、または非受精の、減数分裂I後の2倍体生殖細胞の作製時に発達する胚盤胞様塊から単離される。図1は、非受精の、減数分裂I後の2倍体生殖細胞からHS細胞が発達する好ましい方法を示す、フローチャートである。
【0092】
生殖細胞は、本発明のHS細胞がこれ由来である胚盤胞様塊を活性化時に生産する非受精の、減数分裂I後の2倍体生殖細胞に発達する。本発明のHS細胞および/または分化細胞は、例えば、このような治療が必要な罹患個体への内移植(implantation)及び移植(transplantation)によって、病気の診断および/または処置に使用される。
【0093】
ホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞は、同じ個体からまたは免疫適合性のあるドナーから得られてもよいが、場合によっては、自己ドナーが好ましい。しかしながら、治療のために選ばれた罹患個体が遺伝病(即ち、突然変異または不適切な発現のいずれかによる、重要な遺伝子の欠損によって特徴付けられる病気)に罹っている場合には、自己以外のドナーを使用することが好ましい。または、選択方法の分野における通常の知識を有するものは、所望の遺伝子型を示すこれらの自己生殖細胞(例えば、損傷を受けたまたは突然変異した遺伝子のない細胞)、欠損遺伝子を発現できる細胞を選択してもよい。このような選択技術はまた、組織の移植のための免疫不適合な遺伝子型または表現型を防止するのに使用されてもよい。
【0094】
ホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞は、公知の技術、特に、インビトロの受精の分野に一般的に使用される技術を用いてドナーから集められる。例えば、ヒトの卵胞から卵母細胞を吸引する技術が記載される、Jones HW Jr. et al., Fertil. Steril., 37(1):26-29 (1982);副睾丸及び睾丸から精子を集める技術が記載される、Lisek et al., Tech. Urol., 3(2):81-85 (1997);ならびにあるドナーの核材料を他の除核された卵母細胞に移植する技術が記載される、Stice et al., Mol. Reprod. Dev., 38(1):61-8 (1994), 及びTakeuchi et al., Hum. Reprod., 14(5):1312-7 (1999)を参照。これらの参考文献の全内容は、参考によって本明細書中に引用される。
【0095】
HS細胞は、(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合した後、遺伝子型別によってホモ接合性幹細胞をスクリーニングする;(b)卵形成中の第二極体の放出(extrusion)を防止する;(c)適当な条件で第二極体の放出及び自発的なゲノムの自己複製を行なわせる;または(d)2個の1倍体卵または精核を除核した卵母細胞に移した後、遺伝子型別によってホモ接合性幹細胞をスクリーニングすることによる。図2は、オス及びメスにおいて有糸分裂及び減数分裂の相での相違を示す、精子形成及び卵形成の該略図を示すものである。
【0096】
本発明に使用される卵母細胞は、当該分野において既知である、またはいまだ開示されていない、いずれかの適当な方法を用いて得られてもよい。ヒト卵母細胞は、具体的には、ドナー個体の卵胞から集められて、周辺または付着細胞から単離される。収率を最大にするために、過排卵をドナー個体で誘導する。過排卵は、適当なゴナドトロピンまたはゴナドトロピン類似体の投与によって誘導され、単独であるいはクエン酸クロミフェンと組み合わせて投与されてもよい(本明細書中に引用される、Barriere et al., Rev. Prat., 40(29):2689-93 (1990))。マウスでは、方法の一例としては、模擬卵胞刺激ホルモン(FSH)を模倣するために妊馬血清(PMS)をおよび擬黄体形成ホルモン(LH)を模倣するためにヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)を投与することがある(Hogan et al., Manipulating the mouse embryo: A Laboratory Manual, 2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1994を参照)。過排卵の効率的な誘導は、以下に制限されないが、メスの年齢及び体重、ゴナドトロピンの投与量、投与時間、ならびに使用される株などの、幾つかの変数によって異なる。
【0097】
排卵の過誘導および卵母細胞の収集は当該分野において既知である。詳細なマウスのプロトコルの一例としては、この全内容は参考によって本明細書中に引用される、Hogan et al., supra, pp. 130-132を参照。例えば、Hoganは、双方とも滅菌0.9%NaClに凍結乾燥粉末から再懸濁した、PMS及びhCGを腹腔内投与することによって、過排卵を誘導することを記載する。PMS及びhCGは双方とも、内因性のLHの放出前に投与されなければならない。マウスからの卵母細胞の収集に関する、Hoganプロトコルは、過度の実験を行なわずにヒトに定常的に適用できる。
【0098】
また、ポリエチレングリコールは、排卵卵母細胞の融合を誘導することが示された(例えば、本明細書中に引用される、GG Sekirina, Ontogenez, 16(6):583-8 (1985), 及びGulyas BJ, Dev. Biol. 101(1):246-50 (1984)を参照)。または、本明細書中に引用される、Nogues et al., Zygote, 2(1):15-28 (1994)には、不活性化センダイウィルスによって卵母細胞融合を誘導し、これにより胚の発達の第一段階を受けることができる「接合体」または「卵母細胞融合産物(OFP)」が生産されることが記載される。卵母細胞融合技術のレビューに関しては、本明細書中に引用される、Gulyas BJ, Dev. Biol., 4:57-80 (1986)を参照。マウス卵母細胞の融合に関する詳細なプロトコルに関しては、卵丘細胞が付着した集められた卵を、5分間、ダルベッコのPBSおける7%エタノールの溶液中に維持し、培地で洗浄して、37℃で5時間インキュベートする、Hogan et al., supra, pp. 148-150を参照。卵丘細胞は、次に、ヒアルロニダーゼによる処理によって除去される。図3は、卵母細胞の融合および卵母細胞融合産物の発達を示すものである。
【0099】
または、卵母細胞からの第二極体の放出を防止すると、HS細胞が得られる。自然界では、1回目の減数分裂及び第一極体の分離後、2回目の減数分裂が起こる。第二極体の放出前の卵母細胞を、以下に制限されないが、Ca++イオノホア(A23187)、またはエタノール等の、物質に暴露した後、6−ジメチルアミノプリン(6−DMAP)、プロマイシン、またはサイトカラシンD等の物質に暴露すると、このような2倍体の卵母細胞が活性化され、さらに胚盤胞様塊が形成する。図4は、活性化の可能性のある産物を示すものである。
【0100】
他の実施態様においては、第二極体の放出及び自発的なゲノムの自己複製を起こすことを、HS細胞を誘導するのに使用してもよい。単為生殖活性化時に、卵母細胞は第二極体を放出して、1倍体になる。このような1倍体の卵母細胞は、適当な条件下でインキュベートすると、分裂して、胚盤胞様塊を形成する。Taylor, A.S., et al., "The early development and DNA content of activated human oocytes and parthenogenetic human embryos," Hum. Reprod., 9(12):2389-97 (1994); Kaufman, M.H. et al., "Establishment of pluripotential cell lines from haploid mouse embryos," J. Embryol. Exp. Morphol, 73:249-61 (1983)を参照。
【0101】
本発明に使用される精子細胞は、当該分野において既知である、またはいまだ発見されていない、いずれかの適当な方法、特にインビトロでの受精の分野では公知である方法を用いて得られる。オスに使用されるHS細胞を作製するために、精子細胞(減数分裂II終了)を集めた後、融合するように誘導する。精子細胞の融合は、よく確立された標準技術を用いて達成できる。例えば、本明細書中に引用される、Asakura S, et al., Exp. Cell. Res., 181(2):566-73 (1989)には、1対の精子細胞の融合を誘導するのに低張培地を使用し、その結果単一のアクロソーム(シンアクロソーム(synacrosome))を形成することが示唆される。または、第二精母細胞(減数分裂I終了)は、当該分野において既知である方法を用いて活性化されうる。
【0102】
最後に、上述したように、単離されたHS細胞は、除核された卵母細胞から作製できる。詳細には、2個の精子または1倍体卵核を除核された卵母細胞に移すことによって、卵母細胞細胞質中にドナーのオスまたはメスの核の遺伝情報を有する非受精の2倍体卵母細胞が作製できる。オスでは、この方法は、接合体での遺伝子の発現を引き起こす、精子が卵と受精する際にかかわりのあるプロセスを模倣するので、親の遺伝子発現に有利である。ドナーの核材料は、当該分野において公知の標準的な技術を用いて収集および/または単離できる。同様にして、転移段階は、インビトロの受精の分野において公知の技術を用いて行なわれる(本明細書中に引用される、米国特許第5,945,577号、WO 98/07841号ならびに上記したS.L. Stice and T. Takeuchi、及びWobus et al., Cells Tissues Organs, 166:1-5 (2000)を参照)。
【0103】
遺伝子の修飾を、以下に制限されないが、ウィルスベクター転移、細菌ベクター転移、及び合成ベクター転移(例えば、プラスミド、リポソーム及びコロイド複合体を介して)などの、ポリヌクレオチドトランスフェクション技術を用いてHS細胞に導入してもよい。
【0104】
受精した胚盤胞の内部細胞塊からのES細胞の単離方法は、当該分野において既知である。このような方法は、胚盤胞様塊の内部細胞塊からHS細胞を単離するのに適用されてもよい。例えば、その内容は参考によって本明細書中に引用される、Gardner et al., "Culture and Transfer of Human Blastocysts", Current Opinions in Obstetrics and Gynecology, 11:307-311 (1999)、米国特許第5,843,780号(Thomson et al.)及び米国特許第5,905,042号(Stice et al.)を参照。
【0105】
D.本発明の単離されたHS細胞からの前駆細胞ならびに分化した細胞、細胞の塊及び
組織型の誘導
単離されたHS細胞は、適当な方法によってサイトカイン、成長因子、細胞外マトリックス成分、及び他の因子の不存在または存在下で分化するように誘導される。例えば、HS細胞は、平坦な付着環境(液体)中でまたは3次元の付着環境(例えば、1%コラーゲンゲル)中で分化するように誘導されうる。微小重力環境もまた、HS細胞の分化を誘導するのに使用できる、Ingram et al, In vitro Cell Dev. Biol. Anim., 33(6):459-466 (1997)を参照。さらなる他の分化の誘導方法としては、免疫不全マウス、Thompson et al., Science, 282(5391):1145-47 (1998)、または他の動物でのステムプラズムの生成によるものがある。分化は、HS細胞を被包して、これらを適当な宿主中でステムプラズムを形成させることによってこのように誘導される。例えば、ヒトのHS細胞を被包して、このような細胞が誘導される同じ患者(同種同系)に、または異なるヒト(同種異系)に置かれる。同様にして、完全な胚盤胞様塊を、レシピエント動物に内植して、ステムプラズムを形成させてもよい。
【0106】
現在、選択的に浸透性である合成膜を用いてからだの免疫系から細胞を分離する多くの技術が利用できる。このような技術は、インビボでステムプラズムを生成することによってHS細胞を分化させるのに使用できる。例えば、被包されたHS細胞を内植してステムプラズムを生成する際に、膜を、栄養素、酸素及び生物療法物質を血液または血漿及び被包された細胞間を自由に交換するのに使用してもよい。このような系は、膜及びマトリックス支持体の化学的な特徴に基づいて抗原、サイトカイン、及び他の免疫学的な部分の2方向拡散を調節するものであってもよい。Lanza et al., Nat. Biotechnol., 14(9):1107-11(1996)を参照。動物における胚盤胞様塊の内植にかかる系では、個々のまたは複数の細胞塊が単一の動物に内植される。
【0107】
HS細胞は、いずれの動物ドナー材料から生産され、いずれの動物系で使用されてもよい。ヒト及び非ヒト双方のHS細胞が本発明に包含される。適当な家畜用途としては、哺乳動物、魚類、爬虫類、鳥類、及び両生類由来のHS細胞の生産及びこれらでの使用がある。
【0108】
本発明の多分化能性の単離されたHS細胞は、研究、診断の目的で、または個体への内植を目的として、分化組織のインビトロでの培養等の様々な治療用途のために特定の組織に分化しうる。好ましくは、HS細胞は、HS細胞形成のためのドナー材料を提供する個体に治療のために使用されるであろう。
【0109】
当該分野において通常の知識を有するものに既知である多分化能性細胞を分化させるのに使用される一般的な技術としては、様々な胚及び胚外細胞型への胎児性癌(EC)細胞の分化方法がある。(本明細書中に引用される、Andrews, APMIS, 106:158-168 (1998)を参照)。このような技術はまた、HS細胞の分化を誘導するのに使用できる。EC細胞の分化の誘導に使用されるインビトロの方法としては、EC細胞を、細胞を所望の細胞型または組織に拘束及び分化させることが知られている様々な因子に暴露することがある。または、使用されるインビトロの分化スキームとしては、幹細胞の維持に有利であることが知られている成長因子を除去することがある。培地からこのような因子を除去すると、幹細胞は、この中に3種すべての胚性胚葉が見出される、胚様体として知られている、クラスターを形成する。次に、胚様体内の特定の細胞系列の存在を、さらなる成長因子及び化学物質を含む培地を捕捉することにより促進してもよい。このようにして得られた細胞集団は、さらに、所望の細胞型の割合を増加させた後、選択的に単離されてもよい。また、多分化能性幹細胞及びこれらの医薬への使用を討論している、本明細書中に引用される、Edwards et al., Modern Trend, 74(1): 1-7 (2000)を参照。
【0110】
分化制御因子の詳細な例としては、以下に制限されないが、LIF、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、IL−3、甲状腺ホルモン(T3)、幹細胞因子(SCF)、線維芽細胞成長因子(FGF−2)、血小板由来成長因子(PDGF)、毛様体神経栄養因子(ciliary neurotrophic factor)等のサイトカイン、ホルモン、及び細胞調節因子が挙げられる。GM−CSF、SCF、及びIL−3等の刺激性サイトカインは分化を促進することが示されており(本明細書中に引用される、Keil et al., Ann. Hematol., 79(5):243-8 (2000))、LIF等の、阻害因子は、未分化多分化能性状態にマウスの胚幹(ES)細胞を維持することが示されている(本明細書中に引用される、Zandstra et al., Blood, 96(4):1215-22 (2000))。さらに、SCFはこれらの推定上の前駆細胞からのニワトリの破骨細胞の分化を刺激することが示され(本明細書中に引用される、van’t Hof et al., FASEB J., 11(4):287-93 (1997))、FGF−2はラクトトロープ(lactotrope)の分化を開始しかつ不死化GHFT細胞でプロラクチンの発現を維持する双方の役割を果たすことが示され、これにより幹細胞の異なる下垂体前葉細胞への分化を制御するメカニズムが示唆される(本明細書中に引用される、Lopez-Fernandez et al., J. Biol. Chem. 275(28):21653-60 (2000))。加えて、血小板由来成長因子(PDGF−AA、−AB、及び−BB)は、ニューロンの分化を支持し、また、毛様体神経栄養因子及び甲状腺ホルモンT3は神経膠星状細胞及び乏突起神経膠芽細胞のクローンを生成する(本明細書中に引用される、Johe et al., Genes. Dev., 10(24):3129-40 (1996))。
【0111】
さらに、2001年4月26日に公開された、WO 01/29206号(Cibelli et al.)には、分化剤、成長因子、ホルモン及びホルモンアンタゴニスト、細胞外マトリックス成分及び様々な因子に対する抗体などの、様々な分化因子、ならびにES細胞を分化するように誘導するのに使用できる技術が記載される。このような技術及び試薬/因子は、本発明に従って使用でき、ゆえに、参考によって本明細書中に引用される。また、本明細書中に引用される、Schuldiner et al., "Effects of Eight Growth Factors On The Differentiation Of Cells Derived From Human Embryonic Stem Cells," PNAS 97(21):11307-12 (2000)をも参照。
【0112】
HS細胞はまた、インビボでの、好ましくはin situでの移植によって分化するように誘導されてもよく、この際、細胞は組織学的及び機能的な分化を受けて、宿主細胞との適当な関連を形成する。移植部位に位置する内因生の調節因子は、幹細胞の特定の型の分化した細胞または組織への分化を誘導できる。または、様々な分化した細胞および/または組織の群は、皮下組織、腹膜、及び腎被膜に移植された幹細胞から生じる。腎臓被膜内植方法の詳細については、Hogan, supra, pp. 183-184を参照。
【0113】
1.ヒト奇形腫内で見出された分化細胞の組織学的な特徴および遺伝子型
奇形腫は、成熟および/または未成熟な組織から構成される。幾つかの型の分化組織からなる細胞群の形態学的な分析が、スライドガラスに固定された奇形腫の切片で同定され、組織形態分析が公知の技術を用いてこれらの奇形腫切片で行なわれた(本明細書中に引用される、Zhuang et al., J Pathol, 146:620 (1995), and Vortmeyer et al., Am. J. Pathol., 154:987-991(1999))。奇形腫の顕微解剖によって、成熟扁平上皮、成熟腸上皮、成熟軟骨及び呼吸上皮、未成熟軟骨、成熟神経膠組織、未成熟神経組織、及び成熟呼吸上皮等の個体の組織成分を選択的に得た。(インビトロの移植可能なテラトカルシノーマから単離される様々な細胞系及びこれに関連する技術の詳細な討論に関して、参考によって本明細書中に引用される、Nicolas et al., Cancer Research, 36:4224-4231 (1976)を参照)。
【0114】
DNA抽出後、対立遺伝子の接合生殖性を、幾つかのヒト染色体での複数の遺伝マーカーを用いて分析した。限定数の成熟腫瘍の初期の研究では、同一の対立遺伝子のホモ接合性が一貫して検出された(Vortmeyer et al., Am. J. Pathol., 154:987-991 (1999)、この完全な内容は参考によって本明細書中に引用される)。しかしながら、より多数の奇形腫の分析によっては、ヘテロ接合性対立遺伝子を有する遺伝子座を持つ少数の腫瘍が明らかになった。
【0115】
ヘテロ接合性奇形腫組織が減数分裂前細胞から生じるという仮説を試験するために、成熟(分化)及び未成熟(未分化)双方の組織要素を含む卵巣及び睾丸奇形腫を、同様の実験方法を用いて、解剖して、一品種の成熟及び未成熟組織要素のサンプルを得た(下記実施例参照)。ヘテロ接合性対立遺伝子を、未成熟扁平上皮、未成熟神経組織及び未成熟軟骨等の未分化組織要素で検出した。これらの腫瘍からの分化組織は、同一の遺伝マーカーに対してホモ接合性であった。試験された分化組織要素は、同一の腫瘍の同じ成熟要素の別の領域から採取した2連のサンプルを含む、成熟皮脂腺組織及び成熟皮脂腺上皮を含む。
【0116】
この試験結果から、遺伝的ホモ接合性が認識可能な成熟組織型への分化と相関し、また、遺伝的ヘテロ接合性が未分化組織と相関することが示される。したがって、奇形腫内の未分化組織の領域は減数分裂前生殖細胞での催奇形事象によって開始し、また、奇形腫内の分化組織は減数分裂後生殖細胞から生じる。
【0117】
減数分裂前細胞は、減数分裂前細胞が遺伝的にヘテロ接合性である細胞の集団を生産するように、各染色体の双方のコピーを含む。これに対して、減数分裂後細胞は、各染色体の一つのコピーのみを有し、遺伝的にホモ接合性である。減数分裂後前駆細胞が増殖して成熟奇形腫、または奇形腫内の成熟分化組織の領域を形成するという事実から、減数分裂は染色体の再配列及び遺伝子材料の組み換えのメカニズムであるのみでなく、組織の分化及び発達を起こす特異的な遺伝子の活性化の必要条件でもあることが示唆される。
【0118】
したがって、減数分裂しなかった増殖腫瘍細胞は、未分化で、ヘテロ接合的な特性を保持して、未分化奇形腫組織に発達するであろう。分化した奇形腫組織は、減数分裂が終了した増殖腫瘍細胞由来であってもまたは催奇形事象を受けた減数分裂後細胞由来であってもよい。
【0119】
ゆえに、減数分裂は、奇形腫での組織の分化に必要である。奇形腫内の組織要素の遺伝分析から、ホモ接合性は組織学的に成熟した分化組織と関連し、また、遺伝的なヘテロ接合性は組織学的に未成熟な未分化組織と関連することが示された。この結果は、減数分裂が奇形腫細胞が次の組織の分化を受けうる前に完了しなければならないという結果を支持するものである。ゆえに、本発明は、本発明の単離された、未分化の、多分化能性ホモ接合性幹細胞を作製するための生殖細胞の減数分裂の中断を示唆するものである。
【0120】
2.特定の細胞または組織へのHS細胞の分化
