説明

印刷システム、およびそれを用いた凹凸印刷物の製造方法

【課題】 粒状印刷剤によって発揮される触感を表現可能な印刷システムおよびそれを用いた凹凸印刷物の製造方法を提供する。
【解決手段】 粒状印刷剤26を、搬送装置の搬送コンベヤー32で搬送される被印刷物31上に、孔版印刷装置11のドクターユニット22から円筒状の孔版21Aを通して被印刷物31に落下させ、落下させた状態で固着する。これにより、被印刷物31の印刷面に起伏があった場合でも効率よく均一な画質を提供でき、さらに従来の印刷方式では表現できなかった、粒状の印刷剤の形状によって発揮される触感まで印刷することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷システムおよび印刷物の製造方法に関し、特に、建材等の表面に凹凸による触感を有する絵柄を形成するのに適した孔版印刷システム、およびそれを用いた凹凸印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
孔版印刷とは、スクリーン印刷に代表されるように、絵柄を形成した孔版を作成し、この版の上からインキ等の着色樹脂粒子を版穴から押し出し、孔版の下の被印刷物に印刷する方式をいう。
【0003】
スクリーン印刷では、絵柄を形成した孔版は、ナイロン、テトロン、ステンレス等の織物を枠に張り、光工学的方法等で版膜(レジスト)を形成することで絵柄以外の織物の目を塞ぎ作成する。インキ等の着色樹脂粒子は、孔版の上からスキージと呼ばれるヘラ状のゴム板で加圧され、孔版の版膜のない部分の版穴を透過し、孔版の下の被印刷物に絵柄の形状で載せられる。
【0004】
この方式によれば、被印刷物に印刷されたインキ層を非常に厚くすることができ、また、孔版が柔軟であるので、被印刷物の形状にとらわれることがなく、曲面や立体的なものにも印刷が可能であることが従来から知られている。
【0005】
しかし、従来の孔版印刷では、孔版と被印刷物を接触させる必要があったため、被印刷物の被印刷面に起伏があった場合は、印刷をすることがほとんど不可能であった。また、孔版と被印刷物は接触しているため、高速印刷に対応したロータリー式の印刷装置では、孔版の回転速度と被印刷物の搬送速度は同期せざるを得ず、被印刷物の印刷長さ等の印刷条件を変更する際には、孔版を交換し、回転速度の変更をその都度行う必要があり量産性を低下させていた。
【0006】
この問題を解決すべく、様々な印刷方式が考案されており、たとえば、孔版と被印刷物を離隔し、インキ等の着色樹脂粒子を帯電させ、版孔からブラシ等により帯電した着色樹脂粒子を押し出し、孔版と被印刷物の間に静電場を形成することで、着色樹脂粒子を被印刷物に付着させる印刷方式が知られている(特許文献1参照)。
【0007】
この方式によれば、被印刷物の被印刷面に起伏があった場合でも効率よく均一な画質を印刷することが可能である。また、孔版と被印刷物を離隔しているので、孔版の回転速度と被印刷物の搬送速度を同期させる必要がなく、被印刷物の印刷長さ等の印刷条件を変更する際にも、孔版の交換等を行う必要がなく、孔版の回転速度と被印刷物の搬送速度の連動した変化により、高い量産性を維持したまま印刷条件の変更を実現できる。
【特許文献1】特開2003−182024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方式では、着色樹脂粒子は摩擦により帯電する粉体塗料などに限定されてしまう。そして、形成される印刷面は均一となり凹凸を形成することは困難であり、印刷面に凹凸による触感を表現することはできなかった。たとえば、被印刷物が砂岩調の壁用の建材である場合に砂岩調の色彩や模様を印刷はできるが、砂岩のもつ触感までは表現できない。
【0009】
