説明

印刷物用表面保護剤及び印刷物の表面保護方法

【課題】白金触媒の失活のおそれがない非シリコーン系材料等からなる、高速印刷等をした場合であっても、コスレ防止性能等を発揮できる印刷物用表面保護剤、及びそれを用いた印刷物の表面保護方法を提供する。
【解決手段】(A)水100重量部に対して、(B)脂肪酸グリコールエステル、脂肪族アルコール、脂肪族アルコールエステル、脂肪族エーテル、及び脂肪酸モノアルキロールアミドからなる群より選択される少なくとも一種の非水溶性脂肪族化合物を0.01〜10重量部、(C)界面活性剤を0.01〜20重量部の範囲でそれぞれ含む水分散体としての印刷物用表面保護剤、およびそれを用いてなる印刷物の表面保護方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物用表面保護剤及び印刷物の表面保護方法に関する。特に、非シリコーン系材料等からなる、印刷物表面を効率的に保護するために塗布する印刷物用表面保護剤、及びそのような印刷物用表面保護剤を用いた印刷物の表面保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、輪転印刷機を用いて得られる印刷物の表面に対して、後工程としての折り工程や裁断工程で、これらの工程を実施するための機械装置との間の摩擦によって、表面に傷が入らないように、いわゆるコスレ防止剤と呼ばれる印刷物用表面保護剤が塗布されている。
ここで、このような印刷物用表面保護剤として、シリコーンオイルおよび界面活性剤を含んでなるシリコーンオイルエマルジョンが提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
より具体的には、カチオン性界面活性剤に水を添加して液晶を形成し、この液晶とオルガノポリシロキサンを混合撹拌し、その混合物に、水を混合してなる水性エマルションであって、エマルション粒子の平均粒径が10μm以下である印刷紙用表面処理剤が開示されている。
【0003】
また、印刷物の帯電性や滑走性、あるいはコスレ性や湿潤性を改善するために、所定のポリエチレンオキシドを必須成分とするオフセット輪転印刷用の濃縮帯電防止剤組成物が提案されている。(例えば、特許文献2参照)。
より具体的には、分子量200〜8000の水溶性高分子であって、所定構造式を有するポリエチレンオキシドを必須成分とし、界面活性剤および水をさらに含んでなるオフセット輪転印刷用の濃縮帯電防止剤組成物が開示されている。
【0004】
また、耐摩擦性能と適度な滑り性を両立させることのできるポリオレフィンワックスを含有する水性分散液からなるオフセット印刷機用のウェブコーター液が提案されている。(例えば、特許文献3参照)
より具体的には、ポリエチレンワックスを0.1〜3.0重量%含有する水性分散液からなるウェブコーター液であって、該水性分散液中の総不揮発分が0.2〜10.0重量%であり、かつ該ポリエチレンワックスの総不揮発分に占める割合が5〜100重量%であるオフセット印刷機用のウェブコーター液が開示されている。
【0005】
また、オフセット印刷におけるコスレ防止、静電気除去および滑り助長を向上させるとともに、白金触媒の被毒を防止することを目的とした非シリコーン系界面活性剤を含むオフセット印刷用コート剤が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
より具体的には、エマルジョン型樹脂と、粒状ワックスと、非シリコーン系界面活性剤と、を含むオフセット印刷用コート剤であって、エマルジョン型樹脂のガラス転移点を0〜80℃の範囲内の値とし、粒状ワックスの平均粒径を2〜10μmの範囲内の値とし、固形分濃度を0.6〜4重量%の範囲内の値としたオフセット印刷用コート剤である。
そして、非シリコーン系界面活性剤として、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル重合物系界面活性剤が好ましいとして、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11 −12985号公報
【特許文献2】特開2009−72979号公報
【特許文献3】特開平10 −287060号公報
【特許文献4】特開2007−296637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された印刷物用表面保護剤は、シリコーンポリマー等のシリコーン系化合物を用いていることから、空気中にシリコーン系化合物が飛散し、それが、燃焼触媒として用いられる白金触媒を失活させやすいという問題が見られた。
すなわち、印刷装置の乾燥時の排ガスを低温燃焼し、無臭化するための処理装置の燃焼触媒として用いられる白金触媒が、飛散したシリコーン系化合物により被毒し、失活しやすいという問題が見られた。したがって、高価な白金触媒の交換のために、所定の印刷作業を、しばしば中断しなければならず、経済的に不利益であるという問題が見られた。
【0008】
また、特許文献2に開示されたオフセット輪転印刷用の濃縮帯電防止剤組成物は、印刷速度が比較的遅い場合、例えば、400rpmでは、所定のコスレ防止性能を発揮することができるものの、印刷速度が比較的早い場合、例えば、回転数が800rpmにおいては、所定のコスレ防止性能を発揮できないという問題が見られた。
より具体的には、印刷装置における印刷速度が比較的早い場合、印刷物を所定方向に流すためのガイドロールや、印刷物を流れ方向に二つ折りするためのホーマーや、印刷物の流れ方向を変えるためのターンバー、あるいは、裁断して、折り加工を施した印刷物をコンベアに送るための羽根車等の付随装置において、それぞれ印刷物の表面にコスレ傷が発生しやすいという問題が見られた。
【0009】
また、特許文献3に開示されたオフセット印刷機用ウェブコーター液を用いた場合、印刷装置におけるホーマーやターンバーのエアー噴出口に、ポリオレフィンワックスが堆積し、それがインキと混じることにより、黒い米粒大の硬質物質になるという問題が見られた。すなわち、かかる硬質物質が、印刷物の表面にさらに付着したり、印刷物に対して、こすれ傷を生じさせやすいという問題が見られた。
その上、塗布ロール周辺において、ポリオレフィンワックス成分に起因した固形物(微粉)が堆積し、印刷環境を悪化させるという問題も見られた。
【0010】
さらに、特許文献4に開示されたオフセット印刷用コート剤は、所定粒径の粒状ワックスを含んでいるものの、特許文献2と同様に、印刷速度が比較的早い場合においては、所定のコスレ防止性能を発揮できないという問題が見られた。
また、特許文献4に開示されたオフセット印刷用コート剤の場合、相当量のエマルジョン型樹脂や粒状ワックスを含んでいることから、特許文献3と同様に、付随装置等において、黒い米粒大の硬質物質が発生しやすいという問題が見られた。
【0011】
そこで、本発明者らは、以上のような事情に鑑み、鋭意努力したところ、所定の非水溶性脂肪族化合物(例えば、脂肪族化合物の薄片状結晶化物)と、界面活性剤と、水と、を、それぞれ所定量含んでなる印刷物用表面保護剤を、印刷物の表面に塗布することによって、印刷物の印刷速度が比較的遅い場合はもちろんのこと、印刷速度が高速であっても、あるいは、長期間連続印刷したような場合であっても、所定のコスレ防止性能等を発揮できることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の目的は、白金触媒の失活のおそれが少ない非シリコーン系材料等からなる、印刷速度にかかわらず、優れたコスレ防止性能が得られる印刷物用表面保護剤、及びそのような印刷物用表面保護剤を用いた印刷物の表面保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、下記(A)〜(C)成分を含有する水分散体であることを特徴とする印刷物用表面保護剤が提供され、上述した問題を解決することができる。
(A)水:100重量部
(B)脂肪酸グリコールエステル、脂肪族アルコール、脂肪族アルコールエステル、脂肪族エーテル、及び脂肪酸モノアルキロールアミドからなる群より選択される少なくとも一種の非水溶性脂肪族化合物:0.01〜10重量部
(C)界面活性剤:0.01〜20重量部
このように、所定量の水と、所定の非水溶性脂肪族化合物と、界面活性剤とを含む水分散体から、印刷物用表面保護剤を構成し、印刷物に対して、希釈後あるいは粘度調整した原液等として、塗布することによって、高速印刷あるいは長期間印刷した場合であっても、印刷物の円滑な進行が確保され、所定のコスレ防止性能等を効果的に発揮することができる。
一方、本発明の印刷物用表面保護剤は、非シリコーン系材料から構成されていることから、処理装置における排ガスの燃焼触媒として用いられる白金触媒の失活の問題が生じることもない。
