印刷結果予測方法、プロファイル作成方法、印刷装置、および、調査シート
【課題】印刷結果の予測を効率化させる。
【解決手段】3種類以上のインク量で構成されるインク量空間を2次元平面にマッピングすることにより、2次元平面上の各位置が前記インク量を有するインク量マップを作成し、前記インク量マップIMを印刷することにより調査シートPPを作成する。そして、前記調査シートPPの各格子点の位置について計測した状態量に基づいて、任意の前記インク量に基づいて印刷を行った場合の前記状態量を予測する。
【解決手段】3種類以上のインク量で構成されるインク量空間を2次元平面にマッピングすることにより、2次元平面上の各位置が前記インク量を有するインク量マップを作成し、前記インク量マップIMを印刷することにより調査シートPPを作成する。そして、前記調査シートPPの各格子点の位置について計測した状態量に基づいて、任意の前記インク量に基づいて印刷を行った場合の前記状態量を予測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷結果予測方法、プロファイル作成方法、印刷装置、および、調査シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の粒状性を予測する技術として、インク量セットをハーフトーン処理し、ハーフトーンデータに基づいて印刷用紙上のインクドット分布を推測し、そのインクドット分布に基づいて粒状性を定量化するものが知られている(例えば、特許文献1、参照。)。一方、実際にプリンタにてカラーパッチを印刷し、そのカラーパッチをスキャナで取り込んだ画像を解析することにより粒状性を定量化するものも知られている(例えば、特許文献2、3参照。)。また、カラーパッチをスキャナで取り込んだ画像を解析した結果を学習データとして学習させたニューラルネットワークを用いて、任意のインク量セットに基づいて印刷を場合の粒状性を予測するものが提案されている。
【特許文献1】特開2005−103921号公報
【特許文献2】特開2005−310098号公報
【特許文献3】特開2007−281723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
粒状性の良好なインク量セットとなるプロファイルを作成する場合には、プリンタが使用可能なインク量空間の全域を網羅する多数のインク量セットについて粒状性を把握し最適なインクセットを選択する必要があり、これらの多数のインク量セットについてすべてシミュレーションを行なったり、カラーパッチを形成/評価することは困難であるという課題があった。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、粒状性等の印刷結果の予測を効率化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するために、まず3種類以上のインク量で構成されるインク量空間を2次元平面にマッピングすることにより、2次元平面上の各位置が前記インク量を有するインク量マップを作成する。インク量マップが作成できると、当該インク量マップを印刷することにより調査シートを作成する。前記インク量マップは、2次元平面上の各位置が前記インク量を有したインク量の画像データであると考えることができ、ハーフトーン処理・ラスタライズ処理を行うことにより、前記インク量マップに基づく画像を再現した前記調査シートを得ることができる。そして、前記調査シートの各位置について状態量を計測し、当該計測結果に基づいて、任意の前記インク量に基づいて印刷を行った場合の前記状態量を予測する。このようにすることにより、多数のカラーパッチを印刷することなく、任意の前記インク量セットについての前記状態量を予測することができる。
【0005】
前記インク量空間に分布する多数の前記インク量によって、前記インク量マップ上に配置された複数のユニットの前記インク量を学習させた自己組織化マップを、前記インク量マップとして採用してもよい。自己組織化マップについては、T.コホネン著 2005年6月7日発行 改訂版 自己組織化マップ を参照。また、前記ユニットの個数が増加すると学習に要する演算処理負荷・時間も大幅に増加するため、前記ユニットの個数を増加させるのは困難である。学習時には前記インク量マップを構成する前記ユニットの個数を少なくしておき、学習後、前記インク量マップを高解像度すれば、演算処理負荷・時間を大幅に増加させることなく、前記インク量が滑らかに分布する前記インク量マップを得ることができる。
【0006】
前記状態量の一例として、粒状性を定量化した粒状性指数を予測するようにしてもよい。これにより前記粒状性指数を効率的に予測することができる。また、別の一例として、印刷色や分光反射率等を前記状態量として予測するようにしてもよい。また、前記インク量空間のうち、前記調査シートを印刷する印刷装置のインク使用制限よりも内側の領域を2次元平面にマッピングすることにより前記インク量マップを作成することにより、印刷可能な前記インク量マップを作成することができる。
【0007】
なお、本発明の技術的思想は、方法のみならず、当該方法を実行するコンピュータ等のハードウェアや当該コンピュータにおける処理手順を規定したプログラムにおいても具現化することができることはいうまでもない。また、本発明の方法は、単体として存在するものに限られず、ある方法の一部として組み込まれる場合もある。例えば、本発明の手法により印刷結果を予測する方法を一部に組み入れたプロファイル作成方法においても、本発明が実現できることはいうまでもない。さらに、本発明のプロファイル作成方法によって作成されたプロファイルを参照して色変換を行う印刷装置においても本発明の特徴が具現化されているということができる。
【0008】
さらに、上述した印刷結果予測方法において作成される調査シートは、以下のような物理的特徴を有しているということができる。すなわち、前記調査シートは、3種類以上のインクを印刷媒体上に被覆させることにより形成された調査シートであるとともに、前記印刷媒体上における各インクのインク被覆率が各位置に応じて連続的に変動し、かつ、各インクの等インク被覆率線が曲線(微視的には階段状であるが曲線に近似できるものも含む)をなすことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.各種コンバータおよびその準備:
A−1.分光プリンティングモデルコンバータ:
A−2.色コンバータ:
A−3.粒状性コンバータ:
B.プロファイルの作成:
C.変形例:
【0010】
A.各種コンバータおよびその準備
A−1.分光プリンティングモデルコンバータ
図1は、コンピュータ10のハードウェア・ソフトウェア構成を示すブロック図である。なお、コンピュータ10においては、印刷結果予測部プログラムP1とLUT作成プログラムP2とプリンタドライバP3が実行されている。印刷結果予測プログラムP1とLUT作成プログラムP2とプリンタドライバP3は、コンピュータ10のハードウェア、および、コンピュータ10のハードウェアが読み込んで実行するソフトウェアによって実行されている。具体的には、コンピュータ10が備えるCPU12が、ハードディスクトライブ(HDD)11等に記憶されたプログラムデータ11aを読み込み、当該プログラムデータ11aをRAM13上に展開しながらプログラムデータ11aにしたがった演算を実行させる。そして、当該演算によって本発明の印刷装置としてのプリンタ20や分光反射率計30やスキャナ40といった外部機器を所定のインターフェースを介して制御することにより、印刷結果予測プログラムP1とLUT作成プログラムP2とプリンタドライバP3を構成する各種手段を実現する。
【0011】
図2は、本実施形態のプリンタ20の印刷方式を模式的に示している。同図において、プリンタ20は、CMYKlclm(シアン,マゼンタ,イエロー,ブラック,ライトシアン,ライトマゼンタのインクごとに複数のノズル21a,21a・・・を備えた印刷ヘッド21を備えており、ノズル21a,21a・・・が吐出するCMYKlclmのインクごとのインク量を上述したインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)によって指定された量とする制御が印刷制御データCDに基づいて行われる。各ノズル21a,21a・・・が吐出したインク滴は印刷用紙上において微細なドットとなり、多数のドットの集まりによってインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)に応じたインク被覆率の印刷画像が印刷用紙上に形成されることとなる。本明細書において、インク量セットφに基づいて印刷することは、インク量セットφに応じたインク被覆率の画像が印刷用紙上に再現されることを意味する。本実施形態におけるプリンタ20はインクジェット方式のプリンタであるが、インクジェット方式の他にも種々のプリンタに対して本発明を適用可能である。なお、本実施形態において、各インク量djは0〜255の階調を有する8ビットで与えられるものとする。
【0012】
印刷結果予測プログラムP1は、大きく分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCと粒状性コンバータGCとから構成されており、さらに粒状性コンバータGCはサンプル準備部GC1とマップ作成部GC2と画像入力部GC3と粒状性指数算出部GC4とデータ作成部GC5と予測部GC6とから構成されている。分光プリンティングモデルコンバータRCは、任意のインク量セットφを入力し、当該インク量セットφをプリンタ20に指定して印刷を実行させた場合に印刷用紙上において再現される分光反射率R(λ)を算出する処理を行う。
【0013】
分光プリンティングモデルコンバータRCが使用する予測モデルは、本実施形態のプリンタ20で使用され得る任意のインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)で印刷を行った場合の分光反射率R(λ)を分光反射率R(λ)として予測するための予測モデルである。分光プリンティングモデルにおいては、インク量空間における複数の代表点について実際にカラーパッチを印刷し、その分光反射率R(λ)を分光反射率計によって測定することにより得られた分光反射率データベースRDBを用意する。そして、この分光反射率データベースRDBを使用したセル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデル(Cellular Yule-Nielsen Spectral Neugebauer Model)による予測を行うことにより、正確に任意のインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)で印刷を行った場合の分光反射率R(λ)を予測する。
【0014】
図3は、分光反射率データベースRDBを示している。同図に示すように分光反射率データベースRDBはインク量空間(本実施形態では6次元であるが、図の簡略化のためCM面のみ図示。)における複数の格子点のインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)について実際に印刷/測定をして得られた分光反射率R(λ)が記述されたルックアップテーブルとなっている。例えば、各インク量軸を分割する5グリッドの格子点を発生させる。ここでは513個もの格子点が発生し、膨大な量のカラーパッチの印刷/測定をすることが必要となるが、実際にはプリンタ20にて同時に搭載可能なインク数や同時に吐出可能なインクデューティの制限があるため、印刷/測定をする格子点の数は絞られることとなる。
【0015】
さらに、一部の格子点のみ実際に印刷/測定をし、他の格子点については実際に印刷/測定を行った格子点の分光反射率R(λ)に基づいて分光反射率R(λ)を予測することにより、実際に印刷/測定を行うカラーパッチの個数を低減させてもよい。分光反射率データベースRDBは、プリンタ20が印刷可能な印刷用紙ごとに用意されている必要がある。厳密には、分光反射率R(λ)は印刷用紙上に形成されたインク膜(ドット)による分光透過率と印刷用紙の反射率によって決まるものであり、印刷用紙の表面物性(ドット形状が依存)や反射率の影響を大きく受けるからである。次に、分光反射率データベースRDBを使用したセル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルによる予測を説明する。
【0016】
分光プリンティングモデルコンバータRCは、分光反射率データベースRDBを使用したセル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルによる予測を実行する。この予測にあたっては、種々の予測条件を設定する。具体的には、印刷用紙やインク量セットφを予測条件として設定する。例えば、光沢紙を印刷用紙として予測を行う場合には、光沢紙にカラーパッチを印刷することにより作成した分光反射率データベースRDBが設定される。
【0017】
分光反射率データベースRDBの設定ができると、インク量セットφを分光プリンティングモデルに適用する。セル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルは、よく知られた分光ノイゲバウアモデルとユール・ニールセンモデルとに基づいている。なお、以下の説明では、説明の簡略化のためCMYの3種類のインクを用いた場合のモデルについて説明するが、同様のモデルを本実施形態のCMYKlclmを含む任意のインクセットを用いたモデルに拡張することは容易である。また、セル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルについては、Color Res Appl 25, 4-19, 2000およびR Balasubramanian, Optimization of the spectral Neugebauer model for printer characterization, J. Electronic Imaging 8(2), 156-166 (1999)を参照。
【0018】
図4は、分光ノイゲバウアモデルを示す図である。分光ノイゲバウアモデルでは、任意のインク量セット(dc,dm,dy)で印刷したときの印刷物の分光反射率R(λ)は、以下の(1)式で与えられる。
【数1】
【0019】
ここで、aiはi番目の領域の面積率であり、Ri(λ)はi番目の領域の分光反射率である。添え字iは、インクの無い領域(w)と、シアンインクのみの領域(c)と、マゼンタインクのみの領域(m)と、イエローインクのみの領域(y)と、マゼンタインクとイエローインクが吐出される領域(r)と、イエローインクとシアンインクが吐出される領域(g)と、シアンインクとマゼンタインクが吐出される領域(b)と、CMYの3つのインクが吐出される領域(k)をそれぞれ意味している。また、fc,fm,fyは、CMY各インクを1種類のみ吐出したときにそのインクで覆われる面積の割合(「インク被覆率(Ink area coverage)」と呼ぶ)である。
【0020】
インク被覆率fc,fm,fyは、図4(B)に示すマーレイ・デービスモデルで与えられる。マーレイ・デービスモデルでは、例えばシアンインクのインク被覆率fcは、シアンのインク量dcの非線形関数であり、例えば1次元ルックアップテーブルによってインク量dcをインク被覆率fcに換算することができる。インク被覆率fc,fm,fyがインク量dc,dm,dyの非線形関数となる理由は、単位面積に少量のインクが吐出された場合にはインクが十分に広がるが、多量のインクが吐出された場合にはインクが重なり合うためにインクで覆われる面積があまり増加しないためである。他の種類のMYインクについても同様である。
【0021】
分光反射率に関するユール・ニールセンモデルを適用すると、前記(1)式は以下の(2a)式または(2b)式に書き換えられる。
【数2】
ここで、nは1以上の所定の係数であり、例えばn=10に設定することができる。前記の(2a)式および(2b)式は、ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデル(Yule-Nielsen Spectral Neugebauer Model)を表す式である。
【0022】
本実施形態で採用するセル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデル(Cellular Yule-Nielsen Spectral Neugebauer Model)は、上述したユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルのインク量空間を複数のセルに分割したものである。
【0023】