本発明は、被印刷物の被印刷面に起伏があった場合でも効率よく均一な画質であり、さらに従来の印刷方式では表現できなかった、粒状印刷剤によって発揮される凹凸による触感までも印刷することを可能とする印刷システム、およびそれを用いた凹凸印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明は、被印刷物を搬送する搬送装置と、搬送装置の途中に配置されかつ孔が形成された孔版を通して被印刷物に粒状の印刷剤を落下させる孔版印刷装置と、前記搬送装置の前記孔版印刷装置よりも下流に配置され落下した印刷剤を前記被印刷物に固着させる固着装置を備える印刷システムを提供する。より具体的には以下の通りである。
【0011】
(1) 被印刷物に印刷する印刷システムであって、被印刷物を搬送する搬送装置と、前記搬送装置の途中に配置されかつ孔が形成された孔版を通して前記被印刷物に粒状の印刷剤を落下させる孔版印刷装置と、落下した前記印刷剤を前記被印刷物に固着させる固着装置とを備えることを特徴とする印刷システム。
【0012】
(1)の発明によれば、粒状の印刷剤を、搬送装置で搬送される被印刷物に、静電気等を利用せずに、孔版印刷装置から被印刷物に落下させ、落下させた状態で固着装置により固着するので、被印刷物の被印刷面に起伏があった場合でも効率よく均一な画質とすることができる。さらには、従来の印刷方式では表現できなかった、粒状の印刷剤の形状によって発揮される凹凸による触感まで印刷することが可能となる。また、粒状の印刷剤を落下させるので、薄膜から厚膜(盛上げ)印刷も可能となる。
【0013】
(2) 前記孔版印刷装置は、互いに対向配置された一対のドクターと、この一対のドクターの間隙に印刷剤を供給する供給装置と、を含むドクターユニットを有し、このドクターユニットは前記孔版の反印刷物側の面に配置されており、前記一対のドクター同士の間隙、ドクターの角度、およびドクターの取付け位置は、調整可能である(1)に記載の印刷システム。
【0014】
(2)の発明によれば、一対のドクターユニットの間隙の幅を調節することで、粒状印刷剤の落下時間を変化させることができ、また、ドクターの角度や取付け位置により被印刷物に印刷される粒状の印刷剤の膜厚を変えることが可能となる。
【0015】
(3)前記印刷剤の平均粒子径は、前記孔版の孔径の1/20以上1/2以下である(1)または(2)に記載の印刷システム。
【0016】
(3)の発明によれば平均粒子径の異なる粒状印刷剤を混ぜて落下させることで、被印刷物上に粒状の印刷剤により形成された絵柄の凹凸による触感をさらに高めることができる。
【0017】
(4) 前記孔版印刷装置は、孔が形成された孔版と、この孔版を移動させる連続移動装置を有し、前記孔版は、円筒状、ベルト状、および平板状のいずれかより選択される形態である(1)から(3)のいずれかに記載の印刷システム。
【0018】
(4)の発明によれば、孔版を連続して移動させることで、搬送装置で順次搬送される被印刷物を連続印刷することが可能となる。
【0019】
(5) 前記孔版印刷装置は、前記孔版から落下した前記印刷剤を回収するように、前記孔版と前記被印刷物との間で、かつ、前記印刷剤の落下箇所を挟むように設けられた一対の第1の印刷剤回収装置と、前記第1の印刷剤回収装置で回収された前記印刷剤を回収するように、前記被印刷物の下に設けられた第2の印刷剤回収装置とを備え、前記一対の第1の印刷剤回収装置は、各々、第1印刷剤回収ベルトと、この第1印刷剤回収ベルトが巻き回された一対の第1プーリと、この第1プーリを回転させる第1回転駆動装置と、を有し、前記第2の印刷剤回収装置は、第2印刷剤回収ベルトと、この第2印刷剤回収ベルトが巻き回された一対の第2プーリと、この第2プーリを回転させる第2回転駆動装置と、を有し、前記一対の第1印刷剤回収ベルトおよび前記第2印刷剤回収ベルトは、各々、前記被印刷物の搬送方向と交差する方向に回転される(1)から(4)のいずれかに記載の印刷システム。
【0020】
(5)の発明によれば、粒状の印刷剤を落下させる孔版と被印刷物の間に一対の第1の印刷剤回収装置を設けることで、絵柄を形成する以外の粒状の印刷剤が被印刷物に飛散するのを防止できる。また、一対の第1の印刷剤回収装置の印刷剤回収ベルトを搬送方向と略直角に駆動させることで、飛散した粒状印刷剤を回収することもできる。また、第2の印刷剤回収ベルトを設け、搬送方向と略直角に駆動させることで、前記第1の印刷剤回収装置で回収された前記印刷剤を回収するとともに、被印刷物に載らずに飛散した粒状印刷剤を回収することが可能となる。