なお、後述するように、(C)成分である界面活性剤は、その全部または一部を、(B)成分である非水溶性脂肪族化合物と予め加熱溶融混合して、共晶を有する薄片状脂肪族化合物の一部として添加することが好ましい。
したがって、所定量の界面活性剤を考慮して、界面活性剤の残分がある場合については、最終調整する際に、後から、その残分を添加することになる。
また、本発明の印刷物用表面保護剤の配合量記載において、(A)〜(C)成分あるいは後述する(D)〜(E)成分とも、所定量の揮発成分を含む場合であっても、主成分からそれを除いた換算値で示してある。
【0013】
また、本発明の印刷物用表面保護剤を構成するにあたり、(B)成分としての非水溶性脂肪族化合物の融点を35℃以上の値とすることが好ましい。
このように、融点が所定温度の非水溶性脂肪族化合物を用いることにより、印刷装置が高速回転し、印刷物が高速で摩擦発熱したような場合であっても、所定形状を保持しながら、印刷物における所定のコスレ防止性等を効果的に発揮することができる。
【0014】
また、本発明の印刷物用表面保護剤を構成するにあたり、(B)成分としての非水溶性脂肪族化合物を薄片状とすることが好ましい。
このような非水溶性脂肪族化合物を含んで印刷物用表面保護剤を構成することにより、薄片状の脂肪族化合物が、塗布時に紙面方向に沿って平行に配向しやすくなって、少量の配合であっても、印刷物の表面を効率的に隠蔽することができる。
したがって、印刷装置により高速回転印刷した場合であっても、長期間印刷した場合であっても、比較的少量の非水溶性脂肪族化合物の配合でもって、それぞれ得られる印刷物に対して、所定のコスレ防止性等をさらに効果的に発揮することができる。
なお、非薄片状の脂肪族化合物、例えば、球状の脂肪族化合物と比較して、薄片状の脂肪族化合物は、紙の繊維の隙間やインキに埋没することが少なく、コスレ傷防止能を有効に発揮するものと思料される。
【0015】
また、本発明の印刷物用表面保護剤を構成するにあたり、(C)成分としての界面活性剤が、カチオン系界面活性剤としての炭素数10〜22の脂肪酸に由来したジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、又は、炭素数10〜22の脂肪酸に由来したモノアルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩型カチオン系界面活性剤を含むことが好ましい。
このように、所定のカチオン系界面活性剤を含んで印刷物用表面保護剤を構成することにより、帯電防止能が向上し、紙揃え性が良好になるばかりか、印刷物に対して、所定のコスレ防止性能等をさらに効果的に発揮することができる。
【0016】
また、本発明の印刷物用表面保護剤を構成するにあたり、(D)成分として、帯電防止剤をさらに含有するとともに、当該(D)成分の含有量を(A)成分としての水100重量部に対して、0.1〜20重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
このように印刷物用表面保護剤を構成することにより、所定のコスレ防止性を維持しながら、所定の帯電防止効果についても効果的に発揮することができる。
なお、(B)成分の非水溶性脂肪族化合物と、(C)成分の界面活性剤とが共晶反応して、共晶構造を形成する場合には、コスレ防止能に付加して、帯電防止効果を効率的に発揮することから、(D)成分としての帯電防止剤の含有量を、(A)成分としての水100重量部に対して、0.1重量部未満とすることも好ましい。
【0017】
また、本発明の印刷物用表面保護剤を構成するにあたり、(E)成分として、粘度調整剤をさらに含有するとともに、当該(E)成分の含有量を、(A)成分としての水100重量部に対して、0.001〜30重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
このように印刷物用表面保護剤を構成することにより、周囲温度の変化や、界面活性剤の種類や配合量等の変化によって、印刷物用表面保護剤が、過度に高粘度や低粘度になりやすい場合であっても、印刷物用表面保護剤を使用する際の粘度を適当な範囲内の値に調整することができる。
【0018】
また、本発明の印刷物用表面保護剤を構成するにあたり、(B)成分である非水溶性脂肪族化合物と、(C)成分である界面活性剤とが、共晶反応して、共晶構造を有することが好ましい。
このように印刷物用表面保護剤を構成することにより、帯電防止剤を省略したり、あるいは、帯電防止剤の配合量を可及的に少なくしたりすることができる。すなわち、(B)成分および(C)成分の反応物における共晶構造に起因して、帯電防止効果を効率的に発揮することができるためである。
【0019】
また、本発明のさらに別の態様は、(A)水100重量部に対して、(B)脂肪酸グリコールエステル、脂肪族アルコール、脂肪族アルコールエステル、脂肪族エーテル、及び脂肪酸モノアルキロールアミドからなる群より選択される少なくとも一種の非水溶性脂肪族化合物を0.01〜10重量部、(C)界面活性剤を0.01〜20重量部の範囲でそれぞれ含む水分散体としての印刷物用表面保護剤を用いてなる印刷物の表面保護方法であって、下記工程(i)〜(iii)を含むことを特徴とする印刷物の表面保護方法である。
(i)印刷媒体に対し、印刷用インクを用いて印刷を行い、印刷物を得る印刷工程
(ii)印刷物の表面に対し、印刷物用表面保護剤を塗布する塗布工程
(iii)印刷物用表面保護剤を乾燥させて、表面保護部材を形成する形成工程
このように表面保護方法を実施することにより、印刷装置による速度が比較的高速回転であっても、長期間印刷した場合であっても、それぞれ得られる印刷物に対して、その表面に形成される表面保護部材が、所定のコスレ防止性等を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、薄片状脂肪族化合物の平面状態を説明するために供するレーザー顕微鏡写真である。
【図2】図2(a)〜(b)は、印刷物表面における薄片状脂肪族化合物の平面状態および配向状態を説明するために供する模式図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、本発明の印刷物用表面保護剤を用いた印刷物に対する表面保護方法の手順を説明するために供する図である。
【図4】図4は、本発明の印刷物用表面保護剤を用いるオフセット印刷装置の概略を説明するために供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、下記(A)〜(C)成分を含有する水分散体であることを特徴とする印刷物用表面保護剤である。
(A)水:100重量部
(B)脂肪酸グリコールエステル、脂肪族アルコール、脂肪族アルコールエステル、脂肪族エーテル、及び脂肪酸モノアルキロールアミドからなる群より選択される少なくとも一種の非水溶性脂肪族化合物:0.01〜10重量部
(C)界面活性剤:0.01〜20重量部
なお、図1は、第1の実施形態の印刷物用表面保護剤に用いる薄片状脂肪族化合物2を説明するために供するレーザー顕微鏡(レーザーテック(株)製、オプテリクスC130)を用いて撮影した写真であり、図2(a)〜(b)は、印刷物5の表面における薄片状脂肪族化合物2の平面状態および配向状態を説明するために供する模式図である。
以下、適宜図面を参照しながら、構成要件ごとに、印刷物用表面保護剤を具体的に説明する。
【0022】
1.(A)成分
(1)水性材料
第1の実施形態の印刷物用表面保護剤は、相当量の水を含む水分散体(但し、8重量%未満の範囲であれば、アルコールを含む場合がある。)とすることによって、適用する印刷物を侵すことなく、所定の表面保護部材を形成することができる。
また、印刷物用表面保護剤が相当量の水を含む水分散体であれば、製造時や保管時、あるいは、水希釈時や塗布時等を含めて、取扱いについても容易になる。
【0023】
(2)配合量
また、(A)成分としての水の配合量を、印刷物用表面保護剤の全体量に対して、通常、80〜99.7重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる水の配合量が、80重量%未満の値となると、印刷物に適用した場合に、表面がべたついたり、印刷物同士が貼りついたり、水性材料としての取扱いが困難となったりする場合があるためである。
一方、かかる水の配合量が、99.7重量%を超えると、所定の保護膜を安定的に形成することが困難となって、所定のコスレ防止性能等を発揮することが困難となる場合があるためである。