図5(A)は、セル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルにおけるセル分割の例を示している。ここでは、説明の簡略化のために、CMインクのインク量dc,dmの2つの軸を含む2次元インク量空間でのセル分割を描いている。なお、インク被覆率fc,fmは上述したマーレイ・デービスモデルにてインク量dc,dmと一意の関係にあるため、インク被覆率fc,fmを示す軸と考えることもできる。白丸は、セル分割のグリッド点(「格子点」と呼ぶ)であり、2次元のインク量(被覆率)空間が9つのセルC1〜C9に分割されている。各格子点に対応するインク量セット(dc,dm)は、分光反射率データベースRDBに規定された格子点に対応するインク量セットとされている。すなわち、上述した分光反射率データベースRDBを参照することにより、各格子点の分光反射率R(λ)を得ることができる。従って、各格子点の分光反射率R(λ)00,R(λ)10,R(λ)20・・・R(λ)33は、分光反射率データベースRDBから取得することができる。
【0024】
実際には、本実施形態ではセル分割もCMYKlclmの6次元インク量空間で行うとともに、各格子点の座標も6次元のインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)によって表される。そして、各格子点のインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)に対応する格子点の分光反射率R(λ)が分光反射率データベースRDB(例えば光沢紙のもの)から取得されることとなる。
【0025】
図5(B)は、セル分割モデルにて使用するインク被覆率fcとインク量dcとの関係を示している。ここでは、1種類のインクのインク量の範囲0〜dcmaxも3つの区間に分割されており、各区間毎に0から1まで単調に増加する非線形の曲線によってセル分割モデルにて使用する仮想的なインク被覆率fcが求められる。他のインクについても同様にインク被覆率fm,fyが求められる。
【0026】
図5(C)は、図5(A)の中央のセルC5内にある任意のインク量セット(dc,dm)にて印刷を行った場合の分光反射率R(λ)の算出方法を示している。インク量セット(dc,dm)にて印刷を行った場合の分光反射率R(λ)は、以下の(3)式で与えられる。
【数3】
ここで、(3)式におけるインク被覆率fc,fmは図4(B)のグラフで与えられる値である。また、セルC5を囲む4つの格子点に対応する分光反射率R(λ)11,(λ)12,(λ)21,(λ)22は分光反射率データベースRDBを参照することにより取得することができる。これにより、(3)式の右辺を構成するすべての値を確定することができ、その計算結果として任意のインク量セットφ(dc,dm)にて印刷を行った場合の分光反射率R(λ)を算出することができる。波長λを可視波長域にて順次シフトさせていくことにより、可視波長域における分光反射率R(λ)を得ることができる。インク量空間を複数のセルに分割すれば、分割しない場合に比べて分光反射率R(λ)をより精度良く算出することができる。以上のようにして、分光プリンティングモデルコンバータRCが分光反射率R(λ)を予測する。
【0027】
A−2.色コンバータ
図6は、色コンバータCCが分光反射率R(λ)に基づいて色を特定する処理を模式的に示している。同図において、分光プリンティングコンバータRCが予測した分光反射率R(λ)の各波長λにおいて所望の光源のスペクトルを乗算することにより、印刷物からの反射光のスペクトルを予測する。さらに、反射光のスペクトルに対して所望の観察条件での感度関数x(λ),y(λ),z(λ)を畳み込み、正規化をすることにより、三刺激値XYZを算出する。本実施形態においては、特に示さない限りCIE1931 2°観測者の観察条件で三刺激値XYZを算出するものとする。光源としては、CIE標準のD50光やD65光やF系光やA系光などを入力することができる。さらに、色コンバータCCは、三刺激値XYZにCIE標準の変換式を適用することにより、CIELAB表色系のL*a*b*値を算出する。このように、分光プリンティングコンバータRCと色コンバータCCを順次使用することにより任意のインク量セットにて印刷を行った場合のL*a*b*値を得ることができる。
【0028】
さらに、色コンバータCCは、三刺激値XYZに対して色順応変換を行うことが可能となっている。例えば、D50光にて算出した三刺激値XYZにCIECAT02に基づく色順応変換式を適用することにより、例えばD50光の下での色の見えを、D65光の対応色で表現したL*a*b*値に変換することができる。なお、CIECAT02については、例えば"The CIECAM02 Color Appearance Model", Nathan Moroney et al., IS&T/SID Tenth Color Imaging Conference, pp.23-27, および、"The performance of CIECAM02", Changjun Li et al., IS&T/SID Tenth Color Imaging Conference, pp.28-31に記載されている。ただし、色順応変換としては、フォン・クリースの色順応予測式などの他の任意の色順応変換を用いることも可能である。この色順応変換によって得られたL*a*b*値をCVL1→Lsと表記するものとする。この下付き文字「L1→Ls」は、光源L1の下での色の見えを、標準光源Lsの対応色で表現したL*a*b*値であることを意味している。色コンバータCCは、少なくとも2以上の比較用光源L1,L2の下での見えを、標準光源Lsの対応色で表現した色彩値CVL1→Ls,CVL2→Lsを求めるとともに、これらに基づいて色恒常性指数CIIを算出する。色恒常性指数CIIは、例えば下記の(4)式によって算出することができる。
【数4】
【0029】
色恒常性指数CIIについては、Billmeyer and Saltzman's Principles of Color Technology, 3rd edition, John Wiley & Sons, Inc, 2000, p.129,p. 213-215を参照。なお、(4)式の右辺は、CIE1994年色差式において、明度と彩度の係数kL,kCの値を2に設定し、色相の係数kHの値を1に設定した色差ΔE*94(2:2)に相当する。CIE1994年色差式では、(4)式の右辺の分母の係数SL,Sc,SHは以下の(5)式で与えられる。
【数5】
【0030】
なお、色恒常性指数CIIの算出に使用する色差式としては、他の式を用いることも可能である。色恒常性指数CIIは、あるカラーパッチを第1と第2の異なる観察条件下で観察したときの色の見えの差として定義されている。従って、印刷したときに色恒常性指数CIIが小さくなるインク量セットは、異なる観察条件での色の見えの差が小さいという点で好ましい。また、色彩値CVL1→Ls,CVL2→Lsは、同一の標準観察条件におけるそれぞれの対応色の測色値なので、それらの色差である色恒常性指数CIIは色の見えの違いをかなり正確に表現する値となる。次に、粒状性コンバータGCおよびその準備について説明する。
【0031】
A−3.粒状性コンバータ
図7は、粒状性コンバータ準備処理の流れを示している。図1に示すように粒状性コンバータGCは、サンプル準備部GC1とマップ作成部GC2と画像入力部GC3と粒状性指数算出部GC4とデータ作成部GC5と予測部GC6とから構成されている。このうちサンプル準備部GC1とマップ作成部GC2と画像入力部GC3と粒状性指数算出部GC4とデータ作成部GC5によって粒状性コンバータ準備処理が実行される。まず、ステップS200において、サンプル準備部GC1は使用するインクの数と種類を特定する。上述したとおり本実施形態ではCMYKlclmインクが使用される。サンプル準備部GC1は、0〜255階調のインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)の組み合わせが存在するインク量空間を作成する。
【0032】
図8は、インク量空間のうちインク量dy,dk,dlc,dlmが所定の一定値であるときのCMインク量dcdm平面を示している。ステップS210においては、サンプル準備部GC1がステップS200で作成したインク量空間に対してデューティ制限(インク使用制限)を設定する。図8においては、デューティ制限よりも外側の領域をハッチングにより示しており、CMインク量dcdmの合計が所定の基準よりも大きくなる領域にデューティ制限が設定されている。デューティ制限は、プリンタ20が印刷可能なインク量セットφを超えるインク量セットφの領域を区画するものであり、例えばインクにじみなどが発生しない上限のインク量セットφについてデューティ制限が設定される。ステップS220においては、デューティ制限よりも内側のインク量空間からサンプル準備部GC1がサンプルを抽出する。ここで、サンプルとは、デューティ制限よりも内側のインク量空間に存在する多数のインク量セットφであり、デューティ制限よりも内側のインク量空間を網羅するように均等もしくはランダムに抽出される。抽出された各サンプルのインク量セットφを、以下、入力ベクトルs(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)と表記するものとする。抽出された多数の入力ベクトルsは、サンプルデータSDとしてHDD11に記憶される。ステップS230においてマップ作成部GC2がインク量マップIMを作成する処理を実行する。
【0033】
図9は、本発明の自己組織化マップとしてのインク量マップIM(一部)を示している。インク量マップIMにおいては、100行×100列の計10,000個のユニットUが2次元平面上に直交格子状に配列している。各ユニットUは、それぞれインク量セットφを有している。なお、各ユニットUが有するインク量セットφのベクトルを参照ベクトルm(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)と表記するものとする。ユニットUの数は100行×100列に限られず、他の個数を採用してもよい。また、各ユニットUが直交格子状に配列するものに限られず、各ユニットUをハニカム状に配列してもよい。
【0034】
図10は、マップ作成部GC2が実行するインク量マップ作成処理の詳細な流れを示している。ステップS231では、インク量マップIMの作成にあたり、各ユニットUの参照ベクトルmを初期化する。各ユニットUの参照ベクトルmの初期化においては、各ユニットUの参照ベクトルmをランダムに決定する。なお、全入力ベクトルsの平均ベクトルをインク量マップIMの中央に位置するユニットUの参照ベクトルmとしてもよい。さらに、インク量マップIMの中央から周囲に向かって段階的に絶対値が増加するスカラーを各入力ベクトルsの第1主成分および第2主成分に乗じたベクトルを平均ベクトルに対して加算することにより、ユニットUの参照ベクトルmを初期化してもよい。なお、第1主成分は入力ベクトルs間の偏差が最大となる方向の単位ベクトルであり、第2主成分は第1主成分に直交する単位ベクトルのうち入力ベクトルs間の偏差が最大となるものである。
【0035】
ステップS232において、学習回数を示すカウンタtを1に初期設定する。以上のように初期設定が完了とすると、各入力ベクトルsを使用して各ユニットUの参照ベクトルmの学習を行う。参照ベクトルmの学習においては、まず多数の入力ベクトルsのなかから現在の学習に使用する入力ベクトルsを例えば無作為に選択する(ステップS233)。そして、全ユニットUのなかから最も評価の高いユニットU(高評価ユニットBMU:図9において●で図示。)を探索する(ステップS234)。本実施形態においては、現在の入力ベクトルsとのユークリッド距離が最も小さくなる参照ベクトルmを有するユニットUを高評価ユニットBMUとする。すなわち、現在の入力ベクトルsが示すインク量セットφと最も似たようなインク量セットφを有するユニットUを高評価とする。高評価ユニットBMUが特定できると、高評価ユニットBMUの近傍のユニットU(近傍ユニットNU:図9において◎で図示。)を特定する(ステップS235)。近傍ユニットNUは、インク量マップIM上において、高評価ユニットBMUを中心とした近傍範囲の内部にあるユニットUである。本実施形態では、高評価ユニットBMUを中心とした辺の長さがh(t)の正方形領域を近傍範囲とする。なお、近傍範囲の幅h(t)は学習回数を示すカウンタtの関数である。
【0036】
以上のようにして、高評価ユニットBMUと近傍ユニットNUが特定できると、高評価ユニットBMUと近傍ユニットNUの参照ベクトルmを現在の入力ベクトルsに基づいて更新する。更新前の参照ベクトルmをm0、更新後の参照ベクトルmをm1とすると、下記の(6)式によって参照ベクトルmを更新する(ステップS236)。
【数6】
前記の(6)式におけるα(t)は、0〜1の値をとる学習率係数であり、カウンタtの関数である。前記の(6)式においては、現在の入力ベクトルsと参照ベクトルm0との偏差を、もとの参照ベクトルm0に加算することにより、更新後の参照ベクトルm1を算出している。参照ベクトルmを更新すると、カウンタtが所定の学習回数cに達したか否かを判定し(ステップS237)、達していない場合にはステップS238にてカウンタtに1を加算し、ステップS233に戻る。このようにすることにより、デューティ制限よりも内側のインク量空間から抽出した多数の入力ベクトルsに応じて参照ベクトルmを更新する処理を学習回数cだけ繰り返すことができる。
【0037】
図11は、学習率係数α(t)と近傍範囲の幅h(t)を示している。近傍範囲の幅h(t)は、傾きが負の線形関数で表され、学習の初期(t=1)のときインク量マップIM全体の幅の半分となり、学習の終期(t=c)のとき1となる。このようにすることにより、学習の影響範囲を次第に狭めていくことができる。一方、学習率係数α(t)は、カウンタtの増加とともに減少する単調減少関数で表され、学習の終期(t=c)のとき0に収束する。このようにすることにより、参照ベクトルmが入力ベクトルsによって修正される度合いを徐々に弱めていくことができる。ステップS233〜S238の学習を繰り返して実行することにより、各ユニットUの参照ベクトルmをデューティ制限よりも内側のインク量空間から抽出した多数の入力ベクトルsのいずれかに近い値に更新していくことができる。すなわち、インク量空間の入力ベクトルsを順次2次元平面上の各ユニットU(BMU)にマッピングしていくことができる。近傍範囲が設定されるため、インク量空間における局所的な相対位置関係を維持したインク量マップIMを作成することができる。
【0038】
ステップS233〜S238の学習課程においては、各ユニットUが互いの相対位置関係に基づいてインク量セットφを自己組織化させている考えることができる。この自己組織化の手法として種々の手法が採用可能であり、例えばバッチラーニングを採用してもよい。このバッチラーニングにおいては、各入力ベクトルsを参照ベクトルmの最も近いユニットUによってグループ分けし、各ユニットUに対応するグループ内で参照ベクトルmの平均ベクトルを算出する。そして、当該平均ベクトルによって対応するユニットUを高評価ユニットBMUとした参照ベクトルmの更新を行う。このようにすることにより、入力ベクトルsの選択(ステップS233)順序が、最終的に作成されるインク量マップIMに影響することを抑制することができる。
【0039】
ステップS240においては、作成されたインク量マップIMを高解像度化する。インク量マップIMは、それぞれがインク量セットφの参照ベクトルmを有する100行×100列のユニットUで構成されており、100×100画素の大きさを有するインク量セットφの画像データである。ここでは、2000×2000画素にインク量マップIMを高解像度化する。具体的には、周囲のユニットUの参照ベクトルmによって補間したインク量セットφを有する画素を各ユニットUの間に内挿することにより、インク量マップIMを高解像度化する。
【0040】
ステップS250においては、高解像度化したインク量マップIMを構成する各画素の位置とインク量セットφとの対応関係を格納した第1データD1をデータ作成部GC5が作成し、HDD11に記憶する。ステップS255においては、高解像度化したインク量マップIMをプリンタドライバP3に出力する。プリンタドライバP3は、解像度変換部P3aと色変換部P3bとハーフトーン処理部P3cとラスタライズ部P3dとから構成されている。プリンタドライバP3は、インク量マップIMを取得すると、当該インク量マップIMを印刷サイズと印刷解像度に適合するように、さらに高解像度化する。次に、ハーフトーン処理部P3bとラスタライズ処理部P3cがインク量マップIMに対して誤差拡散法やディザ法といったハーフトーン処理とラスタライズ処理を順次実行することより、印刷制御データCDを生成する。生成した印刷制御データCDをプリンタ20に出力することにより、インク量マップIMに基づく印刷を実行させる。その結果、インク量マップIMそのものが印刷用紙上に再現された調査シートPPが形成される。
【0041】
