説明

印刷版材料

【課題】本発明の目的は、露光可視画性に優れ、かつ、露光後の取り扱いで可視画像が変化しない印刷版材料を提供することにある。
【解決手段】基材上に少なくとも画像形成層を有する印刷版材料において、該画像形成層もしくはその他の構成層に下記の色素前駆体Aと光熱変換素材とを含有することを特徴とする印刷版材料。
色素前駆体A:粒子形態の固体であり、該色素前駆体Aの粒子径が0.05〜2μmの範囲であり、かつ、溶融前の状態と加熱溶融した後に再凝固した状態との色が異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版材料に関し、特にコンピューター・トゥー・プレート(CTP)方式により画像形成が可能な印刷版材料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、印刷の分野においては、印刷画像データのデジタル化に伴い、CTP方式による印刷が行われるようになってきているが、この印刷においては、安価で取り扱いが容易で従来の所謂PS版と同等の印刷適性を有したCTP方式用印刷版材料が求められている。
【0003】
特に近年、特別な薬剤(例えばアルカリ、酸、溶媒など)を含む処理液による現像処理を必要とせず、従来の印刷機に適用可能である印刷版材料が求められており、例えば、全く現像処理を必要としない相変化タイプの印刷版材料、水もしくは水を主体とした実質的に中性の処理液で処理をする印刷版材料、印刷機上で印刷の初期段階で現像処理を行い特に現像工程を必要としない印刷版材料、いわゆるケミカルフリータイプやプロセスレスタイプと呼ばれる印刷版材料が知られている。
【0004】
一方、これらのCTP方式においても従来のPS版と同様に所謂検版という作業が、現状のワークフローにおいては必要とされ、また印刷機に取り付ける際に必要なパンチング(取り付け用の穴あけ)を現像後に行う場合には、トンボ画像を専用装置で読み取って正確な位置調整を行うため、装置で読み取り可能なように画像部と非画像部とで、反射濃度に差があることが必要とされる場合があり、所謂現像可視画性をもつことが必要とされている。
【0005】
これは、プロセスレスタイプの印刷版材料においては、印刷機に取り付ける際に必要なパンチングを露光後、現像処理なしで行うため、所謂露光可視画性をもつことが必要となる。
【0006】
プロセスレスタイプの印刷版材料の画像形成に主として用いられるのは近赤外〜赤外線の波長を有するサーマルレーザ記録方式である。この方式で画像形成可能なサーマルプロセスレスプレートには、大きく分けて、後述するアブレーションタイプと熱融着画像層機上現像タイプ、および相変化タイプが存在する。
【0007】
アブレーションタイプとしては、例えば、特開平8−507727号、同6−186750号、同6−199064号、同7−314934号、同10−58636号、同10−244773号に記載されているものが挙げられる。
【0008】
これらは、例えば、基材上に親水性層と親油性層とをいずれかの層を表層として積層したものである。表層が親水性層であれば、画像様に露光し、親水性層をアブレートさせて画像様に除去して親油性層を露出することで画像部を形成することができる。ただし、アブレートした表層の飛散物による露光装置内部の汚染が問題となるため、親水性層上にさらに水溶性の保護層を設けてアブレートした表層の飛散を防止し、印刷機上で保護層とともにアブレートした表層を除去する方式も提案されている。
【0009】
アブレーションタイプの場合、表層とその下の層との色相を異なるものとしておくことで露光可視画性を付与することが可能であるが、そのためには表層を完全にアブレートさせて除去する必要がある。これは、例えば露光装置内にアブレーション飛散物を吸引除去するようなクリーナーを設置することで達成は可能であるが装置コストが大幅に上がるという問題点がある。
【0010】
上述のような保護層を設けたタイプでは、アブレーション飛散物が残存するため、たとえ表層とその下の層との色相を異なるものとしておいたとしても良好な露光可視画性は得ることは難しい。
【0011】
又、上記を解決する手段として、「印刷機上で除去可能な親水性オーバーコート層に、露光によって光学濃度を変化させることのできるシアニン系赤外線吸収色素を20質量%以上含有させる」方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0012】
この方法によれば確かに良好な露光可視画性が得られるが、印刷機上で除去される層中に多量の色素を含有させ、露光によって色素をさらに発色させるにしろ退色させるにしろ、露光部もしくは未露光部のいずれかは発色濃度の高い層となるため、機上現像による印刷機汚染を避けるのは難しい。
【0013】
一方、熱融着画像層機上現像タイプとしては、特許2938397号や特許2938397号に開示されているような、親水性層もしくはアルミ砂目上に画像形成層に熱可塑性微粒子と水溶性の結合剤とを用いたものが挙げられる。
【0014】
このタイプで露光可視画性を付与するには、赤外線吸収色素の露光退色を利用したものが挙げられるが、このような色素を画像形成層に添加した場合、未露光部と露光部との色差を大きくして露光可視画性を向上させることは、即ち未露光部の着色濃度を上げることになり、未露光部の機上現像時の印刷機汚染が大きくなる。
【0015】
また、相変化タイプとしては、印刷時に除去されない親水性層中に、疎水化前駆体粒子を含有させ、露光部を親水性から親油性へと相変化させるというものが挙げられる。
【0016】
このタイプで露光可視画性を付与するには、上述のような赤外線吸収色素の露光退色を利用したものが挙げられる(特許文献2参照)。しかし、親水性層の親水性を維持するためには含有させる赤外線吸収色素も親水性、つまりは水溶性のものを使用することが好ましいが、この場合は印刷中に色素が湿し水中に溶出する場合があり、上記同様の印刷機汚染が多くなる。
【0017】
一方で、色素の溶出がないように非水溶性の色素を用いると、親水性層の親水性が低下し、地汚れ等の問題が生じる。
【0018】
又、印刷機上で現像可能な印刷版材料として、画像形成層中にロイコ色素とその顕色剤といったような感熱発色する素材を含有させ、露光部、即ち親油性の画像部のみを発色させる印刷版材料が知られている(特許文献3参照)。
【0019】
この印刷版材料では、印刷機上で除去される非画像部の画像形成層は比較的着色濃度が低いため、露光退色を利用する方法よりも印刷機汚染(色濁り)は低減するが、発色した画像部にはやはり部分的に耐水性が低い領域が残存することは避けられず、発色画像部による印刷機汚染(色濁り)が生じたり、印刷枚数が多くなると小点の再現性が悪くなったりする場合があった。
【0020】
また、ロイコ色素と顕色剤とをそれぞれ微粒子状の分散体として画像形成層に含有しているため、ロイコ色素微粒子または顕色剤微粒子のいずれか一方が熱により溶融し、他方の微粒子もしくはその溶融物と接触することで初めて発色する機構であるため、赤外線レーザ照射による加熱記録のようなごく短時間の加熱においては発色しにくい(感度が低い)という欠点を有している。
【0021】
これに対し、画像形成層中に酸やラジカルによって発色または変色する色素と光・熱酸発生剤や光・熱ラジカル発生剤とを含有し、同様に露光部の画像部のみを発色させる印刷版材料が知られている(特許文献4参照)。
【0022】
この態様の印刷版材料においては、色素、酸発生剤もしくはラジカル発生剤ともに画像形成層塗布液に用いる溶媒に溶解する素材を選択することで、塗布乾燥により形成された画像形成層中に、色素、酸発生剤もしくはラジカル発生剤を均一に分散することができ、原理的には露光部の発色効率を向上させることが可能となる。しかし、酸発生剤やラジカル発生剤は、通常作業に用いる光源によっても酸やラジカルを発生して発色/変色してしまうため、露光可視画像の安定性が非常に悪いという欠点を有している。また、露光可視画像の検版作業に用いる測定機(濃度測定機や網点%測定機)の測定光によっても発色/変色すると考えられるため、実質的に露光製版の状態を測定することができないという問題点を有している。
【0023】
このように、従来の技術では、プロセスレスCTPにおいて、十分な露光可視画性を付与し、かつ、露光後の取り扱いでの可視画像変化を防止することが非常に困難であった。
【特許文献1】特開2002−205466号公報
【特許文献2】特開平11−240270号公報
【特許文献3】特開2000−225780号公報
【特許文献4】特開2007−50659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、露光可視画性に優れ、かつ、露光後の取り扱いで可視画像が変化しない印刷版材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
【0026】
1.基材上に少なくとも画像形成層を有する印刷版材料において、該画像形成層もしくはその他の構成層に下記の色素前駆体Aと光熱変換素材とを含有することを特徴とする印刷版材料。
色素前駆体A:粒子形態の固体であり、該色素前駆体Aの粒子径が0.05〜2μmの範囲であり、かつ、溶融前の状態と加熱溶融した後に再凝固した状態との色が異なる。
【0027】
2.前記色素前駆体Aが、溶融前の状態では実質的に無色であるか、または、淡色であり、加熱溶融した後に凝固した状態では着色していることを特徴とする1に記載の印刷版材料。
【0028】
