説明

印刷用基材

【課題】 本発明は、柔軟性に優れ、且つ軽量でありながら、耐水性と耐久性にも優れた不織布からなる印刷用基材であって、鮮明な画像形成を可能とする印刷用基材を提供することを課題とする。
【解決手段】 扁平繊維が50質量%以上含まれる繊維層と、扁平繊維が50質量%未満含まれる繊維層とからなり、水流によって両繊維層の構成繊維が交絡されると共に両繊維層が一体化されてなる二層構造の不織布からなる印刷用基材であって、構成繊維全体に対して繊維長が15mm以上の繊維が30質量%以上含まれており、構成繊維は繊維接着によらず接着剤によって結合されており、前記接着剤によるインク受理層又はトナー受理層が両面に設けられていることを特徴とする印刷用基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性に優れ、且つ軽量でありながら、耐水性と耐久性にも優れた不織布からなる印刷用基材であり、特に鮮明な画像形成を可能とする印刷用基材に関し、特にインクジェット印刷用基材に適した印刷用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、不織布を基材とした印刷用基材は、紙を基材としたものよりも耐水性に優れ、風合いが柔軟である、また織物風の地合を有するなどの特徴があり、これらの利点を生かして、例えばオフセット印刷用としてカレンダー、お菓子の包装袋、手提げバッグなどの用途に、また例えばグラビア印刷用として布団袋、こたつ掛けカバー材などの用途に使用されている。しかし、屋外で使用する公告用の印刷基材として、例えば製品の広告、道路案内用、あるいは広告用ののぼり旗などには、柔軟性に優れ、且つ軽量でありながら、耐水性と耐久性にも優れた基材が要求される。また、さらに印刷特性についてもより鮮明な高品質の素材が要求されている。
【0003】
このような、印刷基材として、例えば特許文献1に、支持体上にインク受理成分を塗設あるいは含浸してなるインクジェット記録シートにおいて、該支持体が不織布からなり、さらに該不織布が繊維径0.1デニール以上0.8デニール以下の繊維より構成されていることを特徴とするインクジェット記録シートが記載されている。また、支持体としての不織布は、湿式不織布、又はステッチボンド方式、スパンボンド方式、メルトブローン方式、サーマルボンド方式等による乾式不織布、或いは湿式不織布又は乾式不織布を用いたスパンレース不織布があり、好ましくは、湿式不織布或いは湿式不織布を用いたスパンレース不織布が用いられる。
【0004】
このように、特許文献1では、用いられる繊維が0.1〜0.5デニールの極細繊維または0.5〜0.8デニールの細繊維であるので印刷適性に優れるという効果がある。しかし、極細繊維は湿式不織布またはメルトブローン方式の不織布しか適用ができず、このうち湿式不織布は、繊維長がその実施例の例えば3mmというように極めて小さいために、得られる不織布の強度は極めて小さくなり、耐久性に劣るという問題があった。また、メルトブローン方式の不織布では、繊維長は長いものの繊維が延伸されていないため、得られる不織布の強度は極めて小さくなり、耐久性に劣るという問題があった。一方、繊維長が例えば15mm以上の細繊維を用いた、ステッチボンド方式、スパンボンド方式、カード機を用いる乾式方式などの不織布では、強度はある程度確保できても、インクジェット印刷用基材としては、繊維が太いため繊維の分散性が劣り、部分的な質量のバラツキが大きくなってしまい、鮮明な印刷ができないという問題があった。
【0005】
なお、特許文献1では、スパンレース不織布とは、特定のフラジール通気度を達成して印刷特性を改良するための後加工であったり、3次元交絡によって布帛と積層一体化させて特定のフラジール通気度を達成して印刷特性を改良させたものである。したがって、スパンレース不織布によって、極細繊維または細繊維を用いた場合の上述の耐久性や、質量のバラツキなどの本質的な問題を解決するものではなかった。また、特許文献1では、繊維間の接着剤としてポリビニルアルコールを用いており、耐水性にも劣るものであった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−296670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決し、柔軟性に優れ、且つ軽量でありながら、耐水性と耐久性にも優れた不織布からなる印刷用基材であって、鮮明な画像形成を可能とする印刷用基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、扁平繊維が50質量%以上含まれる繊維層と、扁平繊維が50質量%未満含まれる繊維層とからなり、水流によって両繊維層の構成繊維が交絡されると共に両繊維層が一体化されてなる二層構造の不織布からなる印刷用基材であって、構成繊維全体に対して繊維長が15mm以上の繊維が30質量%以上含まれており、構成繊維は繊維接着によらず接着剤によって結合されており、前記接着剤によるインク受理層又はトナー受理層が両面に設けられていることを特徴とする印刷用基材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、柔軟性に優れ、且つ軽量でありながら、耐水性と耐久性にも優れた不織布からなる印刷用基材であって、鮮明な印刷画像形成を可能とする印刷用基材を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の印刷用基材は、扁平繊維が50質量%以上含まれる繊維層(A)と、扁平繊維が50質量%未満含まれる繊維層(B)とからなり、水流によって両繊維層の構成繊維が交絡されると共に両繊維層が一体化されてなる二層構造の不織布(以下、不織布基布と称する場合がある)からなる印刷用基材であって、構成繊維全体に対して繊維長が15mm以上の繊維が30質量%以上含まれている。