【0021】
(6) 前記第2の印刷剤回収装置で回収した印刷剤を前記ドクターユニットに循環させる印刷剤循環装置を更に備える(5)に記載の印刷システム。
【0022】
(6)の発明によれば、被印刷物に付着せず飛散した粒状印刷剤を、第2の印刷回収装置で回収し、回収した粒状の印刷剤をドクターユニットへ送ることで、再度粒状の印刷剤を被印刷物へ落下印刷できるので、粒状の印刷剤を無駄なく使用することが可能となる。
【0023】
(7) 前記固着手段は、前記被印刷物上に予め接着層を形成する手段と、前記印刷後の印刷物上に上塗り層を形成する手段である(1)から(6)のいずれかに記載の印刷システム。
【0024】
(7)の発明によれば、接着層を形成することで粒状印刷剤を定着し、上塗り層を形成することで、印刷固着強度を高めることができる。
【0025】
(8) 被印刷物上に、粒状の印刷剤によって形成された凹凸部を有する印刷物の製造方法であって、搬送中の前記被印刷物上に、孔が形成された孔版を通して前記粒状の印刷剤を落下させて印刷を行う孔版印刷工程と、前記孔版印刷工程において、前記印刷剤を前記被印刷物上に固着させる固着工程と、を含むことを特徴とする凹凸印刷物の製造方法。
【0026】
(8)の発明によれば、粒状の印刷剤を、搬送中の被印刷物に、静電気等を利用せずに、孔版印刷装置から被印刷物に落下させ、落下させた状態で固着装置により固着するので、被印刷物の被印刷面に起伏があった場合でも効率よく均一な画質とすることができる。さらには、従来の印刷方式では表現できなかった、粒状の印刷剤の形状によって発揮される凹凸による触感を有する凹凸印刷物の製造が可能となる。
【0027】
(9) 前記印刷剤の平均粒子径が、前記孔版の孔径の1/20以上1/2以下である(8)に記載の凹凸印刷物の製造方法。
【0028】
(9)の発明によれば、平均粒子径の異なる粒状印刷剤を混ぜて落下させることで、被印刷物上に粒状の印刷剤により形成された絵柄の凹凸による触感をさらに高めた凹凸印刷物の製造が可能となる。
【0029】
(10) 互いに対向配置された一対のドクターが、前記孔版の反印刷物側の面に配置されており、前記一対のドクター同士の間隙、ドクターの角度、およびドクターの取付け位置の少なくとも一つを調整することにより、前記印刷剤の落下量を調整する(8)または(9)に記載の凹凸印刷物の製造方法。
【0030】
(10)の発明によれば、一対のドクターユニットの間隙の幅を調節することで、粒状印刷剤の落下時間を変化させることができ、また、ドクターの角度や取付け位置により被印刷物に印刷される粒状の印刷剤の膜厚が異なる凹凸印刷物の製造が可能となる。
【0031】
(11) 前記孔版と前記被印刷物との間で、かつ、前記印刷剤の落下箇所を挟むように一対の第1の印刷剤回収装置と、前記被印刷物の下方に設けられた第2の印刷剤回収装置によって前記印刷剤の回収を行う(8)から(10)のいずれかに記載の凹凸印刷物の製造方法。
【0032】
(11)の発明によれば、一対の第1の印刷剤回収装置および第2の印刷剤回収装置を設けることにより、絵柄を形成する以外の粒状の印刷剤が被印刷物に飛散するのを防止できる。
【0033】
(12) 前記第2の印刷剤回収装置で回収した前記印刷剤を循環させて再利用する(11)に記載の凹凸印刷物の製造方法。
【0034】
(12)の発明によれば、被印刷物に付着せず飛散した粒状印刷剤を第2の印刷回収装置で回収し、回収した粒状の印刷剤をドクターユニットへ送り、再度粒状の印刷剤を被印刷物へ落下印刷するので、粒状の印刷剤を無駄なく凹凸印刷物を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、粒状の印刷剤を、搬送装置で搬送される被印刷物に、静電気等を利用せずに、版印刷装置から被印刷物に落下させ、落下させた状態で固着装置部により固着するので、被印刷物の被印刷面に起伏があった場合でも効率よく均一な画質であり、さらに従来の印刷方式では表現できなかった、粒状の印刷剤の形状によって発揮される凹凸による触感まで印刷することが可能となる印刷システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明に係る好適な実施形態の一例について、図面に基づいて以下に説明する。
