説明

厚膜の製造方法とこの方法によって得られた多色表示装置及びこれに用いるスクリーン印刷版

【課題】高膜厚でパターニングできる厚膜の製造方法を提供し、前記製造方法を利用した多色発光装置とこれに用いるスクリーン印刷版を提供する。
【解決手段】基板(1)上に複数種類の突起型厚膜(4,8)が平面的に分離配置された厚膜の製造方法において、厚膜(8)を形成するためのフルエッチング部(5)と、形成された厚膜(4)との干渉を防ぐために、形成された厚膜側に凹部状のハーフエッチング部(6)を備えたスクリーン印刷版(10)を用い、スクリーン印刷法によりパターニングされた厚膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜の製造方法とこの方法によって得られた多色表示装置及びこれに用いるスクリーン印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信の発展に伴い、情報を視覚化する電子ディスプレイデバイスが注目されている。電子ディスプレイデバイスには、陰極線管(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)などの自発光型ディスプレイデバイスと液晶ディスプレイ(LCD)などの非自発光型ディスプレイデバイスが挙げられる。
【0003】
フルカラーディスプレイデバイスの作成には膜のパターニング技術が不可欠である。液晶ディスプレイなどの非自発光デバイスでは、三色のカラーフィルターをパターニングし、バックライトの白色光を減色することでフルカラー化を実現している。自発光型電子ディスプレイデバイスでは各色の蛍光体膜をパターニングし、その蛍光体膜にエネルギーを与えて発光させることによりフルカラー化を実現している。与えるエネルギーとしては、加速電子もしくは紫外線もしくは可視光などが挙げられる。
【0004】
基板上への厚膜のパターニング方法としては、特許文献1に挙げられるように、蛍光体を光硬化性樹脂に分散させた蛍光体膜材料組成物をスピンコート法などで成膜した後、フォトリソグラフィー法でパターニングする方法が主に採用されている。
【特許文献1】特許3369618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記の従来技術は製造プロセスが煩雑になるためコストが高いという問題がある。その上、特に蛍光体膜は5μm以上の高膜厚にする必要があるが、前記の従来技術は高膜厚のパターニングには不向きという問題を持つ。蛍光体膜を高膜厚にせざるを得ない理由を以下に述べる。一般に蛍光体は濃度が高くなると、吸収した励起エネルギーを同種の蛍光体間で移動を繰り返すうち発光することなく失活してしまう、いわゆる濃度消光と呼ばれる現象がおこる。そのため蛍光体は媒体中に低濃度で分散する必要があり、必要な蛍光を得るためには膜厚を高くする必要がある。
【0006】
高膜厚のパターニング方法としては、スクリーン印刷法も挙げられる。一色目の蛍光体膜を塗布する従来の方法を図9Aに示す。スクリーン印刷版20の蛍光体膜を塗布する部分にフルエッチング領域5を施し、スクリーン版20の上に一色目の蛍光体膜ペースト2をのせ、スキージング3により一色目の蛍光体膜4を基板1上に塗布する。9は乳剤部分である。
【0007】
二色目の蛍光体膜を塗布する方法を図9Bに示す。二色目の蛍光体膜を塗布するためには、二色目の蛍光体膜ペースト7をスクリーン版20にのせ、スクリーン版20と基板1の相対位置を変えた後、スキージング3により二色目の蛍光体膜を塗布する。しかしこの方法においても、膜厚が高い場合には一色目の蛍光体膜とスクリーン版の乳剤部分9が干渉するため、基板1に乳剤部分9を押し付けることが出来ず塗布できないという問題がある。
【0008】
本発明は前記従来の問題を解決するため、高膜厚でパターニングできる厚膜の製造方法とこの方法によって得られた多色表示装置及びこれに用いるスクリーン印刷版を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の厚膜の製造方法は、基板上に複数種類の突起型厚膜が平面的に分離配置された厚膜の製造方法において、厚膜を形成するためのフルエッチング部と、形成された厚膜との干渉を防ぐために、形成された厚膜側に凹部状のハーフエッチング部を備えたスクリーン印刷版を用い、スクリーン印刷法によりパターニングされた厚膜を形成することを特徴とする。
【0010】
本発明の多色表示装置は、前記の方法で製造された厚膜を組み込んだ多色表示装置であって、前記厚膜は複数種類の突起状に形成され、断面形状が均一であることを特徴とする。