【0011】
扁平繊維とは、繊維断面が長軸と短軸を有しており、長軸の長さをaとし短軸の長さをbとすると、扁平度a/bの値が2以上の繊維であり、a/bの値は好ましくは3以上であり、より好ましくは5以上である。このような断面形状としては、例えば楕円形、長方形、三角形、台形、ドッグボーン等の形状を有するものであり、扁平繊維を含むことにより、印刷適性が優れるとともに水流による交絡効果に優れるという利点がある。また、扁平繊維からなる繊維層は厚さが少なくなり緻密な層となるため、柔軟性やしなやかさに優れるという利点がある。なお、断面形状が三角形や扇状などの場合は、その断面において、最も長く採ることのできる直線の長さを長軸aとし、その長軸径に直交し且つ最も長く採ることのできる直線の長さを短軸bとすることができる。また、扁平度a/bの値は例えば100個以上の走査型電子顕微鏡の映像を平均して求めることができる。
【0012】
このような扁平繊維の材質としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系繊維およびポリビニルアルコール繊維などの合成繊維に限らず、レーヨンなどの半合成繊維、あるいは木材パルプ繊維などの天然繊維を挙げることができる。
【0013】
このうちパルプ繊維などの天然繊維は特に加工しなくても扁平繊維であるが、合成繊維からなる扁平繊維や半合成繊維からなる扁平繊維は、異形断面紡糸ノズルから繊維形成性樹脂を紡糸することによって得ることができる。また、分割性繊維から分割して発生した極細繊維からなる扁平繊維であることも可能である。
【0014】
このような分割性繊維とは、2種類以上の繊維形成性樹脂成分が複合された分割可能な複合繊維からなる繊維であり、ノズルから噴出される水流の作用や、水中で分散される際の水流の作用や、溶剤による抽出などの作用により分割可能な繊維をいう。この分割性繊維の横断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば図1の(a)〜(d)に示す形態がある。これらの横断面形状の中でも、(b)及び(d)に示す扁平度合いの大きい形状であれば、扁平繊維の有する特徴が顕著に現れるので好ましい。また、極細の扁平繊維であることにより、表面状態がより緻密となるのでより印刷性に優れるという利点がある。また、前記分割性繊維の分割の個数も限定されるものではなく、2個以上であればよく、例えば6〜20分割程度が好ましい。
【0015】
本発明では、前記扁平繊維が繊維層(A)には50質量%以上含まれていることが必要であり、70%以上含まれることが好ましく、90%以上含まれることがより好ましい。扁平繊維が50質量%以上含まれていることによって、印刷基材に鮮明な印刷画像を形成することが可能となる。一方、50質量%未満であると、鮮明な印刷画像形成を行なうことが出来なくなるという問題がある。
【0016】
また、本発明では、前記扁平繊維が繊維層(B)には50質量%未満含まれていることが必要であり、30%以下含まれることが好ましく、10%以下含まれることがより好ましい。扁平繊維が50質量%未満含まれていることによって、強度が優れると共に耐水性と耐久性に優れた印刷基材となる。一方、50質量%以上であると、印刷基材の強度が劣ったり、耐水性や耐久性に劣るという問題がある。
【0017】
また、本発明では繊維層(A)と繊維層(B)とを合わせた繊維層の構成繊維全体に対して繊維長が15mm以上の繊維が20質量%以上含まれていることが必要であり、30質量%以上含まれていることがより好ましく、40質量%以上含まれていることが更に好ましい。30質量%以上含まれることによって、水流による交絡の効果が顕著に現れ、強度が優れると共に柔軟性にも優れ、耐水性と耐久性に優れた印刷基材となる。一方、30質量%未満であると、水流による交絡の効果が少なくなり、強度が劣ったり、耐水性や耐久性に劣った印刷基材となってしまうという問題がある。
【0018】
繊維長が15mm以上の繊維としては、例えばカード機やエアレイ装置などを使用した乾式不織布で用いる繊維長15〜100mmの、捲縮数5〜30個/インチを有する通常ステープル繊維と呼ばれる繊維を適用することができる。なお、繊維長が15mm未満の繊維としては、湿式法不織布や紙の抄紙に用いる繊維長3〜15mmのカット繊維や木材パルプ繊維がある。
【0019】
本発明では、繊維長が15mm以上の繊維が前記扁平繊維を兼ねることも可能であるが、より好ましい形態としては、扁平繊維が50質量%以上含まれる繊維層(A)は主として繊維長が15mm未満の繊維から構成されており、扁平繊維を50質量%未満含む繊維層(B)は主として繊維長が15mm以上の繊維から構成されている形態がある。ここで、「主として」とは50質量%以上含まれることを意味しており、70%以上含まれることが好ましく、90%以上含まれることがより好ましい。このような形態であることによって、印刷基材の片面では特に鮮明な印刷画像形成を行なうことが可能であると共に、他の面では鮮明さには劣るものの印刷材全体に強度や耐水性や耐久性を付与するという効果をもたらし、各層で役割分担をすることにより全体として、柔軟性に優れ、耐水性と耐久性にも優れ、鮮明な画像形成を可能とすることができる。
【0020】
また、本発明では耐久性を確保するなどの目的で、扁平繊維と他の特性を有する繊維とを混合した繊維層であることが可能である。扁平繊維以外の繊維としては、目的とする柔軟性、軽量性、耐水性、耐久性または印刷適正などを確保でき、且つ断面形状が扁平ではない限り、特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系繊維およびポリビニルアルコール繊維などの合成繊維に限らず、レーヨンなどの半合成繊維、あるいは綿、セルロース系繊維などの天然繊維を挙げることができる。
【0021】