3.前記光熱変換素材の少なくとも一部が、前記色素前駆体Aの粒子の表面に偏在していることを特徴とする1または2に記載の印刷版材料。
【0029】
4.前記色素前駆体Aが、有機溶媒中で結晶化されたものであることを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【0030】
5.前記色素前駆体Aが、色素化合物とアミノ化合物との化合物であることを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【0031】
6.前記画像形成層が、近赤外線レーザによる露光で画像形成するネガ型であり、該画像形成層の非画像部が印刷機上で湿し水およびまたはインキを用いて除去可能であることを特徴とする1〜5のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、露光可視画性に優れ、かつ、露光後の取り扱いで可視画像が変化しない印刷版材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0034】
本発明の印刷版材料は、基材上に少なくとも画像形成層を有する印刷版材料において、該画像形成層もしくはその他の構成層に下記の色素前駆体Aと光熱変換素材とを含有することを特徴とする。
色素前駆体A:粒子形態の固体であり、該色素前駆体Aの粒子径が0.05〜2μmの範囲であり、かつ、溶融前の状態と加熱溶融した後に再凝固した状態との色が異なる。
【0035】
本発明においては、画像形成層もしくはその他の構成層に該色素前駆体Aと光熱変換素材とを含有させることで、特に、「加熱前は粒子形態の固体であり、粒子径が0.05〜2μmの範囲であり、加熱溶融前の状態と加熱溶融した後に再凝固した状態との色が異なる色素前駆体A」と「光熱変換素材」とを含有させることにより、露光可視画性に優れ、かつ、露光後の取り扱いで可視画像が変化しない印刷版材料が得られる。
【0036】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0037】
〈色素前駆体A〉
本発明の印刷版材料の画像形成層もしくはその他の構成層には本発明に係る色素前駆体A(と光熱変換素材)を含有する。
【0038】
本発明に係る色素前駆体Aは、粒子形態の固体であり、該色素前駆体Aの粒子径が0.05〜2μmの範囲であり、かつ、溶融前の状態と加熱溶融した後に再凝固した状態との色が異なる。
【0039】
本発明に係る色素前駆体Aは単一の熱溶融性化合物を含む常温で固体の粒子形態を有するものである。
【0040】
色素前駆体Aの融点としては、特に限定されないが、50℃以上200℃未満であることが好ましく、80℃以上150℃未満であることがより好ましい。融点が50℃未満では、保存安定性が劣化する場合がある。また、200℃以上では、感度が不十分となる懸念が生じる。
【0041】
色素前駆体Aの粒子径(不定形粒子の場合は長径を意味する)は0.05〜2μmの範囲である。色素前駆体Aを粒子状の形態に加工する方法としては、公知の種々の方法を用いることができる。
【0042】
例えば、サンドグラインダーのような分散機を用い、適当な分散剤とともに適当な溶媒中で分散処理を行うことで微粒子化することができる。
【0043】
また、色素前駆体Aを適当な溶媒に溶解し、これに色素前駆体Aに対する貧溶媒を加える等で溶液の溶解度を降下させて微粒子を析出させる、いわゆる貧溶媒析出法を用いることができる。
【0044】
貧溶媒析出法とは、有機化合物を有機溶媒等に一旦溶解した後、その有機溶媒と混和し且つその有機化合物が難溶である溶媒、すなわち、貧溶媒と混合することにより、混合溶液における有機化合物の濃度をその溶解度以上とし、その結果、有機化合物微粒子を析出させ、分散液(懸濁液)の状態として微粒子を得る方法である。更に、分散安定性に優れた微粒子懸濁液を得るために、有機化合物溶液及び貧溶媒の一方又は双方に対し、1種類又は2種類以上の分散安定剤を添加してもよい。分散安定剤の選択は、有機化合物や溶媒(有機化合物溶液の溶媒及び貧溶媒)の種類にもよるが、一般的には非イオン系、アニオン系、カチオン系界面活性剤、ポリマー、りん脂質等から選ばれる分散安定剤が用いられる。具体的には、特許第2642486号公報、特開平4−295420号公報、特開昭62−27032号公報等に記載の方法を用いることができる。
【0045】
色素前駆体Aの粒子径を0.05μm未満とした場合、分散安定性を考慮すると色素前駆体Aに対する分散安定剤の比率が高くなり、結果的に色素前駆体A分散体添加量に対する発色効率は低下してしまう懸念がある。また、微粒子化加工のコストも増大する問題点も有する。
【0046】
色素前駆体Aの粒子径が2μmを超えると、短時間加熱では溶融しがたくなって感度が低下し、また、粒子の分布密度の低下によって発色効率も低下する。
【0047】
本発明の色素前駆体Aは、結晶状態と加熱溶融した後に凝固した状態との色が異なるという特性を有する化合物である。色素前駆体Aが、結晶状態では実質的に無色であるか、または、淡色であり、加熱溶融した後に凝固した状態では着色していることがより好ましい態様である。
【0048】
このような化合物としては、例えば、特開平4−213368号公報に記載の特定フルオラン化合物を挙げることができる。この特定フルオラン化合物は、加熱により分解(脱炭酸)することで淡色から黄色〜橙色の不可逆な発色を呈する。
【0049】
また、特表2006−518677号公報に記載の特定フルオレセイン化合物、特定ロードール化合物、特定ローダミン化合物といった、互変異性形態で存在する化合物(無色・淡色の結晶形態と非晶質形態の有色互変異性体を有する)も好ましく用いることができる。この特定化合物は、結晶状態では無色・淡色であるが、加熱溶融させて再凝固させた非晶質状態の異性体では有色となる。
【0050】
さらに、特表2006−518677号公報に記載の特定錯化合物も好ましく用いることができる。この錯化合物は、有色の色素化合物とアミノ化合物との無色・淡色の錯体である。この錯体化合物は、加熱により分解し、有色の色素化合物を生成する。
【0051】
〈光熱変換素材〉
本発明の印刷版材料の画像形成層はさらに光熱変換素材を含有する。光熱変換素材としては、特に限定されないが、下記の具体例の中でも特に赤外線吸収色素を用いることが好ましい。
【0052】
画像形成層に用いられる光熱変換素材は、700以上、好ましくは750〜1200nmの赤外域に光吸収域があり、この波長の範囲の光において、光/熱変換能を発現するものを指し、具体的には、この波長域の光を吸収し熱を発生する種々の色素、もしくは顔料を用いる事ができる。
【0053】
(色素)
色素としては、市販の色素および文献(例えば「色素便覧」有機合成化学協会編集、昭和45年刊)に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ色素、金属錯塩アゾ色素、ピラゾロンアゾ色素、アントラキノン色素、フタロシアニン色素、カルボニウム色素、キノンイミン色素、メチン色素、シアニン色素などの色素が挙げられる。本発明において、これらの顔料、もしくは色素のうち赤外光、もしくは近赤外光を吸収するものが、赤外光もしくは近赤外光を発光するレーザでの利用に適する点で特に好ましい。
【0054】
そのような赤外光、もしくは近赤外光を吸収する色素としては例えば特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭59−202829号、特開昭60−78787号等に記載されているシアニン色素、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等に記載されているメチン色素、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等に記載されているナフトキノン色素、特開昭58−112792号等に記載されているスクワリリウム色素、英国特許434、875号記載のシアニン色素等を挙げることができる。また、色素として米国特許第5、156、938号記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3、881、924号記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号(米国特許第4、327、169号)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号記載のシアニン色素、米国特許第4、283、475号に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号公報に開示されているピリリウム化合物、EpolightIII−178、EpolightIII−130、EpolightIII−125等は特に好ましく用いられる。
【0055】
これらの色素のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、フタロシアニン色素、オキソノール色素、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、チオピリリウム色素、ニッケルチオレート錯体が挙げられる。さらに、下記一般式(a)で示されるシアニン色素は、本発明に係る画像形成層で使用した場合に、アルカリ溶解性樹脂との高い相互作用を与え、且つ、安定性、経済性に優れるため最も好ましい。
【0056】
【化1】