前記段落で述べたように、分化を誘導するために通常の知識を有するものに利用できるいずれの方法を本発明で使用してもよい。例えば、細胞を、各ウェルに分化因子の特有の組み合わせを含む、組織培養ウェルで培養してもよい。このような因子をコード化する核酸またはcDNAは、裸DNAとして、トランスフェクションによって、若しくはウィルスによってこのような核酸を有するように調製される構築物として、播種されうる。分化細胞は、a)分化に特異的な抗体;2)形態;3)分化に特異的なプライマーを用いたPCR;または4)分化細胞の特定の型を同定するのに適当な他の技術を用いて同定される。
【0121】
分化プロトコルが行なわれると、特定の細胞系列の原始細胞が公知の技術によって分化HS細胞から単離できる。所望であれば、このような単離された分化前駆細胞を、細胞培養または他の適当な方法によって拡張してもよい。
【0122】
前駆細胞はまた、これらの適当な分化段階でトランスフェクションされてもよい。例えば、胚盤胞様塊を形成する前に、HS細胞をトランスフェクションした後、当該細胞を除核された卵母細胞用の核ドナーとして使用してもよい。他の実施態様においては、前駆細胞を、単離後に、例えば、造血系のCD34+、またはCD38で、直接トランスフェクションしてもよい。
【0123】
所望の遺伝子の既知の挿入、欠失または修飾方法を用いて、遺伝的に変更された前駆またはHS細胞を生産してもよい。
【0124】
動物に、被包された(encapsulated)HS細胞、または胚盤胞様塊を内植すると、奇形腫及びテラトカルシノーマが形成しうる。HS細胞に移植レシピエントに良性または悪性の腫瘍を形成させないために、遺伝子を、未分化細胞の成長を防止するようにこのような細胞中に導入するまたはこのような細胞から欠失させてもよい。例えば、MMTV等の誘導性プロモーターを細胞中に導入した後、デキサメタゾンで誘導して、未分化細胞成長を遮断し、分化を誘導する遺伝子の発現を誘導してもよい。または、生殖細胞に特異的である遺伝子のプロモーターを導入して、細胞サイクルブロッカーまたはアポプトシス遺伝子の発現を誘導してもよい。
【0125】
分化前駆細胞の好ましい作製方法は、カルシウムイオノホアを用いて非受精の、減数分裂I後の2倍体卵母細胞を活性化し、このようにして活性化された卵母細胞を培地中で胚盤胞様塊が形成される段階まで培養することを有する。次に、透明帯をプロナーゼを用いて細胞塊から除去した後、免疫手術によって栄養膜細胞を除去する。細胞塊を保持しながら、HS細胞の凝集物を、平坦な付着環境、3次元の付着環境、微小重力を用いてサイトカインを用いてまたは用いずに分化するように誘導し、免疫不全動物、または同種同系若しくは同種異系動物においてステムプラズムを形成する。次に、分化前駆細胞を分化細胞塊誘導体から除去してもよい。
【0126】
多分化能性細胞が分化しうる細胞/組織の特定の型を以下に説明する。しかしながら、このような説明は、詳細に説明するものであり、限定するものではないと解される。本発明は、本明細書に列挙されない、またはいまだ開示されていない技術を含む、当該分野において既知である、分化方法を用いて実施できる。
【0127】
内胚葉細胞型への分化
多分化能性細胞の様々な内胚葉細胞型への分化は、移植を目的とする、または栄養素の吸収及び処理を促進するための、またはパターン形成を誘導するための使用などの治療性の高い意味を有する。HS細胞は、高投与量のRAによるまたは骨形態形成タンパク質(BMP)−2(Pera and Herzfeld, Reprod. Fert. Dev., 80:551-555 (1998))等の、トランスフォーミング成長因子β超科のものによる処理によって内胚葉前駆細胞に分化するように誘導されうる。また、HS細胞系によっては、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)によって別の、外見上非神経的な方向に分化するように誘導されてもよい(Andrews, APMlS, 106:158-168 (1998))。BPM−2は、体壁、または臓器の内胚葉への分化を特異的に引き起こすのに使用できる(Rogers et al., Mol. Bio. Cell, 3:189-196 (1992))。BMPは、インビボで軟骨及び骨の成長を誘導できる分子であるが、BMPのメッセージはまた、発達する心臓、毛嚢及び中枢神経系等の、多くの非骨組織でも発現することから、細胞の拘束及び分化において重要な役割を果たすことが示される。
【0128】
上皮組織への分化
上皮組織は、細胞間物質をほとんど含まない密に凝集した多面細胞から構成される。上皮細胞の形態及び寸法は、かなりの円柱から、立方体様まで、低扁平状までと、様々である。上皮細胞核は、形状が、球状から、伸張したものまで、楕円形までと、特有の外見を有する。これらの細胞間の付着は非常に強力である傾向がある。ゆえに、体の表面を被覆し、その腔をライニングする細胞シートが形成される。これらのシートは、一つの上皮細胞型から構成される、単層、または多くの異なる上皮細胞型から構成される重層多層の形態をとっていてもよい。
【0129】
上皮細胞の基本的な機能としては:被覆及びライニング(例えば、皮膚)、吸収(例えば、腸)、分泌(例えば、腺の上皮細胞)、知覚(神経上皮)、及び収縮(例えば、筋上皮細胞)が挙げられる。様々な型の上皮細胞の、およびHS細胞の様々な型の上皮細胞への分化方法の詳細な説明を以下に記載する。
【0130】
(a)ケラチン化上皮細胞
ケラチン化上皮細胞は、主に体の表皮及び皮膚層(例えば、毛、皮膚、爪等)と関連がある。例としては、以下に制限されないが、表皮及び爪床のケラチノサイト(例えば、分化上皮細胞);表皮及び爪床の基底細胞(例えば、表皮幹細胞);ならびに毛幹(例えば、髄の、皮質の、小皮の)、毛根鞘(例えば、小皮の、ハックスリー及びヘンリー層、及び外部の)及びマトリックス細胞(毛の幹細胞)が挙げられる。
【0131】
基底細胞は、幹細胞と同様に作用する、より特化した細胞を生じる上皮シートにおける比較的未分化な細胞である。皮膚の扁平上皮の基底細胞は、表皮及び爪床のケラチノサイトを生じる。同様にして、精巣上体の上皮の基底細胞(以下に説明される、吸収性上皮細胞)は、精巣上体の主細胞を生じる。嗅粘膜の基底細胞は、嗅覚及び支持細胞を生じる。ゆえに、基底細胞は、より特化した上皮細胞の前駆細胞として機能する。
【0132】
本発明の単離されたHS細胞は、直接、またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性または幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知な技術を用いて適当な前駆細胞若しくは基底細胞を介して、成熟したケラチン化上皮細胞に分化しうる。例えば、瀘胞幹細胞、特に2機能性瀘胞隆起幹細胞(follicular bulge stem cells)からの濾胞及び表皮の形成が記載されるTaylor et al., Cell, 102:451-461 (2000)(その内容は参考によって本明細書中に引用される)に記載されるプロトコルを参照。
【0133】
(b)バリヤ上皮細胞
バリヤ上皮細胞は、2つのクラス−湿性重層バリヤ上皮細胞(wet stratified barrier epithelium)及び内層上皮細胞(lining epithelium)に分けられる。湿性重層バリヤ上皮細胞としては、例えば、尿上皮(内層膀胱(lining bladder)及び尿管)の細胞、ならびに角膜、舌、口腔、食道、肛門管、下位尿管、及び膣の重層扁平上皮の表面及び基底上皮細胞(即ち、粘膜組織の細胞)が挙げられる。内層上皮細胞としては、例えば、肺、腸、外分泌腺及び尿管をライニングする細胞さらには閉鎖した内部体腔をライニングする細胞が挙げられる。
【0134】
管、管路、及び開放腔をライニングする上皮細胞の例としては、以下に制限されないが、呼吸肺胞細胞(肺の気室をライニング);膵管細胞(房心細胞);汗、唾液及び乳腺の非線条導管(nonstriated duct)細胞;腎糸球体の壁細胞及び足細胞;ヘンレのループの薄いセグメントの細胞(腎臓);ならびに腎臓、精嚢、前立腺、及び他の腺の管細胞が挙げられる。
【0135】
閉鎖した内部体腔をライニングする上皮細胞の例としては、以下に制限されないが、血管及びリンパ管(有窓、連続、及び脾性)の血管内皮細胞;関節腔をライニングする滑膜細胞;腹腔、胸腔及び心膜腔をライニングする漿膜細胞;耳の外リンパ腔をライニングする扁平上皮細胞;耳の扁平上皮細胞の内リンパ腔をライニングする細胞;脈絡叢細胞(脳脊髄液を分泌する);軟膜クモ膜の扁平上皮細胞;眼のシリア線毛上皮の細胞;ならびに角膜上皮細胞が挙げられる。
【0136】
本発明の単離されたHS細胞は、直接、またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性若しくは幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知の技術を用いて基底細胞等の適当な前駆細胞を介して、成熟バリア上皮細胞に分化しうる。例えば、幹細胞のレビュー及びリンボ角膜上皮細胞(limbocorneal epithelium)の分化段階が記載される、本明細書中に引用される、Wolosin et al., Progress in Retinal and Eye Research, 19(2): 223-255 (2000)を参照。
【0137】
(c)外分泌、内分泌、及びマトリックス分泌上皮細胞
外分泌腺は、皮膚の自由表面上に、または消化、呼吸または生殖管等の、体の開放腔の自由表面上に、管路または管を介して産物を分泌する。これらの産物は、血流には放出されない。外分泌産物の例としては、粘液多糖及び炭水化物、消化酵素、ミルク、涙、ワックス、皮脂、精液及び膣液がある。外分泌物の分泌に特化した上皮細胞の例としては、以下に制限されないが、唾液腺の細胞(粘液及び漿液);舌のエブナー腺の細胞;乳腺の細胞;涙腺の細胞;耳の耳垢線の細胞;エクリン及びアポクリン汗腺の細胞;まぶたのモル腺の細胞;皮脂腺の細胞;鼻のボーマン腺の細胞;十二指腸のブルンナー腺の細胞;精嚢腺の細胞;前立腺の細胞;リトル腺の細胞;子宮内膜の細胞;呼吸及び消化管の単離された杯細胞;胃内層の粘液細胞;胃腺の酵素原及び酸分泌細胞;膵臓の腺房細胞;小腸のパネート細胞;ならびに肺のタイプII肺細胞及びクララ細胞が挙げられる。
【0138】
本発明の単離されたHS細胞は、直接またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性若しくは幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知の技術を用いて適当な前駆細胞を介して外分泌腺の上皮細胞に分化しうる。このような技術は本明細書中に参考のために引用される。
【0139】
内分泌腺は、血流に直接、ホルモンと称される、それらの産物を分泌する。ホルモンは、標的領域に体中で循環して、特定の体の機能を調節する化学的なメッセンジャーとして作用する。ほとんどの内分泌腺はまた、上皮細胞誘導体でもある:これらは、上皮シートからの陥入によって形成され、初めは上皮シートの自由表面と連結する管路を有する。胚の発達中、これらは管路を失い、いわゆる無排出管腺となる。これらの分泌産物は、細胞間の間質腔に放出され、最も近い毛細血管の血液中に拡散する。顕微鏡下では、内分泌腺が一つの大きな差を有する重層上皮組織に見える;これらは、自由表面を持たず、他の組織に直接囲まれる。
【0140】
内分泌物の例としては、オキシトシン、バソプレシン、セロトニン、エンドルフィン、ソマスタチン(somastatin)、セクレチン、コレシストキニン、インスリン、グルカゴン、ボンベシン、カルシトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン、ステロイド、及び他のホルモンが挙げられる。内分泌物の分泌に特化した上皮細胞の例としては、以下に制限されないが、下垂体前葉及び下垂体後葉の細胞;胃及び呼吸管の細胞;甲状腺及び副甲状腺の細胞;副腎の細胞;生殖腺の細胞;ならびに腎臓の糸球体近接部装置の細胞が挙げられる。
【0141】
本発明の単離されたHS細胞は、直接またはES細胞、EC細胞、他の幹細胞および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知の技術を用いて適当な前駆細胞を介して、内分泌物を分泌する上皮細胞に分化しうる。このような技術は本明細書中に参考のために引用される。例えば、本明細書中に完全に引用される、Ramiya et al., Nature Medicine, 6(3):278-282 (2000)には、島生産幹細胞(Islet producing stem cells)(IPSC)培養物が糖尿病前症のマウスから外植された消化膵臓組織から確立された膵臓幹細胞から膵島細胞のインビトロでの生成が記載される。島前駆細胞は、正常マウス血清を含むイーグル高アミノ酸培地で培養された上皮様IPSCの単層から発達し始めた。Id.VEGF、肝実質細胞成長因子、再生遺伝子−1、トランスフォーミング成長因子アルファ及び島新生関連タンパク質(islet neogenesis-associated protein)がまた、管の上皮細胞に対して分裂促進性であり、島内分泌細胞を生じることが見出された。Id.加えて、肝実質細胞成長因子、ベータ−セルリン及びアクチビンAが腺房細胞をインスリン分泌細胞に分化させることが示された。Id.(また、その内容が参考によって本明細書中に引用される、Serup et al., Nature Genetics, 25:134-135 (2000), Assady et al., Diabetes, 50:1691-7 (2001), 及びLumelsky et al., Science, 292: 1389-93 (2001)を参照。)
結合組織の主要な構成成分は、タンパク質線維、無定形基本物質、及び組織液から構成される、細胞外マトリックスである。細胞外マトリックスの成分は、上皮組織若しくは結合組織のいずれかまたは双方によって分泌される。細胞外マトリックスの分泌に特化した上皮細胞の例としては、以下に制限されないが、エナメル芽細胞(エナメルを分泌);耳の前庭の半月面細胞、およびコルティの歯間細胞が挙げられる。
【0142】
本発明の単離されたHS細胞は、直接またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性若しくは幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知の技術を用いて適当な前駆細胞を介して、細胞外マトリックスを分泌する上皮細胞に分化しうる。
【0143】
(d)上皮吸収性細胞
吸収に関連のある上皮細胞は、胃、外分泌腺、及び尿生殖路に見出される。このような上皮細胞の例としては、以下に制限されないが、腸の刷子縁細胞;外分泌腺の線条部導管細胞;胆嚢上皮細胞;腎臓の近位尿細管の刷子縁細胞;腎臓の遠位尿細管細胞;輸出管の非線毛細胞;ならびに精巣上体の始原(principle)及び基底細胞が挙げられる。
【0144】
本発明の単離されたHS細胞は、直接またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性若しくは幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知の技術を用いて適当な前駆細胞を介して、吸収性上皮細胞に分化しうる。
【0145】
(e)収縮性上皮細胞
筋上皮細胞は、分泌または管細胞の基底板及び基底極間に位置する星状または紡錐体状の細胞である。筋上皮細胞の機能は、腺の分泌または伝導位置周辺で収縮するものであり、ゆえに、外部に向かって分泌産物を促すのを補助する。筋上皮細胞の例は、紅彩及び外分泌腺に見出される。
【0146】
本発明の単離されたHS細胞は、直接、またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性若しくは幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知の技術を用いて適当な前駆細胞を介して、筋上皮細胞に分化しうる。
【0147】
(f)その他の上皮細胞
上皮細胞によっては、特に単一の機能または環境に特化するものがあり、それ自体、上記カテゴリーのいずれにも分類できないものがある。例えば、レンズ細胞としては、水晶体前極の上皮細胞、及び水晶体線維細胞がある。同様にして、色素細胞としては、網膜色素上皮細胞、及びメラノサイトがある。
【0148】
本発明の単離されたHS細胞は、直接、またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性若しくは幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知の技術を用いて適当な前駆細胞を介して、特定の上皮細胞に分化しうる。
【0149】
結合組織への分化
結合組織は、その細胞によって生産される豊富な細胞内材料という特徴を有する。結合組織は、体内で形態を形成及び維持する役割がある。機械的な役割を機能すると、細胞及び器官と連結、結合して、最終的に体を支持するように作用するマトリックスを提供する。
【0150】
骨細胞、線維芽細胞及び脂肪組織等の、結合組織の細胞によっては、局所的に生産され、ここに存在し続けるものもある。他の細胞では、他の領域に向かうが、結合組織を循環し、一時的に存在するものもある。結合組織の細胞成分は、以下のクラスに細分化される:細胞外マトリックス分泌細胞;代謝及び貯蔵に特化した細胞;ならびに血液及び免疫系の循環細胞。
【0151】
これらのクラスの結合組織細胞の詳細な説明を以下に記載する。
【0152】
(a)細胞外マトリックス分泌細胞
結合組織の細胞外マトリックス分泌の例としては、以下に制限されないが、線維芽細胞;毛管の周皮細胞;椎間円板の髄性細胞;セメント芽細胞及びセメント細胞(歯の根の骨様セメント質を分泌する);造歯細胞及び歯細胞(odontocyst)(象牙質を分泌する);軟骨細胞(軟骨を分泌する);骨芽細胞及び骨細胞;骨前駆細胞(osteoprogenitor cell)(骨芽幹細胞);眼の硝子体の硝子体細胞;ならびに耳の外リンパ腔の星細胞が挙げられる。
【0153】
本発明の単離されたHS細胞は、直接またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性若しくは幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知の技術を用いて、骨前駆細胞(osteoprogenitor)等の適当な前駆細胞を介して、細胞外マトリックス分泌細胞に分化しうる。
【0154】
(b)代謝及び貯蔵に特化した細胞
代謝及び貯蔵に特化した細胞の例としては、以下に制限されないが、肝実質細胞及び脂肪細胞がある。
【0155】
本発明の単離されたHS細胞は、直接またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性若しくは幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知の技術を用いて適当な前駆細胞を介して、代謝及び貯蔵に特化した細胞に分化しうる。
【0156】
一実施態様においては、HS細胞は、例えば、Dani, Cells Tissues Organs, 165: 173-180 (1999)の方法によって、脂肪細胞に分化するように誘導される。HS細胞がインビトロで脂肪細胞に分化できることによって、脂肪生成における初期の分化事象を研究するための及び間充織幹細胞の脂肪芽細胞(adipoblast)系列への拘束にかかわりのある調節遺伝子を同定するための有益なモデルが提供される。
【0157】
脂肪細胞系列へのHS細胞の拘束に関する前提条件としては、短期間レチノイン酸(RA)によりその分化初期段階のHS細胞由来の胚様体を処理することがある。2相は、ES細胞からの脂肪生成の発達で識別される:胚様体(EB)形成してから2〜5日間の、第一の相は、全トランス型−RAの影響を受けるHS細胞の拘束のための許容される期間に相当する。第二の相は、最終分化のための許容される期間に相当し、前脂肪細胞クローン系(preadipose clonal line)からの細胞の分化で従来示されるように脂肪形成ホルモンを必要とする。処理によって、RAで処理しないと2〜5%であるのに対して、50〜70%の脂肪細胞を含む過成長が起こる。
【0158】
RAは、最終分化に重要であることが知られているホルモンまたは化合物には置換されえない。初期のEBを、インスリン、トリヨードチロニン、デキサメタゾンまたはチアゾリジンジオン(thiazolidinedione)BRL49653等の、PPARの強力な活性剤、及び非代謝脂肪酸2−ブロモパルミテートで、単独あるいはこれらを組み合わせて処理すると、低レベルの脂肪生成(5%)が生じる。最終的な脂肪細胞の分化を調節することが従来報告されている因子のうち、RAは、HS細胞から脂肪細胞の発達を引き起こすことができる自然で発生する化合物であると考えられる。
【0159】
エネルギー源としての脂肪細胞の主な機能は、トリグリセリドを貯蔵し(脂肪生成活性)、またホルモン条件で遊離脂肪酸を放出する(脂肪分解活性)ことである。EB由来の脂肪細胞は、それぞれ、インスリンに及びβ−アドレナリン作動物質に応答して脂肪生成及び脂肪分解活性双方を発揮することが示されることから、成熟及び機能性脂肪細胞はインビトロではHS細胞から形成されることが示される。
【0160】
PPAR(PPARδ及びPPARγ)及びC/EBPδ(C/EBPβ、C/EBPδ及びC/EBPα)は、脂質代謝にかかわりのある遺伝子を調節する核因子である。C/EBPαは脂肪細胞の分化した表現型を維持するのに重要であると考えられ、また、幾つかの一連の事象からPPARγならびにC/EBPβ及びC/EBPδは脂肪細胞への前脂肪細胞の最終分化のトリガーである。幹細胞の脂肪細胞系列への拘束におけるこれらの因子の役割は、HS細胞の決定及び分化期間中のこれらの発現を研究することによって説明される。PPARγ及びC/EBPβの発現は、決定相中は低く、最終分化のマーカーである脂肪細胞−脂肪酸結合タンパク質(a−F ABP)の発現と平行する。この結果から、PPARγ及びC/EBPβは脂肪細胞系列へのHS細胞の拘束に関する調節遺伝子ではないことが示唆される。従来、PPARδ遺伝子の発現はラットの胚発達中初期に検出され、PPARγの発現の前に起こることが報告されていた。発現の同様の一時的なパターンが発達したEBで保存される。PPARγに対して、PPARδは、HS細胞の決定相中に強く発現することから、この因子は脂肪細胞系列への間充織前駆細胞の拘束にかかわりのあるマスター遺伝子としての良好な候補でありうることが示唆される。しかしながら、PPARδ遺伝子の発現は脂肪組織に限定されず、その発現はHS細胞の脂肪生成を誘導するのに必要な処理によって修飾されない。脂肪酸2−ブロモパルミテートまたはカルボサイクリン(carbocyclin)等のPPARδの強力な活性剤で初期EBを刺激しても、脂肪生成経路に沿ったEBの分化は引き起こされない。