図12は、調査シートPPを模式的に説明する図である。上述したように、インク量マップIMにおいてはインク量空間における局所的な相対位置関係が維持されるため、調査シートPPにおいては連続的かつ滑らかなグラデーションの模様が形成されることとなる。調査シートPPの任意の点が所定のインク量セットφに基づいて印刷されたとすると、当該点の周囲(全周囲)の領域は当該インク量セットφと似たようなインク量セットφで印刷されていることとなる。一般的なカラーチャートと異なりインク量のグラデーションの方向が特定方向(例えば、行方向や列方向や放射方向や円周方向。)に限定されない。すなわち、各インクについてインク量に対応するインク被覆率が互いに等しくなる等インク被覆率線を調査シートPPにおいて描いた場合に、各インクの等インク量線は図12に示すように不定形の連続曲線となる。なお、図12は調査シートPP上のインク被覆率分布を各インクについて独立して表したものであり、実際には図示した各インクのインク被覆率分布が合成された状態(微視的に複数のインクのインクドットが隣接または重なる状態)の調査シートPPが印刷される。このような調査シートPPによれば、多くのインク量セットφでの再現結果を効率的に調査シートPPに配置することができる。調査シートPPが印刷できると、ステップS260において、画像入力部GC3が調査シートPPをスキャナ40によってスキャンし、調査シートPPをスキャンした画像データであるスキャンデータSD(例えば、RGB画像データ。)を生成し、HDD11に格納する。ここでは、プリンタ20が調査シートPPを印刷したときの解像度よりも高解像度でスキャンを行う。このようにすることにより、調査シートPPにおけるインクドットの分布状態を詳細に把握することが可能なスキャンデータSDを得ることができる。
【0042】
図13は、スキャンデータSD(模様は不図示。)を図示している。調査シートPPは、2000×2000画素に高解像度化したインク量マップIMが、さらに印刷解像度に高解像度化(拡大)されて印刷される。そのため、スキャンデータSDを1999×1999個の均等な正方領域に区切る格子(破線で図示。)が交差する格子点付近(●で図示。)は、インク量マップIMの各画素のインク量セットφに基づいて印刷した印刷結果を画像入力したものであるということができる。すなわち、各格子点付近は、第1データD1に規定された2000×2000通りのインク量セットφに基づいて印刷した印刷結果を画像入力したものとなる。なお、スキャンデータSDとインク量マップIMは互いに相似の関係にあるため、第1データD1に規定されたインク量マップIMの各画素の位置に基づいて、スキャンデータSDにおける各格子点の位置を特定することができる。ステップS270においては、粒状性指数算出部GC4がスキャンデータSD上の各格子点について粒状性指数GI(本発明の状態量。)を算出する粒状性指数算出処理を実行する。
【0043】
図14は、粒状性指数算出処理の流れを示している。まず、ステップS271において、スキャンデータSDを明度L*分布の画像データL(x,y)に変換する(x,y)は調査シートPPにおける横および縦の座標を意味し、x,yで特定される画素をサブ画素と表記するものとする。)。ステップS272においては、図13において図示した格子点を一つ選択する。ここで、格子点を一つ選択することは、第1データD1に格納されたインク量セットφを一つ選択したことを意味する。そして、ステップS273においては、選択した格子点を中心とした矩形状の格子点領域W(図13において破線で図示。)を形成し、粒状性指数算出部GC4が当該格子点領域W内の画像を取得する。次のステップS274から、粒状性指数算出部GC4が格子点領域W内の画像について粒状性指数GIを算出する処理を開始する。粒状性指数GIは、ある印刷物を観察者が視認したときに、その観察者が感じる粒状感(あるいはノイズの程度)であり、粒状性指数GIが小さい程、観察者が感じる粒状感は小さくなる。本実施例では、粒状性指数GIが以下の(7)式で定義されるものとする。
【数7】
GIについては、例えば、Makoto Fujino,Image Quality Evaluation of Inkjet Prints, Japan Hardcopy '99, p.291-294を参照。なお、(7)式のaLは明度補正項、WS(u)は画像のウイナースペクトラム、VTFは視覚の空間周波数特性、uは空間周波数である。
【0044】
図15は、粒状性指数GIを算出する様子を説明している。本実施形態において、粒状性指数GIは印刷画像の粒状性を画像の明度の空間周波数(cycle/mm)特性で評価する。そのために、まず図15の左端に示す明度のサブ画素平面における空間分布L(x,y)に対してFFT(Fast Fourier Transformation)を実施する(ステップS274)。図15においては得られた空間周波数のスペクトルをS(u,v)として示している。なお、スペクトルS(u,v)は実部Re(u,v)と虚部Im(u,v)とからなり、S(u,v)=Re(u,v)+jIm(u,v)である。このスペクトルS(u,v)は上述したウイナースペクトラムに相当する。
【0045】
ここで、(u,v)は(x,y)の逆空間の次元を持つが、本実施例において(x,y)は座標として定義され、実際の長さの次元に対応させるにはスキャナ40のスキャン解像度等を考慮しなければならない。従って、S(u,v)を空間周波数の次元で評価する場合も次元の変換が必要である。そこで、まず、座標(u,v)に対応した空間周波数の大きさf(u,v)を算出する。すなわち、主走査方向の最低周波数euはX解像度/25.4,副走査方向の最低周波数evはY解像度/25.4と定義される。なお、X解像度,Y解像度はスキャナ40がスキャンした際の解像度である。なお、ここでは1インチを25.4mmとしている。各走査方向の最低周波数eu,evが算出されれば、任意の座標(u,v)における空間周波数の大きさf(u,v)は((eu・u)2+(ev・v)2))1/2として算出することが可能になる。
【0046】
一方、人間の目は、空間周波数の大きさf(u,v)に応じて明度に対する感度が異なり、当該視覚の空間周波数特性は、例えば、図15の中央下部に示すVTF(f)のような特性である。この図15におけるVTF(f)はVTF(f)=5.05×exp(−0.138・d・π・f/180)×(1−exp(−0.1・d・π・f/180))である。なお、ここでdは印刷物と目の距離でありfは前記空間周波数の大きさである。このfは上述した(u,v)の関数として表現されているので、視覚の空間周波数特性VTFは(u,v)の関数VTF(u,v)とすることができる。
【0047】
上述のスペクトルS(u,v)に対してこのVTF(u,v)を乗じれば、視覚の空間周波数特性を考慮した状態でスペクトルS(u,v)を評価することができる。また、この評価を積分すれば格子点領域W全体について空間周波数を評価することができる。そこで、本実施例においては、ステップS276〜S280の処理で積分までの処理を行っており、まず、(u,v)を双方とも“0”に初期化し(ステップS276)、ある座標(u,v)での空間周波数f(u,v)を算出する(ステップS277)。また、この空間周波数fにおけるVTFを算出する(ステップS278)。
【0048】
VTFが得られたら、当該VTFの2乗とスペクトルS(u,v)の2乗とを乗じ、積分結果を代入するための変数Powとの和を算出する(ステップS279)。すなわち、スペクトルS(u,v)は実部Re(u,v)と虚部Im(u,v)とを含むので、その大きさを評価するため、まず、VTFの2乗とスペクトルS(u,v)の2乗とによって積分を行う。そして、格子点領域W内の全座標(u,v)のすべてについて以上の処理を実施したか否かを判別し(ステップS280)、全座標(u,v)について処理を終了したと判別されなければ、格子点領域W内の未処理の座標(u,v)を抽出してステップS277以降の処理を繰り返す。なお、VTFは図15に示すように空間周波数の大きさが大きくなると急激に小さくなってほぼ”0”となるので、座標(u,v)の値域を予め所定の値以下に制限することにより必要充分な範囲で計算を行うことができる。
【0049】
積分が終了したら、Pow1/2/全画素数を算出する(ステップS281)。すなわち、変数Powの平方根によって前記スペクトルS(u,v)の大きさの次元に戻すとともに、全画素数で除して規格化する。この規格化により、入力画像の画素数に依存しない客観的な指数(図15のInt)を算出している。本実施形態においては、さらに、格子点領域W全体の明度による影響を考慮した補正を行って粒状性指数GIとしている。すなわち、本実施形態においては、空間周波数のスペクトルが同じであっても格子点領域W全体が明るい場合と暗い場合とでは人間の目に異なった印象を与え、格子点領域W全体が明るい方が粒状性を感じやすいものとして補正を行う。このため、まず、格子点領域W内の全画素について明度L(x,y)を足し合わせ、全画素で除することにより、画像全体の明度の平均Aveを算出する(ステップS282)。
【0050】
そして、格子点領域W全体の明るさによる補正係数a(L)をa(L)=((Ave+16)/116)0.8と定義し、この補正係数a(L)を算出(ステップS283)するとともに前記Intに乗じて粒状性指数GIとする(ステップS284)。なお、補正係数a(L)は、上述した明度補正項aLに相当する。以上の処理によって、粒状性指数算出部GC4が前記の(7)式を具体的に演算したこととなる。補正係数としては、明度の平均によって係数の値が増減する関数であればよく、他にも種々の関数を採用可能である。むろん、粒状性指数GIを評価する成分は明度成分に限られず、色相、彩度成分を考慮して空間周波数を評価してもよいし、色彩値として、明度成分,赤−緑成分,黄−青成分を算出し、それぞれをフーリエ変換した後、各色成分ごとに予め定義された視覚の空間周波数特性を乗じて粒状性指数GIを算出してもよい。
【0051】
以上説明したステップS272〜S284の処理によって、ステップS272において選択したスキャンデータSD上の格子点(インク量セットφ)についての粒状性が粒状性指数GIとして定量化できたこととなる。ステップS285においては、データ作成部GC5がインク量セットと粒状性指数GIとの対応関係をHDD11に第2データD2として格納する。ステップS286においては、スキャンデータSD(第1データD1)上のすべての格子点(インク量セットφ)について選択したか否かを判定し、すべて選択していない場合にはステップS272に戻る。すなわち、図13において図示した別の格子点を一つ選択し、当該別の格子点(インク量セットφ)についての粒状性指数GIを算出する。以上の処理を繰り返して実行することにより、第1データD1に格納された各インク量セットφについての粒状性指数GIを順次算出していき、各インク量セットφと粒状性指数GIとの対応関係を第2データD2に格納していくことができる。すべての格子点(2000×2000個)についてインク量セットφと粒状性指数GIとの対応関係を規定した第2データD2が作成できると、粒状性コンバータ準備処理(粒状性指数算出処理)を終了させる。粒状性コンバータ準備処理によって第2データD2が作成できると、第2データD2を利用して予測部GC6が任意のインク量セットφに基づいて印刷を行った場合の粒状性指数GIを予測することが可能となる。
【0052】
図16は、粒状性予測処理の流れを示している。ステップS100においては、粒状性指数GIを予想すべきインク量セットφを予測部GC6が取得する。特に、後述するプロファイル作成処理においては、最適化部P2dが最適化の際に指定するインク量セットφを順次取得することとなる。ステップS110においては、取得したインク量セットφに最も近いインク量セットφを第2データD2において検索する。すなわち、第2データD2に規定された2000×2000個のインク量セットφのうち、予測対象のインク量セットφに最も似ているものを検索する。例えば、インク量空間におけるユークリッド距離に基づいて近いか否かを判定すればよい。最も近いインク量セットφが検索できると、第2データD2において当該インク量セットφに対応付けられた粒状性指数GIを取得し、当該粒状性指数GIを予測結果とする(ステップS120)。なお、本実施形態では、第2データD2において予測対象のインク量セットφに最も近いインク量セットφに対応付けられた粒状性指数GIを予測結果とするものを例示したが、他の手法によって予測結果を決定してもよい。例えば、第2データD2に規定されたインク量セットφのうち、予測対象のインク量セットφに近い複数のインク量セットφを使用した補間演算を行うことにより、予測結果を決定するようにしてもよい。
【0053】
B.プロファイルの作成
以上においては、印刷結果予測部プログラムP1を構成する各種コンバータRC,CC,GCおよびその準備について説明したが、以下においては各種コンバータRC,CC,GCを利用して、本発明のプロファイルとしてのルックアップテーブルを作成し、当該作成したルックアップテーブルを用いて色変換を実行するプロファイル作成装置および印刷制御装置について説明する。具体的には、コンピュータ10にて実行されるLUT作成プログラムP2とプリンタドライバP3がプロファイル作成装置および印刷制御装置を具現化する。なお、ルックアップテーブルは、LUTと略記する場合もある。
【0054】
図17は、LUT作成プログラムP2の構成を示している。LUT作成プログラムP2は、初期LUT生成部P2aと評価関数設定部P2bと平滑程度算出部P2cと最適化部P2dとLUT生成部P2eとから構成されている。以下、各モジュールP2a〜P2dが実行するプロファイル作成処理の詳細をフローに基づいて説明する。
【0055】
図18は、プロファイル作成処理の流れを示している。ステップS400においては、初期のインクプロファイルIPを作成する。なお、インクプロファイルIPは、絶対色空間であるCIELAB色空間(L*a*b*空間)とインク量空間であるCMYKlclm空間(dcdmdydkdlcdlm空間)との対応関係を複数の代表的な格子点について規定したLUTである。初期のインクプロファイルIPの作成においては、例えば上述した有効領域のなかから173組のランダムなインク量セットφ=(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)を生成する。この173組のインク量セットは、本発明のLUT用インク量セットの初期値であり、後述する処理によって最適化されていく。なお、初期のLUT用インク量セットは、最終的に最適化されるため、初期の段階においてどのように生成してもよい。
【0056】
次に、ステップS410にて、評価関数設定部P2bが評価関数を設定する。すなわち、後述する最適化の指針を設定する。インクプロファイルIPは、絶対色空間であるCIELAB色空間とインク量空間との対応関係を有限数の格子点について規定するものであるため、将来的に補間処理によって格子点以外の対応関係が予測されることとなる。一般に、各色空間で整然と並んでいる格子点の方がその間に位置する色を補間演算によって算出する際に空間の局所的位置によって補間精度を大きく変動させることなく補間を行うことができる。従って、本実施形態における最適化の指針として格子点配置をCIELAB色空間にて平滑化する指標を採用することで、インクプロファイルIPの作成時および作成後の色変換時に高精度に補間演算を実施することが可能になる。この結果、トーンジャンプの発生を抑え、滑らかに階調が変化する印刷物を得ることが可能なインクプロファイルIPを作成することが可能になる。
【0057】
また、インクプロファイルIPにおいては、できるだけ広い色再現性を実現するためにプリンタ20が当該インクセット(CMYKlclm)にて再現可能な色再現ガマットの全体について格子点が分布すべきである。従って、本実施形態における最適化の指針として色再現ガマットをCIELAB色空間にて確保する指標を採用することで、広い色再現性を実現可能なインクプロファイルIPを実現することができる。以上の指針によって、格子点のCIELAB色空間における最適な分布を指定することができる。
【0058】
ところが、CIELAB色空間において最適な格子点を定めたとしても、インクプロファイルIPにて当該格子点に対応するインク量セットφ=(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)を一意に定めることができない。インクプロファイルIPは、絶対色空間であるCIELAB色空間とインク量空間であるCMYKlclm空間との対応関係を規定したものであるが、CIELAB色空間とCMYKlclm空間の対応関係は一義的な関係にあるものではないからである。すなわち、CIELAB色空間にて一のL*a*b*値を定めたとしても、ある光源下で当該L*a*b*値が再現可能な印刷結果を実現するインク量セットφを一意に定めることはできない。例えば、KインクとCMYインクは分版可能な関係にあるため、ある光源において分版比率を変更しても同一のL*a*b*を再現することができる。CインクとlcインクやMインクとlmインクの関係についても同様である。
【0059】