【0057】
一般式(a)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、−NPh、X−L又は以下に示す基を表す。ここで、Xは酸素原子又は、硫黄原子を示し、Lは、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。
【0058】
【化2】

【0059】
上記式中、Xaは、後述するZaと同様に定義され、Raは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。記録層塗布液の保存安定性から、R及びRは、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、さらに、RとRとは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0060】
Ar、Arは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y、Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R、Rは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R、R、R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Zaは、対アニオンを示す。但し、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZaは必要ない。好ましいZaは、記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0061】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、以下に例示するものの他、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]、特開2002−40638号公報の段落番号[0012]〜[0038]、特開2002−23360号公報の段落番号[0012]〜[0023]に記載されたものを挙げることができる。
【0062】
赤外線吸収色素は、感度、耐薬品性、耐刷性の観点から、画像形成層の全固形分に対し0.01〜30質量%、好ましくは0.1〜10質量%、特に好ましくは0.1〜7質量%の割合で添加することができる。
【0063】
【化3】

【0064】
【化4】

【0065】
【化5】

【0066】
(顔料)
顔料としては、市販の顔料およびカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0067】
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレンおよびペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。
【0068】
顔料の粒径は0.01μm〜5μmの範囲にあることが好ましく、0.03μm〜1μmの範囲にあることがさらに好ましく、特に0.05μm〜0.5μmの範囲にあることが好ましい。顔料の粒径が0.01μm未満のときは分散物の画像形成層塗布液中での安定性の点で好ましくなく、また、5μmを越えると画像形成層の均一性の点で好ましくない。顔料を分散する方法としては、インク製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。分散機としては、超音波分散器、サンドミル、アトライター、パールミル、スーパーミル、ボールミル、インペラー、ディスパーザー、KDミル、コロイドミル、ダイナトロン、3本ロールミル、加圧ニーダー等が挙げられる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載がある。
【0069】
顔料は、感度、画像形成層の均一性及び耐久性の観点から、画像形成層の全固形分に対し0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の割合で添加することができる。
【0070】
本発明の印刷版材料の好ましい態様として、該光熱変換素材の少なくとも一部が、該色素前駆体A粒子の表面に偏在していることが挙げられる。具体的には、特開2005−121949号公報に記載の光熱変換素材および方法を用いることができる。
【0071】
(基材)
本発明に係る基材としては、印刷版の基板として使用される公知の材料を使用することができ、例えば、金属板、プラスチックフィルム、ポリオレフィン等で処理された紙、上記材料を適宜貼り合わせた複合基材等が挙げられる。これらの基材表面を親水化処理するか、もしくは、親水性層を形成して用いられる。
【0072】
基材の厚さとしては、印刷機に取り付け可能であれば特に制限されるものではないが、50〜500μmのものが一般的に取り扱いやすい。
【0073】
本発明に係る基材としては、基材表面を親水化処理した金属板が好ましく用いられる。
【0074】
金属板としては、鉄、ステンレス、アルミニウム等が挙げられるが、本発明においては、比重と剛性との関係から、特にアルミニウムまたはアルミニウム合金(以下両者含めてアルミニウム板と称する)が好ましく、加えて、公知の粗面化処理、陽極酸化処理、表面親水化処理のいずれかの処理がなされたもの(所謂アルミ砂目板)がより好ましい。
【0075】
本発明に係る基材として用いるアルミニウム合金としては、種々のものが使用でき、例えば、珪素、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、鉛、ビスマス、ニッケル、チタン、ナトリウム、鉄等の金属とアルミニウムの合金が用いられる。
【0076】
本発明に係る基材として用いられるアルミニウム板は、粗面化(砂目立て処理)するに先立って表面の圧延油を除去するために脱脂処理を施すことが好ましい。脱脂処理としては、トリクレン、シンナー等の溶剤を用いる脱脂処理、ケシロン、トリエタノール等のエマルジョンを用いたエマルジョン脱脂処理等が用いられる。又、脱脂処理には、苛性ソーダ等のアルカリの水溶液を用いることもできる。脱脂処理に苛性ソーダ等のアルカリ水溶液を用いた場合、上記脱脂処理のみでは除去できない汚れや酸化皮膜も除去することができる。脱脂処理に苛性ソーダ等のアルカリ水溶液を用いた場合、基材の表面にはスマットが生成するので、この場合には、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸等の酸、或いはそれらの混酸に浸漬しデスマット処理を施すことが好ましい。粗面化の方法としては、例えば、機械的方法、電解によりエッチングする方法が挙げられる。
【0077】