また、本発明では繊維層(A)及び繊維層(B)の構成繊維が繊維接着によらず接着剤によって結合している。このため、構成繊維には熱接着性繊維が含まれていることも可能であるが、加熱による繊維接着がなされていない形態であることを必要とする。したがって、構成繊維には熱接着性繊維が含まれていないことが望ましい。このような熱接着性繊維としては、(1)1つの融着成分のみからなる態様、(2)1つ以上の樹脂成分を融着成分で被覆した態様(芯鞘型など)、又は1つ以上の樹脂成分と融着成分とを隣り合わせに配置した態様(サイドバイサイド型など)がある。なお、低融点の成分を有する繊維とは、熱接着性繊維を構成する樹脂成分のうち最も低い融点を有する樹脂成分の融点が、他の繊維を構成する樹脂成分のうち最も低い融点を有する樹脂成分の融点よりも低い繊維であり、例えば20℃〜40℃以上低い繊維をいう。
【0022】
本発明では、構成繊維が繊維接着によって結合されていないので、印刷基材の柔軟性に優れるという利点がある。これに対して、構成繊維が繊維接着によって結合されている場合は、印刷基材の柔軟性に劣るという問題がある。また、例えば繊維層(B)の構成繊維を繊維接着によって結合して構成繊維の自由度が少なくなった後に、繊維層(A)の繊維と繊維層(B)の繊維の交絡を行なうと、繊維層(A)の繊維と繊維層(B)の繊維の交絡が不十分となり、繊維層(A)と繊維層(B)との一体化に劣り、且つ嵩高となり、その結果両層が単に貼り合わされたような状態となり、柔軟性に劣るという問題があった。
【0023】
次に、繊維層の態様について説明すると、繊維層としては従来より知られている不織布の製造方法や紙の製造方法によって得られる繊維ウエブや紙を適用することができる。前記繊維ウエブとしては、例えば湿式法による繊維ウエブがあり、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式の抄紙機などを用いて、繊維を含むスラリーから繊維シートを漉き上げる方法を採用することができる。また、例えばステープル繊維を用いてカード機やエアレイ装置などにより形成した繊維ウエブがある。また、例えばスパンボンド法によって、熱可塑性合成繊維をノズルより紡出させて積層した長繊維からなる繊維ウエブがある。
【0024】
本発明では、これらの繊維ウエブや紙を組み合わせて用いることが可能であり、例えば好ましい態様として、繊維層(A)に湿式法による繊維ウエブや紙を用い、繊維層(B)に乾式法による繊維ウエブを用いた態様がある。また、例えば繊維層(A)及び繊維層(B)に乾式法による繊維ウエブを用いた態様がある。具体的には、このように繊維ウエブや紙が積層された積層体が開孔支持体などの上に載置され、次いで高圧水を内蔵するノズルヘッドより噴射される水流がこの積層体に当たることにより、この水流の作用により、繊維ウエブ中の繊維が交絡すると共に繊維層(A)の繊維と繊維層(B)の繊維も交絡し、同時に繊維層(A)と繊維層(B)の両繊維層が一体化されてなる、二層構造の不織布基布を挙げることができる。この二層構造の不織布基布では、繊維層(A)の繊維と繊維層(B)の繊維が互いに相手側の繊維層に進入しているので、各繊維層の明確な境がなくなり、繊維材質の密度勾配が生じた構造となっている。したがって、もはや両層が単に貼り合わされたような状態ではなくなり、この結果、張りとしなやかさやの両立が可能となり、柔軟性に優れた印刷基材となっている。
【0025】
なお、高圧水を内蔵するノズルヘッドより噴射される水流の作用により、繊維ウエブ中の繊維を交絡させるには、通常の水流絡合による不織布の製法を用いることが可能であり、例えば、前記繊維ウエブをベルトコンベアなどからなる開孔支持体の上に載置して、この開孔支持体を移動させながら、繊維ウエブの上部に設置した、高圧水を内蔵するノズルヘッドより、多数のノズル孔を直線状に配置したノズルプレートを通して、柱状流を噴出して、繊維ウエブに水流を作用させる方法がある。この方法で用いるノズル孔の直径は0.1〜0.3mmが好ましく、ノズル孔の間隔は0.5〜2mmが好ましく、また複数本のノズルヘッドを用いることが好ましい。またノズルヘッド内の水圧は0.2〜2MPaが好ましく、分割性繊維を分割する場合には分割性の程度にもよるが0.5〜2MPaが好ましい。
【0026】
前述の繊維層(A)に湿式法による繊維ウエブや紙を用い、繊維層(B)に乾式法による繊維ウエブを用いた具体例としては、繊維層(A)用の木材パルプ繊維シート(紙)を準備しておき、カード機やエアレイ装置などを使用して断面が扁平でない通常の合成繊維からなるステープル繊維から繊維ウエブを形成した後、この繊維ウエブの上に前記木材パルプ繊維シートを載置して、水流によって両繊維層の構成繊維が交絡されると共に両繊維層が一体化されてなる二層構造の不織布基布を形成した態様がある。この例によれば、片面が紙のように鮮明な印刷画像形成が可能でありながら、同時に柔軟性に優れ、耐水性と耐久性にも優れた印刷用基材となり得る。また、繊維原料が木材パルプ繊維シートであるため、原料コストも低く、生分解性にも優れるという利点がある。
【0027】
前述の繊維層(A)に湿式法による繊維ウエブや紙を用い、繊維層(B)に乾式法による繊維ウエブを用いた別の例としては、図1の(b)に示す断面形態を有する複合繊維(繊維径18μm、繊維長5mm、樹脂成分1はポリエチレンテレフタレート樹脂、樹脂成分2は6ナイロン樹脂)を分散剤を含む水中に分散させてスラリーを形成させる。この際に前記複合繊維は最大11個の部分に離解し、離解した各繊維(平均繊維径5.5μm)は断面が扁平形状の極細繊維となるような複合繊維を用いる。次いで、このスラリーを抄紙してから乾燥させて、湿式法による繊維ウエブを準備する。次いで、カード機やエアレイ装置などを使用して断面が扁平でない通常の合成繊維からなるステープル繊維から繊維ウエブを形成した後、この繊維ウエブの上に前記繊維ウエブを載置して、水流によって両繊維層の構成繊維が交絡されると共に両繊維層が一体化されてなる二層構造の不織布基布を形成した態様がある。この例によれば、片面に扁平繊維多数配されるので鮮明な印刷画像形成が可能でありながら、同時に柔軟性に優れ、耐水性と耐久性にも優れた印刷用基材となり得る。