【0161】
PPARδおよび/またはPPARγが欠損したHS細胞の生成により、異なる脂肪生成段階中のこれらの転写因子の役割の解明が容易になるであろう。2回の相同組換えによる遺伝子ターゲッティングによって、これらの突然変異HS細胞が得られる。遺伝子トラッピング及び機能の獲得または欠失などの、未分化HS細胞の遺伝子操作と、分化培養系を組み合わせることによって、脂肪生成における初期の決定事象に係わりのある新規な調節遺伝子を同定する手段が提供される。
【0162】
さらに、白血病抑制因子(LIF)及びLIFレセプター(LIF−R)遺伝子は、前脂肪細胞から脂肪細胞に分化中に発達上調節される。LIF及びLIF−Rは双方とも脂肪細胞分化の第一段階中に発現するという事実から、この経路は脂肪生成における調節的な役割を果たすのではと憶測される。LIFの役割は、LIFR/HS細胞が脂肪細胞への分化を受けることができるかどうかを調べることによって分かる。LIFのないES細胞は野生型細胞に匹敵する効率で脂肪生成することが知られており、これはLIF発現の欠失が脂肪組織の発達を防止することを示すLIF突然変異マウスの研究結果と一致する。LIFは、IL−6サイトカイン群に属し、この群のものの特徴としては、余分な生物学的機能がある。
【0163】
したがって、LIF関連サイトカインがインビボ及びインビトロ双方でLIFの欠失を補うと仮定される。したがって、脂肪生成中のLIF−Rの役割が調べられる。しかしながら、LIFR/HS細胞が生成すると、LIFのないHS細胞の脂肪細胞への分化能が劇的に減少することが示される。突然変異細胞由来の過成長の5〜7%のみが、野生型HS細胞由来の過成長の55〜70%に比べて脂肪細胞コロニーを含んでいた。遺伝子修飾されたHS細胞を、幹細胞を脂肪生成経路に拘束するような培養条件と組み合わせて使用することによって、脂肪細胞の発達におけるLIF−Rの役割の決定が容易になる。
【0164】
他の実施態様においては、本発明のHS細胞は、参考によって本明細書中に引用される、Hamazaki et al., FEBS Letters, 497:15-19 (2001)の方法を用いて肝実質細胞に分化するようにされてもよい。
【0165】
(c)血液及び免疫系の循環細胞
血液及び免疫系の細胞の例としては、以下に制限されないが、赤血球(赤血球);巨核球;マクロファージ(例えば、単球、破骨細胞、ランゲルハンス細胞、樹状細胞、及び小グリア細胞);好中球;好酸球;好塩基球;肥満細胞;キラー細胞;Tリンパ球(例えば、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、キラーT細胞);およびBリンパ球(例えば、IgM、IgG、IgA、IgE、キラー細胞)が挙げられる。
【0166】
本発明の単離されたHS細胞は、直接、またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性または幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知な技術を用いて、造血幹細胞等の適当な前駆細胞を介して、血液及び免疫系の細胞に分化しうる。Suzuki et al, Int'l J. of Hematology, 73:1-5 (2001) 及びCho et al., PNAS, 96:9797-9802 (1999)に記載されるものなどの、このような技術は、参考によって本明細書中に引用される。
【0167】
一実施態様においては、HS細胞は、造血系列を形成するように誘導される。全部ではないが、ほとんどの造血系列がES細胞のインビトロの分化後に生産されうる(Hole, Cells Tissues Organs, 165:181-189 (1999))。HS細胞は白血病抑制因子(LIF)を除いた後に類似して分化し始めるであろうが、その分化中のこれらの多分化能性細胞型の培養の条件は次に生産される細胞系列の素質に果たす重要な役割を有すると考えられる。少なくとも3つの方法が使用される:(1)HS細胞を凝集して、懸濁培養で分化させてもよい;(2)HS細胞を半固体培養物に播種して、in situで分化させてもよい;および(3)HS細胞を補助細胞型の存在下で分化させてもよい。
【0168】
懸濁培養物は、ES細胞のインビトロの分化の最も初期の報告に基づいて使用される。Doetschman et al., Embryol Exp Morphol., 87:27-45 (1985)には、LIFの除去(withdrawal)及び懸濁培養での生育後のES細胞からの嚢胞性胚様体の形成が報告された。これらの胚様体は、赤血球及びマクロファージから作製される、血島(卵黄嚢造血を思い出す)を含んだ。半固体培養物での分化は、好中球、肥満細胞、マクロファージ及び赤血球系列の生産の幾つかの群による論証に基づいて使用される(Wiles and Keller, Development, 111:259-267 (1991); Keller et al., Mol. Cell Biol. 13:473-486 (1993a); Lieschke and Dunn, Exp. Hematol., 23:328-334 (1995))。赤血球、骨髄及びリンパ球系列の存在を示すことがさらに示され(Nakano el al., Science, 265:1098-1101 (1994))、後者はナチュラルキラー細胞型を含む(Nakayama el al., Blood, 91 :2283-2295 (1998))OP9等の、補助細胞系列の使用が包含される。
【0169】
HS細胞は確かにインビトロでの分化中にすべてではないがほとんどの造血系列を形成する潜在性を実現できるが、自発的にするのかは明らかではない。ES細胞に関しては、幾つかのグループがさらなる造血細胞成長因子(hematopoietic growth factor)が必要であると報告した。Nakanoらの研究(Nakano et al., Science, 265:1098-1101 (1994))では、マクロファージコロニー刺激因子が欠損した系であるOP9の使用が包括的な造血細胞の分化を促進するのに重要であることが示唆される。ストローマ細胞の必要性がまた、RP010ストローマ細胞系を用いた研究者らの研究によって示される;この場合、外因性の成長因子も使用される。これに対して、他のグループによっては、骨髄、赤血球またはリンパ球系列への拘束は外因性の細胞系または成長因子を必要としないと考えられることを報告するものもある(Hole et al., Blood 90:1266-1276 (1996a))。
【0170】
ES細胞に関しては、造血細胞への分化の結果における明らかな相違は、これらのグループによる幾つかの異なるアプローチによるものであるかもしれない。低レベルの特定の系列の拘束を増幅するかもれしない、外因性のサイトカインを使用したものもあった。確かに、ES細胞自体を分化させることが、拘束過程に影響を与えうる、広範な造血系のサイトカイン(Hole et al., Blood, 90:1266-1276 (1996a); Hole et at., Gene Technology, Berlin, Springer, pp 3-10 (1996b))及び因子(Keller et al., Mol. Cell. Biol., 13:473-486 (1993b))の転写物を含むことは明らかである。
【0171】
リンパ球様前駆細胞は、インビトロでのHS細胞の分化後に生産、単離できる。そのリンパ球様コンパートメントが遺伝子の損傷によって傷つけられるマウスに養子移入すると、長及び短期間双方にわたってES細胞で派生するリンパ球様再増殖が起こる(Potocnik et al., Immunol. Lett., 57:131-137 (1997))。初期の報告では、ES細胞から誘導される造血前駆細胞の再増殖能はリンパ系に限定されると示唆されるが、さらなる研究から、ES細胞から誘導される細胞は長期間の、多系列の(multilineage)、造血細胞再増殖の潜在性を示しうることが示される(Palacios et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7530-7534 (1995); Hole et al., Blood, 90:1266-1276, (1996a))。
【0172】
長期間再増殖する造血幹細胞は、インビトロでのES細胞の分化後に同定できる。この分化の経過の特徴を明らかにすることによって、ES細胞を、造血幹細胞が別の細胞型として初めて現れる段階での遺伝子の異なる発現を試験することに使用できる。造血幹細胞は、比較的短い分化期間内で存在する;多系列の再増殖活性は、分化4日目に存在するが、3日目または5日目には見出されない(Hole et al., Blood, 90: 1266-1276 (1996a))。既知の造血系の遺伝子の発現は、造血細胞の分化でのこの期間の重要性を強調する;発現はこの期間で劇的にアップレギュレーションされる(Hole et al., Blood, 90:1266-1276 (1996a); Hole and Graham, Battieres Clin. Hematol., 3:467-483 (1997))。減法ハイブリダイゼーション法(subtractive hybridization approach)を用いて、Hole and Graham, Battieres Clin. Hematol., 3:467-483 (1997)は、このインビトロの分化モデルは造血細胞遺伝子の豊富な源であることを示した;少なくとも2種の同定された新規な遺伝子が初期の造血細胞の拘束と同じように胚形成及び造血細胞系で発現する。
【0173】
遺伝子トラッピングは、初期の造血細胞の拘束にかかわりがあると考えられる遺伝子を同定するのに使用できる。このストラテジーでは、遺伝子を、薬剤耐性を付与する発現構築物にしばしば連結される、HS細胞のゲノム中にレポーター構築物を挿入することによってランダムに突然変異する。具体的には、「トラップされた」遺伝子の発現プロフィールを、その後、キメラ動物の生産後に観察する;候補遺伝子がさらに配列決定によって同定できる。別のアプローチとしては、予備スクリーン(prescreen)としてTS細胞のインビトロの分化を使用するものがある。インビトロのES細胞の造血細胞への分化のOP9依存型モデルを用いて、造血及び内皮細胞の発現トラッピングが示された(Stanford et al., Blood 92:4622-4631 (1998))。
【0174】
さらなる実施態様においては、HS細胞を、リンパ球に分化するように誘導する。成熟Ig分泌Bリンパ球へのES細胞の分化に関する有効な系を確立した、Cho et al.によって提供された方法(Cho et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96:9797-9802 (1999))を用いた具体的なプロトコルは、下記のとおりである。
【0175】
BMストローマ細胞系、OP9を、2.2g/リットルの炭酸水素ナトリウム及び20% FCS(ESグレート及びロット試験済;Cyclone, Logan, UT)を捕捉したαMEM中で単層として培養する。OP9培地はまた、TS/OP9共培養にも使用される。HS細胞を、1ng/mlの白血病抑制因子(R & D Systems, Minneapolis, MN)と共にマイトマイシンCで処理した胚線維芽細胞のコンフルエントな単層上で培養する。HS及び胚線維芽細胞を、15% FCS、2mM グルタミン、110μg/ml ピルビン酸ナトリウム、50μM 2−メルカプトエタノール、及び10mM Hepes(pH 7.4)を捕捉した、DMEM中で維持する。すべての共培養物を、空気中に5%COを含む恒湿インキュベーターで37℃でインキュベートする。周期的に試験することによって、すべての細胞系がマイコプラスマを含まない培養物として維持されることが示される。
【0176】
造血細胞誘導では、HS細胞の単一の細胞懸濁液を、6ウェルのプレートのコンフルエントなOP9単層上に播種する。培地を3日目に交換する;5日までに、ほとんど100%のTSコロニーが中胚葉様コロニーに分化する。この培養物を5日目にトリプシン処理する(0.25%;GIBCO/BRL);単一の細胞懸濁液を、30分間、予め播種する;さらに、非付着細胞(1〜2×10)を10cmディッシュの新たなコンフルエントなOP9層上に再播種する。6日または7日目に、造血細胞様の、平滑な丸い細胞の小さなクラスターが現れ始める。8日目に、ゆるく付着する細胞を、ゆるやかに洗浄して落とし、新たなOP9層(トリプシンを含まない)上に播種する。この処理によって、造血細胞の潜在性を有する細胞が増加し、分化した中胚葉及び未分化のHSコロニーが残る。
【0177】
この継代後、造血細胞コロニーは10及び12日の間さらにはそれ以降顕著な増殖で拡張する。19日目まで、HS/OP9共培養物から回収されたCD45細胞の全数がおよそ10細胞である−Flt−3Lが5〜20ng/ml(R & D Systems)の最終濃度で使用される。細胞を、5日目から外因性のFlt−3Lの存在下で培養する。Flt−3Lをより遅い時間(8日目以降)に添加すると促進が観察されるので、5日目のFlt−3Lの添加は、Bリンパ球形成の促進のための一時的な窓を意味すると考えられる。培地を、8〜15日の間、交換するおよび/またはトリプシンなしで継代する[即ち、単一細胞の懸濁液にして、瀘過する(70um)]。
【0178】
slgM−B細胞を得るために、リンパ−造血細胞を、15日目に集め、新鮮なOP9単層上に再播種する。28日目に、細胞を、4日間、10μg/mlのリポ多糖(LPS)で刺激する。次に、細胞及び培養上清を、それぞれ、フローサイトメトリー及びELISA用に集める。別の実験では、細胞を、48時間、LPS(100μg/ml)で刺激し、CD80(B7−1)のアップレギュレーションについて分析する。
【0179】
形質転換した細胞系を得るために、IL−7(5ng/ml)(R & D Systems)を、Flt−3L含有TS/OP9共培養物に8日目に添加して、未成熟プレB細胞を維持する−共培養物を、プロデューサー細胞系(producer cell line)の4日目のコンフルエントなプレートから集めた未希釈のウィルスストックを添加することによって感染させる。10cmディッシュの共培養物を、培地を、4μg/mlのポリブレン(Sigma)及びIL−7を含むウィルスストック3mlで置換することによって感染させる。プレートを、2〜4時間、37℃で周期的に揺動する。この期間後、IL−7を含む新鮮なOP9培地5mlをプレートに添加する。この培地を5日後にIL−7は含むがFlt−3Lは含まない培地に交換する。次の培地はIL−7を含まないものに交換する。フローサイトメトリー分析から、すべての形質転換系は同じ表現型を示すことが示される。各実験では、CD45R+ CD24+ IgMe未成熟プレB細胞の有意な集団が存在する。感染細胞をバルクで生育させた後、限界希釈によってクローニングする。ウィルスゲノムの組み込まれたコピーの存在を、サザンブロット分析によって確認する。
【0180】
HS/OP9共培養を開始してから異なる時間に集められた細胞のフローサイトメトリー分析から、CD45+細胞が共培養の5日目までに最初に観察されることが明らかである。8日目までは、CD45+はまた、その表面にCD 117及びSca−lを発現することから、初期の造血幹細胞のものに類似する表現型を示す。共培養物中で生じる初期の造血の有意な部分が、一般に、CD24+細胞の大部分がTER−119で陽性に染色する(8及び12日目)ことによって明らかなように、赤血球系列の細胞を生じる。大部分の共培養された12日目の細胞が赤血球系列(CD24hi CD45− TER−119−)に属するが、CD45+細胞は、低から高レベルのCD45Rを発現する。この表現型から、B系列細胞が8〜12日目の間に共培養物から現れることが示される。このB系列の表現型は12日目までは非常に明らかであるが、長期間の培養物(>20日)からは、めったにCD19+ IgM B細胞が形成しない。
【0181】
Flt−3Lを、造血細胞が初めて観察される際に、TS/OP9共培養物の5日目に添加する。19日目の共培養物の分析から、Flt−3Lを添加すると、HS/OP9共培養物からのBリンパ球の形成が劇的に促進する(Flt−3Lを添加する及びFlt−3Lを添加しないと、それぞれ、60〜/o vs. 6% CD45R+細胞)ことが示される。ゆえに、5日目にFlt−3LをHS/OP9共培養物に添加すると、約10倍、より遅い時間でのB系列細胞の回収が増加する。有意に、骨髄球系、CD 11 b (Mac−1)、及び赤芽球系、TER −119、細胞の頻度は、Flt−3Lで処理した培養物では減少する。Tリンパ球への分化の証拠はこれらの培養物では観察されない。19日目のHS/OP9共培養物細胞の表現型から、Flt−3Lを添加すると、細胞の全数は若干の増加(〜30%)を観察するのみであるが、CD19. CD45R− AA4.1− CD24+ IgM−細胞の生成の特異的な増加が起こることが明らかに示される。Flt−3Lを5日目に添加すると、HS/OP9共培養物系でのBリンパ球形成が高い効率で起こる。
【0182】
より遅く集められたFlt−3Lを含むHS/OP9共培養物の細胞の分析から、B系列マーカーに陽性である細胞のパーセントが大きく増加することが示される。4週間培養した後、共培養物におけるほとんどすべて(>90%)の細胞が、B系列であるCD45R CD 19+リンパ球である。これらのHSから派生したBリンパ球は、CD 11 bの表現型及び小さなサブセット(2〜3%)のCD5 B細胞を示すことから、CD5 B細胞はHS/OP9共培養物では容易に形成しないことが示唆される。
【0183】
さらにインビトロで生成したB細胞の機能的な能力を示すために、28日目の共培養物をLPSで処理すると、成熟表面IgM− CD 19+ B細胞は大きさを増し、かなり増殖する。マイトジェン活性化後、CD80(B7−1)、活性化後の成熟B細胞で正常にアップレギュレートする共刺激分子の発現を調べる。さらに、LPSで刺激された細胞からの培養液上清を試験したところ、119−の存在について陽性(ELISA分析によって)であることから、これらの細胞は強固なレベルのIg分泌が可能であることが示される−これらの知見から、成熟した、マイトジェンに応答する、Igを分泌するB細胞へのHS細胞のインビトロでの分化に関する証拠が得られる。
【0184】
外因性Flt−3LのHS/OP9共培養物系への添加は、成熟した、機能的なBリンパ球をHS細胞からインビトロで生成するための有効かつ実際のモデル系の開発の鍵となる要素であることが分かる。様々な知見が、Flt−3がインビトロでの初期のBリンパ球形成の重要な因子であるという考えを示唆する。さらに、様々な結果から、HS/OP9共培養物へのFlt−3Lの添加がBリンパ球の生成を容易にする様式が明らかになる。インビボでのB細胞分化中に起こるフローサイトメトリー段階。HSから派生するB細胞が正常な発達経路に従い、インビボで前駆細胞及び成熟B細胞と機能的に類似であるという事実から、この系はB細胞への分化に重要であることがわかるであろうという結論が導き出される。
【0185】
インビトロで完全に遺伝子修飾されたHS細胞から形質転換された分化した安定した細胞系を得ることができると、さらなる用途が得られるであろう。形質転換体は、生産及び維持するのが簡単であり、速い倍増時間を有するので、細胞系の誘導は、系列に特異的な遺伝子を標的とする突然変異を研究するのに可能性のあるアプローチの武器になるであろう。例えば、V(D)J組み換えにかかわる特定の遺伝子におけるヌル突然変異(null mutation)が評価されうる。
【0186】
本発明は、インビトロでHS細胞から直接ヒトB細胞前駆体(progenitor)および/またはBリンパ球を生成するための系を包含する。このような系は、無γグロブリン血症または特定のB細胞の機能不全に罹患する個体の治療用途を有する遺伝的に規定されたHS細胞から派生するB細胞の無限の源を提供するであろう。
【0187】
筋肉組織への分化
筋肉組織は、収縮または前方突進(例えば、線毛細胞)の特化した機能を有する細長い細胞から構成される。
【0188】
収縮細胞の例としては、以下に制限されないが、骨格筋細胞(赤、白、中間、紡錐及び筋衛星);心筋(普通、結節及びプルキンエ線維);ならびに平滑筋が挙げられる。
【0189】
筋衛星細胞は、骨格筋の再生にかかわる筋幹細胞である。これらの細胞は、各成熟筋線維の周辺の基底板内に横たわる単核の紡錐体形状の細胞である。これらは、筋肉への分化後に残る不活性な筋原細胞であると考えられる。しかしながら、適当な刺激の後は、これらの正常に休止した細胞は活性化されて、増殖して、新たな骨格筋線維を形成する。
【0190】
筋原細胞は、一緒に融合して、最後には骨格筋線維に発達する筋管を生じることができる有糸分裂後細胞である。ゆえに、筋原細胞は、骨格筋線維の中間前駆体として認識される。
【0191】
本発明の単離されたHS細胞は、直接、またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性または幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知な技術を用いて、筋衛星細胞若しくは筋原細胞等の適当な前駆細胞を介して、収縮筋細胞に分化しうる。このような技術としては、その内容は参考によって本明細書中に引用される、McKarney et al, Int J. Dev. Biol. 41(3):385-90 (1997)、及びGussoni et al., Nature 401(6751):390-4 (1999)によって記載されるものなどの方法がある。McKarney et al.は、胚幹細胞の分化への筋原調節因子(myf5、マイトゲニン(myogenin)、MyoD1及びmyf6)の効果を記載する。Gussoni et al.は、移植レシピエントの造血系のコンパートメントの再構築を起こす、放射線照射動物中への正常な造血幹細胞のデリバリーを記載する。
【0192】
前方突進機能を有する線毛細胞の例としては、以下に制限されないが、呼吸管の線毛細胞;卵管及び子宮内膜の線毛細胞;停留睾丸及び精巣輸出管の線毛細胞;ならびに中枢神経系の線毛細胞が挙げられる。
【0193】