用いられる機械的粗面化法は特に限定されるものではないが、ブラシ研磨法、ホーニング研磨法が好ましい。ブラシ研磨法による粗面化は、例えば、直径0.2〜0.8mmのブラシ毛を使用した回転ブラシを回転し、基材表面に、例えば、粒径10〜100μmの火山灰の粒子を水に均一に分散させたスラリーを供給しながら、ブラシを押し付けて行うことができる。ホーニング研磨による粗面化は、例えば、粒径10〜100μmの火山灰の粒子を水に均一に分散させ、ノズルより圧力をかけ射出し、基材表面に斜めから衝突させて粗面化を行うことができる。又、例えば、基材表面に、粒径10〜100μmの研磨剤粒子を、100〜200μmの間隔で、2.5×10〜10×10個/cmの密度で存在するように塗布したシートを張り合わせ、圧力をかけてシートの粗面パターンを転写することにより粗面化を行うこともできる。
【0078】
上記の機械的粗面化法で粗面化した後、基材の表面に食い込んだ研磨剤、形成されたアルミニウム屑等を取り除くため、酸又はアルカリの水溶液に浸漬することが好ましい。酸としては、例えば、硫酸、過硫酸、弗酸、燐酸、硝酸、塩酸等が用いられ、塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が用いられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液を用いるのが好ましい。表面のアルミニウムの溶解量としては、0.5〜5g/mが好ましい。アルカリ水溶液で浸漬処理を行った後、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸等の酸或いはそれらの混酸に浸漬し中和処理を施すことが好ましい。
【0079】
電気化学的粗面化法も特に限定されるものではないが、酸性電解液中で電気化学的に粗面化を行う方法が好ましい。酸性電解液は、電気化学的粗面化法に通常用いられる酸性電解液を使用することができるが、塩酸系または硝酸系電解液を用いるのが好ましい。電気化学的粗面化方法については、例えば、特公昭48−28123号公報、英国特許第896、563号公報、特開昭53−67507号公報に記載されている方法を用いることができる。この粗面化法は、一般には、1〜50ボルトの範囲の電圧を印加することによって行うことができるが、10〜30ボルトの範囲から選ぶのが好ましい。電流密度は、10〜200A/dmの範囲を用いることが出来るが、50〜150A/dmの範囲から選ぶのが好ましい。電気量は、100〜5000C/dmの範囲を用いることができるが、100〜2000C/dmの範囲から選ぶのが好ましい。この粗面化法を行う温度は、10〜50℃の範囲を用いることが出来るが、15〜45℃の範囲から選ぶのが好ましい。
【0080】
電解液として硝酸系電解液を用いて電気化学的粗面化を行う場合、一般には、1〜50ボルトの範囲の電圧を印加することによって行うことができるが、10〜30ボルトの範囲から選ぶのが好ましい。電流密度は、10〜200A/dmの範囲を用いることができるが、20〜100A/dmの範囲から選ぶのが好ましい。電気量は、100〜5000C/dmの範囲を用いることができるが、100〜2000C/dmの範囲から選ぶのが好ましい。電気化学的粗面化法を行う温度は、10〜50℃の範囲を用いることができるが、15〜45℃の範囲から選ぶのが好ましい。電解液における硝酸濃度は0.1〜5質量%が好ましい。電解液には、必要に応じて、硝酸塩、塩化物、アミン類、アルデヒド類、燐酸、クロム酸、ホウ酸、酢酸、しゅう酸等を加えることができる。
【0081】
電解液として塩酸系電解液を用いる場合、一般には、1〜50ボルトの範囲の電圧を印加することによって行うことができるが、2〜30ボルトの範囲から選ぶのが好ましい。電流密度は、10〜200A/dmの範囲を用いることができるが、50〜150A/dmの範囲から選ぶのが好ましい。電気量は、100〜5000C/dmの範囲を用いることができるが、100〜2000C/dm、更には200〜1000C/dmの範囲から選ぶのが好ましい。電気化学的粗面化法を行う温度は、10〜50℃の範囲を用いることができるが、15〜45℃の範囲から選ぶのが好ましい。電解液における塩酸濃度は0.1〜5質量%が好ましい。
【0082】
上記の電気化学的粗面化法で粗面化した後、表面のアルミニウム屑等を取り除くため、酸又はアルカリの水溶液に浸漬することが好ましい。酸としては、例えば、硫酸、過硫酸、弗酸、燐酸、硝酸、塩酸等が用いられ、塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が用いられる。
【0083】
これらの中でもアルカリの水溶液を用いるのが好ましい。表面のアルミニウムの溶解量としては、0.5〜5g/mが好ましい。又、アルカリの水溶液で浸漬処理を行った後、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸等の酸或いはそれらの混酸に浸漬し中和処理を施すことが好ましい。
【0084】
機械的粗面化処理法、電気化学的粗面化法はそれぞれ単独で用いて粗面化してもよいし、又、機械的粗面化処理法に次いで電気化学的粗面化法を行って粗面化してもよい。
【0085】
粗面化処理の次には、陽極酸化処理を行うことが好ましい。本発明において用いることができる陽極酸化処理の方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。陽極酸化処理を行うことにより、基材上には酸化皮膜が形成される。該陽極酸化処理には、硫酸及び/又は燐酸等を10〜50質量%の濃度で含む水溶液を電解液として、電流密度1〜10A/dmで電解する方法が好ましく用いられるが、他に、米国特許第1、412、768号公報に記載されている硫酸中で高電流密度で電解する方法や、米国特許第3、511、661号公報に記載されている燐酸を用いて電解する方法、クロム酸、シュウ酸、マロン酸等を一種又は二種以上含む溶液を用いる方法等が挙げられる。形成された陽極酸化被覆量は、1〜50mg/dmが適当であり、好ましくは10〜40mg/dmである。陽極酸化被覆量は、例えばアルミニウム板を燐酸クロム酸溶液(燐酸85%液:35ml、酸化クロム(IV):20gを1Lの水に溶解して作製)に浸漬し、酸化被膜を溶解し、板の被覆溶解前後の質量変化測定等から求められる。
【0086】
陽極酸化処理された基材は、必要に応じ封孔処理を施してもよい。これら封孔処理は、熱水処理、沸騰水処理、水蒸気処理、珪酸ソーダ処理、重クロム酸塩水溶液処理、亜硝酸塩処理、酢酸アンモニウム処理等公知の方法を用いて行うことができる。
【0087】
更に、これらの処理を行った後に、前述の下塗り層を設ける処理として、水溶性の樹脂、例えば、MPCポリマーとして知られるホスホベタイン化合物、ポリビニルホスホン酸、スルホン酸基を側鎖に有する重合体および共重合体、ポリアクリル酸、水溶性金属塩(例えばホウ酸亜鉛)もしくは、黄色染料、アミン塩等を下塗りしたものも好適である。
【0088】