【0028】
前述の繊維層(A)及び繊維層(B)の両層に乾式法による繊維ウエブを用いた具体例としては、図1の(a)〜(d)に示す断面形態を有する複合繊維からなり、水流の作用により分割可能なステープル繊維を用いて、カード機やエアレイ装置により繊維ウエブを形成する。次いで、カード機やエアレイ装置などを使用して断面が扁平でない通常の合成繊維からなるステープル繊維から繊維ウエブを形成した後、この後者の繊維ウエブの上に前者の繊維ウエブを載置して、水流によって複合繊維を分割させて極細の扁平繊維を発生させ、且つ両繊維層の構成繊維が交絡されると共に両繊維層が一体化されてなる二層構造の不織布基布を形成した態様がある。この例によれば、片面に扁平繊維多数配されるので鮮明な印刷画像形成が可能であると共に、極細繊維を有するため更に柔軟性に優れ、極細繊維が高度に交絡するため耐水性と耐久性にも更に優れた印刷用基材となり得る。
【0029】
前述の具体例では繊維層(B)として、乾式法による繊維ウエブを用いたが、スパンボンド法による長繊維ウエブを用いることも可能である。また、製法の異なる繊維ウエブを組み合わせる場合はどちらか一方の繊維ウエブ或いは両方の繊維ウエブをシート化しておくことが好ましい。このため、熱可塑性樹脂からなる繊維で構成された繊維ウエブを凹凸を有する加熱ロールとフラットな加熱ロールとの間に通して、後に水流の作用で自己融着部または繊維接着部分が剥離する程度に、部分的に仮接着した繊維シートとしておくことも可能である。なお、後に水流の作用で自己融着部または繊維接着部分が剥離しない程度に構成繊維が繊維接着している場合は、本発明の目的から逸脱したものとなってしまう。すなわち、構成繊維が繊維接着によって結合されている場合は、印刷基材の柔軟性に劣るという問題がある。また、例えば繊維層(B)の構成繊維を繊維接着によって結合して構成繊維の自由度が少なくなった後に、繊維層(A)の繊維と繊維層(B)の繊維の交絡を行なうと、繊維層(A)の繊維と繊維層(B)の繊維の交絡が不十分となり、繊維層(A)と繊維層(B)との一体化に劣り、且つ嵩高となり、その結果両層が単に貼り合わされたような状態となり、柔軟性に劣るという問題が生じる。
【0030】
なお、前述の分割性繊維とは、2種類以上の繊維形成性樹脂成分が複合された分割可能な複合繊維からなる繊維であり、水流などの作用により分割可能である限り、この分割性繊維の横断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば図1の(a)〜(d)に示す形態がある。前記分割性繊維の分割の個数も限定されるものではなく、2個以上であればよく、例えば6〜20分割程度が好ましい。
【0031】
前記分割性繊維を構成する繊維形成性樹脂の種類も、特に限定されるものではなく、例えば、ポリアミド系樹脂(例えば、6ナイロン、66ナイロンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリ塩化ビニリデン系樹脂などを挙げることができる。これらの中でも少なくとも、ポリエステル系樹脂を一成分として選択することにより、高い強度と、優れた耐久性や印刷適性を付与することができるので好ましい。
【0032】
前記分割性繊維の太さも、紡糸条件や分割可能性を考慮する限り、特に限定されず、繊維径は10〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。また、分割後の繊維径も0.1〜10μmが好ましく、0.1〜5μmがより好ましい。なお、分割前または分割後の繊維径とは、繊維の横断面と同じ面積を有する円の直径とすることができる。
【0033】
前記不織布基布の面密度は20〜200g/mが好ましく、30〜150g/mがより好ましく、50〜120g/mがさらに好ましい。20g/m未満であると、繊維密度が少ないため鮮明な印刷とならない場合があり、200g/mを超えると、重くなり過ぎたりコスト高となる場合がある。また、繊維層(A)の面密度と繊維層(B)の面密度の比率も特に限定されないが、3/7〜7/3であることが好ましい。
【0034】
このようにして、得られた不織布基布は、扁平繊維が50質量%以上含まれる繊維層を有しているので、緻密な層が形成されており、面密度が低い割りに隠蔽姓が高いという利点がある。また、扁平繊維により交絡が高度に行なわれるので、緻密な繊維層が形成される。また、扁平繊維により表面が平滑であり、且つリントの発生が少なくなる。その結果鮮明な印刷画像形成が可能となる。また、平滑性の故、給紙性にも優れるので高速印刷が可能となる。また、繊維長が15mm以上の繊維が交絡しているので、ソフトな風合いを有するとともに強度が優れ、引裂強度も優れ、耐水性があり、屋外での使用にも耐えることができる。また、水流の作用によるノズル筋が独特のデザインとして好まれる場合もある。このように、得られた不織布基布は、柔軟性に優れ、且つ軽量でありながら、耐水性と耐久性にも優れた印刷用基材となり、鮮明な印刷画像形成を可能とするという優れた効果を奏する。
【0035】
本発明の印刷用基材では、前記不織布基布の構成繊維は繊維接着によらず接着剤によって結合されており、前記接着剤によるインク受理層又はトナー受理層が両面に設けられている。すなわち、前記接着剤は不織布基布の構成繊維を結合する作用と、インク受理層又はトナー受理層を形成する作用を兼ね備えている。ここで、インク受理層又はトナー受理層とはインクジェットインクなどの印刷用インクを吸収して定着させる層であり、さらに好ましくは画像の滲みや耐水性を付与するという機能を有することが求められる層である。
【0036】