したがって、印刷物用表面保護剤の全体量に対して、(A)成分としての水の配合量を、85〜99.5重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、88〜99.3重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましく、90〜99重量%の範囲内の値とすることが最も好ましい。
なお、印刷物用表面保護剤の原液として構成する場合、すなわち、所定量の水を追加希釈して、印刷物用表面保護剤とする場合の原液組成としては、(A)成分としての水の配合量を、印刷物用表面保護剤の全体量に対して、例えば、50〜95重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
【0024】
2.(B)成分
(1)種類
(B)成分として、脂肪酸グリコールエステル、脂肪族アルコール、脂肪族アルコールエステル、脂肪族エーテル、及び脂肪酸モノアルキロールアミドからなる群より選択される少なくとも一種の非水溶性脂肪族化合物を配合することを特徴とする。
この理由は、これらの非水溶性脂肪族化合物であれば、結晶化して、所定形状を保持しやすいためである。すなわち、非水溶性脂肪族化合物を含む印刷物用表面保護剤として適用した場合に、印刷物の表面において、所定の表面保護部材を形成し、コスレ防止性能等を効果的に発揮することができる。
また、脂肪族化合物が非水溶性であることから、水あるいは水溶性溶媒と混合した場合に、溶解することなく、所定形状の表面保護部材を含む水分散体として構成することができるためである。
なお、非水溶性脂肪族化合物における非水溶性の目安としては、25℃の水100gに対する非水溶性脂肪族化合物の溶解度として、0.1g以下であることが好ましく、0.01g以下であることがより好ましい。
【0025】
ここで、(B)成分としての脂肪酸グリコールエステル(脂肪酸アルキレングリコールエステル)は、具体的に、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0026】
Y−O−(A−O)−COR (1)
【0027】
(一般式(1)中、Rは、炭素数13〜21の炭化水素基であり、Yは、水素原子又は、COR(Rは、炭素数13〜21の炭化水素基である。)で表わされる基であり、記号Aは、炭素数2または3のアルキレン基であり、繰り返し数nは、1〜3の自然数である。)
【0028】
より具体的に、脂肪酸グリコールエステルの好適例としては、モノミリスチン酸エチレングリコール、モノパルミチン酸エチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、モノベヘニン酸エチレングリコール、ジミリスチン酸エチレングリコール、ジパルミチン酸エチレングリコール、ジステアリン酸エチレングリコール、ジベヘニン酸エチレングリコール、モノミリスチン酸ジエチレングリコール、モノパルミチン酸ジエチレングリコール、モノステアリン酸ジエチレングリコール、モノベヘニン酸ジエチレングリコール、ジミリスチン酸ジエチレングリコール、ジパルミチン酸ジエチレングリコール、ジステアリン酸ジエチレングリコール、ジベヘニン酸ジエチレングリコール、モノミリスチン酸トリエチレングリコール、モノパルミチン酸トリエチレングリコール、モノステアリン酸トリエチレングリコール、モノベヘニン酸トリエチレングリコール、ジミリスチン酸トリエチレングリコール、ジパルミチン酸トリエチレングリコール、ジステアリン酸トリエチレングリコール、ジベヘニン酸トリエチレングリコール、ジミリスチン酸プロピレングリコール、ジパルミチン酸プロピレングリコール、ジステアリン酸プロピレングリコール、ジベヘニン酸プロピレングリコール、ジミリスチン酸ジプロピレングリコール、ジパルミチン酸ジプロピレングリコール、ジステアリン酸ジプロピレングリコール、ジベヘニン酸ジプロピレングリコール等の一種単独または二種以上の組み合わせである。
【0029】
また、脂肪族アルコールとしては、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0030】
−OH (2)
【0031】
(一般式(2)中、Rは、炭素数16〜22の炭化水素基である。)
【0032】
より具体的に、脂肪族アルコールの好適例としては、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の一種単独または二種以上の組み合わせである。
【0033】
また、脂肪族アルコールエステルとしては、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0034】
−CO−O−R (3)
【0035】
(一般式(3)中、RおよびRは、それぞれ独立であって、同一でも異なっていてもよく、炭素数13〜22の炭化水素基である。)
【0036】
より具体的には、脂肪族アルコールエステルの好適例としては、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸セチル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル等の一種単独または二種以上の組み合わせである。
【0037】
また、脂肪族エーテルとしては、下記一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0038】
−O−R (4)
【0039】
(一般式(4)中、RおよびRは、それぞれ独立であって、同一でも異なっていてもよく、炭素数8〜36のアルキル基、又はアルケニル基である。)
【0040】
より具体的に、脂肪酸エーテルの好適例としては、ジオクタデシルエーテル、ジベヘニルエーテル、ヘキサデシルドコシルエーテル、オクタデシルドコシルエーテル、オクタデシルトリアコンチルエーテル等の一種単独または二種以上の組み合わせである。
【0041】
さらに、脂肪酸モノアルキロールアミドとしては、下記一般式(5)で表される化合物であることが好ましい。
【0042】
−CO−NH−ROH (5)
【0043】
(一般式(5)中、Rは、炭素数11〜21の炭化水素基であり、Rは、エチレン基又はプロピレン基である。)
【0044】
より具体的に、脂肪酸モノアルキロールアミドの好適例としては、ラウリン酸モノエタノールアミド、ラウリン酸モノプロパノールアミド、ラウリン酸モノイソプロパノールアミド、ミリスチン酸モノエタノールアミド、ミリスチン酸モノプロパノールアミド、ミリスチン酸モノイソプロパノールアミド、パルミチン酸モノエタノールアミド、パルミチン酸モノプロパノールアミド、パルミチン酸モノイソプロパノールアミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、ステアリン酸モノプロパノールアミド、ステアリン酸モノイソプロパノールアミド、ベヘニン酸モノエタノールアミド、ベヘニン酸モノプロパノールアミド、ベヘニン酸モノイソプロパノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノプロパノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノイソプロパノールアミド、ヤシ科植物油脂肪酸モノエタノールアミド等の一種単独または二種以上の組み合わせである。
これらのうち、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、パルミチン酸モノエタノールアミド及びステアリン酸モノエタノールアミドが、特に好ましい脂肪酸モノアルキロールアミドである。
【0045】
(2)融点
また、非水溶性脂肪族化合物における融点を35℃以上の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる非水溶性脂肪族化合物における融点が35℃未満の値となると、高速印刷した場合に、摩擦熱で溶解してしまい、所定形状を保持することが困難となって、それに伴い、安定的にコスレ防止効果を発揮することが困難となる場合があるためである。
但し、かかる非水溶性脂肪族化合物における融点が過度に高くなって、例えば、150℃を超えると、滑剤としての効果が著しく低下する場合がある。
また、かかる非水溶性脂肪族化合物における融点が過度に高くなると、融解温度が溶媒としての水の沸点付近となって、当該水が沸騰するおそれが生じるためでもあり、高圧乳化設備等の特殊生産設備が必要となる場合がある。
したがって、非水溶性脂肪族化合物における融点を40〜99℃の範囲内の値とすることがより好ましく、45〜98℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、非水溶性脂肪族化合物における融点は、JISK7196に準拠して、測定することができる。