基材として用いられるプラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、セルロースエステル類等のフィルムを挙げることができる。
【0089】
これらプラスチックフィルム上に形成する親水性層としては特に限定されないが、特開2003−231374号公報、特開2003−341250号公報に記載の親水性層を好ましく用いることができる。
【0090】
(画像形成層)
本発明の印刷版材料の画像形成層としては、近赤外線レーザによる露光で画像形成するネガ型であり、該画像形成層の非画像部が印刷機上で湿し水およびまたはインキを用いて除去可能、いわゆる機上現像可能であることが好ましい態様である。露光前の画像形成層は着色濃度の低い状態とし、露光された画像部を発色させて濃度の高い画像とすることで良好な露光可視画性を得るとともに、機上現像される非画像部は着色濃度が低いため、インキや湿し水への汚染を抑制することができる。
【0091】
画像形成層の画像形成機構に関しては、本発明の色素前駆体Aと光熱変換素材とを含有すること以外には特に限定されるものではない。具体的には下記のような画像形成層を用いることができる。
【0092】
(熱可塑性微粒子の融着により画像形成を行うタイプ)
例えば、特開2004−195662号公報、特開2002−251005号公報に記載の画像形成層を用いることができる。
【0093】
(重合性モノマーのラジカル重合により画像形成を行うタイプ)
例えば、特表2005−522362号公報、特開2005−119273号公報に記載の画像形成層を用いることができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断りない限り、実施例中の「部」あるいは「%」の表示は、「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0095】
実施例1
1.1 色素前駆体化合物の作製
(色素前駆体化合物1)
3′、4′、5′、6′−テトラクロロフルオレッセン60質量部と、クロロ蟻酸−tert−ブチルエステル40質量部とをピリジン中にて60℃で3時間反応させた。反応後、反応生成物を酢酸エチルを用いて抽出し、水洗した後、溶媒を除去した。次いで、エタノールを用いて反応生成物を再結晶させ、実質的に無色の3、6−ジ(tert−ブトキシカルボキシ)−3′、4′、5′、6′−テトラクロロフルオランの結晶を得た。このフルオラン化合物結晶を加熱していくと、190℃で完全に溶融して橙色に発色し、これを冷却して常温に戻して再度固体としても橙色の発色を維持していた。
【0096】
(色素前駆体化合物2)
3−ヒドロキシ−6−ジメチルアミノフルオラン52質量部と、クロロ蟻酸−tert−ブチルエステル48質量部とをピリジン中にて60℃で3時間反応させた。反応後、反応生成物を酢酸エチルを用いて抽出し、水洗した後、溶媒を除去した。次いで、エタノールを用いて反応生成物を再結晶させ、ごくわずかに赤く着色した淡色の3−(tert−ブトキシカルボキシ)−6−ジメチルアミノフルオランの結晶を得た。このフルオラン化合物結晶を加熱していくと、190℃で完全に溶融して赤色に発色し、これを冷却して常温に戻して再度固体としても赤色の発色を維持していた。
【0097】
(色素前駆体化合物3)
色素:ベンジルフルオレセインと錯化剤アミノ化合物:エチルピコリン酸をモル比1/1の割合で混合し、70℃に加熱したメチルエチルケトン30質量部、シクロヘキサン70質量部の混合溶媒中に溶解した。次いで、この溶液を除冷していき、ベンジルフルオレセインとエチルピコリン酸の錯化物の結晶を析出させた。ろ過してこの析出物を取り出した後、析出物をメチルエチルケトン50質量部、シクロヘキサン50質量部の混合溶媒で洗浄して着色物を取り除いた。洗浄後の析出物を乾燥させて、実質的に無色のベンジルフルオレセインとエチルピコリン酸の錯化物の結晶を得た。この錯化物結晶を加熱していくと、150℃で完全に溶融して黄色に発色し、これを冷却して常温に戻して再度固体としても黄色の発色を維持していた。
1.2 色素前駆体A−1水分散体〜色素前駆体A−4水分散体(微粒子分散物)の作製
(色素前駆体A−1水分散体)
得られた色素前駆体化合物1:18g、カルボキシメチルセルロース:CMC1220(ダイセル化学社製)の4質量%水溶液50g、純水32gを混合し、サンドグラインダーで4時間分散した。分散には粒径が0.3mmΦのジルコニアビーズを用い、分散時の回転数は1500rpmであった。
【0098】
次いで純水100gを加えて500rpmで10分間混合希釈した後、ビーズを取り除いた。これをろ過して2μm以上の粗大粒子を取り除き、10質量%濃度の色素前駆体A−1水分散体を得た。
【0099】
色素前駆体A−1水分散体をさらに希釈した後、親水性下塗層を有する100μm厚のPETフィルム上に塗布し、乾燥して、フィルム上に色素前駆体A−1粒子がほぼ離散した状態で固定させた。これを、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて常法により観察し、50個の粒子についての長径を求めて平均粒径を算出した。色素前駆体A−1の平均粒径は0.6μmであり、0.2μmから1.4μmまでの粒径分布を有していた。
【0100】
(色素前駆体A−2水分散体)
色素前駆体化合物2を用い、分散時間を6時間とした以外は色素前駆体A−1水分散体と同様にして、10質量%の色素前駆体A−2水分散体を得た。同様の方法で求めた色素前駆体A−2の平均粒径は0.4μmであり、0.1μmから1.2μmまでの粒径分布を有していた。
【0101】
(色素前駆体A−3水分散体)
色素前駆体化合物3を用い、分散時間を6時間とした以外は色素前駆体A−1水分散体と同様にして、10質量%の色素前駆体A−3水分散体を得た。同様の方法で求めた色素前駆体A−3の平均粒径は0.4μmであり、0.1μmから1.2μmまでの粒径分布を有していた。
【0102】
(色素前駆体A−4水分散体)
色素前駆体A−2水分散体を固形分30質量%まで濃縮した。この濃縮分散体20gを攪拌しながら、下記構造の赤外線吸収色素1の2質量%IPA(イソプロピルアルコール)溶液を、マイクロシリンジを用いて分散液中にごく少量ずつ、15gまで添加した。次いで、純水を加えて固形分10質量%に調整した。これを色素前駆体A−4水分散体とした。
【0103】
赤外線吸収色素1は水/IPA混合溶媒には溶解しないため、析出するが、その際、色素前駆体A−2粒子の表面に選択的に析出すると考えられる。得られた分散体は不透明な薄緑色を呈した均一な分散液であり、赤外線吸収色素1が単体で析出したと見られる濃緑色の沈殿物はほとんど見られなかった。
【0104】
上述と同様の方法で、フィルム上に色素前駆体A−4粒子がほぼ離散した状態で固定させた。これをマイクロスコープ:VHX−100(キーエンス社製)で1000〜3000倍の倍率で観察したところ、粒子表面が緑色に着色している(赤外線吸収色素1が付着している)ことが確認できた。
【0105】
【化6】