前記インク受理層を構成する材料としては、従来公知の材料をいずれも使用することが可能である。具体的には、アルブミン、ゼラチン、カゼイン、でんぷん、カチオンでんぷん、アラビアゴム、ポリビニルイミダゾール、寒天、アルギン酸ナトリウム等の親水性天然素材、デキストリン、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン変性ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アセタール変性ポリビニルアルコール(ポリビニルアセタール)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸、水溶性アルキド、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、4級化ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリ(N−ビニル−3メチルピロリドン)、ポリマレイン酸コポリマー、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルイミダゾール、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン塩酸塩、メラミン樹脂、ポリウレタン、ポリエステル等の、水溶性若しくは親水性合成樹脂が挙げられ、所望によりこれらの材料が少なくとも1種以上用いられる。
【0037】
また、前記インク受理層を構成する材料として、生分解性樹脂である、例えば、ポリ(α−ヒドロキシ酸)(例えば、ポリグリコール酸、ポリ−L−乳酸など)、ポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)(例えば、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸)、β−ヒドロキシ酪酸−βヒドロキシ吉草酸共重合体など)、ポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)(例えば、ポリ−β−プロピオラクトン、ポリ−ε−カプロラクトンなど)、ポリアルキレンジカルボキシレート(例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ブチレンサクシネート−ブチレンアジペート共重合体など)が挙げられ、所望によりこれらの材料が少なくとも1種以上用いることも可能である。
【0038】
また、特にインクジェット記録適性、例えば、耐ビーディング性、耐ブロッキング性等を向上させる目的で、更に、得られるインクジェット記録物の保存性、例えば、高湿環境下における画像の滲みや耐水性等を向上する目的で、上記材料の他に、水溶性の低分子有機化合物、及びカチオン性化合物、更には、水不溶性の有機化合物を適宜使用することができる。
【0039】
この際に用いる水溶性の低分子有機化合物としては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)共重合体、D−ソルビトール、ショ糖に代表される分子量5,000以下の多価アルコール等が挙げられる。
【0040】
また、カチオン性化合物としては、1級、2級及び3級アミン塩型の化合物、例えば、ラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミン等の塩酸塩及び酢酸塩;第4級アンモニウム塩型の化合物、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム等;ピリジウム塩型化合物、例えば、セチルピリジニウムクロライド等;イミダゾリン型カチオン性化合物、例えば、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン等;高級アルキルアミンのエチレンオキサイド付加物、例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミン等が挙げられる。
【0041】
さらに、水不溶性の有機化合物としては、ポリメチルメタクリレートに代表されるアクリル樹脂、6,6ナイロンに代表されるポリアミド、ブチラール樹脂に代表されるポリビニルアセタール、その他、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ジアセテート化合物、D−ソルビトール/芳香族アルデヒド縮合物等が挙げられる。
【0042】
また、インクジェット用の記録媒体としての物性、例えば、耐ブロッキング性等を向上させる為に、従来公知の有機及び又は無機の微粒子(粉体、エマルジョン等)をインク受理層中に0.01〜30g/m2、好ましくは1〜20g/m2程度添加することも可能である。有機及び又は無機の微粒子としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂などの有機顔料などが挙げられる。これらの微粒子の中でも、インク受理層中に主体成分として含有する白色顔料としては、多孔性無機顔料が好ましく、多孔性合成非晶質シリカ、多孔性炭酸マグネシウム、多孔性アルミナなどが挙げられ、特に細孔容積の大きい多孔性合成非晶質シリカが好ましい。
【0043】
また、インク受理層中に、前記微粒子の他に、分散剤、潤滑剤、消泡剤等の各種界面活性剤や油類、pH調整剤、蛍光染料、防腐剤等、従来公知の添加剤を本発明におけるインクジェット印刷用基材の性能を低下しない範囲で使用することが可能である。
【0044】
前記不織布基布にインク受理層を形成する方法としては、上記の材料からなる塗工液を、例えばパッダーなどにより含浸して形成する方法がある。また、各種ブレードコータ、ロールコータ、エアーナイフコータ、バーコータ、ロッドコータ、ゲートロールコータ、カーテンコータ、ショートドウェルコータ、グラビアコータ、フレキソグラビアコータ、サイズプレス等により塗布して形成する方法がある。これらの方法の中で、パッダー含浸により形成する方法であれば、一回の処理で、不織布基布の両表面を印刷可能とできる点で有利な方法である。