【0037】
<印刷システムの構成>
図1は、本発明の好適な印刷システムの一実施形態を示す概略図であり、図2は、図1における孔版印刷装置付近の拡大断面図である。
【0038】
図1に示されるように、本実施形態に係る印刷システムは、搬送装置12と、搬送装置12の上に設置された孔版印刷装置11と、搬送装置12の下流に配置された固着装置13と、飛散した印刷剤を回収する一対の第1の印刷剤回収装置33と、第2の印刷剤回収装置34と、第1、第2の印刷剤回収装置で回収した印刷剤を孔版印刷装置11に戻す印刷剤循環手段35とから構成されている。
【0039】
〔搬送装置の構成〕
搬送装置12は、被印刷物31を載置し、搬送する位置合わせ搬送コンベヤーである。そして、搬送装置12は、搬送速度を変えることができる。
【0040】
〔孔版印刷装置の構成〕
図1、図2を併せて参照しながら孔版印刷装置11について説明すると、孔版印刷装置11は、搬送装置12の途中で、搬送装置12で搬送される被印刷物31と孔版21Aの最下部とが所定の距離をなすように、離隔して配置されている。この所定の距離は調節可能であり、好ましくは5mm〜50mm間での使用が望ましい。この所定の距離を調整することで、印刷の表現を変えることができる。例えば、この距離を大きくするにしたがってボカシ印刷が可能となる。
【0041】
孔版印刷装置11は、図2に示されるように、円筒状の孔版21Aと、円筒状の孔版21Aの内側に接合されるドクターユニット22と、円筒状の孔版21Aの外側を覆う版カバー24と、ドクターユニット22の上であって円筒状の孔版21Aの外側に設置される孔つまり対策用エヤーノズル25から構成される。
【0042】
円筒状の孔版21Aには、被印刷物に絵柄を形成するための複数の孔が設けられ、この孔の寸法は、φ1、1.5、2(単位mm)等と印刷剤の落下量に合わせて変えることができる。たとえば、φ1mmの場合の印刷剤の落下量を1とするとφ2mmの場合、印刷剤の種類によって異なるが、数倍の落下量となる。また、異なる寸法をもつ孔を組み合わせることもできる。
【0043】
この実施形態においては、孔版印刷装置11の円筒状の孔版21Aは、形状を円筒状とし孔版の中心軸を回転中心として連続移動装置としての回転駆動装置により回転させている。本発明においては孔版は円筒状には限定されず、例えば、図3に示されるように、孔版の形状をベルト状とし、一対のプーリに巻き回し、プーリを連続移動装置としての回転駆動装置により回転させることもできる。さらに、図4に示されるように、孔版の形状を平板とし、連続移動装置としての往復駆動装置により、往復移動させることもできる。また、孔版を円板状として回転させてもよい。
【0044】
円筒状の孔版21Aの移動速度と搬送装置12の搬送速度とは連動させてもよいが、本発明においては、孔版と搬送装置は非接触であるので、それぞれの速度は異なっていてもよい。また、孔版21Aの移動と搬送装置12の搬送は、それぞれ連続的でもよく、間欠的でもよい。
【0045】
ドクターユニット22は、被印刷物の搬送方向および円筒状の孔版21Aの移動方向に直交するように配置された一対のドクター28と、一対のドクター28の間に配置された印刷剤均し装置23とで構成される。一対のドクター28の間には空間が設けられ、印刷剤を供給できるホッパー構造となっている。
【0046】
ドクター28は、孔版からの角度をもって配置され、この角度は調整可能である。ドクター28の材質は、ゴムであるが、フェルトドクター、スポンジロール等と印刷の絵柄や粒状印刷剤の特性に応じて変えることができる。
【0047】
ドクターユニット22の設置位置は、円筒状の孔版21Aの移動方向で調整可能である。この調整は円筒状の孔版21Aの移動速度に応じて必要になる調整だが膜厚調節にも利用できる。また、一対のドクター28の間隙の幅は調整可能である。この間隙の幅を変えることで、版孔27から粒状印刷剤26の落下させる時間を変えることができ、粒状印刷剤26の落下量が変わるので、同じ孔版を使用しながらも印刷膜厚を変えることができる。