【0046】
(3)形状
また、(B)成分としての非水溶性脂肪族化合物が、図1、あるいは図2(a)の平面図および図2(b)の側面図に、それぞれ示すように、薄片状であることが好ましい。
より具体的には、薄片状脂肪族化合物の平均径(円相当径)を1〜100μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる薄片状脂肪族化合物の平均径が、1μm未満の値となると、安定的に製造することが困難となったり、印刷物に対するコスレ防止効果が著しく低下したりする場合があるためである。
一方、かかる薄片状脂肪族化合物の平均径が、100μmを超えると、同じく安定的に製造することが困難となったり、印刷物に対する塗布性が著しく低下したりする場合があるためである。すなわち、薄片状脂肪族化合物の平均径が所定値以上となると、塗布装置における供給パンや、印刷物用表面保護剤のタンクの表面でスカムとして浮上してしまい、均一に塗布することが困難となる場合があるためである。
したがって、薄片状脂肪族化合物の平均径を2〜80μmの範囲内の値とすることがより好ましく、3〜20μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
但し、(B)成分としての非水溶性脂肪族化合物の形状に関して、薄片状の粒子が複数個からなる凝集物として、一塊になっていても良い。
その他、薄片状脂肪族化合物における平均径は、薄片状脂肪族化合物を所定平面に配向させた状態の円相当径の算術平均値であって、JIS Z 8901に準拠して、顕微鏡法により複数個を実測して、その算術平均値とすることもできるし、あるいはそれを画像処理装置によって、データ処理し、それから得られた値を算術平均値とすることもできる。
【0047】
また、(B)成分としての薄片状脂肪族化合物の平均厚さを0.01〜10μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる薄片状脂肪族化合物の平均厚さが、0.01μm未満の値となると、安定的に製造することが困難となったり、印刷物に対するコスレ防止効果が低下したりする場合があるためである。
一方、かかる薄片状脂肪族化合物の平均厚さが、10μmを超えると、配向性が低下するためと思料するが、相当量添加しないと、印刷物に対するコスレ防止効果が低下したりする場合があるためである。
したがって、薄片状脂肪族化合物の平均厚さを0.02〜10μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.05〜5μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、薄片状脂肪族化合物における平均厚さは、図2(b)の側面図に示すように、薄片状脂肪族化合物を所定平面に配向させた状態での薄片の平均厚さであって、JIS Z 8901に準拠して、レーザー顕微鏡(レーザーテック(株)製オプテリクスC130)等を用い、複数個を希釈状態で実測して、その算術平均値とすることもできるし、あるいはそれを画像処理装置によって、データ処理し、それから得られた値を算術平均値とすることもできる。
【0048】
さらに、薄片状脂肪族化合物における平均径/平均厚さで表わされる平均アスペクト比を5〜500の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる薄片状脂肪族化合物の平均アスペクト比が、5未満の値となると、配向性が低下するためと思料するが、相当量添加しないと、印刷物に対するコスレ防止効果が低下する場合があるためである。
一方、かかる薄片状脂肪族化合物の平均アスペクト比が、500を超えると、安定的に製造することが困難となったり、印刷物に対する塗布性が低下したりする場合があるためである。
したがって、薄片状脂肪族化合物の平均アスペクト比を10〜400の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜300の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0049】
(4)配合量
また、(B)成分としての非水溶性脂肪族化合物の配合量を、(A)成分としての水100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲内の値とする。
この理由は、かかる非水溶性脂肪族化合物の配合量が、0.01重量部未満の値となると、コスレ防止性等を効果的に発揮することが困難となったり、滑剤としての特性が著しく低下したり、強い摩擦によって、過度に帯電したりして印刷物の紙揃え性が低下する場合があるためである。
一方、かかる非水溶性脂肪族化合物の配合量が、10重量部を超えると、過度に滑り過ぎて紙揃え性を悪化させる場合があるためである。
したがって、(B)成分としての非水溶性脂肪族化合物の配合量を、(A)成分としての水100重量部に対して、0.01〜5重量部の範囲内の値とすることが好ましく、0.02〜3重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0050】
(5)製造方法1
また、(B)成分としての薄片状脂肪族化合物の製造方法(結晶化)については特に制限されるものではないが、例えば、以下の工程(a)〜(b)を経て製造されることが好ましい。
(a)脂肪酸グリコールエステル等の非水溶性脂肪族化合物と、界面活性剤と、水とを、所定量混合し、非水溶性脂肪族化合物の融点以上、例えば、35〜99℃に加熱し乳化機を用いて乳化液とする乳化工程
(b)得られた乳化液を、所定温度(例えば、室温)まで冷却して、薄片状脂肪族化合物とする結晶化工程
【0051】
(6)製造方法2
また、(B)成分としての薄片状脂肪族化合物の製造方法(結晶化)に関して、以下の工程(a´)〜(b´)を経て製造されることも好ましい。
(a´)非水溶性脂肪族化合物と、後述する(C)成分である界面活性剤とを、両者を均一に加熱溶解させる工程
(b´)加熱溶解物を、冷却して、非水溶性脂肪族化合物と、界面活性剤と、が共晶反応してなる薄片状脂肪族化合物とする工程
例えば、(a´)工程において、(B)成分の非水溶性脂肪族化合物と、(C)成分界面活性剤と、を混合した後、(B)成分の非水溶性脂肪族化合物の融点(例えば、35〜98℃)以上に予め加熱して、成分(B)及び(C)の混合物を均一に溶解させることが好ましい。
また、(b´)工程においては、滴下装置を用いて、成分(B)及び(C)の混合物を、成分(B)及び(C)の混合物の析出温度(高温液状の溶融物を冷却して固体が析出してくる温度)から1〜40℃低い温度に調整した攪拌状態の水に対して滴下した後、所定温度(例えば、室温)まで冷却して、界面活性剤と共晶反応してなる薄片状脂肪族化合物とすることも好ましい。
すなわち、このように製造することにより、非水溶性脂肪族化合物が、界面活性剤との間で共晶構造を備えやすくなって、帯電防止性を有する薄片状脂肪族化合物を効率的に得ることができる。
【0052】
3.(C)成分
(1)種類
(C)成分としての界面活性剤の種類は特に制限されるものでなく、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、非イオン界面活性剤、あるいは両性界面活性剤のいずれの界面活性剤についても使用することができる。
但し、カチオン系界面活性剤としての炭素数10〜22の脂肪酸に由来したジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、又は、炭素数10〜22脂肪酸に由来したモノアルキルトリメチルアンモニウムクロライドを用いることがより好ましい。
この理由は、このような炭素数を有する4級アンモニウム塩型カチオン系界面活性剤を用いることによって、(B)成分としての非水溶性脂肪族化合物を乳化する際の乳化剤として作用するだけでなく、帯電防止性能等をさらに効果的に発揮することができるためである。
【0053】
また、(C)成分としての界面活性剤として、より具体的には、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジミリスチルジメチルアンモニウムクロライド、ジパルミチルジメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジベヘニルジメチルアンモニウムクロライド、モノデシルトリメチルアンモニウムクロライド、モノラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、モノミリスチルトリメチルアンモニウムクロライド、モノパルミチルトリメチルアンモニウムクロライド、モノオレイルトリメチルアンモニウムクロライド、モノステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、モノベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0054】