【0045】
前記不織布基布がインク受理層を有している具体的な形態としては、上述のインク受容層を形成する方法などによって、形態が異なり、主としてパッダー含浸などによって得られる形態と、主としてコーティングなどによって得られる形態の二種類の形態に分けることができる。
【0046】
パッダー含浸などによって得られる形態としては、不織布基布の厚さ方向全体に比較的均一にインク受理層が形成されており、繊維間にインク受理層を形成する材料が緻密に詰まった形態ばかりでなく、繊維間にインク受理層を形成する材料が散在した形態をも含む。具体的には、構成繊維全体の質量に対して、インク受理層を形成する材料の質量が1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましい。また、30%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましく、10%未満であることがさらに好ましい。30%未満であることにより柔軟性により優れた印刷基材となる。
【0047】
また、不織布基布の厚さ方向全体に比較的均一にインク受理層が形成された形態としては、繊維組織が非常に粗く孔径が大きい場合は、パッダー含浸のみならずコーティングによっても得ることが可能である。
【0048】
前記不織布基布が、コーティングなどによってインク受理層を有している形態としては、前記不織布基布の少なくとも片面に、前述の各種ブレードコータ、ロールコータ、エアーナイフコータ、バーコータ、ロッドコータ、ゲートロールコータ、カーテンコータ、ショートドウェルコータ、グラビアコータ、フレキソグラビアコータ、サイズプレス等により塗布して形成する方法により、インク受理層が塗布されている形態がある。インク受理層の塗布量は、不織布基布の表面状態と多孔質な繊維構造内への浸透性を考慮して決めることができる。このコーティングなどによってインク受理層を有している形態は、インクジェット印刷用基材の表面付近でインク受理層の密度が高くなっていることを特徴としている。また、繊維を実質的に含まない(例えば質量比率で10%以下)表面部分にインク受理層を有している場合は、そのインク受理層の厚さとしては、1〜50μmが好ましく、2〜30μmがより好ましい。
【0049】
前記印刷用基材の面密度は、25〜230g/mが好ましく、35〜180g/mがより好ましく、55〜150g/mがさらに好ましい。25g/m未満であると、不織布基布の面密度が少ないため鮮明な印刷とならない場合があり、230g/mを超えると、重すぎたりコスト高となる場合がある。また、前記インクジェット印刷用基材の厚さは、0.1〜1.2mmであることが好ましく、0.13〜0.8mmがより好ましく、0.15〜0.7mmがさらに好ましい。なお、厚さはJIS L1913−1998の6.1.2A法に規定される厚さとする。ただし、荷重は2.0kPaとした。
【0050】
また、前記印刷用基材の引張強度は、縦方向と横方向の平均値で表すと、面密度100g/mに換算した値が、80N/50mm巾以上であることが好ましく、90N/50mm巾以上がより好ましく、100N/50mm巾以上がさらに好ましい。また、前記インクジェット印刷用基材の引裂強度は、縦方向と横方向の平均値で表すと、面密度100g/mに換算した値が、4N以上であることが好ましく、5N以上がより好ましい。なお、引張強度はJIS L1913−1998の6.3に規定される引張強さとする。また、引裂強度はJIS L1913−1998の6.4.3(シングルタング法)に規定される引裂強さとする。
【0051】
また、前記印刷用基材の剛軟度(カンチレバー法)は、縦方向と横方向の平均値で表すと、250mm以下であることが好ましく、200mm以下がより好ましい。また、特に柔軟性が要求される分野では、150mm以下であることが好ましく、120mm以下がより好ましい。なお、剛軟度はJIS L1096−1999の8.19.1A法(45°カンチレバー法)に規定される剛軟度とする。
【0052】
また、前記印刷用基材の通気度は、2〜100cm/cm/secであることが好ましく、4〜50cm/cm/secがより好ましく、5〜30cm/cm/secがさらに好ましい。なお、通気度はJIS L1096−1999の8.27.1A法(フラジール形法)に規定される通気度とする。
【0053】
以上説明したように、本発明によって、柔軟性に優れ、且つ軽量でありながら、耐水性と耐久性にも優れた不織布からなる印刷用基材であって、鮮明な印刷画像形成を可能とするインクジェット印刷用基材を提供することが可能となった。
【0054】
以下、本発明の実施例につき説明するが、これは発明の理解を容易とするための好適例に過ぎず、本願発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
(印刷適性−鮮明性の評価方法)
顔料インク又は染料インクを用いてフルカラー画像をインクジェット印刷し、目視により滲みや画像の鮮明性を評価した。評価の基準としては、滲みが無く鮮明な場合は○、若干滲むが実用上問題ない場合は△、滲みが目立ち不鮮明な場合は×とした。
(引張強度及び引張伸度)
JIS L1913−1998の6.3に規定される方法にて試験した。
(引裂強度)
JIS L1913−1998の6.4.3(シングルタング法)に規定される方法にて試験した。
(剛軟度)
JIS L1096−1999の8.19.1A法(45°カンチレバー法)に規定される方法にて試験した。
(通気度)
JIS L1096−1999の8.27.1A法(フラジール形法)に規定される方法にて試験した。
(摩擦に対する染色堅ろう度)