【0011】
本発明のスクリーン印刷版は、基板上に複数種類の突起型厚膜が平面的に分離配置された厚膜を製造するために使用するスクリーン印刷版において、厚膜を形成するためのフルエッチング部と、形成された厚膜との干渉を防ぐために、形成された厚膜側に凹部状のハーフエッチング部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、スクリーン印刷法の利点である低コストと高膜厚化を生かしている上に、塗布された蛍光体膜とスクリーン版の乳剤(塗料)が干渉しないため、整列かつ均一厚膜の蛍光体膜パターンを形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の多色表示装置用蛍光体膜の製造方法は、透光性基板上に蛍光体層が平面的に分離配置された蛍光体膜の製造方法において、蛍光体膜を形成するためのフルエッチング部と形成された蛍光体膜との干渉を防ぐためのハーフエッチング部を有するスクリーン印刷版を用いたスクリーン印刷法により蛍光体膜のパターニングを行う。
【0014】
本発明のスクリーン版を用いたスクリーン印刷法により蛍光体膜パターニングの一例を図1に示す。本実施形態のスクリーン印刷版10には、開孔しているフルエッチング部5と、乳剤部9から構成され、乳剤部9は一部分のみエッチングされたハーフエッチング部6を有する。
【0015】
以下、本実施形態の蛍光体膜の製造方法について述べる。あらかじめ基板1上には一色目の蛍光体膜4が塗布される。一色目の蛍光体塗布は本実施形態のスクリーン印刷版でも良いし、図9A−Bに示すような従来技術のスクリーン印刷版を用いても製造可能である。二色目の蛍光体膜を塗布するためには、二色目の蛍光体膜ペースト7を図1に示すスクリーン印刷版10にのせ、スクリーン印刷版10と基板1の相対位置を変えた後、スキージング3により二色目の蛍光体膜8を塗布する。この時、本実施形態のスクリーン印刷版10のハーフエッチング部6に一色目の蛍光体膜4がはまり込むため、従来技術のスクリーン印刷版のような干渉は起こさない。また、ハーフエッチング部6に一色目の蛍光体膜4がはまり込むことにより、ガイド的役目を果たし、一色目の蛍光体膜4と二色目の蛍光体膜8を平行にパターニングすることが出来る。フルエッチング部の厚さは10〜100μmの範囲である場合、ハーフエッチング部6の厚さ(未エッチング厚)は出来るだけ薄い方が良く、5μm以下が望ましい。スクリーン印刷法によって形成された蛍光体膜の断面は台形形状及び/又は釣鐘型となる。この結果、厚膜は複数種類の突起状に形成され、断面形状は均一に保たれる。ここで「均一」とは、前記厚膜はスクリーン印刷版の接触による崩壊が実質的にはないことをいう。
【0016】
本実施形態のスクリーン印刷版は、図2のようにフルエッチング部5の数に対し、ハーフエッチング部6の数が異なるものや、図3のようにフルエッチング部とハーフエッチング部の幅の異なるもの、図4のように乳剤部9が非線対称の形状をしているものであっても良い。また、これらを組み合わせて多色蛍光体膜の印刷を行っても良い。
【0017】
蛍光体膜ペーストは、主に蛍光体とそれを支持するバインダー樹脂と溶剤から構成される。
【0018】
蛍光体としては、ディスプレイデバイスの発光方式に応じた蛍光体を使用する必要がある。陰極線管などの加速電子によって励起させ発光させる蛍光体としては、ZnS:AgやZnS:Cuなどが用いられる。プラズマディスプレイなどの紫外線励によって発光させる蛍光体としては、BaMgAl1123:EuやBaAl1219:Mnなどが用いられる。また、エレクトロルミネッセンスなどからの青色光によって励起させ発光させる色変換膜用の蛍光体としては、蛍光色素や蛍光顔料などが挙げられる。青色光によって励起され緑色の蛍光を発する蛍光色素の例としては、3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−N,N−ジエチルアミノクマリン(クマリン540)などのクマリン系色素、ソルベントイエロー11などのナフタルイミド系染料が挙げられる。青色光によって励起され赤色の蛍光を発する蛍光色素の例としては、ローダミン6Gなどのローダミン系色素、4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチルリル)−4H−ピラン(DCM)などのシアニン系色素などが上げられる。青色光によって励起される蛍光顔料の例としては、蛍光染料をベンゾグアナミン樹脂などに練り込んで顔料化した有機蛍光顔料、もしくはSrGa24:EuやCaS:Euなどの無機蛍光顔料が挙げられる。これらの蛍光体は、必要に応じて単独または混合して用いてよい。