【0106】
1.3 ロイコ色素分散体、顕色剤分散体の作製
(ロイコ色素水分散体)
色素前駆体化合物1に変えてロイコ色素:クリスタルバイオレットラクトンを用いた以外は色素前駆体A−1水分散体と同様にして、10質量%のロイコ色素水分散体を得た。同様の方法で求めたロイコ色素の平均粒径は0.7μmであり、0.2μmから1.5μmまでの粒径分布を有していた。
【0107】
(顕色剤水分散体)
ロイコ色素に変えて顕色剤:4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホンを用いた以外はロイコ色素水分散体と同様にして、10質量%の顕色剤水分散体を得た。同様の方法で求めた顕色剤の平均粒径は0.6μmであり、0.2μmから1.4μmまでの粒径分布を有していた。
1.4 基材の作製
a.基材1
厚さ0.24mmのアルミニウム板(材質1050、調質H16)を、50℃の1質量%水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、溶解量が2g/mになるように溶解処理を行い水洗した後、25℃の5質量%硝酸水溶液中に30秒間浸漬し、中和処理した後水洗した。
【0108】
次いでこのアルミニウム板を、塩酸11g/L、アルミを1.5g/L含有する電解液により、正弦波の交流を用いて、ピーク電流密度が80A/dmの条件で電解粗面化処理を行った。この際の電極と試料表面との距離は10mmとした。電解粗面化処理は6回に分割して行い、一回の処理電気量(陽極時)を50C/dmとし、合計で300C/dmの処理電気量(陽極時)とした。また、各回の粗面化処理の間に4秒間の休止時間を設けた。
【0109】
電解粗面化後は、50℃に保たれた10質量%リン酸水溶液中に浸漬して、粗面化された面のスマット含めた溶解量が0.6g/mになるようにエッチングし、水洗した。次いで、20質量%硫酸水溶液中で、4A/dmの電流密度で付量2.5g/mの陽極酸化皮膜を形成させる条件で陽極酸化処理を行い、さらに水洗した。
【0110】
次いで、水洗後の表面水をスクイーズした後、70℃に保たれた0.5質量%のリン酸二水素Na水溶液に15秒間浸漬し、水洗を行った後に80℃で5分間乾燥した。
【0111】
次いで、アルにニウム板の粗面化された表面に下記の下塗層塗布液Aを、乾燥付量が0mg/mとなるようにワイヤーバーを用いて塗布し、100℃で1分間乾燥して、下塗層を有する基材1を得た。基材1の表面粗さはRaで0.35μmであった。
【0112】
(下塗層塗布液A)
下記のホスホベタイン化合物1 0.3質量部
純水 94.7質量部
エチルアルコール 5.0質量部
【0113】
【化7】