JIS L0849−2004に規定される方法にて試験した。学振形摩擦試験機を用い、乾燥した試験片を試験台の上に取り付け、摩擦子に2Nの荷重をかけ、100回往復後に、試験片の表面状態を観察し、印刷の色の変化が無いか又は極めて少ない場合を良(○)とし、色の変化が少ない場合をやや良(△)とし、色が薄くなった場合を不良(×)とした。
(摩擦に対する耐摩耗性)
JIS L0849−2004に規定される方法にて試験した。学振形摩擦試験機を用い、乾燥した試験片を試験台の上に取り付け、摩擦子に2Nの荷重をかけ、100回往復後に、試験片の表面状態を観察し、繊維組織の変化及び毛羽立ちが無いか又は極めて少ない場合を良(○)とし、繊維組織の変化及び毛羽立ちが少ない場合をやや良(△)とし、繊維組織が崩れるか毛羽立ちが極めて多い場合を不良(×)とした。
【0056】
(実施例1)
繊維層(A)用として、面密度40g/mの木材パルプ繊維シート(紙)を準備した。次いで、繊維層(B)用として、エアレイ装置にて開孔支持体の上に、1.5デシテックスのポリエステルステープル繊維(繊維長22mm)を集積して、面密度27g/mの繊維ウエブを得た。次いで、この繊維ウエブの上に前記木材パルプ繊維シートを載置して、高圧水を内蔵するノズルヘッドより柱状流を噴出して、繊維ウエブに水流を作用させ、次いで繊維ウエブを乾燥機にて乾燥させた。その結果、扁平繊維(木材パルプ繊維)が50質量%以上含まれる繊維層と、扁平繊維(木材パルプ繊維)が50質量%未満含まれる繊維層とからなり、水流によって両繊維層の構成繊維が交絡されると共に両繊維層が一体化された面密度67g/mの二層構造の不織布基布が得られた。また、不織布基布は、構成繊維全体に対して繊維長が22mmの繊維が40質量%含まれていた。
また、インク受理層形成のため、アクリル樹脂エマルジョンにカチオン系定着剤を添加した水溶液(液濃度35%)8質量%を水92質量%に分散させた分散液を調製した。次いで、前記不織布基布をこの分散液に浸漬した後、一対のゴムロール間を通過させることにより、パッダー含浸させ、一定量の分散液量を不織布基布に含ませた。次いで、この含浸した不織布基布を、温度150℃に設定したドライヤーで乾燥することによって、不織布基布にインク受理層を形成して、インクジェット印刷に適した印刷用基材を得た。
この印刷用基材にはインク受理層が厚み方向にほぼ均一に形成されており、両表面とも印刷が可能であった。また、この印刷用基材の面密度は68.4g/mであり、インク受理層を形成している接着剤は1.4g/mであり、厚さは0.28mmであった。また、引張強度は縦方向と横方向の平均値が128N/50mm巾であり、破断時の引張伸度は縦方向と横方向の平均値が31%であった。また、引裂強度は縦方向と横方向の平均値が5.8Nであり、剛軟度は縦方向と横方向の平均値が91mmであった。また、通気度は9.8cm/cm/secであった。また、印刷の鮮明性の評価、染色堅ろう度試験及び耐摩耗性試験を行った結果を表1に示す。
【0057】
(実施例2)
実施例1と同様にして、面密度67g/mの不織布基布を得た。
また、インク受理層形成のため、アクリル樹脂エマルジョンにシリカ粒子及びポリビニルアルコールを添加した水溶液(液濃度21%)50質量%、とともにカチオン系定着剤(ポリアリルアミン塩酸塩水溶液、液濃度35%)2質量%、を水48質量%に分散させた分散液を調製した。次いで、前記不織布基布をこの分散液に浸漬した後、一対のゴムロール間を通過させることにより、パッダー含浸させ、一定量の分散液量を不織布基布に含ませた。次いで、この含浸した不織布基布を、温度150℃に設定したドライヤーで乾燥することによって、不織布基布にインク受理層を形成して、インクジェット印刷に適した印刷用基材を得た。
この印刷用基材にはインク受理層が厚み方向にほぼ均一に形成されており、両表面とも印刷が可能であった。また、この印刷用基材の面密度は70g/mであり、インク受理層を形成している接着剤は3.0g/mであり、厚さは0.29mmであった。また、引張強度は縦方向と横方向の平均値が142N/50mm巾であり、破断時の引張伸度は縦方向と横方向の平均値が29%であった。また、引裂強度は縦方向と横方向の平均値が5.4Nであり、剛軟度は縦方向と横方向の平均値が115mmであった。また、通気度は6.8cm/cm/secであった。また、印刷の鮮明性の評価、染色堅ろう度試験及び耐摩耗性試験を行った結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
実施例1と同様にして、面密度67g/mの不織布基布を得た。
次いで、実施例2と同様にして不織布基布にインク受理層を形成し、インクジェット印刷に適した印刷用基材を得た。
この印刷用基材にはインク受理層が厚み方向にほぼ均一に形成されており、両表面とも印刷が可能であった。また、この印刷用基材の面密度は73.3g/mであり、インク受理層を形成している接着剤は6.3g/mであり、厚さは0.3mmであった。また、引張強度は縦方向と横方向の平均値が154N/50mm巾であり、破断時の引張伸度は縦方向と横方向の平均値が24%であった。また、引裂強度は縦方向と横方向の平均値が4.7Nであり、剛軟度は縦方向と横方向の平均値が130mmであった。また、通気度は6.3cm/cm/secであった。また、印刷の鮮明性の評価、染色堅ろう度試験及び耐摩耗性試験を行った結果を表1に示す。
【0059】
(実施例4)
実施例1と同様にして、面密度67g/mの不織布基布を得た。
次いで、実施例2と同様にして不織布基布にインク受理層を形成し、インクジェット印刷に適した印刷用基材を得た。