また、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジミリスチルジメチルアンモニウムクロライド、ジパルミチルジメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジベヘニルジメチルアンモニウムクロライド等の一種単独または二種以上の組み合わせについては、乳化機能に優れているばかりか、帯電防止効果にも優れていることから、好ましい界面活性剤である。
【0055】
さらに、モノデシルトリメチルアンモニウムクロライド、モノラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、モノミリスチルトリメチルアンモニウムクロライド、モノパルミチルトリメチルアンモニウムクロライド、モノステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、モノオレイルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等の一種単独または二種以上の組み合わせについては、乳化機能に優れているばかりか、粘度低減機能や表面張力低下機能にも優れていることから、好ましい界面活性剤である。
【0056】
(2)配合量
また、(C)成分としての界面活性剤の配合量を、(A)成分としての水100重量部に対して、0.01〜20重量部の範囲内の値とする。
この理由は、かかる界面活性剤の配合量が、0.01重量部未満の値となると、非水溶性脂肪族化合物の分散性や乳化性が低下し、乳化時の界面活性剤不足により、脂肪族化合物の粒子径を所定範囲に調整したり、薄片形状に調整したりすることが困難となる場合があるためである。その結果として、印刷物用表面保護剤における滑剤としての特性が著しく低下し、印刷物の紙揃え性が低下したり、過度に帯電したりする場合があるためである。
一方、かかる界面活性剤の配合量が、20重量部を超えると、高粘度となって水希釈が困難になったり、過度に印刷物に塗布されて、印刷物表面におけるべたつきが過度に発生したりする場合があるためである。
したがって、(C)成分としての界面活性剤の配合量を、(A)成分としての水100重量部に対して、0.1〜15重量部の範囲内の値とすることが好ましく、0.2〜10重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0057】
4.(D)成分
(1)種類
また、(D)成分として、帯電防止剤を配合することが好ましい。
この理由は、帯電防止剤を配合することによって、印刷物用表面保護剤における安定性が向上するとともに、印刷物に対して高速印刷した場合であっても、静電気の発生を防止して、容易に紙揃えを行うことができるためである。
ここで、好ましい帯電防止剤として、1−ヒドロキシエチル−1−メチル−2−ステアリルイミダゾリニウムクロライド、1−ヒドロキシエチル−1−メチル−2−ラウリルイミダゾリニウムクロライド、1−ヒドロキシエチル−1−メチル−2−牛脂イミダゾリニウムクロライド、1−ヒドロキシエチル−1−メチル−2−大豆油イミダゾリニウムクロライド、1−ヒドロキシエチル−1−メチル−2−ヤシ油イミダゾリニウムクロライド、ジラウリルイミダゾリウムメトサルフェート、ジオレイルイミダゾリウムメトサルフェート、およびジステアリルイミダゾリウムメトサルフェート等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
なお、(D)成分として、帯電防止剤と称する市販の配合薬剤を使用することも可能である。
【0058】
(2)配合量
また、(D)成分としての帯電防止剤の配合量は、その目的等に応じて変化する場合があるが、通常、(A)成分としての水100重量部に対して、0.1〜20重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、帯電防止剤の種類にもよるが、かかる帯電防止剤の配合量が、0.1重量部よりも少なくなると、添加効果が発現しない場合があるためである。
一方、帯電防止剤の配合量が、過度に多くなって、例えば、20重量部を超えると、高粘度となって水希釈が困難になったり、過度に印刷物に塗布されて保護膜を形成した場合に、表面がべたつきやすい等の問題が生じたりする場合があるためである。
したがって、(D)成分としての帯電防止剤の配合量を、(A)成分としての水100重量部に対して、0.5〜15重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、1〜10重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0059】
5.(E)成分
(1)種類
また、(E)成分として、印刷物用表面保護剤に対して、各種添加剤を配合することも好ましい。
このような添加剤としては、例えば、界面活性剤(但し、(C)成分としての界面活性剤以外の界面活性剤、あるいは、後添加するための(C)成分と同一の界面活性剤である。)、乳化助剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、導電性付与剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、保護コロイド剤、pH調整剤、滑剤、滑走抑制剤等の一種単独または二種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0060】
特に、印刷物用表面保護剤の取り扱いや保存管理が容易になるとともに、より安定的かつ均一に、印刷物に対して、塗布することができることから、粘度調整剤は、好適な添加剤として挙げられる。
すなわち、周囲温度の変化や、界面活性剤の種類や配合量等の変化によって、印刷物用表面保護剤が、過度に高粘度や低粘度になりやすい場合が生じるが、粘度調整剤の添加によって、印刷物用表面保護剤を使用する際の粘度を適当な範囲内の値に調整することができるためである。
そして、粘度調整剤の種類についても特に制限されるものでないが、例えば、粘度を低下させるための粘度調整剤(減粘剤)としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の一種単独または二種以上の組合わせが挙げられる。
【0061】
(2)配合量
また、(E)成分としての各種添加剤の配合量は、その目的等に応じて変更する場合があるが、通常、(A)成分としての水100重量部に対して、0.001〜30重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、添加剤の種類にもよるが、添加剤の配合量が、0.001重量部よりも少なくなると、添加効果が発現しない場合があるためである。
一方、各種添加剤の配合量が、過度に多くなって、例えば、30重量部を超えると、高粘度となって水希釈が困難になったり、過度に印刷物に塗布されて保護膜を形成した場合に、表面がべたつきやすい等の問題が生じたりする場合があるためである。
したがって、(E)成分としての添加剤の配合量を、(A)成分としての水100重量部に対して、0.003〜20重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、0.005〜10重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0062】
6.印刷物用表面保護剤の実施態様
印刷物用表面保護剤は、所定量の水等を加えて、希釈して使用する場合、すなわち、原液としての実施態様であることも好ましいし、あるいは、水等を加えることなく、そのまま使用する実施態様も好ましい。
そして、原液の場合の印刷物用表面保護剤の粘度に関しても、希釈液としての印刷物用表面保護剤の粘度等が調整しやすいことから、測定温度25℃において、20〜4000mPa・secの範囲内の値とすることが好ましく、30〜3000mPa・secの範囲内の値とすることがより好ましい。
さらに、希釈液の場合の印刷物用表面保護剤、すなわち、印刷物の表面保護方法の実施に使用される印刷物用表面保護剤の粘度に関して、測定温度25℃において、0.1〜1000mPa・secの範囲内の値とすることが好ましく、0.5〜300mPa・secの範囲内の値とすることがより好ましく、1〜100mPa・secの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0063】