さらに、脂肪細胞及び骨格筋細胞は、同じ間葉幹細胞前駆体から派生すると考えられ、インビトロでは、骨格筋及び脂肪の発達プログラムは互いに排反することが示唆された。インビトロでは、骨格筋及び脂肪組織の間に逆の関係があることが多い。脂肪細胞系列とは逆に、骨格筋細胞系列は出現する。RA(10−8M)のHS細胞濃度の分化中に自発的に低く発達する予め処理された単一のEBは、さらに、脂肪細胞及び骨格筋細胞双方を生じうる(それぞれ、a−FABP及びマイトゲニン遺伝子の発現によって測定した)。しかしながら、RAの濃度が増加すると、分化プログラムの進行にシフトが起こる。10−8Mより高いRA濃度では、マイトゲニンの発現は阻害され、a−F ABPの発現が増加する。
【0194】
a−F ABP及びマイトゲニン遺伝子の発現は、顕微鏡による試験によって記録される脂肪細胞及び筋細胞の発達に平行である。エセンキマル細胞(esenchymal cells)によって主に発現する、ACOL遺伝子の発現は、修飾されないことから、RAで初期のEBを予め処理することによって、HS細胞の発達プログラムに全身の変化は起こらないことが示唆される。筋形成から脂肪形成へのスイッチは、濃度に依存してRAによって誘導されうる。Myf 5またはMyoD等の、骨格筋形成の初期遺伝子マーカーの発現の研究は、どの段階で筋原細胞の発達が遮断されるかを知る必要があるものの、これら結果から、HS細胞の脂肪細胞系列への拘束に関する許容時間がまた筋細胞系列にも重要であるという結論が得られる。HS細胞のインビトロでの分化によって、幹細胞が脂肪形成または筋形成の発達経路に従うかの決定にかかる因子の特徴が明らかになりうる。
【0195】
本発明の単離されたHS細胞、及び前駆細胞はまた、本明細書中に参考によって引用される、Kehat et al., J. Clin. Invest., 108:407-414 (2001) 及びMuller et al., The FASEB Journal, 14: 2540-2548 (2000)等の当該分野において既知の技術を用いて、心筋細胞に分化するように誘導されてもよい。
【0196】
神経組織への分化
神経及び感覚組織は、神経インパルスを受ける、生じる、及び伝達する特化した機能を有する細胞体から拡張する伸張した突起を有する細胞から構成される。神経及び感覚組織の細胞は4つのクラスに分けられる:自律性ニューロン;ニューロン及びグリア細胞;感覚器官及び末梢ニューロンの支持細胞;ならびに感覚伝達細胞(sensory tranducer)。様々なクラスの神経及び感覚細胞の詳細な説明を以下に記載する。
【0197】
本発明の単離されたHS細胞及び前駆細胞は、その内容は参考によって本明細書中に引用される、Guan et al., Cell Tissue Res, 305:171-176 (2001), Przyborski et al., Eur. J. of Neuroscience, 12:3521-28 (2000), Brustle et al., Science, 285: 754-6 (1999), Hancock et al., Biochem. & Biophys. Res. Comm., 271:418-421 (2000), Liu et al., PNAS, 97(11): 6126-31 (2000)、及びFairchild et al., Curr. Bio., 10(23): 1515-18 (2000)などの、当該分野において既知の技術を用いて様々な種類の神経組織に分化するように誘導できる。
【0198】
(a)レチノイン酸によるホメオボックス遺伝子の分化活性化
ショウジョウバエ及び脊椎動物の胚形成における位置情報を規定する、ホメオボックス遺伝子は、天然のモルフォゲンである、RAに応答する。ヒトのHS細胞では、RAは、HOX1、2、3、及び4として知られている、ヒトのアンテナペディア様ホメオボックス遺伝子の4つのクラスターすべての発現を特異的に活性化するのに使用できる。例えば、ヒトのHOX2遺伝子が濃度に依存して及びクラスターで3’から5’への配列と連続した順番で一緒に直線的に(in a sequential order co-linear)RAによってEC細胞中で分化により活性化することを示す、本明細書中に引用される、Bottero et al., Rec. Res. Cancer Res. 123:133-143 (1991)を参照。
【0199】
これらの遺伝子は、一般的に、発達した中枢神経系の前後軸に沿って発現し、この際、3’側の遺伝子はミエンセファロン(myencephalon)中でより頭側で発現し、また、5’側の遺伝子は脊髄でより後端で発現する。ホメオボックス遺伝子の濃度依存性は、HS細胞が特定の濃度のRAに暴露されて、特定のホメオボックスクラスターまたはクラスター内の個々の遺伝子の発現を誘発し、これにより正確な位置に相当する、例えば、中枢神経形のサブ領域に相当する、型の組織への分化に拘束することを誘発することを意味する。
【0200】
(b)自立性ニューロン
自立性ニューロンの例としては、以下に制限されないが、1)コリン作動性ニューロン;2)アドレナリン作動性ニューロン;及び3)ペプチド作動性ニューロンが挙げられる。
【0201】
本発明の単離されたHS細胞は、直接、またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性または幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知な技術を用いて適当な前駆細胞を介して、自立性ニューロンに分化しうる。
【0202】
(c)ニューロン及びグリア細胞
ニューロン及びグリア細胞の例としては、以下に制限されないが、1)ニューロン、2)星状細胞、及び3)乏突起神経膠芽細胞が挙げられる。
【0203】
本発明の単離されたHS細胞は、直接、またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性または幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知な技術を用いて、ニューロン性前駆細胞等の適当な中間細胞を介して、ニューロン及びグリア細胞に分化しうる。このような技術としては、その完全な内容が参考によって本明細書中に引用される、下記のものなどの方法がある。
【0204】
本明細書中に引用される、Woodbury et al., J. Neurosci. Res. 61:364-370 (2000)には、組み換え骨髄ストローマ細胞(rMSC)でニューロンの表現型を誘導するのに1〜10mM BME(SFM/BME)を含む無血清培地を使用することが記載される。
【0205】
Lee et al.(本明細書中に引用される、Nature Biotech. 18:675-678 (2000))には、マイトジェンならびにソニックヘドゲホッグ(sonic hedgehog)(SHH)、FGF−8、アスコルビン酸cAMP及びこれらの類似体等の特定のシグナル伝達分子及び因子を用いてマウスの胚幹細胞から、中脳及び菱脳のニューロン、特にドーパミン作動性及びセロトニン作動性ニューロンの効率的な生成が記載される。
【0206】
本明細書中に引用される、Okabe et al., Mech. Dev. 59: 89-102 (1996)には、胚幹(ES)細胞からの神経上皮前駆細胞を分化させる培養条件が記載される。詳細には、ES細胞由来の神経上皮前駆細胞の高度に強化された集団を、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の存在下で増殖させた。これらの細胞は、bFGFを抜いた後ニューロン及びグリア細胞双方に分化する。
【0207】
本明細書中に引用される、McDonald et al., Nature Medicine 5:1410-1412 (1999)には、分化を誘導する手段としてin situ移植が記載される。詳細には、神経分化マウス胚幹細胞を、外傷性損傷後9日目に、ラットの脊髄に移植した。これから2〜5週間後の組織学的な分析から、移植組織由来の細胞は生存しており、神経膠星状細胞、乏突起神経膠芽細胞及びニューロンに分化し、損傷端から8mm離れたところまで移動していたことが示された。
【0208】
本明細書中に引用される、Borlongan et al., NeuroReport 9:3703-3709 (1998)には、不死化ヒト胎児性癌細胞(Ntera2またはNT2細胞)からの有糸分裂後ニューロン様(hNT)細胞の発達を刺激するのにレチノイン酸が使用されることが記載される。
【0209】
Oliver Brustle et al., "Protocol for Producing Glial Precursors from pES Cells: A Source of Myelinating Transplants", The American Association for the Advancement of Science 285: 754-756 (1999)にはさらに、ES細胞をグリア細胞に分化させる技術が記載される。このような技術は、HS細胞を分化させるのに使用でき、本明細書中に参考によって引用される。
【0210】
ニューロン性前駆細胞の電気生理学的特性を明らかにするために、これらを12日間以上、B27及び5%FCSを含む神経基本培地(neurobasal medium)中に維持して、15個の細胞の活性をこれらのプレートから記録する。このような細胞の静止膜電位は約−60mVであるはずであり、静止電位から20mV脱分極すると内向き作用電流を示すはずである。
【0211】
内向き電流は、速い不活性化外向き電流(I)及び一定の外向き電流に従う。これらの電流は、Csが充填された細胞では存在しないはずであることから、外向きK−整流チャンネル(outward K-rectifying channel)が仲介すると考えられることが示される。
【0212】
ほとんどのニューロン細胞は、様々な期間及び大きさの自発的なシナプス電流を発現する。グルタメートを記録ニューロン前駆細胞、即ち、推定上のニューロン付近の細胞に適用することによって、短い遅延で記録ニューロンにこれらのシナプス電流が生成し始める。記録シナプス電流は、2タイプある:約0mVで逆転する、早い興奮性シナプス後電流、およびアセテート含有ピペットで記録されると約−50mVで逆転する、緩崩壊阻害シナプス電流(slow-decaying inhibitory synaptic current)。さらに、記録細胞はまた、静止電位で記録された印がつけられた内向き電流を有するグルタメートの局所的な適用に応答するはずである。自発的な及び誘発されたシナプス応答、さらにはグルタメートに対する細胞の応答から、培養物中の記録細胞は出生前の、培養CNSニューロンに類似する特性を有するアレイを維持することが示される。
【0213】
NMDAによる記録細胞の刺激は、環状アデノシン1リン酸応答素子結合タンパク質(CREBタンパク質)のリン酸化及びc−fos遺伝子の転写を誘導する。これらの2種の誘導は、機能性NMDAレセプターが発現するかどうかを決定するために分析される。非刺激細胞は、ホスホ−CREB(phospho-CREB)で染色されないはずである。これに対して、グルタメートまたはNMDAのいずれかで10分間刺激後の記録ニューロン細胞は、強い核免疫反応性を示すはずであり、ホスホ−CREBで染色される。これに対して、グリア様細胞の大きな核はホスホ−CREB染色を示さないはずである。
【0214】
さらに、グルタメートまたはNMDAで処理された細胞のRT−PCRから、c−fosの誘導が示され、これから、この調製物のニューロンによっては機能性NMDAレセプターを有するものがあることが示唆される。シナプス連結の存在はまた、電子顕微鏡によって、または形態学的な特徴によって確認でき、例えば、多くのシナプス小胞を含む典型的なプレシナプス構造、または活性領域の特徴である、膜の肥厚が観察されるはずである。このような結果から、HS細胞由来のニューロン前駆細胞は、機能性シナプス連結を形成する、減数分裂後ニューロンに分化できることが示唆される。
【0215】
従来の研究では、bFGFが神経上皮前駆細胞の強力なマイトジェンであることが示された。HS細胞のbFGFへの応答を調べるために、6〜7日間ITS/FN培地中に保持したHS細胞を、解離し、様々な異なるDMEM/F12を基礎とした培地に播種する。3日後、細胞密度を測定する。修飾N3(mN3)培地、bFGF及びフィブロネクチンを捕捉したDMEM/F12培地の組み合わせは、最も高い増殖効果を有するはずである。5〜50ng/mlの濃度では、bFGFは、増殖に関して同様の効果を示すはずである。1ng/ml以下の濃度では、bFGFは、明らかな増殖効果を示さないはずである。ラミニンはフィブロネクチンに比べて若干より高い細胞増殖の刺激を示すことが予想されるため、N3培地、bFGF及びラミニンの組み合わせ(「N3FL」培地)は、ニューロン前駆様細胞の増殖条件として使用される。
【0216】
N3FL培地では、主な増殖細胞は、ITS/FN培地で誘導されるネスチン陽性細胞(nestin-positive cells)に類似するはずである。N3FL培地中で生育させると、様々なES細胞系(D3、CJ7及びJl)と似たHS細胞は、同じ形態をとるはずであり、また、その増殖はbFGFにかなり依存するはずである。細胞増殖は、播種してから1、4及び7日目の細胞密度を計測することによって定量される。細胞の計測から、培養物中で7日後の細胞数が6倍増加することが示されるはずである。
【0217】
ニューロン前駆体(ネスチン)、減数分裂後のニューロン(微小管付属タンパク質2;MAP2)、神経膠星状細胞(神経膠線維酸性タンパク質;GFAP)及び乏突起神経膠芽細胞系列細胞(O4、Gal−C)に特異的な抗体で調製物を染色することも可能である。ネスチン陽性細胞は、各時間で、全細胞集団の80%以上でなければならない;MAP2陽性細胞は、全細胞集団の10〜15%でなければならない;およびGFAP陽性細胞は、全細胞集団の2%以下でなければならない。この調製物にはO4−またはGal−C−陽性細胞は存在しないはずである。
【0218】
さらに、成体の中枢神経系から単離された神経前駆体は、脳への移植後にニューロン及びグリア細胞に分化し、脊髄への移植後は乏突起神経膠芽細胞及び神経膠星状細胞に分化する。同様にして、幹細胞は、分化及び移入を受ける脊髄に移植されてもよく、損傷を受けた脊髄の回復を促進する。McDonald et al., 1999, Nature Medicine 5:1410-1412は、神経への分化を誘導するようにRA(レチノイン酸)に予め暴露した(500nM全トランス型レチノイン酸に4日間暴露)ES細胞を移植し、神経膠星状細胞、乏突起神経膠芽細胞及びニューロンへの分化、脊髄での移動、ならびに損傷を受けた脊髄での回復を示す挙動(運動)の結果を観察した。
【0219】
一実施態様においては、HS細胞を、ES細胞の代わりに使用して、分化及び移動を受け、このような治療を必要とする患者の回復を促進するように脊髄に移植してもよい。HS細胞由来の胚様体(4日間レチノイン酸なしで、さらに4日間レチンありで)を移植に使用し、この際、RAは神経への分化を誘導するのに使用される。部分的にトリプシン処理された胚様体を、脊髄挫傷してから9日目に形成する空洞に細胞凝集物として移植する。見せかけで操作したコントロールは、細胞の移植の代わりに培養液のみを空洞内に注射する以外は、同様にして扱った。運動機能を、バッソ−ビーティー−ブレスナハン(Basso-Beattie-Bresnahan)(BBB)ロコモーターレーティングスケール(Locomotor Rating Scale)を用いて評価する。
【0220】
移植前日(損傷後8日目)、BBBスコアを得て、コントロール及び実験群を突合せ、被検者をランダムにグループに選定して、初期の運動スコアを群間で等しくなるようにする。衝突損傷から9日後に、被検者に、脊髄定位固定フレーム(spinal stereotaxic frame)、5μlのハミルトンシリンジに配置される直径100μmの先端を有するガラスピペット、またはコフ微定位固定注入システム(Kopf microstereotaxic injection system)(Kopf Model 5000 & 900; Kopf, Tujunga, California)によって神経分化HS細胞(約1×10)またはベヒクル培地を移植する。HS細胞またはベヒクル培地(5μl)を、5分間にわたってT9レベルで空洞の中央に注射する。コントロールと同じ時間、3回個々の実験を全部終了した。1回目のシリーズは、移植してから5週間目に挙動分析及び後期組織分析(late histologic analysis)(1群当たりn=11)について終了して、HS細胞移植をコントロールと比較する。2回目のシリーズは、初期(移植してから2週間)及び後期(移植してから5週間)の組織学的な結果(1群当たりn=11)を比較するのに使用し、HS細胞移植(ROSA lacZトランスジーン系)をコントロールと比較する。
【0221】
遺伝学的に印をつけ、10uMのBrdUの24時間パルスでインビトロで予め標識したHS細胞由来の細胞を、移植してから14〜33日にin situで同定する。同定はまた、特異的な抗体で達成されうる。移植してから2〜5週間に、HS細胞由来の細胞は、凝集物中に見出されるまたは損傷部位にわたって別々に分散しているべきである。さらに、単一の細胞は、頭または尾のいずれかの方向で空洞から8mmはなれて見出されるはずである。ほとんどの移植患者では、移植してから2週間までに、HS細胞由来の細胞が、培地で処置された患者に一般的に占められる空間を満たすはずである。5週間までに、この領域でのHS細胞由来の細胞の密度は、減少し、細胞外マトリックスを含む線維で置換されるはずである。
【0222】
生き残ったHS細胞由来の細胞は、乏突起神経膠芽細胞(腺腫様多発結腸ポリープ遺伝子産物)、神経膠星状細胞(神経膠線維酸性タンパク質)、及びニューロン(ニューロンに特異的な核タンパク質)に特異的なマーカーに対する抗体で同定されうる。核は、Hoechst 33342染色ではっきりと同定できる。ほとんどの生き残ったHS細胞由来の細胞は、乏突起神経膠芽細胞及び神経膠星状細胞であるはずであるが、HS細胞由来のニューロンによっては、脊髄の中間に存在するものもある。また、HS細胞由来の乏突起神経膠芽細胞の多くは、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンの必須成分に免疫反応性であるはずである。
【0223】
「開電場運動(open field locomotion)」における性能は、HS細胞移植によって促進する。見せ掛けで操作された移植群が体重を支持できないのに対して、HS細胞を移植した患者は部分的に体重を支持する歩行を示すはずである。BBBスコアの統計学的な相違は移植してから2週間までに達成されるはずである。1ヶ月後では、見せ掛けで操作された及びHS移植群間でBBBスケールで2ポイントの差異があるはずである。前者で得られたスコアは体重負荷及び協調運動を示さないのに対して、後者のスコアは部分的な肢の体重負荷及び部分的な肢の協調によって特徴付けられる歩行を示す。
【0224】
要約すると、HS細胞由来の細胞は、落錘損傷(weight-drop injury)から9日目に脊髄に移植されると、少なくとも5週間は生存し;移植部位から少なくとも8mmは移動し;腫瘍を形成せずに神経膠星状細胞、乏突起神経膠芽細胞及びニューロンに分化し;さらに運動機能が改善するはずである。
【0225】
bFGFを抜くことによって分化が以前に誘導された神経細胞は、2週間以上、B27サプリメント及び5%ウシ胎仔血清を加えた神経基本培地中に有意に細胞を死亡させることなく維持できる。このような長期間の培養は、Jl、CJ7及びD3細胞系に良好に適用される。しかしながら、長期間の培養は、N3を基本として血清を含まない培地中では困難である。
【0226】
MAP2及び神経フィラメント−M(NF−M)による培養液における細胞の2重標識により、2クラスの神経突起が存在することが示されるはずである。抗MAP2抗体は、短い厚い(thick)突起(process)及び細胞体を染色し、また、抗NF−Mは薄い長い突起を染色する。2重標識時のHS細胞由来のニューロンは、MAP2に陽性な樹状突起及びNF−Mに陽性な軸索を有するはずである。
【0227】
抗シナプシンI(synapsin I)による染色は、樹状突起の細胞膜に密接に関連する分断構造を示す。このような染色パターンは、軸策に沿った異なる部位へのシナプスベヒクルの分離を示すはずである。
【0228】
神経伝達物質の表現型を調べるために、神経細胞に分化するHS細胞を、神経伝達物質に対する様々な抗体で染色する。結果から、多数のグルタメートに陽性な細胞が完全に陰性な細胞と混合されることが示されるはずである。
【0229】
さらに、γ−アミノ酪酸(GABA)に陽性な細胞は共通であり、GABA染色もまた利用できる。したがって、GABAに陽性であるがMAP2に陰性である薄い(thin)突起を同定することが可能である。この知見から、GABA作動性ニューロン(GABA-nergic neuron)の軸策がGABAに陽性でありMAP2に陰性であるため、樹状及び軸策構造の分化が示唆される。
【0230】
さらに、ニューロン遺伝子の発現は、ニューロンに特異的なプライマーのパネルを用いた逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって分析されてもよい。調製物は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD65)’カルビンジンD28(calbindinD28)、NMDAレセプター1、2A、2B、20、1−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチルイソオキサゾール−4−プロピオネート(1-amino-3-hydroxy-5-methylisoxazole-4-propionate)(AMPA)レセプター、及びGABAレセプターを発現する細胞を含む。どの場合でも、かなりより多くの量の転写物が分化細胞の全RNA中で検出される。
【0231】
これらのニューロン細胞が特異的なCNS領域での細胞に相当するかどうかを調べるために、前後軸に沿った3位置に特異的なマーカーの発現を分析する。Otx−1は、主に、前脳及び中脳で発現し、En−1は中脳−後脳の境界で発現し、さらにHoxa−7は後脊髄で発現する。未分化のHS細胞は、Hoxa−7を発現するが、Otx−l及びEn−lを発現しないはずである。したがって、後脳マーカーであるHoxa−7の発現は、10日以上、bFGFの存在下で増殖するネスチンに陽性な細胞でダウンレギュレーションされるはずである。これに対して、Otx−1及びEn−1は、これらの増殖細胞ではアップレギュレーションされるはずである。B27及び血清を含む神経基本培地に切り換えることによる分化後は、Hoxa−7の発現は再度アップレギュレーションされ、また、Otx−1及びEn−lの発現は維持されるはずである。異なる転写因子の存在から、調製物が異なるCNS領域に特徴的なニューロンを生成することが示唆される。