【0019】
蛍光体膜ペーストのバインダー樹脂としては、透明な(可視光透過率50%以上)の材料が好ましい。例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられる。また感光性樹脂も選ばれる。例えば、アクリル酸系、メタクリル酸系などの反応性ビニル基を有する光硬化性レジスト材料が挙げられる。
【0020】
溶剤としては、蛍光体に影響を与えず、バインダー樹脂を溶解する溶剤を適切に選択すればよい。例えば、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどが選ばれる。蛍光体の分散性を向上させるために、界面活性剤等をさらに加えても良い。
【0021】
次に本発明の色変換膜用蛍光体膜の製造例に具体的に説明する。
【0022】
(実施形態1)
1.スクリーン印刷版仕様
(1)多色塗布用スクリーン印刷版
図5に示す多色塗布用スクリーン印刷版10を以下の仕様で作成した。図5の他の符号は図1〜4と共通するので説明を省略する。
(i)印刷版の外径:縦150mm、横150mm
(ii)塗布有効面積:縦20mm、横20mm
(iii)メッシュ :400メッシュ/インチ
(iv)フルエッチング部幅A:120μm
(v)未エッチング部幅B:50μm
(vi)ハーフエッチング部幅C:130μm
(vii)乳剤厚D:30μm
(viii)ハーフエッチング部の未エッチング厚E:3μm
(2)単色塗布用スクリーン印刷版
図6に示す単色塗布用スクリーン印刷版11を以下の仕様で作成した。図6の他の符号は図1〜5と共通するので説明を省略する。
(i)印刷版の外径:縦150mm、横150mm
(ii)塗布有効面積:縦20mm、横20mm
(iii)メッシュ :400メッシュ/インチ
(iv)フルエッチング部幅A:120μm
(v)乳剤部幅F:230μm
(vi)乳剤厚G:30μm
2.蛍光体膜ペーストの作成
以下の成分を80℃で20分混合し、色変換組成物を得た。
(1)緑色蛍光体膜ペースト
(a)溶剤
プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート 10g
(b)バインダー樹脂
PMMA(住友化学工業製) 4g
(c)蛍光体
蛍光顔料 (シンロイヒ社製 FZ−5012)2g
(2)赤色蛍光体膜ペースト
(a)溶剤
プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート 10g
(b)バインダー樹脂
PMMA(住友化学工業製) 4g
(c)蛍光体
蛍光顔料 (シンロイヒ社製 FZ−6013)2g
3.基板上への蛍光体膜パターニング
大きさ縦50mm、横50mmの透明ガラス基板上に、前記緑色蛍光体膜ペーストと前記単色塗布用スクリーン印刷版11を用いてスクリーン印刷し、緑色蛍光体膜4を形成した。その後、120℃、30分で乾燥させた。その後、再度スクリーン印刷機にセットし、前記赤色蛍光体膜ペーストと前記多色塗布用スクリーン印刷版10を用いてスクリーン印刷し、赤色蛍光体膜8を形成した。その後、120℃、30分で乾燥させた。緑色蛍光体膜4と赤色蛍光体膜8の膜厚は13μmであった。
4.青色発光部材の作成
図7は本発明の一実施形態において無機ELである青色発光部材30を示す断面図である。まず、Al23から成る厚み1mmの背面基板31の上に0.5μmの厚みの銅配線からなる背面電極32をストライプ状に平行に形成した。その上に、厚み30μmのBaTiO3からなる誘電体層33と、厚み0.6μmのBaTiO3有機酸からなる平滑層34と、その上に厚み0.6μmのBaAl24:Euからなる蛍光体発光層35と、厚み0.5μmのAl23からなる拡散防止層36を形成した。その上に厚み0.5μm、幅120μmのインジウム−スズ酸化物合金(ITO)層(屈折率n1=2.1)からなる透明電極37を背面電極32と直交する方向にストライプ状に平行に形成した。
5.多色発光装置の作成
図8に示すように、蛍光体膜4および8がパターニングされた基板1と青色発光部材30を、透明電極37と蛍光体膜4および8が対応するように組み合わせて多色発光装置とした。蛍光体膜4および8はほぼ平行かつ均等間隔でパターニングされていた。青色発光部材30の背面電極32と緑色蛍光体膜4のみに対応する位置の透明電極37との間で200V,1kHzの交流電圧をかけたところ、緑色の発光が得られた。この緑色の発光の色度は、CIE座標で(X,Y)=(0.24,0.65)であり、かなり色純度の高い発光が得られた。同様に、青色発光部材30の背面電極32と赤色蛍光体膜8のみに対応する位置の透明電極37との間で200V,1kHzの交流電圧をかけたところ、赤色の発光が得られた。この赤色の発光の色度は、CIE座標で(X,Y)=(0.60,0.36)であり、かなり色純度の高い発光が得られた。