また、印刷物用表面保護剤が、所定量の水を予め含む希釈液としての実施態様である場合、その表面張力を32〜45mN/mの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このように表面張力を制限することにより、各種印刷物との親和性が良好となって、均一な表面保護膜を形成することができるためである。
【0064】
そして、このような表面張力の値に制御するためには、以下の方策をとることが好ましい。
1)アセチレノールや、これにエチレンオキサイドを付加した化合物等の界面活性剤を添加する。
2)アルキルアルコールに、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを反応させてなる化合物等の非イオン性界面活性剤を添加する。
3)炭素数10〜22の脂肪酸に由来したジアルキルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤を添加する。
4)炭素数10〜22の脂肪酸に由来したモノアルキルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤を添加する。
すなわち、既に配合済みの(C)成分である界面活性剤とともに、同一または類似の界面活性剤を、さらに所定量配合し、印刷物用表面保護剤の表面張力を所定範囲内の値に調整することが好ましい。
【0065】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態の印刷物用表面保護剤を用いた印刷物の表面保護方法であって、下記工程(i)〜(iii)を含むことを特徴とする印刷物の表面保護方法である。
(i)印刷媒体に対し、印刷用インクを用いて印刷を行い、印刷物を得る印刷工程
(ii)印刷物の表面に対し、印刷物用表面保護剤を塗布する塗布工程
(iii)印刷物用表面保護剤を乾燥させて、表面保護部材を形成する形成工程
以下、図3(a)〜(c)および図4を参照しながら、印刷物の表面に対する印刷物用表面保護剤を用いた表面保護方法を具体的に説明する。
【0066】
1.印刷物用表面保護剤
第1の実施形態の印刷物用表面保護剤(希釈タイプ)で説明した内容とすることができるため、ここでのさらなる説明は省略する。
【0067】
2.(i)工程
(i)工程は、図3(a)に示すように、印刷媒体4に対し、印刷装置を用いて、印刷用インク3による所定印刷を行い、印刷物5を得る印刷工程である。
このような(i)工程を実施する印刷装置の態様としては特に制限されるものでないが、例えば、図4に例示するオフセット輪転印刷装置100、あるいは、グラビア印刷装置、スクリーン印刷装置、インクジェット印刷装置等の少なくとも一つとすることが好ましい。
【0068】
3.(ii)工程
(ii)工程は、図3(b)に示すように、印刷物5の表面に対し、印刷物用表面保護剤2´を塗布する塗布工程である。
ここで、印刷用保護剤2´の塗布量は印刷物の基材や用途等に応じて変更することもできるが、通常、50〜1000mg/m2の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる印刷用保護剤の塗布量が、50mg/m2未満の値となると、印刷物において、静電気が発生しやすくなったり、印刷物に対するコスレ防止効果が発現しない場合があるためである。
一方、かかる印刷用保護剤の塗布量が、1000mg/m2を超えると、表面のべたつき感が大きくなって、紙同士が貼りつきやすくなったり、しわが発生しやすくなったりするためである。
したがって、印刷用保護剤の塗布量を100〜600mg/m2の範囲内の値とすることがより好ましく、150〜500mg/m2の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0069】
そして、図4に示すようなオフセット輪転印刷装置100において、本願発明の印刷物用表面保護剤は、所定のコスレ防止効果等を発揮しやすいという特徴がある。
すなわち、かかるオフセット輪転印刷装置100は、典型的に、給紙機10と、インフィード機20と、印刷ユニット30と、乾燥機40と、ウェブの冷却機50と、表面処理装置60と、折り裁断機(ホーマー)80と、スタッカー90とを、備えて構成されている。また、ウェブの冷却機50は、冷却ローラ50aと、ノズル50bと、から構成されている。
ここで、給紙機10には、ロール状に巻かれた印刷媒体としてのウェブ、例えば、紙ロールが配置されるとともに、それを連続的に繰り出すための構成部材である。また、インフィード機20は、印刷媒体としてのウェブを所定位置の経路に精度良く導くための構成部材である。
また、印刷ユニット30には、オフセット印刷ヘッドが備えてあり、所定の印刷用インクを、印刷媒体としてのウェブの所定場所に、塗布するための構成部材である。
また、乾燥機40は、印刷媒体としてのウェブ上に印刷された印刷用インキを熱風乾燥し、印刷物とするための構成部材である。
また、ウェブの冷却機50は、冷却ローラ50aと、ウェブに加湿剤を塗布するノズル50bと、から構成されており、印刷物を冷却するとともに、必要とされる湿気を付与するための構成部材である。
また、折り裁断機80は、所定大きさの印刷物を裁断して折り出す、例えば、ウェブをB3サイズに切断して二つ折するための構成部材である。
さらにまた、スタッカー90は、印刷物を所定の大きさに切断して折られた紙を、指定枚数毎に層状に揃えて結束するための構成部材である。
【0070】
そして、表面処理装置60は、例えば、ウェブの冷却機50と、折り裁断機80との間に位置し、本願発明の印刷物用表面保護剤(希釈液)を塗布する構成部材である。
より具体的には、図4中に、拡大図を示すが、印刷物用表面保護剤の供給パン61a、61bと、塗布ロール64a、64bと、切替弁65と、くみ上げポンプ63と、印刷物用表面保護剤のタンク62と、その間の循環路とから構成されている。
すなわち、印刷物用表面保護剤のタンク62から、くみ上げポンプ63によって、くみ上げられた印刷物用表面保護剤は、切替弁(流量調節弁)65を介して、供給パン61a、61bのいずれか、あるいは両方に送液される。次いで、塗布ロール64a、64bによって、例えば、100〜800m/分のライン速度で移動する印刷物の表面(表面および裏面、あるいはいずれか一方)に塗布されることになる。
【0071】
そして、本願発明の印刷物用表面保護剤によれば、(A)成分としての水は、印刷物の表面に塗布された瞬時に、蒸発したり、あるいは、印刷物の厚み方向に浸透することから、薄片状脂肪族化合物が印刷物の表面に残り、表面保護部材が形成されることになる。すなわち、表面に突出した表面保護部材の働きによって、印刷物の表面のコスレ防止等の効果が発揮されることになる。
一方、印刷物用表面保護剤は、基本的に常時撹拌されており、塗布ロール64a、64bにおいて使用されなかった印刷物用表面保護剤は、供給パン61a、61bから別の循環路を通って、印刷物用表面保護剤のタンク62に戻されることになる。
【0072】
4.(iii)工程
次いで、(iii)工程は、図3(c)に示すように、印刷物用表面保護剤を乾燥させて、表面保護部材2を形成する形成工程である。
ここで、かかる表面保護部材の平均厚さ(平均高さ)を0.01〜10μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる表面保護部材の平均厚さが、0.01μm未満の値となると、印刷物において、静電気が発生しやすくなったり、印刷物に対するコスレ防止効果が著しく低下したりする場合があるためである。
一方、かかる表面保護部材の平均厚さが、10μmを超えると、表面のべたつき感が大きくなって、紙同士が貼りつきやすくなったり、しわが発生しやすくなったりするためである。
したがって、表面保護部材の平均厚さを0.02〜10μmの範囲内の値とすることが好ましく、0.05〜5μmの範囲内の値とすることがより好ましい。
なお、表面保護部材における平均厚さ(平均高さ)は、レーザー顕微鏡法により実測することもできるし、あるいはそれを画像処理装置によって、データ処理し、それから得られた値を算術平均値として算出することができる。
【0073】
なお、本発明の印刷物用表面保護剤は、所定の表面保護部材を形成し、印刷装置を用いて、長時間にわたって高速印刷した場合であっても、得られる印刷物に対して、コスレ傷防止能を有効に発揮することができる。
そして、高速印刷のため、余剰な水分は自然に乾燥し、実質的に表面保護部材が印刷物(ウェブ)上に形成されることから、表面処理装置の後段において、乾燥装置を設けることを省略することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。ただし、言うまでもなく、本発明の範囲は、特に理由なく、以下の記載に何ら制限されるものではない。