従って、CIELAB色空間において最適な格子点を定めると同時に、当該格子点に対応するインク量セットφも最適化させていく必要がある。例えば、KインクとCMYインクとの分版比率はCIELAB色空間におけるL*a*b*値を定めても一意に定めることができないが、ハイライト領域において濃いKインクを発生させると粒状性が目立つこととなる。従って、粒状性の改善を最適化の指針とすれば、ハイライト領域のL*a*b*値に対してはdk=0となるインク量セットφに最適化させることができる。逆に、KインクとCMYインクとの分版比率はCIELAB色空間におけるL*a*b*値を定めても一意に定めることができないが、分光反射率がフラットでないCMYインクによるコンポジットグレーを多用すれば、色の光源依存性が問題となる。そのため、色恒常性の改善を最適化の指針としても、インクプロファイルIPの格子点を最適化すべきである。さらに、インク量セットφの大きさを全体的に小さくする指針を適用すれば、インクのランニングコストの面で最適なインクプロファイルIPを作成することができる。
【0060】
以上のように、最適なインクプロファイルIPを作成するためには様々な要素を考慮して格子点の最適化を行なうのが好ましく、すべての要素を考慮して最適な分版規則を設定することは困難である。従って、本実施形態では、これらの要素を同時に評価することが可能な評価関数Epを上述した指針に基づいて設定する(ステップS410)。具体的には、下記の(8)式により評価関数Ep(Ep(φ))を設定する。また、評価関数Epを算出する際に使用する光源も設定する。
【数8】
前記の(8)式において、評価関数Epは5個の項をw1〜w5の重み係数によって加算した値であり、各項がそれぞれ上述した格子点を選択する指針に基づいて設定されている。(8)式の第1項は、上述した粒状性コンバータGCによる粒状性予測処理によって得られる粒状性指数GIを最大値で除算することによって正規化し、所定の重み係数w1を乗算したものとなっている。なお、評価関数Epの添え字p(p=1〜173)は注目する格子点の識別符号を示している。粒状性指数GIは小さい方が良好な画質となるため、(8)式の第1項が小さくなるほど最適であるといえる。
【0061】
(8)式の第2項は、色コンバータCCによって得られる色恒常性指数CIIを最大値で除算することによって正規化し、所定の重み係数w2を乗算したものとなっている。色恒常性指数CIIは、任意のインク量セットφを分光プリンティングモデルコンバータRCに入力することにより得られる分光反射率R(λ)をさらに色コンバータCCによって変換することにより得られるものであり、インク量セットφの関数であるということができる。(8)式の第3項は、平滑程度算出部P2cによって得られる平滑程度評価指数SIを最大値で除算することによって正規化し、所定の重み係数w3を乗算したものとなっている。色恒常性指数CIIは小さい方が良好な画質となるため、(8)式の第2項が小さくなるほど最適であるといえる。なお、色コンバータCCが色恒常性指数CIIを算出する光源はステップS410にて設定されている。例えば、比較用の光源L1,L2をD50光,F11光として標準光源LsをD65光と設定されている。
【0062】
図19は、平滑程度評価指数SIを模式的に説明している。同図において、○はCIELAB空間における複数の格子点の位置を示し、●は当該格子点のうち注目する格子点(評価関数Epの算出対象の格子点)を示している。注目する格子点の位置ベクトルをLpとし、当該格子点に隣接する6個の格子点の位置ベクトルをL a1〜L a6とすると、平滑程度評価指数SIは下記の(9)式によって表される。
【数9】
平滑程度評価指数SIは、注目する格子点から互いに逆向きのベクトルの距離が等しく、方向が正反対に近いほど値が小さくなるようにしてある。
【0063】
図19(B)に示すように、隣接する格子点を結ぶ線(ベクトルL a1〜ベクトルLp〜ベクトルL a2が示す格子点を通る線等)が直線に近く、また格子点が均等に配置されるほどCIELAB色空間における格子点の配置が平滑化される傾向にあるので、(9)式に示す平滑程度評価指数SIが小さくなればなるほど、平滑程度が高くなるということができる。CIELAB色空間におけるL*a*b*値は、インク量セットφ=(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)を分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCによって順次変換することにより得ることができる。色コンバータCCがL*a*b*値を算出する光源はステップS410にて標準光源Lsとして設定されたD65光を使用する。従って、前記の(9)式においてCIELAB色空間における位置ベクトルで特定される平滑程度評価指数SIはインク量セットφの関数であるということができる。平滑程度評価指数SIは小さい方が高い補間精度が期待できるため、(8)式の第3項が小さくなるほど最適であるといえる。次に、(8)式の第4項は、注目する格子点の位置ベクトルLpと特定の色に近いか否かを示している。
【0064】
図20は、プリンタ20の色再現ガマットをCIELAB色空間において示している。同図に示すように、プリンタ20の色再現ガマットは予めプリンタ20のハードウェア仕様やインクセットによって定められており、この範囲において色を再現することができる。従って、インクプロファイルIPの格子点をCIELAB色空間において色再現ガマットの全体に存在させる必要がある。そのために、一部の格子点については、色再現ガマットの外面上や稜線上や頂点に拘束する必要がある。色再現ガマットの外面上や稜線上や頂点が満たす色と格子点の色差ΔEを(8)式の第4項として加えて最適化を行うことによって、色再現ガマット全体に格子点を存在させることができる。なお、(8)式の第4項も、CIELAB色空間における位置ベクトルで特定されるため、インク量セットφの関数であるということができる。色再現ガマットの最外色と同じ色を示す格子点が含まれるほど、最大限広い色再現性を実現することができるため、(8)式の第4項が小さくなるほど最適であるといえる。
【0065】
(8)式の第5項は、インク量セットφの合計値を正規化したものである。これにより、インクのトータルの消費量を加味した評価関数Epにより格子点の最適化を行うことができる。(8)式の第5項も、インク量セットφに依存し、インク量セットφの関数であるということができる。なお、(8)式におけるTDutyは記録媒体に付着可能なインク量の制限に対応した値である。インク量は少ないほどランニングコストが良好となるため、(8)式の第5項が小さくなるほど最適であるといえる。
【0066】
以上説明したように評価関数Epを構成するすべての項は、インク量セットφの関数によって表されているとともに、小さくなるほど格子点が最適となる。従って、ステップS400においては、適当に初期の格子点を定めたに過ぎないため、各格子点に注目して評価関数Epを算出しても、評価関数Epは小さい値とならない。従って、ステップS420においては評価関数Epを極小化させるように最適化部P2dが各格子点の最適化を行う。どの項を重視して最適化を行うかは、上述した重み係数w1〜w5によって決定づけられる。従って、インクプロファイルIPの作成にあたり、どの項目を重視すべきかを設定し、それに基づいて重み係数w1〜w5を設定するのが望ましい。例えば、画質を犠牲にしてでもランニングコストのよいインクプロファイルIPを作成したいのであれば重み係数w5を大きく設定すべきである。また、色再現ガマットの外面に位置すべき格子点に対しては重み係数w4を大きくして、外面への拘束を強めるのが望ましい。
【0067】
具体的にステップS420においては、各格子点について評価関数Epを極小化させるインク量セットφを順次算出していく。例えば、インク量空間における初期のインク量セットの位置から局所的にインク量セットφを移動させ、その際に評価関数Epを極小化させるインク量セットを各格子点について算出していく。これにより、インク量空間における格子点の位置が評価関数Epを極小化させる方向に修正されたこととなる。さらに、修正後の位置から同様に局所的にインク量セットφを移動させ、その際に評価関数Epを極小化させるインク量セットを各格子点について算出していく。以上のような処理を繰り返し(例えば200回)実行することにより、最終的には各格子点についての評価関数Epが極めて小さくなる格子点に最適化することができる。なお、以上の処理を規定回数行うことをもって格子点の最適化を完了させてもよいし、評価関数Epの値が所定の閾値を下回ることをもって格子点の最適化を完了させてもよい。
【0068】
この最適化処理においては順次更新されるインク量セットφについて評価関数Epを算出することが必要となるが、その際に、上述した各コンバータRC,CC,GCおよび平滑程度算出部P2cを利用することによって、逐次、各インク量セットφに対応する分光反射率R(λ)や粒状性指数GIや色恒常性指数CIIや平滑程度評価指数SIが算出されることとなる。以上の最適化によれば、評価関数Epによって粒状性や色恒常性やランニングコストに優れるインク量セットφの格子点が得られると同時に、当該格子点のCIELAB色空間における分布も最適なものとなる。式(8)の第3項および第4項にてCIELAB色空間における評価も評価関数Epの一部に取り入れているからである。本実施形態では、CIELAB色空間における格子点の最適化とインク量空間における格子点の最適化を同時に行うことができるため、処理の効率がよい。なお、本実施形態において、特開2006−197080号公報に開示された格子点の最適化の手法を適用することもできる。この場合、インク量空間にて評価関数Epを0とする方向の仮想的な力を各格子点に作用させ、当該力によってインク量空間における格子点の位置を定常状態に収束させればよい。
【0069】
以上のようにして各格子点が最適化されると、ステップS430にて最適化された格子点のインク量セットφに対応したL*a*b*値を分光プリンティングモデルコンバータRCおよび色コンバータCC(D65光)によって算出する。そして、互いに対応するL*a*b*値とインク量セットφとの対応関係を記述したインクプロファイルIPをLUT生成部P2eが作成する。なお、インクプロファイルIPに記述されるインク量セットφは、少なくとも粒状性が(評価関数Epの値を極小化させる程度に)良好であるという条件を満足するインク量セットφであるということができる。
【0070】
ステップS440においては、インクプロファイルIPに基づいて色変換プロファイルCPを作成する。色変換プロファイルCPは、例えばsRGB色空間で各画素の色が表された画像データをプリンタ20におけるインク量空間の画像データに変換するLUTである。sRGB色空間はCIE標準に基づいてCIELAB色空間との対応関係(sRGBプロファイルSP)が定められているため、インクプロファイルIPに規定された各格子点のL*a*b*値によってsRGB色空間のRGB値とインク量セットφとの対応関係を特定し、LUT化することができる。その際に、補間処理が行われるが上述した最適化によってインクプロファイルIPが規定する格子点のCIELAB色空間における分布が平滑化されているため、高い補間精度を実現することができる。
【0071】
sRGBプロファイルSPについても上述した平滑程度評価指数SIによる最適化を行っておくことが望ましい(特開2006−197080号公報、参照。)。なお、CIELAB色空間におけるsRGB色空間のガマットとプリンタ20の色再現ガマットが異なるため、適宜ガマットマッピングが行われる。なお、ここではインクプロファイルIPにさらに別の絶対色空間であるsRGB色空間を結合するものを例に挙げたが、入力デバイスに依存した機器依存のソース色空間と、インクプロファイルIPとを結合させたデバイスリンクプロファイルを作成するようにしてもよい。色変換プロファイルCPが作成できると、以降はプリンタドライバP3の色変換部P3aが色変換プロファイルCPを参照して補間処理を行うことにより、sRGB色空間で各画素の色が表された印刷画像データをインク量セットφの画像データに変換することができる。さらに、ハーフトーン処理部P3bとラスタライズ処理部P3cがインク量セットφの画像データに対して誤差拡散法やディザ法といったハーフトーン処理とラスタライズ処理を順次実行することより、印刷制御データCDを生成することができる。生成した印刷制御データCDをプリンタ20に出力することにより、前記印刷画像データに基づく印刷を実行させることができる。
【0072】
C.変形例
以上においては、調査シートPPの各位置から粒状性指数GIを計測するものを例示したが、調査シートPPから計測可能な状態量は粒状性指数GIに限られるものではない。例えば、調査シートPPの各位置において分光反射率R(λ)を計測することも可能であり、同様に所定光源下における測色値を計測することも可能である。計測した分光反射率R(λ)や測色値を調査シートPPの位置(すなわちインク量セットφ)と対応付けたデータを作成しておくことにより、当該データを参照して任意のインク量セットφに基づいて印刷を行った場合の分光反射率R(λ)や測色値を得ることができる。また、以上においては、印刷結果予測プログラムP1とLUT作成プログラムP2とプリンタドライバP3が単一のコンピュータ10にて実行されるようにしたが、これらが別のコンピュータにおいて実行されてもよい。さらに、いわゆるダイレクトプリンタにおいてプリンタドライバP3と同等の機能を実行するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】コンピュータの構成を示すブロック図である。
【図2】印刷方式を説明する模式図である。
【図3】分光反射率データベースを示す図である。
【図4】分光ノイゲバウアモデルを示す図である。
【図5】セル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルを示す図である。
【図6】分光反射率から色を特定する様子を示す図である。
【図7】粒状性コンバータ準備処理のフローチャートである。
【図8】インク量平面を示す図である。
【図9】インク量マップを示す図である。
【図10】インク量マップ作成処理のフローチャートである。
【図11】学習率係数と近傍範囲の幅を示すグラフである。
【図12】調査シートにおける各インクの等インク被覆率線を示す図である。
【図13】スキャンデータを示す図である。
【図14】粒状性指数算出処理のフローチャートである。
【図15】粒状性指数を算出する処理を示す図である。
【図16】粒状性予測処理のフローチャートである。
【図17】LUT作成プログラムの構成を示すブロック図である。
【図18】プロファイル作成処理のフローチャートである。
【図19】平滑程度評価指数を説明する図である。
【図20】プリンタの色再現ガマットを示すグラフである。
【符号の説明】
【0074】
10…コンピュータ、11…HDD,12…CPU,20…プリンタ、30…分光反射率計、40…スキャナ、RC…分光プリンティングコンバータ、CC…色コンバータ、GC…粒状性コンバータ、RDB…分光反射率データベース、D1…第1データ,D2…第2データ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷結果予測方法、プロファイル作成方法、印刷装置、および、調査シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の粒状性を予測する技術として、インク量セットをハーフトーン処理し、ハーフトーンデータに基づいて印刷用紙上のインクドット分布を推測し、そのインクドット分布に基づいて粒状性を定量化するものが知られている(例えば、特許文献1、参照。)。一方、実際にプリンタにてカラーパッチを印刷し、そのカラーパッチをスキャナで取り込んだ画像を解析することにより粒状性を定量化するものも知られている(例えば、特許文献2、3参照。)。また、カラーパッチをスキャナで取り込んだ画像を解析した結果を学習データとして学習させたニューラルネットワークを用いて、任意のインク量セットに基づいて印刷を場合の粒状性を予測するものが提案されている。
【特許文献1】特開2005−103921号公報
【特許文献2】特開2005−310098号公報
【特許文献3】特開2007−281723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
粒状性の良好なインク量セットとなるプロファイルを作成する場合には、プリンタが使用可能なインク量空間の全域を網羅する多数のインク量セットについて粒状性を把握し最適なインクセットを選択する必要があり、これらの多数のインク量セットについてすべてシミュレーションを行なったり、カラーパッチを形成/評価することは困難であるという課題があった。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、粒状性等の印刷結果の予測を効率化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するために、まず3種類以上のインク量で構成されるインク量空間を2次元平面にマッピングすることにより、2次元平面上の各位置が前記インク量を有するインク量マップを作成する。インク量マップが作成できると、当該インク量マップを印刷することにより調査シートを作成する。前記インク量マップは、2次元平面上の各位置が前記インク量を有したインク量の画像データであると考えることができ、ハーフトーン処理・ラスタライズ処理を行うことにより、前記インク量マップに基づく画像を再現した前記調査シートを得ることができる。そして、前記調査シートの各位置について状態量を計測し、当該計測結果に基づいて、任意の前記インク量に基づいて印刷を行った場合の前記状態量を予測する。このようにすることにより、多数のカラーパッチを印刷することなく、任意の前記インク量セットについての前記状態量を予測することができる。