【0048】
印刷剤均し装置23は、供給された粒状印刷剤26をホッパー内で均して供給の均一化を図り、更に、流動性の悪い粉体を粒状印刷剤26とし版孔27から落下させた場合でも、ホッパー内でのブリッジやラットホールを防止することができる。版カバー24は、円筒状の孔版21Aの移動方向でドクターユニット22の下流に、円筒状の孔版21Aを包むように設けられている。孔つまり対策用エヤーノズル25は、円筒状の孔版21Aの版孔27に滞留している粒状印刷剤26をエヤー圧で吹き出すものである。
【0049】
〔固着装置の構成〕
この実施形態においては、固着装置13は、搬送装置12の孔版印刷装置11よりも下流に配置され、搬送装置12の搬送コンベヤー32から連続する、固着装置部コンベヤー37と、その上方に配置されるヒーター36とから構成されている。ヒーターの代わりにUV照射装置などを用いてもよい。
【0050】
なお、本発明における固着手段は、後述する固着方法によって適宜選択可能であり、ヒーターやUV照射などによる硬化手段には限定されない。例えば、固着手段が、あらかじめ被印刷物上に塗布する接着剤の場合には、固着装置は接着剤塗布装置である。この場合、固着装置は搬送装置12の孔版印刷装置11よりも上流に配置されることになる。
【0051】
また、固着手段として、上塗り装置を孔版印刷装置の下流に配置してもよい。これにより、印刷後に上塗り層を形成して印刷剤を固着できる。また、接着剤塗布装置を孔版印刷装置の上流に配置するとともに、下流に上記の固着装置13を配置してもよい。これにより、あらかじめ被印刷物上に接着剤を塗布した後、印刷を行い、その後、乾燥により固着できる。このように、本発明における固着手段は、印刷剤を固着できる手段であればよく特に限定されない。また、その配置も孔版印刷の前、後、前後に適宜設けることができ限定されない。
【0052】
〔印刷剤回収装置の構成〕
一対の第1の印刷剤回収装置33は、印刷剤回収ベルトと、印刷剤回収ベルトを巻き回す一対のプーリと、プーリを回転させる回転駆動装置とから構成される。そして、一対の第1の印刷剤回収装置33が有する一対の印刷剤回収ベルトは、搬送装置12で搬送される被印刷物31と孔版印刷装置11の間に配置され、被印刷物31の搬送方向と略直交方向に移動する。
【0053】
第2の印刷剤回収装置34は、印刷剤回収ベルトと、印刷剤回収ベルトを巻き回す一対のプーリと、プーリを回転させる回転駆動装置とから構成される。そして、第2の印刷剤回収装置34が有する印刷剤回収ベルトは、搬送装置12で搬送される被印刷物31と孔版印刷装置11の下に配置され、被印刷物31の搬送方向と略直交方向に移動する。
【0054】
〔印刷剤循環手段の構成〕
印刷剤循環手段35は、一対の第1の印刷剤回収装置33と第2の印刷剤回収装置34から回収した粒状印刷剤26を収集し、ドクターユニット22へ戻すように構成されている。
【0055】
<印刷システムの作用>
次に、上記の印刷システムの作用、および、それにより製造される凹凸印刷物について説明する。
【0056】
図1に示されるように、被印刷物31は搬送装置12により搬送される。なお、本発明は、孔版と搬送装置とが非接触であるので、被印刷物31の表面は必ずしも平滑である必要ななく、例えば岩模様状などの凹凸を表面に有していてもよい。
【0057】
搬送装置12は、位置合わせ搬送コンベヤーを用いて、被印刷物31の位置を孔版印刷装置11から印刷剤が落下される位置に合わせることで、印刷位置を合わせることができる。また、位置合わせをせず搬送速度を上げれば、孔版印刷装置11から落下する粒状印刷剤26の量が同じでも、被印刷物31の単位長さ当たりの落下量が減るため、印刷膜厚が薄くなる。一方、速度を下げると粒状印刷剤26の落下量が増えるので印刷膜厚が厚くなる。
【0058】
次いで、搬送中に孔版印刷装置11から粒状印刷剤26が落下されることで、絵柄が形成される。
【0059】