【0075】
[実施例1]
1.印刷物用表面保護剤の作成
乳化攪拌装置付きの容器内に、水100重量部に対して、表1中、脂肪酸化合物1としてのジステアリン酸モノエチレングリコール(融点:63℃、表1中、脂肪族化合物1と表記する。)を1重量部と、界面活性剤組成物1としての所定の界面活性剤混合物(ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド:ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド:ジデシルジメチルアンモニウムクロライド=10:65:25重量%である配合組成物)を8重量部と、を収容した後、撹拌しながら、温度80℃に昇温して、乳化物を作成した。
次いで、得られた乳化物を、結晶が生成する温度以下(例えば、30℃以下)まで冷却して、薄片状脂肪族化合物を生成させ、実施例1の印刷物用表面保護剤(原液)とした。
次いで、印刷物用表面保護剤としての評価を行うにあたり、得られた印刷物用表面保護剤(原液)に対して、さらに水400重量部を配合し、均一になるまで攪拌して、評価用の印刷物用表面保護剤(希釈液)とした。
すなわち、得られた印刷物用表面保護剤(希釈液)の配合組成としては、水100重量部に対して、脂肪酸化合物1(ジステアリン酸モノエチレングリコール)が0.2重量部、界面活性剤組成物1(混合物)が1.6重量部の割合である。
【0076】
2.印刷物用表面保護剤の評価
(1)形状性評価(評価1)
得られた薄片状脂肪族化合物の形状性を評価した。すなわち、得られた印刷物用表面保護剤(原液)を、水を用いて、約3000倍に希釈した後、光学顕微鏡(倍率1000倍)を用いて観察し、以下の基準に沿って、形状性を評価した。
○:全体的、または、ほぼ全体的に、均一な薄片形状物として、観察される状態。
△:薄片形状物および不定形固体粒子が、混在して観察される状態。
×:不定形または結晶化されていない、あるいは固形粒子が確認できない状態。
【0077】
(2)光沢性評価(評価2)
得られた印刷物用表面保護剤(原液)に含まれる薄片状脂肪族化合物の光沢性を評価した。
すなわち、印刷物用表面保護剤(原液)を、水を用いて約10倍に希釈し、希釈物とした。次いで、得られた希釈物80mLを、100mLビーカーに採取し、それをスパチュラで攪拌しながら、目視観察し、以下の基準に沿って、薄片状脂肪族化合物の光沢性を評価した。
○:流れに沿って、きらきらとした光沢感が容易に観察される。
△:濁りがあり、きらきらとした光沢が注視すると観察される。
×:白色または半透明で、スパチュラで攪拌しても流れが確認し難い。
【0078】
(3)耐コスレ性の評価(評価3)
印刷物用表面保護剤(希釈液)の耐コスレ性を評価した。すなわち、図4に示すオフセット輪転印刷装置100を用いて、回転速度800rpmの条件で、所定の印刷物を高速回転印刷した。その際に、印刷物用表面保護剤(希釈液)を印刷物表面に塗布し、得られた印刷物の表面において、コスレ傷が発生したか否かを目視観察し、以下の基準に沿って耐コスレ性を評価した。
◎:10時間以上、連続印刷しても、印刷物にコスレ傷は観察されなかった。
○:5時間以上、連続印刷しても、印刷物にコスレ傷は観察されなかった。
△:1時間以上、連続印刷しても、印刷物にコスレ傷は観察されなかった。
×:1時間未満の連続印刷において、印刷物にコスレ傷が観察された。
【0079】
(4)帯電防止性の評価(評価4)
印刷物用表面保護剤(希釈液)の帯電防止性を評価した。すなわち、オフセット輪転機のホーマーの直前箇所において、静電電位測定器(シシド静電気製スタチロンDZ−3)を用いて、印刷物表面における静電気圧を測定し、以下の基準に沿って、帯電防止性を評価した。
◎:測定値が1kV以下である。
○:測定値が5kV以下である。
△:測定値が20kV以下である。
×:測定値が20kVを越える。
【0080】
(5)紙揃え性の評価(評価5)
印刷物用表面保護剤(希釈液)の紙揃え性を評価した。すなわち、スタッカーを用い、所定大きさに裁断し、かつ折加工を施した印刷物を、1000枚づつ揃えて束ね、結束された任意の10束を取り出し、その状態を目視観察し、以下の基準に沿って紙揃え性を評価した。
◎:10束中、飛び出した印刷物は、0である。
○:10束中、飛び出した印刷物は、1束以下である。
△:10束中、飛び出した印刷物は、2束以下である。
×:10束中、飛び出した印刷物は、3束以上である。
【0081】
[実施例2]
実施例2においては、実施例1の配合成分において、非水溶性脂肪族化合物の種類の影響を検討した。
すなわち、表1に示すように、脂肪族化合物1としてのジステアリン酸モノエチレングリコールにかえて、脂肪族化合物2としてのステアリン酸ステアリル(融点59℃)としたほかは、実施例1と同様に、印刷物用表面保護剤を作成し、評価した。
なお、印刷物用表面保護剤としての評価を行うにあたり、得られた印刷物用表面保護剤(原液)に対して、さらに水400重量部を配合し、均一になるまで攪拌して、評価用の印刷物用表面保護剤(希釈液)とした。
したがって、得られた印刷物用表面保護剤(希釈液)の配合組成は、水100重量部に対して、脂肪族化合物2(ステアリン酸ステアリル)が0.2重量部、界面活性剤組成物1(混合物)が1.6重量部である。
【0082】
[実施例3〜6]
実施例3〜6において、非水溶性脂肪族化合物の種類(ジステアリン酸モノエチレングリコール)を限定しつつ、その配合量の影響を、実施例1と同様に検討した。
すなわち、非水溶性脂肪族化合物の配合量を、水100重量部に対して、実施例3では、0.1重量部とし、実施例4では1重量部とし、実施例5では、3重量部とし、実施例6では、5重量部とした。
また、実施例3〜6において、それぞれ界面活性剤組成物2(ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド:ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド:ジデシルジメチルアンモニウムクロライド=5:70:25重量%)を、水100重量部に対して、15重量部、配合した。
なお、印刷物用表面保護剤としての評価を行うにあたり、得られた印刷物用表面保護剤(原液)に対して、さらに水400重量部を配合し、均一になるまで攪拌して、評価用の印刷物用表面保護剤(希釈液)とした。
【0083】
[実施例7〜10]
実施例7〜10において、非水溶性脂肪族化合物の種類(ジステアリン酸モノエチレングリコール)および配合量(1重量部)に限定しつつ、界面活性剤の種類およびその配合量の影響を、実施例1と同様に印刷物用表面保護剤を作成し、検討した。
すなわち、実施例7〜8においては、界面活性剤組成物3として、所定の界面活性剤混合物(ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、モノステアリルトリメチルアンモニウムクロライド=10:65:25重量%)を用い、その配合量を、水100重量部に対して、実施例7では、5重量部とし、実施例8では、20重量部とし、それぞれ印刷物用表面保護剤(原液)を作成した。
また、実施例9〜10においては、界面活性剤組成物4として、所定の界面活性剤混合物(ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド=10:65:25重量%)を用い、その配合量を、水100重量部に対して、実施例9では、5重量部とし、実施例10では、20重量部とし、それぞれ印刷物用表面保護剤(原液)を作成した。
なお、印刷物用表面保護剤としての評価を行うにあたり、得られた印刷物用表面保護剤(原液)に対して、さらに水400重量部を配合し、均一になるまで攪拌して、評価用の印刷物用表面保護剤(希釈液)とした。
【0084】
[実施例11〜14]
実施例11〜14においては、実施例1、2、7、9に対応して製造方法を変更し、非水溶性脂肪族化合物を界面活性剤とともに、予め加熱溶融混合しておき、それを温水に投入し、冷却することで共晶構造を有する薄片状脂肪族化合物とする製造方法を採用したほかは、実施例1に準じて、印刷物用表面保護剤を作成し、評価した。
すなわち、実施例11を例にとって説明すると、攪拌装置および滴下装置付きの容器内に、脂肪酸グリコールエステルとしてのジステアリン酸モノエチレングリコール(融点:63℃)を1重量部と、界面活性剤組成物1として、所定の界面活性剤混合物(ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド=10:65:25重量%)を8重量部の割合(すなわち、脂肪酸グリコールエステル100重量部に対して、界面活性剤組成物1を800重量部の割合)で収容し、それらを撹拌しながら、温度80℃に昇温して、原材料を均一溶液とした。