【0005】
前記インク量空間に分布する多数の前記インク量によって、前記インク量マップ上に配置された複数のユニットの前記インク量を学習させた自己組織化マップを、前記インク量マップとして採用してもよい。自己組織化マップについては、T.コホネン著 2005年6月7日発行 改訂版 自己組織化マップ を参照。また、前記ユニットの個数が増加すると学習に要する演算処理負荷・時間も大幅に増加するため、前記ユニットの個数を増加させるのは困難である。学習時には前記インク量マップを構成する前記ユニットの個数を少なくしておき、学習後、前記インク量マップを高解像度すれば、演算処理負荷・時間を大幅に増加させることなく、前記インク量が滑らかに分布する前記インク量マップを得ることができる。
【0006】
前記状態量の一例として、粒状性を定量化した粒状性指数を予測するようにしてもよい。これにより前記粒状性指数を効率的に予測することができる。また、別の一例として、印刷色や分光反射率等を前記状態量として予測するようにしてもよい。また、前記インク量空間のうち、前記調査シートを印刷する印刷装置のインク使用制限よりも内側の領域を2次元平面にマッピングすることにより前記インク量マップを作成することにより、印刷可能な前記インク量マップを作成することができる。
【0007】
なお、本発明の技術的思想は、方法のみならず、当該方法を実行するコンピュータ等のハードウェアや当該コンピュータにおける処理手順を規定したプログラムにおいても具現化することができることはいうまでもない。また、本発明の方法は、単体として存在するものに限られず、ある方法の一部として組み込まれる場合もある。例えば、本発明の手法により印刷結果を予測する方法を一部に組み入れたプロファイル作成方法においても、本発明が実現できることはいうまでもない。さらに、本発明のプロファイル作成方法によって作成されたプロファイルを参照して色変換を行う印刷装置においても本発明の特徴が具現化されているということができる。
【0008】
さらに、上述した印刷結果予測方法において作成される調査シートは、以下のような物理的特徴を有しているということができる。すなわち、前記調査シートは、3種類以上のインクを印刷媒体上に被覆させることにより形成された調査シートであるとともに、前記印刷媒体上における各インクのインク被覆率が各位置に応じて連続的に変動し、かつ、各インクの等インク被覆率線が曲線(微視的には階段状であるが曲線に近似できるものも含む)をなすことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.各種コンバータおよびその準備:
A−1.分光プリンティングモデルコンバータ:
A−2.色コンバータ:
A−3.粒状性コンバータ:
B.プロファイルの作成:
C.変形例:
【0010】
A.各種コンバータおよびその準備
A−1.分光プリンティングモデルコンバータ
図1は、コンピュータ10のハードウェア・ソフトウェア構成を示すブロック図である。なお、コンピュータ10においては、印刷結果予測部プログラムP1とLUT作成プログラムP2とプリンタドライバP3が実行されている。印刷結果予測プログラムP1とLUT作成プログラムP2とプリンタドライバP3は、コンピュータ10のハードウェア、および、コンピュータ10のハードウェアが読み込んで実行するソフトウェアによって実行されている。具体的には、コンピュータ10が備えるCPU12が、ハードディスクトライブ(HDD)11等に記憶されたプログラムデータ11aを読み込み、当該プログラムデータ11aをRAM13上に展開しながらプログラムデータ11aにしたがった演算を実行させる。そして、当該演算によって本発明の印刷装置としてのプリンタ20や分光反射率計30やスキャナ40といった外部機器を所定のインターフェースを介して制御することにより、印刷結果予測プログラムP1とLUT作成プログラムP2とプリンタドライバP3を構成する各種手段を実現する。
【0011】
図2は、本実施形態のプリンタ20の印刷方式を模式的に示している。同図において、プリンタ20は、CMYKlclm(シアン,マゼンタ,イエロー,ブラック,ライトシアン,ライトマゼンタのインクごとに複数のノズル21a,21a・・・を備えた印刷ヘッド21を備えており、ノズル21a,21a・・・が吐出するCMYKlclmのインクごとのインク量を上述したインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)によって指定された量とする制御が印刷制御データCDに基づいて行われる。各ノズル21a,21a・・・が吐出したインク滴は印刷用紙上において微細なドットとなり、多数のドットの集まりによってインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)に応じたインク被覆率の印刷画像が印刷用紙上に形成されることとなる。本明細書において、インク量セットφに基づいて印刷することは、インク量セットφに応じたインク被覆率の画像が印刷用紙上に再現されることを意味する。本実施形態におけるプリンタ20はインクジェット方式のプリンタであるが、インクジェット方式の他にも種々のプリンタに対して本発明を適用可能である。なお、本実施形態において、各インク量djは0〜255の階調を有する8ビットで与えられるものとする。
【0012】
印刷結果予測プログラムP1は、大きく分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCと粒状性コンバータGCとから構成されており、さらに粒状性コンバータGCはサンプル準備部GC1とマップ作成部GC2と画像入力部GC3と粒状性指数算出部GC4とデータ作成部GC5と予測部GC6とから構成されている。分光プリンティングモデルコンバータRCは、任意のインク量セットφを入力し、当該インク量セットφをプリンタ20に指定して印刷を実行させた場合に印刷用紙上において再現される分光反射率R(λ)を算出する処理を行う。
【0013】
分光プリンティングモデルコンバータRCが使用する予測モデルは、本実施形態のプリンタ20で使用され得る任意のインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)で印刷を行った場合の分光反射率R(λ)を分光反射率R(λ)として予測するための予測モデルである。分光プリンティングモデルにおいては、インク量空間における複数の代表点について実際にカラーパッチを印刷し、その分光反射率R(λ)を分光反射率計によって測定することにより得られた分光反射率データベースRDBを用意する。そして、この分光反射率データベースRDBを使用したセル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデル(Cellular Yule-Nielsen Spectral Neugebauer Model)による予測を行うことにより、正確に任意のインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)で印刷を行った場合の分光反射率R(λ)を予測する。
【0014】
図3は、分光反射率データベースRDBを示している。同図に示すように分光反射率データベースRDBはインク量空間(本実施形態では6次元であるが、図の簡略化のためCM面のみ図示。)における複数の格子点のインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)について実際に印刷/測定をして得られた分光反射率R(λ)が記述されたルックアップテーブルとなっている。例えば、各インク量軸を分割する5グリッドの格子点を発生させる。ここでは513個もの格子点が発生し、膨大な量のカラーパッチの印刷/測定をすることが必要となるが、実際にはプリンタ20にて同時に搭載可能なインク数や同時に吐出可能なインクデューティの制限があるため、印刷/測定をする格子点の数は絞られることとなる。
【0015】
さらに、一部の格子点のみ実際に印刷/測定をし、他の格子点については実際に印刷/測定を行った格子点の分光反射率R(λ)に基づいて分光反射率R(λ)を予測することにより、実際に印刷/測定を行うカラーパッチの個数を低減させてもよい。分光反射率データベースRDBは、プリンタ20が印刷可能な印刷用紙ごとに用意されている必要がある。厳密には、分光反射率R(λ)は印刷用紙上に形成されたインク膜(ドット)による分光透過率と印刷用紙の反射率によって決まるものであり、印刷用紙の表面物性(ドット形状が依存)や反射率の影響を大きく受けるからである。次に、分光反射率データベースRDBを使用したセル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルによる予測を説明する。
【0016】
分光プリンティングモデルコンバータRCは、分光反射率データベースRDBを使用したセル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルによる予測を実行する。この予測にあたっては、種々の予測条件を設定する。具体的には、印刷用紙やインク量セットφを予測条件として設定する。例えば、光沢紙を印刷用紙として予測を行う場合には、光沢紙にカラーパッチを印刷することにより作成した分光反射率データベースRDBが設定される。
【0017】
分光反射率データベースRDBの設定ができると、インク量セットφを分光プリンティングモデルに適用する。セル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルは、よく知られた分光ノイゲバウアモデルとユール・ニールセンモデルとに基づいている。なお、以下の説明では、説明の簡略化のためCMYの3種類のインクを用いた場合のモデルについて説明するが、同様のモデルを本実施形態のCMYKlclmを含む任意のインクセットを用いたモデルに拡張することは容易である。また、セル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルについては、Color Res Appl 25, 4-19, 2000およびR Balasubramanian, Optimization of the spectral Neugebauer model for printer characterization, J. Electronic Imaging 8(2), 156-166 (1999)を参照。
【0018】
図4は、分光ノイゲバウアモデルを示す図である。分光ノイゲバウアモデルでは、任意のインク量セット(dc,dm,dy)で印刷したときの印刷物の分光反射率R(λ)は、以下の(1)式で与えられる。
【数1】
【0019】
ここで、aiはi番目の領域の面積率であり、Ri(λ)はi番目の領域の分光反射率である。添え字iは、インクの無い領域(w)と、シアンインクのみの領域(c)と、マゼンタインクのみの領域(m)と、イエローインクのみの領域(y)と、マゼンタインクとイエローインクが吐出される領域(r)と、イエローインクとシアンインクが吐出される領域(g)と、シアンインクとマゼンタインクが吐出される領域(b)と、CMYの3つのインクが吐出される領域(k)をそれぞれ意味している。また、fc,fm,fyは、CMY各インクを1種類のみ吐出したときにそのインクで覆われる面積の割合(「インク被覆率(Ink area coverage)」と呼ぶ)である。
【0020】
インク被覆率fc,fm,fyは、図4(B)に示すマーレイ・デービスモデルで与えられる。マーレイ・デービスモデルでは、例えばシアンインクのインク被覆率fcは、シアンのインク量dcの非線形関数であり、例えば1次元ルックアップテーブルによってインク量dcをインク被覆率fcに換算することができる。インク被覆率fc,fm,fyがインク量dc,dm,dyの非線形関数となる理由は、単位面積に少量のインクが吐出された場合にはインクが十分に広がるが、多量のインクが吐出された場合にはインクが重なり合うためにインクで覆われる面積があまり増加しないためである。他の種類のMYインクについても同様である。
【0021】
分光反射率に関するユール・ニールセンモデルを適用すると、前記(1)式は以下の(2a)式または(2b)式に書き換えられる。
【数2】
ここで、nは1以上の所定の係数であり、例えばn=10に設定することができる。前記の(2a)式および(2b)式は、ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデル(Yule-Nielsen Spectral Neugebauer Model)を表す式である。
【0022】
本実施形態で採用するセル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデル(Cellular Yule-Nielsen Spectral Neugebauer Model)は、上述したユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルのインク量空間を複数のセルに分割したものである。
【0023】
図5(A)は、セル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルにおけるセル分割の例を示している。ここでは、説明の簡略化のために、CMインクのインク量dc,dmの2つの軸を含む2次元インク量空間でのセル分割を描いている。なお、インク被覆率fc,fmは上述したマーレイ・デービスモデルにてインク量dc,dmと一意の関係にあるため、インク被覆率fc,fmを示す軸と考えることもできる。白丸は、セル分割のグリッド点(「格子点」と呼ぶ)であり、2次元のインク量(被覆率)空間が9つのセルC1〜C9に分割されている。各格子点に対応するインク量セット(dc,dm)は、分光反射率データベースRDBに規定された格子点に対応するインク量セットとされている。すなわち、上述した分光反射率データベースRDBを参照することにより、各格子点の分光反射率R(λ)を得ることができる。従って、各格子点の分光反射率R(λ)00,R(λ)10,R(λ)20・・・R(λ)33は、分光反射率データベースRDBから取得することができる。
【0024】
実際には、本実施形態ではセル分割もCMYKlclmの6次元インク量空間で行うとともに、各格子点の座標も6次元のインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)によって表される。そして、各格子点のインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)に対応する格子点の分光反射率R(λ)が分光反射率データベースRDB(例えば光沢紙のもの)から取得されることとなる。
【0025】
図5(B)は、セル分割モデルにて使用するインク被覆率fcとインク量dcとの関係を示している。ここでは、1種類のインクのインク量の範囲0〜dcmaxも3つの区間に分割されており、各区間毎に0から1まで単調に増加する非線形の曲線によってセル分割モデルにて使用する仮想的なインク被覆率fcが求められる。他のインクについても同様にインク被覆率fm,fyが求められる。
【0026】
図5(C)は、図5(A)の中央のセルC5内にある任意のインク量セット(dc,dm)にて印刷を行った場合の分光反射率R(λ)の算出方法を示している。インク量セット(dc,dm)にて印刷を行った場合の分光反射率R(λ)は、以下の(3)式で与えられる。
【数3】
ここで、(3)式におけるインク被覆率fc,fmは図4(B)のグラフで与えられる値である。また、セルC5を囲む4つの格子点に対応する分光反射率R(λ)11,(λ)12,(λ)21,(λ)22は分光反射率データベースRDBを参照することにより取得することができる。これにより、(3)式の右辺を構成するすべての値を確定することができ、その計算結果として任意のインク量セットφ(dc,dm)にて印刷を行った場合の分光反射率R(λ)を算出することができる。波長λを可視波長域にて順次シフトさせていくことにより、可視波長域における分光反射率R(λ)を得ることができる。インク量空間を複数のセルに分割すれば、分割しない場合に比べて分光反射率R(λ)をより精度良く算出することができる。以上のようにして、分光プリンティングモデルコンバータRCが分光反射率R(λ)を予測する。
【0027】
A−2.色コンバータ