【0023】
(比較例1)
実施形態1に対して、赤色蛍光体膜の形成にも単色用スクリーン印刷版を使用したほかは全て同一仕様で多色発光装置を作成した。この結果、緑色蛍光体膜はパターンが崩れ、赤色蛍光体膜がほとんど塗布できていなかった。実施形態1と同様な方法で緑色を発光させたときの色度は、CIE座標で(X,Y)=(0.18,0.45)であり、かなり色純度は悪かった。また、同様に赤色を発光させたときの色度は、CIE座標で(X,Y)=(0.30,0.25)であり、かなり色純度は悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の多色表示装置向けの蛍光体膜の製造方法を示す断面図である。
【図2】本発明の別の形態のスクリーン印刷版を示す断面図である。
【図3】本発明の別の形態のスクリーン印刷版を示す断面図である。
【図4】本発明の別の形態のスクリーン印刷版を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1の多色塗布用スクリーン印刷版を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態1の単色塗布用スクリーン印刷版を示す断面図である。
【図7】本発明の無機ELである青色発光部材を示す断面図である。
【図8】本発明の多色発光装置を示す断面図である。
【図9】従来技術の多色表示装置向けの蛍光体膜の製造方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 基板
2 一色目の蛍光体膜ペースト
3 スキージング
4 一色目の蛍光体膜
5 フルエッチング部
6 ハーフエッチング部
7 二色目の蛍光体膜ペースト
8 二色目の蛍光体膜
9 乳剤部
10 本発明のスクリーン印刷版
11 単色用スクリーン印刷版
20 従来技術のスクリーン印刷版
30 発光部材
31 背面基板
32 背面電極
33 誘電体層
34 平滑層
35 蛍光体発光層
36 拡散防止層
37 透明電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に複数種類の突起型厚膜が平面的に分離配置された厚膜の製造方法において、
厚膜を形成するためのフルエッチング部と、形成された厚膜との干渉を防ぐために、形成された厚膜側に凹部状のハーフエッチング部を備えたスクリーン印刷版を用い、
スクリーン印刷法によりパターニングされた厚膜を形成することを特徴とする厚膜の製造方法。
【請求項2】
前記フルエッチング部の厚さは10〜100μmの範囲であり、前記ハーフエッチング部の膜厚は5μm以下である請求項1に記載の厚膜の製造方法。
【請求項3】
前記厚膜の膜厚は、10μm以上である請求項1に記載の厚膜の製造方法。
【請求項4】
前記厚膜は、蛍光体膜である請求項1又は3に記載の厚膜の製造方法。
【請求項5】
前記厚膜は、可視光により励起されて発光する色変換膜である請求項1,3又は4に記載の厚膜の製造方法。
【請求項6】
前記凹部は、すでに形成された厚膜を跨ぐ大きさである請求項1に記載の厚膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法で製造された厚膜を組み込んだ多色表示装置であって、前記厚膜は複数種類の突起状に形成され、断面形状が均一であることを特徴とする多色表示装置。
【請求項8】
基板上に複数種類の突起型厚膜が平面的に分離配置された厚膜を製造するために使用するスクリーン印刷版において、
厚膜を形成するためのフルエッチング部と、形成された厚膜との干渉を防ぐために、形成された厚膜側に凹部状のハーフエッチング部を備えたことを特徴とするスクリーン印刷版。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−256155(P2006−256155A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77831(P2005−77831)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(503217783)松下東芝映像ディスプレイ株式会社 (176)
【Fターム(参考)】