次いで、攪拌装置付の別のタンクに、水100重量部を収容し、45℃に加温し、攪拌しながら、上記均一溶液を滴下し、さらに撹拌しながら、室温25℃まで冷却することによって、界面活性剤との共晶構造を有する薄片状脂肪族化合物を生成させ、実施例11の印刷物用表面保護剤(原液)とした。
次いで、印刷物用表面保護剤としての評価を行うにあたり、得られた印刷物用表面保護剤(原液)に対して、さらに水400重量部を配合し、均一になるまで攪拌して、評価用の印刷物用表面保護剤(希釈液)とした。
なお、他の実施例12、13、14においても、実施例11と同様に印刷物用表面保護剤(原液)を作成し、それを水希釈して、印刷物用表面保護剤(希釈液)として評価した。
【0085】
[実施例15]
実施例15においては、(D)成分としての帯電防止剤の配合量の影響を検討した。
すなわち、実施例15においては、実施例7で作成した印刷物用表面保護剤(原液)を用い、当該印刷物用表面保護剤(原液)に対して、水400重量部と、帯電防止剤としてのジオレイルイミダゾリウムメトサルフェートを5重量部と、をそれぞれ添加し、均一になるまで攪拌して、印刷物用表面保護剤(希釈液)とし、実施例1と同様に評価した。
なお、得られた印刷物用表面保護剤(希釈液)の配合組成は、水100重量部に対して、脂肪族化合物が0.2重量部、4級カチオン系界面活性剤が1重量部、帯電防止剤が1重量部である。
【0086】
[実施例16〜17]
実施例16〜17においては、(E)成分である添加剤の1つとして、粘度調整剤(減粘剤)の配合の影響、および、印刷物用表面保護剤の希釈率による影響について、それぞれ検討した。
すなわち、実施例16〜17においては、実施例6で作成した印刷物用表面保護剤(原液)を用い、当該印刷物用表面保護剤(原液)100重量部に対して、それぞれ粘度調整剤(減粘剤)としての硫酸ナトリウムを0.01重量部の割合となるように配合した。
次いで、実施例16においては実施例16〜17の印刷物用表面保護剤(原液)を、そのまま評価用の印刷物用表面保護剤として用い、実施例17においては、実施例16〜17の印刷物用表面保護剤(原液)に、さらに水67重量部を配合し、均一になるまで攪拌して、評価用の印刷物用表面保護剤(希釈液)とした。
なお、評価用の印刷物用表面保護剤は、実施例16では、水100重量部に対して、脂肪族化合物が5重量部、界面活性剤組成物が15重量部、粘度調整剤(減粘剤)が0.01重量部の配合割合であった、
また、実施例17では、水100重量部に対して、脂肪族化合物が3重量部、界面活性剤組成物が9重量部、粘度調整剤(減粘剤)が0.006重量部の配合割合であった。
【0087】
[比較例1]
比較例1において、非水溶性脂肪族化合物の種類の影響を、実施例1と同様に検討した。
すなわち、非水溶性脂肪族化合物としてのジステアリン酸モノエチレングリコールを、水溶性脂肪族化合物としてのジステアリン酸テトラエチレングリコール(融点40℃)に変えたほかは、実施例1と同様に、印刷物用表面保護剤を作成して、評価した。
なお、評価用の印刷物用表面保護剤(希釈液)の配合組成は、水100重量部に対して、ジステアリン酸テトラエチレングリコールが0.2重量部、カチオン界面活性剤が1.6重量部であった。
【0088】
[比較例2]
比較例2において、非水溶性脂肪族化合物を使用しない影響を、実施例1と同様に検討した。
すなわち、印刷物用表面保護剤において、非水溶性脂肪族化合物としてのジステアリン酸モノエチレングリコールを用いないとしたほかは、実施例1と同様に、印刷物用表面保護剤を作成して、評価した。
なお、評価用の印刷物用表面保護剤(希釈液)の配合組成は、水100重量部に対して、カチオン界面活性剤が1.6重量部であった。
【0089】
【表1】

評価1:脂肪族化合物の形状評価
評価2:光沢性の評価
評価3:耐コスレ性の評価
評価4:帯電防止性の評価
評価5:紙揃え性の評価
【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の印刷物用表面保護剤によれば、(A)成分としての水と、(B)成分としての非水溶性脂肪族化合物と、(C)成分としての界面活性剤と、を含む水分散体として構成することによって、白金触媒等を失活させることなく、印刷装置の印刷速度が高速回転であっても、長期間印刷した場合であっても、それぞれ所定のコスレ防止性や紙揃え性等を発揮することができるようになった。
また、本発明の印刷物の表面保護方法によれば、(A)成分としての水と、(B)成分としての所定の非水溶性脂肪族化合物と、(C)成分としての界面活性剤と、を含む水分散体としての印刷物用表面保護剤を用いて、印刷物の表面を保護することによって、白金触媒等を失活させることなく、印刷物に対する所定のコスレ防止性や紙揃え性等を発揮することができるようになった。
よって、本発明の印刷物用表面保護剤や印刷物の表面保護方法は、オフセット輪転印刷装置やグラビア印刷装置等の印刷技術分野において、幅広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(C)成分を含有する水分散体であることを特徴とする印刷物用表面保護剤。
(A)水:100重量部
(B)脂肪酸グリコールエステル、脂肪族アルコール、脂肪族アルコールエステル、脂肪族エーテル、及び脂肪酸モノアルキロールアミドからなる群より選択される少なくとも一種の非水溶性脂肪族化合物:0.01〜10重量部
(C)界面活性剤:0.01〜20重量部
【請求項2】
前記(B)成分としての融点を35℃以上の値とすることを特徴とする請求項1に記載の印刷物用表面保護剤。
【請求項3】
前記(B)成分としての非水溶性脂肪族化合物を薄片状とすることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷物用表面保護剤。
【請求項4】
前記(C)成分としての界面活性剤が、カチオン系界面活性剤としての炭素数10〜22の脂肪酸に由来したジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、又は、炭素数10〜22の脂肪酸に由来したモノアルキルトリメチルアンモニウムクロライドを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の印刷物用表面保護剤。
【請求項5】
(D)成分として、帯電防止剤をさらに含有するとともに、当該(D)成分の含有量を前記(A)成分としての水100重量部に対して、0.1〜20重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の印刷物用表面保護剤。
【請求項6】
(E)成分として、粘度調整剤をさらに含有するとともに、当該(E)成分の含有量を、前記(A)成分としての水100重量部に対して、0.001〜30重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の印刷物用表面保護剤。
【請求項7】
前記(B)成分である非水溶性脂肪族化合物と、前記(C)成分である界面活性剤とが、予め反応して、共晶構造を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の印刷物用表面保護剤。
【請求項8】
(A)水100重量部に対して、(B)脂肪酸グリコールエステル、脂肪族アルコール、脂肪族アルコールエステル、脂肪族エーテル、及び脂肪酸モノアルキロールアミドからなる群より選択される少なくとも一種の非水溶性脂肪族化合物を0.01〜10重量部、(C)界面活性剤を0.01〜20重量部の範囲でそれぞれ含む水分散体としての印刷物用表面保護剤を用いてなる印刷物の表面保護方法であって、下記工程(i)〜(iii)を含むことを特徴とする印刷物の表面保護方法。
(i)印刷媒体に対し、印刷用インクを用いて印刷を行い、印刷物を得る印刷工程
(ii)前記印刷物の表面に対し、前記印刷物用表面保護剤を塗布する塗布工程
(iii)前記印刷物用表面保護剤を乾燥させて、表面保護部材を形成する形成工程

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−156669(P2011−156669A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17820(P2010−17820)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000123491)化研テック株式会社 (15)
【Fターム(参考)】