粒状印刷剤26の大きさは、円筒状の孔版21Aの版孔27の孔径の1/20以上1/2以下の平均粒子径であることが好ましい。これにより、被印刷物上に粒状の印刷剤により形成された絵柄の凹凸による触感をさらに高めることができる。粒状印刷剤の平均粒子径が、孔版の孔径の1/20未満であると、絵柄の凹凸が少なくなり触感が弱くなる。一方、孔版の孔径の1/2を超えると、孔につまり易くなり、落下量の管理が難しくなる。
【0060】
粒状印刷剤26の材質は、砂、硅砂、カラーサンド、ビーズ、カラーチップ、鉱物チップ、ガラスチップ、木質チップ(例えば、シーナリーパウダー等)、顔料、トナー、食材(例えば、砂糖、食塩等)など、粒度や比重が小さく僅かな空気の流れで舞い上がらない粒状物が用いられる。
【0061】
孔版印刷装置11は、搬送装置12の途中で、搬送装置12で搬送される被印刷物31と離隔して配置されているので、粒状印刷剤26を被印刷物31に落下することが可能となる。そして、粒状印刷剤26を落下して印刷することで、起伏面にも均一に印刷することができるとともに、粒状印刷剤の形状を発揮した凹凸による触感まで印刷することができる。そして、孔版印刷装置11の被印刷物31からの高さを変えることで、印刷される絵柄の表現を変えることができる。
【0062】
また、円筒状の孔版21Aの孔の寸法を変えることで、印刷剤の落下量が変わり、印刷膜厚を薄膜にすることや厚膜(盛上げ)にすることができる。また、異なる寸法をもつ孔を組み合わせることで絵柄に濃淡表現をすることや、孔と孔の間を狭めることでより繊細な表現が可能となり、孔と孔の間を広げることでより力強い表現が可能となる。
【0063】
孔版印刷装置11の円筒状の孔版21Aは、形状を円筒状とし孔版の中心軸を回転中心として回転駆動装置により回転させることで、これらの孔版の形状と動作により、順次搬送される被印刷物へのエンドレス印刷が可能となり、生産性を高めることができる。また、形状を円板状とし回転させた場合や、図3に示されるように、孔版の形状をベルト状とし、一対のプーリに巻き回し、プーリを回転駆動装置により回転させた場合、さらに、図4に示されるように、孔版の形状を平板とし、移動装置により、往復移動させた場合も同様である。なお、円筒状の孔版21Aの移動速度と搬送装置12の搬送速度が連動されることで、孔版21Aの移動速度と搬送装置12の搬送速度の相対速度を変えることができ、その結果、印刷される絵柄の伸縮が可能となる。
【0064】
さらに、ドクターユニット22のドクター28の孔版からの角度を変えることで、使用する印刷剤の特性に応じて角度を調整でき、どの印刷剤を使用しても版上から掻き残り等を効率的に除去できる。したがって、印刷の鮮明さを失うことなく連続印刷を行うことができる。また、一対のドクター28の間隙の幅を変えることで、版孔27から粒状印刷剤26の落下させる時間を変えることができ、粒状印刷剤26の落下量が変わるので、同じ孔版を使用しながらも印刷膜厚を変えることができる。さらに、ドクターユニット22の設置位置を円筒状の孔版21Aの中心直下から円周方向に移動させることでも膜厚調整ができる。
【0065】
印刷中には、一対の第1の印刷剤回収装置33、及び、第2の印刷剤回収装置34の印刷剤回収ベルトが、被印刷物31の搬送方向と略直交方向に移動する。これにより、ドクター28によって掻き残された粒状印刷剤26が、版孔から印刷面に落ち印刷面を汚すことを防止し、常時安定した印刷をすることができる。そして、第2の印刷剤回収装置34を設けることで、第1の印刷剤回収装置33で回収した粒状印刷剤26および被印刷物31に落下せずに飛散した粒状の印刷剤26を回収することができる。なお、図2における印刷剤循環手段35によって、従来は廃棄していた、被印刷物に落下しなかった印刷剤を循環することができる。
【0066】
その他、印刷剤均し装置23を設けることで、印刷剤のブリッジやラットホールを防止し、均一な絵柄を印刷することができる。また、版カバー24を設けることで、円筒状の孔版21A上の粒状印刷剤26がドクター28により掻き残され、版孔27から飛び出し飛散するのを防止することができる。また、孔つまり対策用エヤーノズル25を設けることで、連続印刷した場合でも、鮮明な絵柄を印刷し続けることができる。また、本発明においては、孔版印刷装置11を搬送装置12の搬送方向に2連、3連と設置し、連続重ね刷りを可能にしてもよい。