図6は、色コンバータCCが分光反射率R(λ)に基づいて色を特定する処理を模式的に示している。同図において、分光プリンティングコンバータRCが予測した分光反射率R(λ)の各波長λにおいて所望の光源のスペクトルを乗算することにより、印刷物からの反射光のスペクトルを予測する。さらに、反射光のスペクトルに対して所望の観察条件での感度関数x(λ),y(λ),z(λ)を畳み込み、正規化をすることにより、三刺激値XYZを算出する。本実施形態においては、特に示さない限りCIE1931 2°観測者の観察条件で三刺激値XYZを算出するものとする。光源としては、CIE標準のD50光やD65光やF系光やA系光などを入力することができる。さらに、色コンバータCCは、三刺激値XYZにCIE標準の変換式を適用することにより、CIELAB表色系のL*a*b*値を算出する。このように、分光プリンティングコンバータRCと色コンバータCCを順次使用することにより任意のインク量セットにて印刷を行った場合のL*a*b*値を得ることができる。
【0028】
さらに、色コンバータCCは、三刺激値XYZに対して色順応変換を行うことが可能となっている。例えば、D50光にて算出した三刺激値XYZにCIECAT02に基づく色順応変換式を適用することにより、例えばD50光の下での色の見えを、D65光の対応色で表現したL*a*b*値に変換することができる。なお、CIECAT02については、例えば"The CIECAM02 Color Appearance Model", Nathan Moroney et al., IS&T/SID Tenth Color Imaging Conference, pp.23-27, および、"The performance of CIECAM02", Changjun Li et al., IS&T/SID Tenth Color Imaging Conference, pp.28-31に記載されている。ただし、色順応変換としては、フォン・クリースの色順応予測式などの他の任意の色順応変換を用いることも可能である。この色順応変換によって得られたL*a*b*値をCVL1→Lsと表記するものとする。この下付き文字「L1→Ls」は、光源L1の下での色の見えを、標準光源Lsの対応色で表現したL*a*b*値であることを意味している。色コンバータCCは、少なくとも2以上の比較用光源L1,L2の下での見えを、標準光源Lsの対応色で表現した色彩値CVL1→Ls,CVL2→Lsを求めるとともに、これらに基づいて色恒常性指数CIIを算出する。色恒常性指数CIIは、例えば下記の(4)式によって算出することができる。
【数4】
【0029】
色恒常性指数CIIについては、Billmeyer and Saltzman's Principles of Color Technology, 3rd edition, John Wiley & Sons, Inc, 2000, p.129,p. 213-215を参照。なお、(4)式の右辺は、CIE1994年色差式において、明度と彩度の係数kL,kCの値を2に設定し、色相の係数kHの値を1に設定した色差ΔE*94(2:2)に相当する。CIE1994年色差式では、(4)式の右辺の分母の係数SL,Sc,SHは以下の(5)式で与えられる。
【数5】
【0030】
なお、色恒常性指数CIIの算出に使用する色差式としては、他の式を用いることも可能である。色恒常性指数CIIは、あるカラーパッチを第1と第2の異なる観察条件下で観察したときの色の見えの差として定義されている。従って、印刷したときに色恒常性指数CIIが小さくなるインク量セットは、異なる観察条件での色の見えの差が小さいという点で好ましい。また、色彩値CVL1→Ls,CVL2→Lsは、同一の標準観察条件におけるそれぞれの対応色の測色値なので、それらの色差である色恒常性指数CIIは色の見えの違いをかなり正確に表現する値となる。次に、粒状性コンバータGCおよびその準備について説明する。
【0031】
A−3.粒状性コンバータ
図7は、粒状性コンバータ準備処理の流れを示している。図1に示すように粒状性コンバータGCは、サンプル準備部GC1とマップ作成部GC2と画像入力部GC3と粒状性指数算出部GC4とデータ作成部GC5と予測部GC6とから構成されている。このうちサンプル準備部GC1とマップ作成部GC2と画像入力部GC3と粒状性指数算出部GC4とデータ作成部GC5によって粒状性コンバータ準備処理が実行される。まず、ステップS200において、サンプル準備部GC1は使用するインクの数と種類を特定する。上述したとおり本実施形態ではCMYKlclmインクが使用される。サンプル準備部GC1は、0〜255階調のインク量セットφ(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)の組み合わせが存在するインク量空間を作成する。
【0032】
図8は、インク量空間のうちインク量dy,dk,dlc,dlmが所定の一定値であるときのCMインク量dcdm平面を示している。ステップS210においては、サンプル準備部GC1がステップS200で作成したインク量空間に対してデューティ制限(インク使用制限)を設定する。図8においては、デューティ制限よりも外側の領域をハッチングにより示しており、CMインク量dcdmの合計が所定の基準よりも大きくなる領域にデューティ制限が設定されている。デューティ制限は、プリンタ20が印刷可能なインク量セットφを超えるインク量セットφの領域を区画するものであり、例えばインクにじみなどが発生しない上限のインク量セットφについてデューティ制限が設定される。ステップS220においては、デューティ制限よりも内側のインク量空間からサンプル準備部GC1がサンプルを抽出する。ここで、サンプルとは、デューティ制限よりも内側のインク量空間に存在する多数のインク量セットφであり、デューティ制限よりも内側のインク量空間を網羅するように均等もしくはランダムに抽出される。抽出された各サンプルのインク量セットφを、以下、入力ベクトルs(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)と表記するものとする。抽出された多数の入力ベクトルsは、サンプルデータSDとしてHDD11に記憶される。ステップS230においてマップ作成部GC2がインク量マップIMを作成する処理を実行する。
【0033】
図9は、本発明の自己組織化マップとしてのインク量マップIM(一部)を示している。インク量マップIMにおいては、100行×100列の計10,000個のユニットUが2次元平面上に直交格子状に配列している。各ユニットUは、それぞれインク量セットφを有している。なお、各ユニットUが有するインク量セットφのベクトルを参照ベクトルm(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)と表記するものとする。ユニットUの数は100行×100列に限られず、他の個数を採用してもよい。また、各ユニットUが直交格子状に配列するものに限られず、各ユニットUをハニカム状に配列してもよい。
【0034】
図10は、マップ作成部GC2が実行するインク量マップ作成処理の詳細な流れを示している。ステップS231では、インク量マップIMの作成にあたり、各ユニットUの参照ベクトルmを初期化する。各ユニットUの参照ベクトルmの初期化においては、各ユニットUの参照ベクトルmをランダムに決定する。なお、全入力ベクトルsの平均ベクトルをインク量マップIMの中央に位置するユニットUの参照ベクトルmとしてもよい。さらに、インク量マップIMの中央から周囲に向かって段階的に絶対値が増加するスカラーを各入力ベクトルsの第1主成分および第2主成分に乗じたベクトルを平均ベクトルに対して加算することにより、ユニットUの参照ベクトルmを初期化してもよい。なお、第1主成分は入力ベクトルs間の偏差が最大となる方向の単位ベクトルであり、第2主成分は第1主成分に直交する単位ベクトルのうち入力ベクトルs間の偏差が最大となるものである。
【0035】
ステップS232において、学習回数を示すカウンタtを1に初期設定する。以上のように初期設定が完了とすると、各入力ベクトルsを使用して各ユニットUの参照ベクトルmの学習を行う。参照ベクトルmの学習においては、まず多数の入力ベクトルsのなかから現在の学習に使用する入力ベクトルsを例えば無作為に選択する(ステップS233)。そして、全ユニットUのなかから最も評価の高いユニットU(高評価ユニットBMU:図9において●で図示。)を探索する(ステップS234)。本実施形態においては、現在の入力ベクトルsとのユークリッド距離が最も小さくなる参照ベクトルmを有するユニットUを高評価ユニットBMUとする。すなわち、現在の入力ベクトルsが示すインク量セットφと最も似たようなインク量セットφを有するユニットUを高評価とする。高評価ユニットBMUが特定できると、高評価ユニットBMUの近傍のユニットU(近傍ユニットNU:図9において◎で図示。)を特定する(ステップS235)。近傍ユニットNUは、インク量マップIM上において、高評価ユニットBMUを中心とした近傍範囲の内部にあるユニットUである。本実施形態では、高評価ユニットBMUを中心とした辺の長さがh(t)の正方形領域を近傍範囲とする。なお、近傍範囲の幅h(t)は学習回数を示すカウンタtの関数である。
【0036】
以上のようにして、高評価ユニットBMUと近傍ユニットNUが特定できると、高評価ユニットBMUと近傍ユニットNUの参照ベクトルmを現在の入力ベクトルsに基づいて更新する。更新前の参照ベクトルmをm0、更新後の参照ベクトルmをm1とすると、下記の(6)式によって参照ベクトルmを更新する(ステップS236)。
【数6】
前記の(6)式におけるα(t)は、0〜1の値をとる学習率係数であり、カウンタtの関数である。前記の(6)式においては、現在の入力ベクトルsと参照ベクトルm0との偏差を、もとの参照ベクトルm0に加算することにより、更新後の参照ベクトルm1を算出している。参照ベクトルmを更新すると、カウンタtが所定の学習回数cに達したか否かを判定し(ステップS237)、達していない場合にはステップS238にてカウンタtに1を加算し、ステップS233に戻る。このようにすることにより、デューティ制限よりも内側のインク量空間から抽出した多数の入力ベクトルsに応じて参照ベクトルmを更新する処理を学習回数cだけ繰り返すことができる。
【0037】
図11は、学習率係数α(t)と近傍範囲の幅h(t)を示している。近傍範囲の幅h(t)は、傾きが負の線形関数で表され、学習の初期(t=1)のときインク量マップIM全体の幅の半分となり、学習の終期(t=c)のとき1となる。このようにすることにより、学習の影響範囲を次第に狭めていくことができる。一方、学習率係数α(t)は、カウンタtの増加とともに減少する単調減少関数で表され、学習の終期(t=c)のとき0に収束する。このようにすることにより、参照ベクトルmが入力ベクトルsによって修正される度合いを徐々に弱めていくことができる。ステップS233〜S238の学習を繰り返して実行することにより、各ユニットUの参照ベクトルmをデューティ制限よりも内側のインク量空間から抽出した多数の入力ベクトルsのいずれかに近い値に更新していくことができる。すなわち、インク量空間の入力ベクトルsを順次2次元平面上の各ユニットU(BMU)にマッピングしていくことができる。近傍範囲が設定されるため、インク量空間における局所的な相対位置関係を維持したインク量マップIMを作成することができる。
【0038】
ステップS233〜S238の学習課程においては、各ユニットUが互いの相対位置関係に基づいてインク量セットφを自己組織化させている考えることができる。この自己組織化の手法として種々の手法が採用可能であり、例えばバッチラーニングを採用してもよい。このバッチラーニングにおいては、各入力ベクトルsを参照ベクトルmの最も近いユニットUによってグループ分けし、各ユニットUに対応するグループ内で参照ベクトルmの平均ベクトルを算出する。そして、当該平均ベクトルによって対応するユニットUを高評価ユニットBMUとした参照ベクトルmの更新を行う。このようにすることにより、入力ベクトルsの選択(ステップS233)順序が、最終的に作成されるインク量マップIMに影響することを抑制することができる。
【0039】
ステップS240においては、作成されたインク量マップIMを高解像度化する。インク量マップIMは、それぞれがインク量セットφの参照ベクトルmを有する100行×100列のユニットUで構成されており、100×100画素の大きさを有するインク量セットφの画像データである。ここでは、2000×2000画素にインク量マップIMを高解像度化する。具体的には、周囲のユニットUの参照ベクトルmによって補間したインク量セットφを有する画素を各ユニットUの間に内挿することにより、インク量マップIMを高解像度化する。
【0040】
ステップS250においては、高解像度化したインク量マップIMを構成する各画素の位置とインク量セットφとの対応関係を格納した第1データD1をデータ作成部GC5が作成し、HDD11に記憶する。ステップS255においては、高解像度化したインク量マップIMをプリンタドライバP3に出力する。プリンタドライバP3は、解像度変換部P3aと色変換部P3bとハーフトーン処理部P3cとラスタライズ部P3dとから構成されている。プリンタドライバP3は、インク量マップIMを取得すると、当該インク量マップIMを印刷サイズと印刷解像度に適合するように、さらに高解像度化する。次に、ハーフトーン処理部P3bとラスタライズ処理部P3cがインク量マップIMに対して誤差拡散法やディザ法といったハーフトーン処理とラスタライズ処理を順次実行することより、印刷制御データCDを生成する。生成した印刷制御データCDをプリンタ20に出力することにより、インク量マップIMに基づく印刷を実行させる。その結果、インク量マップIMそのものが印刷用紙上に再現された調査シートPPが形成される。
【0041】
図12は、調査シートPPを模式的に説明する図である。上述したように、インク量マップIMにおいてはインク量空間における局所的な相対位置関係が維持されるため、調査シートPPにおいては連続的かつ滑らかなグラデーションの模様が形成されることとなる。調査シートPPの任意の点が所定のインク量セットφに基づいて印刷されたとすると、当該点の周囲(全周囲)の領域は当該インク量セットφと似たようなインク量セットφで印刷されていることとなる。一般的なカラーチャートと異なりインク量のグラデーションの方向が特定方向(例えば、行方向や列方向や放射方向や円周方向。)に限定されない。すなわち、各インクについてインク量に対応するインク被覆率が互いに等しくなる等インク被覆率線を調査シートPPにおいて描いた場合に、各インクの等インク量線は図12に示すように不定形の連続曲線となる。なお、図12は調査シートPP上のインク被覆率分布を各インクについて独立して表したものであり、実際には図示した各インクのインク被覆率分布が合成された状態(微視的に複数のインクのインクドットが隣接または重なる状態)の調査シートPPが印刷される。このような調査シートPPによれば、多くのインク量セットφでの再現結果を効率的に調査シートPPに配置することができる。調査シートPPが印刷できると、ステップS260において、画像入力部GC3が調査シートPPをスキャナ40によってスキャンし、調査シートPPをスキャンした画像データであるスキャンデータSD(例えば、RGB画像データ。)を生成し、HDD11に格納する。ここでは、プリンタ20が調査シートPPを印刷したときの解像度よりも高解像度でスキャンを行う。このようにすることにより、調査シートPPにおけるインクドットの分布状態を詳細に把握することが可能なスキャンデータSDを得ることができる。
【0042】
図13は、スキャンデータSD(模様は不図示。)を図示している。調査シートPPは、2000×2000画素に高解像度化したインク量マップIMが、さらに印刷解像度に高解像度化(拡大)されて印刷される。そのため、スキャンデータSDを1999×1999個の均等な正方領域に区切る格子(破線で図示。)が交差する格子点付近(●で図示。)は、インク量マップIMの各画素のインク量セットφに基づいて印刷した印刷結果を画像入力したものであるということができる。すなわち、各格子点付近は、第1データD1に規定された2000×2000通りのインク量セットφに基づいて印刷した印刷結果を画像入力したものとなる。なお、スキャンデータSDとインク量マップIMは互いに相似の関係にあるため、第1データD1に規定されたインク量マップIMの各画素の位置に基づいて、スキャンデータSDにおける各格子点の位置を特定することができる。ステップS270においては、粒状性指数算出部GC4がスキャンデータSD上の各格子点について粒状性指数GI(本発明の状態量。)を算出する粒状性指数算出処理を実行する。
【0043】
図14は、粒状性指数算出処理の流れを示している。まず、ステップS271において、スキャンデータSDを明度L*分布の画像データL(x,y)に変換する(x,y)は調査シートPPにおける横および縦の座標を意味し、x,yで特定される画素をサブ画素と表記するものとする。)。ステップS272においては、図13において図示した格子点を一つ選択する。ここで、格子点を一つ選択することは、第1データD1に格納されたインク量セットφを一つ選択したことを意味する。そして、ステップS273においては、選択した格子点を中心とした矩形状の格子点領域W(図13において破線で図示。)を形成し、粒状性指数算出部GC4が当該格子点領域W内の画像を取得する。次のステップS274から、粒状性指数算出部GC4が格子点領域W内の画像について粒状性指数GIを算出する処理を開始する。粒状性指数GIは、ある印刷物を観察者が視認したときに、その観察者が感じる粒状感(あるいはノイズの程度)であり、粒状性指数GIが小さい程、観察者が感じる粒状感は小さくなる。本実施例では、粒状性指数GIが以下の(7)式で定義されるものとする。