【0232】
(d)感覚器官及び末梢ニューロンの支持細胞
感覚器官及び末梢ニューロンの支持細胞の例としては、以下に制限されないが、Cortiの器官の支持細胞(例えば、内及び外柱細胞、内及び外趾節骨細胞(phalangeal cell)、境界細胞、ヘンゼン細胞);前庭の支持細胞;味蕾の支持細胞;嗅上皮の支持細胞;シュヴァン細胞;腸のグリア細胞;及び衛星細胞が挙げられる。
【0233】
本発明の単離されたHS細胞は、直接またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性または幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知な技術を用いて適当な前駆細胞を介してこのような支持細胞に分化しうる。
【0234】
(e)感覚伝達細胞
感覚伝達細胞の例としては、以下に制限されないが、1)光レセプター;聴覚(例えば、Cortiの内及び外毛細胞);2)加速及び重力感覚;2)味覚(タイプII味蕾細胞);3)臭覚(例えば、嗅覚ニューロン);血液のpHセンサー(頚動脈小体細胞、タイプI、タイプII);4)触覚(例えば、表皮のメルケル細胞、1次感覚ニューロン(primary sensory neuron));5)温度及び痛みのセンサー(例えば、1次感覚ニューロン);及び6)筋骨格系の形状及び力のセンサー(固有受容1次感覚ニューロン)が挙げられる。
【0235】
本発明の単離されたHS細胞は、直接、またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性または幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関する当該分野において既知な技術を用いて、基底細胞等の適当な前駆細胞を介して、感覚伝達細胞、特に1次感覚ニューロンに分化しうる。
【0236】
生殖細胞の分化
生殖にかかわる細胞としては、卵母細胞及び精母細胞等の生殖細胞、ならびに卵胞細胞、胸腺上皮細胞、及びセルトリ細胞等の栄養細胞がある。
【0237】
本発明の単離されたHS細胞は、直接またはES細胞、EC細胞、他の種類の多分化能性または幹細胞、および/またはテラトカルシノーマ細胞の分化に関して当該分野において既知であるものなどの定常的な実験及び公知の技術を用いて、卵原細胞、精原細胞若しくは原始生殖細胞(卵黄嚢の内胚葉由来)等の適当な前駆細胞を介して、生殖細胞に分化しうる。
【0238】
E.実施例
実施例1 ホモ接合性幹細胞の形成、ならびに前駆細胞及び奇形腫内の3種の胚性胚葉の様々な組織へのこれらの分化
実施例1(a):活性化さらには第二極体の放出の防止によるマウスの減数分裂I後の卵母細胞からのHS細胞の誘導
73個の卵母細胞を、下記方法を用いて過排卵によってハイブリッド(BDA2 F1: C57 black x DBA2, Charles River Laboratories, Wilmington, MA)、8週齢の、メスマウスから得た。3匹のハイブリッドマウスに、5IU/100ulの妊馬血清ゴナドトロピン(PMS;PCCA, Houston, TX (29-1000-1BX))、及び5IU/100μlのヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(HCG;Sigma, St. Louis, MO, (C8554))を約48時間離して注射して投与した。
【0239】
卵母細胞を、HCGを注射してから約17時間後に集めて、新たに得られた卵母細胞を最終濃度0.3mg/mlのM2培地(M7167,Sigma)に溶かした少量(約300μl)のヒアルロニダーゼ(H4272,Sigma)中でインキュベートすることによって、卵丘細胞塊を除去した。次に、卵母細胞を、さらに処理する前にHEPES緩衝化M2培地で3回洗浄した。
【0240】
次に、卵母細胞を、室温で5分間、5μMカルシウムイオノホア(C7522、Sigma:Ca2+ 1mg/764.8ul;DMSO 2.5mM=500×(ストック);最終濃度2ul Ca2+(500X)/1ml M=5μM)溶液で処理することによって活性化した。次に、卵母細胞を、HEPES緩衝化M2培地で2回洗浄した。
【0241】
Ca++活性化卵母細胞を、5% CO及び37℃で3時間、6−ジメチルアミノプリン(6−DMAP(D2629,Sigma):250mM=50x(ストック);最終濃度:20μl/1ml M16=5mM)を含むM16重炭酸塩緩衝化培養液(M7292, Sigma)中でインキュベートした。さらに、卵母細胞を、M16培地で3回洗浄し、少なくとも4日間、鉱油下で少量のM16培地中でインキュベートした。
【0242】
M16培地で4〜5日インキュベートした後、胚盤胞に似た細胞塊がCa++活性化卵母細胞から得られた。これらの胚盤胞様塊を囲むシェルを外した(「孵化させた(hatching)」)後、幹細胞の形成のために、ES培地(DMEM: Gibco, Life Technologies, Rockville, MD (11995-065); 20% FBS: Gibco (16141-079))中で少なくとも15日間、マイトマイシンCで処理したマウスの胚のフィーダー細胞層に移した。
【0243】
または、幹細胞を、免疫手術によって孵化させた胚盤胞様塊から誘導した。孵化させた胚盤胞様塊を、37℃で1時間、抗マウスThy−1ウサギ血清(1:10, ACL2001, Accurate Chemical, Westbury, NY)及び抗ヒトリンパ球ウサギ血清(1:10, CL8010, Accurate Chemical)と共にインキュベートした。細胞塊をM2培地で3回洗浄し、37℃で30分間、モルモット補体(1:10, ACL4051, Accurate Chemical)と共にインキュベートして、栄養膜細胞を溶解した。次に、補体で処理した細胞塊をM2培地中で3回洗浄し、少なくとも15日間、幹細胞の形成を目的としてマイトマイシンCで処理したマウスの胚のフィーダー細胞層に移した。
【0244】
マウスの胚線維芽細胞フィーダー細胞は、Stemcell, Inc. (00308)から購入し、2〜3回継代した。コンフルエントに拡張したフィーダー細胞の60mmのディッシュ1枚を、37℃で3時間、マイトマイシンC(最終濃度10μg/ml、Sigma M4287)を含む5mlのDMEM/10% FBS培地で処理した。次に、処理されたフィーダー細胞を、5mlのDMEM/10% FBSで3回洗浄し、37℃で5分間の1mlのトリプシン処理、5mlのDMEM/10% FBS培地による中和、及び1000rpmで5分間の遠心によって集めた。得られたマイトマイシンで処理した細胞ペレットを、15mlのDMEM/10% FBS培地に再懸濁し、3枚の60mmのディッシュ(5mlの細胞懸濁液/ディッシュ)に播種し、さらに使用する前に一晩、37℃でインキュベートした。
【0245】
実施例1(b):活性化さらには第二極体の放出の防止によるヒト2倍体卵母細胞からの胚盤胞様細胞塊の発達
メス卵ドナーを、ロイルポライドアセテート(leurpolide acetate)(Lupron: TAP Pharmaceuticals, Deerfield, IL)でダウンレギュレーションした後、300IU/日の投与量で卵胞刺激ホルモン(FSH)(Seromo Pharmaceutical)処理を行なって適当な多卵胞応答(multifollicular response)を誘導することによってCOH(制御卵巣過刺激(Controlled Ovarian hyper-stimulation))を開始した。卵胞の成熟に関する超音波検査による基準を満たしたら、10,000IU量のhCGを1回投与し、hCGを投与してから約36時間後に経腟卵胞吸引を行なった。80IU/mlのヒアルロニダーゼに約30秒間さらには10%ヒト血清アルブミン(InVitroCare, Inc., San Diego, CA)を捕捉したHEPES緩衝化ヒト卵管液に暴露することによって、回収された卵母細胞から卵丘細胞を除去した。
【0246】
有糸分裂活性化を達成するために、卵丘細胞を含まない成熟M−II卵母細胞を、33℃で5分間、5μMのカルシウムイオノホア(A23187, Sigma)処理した後、37℃で3〜5時間、1〜5mMの6−ジメチルアミノプリン(6-DMAP, Sigma)中でインキュベートした。活性化卵母細胞を、3日間、IVC−1培地(InVitroCare, Inc.)中でインキュベートし、さらに細胞分裂及び胚盤胞形成を目的として、2日間、IVC−3(InVitroCare, Inc.)中でインキュベートした。または、2日胚様細胞塊(day number 2 embryo like cell mass)を、STOフィーダー細胞上に共培養してもよい。6日目に、他方の腕で透明帯を固定しながら、マイクロマニピュレーターの一方の腕を用いて、透明帯の全外表面の約1/8に酸性化タイロード溶液(acidified tyrodes solution)を適用することによって、マイクロマニピュレーター下で補助孵化を行なった。次に、胚盤胞を弱くなった透明帯から放出させた後、抗Thy1及び補体で処理して、栄養外胚葉の細胞を免疫手術により排除した。さらに、処理された胚盤胞を、非必須アミノ酸、ペン−ストレップ(pen-strep)(Life Technologies)、β−メルカプトエタノール(Sigma)、及びLIF(Chemicon)を捕捉したDMEM培地において20%のウシ胎児血清(Life technologies)を含む幹細胞培養液中でマイトマイシンで処理されたSTOフィーダー細胞(ATCC)上で培養した。図8Dを参照。
【0247】
実施例1(c):活性化さらには第二極体の及びゲノムの自己複製によるヒト減数分裂I後の2倍体卵母細胞からの胚盤胞様細胞塊の発達
メス卵ドナーを、ロイルポライドアセテート(leurpolide acetate)(Lupron: TAP Pharmaceuticals, Deerfield, IL)でダウンレギュレーションした後、300IU/日の投与量で卵胞刺激ホルモン(FSH)(Seromo Pharmaceutical)処理を行なって適当な多卵胞応答(multifollicular response)を誘導することによってCOH(制御卵巣過刺激(Controlled Ovarian hyper-stimulation))を開始した。卵胞の成熟に関する超音波検査による基準を満たしたら、10,000IU量のhCGを1回投与し、hCGを投与してから約36時間後に経腟卵胞吸引を行なった。80IU/mlのヒアルロニダーゼに約30秒間さらには10%ヒト血清アルブミン(InVitroCare, Inc., San Diego, CA)を捕捉したHEPES緩衝化ヒト卵管液に暴露することによって、回収された卵母細胞から卵丘細胞を除去した。
【0248】
有糸分裂活性化を達成するために、卵丘細胞を含まない成熟M−II卵母細胞に、見かけのICSI(細胞質内精子注入(intracytoplasmic sperm injection))を行ない、精子によって導入される活性化を模倣した後、33℃で5分間、25μMのカルシウムイオノホア(A23187, Sigma)と共にインキュベートした。このようにして活性化された卵母細胞は、第二極体を放出し、2倍体になる。このような2倍体の卵母細胞を、IVC−1培地(InVitroCare, Inc.)中で3日間、インキュベートし、さらに細胞分裂及び胚盤胞形成のためにIVC−3(InVitroCare)中で2日間、インキュベートした。または、2日胚様細胞塊(day number 2 embryo like cell mass)を、STOフィーダー細胞上に共培養してもよい。6日目に、胚盤胞の透明帯の外に酸性化タイロードを適用することによって、マイクロマニピュレーター下で補助孵化を行なった。次に、胚盤胞を弱くなった透明帯から放出させた後、非必須アミノ酸、ペン−ストレップ(pen-strep)(Life Technologies)、β−メルカプトエタノール(Sigma)、及びLIF(Chemicon)を捕捉したDMEM培地において20%のウシ胎児血清(Life technologies)を含む幹細胞培養液中でマイトマイシンで処理されたSTOフィーダー細胞(ATCC)上で培養した。
【0249】
活性化から得られた2倍体卵母細胞は、細胞質分裂なしでゲノムの自己複製ができ、2倍体細胞を生じる(Taylor, A.S., et al., "The early development and DNA content of activated human oocytes and parthenogenetic human embryos," Hum. Reprod. 9(12):2389-97 (1994); Kaufman, M.H. et al., "Establishment of pluripotential cell lines from haploid mouse embryos," J. Embryol. Exp. Morphol. 73:249-61 (1983))。6日目に、胚盤胞の透明帯の外に酸性化タイロードを適用することによって、マイクロマニピュレーター下で補助孵化を行なった。次に、胚盤胞を弱くなった透明帯から放出させた後、非必須アミノ酸、ペン−ストレップ(pen-strep)(Life Technologies)、β−メルカプトエタノール(Sigma)、及びLIF(Chemicon)を捕捉したDMEM培地において20%のウシ胎児血清(Life technologies)を含む幹細胞培養液中でマイトマイシンで処理されたSTOフィーダー細胞(ATCC)上で培養した。図8A−Cを参照。
【0250】
実施例1(d):マウスHS細胞の成長、マウス腎臓被膜下でのこのようなHS細胞の分化、およびこのような細胞の胚様体形成
実施例1(a)に記載されるのと同様の胚盤胞様塊から得られたHS細胞を、1,400U/mlの白血病抑制因子(LIF)(ESGROTM)、ケミコンESG1106(Chemicon ESG1106)10単位/mlを含むES細胞培地でに0.1%ゼラチン被覆ディッシュ(10cm)に播種した。[ES培地500ml:コロニーを生育させるために実施例1(b)に記載されるのと同様のマウスフィーダー細胞の層上に、ノック−DMEM(knock-DMEM)(Gibco 10829-018)425ml;FCS(ES細胞用、Gibco 16141-061)75ml;MEM非必須アミノ酸溶液(MEM non-essential AA solution)(Gibco 11140-050)5ml;ペニシリン−ストレプトマイシン−グルタミン(Gibco 10378-016)5ml;2−メルカプトエタノール(Gibco 21985-023)0.5mlから最終100μM]。
【0251】
HS細胞のコロニーを幾つかの片に解剖して、26匹のハイブリッドマウスの2個の腎臓被膜の一方に内植して、ステムプラズムの形成を誘導した。次に、内植してから1、3、6、9.5、10.5、11、12、及び14週間でマウスを剖検することによって、ステムプラズムを集めた。各ステムプラズムの半分を形態学的な研究のためにホルマリンに固定し、他の半分を分子の特性化のために−80℃で凍結した。ステムプラズムは、およそ3週間で目視できる大きさにまで形成し始めた。ステムプラズムの収集をずらすことによって、ステムプラズム内に発達する様々な組織型を研究した。ここで同定されたすべての組織型が、当該ステムプラズム内に生成した。ステムプラズムの遺伝子型を、前記段落で記載したPCRを基礎とする対立遺伝子分析によって確認した。
【0252】
胚様体(EB)を作製するために、60mmディッシュのHS細胞を、始めにPBSで2回洗浄した。次に、1mlのトリプシン/EDTA溶液を加え、細胞を37℃の温度で5分間維持した。さらに、5mlのES培地を添加して、細胞を細胞スクレーパーで持ち上げ、1000rpmで5分間回転して沈殿させた。次に、このようにして得られた細胞ペレットを、LIFを含まないES培地5ml中に再懸濁し、細胞数を計測した。さらに、細胞を2×10/10cmディッシュで細菌培養用ディッシュ上に播種した。細胞を4日間ES培地で培養したが、この際、培地は、細胞を15ml管に移し、細胞が管の底に沈殿するまで約5分間待った後、培地を交換することによって、2日毎に交換した。次に、細胞を凝集させて、EBを形成し、さらに分化させるために元のディッシュに移した。
【0253】
実施例1(e):奇形腫内のヒトHS細胞の分化、およびこのような分化組織の遺伝的なホモ接合性
31個の奇形腫を、Armed Forces Institute of Pathology, Washington, DC、及びDepartment of Pathology, New York University. New York, NY (Dr. J. Liu)のファイルから取得した。様々な異なる種類の排他的に分化した組織が、女性患者において20個の卵巣腫瘍で見つかった。分化組織は、当該分野において既知の方法を用いて代表的な症例で行なわれたFISH分析、及び染色体3及び8に対するα−サテライトプローブによって確認されたところ2倍体であることが分かった。女性患者の7個の卵巣腫瘍及び男性患者の4個の睾丸腫瘍で見つかった未分化及び分化組織の3〜12個の組織学的な領域を同定し、遺伝分析のために各症例から選択的に顕微解剖した。それぞれの場合において、分化組織は、遺伝学的にホモ接合性であることが分かり、また、未分化組織は、遺伝学的にヘテロ接合性であることが分かった。
【0254】
顕微解剖 ガラススライド上の未染色の6ミクロンの切片をキシレンで脱パラフィンし、100%から80%のエタノールで洗浄して、ヘマトキシリン及びエオシンで簡単に染色して、TE緩衝液における10%グリセロールで洗浄した。組織の顕微解剖を、光学顕微鏡で目視しながら行なった。それぞれの場合で、異なる組織分化の6〜12領域を、別々に遺伝分析のために顕微解剖した。加えて、幾つかの正常な、非腫瘍組織領域を入手した。
【0255】
DNAの抽出 入手した細胞を、Tris−HCI、pH 8.0;1.0mM エチレンジアミン4酢酸、pH 8.0;1% Tween 20、及び0.5mg/ml プロティナーゼKを含む25μlの緩衝液に直ちに再懸濁して、37℃で一晩インキュベートした。この混合物を5分間煮沸して、プロティナーゼKを不活性化し、1.5μlのこの溶液をDNAのPCR増幅用に使用した。
【0256】
遺伝分析 顕微解剖後に利用できる限定量のDNAにおいてホモ接合性を信頼性高く同定するために、複数の異なる顕微解剖された組織サンプルを、DIS1646及びD1S243(lp)、D3S2452(3p)、D5S346(5q)、D7S1822(7q)、Ank−1(8p)、D9S171(9p)、D9S303(9q)、Int−2及びPYGM(11q)、IFNA(9p)、D17S250(17q)、CYP2D(22q)、及びAR(Xq)などの14個以下の別個の非常に多形なミクロサテライトマーカー(highly polymorphic microsatellite marker)を用いて分析した。各PCRサンプルは、全容10μlにおける1.5μlの上記した鋳型DNA、各10pmolのプライマー、各20nmolのdATP、dCTP、DGTP、及びDTTP、15mM MgCl、0.1U Taq DNAポリメラーゼ、0.05ml [32P]dCTP(6000Ci/mmol)、及び1μlの10×緩衝液を含んでいだ。PCRを、35サイクル行なった:95℃で1分間の変性、1分間のアニーリング(マーカーによって55〜60℃のアニーリング温度)及び72℃で60秒間の拡張。最後の拡張は10分間連続した。標識増幅DNAを、等容のホルムアルデヒドローディング染料(95%ホルムアルデヒド、20mM EDTA、0.05%ブロモフェノールブルー、及び0.05%キシレンシアノール)と混合した。
【0257】
サンプルを95%で5分間変性し、6%アクリルアミド(アクリルアミド:ビスアクリルアミド 49:1)から構成されるゲルにのせ、1800Vで90分間、電気泳動した。電気泳動後、ゲルを3mmのワットマン紙に移して、乾燥した。オートラジオグラフィーを、Kodak X−OMATフィルム(Eastman Kodak, Rochester, NY)で行なってもよい。
【0258】
結果 同じ対立遺伝子の一致したホモ接合性を示す分化奇形腫組織は、扁平上皮、グリア、及び軟骨(マーカーAnkl(トップ)及びD1S1646(下部))の顕微解剖サンプルを含んでいた。正常な卵巣組織を、コントロールとして含ませた。
【0259】
奇形腫のサブセットでは、一致しないホモ接合性対立遺伝子を有することが見出された(マーカーInt−2、D9S303、D1S1646、D3S2452,及びAnklで分析)分化奇形腫組織としては、表皮、皮脂腺、呼吸上皮、及びグリアがあった。正常な卵巣組織を、コントロールとして含ませた。このような腫瘍では、対立遺伝子のヘテロ接合性は、生殖細胞における減数分裂I前の腫瘍形成の開始から生じると考えられる。催奇性腫瘍細胞開始後は、さらにランダムな独立した事象により減数分裂後の遺伝子型を有する前駆細胞が形成する。
【0260】
分化及び未分化組織双方を含む一連の卵巣奇形腫及び睾丸生殖細胞もまた分析した。各腫瘍において、未分化及び分化組織要素双方を入手した。ホモ接合性及びヘテロ接合性成分を、マーカーD3S2452、D3S303、CYP2D、及びD17S250を用いて検出した。正常な卵巣及び睾丸組織を、コントロールとして含ませた。ヘテロ接合性対立遺伝子を、未成熟な扁平上皮、神経組織(場合によっては同じ腫瘍内の別の神経組織領域由来)、軟骨、腺構造、及び間葉等の未分化組織要素で検出した。顕微解剖によって同じ腫瘍から単離した分化組織要素は、同じマーカーについてホモ接合性であることが分かった。試験された成熟要素は、下記のとおりであった:皮脂腺組織、毛嚢、及び成熟扁平上皮(場合によっては同じ腫瘍内の別の扁平上皮領域由来)。腫瘍によっては、分化要素は反対のホモ接合性対立遺伝子を示したことから、組換えが示されたあるいは様々な要素が別の減数分裂後細胞から別に生じたことが示唆された。
【0261】
実施例1(f) ヒトHS細胞からの前駆細胞の誘導
1次分化