【0067】
上記の孔版印刷工程により粒状印刷剤26が絵柄状に落下された後に、印刷物は固着装置13のヒーター部コンベヤーに搬送され、ヒーターによって熱が加えられ粒状印刷剤26は被印刷物1に固着され、凹凸印刷物が得られる。粒状印刷剤26の固着手段は特に限定されないが、例えば、以下の(A)から(E)の方法が挙げられる。
【0068】
(A)被印刷物31の印刷面に下塗りを塗装し(図示せず)、下塗りの乾燥前に粒状印刷剤26を絵柄状に落下印刷し、その後、固着装置13で乾燥させて下塗り層に粒状印刷剤26を埋没させて固着する。なお、必要に応じて、さらに上塗り塗装をしてもよい。この場合、上塗り塗装と下塗り塗装に使用する塗料の凝縮力を同等とすることで、印刷前後の塗膜歪を防ぐことができ、固着をより強固に行うことができる。
【0069】
図5には、上記の(A)によって得られた凹凸印刷物の一例を示す断面図が示されている。この凹凸印刷物は、被印刷物31の印刷面に既存の意匠膜41が形成されており、その上に、下塗り層42が形成され、粒状印刷剤26の略1/2が下塗り層42中に埋没している。下塗り層42としてはクリヤー塗料が好ましく、これによって透明で、かつ、粘着性を発揮させることができる。また、被印刷物31の表面に起伏がある場合のクリヤー塗料は、チクソ係数を2以上とすることで、粒状印刷剤26の印刷前のクリヤー塗料液膜厚を均一にすることができる。
【0070】
(B)被印刷物31の印刷面に接着剤を塗布し(図示せず)、接着剤の乾燥前に粒状印刷剤26を絵柄状に落下印刷し、接着剤を固着装置13で乾燥させる。
【0071】
(C)被印刷物31の印刷面にホットメルト接着剤を塗布し(図示せず)、粒状印刷剤26を絵柄状に落下印刷し、固着装置13で加熱して固着させる。
【0072】
(D)粒状印刷剤26を熱可塑性粉体塗料または接着剤と混ぜて、被印刷物31の印刷面に絵柄状に落下印刷し、固着装置13で加熱溶融して定着させる。
【0073】
(E)粒状印刷剤26を溶融可能な着色粉体塗料とし、被印刷物31の印刷面に絵柄状に落下印刷し、固着装置13で加熱溶融して定着させる。
【0074】
なお、粒状印刷剤26を定着させる固着用材料は上記のものに限られるものでなく、膠、糊、石膏、セメント等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、例えば建材や食品等の、被印刷物の表面に絵柄を形成する印刷物の製造に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態に係る孔版印刷装置の概略図である。
【図2】図1の孔版印刷装置付近の拡大断面図である。
【図3】孔版の形状をエンドレスベルト状とした場合の孔版印刷装置付近の拡大断面図である。
【図4】孔版の形状を平板状とした場合の孔版印刷装置付近の拡大断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る孔版印刷システムにより印刷された被印刷物の断面図である。
【符号の説明】
【0077】
11 孔版印刷装置
12 搬送装置
13 固着装置
21A 円筒状の孔版
21B エンドレスベルト状の孔版
21C 平板状の孔版
22 ドクターユニット
23 印刷剤均し装置
24 版カバー
25 孔つまり対策用エヤーノズル
26 粒状印刷剤
27 版孔
28 ドクター
31 被印刷物
32 搬送コンベヤー
33 第1の印刷剤回収装置
34 第2の印刷剤回収装置
35 印刷剤循環手段
36 ヒーター
37 固着装置部コンベヤー
41 既存の意匠膜
42 下塗り層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷物に印刷する印刷システムであって、
被印刷物を搬送する搬送装置と、