【数7】
GIについては、例えば、Makoto Fujino,Image Quality Evaluation of Inkjet Prints, Japan Hardcopy '99, p.291-294を参照。なお、(7)式のaLは明度補正項、WS(u)は画像のウイナースペクトラム、VTFは視覚の空間周波数特性、uは空間周波数である。
【0044】
図15は、粒状性指数GIを算出する様子を説明している。本実施形態において、粒状性指数GIは印刷画像の粒状性を画像の明度の空間周波数(cycle/mm)特性で評価する。そのために、まず図15の左端に示す明度のサブ画素平面における空間分布L(x,y)に対してFFT(Fast Fourier Transformation)を実施する(ステップS274)。図15においては得られた空間周波数のスペクトルをS(u,v)として示している。なお、スペクトルS(u,v)は実部Re(u,v)と虚部Im(u,v)とからなり、S(u,v)=Re(u,v)+jIm(u,v)である。このスペクトルS(u,v)は上述したウイナースペクトラムに相当する。
【0045】
ここで、(u,v)は(x,y)の逆空間の次元を持つが、本実施例において(x,y)は座標として定義され、実際の長さの次元に対応させるにはスキャナ40のスキャン解像度等を考慮しなければならない。従って、S(u,v)を空間周波数の次元で評価する場合も次元の変換が必要である。そこで、まず、座標(u,v)に対応した空間周波数の大きさf(u,v)を算出する。すなわち、主走査方向の最低周波数euはX解像度/25.4,副走査方向の最低周波数evはY解像度/25.4と定義される。なお、X解像度,Y解像度はスキャナ40がスキャンした際の解像度である。なお、ここでは1インチを25.4mmとしている。各走査方向の最低周波数eu,evが算出されれば、任意の座標(u,v)における空間周波数の大きさf(u,v)は((eu・u)2+(ev・v)2))1/2として算出することが可能になる。
【0046】
一方、人間の目は、空間周波数の大きさf(u,v)に応じて明度に対する感度が異なり、当該視覚の空間周波数特性は、例えば、図15の中央下部に示すVTF(f)のような特性である。この図15におけるVTF(f)はVTF(f)=5.05×exp(−0.138・d・π・f/180)×(1−exp(−0.1・d・π・f/180))である。なお、ここでdは印刷物と目の距離でありfは前記空間周波数の大きさである。このfは上述した(u,v)の関数として表現されているので、視覚の空間周波数特性VTFは(u,v)の関数VTF(u,v)とすることができる。
【0047】
上述のスペクトルS(u,v)に対してこのVTF(u,v)を乗じれば、視覚の空間周波数特性を考慮した状態でスペクトルS(u,v)を評価することができる。また、この評価を積分すれば格子点領域W全体について空間周波数を評価することができる。そこで、本実施例においては、ステップS276〜S280の処理で積分までの処理を行っており、まず、(u,v)を双方とも“0”に初期化し(ステップS276)、ある座標(u,v)での空間周波数f(u,v)を算出する(ステップS277)。また、この空間周波数fにおけるVTFを算出する(ステップS278)。
【0048】
VTFが得られたら、当該VTFの2乗とスペクトルS(u,v)の2乗とを乗じ、積分結果を代入するための変数Powとの和を算出する(ステップS279)。すなわち、スペクトルS(u,v)は実部Re(u,v)と虚部Im(u,v)とを含むので、その大きさを評価するため、まず、VTFの2乗とスペクトルS(u,v)の2乗とによって積分を行う。そして、格子点領域W内の全座標(u,v)のすべてについて以上の処理を実施したか否かを判別し(ステップS280)、全座標(u,v)について処理を終了したと判別されなければ、格子点領域W内の未処理の座標(u,v)を抽出してステップS277以降の処理を繰り返す。なお、VTFは図15に示すように空間周波数の大きさが大きくなると急激に小さくなってほぼ”0”となるので、座標(u,v)の値域を予め所定の値以下に制限することにより必要充分な範囲で計算を行うことができる。
【0049】
積分が終了したら、Pow1/2/全画素数を算出する(ステップS281)。すなわち、変数Powの平方根によって前記スペクトルS(u,v)の大きさの次元に戻すとともに、全画素数で除して規格化する。この規格化により、入力画像の画素数に依存しない客観的な指数(図15のInt)を算出している。本実施形態においては、さらに、格子点領域W全体の明度による影響を考慮した補正を行って粒状性指数GIとしている。すなわち、本実施形態においては、空間周波数のスペクトルが同じであっても格子点領域W全体が明るい場合と暗い場合とでは人間の目に異なった印象を与え、格子点領域W全体が明るい方が粒状性を感じやすいものとして補正を行う。このため、まず、格子点領域W内の全画素について明度L(x,y)を足し合わせ、全画素で除することにより、画像全体の明度の平均Aveを算出する(ステップS282)。
【0050】
そして、格子点領域W全体の明るさによる補正係数a(L)をa(L)=((Ave+16)/116)0.8と定義し、この補正係数a(L)を算出(ステップS283)するとともに前記Intに乗じて粒状性指数GIとする(ステップS284)。なお、補正係数a(L)は、上述した明度補正項aLに相当する。以上の処理によって、粒状性指数算出部GC4が前記の(7)式を具体的に演算したこととなる。補正係数としては、明度の平均によって係数の値が増減する関数であればよく、他にも種々の関数を採用可能である。むろん、粒状性指数GIを評価する成分は明度成分に限られず、色相、彩度成分を考慮して空間周波数を評価してもよいし、色彩値として、明度成分,赤−緑成分,黄−青成分を算出し、それぞれをフーリエ変換した後、各色成分ごとに予め定義された視覚の空間周波数特性を乗じて粒状性指数GIを算出してもよい。
【0051】
以上説明したステップS272〜S284の処理によって、ステップS272において選択したスキャンデータSD上の格子点(インク量セットφ)についての粒状性が粒状性指数GIとして定量化できたこととなる。ステップS285においては、データ作成部GC5がインク量セットと粒状性指数GIとの対応関係をHDD11に第2データD2として格納する。ステップS286においては、スキャンデータSD(第1データD1)上のすべての格子点(インク量セットφ)について選択したか否かを判定し、すべて選択していない場合にはステップS272に戻る。すなわち、図13において図示した別の格子点を一つ選択し、当該別の格子点(インク量セットφ)についての粒状性指数GIを算出する。以上の処理を繰り返して実行することにより、第1データD1に格納された各インク量セットφについての粒状性指数GIを順次算出していき、各インク量セットφと粒状性指数GIとの対応関係を第2データD2に格納していくことができる。すべての格子点(2000×2000個)についてインク量セットφと粒状性指数GIとの対応関係を規定した第2データD2が作成できると、粒状性コンバータ準備処理(粒状性指数算出処理)を終了させる。粒状性コンバータ準備処理によって第2データD2が作成できると、第2データD2を利用して予測部GC6が任意のインク量セットφに基づいて印刷を行った場合の粒状性指数GIを予測することが可能となる。
【0052】
図16は、粒状性予測処理の流れを示している。ステップS100においては、粒状性指数GIを予想すべきインク量セットφを予測部GC6が取得する。特に、後述するプロファイル作成処理においては、最適化部P2dが最適化の際に指定するインク量セットφを順次取得することとなる。ステップS110においては、取得したインク量セットφに最も近いインク量セットφを第2データD2において検索する。すなわち、第2データD2に規定された2000×2000個のインク量セットφのうち、予測対象のインク量セットφに最も似ているものを検索する。例えば、インク量空間におけるユークリッド距離に基づいて近いか否かを判定すればよい。最も近いインク量セットφが検索できると、第2データD2において当該インク量セットφに対応付けられた粒状性指数GIを取得し、当該粒状性指数GIを予測結果とする(ステップS120)。なお、本実施形態では、第2データD2において予測対象のインク量セットφに最も近いインク量セットφに対応付けられた粒状性指数GIを予測結果とするものを例示したが、他の手法によって予測結果を決定してもよい。例えば、第2データD2に規定されたインク量セットφのうち、予測対象のインク量セットφに近い複数のインク量セットφを使用した補間演算を行うことにより、予測結果を決定するようにしてもよい。
【0053】
B.プロファイルの作成
以上においては、印刷結果予測部プログラムP1を構成する各種コンバータRC,CC,GCおよびその準備について説明したが、以下においては各種コンバータRC,CC,GCを利用して、本発明のプロファイルとしてのルックアップテーブルを作成し、当該作成したルックアップテーブルを用いて色変換を実行するプロファイル作成装置および印刷制御装置について説明する。具体的には、コンピュータ10にて実行されるLUT作成プログラムP2とプリンタドライバP3がプロファイル作成装置および印刷制御装置を具現化する。なお、ルックアップテーブルは、LUTと略記する場合もある。
【0054】
図17は、LUT作成プログラムP2の構成を示している。LUT作成プログラムP2は、初期LUT生成部P2aと評価関数設定部P2bと平滑程度算出部P2cと最適化部P2dとLUT生成部P2eとから構成されている。以下、各モジュールP2a〜P2dが実行するプロファイル作成処理の詳細をフローに基づいて説明する。
【0055】
図18は、プロファイル作成処理の流れを示している。ステップS400においては、初期のインクプロファイルIPを作成する。なお、インクプロファイルIPは、絶対色空間であるCIELAB色空間(L*a*b*空間)とインク量空間であるCMYKlclm空間(dcdmdydkdlcdlm空間)との対応関係を複数の代表的な格子点について規定したLUTである。初期のインクプロファイルIPの作成においては、例えば上述した有効領域のなかから173組のランダムなインク量セットφ=(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)を生成する。この173組のインク量セットは、本発明のLUT用インク量セットの初期値であり、後述する処理によって最適化されていく。なお、初期のLUT用インク量セットは、最終的に最適化されるため、初期の段階においてどのように生成してもよい。
【0056】
次に、ステップS410にて、評価関数設定部P2bが評価関数を設定する。すなわち、後述する最適化の指針を設定する。インクプロファイルIPは、絶対色空間であるCIELAB色空間とインク量空間との対応関係を有限数の格子点について規定するものであるため、将来的に補間処理によって格子点以外の対応関係が予測されることとなる。一般に、各色空間で整然と並んでいる格子点の方がその間に位置する色を補間演算によって算出する際に空間の局所的位置によって補間精度を大きく変動させることなく補間を行うことができる。従って、本実施形態における最適化の指針として格子点配置をCIELAB色空間にて平滑化する指標を採用することで、インクプロファイルIPの作成時および作成後の色変換時に高精度に補間演算を実施することが可能になる。この結果、トーンジャンプの発生を抑え、滑らかに階調が変化する印刷物を得ることが可能なインクプロファイルIPを作成することが可能になる。
【0057】
また、インクプロファイルIPにおいては、できるだけ広い色再現性を実現するためにプリンタ20が当該インクセット(CMYKlclm)にて再現可能な色再現ガマットの全体について格子点が分布すべきである。従って、本実施形態における最適化の指針として色再現ガマットをCIELAB色空間にて確保する指標を採用することで、広い色再現性を実現可能なインクプロファイルIPを実現することができる。以上の指針によって、格子点のCIELAB色空間における最適な分布を指定することができる。
【0058】
ところが、CIELAB色空間において最適な格子点を定めたとしても、インクプロファイルIPにて当該格子点に対応するインク量セットφ=(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)を一意に定めることができない。インクプロファイルIPは、絶対色空間であるCIELAB色空間とインク量空間であるCMYKlclm空間との対応関係を規定したものであるが、CIELAB色空間とCMYKlclm空間の対応関係は一義的な関係にあるものではないからである。すなわち、CIELAB色空間にて一のL*a*b*値を定めたとしても、ある光源下で当該L*a*b*値が再現可能な印刷結果を実現するインク量セットφを一意に定めることはできない。例えば、KインクとCMYインクは分版可能な関係にあるため、ある光源において分版比率を変更しても同一のL*a*b*を再現することができる。CインクとlcインクやMインクとlmインクの関係についても同様である。
【0059】
従って、CIELAB色空間において最適な格子点を定めると同時に、当該格子点に対応するインク量セットφも最適化させていく必要がある。例えば、KインクとCMYインクとの分版比率はCIELAB色空間におけるL*a*b*値を定めても一意に定めることができないが、ハイライト領域において濃いKインクを発生させると粒状性が目立つこととなる。従って、粒状性の改善を最適化の指針とすれば、ハイライト領域のL*a*b*値に対してはdk=0となるインク量セットφに最適化させることができる。逆に、KインクとCMYインクとの分版比率はCIELAB色空間におけるL*a*b*値を定めても一意に定めることができないが、分光反射率がフラットでないCMYインクによるコンポジットグレーを多用すれば、色の光源依存性が問題となる。そのため、色恒常性の改善を最適化の指針としても、インクプロファイルIPの格子点を最適化すべきである。さらに、インク量セットφの大きさを全体的に小さくする指針を適用すれば、インクのランニングコストの面で最適なインクプロファイルIPを作成することができる。
【0060】
以上のように、最適なインクプロファイルIPを作成するためには様々な要素を考慮して格子点の最適化を行なうのが好ましく、すべての要素を考慮して最適な分版規則を設定することは困難である。従って、本実施形態では、これらの要素を同時に評価することが可能な評価関数Epを上述した指針に基づいて設定する(ステップS410)。具体的には、下記の(8)式により評価関数Ep(Ep(φ))を設定する。また、評価関数Epを算出する際に使用する光源も設定する。
【数8】
前記の(8)式において、評価関数Epは5個の項をw1〜w5の重み係数によって加算した値であり、各項がそれぞれ上述した格子点を選択する指針に基づいて設定されている。(8)式の第1項は、上述した粒状性コンバータGCによる粒状性予測処理によって得られる粒状性指数GIを最大値で除算することによって正規化し、所定の重み係数w1を乗算したものとなっている。なお、評価関数Epの添え字p(p=1〜173)は注目する格子点の識別符号を示している。粒状性指数GIは小さい方が良好な画質となるため、(8)式の第1項が小さくなるほど最適であるといえる。
【0061】
(8)式の第2項は、色コンバータCCによって得られる色恒常性指数CIIを最大値で除算することによって正規化し、所定の重み係数w2を乗算したものとなっている。色恒常性指数CIIは、任意のインク量セットφを分光プリンティングモデルコンバータRCに入力することにより得られる分光反射率R(λ)をさらに色コンバータCCによって変換することにより得られるものであり、インク量セットφの関数であるということができる。(8)式の第3項は、平滑程度算出部P2cによって得られる平滑程度評価指数SIを最大値で除算することによって正規化し、所定の重み係数w3を乗算したものとなっている。色恒常性指数CIIは小さい方が良好な画質となるため、(8)式の第2項が小さくなるほど最適であるといえる。なお、色コンバータCCが色恒常性指数CIIを算出する光源はステップS410にて設定されている。例えば、比較用の光源L1,L2をD50光,F11光として標準光源LsをD65光と設定されている。
【0062】
図19は、平滑程度評価指数SIを模式的に説明している。同図において、○はCIELAB空間における複数の格子点の位置を示し、●は当該格子点のうち注目する格子点(評価関数Epの算出対象の格子点)を示している。注目する格子点の位置ベクトルをLpとし、当該格子点に隣接する6個の格子点の位置ベクトルをL a1〜L a6とすると、平滑程度評価指数SIは下記の(9)式によって表される。