この印刷用基材にはインク受理層が厚み方向にほぼ均一に形成されており、両表面とも印刷が可能であった。また、この印刷用基材の面密度は77g/mであり、インク受理層を形成している接着剤は10.0g/mであり、厚さは0.31mmであった。また、引張強度は縦方向と横方向の平均値が164N/50mm巾であり、破断時の引張伸度は縦方向と横方向の平均値が20%であった。また、引裂強度は縦方向と横方向の平均値が4.1Nであり、剛軟度は縦方向と横方向の平均値が140mmであった。また、通気度は6.0cm/cm/secであった。また、印刷の鮮明性の評価、染色堅ろう度試験及び耐摩耗性試験を行った結果を表1に示す。
【0060】
(比較例1)
極細繊維として、図1の(b)に示す断面形態を有する3.3デシテックスの複合繊維(繊維径18μm、繊維長5mm、樹脂成分1はポリエチレンテレフタレート樹脂、樹脂成分2は6ナイロン樹脂)と、非接着性繊維として1.7デシテックスのポリエチレンテレフタレート繊維(繊維径13μm、繊維長10mm)を、分散剤を含む水中に分散させてスラリーを形成した。このとき前記複合繊維は最大11個の部分に離解し、離解した各繊維(平均繊維径5.5μm)は断面が扁平形状の極細繊維となった。次いで、このスラリーを手漉き装置で抄紙して繊維ウエブとした後110℃で乾燥させた。次いで、この繊維ウエブを、開孔支持体の上に載置して、高圧水を内蔵するノズルヘッドより柱状流を噴出して、繊維ウエブに水流を作用させ、乾燥機にて乾燥させた。また、水圧は4MPaとして、複数のノズルヘッドを用いた。その結果、極細繊維が水流で3次元的に絡合された面密度65g/mの不織布基布を得た。
次いで、実施例2と同様にして不織布基布にインク受理層を形成し、印刷用基材を得た。
この印刷用基材にはインク受理層が厚み方向にほぼ均一に形成されており、両表面とも印刷が可能であった。また、この印刷用基材の面密度は73g/mであり、厚さは0.39mmであった。また、引張強度は縦方向と横方向の平均値が106N/50mm巾であり、破断時の引張伸度は縦方向と横方向の平均値が72%であった。また、引裂強度は縦方向と横方向の平均値が3.6Nであり、剛軟度は縦方向と横方向の平均値が102mmであった。また、通気度は15.4cm/cm/secであった。また、印刷の鮮明性の評価、染色堅ろう度試験及び耐摩耗性試験を行った結果を表2に示す。
【0061】
(比較例2)
メルトブロー法により、平均繊維径が3.5μmのポリエステル繊維からなる繊維ウエブを形成し、一対のエンボスロールと平滑ロールからなる加圧ロールにより、この繊維ウエブを部分的に融着して、面密度80g/mの不織布基布を得た。
次いで、実施例1と同様にして不織布基布にインク受理層を形成し、印刷用基材を得た。
この印刷用基材にはインク受理層が厚み方向にほぼ均一に形成されており、両表面とも印刷が可能であった。また、この印刷用基材の面密度は98g/mであり、厚さは0.33mmであった。また、引張強度は縦方向と横方向の平均値が73N/50mm巾であり、破断時の引張伸度は縦方向と横方向の平均値が49%であった。また、引裂強度は縦方向と横方向の平均値が4.0Nであり、剛軟度は縦方向と横方向の平均値が120mmであった。また、通気度は4.9cm/cm/secであった。また、印刷の鮮明性の評価、染色堅ろう度試験及び耐摩耗性試験を行った結果を表2に示す。
【0062】
表1




【0063】
表2

【0064】
表1及び表2から明らかなように、実施例1〜4の印刷用基材は、比較例1および2と比較して、引張強度の値が高く、耐久性に優れていた。また、実施例1〜4の印刷用基材は、印刷の鮮明性に優れるとともに染色堅ろう度試験や耐摩耗性試験においても優れた結果が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(a)は本発明で用いる分割性繊維の断面の例、(b)は本発明で用いる分割性繊維の断面の別の例、(c)は本発明で用いる分割性繊維の断面の別の例、(d)は本発明で用いる分割性繊維の断面の別の例を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1.樹脂成分
2.他の樹脂成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平繊維が50質量%以上含まれる繊維層と、扁平繊維が50質量%未満含まれる繊維層とからなり、水流によって両繊維層の構成繊維が交絡されると共に両繊維層が一体化されてなる二層構造の不織布からなる印刷用基材であって、構成繊維全体に対して繊維長が15mm以上の繊維が30質量%以上含まれており、構成繊維は繊維接着によらず接着剤によって結合されており、前記接着剤によるインク受理層又はトナー受理層が両面に設けられていることを特徴とする印刷用基材。
【請求項2】
扁平繊維を50質量%以上含む繊維層は主として繊維長が15mm未満の繊維から構成されており、扁平繊維を50質量%未満含む繊維層は主として繊維長が15mm以上の繊維から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の印刷用基材。
【請求項3】
前記接着剤の含有量が構成繊維全体に対して10質量%未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷用基材。
【請求項4】
カンチレバー法による剛軟度が250mm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の印刷用基材。
【請求項5】
引き裂き強度が、面密度100g/mあたり、4N以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の印刷用基材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−25048(P2008−25048A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197756(P2006−197756)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】