1次胚性線維芽細胞層を有する60mmディッシュ(Falcon, #353802)および/または0.1%ゼラチン被覆ディッシュで生育させたHS細胞を、1.5mlトリプシン/EDTA(Invitrogen, # 25300-050)でトリプシン処理し、15mlのコニカルチューブの1.5mlのES−LIF培地に移す。次に、細胞を1200rpmで回転し、上清を除去する。細胞ペレットを2mlのES−LIF培地における単細胞懸濁液中に再懸濁し、1〜3×10細胞の密度で懸濁培養物−35*10mmディッシュ(NalgeNunc, # 171099)中で懸濁細胞として培養して、幹細胞から、4〜6日間で、胚様体(EB)として知られる、丸い球状のクラスターを形成させる。形成したEBを、EBを15mlのコニカルチューブに移した後、底に沈殿させることによって、2日毎に洗浄した。上清を除去して、新たなES−LIFを添加する。次に、EBを懸濁培養ディッシュに戻す。胚様体として生育させたHS細胞は、すべての生殖細胞層、外胚葉、内胚葉、及び中胚葉から構成される。
【0262】
外胚葉前駆体 4〜6日後、EBを1mlのトリプシン/EDTAでトリプシン処理し、4mlのES−LIF培地で洗浄して、10%血清置換(Serum Replacement)(Invitrogen, #10828)、及びG5(Invitrogen, #17503)、N2(Invitrogen, #I7502-048)またはベータNGF(100ng/ml)(R&D Systems, #256-GF)を捕捉したDMEM/ノックアウト培地(Invitrogen, #10829-018)における単細胞懸濁液に再懸濁する。培地を2〜3日おきに交換しながら、これらの細胞を、10日間、フィブロネクチンで被覆した35mmのディッシュ(50ug/ml)(Sigma, #F-0895)中で3〜5×10/3mlで培養する。
【0263】
または、EBを、1〜2日間、ES−LIF培地中で0.1%ゼラチンで被覆したディッシュで培養した後、培地を、6日間、インスリン(5ug/ml)、塩化セレン(.015nM)、トランスフェリン(50ug/ml)、及びフィブロネクチン(5ug/ml)(Sigma)を捕捉した無血清培地に交換する。この細胞をトリプシン処理し、単細胞懸濁液をN2培地(N2(Invitrogen, # I7502-048)、B27(Invitrogen, # I7504-44)、及びbFGF(10ng/mL)(Invitrogen, #13256-029)を捕捉した無血清DMEM/F12)で培養する。次に、細胞を計測し、ポリ−L−オルニチン(15ug/ml)(Sigma, #P36550)で予め被覆された24ウェルプレートで2〜5×10細胞/ウェル/400uL N2培地の密度で播種し、6日間、拡張する。
【0264】
さらに、これらの前駆体を、G5、RA、FGF、NGF、GNDF、またはBNDFを添加することによって異なるニューロン細胞型に分化させる。これらはまた、細胞拡張のために馴化培地中に維持する。
【0265】
中胚葉前駆体 中胚葉前駆体では、上記したのと同様の10%血清置換(Serum Replacement)及びベータ−NGFを捕捉したDMEM/ノックアウト培地における単細胞懸濁液を、培地を2/3日ごとに交換しながら、10日間培養する。この期間後、細胞をさらに、心臓前駆細胞を目的としてさらに10日間、アクチビンA捕捉(20ng/ml)(Sigma, #A4941)馴化培地で培養する。または、腎臓及びミュラー管前駆細胞を目的として、細胞を、4〜6日間、アクチビンA捕捉(20ng/ml)(Sigma, #A4941)馴化培地で培養した後、2ng/mlのTGF−ベータ(R&D Systems, #)を培地に添加して、細胞をさらに4〜6日間、培養する。
【0266】
内胚葉前駆体 内胚葉前駆体では、ラミニン被覆(10ug/ml)(Sigma, #L2020)、またはコラーゲンI被覆(10ug/ml)(Sigma, #C-7661)にG5またはベータ−NGFに加えて、10%血清置換(Serum Replacement)を捕捉したDMEM/ノックアウト培地における単細胞懸濁液を、10日間、培養する。HGF(20ng/ml)および/またはTGF−アルファ(2ng/ml)を培地に添加して、G5またはベータ−NGFを置換して、細胞をさらに6〜8日間、培養する。
【0267】
または、EBを、コラーゲンI被覆ディッシュに播種して、4日間、ES−LIF培地で培養する。FGF(20ng/ml)を添加して、細胞をさらに3日間培養する。この期間後、HGF(20ng/ml)および/またはTGF−アルファ(2ng/ml)を添加して、細胞をさらに6日間培養する。
【0268】
また、EBを、ラミニン被覆付着ディッシュ(adherent dish)(10ng/ml)(Sigma, #L2020)または0.1%ゼラチン被覆35*10mmディッシュ付着ディッシュに移して、ES−LIF培地で1〜2日間、培養する。培地を除去して、インスリン(5ug/ml)(Invitrogen, # I1882)、塩化セレン(0.015nM)(Sigma, #S5261)、トランスフェリン(50ug/ml)(Sigma, #T-2036)、及びフィブロネクチン(5ug/ml)(Sigma)を捕捉した無血清DMEM/F12(Invitrogen, # 11330-0321)培地。この培地をITSFn培地と称する。細胞をITSFn培地で6日間培養し、この際、培地は2日毎に交換する。
【0269】
実施例1(g):移植HS細胞からのホモ接合性前駆細胞の発達および単離
ホモ接合性前駆細胞を得るために、前記説明及び実施例で前記で開示された方法由来の多分化能性HS細胞を、腎臓被膜下で免疫−妥協した(immuno-compromised)マウスに移植して、N2培地(N2(Invitrogen, # I7502-048)、B27(Invitrogen, # I7504-44)、及びbFGF(10ng/mL)(Invitrogen, #13256-029)を捕捉した無血清DMEM/F12)で培養する。次に、細胞を計測し、ポリ−L−オルニチン(15ug/ml)(Sigma, #P36550)で予め被覆された24ウェルプレートで2〜5×10細胞/ウェル/400uL N2培地の密度で播種し、6日間、拡張する。
【0270】
さらに、これらの前駆体を、G5、RA、FGF、NGF、GNDF、またはBNDFを添加することによって異なるニューロン細胞型に分化させる。これらはまた、細胞拡張のために馴化培地中に維持する。
【0271】
中胚葉前駆体 中胚葉前駆体では、上記したのと同様の10%血清置換(Serum Replacement)及びベータ−NGFを捕捉したDMEM/ノックアウト培地における単細胞懸濁液を、培地を2/3日ごとに交換しながら、10日間培養する。この期間後、細胞をさらに、心臓前駆細胞を目的としてさらに10日間、アクチビンA捕捉(20ng/ml)(Sigma, #A4941)馴化培地で培養する。または、腎臓及びミュラー管前駆細胞を目的として、細胞を、4〜6日間、アクチビンA捕捉(20ng/ml)(Sigma, #A4941)馴化培地で培養した後、2ng/mlのTGF−ベータ(R&D Systems, #)を培地に添加して、細胞をさらに4〜6日間、培養する。
【0272】
内胚葉前駆体 内胚葉前駆体では、ラミニン被覆(10ug/ml)(Sigma, #L2020)、またはコラーゲンI被覆(10ug/ml)(Sigma, #C-7661)にG5またはベータ−NGFに加えて、10%血清置換(Serum Replacement)を捕捉したDMEM/ノックアウト培地における単細胞懸濁液を、10日間、培養する。HGF(20ng/ml)および/またはTGF−アルファ(2ng/ml)を培地に添加して、G5またはベータ−NGFを置換して、細胞をさらに6〜8日間、培養する。
【0273】
または、EBを、コラーゲンI被覆ディッシュに播種して、4日間、ES−LIF培地で培養する。FGF(20ng/ml)を添加して、細胞をさらに3日間培養する。この期間後、HGF(20ng/ml)および/またはTGF−アルファ(2ng/ml)を添加して、細胞をさらに6日間培養する。
【0274】
また、EBを、ラミニン被覆付着ディッシュ(adherent dish)(10ng/ml)(Sigma, #L2020)または0.1%ゼラチン被覆35*10mmディッシュ付着ディッシュに移して、ES−LIF培地で1〜2日間、培養する。培地を除去して、インスリン(5ug/ml)(Invitrogen, # I1882)、塩化セレン(0.015nM)(Sigma, #S5261)、トランスフェリン(50ug/ml)(Sigma, #T-2036)、及びフィブロネクチン(5ug/ml)(Sigma)を捕捉した無血清DMEM/F12(Invitrogen, # 11330-0321)培地。この培地をITSFn培地と称する。細胞をITSFn培地で6日間培養し、この際、培地は2日毎に交換する。
【0275】
実施例1(g):移植HS細胞からのホモ接合性前駆細胞の発達および単離
ホモ接合性前駆細胞を得るために、前記説明及び実施例で前記で開示された方法由来の多分化能性HS細胞を、腎臓被膜下で免疫−妥協した(immuno-compromised)マウスに移植して、4〜6週間インビボで生育させた。次に、得られた細胞塊を単細胞に細かく切り刻み、さらなる繁殖及び細胞系への発達を目的としてフィーダー細胞上で培養する。
【0276】
系列拘束(前駆細胞の型)を評価するために、RT−PCR、ノーザンブロット、免疫組織化学等の、遺伝子発現アッセイを、既知の系列に特異的なマーカー、例えば、外胚葉に関してはNF−H、ケラチン、D−ベータ−H、中胚葉に関してはエノラーゼ、CMP、レニン、カリクレイン、WT1、デルタ−グロビン、ベータ−グロビン、および内外胚葉前駆体系列に関してはアルブミン、アルファ−1−AT、アミラーゼ、PDX−1、インスリン、アルファ−FPについて行なった。
【0277】
実施例2 中胚葉胚層由来の細胞へのマウスHS細胞の分化
実施例2(a):造血細胞への分化
マウスHS細胞を、3〜5日間、LIF(1000IU/ml)を含むES培地(DMEM Gibco 1195-065;FBS Gibco 16141-079、100μM 非必須アミノ酸 Gibco 11140-050;50単位/ml ペニシリン−ストレプトマイシン Gibco 15070-063;100μM β−メルカプトエタノール Gibco 21985-023)で培養した。次に、細胞を、37℃で5分間、トリプシン/EDTA(Gibco 25300-054、1ml/60mmディッシュ)でトリプシン処理し、5mlのES培地を添加した。次に、マウス幹細胞を、細胞スクレーパーによってディッシュから持ち上げ、細胞懸濁液を1000rpmで5分間、回転した。得られた細胞ペレットを、37℃及び5%COで4日間、2×10/10cmディッシュの細胞濃度で、LIFを含まず4.5×10−4M MTG(モノチオグリセラール(monothioglyceral)、Sigma M6145)を含むES培地に再懸濁した。さらに、マウスHS細胞を懸濁液中で凝集させて、胚様体(EB)を形成した。
【0278】
形成した30〜40個のEBを、ウシ胎児血清、ウシ血清アルブミン、ウシ膵臓インスリン、ヒトトランスフェリン(鉄飽和)、β−メルカプトエタノール、L−グルタミン、rm IL−3、rh IL−6、rm SCF及びrh−エリスロポイエチンを含む、3mlのメチルセルロースを基礎とした造血細胞分化培地M3434(Stemcell 03434)の入った35mmディッシュに移し、37℃及び5%COでインキュベートした。10日間インキュベートした後、幾つかのコロニー及び異なる型の細胞をピペットチップで選び、500μlのIMDM培地(Sigma I3390)中に再懸濁した。次に、この混合物を、4ウェルのチャンバー−スライド(chamber-slide)に移し、コロニー及び細胞を、37℃で少なくとも3時間、チャンバー−スライドをインキュベートすることによって、スライドに付着させた。細胞をスライドに付着させた後、IMDM培地を捨て、細胞をメタノール中に7分間固定した。スライドをメタノール固定化後風乾し、室温で30分間、1:20の希釈ギームザ染色液(Sigma GS-500)で染色した後、3回水浄した。コロニー及び異なる型の造血細胞の観察を、培養して10日後に開始した。CFU(コロニー形成単位)に関しては図5Aを、赤血球に関しては図5Bを、単球に関しては図5Cを、及び上記したプロトコールを用いて得られたリンパ球に関しては図5Dを参照。
【0279】
また、M3434中で10〜15日間生育させたEBを、IMDM、10% FBS及びIL−3(Stemcell 02733)単独またはIL−3及びGM−CSF(Stemcell 02732)の組み合わせのいずれかを含む35mmのディッシュに移した。細胞を固定し、上記と同様にして染色し、EBからの細胞分化の観察をサイトカインを含む液体IMDM中で5日以内に開始した。IL−3を含むIMDMから分化した細胞は、顆粒を含むが単球は含まず、また、IL−3及びGM−CSFを含むIMDMからの細胞は、顆粒及び幾つかの単球を含んだ(図5E及び5Fを参照)。
【0280】
実施例2(b):自発的に収縮する筋細胞への分化
マウスのHS細胞を、3〜5日間、LIF(1000IU/ml)を含むES培地(DMEM Gibco 1195-065;FBS Gibco 16141-079、100μM 非必須アミノ酸 Gibco 11140-050;50単位/ml ペニシリン−ストレプトマイシン Gibco 15070-063;100μM β−メルカプトエタノール Gibco 21985-023)で培養した。次に、細胞を、37℃で5分間、トリプシン/EDTA(Gibco 25300-054、1ml/60mmディッシュ)でトリプシン処理し、5mlのES培地を添加した。次に、マウスの幹細胞を、細胞スクレーパーによってディッシュから持ち上げ、細胞懸濁液を1000rpmで5分間、回転した。得られた細胞ペレットを、37℃及び5%COで4日間、2×10/10cmディッシュの細胞濃度で、LIFを含まないES培地に再懸濁した。さらに、マウスのHS細胞を懸濁液中で凝集させて、胚様体(EB)を形成した。
【0281】
形成した10〜15個のEBを、ゼラチンで被覆した(1mlの0.1%ゼラチンを各ウェルに添加して、2時間以上、フードの中に放置した。次に、ゼラチンを除去して、プレートを30分間乾燥した。)24ウェルのプレートに移し、2日毎に交換したLIFを含まないES培地中でインキュベートした。4日目あたりに、自発的に収縮する細胞または脈拍する(beating)EBが出現し、3〜4日間、脈拍し続けた。(図6参照)。
【0282】
加えて、脈拍するEBを、37℃及び5%COで、ウシ胎児血清、ウシ血清アルブミン、ウシ膵臓インスリン、ヒトトランスフェリン(鉄飽和)、β−メルカプトエタノール、L−グルタミン、rm IL−3、rh IL−6、rm SCF及びrh−エリスロポイエチンを含む、M3434(Stemcell 03434)と称する半固体培地(1%メチルセルロースを含む)中で上記したのと同様にして得られたEBをインキュベートすることによって、誘導した。脈博するEBは、インキュベートしてから3〜4日後に観察された。
【0283】
脈博するEBはまた、37℃及び5%COで、上記したEBを4日間インキュベートした後に、インスリン(5μg/ml、Sigma I1882)、塩化セレン(30nM、Sigma S5261)及びフィブロネクチン(5μg/ml、Sigma F1141)を含むDMEM/F12(Gibco 11320-033)を含む、無血清ITSFn培地中でも形成された。
【0284】
実施例3 内胚葉の胚層由来の細胞へのマウスHS細胞の分化
実施例3(a):膵臓細胞への分化
1次胚性線維芽細胞層を有する60mmディッシュ(Falcon, #353802)および/または0.1%ゼラチン被覆ディッシュで生育させたHS細胞を、1.5mlトリプシン/EDTA(Invitrogen, # 25300-050)でトリプシン処理し、15mlのコニカルチューブの1.5mlのES−LIF培地に移した。次に、細胞を1000rpmで回転・沈殿させて、上清を除去した。
【0285】
得られた細胞ペレットを、2mlのES−LIF培地における単細胞懸濁液中に再懸濁し、懸濁培養物−35*10mmディッシュ(NalgeNunc, # 171099)中で懸濁細胞として培養して、幹細胞から、4〜6日間で、胚様体(EB)として知られる、丸い球状のクラスターを形成させた。形成したEBを、EBを15mlのコニカルチューブに移すことによって2日毎に洗浄した。EBを、底に沈殿させて、上清を除去した。さらに、新たなES−LIFを添加し、EBを懸濁培養ディッシュに戻す。胚様体として生育させたHS細胞は、すべての生殖細胞層、外胚葉、内胚葉、及び中胚葉から構成される。
【0286】
膵臓の前駆細胞の選択 胚様体として4〜6日培養した後、細胞を15mlのコニカルチューブに移して、沈殿させた。培地の半分を除去し、1.5mlの新鮮なES−LIFをチューブに添加した後、一晩培養するためにチューブの全内容物を0.1%ゼラチン被覆35*10mm付着ディッシュに移した。ES−LIF培地を翌日除去して、インスリン(5ug/ml)(Invitrogen, # I1882)、塩化セレン(0.015nM)(Sigma, #S5261)、トランスフェリン(50ug/ml)(Sigma, #T-2036)、及びフィブロネクチン(5ug/ml)(Sigma, #F-0895)を捕捉した無血清DMEM/F12(Invitrogen, # 11330-0321)培地。この培地をITSFn培地と称する。細胞をITSFn培地で6日間培養し、この際、培地は2日毎に交換する。
【0287】
また、EBを、2〜4日間、ES−LIF培地中でラミニン被覆付着ディッシュ(10ng/ml)(Sigma, #L2020)で培養して、内胚葉細胞を胚様体から移動させ、4日間、N2(Invitrogen, # I7502-048)、B27(Invitrogen cat# I7504-44)、及びbFGF(10ng/mL)(Invitrogen, #13256-029)を捕捉した8.7mMグルコースDMEM/F12無血清培地で拡張した。内胚葉拡張後、培地をITSFn培地に交換し、2日毎に培地を交換しながら6日間生育させて、膵臓前駆細胞を選択した。
【0288】
または、4〜6日後、EBを、1mlのトリプシン/EDTAでトリプシン処理し、ES−LIF培地中で洗浄し、さらに10%血清置換(Serum Replacement)(Invitrogen, #10828)、及びG5(Invitrogen, #17503)、またはベータNGF(R&D Systems, #256-GF)を捕捉したDMEM/ノックアウト培地(Invitrogen, #10829-018)における単細胞懸濁液に再懸濁した。培地を2日おきに交換しながら、これらの細胞を、4〜6日間、フィブロネクチンで被覆した35mmのディッシュ(10ug/ml)中で3〜5×10/3mlで培養した。4〜6日後、ITSFn培地を添加して、DMEM/ノックアウト培地と交換し、細胞を、膵臓前駆細胞を選択するために、さらに6日間培養した。
【0289】
膵臓前駆細胞は、初期マーカー、ネスチン、ニューロゲニン3(neurogenin 3)、及びチロシンヒドロキシラーゼに対して陽性である。
【0290】
bFGFによる膵臓前駆細胞の拡張 ITSFn培地に維持された細胞を、培地を除去した後、PBSで2回洗浄した。1mLのトリプシン/EDTAを添加し、細胞を、37℃で5分間インキュベートして、解離させた。付着細胞を、細胞スクレーパーを用いることによってさらに解離させた。次に、3mlのES−LIF培地をディッシュに加え、その完全な内容物を15mlのコニカルチューブに移した。膵臓前駆体選択から残ったEBを、約2〜5分間、沈殿させて、上清を新たな15mlのコニカルチューブに移し、1200rpmで回転した。上清を捨て、細胞ペレットを、N2(Invitrogen、# I7502-048)、B27(Invitrogen、# I7504-44)、及びbFGF(10ng/mL)(Invitrogen、#13256-029)を捕捉した、5.8mM以下のグルコースの、無血清DMEM/F12培地中に再懸濁した。このような培地は、N2培地と称される。
【0291】
細胞を計測し、ポリ−L−オルニチン(15ug/ml)(Sigma, #P36550)で予め被覆された24ウェルプレートで2〜5×10細胞/ウェル/400uL N2培地の密度で播種し、6〜8日間、拡張した。または、細胞を、2〜5×10細胞/ウェル/400uL N2培地の密度で播種し、8〜10日間、拡張した。
【0292】
予備被覆プロトコルは下記のとおりであった:400ulの15ug/mlのポリ−L−オルニチンを、24ウェルプレートの各ウェルに添加して、室温で一晩放置した;次に、プレートをPBSで2回洗浄し、新鮮なPBSを添加して、プレートを37℃で30分間、インキュベートした;プレートをPBSで洗浄し、さらに400ulのフィブロネクチン(10ug/ml)を添加した後、プレートを、使用する前に、室温で少なくとも2時間、インキュベートした。
【0293】
インスリン分泌β−島細胞への膵臓前駆体の分化
膵臓前駆体を、N2培地からbFGFを抜くことによって、ならびに100ng/ml EGF(Invitrogen, #53003-018)、20ng/ml HGF(Sigma, # H1404)、及び20ng/ml アクチビンA(Sigma,#A4941)または20ng/ml VEGF(R&D Systems,#298-VS)の存在下で、インスリン分泌β−島細胞に分化するように誘導した。細胞を、培地を2日毎に交換しながら、6日間分化させた。分化すると、上皮膵臓細胞は、小さな丸い細胞を生じ、これは迅速に増殖して、器質化した細胞クラスターを形成し、平滑な球状物に見えた。図7Aを参照。
【0294】
インスリン分泌β−島細胞の検出 インスリンの生産及び分泌を検出するために、分化培地を除去して、10mM ニコチンアミド、0.015nM 塩化セレン、50ug/ml トランスフェリン、0.1mM プトレシン(Sigma, #P5780)、及び20nM プロゲステロン(Sigma, #P8783)を捕捉した高グルコースDMEM/F12に置換した。次に、これらの細胞を37℃で3時間培養した。3時間後、各ウェルの培地を集めて、インスリン放出アッセイ用に−70℃に貯蔵し、各ウェルの細胞を、免疫細胞化学用に室温で30分間4%パラホルムアルデヒド(EMS, #15712)中で固定した、または各ウェルのRNAを、遺伝子発現のRT−PCR分析用に、RNAzol(Tel-Test, Inc., Friendswood, TX, #CS-105)によって集める。実験によっては、膵臓−球状クラスター(pancreatic-spheroid cluster)のインスリン含量を、4℃で一晩酸−エタノールで抽出することによって、免疫細胞化学またはRT−PCRの代わりに、測定する。細胞を含まない抽出物を集めて、0.4M Tris−塩基で中和し、インスリン含量アッセイ用に−70℃で貯蔵する。