【数9】
平滑程度評価指数SIは、注目する格子点から互いに逆向きのベクトルの距離が等しく、方向が正反対に近いほど値が小さくなるようにしてある。
【0063】
図19(B)に示すように、隣接する格子点を結ぶ線(ベクトルL a1〜ベクトルLp〜ベクトルL a2が示す格子点を通る線等)が直線に近く、また格子点が均等に配置されるほどCIELAB色空間における格子点の配置が平滑化される傾向にあるので、(9)式に示す平滑程度評価指数SIが小さくなればなるほど、平滑程度が高くなるということができる。CIELAB色空間におけるL*a*b*値は、インク量セットφ=(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)を分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCによって順次変換することにより得ることができる。色コンバータCCがL*a*b*値を算出する光源はステップS410にて標準光源Lsとして設定されたD65光を使用する。従って、前記の(9)式においてCIELAB色空間における位置ベクトルで特定される平滑程度評価指数SIはインク量セットφの関数であるということができる。平滑程度評価指数SIは小さい方が高い補間精度が期待できるため、(8)式の第3項が小さくなるほど最適であるといえる。次に、(8)式の第4項は、注目する格子点の位置ベクトルLpと特定の色に近いか否かを示している。
【0064】
図20は、プリンタ20の色再現ガマットをCIELAB色空間において示している。同図に示すように、プリンタ20の色再現ガマットは予めプリンタ20のハードウェア仕様やインクセットによって定められており、この範囲において色を再現することができる。従って、インクプロファイルIPの格子点をCIELAB色空間において色再現ガマットの全体に存在させる必要がある。そのために、一部の格子点については、色再現ガマットの外面上や稜線上や頂点に拘束する必要がある。色再現ガマットの外面上や稜線上や頂点が満たす色と格子点の色差ΔEを(8)式の第4項として加えて最適化を行うことによって、色再現ガマット全体に格子点を存在させることができる。なお、(8)式の第4項も、CIELAB色空間における位置ベクトルで特定されるため、インク量セットφの関数であるということができる。色再現ガマットの最外色と同じ色を示す格子点が含まれるほど、最大限広い色再現性を実現することができるため、(8)式の第4項が小さくなるほど最適であるといえる。
【0065】
(8)式の第5項は、インク量セットφの合計値を正規化したものである。これにより、インクのトータルの消費量を加味した評価関数Epにより格子点の最適化を行うことができる。(8)式の第5項も、インク量セットφに依存し、インク量セットφの関数であるということができる。なお、(8)式におけるTDutyは記録媒体に付着可能なインク量の制限に対応した値である。インク量は少ないほどランニングコストが良好となるため、(8)式の第5項が小さくなるほど最適であるといえる。
【0066】
以上説明したように評価関数Epを構成するすべての項は、インク量セットφの関数によって表されているとともに、小さくなるほど格子点が最適となる。従って、ステップS400においては、適当に初期の格子点を定めたに過ぎないため、各格子点に注目して評価関数Epを算出しても、評価関数Epは小さい値とならない。従って、ステップS420においては評価関数Epを極小化させるように最適化部P2dが各格子点の最適化を行う。どの項を重視して最適化を行うかは、上述した重み係数w1〜w5によって決定づけられる。従って、インクプロファイルIPの作成にあたり、どの項目を重視すべきかを設定し、それに基づいて重み係数w1〜w5を設定するのが望ましい。例えば、画質を犠牲にしてでもランニングコストのよいインクプロファイルIPを作成したいのであれば重み係数w5を大きく設定すべきである。また、色再現ガマットの外面に位置すべき格子点に対しては重み係数w4を大きくして、外面への拘束を強めるのが望ましい。
【0067】
具体的にステップS420においては、各格子点について評価関数Epを極小化させるインク量セットφを順次算出していく。例えば、インク量空間における初期のインク量セットの位置から局所的にインク量セットφを移動させ、その際に評価関数Epを極小化させるインク量セットを各格子点について算出していく。これにより、インク量空間における格子点の位置が評価関数Epを極小化させる方向に修正されたこととなる。さらに、修正後の位置から同様に局所的にインク量セットφを移動させ、その際に評価関数Epを極小化させるインク量セットを各格子点について算出していく。以上のような処理を繰り返し(例えば200回)実行することにより、最終的には各格子点についての評価関数Epが極めて小さくなる格子点に最適化することができる。なお、以上の処理を規定回数行うことをもって格子点の最適化を完了させてもよいし、評価関数Epの値が所定の閾値を下回ることをもって格子点の最適化を完了させてもよい。
【0068】
この最適化処理においては順次更新されるインク量セットφについて評価関数Epを算出することが必要となるが、その際に、上述した各コンバータRC,CC,GCおよび平滑程度算出部P2cを利用することによって、逐次、各インク量セットφに対応する分光反射率R(λ)や粒状性指数GIや色恒常性指数CIIや平滑程度評価指数SIが算出されることとなる。以上の最適化によれば、評価関数Epによって粒状性や色恒常性やランニングコストに優れるインク量セットφの格子点が得られると同時に、当該格子点のCIELAB色空間における分布も最適なものとなる。式(8)の第3項および第4項にてCIELAB色空間における評価も評価関数Epの一部に取り入れているからである。本実施形態では、CIELAB色空間における格子点の最適化とインク量空間における格子点の最適化を同時に行うことができるため、処理の効率がよい。なお、本実施形態において、特開2006−197080号公報に開示された格子点の最適化の手法を適用することもできる。この場合、インク量空間にて評価関数Epを0とする方向の仮想的な力を各格子点に作用させ、当該力によってインク量空間における格子点の位置を定常状態に収束させればよい。
【0069】
以上のようにして各格子点が最適化されると、ステップS430にて最適化された格子点のインク量セットφに対応したL*a*b*値を分光プリンティングモデルコンバータRCおよび色コンバータCC(D65光)によって算出する。そして、互いに対応するL*a*b*値とインク量セットφとの対応関係を記述したインクプロファイルIPをLUT生成部P2eが作成する。なお、インクプロファイルIPに記述されるインク量セットφは、少なくとも粒状性が(評価関数Epの値を極小化させる程度に)良好であるという条件を満足するインク量セットφであるということができる。
【0070】
ステップS440においては、インクプロファイルIPに基づいて色変換プロファイルCPを作成する。色変換プロファイルCPは、例えばsRGB色空間で各画素の色が表された画像データをプリンタ20におけるインク量空間の画像データに変換するLUTである。sRGB色空間はCIE標準に基づいてCIELAB色空間との対応関係(sRGBプロファイルSP)が定められているため、インクプロファイルIPに規定された各格子点のL*a*b*値によってsRGB色空間のRGB値とインク量セットφとの対応関係を特定し、LUT化することができる。その際に、補間処理が行われるが上述した最適化によってインクプロファイルIPが規定する格子点のCIELAB色空間における分布が平滑化されているため、高い補間精度を実現することができる。
【0071】
sRGBプロファイルSPについても上述した平滑程度評価指数SIによる最適化を行っておくことが望ましい(特開2006−197080号公報、参照。)。なお、CIELAB色空間におけるsRGB色空間のガマットとプリンタ20の色再現ガマットが異なるため、適宜ガマットマッピングが行われる。なお、ここではインクプロファイルIPにさらに別の絶対色空間であるsRGB色空間を結合するものを例に挙げたが、入力デバイスに依存した機器依存のソース色空間と、インクプロファイルIPとを結合させたデバイスリンクプロファイルを作成するようにしてもよい。色変換プロファイルCPが作成できると、以降はプリンタドライバP3の色変換部P3aが色変換プロファイルCPを参照して補間処理を行うことにより、sRGB色空間で各画素の色が表された印刷画像データをインク量セットφの画像データに変換することができる。さらに、ハーフトーン処理部P3bとラスタライズ処理部P3cがインク量セットφの画像データに対して誤差拡散法やディザ法といったハーフトーン処理とラスタライズ処理を順次実行することより、印刷制御データCDを生成することができる。生成した印刷制御データCDをプリンタ20に出力することにより、前記印刷画像データに基づく印刷を実行させることができる。
【0072】
C.変形例
以上においては、調査シートPPの各位置から粒状性指数GIを計測するものを例示したが、調査シートPPから計測可能な状態量は粒状性指数GIに限られるものではない。例えば、調査シートPPの各位置において分光反射率R(λ)を計測することも可能であり、同様に所定光源下における測色値を計測することも可能である。計測した分光反射率R(λ)や測色値を調査シートPPの位置(すなわちインク量セットφ)と対応付けたデータを作成しておくことにより、当該データを参照して任意のインク量セットφに基づいて印刷を行った場合の分光反射率R(λ)や測色値を得ることができる。また、以上においては、印刷結果予測プログラムP1とLUT作成プログラムP2とプリンタドライバP3が単一のコンピュータ10にて実行されるようにしたが、これらが別のコンピュータにおいて実行されてもよい。さらに、いわゆるダイレクトプリンタにおいてプリンタドライバP3と同等の機能を実行するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】コンピュータの構成を示すブロック図である。
【図2】印刷方式を説明する模式図である。
【図3】分光反射率データベースを示す図である。
【図4】分光ノイゲバウアモデルを示す図である。
【図5】セル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルを示す図である。
【図6】分光反射率から色を特定する様子を示す図である。
【図7】粒状性コンバータ準備処理のフローチャートである。
【図8】インク量平面を示す図である。
【図9】インク量マップを示す図である。
【図10】インク量マップ作成処理のフローチャートである。
【図11】学習率係数と近傍範囲の幅を示すグラフである。
【図12】調査シートにおける各インクの等インク被覆率線を示す図である。
【図13】スキャンデータを示す図である。
【図14】粒状性指数算出処理のフローチャートである。
【図15】粒状性指数を算出する処理を示す図である。
【図16】粒状性予測処理のフローチャートである。
【図17】LUT作成プログラムの構成を示すブロック図である。
【図18】プロファイル作成処理のフローチャートである。
【図19】平滑程度評価指数を説明する図である。
【図20】プリンタの色再現ガマットを示すグラフである。
【符号の説明】
【0074】
10…コンピュータ、11…HDD,12…CPU,20…プリンタ、30…分光反射率計、40…スキャナ、RC…分光プリンティングコンバータ、CC…色コンバータ、GC…粒状性コンバータ、RDB…分光反射率データベース、D1…第1データ,D2…第2データ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3種類以上のインク量で構成されるインク量空間を2次元平面にマッピングすることにより、2次元平面上の各位置が前記インク量を有するインク量マップを作成し、
前記インク量マップを印刷することにより調査シートを作成し、
前記調査シートの各位置について計測した状態量に基づいて、任意の前記インク量に基づいて印刷を行った場合の前記状態量を予測することを特徴とする印刷結果予測方法。
【請求項2】
前記インク量マップは、
前記インク量空間に分布する多数の前記インク量によって、前記インク量マップ上に配置された複数のユニットの前記インク量を学習させることにより作成される自己組織化マップであることを特徴とする請求項1に記載の印刷結果予測方法。
【請求項3】
前記インク量マップを高解像度化した上で前記調査シートを印刷することを特徴とする請求項2に記載の印刷結果予測方法。
【請求項4】
前記状態量は粒状性を定量化した粒状性指数であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の印刷結果予測方法。
【請求項5】
前記インク量空間のうち、前記調査シートを印刷する印刷装置のインク使用制限よりも内側の領域を2次元平面にマッピングすることにより前記インク量マップを作成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の印刷結果予測方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の印刷結果予測方法によって予測された前記状態量が所定の条件を満足する複数の前記インク量と、当該インク量によって印刷した場合に再現される色との対応関係を規定したプロファイルを作成することを特徴とするプロファイル作成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の前記プロファイル作成方法によって作成された前記プロファイルを参照することにより前記インク量を取得する色変換手段と、
前記取得した前記インク量に基づいて印刷を実行させる印刷手段とを具備することを特徴とする印刷装置。
【請求項8】
3種類以上のインクを印刷媒体上に被覆させることにより形成された調査シートであって、
前記印刷媒体上における各インクのインク被覆率が各位置に応じて連続的に変動し、かつ、各インクの等インク被覆率線が曲線をなすことを特徴とする調査シート。
【請求項1】
3種類以上のインク量で構成されるインク量空間を2次元平面にマッピングすることにより、2次元平面上の各位置が前記インク量を有するインク量マップを作成し、
前記インク量マップを印刷することにより調査シートを作成し、
前記調査シートの各位置について計測した状態量に基づいて、任意の前記インク量に基づいて印刷を行った場合の前記状態量を予測することを特徴とする印刷結果予測方法。
【請求項2】
前記インク量マップは、
前記インク量空間に分布する多数の前記インク量によって、前記インク量マップ上に配置された複数のユニットの前記インク量を学習させることにより作成される自己組織化マップであることを特徴とする請求項1に記載の印刷結果予測方法。
【請求項3】
前記インク量マップを高解像度化した上で前記調査シートを印刷することを特徴とする請求項2に記載の印刷結果予測方法。
【請求項4】
前記状態量は粒状性を定量化した粒状性指数であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の印刷結果予測方法。
【請求項5】
前記インク量空間のうち、前記調査シートを印刷する印刷装置のインク使用制限よりも内側の領域を2次元平面にマッピングすることにより前記インク量マップを作成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の印刷結果予測方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の印刷結果予測方法によって予測された前記状態量が所定の条件を満足する複数の前記インク量と、当該インク量によって印刷した場合に再現される色との対応関係を規定したプロファイルを作成することを特徴とするプロファイル作成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の前記プロファイル作成方法によって作成された前記プロファイルを参照することにより前記インク量を取得する色変換手段と、
前記取得した前記インク量に基づいて印刷を実行させる印刷手段とを具備することを特徴とする印刷装置。
【請求項8】
3種類以上のインクを印刷媒体上に被覆させることにより形成された調査シートであって、
前記印刷媒体上における各インクのインク被覆率が各位置に応じて連続的に変動し、かつ、各インクの等インク被覆率線が曲線をなすことを特徴とする調査シート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2010−147586(P2010−147586A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319963(P2008−319963)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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