【0114】
[表面粗さの測定方法]
試料表面に白金ロジウムを1.5nmの厚さで蒸着した後、WYKO社製の非接触三次元粗さ測定装置:RST plusを用いて、20倍の条件(222.4μm×299.4μmの測定範囲)で測定し、傾き補正およびMedian Smoothingのフィルターをかけて測定データを処理してRa値を求めた。測定は一試料について測定箇所を変えて5回行い、その平均を求めてRa値とした。
【0115】
b.基材2
下塗層塗布液Aを下記の下塗層塗布液Bに変更し、かつ、下塗層の付量を10mg/mに変更した以外は基材1と同様にして、基材2を得た。基材2の表面粗さも同様にRaで0.35μmであった。
【0116】
(下塗層塗布液B)
ホスマーPE(ユニケミカル社製) 0.2質量部
純水 79.8質量部
エチルアルコール 20.0質量部
1.5 印刷版材料(熱可塑性微粒子の融着により画像形成を行うタイプ)
(熱可塑性微粒子1の作製)
2リットルの4つ口フラスコに、脱イオン水312質量部、Newcol 707SF(日本乳化剤製、固形分30質量%)2.3質量部を加え、窒素置換後、80℃に昇温した。下記組成のプレエマルジョンを滴下する直前に0.7質量部の過硫酸アンモニウムを加え、プレエマルジョンを3時間にわたって滴下した。
【0117】
脱イオン水 350質量部
ダイアセトンアクリルアミド 65質量部
アクリル酸 65質量部
スチレン 98質量部
メチルメタクリレート 370質量部
2−エチルヘキシルアクリレート 52質量部
Newcol 707SF 60質量部
過硫酸アンモニウム 1.2質量部
滴下終了後30分より、30分間0.7質量部の過硫酸アンモニウムを7質量部の脱イオン水に溶かした溶液を滴下し、さらに2時間80℃に保持し、その後約50℃に降温した後、アンモニア水でpHを8〜9の範囲内に調整し、固形分50質量%、平均粒子径100nmの熱可塑性微粒子1のエマルジョンとして熱可塑性微粒子1エマルジョンを得た。熱可塑性微粒子1のTgは80℃であった。
【0118】
(画像形成層塗布液の作製)
下記の画像形成層塗布液組成の各素材を十分に混合攪拌し、ろ過して、固形分濃度5質量%の各画像形成層塗布液1〜6を作製した。素材の添加順としては、熱可塑性微粒子1エマルジョンに純水を添加し、次いで、これを攪拌しながらその他の素材を添加して混合した。
【0119】
画像形成層塗布液組成
【0120】
【表1】

【0121】
【化8】

【0122】
(印刷版材料の作製)
基材1の砂目表面に、画像形成層塗布液1〜6をそれぞれワイヤーバーを用いて塗布し、55℃で3分間乾燥した。この際、画像形成層の乾燥付量は1.0g/mとなるように調整した。次いで、これに50℃24時間のエイジング処理を施して、印刷版材料1〜6を得た。
【0123】
(赤外線レーザ方式による画像形成)
各印刷版材料を露光ドラムに巻付け固定した。露光には波長830nm、スポット径約18μmのレーザビームを用い、2400dpi(dpiとは、2.54当たりのドット数を表す。)、175線で画像を形成した。露光した画像はベタ画像と1〜99%の網点画像とを含むものである。露光エネルギーは200mJ/cmから50mJ刻みで400mJ/cmまでとした。
【0124】
(露光可視画性の評価)
各露光エネルギーでの露光部の視認性を評価した。評価は下記の指標の5段階評価とした。結果を表2に示した。
【0125】
5:5%網点の露光部も含めて良好な視認性を有する
4:10%網点の露光部は視認することができるが、5%網点の露光部は視認できない
3:30%網点の露光部は視認することができるが、10%網点の露光部は視認できない
2:ベタ露光部はわずかに視認できるが、30%以下の網点部が全く視認できない
1:露光部が全く視認できない。
【0126】
(印刷方法)
印刷機:三菱重工業社製DAIYA1F−1を用いて、コート紙、湿し水:アストロマーク3(日研化学研究所製) 2質量%、インキ(東洋インキ社製トーヨーキングハイユニティM紅)を使用して印刷を行った。
【0127】
露光後の印刷版材料をそのまま版胴に取り付け、PS版と同様の印刷条件および刷り出しシークエンスを用いて印刷を開始し、20000枚までの印刷を行った。
【0128】
(印刷評価)
[刷り出し性の評価]
刷り出しから何枚目の印刷物で良好な画像が得られるかを求めた。この際、評価は300mJ/cmの露光エネルギーで画像形成した箇所で行った。良好な画像とは、地汚れがなく、かつ、ベタ画像部の濃度が1.5以上であることとした。結果を表2に示した。
【0129】
[耐刷性の評価]
印刷1000枚ごとに印刷物をサンプリングし、300mJ/cmの露光エネルギーで画像形成した箇所の3%網点の欠けおよびベタ画像部の画像劣化の程度を確認した。3%網点の欠けが確認できた時点、または、ベタ画像部において目視でカスレが確認できた時点、のどちらか早い方を耐刷終点とし、その印刷枚数を耐刷枚数とした。結果を表2に示した。
【0130】
【表2】