【0295】
免疫細胞化学 室温で30分間4%パラホルムアルデヒド中で固定した後、細胞をPBS(Biofluids, #P312-500)で3回洗浄した。これらの細胞をさらに固定し、室温で5分間、100%メタノール(Fischer Scientific, #HC400-1gal)中で浸透させた。次に、細胞をPBS中で3回以上洗浄し、遮断溶液(DAKO Envision double stain system, #K1395)中で5分間遮断した。過剰の遮断溶液を軽くたたいて落として、1次抗体を適用した後、細胞を室温で2時間インキュベートした。インスリンに関しては、使用される1次抗体は、1:50希釈のポリクローナルモルモット抗インスリン(DAKO, #A0564)であった。希釈は、培地B(Caltag, #GAS002)でなされた。
【0296】
次に、細胞をPBSで3回洗浄し、HRP−接合2次抗体、ボトル2(Bottle 2)(DAKO, #K1395)を適用した後、30分間インキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄し、過剰の液体を吸収し、液体DAB+クロモゲン基質、ボトル3(Bottle 3)を5〜10分間、添加した。最後に、細胞をPBSで再度洗浄し、顕微鏡下で試験した、図7Bを参照。
【0297】
グルカゴン、1:300(DAKO, # A0565)に関する2重染色を、DAKO Envision2重染色プロトコルに従って行なった、図7Bを参照。Pax6, 1:300(Covance, #PRB-278P)、及び他の細胞型に印をつけるための抗体もまた使用する。または、すべての免疫染色を、蛍光色素−接合2次抗体(Sigma, Molecular Probes, or Jackson Labs)を用いて行ない、ライカ倒立蛍光顕微鏡下で目視した。
【0298】
インスリン放出及び細胞含量検出アッセイ インスリンタンパク質分泌または膵臓球状クラスターのインスリン含量を測定するために、各ウェルから集められた培地またはエタノール抽出物を、酵素様免疫吸着法、ELISA(Crystalchem, Chicago, Illinois)に適用する。
【0299】
実施例3(b):肝細胞へのHS細胞の分化
HS細胞の肝細胞分化に関する下記プロトコルは、Hamazaki et al,, "Hepatic maturation in differentiating embryonic stem cells in vitro", FEBS Lett. 497(1):15-9 (2001)に基づくものである。
【0300】
ホモ接合性幹細胞を、非必須アミノ酸、ペン−ストレップ(pen-strep)(Life Technologies)、β−メルカプトエタノール(Sigma)、及びLIF(Chemicon)を捕捉したDMEM培地において20%のウシ胎児血清(Life technologies)を含む幹細胞培養液中で組織細胞ディッシュ(FALCON 35-3802、60×15mmスタイル、ポリスチレン、発熱性物質なし、Becton Dickinson Labware)でマイトマイシンで処理したマウス胚性線維芽細胞(STO細胞)上に播種する。細胞を、37℃、5%COで一晩培養する。次に、HS細胞を、トリプシン−EDTA(0.05%〜0.5%)(Life Technologies)でトリプシン処理し、5日間、LIFを含まない同様の培地で胚様体形成を目的として懸濁ディッシュ(蓋及びベントを有する懸濁ディッシュ(Suspension Dish)、Nalge Nunc International, 171099、35×10mm)で培養する。さらに、形成した胚様体を、100ng/mlの酸性線維芽細胞成長因子(Sigma, F-3133)を含むLIFを含まない幹細胞培地中で0.1%コラーゲンタイプI(Sigma, C-7661)で被覆された24ウェルプレート(Corning Incocrporated/Costar 3524、蓋/発熱性物質なしのポリスチレンを有する24ウェル細胞培養クラスター/平底(24 well cell culture Cluster/Flatbottom with Lid/ non-pyrogenic polystyrene))に移して、3日間培養する。
【0301】
3日後、培地を、6日間、20ng/mlの肝細胞成長因子(hepatic growth factor)(Sigma、H-1404)を含むLIFを含まない幹細胞培地と交換し、さらに10ng/ml OSM(Sigma、O-9635)、10μM デキサメタゾン(Sigma、D-6645)、5μg/ml 亜セレン酸(Aldrich、22985-7)、50μg/ml インスリン(Invitrogen、I-1882)、及び50μg/ml トランスフェリン(Sigma、T-2036)を含むLIFを含まない幹細胞培地中で培養する。次に、分化細胞について、肝臓に特異的な遺伝子の発現を分析する。分析される遺伝子、PCRでのアニーリング温度、予想される産物の大きさ、及びRT−PCRにおけるプライマー配列は、下記のとおりである:トランスチレチン(transthyretin)(TTR) 55℃、225bp、5−CTC ACC ACA GAT GAG AAG、5−GGC TGA GTC TCT CAA TTC;(−フェトプロテイン(AFP) 55℃、173bp、5−TCG TAT TCC AAC AGG AGG、5−AGG CTT TTG CTT CAC CAG;(−1−抗トリプシン(AAT)、55℃、484bp、5−AAT GGA AGA AGC CAT TCG AT、5−AAG ACT GTA GCT GCT GCA GC;アルブミン(ALB)、55℃、260bp、5−GCT ACG GCA CAG TGC TTG、5−CAG GAT TGC AGA CAG ATA GTC;グルコース−6−ホスファターゼ(glucose-6-phophatase)(G6P)、55℃、210bp、5−CAG GAC TGG TTC ATC CTT、5−GTT GCT GTA GTA GTC GGT;チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)、50℃、206bp、5−ACC TTC AAT CCC ATC CGA、5−TCC CGA CTG GAT AGG GTA G;β−アクチン、55℃、200bp、5−TTC CTT CTT GGG TAT GGA AT、5−GAG CAA TGA TCT TGA TCT TC;及びSEK1、50℃、300bp、5−TGT ATG GAG CTC ATG TCT ACC;5−GTC TAT TCT TTC AGG TGC CA。
【0302】
実施例4 外胚葉の胚層由来の細胞へのマウスHS細胞の分化
実施例4(a):ニューロン前駆細胞及び機能性減数分裂後神経細胞への分化
一実施態様においては、HS細胞を、ニューロン前駆細胞を形成するように、誘導した。HS細胞由来の神経上皮前駆細胞を、ニューロン及びグリア双方に分化させ、さらに分化させることによって、広範なニューロンに特異的な遺伝子を発現させ、興奮性及び抑制性シナプス連結双方を形成させる。ES細胞に見られる位置特異的な神経マーカーの発現パターンから、様々な中枢神経系(CNS)のニューロン細胞型の存在が示される。相似によって、HS細胞は多様なCNS構造を有する機能性減数分裂後ニューロンに効率よく分化できるニューロン前駆細胞をも生じると考えられる。
【0303】
Okabe et al.の方法を用いて、HS細胞の様々なニューロン細胞及びニューロンへの分化を誘発した(Okabe et al., Mech. Dev. 59: 89-102 (1996))。
【0304】
材料 材料は、下記源から購入した:フィブロネクチン、ラミニン、神経基本培地、B27サプルメント、及びスーパースクリプトIIRNase H−逆転写酵素(superscript II RNase H-reverse transcriptase)は、Gibco/BRL (Grand Island, NY)から;bFGFは、R&D Systems (Minneapolis, MN)から;インスリン、トランスフェリン、塩化セレン、ポリオルニチン、プロゲステロン、プトレシン、T3、シトシンアラビノシド、抗MAP2抗体、抗NF−M抗体、抗GABA抗体、及び抗グルタメート抗体は、Sigma (St. Louis, MO)から;Taqポリメラーゼは、Bushranger-Mannheim (Mannheim, Germany)から;抗GFAP抗体は、ICN Biomedicals (Costa Mesa, CA)から;抗ケラチン8抗体は、American Type Culture Collection (Rockville, MD)から;Vectastain ABC kitは、Vector laboratories (Burlingame, CA)から;2重染色キット(double staining kit)及びアミノ−エチルカルバゾール(amino-ethyl carbazole)は、Zymed Laboratories Inc. (Carlton Court, CA)から;抗リン酸化CREB抗体は、Upstate Biotechnology Inc. (Lake Placid, NY)から;BrdU染色キット(BrdU staining kit)は、Amersham (Arlington Heights; IL)から;蛍光2次抗体は、Cappe1 (Durham, NC)から。
【0305】
ネスチン陽性細胞の分泌 4日間、ES培地懸濁培養物(培養成分に関しては前の実施例を参照)中に保持されるHS細胞塊(またはEB)を、15mlのチューブに移した。EBを沈殿させた後、ES培養物の半分を除去し、2.5mlの新鮮なES培地を元の培養ディッシュに添加した。次に、ディッシュをES培地で洗浄して、同じ15mlのチューブに添加した。さらに、EBを新たな組織培養ディッシュに移した。ES培地を24時間後に交換し、フィブロネクチン(FN)を含むITS培地、(ES細胞限定水(ES cell-qualified water)を5mgのFN(1mg/ml)上に注意深く積層し、4℃で30分間放置することによって作製された25ulのストック/5mlの培地)を添加した。(500ml ITS培地:DMEM/F12(1:1)(Gibco 12500-039)6g;0.5ml滅菌HO及び5mclの10N NaOHに溶解したインスリン(Intergen 4501-01)2.5mg;30mclの塩化セレン(0.5mM);0.775gのグルコース;0.0365gのグルタミン;1.2g NaHCO;及びトランスフェリン(Sigma T-2036)25mg;pH 7.5;5ml 100×P/S)。
【0306】
次に、細胞をFNを含むITS培地中で6〜10日間培養したが、この際、培地は2日毎に交換した;図9Aから、培養してから6日後にネスチン陽性細胞が示される。
【0307】
bFGFによるネスチン陽性細胞の拡張 ITS/FN培地に維持された細胞をPBSで2回洗浄した。次に、1mlのトリプシン/EDTA溶液(0.05% トリプシン/0.04% EDTA)を培地に加えて、細胞を37℃で5分間、維持して、細胞の解離を行なった。さらに、5mlのES培地(前記実施例に記載)を加えて、細胞を15mlのチューブに移した。
【0308】
EBをまず沈殿させた後、遠心によって集めた。細胞ペレットを、B27培地サプルメント(media supplement)(B27無血清サプルメント50X、液体、Gibco 17504-44)を含む5mlのN2培地に再懸濁した。(N2培地 500ml:f12/DMEM 6g;グルコース0.775g;グルタミン0.0365g;NaHCO 0.845g;インスリン0.0125g;1M プトレシン(ストック)50ul(最終 100uM);0.5mM 亜セレン酸塩(ストック)30mcl(最終 30nM);0.1mM プロゲステロン(ストック)100mcl(最終 20nM);調節 pH 7.2;5ml 100XP/S)。
【0309】
次に、細胞を計測し、双方ともBector Dickinson Labware, Bedford, MAから得た、ポリ−L−オルニチン(15ug/ml)及びラミニン(1ug/ml)で予め被覆されたディッシュで24ウェルプレート(400mcl N2培地)では5×10細胞/ウェルまたは6cmディッシュ(3ml N2培地)では5〜7×10細胞/ディッシュの細胞密度で播種した。(予備被覆プロトコル:滅菌カバースリップ(アシステント(assistent)1001/0012、12mm)を各ウェル(24ウェルプレート)に挿入した;次に、400ulのポリ−L−オルニチン(15ug/ml)を加えた後、1000×ストックからPBSで希釈して、一晩放置した;プレートをPBSで洗浄した後、新鮮なPBSを添加して、プレートを37℃で30分間放置した;さらに、プレートを再度PBSで洗浄して、400ulのFN(1ug/ml)をさらに添加した後1000×ストックからPBSで希釈した;プレートを37℃で少なくとも2時間放置した)。
【0310】
次に、10〜20ng/ml bFGF(R & D Systems, Minneapolis, MN)及びB27サプルメントを含むN2培養培地を、播種した細胞に添加して、細胞を6日間このような培地で培養した。培地は、2日毎に交換した。継代では、細胞を、PBSにおける0.05% トリプシン及び0.04% EDTAで解離し、遠心で集め、再播種した。
【0311】
bFGFによって拡張したネスチン陽性細胞の分化 分化を、細胞培養物からbFGFを除去することによって誘導した。細胞塊を、双方ともSigma, St. Louis, MOから得た、cAMP(1mM)、及びAA(200uM)の存在または不存在下でラミニン(1mg/ml)を捕捉したN2培地中で3〜4日間広げた。次に、細胞を6〜15日間、分化条件下でインキュベートした。
【0312】
免疫細胞化学 細胞を、20〜30分間、リン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH 7.4)における2%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSにおける0.2% Triton X−100を浸透させ、5%正常ヤギ血清で処置した。細胞を、ネスチンに対する1次抗体(1:1000;Dr. M. Marvin, NIHから)で30分〜1時間、インキュベートした。また、細胞を、ケラチン8(1:1000)、脳脂肪酸結合タンパク質(1:1000)、MAP2(1:200)、NF−M(1:100)、シナプシンI(Synapsin I)(1:1000)、GFAP(1:50)、O4、GalC(s生産細胞の上清)、GABA(1:1000)、及びグルタメート(1:500)に対する1次抗体と共にインキュベートしてもよい。PBSで洗浄した後、細胞をVectastain ABC kitに関する方法に従って処理した。
【0313】
MAP2及びNF−Mによる2重免疫蛍光染色では、細胞を、固定し、Triton X−100を浸透させ、同様にしてNGSで処理してもよい。次に、細胞を、抗MAP2モノクローナル抗体、さらにはフルオレセイン標識抗マウスIgGと共にインキュベートした後、30分間、2%パラホルムアルデヒドで再度固定してもよい。再固定化後、細胞を、抗NF−Mモノクローナル抗体、さらにはローダミン標識抗マウスIgGと共にインキュベートする。2回目の固定によって、ローダミン−接合抗マウスIgGの抗MAP2モノクローナル抗体への交差反応が排除される。
【0314】
酵素結合2次抗体による2重標識免疫細胞化学では、2重染色キット(Zymed Laboratories, Inc.)の指示に従う。抗リン酸化CREB抗体(1:1000)を用いた染色技術は、Ginty et al. (1993)に記載される。
【0315】
増殖アッセイ 細胞を37℃で8時間、BrdUと共にインキュベートする。インキュベーション後、細胞を即座インキュベートに固定し、BrdU染色キットの指示に従って処理する。着色反応後、細胞を、30分間、PBSにおける0.8%過酸化水素及び5%NGSと共にインキュベートして、HARP活性を不活性化する。よく洗浄した後、抗ネスチンまたは抗MAP2抗体染色のいずれかを目的として処理して、細胞質中の赤みを帯びた反応産物をアミノエチルカルバゾールで可視化する。
【0316】
200倍での1視野当たりの細胞数を計測することによって、細胞密度を測定する。8視野を各サンプルについて分析し、細胞密度を検量して、平均する。
【0317】
RT−PCR 全RNAを、Chomczynski and Sacchi (Chomczynski and Sacchi, Anal Biochem 162: 156-159 (1987))の方法によって各細胞調製物から抽出する。全RNAを、RNaseを含まないDNaseで処理し、cDNA合成をsuperscript II RNase H−逆転写酵素に関する指示に従って行なった。PCR反応は、0.2mM dNTP、0.3μM 各前及び逆方向プライマー、及び0.25UのTaqポリメラーゼを含むPCR緩衝液(50mM KCl、10mM Tris−HCl(pH 8.8)、1.5mM MgCl、0〜001%(w/v)ゼラチン)で行なった。サイクルパラメーターは、9−Cで30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で60秒間の伸張であった。サイクル時間は、各プライマーセットが増幅の対数期内にあるように決定される。
【0318】
ゲノムDNAの増幅は、生成物−アクチン−NMDARl、NMDAR2D、カルビンジン(calbindin)D28、GAD65、GABAAa3、AMPAレセプターの大きさによって区別してもよい。他のプライマーでは、コントロール増幅を、逆転写酵素を加えずに行ない、ゲノムDNAの増幅を見る。ゲノムDNAの増幅はコントロールの実験では観察されないはずである。
【0319】
電気生理学 細胞を、130mM酢酸カリウム(または120 CsCl+10 KC1)、10mM HEPES、2mM MgCl、1mM ATP、0.1mM EGTA、10mM NaClを含む3〜6MΩパッチピペット(patch pipette)を用いて室温で記録した後、KOHでpHを7.2に調節し、さらに浸透圧モル濃度をスクロースで300mosMに調節する。記録整理食塩水は、130mM NaCl、5mM KC1、2mM CaCl、1mM MgCl、10mM HEPES、及び10mMグルコースを含む。浸透圧モル濃度をスクロースで320mosMに調節し、pHをNaOHで7.4に調節する。グルタメート(記録整理食塩水において1mM)に、100μmの記録細胞内で、記録細胞付近にまたは視野における隣接した細胞付近に位置するマイクロピペットで圧力をかける。電流シグナルを、Axopatch増幅器(Axopatch amplifier)で増幅し、貯め、pClamp−6ソフトウェアを用いてIBMコンピューターで分析する。
【0320】
電子顕微鏡 プラスチックディッシュの細胞を、PBSにおける2%パラホルムアルデヒド及び1%グルタルアルデヒドで1時間固定する。次に、細胞を水洗し、1% OsOで処理して、酢酸ウラニルでブロック染色し(block-stain)、エタノールで脱水して、アラルダイト樹脂に包埋する。薄切片サンプルを、JEOL 1200 EX電子顕微鏡下で観察する。
【0321】
分化したニューロン培養物の刺激 ニューロン基本培地にB27及び5% FCSを加えたもので分化させた細胞を、10分間、10μMのグルタメートまたはNMDAのいずれかを含む同様に培地でインキュベートする。細胞を、ホスホ−CREB染色用に刺激後即座に固定する。細胞を刺激後50分間インキュベートし、RNAをc−fos誘導の分析用に抽出する。
【0322】
実施例4(b):チロシンヒドロキシラーゼ陽性に細胞の分化
HS細胞は、以下に記載される幾つかの分化段階後にインビトロでチロシンヒドロキシラーゼを産生できた。EBを、4日間、実施例1(d)に記載されるのと同様にして形成した後、ES細胞培地で付着組織培養物表面に播種した。
【0323】
24時間培養後、ネスチン陽性細胞の選択を、ES細胞培地を、インスリン(Sigma I1882)5μg/ml、塩化セレン(Sigma S5261)30nM及びフィブロネクチン(Sigma F1141)5μg/mlを捕捉したDMEM/F12(1:1)、Gibco 11320-033を含む無血清インスリン/トランスフェリン/セレン/フィブロネクチン(ITSFn)培地に交換することによって開始した。
【0324】
ネスチン選択6〜10日後、細胞の拡張を開始した。詳しくは、細胞を0.05% トリプシン/0.04% EDTAで解離し、N2サプルメント(100X、Gibco 17502-048)、20μg/ml インスリン、1μg/mlのラミニン(Sigma, L2020)、10ng/mlのbFGF(R& D Systems, 233-FB)、500ng/ml SHHのマウスN−末端断片(R&D Systems, 461-SH)及び100ng/ml マウスFGF8イソ型b(R&D Systems, 423-F8)を捕捉したDMEM/F12(1:1)、Gibco 11320-033を含むN2培地において1.5〜2×10細胞/cmの濃度で、15μg/ml ポリオルニチン(Sigma, P3655)及び1μg/ml ラミニン(Sigma, L2020)で予め被覆された、組織培養プラスチックまたはガラスカバーガラス上に播種した。培地を2日毎に交換した。
【0325】
チロシンヒドロキシラーゼ陽性細胞の分化を、1μM cAMP(Sigma, A6885)、200μM アスコルビン酸(Sigma, A5960)の存在または不存在下でラミニン(1mg/ml)を含む拡張用の上記培地からbFGFを除去することによって誘導した。細胞を、6〜15日間、分化条件下でインキュベートした。
【0326】
チロシンヒドロキシラーゼ陽性細胞を検出するために、誘導されたHS細胞培養物をPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH 7.4)で1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences, 15712)で30分間固定した。次に、固定された細胞をPBSで3回洗浄し、5分間、メタノールで処理した。