前記搬送装置の途中に配置されかつ孔が形成された孔版を通して前記被印刷物に粒状の印刷剤を落下させる孔版印刷装置と、落下した前記印刷剤を前記被印刷物に固着させる固着装置とを備えることを特徴とする印刷システム。
【請求項2】
前記孔版印刷装置は、互いに対向配置された一対のドクターと、この一対のドクターの間隙に印刷剤を供給する供給装置と、を含むドクターユニットを有し、
このドクターユニットは前記孔版の反印刷物側の面に配置されており、
前記一対のドクター同士の間隙、ドクターの角度、およびドクターの取付け位置は、調整可能である請求項1に記載の印刷システム。
【請求項3】
前記印刷剤の平均粒子径は、前記孔版の孔径の1/20以上1/2以下である請求項1または2に記載の印刷システム。
【請求項4】
前記孔版印刷装置は、孔が形成された孔版と、この孔版を移動させる連続移動装置を有し、
前記孔版は、円筒状、ベルト状、および平板状のいずれかより選択される形態である請求項1から3のいずれかに記載の印刷システム。
【請求項5】
前記孔版印刷装置は、前記孔版から落下した前記印刷剤を回収するように、前記孔版と前記被印刷物との間で、かつ、前記印刷剤の落下箇所を挟むように設けられた一対の第1の印刷剤回収装置と、
前記第1の印刷剤回収装置で回収された前記印刷剤を回収するように、前記被印刷物の下に設けられた第2の印刷剤回収装置とを備え、
前記一対の第1の印刷剤回収装置は、各々、第1印刷剤回収ベルトと、この第1印刷剤回収ベルトが巻き回された一対の第1プーリと、この第1プーリを回転させる第1回転駆動装置と、を有し、
前記第2の印刷剤回収装置は、第2印刷剤回収ベルトと、この第2印刷剤回収ベルトが巻き回された一対の第2プーリと、この第2プーリを回転させる第2回転駆動装置と、を有し、
前記一対の第1印刷剤回収ベルトおよび前記第2印刷剤回収ベルトは、各々、前記被印刷物の搬送方向と交差する方向に回転される請求項1から4のいずれかに記載の印刷システム。
【請求項6】
前記第2の印刷剤回収装置で回収した印刷剤を前記ドクターユニットに循環させる印刷剤循環装置を更に備える請求項5に記載の印刷システム。
【請求項7】
前記固着手段は、前記被印刷物上に予め接着層を形成する手段と、前記印刷後の印刷物上に上塗り層を形成する手段である請求項1から6のいずれかに記載の印刷システム。
【請求項8】
被印刷物上に、粒状の印刷剤によって形成された凹凸部を有する印刷物の製造方法であって、
搬送中の前記被印刷物上に、孔が形成された孔版を通して前記粒状の印刷剤を落下させて印刷を行う孔版印刷工程と、
前記孔版印刷工程において、前記印刷剤を前記被印刷物上に固着させる固着工程と、を含むことを特徴とする凹凸印刷物の製造方法。
【請求項9】
前記印刷剤の平均粒子径が、前記孔版の孔径の1/20以上1/2以下である請求項8に記載の凹凸印刷物の製造方法。
【請求項10】
互いに対向配置された一対のドクターが、前記孔版の反印刷物側の面に配置されており、
前記一対のドクター同士の間隙、ドクターの角度、およびドクターの取付け位置の少なくとも一つを調整することにより、前記印刷剤の落下量を調整する請求項8または9に記載の凹凸印刷物の製造方法。
【請求項11】
前記孔版と前記被印刷物との間で、かつ、前記印刷剤の落下箇所を挟むように一対の第1の印刷剤回収装置と、前記被印刷物の下方に設けられた第2の印刷剤回収装置によって前記印刷剤の回収を行う請求項8から10のいずれかに記載の凹凸印刷物の製造方法。
【請求項12】
前記第2の印刷剤回収装置で回収した前記印刷剤を循環させて再利用する請求項11に記載の凹凸印刷物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−198992(P2006−198992A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15887(P2005−15887)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(592214634)三和精機株式会社 (2)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】