【0131】
表2から、本発明の印刷版材料は露光可視画性に優れ、かつ、刷り出し性および耐刷性も良好であることがわかる。比較の印刷版材料5は露光可視画剤の含有量としては印刷版材料1〜4と同じであるが、露光可視画性が大きく劣る。印刷版材料6のように露光可視画剤の含有量を増加させると露光可視画性はやや良化するが、相対的に画像形成材料(熱可塑性微粒子)の含有量が減少するため、刷り出し時の着肉性が劣化し、また、耐刷性が大きく劣化してしまう。
1.6 印刷版材料(重合性モノマーのラジカル重合により画像形成を行うタイプ)
(重合性化合物を内包するマイクロカプセル1の作製)
油相成分として、トリメチロールプロパンとキシレンジイソシアナート付加体:タケネートD−110N(三井武田ケミカル社製)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート:A−TMM−3(新中村化学社製)3.5g、下記の赤外線吸収色素3 0.4g、及びパイオニンA−41C(竹本油脂社製)0.1gを酢酸エチル18gに溶解した。
【0132】
水相成分として部分ケン化ポリビニルアルコール:PVA−205(クラレ社製)の4質量%水溶液40gを調製した。
【0133】
油相成分及び水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、40℃に昇温してさらに3時間攪拌してマイクロカプセル1を形成させた。次いで、蒸留水を用いて固形分濃度を20質量%に調整し、さらにろ過して重合性化合物を内包するマイクロカプセル1の分散体を得た。前述と同様の方法でマイクロカプセルの粒径を確認したところ、平均粒径は0.4μmであり、0.05μmから1.6μmまでの分布を有していた。
【0134】
【化9】

【0135】
(画像形成層塗布液の作製)
下記の画像形成層塗布液組成の各素材を十分に混合攪拌し、ろ過して、固形分濃度5質量%の各画像形成層塗布液7〜10を作製した。
【0136】
【表3】

【0137】
【化10】

【0138】
(印刷版材料の作製)
基材2の砂目表面に、画像形成層塗布液7〜10をそれぞれワイヤーバーを用いて塗布し、55℃で3分間乾燥した。この際、画像形成層の乾燥付量は0.8g/mとなるように調整した。
【0139】
次に、PVA−205(クラレ社製)の4質量%水溶液(サーフィノール465を0.1質量%含む)を画像形成層上に塗布し、55℃で3分間乾燥してオーバーコート層を形成した。この際、オーバーコート層の乾燥付量は1.2g/mとなるように調整した。
【0140】
次いで、これに50℃24時間のエイジング処理を施して、印刷版材料7〜10を得た。
【0141】
(赤外線レーザ方式による画像形成)
印刷版材料(熱可塑性微粒子の融着により画像形成を行うタイプ)の場合と同様にして行った。
【0142】
(露光可視画性評価)
印刷版材料(熱可塑性微粒子の融着により画像形成を行うタイプ)の場合と同様にして行った。結果を表4に示した。
【0143】
(印刷方法)
露光済の印刷版材料を印刷機に取り付ける前に、水洗してオーバーコート層を除去し、乾燥した。それ以外は印刷版材料(熱可塑性微粒子の融着により画像形成を行うタイプ)の場合と同様にして印刷を行った。
【0144】
(印刷評価)
印刷版材料(熱可塑性微粒子の融着により画像形成を行うタイプ)の場合と同様にして評価を行った。結果を表4に示した。
【0145】
【表4】

【0146】
表4に示したように、重合タイプの印刷版材料においても、熱可塑性微粒子の融着により画像形成を行うタイプの印刷版材料と同様に、本発明の印刷版材料は露光可視画性に優れ、かつ、刷り出し性および耐刷性も良好であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に少なくとも画像形成層を有する印刷版材料において、該画像形成層もしくはその他の構成層に下記の色素前駆体Aと光熱変換素材とを含有することを特徴とする印刷版材料。
色素前駆体A:粒子形態の固体であり、該色素前駆体Aの粒子径が0.05〜2μmの範囲であり、かつ、溶融前の状態と加熱溶融した後に再凝固した状態との色が異なる。
【請求項2】
前記色素前駆体Aが、溶融前の状態では実質的に無色であるか、または、淡色であり、加熱溶融した後に凝固した状態では着色していることを特徴とする請求項1に記載の印刷版材料。
【請求項3】
前記光熱変換素材の少なくとも一部が、前記色素前駆体Aの粒子の表面に偏在していることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷版材料。
【請求項4】
前記色素前駆体Aが、有機溶媒中で結晶化されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【請求項5】
前記色素前駆体Aが、色素化合物とアミノ化合物との化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【請求項6】
前記画像形成層が、近赤外線レーザによる露光で画像形成するネガ型であり、該画像形成層の非画像部が印刷機上で湿し水およびまたはインキを用いて除去可能であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の印刷版材料。

【公開番号】特開2010−64294(P2010−64294A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230585(P2008−230585)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】