【0327】
メタノールで処理された細胞を、PBSで3回再度洗浄し、5分間、Envision+ System (Dako, K4010)の遮断溶液(ボトル1)で遮断した。
【0328】
過剰の遮断緩衝液を軽くたたいて落とし、1次抗体ウサギ抗チロシンヒドロキシラーゼ(Pel Freez, P40101-0, PBSにおいて1:300)を細胞に適用して、室温で60分間、インキュベートした。
【0329】
1次抗体で染色された細胞を、PBSで3回洗浄して、Envision+ Systemsの2次抗体標識ポリマー(ボトル2)を適用して、細胞培養物を被覆し、室温で30分間、インキュベートした。
【0330】
2次抗体で染色された細胞を、PBSで3回洗浄して、Envision+ Systemsの液体DAB+基質(ボトル3)を添加して、細胞培養物を被覆し、5分間、インキュベートした。最後に、細胞をPBSで3回洗浄し、チロシンヒドロキシラーゼ陽性細胞を顕微鏡下で検出した(6日間選択した後のネスチン陽性細胞を示す図9Bを参照)。
【図面の簡単な説明】
【0331】
【図1】卵母細胞の単為生殖活性化(parthenogenetic activation)の産物を示す図である。
【図2】精子形成及び卵形成の概略図である。
【図3】卵母細胞の融合及び卵母細胞融合産物の発達を示す図である。
【図4】卵母細胞の単為生殖活性化の産物の詳細を示す図である。
【図5A】マウスHS細胞由来のコロニー形成単位(CFU)の形態の写真である。
【図5B】マウスHS細胞由来の赤血球の形態の写真である。
【図5C】マウスHS細胞由来の単球の形態の写真である。
【図5D】マウスHS細胞由来のリンパ球の形態の写真である。
【図5E】マウスHS細胞由来の顆粒を有する造血細胞の形態の写真である。
【図5F】マウスHS細胞由来の顆粒及び単球双方を有する造血細胞の形態の写真である。
【図6】マウスHS細胞由来の脈拍筋細胞(beating muscle cell)の形態の写真である。
【図7A】マウスHS細胞由来の膵臓細胞のクラスターの形態の写真である。
【図7B】インスリン染色が茶色で示され、グルカゴン染色が赤色で示されるマウスHS細胞由来の脾臓細胞インスリン及びグルカゴン染色の写真である。
【図8A】ヒトのホモ接合性減数分裂I後の2倍体卵母細胞由来の桑実胚様塊の発達を示す写真である。
【図8B】ヒトのホモ接合性減数分裂I後の2倍体卵母細胞由来の初期胚盤胞塊の発達を示す写真である。
【図8C】ヒトのホモ接合性減数分裂I後の2倍体卵母細胞由来の内部細胞塊を現わす胚盤胞様塊の写真である。
【図8D】ヒトのホモ接合性減数分裂I後の2倍体卵母細胞由来のフィード層(D)上に成育する単離された内部細胞塊の写真である。
【図9A】マウスHS細胞由来のネスチン(Nestin)陽性ニューロン前駆細胞の形態の写真である。
【図9B】マウスHS細胞由来のチロシンヒドロキシラーゼ陽性ニューロン細胞の形態の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたホモ接合性幹細胞(HS)。
【請求項2】
ヒト由来の単離されたホモ接合性幹細胞(HS)。
【請求項3】
非ヒト種由来の単離されたホモ接合性幹細胞(HS)。
【請求項4】
非ヒト種は、マウス、ハムスター、イヌ、ネコ、ウサギ、フェレット、ミンク、モルモット、ハリネズミ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ラマ、ウマ、シカ、ブタ、サル、及び類人猿からなる群より選択される、請求項3に記載の単離されたホモ接合性幹細胞。
【請求項5】
(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合する、卵形成中の第二極体の放出を防止する、適当な条件下で第二極体の放出及び自発的な自己複製を行なわせる、または2個の精子または2個の1倍体卵核を除核した卵母細胞に移すことによって有糸分裂で活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を生産し;
(b)該活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を培養して、胚盤胞様塊を形成し;さらに
(c)該胚盤胞様塊の内部細胞塊からホモ接合性幹細胞を単離する
ことを有する方法由来の単離されたホモ接合性幹細胞。
【請求項6】
有糸分裂で活性化された減数分裂I後の2倍体生殖細胞が(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合する、または(b)2個の精子または2個の1倍体卵核を除核した卵母細胞に移すことによって生産される際に遺伝子型別によってホモ接合性である幹細胞をスクリーニングすることをさらに有する、請求項5に記載の方法由来の単離されたホモ接合性幹細胞。
【請求項7】
(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合する、卵形成中の第二極体の放出を防止する、適当な条件下で第二極体の放出及び自発的な自己複製を行なわせる、または2個の精子または2個の1倍体卵核を除核した卵母細胞に移すことによって有糸分裂で活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を生産し;
(b)該活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を培養して、胚盤胞様塊を形成し;さらに
(c)該胚盤胞様塊の内部細胞塊からホモ接合性幹細胞を単離する
ことを有するホモ接合性幹細胞の生産方法。
【請求項8】
有糸分裂で活性化された減数分裂I後の2倍体生殖細胞が(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合する、または(b)2個の精子または2個の1倍体卵核を除核した卵母細胞に移すことによって生産される際に遺伝子型別によってホモ接合性である幹細胞をスクリーニングすることをさらに有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
単離されたホモ接合性幹細胞を適当な条件下で分化するように誘導することを有する、所望の前駆細胞、分化細胞、分化細胞の群、または組織型の作製方法。
【請求項10】
分化は、培養液中に細胞調節因子、ホルモンまたはサイトカインを含ませることによって達成される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
所望の細胞または細胞の群はケラチン化上皮細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
該ケラチン化上皮細胞は、表皮のケラチノサイト、表皮の基底細胞、指の爪および/または足指の爪のケラチノサイト、爪床の基底細胞、毛幹細胞、毛根鞘細胞、及び毛母基細胞からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
所望の細胞または細胞の群は湿性重層バリヤ上皮である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
所望の細胞または細胞の群は、外分泌について特化した上皮細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
所望の細胞または細胞の群は、ホルモンの分泌について特化した細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
所望の細胞または細胞の群は、腸、外分泌腺、または尿生殖路の上皮吸収性細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
所望の細胞または細胞の群は、代謝及び貯蔵に特化した細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
所望の細胞または細胞の群は、肺、腸、外分泌腺若しくは尿生殖路をライニングするものとしてまたはバリヤとして機能する上皮細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
所望の細胞または細胞の群は、閉鎖した内部体腔をライニングする上皮細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
所望の細胞または細胞の群は、前方突進機能を有する線毛細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項21】
所望の細胞または細胞の群は、細胞外マトリックスの分泌に特化した細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項22】
所望の細胞または細胞の群は収縮性細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項23】
所望の細胞または細胞の群は、血液及び免疫系の細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項24】
所望の細胞または細胞の群は、感覚伝達細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項25】
所望の細胞または細胞の群は、自律性ニューロンである、請求項9に記載の方法。
【請求項26】
所望の細胞または細胞の群は、感覚器官の及び末梢ニューロンの支持細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項27】
所望の細胞または細胞の群は、中枢神経系のニューロンまたはグリア細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項28】
所望の細胞または細胞の群はレンズ細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項29】
所望の細胞または細胞の群は色素細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項30】
所望の細胞または細胞の群は生殖細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項31】
所望の細胞または細胞の群は栄養細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項32】
所望の細胞または細胞の群は、外胚葉、内胚葉または中胚葉からなる胚性胚葉の一由来である、請求項9に記載の方法。
【請求項33】
(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合する、卵形成中の第二極体の放出を防止する、適当な条件下で第二極体の放出及び自発的な自己複製を行なわせる、または2個の精子または2個の1倍体卵核を除核した卵母細胞に移すことによって有糸分裂で活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を生産し;
(b)該活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を培養して、胚盤胞様塊を形成し;
(c)該胚盤胞様塊の内部細胞塊からホモ接合性幹細胞を単離し;さらに
(d)該ホモ接合性幹細胞の分化を誘導して、前駆細胞を生産する
ことを有する前駆細胞の生産方法。
【請求項34】
有糸分裂で活性化された減数分裂I後の2倍体生殖細胞が(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合する、または(b)2個の精子または2個の1倍体卵核を除核した卵母細胞に移すことによって生産される際に遺伝子型別によってホモ接合性である幹細胞をスクリーニングすることをさらに有する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
該前駆細胞を単離し、永久前駆細胞系を維持することをさらに有する、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
該胚盤胞様塊の細胞は、未分化幹細胞の不存在下で分化するように誘導される、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
(a)HS細胞中に所望の遺伝子を挿入、除去または修飾して、遺伝的に変更されたHS細胞を作製し;さらに
(b)該遺伝的に変更されたHS細胞の分化を誘導する
ことを有する、遺伝的に変更された前駆細胞の生産方法。
【請求項38】
(a)HS細胞由来の前駆細胞中に所望の遺伝子を挿入、除去または修飾して、遺伝的に変更された前駆細胞を作製し;さらに
(b)該遺伝的に変更された前駆細胞を培養して、遺伝的に変更された前駆細胞を成長させる
ことを有する、遺伝的に変更された前駆細胞の生産方法。
【請求項39】
該ホモ接合性幹細胞は、平坦な付着環境中で分化するように誘導される、請求項9、33、または37に記載の方法。
【請求項40】
該ホモ接合性幹細胞は、3次元の付着環境中で分化するように誘導される、請求項9、33、または37に記載の方法。
【請求項41】
該ホモ接合性幹細胞は、微小重力環境中で分化するように誘導される、請求項9、33、または37に記載の方法。
【請求項42】
該ホモ接合性幹細胞は、免疫不全マウスでステムプラズムを生成することによって分化するように誘導される、請求項9、33、または37に記載の方法。
【請求項43】
該前駆細胞は、3種の胚層、外胚葉、中胚葉または内胚葉の一のみに由来の様々な組織及び細胞に分化できるものである、請求項33、37、または39に記載の方法。
【請求項44】
請求項9、33、37、または38に記載の方法を用いて得られた細胞を、このような治療の必要な患者に投与することを有する、治療方法。
【請求項45】
請求項9、33、37、または38に記載の方法を用いて得られた細胞を投与して、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、脊髄異常または損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、肝疾患、糖尿病、心臓病、軟骨異常または損傷、火傷、足の潰瘍、血管疾患、尿路疾患、AIDS及び癌からなる群より選択される病気または状態を処置することを有する、治療方法。
【請求項46】
患者はヒトであり、細胞は動物種由来である、請求項9、33、37、または38に記載の方法を用いて得られた細胞を、このような治療の必要な患者に投与することを有する、治療方法。
【請求項47】
患者は動物種であり、細胞はヒト由来である、請求項9、33、37、または38に記載の方法を用いて得られた細胞を、このような治療の必要な患者に投与することを有する、治療方法。
【請求項48】
患者はヒトであり、細胞はヒト由来である、請求項9、33、37、または38に記載の方法を用いて得られた細胞を、このような治療の必要な患者に投与することを有する、治療方法。
【請求項49】
患者は動物種であり、細胞は動物種由来である、請求項9、33、37、または38に記載の方法を用いて得られた細胞を、このような治療の必要な患者に投与することを有する、治療方法。
【請求項50】
患者はヒトであり、細胞はヒトである、請求項9、33、37、または38に記載の方法を用いて得られた細胞を、このような治療の必要な患者に投与することを有する、治療方法。
【請求項51】
ヒト由来の細胞は同種異系である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
ヒト由来の細胞は同種同系である、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
(a)有糸分裂で活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を生産し;
(b)該活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を培養して、胚盤胞様塊を形成し;
(c)該胚盤胞様塊の内部細胞塊からホモ接合性幹細胞を単離し;さらに
(d)該ホモ接合性幹細胞の分化を誘導して、前駆細胞を生産する
ことを有する方法由来の前駆細胞。
【請求項54】
有糸分裂で活性化された減数分裂I後の2倍体生殖細胞が(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合する、または(b)2個の精子または2個の1倍体卵核を除核した卵母細胞に移すことによって生産される際に遺伝子型別によってホモ接合性である幹細胞をスクリーニングすることをさらに有する、請求項53に記載の方法由来の前駆細胞。
【請求項55】
該前駆細胞を永久前駆細胞系として単離、維持することをさらに有する、請求項53に記載の前駆細胞。
【請求項56】
該胚盤胞様塊の細胞は、未分化幹細胞の不存在下で分化するように誘導される、請求項53に記載の前駆細胞。
【請求項57】
該胚盤胞様塊由来の該ホモ接合性幹細胞は、平坦な付着環境中で分化するように誘導される、請求項53に記載の前駆細胞。
【請求項58】
該胚盤胞様塊由来の該ホモ接合性幹細胞は、3次元の付着環境中で分化するように誘導される、請求項53に記載の前駆細胞。
【請求項59】
該胚盤胞様塊由来の該ホモ接合性幹細胞は、微小重力環境中で分化するように誘導される、請求項53に記載の前駆細胞。
【請求項60】
該胚盤胞様塊由来の該ホモ接合性幹細胞は、免疫不全マウスでステムプラズムを生成することによって分化するように誘導される、請求項53に記載の前駆細胞。
【請求項61】
該前駆細胞は、3種の胚層、外胚葉、内胚葉または中胚葉の一のみに分化できるものである、請求項53に記載の前駆細胞。
【請求項62】
請求項53に記載の前駆細胞を、このような治療の必要な患者に投与することを有する、治療方法。
【請求項63】
請求項53に記載の前駆細胞を投与して、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、脊髄異常または損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、肝疾患、糖尿病、心臓病、軟骨異常または損傷、火傷、足の潰瘍、血管疾患、尿路疾患、AIDS及び癌からなる群より選択される病気または状態を処置することを有する、治療方法。
【請求項64】
患者はヒトであり、分化細胞は動物種由来である、請求項53に記載の前駆細胞を、このような治療の必要な患者に投与することを有する、治療方法。
【請求項65】
患者は動物種であり、分化細胞はヒト由来である、請求項53に記載の前駆細胞を、このような治療の必要な患者に投与することを有する、治療方法。
【請求項66】
患者は動物種であり、細胞は動物種由来である、請求項53に記載の前駆細胞を、このような治療の必要な患者に投与することを有する、治療方法。
【請求項67】
患者はヒトであり、細胞はヒトである、請求項53に記載の前駆細胞を、このような治療の必要な患者に投与することを有する、治療方法。
【請求項68】
ヒト由来の細胞は同種異系である、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
ヒト由来の細胞は同種同系である、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合する、卵形成中の第二極体の放出を防止する、適当な条件下で第二極体の放出及び自発的な自己複製を行なわせる、または2個の精子または2個の1倍体卵核を除核した卵母細胞に移すことによって有糸分裂で活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を生産し;
(b)該活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を培養して、透明帯で囲まれている胚盤胞様塊を形成し;
(c)補助孵化の方法を用いて該透明帯から該胚盤胞様塊を放出させ;さらに
(d)該胚盤胞様塊の内部細胞塊からホモ接合性幹細胞を単離する
ことを有する方法由来の単離されたホモ接合性幹細胞。
【請求項71】
補助孵化の方法は、透明帯が弱くなって、胚盤胞様塊が放出されるように、一方の腕が該胚盤胞様塊を所定の位置に保持し、かつ他方の腕が、該透明帯の全表面の約1/8に等しい面積の透明帯の表面に酸性化タイロード溶液を適用するような2本の腕を有するマイクロマニピュレーターに該胚盤胞様塊を固定することを有する、請求項70に記載の単離された幹細胞。
【請求項72】
(a)2個の卵母細胞または2個の精子細胞を融合する、卵形成中の第二極体の放出を防止する、適当な条件下で第二極体の放出及び自発的な自己複製を行なわせる、または2個の精子または2個の1倍体卵核を除核した卵母細胞に移すことによって有糸分裂で活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を生産し;
(b)該活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を培養して、透明帯で囲まれている胚盤胞様塊を形成し;
(c)胚盤胞様塊が形成されるまで、活性化してから2日目の該活性化されたホモ接合性減数分裂I後の2倍体生殖細胞を、マウスの胚線維芽細胞のマイトマイシンCで処理したフィーダー層に移し;
(d)補助孵化の方法を用いて該透明帯から該胚盤胞様塊を放出させ;さらに
(e)該胚盤胞様塊の内部細胞塊からホモ接合性幹細胞を単離する
ことを有する方法由来の単離されたホモ接合性幹細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9A】
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【図9B】
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【公開番号】特開2009−28049(P2009−28049A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256603(P2008−256603)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【分割の表示】特願2003−506451(P2003−506451)の分割
【原出願日】平成13年11月30日(2001.11.30)
【出願人】(503196983)ステムロン インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】